(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181773
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】補助電源装置及び電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231218BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095106
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 潤一
(72)【発明者】
【氏名】土橋 栄喜
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA03
5H770CA02
5H770CA08
5H770DA03
5H770DA11
5H770DA41
5H770EA01
5H770GA13
5H770HA02Y
5H770HA03Y
5H770KA01Y
(57)【要約】
【課題】補助電源装置から出力される電流を検出しなくても、所定の制御を行うこと。
【解決手段】鉄道車両に搭載される負荷に供給される交流電力を生成する補助電源装置であって、インバータと、前記インバータから出力されるインバータ電流を検出する電流検出器と、前記インバータ電流が流れるLCフィルタと、前記LCフィルタの後段からの出力電圧を検出する電圧検出器と、前記インバータの出力電圧の位相指令、前記インバータ電流の検出値及び前記出力電圧の検出値を用いて前記LCフィルタの後段からの出力電流を推定し、前記出力電流の推定値を用いて所定の制御を行う制御装置と、を備える、補助電源装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両に搭載される負荷に供給される交流電力を生成する補助電源装置であって、
インバータと、
前記インバータから出力されるインバータ電流を検出する電流検出器と、
前記インバータ電流が入力されるLCフィルタと、
前記LCフィルタの後段からの出力電圧を検出する電圧検出器と、
前記インバータから出力されるインバータ電圧の位相、前記インバータ電流の検出値及び前記出力電圧の検出値を用いて前記LCフィルタの後段からの出力電流を推定し、前記出力電流の推定値を用いて所定の制御を行う制御装置と、を備える、補助電源装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記インバータ電圧の位相及び前記出力電圧の検出値を用いて、前記LCフィルタに含まれるコンデンサに流れるコンデンサ電流を推定し、前記インバータ電流の検出値から、前記コンデンサ電流の推定値を減算することで、前記出力電流を推定する、請求項1に記載の補助電源装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記出力電圧の検出値を前記コンデンサのインピーダンスで除算することで、前記コンデンサ電流を推定する、請求項2に記載の補助電源装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記インバータ電圧の位相を用いて、前記出力電圧の検出値を、d軸とq軸で定義される回転座標系のd軸出力電圧及びq軸出力電圧に変換し、
前記d軸出力電圧及び前記q軸出力電圧を、それぞれ、前記コンデンサのインピーダンスで除算することで、前記コンデンサ電流のd軸コンデンサ電流及びq軸コンデンサ電流を推定する、請求項3に記載の補助電源装置。
【請求項5】
前記制御装置は、
前記インバータ電圧の位相を用いて、前記インバータ電流の検出値を、d軸とq軸で定義される回転座標系のd軸インバータ電流及びq軸インバータ電流に変換し、
前記d軸インバータ電流から前記d軸コンデンサ電流を減算し、且つ、前記q軸インバータ電流から前記q軸コンデンサ電流を減算することで、前記出力電流を推定する、請求項4に記載の補助電源装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記インバータから出力されるインバータ電圧の指令値を更に用いて前記出力電流を推定する、請求項1から5のいずれか一項に記載の補助電源装置。
【請求項7】
前記LCフィルタに接続されたトランスを備え、
前記電圧検出器は、前記LCフィルタの後段及び前記トランスの後段からの前記出力電圧を検出する、請求項1から5のいずれか一項に記載の補助電源装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記インバータ電圧の位相及び前記出力電圧の検出値を用いて、前記LCフィルタに含まれるコンデンサに流れるコンデンサ電流を推定し、
前記インバータ電流の検出値から、前記トランスの励磁電流及び前記コンデンサ電流の推定値を減算することで、前記出力電流を推定する、請求項7に記載の補助電源装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記インバータから出力されるインバータ電圧の指令値を前記トランスの励磁インダクタンスで除算することで、前記励磁電流を推定する、請求項8に記載の補助電源装置。
【請求項10】
前記トランスは、前記インバータと前記LCフィルタとの間に接続された、請求項7に記載の補助電源装置。
【請求項11】
前記制御装置は、
前記インバータ電流の検出値に前記トランスの変圧比を乗算することで、前記トランスの二次電流を推定し、
前記インバータ電圧の位相及び前記出力電圧の検出値を用いて、前記LCフィルタに含まれるコンデンサに流れるコンデンサ電流を推定し、
前記二次電流の推定値から前記コンデンサ電流の推定値を減算することで、前記出力電流を推定する、請求項10に記載の補助電源装置。
【請求項12】
前記制御装置は、
前記インバータ電流の検出値から前記トランスの励磁電流を減算することで、前記トランスの一次電流を推定し、
前記一次電流の推定値に前記トランスの変圧比を乗算することで、前記トランスの二次電流を推定し、
前記インバータ電圧の位相及び前記出力電圧の検出値を用いて、前記LCフィルタに含まれるコンデンサに流れるコンデンサ電流を推定し、
前記二次電流の推定値から、前記コンデンサ電流の推定値を減算することで、前記出力電流を推定する、請求項10に記載の補助電源装置。
【請求項13】
前記トランスは、前記LCフィルタの後段に接続された、請求項7に記載の補助電源装置。
【請求項14】
前記制御装置は、
前記インバータから出力されるインバータ電圧の指令値、前記インバータ電圧の位相及び前記出力電圧の検出値を用いて、前記LCフィルタに含まれるコンデンサと前記トランスの励磁インダクタンスに流れる合計電流を推定し、
前記インバータの検出値から前記合計電流の推定値を減算することで、前記トランスの一次電流を推定し、
前記一次電流の推定値に前記トランスの変圧比を乗算することで、前記出力電流を推定する、請求項13に記載の補助電源装置。
【請求項15】
インバータと、
前記インバータから出力されるインバータ電流を検出する電流検出器と、
前記インバータ電流が入力されるLCフィルタと、
前記LCフィルタの後段からの出力電圧を検出する電圧検出器と、
前記インバータから出力されるインバータ電圧の位相、前記インバータ電流の検出値及び前記出力電圧の検出値を用いて前記LCフィルタの後段からの出力電流を推定し、前記出力電流の推定値を用いて所定の制御を行う制御装置と、を備える、電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、補助電源装置及び電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、補助電源装置の出力電流を電流検出器により検出し、その電流検出値を、並列運転の安定化制御などの所定の制御に利用する場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術は、補助電源装置から出力される電流を検出しなければ、並列運転の安定化制御などの所定の制御を行うことができない。
【0005】
本開示は、補助電源装置又は電力変換装置から出力される電流を検出しなくても、所定の制御を行うことができることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様として、
鉄道車両に搭載される負荷に供給される交流電力を生成する補助電源装置であって、
インバータと、
前記インバータから出力されるインバータ電流を検出する電流検出器と、
前記インバータ電流が入力されるLCフィルタと、
前記LCフィルタの後段からの出力電圧を検出する電圧検出器と、
前記インバータから出力されるインバータ電圧の位相、前記インバータ電流の検出値及び前記出力電圧の検出値を用いて前記LCフィルタの後段からの出力電流を推定し、前記出力電流の推定値を用いて所定の制御を行う制御装置と、を備える、補助電源装置が提供される。
【0007】
本開示の一態様として、
インバータと、
前記インバータから出力されるインバータ電流を検出する電流検出器と、
前記インバータ電流が入力されるLCフィルタと、
前記LCフィルタの後段からの出力電圧を検出する電圧検出器と、
前記インバータから出力されるインバータ電圧の位相、前記インバータ電流の検出値及び前記出力電圧の検出値を用いて前記LCフィルタの後段からの出力電流を推定し、前記出力電流の推定値を用いて所定の制御を行う制御装置と、を備える、電力変換装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、補助電源装置又は電力変換装置から出力される電流を検出しなくても、所定の制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態の車両用補助電源装置の構成例を示す図である。
【
図2】第1実施形態の車両用補助電源装置の各部電流の関係の第1例を示すベクトル図である。
【
図3】第1実施形態の車両用補助電源装置の各部電流の関係の第2例を示すベクトル図である。
【
図4】第1実施形態の出力電流推定部における推定演算処理のブロック図である。
【
図5】第2実施形態の車両用補助電源装置の構成例を示す図である。
【
図6】第2実施形態の車両用補助電源装置の各部電流の関係を示すベクトル図である。
【
図7】第2実施形態の出力電流推定部における推定演算処理のブロック図である。
【
図8】三相トランスの一次電圧Vpの演算方法を説明するためのモデル図である。
【
図9】一次電圧演算部の演算処理のブロック図である。
【
図10】第3実施形態の車両用補助電源装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、第1実施形態の車両用補助電源装置の構成例を示す図である。
図1に示す車両用補助電源装置101は、レール4上を走行する鉄道車両に搭載される電源装置である。車両用補助電源装置101は、直流の架線2からパンタグラフ3及び入力フィルタ6を介して入力される直流電力をインバータ7によって交流電力に変換し、インバータ7によって生成された交流電力を負荷15に出力する電力変換装置である。
【0012】
負荷15は、鉄道車両に搭載され、車両用補助電源装置101によって生成される交流電力(例えば、AC440Vの交流電力)が供給される。負荷15は、当該交流電力によって動作する。負荷15の具体例として、空調機器、照明機器、制御機器などが挙げられる。
【0013】
架線2とレール4の間には、直流電圧(例えば、公称電圧がDC1500Vの電圧)が供給されている。直流電圧は、架線2に接触するパンタグラフ3及びレール4に接触する車輪5を介して、車両用補助電源装置101に供給される。パンタグラフ3は、架線2に接触しているだけで固定されていないので、鉄道車両の走行中に架線2から一瞬離れる場合がある("離線"とも言う)。パンタグラフ3は、正極ラインLpに電気的に接続される。車輪5は、負極ラインLnに電気的に接続される。
【0014】
車両用補助電源装置101は、入力フィルタ6、インバータ7、三相トランス8、ACL9、ACFC10、ゲート駆動回路11、電流検出器13、電圧検出器14及び制御装置12を備える。
【0015】
入力フィルタ6は、リアクトルLとコンデンサCを有するLCフィルタである。リアクトルLは、正極ラインLpに直列に挿入されている。コンデンサCは、正極ラインLpと負極ラインLnとの間に接続されている。入力フィルタ6は、例えば、インバータ7が発生する高調波電流の架線2への流出を抑制する機能、および、車両用補助電源装置101の動作が離線時に継続できるようにエネルギーを貯蔵する機能を有する。
【0016】
インバータ7は、複数のスイッチング素子のスイッチング動作により直流を交流に変換し、負荷15に供給される交流電力を生成する電力変換回路である。この例では、インバータ7は、ゲート駆動回路11から供給されるゲート駆動信号に従ってスイッチングする複数のスイッチング素子Tu,Tv,Tw,Tux,Tvx,Twxを備える。複数のスイッチング素子Tu,Tv,Tw,Tux,Tvx,Twxには、ダイオードDu,Dv,Dw,Dux,Dvx,Dwxが逆並列に接続されている。インバータ7は、複数のスイッチング素子Tu,Tv,Tw,Tux,Tvx,Twxのスイッチング動作によって、直流を三相交流に変換する。
【0017】
スイッチング素子の具体例として、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)、MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)などの半導体スイッチング素子が挙げられる。
【0018】
三相トランス8は、インバータ7によって生成された交流電圧を、負荷15に適した交流電圧(例えば、AC440V)に昇圧または降圧するトランスである。この例では、三相フィルタ8は、インバータ7とLCフィルタ18との間に接続されている。LCフィルタ18は、ACL9及びACFC10によるフィルタである。三相トランス8は、さらに、架線2と負荷15の間を電気的に絶縁する機能を有する。
【0019】
ACL9及びACFC10は、インバータ7によって生成された交流電圧に含まれる高調波成分を減衰し、正弦波状の交流電圧を負荷15に供給するフィルタ(LCフィルタ18)として機能する。この例では、ACL9は、三相トランス8の二次側と負荷15との間に接続された交流リアクトルである。ACFC10は、ACL9と負荷15との間に接続された交流フィルタコンデンサである。
【0020】
ACL9は、インバータ7の出力側と三相トランス8の一次側とを結ぶ三相出力線に直列に挿入された交流リアクトルACLu,ACLv,ACLwを含む。ACFC10は、三相トランス8の二次側と負荷15とを結ぶ三相出力線にスター結線されたコンデンサ10u,10v,10wを含む。
【0021】
ゲート駆動回路11は、制御装置12から出力されるゲート信号Gu,Gv,Gw,Gux,Gvx,Gwxを増幅し、インバータ7内のスイッチング素子Tu,Tv,Tw,Tux,Tvx,Twxを駆動する。ゲート駆動回路11は、ゲート信号Gu,Gv,Gw,Gux,Gvx,Gwxに従って、スイッチング素子Tu,Tv,Tw,Tux,Tvx,Twxをオン又はオフさせるゲート駆動信号を出力する。
【0022】
電流検出器13は、インバータ7から出力される交流電流(インバータ電流Iinv)を検出し、インバータ電流Iinvの検出値を出力する。この例では、電流検出器13は、インバータ電流Iinvの電流値を検出し、インバータ電流IinvのU相電流検出値Iinvu、及び、インバータ電流linvのW相電流検出値Iinvwを出力する。
【0023】
電圧検出器14は、車両用補助電源装置101から出力される電圧(LCフィルタ18の後段及び三相トランス8の後段からの出力電圧PT)を検出し、出力電圧PTの検出値を出力する。出力電圧PTは、負荷15に供給される電圧に相当する。この例では、電圧検出器14は、三相の出力電圧PTの電圧値を検出し、U相電圧検出値PTu、V相電圧検出値PTv及びW相電圧検出値PTwを出力する。
【0024】
制御装置12は、インバータ7を制御するためのゲート信号Gu,Gv,Gw,Gux,Gvx,Gwxを生成する。
【0025】
制御装置12は、車両用補助電源装置101の基本機能を実現する手段として、実効値計算部21、出力電圧調整部22、PWM制御部23及び出力電圧位相指令部24を有する。
【0026】
実効値計算部21は、電圧検出器14により検出された出力電圧PTの実効値Vdetを計算する。出力電圧調整部22は、実効値Vdetが電圧目標値Vrと同じになるように、インバータ7から出力される交流電圧の指令値(電圧指令値Vcmd)を生成する。インバータ7から出力される交流電圧を、インバータ電圧Vinvともいう。出力電圧位相指令部24は、インバータ7の出力周波数が60Hzの場合、1/60秒で電気角が1周(0度~360度)する位相指令θを出力する。PWM制御部23は、電圧指令値Vcmdと位相指令θを用いて、インバータ電圧Vinvが正弦波になるようにPWM変調を行い、ゲート信号Gu,Gv,Gw,Gux,Gvx,Gwxを出力する。後述する保護信号Spが発生した場合、PWM制御部23は、ゲート信号Gu,Gv,Gw,Gux,Gvx,Gwxを全てオフにし、インバータ電圧Vinvがゼロになるようにインバータ7を停止させる。
【0027】
これらの各部の働きにより、制御装置12は、車両用補助電源装置101の基本機能(負荷15に対して一定の大きさの交流電圧を出力する動作)を実現する。
【0028】
制御装置12は、車両用補助電源装置101の付加的な機能を実現する手段として、出力電流推定部25、出力電流制限部26,減算器27、過負荷判定部28、過電流判定部29及び論理和ゲート20を有する。
【0029】
出力電流推定部25は、インバータ電圧Vinvの位相指令θ、電圧指令値Vcmd、インバータ電流Iinvの検出値及び出力電圧PTの検出値を用いて、LCフィルタ18の後段からの出力電流ILを推定する。出力電流ILは、負荷15に供給される電流(負荷電流ILoad)に相当する。この例では、出力電流推定部25は、インバータ電圧Vinvの位相指令θ、電圧指令値Vcmd、インバータ電流Iinvの検出値及び出力電圧PTの検出値を用いて所定の推定演算処理(推定方法)を実行することで、出力電流ILの実効値ILestを計算する。
【0030】
出力電流制限部26は、実効値ILestを電流セット値Isetと比較し、実効値ILestが電流セット値Isetを超えていない場合、電圧基準値Vrefから所定量Vaを減ずる指令値を出力しない。この場合、減算器27は、電圧基準値Vrefをそのまま電圧目標値Vrとして出力する。一方、出力電流制限部26は、実効値ILestが電流セット値Isetを超えた場合、電圧基準値Vrefから所定量Vaを減ずる指令値を出力する。この場合、減算器27は、電圧基準値Vrefから所定量Vaを減算することで、電圧目標値Vr(=Vref-Va)を出力する。これにより、インバータ電圧Vinvが低下し、結果として、インバータ電流Iinvの実効値ILestが電流セット値Iset以下に制限される。
【0031】
過負荷判定部28は、実効値ILestが定格電流を超えている状態が、予め決められた時間(例えば、10秒)継続した場合、過大なインバータ電流Iinvが継続的に流れている過負荷状態と判定する。過負荷判定部28は、過負荷状態と判定した場合、保護信号Spを論理和ゲート20から出力する。これにより、インバータ7は停止するので、車両用補助電源装置101の損傷を防ぐことができる。
【0032】
過電流判定部29は、インバータ電流Iinvの瞬時値が、予め決められた電流値(インバータ7の各スイッチング素子が遮断可能な電流値)を超えた場合、過大なインバータ電流Iinvが瞬間的に流れている過電流状態と判定する。過電流判定部29は、過電流状態と判定した場合、保護信号Spを論理和ゲート20から出力する。これにより、インバータ7は停止するので、車両用補助電源装置101の損傷を防ぐことができる。
【0033】
制御装置12は、例えば、メモリとプロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit))を有し、制御装置12の各機能は、メモリに記憶されたプログラムによって、プロセッサが動作することにより実現される。制御装置12の各機能は、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)によって実現されてもよい。
【0034】
次に、出力電流推定部25により実行される推定演算処理(推定方法)について説明する。
【0035】
図2は、第1実施形態の車両用補助電源装置の各部電流の関係の第1例を示すベクトル図である。説明の簡単化のため、
図2では、三相トランス8の変圧比を1、三相トランス8での位相回転がないとして説明する。
【0036】
キルヒホッフの電流則を補助電源装置各部の電流にあてはめると、インバータ電流Iinvから、分流する電流(トランス励磁電流Iex及びACFC電流Ifc)を差し引いたものが、負荷電流ILoadとなる。トランス励磁電流Iexは、三相トランス8の励磁電流である。ACFC電流Ifcは、ACFC10に流れるコンデンサ電流である。
【0037】
インバータ電流Iinv、トランス励磁電流Iex及びACFC電流Ifcは、直接検出または電圧から間接的に計算が可能である。インバータ電流Iinvは、電流検出器13により検出可能である。トランス励磁電流Iexの大きさは、三相トランス8の励磁電流特性(一次電圧と励磁電流の比例係数=励磁インダクタンスkm)と制御装置12内で使用される電圧指令値Vcmdを用いて、出力電流推定部25により計算可能である(Iex=Vcmd/km)。トランス励磁電流Iexの位相は、位相指令θの90度遅れた位相となる。ACFC電流Ifcの大きさは、ACFC10のインピーダンスkcと出力電圧PTの検出値を用いて、出力電流推定部25により計算可能である(Ifc=PT/kc)。ACFC電流Ifcの位相は、出力電圧PTの90度進んだ位相となる。よって、これら3つの電流ベクトルの加減算をすれば、負荷電流ILoadが推定計算可能となる。
【0038】
図2は、トランス励磁電流Iexを用いて負荷電流ILoadを推定計算する場合を例示する。しかし、トランス励磁電流Iexは、負荷電流ILoadと比べて、例えば1/100程度に小さい。そのため、トランス励磁電流Iexを用いずに(言い換えれば、電圧指令値Vcmdを用いずに)負荷電流ILoadを推定計算しても、トランス励磁電流Iexの省略による負荷電流ILoadの推定計算値の誤差は小さい場合がある。また、
図10のように、インバータ7の入力側と架線2との間の絶縁がトランス16等により確保されている場合、三相トランス8無しで車両用補助電源装置103を構成する場合がある。これらの場合、負荷電流ILoadの推定計算のベクトル図は、
図3を適用できるので、ILoadの推定計算での計算量を減らすことができる。
【0039】
図4は、第1実施形態の出力電流推定部における推定演算処理のブロック図である。
図4に示す出力電流推定部25は、各々の電流を、d軸とq軸によって定義される回転座標系の上に変換してから、キルヒホッフの電流則を用いて、
図2又は
図3に示すようなベクトル図で表現される加減算を行う。
【0040】
出力電流推定部25は、dq変換部31、二次電流演算部32、dq変換部33、位相回転部36及び実効値計算部39を有する。
【0041】
dq変換部31は、インバータ7の出力電圧の位相指令θを用いて、インバータ電流Iinvの検出値を、d軸とq軸で定義される回転座標系での電流(d軸インバータ電流Iinvd及びq軸インバータ電流Iinvq)に変換する。
【0042】
二次電流演算部32は、インバータ電流Iinv(d軸インバータ電流Iinvd及びq軸インバータ電流Iinvq)を用いて、三相トランス8の二次電流I2(d軸二次電流I2d及びq軸二次電流I2q)を推定演算する。二次電流演算部32は、負荷電流ILoadの推定にトランス励磁電流Iexを利用する場合、除算器41を用いて、トランス励磁電流Iex(=Vcmd/km)を演算する。
【0043】
二次電流演算部32は、d軸インバータ電流Iinvdに三相トランス8の変圧比ktを乗算器43により乗算し、位相回転部45に入力するためのd軸電流成分D1を算出する。二次電流演算部32は、q軸インバータ電流Iinvqにトランス励磁電流Iexを加算器42により加算し、その加算結果に変圧比ktを乗算器44により乗算して、位相回転部45に入力するためのq軸電流成分Q1を算出する。二次電流演算部32は、d軸電流成分D1及びq軸電流成分Q1からなる電流ベクトルの位相を位相回転部45により30度進めて、d軸二次電流I2dとq軸二次電流I2qとを推定演算する。トランスがΔ-Y結線型の場合、位相回転部45における位相回転量は30度(進み)である。トランスがΔ-Δ結線型又はY-Y結線型の場合、位相回転量は、零となる。
【0044】
dq変換部33は、インバータ7の出力電圧の位相指令θを用いて、出力電圧PTの検出値を、d軸とq軸で定義される回転座標系での電圧(d軸出力電圧PTd及びq軸出力電圧PTq)に変換する。
【0045】
出力電流推定部25は、d軸出力電圧PTdをACFC10のインピーダンスkcで除算器34により除算し、その除算結果の位相を位相回転部36により90度進めて、q軸コンデンサ電流Ifcqを推定演算する。出力電流推定部25は、q軸出力電圧PTqをインピーダンスkcで除算器35により除算し、その除算結果の位相を位相回転部36により90度進めて、d軸コンデンサ電流Ifcdを推定演算する。
【0046】
なお、除算器において、Nは、分子を、Dは、分母を表す。
【0047】
出力電流推定部25は、d軸二次電流I2dからd軸コンデンサ電流Ifcdを減算器37により減算することで、d軸負荷電流ILoaddを導出する。出力電流推定部25は、q軸二次電流I2qからq軸コンデンサ電流Ifcqを減算器38により減算することで、q軸負荷電流ILoadqを導出する。
【0048】
出力電流推定部25は、d軸負荷電流ILoadd及びq軸負荷電流ILoadqを用いて、負荷電流ILoadの実効値ILestを推定する実効値計算部39(RMS39)を有する。d軸負荷電流ILoadd及びq軸負荷電流ILoadqは、直流量と想定する。実効値計算部39は、例えば、√(ILoadd2+ILoadq2)×(1/√2)を演算することで、負荷電流ILoadの実効値ILestを算出する。
【0049】
したがって、第1実施形態によれば、制御装置12は、LCフィルタ18の後段からの出力電流ILを検出する電流検出器を使用せずに出力電流IL(=負荷電流ILoad)を演算により推定できる。そして、制御装置12は、出力電流ILの推定値(この例では、実効値ILest)を、インバータ7に関する所定の制御(この例では、出力電流制限部26による出力電流制限制御、過負荷判定部28による過負荷判定)に利用できる。よって、出力電流ILを検出する電流検出器を有する従来の構成に比べて、小型化及びコストダウンが可能となる。
【0050】
図5は、第2実施形態の車両用補助電源装置の構成例を示す図である。第2実施形態の車両用補助電源装置102は、ACFC10が三相トランス8の一次側に接続されている点(三相トランス8がLCフィルタ18の後段に接続されている点)で、第1実施形態の車両用補助電源装置101と相違する。第2実施形態において、第1実施形態と同様の構成、作用及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで省略又は簡略する。
【0051】
図6は、第2実施形態の車両用補助電源装置の各部電流の関係を示すベクトル図である。説明の簡単化のため、
図6では、三相トランス8の変圧比を1、三相トランス8での位相回転がないとして説明する。
【0052】
ACFC10が三相トランス8の一次側にあるので、第2実施形態の
図6は、ACFC電流Ifcがトランス励磁電流Iexと180度差になる点で、第1実施形態の
図2と相違する。負荷電流ILoadの推定計算式は、
図2と変わらない。
【0053】
図7は、第2実施形態の出力電流推定部における推定演算処理のブロック図である。
図7に示す出力電流推定部25は、各々の電流を、d軸とq軸によって定義される回転座標系の上に変換してから、キルヒホッフの電流則を用いて、
図6に示すようなベクトル図で表現される加減算を行う。
【0054】
出力電流推定部25は、dq変換部31、一次電圧演算部51、位相回転部63、位相回転部68及び実効値計算部69を有する。
【0055】
dq変換部31は、インバータ7の出力電圧の位相指令θを用いて、インバータ電流Iinvの検出値を、d軸とq軸で定義される回転座標系での電流(d軸インバータ電流Iinvd及びq軸インバータ電流Iinvq)に変換する。
【0056】
一次電圧演算部51は、電圧指令値Vcmd、出力電圧PTの検出値及び位相指令θを用いて、三相トランス8の一次電圧Vpを演算する。
【0057】
図8は、三相トランスの一次電圧Vpの演算方法を説明するためのモデル図である。一次電圧演算部51は、重ね合わせの理を用いて、三相トランス8の一次電圧Vpを計算する。一次電圧Vpは、
Vp=Vinv×[jX2//(R3+jX3)]/[jX1+{jX2//(R3+jX3)}]+Vs×[(jX1//jX2)]/[(jX1//jX2)+(R3+jX3)]
と表される。
【0058】
ここで、"//"は、その前後2つのインピーダンスの並列インピーダンスを表す。Vsは、
図8に示すモデルにおいて、出力電圧VT(=PT)及びその位相を、理想トランスの一次側に変換した電圧ベクトルである。jは、虚数単位を表す。X1は、ACL9のインピーダンス、X2は、ACFC10のキャパシタンスと三相トランス8の励磁インダクタンスとの合成インピーダンスを表す。X3は、三相トランス8のインピーダンスを表す。R3は、三相トランス8の抵抗成分を表す。
【0059】
式の展開は省略するが、最終的に係数A,B,C,Dを用いて、Vpは、
Vp=Vinv×(A+jB)+Vs×(C+jD)
と表現(計算)できる。
【0060】
このVpは、d軸及びq軸による回転座標系では、重ね合わせの理から導出される係数K11,K21,K31,K32,K41,K42を用いて、
Vpd=K11×Vinvd+K12×Vindq+K31×Vsd+K32×Vsq
Vpq=K21×Vinvd+K22×Vindq+K41×Vsd+K42×Vsq
と表される。添字d,qは、それぞれの電圧のd軸成分、q軸成分を示す。
【0061】
インバータ電圧Vinvに関して、d軸成分Vinvdの大きさは、Vcmdに等しく、q軸成分Vinvqの大きさは、0である。よって、一次電圧Vpは、回転座標系では、
Vpd=K11×Vcmd+K31×Vsd+K32×Vsq
Vpq=K21×Vcmd+K41×Vsd+K42×Vsq
と表される。
【0062】
図9は、一次電圧演算部の演算処理のブロック図である。一次電圧演算部51は、重ね合わせの理の上記の係数を用いて、三相トランス8の一次電圧Vpを計算する。
【0063】
dq変換部52は、インバータ7の出力電圧の位相指令θを用いて、出力電圧PTの検出値を、d軸及びq軸による回転座標系での第1電圧ベクトル(d軸出力電圧PTd及びq軸出力電圧PTq)に変換する。
【0064】
一次電圧演算部51は、第1電圧ベクトル(d軸出力電圧PTd及びq軸出力電圧PTq)の位相を位相回転部53により30度遅らせた第2電圧ベクトル(d軸出力電圧D2及びq軸出力電圧Q2)を演算する。一次電圧演算部51は、第2電圧ベクトルのd軸出力電圧成分D2に(1/kt)を乗算器により乗算することで、電圧ベクトルVsのd軸電圧成分Vsdを導出する。一次電圧演算部51は、第2電圧ベクトルのq軸出力電圧成分Q2に(1/kt)を乗算器により乗算することで、電圧ベクトルVsのq軸電圧成分Vsqを導出する。
【0065】
一次電圧演算部51は、
図9に示す複数の乗算器及び加算器を用いて、
Vpd=K11×Vcmd+K31×Vsd+K32×Vsq
Vpq=K21×Vcmd+K41×Vsd+K42×Vsq
に従って、一次電圧Vpのd軸成分Vpdとq軸成分Vpqを算出する。
【0066】
図7において、出力電流推定部25は、d軸成分Vpdを合成インピーダンスX2で除算器61により除算し、q軸成分Vpqを合成インピーダンスX2で除算器62により除算する。合成インピーダンスX2は、ACFC10のキャパシタンスと三相トランス8の励磁インダクタンスとの合成インピーダンスである。出力電流推定部25は、除算器62による除算結果を位相回転部63により90度進めて、合計電流IX2のd軸合計電流IX2dを生成する。出力電流推定部25は、除算器61による除算結果を位相回転部63により90度進めて、合計電流IX2のq軸合計電流IX2qを生成する。合計電流IX2は、ACFC10と三相トランス8の励磁インダクタンスに流れる合計電流である。
【0067】
減算器64は、d軸インバータ電流Iinvdからd軸合計電流IX2dを減算することで、d軸一次電流I1dを生成する。減算器65は、q軸インバータ電流Iinvqからq軸合計電流IX2qを減算することで、q軸一次電流I1qを生成する。
【0068】
出力電流推定部25は、d軸一次電流I1dに変圧比ktを乗算器66により乗算し、位相回転部68に入力するためのd軸電流成分D3を算出する。出力電流推定部25は、q軸一次電流I1qに変圧比ktを乗算器67により乗算し、位相回転部68に入力するためのq軸電流成分Q3を算出する。出力電流推定部25は、d軸電流成分D3及びq軸電流成分Q3からなる電流ベクトルの位相を位相回転部68により30度進めることで、d軸二次電流I2d(=d軸負荷電流ILoadd)とq軸二次電流I2q(=q軸負荷電流ILoadq)とを生成する。
【0069】
出力電流推定部25は、d軸負荷電流ILoadd及びq軸負荷電流ILoadqを用いて、負荷電流ILoadの実効値ILestを推定する実効値計算部69(RMS69)を有する。d軸負荷電流ILoadd及びq軸負荷電流ILoadqは、直流量と想定する。実効値計算部69は、例えば、√(ILoadd2+ILoadq2)×(1/√2)を演算することで、負荷電流ILoadの実効値ILestを算出する。
【0070】
したがって、第2実施形態によれば、制御装置12は、LCフィルタ18の後段からの出力電流ILを検出する電流検出器を使用せずに出力電流IL(=負荷電流ILoad)を演算により推定できる。そして、制御装置12は、出力電流ILの推定値(この例では、実効値ILest)を、インバータ7に関する所定の制御(この例では、出力電流制限部26による出力電流制限制御、過負荷判定部28による過負荷判定)に利用できる。よって、出力電流ILを検出する電流検出器を有する従来の構成に比べて、小型化及びコストダウンが可能となる。
【0071】
図10は、第3実施形態の車両用補助電源装置の構成例を示す図である。第3実施形態の車両用補助電源装置103は、インバータ7の入力側と架線2との間の絶縁がトランス16等により確保されている点で、第1実施形態の車両用補助電源装置101と相違する。第3実施形態において、上述の実施形態と同様の構成、作用及び効果についての説明は、上述の説明を援用することで省略又は簡略する。
【0072】
車両用補助電源装置103は、三相トランス8を備えない代わりに、トランス16を備える。また、交流を直流に変換するコンバータ17がトランス16とインバータ7との間に接続されている。第3実施形態では、制御装置12内の出力電流推定部25(
図4)は、二次電流演算部32を備えない点で、第1実施形態と相違する。第3実施形態での出力電流推定部25は、d軸インバータ電流Iinvdからd軸コンデンサ電流Ifcdを減算器37により減算することで、d軸負荷電流ILoaddを導出する。第3実施形態の出力電流推定部25は、q軸インバータ電流invqからq軸コンデンサ電流Ifcqを減算器38により減算することで、q軸負荷電流ILoadqを導出する。
【0073】
したがって、第3実施形態によれば、制御装置12は、LCフィルタ18の後段からの出力電流ILを検出する電流検出器を使用せずに出力電流IL(=負荷電流ILoad)を演算により推定できる。そして、制御装置12は、出力電流ILの推定値(この例では、実効値ILest)を、インバータ7に関する所定の制御(この例では、出力電流制限部26による出力電流制限制御、過負荷判定部28による過負荷判定)に利用できる。よって、出力電流ILを検出する電流検出器を有する従来の構成に比べて、小型化及びコストダウンが可能となる。
【0074】
以上、実施形態を説明したが、本開示の技術は上記の実施形態に限定されない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が可能である。
【0075】
例えば、集電器は、パンタグラフ3に限られない。線路内に走行用の2本のレールに平行する第三の電源供給用レール(第三軌条)を敷設した第三軌条方式を採用している場合には、集電器は、第三軌条に接触する集電靴(コレクタシュー)でもよい。
【0076】
電力変換装置は、車両用補助電源装置に限られない。電力変換装置は、車両用補助電源装置とは異なる用途で、直流電力又は交流電力を交流電力に変換する装置に適用されてもよい。
【0077】
負荷に供給される交流は、三相交流に限られず、単相交流でもよい。負荷15は、車輪5を回転させるモータなどの交流電動機でもよい。
【符号の説明】
【0078】
2 架線
3 パンタグラフ
4 レール
5 車輪
6 入力フィルタ
7 インバータ
8 三相トランス
9 ACL
10 ACFC
11 ゲート駆動回路
12 制御装置
13 電流検出器
14 電圧検出器
15 負荷
18 LCフィルタ
101,102,103 車両用補助電源装置