IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイニック株式会社の特許一覧

特開2023-18187塗料組成物、塗膜の製造方法、及び透明導電膜
<>
  • 特開-塗料組成物、塗膜の製造方法、及び透明導電膜 図1
  • 特開-塗料組成物、塗膜の製造方法、及び透明導電膜 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018187
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】塗料組成物、塗膜の製造方法、及び透明導電膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/10 20060101AFI20230201BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20230201BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230201BHJP
   C09D 183/00 20060101ALI20230201BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20230201BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20230201BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
C09D201/10
C09D5/24
C09D7/61
C09D183/00
H01B1/24 A
H01B5/14 A
H01B13/00 503B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122094
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000109037
【氏名又は名称】ダイニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 諒
【テーマコード(参考)】
4J038
5G301
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
4J038DC002
4J038DL021
4J038DL031
4J038GA13
4J038HA026
4J038HA336
4J038HA376
4J038JA17
4J038KA04
4J038KA09
4J038KA12
4J038KA19
4J038LA01
4J038MA08
4J038NA20
4J038PB09
4J038PC08
5G301DA20
5G301DA42
5G301DD02
5G301DE01
5G307FA02
5G307FB04
5G307FC03
5G307FC10
5G323BA05
5G323BB01
5G323BB02
5G323BB06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】カーボンナノチューブ含有透明導電膜をより簡便且つ効率的に得る技術を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ、スルホン酸系分散剤、ケイ素化合物系バインダー、及び無機酸を含有する、透明導電膜形成用塗料組成物であって、前記カーボンナノチューブの含有率が0.4質量%以下であり、前記スルホン酸系分散剤が芳香環を含むモノマー単位を有する高分子化合物で、その含有量が、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して50~2000質量部である、前記透明導電膜形成用塗料組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ、スルホン酸系分散剤、ケイ素化合物系バインダー、及び無機酸を含有する、塗料組成物。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの含有率が0.4質量%以下である、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記スルホン酸系分散剤が芳香環を含むモノマー単位を有する高分子化合物である、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記スルホン酸系分散剤の含有量が、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して50~2000質量部である、請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記ケイ素化合物系バインダーがケイ酸塩又はコロイダルシリカである、請求項1~4のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記ケイ素化合物系バインダーの含有量が、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して10~1000質量部である、請求項1~5のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項7】
前記無機酸が強酸である、請求項1~6のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項8】
前記無機酸の含有率が0.1~5質量%である、請求項1~7のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項9】
透明導電膜形成用である、請求項1~8のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項10】
(a)請求項1~9のいずれかに記載の塗料組成物を基材上に塗工する工程を含む、塗膜の製造方法。
【請求項11】
(b)前記工程(a)により得られた塗膜を水で洗浄する工程を含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
カーボンナノチューブ、硫黄原子、及びケイ素原子を含み、且つ表面抵抗率が500Ω/□以下である、透明導電膜。
【請求項13】
表面抵抗率が300Ω/□以下である、請求項12に記載の透明導電膜。
【請求項14】
20℃遮光条件下において成膜から20日経過時の抵抗変化率が20%以下である、請求項12又は13に記載の透明導電膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物、塗膜の製造方法、及び透明導電膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低抵抗の透明導電膜が、タッチパネル、有機ELディスプレイ、太陽電池、透明電極等の多様な分野において利用されている。透明導電材料として、ITO等の金属材料、PEDOT等の導電性高分子、カーボンナノチューブ等の炭素材料等の種々の材料が使用されることが報告されている。低抵抗の透明導電膜に用いられる透明導電材料は、実用化レベルでは、現状、ほとんどがITOである。しかし、ITO膜は、固く、屈曲性に乏しいという欠点がある。
【0003】
カーボンナノチューブは、他の透明導電材料と比較してコスト安で耐久性にも優れ、屈曲性を要する製品への応用も期待できる。しかし、カーボンナノチューブは、他の導電材料と比べると比較的高抵抗であるので、透明導電膜に利用する際には、低抵抗化処理が行われる。代表的には、カーボンナノチューブ塗膜を形成した後に、膜を酸溶液に浸漬することにより、膜の低抵抗化を図る技術が知られている(特許文献1)。しかし、特許文献1の技術は、大量の酸溶液を使用するので煩雑性及び危険性が高い等の問題がある。また、その他の低抵抗化技術にも、煩雑性、危険性等の問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-207116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、カーボンナノチューブ含有透明導電膜をより簡便且つ効率的に得る技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、研究を進める中で、カーボンナノチューブ塗膜を形成するための塗料に酸を配合し、塗膜形成後の酸処理を省くことを検討した。しかし、塗料に酸を配合する場合、塗料外観、塗膜外観、塗膜密着性等において問題が生じることを見出した。本発明者は、さらに研究を進めた結果、塗料に使用する分散剤、バインダー、酸等の種類が上記問題の原因であることを見出した。本発明者は、この知見に基づいて鋭意研究を進めた結果、カーボンナノチューブ、スルホン酸系分散剤、ケイ素化合物系バインダー、及び無機酸を含有する、塗料組成物、を用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. カーボンナノチューブ、スルホン酸系分散剤、ケイ素化合物系バインダー、及び無機酸を含有する、塗料組成物。
【0008】
項2. 前記カーボンナノチューブの含有率が0.4質量%以下である、項1に記載の塗料組成物。
【0009】
項3. 前記スルホン酸系分散剤が芳香環を含むモノマー単位を有する高分子化合物である、項1又は2に記載の塗料組成物。
【0010】
項4. 前記スルホン酸系分散剤の含有量が、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して50~2000質量部である、項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【0011】
項5. 前記ケイ素化合物系バインダーがケイ酸塩又はコロイダルシリカである、項1~4のいずれかに記載の塗料組成物。
【0012】
項6. 前記ケイ素化合物系バインダーの含有量が、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して10~1000質量部である、項1~5のいずれかに記載の塗料組成物。
【0013】
項7. 前記無機酸が強酸である、項1~6のいずれかに記載の塗料組成物。
【0014】
項8. 前記無機酸の含有率が0.1~5質量%である、項1~7のいずれかに記載の塗料組成物。
【0015】
項9. 透明導電膜形成用である、項1~8のいずれかに記載の塗料組成物。
【0016】
項10. (a)項1~9のいずれかに記載の塗料組成物を基材上に塗工する工程を含む、塗膜の製造方法。
【0017】
項11. (b)前記工程(a)により得られた塗膜を水で洗浄する工程を含む、項10に記載の製造方法。
【0018】
項12. カーボンナノチューブ、硫黄原子、及びケイ素原子を含み、且つ表面抵抗率が500Ω/□以下である、透明導電膜。
【0019】
項13. 表面抵抗率が300Ω/□以下である、項12に記載の透明導電膜。
【0020】
項14. 20℃遮光条件下において成膜から20日経過時の抵抗変化率が20%以下である、項12又は13に記載の透明導電膜。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、カーボンナノチューブを含む透明導電膜をより簡便且つ効率的に得ることができる技術を提供することができる。本発明によれば、表面抵抗がより安定に保たれたカーボンナノチューブ含有透明導電膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】塗膜を、20℃、遮光条件下で静置し、表面抵抗率の経時変化を測定した結果を示す。水処理は、塗膜作成時の洗浄を水のみで行った場合を示し、酸処理は、洗浄時に酸浸漬を行った場合を示す。横軸は成膜からの経過日数を示し、縦軸は抵抗変化率(=[(横軸の日数経過時の表面抵抗率-成膜直後の表面抵抗率)/成膜直後の表面抵抗率]×100 (%))を示す。
図2】の塗膜のXPS解析結果を示す。ケイ素元素の103~104evのピークは、ケイ素元素の存在状態がシリカであることを示す。炭素元素の284~285evのピークは、カーボンの状態であることを示す。硫黄元素の168~170evのピークは、硫黄元素がスルホンの状態であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0024】
1.塗料
本発明は、その一態様において、カーボンナノチューブ、スルホン酸系分散剤、ケイ素化合物系バインダー、及び無機酸を含有する、塗料組成物(本明細書において、「本発明の塗料組成物」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。
【0025】
カーボンナノチューブとしては特に限定されず、アーク放電法、レーザ蒸発法、化学気相成長法(CVD法)等により製造されたカーボンナノチューブを用いることができ、より具体的には、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ及びこれらの混合物のいずれも使用可能である。導電性に優れる点から、少なくとも単層カーボンナノチューブを含むことが好ましい。
【0026】
カーボンナノチューブの長さは、1~2000μmであることが好ましく、より好ましくは5~1000μmであり、さらに好ましくは5~500μmである。カーボンナノチューブの長さが上記範囲内であると、導電層とした場合に導電性や透明性が優れる。
【0027】
カーボンナノチューブの直径は、単層カーボンナノチューブの場合、0.5~20nmであることが好ましく、1~10nmであることがより好ましい。カーボンナノチューブの直径が上記範囲内であると、導電層とした場合に導電性や透明性が優れる。
【0028】
カーボンナノチューブのBET比表面積は、例えば100~5000m2/g、好ましくは500~3000 m2/g、より好ましくは700~2000 m2/gである。
【0029】
カーボンナノチューブは、1種単独であることができ、或いは2種以上の組合せであることができる。
【0030】
本発明の塗料組成物中のカーボンナノチューブの含有率は、カーボンナノチューブの分散性が著しく損なわれず、且つ透明導電膜を形成可能である限り、特に制限されない。該含有率は、例えば0.4質量%以下、好ましくは0.01~0.4質量%、より好ましくは0.02~0.3質量%、さらに好ましくは0.04~0.2質量%、よりさらに好ましくは0.07~0.15質量%である。
【0031】
スルホン酸系分散剤は、スルホ基(-SO3H)を部分構造として含む分散剤である限り、特に制限されない。スルホン酸系分散剤としては、好ましくは芳香環を含むモノマー単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0032】
芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、トリアジン環が挙げられる。芳香環を含むモノマー単位としては、ベンゼン環を含むモノマー単位、ナフタレン環を含むモノマー単位、アントラセン環を含むモノマー単位、及びトリアジン環を含むモノマー単位から選ばれる1種以上のモノマー単位が挙げられる。
【0033】
芳香環を含むモノマー単位を有する高分子化合物の重量平均分子量は、例えば,1000~2,000,000である。当該重量平均分子量は、好ましくは5,000~1,500,000、より好ましくは20,000~1,000,000、さらに好ましくは50,000~700,000、よりさらに好ましくは100,000~500,000、とりわけ好ましくは150,000~300,000である。
【0034】
ここで、「モノマー単位」とは高分子化合物中の「繰り返しユニット」を意味する。例えば、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物の場合、下記式のような「繰り返しユニット」をモノマー単位と呼ぶ。なお、下記式において、nは繰り返しユニット数を示す。
【0035】
【化1】
【0036】
芳香環を含むモノマー単位を有する高分子化合物として、具体的には、例えばポリスチレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、それらの塩等が挙げられる。これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸又はその塩が好ましい。また、本発明の一態様においては、スルホン酸系分散剤は、塩の形態であることが好ましい。
【0037】
塩の形態であるスルホン酸系分散剤としては、特に制限されず、例えばナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0038】
スルホン酸系分散剤としては、上記した高分子化合物以外にも、例えば分岐アルキルベンゼンスルホン酸、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸、又はその塩を使用することができる。
【0039】
スルホン酸系分散剤は、1種単独であることができ、或いは2種以上の組合せであることができる。
【0040】
本発明の塗料組成物中のスルホン酸系分散剤の含有量は、カーボンナノチューブの分散性が著しく損なわれず、且つ透明導電膜を形成可能である限り、特に制限されない。該含有量(固形分換算)は、カーボンナノチューブ100質量部に対して、例えば50~2000質量部、好ましくは100~1500質量部、より好ましくは200~1000質量部、さらに好ましくは300~700質量部、よりさらに好ましくは400~600質量部である。
【0041】
ケイ素化合物系バインダーとは、固体状又は液体状のケイ素化合物を水性分散媒中に含んでなるケイ素化合物の、コロイド分散液、溶液、又はエマルジョンである。ケイ素化合物系バインダーとしては、例えば、シリケート等のケイ酸塩類;コロイダルシリカ;シラン、シロキサン加水分解物エマルジョン;シリコーン樹脂エマルジョン;シリコーン-アクリル樹脂共重合体、シリコーン-ウレタン樹脂共重合体等のシリコーン樹脂と他の樹脂との共重合体のエマルジョン等を挙げることができる。これらの中でも、ケイ素化合物系バインダーとしては、ケイ酸塩又はコロイダルシリカが好ましく、ケイ酸塩がより好ましい。
【0042】
ケイ酸塩としては、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくはリチウム塩が挙げられる。
【0043】
ケイ素化合物系バインダーは、1種単独であることができ、或いは2種以上の組合せであることができる。
【0044】
本発明の塗料組成物中のケイ素化合物系バインダーの含有量は、カーボンナノチューブの分散性が著しく損なわれず、且つ透明導電膜を形成可能である限り、特に制限されない。該含有量(固形分換算)は、カーボンナノチューブ100質量部に対して、例えば10~1000質量部、好ましくは20~700質量部、より好ましくは50~500質量部、さらに好ましくは100~400質量部、よりさらに好ましくは150~300質量部である。
【0045】
無機酸は、無機化合物からなる酸であり、この限りにおいて特に制限されない。無機酸としては、例えば硝酸、硫酸、塩酸等の強酸;リン酸、ホウ酸等の弱酸が挙げられる。これらの中でも、強酸が好ましく、中でも硝酸、硫酸が好ましい。塗膜の表面抵抗の安定性の観点から、硫酸が特に好ましい。
【0046】
無機酸は、1種単独であることができ、或いは2種以上の組合せであることができる。
【0047】
本発明の塗料組成物中の無機酸の含有率は、カーボンナノチューブの分散性が著しく損なわれず、且つ透明導電膜を形成可能である限り、特に制限されない。該含有率は、例えば0.1~5質量%、好ましくは0.2~4質量%、より好ましくは0.5~3質量%、さらに好ましくは1~2質量%である。
【0048】
本発明の塗料組成物は、通常、溶媒を含有する。溶媒としては、主に水が挙げられる。溶媒としては、有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒を使用することも可能である。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールエーテルアセテート類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-t-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン(o-、m-、あるいはp-キシレン)、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類:酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチル、オルト酢酸メチル、オルトギ酸エチル等のエステル類:N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン等のアミド化合物;トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、等のヒドロキシル基含有化合物;ジメチルスルホキシド等のスルホ基を有する化合物等が挙げられる。
【0049】
本発明の塗料組成物は、上記以外の他の成分を含むことができる。他の成分として、スルホン酸系分散剤以外の分散剤、ケイ素化合物系バインダー以外のバインダーを含む場合、その含有量はより少ないことが好ましい。
【0050】
本発明の塗料組成物が、スルホン酸系分散剤以外の分散剤(他の分散剤)を含む場合、スルホン酸系分散剤の含有量は、分散剤(スルホン酸系分散剤と他の分散剤の合計)100質量%に対して、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上、とりわけ好ましくは99質量%以上である。
【0051】
本発明の塗料組成物が、ケイ素化合物系バインダー以外のバインダー(他のバインダー)を含む場合、ケイ素化合物系バインダーの含有量は、バインダー(ケイ素化合物系バインダーと他のバインダーの合計)100質量%に対して、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上、とりわけ好ましくは99質量%以上である。
【0052】
本発明の塗料組成物は、各成分を混合することにより、得ることができる。カーボンナノチューブの分散性等の観点から、カーボンナノチューブ及び分散剤を含むカーボンナノチューブ分散溶液を予め調製し、該溶液とバインダー及び無機酸とを混合することにより、本発明の塗料組成物を得ることが好ましい。混合後は、必要に応じて、ろ過を行うことができる。
【0053】
本発明の塗料組成物は凝集又はゲル化の問題が少なく、またこれを用いることにより、塗膜外観及び塗膜密着性が良好であり、且つ一定程度の低抵抗性を有するカーボンナノチューブ含有透明導電膜を、より簡便且つ効率的に得ることができる。
【0054】
2.塗膜の製造方法
本発明は、その一態様において、(a)本発明の塗料組成物を基材上に塗工する工程を含む、塗膜の製造方法(本明細書において、「本発明の製造方法」と示すこともある。)、に関する。以下、これについて説明する。
【0055】
基材は、透明導電膜の基材として使用され得る樹脂(基材用樹脂)を含有する限り、特に制限されない。
【0056】
基材は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、基材用樹脂以外の成分が含まれていてもよい。その場合、基材中の基材用樹脂の合計量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、100質量%未満である。
【0057】
基材用樹脂としては、特に制限されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリサルホン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂等が挙げられる。これらの中でも透明性等の観点から、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルホン、ポリカーボネート等が挙げられ、より好ましくはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。
【0058】
基材用樹脂は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0059】
基材の厚みは、用途に応じた透明性及び強度が確保される限り、特に制限されない。基材の厚みは、例えば2~500μm、好ましくは10~400μm、より好ましくは20~300μm、さらに好ましくは50~200μm、よりさらに好ましくは70~150μmである。
【0060】
基材の層構成は特に制限されない。基材は、1種単独の基材から構成されるものであってもよいし、組成が同一又は異なる2種以上の基材が複数組み合わされたものであってもよい。
【0061】
基材は、各種表面処理が施されたものであってもよい。表面処理としては、例えばコロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理等が挙げられる。
【0062】
塗工する方法は、特に制限されない。例えば、グラビアコート、リバースロールコート、ダイコート、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、カーテンコート、ナイフコート、トランスファロールコート、スクイズコート、含浸コート、キスコート、スプレーコート、カレンダコート、押出コート等、従来公知の塗布方式を用いることができる。
【0063】
塗工後は、乾燥させることが好ましい。乾燥温度は、例えば50~200℃、好ましくは70~170℃、より好ましくは90~150℃である。乾燥時間は、乾燥温度によっても異なり得るが、例えば30秒間~15分間、好ましくは1分間~10分間、より好ましくは2分間~5分間である。
【0064】
本発明の製造方法は、(b)工程(a)により得られた塗膜を水で洗浄する工程を含む、ことが好ましい。これにより、塗膜の表面抵抗をさらに下げることができる。
【0065】
洗浄の方法は特に制限されず、水が塗膜表面に接触する方法を各種採用することができる。典型的には、流水を塗膜表面に当たるようにして、洗浄することができる。洗浄時間は、例えば1~30秒程度とすることができる。
【0066】
洗浄後は、乾燥させることが好ましい。乾燥温度は、例えば50~200℃、好ましくは70~170℃、より好ましくは90~150℃である。乾燥時間は、乾燥温度によっても異なり得るが、例えば30秒間~15分間、好ましくは1分間~10分間、より好ましくは2分間~5分間である。
【0067】
本発明の製造方法により得られた塗膜は、塗膜外観及び塗膜密着性が良好であり、且つ一定程度の低抵抗性及び透明性を示すことができる。このため、該塗膜は、透明導電膜として利用することができる。
【0068】
3.透明導電膜
本発明は、その一態様において、カーボンナノチューブ、硫黄原子、及びケイ素原子を含み、且つ表面抵抗率が500Ω/□以下である、透明導電膜(本明細書において、「本発明の透明導電膜」と示すこともある。)、に関する。以下、これについて説明する。
【0069】
本発明の透明導電膜は、本発明の製造方法により得ることができる。このため、本発明の透明導電膜は、本発明の塗料組成物に使用した分散剤及びバインダー由来の元素(硫黄元素及びケイ素元素)を含む。当該元素の有無は、X線光電子分光法(XPS)(試料角度75°、測定機器:アルバックファイ社製model5400又はその同等品)により、判定する。
【0070】
XPSのグラフ(横軸:Binding Energy、縦軸:電子強度)において、硫黄元素の168~170evのピークは、硫黄元素がスルホンの状態であることを示す。このため、本発明の透明導電膜は、XPSのグラフにおいて硫黄元素の168~170evのピークを示すことが好ましい。
【0071】
XPSのグラフにおいて、ケイ素元素の103~104evのピークは、ケイ素元素の存在状態がシリカであることを示す。また、XPSのグラフにおいて、ケイ素元素の102~103evのピークは、ケイ素元素の存在状態がケイ酸塩であることを示す。このため、本発明の透明導電膜は、XPSのグラフにおいてケイ素元素の103~104evのピーク及び/又は102~103evのピークを示すことが好ましい。
【0072】
表面抵抗率は、低抵抗率計(Loresta-GP MCP-T610、三菱ケミカルアナリテック製)を用いて測定する。
【0073】
本発明の透明導電膜の表面抵抗率は、好ましくは400Ω/□以下、より好ましくは300Ω/□以下である。当該表面抵抗率の下限は、特に制限されず、例えば10Ω/□、20Ω/□、又は40Ω/□である。
【0074】
本発明の透明導電膜は、表面抵抗率が経時的に安定であることが好ましい。例えば、本発明の透明導電膜は、20℃遮光条件下において成膜から20日経過時の抵抗変化率(=[(20日経過時の表面抵抗率-成膜直後の表面抵抗率)/成膜直後の表面抵抗率]×100 (%))が20%以下(好ましくは15%以下)であることが好ましい。また、本発明の透明導電膜は、20℃遮光条件下において成膜から30日経過時の抵抗変化率(=[(30日経過時の表面抵抗率-成膜直後の表面抵抗率)/成膜直後の表面抵抗率]×100 (%))が30%以下(好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下)であることが好ましい。また、本発明の透明導電膜は、20℃遮光条件下において成膜から40日経過時の抵抗変化率(=[(40日経過時の表面抵抗率-成膜直後の表面抵抗率)/成膜直後の表面抵抗率]×100 (%))が30%以下(好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下)であることが好ましい。また、本発明の透明導電膜は、20℃遮光条件下において成膜から60日経過時の抵抗変化率(=[(60日経過時の表面抵抗率-成膜直後の表面抵抗率)/成膜直後の表面抵抗率]×100 (%))が30%以下(好ましくは25%以下)であることが好ましい。
【0075】
本発明の透明導電膜は、基材に対する密着性が高いことが好ましい。例えば、基材上に形成された本発明の透明導電膜を碁盤目法(クロスカット試験(JIS K5400)、2mm角)で評価した場合、剥がれなかったマスの数/全マスの数 が、95以上/100であることが好ましく、100/100であることがより好ましい。
【0076】
本発明の透明導電膜の可視光透過率は、例えば40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、よりさらに好ましくは80%以上である。可視光透過率は、紫外可視近赤外分光光度計で測定される値である。具体的には、実施例の「(4-5)可視光透過率の測定」に記載の方法に従って測定及び算出される。
【0077】
4.用途
本発明の透明導電膜は、その透明性及び導電性を必要とする各種用途、例えば液晶、プラズマ、フィールドエミッション等の各種ディスプレイ方式のテレビ、携帯電話等の各種電子機器のタッチパネルや表示素子における透明電極; 太陽電池、電磁波シールド材、電子ペーパー、エレクトロルミネッセンス調光素子等における透明電極; 電解めっきプライマー; 透明面状発熱体等の用途に用いることができる。
【実施例0078】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0079】
(1)材料
以下の塗料の作製で使用した材料を示す。
【0080】
[単層カーボンナノチューブ(CNT)]
使用した単層CNTの詳細は表1に示すとおりである。
【0081】
【表1】
【0082】
[分散剤]
使用した分散剤の詳細は表2に示すとおりである。
【0083】
【表2】
【0084】
[バインダー]
使用したバインダーの詳細は表3に示すとおりである。
【0085】
【表3】
【0086】
[酸・塩基]
使用した酸・塩基の詳細は表4に示すとおりである。
【0087】
【表4】
【0088】
(2)塗料の作製
実施例1~30及び比較例1~17の塗料を作製した。作製方法を以下に示す。各実施例及び比較例において使用した分散剤、バインダー、酸・塩基は、後述の表5~7に示す。
【0089】
容器に分散剤を量り取り、イオン交換水を加えて溶解させた。得られた分散剤溶液に、単層CNT粉末を添加した。この際、単層CNT/分散剤=100/500(固形分比)、単層CNT固形分=0.1%になるように調製した。分散装置を用いて、単層CNTを水中に均一分散した。得られた単層CNT分散液に、バインダー、イソプロピルアルコール(IPA)、無機酸を添加し、攪拌した。この際、単層CNT/バインダー=1/3(固形分比)、単層CNT分散液/IPA/無機酸(1mol/L)=100/2/2(重量比)になるように調製した。得られた溶液を200メッシュのフィルターでろ過して、塗料を得た。
【0090】
(3)CNT塗膜の作製
実施例1~30及び比較例1~17の塗料を用いてCNT塗膜を作製した。作製方法を以下に示す。
【0091】
厚み100μmのPETフィルム(可視光透過率90%)に、任意のバー径(0.15mm、0.2mm、0.25mm、0.3mm、0.5mm)の塗工バーを用いて、バーコートで塗工した。得られた塗工フィルムを、熱風乾燥機にて120℃3分条件で乾燥させた。乾燥させた塗工フィルムの塗工面を、イオン交換水(流水)を用いて洗浄した(水処理)。この際、塗工面全体に流水が当たるようにした。洗浄時間は数秒~十秒程度とした。塗膜上の洗浄水を軽く振り落とし、熱風乾燥機にて120℃5分条件で、塗膜上の洗浄水が完全に乾くまで乾燥させて、CNT塗膜を得た。
【0092】
(4)塗料・塗膜の物性測定及び評価
(4-1)塗料外観の評価
塗料の外観を目視で確認した。具体的には、塗料中の凝集物の有無及び量、並びに塗料のゲル化の有無を確認した。以下の評価基準に従って評価した。
<塗料外観の評価基準>
〇:目視で凝集物なし(もしくは極少量)
×:目視で凝集物あり、塗料ゲル化。
【0093】
(4-2)水処理後塗膜外観の評価
水処理前後の塗膜の外観変化の有無を目視で確認した。以下の評価基準に従って評価した。
<水処理後の塗膜の外観の評価基準>
〇:処理前後で変化なし
△:塗膜流動によるCNT凝集あり
×:流水による塗膜剥がれあり。
【0094】
(4-3)塗膜密着性の評価
塗膜の密着性を碁盤目法(クロスカット試験(JIS K5400)、2mm角)で評価した。剥がれなかったマスの数/全マスの数 の値に基づいて以下の評価基準に従って評価した。
<塗膜密着性評価基準の評価基準>
〇:100/100
△:50~99/100
×:50未満/100。
【0095】
(4-4)表面抵抗率の測定
水処理前及び水処理後の塗膜の表面抵抗率を、低抵抗率計(Loresta-GP MCP-T610、三菱ケミカルアナリテック製)を用いて測定した。
【0096】
(4-5)可視光透過率の測定
水処理後、積層体(PETフィルム+塗膜)の可視光透過率を、紫外可視近赤外分光光度計(V-770 Spectrophotometer、日本分光製)を用いて測定した。得られた測定値とPETフィルムのみの可視光透過率(90%)を式(1):(積層体(PETフィルム+塗膜)の可視光透過率/PETフィルムのみの可視光透過率)×100=塗膜のみの可視光透過率 (1) に代入し、塗膜のみの可視光透過率を算出した。
【0097】
(4-6)結果
結果を表5~7に示す。表中、「-」は未測定であることを示す。
【0098】
【表5】
【0099】
【表6】
【0100】
【表7】
【0101】
(5)抵抗安定性の測定
実施例5~9と同じ材料を用いて塗料を作製した。組成は次のとおりである:CNT分散液(TL125)/リチウムシリケート35/IPA/H2SO4=10/0.1/0.2/0.2(重量比)。得られた塗料を用いて、上記「(3)CNT塗膜の作製」と同様にして塗膜を作製した。この際、水処理に代えて酸処理(1mol/L硝酸に2分間浸漬→流水洗浄)を行って塗膜を得たサンプルも用意した。得られた塗膜を、20℃、遮光条件下で静置し、表面抵抗率の経時変化を測定した。
【0102】
結果を図1に示す。図1の通り、水処理の場合の方が、表面抵抗がより安定であることが分かった。
【0103】
(6)塗膜表面の解析
実施例8の塗料を用いて、上記「(3)CNT塗膜の作製」と同様にして塗膜を作製した。得られた塗膜表面を、X線光電子分光法(XPS)(試料角度75°、測定機器:アルバックファイ社製model5400)で解析した。
【0104】
結果を図2に示す。塗料に使用した分散剤及びバインダー由来の元素(Si及びS)が存在することが分かった。
図1
図2