(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181705
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】イオン伝導体、全固体電池およびイオン伝導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20231218BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231218BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231218BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20231218BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/40
H01B1/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022094978
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】南 圭一
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA04
5G301CA05
5G301CA08
5G301CA16
5G301CA19
5G301CD01
5G301CE02
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029DJ09
5H029DJ17
5H029DJ18
5H029EJ07
5H029HJ02
5H029HJ12
5H029HJ13
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA15
5H050FA02
5H050FA19
5H050FA20
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA12
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】本開示は、良好な耐還元性を有するイオン伝導体を提供することを主目的とする。
【解決手段】本開示においては、Li、P、S、BH
4およびIを含有し、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=29.1°±0.5°、30.4°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Xを備えるイオン伝導体を提供することにより、上記課題を解決する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、P、S、BH4およびIを含有し、
CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=29.1°±0.5°、30.4°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Xを備えるイオン伝導体。
【請求項2】
前記2θ=29.1°±0.5°のピークの強度をIAとし、前記2θ=30.4°±0.5°のピークの強度をIBとした場合に、前記IAに対する前記IBの割合(IB/IA)が、35%以上である、請求項1に記載のイオン伝導体。
【請求項3】
前記IB/IAが、60%以上である、請求項2に記載のイオン伝導体。
【請求項4】
前記イオン伝導体は、(100-α){(1-β)LiBH4-βP2S5}-αLiIで表される組成を有し、
前記αは0<α≦20を満たし、前記βは0.01<β≦0.3を満たす、請求項1または請求項2に記載のイオン伝導体。
【請求項5】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、
前記正極層、前記負極層および前記固体電解質層の少なくとも一つが、請求項1または請求項2に記載のイオン伝導体を含有する、全固体電池。
【請求項6】
前記負極層が、前記イオン伝導体を含有する、請求項5に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記負極層が、Li単体またはLi合金を含有する、請求項6に記載の全固体電池。
【請求項8】
Li、P、SおよびBH4を含有する中間体を準備する準備工程と、
前記中間体にI源を添加し、前駆体を得る添加工程と、
前記前駆体を焼成し、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=29.1°±0.5°、30.4°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Xを有するイオン伝導体を得る焼成工程と、
を有するイオン伝導体の製造方法。
【請求項9】
前記I源が、LiIである、請求項8に記載のイオン伝導体の製造方法。
【請求項10】
前記添加工程において、前記中間体および前記I源を含有する混合物を非晶質化することにより、前記前駆体を得る、請求項8または請求項9に記載のイオン伝導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオン伝導体、全固体電池およびイオン伝導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極層および負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。全固体電池には、固体のイオン伝導体が用いられる。
【0003】
特許文献1には、リチウム(Li)とボロハイドライド(BH4
-)とリン(P)と硫黄(S)とを含み、X線回折において、所定の位置に回折ピークを有するイオン伝導体が開示されている。また、特許文献2には、Li7-xPS6-xXx-z(BH4)z(式中、XはCl、Br、I、FおよびCNからなる群から選択され、0<x≦2、かつ、0<z≦0.50である)で表される化合物が開示されている。また、特許文献3には、LiBH4およびP2S5を所定の割合で含む原料と、溶媒とを混合し、混合物を得る工程と、その混合物から溶媒を除去する工程と、を有するイオン伝導体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016-103894号公報
【特許文献2】特開2020-534245号公報
【特許文献3】特開2018-039689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、LiBH4-P2S5系のイオン伝導体は、良好なイオン伝導性を有する。一方、LiBH4-P2S5系のイオン伝導体は、耐還元性が低い傾向にある。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、良好な耐還元性を有するイオン伝導体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]
Li、P、S、BH4およびIを含有し、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=29.1°±0.5°、30.4°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Xを備えるイオン伝導体。
【0008】
[2]
上記2θ=29.1°±0.5°のピークの強度をIAとし、上記2θ=30.4°±0.5°のピークの強度をIBとした場合に、上記IAに対する上記IBの割合(IB/IA)が、35%以上である、[1]に記載のイオン伝導体。
【0009】
[3]
上記IB/IAが、60%以上である、[2]に記載のイオン伝導体。
【0010】
[4]
上記イオン伝導体は、(100-α){(1-β)LiBH4-βP2S5}-αLiIで表される組成を有し、上記αは0<α≦20を満たし、上記βは0.01<β≦0.3を満たす、[1]から[3]までのいずれかに記載のイオン伝導体。
【0011】
[5]
正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、上記正極層、上記負極層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、[1]から[4]までのいずれかに記載のイオン伝導体を含有する、全固体電池。
【0012】
[6]
上記負極層が、上記イオン伝導体を含有する、[5]に記載の全固体電池。
【0013】
[7]
上記負極層が、Li単体またはLi合金を含有する、[6]に記載の全固体電池。
【0014】
[8]
Li、P、SおよびBH4を含有する中間体を準備する準備工程と、上記中間体にI源を添加し、前駆体を得る添加工程と、上記前駆体を焼成し、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=29.1°±0.5°、30.4°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Xを有するイオン伝導体を得る焼成工程と、を有するイオン伝導体の製造方法。
【0015】
[9]
上記I源が、LiIである、[8]に記載のイオン伝導体の製造方法。
【0016】
[10]
上記添加工程において、上記中間体および上記I源を含有する混合物を非晶質化することにより、上記前駆体を得る、[8]または[9]に記載のイオン伝導体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本開示におけるイオン伝導体は、良好な耐還元性を有するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
【
図2】本開示におけるイオン伝導体の製造方法を例示するフローチャートである。
【
図3】実施例1で得られたイオン伝導体に対するXRD測定の結果である。
【
図4】実施例2で得られたイオン伝導体に対するXRD測定の結果である。
【
図5】実施例3で得られたイオン伝導体に対するXRD測定の結果である。
【
図6】実施例4で得られたイオン伝導体に対するXRD測定の結果である。
【
図7】比較例1で得られたイオン伝導体に対するXRD測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示におけるイオン伝導体、全固体電池およびイオン伝導体の製造方法について、詳細に説明する。
【0020】
A.イオン伝導体
本開示におけるイオン伝導体は、Li、P、S、BH4およびIを含有し、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=29.1°±0.5°、30.4°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Xを備える。
【0021】
本開示によれば、Iを含む所定の元素を含有することから、良好な耐還元性を有するイオン伝導体となる。上述したように、LiBH4-P2S5系のイオン伝導体は、良好なイオン伝導性を有する。これは、後述する結晶相Xを有するためである。一方、LiBH4-P2S5系のイオン伝導体は、耐還元性が低い。これは、BH4アニオン耐還元性が低いためであると推測される。本開示においては、LiBH4の一部を、例えばLiIに置換することで、良好な耐還元性を有するイオン伝導体が得られる。本開示におけるイオン伝導体は良好な耐還元性を有するため、特に負極層に用いられる材料として有用である。また、LiBH4の一部を、例えばLiIに置換すると、結晶相Xの構造が崩壊しやすくなるが、後述するように、中間体を準備した後に、LiIを用いることで、結晶相Xの構造の崩壊を抑制しつつ、良好な耐還元性を有するイオン伝導体が得られる。
【0022】
本開示におけるイオン伝導体は、Li、P、S、BH4およびIを含有する。また、イオン伝導体は、典型的には、LiBH4-P2S5-LiI系のイオン伝導体である。イオン伝導体は、(100-α){(1-β)LiBH4-βP2S5}-αLiIで表される組成を有することが好ましい。αは、通常、0<αを満たし、1≦αを満たしてもよく、5≦αを満たしてもよい。一方、αは、例えばα≦20を満たし、α≦15を満たしてもよく、α≦10を満たしてもよい。βは、通常、0<βを満たし、0.01≦βを満たしてもよく、0.03≦βを満たしてもよく、0.05≦βを満たしてもよい。一方、βは、例えばβ≦0.3を満たし、β≦0.25を満たしてもよく、β≦0.15を満たしてもよい。
【0023】
また、本開示におけるイオン伝導体は、特定の結晶相Xを備える。結晶相Xは、アルジロダイト型結晶相であると推測される。結晶相Xは、CuKα線を用いたX線回折(XRD)測定において、通常、2θ=29.1°±0.5°、30.4°±0.5°の位置にピークを有する。結晶相Xは、さらに、2θ=14.4°±0.5°、15.0°±0.5°、24.9°±0.5°、51.1°±0.5°、53.5°±0.5°の位置にピークを有していてもよい。これらのピークの位置は、それぞれ、±0.3°の範囲であってもよく、±0.1°の範囲であってもよい。
【0024】
また、2θ=29.1°±0.5°のピークの強度をIAとし、2θ=30.4°±0.5°のピークの強度をIBとする。IAに対するIBの割合(IB/IA)は、例えば35%以上であり、50%以上であってもよく、60%以上であってもよい。一方、IB/IAは、通常100%以下である。
【0025】
本開示におけるイオン伝導体は、結晶相Xを主相として含有することが好ましい。「主相」とは、CuKα線を用いたXRD測定において、強度が最も高いピークの属する結晶相をいう。また、イオン伝導体に対する、CuKα線を用いたXRD測定において、LiIのピークが観察されてもよく、観察されなくてもよい。
【0026】
本開示におけるイオン伝導体は、イオン伝導度が高いことが好ましい。25℃におけるイオン伝導度は、例えば0.5×10-3S/cm以上であり、1×10-3S/cm以上であってもよく、2×10-3S/cm以上であってもよい。
【0027】
イオン伝導体の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。また、イオン伝導体の平均粒径(D50)は、例えば、0.1μm以上、50μm以下である。平均粒径(D50)は、レーザー回折散乱法による粒度分布測定の結果から求めることができる。イオン伝導体の用途は特に限定されないが、例えば、全固体電池に用いられることが好ましい。
【0028】
B.全固体電池
図1は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
図1に示す全固体電池10は、正極活物質を含有する正極層1と、負極活物質を含有する負極層2と、正極層1および負極層2の間に形成された固体電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。さらに、正極層1、負極層2および固体電解質層3の少なくとも一つが、上記「A.イオン伝導体」に記載したイオン伝導体を含有する。
【0029】
本開示によれば、上述したイオン伝導体を用いることで、良好な耐還元性を有する全固体電池となる。
【0030】
1.正極層
本開示における正極層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。正極層は、正極活物質の他に、イオン伝導体(固体電解質)、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0031】
正極活物質としては、例えば酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、具体的には、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等の岩塩層状型活物質、LiMn2O4、Li(Ni0.5Mn1.5)O4等のスピネル型活物質、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0032】
正極活物質の表面は、コート層で被覆されていてもよい。正極活物質と固体電解質との反応を抑制できるからである。コート層の材料としては、例えば、LiNbO3、Li3PO4、LiPON等のLiイオン伝導性酸化物が挙げられる。コート層の平均厚さは、例えば1nm以上50nm以下であり、1nm以上10nm以下であってもよい。
【0033】
本開示における正極層は、上述したイオン伝導体を含有することが好ましい。また、導電材としては、例えば、炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系バインダーが挙げられる。正極層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0034】
2.負極層
本開示における負極層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。また、負極層は、負極活物質の他に、イオン伝導体(固体電解質)、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0035】
負極活物質としては、例えば、金属活物質およびカーボン活物質が挙げられる。金属活物質としては、例えば、Li、In、Al、SiおよびSnが挙げられる。負極活物質は、Li単体またはLi合金であることが好ましい。Li単体またはLi合金は反応電位が低いため、電圧が高い全固体電池が得られる。また、本開示におけるイオン伝導体は、良好な耐還元性を有するため、Li単体またはLi合金とともに用いた場合であっても、還元分解が生じにくい。全固体電池は、負極反応として、Liの溶解析出を利用した電池であってもよい。この場合、全固体電池は、初回充電前の状態、または、完全放電後の状態において、負極層を有しなくてもよい。一方、カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボンが挙げられる。
【0036】
イオン伝導体、導電材およびバインダーについては、上述した内容と同様である。本開示における負極層は、上述したイオン伝導体を含有することが好ましい。負極層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0037】
3.固体電解質層
本開示における固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有する層である。また、固体電解質層は、固体電解質の他に、バインダーを含有していてもよい。本開示における固体電解質層は、固体電解質として、上述したイオン伝導体を含有していてもよい。また、バインダーについては、上述した内容と同様である。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0038】
4.その他の構成
本開示における全固体電池は、通常、正極活物質の集電を行う正極集電体、および、負極活物質の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンが挙げられる。一方、負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケルおよびカーボンが挙げられる。また、電池ケースには、SUS製電池ケース等の一般的な電池ケースを用いることができる。
【0039】
5.全固体電池
本開示における全固体電池は、全固体リチウムイオン電池であることが好ましい。また、全固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。なお、二次電池には、二次電池の一次電池的使用(充電後、一度の放電だけを目的とした使用)も含まれる。また、全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型が挙げられる。
【0040】
C.イオン伝導体の製造方法
図2は、本開示におけるイオン伝導体の製造方法を示すフローチャートである。
図2では、LiBH
4およびP
2S
5を含有する混合物を非晶質化し、その後、焼成することで中間体を準備する(準備工程)。次に、中間体にI源(LiI)を添加し、その混合物を非晶質化することにより、前駆体を得る(添加工程)。次に、前駆体を焼成することにより、イオン伝導体が得られる(焼成工程)。
【0041】
本開示によれば、中間体を準備した後に、I源を用いることで、より良好な耐還元性を有するイオン伝導体が得られる。ここで、LiBH4の一部を、I源(例えばLiI)に置換すると、結晶相Xの構造が崩壊しやすくなる。これに対して、中間体を準備した後に、I源を用いて合成を行うことで、結晶相Xの構造の崩壊を抑制しつつ、より良好な耐還元性を有するイオン伝導体を得ることができる。
【0042】
1.準備工程
本開示における準備工程は、Li、P、SおよびBH4を含有する中間体を準備する工程である。中間体は、自ら作製してもよく、他者から購入してもよい。
【0043】
中間体の作製方法の一例としては、Li源、P源、S源およびBH4源を含有する混合物を、非晶質化し、その後、焼成する方法が挙げられる。Li源としては、例えば、Li硫化物が挙げられる。Li硫化物としては、例えばLi2Sが挙げられる。P源としては、例えば、P硫化物が挙げられる。P硫化物としては、例えばGeS2が挙げられる。S源としては、例えば、単体硫黄、上述した各種硫化物が挙げられる。BH4源としては、Li塩(LiBH4)が挙げられる。また、上記混合物の組成は、目的とするイオン伝導体の組成に応じて、適宜調整することが好ましい。
【0044】
上記混合物を非晶質化する方法としては、例えば、ボールミル、振動ミル等のメカニカルミリング法が挙げられる。メカニカルミリング法は、乾式であってもよく、湿式であってもよいが、均一処理の観点で後者が好ましい。湿式メカニカルミリング法に用いられる分散媒の種類は特に限定されない。
【0045】
メカニカルミリングの各種条件は、所望の中間体が得られるように設定する。例えば、遊星型ボールミルを用いる場合、原料組成物および粉砕用ボールを加え、所定の回転数および時間で処理を行う。遊星型ボールミルの台盤回転数は、例えば、150rpm以上であり、250rpm以上であってもよい。一方、遊星型ボールミルの台盤回転数は、例えば400rpm以下であり、350rpm以下であってもよい。また、遊星型ボールミルの処理時間は、例えば30分間以上であり、1時間以上であってもよい。一方、遊星型ボールミルの処理時間は、例えば30時間以下であり、25時間以下であってもよい。
【0046】
非晶質化した上記混合物を焼成することで、中間体が得られる。焼成温度は、例えば、150℃以上であり、180℃以上であってもよい。一方、焼成温度は、例えば300℃以下である。また、焼成時間は、例えば1時間以上であり、2時間以上であってもよい。一方、焼成時間は、例えば10時間以下であり、5時間以下であってもよい。焼成雰囲気は、例えば、不活性ガス雰囲気、真空が挙げられる。
【0047】
また、中間体の作製方法の他の例としては、Li源、P源、S源およびBH4源を含有する混合物を焼成する方法(いわゆる固相法)が挙げられる。
【0048】
中間体は、Li、P、SおよびBH4を少なくとも含有する。また、後述する添加工程において、中間体にI源を添加するため、中間体はIを含有する必要はない。すなわち、中間体は、Iを含有していなくてもよい。一方で、I源の一部を、事前に中間体に含有させてもよい。この場合、中間体は、Iを含有する。イオン伝導体に含まれるIに対する、中間体に含まれるIの割合は、通常50mol%以下であり、30mol%以下であってもよく、10mol%であってもよい。
【0049】
中間体は、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=29.1°±0.5°、30.4°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Xを備えていることが好ましい。結晶相Xについては、上記「A.イオン伝導体」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0050】
2.添加工程
本開示における添加工程は、上記中間体にI源を添加し、前駆体を得る工程である。I源としては、例えば、Li塩(LiI)が挙げられる。前駆体は、中間体およびI源を含有する混合物であってもよい。上記混合物は、中間体およびI源を混合することにより得られる。一方、前駆体は、中間体およびI源を含有する非晶質体であってもよい。上記非晶質体は、中間体およびI源を含有する混合物を非晶質化することにより得られる。
【0051】
上記混合物を非晶質化する方法としては、例えば、ボールミル、振動ミル等のメカニカルミリング法が挙げられる。メカニカルミリング法は、乾式であってもよく、湿式であってもよいが、均一処理の観点で後者が好ましい。湿式メカニカルミリング法に用いられる分散媒の種類は特に限定されない。
【0052】
メカニカルミリングの各種条件は、所望の前駆体が得られるように設定する。例えば、遊星型ボールミルを用いる場合、原料組成物および粉砕用ボールを加え、所定の回転数および時間で処理を行う。遊星型ボールミルの台盤回転数は、例えば、150rpm以上であり、250rpm以上であってもよい。一方、遊星型ボールミルの台盤回転数は、例えば400rpm以下であり、350rpm以下であってもよい。また、遊星型ボールミルの処理時間は、例えば30分間以上であり、1時間以上であってもよい。一方、遊星型ボールミルの処理時間は、例えば30時間以下であり、25時間以下であってもよい。
【0053】
前駆体は、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=29.1°±0.5°、30.4°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Xを備えていてもよく、備えていなくてもよい。また、前駆体に対する、CuKα線を用いたXRD測定において、I源に由来するピークが観察されてもよく、観察されなくてもよい。
【0054】
3.焼成工程
本開示における焼成工程は、上記前駆体を焼成し、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=29.1°±0.5°、30.4°±0.5°の位置にピークを有する結晶相Xを有するイオン伝導体を得る工程である。焼成温度は、例えば、150℃以上であり、180℃以上であってもよい。一方、焼成温度は、例えば300℃以下である。また、焼成時間は、例えば1時間以上であり、2時間以上であってもよい。一方、焼成時間は、例えば10時間以下であり、5時間以下であってもよい。焼成雰囲気は、例えば、不活性ガス雰囲気、真空が挙げられる。
【0055】
4.イオン伝導体
上述した各工程により得られるイオン伝導体については、上記「A.イオン伝導体」に記載した内容と同様である。
【0056】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例0057】
[実施例1]
LiBH4(アルドリッチ製、0.8022g)と、P2S5(アルドリッチ製、0.9096g)と、LiI(高純度化学製、0.2882g)とを秤量した。これらを、500mlのZrO2ポットに入れ、さらに、φ5mmのZrO2ボール(450g)およびヘプタン(100g)を入れ、密封した。密封した容器を、ボールミル装置(フリッチュ製P-5)にセットした。回転数300rpmで1時間混合し、その後、10分間休止するというセットを20セット実施することで、前駆体を得た。得られた前駆体を、ホットプレートを用いて、200℃の条件で焼成し、イオン伝導体を得た。得られたイオン伝導体の組成は、95(0.9LiBH4-0.1P2S5)-5LiIであった。
【0058】
[実施例2]
各原料の使用量を、LiBH4(0.6915g)、P2S5(0.7840g)、LiI(0.5245g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、イオン伝導体を得た。得られたイオン伝導体の組成は、90(0.9LiBH4-0.1P2S5)-10LiIであった。
【0059】
[実施例3]
LiBH4(4.0111g)と、P2S5(4.5478g)とを秤量した。これらを、500mlのZrO2ポットに入れ、さらに、φ5mmのZrO2ボール(450g)およびヘプタン(100g)を入れ、密封した。密封した容器を、ボールミル装置(フリッチュ製P-5)にセットした。回転数300rpmで1時間混合し、その後、10分間休止するというセットを20セット実施することで、中間体を得た。得られた中間体(1.7118g)と、LiI(0.2882g)とを、45mlのZrO2ポットに入れ、さらに、φ5mmのZrO2ボール(53g)およびヘプタン(4g)を入れ、密封した。密封した容器を、ボールミル装置(フリッチュ製P-5)にセットした。回転数300rpmで1時間混合し、その後、10分間休止するというセットを10セット実施することで、前駆体を得た。得られた前駆体を、ホットプレートを用いて、200℃の条件で焼成し、イオン伝導体を得た。得られたイオン伝導体の組成は、95(0.9LiBH4-0.1P2S5)-5LiIであった。
【0060】
[実施例4]
中間体の使用量を1.4755gに変更し、LiIの使用量を0.5245gに変更したこと以外は、実施例3と同様にしてイオン伝導体を得た。得られたイオン伝導体の組成は、90(0.9LiBH4-0.1P2S5)-10LiIであった。
【0061】
[比較例1]
LiIを用いず、さらに、各原料の使用量を、LiBH4(4.6865g)、P2S5(5.3135g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、イオン伝導体を得た。得られたイオン伝導体の組成は、90LiBH4-10P2S5であった。
【0062】
[評価]
(XRD測定)
実施例1~4および比較例1で得られたイオン伝導体に対して、CuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った。その結果を、それぞれ、
図3~
図7に示す。
図3~
図7に示すように、実施例1~4および比較例1で得られたイオン伝導体は、2θ=29.1°付近および2θ=30.4°付近にピークを有する結晶相Xを備えることが確認された。2θ=29.1°付近のピークの強度I
Aと、2θ=30.4°付近のピークの強度I
Bとの強度比(I
B/I
A)を表1に示す。なお、強度比は、2θ=23°の回折強度と、2θ=35°の回折強度とを結ぶ直線をベースラインとした。
【0063】
(イオン伝導度測定)
実施例1~4および比較例1で得られたイオン伝導体に対して、イオン伝導度測定(25℃)を行った。具体的には、得られたイオン伝導体の粉末100mgを、2枚の集電体で挟んだ状態で、セラミックシリンダーの中に入れ、圧力6ton/cm2でプレスし、圧粉セルを作製した。作製した圧粉セルに対して、室温で交流インピーダンス法を行い、その抵抗値、および、圧粉セルの厚さから、イオン伝導度を求めた。その結果を表1に示す。
【0064】
(Li溶解析出試験)
実施例1~4および比較例1で得られたイオン伝導体に対して、Li析出溶解試験を行った。具体的には、得られたイオン伝導体の粉末100mgを、セラミックシリンダーの中に入れ、圧力6ton/cm2でプレスし、圧粉体を作製した。圧粉体の両面に、それぞれLi金属箔を配置し、評価用セルを作製した。評価用セルに対して、室温で0.1mAの電流を1時間流した。その後、評価用セルに対して、室温で-0.1mAの電流(反転電流)を1時間流した。これらの操作を合計100時間繰り返した。その際の析出溶解時の電位を、初期と100時間後とで比較し、その維持率を求めた。その結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
表1に示すように、実施例1~4では、比較例1に比べて、イオン伝導度は低いものの、電位維持率が高いことが確認された。すなわち、実施例1~4で得られたイオン伝導体は、良好な耐還元性を有することが確認された。特に、実施例3、4は、実施例1、2に比べて、イオン伝導度が良好であった。これは、LiIを後から添加することで、結晶相Xの構造の崩壊が抑制されたためであると推測される。