(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181730
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】照明装置、車両用前照灯システム
(51)【国際特許分類】
F21S 41/64 20180101AFI20231218BHJP
F21S 41/63 20180101ALI20231218BHJP
F21V 9/00 20180101ALI20231218BHJP
F21V 9/40 20180101ALI20231218BHJP
F21S 41/30 20180101ALI20231218BHJP
F21S 41/20 20180101ALI20231218BHJP
F21S 41/147 20180101ALI20231218BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20231218BHJP
F21W 102/145 20180101ALN20231218BHJP
【FI】
F21S41/64
F21S41/63
F21V9/00 200
F21V9/40 400
F21S41/30
F21S41/20
F21S41/147
F21Y115:10
F21W102:145
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095030
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
(57)【要約】 (修正有)
【課題】照射光の配光制御の多様化を実現し得る技術を提供する。
【解決手段】光源と、集光部と、前記集光部によって集光される前記光の焦点位置に配置される液晶素子と、前記液晶素子を透過する前記光が入射し得る位置に配置される投影レンズと、前記光源と前記液晶素子との間に配置される第1偏光板と、前記液晶素子と前記投影レンズとの間に配置される第2偏光板と、前記光源と前記液晶素子との間に配置される回折光学素子を含み、前記回折光学素子は、各々、周期的又は連続的に屈折率の変化した第1状態と当該屈折率が略一様な第2状態とを電気的に切り替え可能な複数の光変調領域を有しており、前記第1状態は、入射光に対して回折効果を生じさせることが可能であり、前記複数の光変調領域の各々は、前記光が入射可能な位置であって前記焦点位置よりも前記光源に近い位置に配置される、照明装置である。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から放出される前記光を集光する集光部と、
前記集光部によって集光される前記光の焦点位置に配置される液晶素子と、
前記液晶素子を透過する前記光が入射し得る位置に配置される投影レンズと、
前記光源と前記液晶素子との間に配置される第1偏光板と、
前記液晶素子と前記投影レンズとの間に配置される第2偏光板と、
前記光源と前記液晶素子との間に配置される回折光学素子と、
を含み、
前記回折光学素子は、各々、周期的又は連続的に屈折率の変化した第1状態と当該屈折率が略一様な第2状態とを電気的に切り替え可能な複数の光変調領域を有しており、
前記第1状態は、入射光に対して回折効果を生じさせることが可能であり、
前記複数の光変調領域の各々は、前記光が入射可能な位置であって前記焦点位置よりも前記光源に近い位置に配置される、
照明装置。
【請求項2】
前記回折光学素子は、前記光源と前記第1偏光板との間に配置される、
請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記回折光学素子は、前記第1偏光板と前記液晶素子との間に配置される、
請求項1に記載の照明装置。
【請求項4】
前記回折光学素子の前記複数の光変調領域の各々は、
対向配置される第1基板と第2基板の間に設けられた液晶層と、
平面視で前記液晶層と重なるようにして前記第1基板に設けられた櫛歯状電極と、を含む、
請求項1に記載の照明装置。
【請求項5】
前記回折光学素子の前記複数の光変調領域の各々は、
前記第1基板の前記液晶層と対向する一面側において前記櫛歯状電極よりも当該一面に近い側に設けられ、平面視で前記櫛歯状電極と重なるように配置される共通電極と、
前記櫛歯状電極と前記共通電極との間に配置される絶縁膜と、
を含む、請求項4に記載の照明装置。
【請求項6】
前記回折光学素子の前記複数の光変調領域の各々は、
前記第2基板の前記液晶層と対向する一面側に設けられ、平面視で前記櫛歯状電極と重なるように配置される対向電極、
を含む、請求項5に記載の照明装置。
【請求項7】
前記櫛歯状電極は、複数の電極枝を有しており、
前記複数の電極枝の各々の幅が5μm以下であり、隣り合う前記電極枝同士の相互間距離が5μm以下である、
請求項4に記載の照明装置。
【請求項8】
請求項1に記載の照明装置を用いて構成される車両用灯具と、
前記車両用灯具と接続されており、車両周辺の状況に応じて前記車両用灯具の前記液晶素子の動作を制御するとともに前記回折光学素子の動作を制御するコントローラと、
を含む、
車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、照明装置、車両用前照灯システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5238124号公報(特許文献1)には、光源、リフレクタ及びレンズを有し、さらに光源とレンズとの間に配置して光源とリフレクタとレンズとで構成される基本配光よりも広範囲に亘る配光制御を可能にする液晶光学素子を備えた灯具が記載されている。この灯具の液晶光学素子は、電圧無印加時には互いに隣接するグレーティング部と非グレーティング部との分子配列及び屈折率の均一性によって透明状態を示し、電圧印加持にはグレーティング部と非グレーティング部との屈折率差によって液晶層内を導光される光が所定方向に屈折されて散乱光となり、外部に対する照射方向が広がるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る具体的態様は、車両用灯具等の照明装置ないしこれを用いるシステムにおける照射光の配光制御の多様化を実現し得る技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本開示に係る一態様の照明装置は、(a)光源と、(b)前記光源から放出される前記光を集光する集光部と、(c)前記集光部によって集光される前記光の焦点位置に配置される液晶素子と、(d)前記液晶素子を透過する前記光が入射し得る位置に配置される投影レンズと、(e)前記光源と前記液晶素子との間に配置される第1偏光板と、(f)前記液晶素子と前記投影レンズとの間に配置される第2偏光板と、(g)前記光源と前記液晶素子との間に配置される回折光学素子と、を含み、(h)前記回折光学素子は、各々、周期的又は連続的に屈折率の変化した第1状態と当該屈折率が略一様な第2状態とを電気的に切り替え可能な複数の光変調領域を有しており、(i)前記第1状態は、入射光に対して回折効果を生じさせることが可能であり、(j)前記複数の光変調領域の各々は、前記光が入射可能な位置であって前記焦点位置よりも前記光源に近い位置に配置される、照明装置である。
【0006】
[2]本開示に係る一態様の車両用灯具システムは、(a)前記[1]の照明装置を用いて構成される車両用灯具と、(b)前記車両用灯具と接続されており、車両周辺の状況に応じて前記車両用灯具の前記液晶素子の動作を制御するとともに前記回折光学素子の動作を制御するコントローラと、を含む、車両用灯具システムである。
【0007】
上記構成によれば、車両用灯具等の照明装置ないしこれを用いるシステムにおける照射光の配光制御の多様化を実現し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、回折光学素子の構造例を説明するための模式的な平面図である。
【
図3】
図3(A)は、回折光学素子の
図2に示すa-a線方向における一部分の断面構造を模式的に示す断面図である。
図3(B)は、回折光学素子の櫛歯状電極の構造例を説明するための模式的な平面図である。
【
図4】
図4は、液晶素子の構造例を説明するための模式的な断面図である。
【
図5】
図5は、液晶素子のより具体的な実施例を説明するための模式的な平面図である。
【
図6】
図6は、回折光学素子の駆動条件を検討するために用いた光学系の構成を説明するための図である。
【
図7】
図7(A)~
図7(C)は、回折光学素子の駆動方法を説明するための図である。
【
図8】
図8(A)~
図8(C)は、回折光学素子を透過させた光の測定例を示す図である。
【
図9】
図9は、光源から出射してリフレクタによって集光されて回折光学素子に入射する光を円錐状に模式的に示した図である。
【
図11】
図11(A)、
図11(B)は、回折光学素子の透過率の測定に用いた測定系を説明するための図である。
【
図12】
図12(A)は、入射させる平行光の投光角を0°とした場合の受光角と透過率の関係を示すグラフである。
図12(B)は、入射させる平行光の投光角を+30°とした場合の受光角と透過率の関係を示すグラフである。
図12(C)は、入射させる平行光の投光角を+60°とした場合の受光角と透過率の関係を示すグラフである。
【
図13】
図13(A)~
図13(C)は、回折光学素子による回折効果を受けて液晶素子へ入射する光の様子を模式的に示す図である。
【
図14】
図14(A)は、回折光学素子へ電圧を印加しない場合の投影光の照度分布例を示す図である。
図14(B)は、回折光学素子の全ての光変調領域に電圧を印加した場合の投影光の照度分布を計算により求めた結果を示す図である。
図14(C)は、回折光学素子の1つの光変調領域に電圧を印加した場合の投影光の照度分布を計算により求めた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図1に示す車両用灯具システムは、車両用灯具(照明装置)1と、コントローラ2と、カメラ3を含んで構成されている。この車両用灯具システムは、カメラ3によって撮影される車両周辺の画像に基づいて車両の周囲に存在する前方車両や歩行者の顔等の位置(すなわち車両周辺の状況)を検出し、その検出結果に応じて前方車両等の位置を含む一定範囲を減光範囲(ないし非照射範囲)に設定し、それ以外の範囲を光照射範囲に設定して選択的な光照射を行うとともに、路面上へ種々形状の光照射を行うものである。
【0010】
車両用灯具1は、例えば車両前部の所定位置に配置されており、車両前方を照明するための照射光を形成する。なお、車両用灯具1は車両の左右それぞれに1つずつ設けられるがここでは1つのみ図示する。
【0011】
コントローラ2は、車両用灯具1の光源11、回折光学素子13、液晶素子15の動作制御を行うものである。このコントローラ2は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有するコンピュータシステムを用い、このコンピュータシステムにおいて所定の動作プログラムを実行させることによって実現される。本実施形態のコントローラ2は、運転席に設置されたライトスイッチ(図示せず)の操作状態に応じて光源11を点灯させるとともに、カメラ3によって検出される前方車両(対向車両、先行車両)、歩行者、道路標識、路上白線などの対象体に応じた配光パターンを設定し、この配光パターンに対応する像を形成するための制御信号を液晶素子15へ供給する。
【0012】
カメラ3は、車両の前方空間を撮影して画像を生成し、この画像に対して所定の画像認識処理を行って上記した前方車両等の対象体の位置、範囲、大きさ、種別などを検出する。画像認識処理による検出結果は、カメラ3と接続されているコントローラ2へ供給される。カメラ3は、車両の車室内の所定位置(例えば、フロントガラス上部)に設置されるか、または車両の車室外の所定位置(例えば、フロントバンパー内)に設置される。車両に他の用途(例えば、自動ブレーキシステム等)のためのカメラが備わっている場合にはそのカメラを共用してもよい。
【0013】
なお、カメラ3における画像認識処理の機能をコントローラ2にて代替してもよい。その場合には、カメラ3は、生成した画像をコントローラ2へ出力、この画像に基づいてコントローラ2側で画像認識処理が行われる。あるいは、カメラ3から画像とそれに基づく画像認処理の結果の双方がコントローラ2へ供給されてもよい。その場合に、コントローラ2は、カメラ3から得た画像を用いてさらに独自の画像認識処理を行ってもよい。
【0014】
図1に示す車両用灯具1は、光源11、リフレクタ(反射部材)12、回折光学素子13、偏光板14、液晶素子15、光学補償板16、偏光板17、投影レンズ18を含んで構成されている。これらの各要素は、例えば1つのハウジング(筐体)に収容されて一体化されている。また、光源11、回折光学素子13及び液晶素子15は、それぞれコントローラ2と接続されており、コントローラ2による動作制御を受ける。
【0015】
光源11は、駆動回路を含んでおり、コントローラ2による制御を受けて光を放出する。一例として、この光源11は青色LEDと青色LEDの発光が入射する位置に配置された黄色蛍光体とを備えた白色LEDであり、青色LEDにて黄色蛍光体を励起し、青色と黄色の混色によって白色を得るものである。
【0016】
リフレクタ12は、光源11に対応づけて配置されており、光源11から放出される光が液晶素子15の位置(一例として液晶素子15の厚さ方向の略中央)で焦点を結ぶように反射および集光して液晶素子15へ入射させる。リフレクタ12は、例えば楕円面状の反射面を有する反射鏡である。この場合、光源11は、リフレクタ12の反射面の焦点付近に配置することができる。なお、リフレクタ12に代えて集光部としてレンズを用いてもよい。
【0017】
回折光学素子13は、コントローラ2の制御を受けて動作し、光の回折効果(回折現象)を利用して入射光の幅を広げたり狭めたり、あるいは入射光の進行方向を変化させる。回折光学素子13の詳細な構造については後述する。
【0018】
偏光板14は、液晶素子15の光入射面側に配置されている。偏光板17は、液晶素子15の光出射面側に配置されている。これらの偏光板14、偏光板17とこれらの間に配置された液晶素子15によって、車両の前方へ照射する光の配光パターンに対応した像が形成される。一例として、各偏光板14、17の透過軸は互いに略直交する方向となるように配置される。また、各偏光板14、17の透過軸は、液晶素子15の液晶層の層厚方向の略中央における電圧無印加時の配向方向に対して平面視で略45°の角度をなす方向となるようにそれぞれ配置される。
【0019】
液晶素子15は、リフレクタ12により反射および集光された光の焦点を含む位置に配置され、当該光が入射するように配置されている。液晶素子15は、互いに独立に制御可能な複数の画素部(光変調部)を備えている。本実施形態では、液晶素子15は、各画素部に駆動電圧を与えるためのドライバ(図示せず)を有している。ドライバは、コントローラ2から供給される制御信号に基づいて、液晶素子15に対して、各画素部を個別に駆動するための駆動電圧を与える。図中に細線で光源11から出射する光の大まかな軌跡(光路)を示すように、液晶素子15に入射する光は、液晶素子15の光入射面側に対して広角に入射する。具体的には、光入射面の法線方向に対して40°~60°くらいの広角に光が入射する。
【0020】
光学補償板16は、液晶素子15を透過した光の位相差を補償し、偏光度を高めるためのものであり、液晶素子15の光出射面側に配置されている。具体的には、光学補償板16は、液晶層15の位相差と合算した位相差が0またはそれに近い値となるようにその位相差が設定される。なお、光学補償板16は省略されてもよい。
【0021】
投影レンズ18は、リフレクタ12により反射および集光され、液晶素子15を透過した光が入射し得る位置に配置されており、この入射した光を車両の前方へ投影する。投影レンズ18は、その焦点が液晶素子15の液晶層に結ばれるように配置されている。
【0022】
図2は、回折光学素子の構造例を説明するための模式的な平面図である。図示の回折光学素子13は、図中のX方向に沿って配列された3つの光変調領域30a、30b、30cと、光変調領域30aに駆動電圧を与えるための4つの端子部31aと、光変調領域30bに駆動電圧を与えるための4つの端子部31bと、光変調領域30cに駆動電圧を与えるための4つの端子部31cを含んで構成されている。光変調領域30a、30b、30cは、例えば車両の左右方向(水平方向)に沿って配列される。なお、図中では各光変調領域30a、30b、30cを見分けやすいように各光変調領域30a等の相互間に隙間が描かれているが、実際にはこれらの隙間を設けずに各光変調領域30a等が設けられていてもよい。
【0023】
光変調領域30aは、各端子部31aを用いて入力される駆動電圧によって動作し、主に回折効果によって入射光の進行方向を曲げ、あるいは入射光の幅を広げる。同様に、光変調領域30bは、各端子部31bを用いて入力される駆動電圧によって動作し、主に回折効果によって入射光の進行方向を曲げ、あるいは入射光の幅を広げる。同様に、光変調領域30cは、各端子部31cを用いて入力される駆動電圧によって動作し、主に回折効果によって入射光の進行方向を曲げ、あるいは入射光の幅を広げる。なお、いずれの光変調領域30a等においても、回折に加えて屈折の作用も生じるものであってもよい。
【0024】
図3(A)は、回折光学素子の
図2に示すa-a線方向における一部分の断面構造を模式的に示す断面図である。なお、ここでは光変調領域30aの一部分の断面構造を説明するが、他の光変調領域30b、30cにおいても断面構造は同様である。本実施形態の回折光学素子13における光変調領域30aは、対向配置された第1基板32および第2基板33、共通電極34、対向電極35、絶縁膜36、櫛歯状電極37、38、配向膜39、40、液晶層41を含んで構成されている。
【0025】
第1基板32及び第2基板33は、それぞれ、例えば平面視において矩形状の基板であり、互いに対向して配置されている。第1基板32及び第2基板33は、それぞれ、例えばガラス基板やプラスチック基板などの透明基板である。第1基板32と第2基板33の間には、例えば樹脂などからなる球状スペーサー(図示省略)が分散配置されており、それら球状スペーサーによって基板間隙が所望の大きさ(例えば数μm程度)に保たれている。なお、球状スペーサーに代えて、樹脂等からなる柱状体を第1基板32側若しくは第2基板33側に設け、それらをスペーサーとして用いてもよい。
【0026】
共通電極34は、第1基板32の一面側において各櫛歯状電極37、38よりも当該一面に近い側に設けられており、各櫛歯状電極37、38と平面視において重なるように配置されている。対向電極35は、第2基板33の一面側に設けられており、各櫛歯状電極37、38と平面視において重なるように配置されている。これらの共通電極34、対向電極35は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。共通電極34、対向電極35は、それぞれ、例えば光変調領域30aの平面視における外縁と略一致する範囲に設けられている。
【0027】
共通電極34、対向電極35は、それぞれ上記した端子部31aのいずれか1つと接続されており、それぞれ独立に印加電圧を制御することができる。なお、各端子部31aは、例えば第1基板32に設けられる。この場合に、対向電極35とこれに対応した端子部31aとの間は、例えば第1基板32と第2基板33の間の適宜位置に設けられた図示しない異方性導電膜を介して相互に電気的に接続される。
【0028】
絶縁膜36は、第1基板32の一面側において共通電極34を覆うようにしてこの共通電極34と各櫛歯状電極37、38との間に設けられている。この絶縁膜36は、共通電極34と各櫛歯状電極37、38との間の電気的絶縁を図るための膜である。絶縁膜36としては、例えばシロキサン系絶縁膜、アクリル系などの有機絶縁膜、SiNx膜、SiOx膜などの無機絶縁膜を用いることができる。なお、この絶縁膜36は、各端子部31aを覆わずにこれらを露出させるようにパターニングして設けられる。
【0029】
各櫛歯状電極37、38は、第1基板32の一面側において絶縁膜36の上側(第2基板33と対向する側)の面に設けられている。これらの櫛歯状電極37、38は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。各櫛歯状電極37、38は、平面視で液晶層41と重なるようにして配置されている。
【0030】
配向膜39は、第1基板32の一面側において櫛歯状電極37、38を覆うようにしてそれらの上側に配置されている。配向膜40は、第2基板33の一面側において対向電極35を覆うようにしてその上側に配置されている。これらの配向膜39、40は、液晶層41の配向状態を規制するためのものである。各配向膜39、40は、例えばラビング処理等の一軸配向処理が施されており、その方向に沿って液晶層41の液晶分子の配向を規定する一軸配向規制力を有している。各配向膜39、40への配向処理の方向は、例えば互い違い(アンチパラレル)となるように設定される。各配向膜39、40としては、例えば水平配向膜又は垂直配向膜が適宜用いられる。例えば、ポリイミド配向膜、シロキサン系配向膜などを用いることができる。
【0031】
液晶層41は、第1基板32と第2基板33の間に設けられている。液晶層41は、例えば、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて構成される。液晶層41は、負の誘電率異方性を有する液晶材料を用いて構成されてもよいし、正の誘電率異方性を有する液晶材料を用いて構成されてもよい。液晶層41の層厚は、例えば4μm程度とすることができる。
【0032】
図3(B)は、回折光学素子の櫛歯状電極の構造例を説明するための模式的な平面図である。図示のように櫛歯状電極37、38は、それぞれ図中のY方向に沿って延在する複数の電極枝を含んで構成されており、図中のX方向に沿って互いの電極枝が1つずつ交互に配置されている。なお、
図3(B)のX方向及びY方向は
図2のX方向及びY方向と一致している。また、X方向は車両の左右方向(水平方向)、Y方向は車両の上下方向(鉛直方向)に略一致している。また、X方向及びY方向は、それぞれ回折光学素子13の液晶層41の層厚方向と略直交する方向である。櫛歯状電極37は、配線部42と接続されており、この配線部42を介して上記した端子部31aの1つと接続されている。櫛歯状電極38は、配線部43と接続されており、この配線部42を介して上記した端子部31aの1つと接続されている。
【0033】
櫛歯状電極37は、各電極枝のX方向長さ(x1)が例えば5μmないしそれ以下の長さであり、隣り合う電極枝同士の相互間距離(x2)が例えば15μmないしそれ以下の長さである。同様に、櫛歯状電極38は、各電極枝のX方向長さ(x3)が例えば5μmないしそれ以下の長さであり、隣り合う電極枝同士の相互間距離(x4)が例えば15μmないしそれ以下の長さである。また、櫛歯状電極37の1つの電極枝とこれに隣り合う櫛歯状電極38の1つの電極枝との相互間距離(x5)は例えば5μmないしそれ以下の長さである。回折光学素子13における回折効果を生じさせるために、特に、各電極枝のX方向長さ(x1)を5μm以下、櫛歯状電極37の1つの電極枝とこれに隣り合う櫛歯状電極38の1つの電極枝との相互間距離(x5)を5μm以下とすることが好ましい。
【0034】
回折光学素子13における回折効果をより顕著に生じさせるには上記したx1、x2、x3、x4、x5のそれぞれの設定値はより小さいほど望ましい。それにより、各櫛歯状電極37、38や共通電極34、対向電極35を用いて液晶層41に電圧印加を行った際に、液晶層41内において屈折率が可視光波長と同等かそれ以下の長さで周期的に変化する状態を発生させることができる。この状態の回折光学素子13へ光を入射させることにより、上記した光変調領域30a、30b、30cのそれぞれにおいて独立に回折効果を生じさせることが可能となり、全体として光の進行方向を曲げることや光を広げることが可能となる。
【0035】
ここで、液晶層41の誘電率異方性の正負、配向膜の種類(垂直/水平)、配向膜への配向処理方向、櫛歯状電極37、38の各電極枝の延在方向の関係について説明する。まず、配向膜として垂直配向膜を用いる場合においては、各電極枝の延在方向(図示の例ではY方向)に対する配向処理方向には特段に限定がない。また、液晶層41の誘電率異方性については正でも負でもよい。通常の表示用途などの液晶素子ではこの条件にて誘電率異方性が正の液晶材料を用いた場合には液晶層41に配向変化を生じさせることが難しいが、本実施形態のように櫛歯状電極37、38を用いる回折光学素子13においては動作可能であることが確認されている。
【0036】
次に、配向膜として水平配向膜を用いる場合であって液晶層41の誘電率異方性が正である場合には、各電極枝の延在方向(図示の例ではY方向)に対して配向処理方向が直交しない方向であることが望ましく、例えば平行方向、延在方向に対して45°方向などの方向であることが望ましい。また、配向膜として水平配向膜を用いる場合であって液晶層41の誘電率異方性が負である場合には、各電極枝の延在方向(図示の例ではY方向)に対して配向処理方向が平行ではない方向であることが望ましく、例えば直交方向、延在方向に対して45°方向などの方向であることが望ましい。
【0037】
図4は、液晶素子の構造例を説明するための模式的な断面図である。ここではセグメント表示型の液晶素子を例示する。具体的には、例示の液晶素子15は、対向配置された第1基板51および第2基板52、複数の画素電極53、対向電極54、配向膜55、56、液晶層57、封止材58を含んで構成されている。
【0038】
第1基板51および第2基板52は、それぞれ、例えば平面視において矩形状の基板であり、互いに対向して配置されている。第1基板51と第2基板52の間には、例えば樹脂膜などからなる球状スペーサー(図示省略)が分散配置されており、それら球状スペーサーによって基板間隙が所望の大きさ(例えば数μm程度)に保たれている。
【0039】
なお、球状スペーサーに代えて、樹脂等からなる柱状体を第1基板51側若しくは第2基板52側に設け、それらをスペーサーとして用いてもよい。本実施形態では、第1基板51が偏光板14と対向し、第2基板52が偏光板17と対向するように各基板が配置されているものとする。すなわち、第2基板52側が液晶素子15としての光出射側となり、第1基板51側が液晶素子15としての光入射側となるように各基板が配置されているものとする。
【0040】
複数の画素電極53は、第1基板51の一面側に設けられている。これらの画素電極53は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。本実施形態では、各画素電極53と対向電極54とが向かい合う部分において画素部が構成される。
【0041】
対向電極54は、第2基板52の一面側に設けられている。この対向電極54は、第1基板51の各画素電極53と対向するようにして一体に設けられている。対向電極54は、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0042】
配向膜55は、第1基板51の一面側において各画素電極53を覆うようにしてそれらの上側に配置されている。配向膜56は、第2基板52の一面側において対向電極54を覆うようにしてその上側に配置されている。これらの配向膜55、56は、液晶層57の配向状態を規制するためのものである。各配向膜55、56は、例えばラビング処理等の一軸配向処理が施されており、その方向に沿って液晶層57の液晶分子の配向を規定する一軸配向規制力を有している。各配向膜55、56への配向処理の方向は、例えば互い違い(アンチパラレル)となるように設定される。各配向膜55、56と液晶層57との界面近傍におけるプレティルト角は例えば89°程度である。一例として本実施形態では、脂環式ポリイミド又は脂環式ポリアミック酸による配向膜を用いる。
【0043】
液晶層57は、第1基板51と第2基板52の間に設けられている。液晶層57は、例えば、流動性を有するネマティック液晶材料を用いて構成される。液晶層57は、例えば、負の誘電率異方性を有する液晶材料を用いて構成される。液晶層57の層厚は、例えば4μm程度とすることができる。
【0044】
封止材58は、第1基板51と第2基板52の間において液晶層57を囲むように設けられており、液晶層57を封止する。
【0045】
なお、液晶素子15の内部構造や駆動方法については、透過光を自在に変調して所望の像を形成し得る限りにおいて特に限定がない。例えば、各画素部に対して薄膜トランジスタを対応づけて構成されるアクティブマトリクス型の液晶素子として構成してもよいし、複数のストライプ状の透明電極を対向配置してそれら透明電極同士の重なる各領域を画素部として用いる単純マトリクス型の液晶素子として構成してもよい。さらに、液晶素子15としては、一方基板に設けられた任意形状の複数の画素電極と、他方基板に設けられた1つ(または複数)の対向電極を有するセグメント表示型の液晶素子を用いてもよく、その場合の駆動方法についてはマルチプレックス駆動を採用してもよいし、スタティック駆動を採用してもよい。
【0046】
図5は、液晶素子のより具体的な実施例を説明するための模式的な平面図である。図示の実施例の液晶素子15は、複数の画素部(セグメント領域)を備えており、これらは平面視において封止材58に囲まれた内側領域である有効表示領域内に配置されている。図示の液晶素子15において種々のサイズの矩形状領域や三角形状領域で表された各々が画素に対応する。図中、例示的にいくつかの画素部に符号を付して示す。この実施例では、各画素を構成する画素電極(後述)は各画素部の形状と略同一形状に設けられている。
【0047】
例えば、画素部70aは、x方向長さ、y方向長さともに小さい小面積の正方形状の画素部である。画素部70bは、x方向長さが画素部70aよりは大きく、y方向長さも画素部70aよりは少し大きい台形状の画素部である。画素部70cは、x方向長さが小さく、y方向長さは比較的大きい縦長の長方形状の画素部である。画素部70dは、画素部70bよりはx方向長さの小さい縦長の長方形状の画素部である。画素部70eは、x方向長さ、y方向長さ(一辺の長さ)ともに比較的大きい三角形状の画素部である。画素部70fは、x方向長さが非常に大きい横長の大面積の画素部である。画素部70gは、縦長の長方形状の画素部である。画素部70hは、x方向長さが非常に大きい横長の画素部である。なお、図示のように、液晶素子15には例示したもの以外にも種々のサイズ、形状の画素部が備えられている。各画素部70a等は、それぞれ個別に光の透過/非透過を制御可能であり、これらを適宜制御することによって、車両の前方状況に応じた種々の配光パターンの照射光を形成することが可能となる。
【0048】
図6は、回折光学素子の駆動条件を検討するために用いた光学系の構成を説明するための図である。
図6に示す光学系は、コリメート光を出射する光源90と、光源90から出射する光の進行方向に配置された偏光板91と、偏光板91を透過した光を絞るための開口を有する開口板92と、開口板92を通過した光が入射し得る位置に配置された回折光学素子13と、この回折光学素子13から出射する光が照射されるスクリーン93を含んで構成されている。偏光板91の透過軸は図示のY方向である。開口板92の開口の径は5mmである。回折光学素子13の配向処理方向は図示のX方向(偏光板91の透過軸と直交方向)であり、アンチパラレル配置である。回折光学素子13とスクリーン93との間の距離は10mである。
【0049】
上記の光学系を用い、回折光学素子13を透過してスクリーン93に照射された光94の拡がり度合いについて、回折光学素子13の駆動方法による違いを検証した。検証に用いた回折光学素子13は、上記した櫛歯状電極37、38のx1を5μm、x2を15μm、櫛歯状電極38のx3を5μm、x4を15μmとし、櫛歯状電極37、櫛歯状電極38の電極枝同士との相互間距離x5を5μmとした。また、液晶層41の層厚を4μmとし、液晶材料としては誘電率異方性が負、屈折率異方性が0.18のものを用いた。各配向膜39、40については垂直配向膜を用い、配向処理としてはラビング処理を行い、配向処理方向(ラビング方向)については各櫛歯状電極37、38の各電極枝の延在方向と略直交する方向とし、かつアンチパラレル配置とした。屈折率異方性については特に限定がないが上記した0.15かそれ以上がより好ましく、0.2以上がさらに好ましい。
【0050】
図7(A)~
図7(C)は、回折光学素子の駆動方法を説明するための図である。
図7(A)は、櫛歯状電極37と櫛歯状電極38の間に電圧を印加する駆動方法を示している。図中に細線で電界分布を簡略的に示すように、櫛歯状電極37と櫛歯状電極38との間の領域に電界が発生し、当該領域において液晶層41の配向変化が生じる。各櫛歯状電極37、38のそれぞれと重なる領域では配向変化がほとんど生じない。これにより、電界による配向変化が生じる領域と配向変化が生じない領域が交互に生じるので、屈折率分布を異なる領域を得ることができる。なお、電圧を印加しない場合にはこのような屈折率分布は生じず、液晶層41は一様に配向する。
【0051】
図7(B)は、櫛歯状電極37及び櫛歯状電極38のそれぞれと共通電極34の間に電圧を印加する駆動方法を示している。図中に細線で電界分布を簡略的に示すように、櫛歯状電極37と共通電極34の間、櫛歯状電極38と共通電極34の間の各領域に電界が発生し、当該領域において液晶層41の配向変化が生じる。各櫛歯状電極37、38の電極枝同士の中間あたりの領域では配向変化が生じにくい。これにより、電界による配向変化が生じる領域と配向変化が生じない領域が交互に生じるので、屈折率分布を異なる領域を得ることができる。上記した
図7(A)に示した駆動方法に比べてより短い間隔で屈折率分布の異なる領域を得られる。なお、電圧を印加しない場合にはこのような屈折率分布は生じず、液晶層41は一様に配向する。
【0052】
図7(C)は、櫛歯状電極37及び櫛歯状電極38のそれぞれと対向電極35の間に電圧を印加する駆動方法を示している。図中に細線で電界分布を簡略的に示すように、櫛歯状電極37と対向電極35の間、櫛歯状電極38と共通電極34の間の各領域に電界が発生し、当該領域において液晶層41の配向変化が生じる。この駆動方法では液晶層41の層厚方向に電界が発生する。各櫛歯状電極37、38の間の領域では斜め電界が生じるので、各櫛歯状電極37、38と重なる領域とは異なる配向状態が得られる。これにより、屈折率分布を異なる領域を得ることができる。なお、電圧を印加しない場合にはこのような屈折率分布は生じず、液晶層41は一様に配向する。
【0053】
図7(A)に示す駆動方法のみを用いる場合には回折光学素子13から共通電極34、対向電極35を省略してもよい。
図7(B)に示す駆動方法のみを用いる場合には回折光学素子13から対向電極35を省略してもよい。
図7(C)に示す駆動方法のみを用いる場合には回折光学素子13から共通電極34を省略してもよい。また、
図7(B)、
図7(C)に示す駆動方法を用いる場合には、櫛歯状電極37、38には同電位が与えられるので、これらが電気的に接続されていてもよい。具体的には、配線部42、43(
図3(B)参照)を端部など適宜位置で物理的に接続するように各配線部42、43を形成すればよい。
【0054】
図8(A)~
図8(C)は、回折光学素子を透過させた光の測定例を示す図である。ここでは、上記した
図6に示した光学系を用い、回折光学素子13の左右方向(
図6のX方向)における中央の光変調領域30bに光を入射させるようにした際にスクリーン93に照射された光94の観察像が示されている。各駆動方法において、回折光学素子13の櫛歯状電極37、38には150Hz、10Vの電圧を印加し、共通電極34、対向電極35には基準電圧(GND電圧)を印加した。
【0055】
図8(A)は、櫛歯状電極37と櫛歯状電極38の間に電圧を印加する駆動方法により回折光学素子13を駆動した場合の光の測定例である。図示のように、回折光学素子13に電圧を印加していない状態(OFF)におけるスクリーン93上の光94の幅が12degであったのに対して、回折光学素子13の櫛歯状電極37と櫛歯状電極38の間に電圧した状態(ON)におけるスクリーン93上の光94の幅が22degに拡がっていた。
【0056】
図8(B)は、櫛歯状電極37及び櫛歯状電極38のそれぞれと共通電極34の間に電圧を印加する駆動方法により回折光学素子13を駆動した場合の光の測定例である。図示のように、回折光学素子13に電圧を印加していない状態(OFF)におけるスクリーン93上の光94の幅が12degであったのに対して、回折光学素子13の櫛歯状電極37及び櫛歯状電極38と共通電極34の間に電圧した状態(ON)におけるスクリーン93上の光94の幅が24degに拡がっていた。
【0057】
図8(C)は、櫛歯状電極37及び櫛歯状電極38のそれぞれと対向電極35の間に電圧を印加する駆動方法により回折光学素子13を駆動した場合の光の測定例である。図示のように、回折光学素子13に電圧を印加していない状態(OFF)におけるスクリーン93上の光94の幅が12degであったのに対して、回折光学素子13の櫛歯状電極37及び櫛歯状電極38と対向電極35の間に電圧した状態(ON)におけるスクリーン93上の光94の幅が18degに拡がっていた。
【0058】
従って、回折光学素子13の櫛歯状電極37及び櫛歯状電極38と共通電極34の間に電圧する駆動方法(
図7(B)参照)を用いた場合に光94の幅を最も拡げられることが分かる。他方、回折光学素子13の櫛歯状電極37及び櫛歯状電極38と対向電極35の間に電圧する駆動方法(
図7(C)参照)を用いた場合に光94の幅の変化が最も小さいことが分かる。
【0059】
なお、回折効果を確認するために
図6の光学系における光源90をレーザー光源に置き換え、櫛歯状電極37及び櫛歯状電極38と共通電極34の間に電圧する駆動方法にて回折光学素子13を駆動した場合には、スクリーン93上に1次光以上の回折スポットが得られ、回折効果を生じていることを確認することができた。
【0060】
次に、上記した評価に用いたものと同様の条件で製作した回折光学素子13を上記した
図1に示した車両用灯具システムに組み込んで動作させた際の投影レンズ18から出射する投影光の観察例を説明する。ここでは、液晶素子15については全面において光透過状態となるように駆動電圧を与えた。
図9に円錐状の模式的な図で示すように、光源11から出射してリフレクタ12によって集光されて回折光学素子13に入射する光は、最大±40°~50°の集光角で広角に入射し、回折光学素子13の中央に配置された光変調領域30bの付近ではほぼ法線方向から光が入射する。回折光学素子13は、各光変調領域30a~30cの並び方向が車両用灯具システムの左右方向に一致するように配置されている。
【0061】
図10(A)~
図10(C)は、投影光の光強度分布の測定例を示す図である。この測定例では、投影レンズ18から10m前方にスクリーンを配置して光強度分布が測定された。
図10(A)~
図10(C)の各測定例においては、左右に延びる略楕円状の光強度分布が示されており、楕円状の分布における中央ほど輝度が高い領域となっている。
【0062】
図10(A)は、回折光学素子13へ駆動電圧を印加していない場合の光強度分布を示している。この場合は、回折光学素子13を配置しない場合と同様の光強度分布であり、ほぼ左右対称の光強度分布となっている。
【0063】
図10(B)は、回折光学素子13において左側の光変調領域30aに駆動電圧を印加し、他の光変調領域30b、30cには駆動電圧を印加していない場合の光強度分布を示している。この場合には、
図10(A)の光強度分布との比較から分かるように、投影光が図中の右側へ3°程度移動していることが分かる。なお、投影レンズ18により透過光が上下左右に反転するため、光変調領域30aの位置と投影光の移動方向が逆になっている。
【0064】
図10(C)は、回折光学素子13において各光変調領域30a~30cに駆動電圧を印加した場合の光強度分布を示している。この場合には、
図10(A)の光強度分布との比較から分かるように、投影光が図中の左右に拡がっていることが分かる。
【0065】
なお、回折光学素子13と液晶素子15との間隔をより大きく確保することで、光の移動度合いや拡がり度合いをより高めることができる。
【0066】
次に、回折光学素子13の配光制御についてさらに詳しく説明する。
図11(A)に示すように、回折光学素子13に対して、入射面の法線方向(投光角=0°)から平行光100を入射させて、回折光学素子13の各櫛歯状電極37、38と共通電極34の間への印加電圧を0V~30Vの間で設定した際の透過率を受光素子101によって測定した。同様に、
図11(B)に示すように、回折光学素子13に対して、入射面の法線方向を基準にした投光角を0°より大きくした平行光100を入射させて、回折光学素子13の各櫛歯状電極37、38と共通電極34の間への印加電圧を0V~30Vの間で設定した際の透過率を受光素子101によって測定した。受光素子101は、回折光学素子13の法線方向を基準にした受光角θをプラス方向及びマイナス方向に可変に設定した。
【0067】
図12(A)は、入射させる平行光の投光角を0°とした場合の受光角と透過率の関係を示すグラフである。回折光学素子13への印加電圧が10Vの場合と20Vの場合はほぼ同じ特性を示したため特性線がほぼ重なっている。図示のように、受光角=0°の方向にまっすぐに進む光の透過率は、印加電圧が0Vの場合には約85%であり、印加電圧を高くすることで30%程度まで低下しており、その分、左右方向(受光角の絶対値が大きい方向)へ拡がっていることが分かる。
【0068】
図12(B)は、入射させる平行光の投光角を+30°とした場合の受光角と透過率の関係を示すグラフである。投光角がプラスの値というのは上記した
図11(B)に示す方向から平行光が入射する状態である。受光角=-30°の方向にまっすぐに進む光の透過率は、印加電圧が0Vの場合には約80%であり、印加電圧を高くすることで30%程度まで低下しており、その分、主に左方向(受光角がプラス方向)へ拡がっていることが分かる。
【0069】
図12(C)は、入射させる平行光の投光角を+60°とした場合の受光角と透過率の関係を示すグラフである。投光角がプラスの値というのは上記した
図11(B)に示す方向から平行光が入射する状態である。受光角=-60°の方向にまっすぐに進む光の透過率は、印加電圧が0Vの場合には約60%であり、印加電圧を高くすることで30%以下まで低下しており、その分、主に左方向(受光角がプラス方向)へ拡がっていることが分かる。
【0070】
図13(A)~
図13(C)は、回折光学素子による回折効果を受けて液晶素子へ入射する光の様子を模式的に示す図である。各図において、液晶素子15の位置に集光される光(図中、下から上へ進行する光)を便宜上、3つの光L1、L2、L3に分けてそれぞれ点線にて示す。光L1は主に回折光学素子13の各光変調領域30aへ入射する光であり、光L2は主に回折光学素子13の各光変調領域30bへ入射する光であり、光L3は主に回折光学素子13の各光変調領域30cへ入射する光である。
【0071】
回折光学素子13の各光変調領域30a~30cのいずれにも電圧が印加されていない場合には、
図13(A)に示すように、光源11から出射してリフレクタ12により集光された光L1~L3は、そのまま回折光学素子13を透過して液晶素子15へ入射し、液晶素子15の位置で焦点を形成する。
【0072】
また、回折光学素子13の光変調領域30aのみに電圧を印加した場合には、
図13(B)に示すようにこの光変調領域30aへ入射する光L1が拡がりながら曲がって液晶素子15へ入射する。他の光L2、L3についてはそのまま液晶素子15へ入射する。従って、液晶素子15を透過し、投影レンズ18によって投影される投影光は図中の左側へ拡がって照射される。
【0073】
なお、図示を省略するが回折光学素子13の光変調領域30cのみに電圧を印加した場合も同様であり、この場合は光変調領域30cへ入射する光L3が拡がりながら曲がって液晶素子15へ入射する。他の光L1、L2についてはそのまま液晶素子15へ入射する。従って、液晶素子15を透過し、投影レンズ18によって投影される投影光は図中の右側へ拡がって照射される。
【0074】
また、回折光学素子13の各光変調領域30a~30cの全てに電圧が印加されている場合には、
図13(C)に示すように、光源11から出射してリフレクタ12により集光された光L1~L3は、いずれも左右それぞれに拡がりながら液晶素子15へ入射する。従って、液晶素子15を透過し、投影レンズ18によって投影される投影光は図中の左右に拡がって照射される。
【0075】
このように各光変調領域30a~30cを用いて投影光の拡がり度合いを制御できるので、例えば高速道路を走行中の場合など車両の走行速度が相対的に速い場合には投影光が拡がらずに車両の正面方向へ集中するようにし、他方で市街地を走行中の場合など車両の走行速度が相対的に遅い場合には投影光が左右に拡がるようにするなど、走行シチュエーションに応じた配光状態を実現して車両前方の視認性を向上させることができる。また、光変調領域30a、30cの何れかによる回折効果を選択的に用いることで、例えば車両の進行方向に応じて車両の左前方又は右前方へ照射される光を増加させることができるので、車両の進行方向の視認性を向上させることができる。
【0076】
図14(A)は、回折光学素子へ電圧を印加しない場合の投影光の照度分布例を示す図である。回折光学素子13による回折効果を用いない状態では図示のように左右方向角度の基準位置0°を中心にほぼ対象な照度分布となる。
【0077】
図14(B)は、回折光学素子の全ての光変調領域に電圧を印加した場合の投影光の照度分布を計算により求めた結果を示す図である。なお、回折光学素子13と液晶素子15との相互間距離を8mmと想定して計算を行った。この相互間距離は、回折光学素子13の光変調領域30aを通って液晶素子15の中央部へ入射する光の入射角が45°の場合に相当する。図示のように、全ての光変調領域30a~30cへ電圧を印加することで、高照度帯が左右に拡がっていることが分かる。このときの液晶素子15の中央部に当たる光の強度は約2/3まで低下しており、その分が左右に±5°程度まで拡がっている。
【0078】
図14(C)は、回折光学素子の1つの光変調領域である光変調領域30aに電圧を印加した場合の投影光の照度分布を計算により求めた結果を示す図である。なお、回折光学素子13と液晶素子15との相互間距離を8mmと想定して計算を行った。この場合には、高照度帯が+5°程度まで移動することが分かる。なお、回折光学素子13と液晶素子15の相互間距離をより大きく設定することで高照度帯の移動する角度をより大きくすることが可能である。例えば、相互間距離を20mmとした場合であれば高照度帯が+12.5°程度まで移動すると見込まれる。この数値は、車両の進行方向に応じて光照射方向を可変に制御するAFS(Adaptive Front-Lighting System)技術において必要とされる振れ角を満たし得るものである。
【0079】
以上のような実施形態によれば、車両用灯具等の照明装置ないしこれを用いるシステムにおける照射光の配光制御の多様化を実現することが可能となる。
【0080】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、回折光学素子13の備える光変調領域の数は例示した3つに限定されない。上記した実施形態では各光変調領域が一方向に配列されていたが、二方向に沿って配列されていてもよい。また、上記した実施形態では回折光学素子13が光源10と偏光板14との間に配置されていたが、偏光板14と液晶素子15との間に回折光学素子13が配置されていてもよい。なお、前者の配置とするほうが回折光学素子13と液晶素子15との相互間距離を相対的に大きく確保できるのでより好ましい。
【0081】
また、上記した実施形態では四輪車両を例にして説明したが本開示に係る技術的思想は四輪以外の種々の車両の前照灯においても同様にして適用可能である。また、上記した実施形態では照明装置の一例として車両用灯具を例示していたがこれに限定されず、例えば路面上、街路灯、踏切信号、方向案内など種々の画像描画を行うための照明装置に本開示の内容を適用することが可能である。また、車両用灯具の場合、
図10に例示したように左右に広がる投影光であり、水平方向に広がる明るいエリアは明るい状態を保ったまま左右に移動することが望ましい。そのため回折光学素子で用いた櫛歯電極は直線のスリット状を採用した。別の用途(照明装置など)を想定した場合、回折光学素子に入射する光の方向に対してスリット方向を変えた櫛歯状電極を用いてもよい。例えば
図9に示したような方向から光が入射する場合、光変調領域30bの電極は横方向のスリット電極にしてもよいし、光変調領域30aの電極は「く」の字型のスリット電極を採用してもよい。さらにはU型、同心円状、楕円状など様々な櫛歯電極構造を用いてもよい。
【0082】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
【0083】
(付記1)
光源と、
前記光源から放出される前記光を集光する集光部と、
前記集光部によって集光される前記光の焦点位置に配置される液晶素子と、
前記液晶素子を透過する前記光が入射し得る位置に配置される投影レンズと、
前記光源と前記液晶素子との間に配置される第1偏光板と、
前記液晶素子と前記投影レンズとの間に配置される第2偏光板と、
前記光源と前記液晶素子との間に配置される回折光学素子と、
を含み、
前記回折光学素子は、各々、周期的又は連続的に屈折率の変化した第1状態と当該屈折率が略一様な第2状態とを電気的に切り替え可能な複数の光変調領域を有しており、
前記第1状態は、入射光に対して回折効果を生じさせることが可能であり、
前記複数の光変調領域の各々は、前記光が入射可能な位置であって前記焦点位置よりも前記光源に近い位置に配置される、
照明装置。
(付記2)
前記回折光学素子は、前記光源と前記第1偏光板との間に配置される、
付記1に記載の照明装置。
(付記3)
前記回折光学素子は、前記第1偏光板と前記液晶素子との間に配置される、
付記1に記載の照明装置。
(付記4)
前記回折光学素子の前記複数の光変調領域の各々は、
対向配置される第1基板と第2基板の間に設けられた液晶層と、
平面視で前記液晶層と重なるようにして前記第1基板に設けられた櫛歯状電極と、を含む、
付記1~3の何れか1つに記載の照明装置。
(付記5)
前記回折光学素子の前記複数の光変調領域の各々は、
前記第1基板の前記液晶層と対向する一面側において前記櫛歯状電極よりも当該一面に近い側に設けられ、平面視で前記櫛歯状電極と重なるように配置される共通電極と、
前記櫛歯状電極と前記共通電極との間に配置される絶縁膜と、
を含む、付記4に記載の照明装置。
(付記6)
前記回折光学素子の前記複数の光変調領域の各々は、
前記第2基板の前記液晶層と対向する一面側に設けられ、平面視で前記櫛歯状電極と重なるように配置される対向電極、
を含む、付記5に記載の照明装置。
(付記7)
前記櫛歯状電極は、複数の電極枝を有しており、
前記複数の電極枝の各々の幅が5μm以下であり、隣り合う前記電極枝同士の相互間距離が5μm以下である、
付記4~6の何れか1つに記載の照明装置。
(付記8)
付記1~7の何れか1つに記載の照明装置を用いて構成される車両用灯具と、
前記車両用灯具と接続されており、車両周辺の状況に応じて前記車両用灯具の前記液晶素子の動作を制御するとともに前記回折光学素子の動作を制御するコントローラと、
を含む、
車両用灯具システム。
【符号の説明】
【0084】
1:車両用灯具(照明装置)、2:コントローラ、3:カメラ、11:光源、12:リフレクタ(反射部材)、13:回折光学素子、14:偏光板、15:液晶素子、16:光学補償板、17:偏光板、18:投影レンズ、30a、30b、30c:光変調領域、32:第1基板、33:第2基板、34:共通電極、35:対向電極、36:絶縁膜、37、38:櫛歯状電極、39、40:配向膜、41:液晶層