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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181796
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
A01B69/00 303K
A01B69/00 303V
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095140
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】寺田 真也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐樹
【テーマコード(参考)】
2B043
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB08
2B043AB19
2B043BA03
2B043BB06
2B043DA01
2B043DA04
2B043DC03
2B043EA04
2B043EC12
2B043ED15
2B043EE01
(57)【要約】
【課題】不適切な旋回走行が行われたことを検知し、適切に旋回走行が行われることを目的とする。
【解決手段】機体1の位置PPに基づいて直線経路IPLに沿った自動走行による作業走行を制御する自動作業走行制御部と、あらかじめ定められた所定の手順で行われる旋回走行を制御する自動旋回走行制御部とを備え、自動旋回走行制御部は、旋回走行を制御する際に、旋回開始位置PSRを通り、直前に走行した直線経路IPLと次に走行する直線経路IPL1とに接する円を目標旋回円RRCとして算出し、目標旋回円RRCの中心点CRCと走行中の機体1の位置PPとの距離を旋回距離DRとして算出し、目標旋回円RRCの半径RCと旋回距離DRとの差があらかじめ定められた所定の閾値より大きい場合に、所定の脱走制御機能を実行する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回走行と直進走行とを繰り返すことにより圃場に対する作業走行を行う作業車であって、
機体と、
前記機体の位置を算出する機体位置算出部と、
前記直進走行を行うための直線経路を生成する経路生成部と、
前記機体の位置に基づいて前記直線経路に沿った自動走行による前記作業走行を制御する自動作業走行制御部と、
あらかじめ定められた所定の手順で行われる前記旋回走行を制御する自動旋回走行制御部とを備え、
前記自動旋回走行制御部は、前記旋回走行を制御する際に、旋回開始位置を通り、直前に走行した前記直線経路と次に走行する前記直線経路とに接する円を目標旋回円として算出し、前記目標旋回円の中心点と走行中の前記機体の位置との距離を旋回距離として算出し、前記目標旋回円の半径と前記旋回距離との差があらかじめ定められた所定の閾値より大きい場合に、所定の脱走制御機能を実行する作業車。
【請求項2】
前記脱走制御機能は、前記機体を少なくとも一回以上減速させる制御である請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記脱走制御機能は、前記機体の作業部を停止させる制御である請求項1または2に記載の作業車。
【請求項4】
前記脱走制御機能は、前記機体を停車させる制御である請求項1または2に記載の作業車。
【請求項5】
前記目標旋回円の半径と前記旋回距離との差は絶対値として算出され、
前記自動旋回走行制御部は、前記目標旋回円の半径と前記旋回距離との差の絶対値が前記閾値より大きい場合であっても、前記旋回距離が前記目標旋回円の半径より小さい場合は前記脱走制御機能を無効とする請求項1または2に記載の作業車。
【請求項6】
前記自動旋回走行制御部は、前記旋回走行を制御する際に、あらかじめ定められた所定の操舵角度で前記機体を旋回させると共に、前記機体の進行方向に平行な直線と次に走行する前記直線経路とのなす角度が所定の角度以下になると前記旋回走行を終了させる請求項1または2に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋回走行を挟んで複数の直進作業走行を行う作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるように、田植機は、圃場内において、旋回走行を挟んで直線経路を往復して作業走行を行う。旋回走行は、旋回経路が生成されず、直線経路における作業の終了を判断し、あらかじめ定められた所定の旋回角度で自動旋回が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-244288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような田植機では、旋回経路に沿った旋回が行われず、所定の旋回手順で自動旋回走行が制御される。旋回手順として、所定の旋回角度で旋回するように制御される。そのため、圃場の状態等により機体が横滑りした場合等には、予定していた旋回が適切に行われず、不適切な位置を通り、不適切な位置で旋回が終了する場合がある。
【0005】
本発明は、不適切な旋回走行が行われたことを検知し、適切に旋回走行が行われることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る作業車は、旋回走行と直進走行とを繰り返すことにより圃場に対する作業走行を行う作業車であって、機体と、前記機体の位置を算出する機体位置算出部と、前記直進走行を行うための直線経路を生成する経路生成部と、前記機体の位置に基づいて前記直線経路に沿った自動走行による前記作業走行を制御する自動作業走行制御部と、あらかじめ定められた所定の手順で行われる前記旋回走行を制御する自動旋回走行制御部とを備え、前記自動旋回走行制御部は、前記旋回走行を制御する際に、旋回開始位置を通り、直前に走行した前記直線経路と次に走行する前記直線経路とに接する円を目標旋回円として算出し、前記目標旋回円の中心点と走行中の前記機体の位置との距離を旋回距離として算出し、前記目標旋回円の半径と前記旋回距離との差があらかじめ定められた所定の閾値より大きい場合に、所定の脱走制御機能を実行する。
【0007】
自動旋回走行はあらかじめ定められた手順に従って行われ、この手順は、直線経路から次に走行する直線経路に適切に旋回走行が行われるように設定される。ここで、自動旋回走行中に機体がスリップする等して適切な旋回が行われず、所定の手順で自動旋回走行が行われても、次に走行する直線経路の適切な位置に到達できない場合がある。また、自動旋回走行は走行経路が生成されないため、自動旋回走行の制御を容易に行うことができる反面、自動旋回走行中に旋回走行の適否を確認することができない。
【0008】
上記構成によると、自動旋回走行の際に、目標旋回円を仮想的に算出し、目標旋回円に機体が沿うように制御されないながらも、旋回距離と目標旋回円の半径とが比較される。旋回距離が目標旋回円の半径に対して閾値以上ずれたことをもって、スリップ等により機体が脱走し、適切な自動旋回走行が行われていない判断することができる。そして、適切な自動旋回走行が行われていないと判断されると、脱走制御機能が実行され、適切な自動旋回走行が行われるように対処することができる。その結果、不適切な旋回走行が行われていることが検知され、適切に自動旋回走行を行うことができる。
【0009】
また、前記脱走制御機能は、前記機体を少なくとも一回以上減速させる制御であってもよい。
【0010】
このような構成により、適切な自動旋回走行が行われていないと判断された際に、機体が減速されている間に、適切に旋回走行が行われるための措置を行うことができる。
【0011】
また、前記脱走制御機能は、前記機体の作業部を停止させる制御であってもよい。
【0012】
このような構成により、適切な自動旋回走行が行われていないと判断された際に、適切に旋回走行が行われるための措置を容易に行うことができる。
【0013】
また、前記脱走制御機能は、前記機体を停車させる制御であってもよい。
【0014】
このような構成により、適切な自動旋回走行が行われていないと判断されると機体が一旦停車され、その後、適切に旋回走行が行われるように容易に対処することができる。
【0015】
また、大きく膨らんで旋回が行われると、機体が畦に接触する場合がある。適切な自動旋回走行が行われていないと判断されると機体を停車させることにより、機体が畦に接触することを適切に抑制することができる。
【0016】
また、前記目標旋回円の半径と前記旋回距離との差は絶対値として算出され、前記自動旋回走行制御部は、前記目標旋回円の半径と前記旋回距離との差の絶対値が前記閾値より大きい場合であっても、前記旋回距離が前記目標旋回円の半径より小さい場合は前記脱走制御機能を無効としてもよい。
【0017】
旋回距離が目標旋回円の半径より小さくなる状況は、大きな旋回角度(小さな旋回半径)で旋回しすぎ、手順に沿った旋回で想定される旋回軌跡に対して機体が内側にずれている状況である。このような状況では、次に走行する直線経路の適切な位置に向かっていないとしても、畦に接触する可能性は小さい状況である。また、旋回の最終段階または直線経路での走行の初期段階に適切な操舵制御を行うことにより、直線経路に沿った走行を行うことができる可能性がある。
【0018】
そのため、上記構成によると、適切な自動旋回走行が行われていないと判断されても、機体が内側にずれている場合には脱走制御機能を行わないことで、効率的に自動旋回走行およびその後の作業走行を継続することができる。
【0019】
また、前記自動旋回走行制御部は、前記旋回走行を制御する際に、あらかじめ定められた所定の操舵角度で前記機体を旋回させると共に、前記機体の進行方向に平行な直線と次に走行する前記直線経路とのなす角度が所定の角度以下になると前記旋回走行を終了させてもよい。
【0020】
旋回走行において、機体の進行方向が次に走行する直線経路の走行方向と同じ方向に近づくと、旋回の終了位置に近づいたと判断することができ、機体の進行方向が直線経路の走行方向と略一致していれば、そこから直線経路に沿った自動作業走行を開始することができる。
【0021】
上記構成によると、容易に自動旋回走行を行いながら、その後、スムーズに直線経路に沿った自動作業走行に移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】田植機の全体構成を例示する左側面図である。
図2】田植機の全体構成を例示する平面図である。
図3】運転パネルの要部構成を例示する図である。
図4】作業走行を説明する図である。
図5】直線経路の生成例を説明する図である。
図6】旋回走行の手順の例を説明する図である。
図7】自動走行を制御する機能構成を例示する図である。
図8】自動旋回走行における制御の例を説明する図である。
図9】自動旋回走行のフローの例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、作業車の一例として、圃場を作業走行する田植機について説明する。
【0024】
ここで、理解を容易にするために、本実施形態では、特に断りがない限り、「前」(図1図2に示す矢印Fの方向)は機体前後方向(走行方向)における前方を意味し、「後」(図1図2に示す矢印Bの方向)は機体前後方向(走行方向)における後方を意味するものとする。また、左右方向または横方向は、機体前後方向に直交する機体横断方向(機体幅方向)を意味し、「左」(図2に示す矢印Lの方向)および「右」(図2に示す矢印Rの方向)は、それぞれ、機体の左方向および右方向を意味するものとする。
【0025】
〔全体構造〕
図1図2に示すように、田植機は、乗用型で四輪駆動形式の機体1を備える。機体1は、機体1の後部に昇降揺動可能に連結された平行四連リンク形式のリンク機構13、リンク機構13を揺動駆動する油圧式の昇降リンク13a、リンク機構13の後端部領域にローリング可能に連結される苗植付装置3を備える。苗植付装置3は作業装置の一例であり、他の作業装置として、施肥装置や薬剤散布装置等が搭載されてもよい。
【0026】
機体1は、走行のための機構として車輪12、エンジン2、および主変速装置である油圧式の無段変速装置9を備える。無段変速装置9は、例えばHST(Hydro-Static Transmission)であり、モータ斜板およびポンプ斜板の角度を調節することにより、エンジン2から出力される駆動力を変速する。車輪12は、操舵可能な左右の前輪12Aと、操舵不能な左右の後輪12Bとを有する。エンジン2および無段変速装置9は、機体1の前部に搭載される。エンジン2から出力された動力は、無段変速装置9等を介して前輪12A、後輪12B、作業装置等に供給される。
【0027】
苗植付装置3は、一例として8条植え形式に構成される。苗植付装置3は、苗載せ台21、8条分の植付機構22、5つのフロート15等を備える。なお、この苗植付装置3は、各条クラッチ(植付クラッチ23)の制御により、2条植え、4条植え、6条植え等の形式に変更可能である。
【0028】
苗載せ台21は、8条分のマット状苗を載置する台座である。苗載せ台21は、マット状苗の左右幅に対応する一定ストロークで左右方向に往復移動し、苗載せ台21が左右のストローク端に達する毎に、苗載せ台21上の各マット状苗を苗載せ台21の下端に向けて所定ピッチで縦送りする。
【0029】
8個の植付機構22は、ロータリ式で、植え付け条間に対応する一定間隔で左右方向に配置される。そして、各植付機構22は、植付クラッチ23が伝動状態に移行されることによりエンジン2から駆動力が伝達され、苗載せ台21に載置された各マット状苗の下端から一株分の苗を切り取って、整地後の泥土部に植え付ける。これにより、苗植付装置3は、苗載せ台21に載置されたマット状苗から苗を取り出して水田の泥土部に植え付けることができる。
【0030】
フロート15は苗植付作業の際に圃場を整地する。各フロート15は、2条分の植付機構22と対応付けて設けられる。
【0031】
機体1は、その後部側領域に運転部14を備える。運転部14は、前輪操舵用のステアリングホイール10、無段変速装置9の変速操作を行うことで車速を調節する主変速レバー7、苗植付装置3の昇降操作と植付クラッチ23の入切(伝動状態と非伝動状態との間の切り替え)を操作する作業操作レバー11、および、オペレータ(運転者・作業者)用の運転座席16等を備える。ステアリングホイール10、主変速レバー7、および作業操作レバー11は運転座席16の前方の運転パネル6に設けられる。さらに、運転部14の前方に、予備苗を収容する予備苗収納装置17Aが予備苗支持フレーム17に支持される。
【0032】
また、予備苗支持フレーム17には、測位ユニット8が設けられる。測位ユニット8は、機体1の位置PP(図5参照)および方位を算出するための測位データを出力する。測位ユニット8には、全地球航法衛星システム(GNSS)の衛星からの電波を受信する衛星測位モジュール8Aと、機体1の三軸の傾きや加速度を検出する慣性計測モジュール8Bが含まれている。
【0033】
また、図3に示すように、運転パネル6には、開始位置操作具18、終了位置操作具19が設けられる。開始位置操作具18および終了位置操作具19は、運転パネル6のステアリングホイール10より下側に左右に分かれて配置される。開始位置操作具18は、後述するティーチング走行における始点PA(図5参照)を決定する際に操作される。終了位置操作具19は、ティーチング走行における終点PB(図5参照)を決定する際に操作される。開始位置操作具18および終了位置操作具19は、入力操作が可能な操作具であればよく、例えば、押しボタンである。また、開始位置操作具18および終了位置操作具19の配置構成は図3に示す構成に限らず、走行中に運転者が操作できる位置に配置されればよい。
【0034】
〔作業走行〕
田植機が圃場を田植作業する作業走行について、図1図2を参照しながら、図4を用いて説明する。
【0035】
本実施形態における田植機は、手動走行および自動走行を選択的に行うことができる。手動走行は、運転者が手動で、ステアリングホイール10、主変速レバー7、作業操作レバー11等の作業走行操作具を操作して作業走行を行うものである。自動走行は、田植機が自動制御で走行および作業を行うものであり、旋回走行を挟んで、後述の直線経路IPLに沿った直進作業走行を行う。この際の旋回走行は、走行経路が生成されず、あらかじめ定められた所定の手順で自動制御される。
【0036】
田植機が植え付け作業を行う際には、圃場が外周領域OAと内部領域IAに区分けされ、それぞれに応じた作業走行が行われる。
【0037】
内部領域IAでは、圃場の一つの辺に略平行な複数の直線経路IPL(内部往復経路)が生成される。直線経路IPLは、内部領域IAの全体をくまなく走行する走行経路であり、それぞれの直線経路IPLは旋回走行を挟んで走行される。直線経路IPLは、旋回走行が行われる度に、次に走行する直線経路IPLが順次生成される。
【0038】
内部領域IAでの作業走行が行われた後、外周領域OAでの作業走行が行われる。外周領域OAでの作業走行は、自動走行または手動走行により行われる。外周領域OAで自動作業走行が行われる場合、圃場の外周に沿って外周領域OA内を周回する、内側周回経路IRLと外側周回経路ORLの2つの走行経路が生成される。内側周回経路IRLと外側周回経路ORLとを作業走行することにより、外周領域OAの全体の作業走行が行われる。なお、外周領域OA内を周回する走行経路は、内側周回経路IRLと外側周回経路ORLとの2つに限らず、1以上の走行経路であればよい。
【0039】
〔直線経路の自動作業走行〕
次に、図1図4を参照しながら、図5を用いて直線経路における自動作業走行について説明する。
【0040】
まず、内部領域IAの一端から他端に向けて手動走行を行うティーチング走行が行われる。ティーチング走行において、運転者は、作業走行を開始する位置で開始位置操作具18を操作し、ティーチング走行の始点PAを登録する。そして、運転者は、手動操作で直線状の作業走行(手動走行)を行い、作業走行の終了位置に到達すると終了位置操作具19を操作し、ティーチング走行の終点PBを登録する。なお、終点PBは、作業走行の終了位置から、苗植付装置3の上昇される間に直進走行された位置であってもよい。
【0041】
この始点PAと終点PBとを結ぶ直線が基本直線RLであり、基本直線RL、および、基本直線RLに平行な方向である基準方位RDの少なくともいずれかが登録される。
【0042】
次に、往復作業走行を行うために、運転者は所定の操作を行い、後述の自動旋回走行によって、機体1を180°旋回させる。
【0043】
自動旋回走行の終了位置PE(図6参照)が直進走行の開始位置PSSとなり、開始位置PSSを通り、基本直線RLに平行な(基準方位RDの方向の)直線が次に走行する直線経路IPLとして生成される。なお、直線経路IPLは、直進走行の開始位置PSSと走行方位(基準方位RDと平行となる方向)とにより定義されてもよいが、開始位置PSSとその後走行すべき機体1の位置PPの集合として定義されてもよく、直進走行の開始位置PSSと直進走行の終了位置とを結ぶ線分として定義されてもよい。
【0044】
そして、運転者は直線経路IPLに沿った自動作業走行を開始させる。その後、直線経路IPLに沿った自動作業走行と自動旋回走行とが繰り返され、自動旋回走行が終了する度に、次の直線経路IPLが生成されて、内部領域IA全体にわたる往復走行が行われる。
【0045】
〔自動旋回走行〕
次に、図1図5を参照しながら、図6を用いて自動旋回走行について説明する。
【0046】
自動旋回走行は、所定の人為操作が行われることにより開始される。自動旋回走行は外周領域OAで行われるが、特に、畦RWから所定の距離だけ圃場の内側の領域で行われる。自動旋回走行は走行経路に沿って行われるのではなく、車輪12等の走行装置が所定の手順で制御されることにより、あらかじめ定められた所定の手順で行われる。
【0047】
例えば、自動旋回走行は、直線経路IPLでの作業走行が終了し、開始位置PSRで所定の人為操作が行われると、まず、前輪12Aがあらかじめ定められた所定の操舵角度、例えば、最大操舵角度に操作されて旋回走行が行われる。この走行での走行軌跡は図6に示すC1となる。
【0048】
次に、旋回角度αが所定の旋回角度αC1になると、操舵角度が低減される。例えば、旋回角度αC1として旋回角度αが90°になると、操舵角度が0°にされる。つまり、旋回角度αが90°になると、機体1は直線経路IPLに対して直行する向き、言い換えると畦際境界線RBLに平行な向きに走行する。ここで、旋回角度αは、走行中の機体1の位置PPと中点CCとを結ぶ直線と、畦際境界線RBLとのなす角度である。中点CCは、直前に作業走行が行われた直線経路IPLの旋回の開始位置PSRと次に走行する直線経路IPLにおける作業走行の開始位置PSS(旋回の終了位置PE)との中点である。また、畦際境界線RBLは、開始位置PSRと終了位置PEとを結ぶ直線であり、開始位置PSRを通り直線経路IPLまたは基本直線RLと直行する直線である。なお、この走行での走行軌跡は図6に示すC2となる。
【0049】
そして、旋回角度αが所定の旋回角度αC2(残りの旋回角度がαC3=180°-αC2)になると、あらかじめ定められた所定の操舵角度に操作されて、旋回の終了位置PE(直線経路IPL)に向けて旋回走行が行われる。この際、旋回の終了位置PEに向けて自動操舵が行われてもよい。この走行での走行軌跡は図6に示すC3となる。
【0050】
〔自動走行の制御〕
次に、自動直進走行(自動作業走行)および自動旋回走行を行う自動走行を制御する機能構成について、図1図5を参照しながら、図7を用いて説明する。
【0051】
自動走行は、制御ユニット30により制御される。制御ユニット30には、測位ユニット8、走行切替操作具25、開始位置操作具18、終了位置操作具19、車輪12が、データ通信が可能な状態で接続される。
【0052】
制御ユニット30は、測位ユニット8から測位データを受信する。また、制御ユニット30は、走行切替操作具25、開始位置操作具18、および終了位置操作具19が操作された情報を受け取る。なお、走行切替操作具25は、自動走行および手動走行に切り替える人為操作を受け付ける。また、制御ユニット30は、車輪12を制御して機体1の走行および操舵を制御する。
【0053】
制御ユニット30は、機体位置算出部32、経路生成部33、自動作業走行制御部35、および自動旋回走行制御部36を備える。
【0054】
機体位置算出部32は、測位ユニット8から受信した測位データに基づいて、圃場における機体1の位置PPを断続的または連続的に算出する。
【0055】
経路生成部33は、上述のティーチング走行において、基本直線RLおよび基準方位RDの少なくともいずれかを算出する。そして、経路生成部33は、算出された基本直線RLまたは基準方位RDを用いて、旋回走行が行われる度に、次に走行する直線経路IPLを生成する。
【0056】
なお、田植機は、所定の報知を行う報知部26を備えてもよい。この場合は、報知部26は制御ユニット30と接続され、制御ユニット30の制御により、所定の報知を行う。そして、経路生成部33は、ティーチング走行において始点PAおよび終点PBが登録された際に、報知部26に所定の報知を行わせる。例えば、報知部26はスピーカーであり、経路生成部33は、始点PAおよび終点PBが登録されると、スピーカーに所定の報知音を発生させる。
【0057】
また、報知音と共に、または報知音に代わり、経路生成部33は、報知部26であるLEDに、始点PAおよび終点PBが登録されたことを知らせる発光を行わせてもよい。さらに、開始位置操作具18および終了位置操作具19が押しボタンであり、報知部26としてそれぞれの押しボタンの表面にLEDが設けられてもよい。そして、経路生成部33は、始点PAが登録されると開始位置操作具18のLEDを点灯させ、終点PBが登録されると終了位置操作具19のLEDを点灯させてもよい。
【0058】
自動作業走行制御部35は、苗植付装置3等の作業装置を制御しながら、機体1の位置PPに基づいて直線経路IPLに沿った自動作業走行を制御する。
【0059】
自動旋回走行制御部36は、所定の人為操作が行われると、あらかじめ定められた所定の手順で機体1を旋回させる。さらに、自動旋回走行制御部36は、自動旋回走行中に、後述の脱走制御機能を実行するための処理を行う。
【0060】
また、自動旋回モードに移行されると、自動旋回走行制御部36は、植付クラッチ23(図2参照)を停止させ、苗植付装置3を上昇させる制御を行ってもよい。
【0061】
〔自動旋回走行中の制御〕
次に、図7を参照しながら、図8図9を用いて、自動旋回走行中に実行される制御について説明する。
【0062】
自動旋回走行が開始されると(図9のステップ#1)、自動旋回走行制御部36は、目標旋回円RRCを算出する(図9のステップ#2)。目標旋回円RRCは、自動旋回走行の開始位置PSR(旋回開始位置)を通り、自動旋回走行の直前に作業走行を行った直線経路IPLと、次に走行する直線経路IPL1とに接する円である。ただし、自動旋回走行制御部36は、自動旋回走行において、機体1が目標旋回円RRCに沿って走行するように制御を行うわけではない。
【0063】
次に、自動旋回走行制御部36は、目標旋回円RRCの中心点CRCを算出する(図9のステップ#3)。例えば、自動旋回走行制御部36は、開始位置PSRから直線経路IPL1に垂線をひき、この垂線と直線経路IPL1との交点と、開始位置PSRとの中点を中心点CRCとして算出する。
【0064】
次に、自動旋回走行制御部36は、目標旋回円RRCの半径RCを算出する(図9のステップ#4)。例えば、自動旋回走行制御部36は、上述の垂線と直線経路IPL1との交点から開始位置PSRまでの距離を目標旋回円RRCの直径として算出し、直径から目標旋回円RRCの半径RCを算出する。
【0065】
自動旋回走行制御部36は、自動旋回走行中に継続的に旋回距離DRを算出する(図9のステップ#5)。旋回距離DRは、自動旋回走行中の機体1の位置PPと目標旋回円RRCの中心点CRCとの距離である。
【0066】
自動旋回走行の開始から終了までの間、自動旋回走行制御部36は、継続的に旋回距離DRと半径RCとの差を算出する。そして、自動旋回走行制御部36は、算出された旋回距離DRと半径RCとの差の絶対値が、あらかじめ定められた所定の閾値より大きいか否かを判定する(図9のステップ#6)。つまり、自動旋回走行制御部36は、旋回距離DRと半径RCとの差により、所定の手順で旋回走行を行った際に想定される旋回走行に対するずれ量を近似的に算出し、自動旋回走行が適切に行われているかいなかを判定する。旋回距離DRと半径RCとの差の絶対値が閾値以下の間は(図9のステップ#6 No)、自動旋回走行制御部36は自動旋回走行の制御を継続する。
【0067】
旋回距離DRと半径RCとの差の絶対値が閾値より大きくなると(図9のステップ#6 Yes)、自動旋回走行制御部36は、適切に自動旋回走行が行われないと判断して、機体1を停車させる脱走制御機能を実行する(図9のステップ#7)。
【0068】
これにより、目標旋回円RRCを、自動旋回走行の走行軌跡であると仮想的に見立てて、目標旋回円RRCと機体1とのずれ量から、自動旋回走行が適切に行われているか否かを容易に判断することができる。そして、自動旋回走行が適切に行われていないと判断された際に、機体1を停車させることにより、その後、手動走行により旋回走行を行ったり、自動旋回走行における操舵角度を調整したりして、適切な旋回走行を継続することができる。
【0069】
なお、報知部26を備える場合、自動旋回走行制御部36は、脱走制御機能を実行する際に、報知部26に所定の報知を行わせてもよい。
【0070】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、脱走制御機能として機体1が停車されたが、脱走制御機能はこのような制御に限らない。例えば、自動旋回走行制御部36は、脱走制御機能として、エンジン2、植付機構22(作業部に相当)および苗植付装置3の少なくともいずれかを停止させてもよい。これにより、旋回走行を再開させる際の対応を容易に行うことができる。
【0071】
また、自動旋回走行制御部36は、脱走制御機能として、機体1を少なくとも一回以上減速(車速を減速)させてもよい。これによっても、車速が低減されている間に旋回角度を変更させる等の必要な対応を行い、その後、適切な旋回走行を行うことができる。
【0072】
また、減速は旋回状況を見ながら段階的に行ってもよく、例えば最初に1回目の減速を行った後にそれでもずれ量が大きい場合はさらに大きな減速幅で2回目の減速を行う等の複数回にわたる減速による旋回の調整を行ってもよい。
【0073】
(2)上記各実施形態において、旋回距離DRと半径RCとの差の絶対値が閾値より大きいとしても、旋回距離DRが半径RCより小さい場合は、自動旋回走行制御部36脱走制御機能を無効としてもよい。
【0074】
旋回距離DRが半径RCより小さい場合、機体1が畦RWに向かって膨らむ方向に旋回走行がずれているのではなく、機体1が中心点CRCの側に向かって小さな旋回角度αで旋回している状況である。このような状況では、機体1が畦RWに接触する可能性は小さい。そのため、旋回距離DRが半径RCより小さい場合は、自動旋回走行制御部36脱走制御機能を無効としても、旋回走行に問題が生じる可能性が比較的小さい。このような制御を行うことにより、旋回走行の継続性が維持される。
【0075】
(3)上記各実施形態において、自動旋回走行は、図6を用いて説明した上記手順に限らず、あらかじめ定められた任意の手順で行われればよい。例えば、自動旋回走行制御部36は、操舵角度を固定し、あらかじめ定められた1つの操舵角度で自動旋回走行を行わせてもよい。この場合も、自動旋回走行制御部36は、旋回走行の最終段階には、次に走行する直線経路IPLの自動作業走行の開始位置PSSと機体1の位置PPとに基づいて自動操舵してもよい。
【0076】
また、自動旋回走行が、次に走行する直線経路IPLの開始位置PSSまで行われる構成に限らず、自動旋回走行は、機体1の進行方向が次に走行する直線経路IPLの進行方向に所定の程度だけ近づいた際に終了されてもよい。例えば、自動旋回走行制御部36は、機体1の進行方向に平行な直線と、次に走行する直線経路IPLとのなす角度が所定の角度以下になると自動旋回走行を終了させてもよい。
【0077】
なお、自動旋回走行の終了後は、自動作業走行制御部35が、次に走行する直線経路IPLに沿うように機体1の操舵制御を行う。
【0078】
(4)上記各実施形態において、自動走行による走行開始時や自動走行中に、進行方向の前方や機体1の周囲に障害物があると、走行や作業に問題が生じる場合がある。そのため、本実施形態の田植機は、機体1の周囲の障害物を検知する障害物検知装置28(図7参照)の一例として、ソナーセンサを備えてもよい。ソナーセンサは、所定の距離の範囲内にある物体を障害物として検知する。障害物の検知は、基本的には自動走行中に行われるが、手動走行中に障害物の検知が行われる構成とすることもできる。
【0079】
走行禁止制御部38は、ソナーセンサが障害物を検知すると、機体1を停車させる。これにより、機体1が障害物に接触することを抑制することができる。なお、このような制御は直線経路IPLに沿った自動作業走行中のみならず、自動旋回走行中にも行われてもよく、手動走行中にも行われてもよい。
【0080】
(5)上記各実施形態において、田植機は、エンジン2に限らず、任意の原動機で駆動されてもよい。
【0081】
(6)上記各実施形態において、走行装置は車輪12に限らず、クローラ等の任意の走行装置であってもよい。
【0082】
(7)上記各実施形態において、制御ユニット30は上記のような機能ブロックから構成されるものに限定されず、任意の機能ブロックから構成されてもよい。例えば、制御ユニット30の各機能ブロックはさらに細分化されても良く、逆に、各機能ブロックの一部または全部がまとめられてもよい。また、制御ユニット30の機能は、上記機能ブロックに限らず、任意の機能ブロックが実行する方法により実現されてもよい。また、制御ユニット30の機能の一部または全部は、ソフトウエアで構成されてもよい。ソフトウエアに係るプログラムは、任意の記憶装置に記憶され、制御ユニット30が備えるCPU等のプロセッサ、あるいは別に設けられたプロセッサにより実行される。
【0083】
また、田植機は、情報端末5を備えてもよい。情報端末5は、各種の情報や警告を表示してオペレータに報知(出力)すると共に、各種の情報の入力を受け付けるタッチパネル(モニタ画面)を有する。また、情報端末5は、運転部14に、運転座席16に着座する運転者が視認および操作が可能な態様で、着脱可能な状態で設けられる。そして、制御ユニット30は機体1に搭載される構成であってもよいが、制御ユニット30の機能の一部または全部は、情報端末5に設けられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、田植機をはじめ、旋回走行を挟んで圃場を作業走行する農作業車、さらには、旋回走行を挟んで作業地を作業走行する各種の作業車等に適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 機体
22 植付機構(作業部)
32 機体位置算出部
33 経路生成部
35 自動作業走行制御部
36 自動旋回走行制御部
CRC 中心点
DR 旋回距離
DRP 畦際距離
IPL 直線経路
IPL1 直線経路
PP 位置
PSR 開始位置(旋回開始位置)
RC 半径
RRC 目標旋回円
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9