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特開2023-181860冷却装置、半導体製造装置及び半導体製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181860
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】冷却装置、半導体製造装置及び半導体製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20231218BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20231218BHJP
   F25B 5/04 20060101ALI20231218BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20231218BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
F28D15/02 L
F28D15/02 101D
F28D15/02 104B
F25B1/00 311B
F25B5/04 Z
F25B1/00 396Z
G03F7/20 521
H05K7/20 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095225
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野元 誠
【テーマコード(参考)】
2H197
5E322
【Fターム(参考)】
2H197CA16
2H197DB17
2H197HA03
5E322AB10
5E322DB06
5E322DB07
5E322EA11
(57)【要約】
【課題】冷却対象物を冷却するのに有利な冷却装置を提供する。
【解決手段】冷却対象物を冷却する冷却装置であって、前記冷却対象物を冷却するための冷媒を循環させる循環系を有し、前記循環系には、前記冷却対象物の少なくとも一部と前記冷媒との間で熱交換を行う領域を含む容器が設けられ、前記冷媒は、第1沸点の第1冷媒と、前記第1沸点よりも高い第2沸点の第2冷媒とを混合した混合冷媒であり、前記循環系は、前記領域の全域が前記第1冷媒と前記第2冷媒とがともに液相状態の混合冷媒にさらされ、前記容器から気液混相状態の混合冷媒が排出されるように、前記混合冷媒を循環させる、ことを特徴とする冷却装置を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却対象物を冷却する冷却装置であって、
前記冷却対象物を冷却するための冷媒を循環させる循環系を有し、
前記循環系には、前記冷却対象物の少なくとも一部と前記冷媒との間で熱交換を行う領域を含む容器が設けられ、
前記冷媒は、第1沸点の第1冷媒と、前記第1沸点よりも高い第2沸点の第2冷媒とを混合した混合冷媒であり、
前記循環系は、前記領域の全域が前記第1冷媒と前記第2冷媒とがともに液相状態の混合冷媒にさらされ、前記容器から気液混相状態の混合冷媒が排出されるように、前記混合冷媒を循環させる、
ことを特徴とする冷却装置。
【請求項2】
前記第1冷媒は、前記領域において、前記冷却対象物を沸騰冷却して気相状態となり、前記第2冷媒は、前記領域において、液相状態で前記冷却対象物を対流冷却するとともに気相状態の前記第1冷媒を圧縮するような混合比で前記第1冷媒と前記第2冷媒とが混合されている、ことを特徴とする請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記混合冷媒は、非共沸混合冷媒である、ことを特徴とする請求項1に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記循環系には、気相状態の混合冷媒を圧縮して送出する圧縮機と、前記圧縮機から送出された気相状態の混合冷媒を凝縮して液相状態の混合冷媒にする凝縮器と、前記凝縮器からの液相状態の混合冷媒を減圧して前記容器に供給する減圧器と、前記容器から排出される気液混相状態の混合冷媒を、気相状態の冷媒と、液相状態の冷媒とに分離する気液分離部と、が設けられ、
前記循環系は、前記気液分離部で分離された液相状態の冷媒を前記圧縮機に戻すための第1経路と、前記気液分離部で分離された気相状態の冷媒を前記圧縮機に戻すための第2経路と、を含み、
前記第1経路は、前記気液分離部で分離された液相状態の冷媒を気化させて気相状態の冷媒にする第1気化部を介して、前記圧縮機に接続され、
前記第2経路は、前記圧縮機に直接接続されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の冷却装置。
【請求項5】
前記第1気化部は、前記圧縮機から送出される気相状態の混合冷媒の一部を、絞り弁を介して、前記気液分離部で分離された液相状態の冷媒に合流させることで、当該液相状態の冷媒を気化させる、ことを特徴とする請求項4に記載の冷却装置。
【請求項6】
前記容器と前記気液分離部との間に設けられ、前記容器から排出される気液混相状態の混合冷媒を気化させるための第2気化部を更に有する、ことを特徴とする請求項4に記載の冷却装置。
【請求項7】
前記第2気化部は、前記凝縮器の内部に設けられ、前記圧縮機から送出される気相状態の混合冷媒と、前記容器から排出される気液混相状態の混合冷媒との間で熱交換を行う熱交換器を含む、ことを特徴とする請求項6に記載の冷却装置。
【請求項8】
前記気液分離部で分離された液相状態の冷媒と、前記冷却対象物とは異なる冷却対象物との間で熱交換を行うことで、前記異なる冷却対象物を冷却する熱交換器を更に有する、ことを特徴とする請求項4に記載の冷却装置。
【請求項9】
前記循環系には、前記容器から排出される気液混相状態の混合冷媒を凝縮して液相状態の混合冷媒にする凝縮器と、前記凝縮器からの液相状態の混合冷媒を送出するポンプと、前記ポンプから送出された液相状態の混合冷媒を減圧して前記容器に供給する減圧器と、が設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の冷却装置。
【請求項10】
前記容器から排出される気液混相状態の混合冷媒と、前記冷却対象物とは異なる冷却対象物との間で熱交換を行うことで、前記異なる冷却対象物を冷却する熱交換器を更に有する、ことを特徴とする請求項9に記載の冷却装置。
【請求項11】
前記第1冷媒は、R-1234zeE又はR-1234yfである、ことを特徴とする請求項1に記載の冷却装置。
【請求項12】
発熱部を有する半導体製造装置であって、
請求項1乃至11のうちいずれか1項に記載の冷却装置を有し、
前記冷却装置は、前記発熱部を冷却対象物として冷却するように構成されている、
ことを特徴とする半導体製造装置。
【請求項13】
パターンを形成するパターン形成装置として構成されている、
ことを特徴とする請求項12に記載の半導体製造装置。
【請求項14】
請求項12に記載の半導体製造装置によって基板を処理する工程と、
前記工程で処理された基板を加工する工程と、
を有することを特徴とする半導体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却装置、半導体製造装置及び半導体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
露光装置、インプリント装置、電子線描画装置などのパターン形成装置、又は、CVD装置、エッチング装置、スパッタリング装置などのプラズマ処理装置などのような半導体製造装置は、駆動機構、或いは、プラズマによって加熱される部材などの発熱部を有する。このような発熱部を冷却するために、半導体製造装置には、冷却装置が備えられている。冷却装置は、発熱部から熱を奪い、かかる熱を装置外に発熱することで発熱部を冷却する。
【0003】
特許文献1には、部品から熱を抽出する蒸発器と、凝縮器と、ポンプと、アキュムレータと、熱交換器と、温度センサと、を有する冷却システムが開示されている。かかる冷却システムでは、ポンプから出た流体冷媒が、蒸発器及び凝縮器を介してポンプに戻る循環路が構成され、アキュムレータは、循環路と流体連通している。熱交換器は、アキュムレータ内の流体冷媒からの熱の伝達、及び、アキュムレータ内の流体冷媒への熱の伝達を行う。この際、熱の伝達量は、温度センサの出力に基づいて制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5313384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体冷媒をポンプで循環させる冷却システムでは、一般的に、液化手段が不要な大気圧沸点が常温以上の冷媒(例えば、HFO-1336mzz(E)、Novec7000、HFO-1233zd(Z))が採用されることが多い。かかる冷媒を用いて大気圧沸点よりも沸騰温度を低く設定したい場合には、蒸気圧が大気圧よりも低くなる。
【0006】
このような冷却システムの冷却対象として、コイルを密閉容器内に配置し、その内部空間を流体冷媒で満たしてコイルを冷却するジャケット構造を有するリニアモータを考えると、沸騰した気化冷媒は、密度差によりジャケットの内部空間上部を流れる。コイルの発熱が大きくなると、気化冷媒の量も増加し、圧力も低いため、気化冷媒がジャケットの内部空間を占有することなり、発熱部であるコイルの上部が気化冷媒に覆われて沸騰冷却が行えない状態、所謂、ドライアウトが生じる。ドライアウトが生じると、コイルの温度が急上昇し、コイルが焼き切れてしまう。
【0007】
ここで、ジャケットの内部空間で発熱するコイルを沸騰冷却するのに十分な量(流量)の冷媒を供給することが考えられるが、内圧が低いと、気化冷媒が膨張してジャケットの内部空間上部を占有することになり、ドライアウトを防ぐことができない。なお、冷媒の流量を更に増加し、気化媒体を押し流すことで、ドライアウトを防ぐことは可能である。但し、この場合、対流冷却と等価となるため、低流量で大熱量を回収することができるという沸騰冷却の利点を享受することができず、冷媒の大流量化による耐圧問題、装置の大型化及びエネルギー消費量の増加を招いてしまう。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、冷却対象物を冷却するのに有利な冷却装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての冷却装置は、冷却対象物を冷却する冷却装置であって、前記冷却対象物を冷却するための冷媒を循環させる循環系を有し、前記循環系には、前記冷却対象物の少なくとも一部と前記冷媒との間で熱交換を行う領域を含む容器が設けられ、前記冷媒は、第1沸点の第1冷媒と、前記第1沸点よりも高い第2沸点の第2冷媒とを混合した混合冷媒であり、前記循環系は、前記領域の全域が前記第1冷媒と前記第2冷媒とがともに液相状態の混合冷媒にさらされ、前記容器から気液混相状態の混合冷媒が排出されるように、前記混合冷媒を循環させる、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、冷却対象物を冷却するのに有利な冷却装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態における冷却装置の構成を示す概略図である。
図2】冷媒の飽和蒸気圧曲線の一例を示す図である。
図3】低沸点冷媒の飽和蒸気圧曲線、及び、混合冷媒の飽和蒸気圧曲線を示す図である。
図4】本発明の第2実施形態における冷却装置の構成を示す概略図である。
図5】本発明の第3実施形態における冷却装置の構成を示す概略図である。
図6A】本発明の第4実施形態における冷却装置の構成を示す概略図である。
図6B】本発明の第4実施形態における冷却装置の構成を示す概略図である。
図6C】本発明の第4実施形態における冷却装置の構成を示す概略図である。
図7】露光装置の構成を示す概略図である。
図8】インプリント装置の構成を示す概略図である。
図9】プラズマ処理装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態における冷却装置CA1の構成を示す概略図である。冷却装置CA1の冷却対象は、特別な対象に限定されるものではないが、例えば、半導体製造装置、特に、半導体製造装置の発熱部である。半導体製造装置は、例えば、露光装置、インプリント装置、電子線描画装置などのパターン形成装置、或いは、CVD装置、エッチング装置、スパッタリング装置などのプラズマ処理装置などを含む。パターン形成装置は、基板及び/又は原版などの部品を高速で駆動する駆動機構を有し、かかる駆動機構は、部品の駆動に伴って発熱するため、発熱部となる。プラズマ処理装置では、プラズマによって電極などの部品が加熱されるため、かかる部品が発熱部となる。
【0015】
冷却装置CA1は、発熱部などの冷却対象物80を冷却するように構成されている。冷却装置CA1は、図1に示すように、凝縮器2と、ポンプ3と、加熱器4と、温度センサ5と、絞り弁6と、熱交換容器7と、が設けられた冷媒循環系1を有する。冷媒循環系1(冷却装置CA1)は、発熱部である冷却対象物80が熱交換容器7(の内部)に収容された密閉循環系を構成している。本実施形態では、冷却対象物80の全体が熱交換容器7に収容されているが、これに限定されるものではなく、冷却対象物80の少なくとも一部が熱交換容器7に収容されていてもよい。ここで、冷媒循環系1を循環する冷媒10は、低沸点冷媒11(第1沸点の第1冷媒)と、高沸点冷媒12(第1沸点よりも高い第2沸点の第2冷媒)とを混合した混合冷媒、詳細には、非共沸混合冷媒である。
【0016】
凝縮器2(の内部)に収容された液相状態の冷媒10(以下、「液体冷媒14」と称する)は、ポンプ3によって加熱器4に送出される。このように、ポンプ3は、凝縮器2からの液体冷媒14(混合冷媒)を送出する機能を有する。加熱器4は、加熱器4の下流に設けられた温度センサ5で検出される冷媒温度が所定の管理温度になるように、ポンプ3から送出された液体冷媒14を加熱する。加熱器4は、例えば、液体冷媒14を加熱(温調)するための電熱ヒータ又は熱交換器を含むが、これに限定されるものではない。
【0017】
管理温度に温調された液体冷媒14は、絞り弁6において、低沸点冷媒11が管理温度で飽和蒸気圧となる近傍まで減圧され、熱交換容器7に送られる。このように、絞り弁6は、ポンプ3から送出された液体冷媒14を減圧して熱交換容器7に供給する減圧器として機能する。
【0018】
熱交換容器7は、冷却対象物80と熱交換を行う熱交換領域72を含み、熱交換領域72に冷却対象物80を内蔵する。熱交換容器7に内蔵された冷却対象物80が発熱すると、熱交換容器7に供給された液体冷媒14(混合冷媒)のうち、低沸点冷媒11が沸騰して気化潜熱で冷却対象物80を冷却し、高沸点冷媒12が冷却対象物80を対流冷却する。このように、低沸点冷媒11は、熱交換容器内の熱交換領域72において、冷却対象物80を沸騰冷却して気相状態となり、高沸点冷媒12は、熱交換容器内の熱交換領域72において、液相状態で冷却対象物80を対流冷却する。熱交換容器内の熱交換領域72を通過して熱交換容器7から排出される低沸点冷媒11は、冷却対象物80の発熱状態に応じて、液相状態、或いは、気液混相(二相)状態で凝縮器2に戻される。一方、熱交換容器内の熱交換領域72を通過して熱交換容器7から排出される高沸点冷媒12は、冷却対象物80の発熱状態にかかわらず、常に液相状態で凝縮器2に戻される。
【0019】
凝縮器2は、本実施形態では、熱交換容器7から排出される気液混相状態の冷媒10(混合冷媒)を凝縮して液体冷媒14にする。凝縮器2には、熱交換器8と、圧力センサ9とが設けられている。凝縮器2では、圧力センサ9で検出される圧力が常に所定の圧力になるように、熱交換器8を介して、冷媒循環系1の外部への発熱制御を行う。
【0020】
ここで、熱交換容器7の内部の低沸点冷媒11の圧力が管理温度の飽和蒸気圧となるように制御することで、熱交換容器7の内部の沸点が決まる。沸騰冷却の場合、気化潜熱で熱を回収するため、少ない冷媒流量、且つ、一定温度で大きな熱回収を行うことができる。
【0021】
低沸点冷媒11は、沸騰して気化すると、気相状態の冷媒(以下、「気体冷媒13」と称する)となり、高沸点冷媒12との密度差で浮上し、熱交換容器7の上部空間を占有する。但し、本実施形態では、所定量の高沸点冷媒12(液体冷媒14)が常に熱交換容器内に存在し、高沸点冷媒12が液相状態を維持したまま冷却対象物80を通過する。換言すれば、本実施形態では、液相状態の高沸点冷媒12が冷却対象物80の上流側から下流側まで存在する。これにより、冷却対象物80の気体冷媒13への暴露時間が低減され、冷却対象物80(の上部)が気体冷媒13に覆われて沸騰冷却が行えない状態、所謂、ドライアウトの発生を抑制することができる。
【0022】
更に、冷却対象物80がリニアモータのコイル(コイル列)である場合、その表面に線材間の溝部が存在するため、毛細管現象によって、液相状態の高沸点冷媒12がコイル表面の溝部に侵入し、液相状態の低沸点冷媒11もコイル表面の溝部に誘導される。これにより、冷却対象物80に対する沸騰冷却が促進され、ドライアウトの発生を抑制することができる。
【0023】
但し、冷却対象物80の発熱量が大きく、管理温度下で蒸気圧が低い冷媒を低沸点冷媒11に採用すると、冷却対象物80の上部が気体冷媒13に暴露し、高沸点冷媒12による冷却効果だけでは、ドライアウトの発生を抑制することができない。
【0024】
ドライアウトの発生を抑制するためには、管理温度下で蒸気圧が高い冷媒を低沸点冷媒11に採用して、冷却能力を失った気体冷媒13を圧力で圧縮し、気体冷媒13の占有体積を低減させ、冷却対象物80を液体冷媒14にさらされやすくすればよい。
【0025】
なお、冷却対象物80がジャケット構造を有するリニアモータである場合、推力を上げるために、ジャケット内部のコイルとジャケット外部の磁石とを近づけてコイルと磁石との間の距離を短くする必要がある。ジャケットは、磁力を通すような薄肉構造を有するため、その耐圧は、100kPaオーダーである。一般的な冷凍サイクルで採用されるR32などの冷媒は、その蒸気圧がMPaオーダーとなるため、冷却対象物80がジャケット構造を有するリニアモータである場合には採用することができない。また、冷媒の蒸気圧は、耐圧範囲内で極力上げたいが、このような冷媒を選定することは非常に難しい。
【0026】
そこで、本実施形態では、低沸点冷媒11と高沸点冷媒12とを混合した非共沸混合冷媒を、冷却対象物80を冷却するための冷媒として採用し、低沸点冷媒11の沸点を上昇させる物理現象を利用している。
【0027】
図2は、冷媒の飽和蒸気圧曲線の一例を示す図である。図2において、横軸は、温度T[K]を示し、縦軸は、蒸気圧P[Pa]を示す。冷媒の飽和蒸気圧曲線は、冷媒の物性値で決まり、以下のクラウジウス・クラペイロン(Clausius-Clapeyron)の式で示され、図2に示すように、右肩上がりの曲線となる。
dP/dT=L/(Vv-Vl)/Ts
なお、dP:圧力変化、dT:温度変化、L:潜熱、Vv:蒸気比体積、Vl:液比体積、Ts:飽和温度、とする。
【0028】
低沸点冷媒11に高沸点冷媒12を混合すると、沸点上昇(ΔT)は、簡易的に高沸点冷媒12が不揮発であると仮定すると、以下の式で示すことができる。
ΔT≒xs・R(T*)/Lm
なお、ΔT:沸点上昇、R:気体定数、T*:低沸点純冷媒沸点、xs:高沸点冷媒モル分率、Lm:低沸点冷媒蒸発mol蒸発潜熱、とする。
【0029】
図2を参照するに、低沸点冷媒11を沸点上昇させることは、飽和蒸気圧曲線を高温側(右方向)に平行移動させることと等価であり、管理温度下では、低沸点冷媒11の蒸気圧を下げることになる。従って、低沸点冷媒11と、高沸点冷媒12との混合比を調整することで、蒸気圧を調整することができる。
【0030】
例えば、管理温度が23度、熱交換容器7の耐圧が400kPa-absである場合を考える。また、低沸点冷媒11として、管理温度下で蒸気圧が熱交換容器7の耐圧よりも僅かに高いR-1234zeE(23度での蒸気圧:450kPa)を採用する。なお、低沸点冷媒11には、R-1234yfを採用することも可能である。
【0031】
図3は、低沸点冷媒11としてのR-1234zeEの飽和蒸気圧曲線、及び、管理温度下で蒸気圧が耐圧(400kPa)となる混合冷媒の飽和蒸気圧曲線を示す図である。図3において、横軸は、温度[℃]を示し、縦軸は、蒸気圧[kPa]を示す。
図3を参照するに、沸点を約4度上昇させる必要がある。4度の沸点上昇をさせるためには、R-1234zeEの物性値を、上述した沸点上昇(ΔT)の式に代入すると、高沸点冷媒12をモル分率が約0.2となるように混合すればよいことがわかる。ここで、高沸点冷媒12は、低沸点冷媒11と親和性を有し、管理温度下で飽和蒸気圧が十分に低いことが好ましい。
【0032】
また、低沸点冷媒11の蒸気圧を高めると、沸騰冷却で生じる気体冷媒13の気泡径を小さくすることができる。気泡内圧をPv、液体圧力をPl、気泡径をr、表面張力をσとすると、気泡の力のつり合いから、以下の式が成り立つ。
Pv=Pl+2σ/r
この式から、気泡内圧は、周囲の液体よりもΔP=2σ/rの圧力だけ高くなる。
【0033】
また、気泡の界面では、液体は、飽和温度よりも高い過熱状態となり、過熱液温をTl、過熱液温での飽和蒸気圧をPs、液体圧力Plでの飽和温度をTsとして、気泡と液体との間でクラウジウス・クラペイロンの式を適用すると、以下の式が成り立つ。
(Pv-Pl)/(Tl-Ts)=L/(Vv-Vl)/Ts
ここで、Vv>>Vl、Pv≒Psとして近似すると、以下の式が成り立つ。
ΔP=Pv-Pl≒L(Tl-Ts)/Vv/Ts
Vvは、ボイルの法則でPlに反比例し、R-1234ZeEの物性と数度の過熱度を許容すれば、約100kPa程度の差圧を生じさせることができ、蒸気圧の上昇とあわせて、大気圧比で気泡を約1/5に圧縮することができる。
【0034】
低沸点冷媒11として、蒸発潜熱が大きい冷媒を採用すれば、更に、蒸気体積が低減され、気体冷媒13の量を低減することができる。R-1234ZeEは、その潜熱が195.4J/gである。このように、R-1234ZeEは、潜熱が比較的高い冷媒であるため、ドライアウト対策に好適な冷媒であり、環境面でも地球温暖化係数(GWP)6で優れている。
【0035】
このように、本実施形態では、冷媒循環系1において、熱交換容器7の熱交換領域72の全域が低沸点冷媒11と高沸点冷媒12とがともに液相状態の混合冷媒にさらされ、熱交換容器7から気液混相状態の混合冷媒が排出されるように、混合冷媒が循環される。これを実現するために、混合冷媒は、熱交換容器内で、低沸点冷媒11が冷却対象物80を沸騰冷却して気相状態となり、高沸点冷媒12が液相状態で冷却対象物80を対流冷却するとともに気相状態の低沸点冷媒11を圧縮するような混合比で混合されている。
【0036】
具体的には、混合冷媒として、非共沸混合冷媒を採用し、低沸点冷媒11と高沸点冷媒12との混合比を調整することで、低沸点冷媒11の蒸気圧を熱交換容器7の耐圧近くまで高圧にする。これにより、沸騰冷却で発生した気相状態の低沸点冷媒を圧縮することができる。また、かかる気相状態の低沸点冷媒の気泡径が小さくなり、気泡内圧は、周囲の液体よりも気泡の曲率比だけ上昇する。これにより、沸騰冷却で発生した気相状態の低沸点冷媒を更に圧縮することができる。このような圧縮効果によって、冷却能力を失った液相状態の低沸点冷媒の熱交換容器内での占有体積比率が低減されるため、ドライアウトの発生を抑制することができる。
【0037】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態における冷却装置CA2の構成を示す概略図である。本実施形態における冷却装置CA2は、第1実施形態における冷却装置CA1(ポンプによる液体冷媒の循環)を、圧縮機(コンプレッサ)により気体冷媒を循環させる一般的な冷凍サイクルに適用させたものである。なお、本実施形態で言及していない事項については、第1実施形態と同様である。
【0038】
冷却装置CA2は、発熱部などの冷却対象物80を冷却するように構成されている。冷却装置CA2は、図4に示すように、圧縮機22と、凝縮器23と、膨張弁24と、熱交換容器25と、が設けられた冷媒循環系21を有する。冷媒循環系21(冷却装置CA2)は、発熱部である冷却対象物80が熱交換容器25(の内部)に収容された密閉循環系を構成している。本実施形態では、冷却対象物80の全体が熱交換容器25に収容されているが、これに限定されるものではなく、冷却対象物80の少なくとも一部が熱交換容器25に収容されていてもよい。ここで、冷媒循環系21を循環する冷媒10は、第1実施形態と同様に、低沸点冷媒11(第1沸点の第1冷媒)と、高沸点冷媒12(第1沸点よりも高い第2沸点の第2冷媒)とを混合した混合冷媒、詳細には、非共沸混合冷媒である。但し、高沸点冷媒12は、第1実施形態と異なり、圧縮機22に送り込まれる際には、気相状態となる。
【0039】
圧縮機22は、気相状態の冷媒(気体冷媒13)を圧縮して凝縮器23に送出する。凝縮器23は、圧縮機22から送出された気体冷媒13に対して、冷却水などの冷却媒体(不図示)を用いて排熱を行うことで、気体冷媒13を凝縮して液相状態の冷媒(液体冷媒14)にする。凝縮器23からの液体冷媒14は、膨張弁24において、飽和蒸気圧の近傍まで減圧され、熱交換容器25に送られる。このように、膨張弁24は、凝縮器23からの液体冷媒14を減圧して熱交換容器25に供給する減圧器として機能する。
【0040】
熱交換容器25は、冷却対象物80と熱交換を行う熱交換領域252を含み、熱交換領域252に冷却対象物80を内蔵する。熱交換容器25に内蔵された冷却対象物80が発熱すると、熱交換容器25に供給された液体冷媒14(混合冷媒)のうち、低沸点冷媒11が沸騰して気化潜熱で冷却対象物80を冷却し、高沸点冷媒12が冷却対象物80を対流冷却する。このように、低沸点冷媒11は、熱交換容器内の熱交換領域252において、冷却対象物80を沸騰冷却して気相状態となり、高沸点冷媒12は、熱交換容器内の熱交換領域252において、液相状態で冷却対象物80を対流冷却する。熱交換容器内の熱交換領域252を通過して熱交換容器25から排出される低沸点冷媒11は、冷却対象物80の発熱状態に応じて、液相状態、或いは、気液混相(二相)状態となる。一方、熱交換容器内の熱交換領域252を通過して熱交換容器25から排出される高沸点冷媒12は、冷却対象物80の発熱状態にかかわらず、常に液相状態を維持する。なお、膨張弁24の下流には、圧力センサ26が設けられ、熱交換容器25の圧力(圧力センサ26で検出される圧力)が常に低沸点冷媒11の蒸気圧の近傍になるように、膨張弁24の開度を制御する。
【0041】
熱交換容器25から排出される冷媒には、液体冷媒14が必ず含まれている。従って、熱交換容器25から排出される冷媒を、そのまま圧縮機22に戻すと、圧縮機22は、液相状態の冷媒を圧縮することができないため、圧縮機22が破損してしまう。
【0042】
そこで、本実施形態では、熱交換容器25と圧縮機22との間に、熱交換容器25から排出される気液混相状態の冷媒(混合冷媒)を、気体冷媒13(気相状態の冷媒)と、液体冷媒14(液相状態の冷媒)とに分離する気液分離部27を設けている。また、冷媒循環系21は、気液分離部27で分離された液体冷媒14を圧縮機22に戻すための第1経路211と、気液分離部27で分離された気体冷媒13を圧縮機22に戻すための第2経路212と、を含む。第1経路211は、気液分離部27で分離された液体冷媒14を気化させて気相状態の冷媒にする第1気化部28を介して、圧縮機22に接続されている。一方、第2経路212は、圧縮機22に直接接続されている。
【0043】
このように、本実施形態では、気液分離部27で分離された気体冷媒13は、第2経路212を介して、圧縮機22に直接戻され、気液分離部27で分離された液体冷媒14は、圧縮機22に戻される前に、第1気化部28に送られる。第1気化部28は、圧縮機22の下流の高温の気体冷媒15を、凝縮器23に戻す前に分岐し、気液分離部27で分離された液体冷媒14と合流させ、液体冷媒14を高温の気体冷媒15で蒸発させて圧縮機22に戻す。
【0044】
また、第1気化部28は、液体冷媒14の流量を検出する流量センサ29と、高温の気体冷媒15の流量を調整するための絞り弁30と、流量制御部31と、を含む。流量制御部31は、流量センサ29で検出される液体冷媒14の流量に基づいて、液体冷媒14に合流させる高温の気体冷媒15の流量が液体冷媒14を蒸発(気化)させるのに必要な流量となるように、絞り弁30を制御する。このように、第1気化部28は、圧縮機22から送出される気体冷媒15(気相状態の混合冷媒)の一部を、絞り弁30を介して、気液分離部27で分離された液体冷媒14に合流させることで、かかる液体冷媒14を気化させる。なお、流量センサ29としては、超音波センサが好適であるが、これに限定されるものではない。
【0045】
ここで、熱交換容器25から排出される冷媒に含まれる液体冷媒14の流量が増加することは、熱交換容器25に内蔵されている冷却対象物80の発熱量が減少していることになるため、熱交換容器25に供給する液体冷媒14の流量を減らすことができる。そこで、流量制御部31は、膨張弁24の開度を制御する(絞る)とともに、絞り弁30の開度を制御して、気液分離部27で分離された液体冷媒14と圧縮機22からの高温の気体冷媒15との流量バランスを適正に制御する。更に、流量制御部31は、インバータ32を介して、圧縮機22の圧縮能力(冷媒の総流量)を制御してもよい。これにより、液体冷媒14が圧縮機22に戻ることを防止し、熱負荷変動に追従して冷凍サイクルを維持することができる。
【0046】
このように、本実施形態によれば、一般的な冷凍サイクルに適用させた冷却装置CA2を実現することができる。第1実施形態における冷却装置CA1では、熱交換容器7で大きな熱量を回収して凝縮器2で排熱する場合、別の冷凍サイクルを介する2つの循環系が必要となる。一方、本実施形態における冷却装置CA2では、1つの循環系で排熱することができる。従って、省スペース及び省エネルギーに寄与する冷却装置CA2を提供することができる。
【0047】
<第3実施形態>
図5は、本発明の第3実施形態における冷却装置CA3の構成を示す図である。本実施形態における冷却装置CA3は、第2実施形態における冷却装置CA2を改良したものである。なお、本実施形態で言及していない事項については、第2実施形態と同様である。
【0048】
本実施形態では、熱交換容器25と気液分離部27との間に、熱交換容器25から排出される気液混相状態の冷媒(混合冷媒)を気化させるための第2気化部33を新たに設けている。第2気化部33は、例えば、凝縮器23の内部に設けられ、圧縮機22から送出される高温の気体冷媒15(気相状態の混合冷媒)と、熱交換容器25から排出される気液混合状態の冷媒(混合冷媒)との間で熱交換を行う熱交換器として具現化される。熱交換容器25から排出される冷媒に含まれる液体冷媒14は、第2気化部33において、高温の気体冷媒15で加熱されて一部が蒸発する。一方、高温の気体冷媒15は、液体冷媒14が蒸発した潜熱で冷却されて一部が凝縮する。
【0049】
本実施形態によれば、凝縮器23において、圧縮機22から送出される高温の気体冷媒15の一部を、熱交換容器25から排出される液体冷媒14で凝縮しているため、系外への排熱量を低減することができる。また、第1気化部28及び第2気化部33の2つの気化部を設けることで、液体冷媒14の混入による圧縮機22の破損リスクを更に低減することができる。
【0050】
<第4実施形態>
図6A図6B及び図6Cは、本発明の第4実施形態における冷却装置の構成を示す概略図である。第1実施形態から第3実施形態までは、熱交換容器7又は25に内蔵された冷却対象物80の冷却に限定しているが、露光装置のような大規模なシステムでは、冷却対象物80に加えて、多くの冷却対象物(発熱体)が存在する。また、熱交換容器7又は25で蒸発しなかった冷媒や気液分離部27で分離された液体冷媒14は、液相状態であるため、冷却対象物を沸騰冷却する能力を有している。そこで、本実施形態では、熱交換容器7又は25に内蔵されていない別の冷却対象物(冷却対象物80とは異なる冷却対象物)を冷却する新たな経路を構成する。
【0051】
図6Aは、第1実施形態における冷却装置CA1に冷却対象物80とは異なる冷却対象物81を冷却するための経路を構成した場合を示している。冷却装置CA1は、熱交換容器7の下流に、熱交換器34を有する。熱交換器34は、冷却対象物81と熱接触し、熱交換容器7から排出される気液混相状態の冷媒(混合冷媒)と冷却対象物81との間で熱交換を行うことで、冷却対象物81を冷却する。熱交換器34において、熱交換容器7で蒸発していない液体冷媒14は、冷却対象物81から熱を奪って沸騰することで、冷却対象物81を沸騰冷却する。なお、熱交換器34を通過した冷媒は、気液混相状態で凝縮器2に戻され、凝縮器2で冷却されて相変化し、液体冷媒14となって再循環される。
【0052】
図6Bは、第2実施形態における冷却装置CA2に冷却対象物80とは異なる冷却対象物81を冷却するための経路を構成した場合を示している。冷却装置CA2は、熱交換容器25の下流の気液分離部27で分離された液体冷媒14が流れる第1経路211に、熱交換器34を有する。熱交換器34は、冷却対象物81と熱接触し、気液分離部27で分離された液体冷媒14と冷却対象物81との間で熱交換を行うことで、冷却対象物81を冷却する。熱交換器34において、気液分離部27で分離された液体冷媒14は、冷却対象物81から熱を奪って沸騰することで、冷却対象物81を沸騰冷却する。なお、熱交換器34を通過した冷媒は、気相状態、或いは、気液混相状態で第1気化部28に送られ、第1気化部28で完全に気化し、気体冷媒13として圧縮機22に戻されて再循環される。
【0053】
図6Cは、第3実施形態における冷却装置CA3に冷却対象物80とは異なる冷却対象物81を冷却するための経路を構成した場合を示している。冷却装置CA3では、気液分離部27で分離された液体冷媒14が流れる第1経路211を、第3経路213と第4経路214とに分岐する。第3経路213は、膨張弁35及び熱交換器34を介して、第2気化部33に至る経路であり、第4経路214は、絞り弁36を介して、第2気化部33に至る経路である。このような系では、膨張弁35を介して、液体冷媒14の圧力が所定の蒸気圧になるように調整される。これは、液体冷媒14の沸点を調整することと等価であるため、所定の温度で冷却対象物81を冷却することが可能となる。従って、冷却対象物81が温度管理を必要とする場合に特に好適である。なお、同様な構成を第1実施形態における冷却装置CA1や第2実施形態における冷却装置CA2に適用することも可能である。
【0054】
本実施形態によれば、熱交換容器7又は25に内蔵された冷却対象物80とは異なる冷却対象物81を高沸点冷媒12で沸騰冷却することができる。従って、本実施形態における冷却装置は、一般の冷凍サイクルと等しく、露光装置などのような大きなシステムの全体を1つの冷媒循環系で効率よく冷却することができる。
【0055】
<第5実施形態>
以下、図7図8及び図9を参照して、冷却装置CA1、CA2及びCA3を適用可能な半導体製造装置、本実施形態では、冷却装置CA1が適用された半導体製造装置について例示的に説明する。
【0056】
図7は、半導体製造装置、詳細には、パターン形成装置の一例としての露光装置100の構成を示す概略図である。露光装置100は、原版101のパターンを、基板102に供給(塗布)された感光材層に対して、投影光学系140を介して転写するように構成されている。露光装置100は、原版101を照明する照明光学系150と、投影光学系140と、基板102を位置決めする基板位置決め機構SPMと、原版101を位置決めする原版位置決め機構(不図示)と、を有する。
【0057】
基板位置決め機構SPMは、基板102を保持する基板チャックを支持する基板ステージ110と、基板ステージ110を駆動する駆動機構120と、駆動機構120を支持するベース部材130と、を含む。駆動機構120は、基板ステージ110とともに移動する可動子122と、ベース部材130に固定された固定子124とで構成されるアクチュエータを含む。固定子124は、冷却装置CA1の冷却対象物80としてのコイル(コイル列)を含む。冷却装置CA1は、冷却対象物80としての固定子124のコイルを冷却するように構成されている。
【0058】
図8は、半導体製造装置、詳細には、パターン形成装置の一例としてのインプリント装置200の構成を示す概略図である。インプリント装置200は、基板102に配置(供給)されたインプリント材に原版101(型)のパターンを転写するように構成されている。インプリント装置200は、原版101を駆動する原版駆動機構160と、基板102を位置決めする基板位置決め機構SPMと、基板102に配置されたインプリント材を硬化させる硬化部170と、を有する。
【0059】
原版駆動機構160及び基板位置決め機構SPMの少なくとも一方によって、原版101のパターン領域と基板102のショット領域とのアライメントを行うことができる。また、原版駆動機構160及び基板位置決め機構SPMの少なくとも一方によって、原版101のパターン領域と基板102に配置されたインプリント材との接触及び原版101のパターン領域と基板102に配置されたインプリント材との分離を行うことができる。
【0060】
インプリント装置200では、基板102に配置されたインプリント材と原版101のパターン領域とを接触させた状態で、硬化部170によってインプリント材を硬化させ、硬化したインプリント材と原版101とを分離する。これにより、基板102の上にインプリント材の硬化物からなるパターンが形成される。換言すれば、基板102に配置されたインプリント材には、原版101のパターンが転写される。
【0061】
基板位置決め機構SPMは、上述したように、基板102を保持する基板チャックを支持する基板ステージ110と、基板ステージ110を駆動する駆動機構120と、駆動機構120を支持するベース部材130と、を含む。駆動機構120は、基板ステージ110とともに移動する可動子122と、ベース部材130に固定された固定子124とで構成されるアクチュエータを含む。固定子124は、冷却装置CA1の冷却対象物80としてのコイル(コイル列)を含む。冷却装置CA1は、冷却対象物80としての固定子124のコイルを冷却するように構成されている。
【0062】
図9は、半導体製造装置の一例としてのプラズマ処理装置300の構成を示す概略図である。プラズマ処理装置300は、例えば、CVD装置、エッチング装置、スパッタリング装置などを含む。プラズマ処理装置300は、チャンバ330と、チャンバ330の内部に配置された1つ又は複数の冷却対象物80a及び80bとしての電極構造と、を有する。
【0063】
本実施形態では、基板302は、冷却対象物80aによって支持される。チャンバ330の内部には、プラズマを発生させるためのガスが供給される。プラズマ処理装置300がCVD装置として構成される場合、チャンバ330の内部には、成膜用のガスが供給される。プラズマ処理装置300がエッチング装置として構成される場合、チャンバ330の内部には、エッチング用のガスが供給される。プラズマ処理装置300がスパッタリング装置として構成される場合、チャンバ330の内部には、プラズマを発生させるためのガスが供給され、冷却対象物80bとしての電極構造には、ターゲットが取り付けられる。冷却装置CA1は、冷却対象物80a及び80bを冷却するように構成されている。
【0064】
<第6実施形態>
本発明の一側面としての半導体製造方法は、上述した露光装置100、インプリント装置200及びプラズマ処理装置300に代表される半導体製造装置によって基板を処理する工程と、かかる工程によって処理された基板を加工する工程と、を有する。半導体製造装置によって基板を処理する工程は、例えば、基板にパターンを形成する工程、基板に膜を形成する工程、基板又は基板上に形成された膜をエッチングする工程などを含む。基板を加工する工程は、例えば、基板を分割(ダイシング)する工程、基板を封止する工程などを含む。本実施形態における半導体製造方法は、従来に比べて、半導体の性能、品質、生産性及び生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0065】
本明細書の開示は、以下の冷却装置、半導体製造装置及び半導体製造方法を含む。
【0066】
(項目1)
冷却対象物を冷却する冷却装置であって、
前記冷却対象物を冷却するための冷媒を循環させる循環系を有し、
前記循環系には、前記冷却対象物の少なくとも一部と前記冷媒との間で熱交換を行う領域を含む容器が設けられ、
前記冷媒は、第1沸点の第1冷媒と、前記第1沸点よりも高い第2沸点の第2冷媒とを混合した混合冷媒であり、
前記循環系は、前記領域の全域が前記第1冷媒と前記第2冷媒とがともに液相状態の混合冷媒にさらされ、前記容器から気液混相状態の混合冷媒が排出されるように、前記混合冷媒を循環させる、
ことを特徴とする冷却装置。
【0067】
(項目2)
前記第1冷媒は、前記領域において、前記冷却対象物を沸騰冷却して気相状態となり、前記第2冷媒は、前記領域において、液相状態で前記冷却対象物を対流冷却するとともに気相状態の前記第1冷媒を圧縮するような混合比で前記第1冷媒と前記第2冷媒とが混合されている、ことを特徴とする項目1に記載の冷却装置。
【0068】
(項目3)
前記混合冷媒は、非共沸混合冷媒である、ことを特徴とする項目1又は2に記載の冷却装置。
【0069】
(項目4)
前記循環系には、気相状態の混合冷媒を圧縮して送出する圧縮機と、前記圧縮機から送出された気相状態の混合冷媒を凝縮して液相状態の混合冷媒にする凝縮器と、前記凝縮器からの液相状態の混合冷媒を減圧して前記容器に供給する減圧器と、前記容器から排出される気液混相状態の混合冷媒を、気相状態の冷媒と、液相状態の冷媒とに分離する気液分離部と、が設けられ、
前記循環系は、前記気液分離部で分離された液相状態の冷媒を前記圧縮機に戻すための第1経路と、前記気液分離部で分離された気相状態の冷媒を前記圧縮機に戻すための第2経路と、を含み、
前記第1経路は、前記気液分離部で分離された液相状態の冷媒を気化させて気相状態の冷媒にする第1気化部を介して、前記圧縮機に接続され、
前記第2経路は、前記圧縮機に直接接続されている、
ことを特徴とする項目1乃至3のうちいずれか1項目に記載の冷却装置。
【0070】
(項目5)
前記第1気化部は、前記圧縮機から送出される気相状態の混合冷媒の一部を、絞り弁を介して、前記気液分離部で分離された液相状態の冷媒に合流させることで、当該液相状態の冷媒を気化させる、ことを特徴とする項目4に記載の冷却装置。
【0071】
(項目6)
前記容器と前記気液分離部との間に設けられ、前記容器から排出される気液混相状態の混合冷媒を気化させるための第2気化部を更に有する、ことを特徴とする項目4又は5に記載の冷却装置。
【0072】
(項目7)
前記第2気化部は、前記凝縮器の内部に設けられ、前記圧縮機から送出される気相状態の混合冷媒と、前記容器から排出される気液混相状態の混合冷媒との間で熱交換を行う熱交換器を含む、ことを特徴とする項目6に記載の冷却装置。
【0073】
(項目8)
前記気液分離部で分離された液相状態の冷媒と、前記冷却対象物とは異なる冷却対象物との間で熱交換を行うことで、前記異なる冷却対象物を冷却する熱交換器を更に有する、ことを特徴とする項目4乃至7のうちいずれか1項目に記載の冷却装置。
【0074】
(項目9)
前記循環系には、前記容器から排出される気液混相状態の混合冷媒を凝縮して液相状態の混合冷媒にする凝縮器と、前記凝縮器からの液相状態の混合冷媒を送出するポンプと、前記ポンプから送出された液相状態の混合冷媒を減圧して前記容器に供給する減圧器と、が設けられている、ことを特徴とする項目1乃至3のうちいずれか1項目に記載の冷却装置。
【0075】
(項目10)
前記容器から排出される気液混相状態の混合冷媒と、前記冷却対象物とは異なる冷却対象物との間で熱交換を行うことで、前記異なる冷却対象物を冷却する熱交換器を更に有する、ことを特徴とする項目9に記載の冷却装置。
【0076】
(項目11)
前記第1冷媒は、R-1234zeE又はR-1234yfである、ことを特徴とする項目1乃至10のうちいずれか1項目に記載の冷却装置。
【0077】
(項目12)
発熱部を有する半導体製造装置であって、
項目1乃至11のうちいずれか1項目に記載の冷却装置を有し、
前記冷却装置は、前記発熱部を冷却対象物として冷却するように構成されている、
ことを特徴とする半導体製造装置。
【0078】
(項目13)
パターンを形成するパターン形成装置として構成されている、
ことを特徴とする項目12に記載の半導体製造装置。
【0079】
(項目14)
項目12又は13に記載の半導体製造装置によって基板を処理する工程と、
前記工程で処理された基板を加工する工程と、
を有することを特徴とする半導体製造方法。
【0080】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0081】
CA1、CA2、CA3:冷却装置 1:冷媒循環系 7:熱交換容器 10:冷媒 11:低沸点冷媒 12:高沸点冷媒 13:気体冷媒 14:液体冷媒 80:冷却対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9