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特開2023-181719回転体の検査方法及び回転体の検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181719
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】回転体の検査方法及び回転体の検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20231218BHJP
   G01M 15/02 20060101ALN20231218BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01M15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095005
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】宮郷 正澄
【テーマコード(参考)】
2G024
2G087
【Fターム(参考)】
2G024AC01
2G024CA12
2G024FA06
2G024FA11
2G087AA30
2G087CC40
2G087DD01
2G087FF06
(57)【要約】
【課題】回転体の回転不良の有無を精度よく検出することができる回転体の検査方法及び回転体の検査装置を提供する。
【解決手段】回転軸54を中心に回転する回転体50の回転動作を検査する回転体の検査方法であって、前記回転体50を正回転させた後に逆回転させて、前記回転体50の正回転時のトルク値と逆回転時のトルク値との差分値、及び/又は、前記回転体50が正回転から逆回転に切り替わった際の慣性力を取得する工程と、取得された値に基づき、前記回転体の回転不良の有無を判定する工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転する回転体の回転動作を検査する回転体の検査方法であって、
前記回転体を正回転させた後に逆回転させて、前記回転体の正回転時のトルク値と逆回転時のトルク値との差分値、及び/又は、前記回転体が正回転から逆回転に切り替わった際の慣性力を取得する工程と、
取得された値と予め設定された閾値とに基づき、前記回転体の回転不良の有無を判定する工程と、
を含むことを特徴とする回転体の検査方法。
【請求項2】
前記取得する工程において、前記回転体の正回転時のトルク値と逆回転時のトルク値との差分値を取得し、
前記判定する工程において、取得された前記トルク値の前記差分値と予め設定されたトルク閾値とを比較し、該差分値が前記トルク閾値よりも大きい場合に、回転不良であると判定することを特徴とする請求項1に記載の回転体の検査方法。
【請求項3】
前記取得する工程において、前記回転体が正回転から逆回転に切り替わる直前の慣性力と切り替わった直後の慣性力との差分値を取得し、
前記判定する工程において、取得された慣性力の前記差分値と予め設定された慣性力閾値とを比較し、該差分値が前記慣性力閾値よりも大きい場合に、回転不良であると判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の回転体の検査方法。
【請求項4】
回転軸を中心に回転する回転体の回転動作を検査する回転体の検査装置において、
前記回転体を正回転方向と逆回転方向とに回転させることが可能な駆動部と、
前記回転体の回転トルク及び/又は慣性力を検出する検出器と、
前記検出器の検出値に基づいて取得された、前記回転体の正回転時のトルク値と逆回転時のトルク値との差分値、及び/又は、前記回転体が正回転から逆回転に切り替わった際の慣性力に基づき、前記回転体の回転不良の有無を判定する判定部と、
を備えたことを特徴とする回転体の検査装置。
【請求項5】
前記検出器は、前記回転体の回転トルクを検出するトルク検出器であり、
前記トルク検出器で検出されたトルク値に基づいて前記回転体の慣性力を算出する算出部を備えたことを特徴とする請求項4に記載の回転体の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を中心として回転する回転体の回転動作を検査する回転体の検査方法及び回転体の検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸を中心に回転する回転体、例えば、エンジンの構成部品であるカムシャフトは、回転動作によって吸気バルブと排気バルブの開閉を適切なタイミングで行うために重要な部品であり、燃費効率の観点から抵抗が少なくスムーズに回転することが要求される。
【0003】
回転体の回転がスムーズであるか否かを検査する方法として、特許文献1では、回転体であるカムシャフトを回転させた際の回転トルクを検出し、検出されたトルク値を用いて、カムシャフトの回転動作が正常であるか否かを判定する検査方法が記載されている。
【0004】
この検査方法では、回転体であるカムシャフトを強制回転させ、トルク検出器により、カムシャフトの回転トルクの下限値を検出する。次に、トルク検出器で検出された下限値と、予め設定された設定下限値とを比較し、検出された下限値が設定下限値よりも高い場合に、カムシャフトを含む動弁系に異常があると判定する。
【0005】
この検査方法では、回転トルクの下限値と予め設定された設定下限値との比較によって、簡易に回転動作の不良の有無を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-281532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、回転トルクの下限値を基準として判定を行う従来の方法では、正常品と不良品との間で生じるトルク値の差が僅かであることから、外乱影響によってトルク値にノイズが含まれる場合に、正確な判定ができないことがあった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、回転体の回転不良の有無を精度よく検出することができる回転体の検査方法及び回転体の検査装置を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、回転軸を中心に回転する回転体の回転動作を検査する回転体の検査方法であって、前記回転体を正回転させた後に逆回転させて、前記回転体の正回転時のトルク値と逆回転時のトルク値との差分値、及び/又は、前記回転体が正回転から逆回転に切り替わった際の慣性力を取得する工程と、取得された値と予め設定された閾値とに基づき、前記回転体の回転不良の有無を判定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一実施形態は、回転軸を中心に回転する回転体の回転動作を検査する回転体の検査装置において、前記回転体を正回転方向と逆回転方向とに回転させることが可能な駆動部と、前記回転体の回転トルク及び/又は慣性力を検出する検出器と、前記検出器の検出値に基づいて取得された、前記回転体の正回転時のトルク値と逆回転時のトルク値との差分値、及び/又は、前記回転体が正回転から逆回転に切り替わった際の慣性力に基づき、前記回転体の回転不良の有無を判定する判定部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る回転体の検査方法及び回転体の検査装置によれば、回転体の回転不良の有無を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態である回転体の検査装置の概略説明図である。
図2】回転体が正常品である場合のトルク値の時間変化を示すグラフである。
図3】回転体が不良品である場合のトルク値の時間変化を示すグラフである。
図4】検査装置を用いて実行される回転体の検査方法のフローチャート図である。
図5】従来の検査方法を説明する図であって、正常品である回転体を正回転させたトルク値の時間変化を示すグラフである。
図6】従来の検査方法を説明する図であって、不良品である回転体を正回転させたトルク値の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態である回転体50の検査装置10の概略説明図である。検査装置10は、回転軸52を中心として回転する回転体50の回転動作を検査する装置である。具体的には、検査装置10は、回転体50を所定の回転速度で回転させた際に、回転負荷が小さくスムーズな回転を行う正常品であるか、回転負荷が大きい不良品であるかを検査することが可能な装置である。
【0014】
本実施形態において、検査対象となる回転体50は、円柱状の本体部52と、本体部54の中心軸を貫通する回転軸54と、を備えている。回転軸54は、直線状の棒状部材であり、本体部52は回転軸54に固定されて一体に形成されている。回転体50の材料は特定されるものではなく、例えば、金属材料や樹脂材料など、様々な材料を用いることができる。また、体部52と回転軸54とが異なる材料であってもよい。本体部52は、同一密度の材料で形成されている。
【0015】
検査装置10は、モータ20と、トルク検出器30と、制御装置40と、を備えている。モータ20は、回転体50を回転させる駆動部であり、回転体50を正回転方向と逆回転方向とに回転させることが可能に構成されている。回転体50の検査時には、モータ20に回転体50の回転軸52が接続される。
【0016】
トルク検出器30は、回転トルクを検出する検出器であり、例えば、トルクトランスデューサーを用いることができる。トルク検出器30は、回転体50の回転軸52に接続されており、本実施形態では、回転体50を回転させた際に、回転体50の回転トルクを常時検出するようにしている。
【0017】
制御装置40は、例えば、中央処理装置(CPU)や特定用途向け集積回路(ASIC)等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス等を有して構成される。制御装置40は、モータ20及びトルク検出器30と電気的に接続されており、モータ20の駆動を制御するとともに、トルク検出器30から受信したトルク値のデータに基づいて、回転体50の回転不良の有無を判定する。図1に示すように、制御装置40は、記憶部42と、算出部44と、判定部46と、表示部48と、を備えている。
【0018】
制御装置40の記憶部42には、接続されたモータ20やトルク検出器30を制御するためのプログラム等が格納されている。また、回転体50の回転不良を判定するための基準となる、予め設定されたトルク閾値Tth及び予め設定された慣性力閾値Ithが格納されている。
【0019】
算出部44は、トルク検出器30の検出値に基づいて、回転体50の正回転時のトルク値と逆回転時のトルク値との差分値を算出する。本実施形態において、制御装置40は、トルク検出値30からトルク値のデータを常時受信しており、算出部44は、受信したトルク値のデータから正回転時と逆回転時のトルク値の差分値を算出する。
【0020】
図2及び図3は、それぞれ、回転体50のトルク値の時間変化を示すグラフであり、回転体50を正回転させた後、逆回転させ、再び正回転させた様子を示している。図2は、回転体50の回転負荷が小さい正常品のグラフを示し、図3は、回転体50の回転負荷が大きい不良品のグラフを示している。検査装置10は、モータ20の駆動によって回転体50を連続的に正回転と逆回転とに回転させる。図2及び図3に示すように、トルク値は、回転体50の回転方向を変える際に大きく変動する。そのため、算出部44は、回転体50を正回転方向又は逆回転方向に回転させた後、所定時間が経過してトルク値が安定した状態のトルク値を採用し、差分値を算出するようにしている。
【0021】
図2に示す例では、正回転時のトルク値T(Tは正数)と、逆回転時のトルク値-Tとから、差分値ΔTを算出する。ここで、トルク検出器30が検出したトルク値に外乱要因によるノイズNが含まれる場合、検出された正回転時のトルク値は(T+N)となり、逆回転時のトルク値は(-T+N)となる。トルク検出器30の検出値から算出される差分値ΔTは、
ΔT=(T+N)-(-T+N)=2T
となり、ノイズNの影響を排除することができる。
【0022】
図3に示す例では、正回転時のトルク値T(Tは正数であって、T<Tである)と、逆回転時のトルク値-Tとから、差分値ΔTが算出される。ここで、トルク検出器30が検出したトルク値に外乱要因によるノイズNが含まれる場合、検出された正回転時のトルク値は(T+N)となり、逆回転時のトルク値は(-T+N)となる。トルク検出器30の検出値から算出される差分値ΔTは、
ΔT=(T+N)-(-T+N)=2T
となり、ノイズNの影響を排除することができる。
【0023】
また、算出部44は、トルク検出器30で検出されたトルク値に基づいて、回転体50の慣性力を算出する。慣性力の値は、例えば、トルク値の変化を時間で2階微分することにより算出することができる。算出部44は、さらに、回転体50が正回転から逆回転に切り替わる直前の慣性力と切り替わった直後の慣性力との差分値(慣性力差)を算出する。
【0024】
図2及び図3に示すグラフにおいて、回転体50は、トルク値-T及び-Tの時点で正回転から逆回転に切り替わる。ここで、T及びTは、それぞれ、Tよりも大きい正数である。図2において、回転体50が正回転から逆回転に切り替わる直前の慣性力とは、破線で囲んだトルク値Tから急激に下降する際の慣性力であり、切り替わった直後の慣性力とは、トルク値が-Tから上昇した後の破線で囲んだ-Tに達する際の慣性力である。図3において、回転体50が正回転から逆回転に切り替わる直前の慣性力とは、破線で囲んだトルク値Tから急激に下降する際の慣性力であり、切り替わった直後の慣性力とは、トルク値が-Tから上昇した後の破線で囲んだ-Tに達する際の慣性力である。
【0025】
回転体50が回転負荷の大きい不良品である場合、正回転から逆回転に切り替わった直後の慣性力は、発生しない若しくは小さな値となる。言い換えると、不良品では、正回転から逆回転に切り替わった直後の慣性力の絶対値が、正常品よりも小さくなる。この慣性力の大きさの違いは、図3において破線で囲まれた回転方向が切り替わった直後の角度βが、図3において破線で囲まれた回転方向が切り替わる直前の角度β、並びに、図2において破線で囲まれた回転方向が切り替わる直前及び切り替わった直後の角度α及び角度αよりも大きくなることで表れている。
【0026】
本実施形態では、一例として、(慣性力差)≒(トルク値の変化量)とみなして、算出部44が、回転方向が切り替わる直前と直後との慣性力の差を算出している。
例えば、図2に示す回転体50では、トルク検出器30が検出したトルク値に外乱要因によるノイズNが含まれる場合、正回転から逆回転に切り替える直前において、トルク値の変化量は、
(T+N)-((-T)+N)=T+T
となる。
また、正回転から逆回転に切り替えた直後では、外乱要因によるノイズNが含まれる場合、トルク値の変化量は、
(-T+N)-((-T1)+N)=T-T
となる。
これらを合わせて、回転体50が正回転から逆回転に切り替わった直前の慣性力と切り替わった直後の慣性力の差分値は、
(T+T)+(T-T)=2T
となる。
【0027】
同様に、図3に示す回転体50では、トルク検出器30が検出したトルク値に外乱要因によるノイズNが含まれる場合、正回転から逆回転に切り替える直前のトルク値の変化量は、
(T+N)-((-T)+N)=T+T
となる。
正回転から逆回転に切り替えた直後のトルク値の変化量は、外乱要因によるノイズNが含まれる場合、
(-T+N)-((-T)+N)=T-T
となる。
これらを合わせて、回転体50が正回転から逆回転に切り替わった直前と切り替わった直後の慣性力差は、
(T+T)+(T-T)=2T
となる。
【0028】
判定部46は、トルク検出器30の検出値に基づいて算出部44が算出した、回転体50の正回転時のトルク値と逆回転時のトルク値との差分値、及び、回転体50が正回転から逆回転に切り替わる直前の慣性力と切り替わった直後の慣性力との差分値に基づき、回転体50の回転不良の有無を判定する。
【0029】
判定部46は、算出部44で算出されたトルク値の差分値を記憶部42に格納されたトルク閾値Tthと比較し、差分値がトルク閾値以下Tthである場合に正常であると判定し、差分値がトルク閾値Tthよりも大きい場合に回転不良であると判定する。また、判定部46は、算出部44で算出された慣性力差を記憶部42に格納された慣性力閾値Ithと比較し、慣性力差が慣性力閾値Ith以下である場合に正常であると判定し、差分値が慣性力閾値Ithよりも大きい場合に回転不良であると判定する。
【0030】
表示部48は、情報を視覚的及び/又は聴覚的に表示可能なものであり、例えば、ディスプレイやスピーカー等で構成することができる。算出部44による算出結果や判定部46による判定結果は、表示部48に表示させることができる。本実施形態では、判定部46によって、トルク値の差分値及び慣性力差のいずれもが正常であると判定された場合に、回転体50が正常であることを示す判定結果が表示される。また、トルク値の差分値及び慣性力差の少なくとも一方が回転不良であると判定された場合に、回転不良であることを示す判定結果が表示される。この表示部48には、検出されたトルク値のデータ、算出部44による算出結果等を表示させることも可能である。
【0031】
次に、上述した検査装置10を用いて回転体50の回転動作を検査する方法について説明する。図4は、検査装置10を用いて実行される回転体の検査方法のフローチャート図である。
【0032】
まず、制御装置40は、モータ20を作動させて、回転体50を正回転方向に所定の回転速度で回転させ(ステップS10)、その後、連続的に回転体50を逆回転方向に所定の回転速度(正回転方向と同じ回転速度)で回転させる(ステップS11)。トルク検出器30は、回転体50の回転時のトルク値を常時検出しており、検出されたトルク値のデータは、制御装置40に送信される。
【0033】
制御装置40の算出部44は、受信したトルク値のデータに基づいて、回転体50の正回転時のトルク値と逆回転時のトルク値との差分値を算出する(ステップS12)。また、算出部44は、受信したトルク値のデータに基づいて、回転体50が正回転から逆回転に切り替わる直前の慣性力と切り替わった直後の慣性力との差分値を算出する(ステップS13)。本実施形態の検査方法において、ステップS10~S13は、トルク値の差分値や慣性力を取得する工程に該当する。
【0034】
次に、制御装置40の判定部46は、算出部44により算出された値に基づき、回転体50の回転不良の有無を判定する(ステップS14)。具体的には、判定部46は、算出されたトルク値の差分値と予め設定されたトルク閾値Tthとを比較し、トルク値の差分値がトルク閾値Tthよりも大きい場合に、回転不良であると判定し、トルク閾値Tth以下の場合に、正常であると判定する。また、判定部46は、算出された慣性力差と予め設定された慣性力閾値Ithとを比較し、慣性力差が慣性力閾値Ithよりも大きい場合に、回転不良であると判定し、慣性力閾値Ith以下の場合に、正常であると判定する。
【0035】
判定部44は、トルク値の差分値及び慣性力差の両方が、閾値Tth,Ithとの比較によって正常と判定された場合に、回転体50が正常品であると判定する。また、判定部44は、トルク値の差分値及び慣性力差の少なくとも一方が、閾値Tth,Ithとの比較によって回転不良と判定された場合に、回転体50が不良品であると判定する。
【0036】
判定部44によって、回転体50が正常品であるか不良品であるかが判定されると、制御装置40は、判定結果を表示部48に表示させる(ステップS15)。
【0037】
上述した検査方法では、回転体50の回転不良の有無を検査する際に、正回転時と逆回転時のトルク値の差分値や、正回転から逆回転に切り替わる際に生じる慣性力値を用いることで、回転体の回転不良の有無を精度よく検出することができる。
【0038】
例えば、外乱要因によってトルク検出器30が検出するトルク値にノイズが含まれる場合、正回転時のトルク値のみで回転不良の有無を判定する従来の方法では、ノイズの影響によって正確な判定ができないことがある。従来の検査方法では、検出されたトルク値が予め設定された閾値T’th以下の場合に正常、閾値T’thを超える場合に回転不良を判定していた。図5及び図6は、回転体50を正回転させた場合のトルク値の時間変化を示すグラフであり、図5は回転体50が正常品である場合、図6は回転体50が不良品である場合を示している。図5に示す回転体50のトルク値T=0.2(N・m)、図6に示す回転体50のトルク値T=0.4(N・m)とし、回転不良の判定を行う閾値T’th=0.3(N・m)とした場合、各トルク値T、Tと閾値T’thとの差は、ノイズの影響がない場合に、T-T’th=0.1(N・m)、T’th-T=-0.1(N・m)と僅かである。ここで、検出されたトルク値に、外乱要因によるノイズNが含まれており、ノイズN=0.3(N・m)の場合、図5に示す回転体50は、検出されるトルク値がT+N=0.2+0.3=0.5(N・m)となり、正常品であるにも関わらず、回転不良と判定されてしまう。また、ノイズN=-0.3(N・m)の場合、図6に示す回転体50は、検出されるトルク値がT+N=0.4-0.3=0.1(N・m)となり、不良品であるにも関わらず、正常品と判定されてしまう。
【0039】
これに対し、本実施形態の検査方法では、ノイズの影響を抑えて、正常品と不良品との数値的な差を大きくし、精度の高い判定を行うことができる。
【0040】
例えば、図2に示す回転体50のトルク値T=0.2(N・m)、図3に示す回転体50のトルク値T=0.4(N・m)とし、回転不良の判定を行うトルク閾値Tth=0.6(N・m)とする。図2に示す回転体50では、上述したようにノイズに関わらず、トルク値の差分値ΔT=2T=0.4であり、トルク閾値Tthとの差は、0.6-0.4=0.2(N・m)となる。また、図3に示す回転体50では、上述したようにノイズに関わらず、トルク値の差分値ΔT=2T=0.8であり、トルク閾値Tthとの差は、0.6-0.8=-0.2(N・m)となる。このように、本実施形態の検査方法では、ノイズの影響を抑えて閾値Tthとの差を大きくすることにより、精度の高い判定を行うことができる。
【0041】
さらに、本実施形態では、慣性力差を用いて判定を行うことで、より精度の高い判定を行うことができる。例えば、慣性力閾値Ith=0.6とし、図2に示す回転体50のトルク値T=0.2(N・m)、トルク値T=0.8(N・m)、図3に示す回転体50のトルク値T=0.4(N・m)、トルク値T=0.8(N・m)とする。このような場合、図2に示す回転体50の慣性力差は、(慣性力差)≒(トルク値の変化量)とすると、既述のとおり、ノイズに関わらず、(慣性力差)≒2T=0.4となり、慣性力閾値Ithとの差は、0.6-0.4=0.2(N・m)となる。また、図3に示す回転体50の慣性力差は、上述したようにノイズに関わらず(慣性力差)≒2T=0.8となり、慣性力閾値Ithとの差は、0.6-0.8=-0.2(N・m)となる。このように、本実施形態の検査方法では、ノイズの影響を抑えて閾値Ithとの差を大きくすることにより、精度の高い判定を行うことができる。
【0042】
なお、本発明は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0043】
例えば、検出装置10は、少なくとも、回転体の正回転時と逆回転時のトルク値の差分値、又は、回転体50が正回転から逆回転に切り替わった直後の慣性力のいずれか一方を取得する構成であればよい。かかる場合、取得されたトルク値の差分値又は慣性力に基づいて、回転体50の回転不良の有無を判定する。正回転時と逆回転時のトルク値の差分値は、上述した実施形態の方法で取得することができる。また、慣性力に基づいて回転不良を判定する場合、回転が切り替わった直後の慣性力の大きさ(絶対値)が、予め設定された慣性力閾値を超える場合に正常と判定し、該慣性力閾値以下の場合に不良と判定する構成とすることができる。
【0044】
また、例えば、回転体50の慣性力値は、トルク検出器30に代えて、慣性力を直接的に検出可能な検出器(例えば、加速度センサ等の慣性力センサ)を用いて検出してもよい。
【0045】
また、本実施形態では、一例として、回転軸52に円筒形状の本体部54が取付けられた回転体50を検査する方法を説明したが、検査対象となる回転体50は、これに限られない。例えば、回転体50は、車両に搭載されるエンジンの構成部品であるカムシャフトであってもよい。カムシャフトは、回転軸であるシャフトと、本体部である複数のカムとを備える。カムシャフトを検査する場合、回転方向においてカム山のない領域で、トルク値や慣性力値を計測する構成とすることができる。
【符号の説明】
【0046】
10 検査装置
20 モータ
30 トルク検出器
40 制御装置
42 記憶部
44 算出部
46 判定部
48 表示部
50 回転体
52 回転軸
54 本体部
図1
図2
図3
図4
図5
図6