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特開2023-181752電源システム、電源制御装置の制御方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181752
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】電源システム、電源制御装置の制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/38 20060101AFI20231218BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
H02J3/38 110
H02J3/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095069
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 和由
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 健二
(72)【発明者】
【氏名】山口 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】野村 康祐
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AD14
5G066HB09
5G066JA04
5G066JB03
(57)【要約】
【課題】複数の電力源及び電源制御装置を備える電源システムにおいて、該システム全体としての出力の制御を安定化させるとともに、電源制御装置の設定に係る省力化を図ることが可能な技術を提供する。
【解決手段】商用電力系統と連系するとともに、電源と電源制御装置とを備える電源設備を複数含む電源システムであって、前記の各電源制御装置は、自装置の稼働状況に係る情報を送信する自装置稼働状況送信部と、他の電源制御装置の稼働状況に係る情報を受信する他装置稼働状況受信部と、前記他の電源制御装置の稼働状況に係る情報を用いて、前記電源からの電力出力制御に係る所定の数値を決定する出力制御部と、を備える電源システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用電力系統と連系するとともに、電源と少なくとも前記電源からの電力出力の制御を行う電源制御装置とを備え負荷に交流電力を供給可能な電源設備を複数含む電源システムであって、
前記の各電源設備の前記電源制御装置間を相互に情報通信可能に接続する通信経路を有しており、
前記の各電源制御装置は、
前記通信経路を介して自装置の稼働状況に係る情報を送信する自装置稼働状況送信部と、
前記通信経路を介して他の電源制御装置の稼働状況に係る情報を受信する他装置稼働状況受信部と、
前記他の電源制御装置の稼働状況に係る情報を用いて、自装置の制御対象である前記電源からの電力出力制御に係る所定の数値を決定する出力制御部と、
を備えることを特徴とする、電源システム。
【請求項2】
前記商用電力系統と前記負荷との間の計測点における電力に係る物理量を少なくとも計測する計測手段を有しており、
前記出力制御部は、前記商用電力系統への逆潮流を生じさせないように予め設定される前記計測点における電力の制御目標値と、前記計測手段から取得する前記物理量に基づいて算出される状態量とを用いるフィードバック制御により、前記電力出力制御を行う、
ことを特徴とする、請求項1に記載の電源システム。
【請求項3】
前記所定の数値は、前記フィードバック制御に係る制御定数であり、
前記出力制御部は、前記電源システム内において稼働している電源制御装置全体を対象とする所定の指標における自装置の比率に基づいて、前記制御定数を決定する、
ことを特徴とする、請求項2に記載の電源システム。
【請求項4】
前記所定の指標は、前記電源制御装置の台数である、
ことを特徴とする、請求項3に記載の電源システム。
【請求項5】
前記電源制御装置はパワーコンディショナであり、前記所定の指標は、前記パワーコンディショナの出力電力に係る定格容量である、
ことを特徴とする、請求項3に記載の電源システム。
【請求項6】
前記電源として蓄電池を含む、ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の電源システム。
【請求項7】
商用電力系統と連系するとともに、電源と少なくとも前記電源からの電力出力の制御を行う電源制御装置とを備え負荷に交流電力を供給可能な電源設備を複数含む電源システムにおける、各電源制御装置の制御方法であって、
前記電源システムに含まれる他の前記電源制御装置の稼働状況に係る情報を取得する他装置情報取得ステップと、
自装置の稼働状況に係る情報を出力する自装置情報出力ステップと、
前記他の電源制御装置の稼働状況に係る情報を用いて、自装置の制御対象である前記電源からの電力出力制御に係る所定の数値を決定する制御パラメータ設定ステップと、
を有することを特徴とする、電源制御装置の制御方法。
【請求項8】
前記所定の数値は予め設定される制御目標値と状態量とを用いるフィードバック制御に係る制御定数であり、
前記制御パラメータ設定ステップでは、前記電源システム内において稼働している前記電源制御装置全体を対象とする所定の指標における自装置の比率に基づいて、前記制御定数を決定する、
ことを特徴とする、請求項7に記載の電源制御装置の制御方法。
【請求項9】
前記所定の指標は、前記電源制御装置の台数である、
ことを特徴とする、請求項8に記載の電源制御装置の制御方法。
【請求項10】
前記電源制御装置はパワーコンディショナであり、前記所定の指標は、前記パワーコンディショナの出力電力に係る定格容量である、
ことを特徴とする、請求項8に記載の電源制御装置の制御方法。
【請求項11】
前記電源として蓄電池を含む、ことを特徴とする請求項7から10のいずれか一項に記載の電源制御装置の制御方法。
【請求項12】
請求項7から10のいずれか一項に記載の電源制御装置の制御方法の各ステップを、電源制御装置に実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源システム、電源制御装置の制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、負荷に対する電力供給源及びこれと接続される電力変換装置(パワーコンディショナ)を備える分散型電源システムが知られているが、このような分散型電源システムを商用電力系統と連系させるにあたり、逆潮流させることが認められない場合がある。そのような場合には、分散型電源システムと商用電力系統との接続経路にある受電点における電力を検出し、分散型電源の出力電力を調整することで、系統側への出力電力の逆潮流を抑制していた(例えば、特許文献1等)。
【0003】
ところで、上記のような電源システムの形態として、複数台のパワーコンディショナで構成されたシステムが存在する。このような場合には複数のパワーコンディショナの出力の合計が、負荷を超える(即ち逆潮流を発生させる)ことが無いように、各パワーコンディショナの出力を制御する必要がある。しかしながら、各パワーコンディショナが個別に出力制御を行うと、電源システム全体としての制御が不安定になるという問題がある。即ち、負荷との関係で逆潮流を生じさせないように定められる所定の制御目標に対する制御量の算出に係る制御定数(制御ゲイン)が、電源システム全体でみるとパワーコンディショナの台数分乗算されることになるため、システム内のパワーコンディショナの台数が多くなるほど全体としての出力が安定しなくなる(制御目標に対する上振れと下振れをいつまでも繰り返す)。このため、システム全体としての出力が逆潮流を生じさせないように、システム内の蓄電設備の数を少数に限定するか、各パワーコンディショナの制御ゲインを個別に手動で調整する必要があった。
【0004】
これに対して、例えば太陽光発電を電力源とした分散型電源システムにおいて、複数台のパワーコンディショナの内の1台を、逆潮流電力を監視するマスタ機とし、当該マスタ機で検出された情報(出力電力量、故障情報、運転状態等)を用いて、他のパワーコンディショナ(スレーブ機)の出力を制御することが提案されている(例えば特許文献2乃至5等)。これによれば、システム全体としての出力が所定の制御目標となるように、マスタ機と各スレーブ機の制御を実行することができ、各パワーコンディショナの出力制御を最適化し、システム全体として安定した出力制御を実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-238166号公報
【特許文献2】特開2021-093816号公報
【特許文献3】特開2021-093817号公報
【特許文献4】特開2021-093818号公報
【特許文献5】特開2021-097530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献に記載のように太陽光発電に係るパワーコンディショナをマスタ機とする場合には、夜間にはその機能を発揮できないという問題がある。また、そもそも、複数台のパワーコンディショナのいずれかをマスタ機として設定しなければならず、マスタ機設定に係る手間が生じるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の電力源及び電源制御装置を備える電源システムにおいて、該システム全体としての出力の制御を安定化させるとともに、電源制御装置の設定に係る省力化を図ることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための開示の技術の一形態は、
商用電力系統と連系するとともに、電源と少なくとも前記電源からの電力出力の制御を行う電源制御装置とを備え負荷に交流電力を供給可能な電源設備を複数含む電源システムであって、
前記の各電源設備の前記電源制御装置間を相互に情報通信可能に接続する通信経路を有しており、
前記の各電源制御装置は、
前記通信経路を介して自装置の稼働状況に係る情報を送信する自装置稼働状況送信部と、
前記通信経路を介して他の電源制御装置の稼働状況に係る情報を受信する他装置稼働状況受信部と、
前記他の電源制御装置の稼働状況に係る情報を用いて、自装置の制御対象である前記電源からの電力出力制御に係る所定の数値を決定する出力制御部と、
を備えることを特徴とする、電源システムである。
【0009】
ここで、「電源制御装置」は、いわゆるパワーコンディショナ(PCS:Power Conditioning System)、或いはその一部としても捉えることができる。また、「稼働状況に係る情報」には、例えば各電源制御装置が運転しているか否かの情報、運転している場合には装置固有のユニット番号、などが含まれていてもよい。また、「通信経路」は有線に限らず無線によるものも含む。
【0010】
このような構成によれば、各電源制御装置が、システム内の他の電源制御装置の稼働状況を踏まえて、自装置が接続される電源の電力出力制御を実施することができる。即ち、電源制御装置をPCSとした場合、マスタ機を設けずともシステム全体として最適化されるように、各PCSが自装置から出力する交流電力の出力に係る制御を行うことができる。
【0011】
また、前記電源システムは、前記商用電力系統と前記負荷との間の計測点における電力に係る物理量を少なくとも計測する計測手段を有しており、
前記出力制御部は、前記商用電力系統への逆潮流を生じさせないように予め設定される前記計測点における電力の制御目標値と、前記計測手段から取得する前記物理量に基づいて算出される状態量とを用いるフィードバック(FB:Feed Back)制御により、前記電力出力制御を行ってもよい。
【0012】
ここで、「計測手段」は例えば電流計、電圧計などとすることができる。また、計測手段は計測点における電流値と併せて電流の向きも併せて検知するようになっていてもよい。また、ここでいう「制御目標値」は単一の値のみをいうのではなく、上下限値によって定義される幅を持った数値範囲を示すものも含む。また、上記「状態量」は、前記計測手段により電流、電圧を計測する場合に、これらの実効値とすることもできるし、これらを用いて算出する電力値とすることもできる。
【0013】
このような構成によれば、各電源制御装置は電源システム全体としての制御目標値(例えば、前記計測点における電力値)に対して、計測手段から得られる計測値に基づいてフィードバック制御を行うことができる。そして、そのフィードバック制御において、シス
テム内の他の電源制御装置の稼働状況に係る情報を用いることができるため、各電源制御装置の出力制御を電源システム全体としての制御目標値に対して最適化することができる。
【0014】
また、前記所定の数値は、前記フィードバック制御に係る制御定数であり、
前記出力制御部は、前記電源システム内において稼働している電源制御装置全体を対象とする所定の指標における自装置の比率に基づいて、前記制御定数を決定するのであってもよい。
【0015】
ここで、「制御定数」とは、例えば比例制御を行う場合における比例定数などであり、制御ゲインなどとも称する。このような構成によれば、稼働している装置全体に係る所定の指標を母数として、自装置における当該指標の比率(総数に対する割合)に基づいて制御定数を決定することができる。これにより、電源システム内において(故障などにより)稼働していない電源制御装置がある場合、或いは新たな電源制御装置を新設する場合など、システム内において稼働している電源制御装置の台数の増減が生じた場合であっても、各電源制御装置は、電源システム全体の制御目標に対して最適化した出力制御を実施することができる。
【0016】
なお、前記所定の指標は、前記電源制御装置の台数であってもよい。この場合には、「自装置の比率」は電源システム内で稼働している電源制御装置の総数で1を除算した値となる。また、前記電源制御装置はパワーコンディショナであり、前記所定の指標は、前記パワーコンディショナの出力電力に係る定格容量であってもよい。この場合には、「自装置の比率」は、電源システム内で稼働しているパワーコンディショナの定格容量の総和で自装置の定格容量を除した値となる。このように算出した「自装置の比率」と、システム全体に対する所与の制御定数とを乗算することにより、各電源制御装置におけるフィードバック制御の制御定数を決定するようにしてもよい。
【0017】
また、前記電源システムは前記電源として蓄電池を含むものであってもよい。特に蓄電池のみを備える(即ち発電設備を備えない)電源システムの場合には、商用電力系統への逆潮流防止の観点からも、システム全体としての出力制御を最適化できる(即ち、制御目標値への追従性を向上させることができる)本発明は好適である。
【0018】
また、本発明は次のように捉えることもできる。即ち、
商用電力系統と連系するとともに、電源と少なくとも前記電源からの電力出力の制御を行う電源制御装置とを備え負荷に交流電力を供給可能な電源設備を複数含む電源システムにおける、各電源制御装置の制御方法であって、
前記電源システムに含まれる他の前記電源制御装置の稼働状況に係る情報を取得する他装置情報取得ステップと、
自装置の稼働状況に係る情報を出力する自装置情報出力ステップと、
前記他の電源制御装置の稼働状況に係る情報を用いて、自装置の制御対象である前記電源からの電力出力制御に係る所定の数値を決定する制御パラメータ設定ステップと、
を有することを特徴とする、電源制御装置の制御方法である。
【0019】
また、前記所定の数値は予め設定される制御目標値と状態量とを用いるフィードバック制御に係る制御定数であり、前記制御パラメータ設定ステップでは、前記電源システム内において稼働している前記電源制御装置全体を対象とする所定の指標における自装置の比率に基づいて、前記制御定数を決定するようにしてもよい。また、前記所定の指標は、前記電源制御装置の台数であってもよいし、前記電源制御装置がパワーコンディショナである場合、該パワーコンディショナの出力電力に係る定格容量であってもよい。
【0020】
また、本発明は上記の方法を蓄電池の制御装置に実行させるためのプログラム、そのようなプログラムを非一時的に記録したコンピュータ読取可能な記録媒体として捉えることもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複数の電力源及び電源制御装置を備える電源システムにおいて、該システム全体としての電力出力の制御を安定化させるとともに、電源制御装置の設定に係る省力化を図ることが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態に係る電源システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2Aは、本発明の実施形態に係る蓄電設備の概略構成を示すブロック図である。図2Bは、本発明の実施形態に係る蓄電PCSの機能モジュールを示すブロック図である。
図3図3は、従来技術の課題を示す説明図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る蓄電PCSの制御部のハードウェア構成の一例を示す図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る蓄電PCSにおいて行われる制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図6図6は、本発明の実施形態に係る蓄電PCSにおいて行われる制御処理におけるサブルーチンを示すフローチャートである。
図7図7は、本発明の実施形態に係る電源システムにおいて、稼働している蓄電PCSが増加する場合の処理について説明するタイムチャートである。
図8図8は、本発明の実施形態に係る電源システムにおいて、稼働している蓄電PCSが減少する場合の処理について説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<適用例>
以下では、本発明の適用例について、図面を参照しつつ説明する。本発明は例えば図1に示すような自家消費型の電源システム1、またこれに用いられる蓄電PCS20に適用することができる。図1は、本発明の適用対象になる電源システム1の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、本適用例に係る電源システム1は、商用電力系統80と連系し、複数の蓄電設備2a、2b、2cと、各蓄電設備2a、2b、2c(より具体的には後述の蓄電PCS20a、20b、20c)間を接続する通信線31と、負荷50と、電力計82と、電力計82と蓄電設備2a、2b、2c(より具体的には後述の蓄電PCS20a、20b、20c)とを接続する通信線32とを含んで構成される。なお、図中の各ブロックを繋ぐ実線は電力線(電力の経路)を示しており、破線は通信線を示している。
【0024】
また、図1に示すように、蓄電設備2aは蓄電池ユニット27a及び蓄電PCS(Power Conditioning System)20aを備えている。蓄電設備2b、2cについても同様である。なお、以下では、蓄電設備、蓄電池ユニット、蓄電PCSを区別して説明する必要がある場合には、それぞれ蓄電設備2a、蓄電設備2b、蓄電設備2c、蓄電池ユニット27a、蓄電池ユニット27b、蓄電池ユニット27c、蓄電PCS20a、蓄電PCS20b、蓄電PCS20cのように記載するが、これらを区別する必要が無い場合には、単に「蓄電設備2」、「蓄電池ユニット27」、「蓄電PCS20」のように記載する。なお、本適用例に係る蓄電設備2、蓄電池ユニット27、蓄電PCS20は、それぞれ本発明に係る「電源設備」、「電源」、「電源制御装置」の一例である。
【0025】
本適用例に係る蓄電PCS20はいわゆるパワーコンディショナであり、直流電力を交流電力に変換して出力する電力変換装置として機能する。以下では、直流のことをDC(Direct Current)、交流のことをAC(Alternating Current)、とも表記する。図2Aは本適用例に係る蓄電PCS20のハードウェア構成の概略について説明するブロック図である。蓄電PCS20は、図2Aに示すように、制御部21、双方向DC/DCコンバータ22、双方向DC/ACインバータ23、を備えている。
【0026】
蓄電PCS20の制御部21は、制御プログラムを格納する記憶媒体や、制御プログラムにしたがって制御手順を実行するCPUなどのプロセッサを有するコンピュータである。制御部21は、蓄電PCS20内の図示しない各種センサや通信線31、32を介して外部から取得する各種情報に基づいて、蓄電PCS20の各構成を制御する。
【0027】
また、蓄電PCS20は、図2Bに示すように、自装置情報送信部211と他装置情報受信部212と充放電電力制御部213の各機能モジュールを備えている。これらの機能モジュールは、制御部21によって実行されるプログラムと蓄電PCS20の各ハードウェア構成によって実現される。なお、本適用例における自装置情報送信部211、他装置情報受信部212、充放電電力制御部213は、それぞれ本発明に係る、自装置稼働状況送信部、他装置稼働状況受信部、出力制御部の一例である。
【0028】
以上のような複数の蓄電設備を有する電源システムにおいて逆潮流を生じさせないために、従来の技術では、それぞれの蓄電PCSが制御目標(電力値)と系統電力計測点(以下、単に計測点ともいう)の電力値と予め設定される制御定数などの制御パラメータに基づくフィードバック(FB)制御により出力電力を決定していた。しかしながら、このような場合にはシステム全体としてみた場合にはFB制御に係る制御ゲインが蓄電PCSの台数分乗算されることになるため、システム内の蓄電PCSの台数が多くなるほど全体としての出力が安定しなくなる。
【0029】
図3に、システム内で稼働している蓄電PCSの台数と、計測点における電力値の変動との関係を表す説明図を示す。図3の説明図は、計測点における電力値を縦軸に取り、経過時間を横軸に取ったグラフである。図中において、実線は稼働している蓄電PCSの台数が1台の場合の電力値の変動を、破線は稼働している蓄電PCSの台数が5台の場合の電力値の変動を、一点鎖線は稼働している蓄電PCSの台数が10台の場合の電力値の変動をそれぞれ模式的に示している。図中に示す(急激な)負荷変動が生じる前までは、1台、5台、10台のいずれの場合であっても制御目標値に対して安定した出力が行われるが、負荷変動の後は蓄電PCSの台数が増えるほど、制御目標値に対する振れ幅が大きくなってしまう。これを避けるためには、例えばシステム内の蓄電設備の数を制限する、及び/又は、各蓄電PCSの出力制御に係る制御ゲインを、それぞれ手動で調整する、などといった対策が必要であった。
【0030】
この点、本適用例に係る電源システム1では、以下のような手段を取ることにより、システム内の蓄電PCS20の台数が増えても、システム全体の出力(即ち計測点における電力値)を、システム全体としての制御目標値に対して安定的に出力制御することが可能になる。即ち、本適用例に係る電源システム1おいて、各蓄電PCS20は、自装置情報送信部211により自装置の稼働状況に係る情報(例えば運転中であるか停止中であるか)を他の蓄電PCS20に送信し、他装置情報受信部212により他の蓄電PCS20から稼働状況に係る情報を取得する。そして、他のシステムの可動状況を踏まえて充放電電力制御部213が自らの出力制御に係る制御ゲインを決定する。具体的には、システム内において稼働している蓄電PCS全体を対象とする所定の指標(例えば、台数、定格出力
など)における自装置の比率を、予め設定されている制御ゲインに乗算することで、自装置の出力制御に係る制御ゲインを決定する。
【0031】
これによれば、システム内の蓄電設備の数を制限せずとも、システム全体として安定した出力制御を実現することができる。また、各蓄電PCSがそれぞれの制御ゲインを自動的に決定することにより、蓄電設備の増減があった場合にも、それぞれの蓄電PCSの制御パラメータをその都度手動で再設定する必要が無くなる、制御パラメータの手動設定時の人為的ミス(誤設定)を防止することができる。即ち、本適用例に係る電源システム1によれば、蓄電設備を有する電源システムにおいて、システム全体としての電力出力制御を安定化させるとともに、パワーコンディショナの設定に係る省力化を図ることが可能になる。
【0032】
<実施形態1>
以下では、本発明の具体的な実施の形態について、図面に基づいてより詳細に説明する。なお、本実施形態に係る電源システム1は適用例において示したものと同一であるため、上述の適用例における説明と重複する部分については説明を省略する。
【0033】
(システム構成)
電源システム1は、上述のように複数の蓄電PCS20a、20b、20cと、各蓄電PCS20a、20b、20c間を接続する通信線31と、負荷50と、電力計82と、電力計82と蓄電PCS20a、20b、20cとを接続する通信線32とを含んで構成される。各通信線は、例えば、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルに対応した構成とすることができる。
【0034】
各蓄電PCS20は、図2Aに示すように、制御部21、双方向DC/DCコンバータ22、双方向DC/ACインバータ23、を備えている。また、図2Bに示すように、自装置情報送信部211と他装置情報受信部212と充放電電力制御部213の各機能モジュールを備えている。これらの機能モジュールは、制御部21によって実行されるプログラムと蓄電PCS20の各ハードウェア構成によって実現される。
【0035】
自装置情報送信部211は、通信線31を介して自装置の稼働状況に係る情報を他の蓄電PCS20に送信する。また、他装置情報受信部212は、通信線31を介して他の蓄電PCS20の稼働状況に係る情報を受信する。充放電電力制御部213は、他の蓄電PCSの稼働状況に係る情報を用いて、自装置の制御対象である前記蓄電池からの出力電力制御に係る所定の数値を決定する。具体的には、FB制御に係る制御ゲインを、他装置の稼働状況を踏まえて設定する。なお、「稼働状況に係る情報」は運転が開始されている(稼働している)か否か、自装置の固有のユニット番号、を含む情報である。
【0036】
蓄電PCS20において、双方向DC/DCコンバータ22と双方向DC/ACインバータ(電力変換部)23とは所定のバス(直流バス)で接続される。双方向DC/DCコンバータ22は、蓄電池ユニット27から放電された放電電力の電圧と、双方向DC/ACインバータ23から供給された蓄電池ユニット27への充電電力の電圧とを双方向に変換するユニットである。双方向DC/ACインバータ23は、商用電力系統80から供給された交流電力を直流電力に変換して所定のバスに出力するAC/DCコンバータ、所定のバスに出力された直流電力を商用電力系統80と同期のとれた交流電力に変換するDC/ACインバータを含むユニットである。蓄電池ユニット27や双方向DC/DCコンバータ22には、制御部21からの制御指令を受けて動作するマイコン等が組み込まれている。
【0037】
制御部21は、プロセッサ(CPU等)、メモリ、ゲートドライバ、通信インタフェー
ス回路等を含んで構成されるユニットである。制御部21には、蓄電設備2の各所に設けられる電力計(電流計、電圧計)を含む各種のセンサの出力、通信線31、32を介して取得される情報などが入力される。制御部21では、各種センサを通じて検出された負荷50の状況、予め設定された充放電に関するモード等に基づいて、充放電に関する制御処理が行われる。
【0038】
例えば、制御部21は、放電を行う場合には、蓄電池ユニット27から放電された電力を双方向DC/DCコンバータ22を介して電圧変換し、電圧変換後の直流電力を商用電力系統80と同期のとれた交流電力に変換して双方向DC/ACインバータ23から出力するように制御する。放電を停止する場合には、蓄電池ユニット27からの放電を停止させて、当該放電電力に基づく双方向DC/ACインバータ23から出力される交流電力を停止するように制御する。さらに、制御部21は、上記モードや負荷状況、蓄電池ユニット27の充電状態(SOC:State Of Charge)等に基づいて、充電を行うと判定した場合には、商用電力系統80から供給された交流電力を直流電力に変換し、蓄電池ユニット27へ充電するように制御する。制御部21からの上記蓄電制御処理に関する制御指令を受け、蓄電池ユニット27および双方向DC/DCコンバータ22、双方向DC/ACインバータ23の動作が制御される。
【0039】
蓄電池ユニット27は、例えばリチウムイオン電池などの二次電池を含むユニットであり、蓄電PCS20と接続される。また、蓄電池ユニット27には、図示しないが、電流値、電圧値、温度などを計測するセンサが設けられており、当該センサの出力値は、蓄電PCS20の制御部21に送信される。
【0040】
負荷50は、電力を消費する一般的な機器等であり、電力線を介して蓄電PCS20と接続され、蓄電池ユニット27から放電された電力の供給を受ける。具体的には、例えば家庭内で使用されるエアコン、電子レンジ、テレビ等の各種電器製品や、商工業施設で使用される空調機や照明器具などの機械、照明設備等である。
【0041】
電力計82は電流計、電圧計を含んで構成され、負荷50と商用電力系統80との間に配置される。電力計82によって計測された電力値は、通信線32を介して各蓄電PCS20に送信される。なお、蓄電PCS20へは、電流値とその向きが送信されるようになっていてもよい。以下では、電源システム1において電力計82が設置される箇所を計測点ともいう。
【0042】
(蓄電PCSの制御部)
次に、蓄電PCS20の制御部21について詳細に説明する。図4は、本実施形態に係る蓄電PCS20の制御部21のハードウェア構成の一例を示す図である。図4に示すように、制御部21は、接続バス106によって相互に接続されたプロセッサ101、主記憶装置102、補助記憶装置103、通信IF104、入出力IF105を構成要素に含むコンピュータである。主記憶装置102および補助記憶装置103は、制御部21が読み取り可能な記録媒体である。上記の構成要素はそれぞれ複数設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。なお、蓄電池ユニット27や双方向DC/DCコンバータ22が備えるマイコンは、制御部21と実質的に同等のハードウェア構成によって実現される。
【0043】
プロセッサ101は、制御部21全体の制御を行う中央処理演算装置である。プロセッサ101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等である。プロセッサ101は、例えば、補助記憶装置103に記憶されたプログラムを主記憶装置102の作業領域に実行可能に展開し、当該
プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことで所定の目的に合致した機能を提供する。但し、プロセッサ101が提供する一部または全部の機能が、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよい。同様にして、一部または全部の機能が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)、その他のハードウェア回路で実現されてもよい。
【0044】
主記憶装置102および補助記憶装置103は、制御部21のメモリを構成する。主記憶装置102は、プロセッサ101が実行するプログラム、当該プロセッサが処理するデータ等を記憶する。主記憶装置102は、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置103は、プロセッサ101等により実行されるプログラムや、動作の設定情報などを記憶する記憶媒体である。補助記憶装置103は、例えば、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ、USBメモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等を含む。通信IF104は、通信ネットワークとの通信インタフェースである。通信IF104は、接続される通信ネットワークとの接続方式に応じて適宜の構成を採用できる。本実施形態においては、通信IF104を介して接続された双方向DC/DCコンバータ22、蓄電池ユニット27との間で各種の制御指令が通知される。
【0045】
入出力IF105は、蓄電PCS20の備える入力デバイス、出力デバイスとの間でデータの入出力を行うインタフェースである。入出力IF105を通じて、LCD等の表示デバイスや、蓄電PCS20に接続されたプリンタ等の出力デバイスに出力される。また、入出力IF105を通じて、操作指示が受け付けられ、当該操作指示に基づいて操作者の意図する処理が行われる。さらに、本実施形態においては、入出力IF105と通信線31、32を介して外部の機器(例えば他の蓄電PCS20、電力計82など)と情報通信を行うことができる。他の蓄電PCS20などの外部機器との通信プロトコルは特に限定されないが、例えばCAN通信プロトコルを採用することができる。
【0046】
蓄電PCS20は、上記のような制御部21による制御により、蓄電池ユニット27の電力を商用電力系統80と同期のとれた交流電力に変換して負荷50に供給する。そして、各蓄電PCS20a、20b、20cによる出力電力の総和が、負荷50における消費電力に対して不足する場合には、電源システム1は商用電力系統80より商用電力の供給を受ける。一方、各蓄電PCS20a、20b、20cによる出力電力の総和が、負荷50における消費電力より大きい場合には、商用電力系統80側に逆潮流が生じる虞があるので、出力電力の総和が商用電力系統80側への逆潮流が生じる閾値を超えないように、各蓄電PCS20a、20b、20cの出力制御を行う必要がある。
【0047】
(蓄電PCSの制御処理の流れ)
本実施形態に係る蓄電PCS20はこのような出力制御を、制御目標値と計測点の電力値と制御ゲインなどの制御パラメータに基づくFB制御により実施する。そして、各蓄電PCS20は他の蓄電PCS20稼働状況に係る情報に基づいて自動的に自己の制御ゲインを決定することで、電源システム1全体としてみた場合の出力制御を最適化する。以下では、図5に基づいて蓄電PCS20において実施される出力制御の処理を説明する。
【0048】
図5は、各蓄電PCS20において実施される処理の一例を示すフローチャートである。図5に示すように、電源システム1における各蓄電PCS20は、まず、自装置以外の蓄電PCS20の稼働状況に係る情報を取得する。具体的には、他装置情報受信部212
により稼働状態にある他の蓄電PCS20のユニット番号を受信する(ステップS101)。
【0049】
なお、ユニット番号は各装置を識別する固有の番号である。このため、電源システム1内に同一のユニット番号が割り振られた蓄電PCS20が複数存在することは通常あり得ず、そのような場合には異常が発生していることになる。
【0050】
説明を図5の処理に戻すと、ステップS102では制御部21は自装置と同一のユニット番号を有する他の蓄電PCS20が存在するか否かを判断する処理を行う。ここで、制御部21が自装置と同一のユニット番号の他の蓄電PCS20が存在すると判断した場合には、蓄電PCS20は入出力IF105を介して出力手段により異常の発生を報知し(S107)、運転を停止する(S108)。
【0051】
一方、ステップS102において、自装置と同一のユニット番号を有する他の蓄電PCS20が存在しないと判断した場合には、自装置情報送信部211は通信線31を介して自装置のユニット番号を他の蓄電PCS20に送信する(S103)。そして、ステップS104で、充放電電力制御部213が、ステップS101で取得した他装置の稼働状況に係る情報に基づいて、交流電力の出力制御を行うための制御パラメータを設定する処理を行う(S104)。
【0052】
ステップS104において、充放電電力制御部213が設定する制御パラメータは、制御目標値と計測点の電力値により行うFB制御の制御ゲイン(例えば比例制御を行う場合における比例定数など)の決定とすることができる。具体的には、充放電電力制御部213は、電源システム1内において稼働している全ての蓄電PCS20を対象とする所定の指標(例えば蓄電PCS20の台数)における自装置の比率に基づいて、自装置における出力制御に係る制御ゲインを決定する。より具体的には、例えば、電源システム1内において稼働している蓄電PCS20が自装置を含めて2台である場合、その全体に対する自装置の比率は1/2ということになる。この場合、充放電電力制御部213は、電源システム1全体を対象として予め設定される制御ゲイン(以下、基準制御ゲインなどともいう)に対して自装置の比率である1/2を乗算することにより、自装置における出力制御に係る制御ゲインを決定する。
【0053】
このようにして交流電力の出力制御に係る制御パラメータが設定されると、蓄電PCS20(その制御部21)は、当該パラメータに基づく出力制御を開始する(S105)。また、蓄電PCS20は、出力制御を継続して実施するとともに、電源システム1内において稼働状態にある他の蓄電PCS20の増減を監視しつつ当該増減に応じて制御パラメータの再設定を行うサブルーチンを実行する(ステップS106)。そして、運転停止の指令信号を受信するなどの所定の終了条件を満たした場合に、運転を停止して一連の処理を終了する。
【0054】
(他装置の増減監視処理)
続いて、ステップS106におけるサブルーチンについて、図6を参照しつつ説明する。図6は、本実施形態に係る蓄電PCS20の制御処理におけるステップS106のサブルーチンの流れを示すフローチャートである。図6に示すように、サブルーチンでは蓄電PCS20(他装置情報受信部212)は、まずシステム内の他の蓄電PCS20の稼働状況に係る情報を受信する(S201)。次に、制御部21は、ステップS201で取得した情報に基づいて、新たに運転を開始した装置があるか否かを判定する処理を行う(S202)。
【0055】
ここで、制御部21は新たに運転を開始した装置があると判断した場合には、自装置の
出力制御を一時停止し(S203)、充放電電力制御部213は取得した情報に基づいて制御パラメータの再設定を行う(S204)。具体的には、新たに運転を開始した他の蓄電PCS20があり、稼働中の蓄電PCS20が1台増加(例えば2台から3台に増加)した場合には、稼働中の全蓄電PCS20における自装置の比率が低下(例えば1/2から1/3に低下)する。そして、充放電電力制御部213はこのように変動した自装置の比率を、基準制御ゲインに対して乗算することで、改めて自装置の出力制御に係る制御ゲインを決定(再設定)する。そして、ステップS204で新たな制御パラメータが設定されると、蓄電PCS20(制御部21)は、当該新たな制御パラメータによる出力制御を再開し(S208)、サブルーチンの処理を一旦終了する。
【0056】
一方、ステップS202で、新たに運転を開始した蓄電PCS20がないと制御部21が判断した場合には、ステップS201で取得した情報に基づいて、運転を停止した蓄電PCS20があるか否かを判定する処理を行う(S205)。
【0057】
ここで、制御部21が運転を停止した蓄電PCS20があると判断した場合には、自装置の出力制御を一時停止し(S206)、充放電電力制御部213は取得した情報に基づいて制御パラメータの再設定を行う(S207)。具体的には、運転を停止した他の蓄電PCS20があり、稼働中の蓄電PCS20が1台減少(例えば2台から1台に減少)した場合には、稼働中の全蓄電PCS20における自装置の比率が増加(例えば1/2から1/1に増加)する。そして、充放電電力制御部213はこのように変動した自装置の比率を、基準制御ゲインに対して乗算することで、改めて自装置の出力制御に係る制御ゲインを決定(再設定)する。そして、ステップS207で新たな制御パラメータが設定されると、蓄電PCS20(制御部21)は、当該新たな制御パラメータによる出力制御を再開し(S208)、サブルーチンの処理を一旦終了する。
【0058】
一方、ステップS205において、運転を停止した他の蓄電PCS20がないと制御部21が判断した場合には、蓄電PCS20はそのままサブルーチンの処理を一旦終了する。なお、ステップS106に係る上述のサブルーチンは、蓄電PCS20の稼働中は常時繰り返して実行される。
【0059】
(台数が増加する場合の制御パラメータ自動設定)
次に、図7に基づいて、電源システム1において、稼働する蓄電PCS20が増加していく場合の、各蓄電PCS20の制御状態の変遷について説明する。図7は、電源システム1において、稼働している蓄電PCS20が増加していく場合の処理について説明するタイムチャートである。以下では、蓄電PCS20aを図7における1台目として、蓄電PCS20bを同じく2台目として、蓄電PCS20cを同じく3台目として、説明を行う。
【0060】
図7に示すように、各蓄電PCS20は、自装置を含めて稼働状態にある蓄電PCS20がシステム内に何台あるか「台数カウント」を行っている。この際に、各蓄電PCS20は自装置分の1台を初期値としてカウントを行う。各蓄電PCS20は運転指令がONになる前であっても、他装置の稼働状況に係る情報を受信できるようになっていてもよい。図7では、このような前提に基づいて説明を行う。
【0061】
まず、蓄電PCS20aが停止状態から運転指令ONになると運転を開始する。このタイミングでは、まだ他の蓄電PCS20b、蓄電PCS20cは運転を開始していないため、台数カウントは自装置分の1台となる。そして、蓄電PCS20aは自らが稼働状態にある旨と、自装置固有のユニット番号(例えば001など)を含む情報を、蓄電PCS20b、蓄電PCS20cに対して送信する。当該情報を受信した蓄電PCS20b、蓄電PCS20cは、それぞれ台数カウントを1台加算し、2台に変更する。
【0062】
蓄電PCS20aは、台数カウント1台の情報に基づいて、自らの出力制御に係る制御ゲインを決定する。即ち、上述のように基準制御ゲインに自装置分の比率(1/1)を乗算した値を自装置の出力制御に係る制御ゲインとして制御パラメータを設定する。そして当該制御パラメータ(制御内容)に基づいて、出力制御を開始する。
【0063】
次に、蓄電PCS20bが停止状態から運転指令ONになり運転を開始する。このタイミングでは、既に蓄電PCS20aが稼働中であるため、蓄電PCS20bの台数カウントは2台となっている。そして、蓄電PCS20bは自らが稼働状態にある旨と、自装置のユニット番号(例えば002)を含む情報を、蓄電PCS20a、蓄電PCS20cに対して送信する。当該情報を受信した蓄電PCS20a、蓄電PCS20cは、それぞれ台数カウントを1台加算する。これにより、蓄電PCS20aの台数カウントは2台に、蓄電PCS20cの台数カウントは3台になる。
【0064】
ここで、蓄電PCS20bは、台数カウント2台の情報に基づいて、自らの出力制御に係る制御ゲインを決定する。即ち、上述のように基準制御ゲインに自装置分の比率(1/2)を乗算した値を、自装置の出力制御に係る制御ゲインとして制御パラメータを設定する。そして当該制御パラメータに基づいて、出力制御を開始する。
【0065】
一方、蓄電PCS20bから稼働状況に係る情報を受信した蓄電PCS20aは一旦出力制御を停止し(図中の黒塗りの部分)、台数カウント2に基づいて、自らの出力制御に係る制御ゲインを変更する。即ち、基準制御ゲインに自装置分の比率(1/2)を乗算した値を、自装置の出力制御に係る制御ゲインとして制御パラメータを再設定する。そして当該制御パラメータに基づいて、出力制御を再開する。
【0066】
次に、蓄電PCS20cが停止状態から運転指令ONになり運転を開始する。このタイミングでは、既に蓄電PCS20a及び蓄電PCS20bが稼働中であるため、蓄電PCS20cの台数カウントは3台となっている。そして、蓄電PCS20cは自らが稼働状態にある旨と、ユニット番号(例えば003)を含む情報を、蓄電PCS20a、蓄電PCS20bに対して送信する。当該情報を受信した蓄電PCS20a、蓄電PCS20bは、それぞれ台数カウントを1台加算する。これにより、蓄電PCS20a、蓄電PCS20bの台数カウントは3台になる。
【0067】
ここで、蓄電PCS20cは、台数カウント3台の情報に基づいて、自らの出力制御に係る制御ゲインを決定する。即ち、基準制御ゲインに自装置分の比率(1/3)を乗算した値を、自装置の出力制御に係る制御ゲインとして制御パラメータを設定する。そして当該制御パラメータに基づいて、出力制御を開始する。
【0068】
一方、蓄電PCS20cから稼働状況に係る情報を受信した蓄電PCS20a及び蓄電PCS20bは一旦出力制御を停止し、台数カウント3に基づいて、自らの出力制御に係る制御ゲインを変更する。即ち、基準制御ゲインに自装置分の比率(1/3)を乗算した値を、自装置の出力制御に係る制御ゲインとして制御パラメータを再設定する。そして当該制御パラメータに基づいて、出力制御を再開する。
【0069】
以上のような処理により、電源システム1において、稼働する蓄電PCS20の台数が増加した場合であっても、各蓄電PCS20は自動的に制御パラメータの設定(決定、変更)を行うことができ、システム全体として最適化された出力制御を行うことが可能になる。
【0070】
(台数が減少する場合の制御パラメータ自動設定)
次に、図8に基づいて、電源システム1において、稼働する蓄電PCS20が減少していく場合の、各蓄電PCS20の制御状態の変遷について説明する。図8は、電源システム1において、稼働している蓄電PCS20が減少していく場合の処理について説明するタイムチャートである。以下では、蓄電PCS20aを図8における1台目として、蓄電PCS20bを同じく2台目として、蓄電PCS20cを同じく3台目として、説明を行う。
【0071】
図8においては、当初は蓄電PCS20a、蓄電PCS20b、蓄電PCS20cのいずれもが稼働している状態であるため、各蓄電PCS20における台数カウントはいずれも3台、となっている。この状態から、蓄電PCS20aが運転指令OFFになり、運転を停止する。これにより、蓄電PCS20aの稼働状況に係る情報の送信も停止され、蓄電PCS20b及び蓄電PCS20cは蓄電PCS20aの稼働状況に係る情報を受信できなくなる。そして、蓄電PCS20aの稼働状況に係る情報を受信できなくなった蓄電PCS20b及び蓄電PCS20cは、それぞれ台数カウントを1台減算し、2台に変更する。
【0072】
台数カウントを2台に変更したことに伴い、蓄電PCS20b及び蓄電PCS20cは、出力制御を一旦停止し(図中の黒塗り部分)、台数カウント2に基づいて、自らの出力制御に係る制御ゲインを変更する。即ち、基準制御ゲインに自装置分の比率(1/2)を乗算した値を、自装置の出力制御に係る制御ゲインとして制御パラメータを再設定する。そして当該制御パラメータに基づいて、出力制御を再開する。
【0073】
次に、蓄電PCS20bが運転指令OFFになり、運転を停止する。これにより、蓄電PCS20bの稼働状況に係る情報の送信も停止され、蓄電PCS20a及び蓄電PCS20cは蓄電PCS20bの稼働状況に係る情報を受信できなくなる。そして、蓄電PCS20bの稼働状況に係る情報を受信できなくなった蓄電PCS20a及び蓄電PCS20cは、それぞれ台数カウントを1台減算する。これにより、蓄電PCS20aの台数カウントは2台に、蓄電PCS20cの台数カウントは1台になる。
【0074】
そして、蓄電PCS20cは、台数カウントを1台に変更したことに伴い出力制御を一旦停止し、台数カウント1に基づいて、自らの出力制御に係る制御ゲインを変更する。即ち、基準制御ゲインに自装置分の比率(1/1)を乗算した値を、自装置の出力制御に係る制御ゲインとして制御パラメータを再設定する。そして当該制御パラメータに基づいて、出力制御を再開する。
【0075】
次に、蓄電PCS20cが運転指令OFFになり、運転を停止する。これにより、蓄電PCS20cの稼働状況に係る情報の送信も停止され、蓄電PCS20a及び蓄電PCS20bは蓄電PCS20cの稼働状況に係る情報を受信できなくなる。そして、蓄電PCS20cの稼働状況に係る情報を受信できなくなった蓄電PCS20a及び蓄電PCS20bは、それぞれ台数カウントを1台減算する。これにより、蓄電PCS20a、蓄電PCS20b、蓄電PCS20cの台数カウントはそれぞれ自装置分の初期値である1台となる。
【0076】
また、この状態においては電源システム1における蓄電PCS20は全て停止状態であるため、負荷50への電力供給は商用電力系統80から供給される電力のみとなる。
【0077】
以上のような処理により、電源システム1において、稼働する蓄電PCS20の台数が減少した場合であっても、各蓄電PCS20は自動的に制御パラメータの設定(決定、変更)を行うことができ、システム全体として最適化された出力制御を行うことが可能になる。
【0078】
以上、見てきたような本実施形態によれば、システム内の各蓄電PCSが他の蓄電PCSの稼働状況に係る情報に基づいて、それぞれの制御ゲインを自動的に決定することができる。これにより、故障などの不測の事態により稼働していた蓄電PCSが停止したような場合にも、各蓄電PCSは自動的に制御パラメータを設定し、システム全体として最適化された出力制御を実行することが可能になる。また、新たに蓄電PCSを稼働させるような場合においても、各蓄電PCSの制御パラメータをその都度手動で設定する必要が無く、蓄電PCSの設定を省力化することができる。
【0079】
(変形例)
なお、上記実施形態では、各蓄電PCS20は、システム内で稼働状態にある蓄電PCS20全ての台数における自装置の比率を基準制御ゲインに乗算することで、自装置の制御ゲインを決定していたが、これ以外の手法により自装置の制御ゲインを決定してもよい。例えば、稼働状態にある蓄電PCS20の定格容量の総和に対する、自装置の定格容量の比率、を基準制御ゲインに乗算するようにしてもよい。具体的には、上記電源システム1における蓄電PCS20aの定格容量が2kW、蓄電PCS20bの定格容量が4kW、蓄電PCS20cの定格容量が2kWである場合、いずれの蓄電PCS20も稼働状態にある場合には、「稼働状態にある蓄電PCS20の定格容量の総和」は8kWとなる。この場合、蓄電PCS20aの自装置の定格容量の比率は2/8、蓄電PCS20bの自装置の定格容量の比率は4/8、蓄電PCS20cの自装置の定格容量の比率は2/8、となる。そして、このようにして算出された比率を基準制御ゲインに乗算することで、各蓄電PCS20は、自装置における出力制御に係る制御ゲインを決定することができる。
【0080】
また、上記では、稼働中の蓄電PCS20の増減に応じて都度自装置の比率を算出したうえで、基準制御ゲインと当該算出した比率とを乗算する方法により、自装置の制御ゲインを決定していたが、これ以外の手法を採用することもできる。具体的には、例えば、蓄電PCS20は、予め稼働状態にある蓄電PCS20の台数(または定格容量の総和)に応じた自装置の制御ゲインを定めたテーブルを補助記憶装置103などに保持しておき、当該テーブルを参照することで、自装置の制御ゲインを決定するようにしてもよい。
【0081】
<その他>
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本実施の形態の開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。また、本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組合せて実施することができる。例えば、上記実施形態では、システム内に設けられる蓄電設備(蓄電PCS)が3つである場合を例として説明を行ったが、蓄電設備の数はこれに限られず、いくつであっても構わない。むしろ、本発明を適用する場合には蓄電設備の数がいくら増加してもシステム全体としての出力制御を安定的に行うことができるため、蓄電設備の数が多数の場合に好適である。
【0082】
また、上記実施形態では、電源システム内において稼働している蓄電PCS全体を対象とする所定の指標における自装置の比率に基づいて、自装置の出力制御における制御ゲインを変更することにより、システム全体としての出力制御を最適化する例を説明したが、制御ゲイン以外のパラメータを調整してシステム全体の出力制御を調整するようにしてもよい。具体的には、例えば、上下限値で定義される(幅のある)制御目標値の上下限値を変更するようにしてもよい。この場合には、例えばシステム内で稼働状態にある蓄電PCSが増加すれば制御目標の幅が広くなるように上下限値を変更し、減少すれば制御目標の幅が狭くなるように上下限値を変更することができる。また、他の例として、各蓄電PCSにおいて設けられるリミッタが作動する出力電力のリミット値を変更するようにしてもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、電源システムが備える電源が蓄電池のみである場合について説明したが、これに替えて或いはこれに加えて他の電力源(発電装置)を備える電源システムにも本発明を適用することができる。発電設備を有する電源システムであっても、商用電力系統への逆潮流が禁止される自家消費型の電力システムであれば、本発明を適用するのに好適である。特に太陽光などの自然エネルギーを電力源とする発電設備を備える場合には、発電設備からの電力供給が途絶える(電力制御装置が停止する)ことが頻繁に発生し得るため、本発明を適用するのに好適である。
【0084】
また、上記の説明において、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよい。あるいは、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。コンピュータシステムにおいて、各機能をどのようなハードウェア構成によって実現するかは柔軟に変更可能である。
【0085】
<コンピュータが読み取り可能な記録媒体>
情報処理装置その他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記何れかの機能を実現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0086】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、ブルーレイディスク、DAT、8mmテープ、フラッシュメモリなどのメモリカード、外付けSSD(Solid State Drive)がある。また、コンピュータ等に固定された記録媒体として、SSD、ハードディスク、ROM等がある。
【0087】
<付記1>
商用電力系統と連系するとともに、電源(27)と少なくとも前記電源からの電力出力の制御を行う電源制御装置(20)とを備え負荷に交流電力を供給可能な電源設備(2)を複数含む電源システム(1)であって、
前記の各電源設備の前記電源制御装置間を相互に情報通信可能に接続する通信経路(31)を有しており、
前記の各電源制御装置は、
前記通信経路を介して自装置の稼働状況に係る情報を送信する自装置稼働状況送信部(211)と、
前記通信経路を介して他の電源制御装置の稼働状況に係る情報を受信する他装置稼働状況受信部(212)と、
前記他の電源制御装置の稼働状況に係る情報を用いて、自装置の制御対象である前記電源からの電力出力制御に係る所定の数値を決定する出力制御部(213)と、
を備えることを特徴とする、電源システム。
【0088】
<付記2>
商用電力系統と連系するとともに、電源と少なくとも前記電源からの電力出力の制御を行う電源制御装置とを備え負荷に交流電力を供給可能な電源設備を複数含む電源システムにおける、各電源制御装置の制御方法であって、
前記電源システムに含まれる他の前記電源制御装置の稼働状況に係る情報を取得する他装置情報取得ステップ(S101)と、
自装置の稼働状況に係る情報を出力する自装置情報出力ステップ(S103)と、
前記他の電源制御装置の稼働状況に係る情報を用いて、自装置の制御対象である前記電源からの電力出力制御に係る所定の数値を決定する制御パラメータ設定ステップ(S104)と、
を有することを特徴とする、電源制御装置の制御方法。
【符号の説明】
【0089】
1・・・電源システム
2、2a、2b、2c・・・蓄電設備
20、20a、20b、20c・・・蓄電PCS
21・・・制御部
22・・・双方向DC/DCコンバータ
23・・・双方向DC/ACインバータ
27、27a、27b、27c・・・蓄電池ユニット
50・・・負荷
80・・・商用電力系統
82・・・電力計
101・・・プロセッサ
102・・・主記憶装置
103・・・補助記憶装置
104・・・通信IF
105・・・入出力IF
106・・・接続バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8