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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181777
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】臓器保持具および撮影方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 1/02 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
A01N1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095112
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】虎井 真司
(72)【発明者】
【氏名】笠松 寛央
(72)【発明者】
【氏名】吉本 周平
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011CA01
4H011CB05
4H011CC01
(57)【要約】
【課題】臓器の透視撮影を行うときに、臓器の損傷を抑制しつつ臓器を保持し、臓器の状態を定量的に評価できる技術を提供する。
【解決手段】この臓器保持具1は、軟質材料からなる本体部10と、本体部10の上面に形成された凹部20と、を有する。本体部10は中実である。ドナーから摘出された臓器9は、まず、臓器保持具1の凹部20に保持される。続いて、臓器保持具1および臓器9が、透視撮影される。その後、透視撮影により得られた画像が、本体部10を基準として、濃度補正される。これにより、臓器9の状態を定量的に評価できる。
【選択図】図6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外において透視撮影される臓器を保持する臓器保持具であって、
軟質材料からなる本体部と、
前記本体部の上面に形成された凹部と、
を有し、
前記本体部は中実であり、
前記凹部に前記臓器が支持される、臓器保持具。
【請求項2】
請求項1に記載の臓器保持具であって、
前記本体部は、シリコーンゴムにより形成されている、臓器保持具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の臓器保持具であって、
前記臓器の血管に接続されるチューブを配置するチューブ配置部
をさらに有する、臓器保持具。
【請求項4】
請求項3に記載の臓器保持具であって、
前記チューブ配置部は、前記本体部に設けられた溝または貫通孔である、臓器保持具。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の臓器保持具であって、
前記臓器の血管に接続されるチューブを保持するための器具を支持する器具支持部
をさらに有する、臓器保持具。
【請求項6】
請求項5に記載の臓器保持具であって、
前記器具支持部は、前記本体部に設けられた溝または貫通孔である、臓器保持具。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の臓器保持具であって、
前記本体部は、前記軟質材料により一体成形されている、臓器保持具。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の臓器保持具であって、
前記本体部のJIS K 6253-3:2012に基づくタイプAデュロメータ硬さは、30以上かつ60以下である、臓器保持具。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載の臓器保持具であって、
前記透視撮影はMRI撮影である、臓器保持具。
【請求項10】
体外において臓器を透視撮影する撮影方法であって、
a)ドナーから摘出された臓器を、臓器保持具により保持する工程と、
b)前記臓器保持具および前記臓器を、透視撮影する工程と、
c)前記工程b)により得られた画像を濃度補正する工程と、
を有し、
前記臓器保持具は、
軟質素材からなる本体部と、
前記本体部の上面に形成された凹部と、
を有し、
前記本体部は中実であり、
前記凹部に前記臓器が支持され、
前記工程c)では、前記本体部を基準として前記画像の濃度補正を行う、撮影方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外において臓器を透視撮影する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性的な臓器不全に対する有効な治療方法として、臓器移植が知られている。臓器移植では、ドナーから臓器を摘出した後、当該臓器を、一時的に体外で保存する。ドナーから摘出された臓器を体外で保存する従来の技術については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-104750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
臓器移植を行うときには、ドナーの臓器が、レシピエントへ移植可能であるかを評価する必要がある。従来の評価方法としては、臓器摘出前のドナーの状態を血液検査やBMI検査などで評価する方法、臓器摘出前にドナーの体内に存在する臓器を透視撮影する方法、ドナーから摘出された臓器の病理検査を行う方法、などがある。しかしながら、これらの方法を用いても、移植対象となる臓器の機能性を十分に評価することは困難であり、明確な評価基準は未だ定まっていない。
【0005】
臓器の状態をより精度よく評価するためには、ドナーから摘出された臓器に対して、MRI撮影等の透視撮影を行うことが考えられる。しかしながら、体外に摘出された臓器は、損傷させることなく固定することが難しい。また、臓器を氷などで固定できたとしても、撮影毎に臓器の周辺環境が変化するため、臓器の状態を定量的に評価することが難しいという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、臓器の透視撮影を行うときに、臓器の損傷を抑制しつつ臓器を保持し、臓器の状態を定量的に評価できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、体外において透視撮影される臓器を保持する臓器保持具であって、軟質材料からなる本体部と、前記本体部の上面に形成された凹部と、を有し、前記本体部は中実であり、前記凹部に前記臓器が支持される。
【0008】
本願の第2発明は、第1発明の臓器保持具であって、前記本体部は、シリコーンゴムにより形成されている。
【0009】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の臓器保持具であって、前記臓器の血管に接続されるチューブを配置するチューブ配置部をさらに有する。
【0010】
本願の第4発明は、第3発明の臓器保持具であって、前記チューブ配置部は、前記本体部に設けられた溝または貫通孔である。
【0011】
本願の第5発明は、第1発明または第2発明の臓器保持具であって、前記臓器の血管に接続されるチューブを保持するための器具を支持する器具支持部をさらに有する。
【0012】
本願の第6発明は、第5発明の臓器保持具であって、前記器具支持部は、前記本体部に設けられた溝または貫通孔である。
【0013】
本願の第7発明は、第1発明から第6発明までのいずれか1発明の臓器保持具であって、前記本体部は、前記軟質材料により一体成形されている。
【0014】
本願の第8発明は、第1発明から第7発明までのいずれか1発明の臓器保持具であって、前記本体部のJIS K 6253-3:2012に基づくタイプAデュロメータ硬さは、30以上かつ60以下である。
【0015】
本願の第9発明は、第1発明から第8発明までのいずれか1発明の臓器保持具であって、前記透視撮影はMRI撮影である。
【0016】
本願の第10発明は、体外において臓器を透視撮影する撮影方法であって、a)ドナーから摘出された臓器を、臓器保持具により保持する工程と、b)前記臓器保持具および前記臓器を、透視撮影する工程と、c)前記工程b)により得られた画像を濃度補正する工程と、を有し、前記臓器保持具は、軟質素材からなる本体部と、前記本体部の上面に形成された凹部と、を有し、前記本体部は中実であり、前記凹部に前記臓器が支持され、前記工程c)では、前記本体部を基準として前記画像の濃度補正を行う。
【発明の効果】
【0017】
本願の第1発明から第9発明によれば、凹部により、臓器の損傷を抑制しつつ、臓器を保持できる。また、臓器保持具の本体部を透視撮影の基準器として使用することができるため、臓器の状態を定量的に評価できる。
【0018】
特に、本願の第2発明によれば、本体部の表面に対して臓器が滑りにくいため、臓器の脱落を抑制できる。
【0019】
特に、本願の第3発明によれば、チューブの位置ずれを抑制できる。また、チューブの曲折を抑制しつつ、チューブを配置できる。
【0020】
特に、本願の第5発明によれば、器具および器具に保持されたチューブの位置を、安定させることができる。
【0021】
特に、本願の第7発明によれば、一体成形により、本体部の均一性を高めることができる。これにより、本体部を透視撮影の基準器として、より使用しやすくなる。
【0022】
特に、本願の第8発明によれば、臓器の損傷をより抑制し、かつ、臓器を安定して保持できる。
【0023】
また、本願の第10発明によれば、凹部により、臓器の損傷を抑制しつつ、臓器を保持できる。また、透視撮影により得られる画像を、臓器保持具の本体部を基準として、濃度補正する。これにより、臓器の状態を定量的に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】臓器保持具の上面図である。
図2】臓器保持具の斜視図である。
図3】臓器保持具の断面図である。
図4】臓器移植の流れを示したフローチャートである。
図5】臓器にチューブが接続された状態を示した図である。
図6】MRI撮影装置に臓器が搬入された様子を示した図である。
図7】MRI撮影により取得した本体部および臓器の画像の例である。
図8】第1変形例に係る臓器保持具の斜視図である。
図9】第2変形例に係る臓器保持具の斜視図である。
図10】第3変形例に係る臓器保持具の斜視図である。
図11】第4変形例に係る臓器保持具の斜視図である。
図12】第5変形例に係る臓器保持具およびリファレンス部の斜視図である。
図13】第6変形例に係る臓器保持具およびリファレンス部の斜視図である。
図14】第7変形例に係る臓器保持具およびリファレンス部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
本願において「ドナー」および「レシピエント」は、ヒトであってもよいし、非ヒト動物であってもよい。すなわち、本願において、「臓器」は、ヒトの臓器であってもよいし、非ヒト動物の臓器であってもよい。また、非ヒト動物は、マウスおよびラットを含む齧歯類、ブタ、ヤギ、およびヒツジを含む有蹄類、チンパンジーを含む非ヒト霊長類、その他の非ヒトほ乳動物であってもよいし、ほ乳動物以外の動物であってもよい。
【0027】
<1.臓器保持具について>
図1は、一実施形態に係る臓器保持具1の上面図である。図2は、臓器保持具1の斜視図である。図3は、図1における臓器保持具1のA-A線断面図である。この臓器保持具1は、臓器9の移植手術を行うときに、ドナーから摘出された臓器9を、体外において一時的に保持するための容器(リアクター)である。臓器保持具1に保持される臓器9は、例えば、肝臓、腎臓、心臓、または膵臓である。ただし、臓器保持具1に保持される臓器9は、上記以外の臓器であってもよいし、臓器の一部分であってもよい。
【0028】
図1および図2に示すように、本実施形態の臓器保持具1は、本体部10を有する。本体部10は、軟質材料であるシリコーンゴムにより形成されている。本体部10の概形は、扁平な略板状である。本体部10は、平坦な底面と、凹部20が形成された上面とを有する。凹部20は、滑らかな曲面により形成された窪みである。臓器9は、凹部20に載置される。すなわち、臓器9は、その少なくとも一部分が凹部20内に収容された状態で、凹部20上に支持される。
【0029】
臓器9の下面は、凹部20の表面に接触する。本体部10は、タッキング性が高いシリコーンゴムにより形成されているため、臓器9は、凹部20の表面に対して滑りにくい。これにより、凹部20に載置された臓器9が、凹部20から滑って落下することを抑制できる。
【0030】
本体部10のJIS K 6253-3:2012に基づくタイプAデュロメータ硬さは、30以上かつ60以下であることが望ましい。本体部10のデュロメータ硬さの値が大き過ぎると、臓器9が本体部10に接触することにより、臓器9が損傷を受けやすくなる。一方、本体部10のデュロメータ硬さの値が小さ過ぎると、本体部10が形状を維持しにくくなるため、本体部10により臓器9を安定して保持することが難しくなる。本体部10のデュロメータ硬さを、上記の数値範囲とすれば、臓器9の損傷を抑制し、かつ、臓器9を安定して保持することができる。なお、本体部10のJIS K 6253-3:2012に基づくタイプAデュロメータ硬さは、40以上かつ50以下とすることが、より望ましい。
【0031】
図1図3に示すように、臓器保持具1は、チューブ配置部30を有する。チューブ配置部30は、本体部10の上面に設けられた溝である。より具体的には、チューブ配置部30は、凹部20の周縁部に位置し、凹部20よりも幅および深さが小さい溝となっている。チューブ配置部30は、凹部20と繋がっている。臓器9の血管にチューブを接続する場合、当該チューブの一部を、チューブ配置部30に配置することができる。これにより、チューブの位置ずれを抑制できる。また、チューブの曲折(キンキング)を抑制しつつ、チューブを配置できる。
【0032】
なお、チューブ配置部30は、本体部10に設けられた貫通孔であってもよい。その場合、臓器9の血管に接続されるチューブの一部を、当該貫通孔に挿入すればよい。
【0033】
ドナーから摘出された臓器9の状態を、MRI(Magnetic Resonance Imaging,核磁気共鳴画像法)撮影により評価する場合、この臓器保持具1は特に有用である。MRI撮影装置のガントリー内には、高い磁場が発生するため、磁性材料を搬入することができない。しかしながら、この臓器保持具1を構成するシリコーンゴムは、非磁性材料である。このため、臓器9が保持された臓器保持具1を、そのままMRI撮影装置のガントリー内に搬入して、臓器9のMRI撮影を行うことができる。
【0034】
また、臓器保持具1の本体部10は、シリコーンゴムにより一体成形されている。すなわち、臓器保持具1の本体部10は、連続したシリコーンゴムからなる一体の成形品である。このため、図3に示すように、本体部10は、内部に空洞を有さず、中実となっている。また、一体成形により、本体部10を構成するシリコーンゴムは、縦方向、横方向、および高さ方向のいずれの方向においても、高い均一性を有する。このため、MRI撮影時に、本体部10を、定量評価のための基準器として利用することができる。
【0035】
<2.臓器移植の手順>
続いて、上記の臓器保持具1を用いた臓器移植の手順について、説明する。図4は、臓器移植の流れを示したフローチャートである。なお、以下では、臓器移植に関する作業を行う者を「作業者」と称する。作業者には、執刀者である医師や、医師を補助する看護師等が含まれる。
【0036】
臓器移植手術を行うときには、まず、作業者が、ドナーから臓器9を摘出する(ステップS1)。具体的には、作業者は、ドナーの腹部を切開し、ドナーの体腔内において、臓器9の動脈および静脈を切断する。そして、作業者は、ドナーの体腔内から、臓器9を取り出して、臓器保持具1の凹部20に、臓器9を載置する。これにより、摘出された臓器9が、臓器保持具1に保持される(ステップS2)。
【0037】
上述の通り、凹部20は、滑らかな曲面である。このため、臓器保持具1は、臓器9の損傷を抑制しつつ、凹部20上に臓器9を安定した状態で保持できる。また、上述の通り、臓器保持具1の本体部10は、適度なデュロメータ硬さを有する。このため、臓器保持具1は、臓器9の損傷をより抑制しつつ、臓器9をより安定した状態で保持できる。また、上述の通り、臓器保持具1の本体部10は、タッキング性が高いシリコーンゴムにより形成されている。このため、凹部20の表面に対して臓器9が滑りにくく、凹部20から臓器9が脱落することを抑制できる。
【0038】
次に、作業者は、臓器保持具1に保持された臓器9に、チューブ41,42を接続する(ステップS3)。図5は、臓器9にチューブ41,42が接続された状態を示した図である。図5に示すように、作業者は、臓器9の動脈に給液チューブ41を接続するとともに、臓器9の静脈に排液チューブ42を接続する。給液チューブ41の上流側の端部は、リザーバ43に接続されている。リザーバ43は、灌流液を貯留したパウチバッグまたはタンクである。灌流液には、例えば、生理食塩水、ETK液、HTK液、またはUW液が使用される。
【0039】
続いて、臓器9内の血管を洗浄するフラッシュ処理が行われる(ステップS4)。具体的には、作業者が、給液チューブ41の経路上に設けられたクランプ44を開放する。これにより、リザーバ43から、給液チューブ41を通って臓器9内の血管へ、灌流液が供給される。そして、臓器9内の血管から排液チューブ42へ、灌流液が排出される。これにより、臓器9内の血管から、血液が排出されるとともに、血管内に存在する血栓や老廃物が洗い流される。
【0040】
フラッシュ処理が終了すると、臓器保持具1に保持された臓器9から、チューブ41,42が取り外される(ステップS5)。具体的には、作業者は、臓器9の動脈から給液チューブ41を取り外すとともに、臓器9の静脈から排液チューブ42を取り外す。
【0041】
次に、作業者は、フラッシュ処理後の臓器9を、MRI撮影装置50に搬入する(ステップS6)。図6は、MRI撮影装置50に臓器9が搬入された様子を示した図である。図6に示すように、作業者は、臓器9を、臓器保持具1に保持された状態のまま、MRI撮影装置50に搬入する。上述の通り、臓器保持具1は、非磁性の材料により構成される。このため、高い磁場が発生するMRI撮影装置50のガントリー51内に、臓器保持具1を配置することができる。
【0042】
続いて、MRI撮影装置50は、臓器9および臓器保持具1のMRI撮影を行う(ステップS7)。MRI撮影装置50は、ガントリー51内に高周波の磁場を発生させ、臓器9および臓器保持具1内の水素原子から共鳴現象により発生する電波を受信する。そして、MRI撮影装置50は、受信した信号に基づいて、臓器9および臓器保持具1の断層画像を生成する。
【0043】
上述の通り、臓器保持具1の本体部10は中実である。また、本体部10を構成するシリコーンは、水素原子を含むアルキル基を有する。このため、MRI撮影により、本体部10の断層画像を取得することが可能である。なお、シリコーン以外でも、水素原子を含む材料により本体部10が構成されていれば、MRI撮影により断層画像を取得することが可能と考えられる。
【0044】
図7は、MRI撮影により取得した本体部10および臓器9の画像の例である。図7のように、得られた画像において、本体部10は略均一な濃度となる。特に、本実施形態の本体部10は、一体の成形品であるため、高い均一性を有する。したがって、画像中において、本体部10を濃度補正の基準として利用できる。
【0045】
具体的には、作業者は、MRI装置または他のコンピュータにおいて、画像中の本体部10の濃度値が、予め設定された所定値となるように、画像全体の濃度補正を行う(ステップS8)。ドナーから摘出された臓器9の状態は、移植手術毎に異なるが、本体部10の状態は、比較的ばらつきが小さい。このため、本体部10を基準として濃度補正を行うことにより、画像中の臓器9の濃度を定量化できる。
【0046】
作業者は、濃度補正後の画像に基づいて、臓器9の状態を評価する(ステップS9)。具体的には、フラッシュ処理による血液の排出が十分かどうか、臓器9内に血栓または損傷がないか、などが評価される。上記の濃度補正により、画像中の臓器9の濃度は定量化されている。したがって、作業者は、濃度補正後の画像に基づいて、臓器9の状態を定量的に評価できる。
【0047】
作業者は、上記の評価により、臓器9の状態が所定の基準を満たさない場合、当該臓器9をレシピエントへ移植できないと判断する。また、作業者は、上記の評価により、臓器9の状態が所定の基準を満たす場合、当該臓器9をレシピエントへ移植できると判断する。
【0048】
臓器9を移植できると判断した場合、作業者は、MRI撮影後の臓器9を保存する。具体的には、低温(例えば4℃)の生理食塩水等の液体中に臓器9を浸漬して保存する。また、作業者は、臓器9を保存しつつ、当該臓器9を、レシピエントまで運搬する(ステップS10)。
【0049】
臓器9がレシピエントへ到着した後、レシピエントへの臓器9の移植が行われる(ステップS11)。具体的には、作業者は、レシピエントの腹部を切開し、レシピエントの体腔内に臓器9を配置する。続いて、作業者は、臓器9の動脈とレシピエントの動脈とを吻合するとともに、臓器9の静脈とレシピエントの静脈とを吻合する。その後、作業者は、レシピエントの腹部を閉じる。
【0050】
以上のように、本実施形態の臓器保持具1を用いれば、ドナーから摘出された臓器9のMRI撮影を行うときに、臓器9の損傷を抑制しつつ臓器9を保持できる。また、臓器保持具1の本体部10を、MRI撮影の基準器として使用することができる。したがって、臓器9の状態を定量的に評価した上で、レシピエントへ臓器9を移植できる。
【0051】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0052】
<3-1.第1変形例>
図8は、第1変形例に係る臓器保持具1の斜視図である。上記の実施形態と同様に、図8の臓器保持具1も、軟質材料からなる中実な本体部10を有する。本体部10の概形は、扁平な略板状である。本体部10は、平坦な底面と、凹部20が形成された上面とを有する。臓器9は、凹部20上に支持される。
【0053】
また、図8の臓器保持具1は、器具支持部60を有する。器具支持部60は、本体部10の上面に設けられた溝である。より具体的には、器具支持部60は、凹部20の周囲に位置するスリット状または丸穴状の溝となっている。臓器9の血管にチューブを接続する場合、当該チューブの一部を、クリップや鉗子等の器具で保持する。その際、当該器具の一部を、器具支持部60に挿入することにより、器具を支持することができる。これにより、器具および器具に保持されたチューブの位置を、安定させることができる。また、作業者は、器具を持ち続ける必要がないため、器具から手を離して、他の作業を行うことができる。
【0054】
なお、器具支持部60は、本体部10に設けられた貫通孔であってもよい。その場合、クリップや鉗子等の器具の一部を、当該貫通孔に挿入すればよい。
【0055】
<3-2.第2変形例>
図9は、第2変形例に係る臓器保持具1の斜視図である。上記の実施形態と同様に、図9の臓器保持具1も、軟質材料からなる中実な本体部10を有する。本体部10の概形は、扁平な略板状である。本体部10は、平坦な底面と、凹部20が形成された上面とを有する。臓器9は、凹部20上に支持される。
【0056】
また、図9の臓器保持具1は、リファレンス部70を有する。リファレンス部70は、臓器9のMRI撮影を行うときに、基準器として使用される部分である。リファレンス部70は、凹部20の側方に設けられている。図9のリファレンス部70は、本体部10の上面から下方へ向けて凹んでいる。リファレンス部70の上面視における形状は、図9のように矩形であってもよく、あるいは、矩形以外の多角形、円形、楕円形等であってもよい。
【0057】
本体部10のリファレンス部70以外の部分は、臓器9の保持に適した上下方向の厚みを有するのに対し、リファレンス部70は、MRI撮影の基準器として使用するのに適した厚みを有する。このように、リファレンス部70を、基準器として適した厚みとすることにより、上述したステップS8における画像の濃度補正を、より精度よく行うことができる。
【0058】
特に、図9の例では、リファレンス部70が、高さの異なる複数の上面71を有する。すなわち、リファレンス部70が、上下方向の厚みが異なる複数の部分を有する。このようにすれば、リファレンス部70の当該複数の部分のうち、基準器としてより最適な厚みの部分を選択して使用することができる。したがって、上述したステップS8における画像の濃度補正を、より精度よく行うことができる。なお、リファレンス部70は、深さの異なる複数の孤立した凹みを有していてもよい。
【0059】
また、図9のように、リファレンス部70が凹形状の場合、リファレンス部70の上部の開口を、プラスチックフィルム72で覆うことにより、封止してもよい。このようにすればリファレンス部70内に灌流液等の液体が溜まることを、防止できる。これにより、リファレンス部70を基準器とする画像の濃度補正を、より精度よく行うことができる。
【0060】
<3-3.第3変形例>
図10は、第3変形例に係る臓器保持具1の斜視図である。図10の臓器保持具1は、図9と同様に、凹部20の側方にリファレンス部70を有する。ただし、図10の例では、リファレンス部70は、本体部10の上面から上方へ向けて突出している点が、図9と異なる。リファレンス部70の上面視における形状は、図10のように矩形であってもよく、あるいは、矩形以外の多角形、円形、楕円形等であってもよい。
【0061】
図10の例でも、リファレンス部70と、本体部10のリファレンス部70以外の部分とを、異なる厚みとすることができる。基準器に適した厚みが、本体部10の厚みよりも大きい場合は、このように、リファレンス部70を突出させることで、リファレンス部70を適切な厚みとすることができる。これにより、上述したステップS8における画像の濃度補正を、より精度よく行うことができる。
【0062】
特に、図10の例では、リファレンス部70が、高さの異なる複数の上面71を有する。すなわち、リファレンス部70が、上下方向の厚みが異なる複数の部分を有する。このようにすれば、リファレンス部70の当該複数の部分のうち、基準器としてより最適な厚みの部分を選択して使用することができる。したがって、上述したステップS8における画像の濃度補正を、より精度よく行うことができる。なお、リファレンス部70は、高さの異なる複数の孤立した凸部を有していてもよい。
【0063】
また、図10のように、リファレンス部70が凸形状の場合、リファレンス部70の上面に灌流液等の液体が溜まりにくい。このため、リファレンス部70を基準器とする画像の濃度補正を、より精度よく行うことができる。
【0064】
<3-4.第4変形例>
図11は、第4変形例に係る臓器保持具1の斜視図である。図11の臓器保持具1は、図10と同様に、凹部20の側方にリファレンス部70を有する。ただし、図10の例では、リファレンス部70が本体部10と一体に成形されていたのに対し、図11の例では、本体部10の上面に、1つ以上のプレート73を積層して固定することにより、リファレンス部が形成されている。
【0065】
図10の例でも、リファレンス部70と、本体部10のリファレンス部70以外の部分とを、異なる厚みとすることができる。したがって、リファレンス部70を基準器に適した厚みとして、上述したステップS8における画像の濃度補正を、より精度よく行うことができる。なお、プレート73は、本体部10と同じ軟質材料により形成されることが望ましい。
【0066】
<3-5.第5変形例>
図12は、第5変形例に係る臓器保持具1およびリファレンス部70の斜視図である。図12の例では、リファレンス部70が、臓器保持具1の本体部10とは別体のブロックとなっている。
【0067】
このように、本体部10とリファレンス部70を別体とすれば、本体部10とリファレンス部70を、別々に取り扱うことができる。このため、臓器9の摘出・移植の作業のときには、本体部10を、リファレンス部70から切り離して、容易に取り扱うことができる。なお、本体部10とリファレンス部70を別体とする場合、リファレンス部70は、必ずしも、本体部10と同一の軟質材料でなくてもよい。
【0068】
<3-6.第6変形例>
図13は、第6変形例に係る臓器保持具1およびリファレンス部70の斜視図である。図13の例では、図12と同様に、リファレンス部70が、臓器保持具1の本体部10とは別体のブロックとなっている。ただし、リファレンス部70自体の形状は、上述した図9のリファレンス部70と同等である。このようにすれば、上述した第2変形例の利点と、上述した第5変形例の利点とを、共に得ることができる。
【0069】
<3-7.第7変形例>
図14は、第7変形例に係る臓器保持具1およびリファレンス部70の斜視図である。図14の例では、図12および図13と同様に、リファレンス部70が、臓器保持具1の本体部10とは別体のブロックとなっている。ただし、リファレンス部70自体の形状は、上述した図10のリファレンス部70と同等である。このようにすれば、上述した第3変形例の利点と、上述した第5変形例の利点とを、共に得ることができる。
【0070】
<3-8.他の変形例>
上記の実施形態では、ドナーから摘出された臓器9に対して、透視撮影の一種であるMRI撮影を行う場合について、説明した。しかしながら、本発明における「透視撮影」は、MRI撮影に限らず、CT(Computed Tomography)撮影等の他の撮影方法であってもよい。
【0071】
また、上記の実施形態では、臓器保持具1の本体部10が、シリコーンゴムにより形成されていた。しかしながら、臓器保持具1の本体部10は、シリコーンゴム以外の軟質材料により形成されていてもよい。本体部10を構成する軟質材料は、透視撮影により撮影可能なものであればよい。
【0072】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【0073】
<4.他の観点の発明>
なお、「臓器の透視撮影を行うときに、臓器の状態を定量的に評価できる技術を提供する」ことのみを課題として設定すれば、臓器を支持する「凹部」を必須要件とせず、上記の「リファレンス部」を必須要件とする発明を、上記の実施形態および変形例から抽出することができる。当該発明は、例えば、「体外において臓器を透視撮影するときに、臓器とともに撮影されるリファレンス部であって、中実のリファレンス部。」となる。この発明によれば、リファレンス部を透視撮影の基準器として使用できる。したがって、臓器の状態を定量的に評価できる。また、この発明に、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 臓器保持具
9 臓器
10 本体部
20 凹部
30 チューブ配置部
41 給液チューブ
42 排液チューブ
43 リザーバ
44 クランプ
50 MRI撮影装置
51 ガントリー
60 器具支持部
70 リファレンス部
図1
図2
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