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特開2023-181845血圧推定装置、血圧推定方法、およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181845
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】血圧推定装置、血圧推定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/022 20060101AFI20231218BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
A61B5/022 400H
A61B5/02 310V
A61B5/02 310B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095209
(22)【出願日】2022-06-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔1〕 発行日(公開日) 令和3年6月14日 刊行物 第60回日本生体医工学会大会予稿集及びWEB抄録 (Web公開URL:https://jsmbe60.jp/index.html)*参加登録者専用アドレスより公開 *なお、抄録については、下記・アドレスにて、令和3年10月17日に一般に公開された。(Web公開URL:https://doi.org/10.11239/jsmbe.Annual59.279 ) <資 料>第60回日本生体医工学会大会 研究論文 WEB公開・抄録 〔2〕 開催日(公開日) 令和3年6月15日(会期:2021年6月15日~6月17日) 集会名、開催場所 第60回日本生体医工学会大会 大会長:椎名 毅 (京都大学 大学院医学研究科 教授) 小林 哲生 (京都大学 大学院工学研究科 教授) (オンラインLIVE開催*オンデマンド配信) <資 料> 第60回日本生体医工学会大会 講演会概要 <資 料> 第60回日本生体医工学会大会 プログラム
(71)【出願人】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】田中 明
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA09
4C017AB02
4C017AB03
4C017AC28
4C017BC20
4C017BD01
4C017BD05
4C017EE01
4C017FF08
4C017FF17
(57)【要約】
【課題】家庭等で簡単に血圧を測定でき、さらに、映像から脈波を得ることによって非接触で血圧を推定する。
【解決手段】距離取得部501は、被検者の手を心臓よりも上方の第1位置に配置した際の、心臓と手との高低差を示す第1高低差と、心臓よりも上方であり第1位置とは異なる第2位置に手を配置した際の高低差を示す第2高低差とを取得する。差圧取得部502は、心臓の血圧と手の血圧との差圧であって、第1高低差に応じた差圧と第2高低差に応じた差圧とをそれぞれ取得する。脈波取得部503は、手における複数の箇所から検出された脈波を取得する。速度算出部504は、脈波に基づいて、第1位置における脈波伝播速度と第2位置における脈波伝播速度とを算出する。血圧算出部505は、差圧取得部502によって取得された各差圧と速度算出部504によって算出された各脈波伝播速度とに基づいて、被検者の心臓の血圧を算出する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓に対して変位可能な被検者の身体の一部位を心臓よりも上方の第1位置に配置した際の、心臓と前記一部位との高低差を示す第1高低差と、心臓よりも上方であり前記第1位置とは異なる第2位置に前記一部位を配置した際の前記高低差を示す第2高低差と、を取得する高低差取得部と、
心臓の血圧と前記一部位の血圧との差圧であって、前記第1高低差に応じた差圧と前記第2高低差に応じた差圧とをそれぞれ取得する差圧取得部と、
前記一部位における複数の箇所から検出された脈波を取得する脈波取得部と、
前記脈波に基づいて、前記第1位置における脈波伝播速度と前記第2位置における脈波伝播速度とを算出する速度算出部と、
前記差圧取得部によって取得された各差圧と、前記速度算出部によって算出された各脈波伝播速度とに基づいて、前記被検者の心臓の血圧を算出する血圧算出部と、
前記血圧算出部の算出結果を出力する出力部と、
を備える血圧推定装置。
【請求項2】
前記差圧取得部は、心臓の拡張期血圧と前記一部位の拡張期血圧との拡張期差圧であって、前記第1高低差における拡張期差圧と前記第2高低差における拡張期差圧とをそれぞれ取得し、
前記血圧算出部は、前記差圧取得部によって取得された各拡張期差圧と、前記各脈波伝播速度とに基づいて、前記被検者の心臓の拡張期血圧を算出する、
請求項1に記載の血圧推定装置。
【請求項3】
前記脈波取得部は、ユーザが所定の呼吸態様とした際の、前記第1高低差における前記脈波と前記第2高低差における前記脈波とを取得する、
請求項1または2に記載の血圧推定装置。
【請求項4】
前記脈波取得部は、撮像部によって撮像された前記一部位の画像データに基づいて得られる前記脈波を取得する、
請求項1または2に記載の血圧推定装置。
【請求項5】
前記一部位は、前記被検者の一方の手である、
請求項1または2に記載の血圧推定装置。
【請求項6】
前記第1位置は、前記第2位置よりも上方の位置であり、
前記脈波取得部は、前記被検者が前記一部位を下ろす動作を行う際の、前記第1高低差における前記脈波と前記第2高低差における前記脈波とを検出する、
請求項1または2に記載の血圧推定装置。
【請求項7】
心臓に対して変位可能な被検者の身体の一部位を心臓よりも上方に配置した複数の位置に配置した際の、心臓と前記一部位との高低差をそれぞれ取得する高低差取得部と、
心臓の血圧と前記一部位の血圧との推定差圧であって、前記各高低差に応じた推定差圧を取得する推定差圧取得部と、
前記一部位における複数の箇所から検出された脈波を取得する脈波取得部と、
前記複数の位置における脈波に基づいて、前記複数の位置における脈波伝播時間および脈波伝播速度を算出する速度算出部と、
前記複数の位置における脈波伝播速度と、対応する前記各高低差に応じた推定差圧との関係を示す推定式を生成する生成部と、
前記推定式に基づいて、前記被検者の心臓の血圧を算出する血圧算出部と、
前記血圧算出部の算出結果を出力する出力部と、
を備える血圧推定装置。
【請求項8】
血圧推定装置のコンピュータが、
心臓に対して変位可能な被検者の身体の一部位を心臓よりも上方の第1位置に配置した際の、心臓と前記一部位との高低差を示す第1高低差と、心臓よりも上方であり前記第1位置とは異なる第2位置に前記一部位を配置した際の前記高低差を示す第2高低差と、を取得する高低差取得ステップと、
心臓の血圧と前記一部位の血圧との差圧であって、前記第1高低差に応じた差圧と前記第2高低差に応じた差圧とをそれぞれ取得する差圧取得ステップと、
前記一部位における複数の箇所から検出された脈波を取得する脈波取得ステップと、
前記脈波に基づいて、前記第1位置における脈波伝播速度と前記第2位置における脈波伝播速度とを算出する速度算出ステップと、
前記差圧取得ステップにおいて取得された各差圧と、前記速度算出ステップにおいて算出された各脈波伝播速度とに基づいて、前記被検者の心臓の血圧を算出する血圧算出ステップと、
前記血圧算出ステップにおける算出結果を出力する出力ステップと、
を含む処理を行う血圧推定方法。
【請求項9】
血圧推定装置のコンピュータが、
心臓に対して変位可能な被検者の身体の一部位を心臓よりも上方に配置した複数の位置に配置した際の、心臓と前記一部位との高低差をそれぞれ取得する高低差取得ステップと、
心臓の血圧と前記一部位の血圧との推定差圧であって、前記各高低差に応じた推定差圧を取得する推定差圧取得ステップと、
前記一部位における複数の箇所から検出された脈波を取得する脈波取得ステップと、
前記複数の位置における脈波に基づいて、前記複数の位置における脈波伝播時間および脈波伝播速度を算出する速度算出ステップと、
前記複数の位置における脈波伝播速度と、対応する前記各高低差に応じた推定差圧との関係を示す推定式を生成する生成ステップと、
前記推定式に基づいて、前記被検者の心臓の血圧を算出する血圧算出ステップと、
前記血圧算出ステップにおける算出結果を出力する出力ステップと、
を含む処理を行う血圧推定方法。
【請求項10】
コンピュータを血圧推定装置として機能させるプログラムであって、
前記コンピュータを、
心臓に対して変位可能な被検者の身体の一部位を心臓よりも上方の第1位置に配置した際の、心臓と前記一部位との高低差を示す第1高低差と、心臓よりも上方であり前記第1位置とは異なる第2位置に前記一部位を配置した際の前記高低差を示す第2高低差と、を取得する高低差取得部、
心臓の血圧と前記一部位の血圧との差圧であって、前記第1高低差に応じた差圧と前記第2高低差に応じた差圧とをそれぞれ取得する差圧取得部、
前記一部位における複数の箇所から検出された脈波を取得する脈波取得部、
前記脈波に基づいて、前記第1位置における脈波伝播速度と前記第2位置における脈波伝播速度とを算出する速度算出部、
前記差圧取得部によって取得された各差圧と、前記速度算出部によって算出された各脈波伝播速度とに基づいて、前記被検者の心臓の血圧を算出する血圧算出部、
前記血圧算出部の算出結果を出力する出力部、
として機能させるプログラム。
【請求項11】
コンピュータを血圧推定装置として機能させるプログラムであって、
前記コンピュータを、
心臓に対して変位可能な被検者の身体の一部位を心臓よりも上方に配置した複数の位置に配置した際の、心臓と前記一部位との高低差をそれぞれ取得する高低差取得部、
心臓の血圧と前記一部位の血圧との推定差圧であって、前記各高低差に応じた推定差圧を取得する推定差圧取得部、
前記一部位における複数の箇所から検出された脈波を取得する脈波取得部、
前記複数の位置における脈波に基づいて、前記複数の位置における脈波伝播時間および脈波伝播速度を算出する速度算出部、
前記複数の位置における脈波伝播速度と、対応する前記各高低差に応じた推定差圧との関係を示す推定式を生成する生成部、
前記推定式に基づいて、前記被検者の心臓の血圧を算出する血圧算出部、
前記血圧算出部の算出結果を出力する出力部と、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧推定装置、血圧推定方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自宅や病院における血圧の測定では、主にオシロメトリック法が採用されている。オシロメトリック法は、腕帯(カフ)を用いて上腕を圧迫することによって最大血圧(収縮期血圧)と最低血圧(拡張期血圧)を測定する方法である。オシロメトリック法では、カフを巻くことによる煩雑さがあるとともに、圧迫による不快感があり、さらには測定時間がかかることから、気軽な計測には適していない。
【0003】
一方で、近年では、いくつかのカフレスの推定法が発表されている。カフレスの推定法として、例えば、スマートウォッチのように、手首で心電図と脈を計って推定する装着型のものが知られている。また、顔や掌といった肌の露出した部分をカメラで撮影し、皮膚の僅かな色変化を解析することにより、脈波(映像脈波)を非接触で抽出する方法も知られている。
【0004】
関連する技術として、映像取得装置によって取得された映像信号から算出される特定部位の高所および低所の計測位置と、高所および低所の脈波情報の脈波振幅の比情報とに基づいて、血圧を推定する装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。カフレスの推定法には、脈の伝播速度(PWV:Pulse Wave Velocity)を利用したものや、脈波伝播時間と血圧とが相関することを利用したものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第7034524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、脈波伝播時間による血圧の推定式が個人で異なるため、絶対圧の推定が困難であることや、推定式のパラメータが時間的に変動してしまうことがあることから、長時間の推定では推定誤差が増大してしまう。このため、定期的に校正を行う必要があり、簡便さに欠けてしまうことがある。このように、従来技術では、家庭等で簡単に血圧を測定することができないことがある、という問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、家庭等で簡単に血圧を測定することができる技術を提供することにあり、さらに、映像から脈波を得ることによって非接触で血圧を推定することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様である血圧推定装置は、心臓に対して変位可能な被検者の身体の一部位を心臓よりも上方の第1位置に配置した際の、心臓と前記一部位との高低差を示す第1高低差と、心臓よりも上方であり前記第1位置とは異なる第2位置に前記一部位を配置した際の前記高低差を示す第2高低差と、を取得する高低差取得部と、心臓の血圧と前記一部位の血圧との差圧であって、前記第1高低差に応じた差圧と前記第2高低差に応じた差圧とをそれぞれ取得する差圧取得部と、前記一部位における複数の箇所から検出された脈波を取得する脈波取得部と、前記脈波に基づいて、前記第1位置における脈波伝播速度と前記第2位置における脈波伝播速度とを算出する速度算出部と、前記差圧取得部によって取得された各差圧と、前記速度算出部によって算出された各脈波伝播速度とに基づいて、前記被検者の心臓の血圧を算出する血圧算出部と、前記血圧算出部の算出結果を出力する出力部と、を備える血圧推定装置である。
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明の他の態様である血圧推定装置は、心臓に対して変位可能な被検者の身体の一部位を心臓よりも上方に配置した複数の位置に配置した際の、心臓と前記一部位との高低差をそれぞれ取得する高低差取得部と、心臓の血圧と前記一部位の血圧との推定差圧であって、前記各高低差に応じた推定差圧を取得する推定差圧取得部と、前記一部位における複数の箇所から検出された脈波を取得する脈波取得部と、前記複数の位置における脈波に基づいて、前記複数の位置における脈波伝播時間および脈波伝播速度を算出する速度算出部と、前記複数の位置における脈波伝播速度と、対応する前記各高低差に応じた推定差圧との関係を示す推定式を生成する生成部と、前記推定式に基づいて、前記被検者の心臓の血圧を算出する血圧算出部と、前記血圧算出部の算出結果を出力する出力部と、備える血圧推定装置である。
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明の他の態様である血圧推定方法は、血圧推定装置のコンピュータが、心臓に対して変位可能な被検者の身体の一部位を心臓よりも上方の第1位置に配置した際の、心臓と前記一部位との高低差を示す第1高低差と、心臓よりも上方であり前記第1位置とは異なる第2位置に前記一部位を配置した際の前記高低差を示す第2高低差と、を取得する高低差取得ステップと、心臓の血圧と前記一部位の血圧との差圧であって、前記第1高低差に応じた差圧と前記第2高低差に応じた差圧とをそれぞれ取得する差圧取得ステップと、前記一部位における複数の箇所から検出された脈波を取得する脈波取得ステップと、前記脈波に基づいて、前記第1位置における脈波伝播速度と前記第2位置における脈波伝播速度とを算出する速度算出ステップと、前記差圧取得ステップにおいて取得された各差圧と、前記速度算出ステップにおいて算出された各脈波伝播速度とに基づいて、前記被検者の心臓の血圧を算出する血圧算出ステップと、前記血圧算出ステップにおける算出結果を出力する出力ステップと、を含む処理を行う血圧推定方法である。
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明の他の態様である血圧推定方法は、血圧推定装置のコンピュータが、心臓に対して変位可能な被検者の身体の一部位を心臓よりも上方に配置した複数の位置に配置した際の、心臓と前記一部位との高低差をそれぞれ取得する高低差取得ステップと、心臓の血圧と前記一部位の血圧との推定差圧であって、前記各高低差に応じた推定差圧を取得する推定差圧取得ステップと、前記一部位における複数の箇所から検出された脈波を取得する脈波取得ステップと、前記複数の位置における脈波に基づいて、前記複数の位置における脈波伝播時間および脈波伝播速度を算出する速度算出ステップと、前記複数の位置における脈波伝播速度と、対応する前記各高低差に応じた推定差圧との関係を示す推定式を生成する生成ステップと、前記推定式に基づいて、前記被検者の心臓の血圧を算出する血圧算出ステップと、前記血圧算出ステップにおける算出結果を出力する出力ステップと、を含む処理を行う血圧推定方法である。
【0012】
上述した課題を解決するために、本発明の他の態様であるプログラムは、コンピュータを血圧推定装置として機能させるプログラムであって、前記コンピュータを、心臓に対して変位可能な被検者の身体の一部位を心臓よりも上方の第1位置に配置した際の、心臓と前記一部位との高低差を示す第1高低差と、心臓よりも上方であり前記第1位置とは異なる第2位置に前記一部位を配置した際の前記高低差を示す第2高低差と、を取得する高低差取得部、心臓の血圧と前記一部位の血圧との差圧であって、前記第1高低差に応じた差圧と前記第2高低差に応じた差圧とをそれぞれ取得する差圧取得部、前記一部位における複数の箇所から検出された脈波を取得する脈波取得部、前記脈波に基づいて、前記第1位置における脈波伝播速度と前記第2位置における脈波伝播速度とを算出する速度算出部、前記差圧取得部によって取得された各差圧と、前記速度算出部によって算出された各脈波伝播速度とに基づいて、前記被検者の心臓の血圧を算出する血圧算出部、前記血圧算出部の算出結果を出力する出力部、として機能させるプログラムである。
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明の他の態様であるプログラムは、コンピュータを血圧推定装置として機能させるプログラムであって、前記コンピュータを、心臓に対して変位可能な被検者の身体の一部位を心臓よりも上方に配置した複数の位置に配置した際の、心臓と前記一部位との高低差をそれぞれ取得する高低差取得部、心臓の血圧と前記一部位の血圧との推定差圧であって、前記各高低差に応じた推定差圧を取得する推定差圧取得部、前記一部位における複数の箇所から検出された脈波を取得する脈波取得部、前記複数の位置における脈波に基づいて、前記複数の位置における脈波伝播時間および脈波伝播速度を算出する速度算出部、前記複数の位置における脈波伝播速度と、対応する前記各高低差に応じた推定差圧との関係を示す推定式を生成する生成部、前記推定式に基づいて、前記被検者の心臓の血圧を算出する血圧算出部、前記血圧算出部の算出結果を出力する出力部と、として機能させるプログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、家庭等で簡単に血圧を測定することができ、さらに、映像から脈波を得ることによって非接触で血圧を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る測定システムStの構成例を示す図である。
図2】脈波センサ10の取り付け位置の一例を示す図である。
図3】血圧推定装置1を用いて被検者の血圧を推定する際の被検者の動作例を示す図である。
図4】血圧推定装置1のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図5】血圧推定装置1の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図6】血圧推定装置1が行う血圧の推定に係る処理の一例を示すフローチャートである。
図7】第2実施形態に係る測定システムStの構成例を示す図である。
図8】血圧推定法の検証に係る計測環境の一例を示す模式図である。
図9】手の心臓に対する高さと、心臓の拡張期血圧および手の拡張期血圧の差との関係を示す図である。
図10】手の心臓に対する高さと、心臓の拡張期血圧および手の拡張期血圧の差との関係を示す図である。
図11】手の心臓に対する高さと、心臓の平均血圧および手の平均血圧の差との関係を示す図である。
図12】手の心臓に対する高さと末梢の血圧との関係を示す図である。
図13】心臓からの高さと、末梢の血圧との関係の個人差を示すテーブルである。
図14】接触型のセンサを用いた実験1の計測環境の模式図である。
図15】光電式容積脈波センサの装着位置を示す図である。
図16】実験1に係る実験プロトコル(1セット分)を示す図である。
図17】ある被験者の心電図(ECG)および末梢の容積脈波の計測結果を示す図である。
図18】ある被験者の2回の計測におけるPWVと推定値ΔPとの関係を示す図である。
図19】数式(14)を用いて算出した推定値ΔPを用いて拡張期血圧を推定した結果を示す図である。
図20】数式(15)の回帰直線を用いて補正した推定値を推定値P’として、実測値と比較した結果を示す図である。
図21】実測値と比較した際の推定値の推定誤差(RMSE)を示すテーブルである。
図22】完全非接触とした実験2の計測環境の模式図である。
図23】実験2に係る実験プロトコルを示す図である。
図24】映像脈波を抽出する関心領域(ROI:Region Of Interest)の設置例を示す図である。
図25】ROI内の左右位置に対するGチャンネルの輝度値を示す図である。
図26】手の高さhの変化とPTTとの関係を示す図である。
図27】血圧に相関する中間パラメータμと拡張期血圧の実測値(P)との関係を示す図である。
図28】数式(16)による拡張期血圧の推定値(PV)と実測値(P)とを比較した結果を示す図である。
図29】ある被験者の中指と手根部におけるROIを1pixel移動させたときの手の高さとPTTとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態)
以下、本発明の第1実施形態、第2実施形態および第3実施形態について説明する。
【0017】
(第1実施形態)
(第1実施形態に係る測定システムStの構成例)
図1は、第1実施形態に係る測定システムStの構成例を示す図である。図1に示すように、測定システムStは、血圧推定装置1と、脈波センサ10と、高さ検出部20とを備える。血圧推定装置1は、カフを用いずに血圧を推定する装置である。具体的には、血圧推定装置1は、被検者の手の昇降により、心臓からの手の高さが変化することによって生じる末梢の脈波の変化を利用して血圧を推定する装置である。
【0018】
脈波センサ10は、身体の一部位の2点の脈波を検出する。一部位は、例えば、手である。脈波センサ10の検出結果は、脈波伝播時間(PTT:Pulse Transmission Times)や、脈波伝播速度(PWV:Pulse Wave Velocity)の算出に用いられる。脈波センサ10は、例えば、光電式容積脈波(PPG:Photo PlethysmoGram)センサである。
【0019】
高さ検出部20は、被検者の心臓からの地面に対して垂直方向の手の高さ(以下「上方距離」という場合がある。)を検出可能な装置である。高さ検出部20は、被検者に接触する接触式のものでもよいし、被検者に接触しない非接触式のものでもよい。接触式は、例えば、巻き線式リニアエンコーダ、超音波距離計、レーザー距離計などである。非接触式は、例えば、スマートフォン、デジタルカメラなどの撮像装置によって撮像される画像データを用いるものである。なお、高さ検出部20に代えて、被検者や測定者が直接手の高さを測定して実測値を得ることにより、血圧推定装置1に実測値を入力するようにしてもよい。
【0020】
高さ検出部20による上方距離の検出にあたり、検出前に心臓の位置を特定しておく。心臓の位置は、例えば、身長や座高などから特定するようにしてもよいし、被検者を撮像した画像データを基に特定するようにしてもよい。また、上方距離の検出において、検出対象とする被検者の手の部位は、例えば、指尖、手首など、予め定めた手の一部分とすればよい。
【0021】
なお、高さ検出部20が行う機能は、血圧推定装置1に具備されていてもよい。例えば、被検者が手を挙げた際の位置の情報や、心臓の位置の情報を血圧推定装置1に入力することにより、血圧推定装置1が高さを検出するようにしてもよい。
【0022】
図2は、脈波センサ10の取り付け位置の一例を示す図である。図2に示すように、本実施形態において、脈波センサ10は、被検者の一方の手200(例えば左手)の手首201と指尖202とに2つ装着される。
【0023】
図3は、血圧推定装置1を用いて被検者の血圧を推定する際の被検者の動作例を示す図である。図3に示すように、被検者Usは、座位の姿勢をとる。被検者Usの心臓の高さを0cmとする。被検者Usは、手200(例えば左手)を上方の第1位置へ移動させ、その後、第1位置から下方の第2位置へ移動させる。血圧推定装置1は、第1位置と第2位置とにおける、手首201と指尖202とにおける脈波を取得する。血圧推定装置1は、当該脈波と、手の高さの変位に基づいて、被検者Usの血圧を推定することが可能である。以下に、本実施形態に係る血圧推定方法について説明する。
【0024】
(脈波伝播時間(PTT)について)
脈波伝播時間は、脈波がある2点間を移動するのに要する時間である。手首201に脈が到達した時刻をTとし、指尖202に脈が到達した時刻をTとすると、脈波伝播時間は、以下の数式(1)によって表すことができる。
【0025】
【数1】
【0026】
(脈波伝播速度(PWV)について)
脈波伝播速度は、手首201と指尖202の2点間を脈波が伝播する速度であり、2つの計測地点の距離を脈波伝播時間(PTT)で除算することにより得られる。手首201と指尖202との距離をLとすると、脈波伝播速度は、以下の数式(2)によって表すことができる。
【0027】
【数2】
【0028】
(Stiffness Parameter βについて)
Stiffness Parameter βは、局所の動脈壁の固有の硬さを表す指標である。βは、収縮期血圧(P)および拡張期血圧Pの心拍動に伴う血管の内径(D)の変化量(ΔD)と、測定時の血圧とから算出される。動脈における血管外半径と血管内圧との関係は直線的ではないため、血管内圧変化を対数変換することにより、血管径伸展とは直線関係となり、以下の数式(3)によって表される。
【0029】
【数3】
【0030】
ここで、ΔDは、収縮期の血管径Dと、拡張期の血管径Dとの差D-Dである。この関係における係数βがStiffness Parameter βであり、局所の動脈壁の硬さを示す。一方、局所の脈波伝播速度PWVについては、ブラムウェル・ヒルの式によると、以下の数式(4)によって表される。
【0031】
【数4】
【0032】
PWVは、血圧の変化ΔPと関連するとともに、血管容量Vとその変化ΔVとの比である容積変化率の逆数と関連する。ρは血液の比重である。ここで、PWVの計測の基準を拡張期としてV/ΔVを、血管径を用いて表すと、以下の数式(5)によって表される。
【0033】
【数5】
【0034】
また、数式(3)、(5)を用いて数式(4)を書き換えると、数式(6)のように表すことができる。
【0035】
【数6】
【0036】
ここで、数式(6)の右辺の脈圧と、収縮期血圧と拡張期血圧の比の対数との比は、数式(7)のように式変形することができる。
【0037】
【数7】
【0038】
これを数式(6)に代入すると、数式(8)が得られる。
【0039】
【数8】
【0040】
これにより、局所の脈波伝播速度(PWV)が、血管特性と血液粘性と拡張期血圧とに関連することがわかる。
【0041】
ここで、手の昇降によって末梢の拡張期血圧(P)が変化することを考慮する。末梢の拡張期血圧は、心臓の拡張期血圧(P)に、心臓と手との高低差による水頭圧(ΔP)だけ異なる。このため、手が心臓よりも高いとき、Pは、数式(9)によって表される。
【0042】
【数9】
【0043】
局所の脈波伝播速度(PWV)と、Stiffness Parameter βとの関係式(8)に式(9)を代入して変形すると、数式(10)が得られる。
【0044】
【数10】
【0045】
数式(10)に示すように、PWVは、ΔPとの関係として1次式で表すことができる。したがって、手の昇降による手の心臓からの高さhを変化させた際のΔPと脈波を得ることができれば、異なる手の高さにおけるPWVと、ΔPとを利用することによって心臓における拡張期血圧を推定することが可能である。
【0046】
なお、脈波伝播速度の算出時にLが未知の場合でも拡張期血圧を推定することは可能である。これについて補足すると、数式(2)のPWVを数式(10)に代入すると、数式(11)が得られる。
【数11】
【0047】
さらに、両辺をLで除すと、数式(12)が得られる。
【数12】
【0048】
これにより、Lがわからなくても、あるいは適当なLでPWVを計算したとして、同様の手法で、拡張期血圧を推定することが可能である。
【0049】
(血圧推定装置のハードウェア構成)
図4は、血圧推定装置1のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図4において、血圧推定装置1は、CPU101と、メモリ102と、通信I/F(インターフェース)103と、ディスプレイ104と、入力デバイス105とを備える。各部は、バス120を介して接続される。
CPU101は、中央演算処理装置であり、メモリ102に記憶されているプログラムを読み出して実行することにより、血圧推定装置1の動作を制御する。
【0050】
メモリ102は、例えば、ROM、RAMおよびフラッシュROMなどを有する。例えば、フラッシュROMやROMは、本実施形態に係る血圧推定プログラムなど各種プログラムを記憶する。RAMは、CPU101のワークエリアとして使用される。メモリ102に記憶されるプログラムは、CPU101にロードされることで、コーディングされている処理をCPU101に実行させる。なお、メモリ102は、USBメモリやSDカードなど外部のメモリを含む。
【0051】
通信I/F103は、通信回線を通じて、インターネットなどのネットワークに接続され、ネットワークを介して他の装置(例えば、スマートフォンなど)に接続される。また、通信I/F103は、ネットワークと自装置内部とのインターフェースを司り、他の装置からのデータの入出力を制御する。
【0052】
ディスプレイ104は、例えば、画像を表示する液晶ディスプレイであり、タッチパネル式であってもよい。なお、血圧推定装置1は、ディスプレイ104の他にも、出力デバイスとしてスピーカを備えてもよい。
入力デバイス105は、各種情報を入力するデバイスであり、キーボード、マウス、タッチパネル、マイクなどを含む。
【0053】
(血圧推定装置1の機能的構成の一例)
図5は、血圧推定装置1の機能的構成の一例を示すブロック図である。図5において、血圧推定装置1は、距離取得部501と、差圧取得部502と、脈波取得部503と、速度算出部504と、血圧算出部505と、出力部506とを備える。各部は、血圧推定装置1のCPU101によって実現される。すなわち、CPU101がメモリ102に記憶される血圧推定プログラムを実行することによって各部の機能を実現する。また、血圧推定装置1は、記憶部510を備える。記憶部510は、メモリ102によって実現される。
【0054】
(上方距離の取得および検出について)
距離取得部501は、高低差取得部の一例である。距離取得部501は、心臓と、被検者の身体の一部位との上方向の距離(高低差:以下「上方距離」という。)を取得する。一部位は、以下の3つの条件を満たす部位であればよい。
・心臓から十分に高い位置に配置できる部位であること。
・心臓からの高さを変えることができる部位であること。
・脈波を計測することができる部位であること。
【0055】
本実施形態において、一部位は、一方の手とする。手は、例えば、手首から指先までである。本実施形態では、心臓からの距離が遠いほど血圧の推定精度が向上するという観点から、一部位は、手としているが、これに限らない。一部位は、例えば、前腕部(肘から手首まで)に位置する部位としてもよいし、上腕部(肩から肘まで)に位置する部位としてもよい。
【0056】
距離取得部501は、手を第1位置に配置した際の上方距離(第1高低差:以下「第1上方距離」という場合がある。)を取得する。第1位置は、心臓よりも上方の位置であり、なるべく心臓より上方であること望ましい。第1位置は、例えば、手を真っすぐ上方に伸ばした際の位置である。
【0057】
第1上方距離は、高さ検出部20によって検出される。第1上方距離の検出において、高さ検出部20は、例えば、検出した手の高さが第1所定範囲であり、かつ、所定時間以上、手の停止が検出された位置を第1位置と見なして、第1上方距離を検出する。なお、第1上方距離の検出は、このような手法に限らない。例えば、被検者が手を伸ばした状態であること(第1位置)を示す操作入力を、血圧推定装置1が受け付けるようにしてもよく、このようにした場合、高さ検出部20は、当該操作入力を受け付けた際の位置を第1位置と見なして、第1上方距離を検出するようにしてもよい。
【0058】
距離取得部501は、手を第2位置に配置した際の上方距離(第2高低差:以下「第2上方距離」という場合がある。)を取得する。第2位置は、心臓よりも高い位置であり、且つ、第1位置よりも下方の位置である。第2位置は、第1位置よりも離れていることが望ましい。ただし、肘の曲がり過ぎると、血管が圧迫されるおそれがあるため、第2位置は、例えば、肘の角度が90°程度となった際の位置とする。
【0059】
第2上方距離は、高さ検出部20によって検出される。第2上方距離の検出において、高さ検出部20は、例えば、検出した高さが第2所定範囲であり、かつ、所定時間以上、手の停止が検出された位置を第2位置と見なして、第2上方距離を検出する。なお、第2上方距離の検出は、このような手法に限らない。例えば、被検者が手の肘を90°程度曲げた状態であること(第2位置)を示す操作入力を、血圧推定装置1が受け付けるようにしてもよく、このようにした場合、高さ検出部20は、当該操作入力を受け付けた際の位置を第2位置と見なして、第2上方距離を検出するようにしてもよい。
【0060】
(差圧の取得について)
差圧取得部502は、心臓の血圧と手の血圧との差圧を取得する。差圧は、予め複数の被検者の実測値から得た既知のデータに基づいて得られる値である。差圧は、上方距離と一次式の関係で表される。このため、差圧取得部502は、距離取得部501によって取得された上方距離に基づいて、差圧を取得することが可能である。差圧取得部502は、第1上方距離に応じた差圧と、第2上方距離に応じた差圧とを取得する。
【0061】
(推定対象の血圧を拡張期血圧とすることについて)
特に、本実施形態では、心臓の血圧を精度よく推定できるという観点から、推定対象の血圧を拡張期血圧としている。このため、差圧取得部502は、心臓の拡張期血圧と手の拡張期血圧との差圧を示す拡張期差圧(ΔP)を取得する。すなわち、差圧取得部502が取得する差圧は、第1上方距離における拡張期差圧(ΔPd1)と、第2上方距離における差圧(ΔPd2)である。なお、推定対象の血圧は、拡張期血圧に限らず、収縮期血圧とすることも可能である。ただし、血圧の推定精度は、収縮期血圧よりも拡張期血圧の方が高い精度で得られる。
【0062】
(脈波の取得について)
脈波取得部503は、手における複数の箇所から脈波を取得する。複数の箇所は、例えば、手首201および指尖202である。脈波取得部503は、脈波センサ10の計測結果に基づいて、脈波を取得する。脈波取得部503が取得する脈波は、手が第1位置に配置されている際の脈波と、第2位置に配置されている際の脈波とを含む。
【0063】
(被検者の手の動作について)
ここで、手を上げるときには、末梢の血圧や血流の低下が起きるため、血管反応が表れやすく、逆に手を下ろすときには、血管反応は比較的表れにくい。このため、本実施形態では、被検者には、手を上方から下ろす方向の動作を行わせるようにしている。脈波取得部503は、被検者が手を下ろす動作を行う際の、第1上方距離における脈波と第2上方距離における脈波とを取得する。
【0064】
なお、被検者の手の動作は、手を下ろす方向の動作に限らない。例えば、被検者に、手を上げる方向の動作を行わせるようにしてもよい。この場合、脈波取得部503は、被検者が手を上げる動作を行う際の第1上方距離と第2上方距離とをそれぞれ取得すればよい。ただし、血圧の推定精度は、手を上げる方向に動作させる場合よりも、手を下げる方向に動作させる場合の方が高い精度で得られる。
【0065】
(被検者の呼吸について)
ここで、血圧の推定に際して、呼吸による外乱を排除できる呼吸態様とすることが望ましい。所定の呼吸態様は、例えば、息を吐いた後に、15秒ほど息を止める呼吸態様である。具体的には、計測開始前に、被検者は軽く息を吐いた後、息を止めてから計測を始め、手を第1位置の高さに上げた後に、第2位置まで下ろして止める動作を15秒ほどで行う。本実施形態において、脈波取得部503は、ユーザが所定の呼吸態様とした際の、第1上方距離における脈波と第2上方距離における脈波とを取得する。
【0066】
(脈波伝播速度の算出について)
速度算出部504は、脈波取得部503によって取得された脈波に基づいて、第1位置における脈波伝播速度(PWV)と、第2位置における脈波伝播速度(PWV)をそれぞれ算出する。具体的には、速度算出部504は、手首201および指尖202に脈がそれぞれ到達した時刻の差と、手首201および指尖202の距離とに基づいて、脈波伝播速度(PWV、PWV)をそれぞれ算出する。より具体的には、速度算出部504は、具体的には、上述した数式(1)、(2)を用いて、脈波伝播速度(PWVおよびPWV)を算出する。
【0067】
(被検者の心臓の血圧の推定について)
血圧算出部505は、差圧取得部502によって取得された第1上方距離と第2上方距離とにおける差圧と、速度算出部504によって算出された第1上方距離と第2上方距離とにおける脈波伝播速度(PWV)と、に基づいて心臓の血圧を算出する。本実施形態では、血圧算出部505は、拡張期差圧(ΔP)と、脈波伝播速度(PWV)とに基づいて、心臓の拡張期血圧を算出する。血圧算出部505は、上述した数式(10)を用いて、心臓の拡張期血圧(P)を算出する。
【0068】
より具体的には、血圧算出部505は、上述した数式(10)に、第1上方距離における拡張期差圧(ΔPd1)と、第1上方距離における脈波伝播速度(PWV)とを代入した第1の式を生成する。また、血圧算出部505は、数式(10)に、第2上方距離における拡張期差圧(ΔPd2)と、第2上方距離における脈波伝播速度(PWV)とを代入した第2の式を生成する。血圧算出部505は、第1の式と第2の式との連立方程式から、未知数である「β/2ρ」と、心臓の拡張期血圧「P」とを算出する。これにより、推定対象である、被検者の心臓の拡張期血圧「P」が導出される。
【0069】
(算出結果の出力について)
出力部506は、ディスプレイ104に、血圧算出部505の算出結果を出力する。なお、血圧推定装置1がスピーカを備える場合、出力部506は、スピーカを介して当該算出結果を音声出力させるようにしてもよい。また、出力部506は、通信I/F103を制御して、外部の装置に算出結果を出力することも可能であるし、メモリ102に算出結果を出力してメモリ102に算出結果を記憶させることも可能である。
【0070】
(血圧推定装置1が行う血圧の推定に係る処理)
図6は、血圧推定装置1が行う血圧の推定に係る処理の一例を示すフローチャートである。図6において、血圧推定装置1は、計測開始に係る操作を受け付けることにより計測開始となったか否かを判断する(ステップS601)。なお、測定に際して、被検者は、所定の呼吸態様で呼吸を行う。
【0071】
血圧推定装置1は、計測開始となるまで待機し(ステップS601:NO)、計測開始になると(ステップS601:YES)、第1上方距離を取得したか否かを判断する(ステップS602)。血圧推定装置1は、第1上方距離を取得するまで待機し(ステップS602:NO)、第1上方距離を取得すると(ステップS603:YES)、第1上方距離における脈波を取得する(ステップS603)。
【0072】
そして、血圧推定装置1は、取得した脈波に基づいて、上述した数式(1)、(2)を用いて、第1上方距離における脈波伝播速度(PWV)を算出する(ステップS604)。次に、血圧推定装置1は、第1上方距離(高さh)に対応する差圧(ΔPd1)を取得する(ステップS605)。そして、血圧推定装置1は、数式(10)に、第1上方距離に対応する差圧(ΔPd1)と、第1上方距離における脈波伝播速度(PWV)とを代入した第1の式を生成する(ステップS606)。
【0073】
次に、血圧推定装置1は、第2上方距離を取得したか否かを判断する(ステップS607)。血圧推定装置1は、第2上方距離を取得するまで待機し(ステップS607:NO)、第2上方距離を取得すると(ステップS607:YES)、第2上方距離における脈波を取得する(ステップS608)。
【0074】
そして、血圧推定装置1は、取得した脈波に基づいて、上述した数式(1)、(2)を用いて、第2上方距離における脈波伝播速度(PWV)を算出する(ステップS609)。次に、血圧推定装置1は、第2上方距離(高さh)に対応する差圧(ΔPd2)を取得する(ステップS610)。そして、血圧推定装置1は、数式(10)に、第2上方距離に対応する差圧(ΔPd2)と、第2上方距離における脈波伝播速度(PWV)とを代入した第2の式を生成する(ステップS611)。
【0075】
次に、血圧推定装置1は、第1の式と第2の式との連立方程式から、被検者の心臓の拡張期血圧(P)を算出する(ステップS612)。そして、血圧推定装置1は、算出結果である拡張期の心臓の血圧(P)を出力し(ステップS613)、一連の処理を終了する。
【0076】
なお、上述した処理において、各位置における脈波を取得してから上方距離を取得してもよいし(例えば、ステップS603の後に、ステップS602を行ってもよい)、第1の式の生成および第2の式の生成は、第2上方距離の取得後にまとめて行うようにしてもよい。具体的には、ステップS604~S706に係る処理を、例えば、ステップS608に係る処理の後に行うようにしてもよい。
【0077】
以上説明したように、本実施形態に係る血圧推定装置1は、被検者の手が心臓よりも高い第1位置と第2位置との両位置における差圧(ΔP)と、両位置における脈波伝播速度とに基づいて、被検者の心臓の血圧を算出する。これにより、被検者が手を上方から下方へ下ろすといった簡単な動作を行うことにで、血圧を測定することができる。また、本実施形態に係る血圧推定装置1は、長時間の使用において生じる推定誤差を抑えることができる。したがって、家庭等で簡単に血圧を測定することができる。
【0078】
また、本実施形態に係る血圧推定装置1は、推定対象の血圧を拡張期血圧とし、被検者の心臓の拡張期血圧を算出する。これにより、精度よく推定することができる拡張期血圧を対象にして、血圧の測定を行うことができる。
【0079】
また、本実施形態に係る血圧推定装置1は、ユーザが所定の呼吸態様とした状態で、第1上方距離における脈波と第2上方距離における脈波とを取得する。これにより、心臓の血圧の測定に際して、呼吸による外乱を排除することができるため、血圧の推定精度を向上させることができる。
【0080】
また、本実施形態において、昇降させる被検者の一部位を手とした。これにより、被検者は簡単な動作で血圧を測定することができるとともに、精度よく血圧を推定することができる。
【0081】
また、本実施形態では、第1位置を第2位置よりも高い位置とし、血圧推定装置1は、被検者が手を下ろす動作を行う際の、第1上方距離の脈波と第2上方距離における脈波とを取得する。これにより、血管反応が表れにくいときの血圧を推定できるため、血圧の推定精度を向上させることができる。
【0082】
(他の実施形態)
以下に、他の実施形態について説明する。なお、他の実施形態では、上述した第1実施形態で説明した内容については、適宜説明を省略する。また、上述した第1実施形態、および他の実施形態に示す各構成をそれぞれ組み合わせた構成とすることも可能である。具体的には、第1実施形態と他の実施形態とのうち、全てを含む構成としてもよいし、いずれかを組合せた構成としてもよい。
【0083】
(第2実施形態)
上述した第1実施形態では、脈波センサ10を備えるようにし、脈波と高さとを検出する例について説明した。第2実施形態では、撮像装置によって撮像される画像データに基づいて、脈波を検出する例について説明する。また、第2実施形態では、心臓からの手の高さについても、画像データに基づいて取得することとする。
【0084】
(第2実施形態に係る測定システムStの構成例)
図7は、第2実施形態に係る測定システムStの構成例を示す図である。図7に示すように、測定システムStは、血圧推定装置1と、撮像装置700とを備える。血圧推定装置1と、撮像装置700とは、有線または無線で、例えばネットワークを介して接続される。
【0085】
撮像装置700は、例えば、スマートフォン、カメラ付き携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、Webカメラなどの一般的な撮像機能(可視光カメラ)を備える端末装置である。撮像装置700は、撮影レンズと、可視光を受光する可視光用撮像素子(例えばCCDセンサやCMOSセンサ)とを備え、撮影レンズにより撮像素子に結像される被写体像をその撮像素子において電気信号に変換した画像データを出力する。画像データは、例えば、複数のフレーム画像からなる動画データである。ただし、画像データは、動画データに限らず、複数の静止画データでもよい。
【0086】
撮像装置700は、画像データに対してノイズリダクション処理、黒レベル減算処理、混色補正、シェーディング補正、ホワイトバランス補正、ガンマ補正、同時化処理、RGB/YC変換処理等の信号処理を施す。本実施形態では、撮像装置700は、RGB形式の画像データを出力する。
【0087】
撮像装置700は、人体の異なる2箇所の部位(以下、「測定部位」ともいう。)を非接触で撮像し、時系列的に連続した画像データ(RGB形式の画像データ)を出力する。測定部位としては、例えば、手のひら領域であり、より具体的には、被検者の手首201と指尖202とである。人体の皮膚領域は、脈波(脈動)に応じて血流量が変化する。撮像装置700は、画像データを血圧推定装置1へ出力する。
【0088】
血圧推定装置1は、撮像装置700から得た画像データに基づいて、脈波を取得する。具体的には、第2実施形態に係る脈波取得部503は、皮膚領域における画素値の時間的な変化(皮膚の色変化)を検出することによって、脈波を取得する。手のひらの領域は、他の領域と比べて皮膚領域が広く、ノイズの影響をできるだけ抑えた状態で皮膚の色変化を検出することができる領域である。
【0089】
具体的には、脈波取得部503は、撮像装置700から得た各フレーム画像の中から各測定部位を抽出し、各測定部位における画素値変化を検出する。具体的には、各フレーム画像において、手首201(第1測定部位)に属する各画素の画素値の平均画素値と、指尖202(第2測定部位)に属する各画素の画素値の平均画素値とを求める。これにより、脈波取得部503は、画素値変化を示す波形を得て、さらに、脈波に対応した振幅を有する脈波(脈波信号)を得ることができる。脈波取得部503は、取得した脈波を速度算出部504へ出力する。
【0090】
速度算出部504は、手首201と指尖202との画素値変化に基づいて得られる脈変化の時間差から脈波伝播速度を算出する。具体的には、速度算出部504は、各測定部位の脈波信号の基準点(例えば立ち上がり点)の時間差(脈波伝播時間)「T-T」を数式(1)によって求め、各測定部位間の距離をLとすると、数式(2)によって脈波伝播速度(PWV)を算出することができる。
【0091】
(画像データから上方距離の検出について)
撮像装置700は、撮像した画像データに基づいて、第1上方距離と第2上方距離とを検出する。撮像装置700は、心臓の位置を基準にして、手(被写体)の動きを追尾することにより、第1上方距離と、第2上方距離とを検出する。撮像装置700は、例えば、予め記憶される計測プログラム(計測アプリ)を用いて、各上方距離を取得してもよい。距離取得部501は、撮像装置700によって検出された各上方距離を取得する。
【0092】
なお、第2実施形態に係る測定システムStは、撮影時の姿勢に係る案内画像を表示するディスプレイを備えてもよい。ディスプレイは、例えば、画面上に撮影ガイド枠を撮影画像に合成して表示する。ディスプレイは、撮像装置700によって動画撮影が開始されると、手のガイド枠を表示するとともに、例えば「枠内に手を撮影して、上方に伸ばし、ゆっくり下げてください」と通知メッセージを表示してもよい。
【0093】
以上説明したように、第2実施形態に係る血圧推定装置1は、撮像装置700によって撮像された手の画像データに基づいて得られる脈波を取得する。これにより、被検者に脈波センサ10を装着させなくても、血圧を測定することができる。したがって、血圧の測定に係る被検者の負荷を軽減させることができる。
【0094】
また、第2実施形態に係る血圧推定装置1は、撮像装置700によって撮像された手の画像データに基づいて、第1上方距離と第2上方距離とを取得する。すなわち、第2実施形態に係る血圧推定装置1は、脈波の取得と、手の上方距離の取得とをいずれも画像データに基づいて行う。これにより、完全に非接触式とした態様で血圧を測定することができる。したがって、血圧の測定に係る被検者の負荷をより軽減させることができるため、被検者はより簡単に血圧を測定することができる。
【0095】
(第3実施形態)
上述した第1実施形態では、2点の値から直線の式を導出して血圧を算出した。第3実施形態では、手を動かしている時の高さが計測できる場合、複数位置において連続的に、心臓からの手の高さと脈波伝播速度とを計測し、複数点のデータから最小2乗法などで直線の方程式を導出する例について説明する。
【0096】
第3実施形態についても、被検者には、手を上方から下方へ下ろす動作を行わせる。第3実施形態において、高さの計測と脈波の検出は第1実施形態あるいは第2実施形態と同様である。第3実施形態において、血圧推定装置1が備える推定部は、推定値ΔPとPWVとの間の回帰直線である数式(10)に相当する推定式を、最小二乗法を用いて生成する。
【0097】
血圧算出部505は、生成部によって推定された推定式の係数の値から、被験者の血圧を算出する。具体的には、血圧算出部505は、推定式の切片を傾きに「-1」をかけた値で除すことで拡張期血圧Pの推定値を算出する。出力部506は、血圧算出部505の算出結果を出力する。
【0098】
以上説明したように、第3実施形態の構成としたとしても、被検者が手を上方から下方へ下ろすといった簡単な動作を行うことにで、血圧を測定することができる。また、上述したように、第3実施形態においても、手の動きは、下ろす動作に限られず、上げる動作でも可能である。
【0099】
(実施形態の変形例)
以下に、第1実施形態および第2実施形態の変形例について説明する。なお、上述した第1実施形態、第2実施形態、および変形例に示す各構成をそれぞれ組み合わせた構成とすることも可能である。具体的には、第1実施形態と第2実施形態と変形例のうち、全てを含む構成としてもよいし、いずれかを組合せた構成としてもよい。
【0100】
(変形例1)
変形例1は、第2実施形態に係る変形例である。変形例1では、一度に複数の被検者の血圧をまとめて測定することについて説明する。変形例1において、複数の被検者は、撮像装置700のフレーム内に収まるように撮像される。血圧推定装置1は、撮像装置700によって撮像された画像データに基づいて、複数の被検者のそれぞれの脈波の検出と、上方距離の検出をまとめて行う。これにより、血圧推定装置1は、各被検者の血圧を算出して、まとめて出力することも可能である。
【0101】
変形例1によれば、介護施設等の利用者に対して、当該利用者の運動時などに手を上げて下げるといった動作を含ませることにより、複数の被検者の血圧を一括して測定することができる。したがって、複数の被検者にとってストレスがなく、簡単且つ迅速に血圧を測定することができる。
【0102】
(変形例2)
上述した実施形態において、高さ検出部20による高さの検出対象とする一部位は、手としたが、これに限らない。検出対象とする一部位は、β/2ρ(傾き)が昇降により大きく変化しないと見なせる部位であればよく、例えば、足とすることも可能である。足は、例えば、足首から足先の部位である。脈波を取得する箇所は、例えば、足の裏のうち、踵および足の指尖である。撮像装置700は、足の裏を撮像するものとする。
【0103】
被験者は、足の位置が心臓よりも高くなるよう、例えば、仰向けになって血圧の測定が行われるものとする。高さ検出部20は、心臓と足との間の距離である上方距離を検出する。上方距離の検出において、検出対象とする被検者の足の部位は、例えば、指尖、踵など、予め定めた足の一部分とすればよい。
【0104】
第1位置は、なるべく上方であること望ましく、例えば、足を真っすぐ上方に伸ばした際の位置である。第2位置は、心臓よりも高い位置であり、且つ、第1位置よりも下方の位置であればよい。また、被検者には足を上方から下ろす方向の動作を行わせるようにし、高さ検出部20は、当該動作によって、第1上方距離と第2上方距離とを検出すればよい。
【0105】
変形例2によれば、被検者が横になりながら血圧を測定することができる。これにより、座位の姿勢をとることが困難な被検者に対しても、血圧を容易に測定することができる。
【0106】
また、上述した実施形態では、高さ検出部20による高さの検出対象とする一部位は、片方の手としたが、これに限らず、両手としてもよい。ただし、左右でβ/2ρ(数式(10)の傾きの大きさ)が同じであると見なせる部位であることを要することから、検出対象とする部位は、左右で同じ部位であればよい。このため、例えば、第1上方距離の検出に関しては右手で行い、第2上方距離の検出に関しては左手で行うことも可能である。
【0107】
(実施形態および変形例に係る各機能部が具備される装置について)
なお、上記において説明した血圧推定装置1における各機能(入出力、記憶、処理(判断を含む))の全部または一部は、当該機能の実行主体として説明した装置とは異なる他の装置において実現してもよい。具体的には、上述した説明では、血圧推定装置1が、距離取得部501と、差圧取得部502と、脈波取得部503と、速度算出部504と、血圧算出部505と、出力部506とを備える構成について説明した。各機能部の全部または一部が、外部のサーバ装置等、他のコンピュータ装置に具備されていてもよい。また、他のコンピュータ装置は、複数台であってもよいし、1台であってもよい。
【0108】
上記に関連し、血圧推定装置1は、被検者の手が心臓よりも高い第1位置と第2位置との両位置における差圧(ΔP)と、両位置における脈波伝播速度とに基づいて、被検者の心臓の血圧を算出することに関して、入出力のインターフェース部分に特化したいわゆるシンクライアントとして機能してもよい。つまり、血圧推定装置1は、各種の入力(操作者の操作のほか、脈波センサ10、高さ検出部20、撮像装置700等のデバイスによる検出)を受け付け、入力情報(操作情報等)を外部の他の装置に送信し、当該入力情報に基づく他の装置の処理結果(血圧の算出結果等)を受信し、各種の出力を行ってもよい。
【0109】
なお、以上に説明した血圧推定装置1を実現するためのプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記録し、そのプログラムをコンピュータシステムに読み込ませて実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記憶媒体」とは、USB(Universal Serial Bus)フラッシュメモリ、SSD(Solid State Drive)、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記憶媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0110】
(検証について)
次に、本発明者が行った検証について説明する。本実施形態で係る血圧推定のアルゴリズムに関して説明する。上述した血圧推定方法が成立する条件として、hとΔPとの関係が、個人差が少なく、時不変であるという条件が必要である。この条件について、考察した。
【0111】
本検証に係る血圧推定法は、一般的に上腕で計測される血圧における最低血圧を測定対象とし、すなわち、心臓における拡張期血圧Pの推定方法とする。数式(10)には、手の高さh(上方距離)から拡張期差圧(ΔP)を算出できる必要がある。血管を上端が開放された固い管であると単純化して考えると、ΔPは、血液による水頭で表されるため、ρghに等しいはずである。ρは血液の比重、gは重力加速度を示す。したがって、実際のΔPもhに関する単純な関数で表されることが予想される。
【0112】
そこで、このことを確かめるために、事前に両者の関係について確認を行った。
図8は、血圧推定法の検証に係る計測環境の一例を示す模式図である。図8に示すように、右手については、心臓とほぼ同じ高さに配置して、手首に、トノメトリ式連続血圧計801を装着し、右腕にフィナプレス式連続血圧計用カフ802を装着した。左手については、中指と薬指にフィナプレス式連続血圧計811を装着し、示指に光電式容積脈波センサ812を装着した。胸部には心電図の電極820を装着した。そして、左手を、心臓の高さを基準に-40cmから+60cmの範囲を一定の速さで昇降させ、その際の収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧を計測し、心臓におけるこれらの血圧との差と、手の高さとの関係を調べた。
【0113】
図9は、手の心臓に対する高さと、心臓の収縮期血圧および手の収縮期血圧の差との関係を示す図である。図10は、手の心臓に対する高さと、心臓の拡張期血圧および手の拡張期血圧の差との関係を示す図である。図11は、手の心臓に対する高さと、心臓の平均血圧および手の平均血圧の差との関係を示す図である。
【0114】
図9図11に示すように、昇降させた手の血圧は、心臓より低い位置と高い位置とで変化の様子が異なることが分かる。すなわち、心臓より低い位置において手を挙げたときの血圧の変化は、収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧のすべてにおいて個人差が大きく、また、それぞれの傾きも異なる。
【0115】
図12は、手の心臓に対する高さと末梢の血圧との関係を示す図である。図12に示す図は、手が心臓より高い場合についての結果を、収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧ごとにまとめたものである。図中の誤差棒は標準偏差を示している。これらの結果から、心臓よりも高い位置における末梢の拡張期血圧については、ばらつきが特に小さいことがわかる。
【0116】
図13は、心臓からの高さと、末梢の血圧との関係の個人差を示すテーブルである。図13に示す図は、心臓より低い位置から手を上げたときと、心臓の高さから手を上げたときとに分け、被験者それぞれについて、血圧差と、高さとの関係を1次関数で近似し、近似直線の傾きの平均値およびその分散について示す。図13に示すように、心臓よりも高い位置においては、心臓からの手の高さhと、心臓の拡張期血圧と手の拡張期血圧との差ΔPと、の関係は、個人差が小さいことがわかる。
【0117】
拡張期血圧において個人差が小さい理由の一つとして、拡張期では血流が極めて少なく、手の高低差による血圧変化は主に水頭圧の違いに依存するためであると考えられる。このため、手の位置が心臓よりも高ければ、心臓における拡張期血圧と手の拡張期血圧との差圧が心臓からの高さによって決まると推測することができる。
【0118】
そこで、手の心臓からの高さhと、手の拡張期血圧および心臓の拡張期血圧の差ΔPとの関係式を、ΔP=f(h)として表すと、本検証結果は数式(13)のようになった。また、血液の比重を1.06としたときの水頭圧による血圧の変化量は、数式(14)となるため、傾きは、水頭圧とは大きく異なる。これは、水頭圧による血圧の変化量を示す数式(14)には、血管の末梢側が大気圧開放されていないことや、血液の粘性や血管の抵抗を示すパラメータが含まれていないこと、さらには使用した連続血圧計の特性などが要因と考えられる。
【0119】
【数13】
【0120】
【数14】
【0121】
本検証は、hと、ΔPとの関係において、ほぼ個人差がなく、不変であると仮定して、血圧の推定を行う。
【0122】
以上のことから、本検証に係る血圧推定方法では、手の昇降を心臓よりも十分に高い位置で行い、脈波の全振幅が減少する高さの範囲で計測を行う。また、呼吸による影響を抑えるために、呼吸を止めた状態で脈波を計測することが望ましい。
【0123】
(検証結果)
上述したように、血圧の推定に係る条件として、(1)手の位置が心臓より十分高いこと、(2)呼吸の影響を除外できることとすることで、手の高さの変化から、末梢の血圧の変化の推定値Pを算出でき、末梢の拡張期血圧の変化と末梢のPWVとの関係が1次関数で表せる。これを利用すると、両者の関係から得られた回帰直線における切片を傾きで除すことにより、心臓の高さの拡張期血圧を推定できる。
【0124】
脈波は接触式の光電式容積脈波だけでなく、映像脈波による非接触計測によっても得られる。実験1では、接触型のセンサを用いて本血圧推定方法の検証を行い、推定精度について考察した。その後、後述する実験2で、映像脈波を用いた完全非接触での血圧推定を試みた。
【0125】
(実験1:容積脈波センサを用いた血圧推定)
本血圧推定方法を検証するために、先ず、接触式の容積脈波センサを用いた血圧推定法について検証した。
図14は、接触型のセンサを用いた実験1の計測環境の模式図である。
図15は、光電式容積脈波センサの装着位置を示す図である。
実験1において、実験対象は健常者18名(平均年齢:20.6±0.8歳)とした。被験者は実験開始時と終了時に市販の家庭用血圧計で血圧を計測する。その後、被験者は、図14に示すように椅子に座り胸部に心電図(ECG)の電極1603、昇降させる左手には光電式容積脈波(PPG)センサ1611と、フィナプレス式連続血圧計用カフ1602とを装着した。
【0126】
図15に示すように、光電式容積脈波センサ1611の装着位置は、心臓に近い位置から指尖に向けた4ヵ所(手首1701、指尖球1702、基節部1703、指尖1704)である。また、手の高さを計測するために、巻き線式のリニアエンコーダ1620を利用し、昇降する左手の親指に、エンコーダの先端を装着させた。巻き線式のリニアエンコーダ1620は、巻き取った糸の長さが計測されるため、手を垂直に昇降させる必要がある。右手の中指と薬指には、フィナプレス式連続血圧計1601を装着し、ほぼ心臓の高さに固定した。なお、使用する計測器は、すべてサンプリング周期を1msとして記録することとした。
【0127】
図16は、実験1に係る実験プロトコル(1セット分)を示す図である。図16に示すように、(0)各種のセンサを装着し、(1)左手を心臓から60cm上に上げる。次に、呼吸の影響による影響をなくすために、(2)計測開始の合図で、3秒間息を吐き続ける。(3)その後、呼吸を止めたまま、15秒間で左手を心臓の高さまで降ろす。このとき、手(手首)の傾斜角が変化すると、光電式容積脈波センサ間の高低差が変わってしまうため、手の角度を変えずに、手を降ろすようにした。図16に実験プロトコルにおける(1)~(3)の計測を計5セット行った。
【0128】
被験者18名のうち、2名について、末梢の脈波が正しく計測できず、他の2名について、センサの装着不備があったため、4名を除いた計14名の被験者のデータを解析の対象とした。
【0129】
図17は、ある被験者の心電図(ECG)および末梢の容積脈波の計測結果を示す図である。まず、すべての計測データをECGのR波を基に3拍のデータ窓で切り出す。PWVは、末梢の4ヵ所(手首1701、指尖球1702、基節部1703、指尖1704)の脈波のすべての組み合わせ(6種類)で算出する。末梢のPWVの算出には、サンプリング周期である1msより高い時間分解能が必要である。このため、相互相関関数を関数近似して末梢のPWVを算出した。このとき、相関係数が0.85を下回る拍や、中央絶対偏差の3倍を超えるデータに関しては、外れ値として除いた。
【0130】
図18は、ある被験者の2回の計測におけるPWVと推定値ΔPとの関係を示す図である。なお、推定値ΔPは、図18に示すΔP(Hat)を示す。図18に示す図は、ある被験者の心臓における拡張期血圧と、末梢における拡張期血圧との差ΔPを、心臓からの手の高さhから数式(13)を用いて推定した際の推定値ΔPとPWVとの関係を示す。両者の間には強い線形相関(R=-0.95、R=-0.97)があり、ほぼ理論式通りの関係があった。推定値ΔPは、手の高さhから求めるが、本実験では手を連続的に降ろすため、3拍のデータ窓の真ん中の拍のR波の時刻における手の高さをそのデータにおける高さとした。
【0131】
図18に示した推定値ΔPとPWVとの間の回帰直線である数式(10)を、最小二乗法を用いて推定し、その切片を傾きで除すことで拡張期血圧Pの推定値を算出した。このとき、推定値ΔPの算出に数式(14)を使用した推定値を推定値Pとし、手首の動脈圧(橈骨動脈圧)から得られた心臓の拡張期血圧の実測値とを比較した。また、推定値と実測値との関係から新たに補正パラメータを設定し、推定値を算出したものを推定値P’とし、二乗平均平方根誤差(RMSE)で推定精度について考察した。
【0132】
(実験1の結果)
実験1では、手に装着した末梢の4ヵ所(手首1701、指尖球1702、基節部1703、指尖1704)のセンサから得られた脈波を用いて6種類のPWVを算出したが、2点間の距離が最も長い手首1701および指尖1704のペアを選択した。個人において推定に用いるデータは、5セットのデータの中で、推定値ΔPとPWVとの回帰直線の相関係数(R)が最も高いセットを用いた。被験者全体におけるPWVと推定値ΔPとの間の相関係数の平均値は、R=-0.89±0.09となり、すべてのデータで十分な線形性が確認できた。
【0133】
図19は、数式(14)を用いて算出した推定値ΔPを用いて拡張期血圧を推定した結果を示す図である。推定値は、実験前後に上腕血圧計で計測した拡張期血圧の平均値との間にそれぞれ正の相関が見られた(R=0.48)。RMSEの値は26.5mmHgであった。この結果から、高さとPWVとの間には線形関係が認められるため、血圧の実測から新たな補正を行うことが可能であると考えられる。図19における回帰直線を数式(15)に示す。
【0134】
【数15】
【0135】
図20は、数式(15)の回帰直線を用いて補正した推定値を推定値P’として、実測値と比較した結果を示す図である。
図21は、実測値と比較した際の推定値の推定誤差(RMSE)を示すテーブルである。推定精度について評価するために、二乗平均平方根誤差(RMSE)を算出したところ、推定値P’の推定誤差は10.4mmHgとなった。家庭用血圧計は、一般に5.0mmHgの測定誤差が許容されている。本実験では、カフによる圧迫をせずに推定誤差10.4mmHgという精度での拡張期血圧の推定が可能であった。
【0136】
(本血圧推定方法の実用化について)
次に、接触型のセンサを利用した実験1の検証結果について説明する。手の昇降を心臓から十分に高い位置で行うことにより、手の高さとPWVの変化との関係が理論式通りの結果を示した。そこで、手の高さと拡張期血圧との関係を表す水頭圧から求めた数式(14)を用いて推定を行った。上腕で計測した拡張期血圧との推定誤差は、26.5mmHgであった。さらに、推定値と実測値から得た回帰式を用いて推定値を補正したところ、推定誤差は10.4mmHgとなった。この推定誤差は、複数回の計測の容易さを考慮すると、日々の健康モニタリングにおいて活用できる可能性がある。また、本結果は複数の被験者で同一のアルゴリズムおよびパラメータで推定できており、本推定方法は個人差によらない。また、手の高さ(h)とPWVとの関係には十分な線形性があったことから、この関係性を用いて心臓の拡張期血圧と末梢の拡張期血圧との差に関連する補正パラメータを得ることができる。
【0137】
(実験2:完全非接触血圧推定)
上述した実験1により、血圧推定法の妥当性が示された。また、実験1では、末梢の脈波伝播速度を得るために、接触式センサと高さの計測を要する。一方で、手の昇降をとらえた映像から、脈波(映像脈波)と手の心臓からの高さを得ることができれば、完全非接触の血圧計測を実現することができる。本発明者は、映像脈波の抽出技術を用いて、昇降する左手に装着していたセンサ類をビデオカメラ1つのみで代用し、ビデオカメラで撮影した映像から脈波を抽出することで完全非接触での血圧推定を試みた。
【0138】
図22は、完全非接触とした実験2の計測環境の模式図である。実験2の被験者は、健常男性8名、健常女性1名の合計9名(平均年齢20.4±0.9歳)である。計測項目は胸部に装着した電極2501による心電図と、右手に装着したフィナプレス式連続血圧計2502による血圧である。右手の高さは心臓の高さで固定した。左手の中指には追尾用のマーカー2503と、光電式容積脈波センサ2504を装着した。心電図、連続血圧および容積脈波のサンプリング周期は、1msとした。
【0139】
また、左手を撮影するためのビデオカメラ2510は、250fpsのフレームレートで記録した。手の昇降をした際に、なるべく均等に光が当たるようにLED照明2511を設置した。また、照明による掌の表面反射を抑えるために、照明とビデオカメラ2510のレンズに偏光フィルタを装着した。計測環境は外部からの環境光による影響をなくすために、遮光カーテンで囲った。手の高さの条件は、心臓の高さを基準0cmとし、その上方0~60cmを手の昇降範囲とした。本実験では、できるだけ脈波を精度よく抽出するために、左手の高さがおよそ20cm(h)、40cm(h)、60cm(h)の3ヵ所で手を静止させて計測した。被験者にはおおよその高さで手を静止させるよう指示し、実際の高さはビデオカメラ2510の映像から測定した。
【0140】
図23は、実験2に係る実験プロトコルを示す図である。図23に示すように、まず、光電式容積脈波センサ2504を装着する前にフィナプレス式連続血圧計2502で血圧を計測し、(0)その後センサ類を装着した。(1)計測開始前に、右手を心臓の高さにし、左手を最初の高さhにセットし、(2)2秒間息を吐いてから、(3)5秒間呼吸を止める。その後、(4)2秒間で呼吸をしながらhに下ろし、(5)手を静止させて、5秒間呼吸を止める。同様に、(6)呼吸をしながら2秒間で心臓付近の高さhまで降ろし、(7)手を静止して、5秒間呼吸を止める。実験プロトコルの(1)~(7)の計測を2セット行った。
【0141】
図24は、映像脈波を抽出する関心領域(ROI:Region Of Interest)の設置例を示す図である。ROIサイズは8×8pixel(約1.0cm×1.0cm)である。さらに、4分割された(4×4pixel(約0.5cm×0.5cm))ものをsubROIとした。ROIは、指尖部と手根部の2か所に設置した。指尖部は、左手の指尖(示指、中指、薬指)にROIをそれぞれ3つおよそ垂直に並べて設置した。指尖のROIの高さ方向の位置は、追尾用のマーカー2503の中心座標を基に決定し、指のROIの中心座標は実際の指の位置から設置した。指の左右方向の位置を得るために、まず示指から薬指にかけて横長のエリアのG成分に注目した。
【0142】
図25は、ROI内の左右位置に対するRGBのうちのGチャンネルの輝度値を示す図である。図25に示すように、G成分の大きさに閾値を設け、各指の範囲を算出し、指の中心座標を1フレームごとに算出した。これらにより、少しの体動であれば追尾しながらROIの設定と脈波の抽出が可能である。手根部については、指尖のROIから100pixel(約12.5cm)下部にROIを設置する。次に、心電図のパワースペクトル密度を求め、そのピーク周波数から推定される心拍数の平均周波数をf[Hz]とし、通過帯域が0.5f~3f[Hz]のバンドパスフィルタ(BPF)を用いて脈波を抽出し、心電図の時系列データから得られたRR間隔とsubROIから抽出されたG成分とB成分の計8チャンネルを用いてPiCA(周期成分分析)により周期性の強い脈波を抽出した。
【0143】
抽出した脈波を3秒のデータ窓で1秒毎に切り出し、指尖と手根部の脈波のPWVを算出した。PWVの算出には、実験1と同様に、脈波間の相互相関関数を利用して算出されたPTTを利用した。相関係数が0.85を下回る拍については、外れ値として除いた。本実験では、BPFの通過帯域の設定やPiCAにRR間隔の情報を織り込んだことにより、電極2501を装着することで体表から得られた心電図の波形を用いた。一方で、映像から抽出したGチャンネルに、適当な周波数フィルタを適用することにより、脈波成分が抽出できることが公知であることから、心電図を用いずに、BPFの通過帯域の設定およびPiCAによる脈波の抽出を行うことも可能である。
【0144】
本実験に係る血圧推定法では、手の高さと末梢の拡張期血圧との関係において、血液の比重を1.06としたときの水頭圧による血圧の変化から導き出した関係式(12)を用いて拡張期血圧を推定したが、実験1の接触式センサを用いた結果より、関係式(12)を利用せず、心臓から十分に距離があるhとhにおいて手の高さ(h)とPWVとの関係から血圧の相対値であるμを算出する。算出されたμと拡張期血圧の実測値(P)との関係から得られる推定パラメータを用いて、拡張期血圧の推定値(P)を算出する。拡張期血圧の推定値(P)と実測値とを比較し、二乗平均平方根誤差(RMSE)を算出し推定精度について考察した。
【0145】
(実験結果)
図26は、手の高さhの変化とPTTとの関係を示す図である。ほとんどの被験者について、手を降ろすことでPTTが小さくなることが示された。なお、解析では、PTTが正の値、つまり脈の伝播が指尖に向かうデータを対象とした。計測されたPTTからPWVを算出し、本実験では手の高さ(h)とPWVとの関係から血圧の相対値であるμを算出した。
【0146】
図27は、血圧に相関する中間パラメータμと拡張期血圧の実測値(P)との関係を示す図である。中間パラメータμと拡張期血圧の実測値(P)との間には、正の相関(R=0.79)がある。この結果から得られた回帰式を数式(16)に示す。この式は、中間パラメータμによって心臓の拡張期血圧の推定値(P)を推定することができることを示す。
【0147】
【数16】
【0148】
図28は、数式(16)による拡張期血圧の推定値(P)と実測値(P)とを比較した結果を示す図である。なお、推定値(P)は、図18に示すP(Hat)を示す。実測値に対する推定値(P)の推定誤差は、7.69mmHgとなった。扱ったデータ数は異なるものの、接触型で推定した結果よりも推定誤差が小さくなり、映像脈波を用いた場合でも、接触型センサを用いた場合と同様の手法で血圧が推定できる。
【0149】
PTTが負になってしまう場合があることについて補足する。
図29は、ある被験者の中指と手根部におけるROIを1pixel移動させたときの手の高さとPTTとの関係を示す図である。本実験データの解析におけるROIの設置は、追尾用のマーカー2503を基に行ったが、ROIを細かく設定することによって、脈の伝播が手根部から指尖に向かうROIを選択できることがわかった。これにより、理論通りの手の高さとPTTとの関係となったデータについて中間パラメータμを算出し、数式(16)を用いて拡張期血圧を推定したところ、推定誤差は8.72mmHgであった。この結果について、本実験で扱ったデータに加えたところ、推定誤差は7.81mmHgとなった。データを追加した後の中間パラメータμと、拡張期血圧の実測値(P)との間には変わらず正の相関(R=0.77)を確認できた。この結果から、手の表面で計測したPWVであれば、そこから算出した中間パラメータμを用いて血圧推定を行うことが可能である。
【0150】
ROIの補正によって算出された推定値と、本実験における拡張期血圧の推定値(P)との比較結果から、PTTを計測する2点間の距離を十分に長くすることや、深部の血液の伝播を計測可能な近赤外線カメラやR(赤)チャンネルを利用することで、血液の伝播が表層に到達するまでの時間差による影響を抑えられる可能性がある。また、図29に示すように、映像から脈波伝播速度を計測する場合、はROIのペアを無数に設定できるため、手のひら全体で複数のペアのPTTを計測し、最も信用のできるPTTを選択するようなアルゴリズムを作成することにより、推定精度をさらに向上させることができる。
【0151】
実験2では、血圧推定法について映像脈波を用いることによって、映像のみで非接触での検証を行った。その結果、拡張期血圧の実測値(P)と推定値(P)の推定誤差を示すRMSEは、7.69mmHgとなった。高血圧患者のデータを取り入れることや、解析方法を改善することで推定精度をさらに向上させることが可能である。
【0152】
また、実験2では、追尾用のマーカー2503を用いて手の検出を行い、計測点では手を静止させた。ただし、ビデオカメラやスマートフォンのカメラの性能によっては、マーカー2503を用いずに、手のひらを連続的に追尾することも可能である。これにより、手を静止させることなく、脈波の抽出を行うことも可能である。したがって、計測時間の短縮にもつながり、ストレスを与えることなく計測することができる。また、Webカメラを用いることにより、遠隔での血圧測定を行うことも可能である。
【0153】
以上のように、本実験の結果は、日々の健康モニタリングにおいては有用であることを示唆した。さらに、日々の健康モニタリングにおいて課題となっていた計測の煩雑さを解消させることができる。特に、高血圧患者の中でも認知されていない患者が多くいることから、日々の計測データを蓄積することによって、自身の血圧の変化にいち早く気づくことができるため、重症化する前に早期の治療を行うことができる。
【符号の説明】
【0154】
1…血圧推定装置、10…脈波センサ、20…高さ検出部、101…CPU、102…メモリ、104…ディスプレイ、501…距離取得部、502…差圧取得部、503…脈波取得部、504…速度算出部、505…血圧算出部、506…出力部、700…撮像装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
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図26
図27
図28
図29