(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181797
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20231218BHJP
B62D 11/08 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
A01B69/00 303K
A01B69/00 303M
A01B69/00 303V
B62D11/08 D
B62D11/08 E
B62D11/08 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095141
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】寺田 真也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐樹
【テーマコード(参考)】
2B043
3D052
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB08
2B043AB19
2B043BA03
2B043BB06
2B043DA01
2B043DA04
2B043DC03
2B043EA04
2B043EA06
2B043EA13
2B043EC12
2B043ED15
3D052AA01
3D052AA02
3D052DD03
3D052EE02
3D052FF01
3D052FF05
3D052HH01
(57)【要約】
【課題】機種や、走行状態、作業地の状態等に応じて、走行または作業を精度良く制御することを目的とする。
【解決手段】機体と、機体に設けられる走行装置12と、機体の位置および機体の走行方位を算出する機体位置算出部32と、旋回走行時の所定の旋回時情報40を取得する情報取得部24と、あらかじめ定められた所定の手順で旋回走行における走行装置12の操舵角度を制御する自動旋回走行制御部36とを備え、自動旋回走行制御部36は、旋回走行中に、旋回走行に続いて走行する直線経路の目標方位と走行方位との角度差が所定の閾値45以下になると機体が直進走行するように操舵角度を戻す制御を行い、自動旋回走行制御部36は、旋回時情報40に応じて閾値を変更する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回走行を挟んで互いに平行な複数の直線経路を走行する往復走行を行うことにより、圃場に対する作業走行を行う作業車であって、
機体と、
前記機体に設けられる走行装置と、
前記機体の位置および前記機体の走行方位を算出する機体位置算出部と、
前記旋回走行時の所定の旋回時情報を取得する情報取得部と、
あらかじめ定められた所定の手順で前記旋回走行における前記走行装置の操舵角度を制御する自動旋回走行制御部とを備え、
前記自動旋回走行制御部は、前記旋回走行中に、前記旋回走行に続いて走行する前記直線経路の目標方位と前記走行方位との角度差が所定の閾値以下になると前記機体が直進走行するように前記操舵角度を戻す制御を行い、
前記自動旋回走行制御部は、前記旋回時情報に応じて前記閾値を変更する作業車。
【請求項2】
前記機体の機種情報を記憶する記憶部をさらに備え、
前記情報取得部として前記記憶部から前記機種情報を取得する機種情報取得部を含み、
前記旋回時情報として前記機種情報を含む請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記自動旋回走行制御部は、前記旋回走行の開始時に前記機体の走行車速を所定の旋回車速に変更する請求項1または2に記載の作業車。
【請求項4】
前記情報取得部として、前記圃場の粘性を検出する粘性検出部および前記機体の走行車速を検出する車速検出部を含み、
前記旋回時情報として、前記粘性の情報である粘性情報および前記旋回走行の際の前記走行車速を含む請求項1または2に記載の作業車。
【請求項5】
前記情報取得部として前記機体の走行車速を検出する車速検出部を含み、
前記自動旋回走行制御部は、前記旋回走行における基準車速があらかじめ設定され、
前記旋回時情報として前記走行車速と前記基準車速の差を含む請求項1または2に記載の作業車。
【請求項6】
衛星から電波を取得し、前記機体の位置を算出するための測位データを出力する測位ユニットをさらに備え、
前記自動旋回走行制御部は、前記旋回走行における上限の走行車速となる最高旋回車速を設定し、
前記最高旋回車速は、前記測位ユニットの測位精度に基づいて設定される請求項1または2に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、制御パラメータ(設定値)が設定され、制御パラメータ(設定値)を用いて走行が制御される作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、自動旋回制御において、車体の向きと直進させる向き(次の経路での進行方向)との間の差異が、あらかじめ定められた操舵切れ角戻しレベル(閾値)を下回ると操舵切れ角を戻すように制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、制御パラメータ(設定値)は、機種や、走行状態、作業地の状態等に依存し、必ずしも一定の制御パラメータ(設定値)で最適に走行を制御できるわけではない。例えば、旋回走行中にステアリングホイールの操舵切れ角を直進状態に戻した場合、走行車速によって、ステアリングホイールが直進角度に戻るまで、あるいは走行装置が直進走行に戻るまでに機体が走行する距離が異なる。そのため、操舵切れ角戻しレベル(閾値)を一定にして制御すると、走行車速によっては適切に旋回走行から直進走行に移行できない場合がある。
【0005】
本発明は、機種や、走行状態、作業地の状態等に応じて、走行または作業を精度良く制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る作業車は、旋回走行を挟んで互いに平行な複数の直線経路を走行する往復走行を行うことにより、圃場に対する作業走行を行う作業車であって、機体と、前記機体に設けられる走行装置と、前記機体の位置および前記機体の走行方位を算出する機体位置算出部と、前記旋回走行時の所定の旋回時情報を取得する情報取得部と、あらかじめ定められた所定の手順で前記旋回走行における前記走行装置の操舵角度を制御する自動旋回走行制御部とを備え、前記自動旋回走行制御部は、前記旋回走行中に、前記旋回走行に続いて走行する前記直線経路の目標方位と前記走行方位との角度差が所定の閾値以下になると前記機体が直進走行するように前記操舵角度を戻す制御を行い、前記自動旋回走行制御部は、前記旋回時情報に応じて前記閾値を変更する。
【0007】
自動旋回走行は、所定の位置で旋回走行を終了させるように所定の手順で行われる。旋回は、旋回走行時の走行車速や、圃場の状態、機体の幅等といった機体の状態等により影響を受け、これらにより、予定されていた旋回走行が実現しない場合がある。
【0008】
上記構成によると、自動旋回走行中に旋回時情報として走行車速等の任意の情報を取得し、旋回走行を終了させるための閾値を旋回時情報に応じて変更することができる。これにより、旋回時情報に応じて適切な条件で自動旋回走行を終了させることができ、精度良く自動旋回走行を制御することができる。
【0009】
また、前記機体の機種情報を記憶する記憶部をさらに備え、前記情報取得部として前記記憶部から前記機種情報を取得する機種情報取得部を含み、前記旋回時情報として前記機種情報を含んでもよい。
【0010】
上述のように、機種情報から読み出すことのできる機体の幅等によって旋回走行は影響を受ける。上記のような構成によると、機体の幅等に応じて適切な条件で自動旋回走行を終了させることができ、精度良く自動旋回走行を制御することができる。
【0011】
また、前記自動旋回走行制御部は、前記旋回走行の開始時に前記機体の走行車速を所定の旋回車速に変更してもよい。
【0012】
このような構成により、適切に旋回走行を行うことが期待できる走行車速で自動旋回走行を行うことができ、精度良く自動旋回走行を行うことができる。
【0013】
また、前記情報取得部として、前記圃場の粘性を検出する粘性検出部および前記機体の走行車速を検出する車速検出部を含み、前記旋回時情報として、前記粘性の情報である粘性情報および前記旋回走行の際の前記走行車速を含んでもよい。
【0014】
上述のように、圃場の粘性によって機体が横滑りすることにより旋回走行は影響を受ける。上記のような構成によると、圃場の粘性に応じて適切な条件で自動旋回走行を終了させることができ、精度良く自動旋回走行を制御することができる。
【0015】
また、旋回走行の際の走行車速によって旋回走行は影響を受ける。上記のような構成によると、走行車速に応じて適切な条件で自動旋回走行を終了させることができ、精度良く自動旋回走行を制御することができる。
【0016】
また、前記情報取得部として前記機体の走行車速を検出する車速検出部を含み、前記自動旋回走行制御部は、前記旋回走行における基準車速があらかじめ設定され、前記旋回時情報として前記走行車速と前記基準車速の差を含んでもよい。
【0017】
このような構成により、旋回走行に影響を及ぼす走行車速の判断を基準車速に基づいて行うことができる。これにより、閾値を変更する必要性を容易に判断することができ、必要な際に走行車速に応じて適切な条件で自動旋回走行を終了させることができる。その結果、精度良く自動旋回走行を制御することができる。
【0018】
また、衛星から電波を取得し、前記機体の位置を算出するための測位データを出力する測位ユニットをさらに備え、前記自動旋回走行制御部は、前記旋回走行における上限の走行車速となる最高旋回車速を設定し、前記最高旋回車速は、前記測位ユニットの測位精度に基づいて設定されてもよい。
【0019】
旋回走行は、測位ユニットの測位精度によっても影響を受ける。上記のような構成によると、測位ユニットの測位精度に応じて旋回走行における最高旋回車速を設定することができる。そのため、測位ユニットの測位精度に応じて、精度良く自動旋回走行を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】田植機の全体構成を例示する左側面図である。
【
図4】自動旋回走行の手順の例を説明する図である。
【
図5】自動走行を制御する機能構成を例示する図である。
【
図6】自動旋回走行のフローの例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、作業車の一例として、圃場を作業走行する田植機について説明する。
【0022】
ここで、理解を容易にするために、本実施形態では、特に断りがない限り、「前」(
図1,
図2に示す矢印Fの方向)は機体前後方向(走行方向)における前方を意味し、「後」(
図1,
図2に示す矢印Bの方向)は機体前後方向(走行方向)における後方を意味するものとする。また、左右方向または横方向は、機体前後方向に直交する機体横断方向(機体幅方向)を意味し、「左」(
図2に示す矢印Lの方向)および「右」(
図2に示す矢印Rの方向)は、それぞれ、機体1の左方向および右方向を意味するものとする。
【0023】
〔全体構造〕
図1,
図2に示すように、田植機は、乗用型で四輪駆動形式の機体1を備える。機体1は、機体1の後部に昇降揺動可能に連結された平行四連リンク形式のリンク機構13、リンク機構13を揺動駆動する油圧式の昇降リンク13a、リンク機構13の後端部領域にローリング可能に連結される苗植付装置3を備える。苗植付装置3は作業装置の一例であり、他の作業装置として、施肥装置や薬剤散布装置等が搭載されてもよい。
【0024】
機体1は、走行のための機構として車輪12(「走行装置」に相当)、エンジン2、および主変速装置である油圧式の無段変速装置9を備える。無段変速装置9は、例えばHST(Hydro-Static Transmission)であり、モータ斜板およびポンプ斜板の角度を調節することにより、エンジン2から出力される駆動力を変速する。車輪12は、操舵可能な左右の前輪12Aと、操舵不能な左右の後輪12Bとを有する。エンジン2および無段変速装置9は、機体1の前部に搭載される。エンジン2から出力された動力は、無段変速装置9等を介して前輪12A、後輪12B、作業装置等に供給される。
【0025】
苗植付装置3は、一例として8条植え形式に構成される。苗植付装置3は、苗載せ台21、8条分の植付機構22、5つのフロート15等を備える。なお、この苗植付装置3は、各条クラッチ(植付クラッチ23)の制御により、2条植え、4条植え、6条植え等の形式に変更可能である。
【0026】
苗載せ台21は、8条分のマット状苗を載置する台座である。苗載せ台21は、マット状苗の左右幅に対応する一定ストロークで左右方向に往復移動し、苗載せ台21が左右のストローク端に達する毎に、苗載せ台21上の各マット状苗を苗載せ台21の下端に向けて所定ピッチで縦送りする。
【0027】
8個の植付機構22は、ロータリ式で、植え付け条間に対応する一定間隔で左右方向に配置される。そして、各植付機構22は、植付クラッチ23が伝動状態に移行されることによりエンジン2から駆動力が伝達され、苗載せ台21に載置された各マット状苗の下端から一株分の苗を切り取って、整地後の泥土部に植え付ける。これにより、苗植付装置3は、苗載せ台21に載置されたマット状苗から苗を取り出して水田の泥土部に植え付けることができる。
【0028】
フロート15は苗植付作業の際に圃場を整地する。各フロート15は、2条分の植付機構22と対応付けて設けられる。
【0029】
機体1は、その後部側領域に運転部14を備える。運転部14は、前輪操舵用のステアリングホイール10、無段変速装置9の変速操作を行うことで車速を調節する主変速レバー7、苗植付装置3の昇降操作と植付クラッチ23の入切(伝動状態と非伝動状態との間の切り替え)を操作する作業操作レバー11、および、オペレータ(運転者・作業者)用の運転座席16等を備える。ステアリングホイール10、主変速レバー7、および作業操作レバー11は運転座席16の前方の運転パネル6に設けられる。さらに、運転部14の前方に、予備苗を収容する予備苗収納装置17Aが予備苗支持フレーム17に支持される。
【0030】
また、予備苗支持フレーム17には、測位ユニット8が設けられる。測位ユニット8は、機体1の位置PP(
図4参照)および方位を算出するための測位データを出力する。測位ユニット8には、全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の衛星からの電波を受信する衛星測位モジュール8Aと、機体1の三軸の傾きや加速度を検出する慣性計測モジュール8Bが含まれている。
【0031】
〔作業走行〕
田植機が圃場を田植作業する作業走行について、
図1,
図2を参照しながら、
図3を用いて説明する。
【0032】
本実施形態における田植機は、手動走行および自動走行を選択的に行うことができる。手動走行は、運転者が手動で、ステアリングホイール10、主変速レバー7、作業操作レバー11等の作業走行操作具を操作して作業走行を行うものである。自動走行は、田植機が自動制御で走行および作業を行うものであり、旋回走行を挟んで、後述の直線経路IPLに沿った直進作業走行を行う。この際の旋回走行は、走行経路が生成されず、あらかじめ定められた所定の手順で自動制御される。
【0033】
田植機が植え付け作業を行う際には、圃場が外周領域OAと内部領域IAに区分けされ、それぞれに応じた作業走行が行われる。
【0034】
内部領域IAでは、圃場の一つの辺に略平行な複数の直線経路IPL(内部往復経路)が生成される。直線経路IPLは、内部領域IAの全体をくまなく走行する走行経路であり、それぞれの直線経路IPLは旋回走行を挟んで往復走行される。直線経路IPLは、旋回走行が行われる度に、次に走行する直線経路IPLが順次生成される。また、それぞれの直線経路IPLは、直線経路IPLに沿った自動走行(直進走行)を行うための目標方位RD(
図4参照)を備える。
【0035】
内部領域IAでの作業走行が行われた後、外周領域OAでの作業走行が行われる。外周領域OAでの作業走行は、自動走行または手動走行により行われる。外周領域OAで自動作業走行が行われる場合、圃場の外周に沿って外周領域OA内を周回する、内側周回経路IRLと外側周回経路ORLの2つの走行経路が生成される。内側周回経路IRLと外側周回経路ORLとを作業走行することにより、外周領域OAの全体の作業走行が行われる。なお、外周領域OA内を周回する走行経路は、内側周回経路IRLと外側周回経路ORLとの2つに限らず、1以上の走行経路であればよい。
【0036】
〔自動旋回走行〕
次に、
図1,
図3を参照しながら、
図4を用いて自動旋回走行について説明する。
【0037】
自動旋回走行は、所定の人為操作が行われることにより開始される。自動旋回走行は外周領域OAで行われるが、特に、畦RWから所定の距離だけ圃場の内側の領域で行われる。自動旋回走行は走行経路に沿って行われるのではなく、車輪12等の走行装置が所定の手順で制御されることにより、あらかじめ定められた所定の手順で行われる。
【0038】
例えば、自動旋回走行は、直線経路IPLでの作業走行が終了し、旋回開始位置PSRで所定の人為操作が行われると、まず、前輪12A(走行装置)があらかじめ定められた所定の操舵角度、例えば、最大操舵角度に操作されて旋回走行が行われる。旋回走行中には、継続的または連続的に機体1の位置PPにおける、機体1の走行方位CDが取得される。
【0039】
自動旋回走行中に、旋回終了後に(次に)走行する直線経路IPL1の目標方位RDと、走行方位CDとが比較される。次に、目標方位RDと走行方位CDとの角度差θが所定の閾値45(
図5参照)以下になると、機体1が直進走行するように操舵角度が戻される(操舵角度が0にされる)。
【0040】
その後、直線経路IPL1に沿って走行するように、自動走行制御が行われる。これにより、自動旋回走行から、直進自動走行に自動走行制御が移行される。
【0041】
〔自動走行制御構成〕
次に、
図1,
図4を参照しながら、
図5を用いて、自動走行の際の制御構成について説明する。
【0042】
自動走行における田植機の作業および走行は、各種の制御パラメータ(設定値)に基づいて、CPU等のプロセッサを備える制御ユニット30によって制御される。制御ユニット30は、測位ユニット8、情報取得部24、障害物検知装置28、記憶部29、走行装置である車輪12、報知部26、および情報端末5と、図示しない通信部等を介してデータ通信が可能な状態で接続される。
【0043】
測位ユニット8は測位データを送信し、制御ユニット30は測位ユニット8から受信した測位データに基づいて機体1の位置PPや走行方位CDを算出する。
【0044】
情報取得部24は、自動旋回走行中に取得される各種の情報を、旋回時情報40として取得する。旋回時情報40は、機体1の走行車速Vr(
図6参照)の情報である車速情報40Aおよび機種に関する機種情報40Bである。情報取得部24は、車速検出部41および機種情報取得部42を備える。車速検出部41は、機体1の走行車速Vrを車速情報40Aとして取得し、後述の記憶部29に記憶させる。機種情報取得部42は、機体1の機種情報40Bを取得し、後述の記憶部29に記憶させる。機種情報40Bは、田植機の走行前の初期設定において入力・記憶されていてもよく、あらかじめ(機体1の出荷時等に)記憶部29に記憶されていてもよい。
【0045】
記憶部29は、旋回時情報40、各種の制御パラメータ(設定値)等の各種情報を記憶する。また、記憶部29は、制御パラメータ(設定値)の1つとして、自動旋回走行中に操舵角度を戻すためのあらかじめ設定された閾値45を記憶する。なお、記憶部29は制御ユニット30に設けられてもよい。
【0046】
報知部26および情報端末5は必要に応じて設けられ、必要な情報の表示や警告等を行う。報知部26は、LEDやボイスアラーム発生装置・スピーカー等である。情報端末5は、各種の情報を表示してオペレータに報知(出力)すると共に、各種の情報の入力を受け付けるタッチパネル(モニタ画面)を有する。
【0047】
制御ユニット30は、機体位置算出部32、経路生成部33、自動作業走行制御部35、および自動旋回走行制御部36を備える。
【0048】
機体位置算出部32は、測位ユニット8から受信した測位データに基づいて、圃場における機体1の位置PPおよび走行方位CDを断続的または連続的に算出する。
【0049】
経路生成部33は、ティーチング走行が行われることにより、直線経路IPLを生成するための基本直線および基準方位の少なくともいずれかを算出する。そして、経路生成部33は、算出された基本直線または基準方位を用いて、旋回走行が行われる度に、次に走行する直線経路IPLを生成する。
【0050】
自動作業走行制御部35は、苗植付装置3等の作業装置や車輪12を制御しながら、機体1の位置PPに基づいて直線経路IPLに沿った自動作業走行を制御する。
【0051】
自動旋回走行制御部36は、直線経路IPLでの作業走行が終了し、旋回開始位置PSRで所定の人為操作が行われると、あらかじめ定められた所定の手順で機体1が旋回されるように制御する。自動旋回走行の際に、自動旋回走行制御部36は、植付クラッチ23(
図2参照)を停止させ、苗植付装置3を上昇させる制御を行ってもよい。
【0052】
また、自動旋回走行制御部36は閾値変更部38を備える。閾値変更部38は、記憶部29に記憶される旋回時情報40、つまり、情報取得部24が取得した旋回時情報40に基づいて、自動旋回走行中に操舵角度を戻すための目標方位RDと走行方位CDの角度差θの閾値45をあらかじめ設定された値から変更する。閾値45が変更された場合、閾値変更部38は、その旨を報知部26および情報端末5の少なくともいずれかに報知させてもよい。
【0053】
旋回中に操舵角度を機体1が直進走行するように戻したとしても、実際に車輪12(前輪12A)が直進方向を向き(ステアリングホイール10が中立になり)、機体1が直進走行するまでには多少のタイムラグがあり、その間に機体1は旋回しながら前進する。このような操舵角度を戻してから機体1が直進するまでの距離は、機体1の走行車速Vrや、機体1の幅やホイールベースの長さ等といった機体1のサイズに影響される。そして、旋回走行において、操舵角度を戻してから機体1が直進するまでの距離がばらつくと、安定して想定通りの旋回を行うことが困難となる。また、走行車速Vrが早すぎると、機体1がスリップして、操舵角度を戻してから機体1が直進するまでの距離が長くなり、安定して想定通りの旋回を行うことが困難となる。
【0054】
そのため、閾値変更部38は、旋回時情報40に基づいて、適切な旋回が行われるように、自動旋回走行中に操舵角度を戻すための目標方位RDと走行方位CDの角度差θの閾値45を変更する。具体的には、閾値変更部38は、車速情報40Aに基づいて、走行車速Vrが早いほど、早期に操舵角度を戻すように閾値45を大きくする。なお、走行車速Vrが遅い場合、操舵角度を戻してから機体1が直進するまでの距離が大きくずれず、旋回が大回りになるわけではないのでその後の修正が不要であるため、閾値変更部38は、走行車速Vrが所定の速度以上である場合にのみ閾値45を変更してもよい。また、閾値変更部38は、機種情報40Bから機体1のサイズを読み取り、機体1の幅やホイールベース等のサイズが大きいほど、早期に操舵角度を戻すように閾値45を大きくする。なお、閾値変更部38は、任意の方法で機体1のサイズを読み出すことができるが、機種と機体1のサイズとの関係が記述された対応表をあらかじめ記憶し、機種情報40Bに応じて機体1のサイズを取得することができる。
【0055】
このように、旋回時情報40に応じて閾値45を変更(最適化)することにより、操舵角度を戻してから機体1が直進するまでの距離が一定、または適正な範囲内となり、安定して精度良く自動旋回走行を行うことができる。
【0056】
〔自動旋回走行制御〕
次に、
図1,
図4を参照しながら、
図5,
図6を用いて、自動旋回走行における制御フローについて説明する。
【0057】
自動旋回走行が開始されると、まず、自動旋回走行制御部36は、車速検出部41が検出し、記憶部29に記憶された車速情報40Aを旋回時情報40として取得する。また、自動旋回走行制御部36は、機種情報取得部42が取得し、記憶部29に記憶された機種情報40Bを旋回時情報40として取得する。
【0058】
次に、自動旋回走行制御部36または閾値変更部38は、車速情報40Aとして取得した走行車速Vrがあらかじめ設定された基準車速Vrrより大きいか否かを判定する(
図6のステップ#1)。
【0059】
走行車速Vrが基準車速Vrrより大きい場合(
図6のステップ#1 Yes)、閾値変更部38は、走行車速Vr(車速情報40A)と機種情報40Bから取得される機体1のサイズに基づいて、自動旋回走行中に操舵角度を戻す契機となる閾値45を変更し、記憶部29に記憶された閾値45を修正する(
図6のステップ#2)。
【0060】
次に、自動旋回走行制御部36は、機体1の位置PPにおける機体1の走行方位CDと目標方位RDとを比較し、目標方位RDと走行方位CDとの角度差θが記憶部29に記憶された閾値45以下であるか否かを判定する(
図6のステップ#3)。ここで、比較対象である閾値45は、走行車速Vrが基準車速Vrr以下である場合はあらかじめ設定された閾値45であり(
図6のステップ#1 No)、ステップ#2で閾値45が変更されている場合には変更後の閾値45である。
【0061】
そして、角度差θが閾値45より大きい場合は(
図6のステップ#3 No)、自動旋回走行制御部36は角度差θが閾値45以下となるまで操舵角度を維持して自動旋回走行を継続する。角度差θが閾値45以下になると(
図6のステップ#3 Yes)、自動旋回走行制御部36は操舵角度を0または所定の角度に戻す(
図6のステップ#4)。
【0062】
その後、自動旋回走行制御部36または自動作業走行制御部35は、次に走行する直線経路IPL1に沿った自動直進走行を行えるように、機体1を自動操舵制御する。
【0063】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態において、閾値変更部38は、自動旋回走行時の走行車速Vrが基準車速Vrrに対してあらかじめ設定された速度以上ずれた場合に、走行車速Vrに応じて閾値45を変更してもよい。つまり、旋回時情報40(車速情報40A)として、走行車速Vrと基準車速Vrrとの差が含まれ、閾値変更部38は、走行車速Vrと基準車速Vrrとの差に応じて閾値45を変更してもよい。
【0064】
(2)上記各実施形態において、走行車速Vrと基準車速Vrrとを比較することなく、閾値変更部38は、走行車速Vr(車速情報40A)と機体1のサイズ(機種情報40B)に基づいて、閾値45を変更してもよい。また、自動走行および手動走行における旋回走行の開始時に走行車速Vrが所定の旋回車速に変更(減速)されてもよい。この際、自動旋回走行において、旋回車速が制御されたにもかかわらず、自動旋回走行中の走行車速Vrが旋回車速に対してずれた場合には、閾値変更部38は、走行車速Vr(車速情報40A)と機体1のサイズ(機種情報40B)に基づいて、閾値45を変更してもよい。このような構成により、旋回走行時の走行車速Vrと閾値45との関係を効率的に最適化でき、容易かつ精度良く旋回走行を行うことができる。
【0065】
(3)上記各実施形態において、旋回走行の際に設けられる上限の走行車速Vrとなる最高旋回車速があらかじめ設定されてもよい。さらに、最高旋回車速は測位ユニット8の測位精度に基づいて設定されてもよい。
【0066】
測位ユニット8は、全地球衛星航法システム(GNSS)等により測位データを取得する。全地球衛星航法システム(GNSS)は、測位精度の異なる種々の種類が存在する。例えば、DGDS(Differential GPS)は、RTKGDS(Real Time Kinematic GPS)に比べて測位精度が劣る。そのため、DGDSを利用する測位ユニット8を用いた自動旋回走行の制御は、RTKGDSを利用する測位ユニット8を用いて自動旋回走行を制御する場合に比べて正確性が劣り、旋回車速が早くなると適切な自動旋回走行の制御が困難となる。
【0067】
測位ユニット8の測位精度に基づいて最高旋回車速を設定することにより、測位ユニット8の測位精度に応じた旋回車速で自動旋回走行が行われることとなり、精度良く自動旋回走行を行うことができる。
【0068】
なお、この場合、走行車速Vr(車速情報40A)に基づいて、閾値45を変更してもよいが、閾値45はあらかじめ設定された閾値45から変更されずに、自動旋回走行において用いられてもよい。
【0069】
(4)上記各実施形態において、車速検出部41は任意の方法で車速情報40Aである走行車速Vrを取得してもよいが、測位ユニット8から取得した単位時間当たりに機体1の位置PPが移動した距離から走行車速Vrを求めてもよい。これにより、精度良く走行車速Vrを求め、精度良く自動旋回走行を行うことができる。
【0070】
(5)上記各実施形態において、閾値変更部38は、車速情報40Aおよび機種情報40Bに基づいて閾値45を変更する構成に限らず、車速情報40Aおよび機種情報40Bのいずれか一方に基づいて閾値45を変更してもよい。これにより、より容易に、自動旋回走行を行うことができる。
【0071】
(6)上記各実施形態において、旋回時情報40は、車速情報40Aおよび機種情報40Bと共に、または、車速情報40Aおよび機種情報40Bの少なくともいずれかに代えて、各種の情報が含まれてもよい。このような情報としては、走行車速以外の走行状態に関する走行情報、圃場の粘性を示す粘性情報40Cをはじめとする各種の作業地情報等が考えられる。これにより、旋回走行に則して、より適切な閾値45に変更することができ、より精度良く自動旋回走行を行うことができる。
【0072】
例えば、旋回走行において、圃場が滑りやすいと旋回半径が大きくなる。つまり、旋回走行は圃場の粘性に影響を受ける。そのため、情報取得部24として粘性検出部43が設けられ、旋回時情報40として粘性情報40Cが含まれてもよい。そして、閾値変更部38は、粘性情報40Cを含む旋回時情報40に基づいて閾値45を変更する。
【0073】
また、機種情報40Bには測位ユニット8の測位システムの種類(測位精度)を示す情報が含まれてもよい。そして、閾値変更部38は、機種情報40Bに含まれる測位ユニット8の測位精度を考慮して、閾値45を変更してもよい。
【0074】
(7)上記各実施形態において、情報取得部24は、自動旋回走行の際の旋回時情報40に限らず、田植機(作業車)が走行する際のその他の走行情報や、作業車が作業を行う際の作業情報、作業地(圃場)の情報等の環境情報等といった、各種の制御用情報を取得してもよい。そして、自動作業走行制御部35または自動旋回走行制御部36(制御ユニット30)は、情報取得部24が取得した1または複数の制御用情報に応じて、自動旋回走行における閾値45以外の各種の制御パラメータ(設定値)を最適化してもよい。
【0075】
例えば、田植機は作業装置を接続して作業走行を行う場合があり、接続された作業装置によって田植機の外形寸法が変化する。また、機体1の位置PPの基準となる車体位置は、測位ユニット8の位置に基づいて測位データから算出され、田植機の外形寸法に応じて変化する。そのため、制御用情報として機種情報40Bと接続された作業装置の種類が取得され、制御ユニット30は、取得された制御用情報に基づいて車体位置を変更してもよい。
【0076】
また、接続された作業装置に応じて、苗植付作業における条数や条間等が決定される。そのため、作業装置の種類を含む制御用情報に基づいて、自動作業走行制御部35は自動作業走行における条数や条間を設定(変更)してもよい。さらに、閾値変更部38は、機種情報40Bから田植機の条数を取得し、条数と走行車速Vrとに基づいて閾値45を変更してもよい。また、接続された作業装置の寸法に応じて、自動走行におけるPIゲイン等の制御パラメータ(設定値)が決定される。そのため、作業装置の種類を含む制御用情報に基づいて、自動作業走行制御部35は自動作業走行におけるPIゲイン等の制御パラメータ(設定値)を設定(変更)してもよい。
【0077】
なお、機体1の幅より接続された作業装置の幅の方が大きい場合、旋回走行は作業装置の幅に影響される。そのため、機種情報40Bとして、接続された作業装置の幅が含められても良い。そして、閾値変更部38は、作業装置の幅を含めた旋回時情報40に基づいて閾値45を変更してもよい。
【0078】
(8)上記各実施形態において、自動旋回走行における旋回手順は、
図4で示した手順に限らず、任意の手順であってもよい。例えば、最大操舵角度に操作されて旋回走行が開始された後、旋回角度が所定の旋回角度になると、操舵角度が低減されてもよい。
【0079】
(9)自動走行による走行開始時や自動走行中に、進行方向の前方や機体1の周囲に障害物があると、走行や作業に問題が生じる場合がある。そのため、本実施形態の田植機は、上記各実施形態において、機体1の周囲の障害物を検知する障害物検知装置28の一例として、ソナーセンサを備えてもよい。ソナーセンサは、所定の距離の範囲内にある物体を障害物として検知する。障害物の検知は、基本的には自動走行中に行われるが、手動走行中に障害物の検知が行われる構成とすることもできる。自動作業走行制御部35および自動旋回走行制御部36の少なくともいずれかは、障害物を検知すると、走行を停止したり、減速したり、回避走行をしたりするように走行を制御する。そして、自動作業走行制御部35および自動旋回走行制御部36は、制御用情報に応じて、障害物を検知する距離を最適化してもよい。
【0080】
(10)上記各実施形態において、制御ユニット30は上記のような機能ブロックから構成されるものに限定されず、任意の機能ブロックから構成されてもよい。例えば、制御ユニット30の各機能ブロックはさらに細分化されても良く、逆に、各機能ブロックの一部または全部がまとめられてもよい。また、制御ユニット30の機能は、上記機能ブロックに限らず、任意の機能ブロックが実行する方法により実現されてもよい。また、制御ユニット30の機能の一部または全部は、ソフトウエアで構成されてもよい。ソフトウエアに係るプログラムは、記憶部29等の任意の記憶装置に記憶され、制御ユニット30が備えるCPU等のプロセッサ、あるいは別に設けられたプロセッサにより実行される。また、制御ユニット30は機体1に搭載される構成であってもよいが、制御ユニット30の機能の一部または全部は、情報端末5に設けられてもよい。
【0081】
(11)上記各実施形態において、走行装置は車輪12に限らず、クローラ等の任意の走行装置であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、田植機をはじめ、旋回走行を挟んで圃場を作業走行する農作業車、さらには、旋回走行を挟んで作業地を作業走行する各種の作業車等に適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 機体
8 測位ユニット
12 車輪(走行装置)
24 情報取得部
29 記憶部
32 機体位置算出部
33 経路生成部
36 自動旋回走行制御部
38 閾値変更部
40 旋回時情報
40A 車速情報
40B 機種情報
40C 粘性情報
41 車速検出部
42 機種情報取得部
43 粘性検出部
45 閾値
CD 走行方位
IRL 内側周回経路
PP 位置
Vr 走行車速
Vrr 基準車速
θ 角度差