(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181859
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】放射線撮像装置、情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20060101AFI20231218BHJP
G01T 1/17 20060101ALI20231218BHJP
G01T 1/36 20060101ALI20231218BHJP
G01T 1/24 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
A61B6/00 333
A61B6/00 350S
A61B6/00 320M
G01T1/17 H
G01T1/36 A
G01T1/17 A
G01T1/17 F
G01T1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095224
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】照井 晃介
(72)【発明者】
【氏名】岩下 貴司
(72)【発明者】
【氏名】藤本 竜一
【テーマコード(参考)】
2G188
4C093
【Fターム(参考)】
2G188AA03
2G188AA27
2G188BB02
2G188BB04
2G188BB05
2G188BB06
2G188BB15
2G188CC29
2G188DD05
2G188DD47
2G188EE07
2G188EE08
2G188EE12
2G188EE17
2G188EE25
2G188EE27
2G188EE29
2G188EE37
2G188FF04
2G188FF18
4C093CA13
4C093EA07
4C093EB13
4C093EB17
4C093FA13
4C093FA15
4C093FA52
4C093FA59
4C093FD05
4C093FF34
4C093FF36
(57)【要約】
【課題】照射した放射線のエネルギースペクトルを取得すること。
【解決手段】放射線撮像装置は、時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計して、エネルギースペクトルを取得する処理を行う処理部を備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計して、エネルギースペクトルを取得する処理を行う処理手段を備える放射線撮像装置。
【請求項2】
被写体に放射線を照射して撮影を行うことで得た互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像と、時系列に取得された放射線フォトンエネルギーに基づいて取得したエネルギースペクトルとを用いて、エネルギーサブトラクション処理を行う処理手段を備え、
前記処理手段は、
前記放射線エネルギーの信号をサンプルホールドするタイミングで、前記放射線フォトンエネルギーを分割したエネルギー情報を集計して、前記エネルギースペクトルを取得する放射線撮像装置。
【請求項3】
前記処理手段は、前記エネルギー情報における時系列のフォトン数をカウントすることにより前記エネルギースペクトルを取得する請求項1または2に記載の放射線撮像装置。
【請求項4】
前記処理手段は、第1の放射線エネルギーに対応した信号をサンプルホールドするタイミングと、前記第1の放射線エネルギーよりも高い第2の放射線エネルギーに対応した信号をサンプルホールドするタイミングとで、前記放射線フォトンエネルギーを分割する請求項1または2に記載の放射線撮像装置。
【請求項5】
放射線が少なくとも1回または複数回照射された前記放射線フォトンエネルギーを時系列に取得する取得手段を更に備え、
前記処理手段は、前記放射線が複数回照射された場合に、前記放射線のエネルギーに対応した信号をサンプルホールドするタイミングで分割された前記放射線フォトンエネルギーを前記放射線のエネルギー別に合計して前記エネルギー情報を取得する請求項1または2に記載の放射線撮像装置。
【請求項6】
前記処理手段は、前記放射線が複数回照射された場合、照射毎に一致した前記タイミングで前記放射線フォトンエネルギーを分割する請求項5に記載の放射線撮像装置。
【請求項7】
時間的に変化する管電圧に基づいた放射線の照射に同期して前記放射線フォトンエネルギーを取得する取得手段を更に備える請求項1または2に記載の放射線撮像装置。
【請求項8】
前記処理手段は、前記エネルギースペクトルにおいて、放射線のエネルギー領域を超えた超過領域のエネルギースペクトルが含まれている場合、当該超過領域のエネルギースペクトルを除外するパイルアップ補正を行う請求項1または2に記載の放射線撮像装置。
【請求項9】
前記処理手段は、前記エネルギースペクトルの波形を、滑らかな形状に補正するスムージング補正を行う請求項1または2に記載の放射線撮像装置。
【請求項10】
管電圧を切り替えて放射線を発生する放射線発生手段を更に備え、
前記放射線発生手段は、
第1管電圧と、前記第1管電圧よりも高い第2管電圧と、前記第1管電圧とを、切り替えて前記放射線を発生する、又は、
少なくとも、前記第1管電圧と第2管電圧とを切り替えて前記放射線を発生する、又は、
少なくとも、前記第2管電圧と前記第1管電圧とを切り替えて前記放射線を発生する請求項1または2に記載の放射線撮像装置。
【請求項11】
前記処理手段は、撮影条件を変更した前記エネルギーサブトラクション処理のシミュレーションにより取得された画像の画質を評価情報に基づいて評価し、前記評価情報が最大値となる撮影条件を設定する請求項2に記載の放射線撮像装置。
【請求項12】
前記処理手段は、前記撮影条件として、前記放射線エネルギーの信号をサンプルホールドするタイミングを変更して、前記評価情報が最大値となる前記タイミングを設定する請求項11に記載の放射線撮像装置。
【請求項13】
前記処理手段は、前記撮影条件として、前記放射線の照射条件を変更して、前記評価情報が最大値となる前記照射条件を設定する請求項11に記載の放射線撮像装置。
【請求項14】
前記処理手段は、
前記画像のコントラストとノイズとの比を用いた評価情報、又は、
前記コントラストとノイズとの比を前記放射線の線量の平方根で除算した値を用いた評価情報、が最大値となる前記撮影条件を設定する請求項11に記載の放射線撮像装置。
【請求項15】
前記処理手段は、
前記複数の画像を取得する際に照射された前記複数の放射線エネルギーのエネルギー差を用いた評価情報、又は、
前記複数の画像を取得する際に照射された前記放射線の線量比を用いた評価情報、が最大値となる前記撮影条件を設定する請求項11に記載の放射線撮像装置。
【請求項16】
時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計することで得られるエネルギースペクトルを用いて、被写体に放射線を照射して撮影を行うことにより、互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像を取得し、前記複数の画像を用いてエネルギーサブトラクション処理を行う処理手段を備える放射線撮像装置。
【請求項17】
時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計して、エネルギースペクトルを取得する処理を行う処理手段を備える情報処理装置。
【請求項18】
被写体に放射線を照射して撮影を行うことで得た互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像と、時系列に取得された放射線フォトンエネルギーに基づいて取得したエネルギースペクトルとを用いて、エネルギーサブトラクション処理を行う処理手段を備え、
前記処理手段は、
前記放射線エネルギーの信号をサンプルホールドするタイミングで、前記放射線フォトンエネルギーを分割したエネルギー情報を集計して、前記エネルギースペクトルを取得する情報処理装置。
【請求項19】
時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計することで得られるエネルギースペクトルを用いて、被写体に放射線を照射して撮影を行うことにより、互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像を取得し、前記複数の画像を用いてエネルギーサブトラクション処理を行う処理手段を備える情報処理装置。
【請求項20】
時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計して、エネルギースペクトルを取得する処理を行う処理工程を備える情報処理方法。
【請求項21】
被写体に放射線を照射して撮影を行うことで得た互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像と、時系列に取得された放射線フォトンエネルギーに基づいて取得したエネルギースペクトルとを用いて、エネルギーサブトラクション処理を行う処理工程を備え、
前記処理工程では、
前記放射線エネルギーの信号をサンプルホールドするタイミングで、前記放射線フォトンエネルギーを分割したエネルギー情報を集計して、前記エネルギースペクトルを取得する情報処理方法。
【請求項22】
時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計することで得られるエネルギースペクトルを用いて、被写体に放射線を照射して撮影を行うことにより、互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像を取得し、前記複数の画像を用いてエネルギーサブトラクション処理を行う処理工程を備える情報処理方法。
【請求項23】
コンピュータを、請求項1、2、16のいずれか1項に記載の放射線撮像装置の処理手段として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、放射線撮像装置、情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。より具体的には、医療診断における一般撮影などの静止画撮影や透視撮影などの動画撮影に用いられる放射線撮像装置、情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、X線による医療画像診断や非破壊検査に用いる撮影装置として、半導体材料によって形成された平面検出器(Flat Panel Detector、以下FPDと略す)を用いた放射線撮像装置が普及している。
【0003】
FPDを用いた撮影方法として、エネルギーサブトラクション処理では、管電圧の異なるX線を照射して取得した、エネルギーの異なる複数の画像を処理することにより、コントラストを低減した物質分離画像、例えば、骨画像や軟部組織画像を取得することができる(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、複数の画像間の時間差は、FPDの撮影時間によって決まるため、この間に被写体が動いてしまうと、例えば、エネルギーサブトラクション処理により取得した画像に動きによるアーチファクトが生じ得る。
【0005】
特許文献2には、ミリ秒の時間スケールにおいて異なるkV値でX線パルスを生成して、第1kV値における第1副画像に対する信号積分がサンプルホールドされ、第1副画像の読出しと並列に、第2kV値における第2副画像に対応する信号積分を行うデュアルエネルギー撮影システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2019/181229号
【特許文献2】特表2009-504221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エネルギーサブトラクション処理では、X線エネルギーの異なる複数のX線スペクトルの情報が必要になるため、1パルスのX線照射期間内において極めて短い時間差でサンプリングすることで複数の副画像を取得する撮影手法(以下、時分割撮影ともいう)においては、各画像のX線スペクトルを実測することが困難であり、副画像の画素値等を基に推定したX線スペクトルを用いた処理を行っていたため、これがサブトラクション処理の精度を低下させる要因となっていた。
【0008】
開示の技術は、照射した放射線のエネルギースペクトルを取得することが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
開示の技術の一態様による放射線撮像装置は、時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計して、エネルギースペクトルを取得する処理を行う処理手段を備える。
【発明の効果】
【0010】
開示の技術によれば、照射した放射線のエネルギースペクトルを取得することができる。取得したエネルギースペクトルをエネルギーサブトラクション処理に用いることにより、処理の精度を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態によるX線撮像システムの構成例を示す図。
【
図2】第1実施形態によるX線撮像装置の画素等価回路図。
【
図3】第1実施形態によるX線撮像装置のタイミングチャート。
【
図4】第1実施形態によるX線撮像装置のタイミングチャート。
【
図8】第1実施形態に係るX線スペクトルの時分割の原理を説明する図。
【
図9】第1実施形態に係るX線スペクトルの取得とX線撮像システムの駆動タイミングの関係を示す図。
【
図10】第1実施形態に係るX線撮像システムの処理の流れを示す図。
【
図12】画質シミュレーションの原理を例示的に説明する図。
【
図13】サンプルホールドのタイミングとエネルギーサブトラクション処理により取得した画像の画質との相関を例示的に示す図。
【
図14】第2実施形態に係るX線撮像システムの処理の流れを示す図。
【
図15】第3実施形態に係るX線撮像システムの処理の流れを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
なお、開示の技術における放射線には、放射線崩壊によって放出される粒子(光子を含む)の作るビームであるα線、β線、γ線などの他に、同程度以上のエネルギーを有するビーム、例えばX線や粒子線、宇宙線なども、含まれるものとする。以下の実施形態では、放射線の一例としてX線を用いた装置を説明する。したがって、以下では、放射線撮像装置、放射線撮像システムとして、それぞれX線撮像装置、X線撮像システムとして説明する。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る、放射線撮像システムの一例としてのX線撮像システムの構成例を示すブロック図である。第1実施形態のX線撮像システムは、X線発生装置101、X線制御装置102、撮像制御装置103、X線撮像装置104を備える。
【0015】
X線発生装置101は、X線を発生し、被写体にX線を照射する。X線制御装置102は、X線発生装置101におけるX線の発生を制御する。撮像制御装置103は、例えば、1つまたは複数のプロセッサー(CPU)とメモリを有し、プロセッサーがメモリに格納されたプログラムを実行してX線画像の取得及び画像処理を行う。なお、撮像制御装置103による画像処理を含む各処理は、専用のハードウエアにより実現されてもよいし、ハードウエアとソフトウエアの協働により実現されてもよい。X線撮像装置104は、X線を可視光に変換する蛍光体105と、可視光を検出する二次元検出器106を有する。二次元検出器は、X線量子を検出する画素20をX列×Y行のアレイ状に配置したセンサであり、画像情報を出力する。
【0016】
撮像制御装置103は、上述したプロセッサーにより放射線画像を処理する情報処理装置として機能する。取得部131、補正部132、信号処理部133、画像処理部134は、情報処理装置としての機能構成例を示している。
【0017】
取得部131は、被写体に放射線を照射して撮影を行うことで得られた互いにエネルギーが異なる複数の放射線画像を取得する。取得部131は、複数の放射線画像として、1ショットの放射線の照射の間に複数回のサンプルホールドを行って得られた放射線画像を取得する。
【0018】
補正部132は、取得部131により取得された複数の放射線画像を補正してエネルギーサブトラクション処理で用いられる複数の画像を生成する。
【0019】
信号処理部133は、時系列に取得されたX線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計して、エネルギースペクトルを取得する処理を行う。信号処理部133は、エネルギー情報における時系列のフォトン数をカウント(計数)することによりエネルギースペクトルを取得する。また、信号処理部133は、時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計することで得られるエネルギースペクトルを用いて、被写体に放射線を照射して撮影を行うことにより、互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像を取得し、複数の画像を用いてエネルギーサブトラクション処理を行う。エネルギースペクトルの取得をエネルギーサブトラクション処理に適用する場合、信号処理部133は、被写体にX線を照射して撮影を行うことで得た互いに異なる複数のX線エネルギーに対応した複数の画像と、時系列に取得されたX線フォトンエネルギーに基づいて取得したエネルギースペクトルとを用いて、エネルギーサブトラクション処理を行う。ここで、信号処理部133は、X線エネルギーの信号をサンプルホールドするタイミングで、X線フォトンエネルギーを分割したエネルギー情報を集計して、エネルギースペクトルを取得する。
【0020】
また、信号処理部133は、補正部132により生成された複数の画像を用いて物質特性画像を生成する。物質特性画像とは、例えば骨と軟部組織というように物質を分離して表す物質分離画像、実効原子番号とその面密度を表す物質識別画像など、エネルギーサブトラクション処理において取得される画像である。信号処理部133は、互いに異なる放射線エネルギーで撮影した複数の放射線画像に基づいて、例えば、第1物質の厚みを示す第1物質分離画像と、第2物質の厚みを示す第2物質分離画像とを生成する。また、信号処理部133は、第1物質の厚みと第2物質の厚みとを合わせた厚み画像を生成する。ここで、第1物質には、少なくとも、カルシウム、ハイドロキシアパタイト、又は骨が含まれ、第2物質には、少なくとも、水、又は脂肪又はカルシウムを含まない軟物質が含まれる。信号処理部133の詳細は後述する。画像処理部134は、信号処理部133による信号処理によって取得された物質特性画像を用いて、表示用画像を生成する。
【0021】
図2は、第1実施形態に係る画素20の等価回路図である。画素20は、光電変換素子201と、出力回路部202とを含む。光電変換素子201は、典型的にはフォトダイオードでありうる。出力回路部202は、増幅回路部204、クランプ回路部206、サンプルホールド回路207、選択回路部208を含む。
【0022】
光電変換素子201は、電荷蓄積部を含み、該電荷蓄積部は、増幅回路部204のMOSトランジスタ204aのゲートに接続されている。MOSトランジスタ204aのソースは、MOSトランジスタ204bを介して電流源204cに接続されている。MOSトランジスタ204aと電流源204cとによってソースフォロア回路が構成されている。MOSトランジスタ204bは、そのゲートに供給されるイネーブル信号ENがアクティブレベルになるとオンしてソースフォロア回路を動作状態にするイネーブルスイッチである。
【0023】
図2に示す例では、光電変換素子201の電荷蓄積部およびMOSトランジスタ204aのゲートが共通のノードを構成していて、このノードは、電荷蓄積部に蓄積された電荷を電圧に変換する電荷電圧変換部として機能する。即ち、電荷電圧変換部には、電荷蓄積部に蓄積された電荷Qと電荷電圧変換部が有する容量値Cとによって定まる電圧V(=Q/C)が現れる。電荷電圧変換部は、リセットスイッチ203を介してリセット電位Vresに接続されている。リセット信号PRESがアクティブレベルになると、リセットスイッチ203がオンして、電荷電圧変換部の電位がリセット電位Vresにリセットされる。
【0024】
クランプ回路部206は、リセットした電荷電圧変換部の電位に応じて増幅回路部204によって出力されるノイズをクランプ容量206aによってクランプする。つまり、クランプ回路部206は、光電変換素子201で光電変換により発生した電荷に応じてソースフォロア回路から出力された信号から、このノイズをキャンセルするための回路である。このノイズはリセット時のkTCノイズを含む。クランプは、クランプ信号PCLをアクティブレベルにしてMOSトランジスタ206bをオン状態にした後に、クランプ信号PCLを非アクティブレベルにしてMOSトランジスタ206bをオフ状態にすることによってなされる。クランプ容量206aの出力側は、MOSトランジスタ206cのゲートに接続されている。MOSトランジスタ206cのソースは、MOSトランジスタ206dを介して電流源206eに接続されている。MOSトランジスタ206cと電流源206eとによってソースフォロア回路が構成されている。MOSトランジスタ206dは、そのゲートに供給されるイネーブル信号EN0がアクティブレベルになるとオンしてソースフォロア回路を動作状態にするイネーブルスイッチである。
【0025】
光電変換素子201で光電変換により発生した電荷に応じてクランプ回路部206から出力される信号は、光信号として、光信号サンプリング信号TSがアクティブレベルになることによってスイッチ207Saを介して容量207Sbに書き込まれる。電荷電圧変換部の電位をリセットした直後にMOSトランジスタ206bをオン状態とした際にクランプ回路部206から出力される信号は、クランプ電圧である。ノイズ信号は、ノイズサンプリング信号TNがアクティブレベルになることによってスイッチ207Naを介して容量207Nbに書き込まれる。このノイズ信号には、クランプ回路部206のオフセット成分が含まれる。スイッチ207Saと容量207Sbによって信号サンプルホールド回路207Sが構成され、スイッチ207Naと容量207Nbによってノイズサンプルホールド回路207Nが構成される。サンプルホールド回路部207は、信号サンプルホールド回路207Sとノイズサンプルホールド回路207Nとを含む。
【0026】
駆動回路部が行選択信号をアクティブレベルに駆動すると、容量207Sbに保持された信号(光信号)がMOSトランジスタ208Saおよび行選択スイッチ208Sbを介して信号線21Sに出力される。また、同時に、容量207Nbに保持された信号(ノイズ)がMOSトランジスタ208Naおよび行選択スイッチ208Nbを介して信号線21Nに出力される。MOSトランジスタ208Saは、信号線21Sに設けられた不図示の定電流源とソースフォロア回路を構成する。同様に、MOSトランジスタ208Naは、信号線21Nに設けられた不図示の定電流源とソースフォロア回路を構成する。MOSトランジスタ208Saと行選択スイッチ208Sbによって信号用選択回路部208Sが構成され、MOSトランジスタ208Naと行選択スイッチ208Nbによってノイズ用選択回路部208Nが構成される。選択回路部208は、信号用選択回路部208Sとノイズ用選択回路部208Nとを含む。
【0027】
画素20は、隣接する複数の画素20の光信号を加算する加算スイッチ209Sを有してもよい。加算モード時には、加算モード信号ADDがアクティブレベルになり、加算スイッチ209Sがオン状態になる。これにより、隣接する画素20の容量207Sbが加算スイッチ209Sによって相互に接続されて、光信号が平均化される。同様に、画素20は、隣接する複数の画素20のノイズを加算する加算スイッチ209Nを有してもよい。加算スイッチ209Nがオン状態になると、隣接する画素20の容量207Nbが加算スイッチ209Nによって相互に接続されて、ノイズが平均化される。加算部209は、加算スイッチ209Sと加算スイッチ209Nを含む。
【0028】
また、画素20は、感度を変更するための感度変更部205を有してもよい。画素20は、例えば、第1感度変更スイッチ205aおよび第2感度変更スイッチ205'a、並びにそれらに付随する回路素子を含みうる。第1変更信号WIDEがアクティブレベルになると、第1感度変更スイッチ205aがオンして、電荷電圧変換部の容量値に第1付加容量205bの容量値が追加される。これによって画素20の感度が低下する。第2変更信号WIDE2がアクティブレベルになると、第2感度変更スイッチ205'aがオンして、電荷電圧変換部の容量値に第2付加容量205'bの容量値が追加される。これによって画素20の感度が更に低下する。このように画素20の感度を低下させる機能を追加することによって、より大きな光量を受光することが可能となり、ダイナミックレンジを広げることができる。第1変更信号WIDEがアクティブレベルになる場合には、イネーブル信号ENwをアクティブレベルにして、MOSトランジスタ204aに変えてMOSトランジスタ204'aをソースフォロア動作させてもよい。
【0029】
X線撮像装置104は、二次元検出器106から以上のような画素回路の出力を読み出し、不図示のAD変換器でデジタル値に変換した後、撮像制御装置103に画像を転送する。
【0030】
次に、上述した構成を備えた第1実施形態のX線撮像システムの動作について説明する。
図3は、第1実施形態に係るX線撮像システムにおいてエネルギーサブトラクションを行った場合のX線撮像装置104の駆動タイミングを示す。
図3における波形は横軸を時間として、X線の照射、同期信号、光電変換素子201のリセット、サンプルホールド回路207、信号線21からの画像の読み出しのタイミングを示している。
【0031】
リセット信号により光電変換素子201のリセットが行われてからX線が照射される。X線の管電圧は理想的には矩形波となるが、管電圧の立ち上がりと立下りには有限の時間がかかる。特に、パルスX線で照射時間が短い場合は、管電圧はもはや矩形波とはみなせず、X線301~303に示すような波形となる。立ち上がり期のX線301、安定期のX線302、立下り期のX線303ではそれぞれX線のエネルギーが異なる。したがって、サンプルホールドによって区切られる期間の放射線に対応したX線画像を得ることにより、互いにエネルギーが異なる複数種類のX線画像が得られる。
【0032】
X線撮像装置104は、立ち上がり期のX線301が照射された後に、ノイズサンプルホールド回路207Nでサンプリングを行い、さらに安定期のX線302が照射された後に信号サンプルホールド回路207Sでサンプリングを行う。その後、X線撮像装置104は、信号線21Nと信号線21Sの差分を画像として読み出す。このとき、ノイズサンプルホールド回路207Nには立ち上がり期のX線301の信号(R1)が保持され、信号サンプルホールド回路207Sには立ち上がり期のX線301の信号と安定期のX線302の信号(B)の和(R1+B)が保持されている。従って、安定期のX線302の信号に対応した画像304が読み出される。
【0033】
次に、X線撮像装置104は、立下り期のX線303の照射と、画像304の読み出しとが完了してから、再び信号サンプルホールド回路207Sでサンプリングを行う。その後、X線撮像装置104は、光電変換素子201のリセットを行い、再びノイズサンプルホールド回路207Nでサンプリングを行い、信号線21Nと信号線21Sの差分を画像として読み出す。このとき、ノイズサンプルホールド回路207NにはX線が照射されていない状態の信号が保持され、信号サンプルホールド回路207Sには立ち上がり期のX線301の信号と安定期のX線302と立下り期のX線303の信号(R2)の和(R1+B+R2)が保持されている。従って、立ち上がり期のX線301の信号と安定期のX線302の信号と立下り期のX線303の信号に対応した画像306が読み出される。その後、画像306と画像304の差分を計算することで、立ち上がり期のX線301と立下り期のX線303の和に対応した画像305が得られる。この計算は、X線撮像装置104で行われてもよいし、撮像制御装置103で行われてもよい。
【0034】
サンプルホールド回路207及び光電変換素子201のリセットを行うタイミングは、X線発生装置101からX線の照射が開始されたことを示す同期信号307を用いて決定される。X線の照射開始を検出する方法としては、X線発生装置101の管電流を測定し、電流値が予め設定された閾値を上回るか否かを判定する構成を用いることができるがこれに限られるものではない。例えば、光電変換素子201のリセットが完了した後、画素20を繰り返して読み出し、画素値が予め設定された閾値を上回るか否かを判定することによりX線の照射開始を検出する構成が用いられてもよい。
【0035】
あるいは、例えば、X線撮像装置104に二次元検出器106とは異なるX線検出器を内蔵し、その測定値が予め設定された閾値を上回るか否かを判定することによりX線の照射開始を検出する構成が用いられてもよい。いずれの方式の場合も、X線の照射開始を示す同期信号307の入力から予め指定した時間が経過した後に、信号サンプルホールド回路207Sのサンプリング、ノイズサンプルホールド回路207Nのサンプリング、光電変換素子201のリセットが行われる。
【0036】
以上のようにして、パルスX線の安定期に対応した画像304と、立ち上がり期と立下り期の和に対応した画像305が得られる。これら二枚のX線画像を形成する際に照射されたX線のエネルギーは互いに異なるため、これらX線画像間で演算を行うことでエネルギーサブトラクション処理を行うことができる。
【0037】
図4は、第1実施形態に係るX線撮像システムにおいてエネルギーサブトラクションを行った場合のX線撮像装置104の駆動タイミングを示す。
図4に示す駆動タイミングは、X線発生装置101の管電圧を能動的に切り替えている点で
図3の駆動タイミングとは異なる。
【0038】
まず、光電変換素子201のリセットが行われた後、X線発生装置101は低エネルギーのX線401の照射を行う。この状態で、X線撮像装置104は、ノイズサンプルホールド回路207Nによりサンプリングを行う。その後、X線発生装置101は、管電圧を切り替えて高エネルギーのX線402の照射を行う。この状態で、X線撮像装置104は、信号サンプルホールド回路207Sによりサンプリングを行う。その後、X線発生装置101は、管電圧を切り替えて低エネルギーのX線403の照射を行う。X線撮像装置104は、信号線21Nと信号線21Sの差分を画像として読み出す。このとき、ノイズサンプルホールド回路207Nには低エネルギーのX線401の信号(R1)が保持され、信号サンプルホールド回路207Sには低エネルギーのX線401の信号と高エネルギーのX線402の信号(B)の和(R1+B)が保持されている。従って、高エネルギーのX線402の信号に対応した画像404が読み出される。
【0039】
次に、X線撮像装置104は、低エネルギーのX線403の照射と、画像404の読み出しとが完了してから、再び信号サンプルホールド回路207Sでサンプリングを行う。その後、X線撮像装置104は、光電変換素子201のリセットを行い、再びノイズサンプルホールド回路207Nでサンプリングを行い、信号線21Nと信号線21Sの差分を画像として読み出す。このとき、ノイズサンプルホールド回路207NにはX線が照射されていない状態の信号が保持され、信号サンプルホールド回路207Sには低エネルギーのX線401の信号と高エネルギーのX線402と低エネルギーのX線403の信号(R2)の和(R1+B+R2)が保持されている。従って、低エネルギーのX線401の信号と高エネルギーのX線402の信号と低エネルギーのX線403の信号に対応した画像406が読み出される。
【0040】
その後、画像406と画像404の差分を計算することで、低エネルギーのX線401と低エネルギーのX線403の和に対応した画像405が得られる。この計算は、X線撮像装置104で行われてもよいし、撮像制御装置103で行われてもよい。同期信号407については、
図3と同様である。このように、管電圧を能動的に切り替えながら画像を取得することで、
図3の方法に比べて低エネルギーと高エネルギーの放射線画像の間のエネルギー差をより大きくすることが出来る。
【0041】
次に、撮像制御装置103によるエネルギーサブトラクション処理について説明する。第1実施形態におけるエネルギーサブトラクション処理は、補正部132による補正処理、信号処理部133による信号処理、画像処理部134による画像処理の3段階に分かれている。以下、それぞれの処理について説明する。
【0042】
補正処理は、X線撮像装置104から取得された複数の放射線画像を処理してエネルギーサブトラクション処理における後述の信号処理で用いられる複数の画像を生成する処理である。
図5に、第1実施形態に係るエネルギーサブトラクション処理のための補正処理のブロック図を示す。まず、取得部131は、X線撮像装置104にX線を照射しない状態での撮像を行わせ、
図3または
図4に示した駆動で画像を取得する。この駆動により2枚の画像が読み出される。以下、1枚目の画像(画像304または画像404)をF_ODD、2枚目の画像(画像306または画像406)をF_EVENとする。F_ODDとF_EVENは、X線撮像装置104の固定パターンノイズ(FPN:Fixed Pattern Noise)に対応する画像である。
【0043】
次に、取得部131は、被写体がない状態でX線撮像装置104にX線を照射して撮像を行わせ、
図3又は
図4に示した駆動によりX線撮像装置104から出力されるゲイン補正用の画像を取得する。この駆動により、上記と同様に2枚の画像が読み出される。以下、1枚目のゲイン補正用の画像(画像304または画像404)をW_ODD、2枚目のゲイン補正用の画像(画像306または画像406)をW_EVENとする。W_ODDとW_EVENは、X線撮像装置104のFPNとX線による信号の和に対応する画像である。補正部132は、W_ODDからF_ODDを、W_EVENからF_EVENを減算することで、X線撮像装置104のFPNが除去された画像WF_ODDとWF_EVENを得る。これをオフセット補正と呼ぶ。
【0044】
WF_ODDは安定期のX線302に対応する画像であり、WF_EVENは立ち上がり期のX線301、安定期のX線302、立下り期のX線303の和に対応する画像である。従って、補正部132は、WF_EVENからWF_ODDを減算することで、立ち上がり期のX線301と立下り期のX線303の和に対応する画像を得る。このように、複数枚の画像の減算により、サンプルホールドによって区切られる特定の期間のX線に対応した画像を得る処理を色補正と呼ぶ。立ち上がり期のX線301と立下り期のX線303のエネルギーは、安定期のX線302のエネルギーに比べて低い。従って、色補正により、WF_EVENからWF_ODDを減算することで、被写体がない場合の低エネルギー画像W_Lowが得られる。また、WF_ODDから、被写体がない場合の高エネルギー画像W_Highが得られる。
【0045】
次に、取得部131は、被写体がある状態でX線撮像装置104にX線を照射して撮像を行わせ、
図3または
図4に示した駆動によりX線撮像装置104から出力される画像を取得する。このとき2枚の画像が読み出される。以下、1枚目の画像(画像304または画像404)をX_ODD、2枚目の画像(画像306または画像406)をX_EVENとする。補正部132は、被写体がない場合と同様のオフセット補正および色補正を行うことで、被写体がある場合の低エネルギー画像X_Lowと、被写体がある場合の高エネルギー画像X_Highを得る。
【0046】
ここで、被写体の厚みをd、被写体の線減弱係数をμ、被写体がない場合の画素20の出力をI0、被写体がある場合の画素20の出力をIとすると、以下の[数1]式が成り立つ。
【0047】
【0048】
[数1]式を変形すると、以下の[数2]式が得られる。[数2]式の右辺は被写体の減弱率を示す。被写体の減弱率は0~1の間の実数である。
【0049】
【0050】
従って、補正部132は、被写体がある場合の低エネルギー画像X_Lowを、被写体がない場合の低エネルギー画像W_Lowで除算することで、低エネルギーにおける減弱率の画像L(以下、「低エネルギー画像L」ともいう)を得る。同様に、補正部132は、被写体がある場合の高エネルギー画像X_Highを、被写体がない場合の高エネルギー画像W_Highで除算することで、高エネルギーにおける減弱率の画像Hを得る(以下、「高エネルギー画像H」ともいう)。このように、被写体ありの状態で得られた放射線画像に基づいて得られた画像を被写体なしの状態で得られた放射線画像に基づいて得られた画像で除算することにより、低エネルギーにおける減弱率又は高エネルギーにおける減弱率の画像(L,H)を取得する処理をゲイン補正と呼ぶ。
【0051】
図6に、第1実施形態に係るエネルギーサブトラクション処理の信号処理のブロック図を示す。信号処理部133は、補正部132から得られる複数の画像を用いて物質特性画像を生成する。以下では、骨の厚みの画像B(以下、骨画像Bともいう)と軟部組織の厚みの画像S(以下、軟部組織画像Sともいう)からなる物質分離画像の生成処理を説明する。信号処理部133は、以下の処理により
図5に示した補正によって得られた低エネルギーにおける減弱率の画像Lと高エネルギーにおける減弱率の画像Hから、骨の厚みの画像Bと軟部組織の厚みの画像Sを求める。
【0052】
まず、X線フォトンのエネルギーをE、エネルギーEにおけるフォトン数をN(E)、骨の厚み画像における厚みをB、軟部組織の厚み画像における厚みをS、エネルギーEにおける骨の線減弱係数をμB(E)、エネルギーEにおける軟部組織の線減弱係数をμS(E)、減弱率をI/I0とすると、以下の[数3]式が成り立つ。
【0053】
【0054】
エネルギーEにおけるフォトン数N(E)は、X線のスペクトルである。X線のスペクトルは、シミュレーション又は実測により得られる。また、エネルギーEおける骨の線減弱係数μB(E)とエネルギーEおける軟部組織の線減弱係数μS(E)は、それぞれNIST(National Institute of Standards and Technology)などのデータベースから得られる。したがって、[数3]式によれば、任意の骨の厚み画像における厚みB、軟部組織の厚み画像における厚みS、X線のスペクトルN(E)における減弱率I/I0を計算することが可能である。
【0055】
ここで、低エネルギーのX線におけるスペクトルをNL(E)、高エネルギーのX線におけるスペクトルをNH(E)とすると、画像Lにおける減弱率、及び、画像Hの減弱率について、以下の[数4]式の各式が成り立つ。なお、以下の説明では、[数4]式に示す画像Lにおける減弱率を単に低エネルギーの減弱率Lともいい、画像Hにおける減弱率を単に高エネルギーの減弱率Hともいう。
【0056】
【0057】
[数4]式の非線形連立方程式を解くことで、骨の厚み画像における厚みBと軟部組織の厚み画像における厚みSが求まる。非線形連立方程式を解く代表的な方法として、ここではニュートンラフソン法を用いた場合について説明する。まず、ニュートンラフソン法の反復回数をm、m回目の反復後の骨の厚みをBm、m回目の反復後の軟部組織の厚みをSmとしたとき、m回目の反復後の高エネルギーの減弱率Hm、m回目の反復後の低エネルギーの減弱率Lmは以下の[数5]式で表される。
【0058】
【0059】
また、厚みが微小に変化したときの減弱率の変化率を、以下の[数6]式で表す。
【0060】
【0061】
このとき、m+1回目の反復後の骨の厚みBm+1と軟部組織の厚みSm+1を、高エネルギーの減弱率Hと低エネルギーの減弱率Lを用いて、以下の[数7]式で表す。
【0062】
【0063】
2x2の行列の逆行列は、行列式をdetとすると、クラメルの公式より以下の[数8]式で表される。
【0064】
【0065】
従って、[数7]式に[数8]式を代入すると、以下の[数9]式が求まる。
【0066】
【0067】
以上のような計算を繰り返すことで、m回目の反復後の高エネルギーの減弱率Hmと実測した高エネルギーの減弱率Hの差分が限りなく0に近づいていく。低エネルギーの減弱率Lについても同様である。これによって、m回目の反復後の骨の厚みBmが骨の厚みBに収束し、m回目の軟部組織の厚みSmが軟部組織の厚みSに収束する。以上のようにして、[数4]式に示した非線形連立方程式を解くことができる。従って、全ての画素について[数4]式を計算することで、低エネルギーにおける減弱率の画像Lと高エネルギーにおける減弱率の画像Hから、骨の厚みの画像B、軟部組織の厚みの画像Sを取得することができる。
【0068】
なお、第1実施形態では、骨の厚みの画像Bと軟部組織の厚みの画像Sを算出していたが、開示の技術はこのような形態に限定されない。例えば、水の厚みWと造影剤の厚みIを算出してもよい。すなわち、任意の二種類の物質の厚みに分解してもよい。また、
図5に示した補正によって得られた低エネルギーにおける減弱率の画像Lと高エネルギーにおける減弱率の画像Hから、実効原子番号Zの画像と面密度Dの画像を求めてもよい。実効原子番号Zとは混合物の等価的な原子番号のことであり、面密度Dとは被写体の密度[g/cm
3]と被写体の厚み[cm]の積である。
【0069】
また、第1実施形態では、ニュートンラフソン法を用いて非線形連立方程式を解いていた。しかしながら開示の技術はこのような形態に限定されない。例えば、最小二乗法や二分法などの反復解法を用いてもよい。また、第1実施形態では非線形連立方程式を反復解法で解いていたが、開示の技術はこのような形態に限定されない。様々な組み合わせの高エネルギーの減弱率Hと低エネルギーの減弱率Lに対する骨の厚みBや軟部組織の厚みSを事前に求めてテーブルを生成し、このテーブルを参照することで骨の厚みBや軟部組織の厚みSを高速に求める構成を用いても良い。
【0070】
図7に、第1実施形態に係るエネルギーサブトラクション処理の画像処理のブロック図を示す。第1実施形態の画像処理部134は、
図6に示した信号処理によって得られた骨の厚さの画像B、軟部組織の厚さの画像Sから、仮想単色X線画像を得る画像処理を行う。仮想単色X線画像とは、単一のエネルギーのX線を照射した場合に得られることが想定される画像のことである。例えば、仮想単色X線のエネルギーをE
Vとしたとき、仮想単色X線画像Vは以下の[数10]で求められる。
[数10]
V=exp{-μ
B(E
V)B-μ
S(E
V)S}
仮想単色X線画像は、エネルギーサブトラクションと三次元再構成とを組み合わせたDual Energy CTで利用されている。このとき、仮想単色X線画像のコントラスト対ノイズ比(Contrast-To-Noise Ratio:CNR)を向上させるために、仮想単色X線のエネルギーE
Vを変更する。例えば、骨の線減弱係数μ
B(E)は、軟部組織の線減弱係数μ
S(E)に比べて大きい。しかしながら、仮想単色X線のエネルギーE
Vが大きくなるほどその差は小さくなる。従って、骨画像のノイズによる仮想単色X線画像のノイズ増加が抑制される。一方で、仮想単色X線のエネルギーE
Vが小さくなるほど、μ
B(E)とμ
S(E)の差が大きくなるため、仮想単色X線画像のコントラストが大きくなる。すなわち、仮想単色X線画像のエネルギーE
Vには適切な値が存在する。
【0071】
なお、本実施形態では骨の厚さBと軟部組織の厚さSから仮想単色X線画像を生成していたが、このような形態に限定されない。上述したように、実効原子番号Zと面密度Dとを算出してから、実効原子番号Zと面密度Dとを用いて仮想単色X線画像を生成してもよい。また、複数のエネルギーEVで生成した複数の仮想単色X線画像を合成することで、合成X線画像を生成してもよい。合成X線画像とは、任意のスペクトルのX線を照射した場合に得られることが想定される画像のことである。
【0072】
また、本実施形態の画像処理では仮想単色X線画像を生成していたが、このような形態に限定されない。骨の厚さの画像Bや軟部組織の厚さの画像Sをそのまま表示してもよい。また、骨の厚さの画像Bや軟部組織の厚さの画像Sに、リカーシブフィルタ等の時間方向のフィルタや、ガウシアンフィルタ等の空間方向のフィルタをかけるなどして得られた画像を表示するようにしてもよい。また、造影剤を注入する前後の低エネルギーの画像(減弱率)と高エネルギーの画像(減弱率)を用いて、骨のDSA画像(Digital Subtraction Angiography)を得て、これを表示するようにしてもよい。すなわち、本実施形態における画像処理とは、信号処理後の画像に対して任意の演算を行う処理であると言える。
【0073】
なお、DSA画像は、例えば次のようにして取得される。まず、造影剤を注入する前に、X線撮像を行って低エネルギーにおける減弱率の画像LMと高エネルギーにおける減弱率の画像HMを得る。そして、画像LMと画像HMから骨の厚さのマスク画像BMと軟部組織の厚さのマスク画像SMを求める。次に、造影剤を注入した後に撮影した低エネルギーにおける減弱率の画像LLと高エネルギーにおける減弱率の画像HLから、骨の厚さのライブ画像BLと軟部組織の厚さのライブ画像SLを求める。骨の厚さのライブ画像BLから骨の厚さのマスク画像BMを引くことで骨のDSA画像BDSAが得られる。
【0074】
本実施形態におけるエネルギーサブトラクション処理は、
図5~
図7で示したように、補正処理、信号処理、画像処理の3ステップで構成される。このとき、[数4]式を解くことで求めた骨の厚みBや軟部組織の厚みSを、厚みの推定値とする。また、計測装置等で計測した厚みを、厚みの真値とする。補正処理と信号処理が適切に行われれば、厚みの推定値と真値とが一致するはずである。しかしながら本願発明者が検討を行ったところ、上記のエネルギーサブトラクション処理により得られた厚みの推定値は、厚みの真値に必ずしも一致しないことが判明した。厚みの推定値と厚みの真値との誤差が大きくなると、画像処理後の画像にアーチファクトが生じ得る。
【0075】
本願発明者が検討を行った結果、誤差の原因として、散乱線、減弱率の線量依存、減弱率の厚みとX線スペクトルなどがあることが判明した。本実施形態においては、X線スペクトルを原因とする誤差を低減する方法を提案する。
【0076】
図8は、本実施形態に係るX線スペクトルの時分割の原理を説明する図である。X線フォトンエネルギー(放射線フォトンエネルギー)を時系列に取得し、取得したX線フォトンエネルギー(放射線フォトンエネルギー)を時間方向に分割することを、X線スペクトルの時分割という。また、時間方向に分割したX線フォトンエネルギーをエネルギー情報という。ここでは一例として、凸型X線パルスの波形を用いるものとする。X線発生装置101(放射線発生装置)は、管電圧を切り替えて放射線を発生する。凸型X線パルスを発生する場合に、X線発生装置101(放射線発生装置)は、第1管電圧と、第1管電圧よりも高い第2管電圧と、第1管電圧とを、切り替えてX線パルス(凸型X線パルス)を発生する。
【0077】
図8(A)は時間と管電圧との関係を示す図であり、
図8(A)において、801~803は、横軸を時間とし、縦軸を管電圧としたX線の波形を示している。区間811は低エネルギー区間を示し、区間812は高エネルギー区間を示し、区間813は低エネルギー区間を示す。
【0078】
図8(B)は、時間とX線フォトンのエネルギーとの関係を示す図であり、
図8(B)において、804~806は、横軸を時間とし、縦軸をX線フォトンのエネルギーとした、X線フォトン1つひとつのエネルギー情報を示している。信号処理部133は、第1の放射線エネルギー(低エネルギー)に対応した信号をサンプルホールドするタイミング(例えば、SH_N)と、第1の放射線エネルギーよりも高い第2の放射線エネルギー(例えば、SH_S)に対応した信号をサンプルホールドするタイミングとで、X線フォトンエネルギーを分割する。
【0079】
804、806は凸型X線パルスの低エネルギー区間811、813におけるX線フォトン群(低エネルギーのX線フォトン群)を示す。同様に、805は凸型X線パルスの高エネルギー区間812におけるX線フォトン群(高エネルギーのX線フォトン群)を示す。
【0080】
図8(C)は、X線のエネルギーとX線フォトン数との関係を示す図である。X線フォトン群804、806におけるX線フォトンのエネルギー情報を集計し、横軸をX線のエネルギー、縦軸をX線のフォトン数で示すと、
図8(C)に示すような低エネルギーのX線スペクトル807を取得することができる。同様に、X線フォトン群805におけるX線フォトンのエネルギー情報を集計し、横軸をX線のエネルギー、縦軸をX線のフォトン数で示すと高エネルギーのX線スペクトル808を取得することができる。X線スペクトル807は集計区間(811、813)のX線エネルギー(801、803)に応じた形状になる。X線スペクトル808は集計区間(812)のX線エネルギー(802)に応じた形状になる。
【0081】
以上のように、時間-X線フォトンエネルギー(時系列のX線フォトンエネルギー)のデータを時分割して集計すれば、1パルス内で時間的に変化するX線スペクトル807、808が得られる。
【0082】
図9に、本実施形態に係るX線スペクトルの取得とX線撮像システムの駆動タイミングの関係を示す。X線撮像システムの駆動については
図4で説明した通りであるが、
図9においては、説明の重複を避けるため
図4に示したリセットと読み出しタイミングの図示は省略する。また、参照符号について、
図4と共通のものについては説明を省略するものとする。
【0083】
図9の901では、横軸を時間として、X線、同期信号、サンプルホールドSH_N、SH_S、X線フォトンのエネルギー(時間-X線フォトンエネルギー)の関係が示されている。また、
図8に示したように、807、808では、横軸をX線のエネルギー、縦軸をX線のフォトン数として、X線スペクトルの分布が示されている。807は、低エネルギーのX線スペクトルの分布を示し、808は高エネルギーのX線スペクトルの分布を示す。
【0084】
X線の照射期間中は同期信号に応じたサンプルホールドと、X線フォトン一つひとつのエネルギー(時間-X線フォトンエネルギー)の計測が行われる。取得した時間-X線フォトンエネルギーの時分割のタイミングは、点線に示したようにX線撮像装置104の駆動におけるサンプルホールドSH_N、SH_Sと一致するように行われる。これにより、サンプルホールドにより得られた画像(副画像)のX線エネルギーと、時分割されたX線スペクトルのX線エネルギーとが一致する。すなわち、X線エネルギーの異なる複数の画像(副画像(H、L)の実測X線スペクトルが得られる。ここで、
図4に示したように、低エネルギーのX線401と低エネルギーのX線403との和に対応した画像405を副画像405とする。また、低エネルギーのX線401の信号と高エネルギーのX線402の信号と低エネルギーのX線403の信号とに対応した画像406を副画像406とする。
【0085】
ここで、画像405(副画像405)は、[数4]式における低エネルギーにおける減弱率の画像Lに対応し、画像406(副画像406)は高エネルギーにおける減弱率の画像Hに対応する。また、
図8、
図9に示した低エネルギーのX線スペクトル807は、[数4]式における低エネルギーのX線におけるスペクトルN
L(E)に対応する。同様に、高エネルギーのX線スペクトル808は、[数4]式における高エネルギーのX線におけるスペクトルN
H(E)に対応する。エネルギーEおける骨の線減弱係数μ
B(E)とエネルギーEおける軟部組織の線減弱係数μ
S(E)は、それぞれNISTなどのデータベースから得られる。
【0086】
副画像405及びX線スペクトル807と、副画像406及びX線スペクトル808とを用いて、[数4]式の連立方程式を解くことで、精度の高いエネルギーサブトラクション画像が得られる。例えば、物質分離画像として、精度の高い骨の厚みの画像Bと軟部組織の厚みの画像Sを求めることができる。
【0087】
なお、時間-X線フォトンエネルギーの計測には、例えば、テルル化カドミウム(CdTe)等のX線フォトン検出器を用いることができる。また、CdTe検出器を内蔵したX線スペクトロメータを用いることも可能である。通常、X線スペクトロメータはX線フォトンのエネルギー情報を自動集計し、X線スペクトルを出力するが、格納された集計前のデータを取得することにより、時間-X線フォトンエネルギーのデータを得ることができる。本実施形態において、X線フォトン検出器やX線スペクトロメータは、X線フォトンエネルギー(放射線フォトンエネルギー)を時系列に取得する取得部として機能し得る。
【0088】
X線フォトン群の時分割のタイミングとX線撮像装置104のサンプルホールドとのタイミングの一致性を高めるために、信号処理部133は、X線発生装置101とX線撮像装置104と、X線フォトン検出器との同期をとるための信号処理を行う。例えば、X線発生装置101とX線撮像装置104の同期をとるための同期信号407をX線フォトン検出の同期に用いてもよい。信号処理部133の信号処理により、X線フォトン検出器は、時間的に変化する管電圧に基づいた放射線の照射に同期してX線フォトンエネルギー(放射線フォトンエネルギー)を取得する。
【0089】
X線スペクトルを取得する場合、X線発生装置101の管電圧、管電流、照射時間等の条件やX線フォトン検出器のパイルアップによる制約から、X線の強度は制限され得る。1パルスのX線から得られるX線フォトンのエネルギー情報は数十~数百個程度であり、より精度の高いX線スペクトルを得るにはエネルギー情報を増やすことが好ましい。
【0090】
そこで、信号処理部133は、X線が複数回照射された場合に、X線エネルギーの信号をサンプルホールドするタイミングで分割されたX線フォトンエネルギーをX線エネルギー別に合計してエネルギー情報を取得する。
【0091】
X線フォトン検出器は、X線が少なくとも1回または複数回照射されたX線フォトンエネルギーを時系列に取得することが可能である。信号処理部133は、X線が複数回照射された場合に、X線のエネルギーに対応した信号をサンプルホールドするタイミングで分割されたX線フォトンエネルギーを放射線のエネルギー別に合計してエネルギー情報を取得する。
【0092】
例えば、
図9の902、903に示したように複数回のX線パルスの情報をエネルギー別に合計してX線スペクトル807、808を生成してもよい。この時、X線パルスの時分割のタイミング(分割タイミング)は照射毎に一致させる必要がある。このため、信号処理部133は、X線が複数回照射された場合、照射毎に一致したタイミングでX線フォトンエネルギーを分割する。例えば、X線の照射毎にX線フォトン検出器のタイマーをリセットする等して、照射毎の時分割のタイミングを揃えるのが好ましい。複数回のX線パルスの情報をエネルギー別に合計してもX線フォトンのエネルギー情報が足りず、集計後のX線スペクトルの形状がざらつく場合は、平滑化補正(スムージング補正)により滑らかな形状に補正してもよい。
【0093】
上記のX線スペクトルの取得方法により得られた複数のX線スペクトルは実測値であり、X線フォトン検出器のパイルアップによる誤ったX線フォトンのエネルギー情報を含み得る。そのため、パイルアップ補正により誤ったX線フォトンエネルギーの情報のみを除外してからエネルギーサブトラクションの演算に用いるのが好ましい。この時のパイルアップ補正は、時分割後の各スペクトルに対し行うのが好ましい。信号処理部133は、X線スペクトル(低エネルギースペクトル、高エネルギースペクトル)において、照射したX線のエネルギー領域を超えた超過領域のエネルギースペクトルが含まれている場合、超過領域のX線スペクトルを除外する補正(パイルアップ補正)を行うことができる。例えば、照射したX線のエネルギー領域の上限または下限を超えた超過領域で計数されたスペクトルの情報が含まれている場合に、信号処理部133は、この超過領域で計数されたスペクトルの情報をX線フォトン検出器のパイルアップにより生じた誤差として、X線スペクトルから超過領域のエネルギースペクトルを除外するパイルアップ補正を行う。なお、上記のスムージング補正はパイルアップ補正の後に行ってもよい。
【0094】
図10に、第1実施形態に係るX線撮像システムにおける処理の流れのフローチャートを示す。
図10のフローチャートでは、
図8、
図9で説明したX線スペクトルの取得を画像撮影の前に行う場合の一例を示す。なお、X線スペクトルの取得のタイミングは
図10における処理の流れに限定されるものではない。
【0095】
(S1001:時間-X線フォトンエネルギーの情報取得)
S1001において、X線フォトン検出器で時間-X線フォトンエネルギー(時系列のX線フォトンエネルギー)の情報を取得する。
【0096】
(S1002:時間-X線フォトンエネルギーの情報の分割)
次に、S1002において、信号処理部133は、X線フォトン検出器で取得された時間-X線フォトンエネルギーの情報を分割する。信号処理部133は、時間-X線フォトンエネルギーの情報を、例えば、
図8で示したように、サンプルホールド(SH_N、SH_S)のタイミングに同期して、X線フォトン群804、805、806に分割する。X線フォトン群804、806は凸型X線パルスの低エネルギー区間811、813に対応し、X線フォトン群805は凸型X線パルスの高エネルギー区間812に対応するものである。
【0097】
(S1003:集計、複数のスペクトルを取得)
S1003において、信号処理部133は、分割したX線フォトンエネルギーの情報を集計し、X線エネルギーの異なる複数のスペクトルを取得する。信号処理部133は、低エネルギー区間811、813に対応するX線フォトン群804、806のX線フォトンエネルギーの情報と、高エネルギー区間812に対応するX線フォトン群805のX線フォトンエネルギーの情報とを用いて、例えば、
図8または
図9に示したような、低エネルギーのX線スペクトル807、高エネルギーのX線スペクトル808を取得する。そして、信号処理部133は、取得したX線エネルギーの異なる複数のスペクトルのデータを撮像制御装置103が有するメモリに格納する。
【0098】
ここで、取得した複数のスペクトルのデータのうち、例えば、
図8または
図9に示したような低エネルギーのX線スペクトル807は、[数4]式における低エネルギーのX線におけるスペクトルN
L(E)に対応し、高エネルギーのX線スペクトル808は、[数4]式における高エネルギーのX線におけるスペクトルN
H(E)に対応する。
【0099】
(S1004:時分割撮影)
S1004において、X線撮像システムを用いた時分割撮影により画像取得が行われる。X線撮像システムの信号処理部133は、例えば、
図4または
図9のタイミングチャートに基づいた時分割撮影により、放射線を照射して撮影を行い、互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像(副画像:H、L)を取得する。
【0100】
(S1005:エネルギーサブトラクション処理)
そして、S1005において、信号処理部133は、S1004で得られた複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像(副画像:H、L)と、S1003でメモリに格納されたX線エネルギーの異なる複数のスペクトルのデータとを用いてエネルギーサブトラクション処理を行う。
【0101】
副画像405及びX線スペクトル807と、副画像406及びX線スペクトル808とを用いて、[数4]式の連立方程式を解くことで精度の高いエネルギーサブトラクション画像が得られる。例えば、物質分離画像として、精度の高い骨の厚みの画像Bと軟部組織の厚みの画像Sを求めることができる。
【0102】
なお、X線スペクトルの取得までの手順は顧客に提供される前の段階で行われてもよい。例えば、出荷前にサービス部門が事前にデータを取得してメモリに格納してもよい。撮影条件を変えて複数パターンのX線スペクトルのデータを用意してメモリに格納しておき、撮影条件に応じてX線スペクトルのデータを変更してもよい。撮影条件として、例えば、顧客先での使用が想定される範囲のX線の照射条件(例えば、管電圧、管電流、蓄積時間等)や、サンプルホールド条件等が網羅されていることが好ましい。撮影条件の変更例は、X線の照射条件や、サンプルホールド条件等に限られず、種々の条件を設定してもよい。
【0103】
本実施形態によれば、照射した放射線のエネルギースペクトルを取得することができる。取得したエネルギースペクトルをエネルギーサブトラクション処理に用いることにより、処理の精度を向上させることが可能になる。
【0104】
[第2実施形態]
第2実施形態では、X線スペクトルを時分割する構成に加えて、撮影条件の最適化を行う構成について説明する。第2の実施形態のX線撮像システムの構成や駆動は第1実施形態と同様である。
【0105】
図11に、本実施形態で説明するX線の波形の例を示す。X線の波形としては種々の波形について本実施形態の処理を適用することが可能であるが、ここでは凸型X線の波形を例に説明する。凸型X線は、理想的には
図11(A)の波形のように管電圧の切り替わりのタイミングで直角に電圧が変化し、それ以外は常に一定の値をとる。X線撮像システムにおけるエネルギーサブトラクション画像の画質は、副画像同士のX線エネルギー差ΔEおよび線量比に依存する。電圧の切り替わりのタイミングでサンプルホールドを行えば、X線エネルギー差ΔEおよび線量比は容易に求めることができ、想定した画質のエネルギーサブトラクション画像が得られる。
【0106】
しかしながら、実際には
図11(B)の波形のように、管電圧の切り替わりのタイミングで直角に電圧が変化することはなく、電圧の立ち上がり、立下りが鈍っている。このように鈍った波形の場合、副画像のエネルギー差ΔEおよび線量比の把握が困難になる場合が生じ得る。また、サンプルホールドのタイミングを数ms変えるだけでエネルギー差ΔEおよび線量比が大きく変化するため、サンプルホールドをタイミングの設定も難しいものとなり得る。
【0107】
そこで、本実施形態ではX線スペクトルを時分割し、そのときのエネルギーサブトラクション処理により取得した画像の画質をシミュレーションすることで、撮影条件として、例えば、サンプルホールドのタイミングを最適化する。以下、シミュレーションを画質シミュレーションともいう。
【0108】
図12に、画質シミュレーションの原理を示す。
図12において、1201~1203は、横軸を時間とし、縦軸をX線フォトンのエネルギーとした、X線フォトンのエネルギー情報とサンプルホールドタイミングを示した図である。1201~1203における違いは点線で示されたサンプルホールドSH_NとSH_Sのタイミングのみである。本実施形態では、画質シミュレーションにより取得した画像の画質を示す評価情報(指標)としてCNR/√線量を用いるものとする。CNR/√Doseは、エネルギーサブトラクション処理により取得した画像において、ターゲット物質の存在する領域とターゲット物質が存在しない領域とのコントラストと、ノイズとの比(コントラスト対ノイズ比:CNR)を線量(Does)の平方根で除算した値である。ターゲット物質の視認性を示すことができ、エネルギーサブトラクション画像の指標として好適に用いることができる。ここで、ターゲット物質とは、被写体に含まれる物質であって、エネルギーサブトラクション処理により分離される物質(例えば、骨や軟部組織等が含まれ得る)を示す。
【0109】
図12において、評価情報1204~1206は、1201~1203の撮影条件で得た複数の副画像(高エネルギーの画像H、及び低エネルギーの画像Lの2枚)を用いたエネルギーサブトラクション処理により取得した画像の画質を示す。
【0110】
X線フォトンのエネルギー情報があれば、サンプルホールドタイミングを変えた際の副画像のX線スペクトルだけでなく、X線のフォトン数、X線のエネルギーといった情報が得られる。評価情報(CNR/√Dose)を求める際に、ノイズ(N)及び線量(Dose)はX線のフォトン数とエネルギーから求めることができる。また、コントラストはX線スペクトルとX線のエネルギーの情報とを[数4]式に代入し連立方程式を解くことにより取得した画像において、ターゲット物質の存在する領域とターゲット物質が存在しない領域とにおけるコントラストを求めることができる。[数4]式の線減弱係数μB(E)、軟部組織の線減弱係数μS(E)、骨の厚さB、軟部組織の厚さS等の物質の種類と厚みは撮影のターゲットとなる被写体に合わせて任意に変更可能である。
【0111】
以上より、X線フォトンのエネルギー情報があれば、エネルギーサブトラクション処理により取得した画像の画質をシミュレーションすることができる。撮影条件としてサンプルホールドのタイミングを、例えば、
図12の1201~1203のように変えて評価情報CNR/√Doseを計算し(例えば、1204~1206)、評価情報CNR/√Doseが最大となるような撮影条件を用いれば、サンプルホールドのタイミングを最適化することができ、これにより良好な画質のエネルギーサブトラクション画像を得ることができる。
【0112】
図13に、シミュレーションにより得られたサンプルホールドのタイミングとエネルギーサブトラクション処理により取得した画像の画質との相関を示す。横軸はSH_Sのタイミングを示し、縦軸は評価情報CNR/√Doseを示す。また、グラフの系列1302は異なるSH_Nのタイミングである。縦軸方向の評価情報の最大値1301の条件が最適なサンプルホールド(SH_N、SH_S)の条件となる。評価情報の最大値1301のサンプルホールドタイミングで画像取得を行い、かつ第1実施形態で説明した方法で取得した時分割のX線スペクトルを用いれば、エネルギーサブトラクション処理により良好な画質の画像を得ることができる。
【0113】
図14に、第2実施形態に係るX線撮像システムにおけるサンプルホールドタイミングの最適化処理のフローチャートを示す。
図14において、破線で囲んだS1402~S1405の処理は、シミュレーションによる処理である。
【0114】
(S1401:時間-X線フォトンエネルギーの情報取得)
S1401において、X線フォトン検出器で時間-X線フォトンエネルギー(時系列のX線フォトンエネルギー)の情報を取得する。
【0115】
(S1402:時間-X線フォトンエネルギーの情報を分割、分割位置変更)
次に、S1402において、信号処理部133は、X線フォトン検出器で取得された時間-X線フォトンエネルギーの情報を、設定されたサンプルホールド(SH_N
i、SH_S
j)のタイミングで分割する。ここで、添え字i、jは、繰り返し処理においてサンプルホールドの設定を変更するパラメータである。パラメータをi=i+1・・・、j=j+1・・・等と変更することにより、サンプルホールド(SH_N
i、SH_S
j)のタイミングを変えることができる。繰り返し処理において、例えば、パラメータiを変更すると、
図13の1302についてSH_Nの設定が変わり、パラメータjを変更すると、
図13の横軸方向についてSH_Sの設定が変わる。
【0116】
信号処理部133は、時間-X線フォトンエネルギーの情報を、設定されたサンプルホールド(SH_Ni、SH_Sj)のタイミングに基づいて、X線フォトン群(例えば、804、805、806)に分割する。
【0117】
(S1403:集計、複数のスペクトルを取得)
S1403において、信号処理部133は、分割したX線フォトンエネルギーの情報を集計し、X線エネルギーの異なる複数のスペクトルを取得する。そして、信号処理部133は、取得したX線エネルギーの異なる複数のスペクトルのデータを撮像制御装置103が有するメモリに格納する。
【0118】
(S1404:画質評価)
S1404において、X線撮像システムを用いた時分割撮影により、放射線を照射して撮影を行い、互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像(副画像)を取得する。そして、信号処理部133は、取得した複数の画像(副画像:H、L)と、X線エネルギーの異なる複数のスペクトルのデータとを用いてエネルギーサブトラクション処理を行い、取得した画像(エネルギーサブトラクション画像:エネサブ画像)の評価情報を計算し、メモリに記憶する。
【0119】
信号処理部133は、サンプルホールド(SH_Ni、SH_Sj)の設定を変えてS1402~S1404の処理を繰り返し実行する。信号処理部133は、設定を変えたサンプルホールド(SH_Ni、SH_Sj)に基づいて、時間-X線フォトンエネルギーの情報を分割し、分割したX線フォトンエネルギーの情報を集計し、X線エネルギーの異なる複数のスペクトルを取得する。そして、信号処理部133は、エネルギーサブトラクション処理を行い、取得した画像(エネルギーサブトラクション画像:エネサブ画像)の評価情報を計算し、メモリに記憶する。
【0120】
(S1405:最適なサンプルホールドタイミングを求める)
S1405において、信号処理部133は、撮影条件として、X線エネルギーの信号をサンプルホールドするタイミングを変更して、評価情報が最大値となるタイミングを設定する。信号処理部133は、S1402~S1404の処理を繰り返し実行することにより取得した複数の評価情報を比較して、評価情報CNR/√Doseが最大となるサンプルホールドタイミングを、最適なサンプルホールドタイミングとして求める。シミュレーションにより取得した最適なサンプルホールドタイミングを用いて、以下の時分割撮影(S1406)を行う。
【0121】
(S1406:時分割撮影)
S1406において、最適なサンプルホールドタイミングに基づいて、X線撮像システムを用いた時分割撮影により画像取得が行われる。X線撮像システムは、時分割撮影により放射線を照射して撮影を行い、信号処理部133は、互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像(副画像)を取得する。
【0122】
(S1407:エネルギーサブトラクション処理)
S1407において、信号処理部133は、複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像(副画像)と、最適なサンプルホールドタイミングで取得されたX線エネルギーの異なる複数のスペクトルのデータとを用いてエネルギーサブトラクション処理を行う。低エネルギーにおける減弱率の画像L(副画像)及び低エネルギーのX線スペクトルと、高エネルギーにおける減弱率の画像H(副画像)及び高エネルギーのX線スペクトルとを用いて、[数4]式の連立方程式を解くことで、精度の高いエネルギーサブトラクション画像が得られる。例えば、物質分離画像として、精度の高い骨の厚みの画像Bと軟部組織の厚みの画像Sを求めることができる。
【0123】
本実施形態によれば、照射した放射線のエネルギースペクトルを取得することができる。取得したエネルギースペクトルをエネルギーサブトラクション処理に用いることにより、処理の精度を向上させることが可能になる。
【0124】
[第3実施形態]
第3実施形態では、X線スペクトルを時分割し、そのときのエネルギーサブトラクション処理により取得した画像の画質をシミュレーションすることで、撮影条件として、サンプルホールドのタイミングとX線の照射条件とを最適化する構成について説明する。第3の実施形態のX線撮像システムの構成や駆動は第1実施形態と同様であり、エネルギーサブトラクション処理により取得した画像の画質評価およびシミュレーションの構成は第2実施形態と同様である。
【0125】
図15に、第3実施形態に係るX線撮像システムにおけるサンプルホールドタイミングとX線の照射条件との最適化処理のフローチャートを示す。
図14のフローチャートとの違いは、X線の照射条件の変更のループが追加されている点であり、
図15の処理フローにおいて、サンプルホールドのタイミングに加え、X線の照射条件の最適化も行う。
図15において、破線で囲んだS1502~S1506の処理は、シミュレーションによる処理である。
【0126】
(S1501:時間-X線フォトンエネルギーの情報取得)
S1501において、X線フォトン検出器で時間-X線フォトンエネルギー(時系列のX線フォトンエネルギー)の情報を取得する。ここで、X線発生装置101におけるX線の照射条件(k)を設定する。ここで、kは、繰り返し処理においてX線の照射条件の設定を変更するパラメータである。パラメータをk=k+1・・・等と変更することにより、X線の照射条件を変えることができる。
【0127】
(S1502:時間-X線フォトンエネルギーの情報を分割、分割位置変更)
次に、S1502において、信号処理部133は、X線フォトン検出器で取得された時間-X線フォトンエネルギーの情報を、設定されたサンプルホールド(SH_Ni、SH_Sj)のタイミングで分割する。
【0128】
(S1503:集計、複数のスペクトルを取得)
S1503において、信号処理部133は、分割したX線フォトンエネルギーの情報を集計し、X線エネルギーの異なる複数のスペクトルを取得する。そして、信号処理部133は、取得したX線エネルギーの異なる複数のスペクトルのデータを撮像制御装置103が有するメモリに格納する。
【0129】
(S1504:画質評価)
S1504において、X線撮像システムを用いた時分割撮影により、放射線を照射して撮影を行い、互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像(副画像)を取得する。そして、信号処理部133は、取得した複数の画像(副画像:H、L)と、X線エネルギーの異なる複数のスペクトルのデータとを用いてエネルギーサブトラクション処理を行い、取得した画像(エネルギーサブトラクション画像:エネサブ画像)の評価情報を計算し、メモリに記憶する。
【0130】
信号処理部133は、サンプルホールド(SH_Ni、SH_Sj)の設定を変えてS1502~S1504の処理を繰り返し実行する。
【0131】
(S1505:最適なサンプルホールドタイミングを求める)
S1505において、信号処理部は、S1502~S1504の処理を繰り返し実行することにより取得した複数の評価情報を比較して、評価情報CNR/√Doseが最大となるサンプルホールドタイミングを、最適なサンプルホールドタイミングとして求める。
【0132】
そして、信号処理部133は、処理をS1501に戻し、X線の照射条件(k)を変更して同様の処理を繰り返す。信号処理部133は、評価情報CNR/√Doseが最大となるサンプルホールドタイミンを設定し、X線の照射条件(k)を変更した条件の下に評価情報CNR/√Doseを計算し、メモリに記憶する。
【0133】
(S1506:最適なX線の照射条件を求める)
S1506において、信号処理部133は、撮影条件を変更したエネルギーサブトラクション処理のシミュレーションにより取得された画像の画質を評価情報に基づいて評価し、評価情報が最大値となる撮影条件を設定する。本ステップでは、信号処理部133は、撮影条件として、X線の照射条件を変更して、評価情報が最大値となる照射条件を設定する。信号処理部133は、X線の照射条件(k)を変更する条件の下に、評価情報CNR/√Doseを計算する処理を繰り返し実行し、取得した複数の評価情報を比較して、評価情報CNR/√Doseが最大となるX線の照射条件(k)を最適なX線の照射条件として求める。シミュレーションにより取得した最適なサンプルホールドタイミング(S1505)、及び最適なX線の照射条件(S1506)を用いて、以下の時分割撮影(S1507)を行う。
【0134】
(S1507:時分割撮影)
S1507において、最適な撮影条件(X線の照射条件、サンプルホールドタイミング)で時分割撮影を行う。すなわち、最適なX線の照射条件及び最適なサンプルホールドタイミングに基づいて、X線撮像システムを用いた時分割撮影により画像取得が行われる。X線撮像システムは、時分割撮影により放射線を照射して撮影を行い、信号処理部133は互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像(副画像)を取得する。
【0135】
(S1508:エネルギーサブトラクション処理)
S1508において、信号処理部133は、複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像(副画像)と、最適な撮影条件(X線の照射条件、サンプルホールドタイミング)で取得されたX線エネルギーの異なる複数のスペクトルのデータとを用いてエネルギーサブトラクション処理を行う。
【0136】
低エネルギーにおける減弱率の画像L(副画像)及び低エネルギーのX線スペクトルと、高エネルギーにおける減弱率の画像H(副画像)及び高エネルギーのX線スペクトルとを用いて、[数4]式の連立方程式を解くことで、精度の高いエネルギーサブトラクション画像が得られる。例えば、物質分離画像として、精度の高い骨の厚みの画像Bと軟部組織の厚みの画像Sを求めることができる。
【0137】
本実施形態によれば、照射した放射線のエネルギースペクトルを取得することができる。取得したエネルギースペクトルをエネルギーサブトラクション処理に用いることにより、処理の精度を向上させることが可能になり、より良好な画質のエネルギーサブトラクション画像が得られる。
【0138】
(変形例)
第1実施形態~第3実施形態では、X線撮像装置104は蛍光体を用いた間接型のX線センサとした。しかしながら開示の技術はこのような形態に限定されない。例えばCdTe等の直接変換材料を用いた直接型のX線センサを用いてもよい。
【0139】
第1実施形態~第3実施形態では、X線のエネルギーが第1のエネルギーレベルと第1のエネルギーレベルよりも高い第2のエネルギーレベルと、を有する高低2つのX線のエネルギーを用いる場合について説明した。しかしながら開示の技術は、このような実施形態に限定されない。例えば、X線のエネルギーのレベルが3つ以上の場合についても適用可能である。
【0140】
第1実施形態~第3実施形態では、X線のエネルギーを変化させることで、異なるエネルギーの画像を得ていた。しかしながら開示の技術はこのような形態に限定されない。複数の蛍光体105および二次元検出器106を重ねる積層型とすることで、X線の入射方向に対して前面の二次元検出器と背面の二次元検出器から、異なるエネルギーの画像を得る構成としてもよい。二次元検出器106は医療用に限定されるものではなく、工業用の二次元検出器であってもよい。
【0141】
第1実施形態~第3実施形態では、放射線撮影システムの撮像制御装置103を用いてエネルギーサブトラクション処理を行っていた。しながら開示の技術はこのような形態に限定されない。撮像制御装置103で取得した画像を別のコンピュータに転送して、エネルギーサブトラクション処理を行ってもよい。例えば、取得した画像を医療用のPACSを介して別のパソコン(画像ビューア)に転送し、エネルギーサブトラクション処理を行ってから、処理の結果を放射線撮影システムで表示してもよい。
【0142】
第1実施形態~第3実施形態では、X線の管電圧を能動的に切り替えた場合において、凸型のX線の例を説明した。しかしながら、実施の形態は、この例に限定されず、例えば、階段状に管電圧を切り替えてもよい。段数は2段の階段でもよいし、段数は3段以上の階段でもよい。また、上りの階段のように、管電圧が増加するように切り替えてもよいし、下りの階段のように、管電圧が減少するように切り替えてもよい。例えば、上りの階段のように、管電圧が増加する場合、X線発生装置101は、少なくとも、第1管電圧と、第1管電圧よりも高い第2管電圧と、切り替えてX線を発生する。また、下りの階段のように、管電圧が減少する場合、X線発生装置101は、少なくとも、第2管電圧と第1管電圧とを切り替えてX線を発生する。
【0143】
サンプルホールドやX線フォトンエネルギーの時分割は階段の段数に合わせて増減させてもよい。例えば、
図4で説明したように、最も高い管電圧を中央値に設定し、中央値に対して左側の管電圧を階段状に増加するように設定し、中央値に対して右側の管電圧を階段状に減少するように設定してもよい。
【0144】
また、第1実施形態~第3実施形態では、X線発生装置101(放射線発生装置)の管電圧を変化させていた。しかしながら開示の技術はこのような形態に限定されない。X線発生装置101のフィルタを時間的に切り替えるなどして、X線撮像装置104に照射されるX線のエネルギーを変化させてもよい。
【0145】
第1実施形態~第3実施形態では、骨と軟物質の分離といった医療用途を例に説明した。しかしながら、開示の技術は、このような形態に限定されない。例えば、回路基板の不良品検査などの工業用途にも適用することができる。
【0146】
また、第2実施形態及び第3実施形態では、エネルギーサブトラクション画像の画質を評価するための指標としてCNR/√Doseを用いた。しかしながら開示の技術は、この指標を用いた実施形態に限定されない。例えば、線量を考慮せずに、CNRを指標にしてもよい。あるいは、副画像(画像Hと画像L)のエネルギー差ΔEや線量比など、画質の以外のパラメータを指標としてもよい。例えば、信号処理部133は、複数の画像(画像Hと画像L)を取得する際に照射されたX線エネルギーのエネルギー差を用いた評価情報、又は、複数の画像を取得する際に照射されたX線の線量比を用いた評価情報、が最大値となる撮影条件を設定してもよい。
【0147】
本明細書の開示は、以下の放射線撮像装置、情報処理装置、情報処理方法(放射線撮像方法)及びプログラムを含む。
【0148】
(項目1) 時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計して、エネルギースペクトルを取得する処理を行う処理手段を備える放射線撮像装置。
【0149】
(項目2) 被写体に放射線を照射して撮影を行うことで得た互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像と、時系列に取得された放射線フォトンエネルギーに基づいて取得したエネルギースペクトルとを用いて、エネルギーサブトラクション処理を行う処理手段を備え、
前記処理手段は、
前記放射線エネルギーの信号をサンプルホールドするタイミングで、前記放射線フォトンエネルギーを分割したエネルギー情報を集計して、前記エネルギースペクトルを取得する放射線撮像装置。
【0150】
(項目3) 前記処理手段は、前記エネルギー情報における時系列のフォトン数をカウントすることにより前記エネルギースペクトルを取得する項目1または2に記載の放射線撮像装置。
【0151】
(項目4) 前記処理手段は、第1の放射線エネルギーに対応した信号をサンプルホールドするタイミングと、前記第1の放射線エネルギーよりも高い第2の放射線エネルギーに対応した信号をサンプルホールドするタイミングとで、前記放射線フォトンエネルギーを分割する項目1乃至3のいずれか1項目に記載の放射線撮像装置。
【0152】
(項目5) 放射線が少なくとも1回または複数回照射された前記放射線フォトンエネルギーを時系列に取得する取得手段を更に備え、
前記処理手段は、前記放射線が複数回照射された場合に、前記放射線のエネルギーに対応した信号をサンプルホールドするタイミングで分割された前記放射線フォトンエネルギーを前記放射線のエネルギー別に合計して前記エネルギー情報を取得する項目1乃至4のいずれか1項目に記載の放射線撮像装置。
【0153】
(項目6)
前記処理手段は、前記放射線が複数回照射された場合、照射毎に一致した前記タイミングで前記放射線フォトンエネルギーを分割する項目5に記載の放射線撮像装置。
【0154】
(項目7) 時間的に変化する管電圧に基づいた放射線の照射に同期して前記放射線フォトンエネルギーを取得する取得手段を更に備える項目1乃至4のいずれか1項目に記載の放射線撮像装置。
【0155】
(項目8) 前記処理手段は、前記エネルギースペクトルにおいて、放射線のエネルギー領域を超えた超過領域のエネルギースペクトルが含まれている場合、当該超過領域のエネルギースペクトルを除外するパイルアップ補正を行う項目1乃至7のいずれか1項目に記載の放射線撮像装置。
【0156】
(項目9) 前記処理手段は、前記エネルギースペクトルの波形を、滑らかな形状に補正するスムージング補正を行う項目1乃至8のいずれか1項目に記載の放射線撮像装置。
【0157】
(項目10) 管電圧を切り替えて放射線を発生する放射線発生手段を更に備え、
前記放射線発生手段は、
第1管電圧と、前記第1管電圧よりも高い第2管電圧と、前記第1管電圧とを、切り替えて前記放射線を発生する、又は、
少なくとも、前記第1管電圧と第2管電圧とを切り替えて前記放射線を発生する、又は、
少なくとも、前記第2管電圧と前記第1管電圧とを切り替えて前記放射線を発生する項目1乃至9のいずれか1項目に記載の放射線撮像装置。
【0158】
(項目11) 前記処理手段は、撮影条件を変更した前記エネルギーサブトラクション処理のシミュレーションにより取得された画像の画質を評価情報に基づいて評価し、前記評価情報が最大値となる撮影条件を設定する項目2に記載の放射線撮像装置。
【0159】
(項目12) 前記処理手段は、前記撮影条件として、前記放射線エネルギーの信号をサンプルホールドするタイミングを変更して、前記評価情報が最大値となる前記タイミングを設定する項目11に記載の放射線撮像装置。
【0160】
(項目13)
前記処理手段は、前記撮影条件として、前記放射線の照射条件を変更して、前記評価情報が最大値となる前記照射条件を設定する項目11に記載の放射線撮像装置。
【0161】
(項目14) 前記処理手段は、
前記画像のコントラストとノイズとの比を用いた評価情報、又は、
前記コントラストとノイズとの比を前記放射線の線量の平方根で除算した値を用いた評価情報、が最大値となる前記撮影条件を設定する項目11乃至13のいずれか1項目に記載の放射線撮像装置。
【0162】
(項目15) 前記処理手段は、
前記複数の画像を取得する際に照射された前記複数の放射線エネルギーのエネルギー差を用いた評価情報、又は、
前記複数の画像を取得する際に照射された前記放射線の線量比を用いた評価情報、が最大値となる前記撮影条件を設定する項目11乃至14のいずれか1項目に記載の放射線撮像装置。
【0163】
(項目16) 時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計することで得られるエネルギースペクトルを用いて、被写体に放射線を照射して撮影を行うことにより、互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像を取得し、前記複数の画像を用いてエネルギーサブトラクション処理を行う処理手段を備える放射線撮像装置。
【0164】
(項目17) 時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計して、エネルギースペクトルを取得する処理を行う処理手段を備える情報処理装置。
【0165】
(項目18) 被写体に放射線を照射して撮影を行うことで得た互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像と、時系列に取得された放射線フォトンエネルギーに基づいて取得したエネルギースペクトルとを用いて、エネルギーサブトラクション処理を行う処理手段を備え、
前記処理手段は、
前記放射線エネルギーの信号をサンプルホールドするタイミングで、前記放射線フォトンエネルギーを分割したエネルギー情報を集計して、前記エネルギースペクトルを取得する情報処理装置。
【0166】
(項目19) 時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計することで得られるエネルギースペクトルを用いて、被写体に放射線を照射して撮影を行うことにより、互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像を取得し、前記複数の画像を用いてエネルギーサブトラクション処理を行う処理手段を備える情報処理装置。
【0167】
(項目20) 時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計して、エネルギースペクトルを取得する処理を行う処理工程を備える情報処理方法。
【0168】
(項目21) 被写体に放射線を照射して撮影を行うことで得た互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像と、時系列に取得された放射線フォトンエネルギーに基づいて取得したエネルギースペクトルとを用いて、エネルギーサブトラクション処理を行う処理工程を備え、
前記処理工程では、
前記放射線エネルギーの信号をサンプルホールドするタイミングで、前記放射線フォトンエネルギーを分割したエネルギー情報を集計して、前記エネルギースペクトルを取得する情報処理方法。
【0169】
(項目22) 時系列に取得された放射線フォトンエネルギーを時間方向に分割して得たエネルギー情報を集計することで得られるエネルギースペクトルを用いて、被写体に放射線を照射して撮影を行うことにより、互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の画像を取得し、前記複数の画像を用いてエネルギーサブトラクション処理を行う処理工程を備える情報処理方法。
【0170】
(項目23) コンピュータを、項目1乃至16のいずれか1項に記載の放射線撮像装置の処理手段として機能させるプログラム。
【0171】
[その他の実施形態]
開示の技術は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0172】
開示の技術は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0173】
101:X線発生装置、102:X線制御装置、103:撮像制御装置(情報処理装置)、104:X線撮像装置(放射線撮像装置)