(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181649
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0525 20100101AFI20231218BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20231218BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20231218BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20231218BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M4/587
H01M10/058
H01M10/0567
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094902
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】上平 健太
(72)【発明者】
【氏名】中井 健太
(72)【発明者】
【氏名】金子 喬
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ05
5H029HJ10
5H050AA06
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB08
5H050DA09
5H050EA29
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】初期の低温下での抵抗が低く且つ充放電サイクル後の低温下での抵抗増加が抑制されている非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、正極活物質層を有する正極、及び少なくとも一部が上記正極活物質層に対向して配置される負極活物質層を有する負極を備える電極体と、非水電解質とを備え、上記負極活物質層が、中実黒鉛を含む負極活物質を含有し、上記非水電解質が、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンを含有し、上記非水電解質に含有される上記オキサラト錯体アニオンの物質量(mmol)が、上記正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量(kg)当たり、0mmol/kg超80mmol/kg以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層を有する正極、及び少なくとも一部が上記正極活物質層に対向して配置される負極活物質層を有する負極を備える電極体と、
非水電解質と
を備え、
上記負極活物質層が、中実黒鉛を含む負極活物質を含有し、
上記非水電解質が、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンを含有し、
上記非水電解質に含有される上記オキサラト錯体アニオンの物質量(mmol)が、上記正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量(kg)当たり、0mmol/kg超80mmol/kg以下である非水電解質蓄電素子。
【請求項2】
上記中実黒鉛の平均粒径が5μm以上である請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項3】
上記負極活物質層に含有される負極活物質の総質量に対する上記中実黒鉛の質量の割合が90質量%以上である請求項1又は請求項2に記載の非水電解質蓄電素子。
【請求項4】
正極活物質層を有する正極、及び少なくとも一部が上記正極活物質層に対向して配置される負極活物質層を有する負極を備える電極体と、非水電解質とを容器に収容することを備え、
上記負極活物質層が、中実黒鉛を含む負極活物質を含有し、
上記非水電解質が、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンを含有し、
上記非水電解質に含有される上記オキサラト錯体アニオンの物質量(mmol)が、上記正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量(kg)当たり、0mmol/kg超80mmol/kg以下である非水電解質蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間で電荷輸送イオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
一般的に、非水電解質としては、非水溶媒とこの非水溶媒に溶解する電解質塩とを含み、必要に応じて他の成分が添加される非水電解液が用いられている。特許文献1には、オキサラト錯塩が添加されたリチウム二次電池用の非水電解液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解質に添加されたオキサラト錯塩は、分解して負極活物質の表面に被膜を形成し、非水電解質蓄電素子の耐久性を高めることができる。具体的には、非水電解質にオキサラト錯塩を添加することにより、非水電解質蓄電素子の充放電サイクル後の低温下での抵抗増加が抑制され、添加量を増やすほどこの効果は高まる傾向にある。しかし、オキサラト錯塩の添加量を増やすと、非水電解質蓄電素子の初期の低温下での抵抗が増大する。
【0006】
本発明の目的は、初期の低温下での抵抗が低く且つ充放電サイクル後の低温下での抵抗増加が抑制されている非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、正極活物質層を有する正極、及び少なくとも一部が上記正極活物質層に対向して配置される負極活物質層を有する負極を備える電極体と、非水電解質とを備え、上記負極活物質層が、中実黒鉛を含む負極活物質を含有し、上記非水電解質が、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンを含有し、上記非水電解質に含有される上記オキサラト錯体アニオンの物質量(mmol)が、上記正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量(kg)当たり、0mmol/kg超80mmol/kg以下である。
【0008】
本発明の他の一側面に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、正極活物質層を有する正極、及び少なくとも一部が上記正極活物質層に対向して配置される負極活物質層を有する負極を備える電極体と、非水電解質とを容器に収容することを備え、上記負極活物質層が、中実黒鉛を含む負極活物質を含有し、上記非水電解質が、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンを含有し、上記非水電解質に含有される上記オキサラト錯体アニオンの物質量(mmol)が、上記正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量(kg)当たり、0mmol/kg超80mmol/kg以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、初期の低温下での抵抗が低く且つ充放電サイクル後の低温下での抵抗増加が抑制されている非水電解質蓄電素子、及びこのような非水電解質蓄電素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
【
図2】
図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施例1、2及び比較例1から3の各非水電解質蓄電素子における、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量(正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量当たりの、非水電解液に含有されるオキサラト錯体アニオンの物質量(mmol/kg))と初期低温抵抗(Ω・cm
2)との関係を表すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例1、2及び比較例1から8の各非水電解質蓄電素子における、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量(mmol/kg)と充放電サイクル後低温抵抗(Ω・cm
2)との関係を表すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例1、2及び比較例1から8の各非水電解質蓄電素子における、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量(mmol/kg)と充放電サイクル後低温抵抗増加率(%)との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
初めに、本明細書によって開示される非水電解質蓄電素子及び非水電解質蓄電素子の製造方法の概要について説明する。
【0012】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、正極活物質層を有する正極、及び少なくとも一部が上記正極活物質層に対向して配置される負極活物質層を有する負極を備える電極体と、非水電解質とを備え、上記負極活物質層が、中実黒鉛を含む負極活物質を含有し、上記非水電解質が、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンを含有し、上記非水電解質に含有される上記オキサラト錯体アニオンの物質量(mmol)が、上記正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量(kg)当たり、0mmol/kg超80mmol/kg以下である。
【0013】
当該非水電解質蓄電素子は、初期の低温下での抵抗が低く且つ充放電サイクル後の低温下での抵抗増加が抑制されている。この理由は定かではないが、以下のような理由が推測される。負極活物質として広く用いられている黒鉛は、通常、粒子内部に粒子外部と連通する空隙を有する。この場合、黒鉛の粒子内部の空隙に非水電解質が浸み込み、粒子内部の空隙の表面においても、非水電解質に含有されるホウ素元素を有するオキサラト錯塩が分解して被膜を形成する。そのため、粒子外部の表面(外面)に加え、粒子内部の空隙の表面を被覆するための十分な量のオキサラト錯体アニオンが必要となる。これに対し、中実黒鉛を用いた場合は、中実黒鉛の粒子内部には空隙が実質的に存在しないため、粒子内部の空隙に非水電解質が浸み込むことがなく、比較的少量のオキサラト錯体アニオンが含有されていることで、中実黒鉛の粒子の表面に十分に被膜が形成される。当該非水電解質蓄電素子においては、非水電解質に含有されるホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンの量が比較的少ない範囲であるため、初期の低温下での抵抗が低い。そして当該非水電解質蓄電素子においては、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンが比較的少量であっても中実黒鉛を含む負極活物質の表面を保護する被膜が十分に形成されるため、充放電サイクル後の低温下での抵抗増加が抑制されていると推測される。換言すれば、本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子においては、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンの含有量(すなわち、ホウ素元素を有するオキサラト錯塩の使用量)を比較的少量にしつつ、初期の低温下での抵抗を低く且つ充放電サイクル後の低温下での抵抗増加を抑制することができる。
【0014】
「少なくとも一部が上記正極活物質層に対向して配置される負極活物質層」に関し、正極活物質層と負極活物質層とは、例えばセパレータ等を介して対向して配置されていてもよく、直接対向して配置されていてもよい。また、「上記正極活物質層に対向する負極活物質層」とは、負極活物質層のうち、正極活物質層と例えばセパレータ等を介して、又は直接対向している部分である。
【0015】
中実黒鉛における「中実」とは、黒鉛の粒子内部が詰まっていて実質的に空隙が存在しないことを意味する。より具体的には、「中実」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて取得されるSEM像において観察される粒子の断面において、粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率(空隙率)が2%以下であることをいう。
黒鉛粒子における「粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率(空隙率)」は、以下の手順で決定することができる。
(1)測定用試料の準備
測定対象とする負極を熱硬化性の樹脂で固定する。樹脂で固定された負極について、イオンミリング法で断面を露出させ、測定用試料を作製する。なお、測定対象とする負極は、下記の手順により準備する。非水電解質蓄電素子を組み立て前の負極が準備できる場合には、そのまま用いる。組み立て後の非水電解質蓄電素子から準備する場合には、まず非水電解質蓄電素子を、0.1Cの電流で、通常使用時の放電終止電圧まで定電流放電し、放電された状態とする。この放電された状態の非水電解質蓄電素子を解体し、負極を取り出して、ジメチルカーボネートにより負極に付着した成分(電解質等)を充分に洗浄した後、室温にて24時間減圧乾燥を行う。非水電解質蓄電素子の解体から測定対象とする負極の準備までの作業は、露点-40℃以下の乾燥空気雰囲気中で行う。ここで、通常使用時とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合であり、当該非水電解質蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。
(2)SEM像の取得
SEM像の取得には、SEMとしてJSM-7001F(日本電子株式会社製)を用いる。SEM像は、二次電子像を観察するものとする。加速電圧は、15kVとする。観察倍率は、一視野に現れる黒鉛粒子が3個以上15個以内となる倍率に設定する。得られたSEM像は、画像ファイルとして保存する。その他、スポット径、ワーキングディスタンス、照射電流、輝度、フォーカス等の諸条件は、黒鉛粒子の輪郭が明瞭になるように適宜設定する。
(3)黒鉛粒子の輪郭の切り抜き
画像編集ソフトAdobe Photoshop Elements 11の画像切り抜き機能を用いて、取得したSEM像から黒鉛粒子の輪郭を切り抜く。この輪郭の切り抜きは、クイック選択ツールを用いて黒鉛粒子の輪郭より外側を選択し、黒鉛粒子以外を黒背景へと編集して行う。このとき、輪郭を切り抜くことができた黒鉛粒子が3個未満であった場合は、再度、SEM像を取得し、輪郭を切り抜くことができた黒鉛粒子が3個以上になるまで行う。
(4)二値化処理
切り抜いた黒鉛粒子のうち1つ目の黒鉛粒子の画像について、画像解析ソフトPopImaging 6.00を用い、強度が最大となる濃度から20%分小さい濃度を閾値に設定して二値化処理を行う。二値化処理により、濃度の高い側の面積を算出することで「粒子内の空隙の面積S1」とする。
ついで、先ほどと同じ1つ目の黒鉛粒子の画像について、濃度10%を閾値として二値化処理を行う。二値化処理により、黒鉛粒子の外縁を決定し、当該外縁の内側の面積を算出することで、「粒子全体の面積S0」とする。
上記算出したS1及びS0を用いて、S0に対するS1の比(S1/S0)を算出することにより、1つ目の黒鉛粒子における「粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率R1」を算出する。
切り抜いた黒鉛粒子のうち2つ目以降の黒鉛粒子の画像についても、それぞれ、上記の二値化処理を行い、面積S1、面積S0を算出する。この算出した面積S1、面積S0に基づいて、それぞれの黒鉛粒子の空隙の面積率R2、R3、・・・を算出する。
(5)空隙の面積率の決定
二値化処理により算出した全ての空隙の面積率R1、R2、R3、・・・の平均値を算出することにより、「粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率(空隙率)」を決定する。
なお、上記「SEM像の取得」に用いる走査型電子顕微鏡、「黒鉛粒子の輪郭の切り抜き」に用いる画像編集ソフト、及び「二値化処理」に用いる画像解析ソフトに代えて、これらと同等の測定、画像編集及び画像解析が可能な装置及びソフトウェア等を用いてもよい。
【0016】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。ここで、炭素材料の「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた半電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0017】
上記中実黒鉛の平均粒径が5μm以上であることが好ましい。比較的粒径の大きい中実黒鉛を用いることで、中実黒鉛の粒子の表面積が小さくなるため、中実黒鉛の粒子の表面に特に十分に被膜が形成され、充放電サイクル後の低温下での抵抗増加がより抑制される。
【0018】
「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0019】
上記負極活物質層に含有される負極活物質の総質量に対する上記中実黒鉛の質量の割合が90質量%以上であることが好ましい。このような場合、中実黒鉛による効果が特に十分に生じるため、初期の低温下での抵抗がより低くなり、且つ充放電サイクル後の低温下での抵抗増加がより抑制される。
【0020】
本発明の他の一側面に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、正極活物質層を有する正極、及び少なくとも一部が上記正極活物質層に対向して配置される負極活物質層を有する負極を備える電極体と、非水電解質とを容器に収容することを備え、上記負極活物質層が、中実黒鉛を含む負極活物質を含有し、上記非水電解質が、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンを含有し、上記非水電解質に含有される上記オキサラト錯体アニオンの物質量(mmol)が、上記正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量(kg)当たり、0mmol/kg超80mmol/kg以下である。
【0021】
当該非水電解質蓄電素子の製造方法によれば、初期の低温下での抵抗が低く且つ充放電サイクル後の低温下での抵抗増加が抑制されている非水電解質蓄電素子を製造することができる。
【0022】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子、蓄電装置、非水電解質蓄電素子の製造方法、及びその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0023】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、上記電極体及び非水電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。正極は正極活物質層を有し、負極は負極活物質層を有する。本発明の一実施形態において、正極活物質層と負極活物質層とは、セパレータを介して対向して配置されている。正極活物質層と負極活物質層とが対向していない部分があってもよい。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含まれた状態で存在する。非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0024】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0025】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10-2Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0026】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0027】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0028】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0029】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。
【0031】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0032】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。全ての正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0033】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0034】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解質蓄電素子のエネルギー密度を高めることができる。
【0035】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0036】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、2質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質を安定して保持することができる。
【0037】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。正極活物質層が増粘剤を含有する場合、正極活物質層における増粘剤の含有量は、例えば0.1質量%以上10質量%以下とすることができる。正極活物質層における増粘剤の含有量は、5質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0038】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。正極活物質層がフィラーを含有する場合、正極活物質層におけるフィラーの含有量は、例えば0.1質量%以上10質量%以下とすることができる。正極活物質層におけるフィラーの含有量は、5質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0039】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0040】
正極の作製は、例えば正極基材に直接又は中間層を介して、正極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより行うことができる。乾燥後、必要に応じてプレス等を行ってもよい。正極合剤ペーストには、正極活物質、及び任意成分である導電剤、バインダ等、正極活物質層を構成する各成分が含まれる。正極合剤ペーストには、通常さらに分散媒が含まれる。
【0041】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0042】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0043】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0044】
負極活物質層は、負極活物質を含有する。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。ただし、負極活物質層が含む黒鉛は導電剤に含まない。
【0045】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0046】
負極活物質は、中実黒鉛を含む。負極活物質が中実黒鉛を含むことにより、非水電解質蓄電素子に含有されるオキサラト錯体アニオンが比較的少量である場合の、充放電サイクル後の低温下での抵抗増加を抑制することができる。また、中実黒鉛は、充放電に伴う膨張収縮の変化が小さい。このため負極活物質が中実黒鉛を含むことにより、充放電に伴う非水電解質蓄電素子の膨張も抑制される。
【0047】
上記したSEM画像において観測される中実黒鉛の断面における粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率(空隙率)は、2%以下であり、1%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。この面積率(空隙率)の下限は0%であってもよく、0.1%であってもよい。
【0048】
中実黒鉛は、天然黒鉛であってもよく、人造黒鉛であってもよいが、天然黒鉛であることが好ましい。中実黒鉛が天然黒鉛(中実天然黒鉛)であることで、非水電解質蓄電素子の初期の低温下での抵抗をより低くし、充放電サイクル後の低温下での抵抗増加をより抑制すること等ができる。
【0049】
天然黒鉛とは、天然の資源から採れる黒鉛の総称である。中実天然黒鉛の形状は特に限定されず、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛(鱗状黒鉛)、土状黒鉛等が例示される。中実天然黒鉛は、鱗片状天然黒鉛等を球状化した球状化天然黒鉛粒子であってもよい。天然黒鉛は、充放電前又は放電状態において測定されるCuKα線を用いたエックス線回折パターンにおいて、回折角2θが40°から50°の範囲に4つのピークが現れるものであってもよい。これらの4つのピークは、六方晶系の構造に由来する2つのピークと、菱面体晶系の構造に由来する2つのピークとであるとされている。人造黒鉛の場合、一般的に、六方晶系の構造に由来する2つのピークのみが現れるとされている。エックス線回折パターンにおいて、(100)面に由来するピーク強度に対する(012)面に由来するピーク強度の比((012)/(100))は0.3以上が好ましく、0.4以上がさらに好ましい。上記ピーク強度の比((012)/(100))は0.6以下が好ましい。ここで、(100)面は六方晶系の構造に由来し、(012)面は菱面体晶系の構造に由来する。
【0050】
中実黒鉛の平均粒径としては、例えば1μm以上50μm以下であってもよいが、5μm以上30μm以下が好ましく、7μm以上20μm以下がより好ましく、9μm以上15μm以下がさらに好ましい。中実黒鉛の平均粒径が上記範囲であることで、非水電解質蓄電素子の充放電性能を高めることができる。特に、中実黒鉛の平均粒径が上記下限以上である場合、中実黒鉛の粒子の表面積が小さくなるため、中実黒鉛の粒子の表面に特に十分に被膜が形成され、充放電サイクル後の低温下での抵抗増加がより抑制される。中実黒鉛を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び分級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。
【0051】
負極活物質層における中実黒鉛の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましく、95質量%以上、97質量%以上又は98質量%以上がさらに好ましい場合もある。負極活物質層における中実黒鉛の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できると共に、充放電サイクル後の抵抗増加をより抑制することができる。
【0052】
負極活物質は、中実黒鉛以外の他の負極活物質を含んでいてもよい。他の負極活物質としては、中空黒鉛(中実黒鉛以外の黒鉛であって、SEM画像において観測される黒鉛の断面における粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率が2%超の黒鉛)及びその他の従来公知の各種負極活物質を用いることができる。但し、負極活物質層に含まれる全ての負極活物質の総質量に対する中実黒鉛の質量の割合は、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%であってもよい。このように、負極活物質の総質量に対する中実黒鉛の質量の割合を高めることで、中実黒鉛による効果が特に十分に生じるため、初期の低温下での抵抗がより低くなり、且つ充放電サイクル後の低温下での抵抗増加がより抑制される。
【0053】
負極活物質層における全ての負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質層における全ての負極活物質の含有量は、95質量%以上、97質量%以上又は98質量%以上であってもよい。負極活物質層における全ての負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0054】
負極活物質層が導電剤を含有する場合、負極活物質層における導電剤の含有量は、例えば1質量%以上10質量%以下であってもよい。負極活物質層における導電剤の含有量は、5質量%以下が好ましく、2質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下又は0質量%がより好ましい場合がある。負極活物質層における導電剤の含有量が少ない、又は導電剤が含まれていない場合、負極活物質の含有量を増やすことができ、エネルギー密度等を高めることができる。
【0055】
負極活物質層におけるバインダの含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質を安定して保持することができる。
【0056】
負極活物質層における増粘剤の含有量としては、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下が好ましい。
【0057】
負極活物質層がフィラーを含有する場合、負極活物質層におけるフィラーの含有量は、例えば0.1質量%以上10質量%以下とすることができる。負極活物質層におけるフィラーの含有量は、5質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。負極活物質層におけるフィラーの含有量が少ない、又はフィラーが含まれていない場合、負極活物質の含有量を増やすことができ、エネルギー密度等を高めることができる。
【0058】
負極の作製は、例えば負極基材に直接又は中間層を介して、負極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより行うことができる。乾燥後、必要に応じてプレス等を行ってもよい。負極合剤ペーストには、中実黒鉛を含む負極活物質、及び任意成分である導電剤、バインダ等、負極活物質層を構成する各成分が含まれる。負極合剤ペーストには、通常さらに分散媒が含まれる。
【0059】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0060】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0061】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0062】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0063】
(非水電解質)
非水電解質は、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンを含有する。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。例えば、非水電解液は、非水溶媒と、電解質塩と、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンとを含む。ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンは、ホウ素元素を有するオキサラト錯塩として非水電解質に含有されていてもよい。ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンは、カチオンと結合していてもよく、結合していなくてもよい。
【0064】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲン原子に置換されたものを用いてもよい。
【0065】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0066】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0067】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0068】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。なお、ホウ素元素を有するオキサラト錯塩は、電解質塩には含まない。
【0069】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のホウ素元素を有しないオキサラト錯体アニオンとリチウムカチオンとからなる塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0070】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0071】
ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンは、典型的には、ホウ素原子に対して少なくとも1つのオキサラト配位子が配位した錯体アニオンである。ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンとしては、下記式(1)で表されるジフルオロオキサラトボレートアニオン、下記式(2)で表されるビスオキサラトボレートアニオン等が挙げられ、下記式(2)で表されるビスオキサラトボレートアニオンが好ましい。ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0072】
【0073】
【0074】
ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンは、通常、ホウ素元素を有するオキサラト錯塩の形態で非水電解質に添加される。ホウ素元素を有するオキサラト錯塩は、リチウム塩であることが好ましい。ホウ素元素を有するオキサラト錯塩としては、上記式(1)で表されるアニオンとリチウムカチオンとからなるリチウムジフルオロオキサラトボレート(LiFOB)、上記式(2)で表されるアニオンとリチウムカチオンとからなるリチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)等が挙げられる。
【0075】
非水電解液(非水電解質)に含有されるオキサラト錯体アニオンの物質量(mmol)は、正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量(kg)当たり、0mmol/kg超80mmol/kg以下であり、0.1mmol/kg以上70mmol/kg以下が好ましく、1mmol/kg以上60mmol/kg以下がより好ましい場合もあり、10mmol/kg以上50mmol/kg以下がさらに好ましい場合もある。非水電解質に含有されるオキサラト錯体アニオンがこのように比較的少量であることにより、非水電解質蓄電素子の初期の低温下での抵抗が低くなる。また、非水電解質に含有されるオキサラト錯体アニオンが比較的少量であることにより、製造コストを削減することができる。なお、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンは、通常、初期の充放電の際に分解し、負極活物質の表面に被膜を形成する。従って、非水電解質蓄電素子が備える非水電解質中にホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンが微量でも残存していれば、既に負極活物質の表面にホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンに由来する被膜が形成されており、当該被膜による保護効果が奏される。正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量当たりのオキサラト錯体アニオンの物質量(mmol/kg)は、非水電解液(非水電解質)におけるホウ素元素を含有するオキサラト錯体アニオンの含有量、負極活物質層における負極活物質の含有量、正極活物質層に対向する負極活物質層の面積等によって調整できる。
【0076】
非水電解液(非水電解質)におけるホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンの含有量は、例えば0mmol/kg超100mmol/kg以下であってもよく、0.1mmol/kg以上50mmol/kg以下であってもよく、1mmol/kg以上40mmol/kg以下であってもよく、4mmol/kg以上30mmol/kg以下であってもよい。なお、この含有量は、非水電解液(非水電解質)全体の質量(kg)を基準とした、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンの物質量(mmol)であり、非水溶媒の質量を基準とした質量モル濃度とは異なる。
【0077】
非水電解液は、非水溶媒、電解質塩及びホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオン以外に、他の添加剤を含んでもよい。他の添加剤としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル等が挙げられる。これら他の添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0078】
非水電解液に含まれる他の添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。他の添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0079】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0080】
固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0081】
硫化物固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、Li10Ge-P2S12等が挙げられる。
【0082】
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0083】
図1に角型電池の一例としての非水電解質蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0084】
<蓄電装置>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子1を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0085】
図2に、電気的に接続された二以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の非水電解質蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0086】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本実施形態の非水電解質蓄電素子の製造方法は、正極活物質層を有する正極、及び少なくとも一部が上記正極活物質層に対向して配置される負極活物質層を有する負極を備える電極体と、非水電解質とを容器に収容することを備え、上記負極活物質層が、中実黒鉛を含む負極活物質を含有し、上記非水電解質が、ホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンを含有し、上記非水電解質に含有される上記オキサラト錯体アニオンの物質量(mmol)が、上記正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量(kg)当たり、0mmol/kg超80mmol/kg以下である。
【0087】
当該製造方法は、さらに、電極体を準備すること、及び非水電解質を準備することを備えていてもよい。電極体を準備することは、正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。準備される電極体及び非水電解質に関しては、非水電解質に含有されるホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンの物質量(mmol)が、正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量(kg)当たり、0mmol/kg超80mmol/kg以下となるように、正極活物質層と負極活物質層との対向面積、負極活物質層中の負極活物質の含有量、非水電解質の量、非水電解質に含有されるホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンの含有量等を調整する。
【0088】
準備される電極体及び非水電解質に関して、非水電解質に含有されるホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンの物質量(mmol)が、正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量(kg)当たり、1mmol/kg以上であることが好ましく、5mmol/kg以上であることがより好ましく、10mmol/kg以上であることがさらに好ましい。
【0089】
準備される非水電解質におけるホウ素元素を有するオキサラト錯体アニオンの含有量は、例えば0.1mmol/kg以上100mmol/kg以下であってもよく、1mmol/kg以上60mmol/kg以下であってもよく、3mmol/kg以上40mmol/kg以下であってもよく、5mmol/kg以上30mmol/kg以下であってもよい。
【0090】
非水電解質は、非水溶媒に、電解質塩とホウ素元素を有するオキサラト錯塩とを溶解させることなどにより調製することができる。
【0091】
非水電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、非水電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0092】
<その他の実施形態>
尚、本発明の非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0093】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池にも適用できる。
【0094】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【実施例0095】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質であるLiNi0.50Co0.35Mn0.15O2、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び分散媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を用いて正極合剤ペーストを調製した。なお、正極活物質、AB及びPVDFの質量比率は93:3.5:3.5(固形分換算)とした。正極基材としてのアルミニウム箔の両面に正極合剤ペーストを固形分の塗布質量が7.0mg/cm2となるように塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、正極を得た。
【0097】
(負極の作製)
負極活物質である中実天然黒鉛(空隙率0.45%、平均粒径9.9μm)、バインダであるスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)、及び分散媒である水を用いて負極合剤ペーストを調製した。なお、黒鉛、SBR及びCMCの質量比率は98:1:1(固形分換算)とした。負極基材としての銅箔の両面に負極合剤ペーストを固形分の塗布質量が4.6mg/cm2となるように塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、負極を得た。
【0098】
(非水電解液)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを30:70の体積比率で混合した溶媒に、LiPF6を1.2mol/dm3の濃度で溶解させ、さらにLiBOB(リチウムビスオキサラトボレート)を10mmol/kgの濃度で溶解させ、非水電解液を得た。すなわち、非水電解液におけるオキサラト錯体アニオン(ビスオキサラトボレートアニオン)の含有量は、10mmol/kgであった。
【0099】
(セパレータ)
セパレータには、ポリオレフィン製微多孔膜を用いた。
【0100】
(非水電解質蓄電素子の組み立て)
上記正極の正極活物質層と、上記負極の負極活物質層とを上記セパレータを介して対向して配置し、巻回型の電極体を得た。電極体を容器に収納し、非水電解液を注入して封口し、実施例1の非水電解質蓄電素子を得た。電極体における正極活物質層に対向する負極活物質層の面積は5540cm2とした。また、注液する非水電解液の量は52cm3とした。実施例1の非水電解質蓄電素子においては、非水電解液に含有されるオキサラト錯体アニオン(ビスオキサラトボレートアニオン)の物質量(mmol)は、正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量(kg)当たり、26.8mmol/kgであった。
【0101】
[実施例2及び比較例1から3]
非水電解液におけるオキサラト錯体アニオン(ビスオキサラトボレートアニオン)の含有量を表1、2に記載のとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2及び比較例1から3の各非水電解質蓄電素子を得た。なお、実施例1、2及び比較例1から3の各非水電解質蓄電素子は、表1、2の双方に記載している。
【0102】
[比較例4から8]
負極活物質として中空天然黒鉛(空隙率3%、平均粒径9.1μm)を用い、負極合剤ペーストの固形分の塗布質量を4.3mg/cm2に変更して負極を作製したこと、及び非水電解液におけるオキサラト錯体アニオン(ビスオキサラトボレートアニオン)の含有量を表2に記載のとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4から8の各非水電解質蓄電素子を得た。
【0103】
表1、2に、各非水電解質蓄電素子における正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量当たりの、非水電解液に含有されるオキサラト錯体アニオンの物質量(mmol/kg)をあわせて示す。なお、非水電解液におけるオキサラト錯体アニオン(ビスオキサラトボレートアニオン)の含有量は、添加するLiBOBの量により調整した。
【0104】
(評価)
(1)初期充放電
得られた各非水電解質蓄電素子について、以下の条件にて初期充放電を行った。25℃の恒温槽内において、充電電流1.0C、充電終止電圧4.10Vとして定電流充電を行った後、4.10Vにて定電圧充電した。充電の終了条件は、総充電時間が3時間となるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。放電電流1.0C、放電終止電圧2.50Vとして定電流放電した。その後、10分間の休止期間を設けた。このときの放電容量を初期放電容量とした。
【0105】
(2)初期の低温下での抵抗
上記初期充放電後の各非水電解質蓄電素子について、25℃の恒温槽内にて、充電電流1.0Cで初期放電容量の50%の電気量を定電流充電し、SOCを50%にした。-30℃の恒温槽内に3時間以上保管した後、放電電流0.1C、0.2C又は0.3Cで、それぞれ30秒間放電した。各放電終了後には、充電電流0.05Cで定電流充電を行い、SOCを50%にした。各放電における正極活物質層に対向する負極活物質層の面積当たりの放電電流(A/cm2)と放電開始後10秒目の電圧(V)との関係をプロットし、3点のプロットから得られた直線の傾きから初期の低温下での抵抗(直流抵抗)(Ω・cm2)を求めた。
【0106】
表1に、実施例1、2及び比較例1から3の各非水電解質蓄電素子の初期の低温下での抵抗(初期低温抵抗(Ω・cm
2))を示す。また、
図3に実施例1、2及び比較例1から3の各非水電解質蓄電素子における、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量(正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量当たりの、非水電解液に含有されるオキサラト錯体アニオンの物質量(mmol/kg))と初期低温抵抗(Ω・cm
2)との関係を表すグラフを示す。
【0107】
(3)充放電サイクル試験
次いで、各非水電解質蓄電素子について、以下の充放電サイクル試験を行った。60℃の恒温槽内に3時間以上保管した後、充電電流8Cで、初期放電容量の80%の電気量を定電流充電し、非水電解質蓄電素子をSOC80%に調整した。その後、休止期間を設けずに、放電電流8Cで、初期放電容量の60%の電気量を定電流放電し、非水電解質蓄電素子をSOC20%に調整した。続いて、休止期間を設けずに、初期放電容量の60%の電気量を定電流充電し、非水電解質蓄電素子をSOC80%に調整した。その後、休止期間を設けずに、放電電流8Cで、初期放電容量の60%の電気量を定電流放電し、非水電解質蓄電素子をSOC20%に調整した。この充放電を、60℃における最初の充電開始から2000時間になるまで繰り返し実施した。
【0108】
(4)充放電サイクル後の低温下での抵抗及び低温抵抗増加率
その後上記(2)と同様の手順で充放電サイクル試験後の各非水電解質蓄電素子の低温下での抵抗を測定し、充放電サイクル後の低温下での抵抗(サイクル後低温抵抗)とした。また、各非水電解質蓄電素子において、初期の低温下での抵抗と充放電サイクル後の低温下での抵抗とから充放電サイクル後の低温下での抵抗増加率(サイクル後低温抵抗増加率)を求めた。
【0109】
表2に、実施例1、2及び比較例1から8の各非水電解質蓄電素子のサイクル後低温抵抗(Ω・cm
2)及びサイクル後低温抵抗増加率(%)を示す。また、
図4に実施例1、2及び比較例1から8の各非水電解質蓄電素子における、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量(mmol/kg)とサイクル後低温抵抗(Ω・cm
2)との関係を表すグラフを示す。
図5に実施例1、2及び比較例1から8の各非水電解質蓄電素子における、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量(mmol/kg)とサイクル後低温抵抗増加率(%)との関係を表すグラフを示す。
【0110】
【0111】
【0112】
表1、2及び
図3、5に示されるように、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量が増大すると、サイクル後低温抵抗増加率は低減するものの、初期低温抵抗が高くなる傾向にある。特に、
図3に示されるように、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量が80mmol/kg以下の範囲では初期低温抵抗はほぼ一定に保たれるが、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量が80mmol/kgを超えると、初期低温抵抗が大幅に高くなることがわかる。また、表2及び
図5に示されるように、負極活物質が中空黒鉛である場合、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量が80mmol/kg以下の範囲でのサイクル後低温抵抗増加率が大きい。これに対し、負極活物質が中実黒鉛である場合、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量が0mmol/kg超80mmol/kg以下の範囲でのサイクル後低温抵抗増加率が低減できている。また、
図4に示されるように、負極活物質が中実黒鉛である場合、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量が0mmol/kg超70mmol/kg以下の範囲では、サイクル後低温抵抗も低くなっている。
【0113】
なお、上記実施例においては、負極活物質当たりのオキサラト錯体アニオン量が実質的に等しい非水電解液蓄電素子を比較して、充放電サイクル後の低温下での抵抗増加率が低くなった場合に、充放電サイクル後の低温下での抵抗増加が抑制されたと判断した。換言すれば、負極活物質の影響によって充放電サイクル後の低温下での抵抗増加率が低くなった場合に、充放電サイクル後の低温下での抵抗増加が抑制されたと判断した。
【0114】
以上のことから、負極活物質が中実黒鉛を含み、非水電解質に含有されるオキサラト錯体アニオンの物質量が、正極活物質層に対向する負極活物質層に含有される負極活物質の総質量当たり、0mmol/kg超80mmol/kg以下の範囲である場合、初期の低温下での抵抗が低く且つ充放電サイクル後の低温下での抵抗増加が抑制されることがわかる。