(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181816
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】免震装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20231218BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20231218BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
F16F15/04 P
F16F15/02 Q
E04H9/02 331A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095166
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100174023
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 怜愛
(72)【発明者】
【氏名】森 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅已
(72)【発明者】
【氏名】平野 賢司
(72)【発明者】
【氏名】藤山 淳司
(72)【発明者】
【氏名】中島 徹
(72)【発明者】
【氏名】欄木 龍大
(72)【発明者】
【氏名】大和 伸行
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC03
2E139AC04
2E139AC10
2E139AC19
2E139AC20
2E139CA04
3J048AA01
3J048BA08
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高面圧化が可能な免震装置を提供する。
【解決手段】免震装置1は、鉛直方向に交互に積層された硬質材料層4及び軟質材料層5を有する、積層構造体3を備えた、免震装置であって、以下を満たす。
数1
数2
S
1:軟質材料層の拘束面積と軟質材料層の1層当たりの自由面積との比
S
2:軟質材料層の幅と全ての軟質材料層の総厚さとの比
S
3:硬質材料層の1層当たりの厚さと軟質材料層の幅との比を1000倍した値σ:短期許容面圧(MPa)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に交互に積層された硬質材料層及び軟質材料層を有する、積層構造体を備えた、免震装置であって、
以下の式(1)を満たす、免震装置。
【数1】
ここで、上記式(1)において、
【数2】
であり、上記式(2)において、
S
1:前記軟質材料層の拘束面積と前記軟質材料層の1層当たりの自由面積との比
S
2:前記軟質材料層の幅と全ての前記軟質材料層の総厚さとの比
S
3:前記硬質材料層の1層当たりの厚さと前記軟質材料層の幅との比を1000倍した値
σ:短期許容面圧(MPa)
である。
【請求項2】
前記軟質材料層のせん断弾性率が0.35MPa以上である、請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
全ての前記軟質材料層の総厚さが160mm以上である、請求項1又は2に記載の免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、免震装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の免震装置として、鉛直方向に交互に積層された硬質材料層及び軟質材料層を有する積層構造体を備えたものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の免震装置においては、高面圧化に関し、向上の余地があった。
【0005】
この発明は、高面圧化が可能な免震装置を提供することを、目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の免震装置は、
鉛直方向に交互に積層された硬質材料層及び軟質材料層を有する、積層構造体を備えた、免震装置であって、
以下の式(1)を満たす。
【数1】
ここで、上記式(1)において、
【数2】
であり、上記式(2)において、
S
1:前記軟質材料層の拘束面積と前記軟質材料層の1層当たりの自由面積との比
S
2:前記軟質材料層の幅と全ての前記軟質材料層の総厚さとの比
S
3:前記硬質材料層の1層当たりの厚さと前記軟質材料層の幅との比を1000倍した値
σ:短期許容面圧(MPa)
である。
本発明の免震装置によれば、高面圧化が可能である。
【0007】
本発明の免震装置において、
前記軟質材料層のせん断弾性率が0.35MPa以上であると、好適である。
この場合、式(1)を満たす免震装置が得られやすい。
【0008】
本発明の免震装置において、
全ての前記軟質材料層の総厚さが160mm以上であると、好適である。
この場合、長周期化が可能であり、また、大きな限界変形を確保できる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、高面圧化が可能な免震装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る免震装置を概略的に示す、軸線方向断面図である。
【
図2】解析で用いた免震装置モデルを概略的に示す、斜視図である。
【
図3】本発明の免震装置の比較例及び実施例の解析結果を示す図である。
【
図4】本発明の免震装置の比較例及び実施例の解析結果を示す図である。
【
図5】本発明の免震装置の比較例及び実施例の解析結果を示す図である。
【
図6】本発明の免震装置の比較例及び実施例の解析結果を示す図である。
【
図7】本発明の免震装置の比較例及び実施例の解析結果を示す図である。
【
図8】本発明の免震装置の比較例及び実施例の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の免震装置は、地震の揺れが構造物(例えば、ビル、マンション、戸建て住宅、倉庫等の建物、並びに、橋梁等)に伝わるのを抑制するために、構造物の上部構造と下部構造との間に配置されると、好適なものである。本発明の免震装置は、例えば、構造物の柱を支えるように、柱に設けられると好適であり、例えば、柱毎に1個ずつ設けられると好適である。
以下に、図面を参照しつつ、この発明に係る免震装置の実施形態を例示説明する。各図において共通する構成要素には同一の符号を付している。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る免震装置1を説明するための図面である。
図1は、本実施形態に係る免震装置1を、水平方向変形が生じていない状態で、概略的に示す、軸線方向断面図である。
図1に示すように、本実施形態の免震装置1は、積層構造体3と、上下一対の連結鋼板7と、上下一対のフランジ8と、を備えている。
【0013】
本明細書において、免震装置1の「中心軸線O」(以下、単に「中心軸線O」ともいう。)は、積層構造体3の中心軸線である。免震装置1の中心軸線Oは、鉛直方向に延在するように指向される。本明細書において、免震装置1の「軸線方向」とは、免震装置1の中心軸線Oに平行な方向である。免震装置1の「軸線方向内側」とは、軸線方向において積層構造体3の軸線方向中心に近い側を指しており、免震装置1の「軸線方向外側」とは、軸線方向において積層構造体3の軸線方向中心から遠い側を指している。また、免震装置1の「軸直方向」とは、免震装置1の軸線方向に垂直な方向である。また、免震装置1の「内周側」、「外周側」、「径方向」、「周方向」とは、免震装置1の中心軸線Oを中心としたときの「内周側」、「外周側」、「径方向」、「周方向」をそれぞれ指す。また、「上」、「下」とは、鉛直方向における「上」、「下」をそれぞれ指す。
【0014】
積層構造体3は、複数の硬質材料層4と、複数の軟質材料層5と、被覆層6と、を有している。硬質材料層4と軟質材料層5とは、鉛直方向に交互に積層されている。各硬質材料層4と各軟質材料層5とは、同軸上に配置されており、すなわち、各硬質材料層4と各軟質材料層5とのそれぞれの中心軸線は、免震装置1の中心軸線O上に位置している。積層構造体3の上下両端には、軟質材料層5が配置されていると、好適である。
【0015】
硬質材料層4は、硬質材料から構成されている。硬質材料層4を構成する硬質材料としては、金属が好適であり、鋼がより好適である。
各硬質材料層4の厚さは、
図1の例のように、互いに同じであると好適であるが、互いに異なっていてもよい。
各硬質材料層4の幅は、
図1の例のように、互いに同じであると好適であるが、互いに異なっていてもよい。
【0016】
軟質材料層5は、硬質材料層4よりも柔らかい、軟質材料から構成されている。軟質材料層5を構成する軟質材料としては、弾性体が好適であり、ゴムがより好適である。軟質材料層5を構成し得るゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴム(高減衰ゴム等)が好適である。
各軟質材料層5の厚さは、
図1の例のように、互いに同じであると好適であるが、互いに異なっていてもよい。
各軟質材料層5の幅は、
図1の例のように、互いに同じであると好適である。この場合、各軟質材料層5の幅は、
図1の例のように、各硬質材料層4の幅と同じであると好適である。ただし、各軟質材料層5の幅は、互いに異なっていてもよい。
【0017】
被覆層6は、硬質材料層4及び軟質材料層5の外周側の表面を覆っている。被覆層6を構成する材料は、弾性体が好適であり、ゴムがより好適である。被覆層6を構成する材料は、軟質材料層5を構成する軟質材料と同じでもよいし、軟質材料層5を構成する軟質材料とは異なっていてもよい。
被覆層6は、軟質材料層5と一体に構成されている。
図1の例において、被覆層6は、硬質材料層4及び軟質材料層5の外周側の表面の全体を覆っていており、ひいては、積層構造体3の外周側の表面の全体を構成している。ただし、被覆層6は、硬質材料層4及び軟質材料層5の外周側の表面の一部のみを覆っていてもよく、ひいては、積層構造体3の外周側の表面の一部のみを構成していてもよい。
また、積層構造体3は、被覆層6を有していなくてもよい。
【0018】
硬質材料層4、軟質材料層5、及び被覆層6(ひいては、積層構造体3)は、それぞれ、軸直方向の断面において、多角形状(四角形等)、円形等の任意の外縁形状を有してよい。硬質材料層4、軟質材料層5、及び被覆層6(ひいては、積層構造体3)は、それぞれ、軸直方向断面において多角形状をなす場合、当該多角形状の各角部は、角張っていてもよいし、あるいは、C面取り等されることによって湾曲していてもよい。
【0019】
積層構造体3の幅は、
図1の例のように、軸線方向に沿って一定であると好適であるが、軸線方向に沿って変化してもよい。
【0020】
本明細書において、積層構造体3、硬質材料層4、軟質材料層5、連結鋼板7、フランジ8等の部材の「幅」とは、軸直方向の断面において、当該部材の外縁形状の重心を通る直線と、当該外縁形状と、の2つの交点どうしの間の距離が最小となる方向における、当該2つの交点どうしの間の距離を指しており、例えば、軸直方向の断面において当該部材の外縁が円形をなす場合は、当該円形の直径に相当し、軸直方向の断面において当該部材の外縁が正方形をなす場合は、当該正方形における1辺の長さに相当する。
【0021】
積層構造体3は、
図1の例においては、各硬質材料層4と各軟質材料層5とが中実に構成されているが、これに限られない。例えば、積層構造体3は、各硬質材料層4と各軟質材料層5とが環状に構成されており、各硬質材料層4の中心穴と各軟質材料層5の中心穴とによって、積層構造体3は、その中心軸線O上に、軸線方向に延在する中心穴を有していてもよい。この場合、当該中心穴に、柱状体が配置されていてもよい。柱状体は、塑性変形により振動エネルギーを吸収できるように構成されていると好適である。柱状体は、例えば、鉛、錫、錫合金、又は熱可塑性樹脂から構成されることができる。
【0022】
積層構造体3は、一対のフランジ8どうしの間に配置されている。
一対のフランジ8のうち、上側のフランジ8は、その上に構造物(例えば、ビル、マンション、戸建て住宅、倉庫等の建物、並びに、橋梁等)の上部構造(建物本体等。より具体的に、例えば、建物本体の柱。)が載せられた状態で、当該上部構造に締結等により連結されるように、構成されている。一対のフランジ8のうち、下側のフランジ8は、構造物の下部構造(基礎等)に締結等により連結されるように構成されている。
フランジ8は、金属から構成されると好適であり、鋼から構成されるとより好適である。
フランジ8は、軸直方向の断面において、多角形状(四角形等)、円形等、任意の外縁形状を有していてよい。
【0023】
一対の連結鋼板7は、積層構造体3と一対のフランジ8との間に配置されている。
一対の連結鋼板7は、それぞれ積層構造体3の上面及び下面と、例えば接着(加硫接着、及び/又は、接着剤による接着等)等により、連結されている。また、一対の連結鋼板7は、一対のフランジ8と、締結部材fを介した締結等により、連結されている。
連結鋼板7は、硬質材料から構成されている。連結鋼板7を構成する硬質材料としては、金属が好適であり、鋼がより好適である。
【0024】
ただし、免震装置1は、一対の連結鋼板7を備えていなくてもよい。この場合、一対のフランジ8は、それぞれ積層構造体3の上面及び下面と、例えば接着(加硫接着、及び/又は、接着剤による接着等)等により、連結されていると、好適である。
【0025】
本実施形態の免震装置1は、長期許容面圧が18MPa以上25MPa以下であると、好適である。
ここで、「長期許容面圧」とは、「平成12 年建設省告示第2009号」の6に規定される「長期に生ずる力に対する許容応力度」の「Fc/3」に相当する。
【0026】
また、本実施形態の免震装置1は、以下の式(1)を満たす。
【数3】
ここで、上記式(1)において、
【数4】
であり、上記式(2)において、
S
1:軟質材料層5の拘束面積と軟質材料層5の1層当たりの自由面積との比(すなわち、S
1=(軟質材料層5の拘束面積)/(軟質材料層5の1層当たりの自由面積))
S
2:軟質材料層5の幅と全ての軟質材料層5の総厚さとの比(すなわち、S
2=(軟質材料層5の幅)/(全ての軟質材料層5の総厚さ))
S
3:硬質材料層4の1層当たりの厚さと軟質材料層5の幅との比を1000倍した値(すなわち、S
3=(硬質材料層4の1層当たりの厚さ)×1000/(軟質材料層5の幅))
σ:短期許容面圧(MPa)
である。
上記S
1は、一般的に、一次形状係数と呼ばれる。上記S
1に関し、「軟質材料層5の拘束面積」とは、軸直方向の断面における軟質材料層5の面積に相当する。
上記S
1に関し、「軟質材料層5の1層当たりの自由面積」とは、1層の軟質材料層5の外周面の面積に相当する。
上記S
2は、一般的に、二次形状係数と呼ばれる。
また、「短期許容面圧(σ)」とは、「平成12 年建設省告示第2009号」の6に規定される「短期に生ずる力に対する許容応力度」の「2Fc/3」に相当する。短期許容面圧σは、例えば、長期許容面圧の約2倍(通常は、2倍)である。地震等発生時では、最大、短期許容面圧に相当する面圧が免震装置に掛かることが想定され得る。
式(2)において、「Max(25, -7.5S
3+62.5)」とは、「25」と「-7.5S
3+62.5」とのうち、より大きいほうの値を意味する。
なお、各軟質材料層5の幅及び/又は厚さが互いに同じではない場合、上記「軟質材料層5の拘束面積」、「軟質材料層5の1層当たりの自由面積」、「軟質材料層5の幅」は、それぞれ、最も幅が小さい軟質材料層5のうち、最も厚さが小さい軟質材料層5の値を用いるものとする。
また、各硬質材料層4の厚さが互いに同じではない場合、上記「硬質材料層4の1層当たりの厚さ」は、最も厚さが小さい硬質材料層4の値を用いるものとする。
【0027】
上記式(1)において、左辺(X(1-eY))は、座屈歪みを表しており、すなわち、免震装置1の水平方向変形時において免震装置1に座屈が生じたときにおける免震装置1のせん断歪みを表している。一般的に、座屈歪みは、免震装置の構造によって調整できるものである。
上記式(1)において、右辺(4)は、破断歪みを表しており、すなわち、免震装置1の水平方向変形時において免震装置1に破断が生じたときにおける免震装置1のせん断歪みを表している。一般的に、破断限界歪みは400%として規定される。よって、破断歪みはせん断歪み400%に相当する。上記式(1)の右辺の数値「4」は、せん断歪み400%を表している。一般的に、せん断歪みは、免震装置の構造によって調整することはできないものである。
なお、上記式(1)は、特に長期許容面圧が18MPa以上25MPa以下であるような免震装置を対象として設計された式である。なお、上記式(1)は、本発明の発明者が、後に説明する比較例及び実施例のFEM解析の結果に基づいて新たに見出した経験式である。具体的には、式(1)は、S2は座屈に対し線形的に寄与し、S1とS3は座屈に対して指数関数的に寄与する、というFEM解析から導かれた経験式である。
【0028】
上記式(1)を満たす免震装置1を得るためには、硬質材料層4や軟質材料層5の寸法や層数、軟質材料層5のせん断弾性率等を調整すればよい。軸直方向の断面における積層構造体3の形状は、上記式(1)を満たすか否かにさほど影響を与えない。
【0029】
上記式(1)は、免震装置1に例えば18MPa以上25MPa以下の長期許容面圧の約2倍である短期許容面圧σに相当する高面圧が掛かっているときに、免震装置1の水平方向変形中において、座屈よりも先に破断が生じることを表しており、言い換えれば、破断歪み(せん断歪み400%)に至るまでは座屈が生じないことを表している。
一般的に、免震装置に高面圧が掛かっていると、免震装置は、水平方向変形中において、座屈しやすくなる。従来の免震装置では、上記式(1)を満たすものではなく、例えば18MPa以上25MPa以下の長期許容面圧の約2倍である短期許容面圧σに相当する高面圧が掛かっているときに、免震装置の水平方向変形中において、破断する前に座屈が生じるおそれがあった。
一方、上記式(1)を満たす本実施形態の免震装置1であれば、例えば18MPa以上25MPa以下の長期許容面圧の約2倍である短期許容面圧σに相当する高面圧が免震装置に掛かっているときに、免震装置1の水平方向変形中において、座屈よりも先に破断が生じるようにされているため、より長いせん断歪み領域にわたって座屈の発生を抑制でき、ひいては、安定性を向上できる。よって、地震発生時に高面圧下で大きな水平方向変形が生じても、座屈せずに耐えることができ、言い換えれば、高面圧化が可能である。
なお、一般的に、免震装置が柱に設けられる場合、免震装置の面圧は、柱の軸力を免震装置の軟質材料層の断面積で割った値に相当する。近年、柱の軸力が高まっており、そのような高い軸力を支えられるような免震装置への要求がある。そのような要求に応えるための方法としては、免震装置の面圧を高めるか、又は、免震装置の積層構造体の幅を大きくする、の2通りの方法が考えられる。しかし、免震装置の製造に用いられる機械(例えば、加硫機)の大きさには限界があるため、実際上、免震装置の積層構造体の幅を大きくすることにも限界がある。一方、本実施形態によれば、免震装置1の面圧を高めることができるため、免震装置1を大型化する必要無しに、より高い軸力を支えることができる。
また、本実施形態によれば、免震装置1の面圧を高めることができるため、構造物の長周期化が可能となり(言い換えれば、構造物がよりゆっくりと揺れるようになり)、ひいては、免震装置1の免震性能を向上できる。構造物の周期Tは、以下の式(3)で表されるところ、式(3)におけるm(質量)は面圧に比例するため、免震装置1の面圧を高くすれば周期Tを長くすることができるのである。
【数5】
【0030】
なお、高面圧化等の観点から、破断歪みが400%超の場合を想定して、免震装置1は、以下の式(4)を満たすと好適であり、以下の式(5)を満たすとさらに好適である。
【数6】
【数7】
【0031】
なお、免震装置1の長期許容面圧は、18MPa超であると好適であり、20MPa以上であるよりと好適であり、例えば20MPaであると好適である。
免震装置1の短期許容面圧σは、36MPa以上であると好適であり、36MPa超であるとより好適であり、40MPa以上であるとより好適である。また、免震装置1の短期許容面圧σは、50MPa以下であると好適である。免震装置1の短期許容面圧σは、例えば40MPaであると好適である。
【0032】
軟質材料層5のせん断弾性率は、0.350MPa以上であると、好適である。この場合、式(1)を満たす免震装置1が得られやすい。また、これにより、免震装置1が座屈しにくくなる。
同様の観点から、軟質材料層5のせん断弾性率は、0.390MPa以上であるとより好適であり、例えば、0.392MPa以上、特に、0.392MPaであると好適である。
軟質材料層5のせん断弾性率は、例えば、0.6MPa以下であると好適である。
なお、本明細書において、軟質材料層5の「せん断弾性率」は、JIS K 6254:2016に準拠して測定される静的せん断弾性率を指す。
なお、軟質材料層5のせん断弾性率が高くなるほど、座屈歪みが大きくなる。
【0033】
積層構造体3(ひいては硬質材料層4及び軟質材料層5)の幅は、1800mm以下であると好適である。この場合、免震装置1の製造がしやすくなる。
【0034】
全ての軟質材料層5の総厚さは、160mm以上であると、好適である。この場合、長周期化が可能であり、また、大きな限界変形を確保できる。
同様の観点から、全ての軟質材料層5の総厚さは、200mm以上であるとより好適であり、250mm以上であるとさらに好適である。
【実施例0035】
本発明の免震装置の比較例1~10(比較例4-2を含む。)及び実施例1~10(実施例4-2を含む。)について、FEM解析を行ったので、以下に説明する。
各比較例及び各実施例について、
図2に概略的に示すような免震装置モデル1’を用いて、解析を行った。各比較例及び各実施例の免震装置モデル1’は、一対の連結鋼板7’と、一対の連結鋼板7’どうしの間に連結された積層構造体3’と、からなるものであり、フランジは備えていない。積層構造体3’は、硬質材料層4’と軟質材料層5’とが軸線方向に沿って交互に積層されてなるものであり、被覆層は有していない。連結鋼板7’は、軸直方向の断面において正方形をなしており、その4隅の角部は角張っている。積層構造体3’は、軸直方向の断面において正方形をなしており、その4隅の角部は、C面取りにより湾曲している。積層構造体3’の幅は、軸線方向に沿って一定である。その他、各比較例及び各実施例の諸元は、以下の表1~表3に示すとおりである。表1~表3に示すように、各比較例は上記式(1)を満たさないのに対し、各実施例は上記式(1)を満たす。
比較例4-2、実施例4-2は、軟質材料層のせん断弾性率のみが、それぞれ比較例4、実施例4とは異なる。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
比較例4-2を除く各比較例及び実施例4-2を除く各実施例について、それぞれ、免震装置モデル1’を、20MPa、40MPaのそれぞれの面圧下で、せん断歪みが400%となるまで、又は、座屈するまで、0°方向、45°方向のそれぞれの方向に載荷して、水平方向変形を生じさせた。比較例4-2、実施例4-2については、40MPaの面圧下で、せん断歪みが400%となるまで、又は、座屈するまで、45°方向の方向に載荷して、水平方向変形を生じさせた。それにより得られた各比較例及び各実施例のせん断応力-せん断歪み曲線を、
図3~
図8に示す。せん断応力-せん断歪み曲線において正勾配から負勾配に転じた箇所は、座屈が生じたタイミングを表している。
なお、
図2に示すように、「0°方向」とは、積層構造体3’の1辺に平行な方向であり、「45°方向」とは、積層構造体3’の対角線に平行な方向である。
【0040】
図3~
図8からわかるように、比較例4-2を除く比較例1~10は、40MPaという高面圧下で、0°方向の水平方向変形でも45°方向の水平方向変形でも、せん断歪み400%に至る手前で座屈が生じた。また、比較例4-2は、40MPaという高面圧下で、45°方向の水平方向変形にて、せん断歪み400%に至る手前で座屈が生じた。一方、実施例4-2を除く実施例1~10は、40MPaという高面圧下で、0°方向の水平方向変形でも45°方向の水平方向変形でも、せん断歪み400%に至るまで座屈が生じなかった。また、実施例4-2は、40MPaという高面圧下で、45°方向の水平方向変形にて、せん断歪み400%に至るまで座屈が生じなかった。したがって、実施例1~10(実施例4-2を含む。)は、比較例1~10(比較例4-2を含む。)に比べて、より効果的に高面圧に耐えることができ、ひいては、高面圧化されていることがわかる。
本発明の免震装置は、地震の揺れが構造物(例えば、ビル、マンション、戸建て住宅、倉庫等の建物、並びに、橋梁等)に伝わるのを抑制するために、構造物の上部構造と下部構造との間に配置されると、好適なものである。本発明の免震装置は、例えば、構造物の柱を支えるように、柱に設けられると好適であり、例えば、柱毎に1個又は複数個ずつ設けられると好適である。