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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181721
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】プレキャスト部材の接合方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20231218BHJP
   E04B 1/21 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
E04B1/58 503E
E04B1/21 D
E04B1/21 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095013
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 武志
(72)【発明者】
【氏名】渡部 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 大介
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AB12
2E125AC02
2E125AG28
2E125BA46
2E125BB08
2E125BB19
2E125BB22
2E125BD01
2E125BE07
2E125BE08
2E125BF06
2E125BF08
2E125CA83
(57)【要約】
【課題】容易に接合することができ、その接合強度を向上させることができるプレキャスト部材の接合方法を実現する。
【解決手段】一方のプレキャスト部材10の側面から側方に突き出している第1の鉄筋1と、他方のプレキャスト部材20の側面から側方に突き出している第2の鉄筋2とを重ね継手にして接合する接合方法において、一方のプレキャスト部材10の第1の鉄筋1に螺旋状部材3を挿通させて設置する工程と、螺旋状部材3を一方のプレキャスト部材10の側面寄りの位置に待避させた状態で他方のプレキャスト部材20を第2の鉄筋2の延在方向と略直交する向きに移動させて第1の鉄筋1と第2の鉄筋2とが重ね継手の配置になるように位置合わせする工程と、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2との重ね継手部分を覆うように螺旋状部材3をスライド移動させて設置する工程と、プレキャスト部材間に固化材料を打設して接合部30を形成する工程を有するようにした。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方のプレキャスト部材の側面から側方に突き出している第1の鉄筋と、他方のプレキャスト部材の側面から側方に突き出している第2の鉄筋とを重ね継手にして接合するプレキャスト部材の接合方法であって、
前記一方のプレキャスト部材の前記第1の鉄筋に、少なくとも2本の鉄筋を挿通可能な内径を有する螺旋状部材を挿通させて設置する工程と、
前記螺旋状部材を前記一方のプレキャスト部材の側面寄りの位置に待避させた状態で、前記他方のプレキャスト部材を移動させて、前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋とが重ね継手の配置になるように位置合わせする工程と、
前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋との重ね継手部分を覆うように前記螺旋状部材をスライド移動させて設置する工程と、
前記一方のプレキャスト部材と前記他方のプレキャスト部材との間に固化材料を打設し、その固化材料を硬化させて接合部を形成する工程と、
を有していることを特徴とするプレキャスト部材の接合方法。
【請求項2】
前記螺旋状部材を前記一方のプレキャスト部材の側面寄りの位置に待避させた状態において、前記螺旋状部材はその伸縮方向に収縮されており、
前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋とが重ね継手の配置にされた後、前記螺旋状部材が伸長するように復元されることを特徴とする請求項1に記載のプレキャスト部材の接合方法。
【請求項3】
前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋との重ね継手部分を覆うように設置された前記螺旋状部材に沿わせた位置に、前記固化材料を拘束するスパイラル筋を設置する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャスト部材の接合方法。
【請求項4】
前記螺旋状部材を前記一方のプレキャスト部材の側面寄りの位置に待避させた状態で、前記固化材料を拘束するスパイラル筋を前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋の延在方向に伸縮可能な姿勢で設置する工程を含み、
前記スパイラル筋は、前記一方のプレキャスト部材の側面寄りの位置に待避させた状態において、その伸縮方向に収縮されており、
前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋とが重ね継手の配置にされた後、前記スパイラル筋が伸長するように復元されることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャスト部材の接合方法。
【請求項5】
前記螺旋状部材は、分割された複数の螺旋体からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャスト部材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャスト部材の接合方法として、ループ継手による接合技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
また、プレキャスト部材の接合方法として、一方のプレキャスト部材にシース管によって形成されている挿入孔に、他方のプレキャスト部材の端部から突き出している鉄筋を挿入して接合する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-98939号公報
【特許文献2】特開2019-167689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の技術の場合、ループ継手を形成する鉄筋加工に手間を要するといった問題があった。また、ループ継手の地震時の変形性能が小さいことを鑑みると部材断面積を大きくする必要があり、それに伴うコストアップが問題になることがあった。
また、上記特許文献2の技術の場合、一方のプレキャスト部材の挿入孔に他方のプレキャスト部材の鉄筋を挿入するのに精度が求められるので、その接合作業は比較的難しいものであった。特に、柱や梁となるプレキャスト部材の挿入孔に、梁となるプレキャスト部材の鉄筋を挿入する場合には、プレキャスト部材を略水平方向に移動させることが必要となるため、重量の大きいプレキャスト部材をクレーンなどで水平方向に移動させる作業が難しくなるとともに、基準となる柱からの片押し施工となって工期が比較的長くなるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、容易に接合することができ、その接合強度を向上させることができるプレキャスト部材の接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明は、
一方のプレキャスト部材の側面から側方に突き出している第1の鉄筋と、他方のプレキャスト部材の側面から側方に突き出している第2の鉄筋とを重ね継手にして接合するプレキャスト部材の接合方法であって、
前記一方のプレキャスト部材の前記第1の鉄筋に、少なくとも2本の鉄筋を挿通可能な内径を有する螺旋状部材を挿通させて設置する工程と、
前記螺旋状部材を前記一方のプレキャスト部材の側面寄りの位置に待避させた状態で、前記他方のプレキャスト部材を移動させて、前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋とが重ね継手の配置になるように位置合わせする工程と、
前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋との重ね継手部分を覆うように前記螺旋状部材をスライド移動させて設置する工程と、
前記一方のプレキャスト部材と前記他方のプレキャスト部材との間に固化材料を打設し、その固化材料を硬化させて接合部を形成する工程と、
を有しているようにした。
【0007】
かかる構成のプレキャスト部材の接合方法であれば、例えば、一方のプレキャスト部材に対して他方のプレキャスト部材を略鉛直方向に落とし込んで、一方のプレキャスト部材の第1の鉄筋と他方のプレキャスト部材の第2の鉄筋とを重ね継手の配置に位置合わせした後、螺旋状部材で重ね継手部分を覆ってその継手部分を補強することができるので、一方のプレキャスト部材と他方のプレキャスト部材の接合部の鉄筋に発生する引張応力を伝達することができ、接合部の強度を向上させることができる。
具体的には、鉄筋の重ね継手部分を覆う螺旋状部材が接合部の固化材料を拘束するようになっているので、それぞれの鉄筋に大きな引張応力が作用して固化材料を膨張させてひび割れを発生させようとする力に抵抗させることができ、重ね継手の定着強度を大幅に向上することができる。
特に、一方のプレキャスト部材に対して他方のプレキャスト部材を略鉛直方向に移動させて第1の鉄筋と第2の鉄筋を重ね継手にする接合方法であれば、重量の大きいプレキャスト部材をクレーンなどで水平方向に移動させて、鉄筋挿入を行う作業が不要となるので、容易にプレキャスト部材を接合することができる。
つまり、このプレキャスト部材の接合方法であれば、プレキャスト部材を容易に接合することができ、その接合強度を向上させることができる。
【0008】
また、望ましくは、
前記螺旋状部材を前記一方のプレキャスト部材の側面寄りの位置に待避させた状態において、前記螺旋状部材はその伸縮方向に収縮されており、
前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋とが重ね継手の配置にされた後、前記螺旋状部材が伸長するように復元されるようにする。
【0009】
例えば、一方のプレキャスト部材に対して他方のプレキャスト部材を落とし込むように略鉛直方向に移動させる際、一方のプレキャスト部材の側面寄りの位置に待避させている螺旋状部材を収縮させておけば、第1の鉄筋と第2の鉄筋を隣接させた配置(重ね継手の配置)にする際の妨げにならないので、第1の鉄筋と第2の鉄筋との重ね継手部分をより長くすることができる。そして、伸長するように復元させた螺旋状部材によってその重ね継手部分を覆うことが可能になる。
また、一方のプレキャスト部材の側面寄りの位置に待避させている螺旋状部材を収縮させておけば、第1の鉄筋と第2の鉄筋を隣接させた配置(重ね継手の配置)にする際の妨げにならない。その場合、プレキャスト部材間の距離を短くし、接合部を小さくすることができるので、現場での固化材料(コンクリートなど)の打設量を少なくすることができ、接合作業量の軽減を図ることが可能になる。
【0010】
また、望ましくは、
前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋との重ね継手部分を覆うように設置された前記螺旋状部材に沿わせた位置に、前記固化材料を拘束するスパイラル筋を設置する工程を含むようにする。
【0011】
スパイラル筋が、第1の鉄筋と第2の鉄筋の重ね継手部分を覆っている螺旋状部材に沿わせた位置に設置されると、そのスパイラル筋が固化材料を好適に拘束するので、プレキャスト部材の接合部分の地震時の変形性能を大幅に向上することができる。
【0012】
また、望ましくは、
前記螺旋状部材を前記一方のプレキャスト部材の側面寄りの位置に待避させた状態で、前記固化材料を拘束するスパイラル筋を前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋の延在方向に伸縮可能な姿勢で設置する工程を含み、
前記スパイラル筋は、前記一方のプレキャスト部材の側面寄りの位置に待避させた状態において、その伸縮方向に収縮されており、
前記第1の鉄筋と前記第2の鉄筋とが重ね継手の配置にされた後、前記スパイラル筋が伸長するように復元されるようにする。
【0013】
例えば、一方のプレキャスト部材に対して他方のプレキャスト部材を落とし込むように略鉛直方向に移動させる際、一方のプレキャスト部材の側面寄りの位置に待避させているスパイラル筋を収縮させておけば、第1の鉄筋と第2の鉄筋を隣接させた配置(重ね継手の配置)にする際の妨げにならない。
このようにしてスパイラル筋を設置しても、スパイラル筋が固化材料を好適に拘束するので、プレキャスト部材の接合部分の地震時の変形性能を大幅に向上することができる。
【0014】
また、望ましくは、
前記螺旋状部材は、分割された複数の螺旋体からなるようにする。
【0015】
分割された複数の螺旋体からなる螺旋状部材であっても固化材料を拘束することができ、それぞれの鉄筋に大きな引張応力が作用して固化材料を膨張させてひび割れを発生させようとする力に抵抗させることができ、重ね継手の定着強度を向上することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、プレキャスト部材を容易に接合することができ、その接合強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のプレキャスト部材の接合方法の手順に関する説明図である。
図2】本実施形態のプレキャスト部材の接合方法の手順に関する説明図である。
図3】本実施形態のプレキャスト部材の接合方法の手順に関する説明図である。
図4】本実施形態のプレキャスト部材の接合方法の手順に関する説明図である。
図5】本実施形態のプレキャスト部材の接合方法の手順に関する説明図である。
図6】本実施形態のプレキャスト部材の接合方法の手順に関する説明図である。
図7図6に示した接合部分の配筋を断面視して示す概略説明図である。
図8】本実施形態のプレキャスト部材の接合方法の手順に関する説明図である。
図9】接合部分の配筋の変形例を示す概略説明図である。
図10】接合部分の配筋の変形例を示す概略説明図である。
図11】接合部分の配筋の変形例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係るプレキャスト部材の接合方法の実施形態について詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0019】
本実施形態のプレキャスト部材の接合方法は、一方のプレキャスト部材10の側面から側方に突き出している複数の第1の鉄筋1と、他方のプレキャスト部材20の側面から側方に突き出している複数の第2の鉄筋2とを重ね継手にして、一方のプレキャスト部材10と他方のプレキャスト部材20を接合する技術であって、簡便な作業で接合できるとともに、強固に接合して地震時の変形性能の向上を図ることを可能にした接合技術である。
本実施形態ではプレキャスト部材として梁部材同士を接合する場合を例に、その施工手順について説明する。
なお、第1の鉄筋1は、一方のプレキャスト部材10の側面から略垂直に側方に突き出しており、第2の鉄筋2は、他方のプレキャスト部材20の側面から略垂直に側方に突き出している。
また、一方のプレキャスト部材10と他方のプレキャスト部材20が第1の鉄筋1と第2の鉄筋2を向き合わせて対向した際に、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2が重ね継手の配置になるように、一方のプレキャスト部材10に第1の鉄筋1が配設され、他方のプレキャスト部材20に第2の鉄筋2が配設されている。
【0020】
まず、図1に示すように、所定箇所である柱体51上に据え付けられている一方のプレキャスト部材10の第1の鉄筋1に螺旋状部材3を挿通させて設置する。
螺旋状部材3は、例えば、線状の鋼材(棒鋼、線材など)を同心状に巻いて形成したスパイラル状の部材であり、少なくとも2本の鉄筋(ここでは第1の鉄筋1と第2の鉄筋2)を挿通可能な内径を有している。
【0021】
次いで、図2図3に示すように、第1の鉄筋1に挿通させている螺旋状部材3を一方のプレキャスト部材10の側面寄りの位置に待避させた状態で、他方のプレキャスト部材20を第2の鉄筋2の延在方向と略直交する向きに移動させて所定箇所である柱体52上に据え付ける。
ここでは、クレーンなどで吊った他方のプレキャスト部材20を上方から落とし込むように略鉛直方向に移動させて柱体52上に据え付けており、その際に、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2とが重ね継手の配置になるように位置合わせしている。
なお、柱体上にプレキャスト部材を接合して据え付ける技術やその接合構造は、従来公知のものと同様であるので、ここでは詳述しない。
また、ここでいう第1の鉄筋1と第2の鉄筋2の重ね継手の配置とは、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2が略平行に隣接して並んだ配置のことである。ここでは図中、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2が略平行に隣接して左右に並んだ配置にしている。
また、一方のプレキャスト部材10の側面寄りの位置に待避させている螺旋状部材3は、その伸縮方向に収縮されている。
【0022】
次いで、図4に示すように、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2との重ね継手部分を覆うように螺旋状部材3をスライド移動させて設置する。
このとき、収縮されていた螺旋状部材3は復元されており、復元された螺旋状部材3が重ね継手部分を覆うようになっている。
第1の鉄筋1と第2の鉄筋2との重ね継手部分を螺旋状部材3が覆うことで、鉄筋や鋼材が重なる部分が多くなる。
そして、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2との重ね継手部分を覆う螺旋状部材3が後述する固化材料(コンクリートやモルタルなど)を拘束するようになっているので、それぞれの鉄筋1,2に大きな引張応力が作用して固化材料(後述する接合部30)を膨張させてひび割れを発生させようとする力に抵抗させることができ、重ね継手の定着強度を大幅に向上することができる。
なお、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2とが重ね継手の配置(図3に示した配置)になった後に、収縮されていた螺旋状部材3が伸長するように復元されればよく、スライド移動させるタイミングに復元することに限らない。
【0023】
上記したように、一方のプレキャスト部材10の側面寄りの位置に待避させている螺旋状部材3を収縮させておけば、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2を左右に隣接させた配置(重ね継手の配置)にする際の妨げにならないので、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2との重ね継手部分をより長くすることができ、また伸長するように復元させた螺旋状部材3によってその重ね継手部分を長く覆うことが可能になる。
更に、重ね継手長と螺旋状部材3を退避させる範囲を加えた接合部30(後述)の長さを小さくすることができる。
なお、設計上、重ね継手部分が短くて済む場合は、螺旋状部材3を収縮させておく必要はなく、一方のプレキャスト部材10に対して他方のプレキャスト部材20を落とし込んで第1の鉄筋1と第2の鉄筋2とを重ね継手の配置に位置合わせした後、螺旋状部材3をそのままスライド移動させて重ね継手部分を覆うようにすればよい。
【0024】
次いで、図5に示すように、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2との重ね継手部分を覆うように設置された螺旋状部材3に沿わせた位置に、一方のプレキャスト部材10と他方のプレキャスト部材20との間に打設されるコンクリートを拘束するスパイラル筋4を設置する。
具体的には、スパイラル筋4は、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2の延在方向に伸縮可能な姿勢で設置される。換言すれば、スパイラル筋4は、一方のプレキャスト部材10と他方のプレキャスト部材20とが対向する方向に伸縮可能な姿勢で設置される。
ここでは、スパイラル筋4の設置の妨げになる鉄筋1,2がないので、鉄筋1と鉄筋2を重ね継手の配置にした後、例えば、プレキャスト部材10,20の側方からスパイラル筋4を挿入するように設置している。
また、螺旋状部材3が一方のプレキャスト部材10の側面寄りの位置に待避されている状態で、スパイラル筋4を一方のプレキャスト部材10の側面寄りの位置に待避させて、その伸縮方向に収縮させておき、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2とが重ね継手の配置にされた後、スパイラル筋4を伸長させて復元するように設置してもよい。
スパイラル筋4は、例えば、線状の鋼材(棒鋼、線材など)を同心状に巻いて形成した螺旋状の鉄筋である。
このようなスパイラル筋4を、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2の重ね継手部分を覆っている螺旋状部材3に沿わせた位置に設置することで、鉄筋や鋼材が重なる部分が多くなり、そのスパイラル筋4が後述する固化材料(コンクリートやモルタルなど)を好適に拘束するので、プレキャスト部材の接合部分の地震時の変形性能を大幅に向上することができる。
【0025】
次いで、図6図7に示すように、プレキャスト部材(10、20)の外縁寄りにある第1の鉄筋1と第2の鉄筋2を取り囲むように、スターラップ(あばら筋)5を配設する。
外周側にある複数の第1の鉄筋1と第2の鉄筋2を取り囲むスターラップ5が配設されたことで、接合部分のせん断耐力と地震時の変形性能を高めることができる。
【0026】
次いで、図8に示すように、図示しない型枠などを用いて、一方のプレキャスト部材10と他方のプレキャスト部材20との間にコンクリートやモルタルなどの固化材料を打設し、その固化材料を硬化させて接合部30を形成することで、一方のプレキャスト部材10と他方のプレキャスト部材20とを接合する作業が完了する。
なお、固化材料は樹脂系材料であってもよい。
【0027】
このように、本実施形態のプレキャスト部材の接合方法であれば、一方のプレキャスト部材10に対して他方のプレキャスト部材20を略鉛直方向に落とし込んで、一方のプレキャスト部材10の第1の鉄筋1と他方のプレキャスト部材20の第2の鉄筋2とを重ね継手の配置に位置合わせした後、螺旋状部材3で重ね継手部分を覆ってその継手部分の定着性能を高めることができるので、接合部30の接合強度を向上させるとともに、その地震時の変形性能を向上させることができる。
また、螺旋状部材3で重ね継手部分を覆って接合部30の固化材料を拘束するようになっているので、それぞれの鉄筋1,2に大きな引張応力が作用して固化材料を膨張させてひび割れを発生させようとする力に抵抗させることができ、重ね継手の定着強度を大幅に向上することができる。
また、従来のループ継手を用いた場合に比べてプレキャスト部材10,20の断面積を小さくでき、小型化を図ることが可能になり、梁高(梁成)を縮小することが可能になる。
また、接合部30にスパイラル筋4を配設したことで、接合部30の地震時の変形性能をより一層向上させることができ、さらにプレキャスト部材10,20をより一層小型化することができる。
【0028】
特に、このプレキャスト部材の接合方法であれば、プレキャスト部材を略水平方向に移動させて鉄筋挿入を行う必要がなくなるので、容易にプレキャスト部材同士を接合することができる。
また、プレキャスト部材の製作においても、一方のプレキャスト部材のシース孔に他方のプレキャスト部材の鉄筋を挿入したり、一方のプレキャスト部材の機械式継手のスリーブ孔に他方のプレキャスト部材の鉄筋を挿入したりして、鉄筋同士を直接固定することが不要となり、鉄筋の配置精度に余裕を持たせて製作することが可能になるので、プレキャスト部材を容易に製作することができる。
更に、プレキャスト部材を略水平方向に移動させて鉄筋挿入を行うことが不要になるので片押し施工とはならず、梁部材などのプレキャスト部材を接合する各スパンでの同時施工が可能になるので、工期の短縮を図ることができる。
【0029】
以上のように、本実施形態のプレキャスト部材の接合方法であれば、プレキャスト部材を容易に接合することができ、重ね継手の定着強度と接合部の地震時の変形性能を向上させることができる。
【0030】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではない。
例えば、図9に示すように、プレキャスト部材の接合部分(接合部30)にスパイラル筋4を上下に2段重ねして設置してもよい。
また、梁部材や柱部材のスパン中央部付近においてプレキャスト部材を接合する場合、接合部30に作用する地震時の曲げモーメントは比較的小さくなり、接合部30に設計上要求される耐震性能は小さくなるので、例えば、図10に示すように、スパイラル筋4の配置を省略することも可能である。
このように、プレキャスト部材(10、20)の断面積などに応じて、接合部分(接合部30)に配設するスパイラル筋4の数を増やしたり減らしたりするなど設計変更することで、接合部30の耐震性能を最適化することができる。
【0031】
また、上記実施形態では、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2が略平行に隣接して左右に並んだ重ね継手を例に説明したが、例えば、図11に示すように、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2が略平行に隣接して上下に並んだ重ね継手であってもよい。
【0032】
また、上記実施形態では、第1の鉄筋1と第2の鉄筋2との重ね継手部分を覆うように1つの螺旋状部材3を設置する場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、分割された複数の螺旋体からなる螺旋状部材3を用いるようにしてもよい。
分割された複数の螺旋体からなる螺旋状部材3であっても、接合部3の固化材料を拘束することができるので、それぞれの鉄筋1,2に大きな引張応力が作用して固化材料を膨張させてひび割れを発生させようとする力に抵抗させることができ、重ね継手の定着強度を向上することができる。
なお、螺旋体は、略リング状部材であり、所謂二重リングや二重カンのような形状を呈する部材であってもよい。
【0033】
また、以上の実施の形態においては、プレキャスト部材としての梁部材同士を接合する場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、プレキャスト部材としての梁部材と柱部材を接合するのに、互いの鉄筋の重ね継手部分を螺旋状部材3で覆って補強する本実施形態のプレキャスト部材の接合方法を適用してもよい。
【0034】
また、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0035】
10 一方のプレキャスト部材
20 他方のプレキャスト部材
30 接合部
1 第1の鉄筋
2 第2の鉄筋
3 螺旋状部材
4 スパイラル筋
5 スターラップ
51 柱体
52 柱体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11