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特開2023-181884ミラー及びヘッドアップディスプレイ装置
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  • 特開-ミラー及びヘッドアップディスプレイ装置 図1
  • 特開-ミラー及びヘッドアップディスプレイ装置 図2
  • 特開-ミラー及びヘッドアップディスプレイ装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181884
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】ミラー及びヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/08 20060101AFI20231218BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20231218BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20231218BHJP
   G02B 7/198 20210101ALI20231218BHJP
【FI】
G02B5/08 A
G02B27/01
G02B5/30
G02B7/198
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095260
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】樋口 哲太
(72)【発明者】
【氏名】小柴 彰利
(72)【発明者】
【氏名】古澤 宏幸
【テーマコード(参考)】
2H042
2H043
2H149
2H199
【Fターム(参考)】
2H042DA08
2H042DA11
2H042DA14
2H042DA15
2H042DA20
2H042DB03
2H042DB14
2H042DC07
2H042DC11
2H042DD05
2H042DE00
2H043BB05
2H043BC01
2H149AA17
2H149AB11
2H149AB16
2H149BA01
2H149BA24
2H149CA02
2H149EA22
2H149FA05Z
2H149FA13Z
2H149FA42X
2H149FA66
2H149FA68
2H199DA03
2H199DA13
2H199DA15
2H199DA19
2H199DA28
2H199DA33
(57)【要約】
【課題】光学フィルムを基材へより強固に接着したミラー及び当該ミラーを備えるヘッドアップディスプレイ装置を提供すること。
【解決手段】本開示のミラーは、合成樹脂材料で形成される基材40と、基材40の一方の面に設けられる接着層41と、接着層41によって基材40へ接着され、光を反射する光学フィルム42と、を備え、基材40は、接着層41との間にケイ素を含む接着面40aが形成されている。また、本開示のヘッドアップディスプレイ装置は、表示光Lを出射する表示器2と、表示光Lを反射する当該ミラーと、表示器2及びミラー4を収容し、表示光Lをフロントガラス200へ通過させる開口部10が形成される筐体1を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂材料で形成される基材と、
前記基材の一方の面に設けられる接着層と、
前記接着層によって前記基材へ接着され、光を反射する光学フィルムと、
を備え、
前記基材は、前記接着層との間にケイ素を含む保護層が形成されている
ミラー。
【請求項2】
前記保護層は、二酸化ケイ素または一酸化ケイ素を含む
請求項1に記載のミラー。
【請求項3】
前記接着層は、アクリル系粘着剤である
請求項1に記載のミラー。
【請求項4】
前記基材は、特にポリカーボネートまたは環状オレフィン系樹脂で形成される
請求項1に記載のミラー。
【請求項5】
前記光学フィルムは、
入射した光の内、特定の方向の偏光である可視光を反射し、その他の光を透過し、
誘電体多層膜で形成される
請求項1に記載のミラー。
【請求項6】
表示光を出射する表示器と、
前記表示光を反射する請求項1に記載のミラーと、
前記表示器及び前記ミラーを収容し、前記表示光を透過反射部材へ通過させる開口が形成される筐体を備える
ヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
前記ミラーは、前記表示光の反射角度を調整するために回転可能に保持され、
前記基材は、前記ミラーの回転軸となる軸部を一体に形成する
請求項6に記載のヘッドアップディスプレイ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミラー及びヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ヘッドアップディスプレイ装置に用いられるミラーが開示されている。このミラーは、屈折率の異なる複数の樹脂膜を積層してなる反射層(41)と、粘着層(42)と、反射層(41)が粘着層(42)を介して接合する基材(43)を備える反射鏡(4)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2020-246546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、従来の構成のミラーには、未だ反射層を形成する光学フィルムと基材との間の接合に改善の余地があることを発見した。そこで本発明の目的とするところは、上述課題に着目し、光学フィルムを基材へより強固に接着したミラー及び当該ミラーを備えるヘッドアップディスプレイ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本開示のミラーは、
合成樹脂材料で形成される基材と、
前記基材の一方の面に設けられる接着層と、
前記接着層によって前記基材へ接着され、光を反射する光学フィルムと、
を備え、
前記基材は、前記接着層との間にケイ素を含む保護層が形成されている。
【0006】
また、上記目的を達成するため、本開示のヘッドアップディスプレイ装置は、
表示光を出射する表示器と、
前記表示光を反射する当該ミラーと、
前記表示器及び前記ミラーを収容し、前記表示光Lを透過反射部材へ通過させる開口が形成される筐体を備える。
【0007】
なお、本開示のヘッドアップディスプレイ装置の構成は、これに限られず、本開示の種々のミラーを適用することで、上記の課題を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置の構成を示す概略断面図である。
図2】ヘッドアップディスプレイ装置が備えるミラーを示す斜視図である。
図3】ミラー4の要部断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示のミラー及びヘッドアップディスプレイ装置を実施形態及び変形例として例にあげ、添付図面を用いて次の順序で説明する。なお、複数の図面に存在する同一属性の部位には、見易さのために一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。

[第一実施形態]
1-1.構成の説明
1-2.ミラー4の説明
1-3.接着面40aの説明
[変形例]
【0010】
[第一実施形態]
<1-1.構成の説明>
ヘッドアップディスプレイ装置100は、例えば自動車に搭載されるものであり、図1及び図2に示すように、筐体1と、表示器2と、平面鏡3と、ミラー4と、ミラー回転機構5と、図示しない回路基板と、を備える。
【0011】
ヘッドアップディスプレイ装置100は、表示器2が出射した所定の画像を表す表示光Lを、平面鏡3とミラー4とで反射させ、ヘッドアップディスプレイ装置100が搭載される車両のフロントガラス200に照射して表示を行う。ヘッドアップディスプレイ装置100が表示する内容は、車両の走行速度や各種警告などの車両情報、ナビゲーション情報等である。
【0012】
筐体1は、例えば黒色の合成樹脂から形成され、表示器2、平面鏡3、ミラー4、ミラー回転機構5、及び、回路基板(図示せず)を内部に収容する。筐体1のフロントガラス200に対向する部分には、後述する表示光Lをフロントガラス200(透過反射部材)に通過させる開口部10が形成され、この開口部10は、透光性カバー11に覆われている。
【0013】
表示器2は、所定の情報(各種車両情報やナビゲーション情報等)を報知するための画像(報知画像)を表す表示光Lを出射するものであり、例えば、液晶パネルとバックライト用光源から構成される透過型液晶ディスプレイ、又は、自発光型ディスプレイから構成される。
【0014】
平面鏡3は、表示器2が出射した表示光Lを、ミラー4に向けて反射させるものである。
【0015】
ミラー4は、平面鏡3で反射した表示光Lをさらに反射させ、フロントガラス200に向けて出射する。ミラー4は、合成樹脂材料からなる基材の表面に、接着層によって光学フィルム(反射層)が接合されることにより形成された凹面鏡として構成される。ミラー4は、回転軸線A方向の両端部に軸部S及びフランジ部Fを備える。フランジ部Fは、回転軸線Aを中心に摺動及び回転できる図示されない軸部を取り付ける箇所である。ミラー4は、軸部を支点とする回転軸線A方向周りに回転することによって表示光Lの反射角度を調整する。なお、ミラー4については、後に詳述する。
【0016】
ミラー4で反射した表示光Lは、筐体1の開口部10に設けられた透光性カバー11を透過して、フロントガラス200に向かう。フロントガラス200に到達し、反射された表示光Lは、フロントガラス200の前方の虚像位置V(図1参照)に報知画像の虚像(観察者Eに視認される表示像)を形成するとともに、前方からの光を透過する。これにより、ヘッドアップディスプレイ装置100は、虚像と前方に実際に存在する外景等の双方を、観察者E(主に車両の運転者)に視認させることができる。
【0017】
ミラー回転機構5は、ミラー4を回転軸線A周りに回転させるものであり、例えば軸部を支持する軸受部材と、回転駆動部で構成される。回転駆動部は、フレームと、モータと、送りネジ軸と、送り部材と、を備える。フレームは、モータを固定支持するとともに、送りネジ軸を回転可能に支持する。また、フレームは、送り部材の送りネジ軸周りの回転を規制する。モータは、ミラー4を回転軸線A周りに回転させるための駆動力を生むステッピングモータである。送りネジ軸は、モータの出力軸に連結され、モータの駆動に応じて正逆回転する。送り部材は、送りネジ軸に螺合する螺合部と、軸部材の連結レバー部に当接状に連結される連結部と、を備える。モータの駆動に応じて送りネジ軸が回転すると、フレームによって送りネジ軸周りの回転が規制された送り部材は、送りネジ軸の軸線に沿って移動する。これにより、例えばミラー4に設けられる突起を介してミラー4を押圧することで、ミラー4が回転軸線A周りに回転し、ミラー4の反射角度が変更される。
【0018】
図示しない回路基板は、例えば筐体1内の所定位置に配設され、CPUとRAMとROM等の演算装置と記憶装置を組み合わせたマイクロコントローラからなる制御部(図示せず)を実装したプリント回路板である。回路基板の制御部は、表示器2及び回転駆動部9の各々と電気的に接続されている。制御部は、車両ECU(Electronic Control Unit)等の外部装置(図示せず)から通信ラインにより伝送される車両の状態情報を取得し、これに応じて表示器2を駆動する(つまり、表示器2に所定の報知画像を表示させる)。また、ヘッドアップディスプレイ装置100には、観察者E等のユーザが、ミラー4の角度を調整するための入力手段(図示せず)が設けられており(この入力手段は、制御部と電気的に接続されたヘッドアップディスプレイ装置100の外部装置であってもよい)、制御部は、ユーザの入力手段からの操作内容に応じて、回転駆動部を駆動し、ミラー4を回転軸線A周りに所望の角度だけ回転させる。このようなミラー4の角度調整により、搭乗者の視線の高さに合った適切な位置に虚像を表示できる。
【0019】
<1-2.ミラー4の説明>
この節1-2では、特にミラー4が詳細に説明される。
図3は、回転軸線Aと光学フィルム42(反射層)とを含む平面におけるミラー4の要部断面を示す図である。ミラー4は、合成樹脂材料からなる基材40の表面に、接着層41によって光学フィルム42が接着されることにより形成された凹面鏡である。
【0020】
基材40の合成樹脂材料としては、高い流動性と高い剛性を示す材料が選択される。高い流動性を示す合成樹脂材料は、ミラー4の成形性(表面形状の精度など)を高める。高い剛性を示す合成樹脂材料は、ミラー4の振動に対する耐力を高める。上記観点から、合成樹脂材料としては、環状オレフィン系樹脂やポリカーボネートが選択される。環状オレフィン系樹脂の具体例としては、シクロオレフィンポリマー(COP)や環状オレフィン共重合体(COC)が含まれる。
また、基材40は結晶性の耐熱性ポリマー等でも構成され得る。より具体的には、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等のエンジニアリングプラスチックが使用され得る。
なお、基材40に適用され得る合成樹脂材料は、後述の通りフィラーを含有した状態で成形される。
【0021】
基材40は、第一実施形態では特に暗色であるとよい。暗色の基材40は、光学フィルム42に透過される光が入射しても、観察者Eや表示器2へ向けて反射してしまう虞を低減できる。
【0022】
接着層41は、基材40の一方の面(表面)に設けられる。接着層41は、光学フィルム42を基材40へ接着する。接着層41は、種々の接着剤を適用できるが、例えばOCA(Optical Clear Adhesive)やOCR(Optical Clear Resin)であるとよく、両面テープやエポキシ樹脂、硬化剤などでもよい。接着層41は、特にアクリル系粘着剤が好適である。アクリル系粘着剤は、種々の光学フィルムに適した接着特性を有しながらも、安価に製造できるため、好適な構成である。
【0023】
光学フィルム42は、表示器2が出射した表示光Lを反射する反射部材である。光学フィルム42は、表示光Lを全反射するミラーフィルムであってもよい。光学フィルム42は、特にコールドミラーフィルムであるとよい。偏光反射型コールドミラーフィルムは、誘電体多層膜で形成されるミラーフィルムであり、入射した光のうち、特定の方向の偏光である可視光のみを反射し、その他の光を透過する、選択的光反射光学フィルムである。偏光反射型コールドミラーフィルムは、外部から進入した太陽光のうち、表示光Lと異なる方向の偏光や赤外光が表示器2などに到達し加熱することを抑制する。なお、光学フィルム42は、偏光特性を有さない可視光反射フィルムであってもよい。
【0024】
<1-3.接着面40aの説明>
接着層41は、特に基材40の表面である接着面40aに設けられる。接着面40aは、光学フィルム42を基材40へより強固に接合したミラーとするために、下記のように構成される。
【0025】
接着面40aは、ケイ素を含む保護層が形成されている。接着面40aは、ガラス化コーティングに類する保護層であれば良いが、例えば二酸化ケイ素または一酸化ケイ素を含む保護層であることが望ましい。
【0026】
接着面40aには、任意の手法で上記の保護層を形成されてよい。例えば、保護層は、基材40の接着面40aに相当する面へ付加されたシラン化合物が燃焼されることで形成される。
【0027】
ここで、発明者が発見した従来の構成における課題を説明する。発明者らは基材へ接着層によって接着された光学フィルムを備える従来ミラーは、特定の条件下において、光学フィルムに気泡や剥離が生じる虞があることを発見した。発明者らは、この事象が接着層と基材との界面へ、基材から生じるアウトガスが進入することで発生することを突き止めた。このアウトガスは、特に基材を射出成形などした後や基材を高温に晒された際に、基材の内部に含有される水分が揮発して生じる水蒸気であることが多い。なお、アウトガスは、水蒸気の他、何らかの気体であることもある。
【0028】
この事象を解消するために、アウトガスの進入を防ぐ特殊な接着層を用いることも可能ではあるが、往々にしてこのような高性能な接着層は製造コストが高く、採用が困難であった。
【0029】
そこで本開示のミラー4では、上記のような保護層である接着面40aが適用された。このように基材40の表面へ保護層が設けられた構成では、基材40の内部からアウトガスが生じたとしても、接着面40aを通過するアウトガスを著しく低減し、基材40と接着層41との界面には目立つ気泡や剥離が生じる虞を低減できる。なお、この場合、アウトガスは接着面40a以外の面から周囲へ放出される。
【0030】
このように形成された接着面40aを備えるミラー4は、コストの増加を抑えつつも、反射層を基材へより強固に接合したミラーとなる。
【0031】
[変形例]
以上、実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
【0032】
光学フィルムの構成は、タッチパネルフィルムや、透過型偏光板等であってもよい。これらの光学フィルムを適用する場合、ヘッドアップディスプレイ装置の他、表示装置へ適用されることも望ましい。
【0033】
例えば、表示光を出射する表示器と、表示光を透過する光学フィルムと、光学フィルムが接着される合成樹脂材料で形成される基材と、光学フィルムを基材へ接着する接着層とが備わる表示装置、として構成されてもよい。この場合であっても、光学フィルムが基材から生じるアウトガスによって気泡や剥離が生じる虞を低減できる。なお、この場合は基材は透明な合成樹脂であることが望ましい。
【0034】
また、第一実施形態に示された基材は、高剛性な合成樹脂材料で形成されればよい。
【0035】
また、接着面の構成は、ガラス化コーティングとして示した構成の他、シラン化合物や、酸化チタンIVのようなコーティングであってもよい。すなわち、接着層と基材との界面に、基材から生じるアウトガスの進入を低減するコーティングであればよい。なお、この例示した構成の中でも、製造コストの観点からケイ素を含有するガラス化コーティングが保護層として好適である。
【0036】
ミラーは、軸部及びフランジ部を一体に形成しなくてもよい。しかし、基材へ光学フィルムを接着することで形成されるミラーでは、直接基材へ反射面を蒸着する構成よりも、基材の設計自由度が増す。したがって、軸部およびフランジ部等の機械的要素をミラーが備える必要がある場合、基材へ一体に形成することで、部品点数削減やコスト低減を果たせる。
【0037】
本開示のヘッドアップディスプレイ装置は、自動車の他、作業車両や自動二輪車のような車両、船舶、航空機などに搭載されてもよい。
【符号の説明】
【0038】
100 ヘッドアップディスプレイ装置
1 筐体
10 開口部
11 透光性カバー
2 表示器
3 平面鏡
4 反射部
40 基材
40a 接着面
41 接着層
42 光学フィルム

5 反射部回転機構
200 フロントガラス
L 表示光
S 軸部
F フランジ部
V 虚像位置
図1
図2
図3