(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181824
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】レール状態監視装置およびレール状態監視方法
(51)【国際特許分類】
B61L 23/04 20060101AFI20231218BHJP
B61K 9/08 20060101ALI20231218BHJP
G01N 27/83 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
B61L23/04
B61K9/08
G01N27/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095175
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川畑 龍三
(72)【発明者】
【氏名】緒方 邦臣
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB22
2G053BA03
2G053BA13
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053CB24
2G053CB29
2G053DA01
2G053DA09
2G053DA10
2G053DB03
(57)【要約】
【課題】レール破断とレール継目を弁別する。
【解決手段】レール状態監視装置は、線路を構成する左右の鉄道レール上を走行する列車に設けられた複数の検出装置と、処理装置とを備える。列車は、一つまたは複数の車両の編成である。複数の検出装置の各々について、当該検出装置は、鉄道レールに対向した一つ以上の磁気センサ部である磁気センサ部群を有し、磁気センサ部は、当該磁気センサ部が鉄道レールにおける特異箇所上を通過するときに当該特異箇所を検出し、当該検出装置は、磁気センサ部群による検出の結果に基づく信号を出力する。複数の検出装置は、列車に左右対称に設けられた検出装置、および/または、列車に前後に設けられた検出装置を含む。処理装置は、複数の検出装置からそれぞれ出力された信号を受信し、複数の検出装置からの信号に基づく検知信号を基に、特異箇所がレール継目箇所であるかレール破断箇所であるかを弁別する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線路を構成する左右の鉄道レール上を走行する列車に設けられた複数の検出装置と、
処理装置と
を備え、
前記列車は、一つまたは複数の車両の編成であり、
前記複数の検出装置の各々について、
当該検出装置は、鉄道レールに対向した一つ以上の磁気センサ部である磁気センサ部群を有し、
磁気センサ部は、当該磁気センサ部が前記鉄道レールにおける特異箇所上を通過するときに当該特異箇所を検出し、
当該検出装置は、前記磁気センサ部群による検出の結果に基づく信号を出力し、
前記複数の検出装置は、前記列車に左右対称に設けられた検出装置、および/または、前記列車に前後に設けられた検出装置を含み、
前記処理装置は、
前記複数の検出装置からそれぞれ出力された信号を受信し、
前記複数の検出装置からの信号に基づく検知信号を基に、前記特異箇所がレール継目箇所であるかレール破断箇所であるかを弁別する、
レール状態監視装置。
【請求項2】
前記処理装置は、
前記列車に左右対称に設けられた検出装置の両方についての検出信号が特異箇所を表している場合、当該特異箇所がレール継目箇所であると判定し、
前記列車に左右対称に設けられた検出装置の片方についての検出信号が特異箇所を表している場合、当該特異箇所がレール破断箇所であると判定する、
請求項1に記載のレール状態監視装置。
【請求項3】
前記処理装置は、
前記列車に前後に設けられた検出装置の両方についての検出信号が特異箇所を表している場合、当該特異箇所がレール継目箇所であると判定し、
前記列車に前後に設けられた検出装置の片方についての検出信号が特異箇所を表している場合、当該特異箇所がレール破断箇所であると判定する、
請求項1に記載のレール状態監視装置。
【請求項4】
前記列車に前後に設けられた検出装置は、先頭車両に設けられた検出装置と、最後尾車両に設けられた検出装置とを含む、
請求項3に記載のレール状態監視装置。
【請求項5】
前記処理装置は、特異箇所としてのレール継目箇所と、特異箇所としてのレール破断箇所とのうち少なくとも一方を表す表示オブジェクトの表示用情報を出力する、
請求項1に記載のレール状態監視装置。
【請求項6】
前記表示用情報は、表示オブジェクトが表す特異箇所の位置の表示オブジェクトを表す情報を含む、
請求項5に記載のレール状態監視装置。
【請求項7】
前記処理装置は、レール破断箇所が判定された場合、当該レール破断箇所がいずれのレールに存在するかを特定する、
請求項1に記載のレール状態監視装置。
【請求項8】
特異箇所の弁別により、レール継目箇所が判定された場合、前記処理装置は、レール継目箇所の既知の位置を基に、前記列車の位置を推定する、
請求項1に記載のレール状態監視装置。
【請求項9】
前記処理装置は、
検出された特異箇所が等間隔の特異箇所の場合、それらの特異箇所はいずれもレール継目箇所であると判定し、
検出された特異箇所が等間隔でない特異箇所を含む場合、検出された特異箇所のうち等間隔の特異箇所以外の特異箇所がレール破断箇所であると判定する、
請求項1に記載のレール状態監視装置。
【請求項10】
前記検出装置は、前記鉄道レールの踏み面を交流磁界で励磁し、前記鉄道レールに発生する磁束の流れの乱れに基づいて、前記鉄道レールの特異箇所を検出する装置であり、
前記一つ以上の磁気センサ部の各々は、受信コイルと、当該受信コイルを挟む二つの発信コイルとを含み、
前記処理装置は、
前記検知信号の極値間の距離と前記発振コイル間の距離との関係が所定の関係である場合、検出された特異箇所がレール継目箇所であると判定し、
前記検知信号の極値間の距離と前記発振コイル間の距離との関係が前記所定の関係でない場合、検出された特異箇所がレール破断箇所であると判定する、
請求項1に記載のレール状態監視装置。
【請求項11】
線路を構成する左右の鉄道レール上を走行する列車に設けられた複数の検出装置から出力された信号を受信し、
前記列車は、一つまたは複数の車両の編成であり、
前記複数の検出装置の各々について、
当該検出装置は、鉄道レールに対向した一つ以上の磁気センサ部である磁気センサ部群を有し、
磁気センサ部は、当該磁気センサ部が前記鉄道レールにおける特異箇所上を通過するときに当該特異箇所を検出し、
当該検出装置は、前記磁気センサ部群による検出の結果に基づく信号を出力し、
前記複数の検出装置は、前記列車に左右対称に設けられた検出装置、および/または、前記列車に前後に設けられた検出装置を含み、
前記複数の検出装置からの信号に基づく検知信号を基に、前記特異箇所がレール継目箇所であるかレール破断箇所であるかを弁別する、
レール状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、レール状態監視に関する。
【背景技術】
【0002】
検測レールの表面傷や横裂傷を検出する磁気誘導式レール探傷装置が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
線路内には、レールとレールの継目が存在する。また、レールの傷(特に横裂傷)または他の原因で、レールに破断が生じることがある。レール継目やレール破断がある箇所では、少なくともレール表面の少なくとも一部がレール長手方向に分離した状態である。
【0005】
特許文献1に記載されている磁気誘導式レール探傷装置は、検測レールの表面傷や横裂傷を検出できるものの、レール破断とレール継目とを弁別することはできない。
【0006】
本発明の目的は、レール破断とレール継目を弁別することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、代表的な本発明のレール状態監視装置の一つは、線路を構成する左右の鉄道レール上を走行する列車に設けられた複数の検出装置と、処理装置とを備える。列車は、一つまたは複数の車両の編成である。複数の検出装置の各々について、当該検出装置は、鉄道レールに対向した一つ以上の磁気センサ部である磁気センサ部群を有し、磁気センサ部は、当該磁気センサ部が鉄道レールにおける特異箇所上を通過するときに当該特異箇所を検出し、当該検出装置は、磁気センサ部群による検出の結果に基づく信号を出力する。複数の検出装置は、列車に左右対称に設けられた検出装置、および/または、列車に前後に設けられた検出装置を含む。処理装置は、複数の検出装置からそれぞれ出力された信号を受信し、複数の検出装置からの信号に基づく検知信号を基に、特異箇所がレール継目箇所であるかレール破断箇所であるかを弁別する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レール破断とレール継目を弁別できる。
【0009】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態によるレール状態監視装置の模式図である。
【
図2】第1実施形態における検出装置の斜視図である。
【
図3】第1実施形態における検出装置の底面図である。
【
図4】第1実施形態における検出装置の一部切欠平面図である。
【
図5】第1実施形態の動作状態を示す模式図である。
【
図6】第1実施形態の他の動作状態を示す模式図である。
【
図8】第1実施形態によるレール状態監視装置のブロック図である。
【
図9】発振コイルに供給される励磁電流の周波数特性図である。
【
図11】レール状態監視処理のフローチャートである。
【
図12】表示部に表示される表示画像の例を示す図である。
【
図13】第2実施形態によるレール状態監視装置のブロック図である。
【
図14】第3実施形態によるレール状態監視装置のブロック図である。
【
図15】継目箇所とレール破断箇所の一例を示す模式図である。
【
図16】継目箇所に関する検知信号(時系列波形)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、幾つかの実施形態を、図面を用いて説明する。
[第1実施形態]
<第1実施形態の外部構成>
【0012】
図1は、本発明の第1実施形態のレール状態監視装置の模式図である。
【0013】
図1において、レール状態監視装置1は、検出装置2と、処理装置3と、接続ケーブル64と、電源111と、を備えている。レール状態監視装置1は、列車における一台以上の車両200(鉄道車両)の各々に搭載される。検出装置2は鉄道レール100の踏み面100aに対向する位置に設置され、処理装置3と電源111とは車両200の車内に設置される。電源111は、検出装置2と処理装置3とに対して、駆動電流を供給し、検出装置2と処理装置3とを動作させる。
【0014】
車両200は、検査対象となる鉄道レール100(以下、レール100)上を走行する。すなわち、車両200の車輪112は、踏み面100aに接触しつつ回転する。その際、検出装置2は、レール100の状態を検出し、検出結果となる信号は接続ケーブル64を介して処理装置3に送られる。そして、処理装置3において信号収集、信号解析および表示等の処理が実行され、レール100の状態に係るモニタリングを行うことができる。なお、電源111は、車内に備わった交流100Vで駆動させる安定化電源回路であってもよく、バッテリーが内蔵された無停電電源装置であってもよい。なお、レール100の枕木500等に「地上子」と呼ばれる物が埋設されていてよく、車両200には「車上子」と呼ばれる物が設置されていてもよい。
【0015】
図2は、検出装置2の斜視図である。なお、以下の説明では、親符号と枝符号とで構成された符号が付されている同種の要素の説明では、いずれの要素でもよい場合には枝符号を除いて説明し、要素を区別する場合には親符号と枝符号で構成された符号を使用する。
【0016】
図2において検出装置2は、相互に固定された下部筐体20(第1の筐体の一例)と、上部筐体26(第2の筐体の一例)と、フランジ25と、を備えている。下部筐体20および上部筐体26は略直方体状に形成され、下部筐体20の上面と上部筐体26の下面とは結合されている。また、フランジ25は、矩形板状に形成され上部筐体26の上面に固定されている。上部筐体26の一側面には、コネクタ28が装着されている。また、接続ケーブル64の一端にはコネクタ62が装着されている。コネクタ28および62は嵌合可能になっており、両者が嵌合することによって、検出装置2と処理装置3(
図1参照)とが接続ケーブル64を介して双方向に通信可能になる。コネクタ28および62は、気密かつ防水構造を備えており、両者を嵌合した際に、検出装置2および接続ケーブル64の内部に水、油、粉塵等が浸入することを防止する。コネクタ28は貫通式コネクタが好ましいが、貫通式ではないコネクタであってもよい。
【0017】
フランジ25の四隅には貫通孔25aが形成されている。また、車両200(
図1参照)は、検出装置2を配置する箇所において、貫通孔25aに対向する位置にネジ穴(図示せず)を備える。そして貫通孔25aにボルト(図示せず)を挿入し、車両200に形成されたネジ穴に当該ボルトを締め付けると、検出装置2が車両200の所定位置に固定される。下部筐体20は、レール100(
図1参照)の状態を検出するための磁気センサ部群77を内蔵している。磁気センサ部群77は、N個の磁気センサ部の集合である。本実施形態ではNは2以上の整数であるが、Nは1でもよい。また、上部筐体26は、磁気センサ部群77における各磁気センサ部によって検出された信号を増幅するプリアンプ部210を内蔵している。なお、磁気センサ部群77およびプリアンプ部210の詳細については後述する。
【0018】
上述したように、検出装置2は車両200の所定位置に固定されるが、この所定位置とは、レール100の幅方向の中心線(図示せず)と、磁気センサ部群77の幅方向の中心線CL(
図3参照)と、を一致させる位置であることが好ましい。また、中心線CLは、検出装置2の中心に対応させること(検出装置2の幅方向の中心線であること)が好ましい。また、下部筐体20および上部筐体26の内部空間には、絶縁材料かつ非磁性材料である充填材(図示せず)が充填され、樹脂モールド構造を構成している。これにより、磁気センサ部群77およびプリアンプ部210は、下部筐体20および上部筐体26の内部で固定保持され、車両走行による振動や衝撃による磁気センサ部群77およびプリアンプ部210の異常や、位置変動による配置ずれを防止することができる。なお、
図2に示した例において、下部筐体20および上部筐体26は略直方体状であるが、これらの形状は、立方体状、円柱状、角柱状等、他の形状であってもよい。
【0019】
【0020】
図3に示すように、磁気センサ部群77は、下部筐体20の幅方向、すなわちレール100(
図1参照)の幅方向に沿って列をなすように配列されたN個(本実施形態ではNは上述の通り2以上の整数)の磁気センサ部21-1~21-Nを有している。
【0021】
また、磁気センサ部21-k(kは、1~Nのうちの任意の整数)は、発振コイル5A-kと、発振コイル5B-kと、受信コイル6-kと、を有している。これら各コイルは、被覆銅線を巻回して構成されている。
【0022】
発振コイル5A-kと、受信コイル6-kと、発振コイル5B-kとは、レール100(
図1参照)の敷設方向に沿って配置され、受信コイル6-kは、発振コイル5A-kと発振コイル5B-kとの間に等間隔になるように配置されている。発振コイル5A-kおよび5B-kには、処理装置3(
図1参照)から、接続ケーブル64を介して、所定の発振周波数f(所定周波数)の交流電流が供給される。これにより、発振コイル5A-kおよび5B-kから各々交流磁界が発生してレール100を励磁し、励磁した鉄道レールから発生した磁束によって、受信コイル6-kには誘起電圧が発生する。
【0023】
図4は、検出装置2の一部切欠平面図である。すなわち、
図4においては、フランジ25の中央部を切り欠いて、上部筐体26の内部を露出させている。
【0024】
図4において、プリアンプ部210は、増幅フィルタ部群79と、加速度センサ部212と、角速度センサ部214と、温度センサ部216と、これらを実装するプリント基板210aと、を備えている。増幅フィルタ部群79は、上述した磁気センサ部21と同数の(N個の)増幅フィルタ部22-1~22-Nを有している。磁気センサ部21と増幅フィルタ部22は1:1で対応していてよい。
【0025】
増幅フィルタ部22-k(kは、1~Nのうちの任意の整数)は、受信コイル6-kで生じた誘起電圧に対して増幅およびフィルタ処理を行い、接続ケーブル64(
図1参照)を介して、その結果を処理装置3に送信する。処理装置3は、受信した信号に対して解析処理を行い、鉄道レール100から発生した磁気信号を検出する。
【0026】
下部筐体20には、非磁性体の材質が適用されている。これは、下部筐体20は、交流磁界を発生させる発振コイル5A-kおよび5B-kと、鉄道レールから発生した磁束を検出する受信コイル6-kと、を内蔵するためである。特に、検出装置2の設置環境が屋外かつ車両走行下であることを考慮し、下部筐体20の材質には、耐衝撃性および耐環境性に優れた繊維強化樹脂等を採用することが好ましい。
【0027】
一方、プリアンプ部210を内蔵する上部筐体26の材質には、電磁シールドとして機能するアルミニウム等の金属が適用されている。これは、プリアンプ部210から発生する電磁波を遮蔽するとともに、外部からプリアンプ部210に混入する電磁波を抑制するためである。また、上部筐体26と、フランジ25とは、一体構造にすることが好ましい。すなわち、金属ブロックを切削加工することによってフランジ25および上部筐体26を形成することが好ましい。これにより、フランジ25および上部筐体26の強度的なロバスト性を向上させることができ、検出装置2の構成部品数も少なくすることができる。
【0028】
下部筐体20はインサートナット(図示せず)を備えており、上部筐体26とネジ止めされている。さらに、下部筐体20と上部筐体26とは、対候性、耐熱性および耐寒性に優れたシリコーン接着剤で接着されて一体化されている。また、プリント基板210aに加速度センサ部212および角速度センサ部214を搭載することによって、車両200の走行時における検出装置2の動きを捉えることができる。
【0029】
また、プリント基板210aに温度センサ部216を備えることで、基板の温度をモニタできるため、増幅フィルタ部22の発熱による動作状態の変化を常時確認できる。また、プリアンプ部210が上部筐体26内に密閉されているため、温度センサ部216の検出温度は、外気温よりも高くなる。そのため、予め外気温と上部筐体26内の温度との関係を表す情報(例えば、温度センサ部216の検出温度を入力とし外気温を出力とする情報(例えば、テーブルまたは機械学習モデル))を処理装置3に設定しておき、処理装置3が、その情報を用いれば、温度センサ部216の検出温度から車両走行時の外気温を推定できる。
【0030】
検出装置2と処理装置3とを接続する接続ケーブル64は、プリアンプ部210の電源線と、各受信コイル6-1~6-Nからの(増幅フィルタ部群79を介する)出力信号線と、各発振コイル5A-1~5A-Nおよび5B-1~5B-Nへの励磁信号の入力信号線と、加速度センサ部212、角速度センサ部214、温度センサ部216の出力信号線と、を含む。従って、接続ケーブル64には、ツイストペアシールド線等のノイズ耐性に優れた多対シールドケーブルを適用することが好ましい。また、接続ケーブル64内のクロストーク等の対策として、接続ケーブル64を二本のケーブルに分割してもよい。すなわち、一方のケーブルは、プリアンプ部210の電源線と増幅フィルタ部群79からの各受信コイル6-kの出力信号線とを含んだ多対シールドケーブルにするとよい。また、他方のケーブルは、各発振コイル5A-kおよび各発振コイル5B-kへの励磁信号の入力信号線と、加速度センサ部212、角速度センサ部214および温度センサ部216の出力信号線と、を含んだ別の多対シールドケーブルにするとよい。
【0031】
このように、接続ケーブル64は、合計2本の接続ケーブルで構成することが好ましい。接続ケーブル64は車両200の車両下回りを這わせて、車両床下の導入口を介して、処理装置3と接続する。接続ケーブル64は車両走行の妨げにならないように、車両200の下回りに弛みが生じない状態で金属製結束バンド等を用いて強固に固定保持されている。そして、検出装置2から処理装置3への接続ケーブル64の設置は、可能な限りケーブル長を短くでき、車両200から電磁ノイズが発生しやすい位置を回避した経路になるように設計することが好ましい。
<レール破断箇所または継目箇所といった特異箇所の検知の原理>
【0032】
図5は、本実施形態の動作状態を示す模式図である。発振コイル5A-kおよび5B-kは、処理装置3(
図1参照)から電流が供給されると、位相が反転した交流磁界を同じタイミングで発生させる。具体的には、発振コイル5A-kおよび5B-kは被覆銅線の巻き始め同士もしくは巻き終り同士が直列(または並列)に接続されており、処理装置3から交流電圧が印加されると、交流磁界を発生させる。そして、発振コイル5A-kおよび5B-kから発生した磁束ΦAおよびΦBがレール100の踏み面100a(
図1参照)に伝播すると、レール100内に磁束の流れが生じる。ここで、検出装置移動方向となる車両200の走行方向を「x方向」とする。また、受信コイル6-kの磁束検出方向となる方向、すなわちレール100と検出装置2との離隔方向を「y方向」とする。
【0033】
図5は、レール100において、発振コイル5A-k、5B-kおよび受信コイル6-kの近傍でレール状態の変化が無い場合の例を示している。ここで、レール状態の変化が無い事例とは、継目が存在しない場合や、レール破断が無い健全なレールの場合を意味する。受信コイル6-kに鎖交する磁束の成分は、磁束ΦAおよびΦBが逆向きであるために相殺され、磁束ΦAおよびΦBの強度バランスに依存する。従って、レール状態の変化が無い場合には、受信コイル6-kの鎖交磁束はほぼ零になり、受信コイル6の誘起電圧もほぼ零になる。
【0034】
図6は、本実施形態の他の動作状態を示す模式図である。
【0035】
図6は、発振コイル5A-k、5B-kおよび受信コイル6-kの近傍に特異箇所102が存在する場合の例を示す。ここで、特異箇所102とは、通常のレール100とは異なる磁気特性を有する箇所を指す。特異箇所102は、具体的には、「継目箇所」および「レール破断箇所」に大別できる。つまり、特異箇所102は、継目箇所またはレール破断箇所である。
【0036】
図6における「x方向」および「y方向」の意義は、
図5のものと同様である。図示の例においては、発振コイル5A-kと5B-kでレール100内に発生させた磁束の流れが乱れ、レール100の踏み面100aから磁束の漏洩が生じる。そのため、受信コイル6-kが特異箇所102上を通過する際に、受信コイル6-kの誘起電圧変化は、
図5に示したケースでの誘起電圧変化に比べて大きい。
【0037】
本実施形態におけるレール状態監視装置1は、検査対象物である鉄道レール100に発生させた磁束の流れが特異箇所102の付近で変化することに基づき、発生した漏洩磁界を検出する。この漏洩磁界の解析モデルとして、双極子モデルに基づいて空間に発生する漏洩磁界を表現することができる。ここで、一例として、当該モデルにおいて、特異箇所102がレール100の継目箇所である場合を想定してみる。レール100のy方向から発生する漏洩磁界成分には、車両200の走行時に継目箇所の中心位置を変曲点として、x方向に対して極値(極大値と極小値)を有する2極性の磁束変化が現れる。
<継目箇所とレール破断箇所の弁別>
【0038】
上述した例では、特異箇所102がレール100の「継目箇所」である場合について説明したが、特異箇所102がレール100の「レール破断箇所」である場合であっても、同様に検出することができる。その原理を以下説明する。レール100のレール破断箇所は、車両走行に伴ってレール100に発生した金属疲労によるレール同士が分離された状態となっている。そのため、レール破断箇所の上方を検出装置2が通過すると、上述した継目の検出時と同様に、レール100における磁束ΦAおよびΦB(
図6参照)の流れが乱れ、検出装置2によってレール破断箇所の存在を検出できる。
【0039】
継目箇所と、レール破断箇所とは、レール同士が分離した同様の形状状態である。
【0040】
そこで、本実施形態では、検出装置2で検出する磁束の乱れに基づいて、処理装置3が、特異箇所102が継目箇所であるのかレール破断箇所であるのか弁別する。この弁別には、線路内に敷設された左右のレール100が同様の位置(左右対称の位置)に存在するという設置構成が利用される。即ち、処理装置3は、左右のレール100を状態監視できるため、左右のレール100における各検知信号が同時刻(もしく同じ走行地点の位置)で2極性の磁束変化が生じた場合は、レール継目があると判断する。一方、左右片方のレール100からの検知信号に2極性の磁束変化が発生した場合に、処理装置3は、レール破断があると判断する(
図15参照)。
【0041】
継目箇所とレール破断箇所の弁別において、線路内のレール100が規則的に敷設されることで、ある一定の間隔で継目が存在する(
図15参照)。一般的な鉄道レールの定尺は25m間隔である。つまり、レール状態監視装置1で検知した、左右のレール100から同時刻(もしく同じ走行地点の位置)で2極性の磁束変化が一定間隔で連続的に生じる場合は、継目箇所があるとの判断となる。
【0042】
レール状態監視装置1で得た検知信号の時系列データ(検知信号強度の時系列を表すデータ)における計測時間を、車両200の移動距離に変換すると、継目箇所から発生する2極性の磁束変化における極値間の距離は、
図6に示した発振コイル5A-kおよび5B-kの中心間距離と同様の数値となる(
図16の符号1601または符号1602参照)。例えば、発振コイル5A-k、5B-kおよび受信コイル6-kの直径が20mmで、各コイル間が近接した配置である場合、継目箇所から発生する2極性の磁束変化における極値間の距離は40mmとなる。一方、レール破断箇所は継目箇所と異なり、レール同士の分離間隔が均一でないため、極値間の距離が継目箇所に比べて有意な差を持つ。故に、処理装置3は、極値間の距離が、コイルの直径(例えばd)と発振コイル5A-k、5B-kおよび受信コイル6-kの配置とに基づく継目用の極値間距離(例えば2d)と同じであるか(差が所定差以下であることを含む)否かを判定する。この判定結果が真の場合、特異箇所が継目箇所である。この判定結果が偽の場合、特異箇所がレール破断箇所である。このような弁別が可能である。
【0043】
線路内におけるレール100の継目箇所におけるレール同士の分離間隔である遊間量は、温度によるレール伸縮を考慮し、季節に応じて大きさを変える調整がなされることがあるが、基本的には各継目箇所ともに同様の遊間量である。一方、レール破断箇所は継目箇所のように人工的なレール同士の分離とはならず、金属疲労によって自然に発生したものであるため、レール同士の分離端面が一様にならず、存在箇所ごとにレール破断箇所の状態が同様にならない。すなわち、レール破断については、レール同士の分離が斜めになることや、分離が一部になっているなどの継目箇所のような均一な一様のレール同士の分離にならない場合が存在する。
【0044】
磁気センサ部21-1~21-Nで検知する信号は、継目箇所では磁気センサの配置箇所によらず、同程度の応答を示す。例えば、2極性の磁束変化となる検知信号における極値間信号強度(ピークピーク値)、および極値間距離が各磁気センサ部21で同様の値となる。一方、レール破断箇所では、上記のレール同士の不均一な分離状態によって、極値間信号強度(ピークピーク値)、および極値間距離が各磁気センサで同様の値とならず、バラツキが発生する。即ち、各磁気センサ部21で得た検知信号の偏りをモニタすることで、継目箇所とレール破断箇所の弁別を行うことができる。
【0045】
車両走行した際に発生するレール破断のリスクを考慮し、車両200の先頭側と最後尾側の位置にレール状態監視装置1を搭載する。
図7に示すように、複数の車両200で列車が編成されている場合、例えば先頭車両200aに検出装置2aが搭載され、最後尾車両200bに検出装置2bが搭載される(例えば、車両200aおよび200bの各々にレール状態監視装置1が設置される)。この設置構成より、車両走行した際に発生したレール破断を先頭車両200aと最後尾車両200bの検知差分から識別できる。即ち、継目箇所においては、先頭車両200aと最後尾車両200bで同様の検知信号が得られる。一方、先頭車両200aでは検知信号が得られなかったが最後尾車両200bで検知信号が得られると、車両走行した際に発生したレール破断があると推定することができる。
<第1実施形態の回路構成>
【0046】
図8は、本実施形態によるレール状態監視装置1の全体構成を示すブロック図である。
【0047】
上述したように、レール状態監視装置1は、検出装置2と、処理装置3と、電源111と、を有する。そして、検出装置2は、磁気センサ部21-1~21-Nと、プリアンプ部210と、を有し、磁気センサ部21-kは、発振コイル5A-kおよび5B-kと、受信コイル6-kと、を有する。プリアンプ部210は、増幅フィルタ部22-1~22-Nと、加速度センサ部212と、角速度センサ部214と、温度センサ部216と、を有し、磁気センサ部21-kには、増幅フィルタ部22-kが接続されている。
【0048】
また、処理装置3は、共振フィルタ部60-1~60-Nと、増幅部31-1~31-Nと、N系統のデジタルアナログ変換部32と、発振部33と、検波部34-1~34-Nと、アナログデジタル変換部35と、メモリ部36と、評価装置4と、を備えている(本実施形態では、Nは、2以上の整数であるが、1でもよい)。なお、検波部34-1~34-Nを総称して「検波部群」と呼ぶことがあり、共振フィルタ部60-1~60-Nを総称して「共振フィルタ部」と呼ぶことがある。発振部33は、所定の発振周波数fの正弦波状のデジタル発振信号を出力する。発振周波数fは、発振コイル5A-1~5A-Nおよび5B-1~5B-Nのインピーダンスを考慮して、十分な励磁磁場を出力でき、かつ、受信コイル6の十分な感度を確保できる値に選定する。また、発振周波数fの選定の際には、車両および鉄道線路の設備への影響を十分に考慮することが好ましい。具体的には、車両の安全運行を支える運転保安装置や、信号機制御のために鉄道レールに信号通電する軌道回路の動作に影響を及ぼさないように、選定周波数範囲としては、10kHz~100kHzの範囲から選定することが好ましい。
【0049】
図8においてデジタルアナログ変換部32は、発振部33が出力したデジタル発振信号をアナログの交流電圧に変換する。増幅部31-k(kは、1~Nのうちの任意の整数)は、この交流電圧を増幅し、共振フィルタ部60-kを介して、磁気センサ部21-kにおける発振コイル5A-k、5B-kに印加する。これにより、発振コイル5A-kおよび5B-kからは、位相が反転した交流磁界が発生する。車両200に搭載される検出装置2は、車両走行の妨げにならないように、鉄道レールの踏み面100a(
図1参照)と離隔を持つため、鉄道レールを十分に励磁するために十分な強度の発振コイルからの交流磁界が必要である。共振フィルタ部60-kは、接続された磁気センサ部21-kの発振コイル5A-kおよび5B-kに合わせて設定した発振周波数f(または、その近傍の周波数)における発振コイルのインダクタンス成分を抑制してインピーダンスを小さくし、発振コイルからの交流磁界の強度を増加させる。
【0050】
図9は、発振コイル5A-kおよび5B-kに供給される励磁電流の周波数特性図である。
【0051】
図9において、特性L1は、本実施形態の特性であり、特性L2は、共振フィルタ部60-kを除外した場合の特性である。また、特性L1は、共振周波数fcを21[kHz]とした場合の例である。特性L1およびL2を比較すると、特性L1は、共振周波数fcにおいて、励磁電流を特性L2の6倍以上に設定することができ、これによって交流磁界の強度を増加できることが解る。また、使用する発振コイル5の特性(直流抵抗値、インダクタンス)と共振フィルタ部60の組合せを最適にすることで、共振周波数fcにおける特性L1の励磁電流を、特性L2の励磁電流よりも10倍以上大きくすることも可能である。この共振周波数fcは、発振部33(
図8参照)における発振周波数fに一致させることが好ましい。なお、共振フィルタ部60-kは、コイルとコンデンサを備えたLC共振回路であり、ここに接続する発振コイル5を回路構成用のコイルとして利用してもよい。
【0052】
図8に戻り、検出装置2内の増幅フィルタ部22-kは、対応する受信コイル6-kからの信号を増幅およびフィルタ処理し、その結果を処理装置3の検波部34-kに送信する。なお、「フィルタ処理」とは、主として発振周波数fよりも高いの周波数成分を除去する低域通過フィルタ処理もしくは、発振周波数fを中心とする特定の周波数範囲のみを通す帯域通過フィルタ処理である。また、検波部34-kは、発振部33から供給される参照信号SR1を用いて、増幅フィルタ部22-kから供給された信号に基づいて、信号X、Y、Rおよびθ(これら信号の詳細は後述する)を生成し、アナログデジタル変換部35に供給する。アナログデジタル変換部35は、検波部34-1~34-Nから受信した各アナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0053】
ところで、本実施形態では、車両200には、レール状態監視装置1以外の検測装置300も搭載されている。そして、検測装置300は、レール状態監視装置1に対して、位置信号SDと、距離パルス信号SPとを供給する。そこで、これらの信号について詳述する。
【0054】
一般的に鉄道システムには、位置検出システムが設けられている。このシステムにおいては、レール100の枕木等に「地上子」と呼ばれる物を埋設し、車両200には「車上子」と呼ばれる物を設置する。そして、車上子が地上子の上を通過すると、車上子はその地上子を検出する。地上子の設置位置は既知であるため、車上子が地上子を検出すると、その時点における車両200の絶対位置が判明する。上述した位置信号SDは、この位置情報等を検測装置300からレール状態監視装置1に通知する信号である。
【0055】
しかし、位置検出システムの地上子は、例えば数km程度の間隔で設置されることが多い。従って、位置検出システムのみでは、地上子相互間の区間における車両200の位置情報を取得することは不可能である。そこで、地上子の位置情報に、処理装置3が、レール状態監視装置1で検知した継目箇所の位置情報を紐づけることで、継目箇所の通過時に取得した検知データから車両200の絶対位置情報を算出する。その際、車両走行開始時にレール状態監視装置1で最初に検知した継目箇所の位置を起点として、その後の車両の運行位置推定を行う。また、検測装置300は、車両200の車輪112(
図1参照)の回転角度を検出しており、車輪112が所定角度だけ回転する毎に、ワンショットの距離パルス信号SPを出力する。そこで、アナログデジタル変換部35は、位置信号SDおよび距離パルス信号SPをデジタル信号に変換し、メモリ部36に記憶させる。アナログデジタル変換部35から出力されたデジタル信号は、データとしてメモリ部36に記憶され、評価装置4に供給される。そして、レール状態監視装置1は、検測装置300がある地上子に係る位置信号SDを出力した後、距離パルス信号SPをカウントすることにより、その地上子の位置を基準として、車両200の現在位置を推定することができる。距離パルス信号で得た距離情報と合わせて、レール状態監視装置1で検知した各継目箇所間の車両走行速度から、高精度に走行時の車両運行位置の推定が可能となる。
【0056】
次に、評価装置4について説明する。評価装置4は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等、一般的なコンピュータとしてのハードウエアを備えており、HDDには、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、各種データ等が格納されている。OSおよびアプリケーションプログラムは、RAMに展開され、CPUによって実行される。
【0057】
評価装置4は、制御部42と、データ処理部43と、出力処理部44と、操作入力部45と、表示部46と、記憶部47と、を備える。評価装置4は、検出装置2、検波部34-1~34-N、アナログデジタル変換部35およびメモリ部36から受信したレール状態監視データに基づいて、レール100の特異箇所102(
図6参照)を特定する検査処理プログラムを実行する。なお、本実施形態において、「レール状態監視データ」とは、検出装置2の受信コイル6から評価装置4に至るまでの全ての段階でのデータが該当するものとする。
【0058】
制御部42は、例えばCPU(プロセッサの一例)であり、メモリ部36からの検査データの読出しや、演算処理等の制御を行う。データ処理部43は、検査データに基づいて、検査処理を行う(詳細は後述する)。表示部46は、検査結果等を表示するLCD(Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ等である。出力処理部44は、表示部46にレール状態監視の結果等を表示させる。その際、出力処理部44は、グラフやテーブルの形式を適宜用いて視覚的に理解しやすい表示形式で表示させるための処理を行う。操作入力部45は、キーボード、マウス等の情報入力手段である。記憶部47は、データ処理部43が処理した検査結果等のデータを保存する。また、メモリ部36に記憶されたデータは、記憶部47にも転送される。なお、データ処理部43および出力処理部44は、記憶部47に格納されたプログラムやデータを制御部42にロードして、演算処理を実行することによって実現される。
【0059】
図10は、検波部34-kのブロック図である。増幅フィルタ部22-kからの受信信号SSは、位相比較器74および76に供給される。また、発振部33(
図7参照)から供給された参照信号SR1は、遅延回路72によって、発振周波数fの90°の位相に相当する時間だけ遅延される。遅延された参照信号SR1を参照信号SR2と呼ぶ。参照信号SR1は位相比較器76に供給され、参照信号SR2は位相比較器74に供給される。位相比較器76は、受信信号SSにおいて参照信号SR1に同期する成分を抽出する。抽出された信号はLPF(ローパスフィルタ)80によってフィルタ処理され、LPF80は、その処理結果を余弦信号Xとして出力する。
【0060】
また、位相比較器74は、受信信号SSにおいて、参照信号SR2に同期する成分を抽出する。抽出された信号は、LPF78によってフィルタ処理され、LPF78は、その結果を正弦信号Yとして出力する。演算器84は、√(X2+Y2)を計算し、その結果を振幅信号Rとして出力する。また、演算器82は、(Y/X)のアークタンジェントすなわちatan(Y/X)を計算し、その結果を位相差信号θとして出力する。
【0061】
そして、検波部34-kは、上述した各信号X、Y、Rおよびθを、アナログデジタル変換部35(
図8参照)を介してメモリ部36に供給する。なお、図示の例では、検波部34-kは各信号X、Y、R、θの全てを出力したが、振幅信号Rおよび位相差信号θは検波部34-kが計算するのではなく、余弦信号Xおよび正弦信号Yに基づいて、データ処理部43(
図8参照)が計算するようにしてもよい。
【0062】
ここで、検波部34-kが余弦信号Xに加えて正弦信号Yを検出している理由について説明しておく。まず、余弦信号Xを重視するのであれば、余弦信号Xの振幅が最大になるように、参照信号の位相を設定することが考えられる。すると、この設定した位相は、余弦信号Xを検出するための最適な位相であると言える。しかし、受信信号SSは、磁気センサ部21-1~21-N毎に独立しており、磁気センサ部21-1~21-N毎に配置箇所や製造誤差の影響が異なる。また、経年変化や温度変化によっても最適な位相は変動する。従って、検波部34-1~34-Nの各々に対して参照信号の最適な位相を設定することは、煩雑である。
【0063】
正弦信号Yは、レールを励磁する励磁磁場に対して90°位相がシフトした信号成分である。本実施形態のように、余弦信号Xとともに正弦信号Yを検出すると、演算器84(または評価装置4)において振幅信号Rを計算することができる。振幅信号Rの値は、位相差信号θが変動した場合であっても、原理上は一定になるため、参照信号の位相を最適化する処理を省略することができる。
【0064】
なお、
図16では、符号1602が示す信号は、余弦信号Xまたは正弦信号Yの例である。符号1601が示す信号は、振幅信号Rの例である。
<第1実施形態の動作>
【0065】
図11は、評価装置4のデータ処理部43によって実行されるレール状態監視処理のフローチャートである。
【0066】
本処理は、所定の制御周期毎に実行される。
図11において、ステップS2、S12およびS14の処理は並列に実行される。まず、評価装置4は、ステップS2において記憶部47からレール状態監視データを取得し、ステップS12において、記憶部47から位置信号SDを取得し、ステップS14において、記憶部47から距離パルス信号SPを取得する。また、評価装置4は、ステップS14が完了した後、ステップS16において、距離パルス信号SPを距離データSKに変換する。すなわち、評価装置4は、位置検出システムが最後に地上子を検出した後の、距離パルス信号SPの検出回数に基づいて、距離データSKを算出する。ここで、距離データSKとは、所定の基準位置からの距離を指しており、距離データSKは位置データの一例でよい。
【0067】
また、評価装置4は、ステップS2が完了した後、ステップS4において、所定の検査データが所定の基準範囲、すなわち「継目箇所」と推定できる範囲を外れているか否かが判定される。ここで、「所定の検査データ」は、例えば、
図10に示した振幅信号Rである。特異箇所102(
図6参照)が構造物である場合には、特異箇所102が異常予測箇所である場合と比較して、振幅信号Rは明らかに大きくなる。そこで、ステップS4において、評価装置4は、振幅信号Rと所定の閾値Rth1とを比較する。「R≠Rth1」である場合には、「Yes」、すなわち、継目箇所またはレール破断箇所がある可能性有との判定がされてよい。一方、「R=Rth1」(差が所定差以下であることを含んでよい)である場合には、「No」、すなわち、継目もレール破断も無いと判定されてよい。
【0068】
ここで「No」と判定されると、処理はステップS18に進む。なお、その処理の内容は後述する。一方、ステップS4において「Yes」と判定されると、処理はステップS10に進む。ステップS10においては、
図10に示した信号X、Y、Rおよびθ等に基づいて、継目と破断が弁別される。その弁別の際、評価装置4は、ステップS12で取得した位置信号SDも利用する。これは、最後に検出した地上子と、次に検出すると予想される地上子がわかるため、弁別においてレール破断が識別された場合、レール破断箇所は、それらの地上子の区間に存在するということになる。
【0069】
上述のステップS2~S16の処理が終了すると、処理はステップS18に進み、レール状態監視結果が生成される。ここで、「レール状態監視結果」とは、ステップS10が行われた場合には特異箇所(継目箇所およびレール破断箇所)と、距離データSKとを対応付けたものを含んでよい(ステップS10が行われなかった場合、「レール状態監視結果」は、特異箇所無しとの結果を含んでよい)。次に、処理がステップS20に進むと、データ処理部43は、レール状態監視結果を表示部46等に出力し、本ルーチンの処理が終了する。
【0070】
図12は、上述したステップS20において表示部46に表示される表示画像120の例を示す図である。
【0071】
表示画像120は、鉄道レール画像140と、複数のアラート表示オブジェクト130と、を含んでいる。鉄道レール画像140は、レール100を模式的に表示するものである。また、アラート表示オブジェクト130は、継目とレール破断に対応する箇所に表示される。アラート表示オブジェクト130は、「アラート」という文字列と、構造物種別表示オブジェクト134と、位置表示オブジェクト136と、を含んでいる。
【0072】
ここで、構造物種別表示オブジェクト134は、「継目」、「レール破断」の種別を表す文字列である。また、位置表示オブジェクト136は、所定の基準位置から当該構造物までの距離を表す数字である。このように、レール状態監視結果をGUI(Graphical User Interface)画面によって表示することにより、ユーザは、レール100のどの位置に、継目およびレール破断が存在するのかを、視覚的に明瞭に把握することができる。
【0073】
なお、
図12に示した例では、アラート表示オブジェクト130に含まれる構造物種別表示オブジェクト134は、「継目」、「レール破断」の文字列であるが、それぞれに対応したマークでもよい。また、継目とレール破断のいずれであるかの識別情報(タグ)が特異箇所に関連付けられてよい。これにより、継目と次の継目間は、レール100毎の管理や、どのレール100にレール破断が生じているかの管理が可能である。継目を表す表示オブジェクトとレール破断を表す表示オブジェクトとのうち継目を表す表示オブジェクトのみが表示されてもよい。これにより、車両200の走行区間に存在する継目の数を管理することも可能になる。
【0074】
また、検知情報が「継目」を表していた場合、継目の遊間量(レールとレールの間の隙間の間隔)に応じて、
図10に示した各信号X、Y、Rおよびθには、有意な変化が現れる。そこで、評価装置4は、検知情報が「継目」を表していた場合には、該継目の遊間量を信号X、Y、Rおよbθに基づいて計算し、計算された遊間量を、上述したタグ(識別情報)に対応付けて記憶し、その内容を表示することができる。また、検出した特異箇所102がレール破断箇所である場合も、評価装置4は、上述したタグ(識別情報)に対応付けて、異常予測箇所における各信号X、Y、Rおよびθを記憶し、その内容を表示することができる。
【0075】
このように、タグ付けされたレール状態監視結果は、レール破断による線路内の異常や遊間量のチェックに有用である。例えば、タグ付けされた特異箇所間における信号X、Y、Rおよびθの時系列データの変動に異常が抽出された箇所は、レール破断発生が推定される箇所として特定でき、ユーザが現地で詳細確認を行うことができる。また、評価装置4は、レールの継目位置を特定することができるため、継目で得られた表示対象信号の時系列データの変化量と、遊間量との相関関係を予め把握しておくことができる。これにより、車両走行時の走行区間における全継目の遊間量を抽出することが可能となる。ここで、遊間量は外気温によって影響し、寒暖時期(夏季、冬季)によって最適な状態が異なる。そこで、検出装置2に含まれる温度センサ部216で得た温度情報を、車両走行時の外気温に補正処理することで、該温度情報を、レール状態監視装置1による遊間量の管理に使用できる。また、本レール状態監視装置は車両走行下で使用できるため、走行日(検査日)毎の取得データの差分を算出することにより、走行区間のレールの状態(レール破断発生、遊間量の変化等)を捉えることや、レールのメンテナンス時期およびメンテナンス位置を把握できる等、効率的なレール保守管理の運営に貢献できる。
<第1実施形態の効果>
【0076】
以上のように本実施形態のレール状態監視装置1によれば、検出装置2は、下部筐体20と、上部筐体26とを備える。下部筐体20は、磁気センサ部21-1~21-Nを収納し、非磁性体で構成されている。上部筐体26は、プリアンプ部210を収納し、第1の筐体20の上面に固定される。上部筐体26の一側面に、接続ケーブル64に接続されるコネクタ28が装着される。上部筐体26は、金属で構成されている。これにより、レール100の状態を正確に検出することができる。
【0077】
また、検出装置2は、レール100の踏み面100aを交流磁界で励磁し、レール100に発生する磁束の流れの乱れに基づいて、レール100の踏み面100aにおける特異箇所102を検出する。これにより、レール100に発生する磁束の流れの乱れに基づいて、鉄道レールの状態を一層正確に検出することができる。
【0078】
また、レール状態監視装置1は、レール100を励磁するために交流磁界を発生する発振コイル5A-kと、発振コイル5A-kに接続される共振フィルタ部60-kと、をさらに備える。共振フィルタ部60-kおよび発振コイル5A-kは、交流磁界の周波数に対応する共振周波数を有する。これにより、交流磁界の強度を増加でき、鉄道レールの状態を一層正確に検出することができる。
【0079】
また、レール状態監視装置1は、出力処理部44をさらに有する。出力処理部44は、検出した特異箇所102の種類および存在位置を、画像として表現しつつ表示部46に表示する。これにより、ユーザは、レール100の状態を視覚的に把握することができる。
【0080】
また、評価装置4は、特異箇所102についての弁別結果に基づき当該特異箇所102に関連付けられた識別情報(特異箇所102の種類の識別情報)を用いて、各レール100を管理することができる。
【0081】
また、評価装置4は、検出した特異箇所102が、レール100の継目であると判定すると、磁束の流れの乱れに基づいて、継目の遊間量を算出する。これにより、レール状態監視装置1は、継目の遊間量を適切に管理できる。
【0082】
また、評価装置4は、特異箇所102の種類(継目およびレール破断)と、特異箇所102の数と、特異箇所102の存在位置と、レール破断の発生を表す情報と、継目の遊間量と、を少なくとも含む検査データを検査日毎に集積し、異なる検査日における検査データの差分を求めることにより、レール100の状態変化をモニタする。これにより、異なる検査日における検査データの差分に基づいて、レール100の状態変化を正確にモニタできる。
【0083】
また、本実施形態のレール状態監視装置1は、受信コイルの各々から出力される出力信号に対して、出力信号の第1の位相(0°)に対応する第1の検知信号Xと、出力信号の第2の位相(90°)に対応する第2の検知信号Yと、を検出する複数の検波部34-1~34-Nを有する検波部群を設けたので、レール100の特異箇所を正確に検出できる。
【0084】
また、複数の検波部34-1~34-Nは、第1の検知信号X、第2の検知信号Y、または、第1の検知信号Xと第2の検知信号Yに演算処理を施した結果Rおよび/またはθを出力する。処理装置3は、複数の磁気センサ部21-1~21-Nに対応する信号X、Y、Rおよび/またはθの時系列データから特異箇所の有無および種類を判別する。処理装置3は、車両200に備わった検測装置300からの位置信号SDおよび距離パルス信号SPに基づいて、特異箇所の位置を検出し、その結果を表示部46に表示する。
【0085】
ここで、レール100をGUI画面で特異箇所の存在箇所および存在位置を表示させることで、使用者は、鉄道レールに存在する特異箇所をより的確に認識できるようになる。位置信号SDは、車両に搭載されたセンサ(車上子)と、敷設されたレール近傍に設置されたセンサ(地上子)とが走行時に反応することで得られる。レール100上に存在する全ての特異箇所の位置が特定できるように地上子を設置することは困難であるため、位置信号SDで得られる特異箇所の位置情報には限りがある。また、屋外設置による地上子の不良や、車上子が地上子から外れた位置での応答や、対向車両区間の地上子に応答する等、特異箇所検出精度に影響を及ぼすことがある。本実施形態のレール状態監視装置1によれば、車両の下回りに搭載した検出装置2を用いて、レール100の踏み面100aに存在する特異箇所を検出することができ、その検出位置精度を保持することができる。
[第2実施形態]
【0086】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の説明において、
図1~
図12の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、以下、第1実施形態との相違点を主に説明し、第1実施形態との共通点については説明を省略または簡略する。
<第2実施形態の構成>
【0087】
本実施形態の構成を説明する前に、上述した第1実施形態について再び検討する。
図5において説明したように、レール100に構造物等の特異箇所が無い場合、磁束ΦAおよびΦBのうち受信コイル6-kに鎖交する成分は相互に打ち消しあい、鎖交磁束は理想的には零になる。従って、受信コイル6-kの出力電圧は、理想的には零になる。
【0088】
しかし、発振コイル5A-kおよび5B-kの形状(内径、外径、コイル長等)に差があると、両者の発生する磁束ΦAおよびΦBは受信コイル6-kにおいて打ち消されなくなり、発振信号と同一周波数の雑音信号が受信コイル6-kからは継続的に出力されるようになる。発振コイル5A-kおよび5B-kの加工精度を充分に高くすることにより、この雑音信号は実用上問題の無いレベルにまで低減することが期待できるが、加工精度が高くなくても、雑音信号を低減できることが好ましい。そこで、本実施形態は、雑音信号を電気的にキャンセルすることによって、発振コイル5A-kおよび5B-kに求められる加工精度を下げられるようにするものである。
【0089】
図13は、本発明の第2実施形態によるレール状態監視装置1aの全体構成を示すブロック図である。
【0090】
本実施形態のレール状態監視装置1aの外観構成は、第1実施形態のもの(
図1~
図4参照)と同様である。また、検出装置2および評価装置4の構成も第1実施形態のもの(
図8参照)と同様である。但し、第1実施形態の処理装置3に代えて、本実施形態においては、処理装置3aが適用される。
【0091】
処理装置3aにおいては、増幅フィルタ部22-1~22-Nに対応する修正信号発生部50-1~50-Nおよび減算部52-1~52-Nが設けられている。なお、修正信号発生部50-1~50-Nを総称して修正信号発生部群と呼び、減算部52-1~52-Nを総称して減算部群と呼ぶ。上述したように、磁気センサ部21-kが出力する誘起電圧には、発振周波数fの雑音信号が重畳し、この雑音信号は、増幅フィルタ部22-kにおいて増幅される。修正信号発生部50-kは、この雑音信号をキャンセルするために、雑音信号にほぼ等しい振幅および位相を有する修正信号を発生しようとするものである。すなわち、この振幅および位相は、磁気センサ部21-kの特性に応じて、修正信号発生部50-kに予め設定されている。
【0092】
そして、減算部52-kは、増幅フィルタ部22-kの出力信号から修正信号を減算することにより、雑音信号をキャンセルする。これにより、検波部34-1~34-Nには、雑音信号をキャンセルした信号が供給されるようになる。上述した以外の処理装置3aの構成は、第1実施形態の処理装置3(
図8参照)と同様である。
【0093】
本実施形態によれば、発振コイル5A-kおよび5B-kの加工精度が低い場合であっても、雑音信号を電気的にキャンセルすることができ、レール100の特異箇所を精度良く検出することができる。
[第3実施形態]
【0094】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、以下の説明において、
図1~
図13の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、以下、第1および第2の実施形態との相違点を主に説明し、第1および第2の実施形態との共通点については説明を省略または簡略する。
【0095】
図14は、本発明の第3実施形態によるレール状態監視装置1bの全体構成を示すブロック図である。本実施形態のレール状態監視装置1bの外観構成は、第1実施形態のもの(
図1~
図4参照)と同様である。また、検出装置2および評価装置4の構成も第1実施形態のもの(
図8参照)と同様である。但し、第1実施形態の処理装置3に代えて、本実施形態においては、処理装置3bが適用される。
【0096】
本実施形態の処理装置3bは、信号調整部70と、デジタルアナログ変換部32aと、増幅部31A-1~31A-Nおよび31B-1~31B-Nと、共振フィルタ部60A-1~60A-Nおよび60B-1~60B-Nと、を備えている。また、上述した第1および第2実施形態において、発振コイル5A-kおよび5B-kは、直列(または並列)に接続されていたが、本実施形態においては、発振コイル5A-kおよび5B-kは相互に接続されておらず独立している。信号調整部70は、2N系統のデジタル発振信号の振幅および位相を調整する。すなわち、信号調整部70は、発振部33から出力されたデジタル発振信号の振幅および位相を、合計2N個の発振コイル5A-1~5A-Nおよび5B-1~5B-Nの各々に対応して、調整する。
【0097】
また、デジタルアナログ変換部32aは、調整された2N系統のデジタル発振信号を、各々アナログ信号に変換する。2N個の増幅部31A-1~31A-Nおよび31B-1~31B-Nは、2N系統のアナログ信号を各々増幅する。また、2N個の共振フィルタ部60A-1~60A-Nおよび60B-1~60B-Nは、2N個の発振コイル5A-1~5A-Nおよび5B-1~5B-Nの各々のインダクタンス成分を抑制してインピーダンスを小さくし、発振コイルからの交流磁界の強度を増加させる。上述した信号調整部70は、特異箇所102(
図6参照)が存在しない場合の受信コイル6-1~6-Nの出力電圧が、なるべく零に近づくように、発振コイル5A-1~5A-Nおよび5B-1~5B-Nの出力バランスを調整する。上述した以外の処理装置3bの構成は、第1実施形態の処理装置3(
図7参照)と同様である。
【0098】
本実施形態によれば、受信コイル6-1~6-Nに入る発振コイル5A-1~5A-N、5B-1~5B-Nからの交流磁界を相殺することができ、バランス調整された磁気センサ部21-1~21-Nの出力を検波部34-1~34-Nに供給することができる。これにより、増幅フィルタ部22-1~22-Nおよび検波部34-1~34-Nにおけるシステムゲインを大きくでき、受信コイル6-1~6-Nにおける検出能力を改善することができる。
[変形例]
【0099】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、若しくは他の構成の追加および/または置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
(1)上記各実施形態における評価装置4のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、
図11に示したフローチャートに係る処理を実行するためのプログラムは、可搬型の記憶媒体またはサーバといったプログラムソースからコンピュータにインストールされてもよい。
(2)
図8、
図13および
図14に示した機能や
図11等を基に説明した処理は、上記実施形態ではプログラムをプロセッサが実行することにより実現される機能や処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な機能や処理に置き換えられてもよい。
(3)上記各実施形態においては、レール状態監視装置1を搭載する車両として、電気車である営業車(例えば在来線車両または新幹線車両)や、ディーゼル機関車である検査用車車両を含む鉄道車両全般、に搭載してもよい。
(4)処理装置3が、位置信号SDおよび距離パルス信号SPに代えてまたは加えて、車両200に設けられているGNSS(Global Navigation Satellite System)システムにより得られたGNSS位置信号を用いて、特異箇所102の位置を検出してもよい。
【0100】
なお、上述の説明を、例えば以下のように総括することができる。下記の総括は、上述の説明の補足や変形例の説明を含んでよい。なお、以下の説明では、線路の幅方向が「左右」方向であり、線路の長手方向が「前後」方向である。
【0101】
レール状態監視装置(1、1a、1b)は、線路を構成する左右の鉄道レール(100)上を走行する列車に設けられた検出装置(2)と、処理装置(3、3a、3b)とを備える。列車は、一つまたは複数の車両(200)の編成である。
【0102】
検出装置は、鉄道レールに対向した一つ以上の磁気センサ部(21)である磁気センサ部群(77)を有する。磁気センサ部は、当該磁気センサ部が鉄道レールにおける特異箇所(102)上を通過するときに当該特異箇所を検出する。特異箇所は、典型的には、レールの踏み面が通常と異なる箇所である。検出装置は、磁気センサ部群による検出の結果に基づく信号を出力する。
【0103】
列車(又は個々の車両)に備えられる検出装置は、一つでも複数でもよい。
【0104】
複数の検出装置は、列車に左右対称に設けられた検出装置、および/または、列車に前後に設けられた検出装置を含む。処理装置は、複数の検出装置からそれぞれ出力された信号を受信し、複数の検出装置からの信号に基づく検知信号(例えば、信号X、Y、Rおよびθの少なくとも一つ)を基に、特異箇所がレール継目箇所であるかレール破断箇所であるかを弁別する。
【0105】
列車に左右対称に検出装置が設けられている場合は、例えば次の通りでよい。
図15に例示した通り、レール継目箇所は左右のレールに左右対称の位置に存在し、一方、レール破断箇所は、典型的には左右のレールに左右対称の位置に存在することはない。そこで、処理装置は、列車に左右対称に設けられた検出装置の両方についての検出信号(列車進行方向に沿った位置(例えばx座標)が同じ、または、検出タイミングが同じ検出信号)が特異箇所を表している場合、当該特異箇所がレール継目箇所であると判定する。一方、処理装置は、列車に左右対称に設けられた検出装置の片方についての検出信号が特異箇所を表している場合、当該特異箇所がレール破断箇所であると判定する。
【0106】
列車に前後に検出装置が設けられている場合は、例えば次の通りでよい。
図15に例示した通り、レール継目箇所は予め存在し、一方、レール破断箇所は、列車の走行中に動的に生じ得る。そこで、処理装置は、列車に前後に設けられた検出装置の両方についての検出信号が特異箇所を表している場合、当該特異箇所がレール継目箇所であると判定してよい。一方、処理装置は、列車に前後に設けられた検出装置の片方(典型的には後側の検出装置)についての検出信号が特異箇所を表している場合、当該特異箇所がレール破断箇所であると判定してよい。なお、列車に前後に設けられた検出装置は、先頭車両に設けられた検出装置と、最後尾車両に設けられた検出装置を含んでよい。
【0107】
処理装置は、特異箇所としてのレール継目箇所と、特異箇所としてのレール破断箇所とのうち少なくとも一方を表す表示オブジェクト(134)の表示用情報を出力してよい。表示用情報は、表示オブジェクトが表す特異箇所の位置の表示オブジェクト(136)の情報を含んでもよい。
【0108】
処理装置は、レール破断箇所が判定された場合、当該レール破断箇所がいずれのレールに存在するかを特定してよい。
【0109】
特異箇所の弁別により、レール継目箇所が判定された場合、処理装置は、レール継目箇所の既知の位置を基に、列車の位置を推定してよい。例えば、レール継目箇所毎に既知の位置が関連付けられていて、処理装置は、レール継目箇所が判定された場合、当該レール継目箇所に関連付けられている位置が、列車の位置と推定できる。
【0110】
図15に例示したように、レール継目箇所は等間隔に存在する。そこで、処理装置は、検出された特異箇所が等間隔の特異箇所の場合、それらの特異箇所はいずれもレール継目箇所であると判定してよい。一方、検出された特異箇所が等間隔でない特異箇所を含む場合、処理装置は、検出された特異箇所のうち等間隔の特異箇所以外の特異箇所がレール破断箇所であると判定してよい。なお、例えば本段落において、検出装置は一つでもよい(すなわち、必ずしも列車に左右対称にまたは前後に検出装置が設けられなくてもよい)。
【0111】
検出装置は、鉄道レールの踏み面を交流磁界で励磁し、鉄道レールに発生する磁束の流れの乱れに基づいて、鉄道レールの特異箇所を検出する装置でよい。一つ以上の磁気センサ部の各々は、受信コイルと、当該受信コイルを挟む二つの発信コイルとを含んでよい。処理装置は、検知信号の極値間の距離と発振コイル間の距離との関係が所定の関係である場合、検出された特異箇所がレール継目箇所であると判定してよい。一方、処理装置は、検知信号の極値間の距離と発振コイル間の距離との関係が所定の関係でない場合、検出された特異箇所がレール破断箇所であると判定してよい。発振コイル間の距離は、発振コイルおよび受信コイルの直径に基づき定義されてよい。
【0112】
検出装置(例えば、左右対称に設けられた検出装置、および/または、前後に設けられた検出装置)は、複数の車両のうちの二以上の車両にそれぞれ存在してよい。二以上の車両の各々について、特異箇所が弁別されてよい。処理装置は、二以上の車両それぞれについての特異箇所弁別の結果を基に、当該特異箇所が継目箇所であるかレール破断箇所であるかを弁別してよい。例えば、特異箇所弁別の結果が車両によって異なっている場合、最も多い同じ弁別結果が最終の弁別結果とされてよい。
【符号の説明】
【0113】
1、1a、1b レール状態監視装置
2、2a、2b 検出装置
3、3a、3b 処理装置
4 評価装置
5A-1~5A-N、5B-1~5B-N 発振コイル
6-1~6-N 受信コイル
20 下部筐体(第1の筐体)
21-1~21-N 磁気センサ部
77 磁気センサ部群
100 鉄道レール
100a 踏み面
102 特異箇所(継目箇所およびレール破断箇所)
110 車両(鉄道車両)