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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181875
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】水硬性硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 40/02 20060101AFI20231218BHJP
   B28B 11/24 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C04B40/02
B28B11/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095249
(22)【出願日】2022-06-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構/カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発/コンクリート、セメント、炭酸塩、炭素、炭化物などへのCO2利用技術開発「セメント系廃材を活用したCO2固定プロセス及び副産物の建設分野への利用技術の研究」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西岡 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】小島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】片村 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】松下 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】池尾 陽作
(72)【発明者】
【氏名】川尻 聡
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴穂
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 邦生
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】杉本 南
(72)【発明者】
【氏名】竹内 勇斗
(72)【発明者】
【氏名】奈良 知幸
(72)【発明者】
【氏名】景山 勇輝
【テーマコード(参考)】
4G055
4G112
【Fターム(参考)】
4G055AA01
4G055BA02
4G112RA02
4G112RA05
(57)【要約】
【課題】水硬性硬化体の強度を早く増進させること。
【解決手段】水硬性硬化体の製造方法は、セメントと水と骨材とを含有し水結合材比が30%~65%である水硬性組成物を得ることと、水硬性組成物を成形して成形体を得ることと、成形体を硬化させて水硬性硬化体を得ることと、温度0℃~60℃且つ二酸化炭素の圧力6MPa以上の環境において水硬性硬化体を炭酸化させることと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと水と骨材とを含有し、水結合材比が30%~65%である水硬性組成物を得ることと、
前記水硬性組成物を成形して成形体を得ることと、
前記成形体を硬化させて水硬性硬化体を得ることと、
温度0℃~60℃且つ二酸化炭素の圧力6MPa以上の環境において前記水硬性硬化体を炭酸化させることと、を含む、
水硬性硬化体の製造方法。
【請求項2】
前記水硬性組成物の単位水量が150kg/m~400kg/mである、
請求項1に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【請求項3】
前記環境において前記水硬性硬化体を炭酸化させることを、前記水硬性硬化体の圧縮強度が30N/mm以上に達した後に行う、
請求項1又は請求項2に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水硬性硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、セメント100質量部に対しγビーライト8~70質量部を含む混練物のセメント硬化体であって、表層部に緻密化層を有し、緻密化層の空隙率Kと緻密化層を除く内部の空隙率Kの比K/Kが0.8以下である表層緻密化モルタル又はコンクリートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-182583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、表層部に緻密化層を形成するための炭酸化処理に用いる炭酸化物質の一例として超臨界二酸化炭素が挙げられている。しかし特許文献1には、超臨界二酸化炭素を用いた実施例はなく、超臨界二酸化炭素による炭酸化は確認されていない。
【0005】
本開示は、上記状況のもとになされた。
本開示は、水硬性硬化体の強度を早く増進させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> セメントと水と骨材とを含有し、水結合材比が30%~65%である水硬性組成物を得ることと、
前記水硬性組成物を成形して成形体を得ることと、
前記成形体を硬化させて水硬性硬化体を得ることと、
温度0℃~60℃且つ二酸化炭素の圧力6MPa以上の環境において前記水硬性硬化体を炭酸化させることと、を含む、
水硬性硬化体の製造方法。
<2> 前記水硬性組成物の単位水量が150kg/m~400kg/mである、<1>に記載の水硬性硬化体の製造方法。
<3> 前記環境において前記水硬性硬化体を炭酸化させることを、前記水硬性硬化体の圧縮強度が30N/mm以上に達した後に行う、<1>又は<2>に記載の水硬性硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、水硬性硬化体の強度を早く増進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】試験体の形状及び寸法と炭酸化の概要とを示す図である。
図2】圧縮強度を示すグラフである。
図3】圧縮強度比を示すグラフである。
図4】モルタルの中性化深さを示す写真である。
図5A】低熱ポルトランドセメント/水結合材比30%の試験体に係るTG曲線及びDTA曲線である。
図5B】普通ポルトランドセメント/水結合材比30%の試験体に係るTG曲線及びDTA曲線である。
図5C】低熱ポルトランドセメント/水結合材比50%の試験体に係るTG曲線及びDTA曲線である。
図6】炭酸化養生の条件と水酸化カルシウム量及び炭酸カルシウム量との関係を示すグラフである。
図7】低熱ポルトランドセメント/水結合材比50%の試験体に係るFT-IRのチャートである。
図8】X線回折のチャートである。
図9A】低熱ポルトランドセメント/水結合材比30%の試験体に係るX線回折のチャートである。
図9B】普通ポルトランドセメント/水結合材比30%の試験体に係るX線回折のチャートである。
図9C】低熱ポルトランドセメント/水結合材比50%の試験体に係るX線回折のチャートである。
図10A】低熱ポルトランドセメント/水結合材比30%の試験体に係る細孔径分布を示すグラフである。
図10B】普通ポルトランドセメント/水結合材比30%の試験体に係る細孔径分布を示すグラフである。
図10C】低熱ポルトランドセメント/水結合材比50%の試験体に係る細孔径分布を示すグラフである。
図11A】低熱ポルトランドセメント/水結合材比30%の試験体に係る細孔径分布を示すグラフである。
図11B】普通ポルトランドセメント/水結合材比30%の試験体に係る細孔径分布を示すグラフである。
図11C】低熱ポルトランドセメント/水結合材比50%の試験体に係る細孔径分布を示すグラフである。
図12A】低熱ポルトランドセメント/水結合材比50%/CO濃度0%(大気中)養生の試験体に係るSEM画像である。
図12B】低熱ポルトランドセメント/水結合材比50%/超臨界炭酸化養生の試験体に係るSEM画像である。SEM画像
図12C】低熱ポルトランドセメント/水結合材比50%/超臨界炭酸化養生の試験体に係るSEM画像である。SEM画像
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、発明の実施形態を説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0012】
本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0013】
<水硬性硬化体の製造方法>
本開示の水硬性硬化体の製造方法は、下記の工程(1)、工程(2)、工程(3)及び工程(4)を含む。
【0014】
工程(1):セメントと水と骨材とを含有し、水結合材比が30%~65%である水硬性組成物を得ること。
工程(2):水硬性組成物を成形して成形体を得ること。
工程(3):成形体を硬化させて水硬性硬化体を得ること。
工程(4):温度0℃~60℃且つ二酸化炭素の圧力6MPa以上の環境において水硬性硬化体を炭酸化させること。
【0015】
温度0℃~60℃且つ二酸化炭素(CO)の圧力6MPa以上の環境(つまり、COの超臨界環境又は亜臨界環境)において、COは流体の状態である。本開示の水硬性硬化体の製造方法は、COを流体にして水硬性硬化体に接触させる。このことによって水硬性硬化体へのCO固定が早く且つ多くなり、水硬性硬化体の強度を早く増進させることができる。
本開示の水硬性硬化体の製造方法は、水結合材比が30%~65%の水硬性硬化体、つまり高強度コンクリートの範疇には入らない一般的なコンクリートの製造に有用である。
本開示の水硬性硬化体の製造方法は、例えば、プレキャスト製品の製造に有用である。
【0016】
以下、本開示の水硬性硬化体の製造方法が含む工程を順に説明する。
【0017】
<工程(1)>
工程(1)は、フレッシュ状態の水硬性組成物を得る工程である。水硬性組成物は、セメントと水と骨材とを含有し、水結合材比が30%~65%である。水硬性組成物は、コンクリート組成物でもよく、モルタル組成物でもよい。水硬性組成物の材料及び組成の詳細は下記のとおりである。
【0018】
[水結合材比]
水硬性組成物は、水結合材比(水と結合材との質量比、水/結合材)が30%~65%である。水結合材比は、例えば、35%以上又は40%以上としてよく、60%以下、55%以下、50%以下又は50%未満としてよい。
【0019】
水硬性組成物の単位水量は、制限されるものではなく、例えば、150kg/m~400kg/mとしてよく、180kg/m~400kg/mとしてよい。
水硬性組成物がコンクリート組成物である場合、例えば、150kg/m~200kg/mとしてよく、180kg/m~200kg/mとしてよい。
水硬性組成物がモルタル組成物である場合、例えば、180kg/m~400kg/mとしてよく、200kg/m~400kg/mとしてよく、230kg/m~400kg/mとしてよい。
【0020】
[セメント]
セメントは、公知の各種セメント類の中から目的に応じて選択すればよい。セメントは、セメント単独でもよく、微粉末混和材料を混合した混合セメントでもよい。微粉末混和材料としては、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、フライアッシュ、石灰石微粉末、石粉、膨張材等が挙げられる。
【0021】
セメントとしては、具体的には、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等の混合セメント;が挙げられる。
【0022】
[骨材]
細骨材としては、例えば、川砂、山砂、陸砂、海砂、珪砂、砕砂、石灰砕砂、高炉スラグ細骨材、再生細骨材が挙げられる。細骨材の種類と含有量は、水硬性硬化体の目標とする機械的強度に応じて選択すればよい。
【0023】
粗骨材としては、例えば、安山岩、流紋岩、硬質砂岩、石灰石などを破砕した砕石、川砂利、山砂利、陸砂利、高炉スラグ粗骨材、再生粗骨材が挙げられる。粗骨材の岩種と大きさと含有量は、水硬性硬化体の目標とする機械的強度に応じて選択すればよい。
【0024】
[その他の材料]
水硬性組成物は、目的に応じて、膨張材、化学混和剤、有機繊維、無機繊維などを含有していてもよい。
膨張材としては、例えば、石灰系膨張材、エトリンガイト系膨張材、エトリンガイト石灰複合系膨張材が挙げられる。
化学混和剤としては、例えば、減水剤、AE減水剤、収縮低減剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、増粘剤、粉塵低減剤、防凍・耐寒剤、防腐剤、防水剤、防錆剤が挙げられる。
有機繊維としては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリビニリデン繊維、ポリアミド繊維、ポリ乳酸繊維、ビニロン繊維が挙げられる。
無機繊維としては、例えば、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維が挙げられる。
【0025】
水硬性組成物は、既述の各材料を混合して得られる。各材料の混合は、例えばミキサーを用いた練り混ぜにより行うことができる。
【0026】
水硬性組成物を調製する際における材料の混合順は、制限されない。例えば、まずセメントと細骨材とを混ぜ、次いで水及び化学混和剤を投入して練り混ぜ、次いで必要に応じて繊維及び/又は粗骨材を投入して練り混ぜる。
【0027】
<工程(2)>
工程(2)は、水硬性組成物を成形する工程である。工程(2)は、例えば、水硬性組成物を型枠内に投入することで実施できる。型枠内に投入された水硬性組成物に対して、常法に従い脱泡などの処理を行ってもよい。
【0028】
<工程(3)>
工程(3)は、成形体の水和反応を進め、成形体を硬化させて、水硬性硬化体を得る工程である。工程(3)の前又は途中に、成形体を型枠から脱型してもよい。
【0029】
工程(3)は、例えば、成形体を養生することによって実施される。養生としては、例えば、温度を20±3℃に維持した、水中、湿砂中又は飽和蒸気中で行う標準養生が挙げられる。標準養生に他の養生を1種類以上組み合わせて実施することも好ましい。他の養生としては、40℃~100℃の温度範囲で2時間~14日間蒸気養生する蒸気養生、100℃~400℃の温度範囲で2時間~72時間加熱する高温養生、オートクレーブ等による高温高圧養生が挙げられる。
【0030】
<工程(4)>
工程(4)は、温度0℃~60℃且つCOの圧力6MPa以上の環境において水硬性硬化体を炭酸化させる工程である。
工程(4)は、換言すれば、COの超臨界環境又は亜臨界環境において水硬性硬化体を炭酸化養生する工程である。
【0031】
温度0℃~60℃且つCOの圧力6MPa以上の環境(つまり、COの超臨界環境又は亜臨界環境)において、COは流体の状態である。流体のCOが水硬性硬化体に接触することによって、水硬性硬化体におけるCO固定が早く且つ多くなり、水硬性硬化体の強度を早く増進させることができる。
【0032】
工程(4)は、例えば、密閉可能な容器に水硬性硬化体を収容し、容器にCOを導入し、容器内部を加熱すると共に高圧ポンプにより容器内部の圧力を上昇させ、容器内のCOを超臨界状態又は亜臨界状態とすることで実施する。
工程(4)において超臨界状態又は亜臨界状態を継続する時間は、例えば、12時間以上、18時間以上又は24時間以上としてよく、7日間以下としてよい。
【0033】
工程(4)は、成形体が充分に硬化した後に行うことが好ましい。具体的には、水硬性硬化体の圧縮強度が30N/mm以上に達した後に工程(4)を行うことが好ましく、水硬性硬化体の圧縮強度が35N/mm以上に達した後に工程(4)を行うことがより好ましく、水硬性硬化体の圧縮強度が40N/mm以上に達した後に工程(4)を行うことが更に好ましい。
【実施例0034】
以下、本開示の水硬性硬化体の製造方法を、実施例を挙げて具体的に説明する。本開示の水硬性硬化体の製造方法は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
以下、工程(3)における養生を、炭酸化養生の前に行うことを意味して「前養生」という。
【0036】
<使用材料、調合及び練り混ぜ>
使用した材料を表1に、モルタルの調合を表2に示す。練り混ぜはモルタルミキサーで行った。セメント及び細骨材を投入後、15秒間空練りを行い、練り混ぜ水及び化学混和剤を投入し、90秒間練り混ぜた。次いで練返しを行い、さらにL30及びN30ではそれぞれ300秒間、L50では180秒間練り混ぜた。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
<試験体の作製及び養生方法>
(1)試験体の作製と前養生
試験体はφ50×100mmと40×40×160mmを作製した。温度20℃で封緘養生を1日行った後、水和反応を進める目的で、温度65℃で72時間の蒸気養生を行った。蒸気養生後、脱型してビニル袋に封緘とし、炭酸化養生の開始まで温度20℃環境に静置した。
【0040】
(2)炭酸化養生
炭酸化養生の条件を表3に示す。超臨界炭酸化養生は、圧力容器(内径φ215mm×h400mm)に試験体を入れ、温度35℃且つ圧力8MPaのCO超臨界状態に24時間置いた。炭酸化開始までの期間は、CO濃度10%及び90%は蒸気養生後速やかに炭酸化養生を開始し、超臨界炭酸化養生は材齢40日頃に炭酸化養生を行った。
【0041】
【表3】
【0042】
<試験項目>
(1)圧縮強度試験
φ50×100mmの試験体に、全面暴露として表3に示す炭酸化養生を行った。圧縮強度試験は、JIS A 1108に準拠して行った。
【0043】
(2)中性化深さ測定
No.1~3は、40×40×160mmの試験体に、小口面以外の4面をアルミニウムテープでシールし、表3に示す炭酸化養生を行った。
No.4は、φ50×100mmの試験体に、全面暴露として表3に示す超臨界炭酸化養生を行った。
炭酸化養生後に湿式カッターで切断し、JIS A 1152に準じてフェノールフタレイン溶液による中性化深さ測定を行った。
【0044】
(3)TG-DTA、FT-IR及びXRD
各種分析用の試験体の寸法と炭酸化養生条件は、中性化深さ測定と同様とした。図1に示すとおり、No.1~3の40×40×160mmの試験体は、養生後に暴露面から表層20mmを切断して採取し、各種分析に用いた。図1に示すとおり、No.4のφ50×100mmの試験体は、中央部を厚さ10mm程度にスライスして全断面を各種分析に用いた。採取後の試料はアセトンに24時間浸漬して水和停止を行い、水和停止後にハンマーで5mm以下の小片に破砕して、温度20℃且つ相対湿度11%に調湿したデシケータに恒量になるまで静置した。その際、二酸化炭素吸着剤を用いデシケータ内のCOを除去した。次いで、振動粉砕機で150μm以下に粉砕し、TG-DTA、FT-IR及びXRDに供した。
TG-DTAは昇温速度を10℃/minとし1000℃まで測定を行った。TG-DTAの結果から、500℃~750℃の減量を炭酸カルシウムからの脱炭、410℃~460℃の減量を水酸化カルシウムからの脱水とみなし、定量を行った。
FT-IRは、ダイヤモンドプリズムを用いた全反射測定法(ATR法)とした。L50の試験体に当該試験を行った。
XRDは、X線源Cu-Kα、管電圧40kV、管電流40mA、走査範囲2θ=5~65°で測定を行った。
【0045】
(4)水銀圧入試験
水銀圧入試験用の試験体は、前項と同様に、炭酸化養生、試料採取、水和停止、温度20℃且つ相対湿度11%に調湿を行った試料を用いた。測定には2mm~5mmの欠片を用い、測定の前処理として真空ポンプで1時間の真空乾燥を行った。
【0046】
(5)SEM観察
L50の試験体を対象とした。炭酸化暴露面の表層(炭酸化暴露面から0~5mm程度)の切断面を鏡面研磨し、真空乾燥後、SEM観察を行った。
【0047】
<実験結果>
(1)圧縮強度
図2に圧縮強度試験の結果を示す。図3にCO濃度0%における試験体の強度を基準としたときの圧縮強度比を示す。いずれの配合も炭酸化養生によって圧縮強度が増進しており、特にCO濃度90%での養生の強度増進が大きかった。水セメント比の大きいL50の強度増進比が特に大きく、CO濃度90%の炭酸化養生で1.4倍の強度を発現した。炭酸化による炭酸カルシウムの析出によって、細孔構造の緻密化が起こっていると推察される。
【0048】
(2)中性化深さ
図4に圧縮強度増進の大きいL50-90とL50-SCの中性化深さ測定の試験体写真を示す。L50-SCのみ1mm程度の中性化が確認でき、その他の試験体は中性化深さ0mmであった。圧縮強度の増進を引き起こす程度に炭酸化が起こっているものの、試験体断面のほとんどがフェノールフタレイン溶液に呈色することから、アルカリ源である水酸化カルシウムが残存していることが推察される。
岩屋らは超臨界炭酸化養生を7日間行ったセメント硬化体について、φ50×100mmの試験体中心部まで中性化が進むことを報告しているが(岩屋希,石田哲也:超臨界CO環境下での強度増加に与える水セメント比の影響,セメント・コンクリート論文集,Vol.70,No.1,pp.268-274,2017)、本実験と比較して前養生時の水和反応が少ないこと、超臨界炭酸化の条件が異なることなどが影響していると考えられる。CO濃度10%、90%についても前養生の影響で中性化の程度は異なると考えられ、効率的なCO固定による強度増進方法について、今後の検討が必要である。
【0049】
(3)TG-DTA
図5A図5B及び図5CにTG曲線及びDTA曲線を示す。いずれの試験体も410~460℃付近に水酸化カルシウムの分解による減量が見られた。炭酸カルシウムの分解による減量は500~750℃付近までの広い範囲で見られた。TG-DTAはサンプル量や昇温速度などの影響を受けることが知られており、また、Morandeauらは炭酸化したセメントペーストのTG-MASにおいてCO分解とHO分解の温度が重なることを報告している(Morandeau, A., Thiery, M., Dangla, P. : Investigation of the carbonation mechanism of CH and C-S-H in terms of kinetics, microstructure changes and moisture properties, Cement and Concrete Research, Vol.56, pp.153-170, 2014)。よって、TGによる炭酸カルシウム量の定量において、一意に分解温度域を定めることは難しい。本実験においては、TG曲線及びDTG曲線から、500~750℃の減量を炭酸カルシウムからのCOの分解によるものとみなして炭酸カルシウム量を定量した。定量した水酸化カルシウム量と炭酸カルシウム量を図6に示す。いずれの試験体にも水酸化カルシウムが残存していることが分かる。特にL50-90及びL50-SCにおいて、炭酸化による水酸化カルシウム量の低下が少ないが、炭酸カルシウム量の増大が大きかった。
【0050】
(4)FT-IR
炭酸化条件によっては、水酸化カルシウム以外にC-S-Hも炭酸化する。C-S-Hの炭酸化有無の確認のため、L50についてFT-IRを行った。その結果を図7に示す。図7のチャートは上から順に、L50-0、L50-10、L50-90、L50-SCである。L50-SCにおいて、1430cm-1、870cm-1にカルサイトによる伸縮が確認された。
980cm-1のピークはC-S-HのSi-Oの伸縮によるものであり、C-S-Hの炭酸化によって、980cm-1のピークが減少し、1020cm-1のシリカゲルに見られるSi-Oピークが増大することが報告されている(A. Hidalgo, et al. : Microstructural changes induced in Portland cement-based materials due to natural and supercritical carbonation, Journal of Materials Science Vol.43, No.9, pp.3101-3111, 2008.石川俊介,丸山一平,栗原諒,江藤淳二:ガンマ線環境下にある早強ポルトランドセメントペーストの中性化に関する研究,セメント・コンクリート論文集,Vol.71,No.1,pp.240-247,2018)。本実験においては、L50-SCにおいても980cm-1のピークに変化はなく、C-S-Hの炭酸化は起こっていないと推察される。
【0051】
(5)XRD
XRDのチャートを図8図9A図9B及び図9Cに示す。
図8は5°~65°のXRDチャートであり、チャート内のPはポルトランダイトを意味し、Cはカルサイトを意味する。図8中の(c)のチャートは上から順に、L50-SC、L50-90、L50-10、L50-0である。
炭酸カルシウムについて、カルサイトのピークが見られ、バテライト及びアラゴナイトのピークは見られなかった。XRDの結果からも炭酸化によってポルトランダイト量が減り、カルサイトが生成していることが分かる。Nセメントとして石灰石微粉末が少量含まれるセメントを実験に用いたため、N30はカルサイト量が多い。
図9A図9B及び図9Cは、30°~35°のXRDチャートであり、未水和セメントのピークを示す。図9Cのチャート内のBはビーライトを意味する。
図9Cの32°~33°の領域のチャートは上から順に、L50-0、L50-10、L50-90、L50-SCである。32°~33°の領域のチャートから、炭酸化が進むことによってC2Sのピークが減少することが分る。水酸化カルシウムの炭酸化に伴って生成する水分によって水和が進んだ又は未水和セメント中のカルシウムが溶解して即時に炭酸化したことが推察される。これが、TGによる定量(図6)で見られたように、水酸化カルシウムの減少量以上に炭酸カルシウムが生成していることの要因のひとつであると考えられる。
【0052】
(6)水銀圧入試験
水銀圧入による空隙測定結果を図10A図10B図10C図11A図11B及び図11Cに示す。
L30は、炭酸化によって100nm付近の細孔が減少している。細孔分布の最大ピーク位置は20nm付近であり、炭酸化の有無でほとんど変化がみられなかった。10nm以下の細孔は、L30-10が最も細孔量が少なく、L30-SCが多かった。
N30は、L30と同様に100nmの細孔が炭酸化によって減少している。N30-10において20nmの位置にあるピークが、N30-10、N30-90では炭酸化によって細孔径の小さい方にシフトした。N30-SCでは20nm付近のピークは見られず、6nm付近に小さいピークが見られた。
L50では、水セメント比が大きい影響でL50-0の細孔径分布のピーク位置がL30-0と比較して大きく、500nmと50nm付近に大きなピークが見られた。いずれのピークも炭酸化によって小さくなり、50nm付近のピークは、ピーク位置も炭酸化に伴って細孔径の小さい方にシフトした。L50-SCでは、30nm以下の小さい細孔径の量が多かった。より径の大きい空隙が炭酸カルシウムで充填することで、径の小さい空隙が相対的に増加したと考えられる。
炭酸化養生による強度増進については、100nm以上の毛細管空隙の減少の影響が大きいと推察される(坂井悦郎,盛岡実,山本耕三,張璽,大場陽子,大門正機:低熱ポルトランドセメント硬化体の炭酸化反応,日本セラミックス協会学術論文誌,Vol.107,No.6,pp.561-566,1999)。
各配合において、炭酸化条件が炭素リッチで炭酸カルシウム生成量が多いほど、総空隙量が少なくなる傾向であるが、L50-SCでは、炭酸カルシウム生成量が多いにもかかわらず、総空隙量がL50-0と同等であった。これは、本測定で評価できていない10μm以上の空隙(気孔など)が炭酸カルシウムの充填によって緻密になることで、測定上の総空隙量が多くなったと推察される。
N30とL50において、超臨界炭酸化養生(SC)の炭酸カルシウム生成量が多く空隙が緻密になっているにもかかわらず、強度増進比がCO濃度90%の炭酸化養生試験体に対して小さかった(図3)。これに関して、本実験では、空隙構造や各種分析は、角柱試験体側面の表層から20mmまで又は円柱試験体の中央部スライスを試料とした平均的な評価になっており、炭酸化深さの影響については十分に検討できていない。圧縮強度試験においては、局所的な脆弱部や供試体外周部の局所的な強度増進が結果に影響を与えると考えられ、精緻な分析には深さ方向の評価が必要である。
【0053】
(7)SEMによる微細構造観察
L50のSEM画像を図12A図12B及び図12Cに示す。観察場所によって粗密の差があったが、L50-0では、数μmの粗な空隙が比較的多く観察されたのに対し、L50-SCでは粗な空隙部分が少なかった。水銀圧入測定の結果で見られたように、空隙に炭酸カルシウムが充填することで、粗な空隙が減少していると考えられる。図12Cに示すようにL50-SCにおいて、巻き込み空気による空隙内に炭酸カルシウムが析出している様子が観察された。Hidalgoらも超臨界炭酸化において同様の報告をしている(A. Hidalgo, et al. : Microstructural changes induced in Portland cement-based materials due to natural and supercritical carbonation, Journal of Materials Science Vol.43, No.9, pp.3101-3111, 2008 )。
L50-SCでは残存する未水和セメントにおいて、密度の異なるリムが複数重なっている様子が観察された(図12B)。超臨界炭酸化養生によって、未水和セメント中のカルシウムが溶脱して炭酸カルシウムが生成し、その後又は炭酸化中に残存する未水和セメントが再水和していることが推察されるが、詳細についてはさらなる検討が必要である。
【0054】
(8)まとめ
普通ポルトランドセメントと低熱ポルトランドセメントを用いたモルタルを種々の条件で炭酸化させ、圧縮強度、各種分析、空隙構造観察などを行った。本検討により得られた知見を以下に示す。
1)モルタルを炭酸化することにより、空隙が炭酸カルシウムで充填され、特に100nm以上の毛管空隙が減少することで圧縮強度が増進した。
2)いずれの条件でも水酸化カルシウムが残存し、C-S-Hの炭酸化やバテライトの生成は見られなかった。
3)超臨界炭酸化養生を行ったL50-SCについて、未水和セメント量の減少が確認され、SEM観察により未水和セメントに密度の異なるリムが複数重なっている様子が観察された。
【0055】
超臨界炭酸化養生又は亜臨界炭酸化養生によって、水硬性硬化体の強度を早く増進させることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C