(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181717
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】構造用接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 163/00 20060101AFI20231218BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20231218BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C09J163/00
C09J11/06
C09J11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095000
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000615
【氏名又は名称】弁理士法人Vesta国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂口 和優
(72)【発明者】
【氏名】堀部 泰正
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040EC061
4J040EE012
4J040HA306
4J040KA16
4J040NA16
(57)【要約】
【課題】常温での塗布作業性と、未硬化状態での耐流水圧性(耐シャワー性)との両立を可能とすること。
【解決手段】構造用接着剤組成物は、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂に対する硬化剤を基本組成と、親水性シリカとグリコール系化合物とを必須成分として含有したものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂及び前記エポキシ樹脂に対する硬化剤を基本組成としたエポキシ樹脂系の構造用接着剤組成物であって、
親水性シリカとグリコール系化合物とを必須成分として含有したことを特徴とする構造用接着剤組成物。
【請求項2】
前記グリコール系化合物は、ポリアルキレングリコール系化合物であることを特徴とする請求項1に記載の構造用接着剤組成物。
【請求項3】
更に、エラストマ成分を含有したことを特徴とする請求項1に記載の構造用接着剤組成物。
【請求項4】
前記エラストマ成分は、コアシェル型ゴム粒子であることを特徴とする請求項3に記載の構造用接着剤組成物。
【請求項5】
前記親水性シリカは、前記エポキシ樹脂100質量部に対し、3~25質量部の範囲内の配合であることを特徴とする請求項1に記載の構造用接着剤組成物。
【請求項6】
前記グリコール系化合物は、前記エポキシ樹脂100質量部に対し、1~8質量部の範囲内の配合であることを特徴とする請求項1に記載の構造用接着剤組成物。
【請求項7】
前記親水性シリカは、前記構造用接着剤組成物100質量部に対し、1~8質量部の範囲内の配合であることを特徴とする請求項1に記載の構造用接着剤組成物。
【請求項8】
前記グリコール系化合物は、前記構造用接着剤組成物100質量部に対し、0.5~6質量部の範囲内の配合であることを特徴とする請求項1に記載の構造用接着剤組成物。
【請求項9】
前記グリコール系化合物は、前記親水性シリカ100質量部に対し、10~50質量部の範囲内の配合であることを特徴とする請求項1に記載の構造用接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、産業用車両の車体パネル等の構造接着に使用する構造用接着剤組成物に関するものであり、特に、常温塗布作業性と未硬化状態での耐流水圧性(耐シャワー性)とを両立できる構造用接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の抑制と地球環境の保護を究極の目標とした自動車等の車両の燃費の向上を目的として、車両の軽量化の技術開発が活発化しており、軽量化の手段として、例えば、自動車等の車両の車体パネル等では、鋼板の薄肉化や、アルミニウムや樹脂等の軽量な材料の導入が進められている。
一方で、走行性能、操作性能、衝突安全性等の向上を目的として車体の剛性を高めることも求められている。車体の剛性を高めるために、従来は構造部材の厚肉化や補強板の組み付け等が行われていたが、構造部材の厚肉化や補強板の組み付けは、車体の重量増加に繋がり、自動車の軽量化に相反する。
【0003】
そこで、車体の軽量化と剛性の向上を両立させる技術として、構造用接着剤とスポット溶接との併用による接合技術(ウエルドボンド工法)の適用が広がっている。なお、「構造用接着剤」とは、長時間大きな荷重に耐える信頼できる接着剤(JIS K 6800)をいう。
この構造用接着剤は、車体工程や組立工程で使用されるが、強靭性からすると加熱により硬化する熱硬化型の接着剤が好ましいことから、車体工程において熱硬化型の接着剤を使用(塗布)するのが一般的である。そして、車体工程で塗布される熱硬化型の接着剤においては、工数の低減やコスト削減等の観点から、その後に行われる電着塗装工程における塗装乾燥炉での電着塗膜の焼付と同時に、その塗装乾燥炉の熱を利用して硬化させるのが一般的である。
ここで、車体工程後に行われる電着塗装工程では、防錆を目的とした下地処理(電着塗装)の前処理として、一般的に、車体の洗浄工程が設けられている。
したがって、車体工程で車体の所定部位に塗布し、電着塗装後の塗装乾燥炉の熱を利用して硬化させる熱硬化型の接着剤は、洗浄処理や電着塗装の際には、未硬化の状態にある。
【0004】
このため、車体工程で塗布した未硬化の接着剤は、電着塗装工程内において電着塗装の前処理で施される洗浄処理の水流の力(シャワー)、流水の飛沫等によって千切れたり破壊されたりして、飛散、変形(位置ずれ)、流出(脱落)等する恐れがある。未硬化状態の接着剤が洗浄工程の流水圧によって飛散等すると、車体表面に付着して車体表面を汚すことで塗装不良を引き起こしたり、電着液(処理液)を汚染したりすることになる。また、未硬化の接着剤が洗浄工程の流水圧によって大きく変形等すれば、後のシーラー塗布工程でシーラーを下地に密着させることができない等の不具合を生じさせることにもなる。
特に、車体工程で接着剤を塗布する際には、接合強度、防錆性、塗布状態の管理等の観点から、接着面を均一に幅広くとるために、鋼板等の構造部材の端部から接着剤が食み出す程に幅広く接合部全面に塗布されるのが好ましいところ、接着剤が鋼板の接合部位から食み出ていると、電着塗装工程内の洗浄処理における流水圧によって飛散、変形、流出等が生じやすくなる。
【0005】
そこで、洗浄処理時の流水圧による接着剤の飛散、変形、流出等を防止するために、構造用接着剤の粘度特性について洗浄工程での雰囲気温度である40℃付近の温度領域の粘度を高粘度に設計することが考えられる。しかしながら、この種の接着剤に使用されているエポキシ樹脂系の接着剤の粘度においては、温度依存性(感温特性)があり、温度変化に対する粘度変動が大きいことにより、40℃付近における粘度を高粘度化すると、常温時における粘度も高くなる問題がある。そこで、従来、常温時の粘度が高いものは、塗布時に接着剤の塗布装置を加温することで接着剤の温度を上昇させて低粘度化(減粘)することにより塗布作業性を確保していた。即ち、従来、耐流水圧性(耐シャワー性)を確保するために40℃付近における粘度を高粘度に設計した接着剤は、加温で低粘度にしてから塗布に供されていた。しかしながら、こうした塗布時に加温するものではエネルギ消費量、コスト増を招くことになる。
【0006】
ここで、特許文献1では、ビスフェノールを原料として合成された20℃で液状の主エポキシ樹脂と、NBR及びSBRから選ばれる少なくとも一種からなり主エポキシ樹脂と反応しない固形ゴム成分と、加熱により活性化されるエポキシ樹脂用潜在性硬化剤とを含み、JIS-K2220に基づき剪断速度が15.5sec-1の条件で測定される見掛け粘度において、20℃における見掛け粘度(V20)が200~500Pa・sの範囲にあり、40℃における見掛け粘度(V40)に対する20℃における見掛け粘度(V20)の比(V20/V40)の値が2.0以上かつ3.0未満の範囲にある構造用接着剤組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この特許文献1の技術においてはNBR及びSBRから選ばれる少なくとも一種からなり主エポキシ樹脂と反応しない固形ゴム成分の配合により粘度の感温性を小さくするものである。しかしながら、エポキシ樹脂の架橋反応を阻害しない固形ゴム成分の配合量に限度があることで、40℃付近における粘度を高粘度とするにも限度があった。
【0009】
そこで、本発明は、常温での塗布作業性と、未硬化状態での耐流水圧性(耐シャワー性)との両立を可能とする構造用接着剤組成物の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明の構造用接着剤組成物は、エポキシ樹脂及び前記エポキシ樹脂に対する硬化剤を基本組成とし、親水性シリカとグリコール系化合物とを必須成分として含有したものである。
上記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等の汎用エポキシ樹脂や、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂等の変性エポキシ樹脂が使用できる。
上記硬化剤としては、エポキシ基と反応する活性基を有するものであればよく、例えば、ジシアンジアミド等のイミダゾール系化合物が使用される。
上記親水性シリカとは、その親水性表面(シラノール基)に有機基等を付加する表面処理が施されていないものであり、溶融シリカ、球状シリカ、無定形シリカ、結晶性シリカ等がある。
上記グリコール系化合物としては、例えば、ポリアルキレングリコールまたはその誘導体(ポリアルキレングリコール型非イオン界面活性剤等)といったポリアルキレングリコール系化合物が使用できる。ポリアルキレングリコールは、ポリオキシアルキレングリコールを含む概念であり、アルコール類にアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等)を付加重合によって得られるオリゴマーであり、例えば、ジオール型のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が使用される。
【0011】
請求項2の発明の構造用接着剤組成物の前記グリコール系化合物は、ポリアルキレングリコール系化合物であるものである。
【0012】
請求項3の発明の構造用接着剤組成物は、更に、エラストマ成分を含有したものである。
上記エラストマ成分は、ゴム成分を含む概念であり、液状または固形ゴム(ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム)、ウレタンエラストマ、コアシェル型ゴム粒子等が使用でき、予めエポキシ樹脂に取り込ませているものであってもよい。
【0013】
請求項4の発明の構造用接着剤組成物の前記エラストマ成分は、コアシェル型ゴム粒子である。
上記コアシェル型ゴム粒子(CSR粒子)は、ゴム状コア層及びこのゴム状コア層を覆うシェル層を有する粒状材料であり、コア層がゴム成分を有し、かつ、そのゴム状コア層の外側を覆うシェル層がゴム弾性を示さない非弾性ポリマー材料から構成されるものであれば、それらを形成する材料は特に問われない。これらコア層またはシェル層、もしくはコア層とシェル層はともに架橋されていてもよく(例えば、イオン的または共有結合的に)、シェル層はコア層にグラフトされていてもよい。
【0014】
請求項5の発明の構造用接着剤組成物の前記親水性シリカの配合量は、前記エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは、3質量部以上、25質量部以下、より好ましくは、5質量部以上、20質量部以下、更に好ましくは、5質量部以上、15質量部以下の範囲内である。
【0015】
請求項6の発明の構造用接着剤組成物の前記グリコール系化合物の配合量は、前記エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは、1質量部以上、8質量部以下、より好ましくは、1質量部以上、6質量部以下、更に好ましくは、2質量部以上、5質量部以下の範囲内である。
【0016】
請求項7の発明の構造用接着剤組成物の前記親水性シリカの配合量は、組成物全体を100質量部に対し、好ましくは、1質量部以上、8質量部以下、より好ましくは、1質量部以上、6質量部以下、更に好ましくは、2質量部以上、5質量部以下の範囲内である。
【0017】
請求項8の発明の構造用接着剤組成物の前記グリコール系化合物の配合量は、組成物全体を100質量部に対し、好ましくは、0.5質量部以上、6質量部以下、より好ましくは、0.5質量部以上、5質量部以下、更に好ましくは、0.6質量部以上、5質量部以下の範囲内である。
【0018】
請求項9の発明の構造用接着剤組成物の前記グリコール系化合物は、前記親水性シリカ100質量部に対し、好ましくは、10質量部以上、50質量部以下、より好ましくは、15質量部以上、45質量部以下、更に好ましくは、20質量部以上、40質量部以下の範囲内の配合である。
なお、上記数値は、厳格なものでなく概ねであり、当然、測定等による誤差を含む概略値であり、数割の誤差を否定するものではない。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明に係る構造用接着剤組成物によれば、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂に対する硬化剤を基本組成としたエポキシ樹脂系の構造用接着剤組成物中に親水性シリカとポリアルキレングリコール等のグリコール系化合物とを必須成分として含有したことにより、粘度の温度依存性を小さくすることができる。よって、未硬化状態において、40℃付近の雰囲気条件下で行われる洗浄時の流水圧で飛散、変形(位置ずれ)、流出(脱落)等し難い高粘度としても、粘度の温度依存性が小さいことで、常温における粘度上昇が低く抑えられ常温における塗布作業性を確保できる。即ち、常温での塗布作業性と、未硬化状態での洗浄工程での耐流水圧性(耐シャワー性)との両立を可能とする。
【0020】
請求項2の発明に係る構造用接着剤組成物によれば、前記グリコール系化合物は、ポリアルキレングリコール系化合物であるから、エポキシ樹脂との相溶性がよいことで、請求項1に記載の効果に加えて、分散不良を生じることなく均質な塗膜を形成できる。
【0021】
請求項3の発明に係る構造用接着剤組成物によれば、更に、エラストマ成分を含有したことにより、エポキシ樹脂から形成される塗膜に柔軟性を付与できるから、請求項1に記載の効果に加えて、塗膜の強靭性を向上させることができる。
【0022】
請求項4の発明に係る構造用接着剤組成物によれば、エラストマ成分は、コアシェル型ゴム粒子であるから、エポキシ樹脂と相溶することがなく、請求項3に記載の効果に加えて、エポキシ樹脂の耐熱性等の特性を低下させることなく、塗膜の強靭性を向上させること可能である。
【0023】
請求項5の発明に係る構造用接着剤組成物によれば、親水性シリカは、好ましくは、エポキシ樹脂100質量部に対し、3~25質量部の範囲内の配合である。
ここで、親水性シリカが多すぎる場合には、分散性が低下することにより塗布作業性が低下し、一方で、親水性シリカが少なすぎる場合には、構造粘性付与の効果が得られないことにより、粘度の温度依存性の低減効果が十分に得られない。
親水性シリカの配合量がエポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは、3~25質量部の範囲内であれば、請求項1に記載の効果に加えて、塗布作業性を確保しつつ、温度依存性を小さくできる。より好ましくは、親水性シリカの配合量がエポキシ樹脂100質量部に対し、5~20質量部、更に好ましくは、5~15質量部の範囲内である。
【0024】
請求項6の発明に係る構造用接着剤組成物によれば、グリコール系化合物は、好ましくは、エポキシ樹脂100質量部に対し、1~8質量部の範囲内の配合である。
ここで、グリコール系化合物が多すぎる場合には、材料粘度が低粘度化することにより、垂れ性が低下したりする一方で、グリコール系化合物が少なすぎる場合には、構造粘性付与の効果が得られないことにより、粘度の温度依存性の低減効果が十分に得られない。
グリコール系化合物の配合量がエポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは、1~8質量部の範囲内であれば、請求項1に記載の効果に加えて、垂れ性を確保しつつ、温度依存性を小さくできる。より好ましくは、グリコール系化合物の配合量がエポキシ樹脂100質量部に対し、1~6質量部、更に好ましくは、2~5質量部の範囲内である。
【0025】
請求項7の発明に係る構造用接着剤組成物によれば、親水性シリカは、好ましくは、構造用接着剤組成物100質量部に対し、1~8質量部の範囲内の配合である。
ここで、親水性シリカが多すぎる場合には、分散性が低下することにより塗布作業性が低下し、一方で、親水性シリカが少なすぎる場合には、構造粘性付与の効果が得られないことにより、粘度の温度依存性の低減効果が十分に得られない。
親水性シリカの配合量が構造用接着剤組成物100質量部に対し、好ましくは、1~8質量部の範囲内であれば、請求項1に記載の効果に加えて、塗布作業性を確保しつつ、温度依存性を小さくできる。より好ましくは、親水性シリカの配合量が構造用接着剤組成物100質量部に対し、1~6質量部、更に好ましくは、2~5質量部の範囲内である。
【0026】
請求項8の発明に係る構造用接着剤組成物によれば、グリコール系化合物は、好ましくは、構造用接着剤組成物100質量部に対し、0.5~6質量部の範囲内の配合である。
ここで、グリコール系化合物が多すぎる場合には、材料粘度が低粘度化することにより、垂れ性が低下したりする一方で、グリコール系化合物が少なすぎる場合には、構造粘性付与の効果が得られないことより、粘度の温度依存性の低減効果が十分に得られない。
グリコール系化合物の配合量が構造用接着剤組成物100質量部に対し、好ましくは、0.5~6質量部の範囲内であれば、請求項1に記載の効果に加えて、垂れ性を確保しつつ、温度依存性を小さくできる。より好ましくは、グリコール系化合物の配合量が構造用接着剤組成物100質量部に対し、0.5~5質量部、更に好ましくは、0.6~5質量部の範囲内である。
【0027】
請求項9の発明に係る構造用接着剤組成物によれば、グリコール系化合物は、好ましくは、親水性シリカ100質量部に対し、10~50質量部の範囲内の配合である。
ここで、グリコール系化合物が親水性シリカに対し相対的に多すぎる場合には、組成物中のグリコール系化合物の含有量が多いことになるから、材料粘度が低粘度化し、耐垂れ性や耐流水圧性(耐シャワー性)が低下する一方で、グリコール系化合物が少なすぎる場合には、構造粘性付与の効果が得られないことにより、粘度の温度依存性の低減効果が十分に得られない。
グリコール系化合物の配合量が親水性シリカ100質量部に対し10~50質量部の範囲内であれば、請求項1に記載の効果に加えて、垂れ性や耐流水圧性(耐シャワー性)を確保しつつ、温度依存性を小さくできる。より好ましくは、グリコール系化合物の配合量が親水性シリカ100質量部に対し15~45質量、更に好ましくは、20~40質量部以下の範囲内である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る構造用接着剤組成物について説明する。
本実施の形態の構造用接着剤組成物は、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂に対する硬化剤を基本組成とした、即ち、分子中にエポキシ基(オキシラン環)を2個以上有するエポキシオリゴマーと活性水素や触媒作用を有する硬化剤成分を基本組成とした熱硬化性のエポキシ樹脂系の構造用接着剤組成物である。
そして、本実施の形態に係る構造用接着剤組成物においては、エポキシ樹脂と、硬化剤と、親水性シリカと、グリコール系化合物と、エラストマ成分としてのコアシェル型ゴム粒子と、反応性希釈剤と、充填材等を含有するものである。
【0029】
ここで、エポキシ樹脂としては、一般にエポキシ基を2個以上有する化合物であればよく、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型等のビスフェニル基を有するエポキシ化合物、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型等のエポキシ化合物、ナフタレン環を有するエポキシ化合物、フルオレン基を有するエポキシ化合物等の二官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂、多官能グリシジルエーテル、テトラフェニロールエタン型等の多官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ダイマー酸等の合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂、N,N,N′,N′-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N-ジグリシジルアニリン等のグリシジルアミノ基を有する芳香族エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、トリシクロデカン環を有するエポキシ化合物(例えば、ジシクロペンタジエンとm-クレゾールのようなクレゾール類またはフェノール類を重合させた後、エピクロルヒドリンを反応させる製造方法によって得られるエポキシ化合物)、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ソルビトール型エポキシ樹脂、ポリグリセロール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ジアリールスルホン型エポキシ樹脂、ペンタエリスリトール型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂等がある。これらの中でも組成物の粘度を調製しやすい汎用エポキシ樹脂であるビスフェノールA型、ビスフェノールF型が好ましい。なお、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等は、分子量に応じて液状のものから固形のものまでのものが使用できるが、常温で液状~半固形状のものが好ましく、特に、取扱性や常温での塗布作業性から常温で液状のものが好ましく使用される。常温で液状の汎用エポキシ樹脂は、通常、数平均分子量が300~1000程度である。また、エポキシ当量が、150~600g/eqの範囲内であるものが好ましく、より好ましくは、180~300g/eqの範囲内のものである。なお、エポキシ当量は1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数を意味する(単位:g/eq)。
【0030】
更に、エポキシ樹脂として、ウレタン変性エポキシ樹脂、ダイマー酸変性、ゴム変性等の変性エポキシ樹脂を用いることも可能である。ウレタン変性エポキシ樹脂としては、分子中にウレタン結合と2個以上のエポキシ基とを有する樹脂であれば、その構造が特に限定されるものではないが、ウレタン結合とエポキシ基とを効率的に1分子中に導入することができる点から、イソシアネート基を有するウレタン結合含有化合物とヒドロキシ基含有エポキシ化合物とを反応させて得られる樹脂であることが好ましい。ゴム変性エポキシ樹はエポキシ基を2個以上有し、骨格のゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブタジエン-アクリロニトリルゴム(CTBN)等がある。
エポキシ樹脂は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
なお、エポキシ樹脂は、5,000~30,000mPa・s/25℃の範囲内の粘度のものが好ましい。より好ましくは、10,000~20,000mPa・s/25℃の範囲内のものである。こうした範囲内であれば、塗布時に垂れが生じ難く、また、所望とする粘度特性の調製が容易にでき、洗浄工程の雰囲気温度条件(40℃付近)おける組成物の粘度を高粘度にできる。
【0031】
硬化剤としては、通常、エポキシ樹脂の硬化に用いられるもの、即ち、エポキシ基と反応する活性基を有するものであればよく、例えば、ジシアンジアミド、ポリアミノアミド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、2-n-ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、アジピン酸ジヒドラジド、ステアリン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、二塩基酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等の有機酸ヒドラジド系化合物、N,N-ジアルキル尿素誘導体やN,N-ジアルキルチオ尿素誘導体等の尿素系化合物、テトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物、セミカルバジド、シアノアセトアミド、ジアミノジフェニルメタン、脂肪族や芳香族の3級アミン、ポリアミン、イソホロンジアミン、m-フェニレンジアミン等のアミン系化合物、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール等のアミノトリアゾール、N-アミノエチルピペラジン、メラミン類、アセトグアナミンやベンゾグアナミン等のグアナミン類、グアニジン類、ジメチルウレア類、三フッ化ホウ素錯化合物、三塩化ホウ素錯化合物、ルイス酸錯体、ポリメルカプタン、トリスジメチルアミノメチルフェノール等の液状フェノール、ポリチオール、トリフェニルホスフィン、ケチミン化合物、スルホニウム塩、オニウム塩、フェノールノボラック樹脂等がある。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。中でも、配合の作業性等の観点から、ジシアンジアミド、イミダゾール化合物、有機酸ヒドラジド等の熱により活性化される分散型の潜在性硬化剤が好適である。より好ましくは、接着強度、保存安定性等の観点から、ジシアンジアミド(ポリエポキシド付加変性物、アミド化変性物、マンニッヒ化変性物、ミカエル付加変性物等の誘導体も含む)である。ジシアンジアミドであれば、熱によって硬化剤成分が溶解・活性化するものであり、160~180℃の温度条件でエポキシ樹脂を硬化できる。
なお、硬化剤の配合量は、例えば、ジシアンジアミド等のアミン類であれば、そのアミン当量とエポキシ当量を基に設定される。
例えば、硬化剤は、エポキシ樹脂の全体量100質量部に対し、1~20質量部、好ましくは、2~15質量部、より好ましくは、5~10質量部配合される。
【0032】
更に、本発明を実施する場合には、硬化時間の短縮や硬化温度を降下させてエポキシ樹脂と硬化剤との化学反応を促進させる硬化促進剤を配合してもよい。硬化促進剤としては、
例えば、ウレア系、イミダゾール系、アミン系、トリフェニルホスフィン等が使用できる。
このような硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂の全体量100質量部に対して、好ましくは、1~10質量部、より好ましくは、1~8質量部、更に好ましくは、1~5質量部の範囲内である。当該範囲内であれば、粘度特性や接着性を損なうことなく硬化促進効果が得られる。
【0033】
親水性シリカは、表面処理をしていない(表面のシラノール基を有機シラン化合物等で置換、カップリング処理したり、表面のシラノール基をアルキル基、カルボキシル基等の有機基で修飾(反応)したりしていない)シリカであり、例えば、非結晶性の乾式シリカ、具体的には微粒子状のフュームドシリカ(火炎法シリカ)が好適である。こうした親水性シリカの表面には、親水性のシラノール基(Si-OH)が存在する。好ましくは、レーザ回析・散乱法による平均一次粒径が5~40nmの範囲内、BET法による比表面積が50~450m2/g、より好ましくは、300~450m2/g、更に好ましくは、350~450m2/gの範囲内のものが使用される。
【0034】
グリコール系化合物としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリ(オキシ)アルキレングリコール等のグリコールや、グリコール誘導体(ポリアルキレングリコール型非イオン界面活性剤等)があり、好ましくは、ポリ(オキシ)アルキレングリコール系化合物である。
ポリ(オキシ)アルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール(分子式:H[OH2CH2]nOH)や、ポリプロピレングリコール(分子式:H[OCH3]nOH)等が使用でき、好ましくは、液体またはペースト状、より好ましくは、エポキシ樹脂との相溶性から、液体のものが使用される。ポリエチレングリコールとしては、平均分子量が、例えば、200~4,000の範囲内のものが使用され、好ましくは、200~2,000、より好ましくは、200~700の範囲内のものが使用される。ポリプロピレングリコールとしては、平均分子量が、例えば、400~3,000の範囲内のものが使用され、好ましくは、1,000~2,000の範囲内のものである。ポリアルキレングリコール系化合物としては、例えば、富士フィルム和光純薬(株)、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチ、ダウ・ケミカル、三洋化成工業(株)、ナカライテスク(株)製等のポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等を使用することができる。
【0035】
これら親水性シリカとグリコール系化合物との配合により、粒子状である親水性シリカの表面のシラノール基(Si-OH基)とグリコール系化合物の極性基(OH基や親水性基等)が相互作用(水素結合)して3次元の網目構造を形成し、高い構造粘性が付与される。このため、組成物粘度の温度依存性を小さくでき、洗浄工程における雰囲気温度(40℃付近)での粘度を高くしても、常温における粘度は低く抑えることができる。よって、常温での塗布作業性を損なうことなく、未硬化状態での耐流水圧性を向上させることが可能となる。
特に、ポリアルキレングリコール系化合物であれば、そのポリアルキル鎖がエポキシ樹脂に対して良好な相溶性がありエポキシ樹脂中で相分離しないから、エポキシ樹脂中で凝集することなく分散されることで塗布作業性を損なうことなく、シリカ-ポリアルキレングリコール-シリカといった水素結合による弱い3次元網目構造の構築による強い構造粘性を付与できる。即ち、ポリアルキレングリコール系化合物は、エポキシ樹脂に対して相溶性がある相溶部位(ポリアルキル鎖)と親水性シリカのシラノール基と相互作用する極性部位(水酸基等)を併せ持つことにより、親水性シリカとの相互作用による3次元網目構造を形成することができ、しかも、それらはエポキシ樹脂中で分散される。よって、塗膜の均質性を損なうことなく、高い構造粘性を付与できる。
【0036】
ここで、親水性シリカは、エポキシ樹脂の全体量100質量部に対し、3~25質量部の範囲内の配合が好ましく、より好ましくは、5~20質量部、更に好ましくは、5~15質量部の範囲内である。また、組成物全体100質量部に対しては、1~8質量部の配合が好ましく、より好ましくは、1~6質量部、更に好ましくは、2~5質量部の範囲内である。
親水性シリカが多すぎる場合には、分散性が低下することにより塗布作業性が低下したり、硬化物(接着剤)の接着強度が低下したりする。一方で、親水性シリカが少なすぎる場合には、構造粘性付与の効果が得られないことより、粘度の温度依存性の低減効果が十分に得られない。
上記範囲内であれば、塗布作業性を確保しつつ、グリコール系化合物との組み合わせにより構造粘性を付与でき、粘度の温度依存性を効果的に低減できる。
【0037】
また、グリコール系化合物は、エポキシ樹脂の全体量100質量部に対し、1~8質量部の範囲内の配合が好ましく、より好ましくは、1~6質量部、更に好ましくは、2~5質量部である。また、組成物全体100質量部に対しては、0.5~6質量部の配合が好ましく、より好ましくは、0.5~5質量部、更に好ましくは、0.6~5質量部の範囲内である。更に、親水性シリカ100質量部に対しては、10~50質量部の配合が好ましく、より好ましくは、15~45質量部、更に好ましくは、20~40質量部の範囲内である。
グリコール系化合物が多すぎる場合には、材料粘度が低粘度化することにより、垂れ性や耐流水圧性(耐シャワー性)が低下したりする一方で、グリコール系化合物が少なすぎる場合には、構造粘性付与の効果が得られないことより、粘度の温度依存性の効果が十分に得られない。
上記範囲内であれば、垂れ性を確保しつつ、親水性シリカとの組み合わせにより十分な構造粘性を付与でき、粘度の温度依存性を効果的に低減できる。
【0038】
また、グリコール系化合物は、親水性シリカ100質量部に対し、10~50質量部の範囲内の配合が好ましく、より好ましくは、20~40質量部の範囲内である。
グリコール系化合物が親水性シリカに対し相対的に多すぎる場合には、組成物中のグリコール系化合物の含有量が多いことになるから、材料粘度が低粘度化し、垂れ性が低下する一方で、グリコール系化合物が少なすぎる場合には、構造粘性付与の効果が得られないことより、粘度の温度依存性の低減効果が十分に得られない。
上記範囲内であれば、垂れ性を確保しつつ、十分な構造粘性を付与でき、粘度の温度依存性を効果的に低減できる。
【0039】
更に、本実施の形態の構造用接着剤組成物においては、コアシェル型ゴム粒子が配合される。コアシェル型ゴム粒子の配合によってエポキシ樹脂に柔軟性を付与できることにより、接着剤硬化物の剥離強さや剪断強さを向上して強靭化できる。即ち、コアシェル型ゴム粒子の配合により接着剤硬化物に生じる応力を緩和させることができ、接着剤硬化物の耐久性を向上させることができる。
【0040】
ここで、コアシェル型ゴム粒子(Core-shell rubber:CSR)とは、ゴム状コア層及びシェル層の少なくとも2層を有する構造からなる粒状のものである。
コアシェル型ゴム粒子(以下、単に「CSR」と略す場合もある)のコア層は、CSRの内側部分を意味し、CSRの内部のドメインを形成し得るものでありゴム状ポリマーが配されたものである。このコア層としては、ゴム状物質であればよく、典型的には、ブタジエン、アクリル、シリコーン等を主成分とする架橋ゴム、つまり、エラストマであり、例えば、共役ジエン及び/または低級アルキルアクリレートが重合してなるポリマーや、これらと共重合可能なモノマーとが共重合したコポリマーや、ポリシロキサンゴム等からなることが好ましく、更に、エポキシ樹脂に不溶であることが好ましい。
【0041】
共役ジエンとしてはブタジエン、イソプレン、クロロプレン等を挙げることができ、中でも、安価に入手でき、得られる重合体のゴムとしての性質が良好で重合が容易である点から、ブタジエンが特に好ましい。
低級アルキルアクリレートとしては、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等を挙げることができ、中でも、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートは、得られる重合体のゴムとしての性質が良好で、重合が容易である点から、特に好ましい。
共役ジエンまたはアルキルアクリレートと共重合可能なモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル、芳香族ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル・シアン化ビニリデン、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルメタアクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、塩化ビニル等が挙げられる。
【0042】
また、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等の官能基を持ったモノマーを共重合させることもできる。例えば、エポキシ基を持つモノマーとしては、グリシジルメタクリレート等が挙げられ、カルボキシル基を持つモノマーとしては、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられ、水酸基を持つモノマーとしては、2-ヒドロキシメタクリレート、2-ヒドロキシアクリレート等が挙げられる。
【0043】
更に、コアを構成する成分として、ジビニルベンゼン、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、(イソ)シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル、イタコン酸ジアリル、フタル酸ジアリル等の架橋性モノマー(多官能性モノマー)や、マレイン酸ジアリル、フマール酸モノアリル、メタクリル酸アリル等の反応性の等しくない2つ以上の不飽和部位を有し反応部位の少なくとも1つは非共役であるグラフト用モノマーを用いることもできる。このような架橋性モノマーまたはグラフト用モノマーを少量、好ましくは、コアシェル型ゴム粒子全体の10重量%以下で用いた場合には、層間の結合が得られ、加熱時においても粒子が変形し難いものとなる。更に、共役ジエンまたはアルキルアクリレートと共重合可能なモノマーとして、シリコーンゴムを用いることも可能である。
加えて、このような共役ジエンまたはアルキルアクリレートと共重合可能なモノマーに代えて、または、それらモノマーと併用して、ジメチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、ジフェニルシリルオキシ等のアルキル或いはアリル2置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサンゴムを使用することもできる。このようなポリシロキサンゴムを使用する場合には、必要に応じて、重合時に多官能性のアルコキシシラン化合物を一部併用するか、ビニル反応性基を持ったシラン化合物をラジカル反応させること等により、予めポリシロキサンに架橋構造を導入しておくことが好ましい。
なお、ゴム状のコア層は、ガラス転移点(Tg)が-20℃以下の物質であることが好ましい。低温での弾性率を下げ、剥離強度を上げることができるからである。因みに、ガラス転移点(Tg)とは、動的な粘弾性測定におけるtanδのピーク値の温度をいう。
【0044】
一方、CSRのシェル層は、コアの外側部分に形成されたものであり、通常は、CSRの最外部を形成し、エポキシ樹脂に対する親和性(相溶性)を有している。このシェル層を構成する物質はゴム弾性を示さない材料であれば特に限定されないが、例えば、アクリル系共重合体、具体的には、メチルメタクリレートおよび/またはスチレンのモノマーが重合してなるポリマー、またはこれらと共重合可能なモノマーとが共重合したコポリマーからなることが好ましい。これらは、安価に入手でき、また、良好なグラフト重合性とエポキシ樹脂に対する親和性の双方を可能にでき、広範囲の温度で接着強度が良好である。
【0045】
メチルメタクリレートまたはスチレンと共重合可能なモノマーとしては、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアルキルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、モノクロルスチレン、3,4-ジクロロスチレン、ブロモスチレン等の芳香族ビニル、芳香族ビニリデン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、シアン化ビニリデン等のビニル重合性モノマーを挙げることができる。中でもエチルアクリレートまたはアクリロニトリルが好ましい。
更に、メチルメタクリレートまたはスチレンと共重合可能なモノマーとして、エポキシ基および/またはエポキシ基と反応する官能基、例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等の官能基を持ったモノマーを共重合させることによって、シェル層表面をエポキシ基および/またはエポキシ基と反応する官能基で修飾することも可能である。例えば、エポキシ基を持つモノマーとしては、グリシジルメタクリレート等が挙げられ、カルボキシル基を持つモノマーとしては、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられ、水酸基を持つモノマーとしては、2-ヒドロキシメタクリレート、2-ヒドロキシアクリレート等が挙げられる。
【0046】
なお、シェル層のエポキシ樹脂硬化時における化学反応性を求める場合には、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、エポキシアルキル(メタ)アクリレート等の反応性側鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル類、エポキシアルキルビニルエーテル、(メタ)アクリルアミド(N-置換物を含む)、α,β-不飽和酸、α,β-不飽和酸無水物、及びマレイミド誘導体等からなるモノマー群より選ばれる1種以上の成分を共重合して得られる共重合体がより好ましい。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸無水物、マレイン酸イミド等をそれぞれ例示することができる。また、エポキシ樹脂や硬化剤と反応する反応基、例えば、グリシジルメタクリレート等のモノマーによって提供されるグリシジル基等をシェル層中に含有させることによって反応性を高めることも可能である。
【0047】
更に、シェル層は、コア層にグラフト及び/または架橋されていることが好ましく、メチルメタクリレートまたはスチレンと共重合可能なモノマーとして、架橋性モノマーまたはグラフト用モノマーを10重量%以下で用いることも可能である。層間の結合が得られ、加熱時においても粒子が変形し難いからである。この架橋性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン等の芳香族ジビニル化合物、ヘキサンジオールジアクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ノルボルネンジメチロールジメタクリレート等のアルカンポリオールポリアクリレート等を挙げることができ、グラフト用モノマーとしては、例えば、アリルメタクリレート等の不飽和カルボン酸アリルエステル等を挙げることができる。
なお、シェル層は、ガラス転移点(Tg)が50℃以上の物質であることが好ましい。高温下で高い接着強度が得られるからである。
【0048】
このようなCSRは、その製造方法について特に問われるものではなく、市販の製品を使用することが可能である。また、CSRは粉末状の形態で添加してもよいし、エポキシ樹脂にCSRを配合・分散(例えば、10~60wt%、好ましくは、25~40wt%の濃度)したマスターバッチ形態で添加するものであってもよい。
【0049】
CSRは、エポキシ樹脂100質量部に対し、3~20質量部の配合が好ましい。より好ましくは、3~15質量部、更に好ましくは、5~10質量部の範囲内である。
CSRの配合量が多すぎる場合には、分散性が低下して塗布作業性が低下する一方、少なすぎる場合には、硬化物(接着剤)を十分に強靭化できない。
上記範囲内であれば、塗布作業性を確保しつつ、接着剤硬化物の接着強度を高くできる。
【0050】
なお、CSRの好ましいコア/シェルの比率(重量比)は、50/50~95/5の範囲であり、より好ましくは60/40~90/10の範囲内である。コア/シェルの比率(重量比)が50/50を越えてコア層の比率が低下すると、組成物の粘性が低下する可能性があり、一方で、95/5を越えてシェル層の比率が低下すると、一次粒子が得られ難くなり取扱性が低下し、安定的な物性が得られない可能性がある。
また、CSRは、レーザ回折・散乱法によって測定した一次平均粒径が50nm~1000nmの範囲内であるものが好ましい。平均粒径が小さすぎるものは、凝集して粘度が高くなり取扱性が悪くなり、平均粒径が大きすぎるものでは、硬化物(接着剤)を十分に強靭化できない。上記範囲内であれば、取扱性や塗布作業性等を損なうことなく、硬化物の強靭性向上効果が得られる。
【0051】
更に、本実施の形態に係る構造用接着剤組成物においては、反応性希釈剤が配合される。反応性希釈剤としては、エポキシ基を有するエポキシ系希釈剤、即ち、分子中にエポキシ基を1つ有するモノエポキサイドが使用され、硬化時の化学反応によって分子中に組み込まれるものである。具体的には、単官能型のn-ブタノールグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、テトラヒドロフルフリルグリシジルエーテル、フルフリルグリシジルエーテル、トリメトキシシリルグリシジルエーテル、その他高級アルコール系グリシジルエーテル、メタアクリル酸グリシジルエステル等や、多官能型の1,4-ブタンジオール・ジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオール・ジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン・トリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール・ジグリシジルエーテル、ダイマー酸・ジグリシジルエステル等が使用できる。
こうした反応性希釈剤の配合によって、粘度を調節することができる。
【0052】
なお、反応性希釈剤は、エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは、5質量部~30質量部、より好ましくは、8質量部~25質量部、更に好ましくは、10質量部~20質量部の範囲内で配合される。上記範囲内であれば、垂れ性を損なうことなく、粘度調整効果が得られる。
【0053】
更に、本実施の形態に係る構造用接着剤組成物においては、充填材が配合される。充填剤としては、重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、タルク、マグネシア、ケイ酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、アルミナ、ジルコン、グラファイト、硫酸バリウム、クレー、マイカ、カオリン、ウォラストナイト、雲母、長石、閃長石(シエナイト)、緑泥石(クロライト)、ベントナイト、モンモリロナイト、バライト、ドロマイト、石英、珪藻土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、織物繊維、ガラス繊維、アラミドパルプ、ホウ素繊維、炭素繊維、リン酸塩、結晶シリカ、非晶シリカ、溶融シリカ、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕(微粉末)シリカ等のシリカ、ろう石、ケイ砂、クリストバライト、セルロース、セメント、ポリエチレン等の樹脂粉末、酸化カルシウム、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、二酸化チタン、中空セラミックビーズ、中空ガラスビーズ等の中空無機ビーズ、ポリエステル樹脂等による中空有機ビーズ、ガラスビーズ、銀粉、金属粉末、瀝青物質等が例示できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、分散性等の点から炭酸カルシウム、殊に、重質炭酸カルシウム等が好適である。
こうした充填材の配合によって、機械的強度の向上、粘性の調整、硬化収縮の低減等の向上を図ることが可能である。
【0054】
なお、充填剤は、エポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは、5~100質量部、より好ましくは、10~95質量部の範囲内、更に好ましくは、20~95質量部の範囲内で配合される。上記範囲内であれば、塗布作業性や接着強度を損なうことなく、強度の向上、硬化収縮の低減等を図ることができる。
充填剤が粒子状の物である場合、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒径が、好ましくは、0.05~500μmの範囲内、より好ましくは、0.1~50μm、より好ましくは、1μm~10μmであるものが好ましい。上記範囲内であれば、分散性等の取扱性、塗布作業性等を損なうことなく、強度の向上、硬化収縮の低減等を図ることができる。
【0055】
また、本実施の形態においては、フュームドシリカ等の固体状の親水性シリカや液体状のグリコール系化合物が粘度調整(増粘)やチキソトロピー付与(揺変性付与)の機能を有するが、取扱性、塗布作業性、垂れ防止、滑らかな塗布性等の観点から粘度調整(増粘)やチキソトロピー付与(揺変性付与)向上のために、例えば、疎水性シリカ、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、コロイダル炭酸カルシウム(微粒炭酸カルシウム)、セピオライト等のチキソ剤(チキソトロピー性付与剤、揺変性付与剤)を配合することも可能である。これら固体のチキソ剤は1種または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
なお、こうした固体のチキソ剤は、エポキシ樹脂100質量部に対して、3~20質量部の範囲内の配合が好ましい。より好ましくは、5~20質量部、更に好ましくは、5~15質量部の範囲内である。上記範囲内であれば、接着強度を損なうことなく、取扱性、塗布作業性、垂れ防止、滑らかな塗布性等の向上を可能とする。
また、チキソ剤は、レーザ回折・散乱法によって測定した平均粒径が0.01~0.1μmの範囲内にある固体粒子を用いること好ましい。上記範囲内であれば、接着強度を損なうことなく、取扱性、塗布作業性、垂れ防止、滑らかな塗布性等の向上を可能とする。
【0057】
本発明を実施する場合には、更に必要に応じて、各種の添加剤、例えば、可撓性付与剤としてブロックイソシアネート等や、接着性を改良する接着性改良剤としてアクリル樹脂を配合することも可能である。その他にも、顔料、染料、着色剤、消泡剤、レベリング剤、粘着付与剤(接着付与剤)、難燃剤、触媒、可塑剤、反応遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、カップリング剤、帯電防止剤、導電性付与剤、潤滑剤、摺動性付与剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、分散剤、分散安定剤、脱水剤、架橋剤、防錆剤、溶剤等を配合することも可能である。
【0058】
そして、本実施の形態に係る構造用接着剤組成物は、これら配合成分を公知の混合分散機或いは混練機、例えば、プラネタリーミキサー、ディスパー(ディゾルパー)、ヘンシェルミキサー、ニーダー、ロールミル、ホモジナイザー、インターミキサー、ニーダー、ロール等で均質に混合攪拌することによって作製される。
【0059】
このようにして作製した本実施の形態に係る構造用接着剤組成物は、公知の方法、例えば、ポンプ等を使用したスプレ、ガン、刷毛塗り等の方法で接合対象物に塗布される。接合対象物が車体の場合には、車体工程等において、ポンプ等を使用したスプレ、ガン等の方法で車体の接合個所に塗布される。
特に、本実施の形態の構造用接着剤組成物においては、親水性シリカと、グリコール系化合物を必須成分として含んだことにより、それらが相互作用して3次元網目構造を構築して構造粘性を付与することで、粘度の温度依存性を小さくできる。よって、洗浄工程時の雰囲気温度(40℃付近)における流水圧によって飛散、流出、変形等し難い高粘度に設定しても、剪断力のかかる塗布時においては常温(室温)で塗布に適した粘度となり、ポンプ等による塗布の際の吐出性も良く、良好な塗布作業性が得られる。
【0060】
そして、車体工程で構造用接着剤組成物が塗布された車体は、次の電着塗装工程にて洗浄処理が施されるが、本実施の形態の構造用接着剤組成物によれば、未硬化状態であっても、親水性シリカとグリコール系化合物の組合わせで構造粘性が付与されることにより、塗布後は粘度が上昇し、洗浄処理の流水圧を受けても飛散、流出、変形等し難いものとなる。
構造用接着剤組成物が塗布され塗装工程で洗浄処理が施された後の車体は、更に、電着塗装が施され、その後、塗装乾燥炉で焼付け処理(例えば、約160℃~215℃の温度で約20分~60分間)される。このとき車体に塗布されている構造用接着剤組成物は、電着塗膜の焼付けと同時に加熱硬化される。そして、本実施の形態の構造用接着剤組成物においては、エラストマ成分としてのコアシェル型ゴム粒子の配合によって、硬化後の接着剤硬化物は強靭性が発揮され、良好な接着強度が得られる。特に、本実施の形態においては、エラストマ成分がコアシェル型ゴム粒子であるため、ゴム粒子のエラストマ成分(ゴム成分)が硬化後のエポキシ樹脂相に溶解残存し難いため、エラストマ成分がエポキシ樹脂相に溶解残存することで生じるエポキシ樹脂の物性(耐熱性、弾性率等)の低下もなく、接着剤硬化物の所望とする特性の設計が容易である。
【0061】
このようにエポキシ樹脂及び硬化剤を基本組成とし、親水性シリカと、グリコール系化合物とを必須成分として含んだ本実施の形態の構造用接着剤組成物によれば、粘度の温度依存性(感温性)を小さくでき、洗浄工程時の雰囲気温度(40℃付近)で流水圧によって飛散、流出、変形等し難い高粘度に設定しても、剪断力のかかる塗布時においては常温(室温)で塗布に適した粘度にすることができる。
これは、上述したように、親水性シリカとグリコール系化合物の配合により、親水性シリカの表面のシラノール基(Si-OH基)とグリコール系化合物の極性基との間で水素結合による3次元網目構造が形成され、それにより、高い構造粘性が付与されるからである。
即ち、本実施の形態の構造用接着剤組成物においては、親水性シリカとグリコール系化合物の配合によって構造粘性が付与されることにより、粘度の温度依存性が小さく、洗浄時の雰囲気温度(40℃付近)における粘度を高粘度としても、剪断力のかかる塗布時においては粘度を低くすることができ、常温(室温)での塗布に適した粘度、即ち、常温でも塗布時に所定の吐出圧で吐出不良を生じることのない適度な粘度となる。したがって、常温での塗布作業性と、未硬化状態での耐流水圧性(耐シャワー性)とを両立できる。
【0062】
特に、親水性シリカとグリコール系化合物の組み合わせにより、構造粘性を付与するものでは、それらがエポキシ樹脂と反応するものでないことから、エポキシ樹脂の架橋、硬化を阻害することはなく、洗浄時の雰囲気温度(40℃付近)における粘度を高めることが可能となる。よって、未硬化状態での耐流水圧性の向上が可能である。このため、広範囲での接着面を確保するために、所望とする接合部位から食み出すように構造用接着剤組成物を塗布したとしても、その余剰部分が洗浄時の流水圧によってもより一層飛散、流出、変形等し難いものにできる。そして、エポキシ樹脂の物性(耐熱性、弾性率等)を低下させることなく、常温での塗布作業性と、未硬化状態での耐流水圧性(耐シャワー性)とを両立できる。
【0063】
こうして、本実施の形態の構造用接着剤組成物によれば、親水性シリカとグリコール系化合物の配合で構造粘性が付与されることで、未硬化の状態でも、塗布後に車体洗浄工程で40℃付近の雰囲気下で流水圧に耐え流水圧による飛散、流出、変形等を防止できる高粘度としても、剪断力のかかる塗布時においては常温(室温)で塗布に適した粘度となるものである。
【0064】
好ましくは、本実施の形態の構造用接着剤組成物は、JIS-K2220に基づき剪断速度が15.5/sの条件で測定される40℃における粘度(見かけ粘度)が110Pa・s以上、300Pa・s以下となるように上述した各材料を混合して調製される。当該範囲内であれば、未硬化状態でも洗浄工程における流水圧による飛散、流出、変形等を効果的に防止することが可能である。より好ましくは、110Pa・s以上、250Pa・s以下である。
【0065】
そして、本実施の形態の構造用接着剤組成物は、このようにJIS-K2220に基づき剪断速度が15.5/sの条件で測定される40℃における粘度が110Pa・s以上、300Pa・s以下となるように高粘度化しても、親水性シリカとグリコール系化合物の組み合わせにより構造粘性が付与されることで、40℃における粘度に対する20℃における粘度の比の値を3.0以下とする。また、チキソトロピックインデクス(Thixotropic index:Ti値)としての、剪断速度が62/sの条件(40℃)で測定される粘度に対する、剪断速度が15.5/sの条件(40℃)で測定される粘度の比の値を、2.5以上とする。これより、常温でも塗布時の塗布装置からの吐出性が良く良好な塗布作業性を有し、かつ、未硬化状態でも流水圧による飛散、流出、変形等を防止できるものである。
【0066】
このように、本実施の形態の構造用接着剤組成物では、40℃における粘度を高粘度化し未硬化状態での流水圧による飛散、流出、変形等を防止できるものとしても、剪断力のかかる塗布時では粘度が低く、塗布時に組成物を加熱しなくとも、常温で塗布時の吐出装置からの吐出性が良く、塗布作業性を確保できるものである。このため、塗布や予備硬化(硬化)のための加温設備、プレヒート設備を不要とし、既存の設備を使用した塗布が可能で、設備費用を抑えることができ、また、塗布時の加熱作業や、予備加熱作業及び加熱後の冷却作業等の煩雑な工程が不要であり、コストや工数の増大を招くこともなく時間と手間を要さない。更に、予備加熱で疑似硬化させた場合には、エポキシ樹脂が発泡しやすい傾向にあるが、そのような予備加熱を必要としないことで、内部の発泡による接着強度の低下の懸念もない。
【0067】
そして、構造粘性を付与できる親水性シリカ及びグリコール系化合物は、安価に入手できる材料であるから、低コストで、常温での塗布作業性と、未硬化状態での耐流水圧性(耐シャワー性)とを両立できる。
【0068】
ここで、本発明の実施の形態に係る構造用接着剤組成物の実施例を説明する。
本実施例に係る構造用接着剤組成物は、表1に示す配合組成で作製した。なお、表1における配合量の単位は質量部である。
【0069】
【0070】
表1に示したように、本実施例に係る構造用接着剤組成物は、常温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂(汎用エポキシ樹脂)と、コアシェル型ゴム粒子が分散されたエポキシ樹脂(ゴム成分:PBR、CSR配合量:33%、エポキシ樹脂:ビスフェノールA型、エポキシ当量:270g/eq)と、硬化剤としてのジシアンジアミドと、硬化促進剤としてのウレアと、親水性シリカと、ポリアルキレングリコール系化合物である液状のポリエチレングリコール(平均分子量200)及び/または液状のポリプロピレングリコール(平均分子量2000)と、可撓性付与材としてのブロックイソシアネート(ブロックウレタン樹脂)と、反応性希釈剤としての単官能反応型グリシジルエーテルと、充填剤としての重質炭酸カルシウム(疎水性)と、チキソ剤としてのコロイダル炭酸カルシウムと、吸湿剤としての酸化カルシウムとを配合したものである。
【0071】
即ち、本実施例では、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用し、エポキシ樹脂の硬化剤としてのジシアンジアミドを使用し、その硬化促進剤としてウレアを使用し、エラストマ成分としてコアシェル型のPBR粒子を使用し、親水性シリカとしてフュームドシリカを使用し、液状のポリアルキレングリコールとしてポリエチレングリコール及び/またはポリプロピレングリコールを使用し、可撓性付与材としてブロックイソシアネート(ブロックウレタン樹脂)を使用し、反応性希釈剤として単官能反応型グリシジルエーテルを使用し、チキソ剤として重質炭酸カルシウムを使用し、吸湿剤としての酸化カルシウムを使用した。
【0072】
本実施例の構造用接着剤組成物は、表1に示した配合量で各種材料を配合し、室温下で高速ミキサを用いて混合することで作製した。なお、表1に示したように、実施例1乃至実施例3では、ポリアルキレングリコールの配合内容が相違するも、それ以外の配合材料は配合量を統一したものである。
また、比較のために、比較例1に係る組成物も作製した。表1に比較例1の配合内容を示した通り、比較例1はポリアルキレングリコールを配合することなく、その他は実施例と同じ配合材料で作製したものである。
【0073】
ここで、これら各配合で作製した実施例及び比較例の組成物について、塗布時の吐出性及び耐流水圧性を評価するために材料粘度を測定し、また、接着強度を評価するために剥離強度を測定した。
材料粘度については、レオメータを使用し、治具としてφ5mmパラレルプレートを使用し、剪断速度15.5s-1、62s-1の条件、温度20℃、40℃の条件のときの粘度(詳細には、粘度が安定した11秒後の粘度)を測定した。
また、材料粘度の各種測定値から、温度依存性の指標としての粘度-温度の特性値及びチキソトロピックインデックス(Thixotropic index:Ti値)を求めた。
温度依存性の指標である粘度-温度の特性値は、剪断速度15.5s-1での測定における20℃の材料粘度を、剪断速度15.5s-1での測定における40℃の材料粘度で除した値、即ち、40℃における粘度に対する20℃における粘度の比である。
Ti値は、40℃の温度条件における剪断速度15.5s-1で測定した材料粘度を40℃の温度条件における剪断速度62s-1で測定した材料粘度で除した値である。即ち、剪断速度62s-1における粘度に対する剪断速度15.5s-1における粘度の比である。
【0074】
そして、塗布時の吐出性については、温度依存性及びTi値を指標に評価し、また、耐流水圧性については40℃における粘度及びTi値を指標に評価した。
温度依存性の特性値(剪断速度15.5s-1での測定における20℃の材料粘度/40℃の材料粘度)が小さいほど、40℃における粘度と20℃における粘度の差が小さくて温度依存性が小さいものとなる。よって、雰囲気温度が40℃付近とされる洗浄工程における耐流水圧性の確保のために40℃付近における粘度特性を高く設定しても、常温塗布で粘度が高くなりすぎず、ポンプ等による塗布の際の吐出性を良好にできる。そこで、この特性値が3.0以下であれば、吐出性が良好であると判断して〇と評価し、3.0を超えるものは×と評価した。
【0075】
また、Ti値が大きいほど、構造粘性があり、外力が加わる塗布時には吐出性が良好で塗りやすい一方、塗った後は粘度が上昇し、耐流水圧性を良好できる。そこで、このTi値が2.5以上であれば、吐出性が良好で、かつ、耐流水圧性が良好であると判断して〇と評価し、2.5以下を×と評価した。
更に、40℃における粘度が高いほど、耐流水圧性が良いことから、40℃における粘度が100Pa・s以上であれば、耐流水圧性が良好であると判断して〇と評価し、100Pa・S未満ものは×と評価した。
【0076】
更に、接着性の評価として剥離強度の評価試験も行った。
剥離強度は、JIS K6854に準拠し、T型剥離接着強さ(90°剥離試験による剥離強度)を測定した。試験片は、200mm×25mm×0.8mmのSPCC-SD鋼板を長さ150mmで90°に折り曲げたものを2枚用い、脱脂処理後に、長さ50mmの部位に接着剤組成物を塗布して接合し、170℃で20分間加熱して接着剤組成物を硬化させることで作製した。なお、試験品の接着剤組成物の厚みは0.15mmとした。このように作製した試験品を引張試験機(島津製作所製オートグラフ)にセットし、温度20℃、引張速度200mm/minの条件で引張り、剥離強度(N)を測定した。このときの剥離強度が100N/25mm以上であれば構造用接着剤に求められる剥離強度としては十分な強さであることから、剥離強度が100N/25mm以上であれば〇と評価した。
【0077】
以上の評価試験の全てが〇の評価であれば、吐出性、耐流水圧性、接着性の何れも良好であるとして合格(〇または◎)と判定し、一つでも×の評価があったものは不合格(×)とした。特に、吐出性及び耐流水圧性に優れるものには◎と判定した。
【0078】
表1に示したように、実施例1乃至実施例3では、何れも、40℃における粘度が100Pa・s以上の高粘度であり、また、Ti値が2.5以上であることから、自動車等の車両製造ライン工程において車体の構造用接着剤として鋼板等への塗布後の洗浄工程時の約40℃の雰囲気温度下では高粘度特性を示す一方、40℃粘度に対する20℃粘度の粘度比が3.0以下であるから温度変化に対する粘度変動が抑えられて温度依存性が小さく、Ti値も2.5以上であることから、常温での塗布時の粘度上昇が低く抑えられているものである。
【0079】
これに対し、液状のポリアルキレングリコールを配合していない比較例1では、40℃における粘度が61Pa・sと低粘度であり、更に、40℃粘度に対する20℃粘度の粘度比が3.6と高いことにより温度依存性が高く、Ti値も1.9と低いものである。
【0080】
そして、この比較例1と比較から、実施例1乃至実施例3の40℃における高粘度化、小さい(低い)温度依存性、及び、高いTi値の結果は、親水性シリカとポリアルキレングリコールの組み合わせによるものであることは明らかである。
【0081】
したがって、実施例1乃至実施例3の構造用接着剤組成物によれば、40℃における粘度が100Pa・s以上の高粘度であることで、また、Ti値も2.5以上であることから、未硬化状態で洗浄処理の流水圧を受けても接着剤が飛散、変位(位置ずれ)、流出等し難い耐流水圧性(耐シャワー性)を確保できる。そして、洗浄工程における雰囲気温度、即ち、約40℃における粘度を高粘度化していても、40℃粘度に対する20℃粘度の粘度比が3.0以下であり、また、Ti値も2.5以上であることで、粘度の温度依存性が小さく、常温での塗布時の粘度においては高粘度化が抑えられ常温での塗布に適した粘度特性、即ち、塗布装置で吐出不良を生じない吐出性が得られ、また、塗布後も垂れが生じ難いものであり、作業性を良好にできる。耐垂れ性を有することで、未硬化状態での被接着体へ定着性や形状保持性も良好である。
【0082】
よって、塗布時のスプレ等の吐出性を確保しつつ、未硬化状態で洗浄処理の流水圧を受けても接着剤が飛散、変位(位置ずれ)、流出等し難い耐流水圧性(耐シャワー性)が確保されるものとなり、塗布時のスプレ等の吐出性と、塗布後の洗浄工程時における未硬化状態での耐流水圧性とを両立できる。これより、洗浄工程時において未硬化状態の接着剤組成物が飛散、流失、変形等することによる塗装不良や電着液の汚染を防止できる。
また、本実施例では、グリコール系化合物としてポリアルキレングリコール系化合物を使用していることにより、エポキシ樹脂との相溶性がよいことで、分散不良を生じることなく塗布作業性も良好で、均質な塗膜が得られた。
【0083】
これに対し、液状のポリアルキレングリコールを配合していない比較例1では、40℃における粘度が61Pa・sと低粘度であり、このような低粘度では、洗浄処理時の流水圧に対して十分に抵抗できず、接着剤組成物の飛散、変位(位置ずれ)、流出等が多く生じて塗装不良や電着液の汚染等を招くことになる。更に、40℃粘度に対する20℃粘度の粘度比が3.6と高くて温度依存性が高く、Ti値も1.9と低いことから、常温での塗布時のスプレ等の吐出性にも劣るものである。
【0084】
また、実施例1乃至実施例3の接着剤組成物は、コアシェルゴム粒子(CSR)を配合したことにより、一般的な車体の電着塗装の焼付条件で加熱し完全に硬化させた後の剥離強度も十分に高く、剥離接着強さ、強靭性も良好なものである。また、ゴム粒子がコアシェル型であることでゴム成分がエポキシ樹脂相に溶解残存しないことからも硬化物は高い弾性率を示し、エポキシ樹脂の耐熱性も維持されているものである。したがって、水分量が多い環境下でも高い接着力が維持され、接着の信頼性が高い。そして、実施例1乃至実施例3では、親水性シリカと液状のポリアルキレングリコールを含んでいても、接着剤としての機械的特性が良好であることが分かる。なお、このように剥離強度が高いものでは、熱膨張率の差によって生じる内部応力を分散することも可能である。
【0085】
加えて、上記実施例の構造用接着剤組成物は、加熱硬化の一液性の接着剤であり、特に、エポキシ樹脂の硬化剤が潜在性の硬化剤であるジシアンジアミドであるから、室温保管でも貯蔵安定性が高いものであり、一液性であることで保管スペースも取らないものである。 特に、本実施例の構造用接着剤組成物によれば、長期間保存しても経時的な粘度変動が少なくて所定の粘度を維持でき、貯蔵安定性が高い。これは、洗浄工程を有する電着塗装工程内の雰囲気温度(40℃付近)における粘度特性を高くしていても、温度変化に対する粘度変動を低く抑えているためと考えられる。また、ゴム粒子がコアシェル型でありエポキシ樹脂との反応性も低く、ゴム成分がエポキシ樹脂に溶解することによる粘度上昇が少ないこと、更に、接着剤組成物の調製時に加熱を必要とせず硬化反応の進行がないことも要因として考えられる。
【0086】
なお、上記実施例においては、エポキシ樹脂にCSRを配合・分散したマスターバッチ形態のCSR分散エポキシ樹脂を添加したものであるから、粉末のCSRを添加する場合と比較して煩雑な混合工程が不要であり、組成物を容易に作製できる。更に、このCSR分散エポキシ樹脂では、エポキシ樹脂本来の特性が維持され強靭性の高いものでもある。そして、親水性シリカ以外のチキソ剤を多量に配合しなくてもコアシェル型ゴム粒子によって塗布性がよく垂れにくい粘度特性を得ることも可能である。
【0087】
以上説明してきたように、上記実施の形態の構造用接着剤組成物は、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂に対する硬化剤を基本組成としたエポキシ樹脂系の構造用接着剤組成物であって、親水性シリカとグリコール系化合物とを必須成分として含有したものである。
【0088】
したがって、上記実施の形態の構造用接着剤組成物によれば、親水性シリカとグリコール系化合物が含まれていることで、親水性シリカの表面のシラノール基(Si-OH基)とグリコール系化合物の極性基との間で3次元網目構造が形成されることにより高い構造粘性が付与される。
これより、組成物の粘度の温度依存性が小さくなり、40℃付近における粘度を高粘度化しても、常温での粘度上昇が抑えられる。
したがって、常温での接着剤の塗布時には塗装装置からの吐出性を良好にでき、例え塗布時の吐出量を変動させた場合でも、安定した塗布品質が得られ、常温での安定した塗布作業性を確保でき、更に、塗布後も垂れ難く形状保持性や被接着体への定着性が高い。そのうえ、その後の40℃付近の雰囲気下における洗浄工程では粘度が上昇し未硬化状態でも流水圧に対する抵抗が高く、即ち、耐流水圧性(耐シャワー性)が高く、飛散、流出、変形等を防止できる。
特に、ポリアルキレングリコール系化合物であると、エポキシ樹脂との相溶性がよいことで、エポキシ樹脂に相溶しながら、親水性シリカのシラノール基と水素結合による三次元網目構造を形成できるから、分散不良を生じることなく、強い構造粘性を付与できる。
【0089】
なお、洗浄時の流水圧等に対する抵抗性(耐流水圧性)が高く洗浄時の流水圧等によって未硬化状態の接着剤組成物が飛散等し難いものであるから、接合部位への塗布範囲を広げたり塗布厚みを増やしたりすることも可能である。即ち、接合部位への塗布範囲を広げることで、また、塗布厚みを増やすことで接合端部から接着剤組成物が食み出したとしても、その接着剤組成物の余剰部が洗浄時の流水圧等によって飛散等し難いことで車体に付着して塗装不良や塗装前処理液(電着液等)の汚染や、後のシーラー塗布工程での処理不良を招く恐れがない。また、このように40℃付近の温度下で高粘度であるから、接着部位から食み出した接着剤組成物の余剰部を未硬化状態でも除去作業が容易に可能となり、余剰部を除去することでも、接着剤組成物の飛散等によって車体に付着して塗装不良が生じたり、塗装前処理液等を汚染したり、後のシーラー塗布工程での処理不良を生じたりするのを防止できる。
【0090】
ここで、上記実施の形態の構造用接着剤組成物において、親水性シリカが、エポキシ樹脂100質量部に対し、3~25質量部の範囲内の配合であれば、塗布作業性を確保しつつ、温度依存性を小さくできる。更に、グリコール系化合物が、エポキシ樹脂100質量部に対し、1~8質量部の範囲内の配合であれば、垂れ性を確保しつつ、温度依存性を小さくできる。
【0091】
また、親水性シリカが、構造用接着剤組成物100質量部に対し、1~8質量部の範囲内であれば、塗布作業性を確保しつつ、温度依存性を小さくできる。更に、グリコール系化合物が、構造用接着剤組成物100質量部に対し、0.5~6質量部の範囲内の配合であれば、垂れ性を確保しつつ、温度依存性を小さくできる。
【0092】
加えて、グリコール系化合物が、親水性シリカ100質量部に対し、10~50質量部の範囲内の配合であれば、垂れ性や耐流水圧性(耐シャワー性)を低下させることなく、温度依存性を小さくできる。
【0093】
更に、上記実施の形態の構造用接着剤組成物は、エラストマ成分を含有したことで、エポキシ樹脂から形成される塗膜に柔軟性を付与できるから、塗膜の強靭性を向上させることができる。特に、エラストマ成分は、コアシェル型ゴム粒子であるから、硬化後のエポキシ樹脂相にゴム成分が一部溶解して残存し難いものであり、エポキシ樹脂の耐熱性等の性能、弾性率の低下を生じさせ難いものである。よって、機械的特性の安定化を図ることができる。
【0094】
こうした本実施の形態の構造用接着剤組成物は、例えば、自動車や車両(新幹線、電車)、土木、建築、エレクトロニクス、船舶、航空機、宇宙産業分野等の構造部材(例えば、金属材料、プラスチック等の有機・高分子材料、コンクリート等の無機材料等からなる)の接着剤として用いることができる。このとき、電極等を使用したスポット溶接等の併用(ウェルドボンド工法)により、構造部位への高い接合強度を確保することができる。他にも、医療用、一般事務用、電子材料用の接着剤(例えば、ビルドアップ基板等の多層基板の層間接着剤、ダイボンディング剤、アンダーフィル等の半導体用接着剤、BGA補強用アンダーフィル、異方性導電性フィルム(ACF)、異方性導電性ペースト(ACP)等の実装用接着剤等)としても利用可能で広い分野に適用可能である。また、接着剤としての用途に限らず、エポキシ樹脂組成物として一般用途向けの物品、例えば、塗料、コーティング剤、成形材料(シート、フィルム、FRP等を含む)、絶縁材料(プリント基板、電線被覆等を含む)、封止剤(例えば、コンデンサ、トランジスタ、ダイオード、発光ダイオード、IC、LSI用等のポッティング、ディッピング、トランスファーモールド封止、IC、LSI類のCOB、COF、TAB用等といったポッティング封止、フリップチップ用等のアンダーフィル、QFP、BGA、CSP等のICパッケージ類実装時の封止)等に適用することも可能である。優れた耐流水圧性を有することから、特に、被接着体への塗布後に流水にさらされる部材の接着に有用である。
【0095】
なお、本発明を実施する場合には、構造用接着剤組成物のその他の部分の組成、成分、配合量、調整方法等については、上記実施の形態に限定されるものではない。更に、本発明の実施の形態及び実施例で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。