(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181663
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】鉄系軟磁性粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20231218BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20231218BHJP
B22F 1/06 20220101ALI20231218BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20231218BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20231218BHJP
H01F 1/20 20060101ALI20231218BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20231218BHJP
B22F 9/08 20060101ALN20231218BHJP
B22F 9/10 20060101ALN20231218BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
B22F1/00 Y
B22F1/052
B22F1/06
B22F3/00 B
B22F1/16 100
H01F1/20
H01F1/24
B22F9/08 A
B22F9/10
C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094920
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆久
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB01
4K017BB04
4K017BB06
4K017BB08
4K017BB13
4K017BB16
4K017CA07
4K017DA02
4K017EB00
4K017ED02
4K017FA14
4K017FA15
4K017FA17
4K018BA13
4K018BB01
4K018BB04
4K018BC28
4K018CA02
4K018CA11
4K018KA43
4K018KA44
5E041AA02
5E041AA04
5E041AA11
5E041BD12
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】磁気特性に優れた磁性部材が得られうる粉末の提供。
【解決手段】軟磁性粉末は、多数の粒子2からなる。これらの粒子2は、直径D2が50μm以上である粒子を含む。下記数式で算出される比率P2は、50%以下である。
P2 = (N2 / N1) * 100
この数式においてN1は、直径D2が50μm以上である粒子2の数を表す。この数式においてN2は、直径D2が50μm以上であり、コア8とこのコア8の表面に付着しておりその高さが1.0μm以上である20以上の突起10とを含んでおり、その高さが1.0μm以上である突起10の平均高さが10μm以上である粒子2の数を表す。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の粒子からなり、
これらの粒子が、直径が50μm以上である粒子を含んでおり、
下記数式で算出される比率P2が50%以下である、鉄系軟磁性粉末。
P2 = (N2 / N1) * 100
(この数式においてN1は、直径が50μm以上である粒子の数を表す。)
(この数式においてN2は、直径が50μm以上であり、コアとこのコアの表面に付着しておりその高さが1.0μm以上である20以上の突起とを含んでおり、その高さが1.0μm以上である突起の平均高さが10μm以上である粒子の数を表す。)
【請求項2】
下記数式で算出される比率P1が50%以上である、請求項1に記載の軟磁性粉末。
P1 = (N3 / N) * 100
(この数式において、Nは粒子の総数を表し、N3は円形度が0.8以上である粒子の数を表す。)
【請求項3】
上記比率P1が80%以下である、請求項2に記載の軟磁性粉末。
【請求項4】
下記数式で算出される比率P3が20%以下である、請求項1又は2に記載の軟磁性粉末。
P3 = (N4 / N1) * 100
(この数式において、N1は直径が50μm以上である粒子の数を表す。)
(この数式においてN4は、直径が50μm以上であり、1つの断面に含まれる直径が0.1μm以上である空孔の数が2以上である粒子の数を表す。)
【請求項5】
下記数式で算出される比率P4が50%以上である、請求項1又は2に記載の軟磁性粉末。
P4 = (N1 / N) * 100
(この数式において、Nは粒子の総数を表し、N1は直径が50μm以上である粒子の数を表す。)
【請求項6】
それぞれの粒子が、主部とこの主部の表面の全部又は一部を覆う絶縁性皮膜とを有しており、
上記主部の材質が鉄基合金である請求項1又は2に記載の軟磁性粉末。
【請求項7】
多数の粒子からなり、これらの粒子が直径が50μm以上である粒子を含んでおり、下記数式で算出される比率P2が50%以下である鉄系軟磁性粉末を、準備するステップ、
及び
上記粉末を加圧するステップ
を備えた、磁性部材の製造方法。
P2 = (N2 / N1) * 100
(この数式においてN1は、直径が50μm以上である粒子の数を表す。)
(この数式においてN2は、直径が50μm以上であり、コアとこのコアの表面に付着しておりその高さが1.0μm以上である20以上の突起とを含んでおり、その高さが1.0μm以上である突起の平均高さが10μm以上である粒子の数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、主たる成分が鉄である軟磁性粉末を開示する。この軟磁性粉末は、リアクトル、インダクタンス等の部品である圧粉磁心等に適している。
【背景技術】
【0002】
モーター、インバーター、コンバーター等のリアクトルは、磁心(コア)を有している。回路基板等に用いられるインダクタンスも、磁心を有している。リアクトル及びインダクタンスには、大電流化の要請がある。大電流化の観点から、電流に対して磁気飽和を起こしにくい磁性材料のニーズが高まっている。さらに、リアクトル及びインダクタンスには、小型化の要請もある。これらの観点から、リアクトル及びインダクタンスに圧粉磁心が用いられている。圧粉磁心は、金属粉末の加圧成形によって得られうる。この金属粉末は多数の粒子からなる。それぞれの粒子は、コアとこのコアを覆う絶縁性の皮膜とを有している。この圧粉磁心には、外部からの磁界変化に対して敏感に反応できる磁気的特性が求められている。
【0003】
圧粉磁心の磁気特性に関するいくつかの改良が、提案されている。特開2014-143286公報には、Cr及びSiを含有する軟磁性粉末が開示されている。特開2020-145405公報には、粒子の内部と表面とで組成が異なる軟磁性粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-143286公報
【特許文献2】特開2020-145405公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧粉磁心が交流磁場内で使用されると、エネルギー損失が発生する。このエネルギー損失は、「コアロス」と称されている。コアロスは、ヒステリシス損失と渦電流損失との和である。低周波域では、ヒステリシス損失が支配的である。高周波域では、渦電流損失が支配的である。絶縁性皮膜が厚い粉末が採用されれば、圧粉磁心のコアロスが抑制されうる。しかし、この粉末は充填性に劣る。この粉末が採用された圧粉磁心では、飽和磁化が不十分である。この圧粉磁心は、大電流化の要請に沿わない。
【0006】
本出願人の意図するところは、磁気特性に優れた磁性部材が得られうる粉末の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示する鉄系軟磁性粉末は、多数の粒子からなる。これらの粒子は、直径が50μm以上である粒子を含む。下記数式で算出される比率P2は、50%以下である。
P2 = (N2 / N1) * 100
この数式においてN1は、直径が50μm以上である粒子の数を表す。この数式においてN2は、直径が50μm以上であり、コアとこのコアの表面に付着しておりその高さが1.0μm以上である20以上の突起とを含んでおり、その高さが1.0μm以上である突起の平均高さが10μm以上である粒子の数を表す。
【0008】
好ましくは、下記数式で算出される比率P1は、50%以上である。
P1 = (N3 / N) * 100
この数式において、Nは粒子の総数を表し、N3は円形度が0.8以上である粒子の数を表す。好ましくは、この比率P1は、80%以下である。
【0009】
好ましくは、下記数式で算出される比率P3は、20%以下である。
P3 = (N4 / N1) * 100
この数式において、N1は直径が50μm以上である粒子の数を表す。この数式においてN4は、直径が50μm以上であり、1つの断面に含まれる直径が0.1μm以上である空孔の数が2以上である粒子の数を表す。
【0010】
好ましくは、下記数式で算出される比率P4は、50%以上である。
P4 = (N1 / N) * 100
この数式において、Nは粒子の総数を表し、N1は直径が50μm以上である粒子の数を表す。
【0011】
好ましくは、それぞれの粒子は、主部とこの主部の表面の全部又は一部を覆う絶縁性皮膜とを有する。この主部の材質は、鉄基合金である。好ましくは、この鉄基合金は、
Si:2.0質量%以上10.0質量%以下、
Cr:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Al:0.0質量%以上10.0質量%以下、
及び
B:0.0質量%以上10.0質量%以下
を含む。残部は、Fe及び不可避不純物である。
【0012】
本明細書が開示する圧粉磁心の製造方法は、
多数の粒子からなり、これらの粒子が直径が50μm以上である粒子を含んでおり、下記数式で算出される比率P2が50%以下である鉄系軟磁性粉末を、準備するステップ、
及び
上記粉末を加圧するステップ
を備える。
P2 = (N2 / N1) * 100
この数式においてN1は、直径が50μm以上である粒子の数を表す。この数式においてN2は、直径が50μm以上であり、コアとこのコアの表面に付着しておりその高さが1.0μm以上である20以上の突起とを含んでおり、その高さが1.0μm以上である突起の平均高さが10μm以上である粒子の数を表す。
【発明の効果】
【0013】
この軟磁性粉末が加圧されたとき、粒子がこれと隣接する粒子に押圧される。粉末の比率P2が50%以下であるので、この粉末では、この押圧に起因する粒子の損傷が生じにくい。この粉末から、磁気特性に優れた磁性部材が得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る鉄系軟磁性粉末の粒子が示された投影図である。
【
図2】
図2は、
図1の粒子が第一仮想円及び第二仮想円と共に示された投影図である。
【
図5】
図5は、
図1の粒子が第一仮想円と共に示された投影図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。
【0016】
本実施形態に係る鉄系軟磁性粉末は、多数の粒子の集合である。この粉末が、後に詳説される加圧法に供されて、成形体(例えば圧粉磁心)が得られうる。
図1に、1つの粒子2の投影図が示されている。
図1から明らかなように、粒子2は歪である。換言すれば、粒子2の輪郭4は、凹凸を有している。粒子2に対する視野方向が無作為に選定されて、この投影図が得られる。粉末が、歪な粒子2と共に、真球に近い形状を有する粒子2を含んでもよい。
【0017】
図2には、第一仮想円6が示されている。この第一仮想円6は、粒子2の輪郭4の内に画かれうる最大の円である。換言すれば、第一仮想円6は、「最大内接円中心法」にて定義される「最大内接円」である。本明細書では、粒子2のうち第一仮想円6で囲まれたゾーン、すなわち最大内接円の内側は、「コア8」と称される。粒子2のうち第一仮想円6の外のゾーン、すなわち最大内接円の外側は、「突起10」と称される。
図2には、第一突起10a、第二突起10b、第三突起10c、第四突起10d、第五突起10e及び第六突起10fが示されている。これらの突起10は、コア8に付着している。
図2において符号D1は、第一仮想円6の直径を表す。
【0018】
図2には、第二仮想円12も示されている。この第二仮想円12は、その内側に粒子2の輪郭4を含む最小の円である。
図2において符号D2は、第二仮想円12の直径を表す。本明細書では、この直径D2は、「粒子2の直径」と称される。
【0019】
図3に、粒子2の断面が示されている。粒子2は、主部14と絶縁性皮膜16とを有している。絶縁性皮膜16は、主部14の表面を覆っている。本実施形態では、絶縁性皮膜16は、主部14の表面の全体を覆っている。従って、粒子2の輪郭4は、絶縁性皮膜16の輪郭でもある。絶縁性皮膜16が、主部14の表面の一部を覆ってもよい。粒子2が、絶縁性皮膜16を有さなくてもよい。コアロスの抑制の観点から、絶縁性皮膜16が主部14の表面の全体を覆うことが好ましい。
図3において符号18は、空孔(後に詳説)を表す。
【0020】
主部14の材質は、後に詳説される鉄基合金である。この主部14と絶縁性皮膜16とを有する多数の粒子2から得られた圧粉磁心は、磁気特性に優れる。本明細書では、主部14の材質が鉄基合金である粒子2からなる軟磁性粉末は、絶縁性皮膜16の材質にかかわらず、「鉄系軟磁性粉末」と称される。
【0021】
[比率P4]
本明細書では、下記数式によって比率P4が算出される。
P4 = (N1 / N) * 100
この数式において、Nは粒子2の総数を表し、N1は直径D2が50μm以上である粒子2の数を表す。成形体が得られるための加圧法における効率の観点から、比率P4は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上が特に好ましい。比率P4が100%であってもよい。
【0022】
比率P4は、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定法によって算出される。この測定法には、例えば、マイクロトラック・ベル社の「粒子径分布測定装置 MT3000II」が使用される。粉末の粒子径分布が個数基準で測定され、径が50μm以上である粒子2の頻度が確認される。
【0023】
[比率P2]
図4に、粒子2の一部が拡大されて示されている。
図4には、第一突起10aの近傍が示されている。
図4において符号20は、第一突起10aのトップを表す。トップ20は、第一突起10aの輪郭4aのうち、第一仮想円6から最も離れた地点である。第一突起10aの輪郭4aは、粒子2の輪郭4の一部である。
図4において矢印H1は、第一突起10aの高さを表す。高さH1は、トップ20から第一仮想円6までの距離である。トップ20の近傍における輪郭4の形状は、曲線(又は直線)でもよく、コーナーでもよい。
【0024】
図5に、第一突起10aの高さH1と共に、第二突起10bの高さH2、第三突起10cの高さH3、第四突起10dの高さH4、第五突起10eの高さH5及び第六突起10fの高さH6が示されている。第二突起10bの高さH2、第三突起10cの高さH3、第四突起10dの高さH4、第五突起10eの高さH5及び第六突起10fの高さH6の決定方法は、
図4に示された、第一突起10aの高さH1の決定方法と、同じである。それぞれの高さHは、トップ20から第一仮想円6までの距離である。
【0025】
本明細書では、下記数式によって比率P2が算出される。
P2 = (N2 / N1) * 100
この数式においてN1は、直径D2が50μm以上である粒子2の数を表す。この数式においてN2は、以下の条件1-3の全てを満たす粒子2の数を表す。
条件1:直径D2が、50μm以上である。
条件2:その高さHが1.0μm以上である突起10の数Npが、20以上である。
条件3:その高さHが1.0μm以上である突起10の平均高さHpが、10μm以上である。
【0026】
図5に示された粒子2では、第一突起10aの高さH1、第二突起10bの高さH2、第三突起10cの高さH3、第五突起10eの高さH5及び第六突起10fの高さH6は、1.0μm以上である。従って、これらの突起10は、「突起10の数Np」及び「突起10の平均高さHp」の算出の対象である。一方、第四突起10dの高さH4は、1.0μm未満である。従って、第四突起10dは、「突起10の数Np」及び「突起10の平均高さHp」の算出の対象でない。この投影図に含まれており、その高さが測定されてはいないが1.0μm未満であることが明らかな微細な突起10も、「突起10の数Np」及び「突起10の平均高さHp」の算出の対象でない。さらに、コア8に付着しているがこの投影図に現れていない突起10も、「突起10の数Np」及び「突起10の平均高さHp」の算出の対象でない。この粒子2では、下記数式によって、突起10の平均高さHpが算出される。
Hp = (H1 + H2 + H3 + H5 + H6) / 5
【0027】
この条件1-3を満たす粒子2では、高さHが大きい突起10の数が多く、かつ突起10の平均高さが大きいことに起因して、その輪郭4は歪である。この粒子2が加圧法に供されると、直径D2が大きいことと相まって、隣接する粒子2の絶縁性皮膜16を傷つける。絶縁性皮膜16が損傷した粒子2から得られた圧粉磁心は、磁気特性に劣る。この圧粉磁心では、コアロスが生じやすい。磁気特性の観点から、条件1-3を満たす粒子2の数が少ないことが好ましい。磁気特性の観点から、比率P2は50%以下が好ましく、47%以下がより好ましく、45%以下が特に好ましい。理想的な比率P2は、0%である。
【0028】
比率P2が50%以下である粉末では、絶縁性皮膜16が薄くても、この絶縁性皮膜16の損傷が抑制されうる。絶縁性皮膜16が薄い粉末は、充填性に優れる。この粉末が採用された圧粉磁心の密度は、大きい。この圧粉磁心では、飽和磁化が大きい。この圧粉磁心は、大電流化の要請に沿いうる。
【0029】
比率P2の算出では、目開きが50μmである篩により、粉末が分級される。篩の上に残った粒子2から無作為に50個の粒子2が選択され、実体顕微鏡で観察される。各粒子2の投影図から、この粒子2の直径D2及び突起10の平均サイズSpが測定され、数N1及び数N2がカウントされる。
【0030】
[比率P1]
本明細書では、下記数式によって比率P1が算出される。
P1 = (N3 / N) * 100
この数式において、Nは粒子2の総数を表し、N3は円形度Roが0.8以上である粒子2の数を表す。円形度Roの大きい粒子2が加圧法に供されても、隣接する粒子2の絶縁性皮膜16を傷つけにくい。円形度Roが0.8以上である粒子2の比率P1が大きい粉末から得られた圧粉磁心は、磁気特性に優れる。この観点から、比率P1は50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上が特に好ましい。
【0031】
円形度Roは、下記数式により算出される。
Ro = 4πS / L2
この数式において、Sは粒子2の投影面積であり、Lは粒子2の輪郭4長である。面積Sと輪郭4長Lとは、画像解析にて測定される。画像解析の測定機として、画像解析装置株式会社セイシン企業の商品名「PITA-04」が例示される。
【0032】
比率P1の大小にかかわらず、小さな比率P2による損傷抑制効果は得られうる。換言すれば、本実施形態において、比率P1の値の設定は、必須の事項ではない。
【0033】
比率P1が小さい粉末であっても、比率P2が十分小さければ、絶縁性皮膜16の損傷が抑制されうる。比率P1が小さい粉末の製造では、材料の歩留まりが高い。従って、比率P1が小さい粉末は、低コストで得られうる。コストの観点から、比率P1は80%以下が好ましく、75%以下がより好ましく、70%以下が特に好ましい。
【0034】
[比率P3]
図6に、空孔18が拡大されて示されている。
図6には、第三仮想円22も示されている。この第三仮想円22は、その内側に空孔18の輪郭24を含む最小の円である。換言すれば、第三仮想円22は、「最小外接円中心法」にて定義される「最小外接円」である。
図6において符号D3は、第三仮想円22の直径を表す。本明細書では、この直径D3は、「空孔18の直径」と称される。
【0035】
本明細書では、下記数式によって比率P3が算出される。
P3 = (N4 / N1) * 100
この数式において、N1は直径D2が50μm以上である粒子2の数を表す。この数式においてN4は、直径D2が50μm以上であり、1つの断面に含まれる、直径D3が0.1μm以上である空孔18の数Nvが、2以上である粒子2の数を表す。
【0036】
比率P3は、圧粉磁心の透磁率と相関する。圧粉磁心の磁気特性の観点から、比率P3は20%以上が好ましく、18%以下がより好ましく、15%以下が特に好ましい。理想的な比率P3は、0%である。
【0037】
比率P3の算出では、目開きが50μmである篩により、粉末が分級される。篩の上に残った多数の粒子2が樹脂に埋め込まれ、かつ研磨される。研磨面に現れた多数の粒子2の断面から、直径が50μm以上である50個の断面が、無作為に抽出される。50個の断面のそれぞれにおいて、直径D3が0.1μm以上である空孔18の数がカウントされる。1つの断面における、直径D3が0.1μm以上である空孔18の数が、当該粒子2における数Nvと定義される。この断面に現れない空孔18は、数Nvには算入されない。
【0038】
[主部の材質]
前述の通り、主部14の材質は鉄基合金である。鉄基合金は、靱性に優れる。従ってこの粉末は、加圧法に適している。種々の軟磁性鉄基合金が、粉末に採用されうる。
【0039】
好ましくは、この鉄基合金は、
Si:2.0質量%以上10.0質量%以下、
Cr:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Al:0.0質量%以上10.0質量%以下、
及び
B:0.0質量%以上10.0質量%以下
を含む。好ましくは、残部は、Fe及び不可避不純物である。
【0040】
[絶縁性皮膜の材質]
皮膜16の材質は、絶縁性の物質である。皮膜16の導電率は、主部の導電率よりも小さい。主部14の表面が酸化されることで、皮膜16が形成されうる。皮膜16の材質が、有機物であってもよい。有機物の一例として、チタンアルコキシド類とケイ素アルコキシド類との混合物の重合体が挙げられる。皮膜16が、2以上の層を有してもよい。
【0041】
[製造方法]
この粉末の製造には、アトマイズ法、粉砕法等が採用されうる。アトマイズ法として、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法等が、採用される。粉末中の酸素含有量及び窒素含有量が抑制されうるとの観点から、ガスアトマイズ法及びディスクアトマイズ法が好ましい。
【0042】
典型的な空孔18は、ガスアトマイズに起因するガスポアである。ガスポアは、アトマイズ用のガスが液滴内に侵入した状態で凝固することで、発生する。アトマイズ用の不活性ガスとして、ヘリウムガス、アルゴンガス及び窒素ガスが一般的である。ヘリウム及びアルゴンは金属にほとんど吸収されないので、ヘリウムガス及びアルゴンガスが用いられたガスアトマイズでは、ガスポアが生じやすい。一方、窒素は金属に吸収されうるので、窒素ガスが用いられたガスアトマイズでは、ガスポアが生じにくい。さらに、不活性ガスによる液滴形成がなされないディスクアトマイズにおいても、ガスポアが生じにくい。比率P3が小さい粉末が得られるとの観点から好ましいアトマイズは、窒素ガスによるガスアトマイズ及びディスクアトマイズである。
【0043】
アトマイズにおいて、溶融金属の凝固が完了する前に、コア8に突起10が付着しうる。従って、突起10の材質は、コア8の材質と概ね同じである。この突起10は、コア8と一体である。他の原因でも、粒子2に突起10が発生しうる。
【0044】
好ましくは、アトマイズ等で得られた原料粉末にジェットミル処理が施され、粉末が得られる。ジェットミル処理では、高速ジェット気流により粒子2同士が衝突する。この衝突により、突起10が粉砕される。従って、ジェットミル処理で得られた粉末では、小さな比率P2が達成されうる。ジェットミル処理に適した装置として、エムテック化学株式会社の商品名「MJM1」が例示される。ジェットミル処理以外の方法で、突起10が粉砕されてもよい。
【0045】
ジェットミル処理の後の粉末に、焼鈍が施されてもよい。ジェットミル処理によって粒子2に生じた歪みが、焼鈍によって除去されうる。焼鈍は、不活性ガス(例えばアルゴンガス)の雰囲気中で、所定温度(例えば600℃)に、所定時間(例えば5時間)、粉末が保持され、その後に炉冷される。
【0046】
粉末に熱処理が施されることで、粉末の表面が酸化し、絶縁性皮膜16が生成しうる。効率の観点から、前述の焼鈍がこの熱処理をかねてなされることが好ましい。この場合、焼鈍の雰囲気ガスが大気(又は一部が大気)とされる。
【0047】
[磁性部材]
この粉末から圧粉磁心が得られる方法として、加圧法が挙げられる。加圧法では、粉末が金型に投入され、加圧される。これにより、成形体が得られる。加圧において、潤滑剤、バインダー等が用いられてもよい。この成形体が熱処理され、圧粉磁心が得られる。加圧法により、この粉末から、圧粉磁心以外の磁性部材も得られうる。
【0048】
本明細書は、磁性部材の製造方法にも向けられる。この製造方法は、
多数の粒子2からなり、これらの粒子2が直径が50μm以上である粒子2を含んでおり、下記数式で算出される比率P2が50%以下である鉄系軟磁性粉末を、準備するステップ、
及び
上記粉末を加圧するステップ
を含む。
P2 = (N2 / N1) * 100
この数式においてN1は、直径が50μm以上である粒子2の数を表す。この数式においてN2は、直径が50μm以上であり、コア8とこのコア8の表面に付着しておりその高さが1.0μm以上である20以上の突起10とを含んでおり、その高さが1.0μm以上である突の平均高さが10μm以上である粒子2の数を表す。
【実施例0049】
以下、実施例に係る軟磁性粉末の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本明細書で開示された範囲が限定的に解釈されるべきではない。
【0050】
[実験1]
[実施例1]
その材質が、下記表1に示された合金3である原料を、準備した。30kgの原料にアルゴンガスによるガスアトマイズを施して、原料粉末を得た。この原料粉末に、「JIS Z 8801-1」に規格された篩を用いて、粒子径が20μm以上150μm以下となるように分級を施した。この粉末に、エムテック化学株式会社のジェットミル装置(前述の「MJM1」)にて、ジェットミル処理を施した。
圧縮空気の圧力:0.7MPa
圧縮空気の風量:21m3/時(350L/min)
さらに、この粉末に、下記条件で焼鈍を施し、実施例1の軟磁性粉末を得た。焼鈍により、ジェットミル処理で生じた歪みが除去され、さらに絶縁性皮膜が生成した。この皮膜の材質は、鉄系酸化物であった。焼鈍の条件は、下記の通りであった。
雰囲気:大気の一部をアルゴンガスで置換(酸素濃度:500ppm)
昇温開始温度:常温(25℃)
昇温速度:0.16℃/s
到達温度:600℃
保持時間:5時間
冷却:常温まで炉冷
【0051】
[実施例2-8]
材質及びアトマイズガスを下記表2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-8の粉末を得た。
【0052】
[実施例9-11]
材質を下記表2に示される通りとし、ガスアトマイズに代えてディスクアトマイズを施し、ジェットミル処理を施さなかった他は実施例1と同様にして、実施例9-11の粉末を得た。
【0053】
[比較例1-4]
材質及びアトマイズガスを下記表2に示される通りとし、ジェットミル処理を施さなかった他は実施例1と同様にして、比較例1-4の粉末を得た。
【0054】
[評価]
粉末を型に投入し、1520MPaの圧力を加えて、トロイダル形状の成形体を得た。この成形体のサイズは、以下の通りであった。
外径:28mm
内径:15mm
高さ:3mm
【0055】
この成形体にひずみ取り焼鈍を行い、圧粉磁心を得た。焼鈍の条件は、以下の通りであった。
雰囲気:アルゴンガス(酸素濃度:1ppm未満)
昇温開始温度:常温(25℃)
昇温速度:0.16℃/s
到達温度:800℃
保持時間:1時間
冷却:常温まで炉冷
実施例1-11及び比較例1-4のそれぞれに係る粉末から得られた圧粉磁心の電気抵抗値は、1×107Ω・cm3以上であり、その絶縁性は十分であった。
【0056】
この圧粉磁心の密度及び透磁率μ’を測定した。透磁率μ’が大きい圧粉磁心では、コアロスが生じにくい。さらに、下記の基準に従って格付けを行った。この結果が、下記の表2に示されている。
S:透磁率が30以上である。
A:透磁率が20以上30未満である。
B:透磁率が15以上20未満である。
F:透磁率が15未満である。
【0057】
[実験2]
[実施例12-21]
材質及びアトマイズガスを下記表3に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例12-21の粉末を得た。
【0058】
[実施例22-26]
材質を下記表3に示される通りとし、ガスアトマイズに代えてディスクアトマイズを施し、ジェットミル処理を施さなかった他は実施例1と同様にして、実施例22-26の粉末を得た。
【0059】
[比較例5-9]
材質及びアトマイズガスを下記表3に示される通りとし、ジェットミル処理を施さなかった他は実施例1と同様にして、比較例5-9の粉末を得た。
【0060】
[評価]
実験1と同様の方法で、圧粉磁心を得た。実施例12-26及び比較例5-9のそれぞれに係る粉末から得られた圧粉磁心の電気抵抗値は、1×107Ω・cm3以上であり、その絶縁性は十分であった。
【0061】
この圧粉磁心の密度及び透磁率μ’を測定した。さらに、下記の基準に従って格付けを行った。この結果が、下記の表3に示されている。
S:透磁率が25以上である。
A:透磁率が15以上25未満である。
B:透磁率が10以上15未満である。
F:透磁率が10未満である。
【0062】
[実験3]
[実施例27-35]
材質及びアトマイズガスを下記表4に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例27-35の粉末を得た。
【0063】
[実施例36-38]
材質を下記表4に示される通りとし、ガスアトマイズに代えてディスクアトマイズを施し、ジェットミル処理を施さなかった他は実施例1と同様にして、実施例36-38の粉末を得た。
【0064】
[比較例10-13]
材質及びアトマイズガスを下記表4に示される通りとし、ジェットミル処理を施さなかった他は実施例1と同様にして、比較例10-13の粉末を得た。
【0065】
[評価]
実験1と同様の方法で、圧粉磁心を得た。実施例27-35及び比較例10-13のそれぞれに係る粉末から得られた圧粉磁心の電気抵抗値は、1×107Ω・cm3以上であり、その絶縁性は十分であった。
【0066】
この圧粉磁心の密度及び透磁率μ’を測定した。さらに、下記の基準に従って格付けを行った。この結果が、下記の表4に示されている。
S:透磁率が20以上である。
A:透磁率が10以上20未満である。
B:透磁率が5以上10未満である。
F:透磁率が5未満である。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
表2-4に示されるように、各実施例に係る粉末から、磁気特性に優れた成形体が得られうる。これらの評価結果から、本発明の優位性は明らかである。