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特開2023-181742送電装置、送電装置の制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181742
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】送電装置、送電装置の制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/60 20160101AFI20231218BHJP
   H02J 50/10 20160101ALI20231218BHJP
   H02J 50/40 20160101ALI20231218BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H02J50/60
H02J50/10
H02J50/40
H02J7/00 P
H02J7/00 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095053
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】平松 朋樹
【テーマコード(参考)】
5G503
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503FA06
5G503GB08
(57)【要約】
【課題】無線電力伝送を行うための複数の送電コイルを備え、受電装置が要求する無線電力伝送の停止期間中に物体を検出する制御を可能とする送電装置を提供する。
【解決手段】送電装置101は複数の送電コイル207を備え、受電装置102へ無線電力伝送を行う。送電装置101は、送電コイル207を用いて物体を検出する。検出された物体が受電装置102である場合、送電装置101は、その物体が検出された送電コイル207の識別情報を記憶する。送電装置101は、受電装置102から無線電力伝送の停止要求を受信すると(S601)、無線電力伝送の停止期間中に、記憶された識別情報に対応する送電コイル207を用いて物体の検出を行う(S604)。
【選択図】 図7

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送電コイルを備え、受電装置への無線電力伝送を行う送電装置であって、
前記送電コイルを用いて物体を検出する検出手段と、
前記受電装置からの信号を受信する受信手段と、
前記送電コイルの識別情報を記憶する記憶手段と、
前記複数の送電コイルから送電に用いる送電コイルを選択する選択手段と、
前記検出手段により検出された物体が前記受電装置である場合、当該物体が検出された前記送電コイルの識別情報を前記記憶手段に記憶させる制御を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記受信手段が前記受電装置から無線電力伝送の停止要求を受信した場合、無線電力伝送の停止期間中に、前記選択手段により選択された前記識別情報に対応する前記送電コイルを用いて、前記検出手段により物体を検出する制御を行う
ことを特徴とする送電装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記受信手段が前記停止要求を受信した場合に停止期間を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の送電装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記送電コイルに対して前記受電装置が載置されている状態、または前記受電装置とは異なる物体が載置されている状態、または前記物体が載置されていない状態の判定を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の送電装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記受信手段が前記停止要求を受信した場合であって、かつ前記送電コイルに対して前記受電装置が載置されている状態ではないと判定した場合、前記停止期間が経過する前に前記無線電力伝送の停止に係る処理を終了させる制御を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の送電装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記無線電力伝送の停止に係る処理を終了させる制御を行ってから、前記記憶手段により記憶された識別情報に対応しない送電コイルまたは当該送電コイルを含む送電コイル群を用いて前記検出手段により前記物体を検出する制御を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の送電装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記停止期間が経過した後、前記記憶手段により記憶された識別情報に対応する前記送電コイルを用いて前記検出手段による検出を行い、前記送電コイルに対して前記受電装置が載置されている状態、または前記受電装置とは異なる物体が載置されている状態、または前記物体が載置されていない状態の判定を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の送電装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記停止期間が経過した後、デジタルピングを用いて前記状態の判定を行う
ことを特徴とする請求項6に記載の送電装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記送電コイルに係る品質係数の変化、または前記送電装置の送電電力と前記受電装置の受電電力との差分、または前記送電コイルと前記受電装置が備える受電コイルとの結合係数の変化量により前記状態の判定を行う
ことを特徴とする請求項3に記載の送電装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記停止期間にアナログピングを用いて前記検出手段により前記物体を検出する制御を行う
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の送電装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記送電コイルに対して前記受電装置とは異なる物体が載置されている状態であると判定した場合、前記停止期間が経過する前に前記無線電力伝送の停止に係る処理を終了させる制御を行う
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の送電装置。
【請求項11】
前記制御手段は、前記送電装置に対して前記受電装置の載置位置がずれた状態である場合、前記記憶手段に記憶された前記識別情報に対応する第1の送電コイルの近傍の第2の送電コイルからアナログピングの送信を行って前記検出手段により前記物体を検出する制御を行う
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の送電装置。
【請求項12】
前記制御手段は、前記第2の送電コイルに対して前記受電装置が載置されている状態であると判定した場合、前記第2の送電コイルからデジタルピングの送信を行い、前記受電装置が前記停止期間の開始前に検知された受電装置であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項11に記載の送電装置。
【請求項13】
前記制御手段は、前記受信手段が前記停止要求を受信した場合、前記受電装置への送電を停止する制御を行う
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の送電装置。
【請求項14】
車輪と、バッテリと、を有し、
前記送電コイルは、前記バッテリの電力を用いて、前記受電装置に無線で送電する
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の送電装置。
【請求項15】
車両内に設置される
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の送電装置。
【請求項16】
複数の送電コイルを備え、受電装置への無線電力伝送を行う送電装置にて実行される制御方法であって、
前記送電コイルを用いて物体を検出する第1の検出工程と、
前記受電装置からの信号を受信する受信工程と、
前記複数の送電コイルから送電に用いる送電コイルを選択する選択工程と、
前記第1の検出工程で検出された物体が前記受電装置である場合、当該物体が検出された前記送電コイルの識別情報を記憶手段に記憶させる記憶工程と、
前記受信工程において前記受電装置から無線電力伝送の停止要求を受信した場合、無線電力伝送の停止期間中に、前記選択工程において選択された前記識別情報に対応する前記送電コイルを用いて、前記物体を検出する第2の検出工程と、を有する
ことを特徴とする送電装置の制御方法。
【請求項17】
請求項16に記載の各工程をコンピュータに実行させる
ことを特徴とするプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線電力伝送の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
標準化団体Wireless Power Consortiumが無線充電規格として策定した規格(以下、WPC規格という)が広く知られている。特許文献1では、WPC規格に準拠した送電装置および受電装置が開示されている。WPC規格にて、送受電とそのための制御通信は磁気誘導(magnetic induction)によって行われる。
【0003】
無線通信方式の一種としてNFC(Near Field Communication)方式がある。NFCタグは、電池を有しておらず、通信相手から通信時に送信される電磁波のエネルギーを用いて駆動される。NFCタグに対して上述の無線電力伝送が行われた場合、NFCタグのアンテナ素子等がダメージを受ける可能性がある。そのような事態を回避するためにWPC規格では、送受電を開始する際、送電装置と受電装置との間で送受電停止期間が設けられている。送受電停止期間内に受電装置はNFCに関する規格(NFC規格)に基づく通信によってNFCタグの検出を行う。NFCタグの検出結果に応じて、送受電停止期間の終了後に送受電を停止するか再開するかが決定される。
また、特許文献2には、複数の送電コイルを備え、充電面の大部分にわたって電子デバイスを効率的に充電できるワイヤレス充電マットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-56959号公報
【特許文献2】特開2018-186699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
WPC規格において、送電装置は送受電停止期間中に一切の通信を行わないので、送電装置に対する受電装置の載置状態を検出できない。したがって、当該期間中に受電装置が取り除かれた場合であっても、送電装置は送受電停止期間の終了時点まで待機することとなる。これを回避する方法として、送電装置が送受電停止期間中であっても物体の載置状態の検出を行うためにアナログピング(Analog Ping)を送信する方法が考えられる。しかしながら、複数の送電コイルを備える送電装置において、送受電停止期間中にAnalog Pingを送信する場合の適切な制御方法については、これまで検討されていなかった。
本開示は、無線電力伝送を行うための複数の送電コイルを備え、受電装置が要求する無線電力伝送の停止期間中に物体を検出する制御を可能とする送電装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態の送電装置は、複数の送電コイルを備え、受電装置への無線電力伝送を行う送電装置であって、前記送電コイルを用いて物体を検出する検出手段と、前記受電装置からの信号を受信する受信手段と、前記送電コイルの識別情報を記憶する記憶手段と、前記複数の送電コイルから送電に用いる送電コイルを選択する選択手段と、前記検出手段により検出された物体が前記受電装置である場合、当該物体が検出された前記送電コイルの識別情報を前記記憶手段に記憶させる制御を行う制御手段と、を備える。前記制御手段は、前記受信手段が前記受電装置から無線電力伝送の停止要求を受信した場合、無線電力伝送の停止期間中に、前記選択手段により選択された前記識別情報に対応する前記送電コイルを用いて、前記検出手段により物体を検出する制御を行う。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、無線電力伝送を行うための複数の送電コイルを備え、受電装置が要求する無線電力伝送の停止期間中に物体を検出する制御を可能とする送電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】非接触充電システムの構成例を示す図である。
図2】送電装置の構成例を示すブロック図である。
図3】受電装置の構成例を示すブロック図である。
図4】送電コイル群の配置例を示す図である。
図5】パワーロス法による物体の検出処理を説明する図である。
図6】実施形態に係る送電装置による処理のフローチャートである。
図7】NFCタグ検出処理期間における処理のフローチャートである。
図8】第1の処理例の動作シーケンス図である。
図9】第2の処理例の動作シーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について添付図面を参照して詳しく説明する。なお、本開示の実施形態における複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、複数の特徴を任意に組み合わせてもよい。図面において同一または同様の構成に対して同一の参照符号を付すことで、重複した説明を省略する。実施形態ではWPC規格に準拠したシステムの例を示す。
【0010】
図1は、本実施形態に係る無線電力伝送システムの一例としての非接触充電システムの構成を示す。本システムは、送電装置101と受電装置102とを含んで構成される。以下では記載を簡潔にするために、送電装置101をTXと呼び、受電装置102をRXと呼ぶ場合がある。TXは、充電台103に載置されたRXに対して無線で送電する電子機器である。RXは、送電装置101から受電して内蔵バッテリに充電を行う電子機器である。点線枠の範囲104は、RXが、TXから送電される電力を受電可能な範囲を示している。
【0011】
RXとTXは非接触充電以外のアプリケーションを実行する機能を有することが可能である。例えばRXはスマートフォンであり、TXはそのスマートフォンのバッテリを充電するためのアクセサリ機器である。
【0012】
本システムでは、WPC規格に基づいて、非接触充電のための電磁誘導方式を用いた無線電力伝送が行われる。RXとTXは、RXの受電コイルとTXの送電コイルとの間で、非接触充電のための無線電力伝送を行う。なお、無線電力伝送方式(非接触電力伝送方式)については、WPC規格で規定された方式に限られず、他の電磁誘導方式、磁界共鳴方式、電界共鳴方式、マイクロ波方式、レーザー等を利用した方式でもよい。また、本実施形態では、無線電力伝送が非接触充電に用いられるものとするが、非接触充電以外の用途で無線電力伝送が行われてもよい。
【0013】
WPC規格では、RXがTXから受電する際に保証される電力の大きさがGuaranteed Power(以下、「GP」という)の値によって規定される。GPは、例えばRXとTXとの位置関係が変動して受電コイルと送電コイルとの間の送電効率が低下したとしても、充電用の回路等のRXの負荷へ出力されることが保証される電力値を示す。例えばGPの値を15(ワット)とする。この場合、受電コイルと送電コイルとの位置関係が変動して送電効率が低下したとしても、TXは、RX内の負荷へ15ワットを出力することができるように制御を行ってRXに送電する。
【0014】
またWPC規格では、TXの周囲に(受電アンテナ近傍に)受電装置ではない物体が存在することをTXが検出する方法が規定されている。当該物体を異物と称することがある。より詳細には、第1の方法は、TXにおける送電アンテナ(送電コイル)の品質係数(Q値)の変化に基づく異物検出方法である。第2の方法(パワーロス法)は、TXの送電電力とRXの受電電力との差分に基づく異物検出方法である。第1の方法は、電力伝送前(NegotiationフェーズまたはRenegotiationフェーズ)に実施される。また第2の方法は、後述するCalibration処理が行われたデータに基づいて、電力伝送中(Power Transferフェーズ)に実施される。異物検出処理の詳細については後述する。
【0015】
ところで、RX(およびRXが組み込まれた製品)またはTX(およびTXが組み込まれた製品)を構成する複数の部品には必要不可欠な金属部品がありうる。送電コイルが無線送電する電力にさらされた場合、意図せずに熱を発生する可能性のある金属部品が存在する。このような金属部品には、例えば、送電コイルまたは受電コイルの周辺の金属フレームがある。本実施形態の異物とは、送電コイルが無線送電する電力にさらされた場合に熱を発生する可能性のある導体部品のうち、前記金属部品を除く物体のことである。例えば、クリップ、ICカード等が異物に相当する。
【0016】
RXとTXが行う通信には、WPC規格に基づく送受電制御のための通信と、機器認証のための通信とがある。ここで、WPC規格に基づく送受電制御のための通信について説明する。WPC規格では、電力伝送が実行されるPower Transferフェーズと実際の電力伝送が行われる前のフェーズとを含んだ、複数のフェーズが規定されており、各フェーズにおいて必要な送受電制御のための通信が行われる。以下、各種フェーズについて説明する。
【0017】
電力伝送前のフェーズは、Pingフェーズ、Identification and Configurationフェーズ、Negotiationフェーズ、Calibrationフェーズを含みうる。なお、以下ではIdentification and Configurationフェーズを、I&Cフェーズと表記する。Pingフェーズでは、TXが、アナログピング(Analog Ping)を間欠送信し、送電可能範囲内に物体が存在することを検知する。例えばTXは、充電台103に受電装置102や導体片等が載置されたことを検出可能である。その後、TXはAnalog Pingより電力が大きいデジタルピング(Digital Ping)を送信する。Digital Pingの大きさは、TXの上に載置されたRXの制御部が起動するのに十分な電力である。RXは、受電電圧の大きさをSignal Strength PacketによりTXへ通知する。このように、TXは、Digital Pingを受信したRXからの応答を受信することにより、Analog Pingによって検知された物体がRXであることを認識する。
【0018】
TXがRXから受電電圧の大きさに関する通知を受けとると、I&Cフェーズに遷移する。また、TXはDigital Pingの送信前に、送電アンテナ(送電コイル)の品質係数(Q-Factor)の測定を行う。この測定結果は、Q値測定法を用いた異物検出処理を実行する際に使用される。I&Cフェーズでは、TXがRXを識別し、RXから機器構成情報(能力情報)を取得する。そのため、RXはID PacketおよびConfiguration PacketをTXに送信する。ID PacketにはRXの識別情報が含まれ、Configuration Packetには、RXの機器構成情報(能力情報)が含まれる。ID PacketおよびConfiguration Packetを受信したTXは、アクノリッジ(肯定応答であり、以下、ACKと記す)で応答する。そして、I&Cフェーズが終了する。
【0019】
Negotiationフェーズでは、RXが要求する電力やTXの送電能力等に基づいて、保証電力であるGP(Guaranteed Power)値が決定される。GP値は、例えば受電装置と送電装置の位置関係が変動して受電アンテナと送電アンテナとの間の送電効率が低下したとしても、受電装置の負荷(例えば、充電用の回路、バッテリ等)への出力が保証される電力値を示す。例えばGPが5ワットの場合、受電アンテナと送電アンテナの位置関係が変動して送電効率が低下したとしても、送電装置は、受電装置内の負荷へ5ワットを出力することができるように制御して送電を行う。GP値はRXとTXとが合意した電力値である。またTXは、RXからの要求に従って、Q値測定法を用いた異物検出処理を実行する。WPC規格では、一旦Power Transferフェーズに移行した後、RXからの要求によって再度Negotiationフェーズと同様の処理を行う方法が規定されている。Power Transferフェーズから移行してこれらの処理を行うフェーズを、Renegotiationフェーズと呼ぶ。
【0020】
Calibrationフェーズでは、WPC規格に基づいて、RXが所定の受電電力値をTXへ通知し、TXが効率よく送電するための調整を行う。所定の受電電力値は、例えば軽負荷状態における受電電力値や最大負荷状態における受電電力値である。TXは、RXから通知された受電電力値を、パワーロス法による異物検出処理に使用することができる。
【0021】
Power Transferフェーズでは、送電の継続、および、エラー処理や満充電による送電停止等のための制御が行われる。TXとRXは、送受電制御のための通信を、WPC規格に基づいて無線電力伝送と同じアンテナ(コイル)を用いて信号を重畳するインバンド(In-band)通信により行う。なお、TXとRXとの間で、WPC規格に基づくインバンド通信が可能な範囲は、送電可能範囲とほぼ一致する。図1に示される範囲104は、TXの送電アンテナとRXの受電アンテナによって無線電力伝送とインバンド通信が可能な範囲を表している。なお、以下の説明において、TXに対してRXが「載置された」とは、RXが範囲104の内側に進入したことを意味し、実際には充電台103の上にRXが載置されない状態をも含むものとする。
【0022】
続いて図2および図3を参照して、送電装置101(TX)および受電装置102(RX)の構成について説明する。図2はTXの構成例を示す図である。TXは、制御部201、電源部202、送電回路203、通信部204、メモリ205、選択部206、および、送電コイル207を有する。送電コイル群208は複数の送電コイル207からなる。
【0023】
制御部201はTX全体を制御し、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等の1つ以上のプロセッサを含んで構成される。あるいは、制御部201は、後述の処理を実行するように構成された、特定用途向け集積回路(ASIC)やフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)等を含んでもよい。
【0024】
電源部202は、少なくとも制御部201および送電回路203が動作する際の電力を供給する電源を有する。電源部202は、例えば、商用電源から電力供給を受ける有線受電回路やバッテリ等を備える。
【0025】
送電回路203は、送電コイル群208における任意の送電コイル207の交流電圧および交流電流を発生させる。送電回路203は、例えば、電源部202が供給する直流電圧を、電界効果トランジスタ(FET)を使用したハーフブリッジ構成またはフルブリッジ構成のスイッチング回路を用いて交流電圧に変換する。この場合、送電回路203は、FETのON/OFFを制御するゲ-トドライバを含む。
【0026】
通信部204は、受電装置102の通信部(図3の第1通信部304)との間で、WPC規格に基づいた無線電力伝送の制御通信を行う。通信部204が実行するインバンド通信は、送電回路203が発生する交流電圧または電流を変調し、無線電力に対して通信対象データの信号が重畳される通信である。制御部201に接続されたメモリ205は、送電装置101や無線電力伝送システムの各要素および全体の状態に関するデータ等を記憶する。
【0027】
送電コイル群208を構成する複数の送電コイル207のうち、任意の1つまたは複数の送電コイルは送電回路203に接続される。選択部206は送電コイル群208における任意の1つまたは複数の送電コイル207と送電回路203とを接続する。制御部201から選択部206への制御指令にしたがって、選択部206を切り替える制御が行われることにより、送電回路203をいずれの送電コイルに接続するかが決定される。
【0028】
図3はRXの構成例を示す図である。RXは、制御部300、受電コイル301、整流部302、電圧制御部303、第1通信部304を有する。RXはさらに充電部305、バッテリ306、共振コンデンサ307、スイッチ部308、メモリ309、タイマ310、第2通信部311を有する。
【0029】
制御部300は、例えばメモリ309に記憶されている制御プログラムを実行することにより、RX全体を制御する。制御部300は、無線電力伝送以外のアプリケーションを実行するための制御を行うことが可能である。例えば、制御部300はCPU、MPU等の1つ以上のプロセッサを含んで構成される。あるいは、制御部300は、ASIC等の特定の処理に専用のハードウェアや、FPGA等のアレイ回路を含んで構成されてもよい。制御部300は、各種処理の実行中に記憶しておくべき情報をメモリ309に記憶させる。また、制御部300は、タイマ310を用いた時間の計測処理を実行することができる。
【0030】
受電コイル301は、TXの送電コイルから電力を受電する。また、受電コイル301は共振コンデンサ307と接続され、特定の周波数F2で共振する。整流部302は、受電コイル301を介して受電した送電コイルからの交流電圧および交流電流を直流電圧および直流電流に変換する。電圧制御部303は、整流部302から入力される直流電圧のレベルを所定レベルに変換する。所定レベルとは、制御部300および充電部305等の動作が可能な直流電圧のレベルである。
【0031】
第1通信部304は、TXとの間で、インバンド通信によってWPC規格に基づく制御通信を行う。第1通信部304は、受電コイル301から入力された電磁波を復調してTXから送信された情報を取得し、その電磁波を負荷変調することによってTXへ送信すべき情報の信号を電磁波に重畳する処理を行う。TXの通信部204は送電コイル207による送電波形に重畳された信号を取得することができる。
【0032】
バッテリ306は、RX全体に対して、制御と受電と通信に必要な電力を供給する。また、バッテリ306は、受電コイル301を介して受電された電力を蓄電する。共振コンデンサ307は受電コイル301と接続されている。スイッチ部308は受電コイル301と共振コンデンサ307を短絡する機能を有しており、制御部300によってON/OFF制御される。スイッチ部308がオンすると、受電コイル301と共振コンデンサ307による直列共振回路が形成される。この時、受電コイル301と共振コンデンサ307およびスイッチ部308の閉回路にのみ電流が流れ、整流部302および電圧制御部303に電流は流れない。また、スイッチ部308がオフすると、受電コイル301および共振コンデンサ307を介して、整流部302および電圧制御部303に電流が流れる。
【0033】
メモリ309は制御部300に接続されており、各種情報を記憶する。メモリ309は、制御部300とは異なる機能部によって取得された情報を記憶することが可能である。タイマ310は制御部300に接続されており、各種の計時処理に使用される。例えばタイマ310は、起動された時刻からの経過時間を計測するカウントアップタイマや、設定された時間から計数値が減少するカウントダウンタイマの機能を有する。
【0034】
第2通信部311は、NFC機能を用いて他のNFC機器と通信を行う。他のNFC機器には、NFCタグが含まれるものとする。RXは、第2通信部311によって、NFCタグの存在を検出することができる。第2通信部311は、受電コイル301とは異なるアンテナ(不図示)を有している。また第2通信部311は、制御部300によって制御されるが、この実施形態に限定されることはない。RXを内蔵する図示しない他の装置(カメラ、スマートフォン、タブレットPC、ラップトップPC等)の制御部により第2通信部311が制御される構成であってもよい。図2および図3に示される構成は一例であり、構成の一部は他の同様の機能を果たす構成と置き換えられ、または省略されてもよく、別の構成要素が追加されてもよい。また1つのブロック要素が複数のブロック要素に分割されてもよいし、複数のブロック要素が1つのブロック要素に統合されてもよい。
【0035】
図4は、送電コイル群208の配置例を示す模式図である。本実施形態の送電コイル群208の配置および各送電コイルに接続可能な送電回路については、図4(A)から図4(E)に示す配置を前提として説明するが、これらは例示であって、特定の配置例に限定されることはない。
【0036】
図4(A)は送電コイル群208の一部を上面視した場合の図である。送電コイル400から送電コイル405までの6つの円形コイルを示す。送電コイル400、送電コイル401、および送電コイル402は、それらの円周の一部が他の2つの送電コイルに接するように配置される。同様に送電コイル403、送電コイル404、および送電コイル405は、それらの円周の一部が他の2つのコイルに接するように配置される。また送電コイル402、送電コイル403、および送電コイル405は、それらの円周の一部が他の2つのコイルに接するように配置される。
【0037】
図4(B)は、送電コイル406から送電コイル411までの6つの円形コイルを示し、図4(A)の送電コイル400から送電コイル405とは左右方向において逆に配置されている。つまり、図4(A)を裏側から見た場合と同様の配置である。なお、送電コイル406から送電コイル411を含む送電コイル群については、送電コイル400から送電コイル405との区別を明らかにするため、円形内に複数の縦線を便宜的に付記している。送電コイル409、送電コイル410、および送電コイル411は、それらの円周の一部が他の2つのコイルに接するように配置される。同様に送電コイル406、送電コイル407、および送電コイル408は、それらの円周の一部が他の2つのコイルに接するように配置される。送電コイル408、送電コイル409、および送電コイル411は、それらの円周の一部が他の2つのコイルに接するように配置される。
【0038】
図4(C)は送電コイル群全体を上面視した場合の図である。送電コイル群210では、図4(B)に示す送電コイル406から送電コイル411の上部に、図4(A)に示す送電コイル400から送電コイル405が重なり合った状態で配置されている。
【0039】
図4(D)は送電コイル400,401と送電コイル410,411との位置関係を説明する図である。送電コイル400と送電コイル410、および、送電コイル401と送電コイル410はそれぞれ上面視で重なっているので、これらのコイルは「重複している」と表現することにする。一方、送電コイル400と送電コイル411は上面視で重複していない。また、距離412は、送電コイル400の外形部と送電コイル411の外形部との距離(Dと記す)を示している。つまり送電コイル400と送電コイル411とは距離Dだけ離れている。
【0040】
隣接する複数の送電コイルうち、第1のコイルをAコイルと表記し、第2のコイルをBコイルと表記する。Aコイルが送電する電力と送電装置および受電装置の通信部が送受するインバンド通信の信号が、Bコイルによる送電電力およびインバンド通信の信号に重畳されることがある。この現象を本開示では干渉と表現する。複数の送電コイルが干渉すること、また干渉しないことを、以下のように定義する。AコイルがBコイルに対して条件(1)または(2)を満たす場合、2つの送電コイルは「干渉しない」と表現される。
(1)Aコイルで送受信される変調信号の電圧振幅もしくは電流振幅の変動または周波数変動がBコイルで観測されないこと。
(2)Aコイルで送受信される変調信号の電圧振幅もしくは電流振幅の変動または周波数変動がBコイルで観測され、観測レベルが所定値(閾値)以下であって、かつBコイルの変調信号を通信部が復調する際の復調性能に影響を与えないこと。
【0041】
2つの送電コイルが「干渉する」ことの定義は、条件(1),(2)に対する否定の条件から導出できる。条件(3)を満たす場合、2つの送電コイルは「干渉する」と表現される。
(3)Aコイルで送受信される変調信号の電圧振幅もしくは電流振幅の変動または周波数変動がBコイルで観測され、観測レベルが所定値(閾値)より大きく、かつBコイルの変調信号を通信部が復調する際の復調性能に影響を与えること。
【0042】
また、電磁的に結合された(つまり、結合係数がゼロでない)送電コイルのうち、第1の送電コイルをAコイルと表記し、第2の送電コイルをBコイルと表記する。AコイルがBコイルに対して条件(4)または(5)を満たす場合、2つの送電コイルは「干渉しない」と表現される。
(4)Aコイルに印加される高周波電圧もしくは高周波電流、またはその高周波電圧変動もしくは高周波電流変動、または周波数変動による電圧がBコイルに誘起されないこと。
(5)Aコイルに印加される高周波電圧もしくは高周波電流、またはその高周波電圧変動もしくは高周波電流変動、または周波数変動によってBコイルに誘起される電圧レベルが所定値(閾値)以下であること。
【0043】
条件(6)を満たす場合、2つの送電コイルは「干渉する」と表現される。
(6)Aコイルに印加される高周波電圧もしくは高周波電流、またはその高周波電圧変動もしくは高周波電流変動、または周波数変動によってBコイルに誘起される電圧レベルが所定値(閾値)より大きいこと。
【0044】
2つの送電コイルが干渉する場合、その干渉の度合いは、2つの送電コイルの位置関係によって異なる。本実施形態では、2つの送電コイルが所定の距離D(図4(D):412参照)以上離れている場合に干渉しないものとする。例えば、送電コイル400と送電コイル411は干渉しない。また、送電コイル400と送電コイル410、送電コイル401と送電コイル410はそれぞれ重複しており、いずれも距離D以上に離れていない。よって、送電コイル400と送電コイル410は干渉し、送電コイル401と送電コイル410は干渉する。なお、前記所定値(閾値)や距離DについてはWPC規格で規定されてもよい。
【0045】
図4(E)は送電回路が電力を供給可能な送電コイル群を示す概念図である。点線の楕円枠413の内側は、送電回路203が選択部206を介して接続可能な送電コイルの範囲を示している。点線の楕円枠413の内側に中心が含まれる送電コイル400~411は送電回路203と接続可能である。また、所定領域414に載置された受電装置は、送電回路203に接続された送電コイルを介して充電可能である。なお、本実施形態では、所定領域414において最大1台の受電装置に送電することが可能である。
【0046】
次に図5を参照して、WPC規格で規定されているパワーロス法に基づく異物検出方法について説明する。図5の横軸はTX(送電装置)の送電電力を表し、縦軸はRX(受電装置)の受電電力を表す。点900,901,903は線分902上の点である。点900は送電電力値Pt1および受電電力値Pr1に対応し、点901は送電電力値Pt2および受電電力値Pr2に対応する。点903は送電電力値Pt3および受電電力値Pr3に対応する。線分906は点900と点904とを結ぶ線分である。点904は送電電力値Pt2および受電電力値Pr2に対応する。線分908は点904と点907とを結ぶ線分である。点907に対応する受電電力値はPr1である。
【0047】
まずTXは、軽負荷(Light Load)状態のRXに対してDigital Pingを送電する。TXは、RXが受電した受電電力値Pr1を、Received Power Packet(mode1)としてRXから受信する。このとき、RXは、受電した電力を負荷(充電回路とバッテリ等)に供給しない。TXは、受電電力値Pr1とその時の送電電力値Pt1をメモリに記憶する。点900の座標を(Pt1,Pr1)と表記する。TXは、送電電力値Pt1での送電時におけるTXとRXとの間の電力損失量(Ploss1と記す)を算出する。「Ploss1=Pt1-Pr1」である。
次に、TXは、負荷接続(Connected Load)状態のRXが受電した受電電力値Pr2を、Received Power Packet(mode2)としてRXから受信する。この時、RXは、受電した電力を負荷(充電回路とバッテリ等)に供給している。TXは受電電力値Pr2とその時の送電電力値Pt2をメモリに記憶する。点901の座標を(Pt2,Pr2)と表記する。TXは、送電電力値Pt2での送電時におけるTXとRXとの間の電力損失量(Ploss2と記す)を算出する。「Ploss2=Pt2-Pr2」である。
【0048】
TXは点900と点901に基づいて直線補間処理を行い、線分902を生成する。線分902は、TXとRXの周辺に異物が存在しない状態における送電電力と受電電力との関係を示している。よって、TXは送電電力値と線分902から異物がない可能性が高い状態における受電電力値を推定できる。例えば、送電電力値がPt3である場合、送電電力値Pt3に対応する線分902上の点903から、受電電力値がPr3であると推定できる。
【0049】
TXが送電電力値Pt3でRXに対して送電した場合、TXがRXから受電電力値Pr3を受信したとする。TXは異物が存在しない状態における受電電力値Pr3から、実際にRXから受信した受電電力値Pr3を減算し、Pr3-Pr3(=Ploss_FO)を算出する。Ploss_FOは、TXとRXとの間に異物が存在する場合に異物で消費されたであろう電力損失量と考えることができる。よって、電力損失量Ploss_FOがあらかじめ決められた閾値を超えた場合、異物が存在する(または異物が存在する可能性が高い)と判断できる。あるいは、TXは、事前に異物が存在しない状態における受電電力値Pr3から、TXとRXとの間の電力損失量Pt3-Pr3(=Ploss3)を求めておく。次にTXは、異物が存在する状態にてRXから受信した受電電力値Pr3に基づき、異物が存在する状態でのTXとRXとの間の電力損失量Pt3-Pr3(=Ploss3)を求める。Ploss3-Ploss3=Pt3-Pr3-(Pt3-Pr3)=Pr3-Pr3(=Ploss_FO)から、Ploss_FOを算出することができる。
このように、異物による電力損失量Ploss_FOの算出方法には、Pr3-Pr3から算出する方法と、Ploss3-Ploss3から算出する方法がある。
【0050】
線分902が取得された後、TXはRXから定期的に受電電力値(例えばPr3)に係る信号を受信する。RXが定期的に送信する受電電力値は、Received Power Packet(mode0)としてTXに送信される。TXは、Received Power Packet(mode0)に格納されている受電電力値と、線分902を用いてパワーロス法に基づく異物検出を行うことが可能である。
【0051】
TXとRXの周辺に異物が存在しない状態における、送電電力値と受電電力値との関係を表す線分902を取得するための点900および点901を、Calibration data Point(以下、CPと記す)という。また、2以上のCPの補間によって取得される線分または曲線を、Calibrationカーブという。
【0052】
続いて図6を参照して、TXが実行する処理の流れの例について説明する。図6は、TXの処理例を説明するフローチャートである。本処理は、例えばTXの制御部201がメモリ205から読み出したプログラムを実行することによって実現される。なお、以下の処理の一部はハードウェアによって実現されてもよい。この場合のハードウェアは、例えば、所定のコンパイラを用いて、各処理ステップを実現するためのプログラムからFPGA等のゲートアレイ回路を用いた専用回路を自動的に生成する。また、本処理は、TXの電源がオン操作されたこと、またはTXのユーザが非接触充電アプリケーションの開始指示を入力したこと、またはTXが商用電源に接続されて電力供給を受けていること、に応じて実行される。
【0053】
S501でTXは、WPC規格のPingフェーズとして規定されている処理を実行し、物体がTX上に載置されるのを待ち受ける。TXは、Pingフェーズにおいて、WPC規格のAnalog Pingを繰り返し間欠送信し、送電可能範囲内に存在する物体の検出処理を実行する。このとき、TXはAnalog Pingを各送電コイルから順次に送信しうるが、これに限るものではない。例えば、干渉しない複数の送電コイル群から同時にAnalog Pingを送信してもよい。この場合、干渉しない複数の送電コイル群の組み合わせごとに、順次にAnalog Pingを送信することができる。送電可能範囲内に物体が存在することを検出した場合、TXはWPC規格のDigital Pingを送信する。なお、Digital Pingは、Analog Pingの送信により物体が載置されたと検出した送電コイルから送信することができる。TXは、そのDigital Pingに対する所定の応答があった場合、検出された物体がRXであり、RXが充電台103に載置されたと判定する。このとき、TXはDigital Pingを送信した送電コイルの識別子を、RXが載置された送電コイルの識別子としてメモリに記憶する。識別子は送電コイル群における送電コイルを特定するための識別情報を有する。また、TXはその内部にあらかじめ記憶された、物体が存在しない状態におけるQ値(以下、開放Q値という)と、S501にてAnalog Pingを送信することにより計測されたQ値との差分値をメモリに記憶する。あるいは、差分値ではなく、計測されたQ値自体をメモリに記憶してもよい。
【0054】
S501でTXは、RXが載置されたことを検出すると、S502の処理に進む。S502では、WPC規格で規定されたConfigurationフェーズの通信により、そのRXから識別情報と能力情報をTXが取得する。RXの識別情報は、Manufacturer CodeおよびBasic Device IDを含む。RXの能力情報は、以下の情報を含む。
・対応しているWPC規格のバージョンを特定することが可能な情報。
・RXが負荷に供給できる最大電力を特定する値であるMaximum Power Value。
・WPC規格のNegotiation機能を有するか否かを示す情報。
ただし、これらの情報は一例であり、RXの識別情報および能力情報は、他の情報によって代替されてもよいし、さらに別の情報を含んでもよい。例えば、識別情報は、Wireless Power ID等の、RXの個体を識別可能な任意の他の識別情報であってもよい。またTXは、WPC規格のConfigurationフェーズの通信以外の方法でRXの識別情報と能力情報を取得してもよい。次にS503の処理に進む。
【0055】
S503でTXは、WPC規格で規定されたNegotiationフェーズの通信により、RXとの間でNegotiationを実行し、GP値を決定する。あるいはS503では、WPC規格のNegotiationフェーズの通信以外の方法で、GP値を決定する処理が実行される。あるいは、TXは、RXがNegotiationフェーズに対応していないことを示す情報を、例えばS502にて取得した場合、Negotiationフェーズの通信を行わず、GP値を所定値に決定する。所定値は、例えばWPC規格で予め規定された値である。
【0056】
S503のNegotiationフェーズでは、GP値を決定する処理の他に、RXによるNFCタグ検出を行うための一時停止期間に関する情報がRXとTXとの間で交換されてもよい。例えば、RXは一時停止期間の長さに相当する時間を決定してTXに通知する。一時停止期間の時間情報については、例えばSpecific Requestパケットに含めて送信されるが、これに限るものではない。また、TXはRXから一時停止期間の時間情報の通知を受信すると、この通知を受け入れる場合に肯定応答ACKを送信し、拒否する場合に否定応答NAKを送信することができる。RXは、NAKを受信した場合、一時停止期間の長さに相当する時間を変更して再度通知することが可能である。S503の次にS504の処理に進む。
【0057】
S504でTXは、受電装置によるNFCタグ検出処理期間における処理を実行する。この処理については後述する。続いてS505でTXは、WPC規格のPingフェーズとして規定されている処理を再度実行し、RXの載置を再確認する。その際、TXはAnalog Pingを送信せずに、Digital Pingの送信から実行してもよい。また、Digital Pingについては、S501においてRXが載置されたことが記憶されている送電コイルから送信することができる。当該送電コイルはメモリに記憶されている識別子により特定可能である。TXはRXが載置されていることを検出すると、S506に処理を進める。
【0058】
S506でTXは、WPC規格で規定されたConfigurationフェーズの通信により、RXから識別情報と能力情報とを取得する。続いてS507にてWPC規格で規定されたNegotiationフェーズの通信により、TXは、RXとの間でNegotiationを実行し、GP値を決定する。次のS508でCalibrationフェーズに移行し、TXはRXの受電電力値に基づいて電力損失の基準値を算出する。CalibrationフェーズにてTXは、図5を用いて説明したように、異物がない状態における、送電電力値に対する受電電力値の関係を導出する。TXはWPC規格に基づいて、RXから取得した所定の受電電力値を用いて、異物がない状態でのTXとRXとの間の電力損失を示すデータを導出する。所定の受電電力値は、軽負荷(Light Load)状態における受電電力値と、負荷接続(Connected Load)状態における受電電力値等である。図5の線分902に対応するデータが取得される。パワーロス法に基づく異物検出処理では、Calibrationカーブと送電中に受信したRXの受電電力値に基づいて送電中のTXとRXとの間の電力損失量が算出される。この電力損失量が閾値と比較され、閾値以上である場合にTXは「異物あり」または「異物が存在する可能性が高い」と判定する。
【0059】
S508の次にS509でTXは、RXへの送電を開始する。送電はPower Transferフェーズの処理により行われる。ただし、これに限らず、WPC規格以外の方法で送電が行われてもよい。TXは、RXがTX上に載置されていないと判断した場合、処理をS501のPingフェーズに戻す。
【0060】
TXは、WPC規格のEnd Power Transfer(以下、EPTパケットという)をRXから受信した場合、WPC規格にしたがって、どの処理フェーズにおいてもその処理を終了させる。TXは送電を停止した上で、S501のPingフェーズに処理を戻す。なお、RXにおけるNFCタグ検出処理の結果、NFCタグが検出された場合や、バッテリが満充電となった場合にもRXからTXにEPTパケットが送信されるので、S501のPingフェーズに戻ることとなる。
【0061】
図7を参照して、図5のS504でTXが実行する処理について説明する。図7はNFCタグ検出処理期間における処理例を説明するフローチャートである。S601では処理の開始を契機として、停止要求の受信の有無が判定される。TXはRXから処理の一時停止を要求するEPTパケットを受信したか否かを判定する。RXからEPTパケットが受信されたことが判定された場合(S601でYES)、処理をS602へ進める。一方、TXはRXからEPTパケットを受信していないと判定した場合(S601でNO)、一時的に待機した上でS601の処理を繰り返し実行する。
【0062】
S602にてTXは、RXがNFCタグ検出を行うために送電処理を停止し、S603に処理を進める。S603にてTXは、タイマ310によって一時停止期間の長さをカウントする計時処理(一時停止タイマ)を開始させる。一時停止期間については、図6のS503のNegotiationフェーズで決定された時間でありうるが、これに限るものではない。例えば、WPC規格で定められた範囲から選択される時間や、事前に記憶された所定の時間(固定時間)であってもよい。S603の次にS604の処理に進む。
【0063】
S604にてTXは、Analog Pingを送信する。Analog Pingの送信は、S501のPingフェーズにて、RXが載置されていることが記憶されている送電コイルから送信しうるが、これに限るものではない。例えば、S501のPingフェーズにてRXが載置されていることが記憶されている送電コイルを含む、干渉しない複数の送電コイル群から同時にAnalog Pingの送信を行うことが可能である。もちろん、RXが載置されていることが記憶されている送電コイル以外の送電コイルから、Analog Pingの送信が行われないように制御されてもよい。S604の次にS605の処理に進む。
【0064】
S605にてTXは、RXのみが載置された状態であるか否かを判定する。S605の判定は、Analog Pingの送信により、計測可能な物理量に基づいて実行することができる。例えば、Analog Pingの送信ごとにQ値の計測が行われ、Q値(計測値)と開放Q値との差分値が算出される。差分値が閾値以上であるか否かにより、RXが載置された状態であるか否かが判定される。あるいは、S501のPingフェーズにてRXから受信した基準Q値と、計測されたQ値の差分とを用いて判定を行ってもよい。または送電コイルと受電コイルとの結合係数の変化量を計測し、計測された変化量が閾値以上であるか否かによって判定を行ってもよい。さらには、電圧や電流の変化量や、上述した複数の物理量を計測し、複数の計測値および閾値に基づいて判定を行う方法でもよい。S605にて、RXのみが載置された状態であると判定された場合、S606の処理に進み、また、RXのみが載置された状態でないと判定された場合、S608の処理に進む。
【0065】
S606にてTXは、一時停止タイマのカウント値に基づき、一時停止期間が終了したか否かを判定する。TXは、一時停止期間が終了したと判定した場合(S606でYES)、S607の処理に進み、一時停止期間が終了していないと判定した場合(S606でNO)、S604の処理へ移行する。S607では処理を再開するために、図6のS505のPingフェーズの処理へ進める。またS608では一時停止期間の終了を待たずに、初期状態であるS501のPingフェーズへ処理が移行する。S607、S608の後、NFCタグ検出処理期間での処理を終了する。
【0066】
次に、本実施形態で実行される処理例について説明する。上述の処理を実行する場合の動作シーケンスについて、いくつかの例を示す。初期状態として、RXはTXに載置されていない状態とする。TXは、RXが要求するGPでの送電を実行可能な程度の十分な送電能力を有しているものとする。また、RXが図4の送電コイル403上に載置される例を説明するが、ユーザはRXを、所望の送電コイル上に載置することが可能である。
【0067】
・第1の処理例
本処理例では、初期状態として各送電コイルから順次にAnalog Pingが送信され、TXはRXが載置されたことを検知する。次に、ネゴシエーション(Negotiation)を完了するとTXは、RXによるNFCタグ検出処理を実行するために送電を停止してAnalog Pingの送信をRXが載置された送電コイルのみで開始する。その後、一時停止期間が経過する前にRXが除去される。TXはRXのみが載置された状態でないと判定し、即座に初期状態へ戻り、各送電コイルから順次にAnalog Pingの送信を再開させる。
【0068】
図8は、第1の処理例における動作シーケンスを示す。F701でTXは、Analog Pingを送電コイル401,402,・・・から順次に送信して物体が載置されるのを待つ(図6のS501参照)。F702ではTXに対してRXが載置され、F703でAnalog Pingに変化が生じる。これによりF704でTXは物体が送電コイル403上に載置されたことを検知する。
【0069】
次にF705でTXはDigital Pingの送信を行い、F706でRXは、自装置がTXに載置されたことを検知する。一方、TXはDigital Pingの応答により、載置された物体がRXであることを検知する。F707でTXは、RXが載置された送電コイル403の識別子をメモリに記憶する。続いてF708にてConfigurationフェーズの通信により、TXは、RXから識別情報および能力情報を取得する(図6のS502参照)。
【0070】
F709でTXとRXは、Negotiationフェーズの通信を実行する(図6のS503参照)。例えば、通信による交渉でGP値が5(ワット)に決定され、一時停止期間の長さが10秒に決定されるものとする。RXは送電の停止要求(EPTパケット)をTXに送信する。F710でTXは、RXからEPTパケットを受信する(図7のS601でYES)。F711でTXは送電を停止し(図7のS602参照)、F712では一時停止期間の長さに相当する時間をカウントする一時停止タイマの動作を開始させる(図7のS603参照)。
【0071】
一時停止期間中、F713でRXはNFCタグ検出を行う。一方、F714でTXは、RXが載置されている送電コイル403のみからAnalog Pingを送信する(図7のS604参照)。この時点では、RXは送電コイル403上に載置されており(S605でYES)、一時停止期間(10秒)は経過していない(S606でNO)。よって、送電コイル403からのAnalog Pingの送信が継続される。その後、F715でRXがTXから除去されると、F716ではTXにてAnalog Pingに生じていた変化がなくなる(物理量の変化が発生する)。F717でTXはRXのみが載置されている状態でないことを検知する(S605でNO)。続いてF718でTXは、RXが載置された送電コイルとして記憶されている送電コイル403の識別子をリセットし、一時停止期間の終了を待たずに初期状態へ処理を戻す(図7のS608参照)。そしてF719でTXは、各送電コイルから順次にAnalog Pingを送信する(図6のS501参照)。
【0072】
第1の処理例にてTXは、一時停止期間中、RXの載置状態が検出された送電コイルのみからAnalog Pingを送信する。これにより、一時停止期間中であっても、RXの載置状態を高精度に検出することが可能となり、より安全で効率の高い無線電力伝送システムを実現することができる。また、一時停止期間中にRXが除去された場合、TXは一時停止期間の終了を待たずに初期状態へ戻って各送電コイルから順次にAnalog Pingを送信する。これにより、新たなRXが載置された場合に即座にTXが送電を行うための処理を開始することが可能となり、より効率の高い無線電力伝送システムを実現することができる。
【0073】
・第2の処理例
本処理例では、初期状態として各送電コイルから順次にAnalog Pingが送信され、TXはRXが載置されたことを検知する。次に、ネゴシエーションを完了すると、TXは受電装置によるNFCタグ検出処理を実行するために送電を停止して、Analog PingをRXが載置された送電コイルのみから送信する。その後、一時停止期間が終了し、TXは送電処理を再開する。
【0074】
図9は、第2の処理例における動作シーケンスを示す。F801~F814についてはそれぞれ、図8のF701~F714と同様であるため、それらの説明を省略し、相違点を説明する。F815では、F814で送信したAnalog Pingに変化が生じている(物理量に変化はない)ので、TXは、RXのみが載置されていることを検知する(図7のS605でYES)。その後、一時停止期間が経過すると、F816でTXは、RXによるNFCタグ検出処理のための一時停止期間での処理を終了する(図7のS606でYES)。
【0075】
F817でTXは、RXが載置されている送電コイル403からDigital Pingを送信する。F818でRXは、Digital Pingにより、自装置がTXに載置されたことを検知する。F819でTXは、Digital Pingの応答により、載置された物体がRXであることを再度検知し、Configurationフェーズの通信により、RXから識別情報および能力情報を取得する(図6のS506参照)。
【0076】
次にF820でTXとRXは、Negotiationフェーズの通信を実行する(図6のS507参照)。例えば、GP値が15(ワット)に決定されるものとする。F821でTXは、Calibrationフェーズの通信により、Calibrationカーブの算出および生成を行い、電力損失の基準値を算出する(図6のS508参照)。F822でTXは、RXへの送電処理を開始する(図6のS509参照)。
【0077】
第2の処理例にて、一時停止期間中にRXが除去されなかった場合、一時停止期間の終了後にTXは、RXの載置状態が検出された送電コイルからDigital Pingを送信する。これにより、送受電を行うための処理を迅速に再開することが可能となり、より効率の高い無線電力伝送システムを実現することができる。
【0078】
・その他の処理例
本実施形態のTXは、一時停止期間中にAnalog Pingを送信してRXのみが載置されている状態であるか否かを判定する。この判定に限定されることなく、RXのみが載置されている状態でない場合、下記の状態判定を行うことが可能である。
(A)物体が載置されていない第1の状態であるか否かの判定。
(B)RXでない別の物体(異物等)が載置されている第2の状態であるか否かの判定。
【0079】
まず、上記(A)の判定について説明する。第1の状態であるか否かの判定では、開放Q値と計測されたQ値との差分値が算出され、当該差分値が第1の閾値と比較される。当該差分値が第1の閾値未満である場合、物体が載置されていない状態であると判定することができる。なお、開放Q値は物体が載置されていない状態でのQ値であるので、第1の閾値はゼロ、または、ゼロに近い値に設定される。
【0080】
上記(B)にて、第2の状態であるか否かの判定では、図6のS501にて記憶されたRXのみが載置された状態でのQ値の差分値と、開放Q値と計測されたQ値との差分値を比較する処理が行われる。比較結果である差分値が第2の閾値以上である場合、RXでない物体が載置されている状態であると判定することができる。
【0081】
本実施形態では、RXのみが載置されている状態でないとTXが判定した場合、一時停止期間の経過を待たずに処理を終了し、初期状態に戻ってAnalog Pingを各送電コイルから順次に送信する。この動作シーケンスに限定されることなく、上記(A)または(B)により判定された状態に応じた処理を実行することが可能である。例えば、(B)にてTXは、第2の状態として、RXでない物体(異物)が載置されている可能性があると判定した場合、一時停止期間の経過を待たずに処理を終了して初期状態へ戻り、Analog Pingの送信は行わない。これにより、異物が載置されている可能性がある場合、より確実に送電を停止することが可能となり、より安全で効率の高い無線電力伝送システムを実現することができる。
【0082】
また、別の状態として、TXに対してRXの載置位置がずれた第3の状態であるか否かの判定を行うことができる。この判定では、第2の閾値に加えて第3の閾値が設定される。「第3の閾値<第2の閾値」の関係とする。比較結果である前記差分値が第2の閾値未満であって、かつ第3の閾値以上である場合、第3の状態であると判定することができる。この場合、TXは、一時停止期間を終了させずに、図6のS501で記憶された、RXが載置された送電コイルの近傍の送電コイル(以下、近傍コイルという)からAnalog Pingを送信しうる。この時、TXはAnalog Pingの送信により計測されたQ値と開放Q値との差分値と、S501で記憶した差分値を比較する。比較結果である差分値が閾値未満である場合、TXは近傍コイル上にRXが載置されていること(RXの載置位置が変更されたこと)を判定し、一時停止期間を継続しうる。不要な処理が行われることはなく、初期状態への遷移を抑制することが可能となるので、より効率の高い無線電力伝送システムを実現することができる。なお、TXは近傍コイル上にRXが載置されていると判定した際、続けて当該近傍コイルからDigital Pingを送信し、応答の有無によってRXであるか否かを判定してもよい。またTXは、Digital Pingの応答に含まれる情報に基づいて、一時停止期間の開始前に載置されていたRXと同一のRXであるか否かを判定することが可能である。TXに同一のRXが載置されているか否かの判定をより高精度に行うことができる。
【0083】
Q値を用いたRXの載置状態に関する判定方法は一例であり、Analog Pingの送信により計測可能な物理量を用いる判定方法や、Digital Ping等のWPC規格の通信を用いた判定方法等でもよい。
【0084】
一時停止期間中にTXはAnalog Pingを、図6のS501で記憶された、RXが載置された特定の送電コイルのみから送信するが、これに限定されることなく、当該特定の送電コイルを含む干渉しない複数の送電コイル群から送信してもよい。これにより、第2の状態や第3の状態に関する判定を、1度のAnalog Pingの送信に基づいて行うことが可能となる。また、前記特定の送電コイルを含まない複数の送電コイル群を用いてもよい。この場合、前記特定の送電コイルを含む複数の送電コイル群と、前記特定の送電コイルを含まない送電コイル群との組み合わせごとにTXは順次にAnalog Pingを送信しうる。この時のAnalog Pingの送信間隔は、初期状態(S501)におけるAnalog Pingの送信間隔よりも短い間隔に設定される。これにより、TXは一時停止期間中であっても、RXの載置状態の検出を行いつつ、TXの送電可能範囲全体にわたって物体の載置状態の検出を行うことができる。
【0085】
本実施形態において、TXは、前記特定の送電コイルの識別子、および、開放Q値とRXが載置された状態におけるQ値との差分値をPingフェーズ(図6のS501)にてメモリに記憶する処理を行う。この記憶処理を別のタイミングで行うことも可能であり、例えば、ConfigurationフェーズやNegotiationフェーズで前記記憶処理を行ってもよい。また、それぞれの情報を異なるタイミングで記憶する処理が行われてもよい。この時、TXは異物検出処理を行った後、異物が存在しないと判定した場合にのみ、前記記憶処理を行ってもよい。これにより、RXのみが載置されている状態であることを、TXがより高精度に判定した後、一時停止処理を開始することが可能となり、より安全で効率の高い無線電力伝送システムを実現することができる。
【0086】
本開示の停止期間については、受電装置によるNFCタグ検出処理を行うための期間に限定されることなく、別の目的で停止期間が用いられてもよい。例えば、送受電中に装置の温度が上昇した場合、温度を低下させるための一時停止期間であってもよい。この場合、受電装置によるNFCタグ検出処理を行うための期間と同様に、本実施形態で説明したTXの処理を適用可能である。目的ごとに異なる停止期間中でもRXの載置状態をより正確に検知することが可能となり、より安全で効率の高い無線電力伝送システムを実現することができる。
【0087】
本実施形態において、TXは、最大1台のRXに送電可能であるとしたが、TXは複数台のRXに送電可能であってもよい。この場合、TXは複数の送電回路や通信部を備え、それぞれ干渉しない送電コイルを用いて各RXに対して送電を行うことが可能である。複数台のRXに対して送電が可能な実施形態において、各RXに対応する一時停止期間において、本実施形態で説明したTXの処理を適用することができる。
【0088】
従来の技術では、送受電の停止期間中に受電装置が除去されるタイミング等によっては、受電装置の検知ができない可能性があった。本開示の実施形態によれば、複数の送電コイルを備える送電装置において送受電の停止期間中に物体の載置状態を検出するための適切な制御技術を提供することができる。
【0089】
[その他の実施形態]
本開示は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワークまたは記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0090】
また、送電装置101および受電装置102は例えば、撮像装置(スチルカメラやビデオカメラ等)や、スキャナ等の画像入力装置であってもよいし、プリンタやコピー機、プロジェクタ等の画像出力装置であってもよい。また、ハードディスク装置やメモリ装置等の記憶装置であってもよいし、パーソナルコンピュータ(PC)やスマートフォン等の情報処理装置であってもよい。
【0091】
また、本開示の受電装置は、情報端末機器でもよい。例えば、情報端末機器は、受電アンテナから受けた電力が供給される、情報をユーザに表示する表示部(ディスプレイ)を有している。なお、受電アンテナから受けた電力は蓄電部(バッテリ)に蓄積され、そのバッテリから表示部に電力が供給される。この場合、受電装置は、送電装置とは異なる他の装置と通信する通信部を有していてもよい。通信部は、NFC通信や、第5世代移動通信システム(5G)等の通信規格に対応していてもよい。
【0092】
また、本開示の受電装置が自動車等の車両であってもよい。例えば、受電装置である自動車は、駐車場に設置された送電アンテナを介して充電器(送電装置)から電力を受けとるものであってもよい。また、受電装置である自動車は、道路に埋め込まれた送電アンテナを介して充電器(送電装置)から電力を受けとるものでもよい。受電した電力は自動車のバッテリに供給される。バッテリの電力は、車輪を駆動する発動部(モータ、電動部)に供給されてもよいし、運転補助に用いられるセンサの駆動や外部装置との通信を行う通信部の駆動に用いられてもよい。つまり、この場合、受電装置は、車輪の他、バッテリや、受電した電力を用いて駆動するモータやセンサ、さらには送電装置以外の装置と通信を行う通信部を有していていもよい。さらに、受電装置は、人を収容する収容部を有していてもよい。例えば、センサとしては、車間距離や他の障害物との距離を測るために使用されるセンサ等がある。通信部は、例えば、全地球測位システム(Global Positioning System、Global Positioning Satellite、GPS)に対応していてもよい。また、通信部は、第5世代移動通信システム(5G)等の通信規格に対応していてもよい。また、車両としては、自転車や自動二輪車であってもよい。
【0093】
また、本開示の受電装置は、電動工具、家電製品等でもよい。受電装置であるこれらの機器は、バッテリの他、バッテリに蓄積された受電電力によって駆動するモータを有していてもよい。また、これらの機器は、バッテリの残量等を通知する通知手段を有していてもよい。また、これらの機器は、送電装置とは異なる他の装置と通信する通信部を有していてもよい。通信部は、NFCや、第5世代移動通信システム(5G)等の通信規格に対応していてもよい。
【0094】
また、本開示の送電装置は、自動車の車両内で、無線電力伝送に対応するスマートフォンやタブレット等の携帯情報端末機器に対して送電を行う車載用充電器であってもよい。このような車載用充電器は、自動車内のどこに設けられていてもよい。例えば、車載用充電器は、自動車のコンソールに設置されてもよいし、インストルメントパネル(インパネ、ダッシュボード)や、乗客の座席間の位置や天井、ドアに設置されてもよい。ただし、運転に支障をきたすような場所に設置されないほうがよい。また、送電装置が車載用充電器の例で説明したが、このような充電器が、車両に配置されるものに限らず、電車や航空機、船舶等の輸送機に設置されてもよい。この場合の充電器も、乗客の座席間の位置や天井、ドアに設置されてもよい。
【0095】
また、車載用充電器を備えた自動車等の車両が、送電装置であってもよい。この場合、送電装置は、車輪と、バッテリとを有し、バッテリの電力を用いて、送電回路部や送電アンテナにより受電装置に電力を供給する。
【0096】
本実施形態の開示は、以下の構成、方法、およびプログラムを含む。
(構成1)
複数の送電コイルを備え、受電装置への無線電力伝送を行う送電装置であって、
前記送電コイルを用いて物体を検出する検出手段と、
前記受電装置からの信号を受信する受信手段と、
前記送電コイルの識別情報を記憶する記憶手段と、
前記複数の送電コイルから送電に用いる送電コイルを選択する選択手段と、
前記検出手段により検出された物体が前記受電装置である場合、当該物体が検出された前記送電コイルの識別情報を前記記憶手段に記憶させる制御を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記受信手段が前記受電装置から無線電力伝送の停止要求を受信した場合、無線電力伝送の停止期間中に、前記選択手段により選択された前記識別情報に対応する前記送電コイルを用いて、前記検出手段により物体を検出する制御を行う
ことを特徴とする送電装置。
(構成2)
前記制御手段は、前記受信手段が前記停止要求を受信した場合に停止期間を決定する
ことを特徴とする構成1に記載の送電装置。
(構成3)
前記制御手段は、前記送電コイルに対して前記受電装置が載置されている状態、または前記受電装置とは異なる物体が載置されている状態、または前記物体が載置されていない状態の判定を行う
ことを特徴とする構成1または構成2に記載の送電装置。
(構成4)
前記制御手段は、前記受信手段が前記停止要求を受信した場合であって、かつ前記送電コイルに対して前記受電装置が載置されている状態ではないと判定した場合、前記停止期間が経過する前に前記無線電力伝送の停止に係る処理を終了させる制御を行う
ことを特徴とする構成1乃至3のいずれか1つに記載の送電装置。
(構成5)
前記制御手段は、前記無線電力伝送の停止に係る処理を終了させる制御を行ってから、前記記憶手段により記憶された識別情報に対応しない送電コイルまたは当該送電コイルを含む送電コイル群を用いて前記検出手段により前記物体を検出する制御を行う
ことを特徴とする構成1乃至4のいずれか1つに記載の送電装置。
(構成6)
前記制御手段は、前記停止期間が経過した後、前記記憶手段により記憶された識別情報に対応する前記送電コイルを用いて前記検出手段による検出を行い、前記送電コイルに対して前記受電装置が載置されている状態、または前記受電装置とは異なる物体が載置されている状態、または前記物体が載置されていない状態の判定を行う
ことを特徴とする構成1乃至5のいずれか1つに記載の送電装置。
(構成7)
前記制御手段は、前記停止期間が経過した後、デジタルピングを用いて前記状態の判定を行う
ことを特徴とする構成6に記載の送電装置。
(構成8)
前記制御手段は、前記送電コイルに係る品質係数の変化、または前記送電装置の送電電力と前記受電装置の受電電力との差分、または前記送電コイルと前記受電装置が備える受電コイルとの結合係数の変化量により前記状態の判定を行う
ことを特徴とする構成3または構成6に記載の送電装置。
(構成9)
前記制御手段は、前記停止期間にアナログピングを用いて前記検出手段により前記物体を検出する制御を行う
ことを特徴とする構成1乃至8のいずれか1つに記載の送電装置。
(構成10)
前記制御手段は、前記送電コイルに対して前記受電装置とは異なる物体が載置されている状態であると判定した場合、前記停止期間が経過する前に前記無線電力伝送の停止に係る処理を終了させる制御を行う
ことを特徴とする構成1乃至9のいずれか1つに記載の送電装置。
(構成11)
前記制御手段は、前記送電装置に対して前記受電装置の載置位置がずれた状態である場合、前記記憶手段に記憶された前記識別情報に対応する第1の送電コイルの近傍の第2の送電コイルからアナログピングの送信を行って前記検出手段により前記物体を検出する制御を行う
ことを特徴とする構成1乃至10のいずれか1つに記載の送電装置。
(構成12)
前記制御手段は、前記第2の送電コイルに対して前記受電装置が載置されている状態であると判定した場合、前記第2の送電コイルからデジタルピングの送信を行い、前記受電装置が前記停止期間の開始前に検知された受電装置であるか否かを判定する
ことを特徴とする構成11に記載の送電装置。
(構成13)
前記制御手段は、前記受信手段が前記停止要求を受信した場合、前記受電装置への送電を停止する制御を行う
ことを特徴とする構成1乃至12のいずれか1つに記載の送電装置。
(構成14)
車輪と、バッテリと、を有し、
前記送電コイルは、前記バッテリの電力を用いて、前記受電装置に無線で送電する
ことを特徴とする構成1乃至13のいずれか1つに記載の送電装置。
(構成15)
車両内に設置される
ことを特徴とする構成1乃至13のいずれか1つに記載の送電装置。
(方法1)
複数の送電コイルを備え、受電装置への無線電力伝送を行う送電装置にて実行される制御方法であって、
前記送電コイルを用いて物体を検出する第1の検出工程と、
前記受電装置からの信号を受信する受信工程と、
前記複数の送電コイルから送電に用いる送電コイルを選択する選択工程と、
前記第1の検出工程で検出された物体が前記受電装置である場合、当該物体が検出された前記送電コイルの識別情報を記憶手段に記憶させる記憶工程と、
前記受信工程において前記受電装置から無線電力伝送の停止要求を受信した場合、無線電力伝送の停止期間中に、前記選択工程において選択された前記識別情報に対応する前記送電コイルを用いて、前記物体を検出する第2の検出工程と、を有する
ことを特徴とする送電装置の制御方法。
(プログラム)
方法1に記載の各工程をコンピュータに実行させる
ことを特徴とするプログラム。
【符号の説明】
【0097】
101:送電装置、201:制御部、203:送電回路、204:通信部、205:メモリ、206:選択部、207:送電コイル

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9