(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181812
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
G01N23/223
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095157
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 裕幸
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001EA01
2G001EA03
2G001FA08
2G001GA01
2G001PA11
2G001PA12
2G001PA13
2G001SA29
(57)【要約】
【課題】薄い板状試料の背面の状態を一様にすることによって、測定位置による測定条件の相違が生じない蛍光X線分析装置を提供する。
【解決手段】蛍光X線分析装置であって、板状の試料の表面に1次X線を照射するX線源と、蛍光X線の強度を測定する検出器と、試料が載置される試料ステージと、試料の表面の複数の測定位置において分析を行う分析部と、試料ステージの外縁の一部に沿った形状の外縁部分を有し、試料ステージの外側に隣接して表面が試料ステージの表面と略同一面に配置されるバックグラウンド補正カバーと、試料の表面の任意の測定位置に1次X線が照射されるように試料ステージを移動させる移動機構とを備え、移動機構は、バックグラウンド補正カバーを、試料ステージの移動にしたがって移動させ、測定位置における試料の背面に試料ステージがない場合に、測定位置における試料の背面にバックグラウンド補正カバーを移動させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の試料の表面に1次X線を照射するX線源と、
前記1次X線が照射された前記試料から発生する蛍光X線の強度を測定する検出器と、
前記試料が載置される試料ステージと、
前記試料の表面の複数の測定位置において、前記検出器が測定した蛍光X線の強度に基づいて分析を行う分析部と、
前記試料ステージの外縁の一部に沿った形状の外縁部分を有し、前記試料ステージの外側に隣接して、表面が前記試料ステージの表面と略同一面に配置される少なくとも一つのバックグラウンド補正カバーと、
前記試料の表面の任意の測定位置に前記1次X線が照射されるように前記試料ステージを移動させる移動機構と、
を備え、
前記移動機構は、前記バックグラウンド補正カバーを、前記試料ステージの移動にしたがって移動させ、測定位置における前記試料の背面に前記試料ステージがない場合に、該測定位置における前記試料の背面に前記バックグラウンド補正カバーを移動させる、
ことを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項2】
前記バックグラウンド補正カバーは、前記試料ステージと同じ材質で形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項3】
前記試料ステージは、前記試料の一部と当接する突出した保持部を有する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項4】
前記移動機構は、回転駆動される三重太陽軸と、前記三重太陽軸に固定された太陽アームと、前記太陽アームの回転端部に回転自在に支持された二重遊星軸と、前記二重遊星軸に固定された遊星アームと、前記遊星アームの回転端部に回転自在に支持された試料軸と、を有し、
前記試料ステージは、前記試料軸に固定され、
前記バックグラウンド補正カバーは、前記遊星アームに固定される、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項5】
前記移動機構は、
前記試料ステージ及び前記バックグラウンド補正カバーの表面と平行なXY平面内において、前記1次X線が前記測定位置に照射される位置に前記試料ステージを移動させるXYステージと、
前記バックグラウンド補正カバーを前記試料ステージの中央を軸として回転させる回転機構と、
を有することを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項6】
前記試料ステージの中心から外縁までの距離は、前記試料の中心から外縁までの距離より小さく、
前記試料ステージの中心から前記バックグラウンド補正カバーの端部までの距離は、前記試料の中心から外縁までの距離より大きい、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項7】
前記分析部は、前記検出器が測定した測定強度からバックグラウンド強度を差し引いて補正する補正部を有する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項8】
前記試料ステージは、円形状であり、
前記バックグラウンド補正カバーにおける前記試料ステージの外縁の一部に沿った形状の外縁部分は、円形状の前記試料ステージの外縁に沿った弧状である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項9】
前記試料が切り欠き部を有する円形状である場合に、前記試料ステージの外縁より外に配置された前記試料の該切り欠き部の位置を検出する試料検出部を有する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄い板状試料の任意の測定位置を測定する蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる元素や当該元素の濃度を測定する装置として、蛍光X線分析装置が知られている。蛍光X線分析を行う際、試料が試料ステージに配置され、所望の測定位置に1次X線が照射されるように、試料ステージの位置が制御される。そして、蛍光X線分析装置は、1次X線を試料に照射した際に発生する蛍光X線の強度に基づいて試料に含まれる元素等を分析する。
【0003】
ここで、試料がシリコンウェハなどの薄い板状試料である場合に、照射される1次X線が試料を透過し、試料ステージで発生する蛍光X線や散乱線が測定する蛍光X線強度のバックグラウンドとなり、分析結果に影響を与えるおそれがある。また、試料の下側に試料ステージが存在する測定位置と、存在しない測定位置では、バックグラウンドとなる蛍光X線や散乱線による影響が異なるため、測定位置によって測定条件に相違が生じてしまう。
【0004】
例えば、下記特許文献1は、試料ステージに切り欠き部が形成されていても、測定位置に応じたバックグラウンド補正を行うことにより、測定位置による測定条件の相違を低減する多元素同時型蛍光X線分析装置を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、測定位置に応じたバックグラウンド強度を予め測定しておいて、実際の分析時における各測測定位置の測定強度からそれぞれ対応するバックグラウンド強度を差し引くことにより、測定位置によって生じる測定条件の相違を低減させている。しかしながら、試料の各測定位置において背面に試料ステージが存在するか否かによって、測定強度が影響を受けることは避けられない。
【0007】
また、シリコンウェハなどの半導体基板の径は大型化しているが、限られた装置内スペースでの可動範囲の確保やコスト面などを考慮すると、試料ステージをなるべく小さくすることが望ましい。しかし、試料が載置される試料ステージよりも試料の方が大きい場合、試料の背面に試料ステージが存在する領域と存在しない領域が生じてしまう。
【0008】
本開示は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、薄い板状試料の背面の状態を一様にすることによって、測定位置による測定条件の相違が生じない蛍光X線分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本開示の一側面に係る蛍光X線分析装置は、板状の試料の表面に1次X線を照射するX線源と、前記1次X線が照射された前記試料から発生する蛍光X線の強度を測定する検出器と、前記試料が載置される試料ステージと、前記試料の表面の複数の測定位置において、前記検出器が測定した蛍光X線の強度に基づいて分析を行う分析部と、前記試料ステージの外縁の一部に沿った形状の外縁部分を有し、前記試料ステージの外側に隣接して、表面が前記試料ステージの表面と略同一面に配置される少なくとも一つのバックグラウンド補正カバーと、前記試料の表面の任意の測定位置に前記1次X線が照射されるように前記試料ステージを移動させる移動機構と、を備え、前記移動機構は、前記バックグラウンド補正カバーを、前記試料ステージの移動にしたがって移動させ、測定位置における前記試料の背面に前記試料ステージがない場合に、該測定位置における前記試料の背面に前記バックグラウンド補正カバーを移動させる、ことを特徴とする。
【0010】
(2)本開示の上記態様において、前記バックグラウンド補正カバーは、前記試料ステージと同じ材質で形成されている、ことを特徴とする。
【0011】
(3)本開示の上記態様において、前記試料ステージは、前記試料の一部と当接する突出した保持部を有する、ことを特徴とする。
【0012】
(4)本開示の上記態様において、前記移動機構は、回転駆動される三重太陽軸と、前記三重太陽軸に固定された太陽アームと、前記太陽アームの回転端部に回転自在に支持された二重遊星軸と、前記二重遊星軸に固定された遊星アームと、前記遊星アームの回転端部に回転自在に支持された試料軸と、を有し、前記試料ステージは、前記試料軸に固定され、前記バックグラウンド補正カバーは、前記遊星アームに固定される、ことを特徴とする。
【0013】
(5)本開示の上記態様において、前記移動機構は、前記試料ステージ及び前記バックグラウンド補正カバーの表面と平行なXY平面内において、前記1次X線が前記測定位置に照射される位置に前記試料ステージを移動させるXYステージと、前記バックグラウンド補正カバーを前記試料ステージの中央を軸として回転させる回転機構と、を有することを特徴とする。
【0014】
(6)本開示の上記態様において、前記試料ステージの中心から外縁までの距離は、前記試料の中心から外縁までの距離より小さく、前記試料ステージの中心から前記バックグラウンド補正カバーの端部までの距離は、前記試料の中心から外縁までの距離より大きい、ことを特徴とする。
【0015】
(7)本開示の上記態様において、前記分析部は、前記検出器が測定した測定強度からバックグラウンド強度を差し引いて補正する補正部を有する、ことを特徴とする。
【0016】
(8)本開示の上記態様において、前記試料ステージは、円形状であり、前記バックグラウンド補正カバーにおける前記試料ステージの外縁の一部に沿った形状の外縁部分は、円形状の前記試料ステージの外縁に沿った弧状である、ことを特徴とする。
【0017】
(9)本開示の上記態様において、前記試料が切り欠き部を有する円形状である場合に、前記試料ステージの外縁より外に配置された前記試料の該切り欠き部の位置を検出する試料検出部を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、試料の背面の状態を一様にすることによって、測定位置によって測定条件の相違が生じない蛍光X線分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】蛍光X線分析装置の概略の一例を示す図である。
【
図2】円形の基板である試料が試料ステージに配置された状態を示す上面図及び側面図である。
【
図3】第1実施形態に係る移動機構を説明するための図である。
【
図4A】測定位置が(0mm,0度)である場合の移動機構、試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの位置関係を示す図である。
【
図4B】測定位置が(75mm,0度)である場合の移動機構、試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの位置関係を示す図である。
【
図4C】測定位置が(100mm,0度)である場合の移動機構、試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの位置関係を示す図である。
【
図4D】測定位置が(150mm,0度)である場合の移動機構、試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの位置関係を示す図である。
【
図5A】測定位置が(0mm,60度)である場合の移動機構、試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの位置関係を示す図である。
【
図5B】測定位置が(75mm,60度)である場合の移動機構、試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの位置関係を示す図である。
【
図5C】測定位置が(100mm,60度)である場合の移動機構、試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの位置関係を示す図である。
【
図5D】測定位置が(150mm,60度)である場合の移動機構、試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの位置関係を示す図である。
【
図6A】測定位置が(0mm,-60度)である場合の移動機構、試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの位置関係を示す図である。
【
図6B】測定位置が(75mm,-60度)である場合の移動機構、試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの位置関係を示す図である。
【
図6C】測定位置が(100mm,-60度)である場合の移動機構、試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの位置関係を示す図である。
【
図6D】測定位置が(150mm,-60度)である場合の移動機構、試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの位置関係を示す図である。
【
図7】第2実施形態に係る移動機構を説明するための図である。
【
図8】試料ステージ及びバックグラウンド補正カバーの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
以下、本開示を実施するための好適な実施の形態(以下、実施形態という)を説明する。
図1は、蛍光X線分析装置100の概略の一例を示す図である。
図1に示すように、蛍光X線分析装置100は、X線源102と、試料ステージ104と、バックグラウンド補正カバー108と、移動機構110と、分光素子112と、検出器114と、ゴニオメータ116と、計数器118と、情報処理部120と、試料検出部と、を有する。
【0021】
X線源102は、試料128の表面に1次X線130を照射して、試料128から蛍光X線を発生させる。ここで、1次X線130の一部は試料128を透過し、試料128の背面に存在する試料ステージ104またはバックグラウンド補正カバー108に到達して蛍光X線や散乱線を発生させる。そして当該蛍光X線や散乱線は、再度試料128を透過し、試料128で発生する蛍光X線と共にバックグラウンドとして測定される。
【0022】
なお、X線源102は、試料ステージ104等が配置された試料室(図示なし)内の所定の位置に1次X線130を照射する。X線源102は、照射位置を変更することが可能な構成としてもよいが、第1実施形態においては、X線源102の位置が固定され、X線源102が後述する3重太陽軸206(
図2等参照)の位置(後述する原点O)にのみ1次X線130を照射できる構成である場合について説明する。
【0023】
試料ステージ104は、試料128が載置され、移動機構110により試料128の表面の任意の測定位置に1次X線130が照射されるように試料128を移動させる。具体的には、例えば、試料ステージ104は、円形状であって、試料ステージ104の表面から鉛直方向に向かって突出し、試料128を試料ステージ104の表面と平行に例えば10mmの間隔を開けて保持する保持部106を有する。保持部106は、少なくとも3点以上で試料128を保持する。試料ステージ104は、上面から見て2本以上の直線や円状、円弧状であって、側面から見て凸部などの形状を有する保持部106を有してもよい。試料ステージ104の詳細については後述する。
【0024】
バックグラウンド補正カバー108は、試料ステージ104の外側に隣接して配置可能であり、試料ステージ104の外縁の一部に沿った形状の外縁部分を有する。具体的には、例えば、バックグラウンド補正カバー108における試料ステージ104の外縁の一部に沿った形状の外縁部分は、円形状の試料ステージ104の外縁に沿った円弧状の部分である。本実施形態では、バックグラウンド補正カバー108は、2個設けられる。2個のバックグラウンド補正カバー108は、当該円弧上の外縁部分が円形状の試料ステージ104の外縁部に沿うように、移動機構110によってそれぞれ配置される。ここではバックグラウンド補正カバー108と試料ステージ104を移動させる移動機構110を1つの機構として説明しているが、別々の機構で移動させてもよい。
【0025】
また、試料ステージ104の表面とバックグラウンド補正カバー108の表面は略同一面に配置される。これにより、試料128と試料ステージ104とが平面視で重なる領域と、試料128とバックグラウンド補正カバー108とが平面視で重なる領域と、における試料128を透過した1次X線130により発生する蛍光X線や散乱線による影響を、略均等にすることができる。
【0026】
ここで、略同一面とは、蛍光X線分析の精度に与える影響において、試料ステージ104の表面における散乱線等の影響と、バックグラウンド補正カバー108の表面における散乱線等の影響と、が均等になる程度に同一の高さであることを表す。従って、試料ステージ104の表面とバックグラウンド補正カバー108の表面の高さの相違が、蛍光X線分析の精度に影響を与えない程度の相違であれば、試料ステージ104の表面とバックグラウンド補正カバー108の表面は略同一面であるとみなすことができる。なお、上記蛍光X線や散乱線の影響を均等にするために、バックグラウンド補正カバー108は、試料ステージ104と同じ材質で形成されることが望ましい。
【0027】
移動機構110は、試料128の表面の任意の測定位置に1次X線が照射されるようにX線源102による照射位置または試料ステージ104を移動させる。また、移動機構110は、バックグラウンド補正カバー108を、試料ステージ104の移動にしたがって移動させ、測定位置における試料128の背面に試料ステージ104がない場合に、該測定位置における試料128の背面にバックグラウンド補正カバー108を移動させる。移動機構110の詳細については後述する。
【0028】
分光素子112は、蛍光X線を分光する。具体的には、例えば、分光素子112は、試料128から発生した複数の波長の蛍光X線のうち、ブラッグの条件式を満たす特定の波長のX線のみを分光する。
【0029】
検出器114は、分光素子112によって分光された蛍光X線の強度を測定する。具体的には、例えば、検出器114は、シンチレーションカウンタである。検出器114は、蛍光X線の強度を測定し、測定した蛍光X線のエネルギーに応じた波高値を有するパルス信号を出力する。
【0030】
分光素子112及び検出器114は、ゴニオメータ116によって、一定の角度関係を保ちながら回動する。具体的には、分光素子112は、分光素子112表面に対する蛍光X線の入射角度θが所定の範囲内で変化するように、ゴニオメータ116によって回動する。なお、入射角度θは、試料128から発生した蛍光X線の進む方向と分光素子112表面との成す角度である。蛍光X線は分光素子112により回折され、ブラッグの条件式を満たす蛍光X線(すなわち出射角度θである蛍光X線)が出射する。検出器114は、ゴニオメータ116によって、分光素子112から出射角度θで出射された蛍光X線が入射される位置に移動する。
【0031】
計数器118は、検出器114から出力されるパルス信号を、波高値に応じて計数する。具体的には、例えば、計数器118は、検出器114の測定強度として出力されるパルス信号を波高値に応じて計数し、X線強度として情報処理部120に出力する。
【0032】
試料検出部は、試料128の配置された向きを検出する。具体的には、試料128が切り欠き部204を有し、試料ステージ104より大きな円形状の形状である場合に、試料検出部126は、試料ステージ104に配置された試料128の該切り欠き部204の位置を検出する。例えば、試料検出部は、ビームセンサなどの透過型センサであって、光源126と受光部127を含む。切り欠き部204は、例えば円形状の基板の外周の一部に設けられたいわゆるノッチである。光源126は、試料ステージ104の上方または下方より試料128の外縁に沿ってレーザ132などの光ビームを照射し、試料128を挟み対向する受光部127で受光することにより、試料ステージ104上に配置された試料128の切り欠き部204の位置を検出する。これにより、試料検出部は、試料ステージ104上の試料128の向きを検出できる。なお、
図1では、試料検出部が基板の上方と下方に配置される場合の一例を記載しているが、試料検出部は基板の側方に配置されてもよいし、切り欠き部204の位置を検出できればビームセンサ以外のセンサであってもよい。
【0033】
情報処理部120は、蛍光X線分析装置100の各部の動作を制御するとともに、試料128の分析を行う。具体的には、例えば、情報処理部120は、コンピュータであって、移動機構110、ゴニオメータ116、試料検出部の動作を制御する。また、情報処理部120は分析部122を含み、分析部122は、計数器118の出力に基づく蛍光X線スペクトルを取得する。さらに、分析部122は、蛍光X線スペクトルに基づいて、試料128に含まれる元素を分析する。この際、分析部122は、検量線法やファンダメンタルパラメータ法などの既知の手法を用いて、試料128の分析を行う。
【0034】
図1に示すように、分析部122は、補正部124を有していてもよい。補正部124は、検出器114が測定した測定強度からバックグラウンド強度を差し引く補正をおこなう。具体的には、例えば、まず、分析対象である元素が含まれていないブランク試料が試料ステージ104に配置される。そして、ブランク試料に対して1次X線130が照射され、分析元素に起因するエネルギーの測定強度が測定される。補正部124は、当該測定強度を記憶する。次に、分析対象である元素が含まれた分析試料が試料ステージ104に配置される。そして、分析試料に対して1次X線130が照射され、分析元素に起因するエネルギーの測定強度が測定される。補正部124は、当該測定強度から、予め記憶した測定強度を差し引くことにより補正を行う。なお、補正部124は、既知の他の方法を用いてバックグラウンド補正を行ってもよい。
【0035】
本開示によれば、後述するように、試料128のどの位置を測定する場合でも、当該測定位置の背面に試料ステージ104またはバックグラウンド補正カバー108を配置することができる。そのため、ブランク試料の1か所の測定位置におけるバックグラウンド強度を記憶しておけば、分析試料の全ての測定位置においてバックグラウンド補正を行うことができる。
【0036】
なお、
図1に示す波長分散型の蛍光X線分析装置100は分光素子112と検出器114を回動させる走査型であるが、ゴニオメータ116を用いず分光素子112と検出器114が固定された単元素分析用装置や多元素同時型装置であってもよい。また、蛍光X線分析装置100はエネルギー分散型であってもよい。蛍光X線分析装置100がエネルギー分散型である場合、分光素子112及びゴニオメータ116は含まれず、検出器114には、SDD(Silicon Drift Detector)検出器等の半導体検出器を用いる。
【0037】
続いて、第1実施形態における移動機構110、試料ステージ104、バックグラウンド補正カバー108及び搬送アーム202の詳細について、
図2及び
図3を参照しながら説明する。
図2は、搬送アーム202によって、円形の基板である試料128が試料ステージ104に配置された状態を示す上面図及び側面図である。
図3は
図2のIII-III断面の詳細を示す図である(搬送アーム202及び試料128は図示なし)。なお、III-III断面においてはバックグラウンド補正カバー108は表れないが、
図3においては、試料ステージ104との位置関係を理解しやすいように、バックグラウンド補正カバー108を破線で示している。
【0038】
移動機構110は、回転駆動される3重太陽軸206と、3重太陽軸206に固定された太陽アーム208と、太陽アーム208の回転端部に回転自在に支持された2重遊星軸210と、2重遊星軸210に固定された遊星アーム212と、遊星アーム212の回転端部に回転自在に支持された試料軸214と、を有する。
【0039】
具体的には、3重太陽軸206は、図示しない駆動モータによりそれぞれ独立して回転駆動される第1太陽軸302、第2太陽軸304および第3太陽軸306を備えた3重軸である。以下、試料ステージ104の表面が存在するXY平面(
図2上面図の右方向をX軸方向、上方向をY軸方向)において、3重太陽軸206の位置を、測定位置とし、原点Oとする。太陽アーム208は、第3太陽軸306に固定された箱状のアームである。2重遊星軸210は、太陽アーム208の回転端部に回転自在に支持された第1遊星軸308と、第1遊星軸308に対して回転自在に設けられた第2遊星軸310を備えた2重軸である。以下、XY平面において、2重遊星軸210の位置を、Aとする。
【0040】
太陽アーム208内部には、第1太陽歯車312と、第1アイドラ歯車314と、第1遊星歯車316と、第2太陽歯車318と、第2アイドラ歯車320と、第2遊星歯車322と、が配置される。具体的には、第1太陽歯車312は、第2太陽軸304に固定される。第1遊星歯車316は、第1遊星軸308に固定され、第1太陽歯車312と第1アイドラ歯車314を介して連動して回転される。第2太陽歯車318は、第1太陽軸302に固定される。第2遊星歯車322は、第2遊星軸310に固定され、第2太陽歯車318と第2アイドラ歯車320を介して連動して回転される。
【0041】
遊星アーム212は、第2遊星軸310に固定された箱状のアームである。遊星アーム212内部には、第3遊星歯車324と、第3アイドラ歯車326と、試料歯車328と、が配置される。具体的には、第3遊星歯車324は、第1遊星軸308に固定される。試料歯車328は、試料軸214に固定され、第3遊星歯車324と第3アイドラ歯車326連動して回転される。
【0042】
試料軸214は、遊星アーム212の回転端部に回転自在に支持される。以下、XY平面において、試料軸214の位置を、Bとする。また、第1アイドラ歯車314と第2アイドラ歯車320は、それぞれ太陽アーム208に回転自在に支持された第1アイドラ軸315と第2アイドラ軸321に固定される。第3アイドラ歯車326は、遊星アーム212に回転自在に支持された第3アイドラ軸327に固定される。試料ステージ104は、試料軸214に固定され、バックグラウンド補正カバー108は、遊星アーム212に固定される。
【0043】
3重太陽軸206は、試料室の底面に軸受け330によって試料室内部の密閉性を保持しつつ回転自在に支持されている。同様に、第1遊星軸308、第2遊星軸310、第1アイドラ軸315及び第2アイドラ軸321は軸受け331~334によって、箱状の太陽アーム208の密閉性を保持しつつ回転自在に支持されている。同様に、第3アイドラ軸327及び試料軸214は軸受け335~337によって、箱状の遊星アーム212の密閉性を保持しつつ回転自在に支持されている。
【0044】
また、太陽アーム208、2重遊星軸210、遊星アーム212、試料軸214および試料ステージ104は、円形状の試料128の中心と試料ステージ104の中心とが合致するように試料ステージ104に載せられる試料128とともに、試料室内に配置される。移動機構110は、3重太陽軸206のみに支持され、第3太陽軸306は、軸受け330によって、回転自在に支持されている。さらに、3重軸たる3重太陽軸206および2重軸たる2重遊星軸210において、各同心軸間も、図示しない軸受けによって密閉性を保持しつつ回転自在に支持されている。
【0045】
そして、第1実施形態の移動機構110においては、3重太陽軸206から2重遊星軸210までの距離と2重遊星軸210から試料軸214までの距離が等しく設定される。また、第1太陽歯車312と第1遊星歯車316とのギア比は1対1に設定される。第2太陽歯車318と第2遊星歯車322とのギア比は2対1に設定される。第3遊星歯車324と試料歯車328とのギア比は1対1に設定される。
【0046】
試料ステージ104は、円形状であって、6個の保持部106を有する。具体的には、例えば、試料ステージ104は半径100mmの円形状であって、円形状の試料ステージ104の外縁近傍に、60度の間隔で均等に配置された6個の保持部106を有する。各保持部106は、試料ステージ104の表面から鉛直方向に向かって伸びる突起状の形状であって、頂部が試料128の裏面に当接することで試料128を保持する。さらに、試料ステージ104の中央部に静電チャックを設け、試料128を吸着して保持してもよい。
【0047】
バックグラウンド補正カバー108は、試料ステージ104の外側に隣接して配置可能であり、試料ステージ104の外縁の一部に沿った形状の外縁部分を有する。具体的には、例えば、バックグラウンド補正カバー108は、略半月状の形状であって、円形状の試料ステージ104の外縁の一部に沿った円弧状の外縁部分(試料ステージ104に隣接する内側の外縁部分)と、反対側の円弧状の外縁部分(外側の外縁部分)とを有する。本実施形態では、バックグラウンド補正カバー108は、バックグラウンド補正カバー108Aとバックグラウンド補正カバー108Bを含む。以下、バックグラウンド補正カバー108Aの試料ステージ104に隣接する内側の外縁部分の中央部をCとし、外側の外縁部分の中央部をDとする。
【0048】
バックグラウンド補正カバー108Aは、線分BCが線分ABに対して、位置Bを中心として反時計回りに45度回転した位置となるように遊星アーム212に固定される。なお、線分ABは遊星アーム212の長手方向の中心線であり、線分BCは、バックグラウンド補正カバー108Aの内側の外縁部分の中央部Cと試料軸214の位置Bを結んだ線(バックグラウンド補正カバー108Aの中心線)である。バックグラウンド補正カバー108Bは、線分ABを対称線としてバックグラウンド補正カバー108Aと対称な位置に遊星アーム212に固定される。すなわち、バックグラウンド補正カバー108Bは、バックグラウンド補正カバー108Aを位置Bを中心として時計回りに90度回転した位置に固定される。また、バックグラウンド補正カバー108Aの内側の外縁部分の中心Cと試料軸214の位置Bとの距離が、試料ステージ104の半径と略同一となるように、バックグラウンド補正カバー108は遊星アーム212に固定される。さらに、バックグラウンド補正カバー108Aの内側の外縁部分の中央部Cと外側の外縁部分の中央部をDとの距離が、試料128の半径と試料ステージ104の半径の差分より大きくなるように設定される。また、バックグラウンド補正カバー108Aとバックグラウンド補正カバー108Bの形状は同一である。
【0049】
上記バックグラウンド補正カバー108によれば、試料ステージ104の中心から外縁までの距離が、試料128の中心から外縁までの距離より小さい場合であっても、その差分が線分CDの長さよりも小さければ試料128の背面の状態が一様な環境下で測定を行うことができる。すなわち、試料ステージ104の中心Bからバックグラウンド補正カバー108の端部Dまでの距離を、試料128の中心から外縁までの距離(試料128の半径)より大きくすることにより、試料128の背面の状態を一様にすることができる。例えば、試料ステージ104の半径を100mm、CDの距離を80mmとした場合、試料ステージ104よりも大きい試料128であっても、半径180mmまでの円形の試料128について、本開示を適用することができる。
【0050】
搬送アーム202は、試料128を搬送する。具体的には、例えば、搬送アーム202は、ロードロック(図示なし)と試料ステージ104が配置された試料室(図示なし)の間で、試料128を搬送する。試料128を試料ステージ104の上に搬送する場合、搬送アーム202は、試料128を上に乗せた状態で、上面から見て円形状の試料128の中心と試料ステージ104の中心が同じ位置となるように、
図2の右側から左側に向かって試料128を移動させる。この際、搬送アーム202は、円形状の試料ステージ104表面より上側(Z軸方向)を移動する。搬送アーム202は、円形状の試料128の中心と試料ステージ104の中心が同じ位置となるように試料128を移動させた後、鉛直方向下向き(-Z軸方向)に移動することで試料128を保持部106に保持させる。さらに、搬送アーム202は、保持部106によって形成された隙間(試料128の裏面と試料ステージ104表面の間の空間)を
図2の左側から右側に向かって移動する。以上の手順により、試料128は、ロードロックから試料ステージ104の上に搬送される。試料128が試料ステージ104からロードロックに搬送される場合、上記と逆の手順が実行される。
【0051】
上記のように、搬送アーム202は、保持部106が形成する隙間により、試料128の表面に接することなく、ロードロックと試料室の間で試料128を搬送することができる。なお、搬送の方法はこれに限られず他の方法であってもよい。例えば、搬送アーム202は、試料128の表面を吸着して、ロードロックと試料室の間で試料128を搬送してもよい。当該構成によれば、試料ステージ104に設けられる保持部106を省略することができる。
【0052】
次に、移動機構110の動作について説明する。まず、第1太陽軸302を回転駆動する駆動モータ(図示なし)の回転を固定することにより、第2太陽歯車318の座標系X-Yに対する回転を固定し、第3太陽軸306を回転駆動する駆動モータを回転させた場合について考える。この場合、3重太陽軸206から2重遊星軸210までの距離と2重遊星軸210から試料軸214までの距離が等しく設定されていることから、試料ステージ104の中心はX軸上をX座標2dから-2dまで移動することができる(第1の原理)。なお2dは、3重太陽軸206から2重遊星軸210までの距離OAと2重遊星軸210から試料軸214までの距離ABの和である。
【0053】
次に、第1太陽軸302と第3太陽軸306を同じ方向に同じ角度だけ回転駆動させる、すなわち、第2太陽歯車318と太陽アーム208を一体化して回転させた場合について考える。この場合、太陽アーム208と遊星アーム212とのなす角度が維持されたまま、すなわち試料ステージ104の公転半径が維持されたまま、試料ステージ104は原点Oのまわりを公転する(第2の原理)。第1および第2の原理から、試料ステージ104の中心は、原点を中心とする半径2dの円内の任意の位置をとることできる。
【0054】
次に、第2太陽軸304を回転駆動する駆動モータの回転を固定することにより、第1太陽歯車312の座標系X-Yに対する回転を固定して、第2の原理に基づいて太陽アーム208と遊星アーム212を一体化した状態で回転させる場合について考える。この場合、第1太陽歯車312と第1遊星歯車316のギア比が1対1であることから、第1遊星歯車316および第3遊星歯車324の座標系X-Yにおける方向は維持される。同様に、第3アイドラ歯車326を介して第3遊星歯車324と連動する試料歯車328および試料ステージ104の座標系X-Yにおける方向も維持される。これは、第2太陽軸304を固定しておけば、第2の原理に基づいて試料ステージ104を原点まわりに公転させても、座標系X-Yにおける試料ステージ104の方向を維持できることを意味する。すなわち、試料ステージ104が座標系X-Yのどこにあっても、その位置を維持したまま、試料ステージ104の方向を任意に決めることができる(第3の原理)。
【0055】
上記第1の原理乃至第3の原理によれば、半径が2d以下である試料128であれば、試料上の任意の測定位置が1次X線130の照射位置に位置するように、試料128を移動させることができる。
【0056】
続いて、
図4A乃至
図6Dを参照しながら、各測定位置における移動機構110、試料ステージ104及びバックグラウンド補正カバー108の位置関係について説明する。なお、以下において、(rmm,θ度)である測定位置とは、試料128の中心からrmmの距離で、図面上の右方向を0度としたときに時計回りにθ度回転した位置を表す位置である。すなわち、(rmm,θ度)が表す位置は、試料ステージ104とともに移動する試料128の中心に対する相対的なものである。一方、原点Oは、絶対的に固定された位置(すなわち、試料ステージ104等が配置された試料室(図示なし)内の固定された位置)であって、1次X線が照射される測定位置である。従って、
図4A乃至
図6Dに示す位置Oは全て試料室における同一の位置である。また、
図2に示す状態、すなわち、太陽アーム208の中心線OA及び遊星アーム212の長手方向の中心線ABがX軸上に位置し、3重太陽軸206の位置がXY平面上で座標(-2d,0)であって、バックグラウンド補正カバー108の中心線CDがX軸から反時計回りに45度回転した状態を初期状態とする。また、初期状態では、切り欠き部204がY軸方向に位置するように試料128が配置されているものとする。
【0057】
図4A乃至
図4Dは、θを0度に固定し、rを0mm,75mm,100mm,150mmに変化させたときの移動機構110、試料ステージ104及びバックグラウンド補正カバー108の位置関係を示す図である。
図4Aに示すように、測定位置402が(0mm,0度)(すなわち試料128の中心)である場合、1次X線130が照射される原点Oに試料128の中心が位置するように、移動機構110は試料128を移動させる。従って、移動機構110は、試料軸214の位置Bが原点Oと一致するように試料128を移動させる。この状態では、太陽アーム208の中心線OA及び遊星アーム212の長手方向の中心線ABがY軸上に位置する。また、バックグラウンド補正カバー108A及びバックグラウンド補正カバー108Bは、上記のような位置関係で遊星アーム212に固定されている。従って、線分BCが線分ABに対して、位置Bを中心として反時計回りに45度回転した位置となるように、バックグラウンド補正カバー108Aは配置される(図面上の位置Bの右下の位置)。また、バックグラウンド補正カバー108Aを位置Bを中心として時計回りに90度回転した位置にバックグラウンド補正カバー108Bは配置される(図面上の位置Bの左下の位置)。
図4Aに示す状態では、試料128の測定位置402(0mm,0度)の背面に試料ステージ104が存在する。
【0058】
図4B乃至
図4Dに示すように、測定位置402(位置O)が(75mm,0度),(100mm,0度),(150mm,0度)である場合、1次X線130が照射される原点Oに試料128の各測定位置が位置するように、移動機構110は試料128を移動させる。すなわち、太陽アーム208は、
図4Aに示す状態から時計回りに回転し、遊星アーム212は、
図4Aに示す状態から反時計回りに回転することで、試料ステージ104は、OとBの距離がそれぞれ75mm,100mm,150mmとなる位置に移動する。なお、上記のように位置Oは試料室(図示なし)内の固定された位置であるため、
図4B乃至
図4Dに示す試料ステージ104は
図4Aに示す試料ステージ104の位置から図面の左側(-X軸方向)に移動している。また、バックグラウンド補正カバー108A及びバックグラウンド補正カバー108Bは、上記のように遊星アーム212に固定されているため、遊星アーム212との位置関係を保持した状態で移動する。
図4B及び
図4Cに示す状態では、試料128の(75mm,0度)及び(100mm,0度)の背面に試料ステージ104が存在する。一方、
図4Dに示す状態では、試料128の測定位置402(150mm,0度)の背面にバックグラウンド補正カバー108Aが存在する。
【0059】
図5A乃至
図5Dは、θを60度に固定し、rを0mm,75mm,100mm,150mmに変化させたときの移動機構110、試料ステージ104及びバックグラウンド補正カバー108の位置関係を示す図である。
図5Aに示すように、測定位置402が(0mm,60度)(すなわち試料128の中心)である場合、1次X線130が照射される原点Oに試料128の中心が位置するように、移動機構110は試料128を移動させる。従って、移動機構110は、試料軸214の位置Bが原点Oと一致するように試料128を移動させる。この状態では、太陽アーム208の中心線OA及び遊星アーム212の長手方向の中心線ABはY軸から位置Oを中心に時計回りに60度回転した位置にある。また、バックグラウンド補正カバー108Aは、線分BCが線分ABに対して位置Bを中心として反時計回りに45度回転した位置となるように、配置される。バックグラウンド補正カバー108Bは、バックグラウンド補正カバー108Aを位置Bを中心として90度回転した位置に配置される。
図5Aに示す状態では、試料128の測定位置402(0mm,60度)の背面に試料ステージ104が存在する。
【0060】
図5B乃至
図5Dに示すように、測定位置402が(75mm,60度)、(100mm,60度)、(150mm,60度)である場合、1次X線130が照射される原点Oに試料128の各測定位置が位置するように、移動機構110は試料128を移動させる。すなわち、太陽アーム208は、
図5Aに示す状態から時計回りに回転し、遊星アーム212は、
図5Aに示す状態から反時計回りに回転することで、試料ステージ104は、OとBの距離がそれぞれ75mm,100mm,150mmとなる位置に移動する。なお、上記のように位置Oは試料室(図示なし)内の固定された位置であるため、
図5B乃至
図5Dに示す試料ステージ104は
図5Aに示す試料ステージ104の位置から図面の左上側(-X軸方向及びY軸方向)に移動している。また、バックグラウンド補正カバー108A及びバックグラウンド補正カバー108Bは、上記のように遊星アーム212に固定されているため、遊星アーム212との位置関係を保持した状態で移動する。
図5B及び
図5Cに示す状態では、試料128の(75mm,60度)及び(100mm,60度)の背面に試料ステージ104が存在する。一方、
図5Dに示す状態では、試料128の測定位置402(150mm,60度)の背面にバックグラウンド補正カバー108Aが存在する。
【0061】
図6A乃至
図6Dは、θを-60度に固定し、rを0mm,75mm,100mm,150mmに変化させたときの移動機構110、試料ステージ104及びバックグラウンド補正カバー108の位置関係を示す図である。
図6Aに示すように、測定位置402が(0mm,-60度)(すなわち試料128の中心)である場合、1次X線130が照射される原点Oに試料128の中心が位置するように、移動機構110は試料128を移動させる。従って、移動機構110は、試料軸214の位置Bが原点Oと一致するように試料128を移動させる。この状態では、太陽アーム208の中心線OA及び遊星アーム212の長手方向の中心線ABはY軸から位置Oを中心に反時計回りに60度回転した位置にある。また、バックグラウンド補正カバー108Aは、線分BCが線分ABに対して位置Bを中心として反時計回りに45度回転した位置となるように、配置される。バックグラウンド補正カバー108Bは、バックグラウンド補正カバー108Aを位置Bを中心として90度回転した位置に配置される。
図6Aに示す状態では、試料128の測定位置402(0mm,-60度)の背面に試料ステージ104が存在する。
【0062】
図6B乃至
図6Dに示すように、測定位置402が(75mm,-60度)、(100mm,-60度)、(150mm,-60度)である場合、1次X線130が照射される原点Oに試料128の各測定位置が位置するように、移動機構110は試料128を移動させる。すなわち、太陽アーム208は、
図6Aに示す状態から反時計回りに回転し、遊星アーム212は、
図6Aに示す状態から時計回りに回転することで、試料ステージ104は、OとBの距離がそれぞれ75mm,100mm,150mmとなる位置に移動する。なお、上記のように位置Oは試料室(図示なし)内の固定された位置であるため、
図6B乃至
図6Dに示す試料ステージ104は
図6Aに示す試料ステージ104の位置から図面の左下側(-X軸方向及び-Y軸方向)に移動している。また、バックグラウンド補正カバー108A及びバックグラウンド補正カバー108Bは、上記のように遊星アーム212に固定されているため、遊星アーム212との位置関係を保持した状態で移動する。
図6B及び
図6Cに示す状態では、試料128の(75mm,60度)及び(100mm,60度)の背面に試料ステージ104が存在する。一方、
図6Dに示す状態では、試料128の測定位置402(150mm,60度)の背面にバックグラウンド補正カバー108Bが存在する。
【0063】
以上のように、2つのバックグラウンド補正カバー108を遊星アーム212に固定することにより、各アームの少ない移動でバックグラウンド補正カバー108を所定の位置に配置することができる。
【0064】
以上のように、
図4A乃至
図6Dに示す測定位置402の背面には、試料ステージ104とバックグラウンド補正カバー108Aとバックグラウンド補正カバー108Bのいずれかが配置される。また、
図4A乃至
図6Dに示す測定位置402以外の位置を測定位置とする場合であっても、上記第1の原理乃至第3の原理に基づいて、試料128上の任意の測定位置402が1次X線130が照射される3重太陽軸206の位置に位置するように試料128を移動させることができ、かつ、測定位置402の背面に試料ステージ104またはバックグラウンド補正カバー108を配置することができる。従って、試料128の背面の状態を一様にすることによって、測定位置402によって測定条件に相違が生じることを防止することができる。
【0065】
なお、上記においてはバックグラウンド補正カバー108が2個である実施形態について説明したが、試料ステージ104とバックグラウンド補正カバー108のいずれかが測定位置の背面に存在しさえすれば、バックグラウンド補正カバー108は1個であってもよい。
【0066】
[第2実施形態]
続いて、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態と移動機構110の構成のみ相違し、他の構成は同様であるため説明を省略する。
【0067】
図7に示すように、第2実施形態に係る移動機構110は、第1XYステージ702と、第2XYステージ704と、を有する。第1XYステージ702は、試料ステージ104及びバックグラウンド補正カバー108の表面と平行なXY平面内において、1次X線130が測定位置に照射される位置に試料ステージ104を移動させる。
【0068】
具体的には、第1XYステージ702は、2個の第1X駆動軸706と、第1Y駆動軸708と、第1昇降機710と、を有する。2個の第1X駆動軸706は、それぞれ細長い形状を有し長手方向がX軸に沿って、同じ高さ(Z軸方向の位置が同じ)で試料室の内部に固定される。また、2個の第1X駆動軸706は、互いに向かい合う側に第1Y駆動軸708をガイドするレールを有する。
【0069】
第1Y駆動軸708は、細長い形状を有し、一方の端部が一方の第1X駆動軸706のレールにはめ込まれ、他方の端部が他方の第1X駆動軸706のレールにはめ込まれる。第1Y駆動軸708は、アクチュエータ(図示なし)によって、2個の第1X駆動軸706にガイドされてX軸方向に移動する。また、第1Y駆動軸708は、上面に第1昇降機710をガイドするレールを有する。
【0070】
第1昇降機710は、第1Y駆動軸708のレールにはめ込まれ、アクチュエータ(図示なし)によって、第1Y駆動軸708にガイドされてY軸方向に移動する。また、第1昇降機710は、上面に試料ステージ104が配置され、Z軸方向に伸縮可能な構成を有する。これにより、第1昇降機710は、試料ステージ104をZ軸方向に任意移動させる。また、第1昇降機710は、試料ステージ104をXY平面内で自在に回転可能な構成を有する。
【0071】
第2XYステージ704は、2個の第2X駆動軸712と、第2Y駆動軸714と、第2昇降機716と、を有する。2個の第2X駆動軸712は、それぞれ細長い形状を有し長手方向がX軸に沿って、同じ高さ(Z軸方向の位置が同じ)で試料室の内部に固定される。また、2個の第2X駆動軸712は、互いに向かい合う側に第2Y駆動軸714をガイドするレールを有する。
【0072】
第2Y駆動軸714は、細長い形状を有し、一方の端部が一方の第2X駆動軸712のレールにはめ込まれ、他方の端部が他方の第2X駆動軸712のレールにはめ込まれる。第2Y駆動軸714は、アクチュエータ(図示なし)によって、2個の第2X駆動軸712にガイドされてX軸方向に移動する。また、第2Y駆動軸714は、上面に第2昇降機716をガイドするレールを有する。
【0073】
第2昇降機716は、第2Y駆動軸714のレールにはめ込まれ、アクチュエータ(図示なし)によって、第2Y駆動軸714にガイドされてY軸方向に移動する。また、第2昇降機716は、上面にバックグラウンド補正カバー108が配置され、Z軸方向に伸縮可能な構成を有する。これにより、第2昇降機716は、バックグラウンド補正カバー108をZ軸方向に任意移動させる。また、第2昇降機716は、バックグラウンド補正カバー108をXY平面内で自在に回転可能な構成を有する。
【0074】
なお、第1XYステージ702及び第2XYステージ704は、互いの動作に干渉しないように配置される。
【0075】
上記の移動機構110の構成によれば、試料ステージ104及びバックグラウンド補正カバー108を、第1XYステージ702及び第2XYステージ704の駆動可能な範囲内で任意の位置に配置することができる。従って、試料ステージ104の上に第1実施形態と同様の方法で試料128を配置した後、試料128の任意の測定位置に1次X線130が照射されるように、試料128を移動させることができる。また、測定位置の背面に試料ステージ104が存在しない場合、バックグラウンド補正カバー108を測定位置の背面に移動させることができる。従って、第2実施形態においても、試料128の背面の状態を一様にすることによって、測定位置によって測定条件に相違が生じることを防止することができる。
【0076】
なお、本開示は、測定位置の背面に試料ステージ104またはバックグラウンド補正カバー108を配置することができればよく、移動機構110は第1実施形態及び第2実施形態に示したものに限られず他の構成であってもよい。
【0077】
例えば、移動機構110は、試料ステージ104を回転する機構を有していてもよい。例えば、移動機構110が試料ステージ104を任意の角度で回転または90度ごと回転または180度回転させる機構を備えることにより、移動範囲の狭い小型の第1XYステージ702を用いて、試料室を広くせず試料128の全面を測定することができる。
【0078】
また、移動機構110は、第2XYステージ704に代えて回転機構を有していてもよい。具体的には、例えば、移動機構110は、上記のような第1XYステージ702と、第1XYステージ702の中央を軸としてバックグラウンド補正カバー108を回転させる回転機構と、を有してもよい。試料ステージ104が、円形で保持部106を有する場合、バックグラウンド補正カバー108は第1実施形態と同様の形状である。バックグラウンド補正カバー108は、回転機構によって試料ステージ104の周囲を回転することで測定位置の背面に配置される。この場合、第2XYステージ704、第1昇降機710、第2昇降機716を用いないため、簡単な回転機構のみでバックグラウンド補正カバー108を測定位置の背面に移動させることができる。
【0079】
また、例えば、試料ステージ104は円形状に限られず、
図8に示すように八角形の形状であってもよいし、正方形や長方形、他の多角形の形状であってもよい。また、バックグラウンド補正カバー108も半月状の形状に限られず、
図8に示すように矩形であってもよい。
図8に示す構成であっても、矩形状のバックグラウンド補正カバー108は、八角形の試料ステージ104の一辺に隣接して配置可能であり、試料ステージ104の外縁の一部に沿った形状の外縁部分を有する。従って、試料128の任意の測定位置の背面に試料ステージ104またはバックグラウンド補正カバー108を配置することができる。
【0080】
さらに、移動機構110は、試料ステージ104を移動せず、X線源102による照射位置とバックグラウンド補正カバー108を移動させてもよい。具体的には、移動機構110は、試料128の表面の任意の測定位置に1次X線が照射されるようにX線源による照射位置を制御する照射位置制御部と、試料ステージ104の中央を軸としてバックグラウンド補正カバー108を回転させる回転機構と、を有してもよい。例えば、照射位置制御部は、試料128上の任意の測定位置に1次X線が照射されるようにX線源102をXY平面内で移動する。また例えば、移動機構110は、試料128上の任意の測定位置に1次X線が照射されるようにX線源102の向き、すなわち1次X線の照射される方向を変更してもよい。回転機構は、測定位置における試料128の背面に試料ステージ104がない場合に、該測定位置の背面にバックグラウンド補正カバー108を移動させる。例えば、試料ステージ104及びバックグラウンド補正カバー108が第1実施形態と同様の形状である場合、移動機構110は、バックグラウンド補正カバー108を試料ステージ104の周囲で回転させる。当該構成によれば、上記実施形態と同様の効果を奏し、かつ、試料ステージ104を移動させる構成を省略することができる。
【0081】
また、例えば、試料ステージ104の位置を固定し、X線源102が試料128の任意の位置に1次X線130を照射できる構成とした上で、バックグラウンド補正カバー108を任意の位置に移動させられるロボットアームが設けられる構成としてもよい。当該ロボットアームは、例えば、試料室内部のXYZ空間において、バックグラウンド補正カバー108を任意の位置に移動させられる3自由度と、XY平面内でバックグラウンド補正カバー108を任意の角度に回転させる1自由度と、を含む4自由度を有するロボットアームである。
【0082】
本開示は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上記蛍光X線分析装置100の構成は一例であって、これに限定されるものではない。上記の実施例で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成する構成で置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0083】
100 蛍光X線分析装置、102 X線源、104 試料ステージ、106 保持部、108,108A,108B バックグラウンド補正カバー、110 移動機構、112 分光素子、114 検出器、116 ゴニオメータ、118 計数器、120 情報処理部、122 分析部、124 補正部、126 光源、127 受光部、128 試料、130 1次X線、132 レーザ、202 搬送アーム、204 切り欠き部、206 3重太陽軸、208 太陽アーム、210 2重遊星軸、212 遊星アーム、214 試料軸、302 第1太陽軸、304 第2太陽軸、306 第3太陽軸、308 第1遊星軸、310 第2遊星軸、312 第1太陽歯車、314 第1アイドラ歯車、315 第1アイドラ軸、316 第1遊星歯車、318 第2太陽歯車、320 第2アイドラ歯車、321 第2アイドラ軸、322 第2遊星歯車、324 第3遊星歯車、326 第3アイドラ歯車、327 第3アイドラ軸、328 試料歯車、330~337 軸受け、702 第1XYステージ、704 第2XYステージ、706 第1X駆動軸、708 第1Y駆動軸、710 第1昇降機、712 第2X駆動軸、714 第2Y駆動軸、716 第2昇降機。