(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181728
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/12 20160101AFI20231218BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20231218BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20231218BHJP
B60W 20/13 20160101ALI20231218BHJP
B60W 20/16 20160101ALI20231218BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20231218BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20231218BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20231218BHJP
【FI】
B60W20/12
B60K6/445 ZHV
B60W10/06 900
B60W20/13
B60W20/16
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095026
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100180194
【弁理士】
【氏名又は名称】利根 勇基
(72)【発明者】
【氏名】三好 悠司
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA03
3D202AA10
3D202BB00
3D202BB08
3D202BB19
3D202CC59
3D202DD00
3D202DD01
3D202DD45
3D202DD50
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BD17
5H125CA02
5H125CA09
5H125EE27
5H125EE52
5H125EE55
(57)【要約】
【課題】低排出ゾーン内において、電力不足により内燃機関が駆動される時間を低減する。
【解決手段】車両制御装置は、ハイブリッド車両1の位置を取得する位置取得部15と、バッテリ24のSOCを算出するSOC算出部16と、内燃機関7及び電気モータ8の出力を制御する出力制御部17とを備える。出力制御部は、SOCが所定の閾値まで低下したときには、内燃機関を駆動させるCSモードにハイブリッド車両の走行モードを設定し、ハイブリッド車両の位置が内燃機関の停止を要求する低排出ゾーン内であるときには、CSモードにおけるハイブリッド車両の速度を所定値以下に制限し、且つ、ハイブリッド車両の位置が低排出ゾーン外であるときと比べて、CSモードにおける内燃機関の出力を増加させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関、電気モータ及びバッテリを備えるハイブリッド車両を制御する車両制御装置であって、
前記ハイブリッド車両の位置を取得する位置取得部と、
前記バッテリのSOCを算出するSOC算出部と、
前記内燃機関及び前記電気モータの出力を制御する出力制御部と
を備え、
前記出力制御部は、前記SOCが所定の閾値まで低下したときには、前記内燃機関を駆動させるCSモードに前記ハイブリッド車両の走行モードを設定し、前記ハイブリッド車両の位置が前記内燃機関の停止を要求する低排出ゾーン内であるときには、前記CSモードにおける前記ハイブリッド車両の速度を所定値以下に制限し、且つ、前記ハイブリッド車両の位置が前記低排出ゾーン外であるときと比べて、前記CSモードにおける前記内燃機関の出力を増加させる、車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染を低減すべく、交通量の多い都市部のような場所において、車両の走行時に内燃機関の停止を要求する低排出ゾーン(例えば、LEZ(Low Emission Zone)、ULEZ(Ultra Low Emission Zone)、ZEZ(Zero Emission Zone)等)が設定されてきている。内燃機関及び電気モータを備えたハイブリッド車両が斯かる低排出ゾーンを走行するときには、内燃機関を停止させて電気モータのみによって走行用の動力を出力する必要がある。
【0003】
これに関して、特許文献1には、ハイブリッド車両の位置が低排出ゾーン(特許文献1では「大気汚染防止強化地域」)内であると判定されると、内燃機関を停止させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、低排出ゾーンにおいて、電気モータを駆動するための電力が不足した場合には、車両の走行を継続するために内燃機関を一時的に駆動せざるを得ない。内燃機関が駆動されると、内燃機関の余剰出力によって発電された電力がバッテリに供給され、バッテリが充電される。
【0006】
しかしながら、内燃機関の出力の大部分が走行用の動力として使用される場合には、バッテリに供給される電力が少なくなり、バッテリの充電率(SOC:State of Charge)の回復が遅くなる。この結果、低排出ゾーン内で内燃機関が駆動される時間が長くなり、低排出ゾーンにおける排気エミッションが悪化するおそれがある。
【0007】
そこで、上記課題に鑑みて、本発明の目的は、低排出ゾーン内において、電力不足により内燃機関が駆動される時間を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、内燃機関、電気モータ及びバッテリを備えるハイブリッド車両を制御する車両制御装置であって、前記ハイブリッド車両の位置を取得する位置取得部と、前記バッテリのSOCを算出するSOC算出部と、前記内燃機関及び前記電気モータの出力を制御する出力制御部とを備え、前記出力制御部は、前記SOCが所定の閾値まで低下したときには、前記内燃機関を駆動させるCSモードに前記ハイブリッド車両の走行モードを設定し、前記ハイブリッド車両の位置が前記内燃機関の停止を要求する低排出ゾーン内であるときには、前記CSモードにおける前記ハイブリッド車両の速度を所定値以下に制限し、且つ、前記ハイブリッド車両の位置が前記低排出ゾーン外であるときと比べて、前記CSモードにおける前記内燃機関の出力を増加させる、車両制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低排出ゾーン内において、電力不足により内燃機関が駆動される時間を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係る車両の構成を概略的に示す図である。
【
図2】
図2は、車両のパワートレーンの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、ECUのプロセッサの機能ブロック図である。
【
図4】
図4は、第一実施形態において車両の走行モードがCDモードとCSモードとの間で切り替えられるときの各種パラメータのタイムチャートである。
【
図5A】
図5Aは、本発明の第一実施形態における走行モード設定処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図5B】
図5Bは、本発明の第一実施形態における走行モード設定処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、アクセル開度と内燃機関の出力との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、第二実施形態において車両の走行モードがCDモードとCSモードとの間で切り替えられるときの各種パラメータのタイムチャートである。
【
図8】
図8は、本発明の第二実施形態における走行モード設定処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
【0012】
<第一実施形態>
最初に、
図1~
図6を参照して、本発明の第一実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の第一実施形態に係る車両1の構成を概略的に示す図である。
図1に示されるように、車両1は、GNSS受信機2、地図データベース3、ナビゲーション装置4、センサ5、ヒューマンマシンインタフェース(HMI:Human Machine Interface)6、内燃機関7、電気モータ8、及び電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)10を備える。GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機2、地図データベース3、ナビゲーション装置4、センサ5、HMI6、内燃機関7及び電気モータ8は、CAN(Controller Area Network)等の規格に準拠した車内ネットワーク等を介してECU10に通信可能に接続される。
【0014】
GNSS受信機2は、複数(例えば3つ以上)の測位衛星から得られる測位情報に基づいて、車両1の現在位置(例えば車両1の緯度及び経度)を検出する。具体的には、GNSS受信機2は、複数の測位衛星を捕捉し、測位衛星から発信された電波を受信する。そして、GNSS受信機2は、電波の発信時刻と受信時刻との差に基づいて測位衛星までの距離を算出し、測位衛星までの距離及び測位衛星の位置(軌道情報)に基づいて車両1の現在位置を検出する。GNSS受信機2の出力、すなわちGNSS受信機2によって検出された車両1の現在位置はECU10に送信される。GPS受信機はGNSS受信機の一例である。
【0015】
地図データベース3は地図情報を記憶している。ECU10は地図データベース3から地図情報を取得する。なお、地図データベースが車両1の外部(例えばサーバ等)に設けられ、ECU10は車両1の外部から地図情報を取得してもよい。
【0016】
ナビゲーション装置4は、GNSS受信機2によって検出された車両1の現在位置、地図データベース3の地図情報、ドライバによる入力等に基づいて、目的地までの車両1の走行ルートを設定する。ナビゲーション装置4によって設定された走行ルートはECU10に送信される。なお、GNSS受信機2及び地図データベース3はナビゲーション装置4に組み込まれていてもよい。
【0017】
センサ5は、車両状態に関するパラメータを検出する。センサ5は、例えば、車両1の速度を検出する車速センサ、車両1のヨーレートを検出するヨーレートセンサ、車両1のアクセル開度を検出するアクセルポジションセンサ等を含む。センサ5の出力、すなわちセンサ5によって検出されたパラメータはECU10に送信される。
【0018】
HMI6は車両1と車両1の乗員(例えばドライバ)との間で情報の授受を行う。HMI6は、例えば、情報を表示するディスプレイ、音を発生させるスピーカー、乗員が入力操作を行うための操作ボタン又は操作スイッチ、乗員の音声を受信するマイクロフォン等を含む。HMI6のディスプレイは、タッチスクリーン、ヘッドアップディスプレイ、デジタルメータパネル等を含む。ECU10の出力はHMI6を介して乗員に通知され、乗員からの入力はHMI6を介してECU10に送信される。HMI6は、入力装置、出力装置又は入出力装置の一例である。なお、車両の乗員の携帯端末(スマートフォン、タブレット端末等)が、有線又は無線によってECU10と通信可能に接続され、HMI6として機能してもよい。また、HMI6はナビゲーション装置4と一体であってもよい。
【0019】
内燃機関7及び電気モータ8は、それぞれ、走行用の動力を出力し、車両1の駆動装置として機能する。ECU10は内燃機関7及び電気モータ8を制御する。
【0020】
図2は、車両1のパワートレーンの一例を示す図である。車両1は、いわゆるハイブリッド車両(HEV)であり、内燃機関7、第1電動発電機21、動力分割機構22、第2電動発電機8a、パワーコントロールユニット(PCU)23、バッテリ24及び減速機27を備える。
【0021】
内燃機関7は、燃料と空気との混合気を気筒内で燃焼させて動力を出力し、例えばガソリンエンジン又はディーゼルエンジンである。内燃機関7の出力軸(クランクシャフト)は動力分割機構22に機械的に接続されており、内燃機関7の出力は動力分割機構22に入力される。
【0022】
動力分割機構22は、サンギア、リングギア、ピニオンギア及びプラネタリキャリアを含む公知の遊星歯車機構として構成される。動力分割機構22は内燃機関7の出力を第1電動発電機21と減速機27とに分配する。減速機27に分配された内燃機関7の出力は、走行用の動力として車軸28を介して車輪29に伝達される。したがって、内燃機関7は走行用の動力を出力することができる。
【0023】
第1電動発電機21は発電機及び電動機として機能する。第1電動発電機21が発電機として機能するときには、内燃機関7の出力が動力分割機構22を介して第1電動発電機21に供給される。第1電動発電機21は内燃機関7の出力を用いて電力を発電する。第1電動発電機21によって発電された電力は、PCU23を介して、第2電動発電機8a及びバッテリ24の少なくとも一方に供給される。
【0024】
一方、第1電動発電機21が電動機として機能するときには、バッテリ24に蓄えられた電力がPCU23を介して第1電動発電機21に供給される。第1電動発電機21の出力は動力分割機構22を介して内燃機関7の出力軸に供給され、内燃機関7のクランキングが行われる。
【0025】
第2電動発電機8aは電動機及び発電機として機能する。第2電動発電機8aが電動機として機能するとき、第1電動発電機21によって発電された電力及びバッテリ24に蓄えられた電力の少なくとも一方が第2電動発電機8aに供給される。第2電動発電機8aの出力は減速機27に供給され、減速機27に供給された第2電動発電機8aの出力は走行用の動力として車軸28を介して車輪29に伝達される。したがって、第2電動発電機8aは走行用の動力を出力することができる。第2電動発電機8aは
図1の電気モータ8の一例である。
【0026】
一方、車両1の減速時には、車輪29の回転によって第2電動発電機8aが駆動され、第2電動発電機8aは発電機として機能する。このとき、いわゆる回生が行われ、第2電動発電機8aによって発電された回生電力はPCU23を介してバッテリ24に供給される。
【0027】
PCU23は、インバータ、昇圧コンバータ及びDCDCコンバータを有し、第1電動発電機21、第2電動発電機8a及びバッテリ24に電気的に接続される。PCU23は、バッテリ24から供給された直流電力を交流電力に変換し、第1電動発電機21又は第2電動発電機8aによって発電された交流電力を直流電力に変換する。
【0028】
バッテリ24には、内燃機関7の出力を用いて第1電動発電機21によって発電された電力と、回生エネルギーを用いて第2電動発電機8aによって発電された回生電力とが供給される。したがって、バッテリ24は内燃機関7の出力及び回生エネルギーによって充電可能である。バッテリ24は、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等の二次電池である。
【0029】
また、車両1は充電ポート25及び充電器26を備え、バッテリ24は外部電源30によっても充電可能である。すなわち、
図2に示される車両1はいわゆるプラグインハイブリッド車両(PHEV)である。
【0030】
充電ポート25は充電ケーブル31の充電用コネクタ32を介して外部電源30から電力を受け取るように構成される。外部電源30によってバッテリ24が充電されるとき、充電用コネクタ32は充電ポート25に接続される。充電器26は、外部電源30から供給された電力をバッテリ24に供給可能な電力に変換する。
【0031】
また、バッテリ24の入出力電流を検出するバッテリ電流センサ5aがバッテリ24に設けられる。すなわち、車両1はセンサ5の一つとしてバッテリ電流センサ5aを備える。バッテリ電流センサ5aの出力、すなわちバッテリ電流センサ5aによって検出されたバッテリ24の入出力電流はECU10に送信される。
【0032】
なお、第1電動発電機21は、電動機としては機能しない発電機であってもよい。また、第2電動発電機8aは、発電機としては機能しない電動機であってもよい。また、充電ポート25がPCU23に接続され、PCU23が充電器26として機能してもよい。
【0033】
図1に示されるECU10は車両1の各種制御を実行する。すなわち、本実施形態では、ECU10が、ハイブリッド車両を制御する車両制御装置として機能する。なお、本実施形態では、一つのECU10が設けられているが、機能毎に複数のECUが設けられていてもよい。
【0034】
図1に示されるように、ECU10は、通信インターフェース11、メモリ12及びプロセッサ13を備える。通信インターフェース11、メモリ12及びプロセッサ13は信号線を介して互いに接続されている。
【0035】
通信インターフェース11は、CAN等の規格に準拠した車内ネットワークにECU10を接続するためのインターフェース回路を有する。ECU10は、通信インターフェース11を介して、上述したような他の車載機器に接続される。
【0036】
メモリ12は、例えば、揮発性の半導体メモリ(例えばRAM)及び不揮発性の半導体メモリ(例えばROM)を有する。メモリ12は、プロセッサ13において実行されるプログラム、プロセッサ13によって各種処理が実行されるときに使用される各種データ等を記憶する。
【0037】
プロセッサ13は、一つ又は複数のCPU(Central Processing Unit)及びその周辺回路を有し、各種処理を実行する。なお、プロセッサ13は、論理演算ユニット又は数値演算ユニットのような演算回路を更に有していてもよい。
【0038】
図3は、ECU10のプロセッサ13の機能ブロック図である。本実施形態では、プロセッサ13は、位置取得部15、SOC算出部16及び出力制御部17を有する。位置取得部15、SOC算出部16及び出力制御部17は、ECU10のメモリ12に記憶されたプログラムをECU10のプロセッサ13が実行することによって実現される機能モジュールである。なお、これら機能モジュールは、それぞれ、プロセッサ13に設けられた専用の演算回路によって実現されてもよい。
【0039】
位置取得部15は車両1の位置を取得する。SOC算出部16はバッテリ24の充電率(SOC:State of Charge)を算出する。出力制御部17は内燃機関7及び電気モータ8の出力を制御する。
【0040】
出力制御部17は、車両1が走行するときの車両1の走行モードを設定する。本実施形態では、出力制御部17は車両1の走行モードをCD(Charge Depleting)モード及びCS(Charge Sustaining)モードのいずれか一方に設定する。CDモードでは、出力制御部17は内燃機関7を停止させて電気モータ8のみを駆動し、バッテリ24のSOCが低下する。一方、CSモードでは、出力制御部17は内燃機関7を駆動し、バッテリ24のSOCが維持され又は増大する。なお、CSモードにおいて電気モータ8は駆動されてもされなくてもよい。
【0041】
出力制御部17は車両1の状態(要求出力、バッテリ24のSOC等)に応じて走行モードを選択する。例えば、バッテリ24のSOCが低いときには、電気モータ8を駆動するための電力が不足し、電気モータ8のみによって走行用の動力を出力することが困難である。このため、出力制御部17は、バッテリ24のSOCが所定の閾値まで低下したときには、車両1の走行モードをCSモードに設定して内燃機関7を駆動する。
【0042】
ところで、大気汚染を低減すべく、交通量の多い都市部のような場所において、車両の走行時に内燃機関の停止を要求する低排出ゾーン(例えば、LEZ(Low Emission Zone)、ULEZ(Ultra Low Emission Zone)、ZEZ(Zero Emission Zone)等)が設定されてきている。斯かる低排出ゾーンでは、内燃機関の駆動が禁止又は制限され、原則として、排気ガスを排出することなく走行可能な車両(例えば、ハイブリッド車両、電気自動車、燃料電池車等)のみの通行が許可される。低排出ゾーンにおいて内燃機関が駆動された場合には、車両のドライバに罰金等が課される。
【0043】
このため、低排出ゾーンにおいて、出力制御部17は走行モードとしてCSモードよりもCDモードを優先的に選択する。すなわち、出力制御部17は、車両1の位置が低排出ゾーン内であり且つバッテリ24のSOCが所定の閾値よりも高いときには、車両1の走行モードをCDモードに設定する。このことによって、低排出ゾーン内において内燃機関7が駆動されることを抑制することができる。
【0044】
しかしながら、低排出ゾーンにおいて、電気モータ8を駆動するための電力が不足した場合には、走行モードとして一時的にCSモードを選択せざるを得ない。CSモードでは、第1電動発電機21に分配される内燃機関7の余剰出力によって発電された電力がバッテリ24に供給され、バッテリ24が充電される。しかしながら、内燃機関7の出力の大部分が走行用の動力として使用される場合には、バッテリ24に供給される電力が少なくなり、バッテリ24のSOCの回復が遅くなる。この結果、低排出ゾーン内で内燃機関7が駆動される時間が長くなり、低排出ゾーンにおける排気エミッションが悪化するおそれがある。
【0045】
そこで、本実施形態では、出力制御部17は、車両1の位置が低排出ゾーン内であるときには、CSモードにおける車両1の速度を所定値以下に制限し、且つ、車両1の位置が低排出ゾーン外であるときと比べて、CSモードにおける内燃機関7の出力を増加させる。このことによって、CSモードにおける内燃機関7の余剰出力を増加させることができ、ひいてはバッテリ24のSOCを早期に回復させて車両1の走行モードをCDモードに復帰させることができる。したがって、低排出ゾーン内で内燃機関7が駆動される時間が長くなることを抑制することができる。
【0046】
以下、
図4を参照して、上述した制御について具体的に説明する。
図4は、第一実施形態において車両1の走行モードがCDモードとCSモードとの間で切り替えられるときの各種パラメータのタイムチャートである。
図4には、各種パラメータとして、車両1の位置、走行モード、バッテリ24のSOC、アクセル開度、車両1の速度(車速)及び内燃機関7の出力が示されている。
【0047】
この例では、時刻t0において、車両1は低排出ゾーン外に位置し、車両1の走行モードはCDモードに設定されている。CDモードでは、内燃機関7が停止され、内燃機関7の出力はゼロとなる。時刻t0の後、CDモードにおける電気モータ8の駆動によりバッテリ24のSOCが徐々に低下する。
【0048】
時刻t1においてバッテリ24のSOCが機関始動閾値THsまで低下すると、車両1の走行モードがCDモードからCSモードに切り替えられる。この結果、内燃機関7が始動され、内燃機関7の出力が、アクセル開度に応じた値に設定される。時刻t1の後、内燃機関7の余剰出力によってバッテリ24のSOCが徐々に上昇する。
【0049】
時刻t2においてバッテリ24のSOCが機関停止閾値THeまで回復すると、車両1の走行モードがCSモードからCDモードに切り替えられる。この結果、内燃機関7が停止され、バッテリ24の電力によって電気モータ8が駆動される。また、
図4の例では、時刻t2後の時刻t3において、車両1の位置が低排出ゾーン外から低排出ゾーン内に変化している。
【0050】
その後、時刻t4においてバッテリ24のSOCが機関始動閾値THsまで低下すると、車両1の走行モードがCDモードからCSモードに切り替えられ、内燃機関7が始動される。このとき、車両1の位置が低排出ゾーン内であるため、車両1の速度が制限されると共に、アクセル開度に対する内燃機関7の出力が、車両1の位置が低排出ゾーン外であるときよりも大きくされる。このため、
図4の例ではアクセル開度が一定であるが、低排出ゾーン内における車両1の速度が低排出ゾーン外における車両1の速度よりも低くなり、低排出ゾーン内における内燃機関7の出力が低排出ゾーン外における内燃機関7の出力よりも大きくなる。
【0051】
低排出ゾーン内では、車両1の速度の制限及び内燃機関7の出力の増加によりバッテリ24のSOCが迅速に回復する。時刻t5においてバッテリ24のSOCが機関停止閾値THeまで回復すると、車両1の走行モードがCSモードからCDモードに切り替えられる。この結果、内燃機関7が停止され、バッテリ24の電力によって電気モータ8が駆動される。
【0052】
以下、
図5のフローチャートを参照して、上述した制御の処理フローについて説明する。
図5A及び
図5Bは、本発明の第一実施形態における走行モード設定処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。本制御ルーチンはECU10のプロセッサ13によって繰り返し実行される。
【0053】
最初に、ステップS101において、位置取得部15は車両1の位置を取得する。例えば、位置取得部15はGNSS受信機2の出力に基づいて車両1の位置を取得する。なお、車両1の外部と通信可能な通信装置(例えば、広域通信機、車車間通信機、路車間通信機等)が車両1に設けられ、位置取得部15は、サーバ、周辺車両又は路側機との通信によって車両1の位置を取得してもよい。
【0054】
次いで、ステップS102において、SOC算出部16はバッテリ24のSOCを算出する。例えば、SOC算出部16は、バッテリ電流センサによって検出されたバッテリ24の入出力電流を積算することによってバッテリ24のSOCを算出する。なお、SOC算出部16はカルマンフィルタのような状態推定法等を用いてバッテリ24のSOCを算出してもよい。
【0055】
次いで、ステップS103において、出力制御部17は、SOC算出部16によって算出されたバッテリ24のSOCが所定の機関始動閾値THs以下であるか否かを判定する。バッテリ24のSOCが機関始動閾値THs以下であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS104に進む。
【0056】
ステップS104では、出力制御部17は車両1の走行モードをCSモードに設定する。すなわち、出力制御部17は内燃機関7を駆動する。
【0057】
次いで、ステップS105において、出力制御部17は、位置取得部15によって取得された車両1の位置が低排出ゾーン内であるか否かを判定する。低排出ゾーンの位置情報は地図データベース3の地図情報に記憶され、出力制御部17は車両1の位置を低排出ゾーンの範囲と照合することによってこの判定を行う。
【0058】
ステップS105において車両1の位置が低排出ゾーン外であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS106に進む。ステップS106では、出力制御部17は、アクセルポジションセンサによって検出されたアクセル開度に基づいて、内燃機関7の出力を制御する。
【0059】
一方、ステップS105において車両1の位置が低排出ゾーン内であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS107に進む。ステップS107では、出力制御部17は、車両1の速度を制限し、車両1の位置が低排出ゾーン外であるときと比べて、内燃機関7の出力を増加させる。
【0060】
図6は、アクセル開度と内燃機関7の出力との関係を示す図である。
図6に示されるように、車両1の位置が低排出ゾーン内であるときには、車両1の位置が低排出ゾーン外であるときと比べて、アクセル開度に対する内燃機関7の出力が大きくされる。また、車両1の速度が所定値以下に制限されるように内燃機関7の出力が動力分割機構22を介して減速機27に分配され、内燃機関7の残りの出力が動力分割機構22を介して第1電動発電機21に分配される。減速機27に分配された内燃機関7の出力は走行用の動力として用いられ、第1電動発電機21に分配された内燃機関7の出力は、バッテリ24に供給される電力を発電するために用いられる。
【0061】
なお、ステップS107において、出力制御部17は、HMI6を介して、車両1の速度が制限されることを車両1の乗員に通知してもよい。また、出力制御部17は、HMI6を介して、バッテリ24の充電のために内燃機関7の出力を増加させることを車両1の乗員に通知してもよい。このことによって、車両1の乗員が車両1の挙動に不安を感じることを抑制することができる。
【0062】
ステップS106又はS107の後、本制御ルーチンはステップS108に進む。ステップS108では、ステップS102と同様に、SOC算出部16はバッテリ24のSOCを算出する。
【0063】
次いで、ステップS109では、出力制御部17は、SOC算出部16によって算出されたバッテリ24のSOCが所定の機関停止閾値THe以上であるか否かを判定する。機関停止閾値THeは機関始動閾値THsよりも高い値に設定される。ステップS109においてバッテリ24のSOCが機関停止閾値THe未満であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS104に戻り、ステップS104~S108が再び実行される。一方、ステップS109においてバッテリ24のSOCが機関停止閾値THe以上であると判定された場合、本制御ルーチンは終了する。
【0064】
また、ステップS103においてバッテリ24のSOCが機関始動閾値THsよりも高いと判定された場合、本制御ルーチンはステップS110に進む。ステップS110では、ステップS105と同様に、出力制御部17は、位置取得部15によって取得された車両1の位置が低排出ゾーン内であるか否かを判定する。
【0065】
ステップS110において車両1の位置が低排出ゾーン内であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS111に進む。ステップS111では、出力制御部17は車両1の走行モードをCDモードに設定する。すなわち、出力制御部17は、内燃機関7を停止し、電気モータ8のみを用いて走行用の動力を出力する。ステップS111の後、本制御ルーチンは終了する。
【0066】
一方、ステップS110において車両1の位置が低排出ゾーン外であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS112に進む。ステップS112では、出力制御部17は車両1の状態(要求出力、バッテリ24のSOC等)に応じて走行モードを選択する。例えば、出力制御部17は、登坂路や高速道路等において要求出力が所定値以上であるときには、車両1の走行モードをCSモードに設定して内燃機関7を駆動する。ステップS112の後、本制御ルーチンは終了する。
【0067】
<第二実施形態>
第二実施形態に係る車両制御装置は、以下に説明する点を除いて、基本的に第一実施形態に係る車両制御装置と同様である。このため、以下、本発明の第二実施形態について、第一実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0068】
上述したように、出力制御部17は、バッテリ24のSOCが所定の閾値まで低下したときには、車両1の走行モードをCSモードに設定する。しかしながら、バッテリ24のSOCが閾値未満となることを一時的に許容することによって、バッテリ24のSOCの電欠を回避しつつ、低排出ゾーン内の車両1が電気モータ8の出力のみによって低排出ゾーンの境界まで到達できる場合がある。斯かる場合には、バッテリ24のSOCの値に関わらず、車両1が低排出ゾーン外に出るまで車両1の走行モードをCDモードに維持することが望ましい。
【0069】
このため、第二実施形態では、SOC算出部16は、低排出ゾーン内に位置している車両1の走行モードがCDモードに維持された場合に車両1が低排出ゾーンの境界に到達するときのバッテリ24のSOC(以下、「到達時SOC」という)を算出する。そして、出力制御部17は、到達時SOCが所定の下限値以上である場合には、車両1が低排出ゾーン外に出るまで車両1の走行モードをCDモードに維持する。このことによって、低排出ゾーン内において内燃機関7が駆動される時間をより一層低減することができる。
【0070】
以下、
図7を参照して、上述した制御について具体的に説明する。
図7は、第二実施形態において車両1の走行モードがCDモードとCSモードとの間で切り替えられるときの各種パラメータのタイムチャートである。
図7には、各種パラメータとして、低排出ゾーンの境界までの距離、車両1の位置、走行モード、バッテリ24のSOC、アクセル開度、車両1の速度及び内燃機関7の出力が示されている。
【0071】
この例では、時刻t0において、車両1は低排出ゾーン内に位置し、車両1の走行モードはCDモードに設定されている。CDモードでは、内燃機関7が停止され、内燃機関7の出力はゼロとなる。時刻t0の後、CDモードにおける電気モータ8の駆動によりバッテリ24のSOCが徐々に低下する。
【0072】
時刻t1において、バッテリ24のSOCが機関始動閾値THsまで低下する。このとき、低排出ゾーンの境界までの距離が長いため、車両1の走行モードがCDモードに維持されると、バッテリ24のSOCが下限値LVに達することが予想される。このため、時刻t1において、車両1の走行モードがCDモードからCSモードに切り替えられ、内燃機関7が始動される。時刻t1の後、内燃機関7の余剰出力によってバッテリ24のSOCが徐々に上昇する。
【0073】
時刻t2においてバッテリ24のSOCが機関停止閾値THeまで回復すると、車両1の走行モードがCSモードからCDモードに切り替えられる。この結果、内燃機関7が停止され、バッテリ24の電力によって電気モータ8が駆動される。
【0074】
その後、時刻t3において、バッテリ24のSOCが再び機関始動閾値THsまで低下する。このとき、低排出ゾーンの境界までの距離が短いため、車両1の走行モードがCDモードに維持されたとしても、バッテリ24のSOCが下限値LVに達しないことが予想される。このため、時刻t3において、車両1の走行モードがCDモードに維持される。
【0075】
その後、時刻t4において車両1が低排出ゾーンの境界に達すると、バッテリ24のSOCを回復させるべく、車両1の走行モードがCDモードからCSモードに切り替えられる。
【0076】
以下、
図8のフローチャートを参照して、上述した制御の処理フローについて説明する。
図8は、本発明の第二実施形態における走行モード設定処理の制御ルーチンを示すフローチャートである。本制御ルーチンはECU10のプロセッサ13によって繰り返し実行される。
【0077】
ステップS201~S203は
図5AのステップS101~S103と同様に実行される。ステップS203においてバッテリ24のSOCが機関始動閾値THs以下であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS204に進む。
【0078】
ステップS204では、
図5AのステップS105と同様に、出力制御部17は、位置取得部15によって取得された車両1の位置が低排出ゾーン内であるか否かを判定する。車両1の位置が低排出ゾーン内であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS205に進む。
【0079】
ステップS205では、SOC算出部16は到達時SOCを算出する。具体的には、SOC算出部16は、車両1がCDモードによって低排出ゾーンの境界まで到達するために必要なバッテリ24の所要SOCを算出し、バッテリ24の現在のSOCから所要SOCを減算することによって到達時SOCを算出する。例えば、SOC算出部16は、ナビゲーション装置4によって設定された走行ルートに基づいて車両1の現在位置から低排出ゾーンの境界までの走行距離を算出し、この走行距離に基づいて所要SOCを算出する。なお、SOC算出部16は車両1の過去の走行履歴等に基づいて所要SOCを算出してもよい。
【0080】
次いで、ステップS206において、出力制御部17は、到達時SOCが所定の下限値LV以上であるか否かを判定する。下限値LVはステップS203における機関始動閾値THsよりも低い値に設定される。ステップS206において到達時SOCが下限値LV以上であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS207に進む。
【0081】
ステップS207では、出力制御部17は車両1の走行モードをCDモードに設定する。すなわち、出力制御部17は、内燃機関7を停止し、電気モータ8のみを用いて走行用の動力を出力する。ステップS207の後、本制御ルーチンは終了する。
【0082】
一方、ステップS206において到達時SOCが下限値LV未満であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS208に進む。ステップS208では、出力制御部17は車両1の走行モードをCSモードに設定する。すなわち、出力制御部17は内燃機関7を駆動する。
【0083】
次いで、ステップS209において、
図5AのステップS107と同様に、出力制御部17は、車両1の速度を制限し、車両1の位置が低排出ゾーン外であるときと比べて、内燃機関7の出力を増加させる。
【0084】
また、ステップS204において車両1の位置が低排出ゾーン外であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS210に進む。ステップS210では、出力制御部17は車両1の走行モードをCSモードに設定する。すなわち、出力制御部17は内燃機関7を駆動する。
【0085】
次いで、ステップS211において、
図5AのステップS106と同様に、出力制御部17は、アクセルポジションセンサによって検出されたアクセル開度に基づいて、内燃機関7の出力を制御する。
【0086】
ステップS209又はS211の後、本制御ルーチンはステップS212に進む。ステップS212では、ステップS202と同様に、SOC算出部16はバッテリ24のSOCを算出する。
【0087】
次いで、ステップS213では、
図5AのステップS109と同様に、出力制御部17は、SOC算出部16によって算出されたバッテリ24のSOCが所定の機関停止閾値THe以上であるか否かを判定する。バッテリ24のSOCが機関停止閾値THe未満であると判定された場合、本制御ルーチンはステップS204に戻り、ステップS204~S212が再び実行される。一方、ステップS213においてバッテリ24のSOCが機関停止閾値THe以上であると判定された場合、本制御ルーチンは終了する。
【0088】
また、ステップS203においてバッテリ24のSOCが機関始動閾値THsよりも高いと判定された場合、本制御ルーチンは
図5BのステップS110に進み、ステップS110~S112が実行される。
【0089】
<その他の実施形態>
以上、本発明に係る好適な実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載内で様々な修正及び変更を施すことができる。例えば、車両1は、内燃機関を駆動させることなく走行可能であれば、外部電源によってバッテリ24が充電されないタイプのハイブリッド車両であってもよい。
【0090】
また、出力制御部17は、車両1の位置が低排出ゾーン内であるときには、CSモードだけでなくCDモードにおける車両1の速度も所定値以下に制限してもよい。このことによって、CDモードにおける電力消費量を少なくすることができ、低排出ゾーン内におけるCDモードの継続時間を長くすることができる。
【符号の説明】
【0091】
1 車両
7 内燃機関
8 電気モータ
8a 第2電動発電機
10 電子制御ユニット(ECU)
15 位置取得部
16 SOC算出部
17 出力制御部
24 バッテリ