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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018190
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】排気系温度推定装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20230201BHJP
   B60W 20/16 20160101ALI20230201BHJP
【FI】
F02D45/00 360A
F02D45/00 368
B60W20/16 ZHV
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122097
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(72)【発明者】
【氏名】本田 純大
【テーマコード(参考)】
3D202
3G384
【Fターム(参考)】
3D202BB05
3D202BB09
3D202DD13
3D202DD45
3G384AA28
3G384BA58
3G384CA02
3G384CA23
3G384DA61
3G384ED06
3G384ED08
3G384ED11
3G384FA01Z
3G384FA08Z
3G384FA40Z
3G384FA45Z
3G384FA46Z
3G384FA66Z
3G384FA79Z
3G384FA86Z
(57)【要約】
【課題】排気系温度推定装置に関し、排気系温度の推定精度を保ちつつ省エネ性能を改善する。
【解決手段】開示の排気系温度推定装置は、エンジン2の排気系に設置され、設置箇所の温度TUPを検出する温度検出手段11と、エンジン2の燃焼状態を表すパラメータλを検知する状態検知手段12とを備える。また、エンジン2が作動している場合に、温度TUP及びパラメータλを参照して設置箇所とは異なる位置における排気系の第一推定温度T1を演算する第一演算を実行するとともに、エンジン2が停止している場合に、パラメータλを参照せず温度TUPを参照して排気系の第二推定温度T2を演算する第二演算を実行する演算手段10を備える。演算手段10は、エンジン2が停止した状態において、エンジン2を再始動させるための条件が厳しいほど第二演算の演算頻度または演算時間を減少させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気系に設置され、設置箇所の温度を検出する温度検出手段と、
前記エンジンの燃焼状態を表すパラメータを検知する状態検知手段と、
前記エンジンが作動している場合に、前記温度及び前記パラメータを参照して前記設置箇所とは異なる位置における前記排気系の第一推定温度を演算する第一演算を実行するとともに、前記エンジンが停止している場合に、前記パラメータを参照せず前記温度を参照して前記排気系の第二推定温度を演算する第二演算を実行する演算手段とを備え、
前記演算手段は、前記エンジンが停止した状態において、前記エンジンを再始動させるための条件が厳しいほど前記第二演算の演算頻度または演算時間を減少させる
ことを特徴とする、排気系温度推定装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記温度検出手段で検出された前記温度と前記第一推定温度との偏差が小さいほど、前記第二演算の演算頻度または演算時間を減少させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の排気系温度推定装置。
【請求項3】
前記演算手段は、最長で前記第二推定温度と前記温度検出手段で検出された前記温度とが等しくなるまで前記第二演算を実行する
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の排気系温度推定装置。
【請求項4】
前記演算手段は、前記第二演算において、前記温度を車速に応じたパラメータで補正することで前記第二推定温度を演算する
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の排気系温度推定装置。
【請求項5】
前記エンジン及びモータが搭載された車両に適用される排気系温度推定装置であって、
前記車両の運転モードには、前記エンジンを停止させたまま前記モータで前記車両を駆動するEV通常モードと、前記EV通常モードと比較して前記エンジンを再始動させるための条件が厳しく設定されたEV優先モードとが含まれ、
前記演算手段は、前記エンジンが停止した際に前記EV優先モードが選択されていた場合には、前記EV通常モードが選択されていた場合と比較して、前記第二演算の演算頻度または演算時間を減少させる
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の排気系温度推定装置。
【請求項6】
前記演算手段は、前記モータを駆動するための電力が貯留されるバッテリの充電率が高いほど、前記第二演算の演算頻度または演算時間を減少させる
ことを特徴とする、請求項5に記載の排気系温度推定装置。
【請求項7】
前記エンジンが停止している場合に、前記エンジンを再始動させるための条件が成立する前に前記状態検知手段を加熱する暖機手段を備える
ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の排気系温度推定装置。
【請求項8】
前記暖機手段は、バッテリ充電率が前記エンジンを再始動させるべき所定充電率に近づいた場合に前記加熱を開始する
ことを特徴とする、請求項7に記載の排気系温度推定装置。
【請求項9】
前記暖機手段は、前記エンジンが停止してからの経過時間が所定時間以上である場合と比較して、前記経過時間が前記所定時間未満である場合に、前記加熱のためのデューティ比を増加させる
ことを特徴とする、請求項7または8に記載の排気系温度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン(内燃機関)の排気系温度を推定するための排気系温度推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの排気系に設けられたセンサの検出値を用いて排気系温度を推定する技術が知られている。例えば、排気通路上に介装される触媒の温度推定に際し、触媒の熱収支モデルと触媒下流側の実測温度とを用いて触媒温度を推定する手法が知られている。また、空燃比センサの素子温度やインピーダンスを利用して、排気ガスの温度を推定する技術も知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-177875号公報
【特許文献2】特開2006-161625号公報
【特許文献3】特開2002-070628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンの作動中における排気系温度は、例えばエンジンの燃焼状態や触媒の反応状態に応じて変化する。これに対し、エンジンの停止中における排気系温度は、エンジンが停止してからの経過時間に応じて徐々に低下するものであり、エンジンの燃焼状態や触媒の反応状態の影響を受けない。したがって、エンジンの作動中と停止中とで異なる手法を用いて排気系温度を推定することが考えられる。
【0005】
しかしながら、エンジンの停止中には、エンジンの燃焼温度や触媒温度を制御する必要がないため、推定演算の精度によっては電力や演算能力が浪費され、無駄になってしまうことがある。一方、エンジンの停止中における排気系温度の推定を単に禁止してしまうと、エンジンが再始動した直後の排気系温度を正しく把握できなくなり、エンジンや触媒の制御性が低下してしまう。
【0006】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、排気系温度の推定精度を保ちつつ省エネ性能を改善できるようにした排気系温度推定装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件は、以下に開示する態様又は適用例として実現できる。開示の排気系温度推定装置は、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
開示の排気系温度推定装置は、
エンジンの排気系に設置され、設置箇所の温度を検出する温度検出手段と、
前記エンジンの燃焼状態を表すパラメータを検知する状態検知手段と、
前記エンジンが作動している場合に、前記温度及び前記パラメータを参照して前記設置箇所とは異なる位置における前記排気系の第一推定温度を演算する第一演算を実行するとともに、前記エンジンが停止している場合に、前記パラメータを参照せず前記温度を参照して前記排気系の第二推定温度を演算する第二演算を実行する演算手段とを備え、
前記演算手段は、前記エンジンが停止した状態において、前記エンジンを再始動させるための条件が厳しいほど前記第二演算の演算頻度または演算時間を減少させる。
【発明の効果】
【0008】
開示の排気系温度推定装置によれば、排気系温度の推定精度を保ちつつ省エネ性能を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例としての排気系温度推定装置を説明するためのブロック図である。
図2図1に示す演算装置に保存される運転モードのマップ例である。
図3図1に示す演算装置に保存される温度補正値のマップ例である。
図4】(A),(B),(C)は、図1に示す演算装置に保存される第一補正係数,第二補正係数,第三補正係数のマップ例である。
図5図1に示す演算装置で推定される触媒温度を示すグラフである。
図6図1に示す演算装置で推定されるエキマニ温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1.車両]
実施例としての排気系温度推定装置は、図1に示す車両1に適用される。この車両1は、エンジン2及びモータ3を駆動源として走行可能なプラグインハイブリッド自動車である。エンジン2は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、燃料及び空気の混合気を燃焼室内で燃焼させることで回転軸を駆動する。エンジン2で生成される駆動力は、車両1の駆動輪を駆動するために使用されるほか、図示しないジェネレータで電力を生成するために使用されうる。ジェネレータの発電電力は、後述するバッテリ7に充電される。
【0011】
モータ3は、バッテリ7の電力で駆動輪を駆動する機能と、駆動輪の慣性回転を利用した発電により回生電力をバッテリ7に充電する機能とを兼ね備えたモータジェネレータ(電動機兼発電機)である。また、バッテリ7は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素電池などの二次電池であり、外部充電設備による充電(外部充電)も可能である。上記のエンジン2,モータ3,ジェネレータの作動状態は、例えば車両1の走行状態や運転者の操作に応じて使い分けられ、あるいは併用される。エンジン2及びモータ3の作動状態に関する情報は、演算装置10に伝達される。また、バッテリ7の充電率(SOC,State Of Charge)は、例えばバッテリ7に内蔵されるバッテリ管理装置で算出され、その情報が演算装置10に伝達される。
【0012】
エンジン2の排気系には、上流側から順に、エキマニ4(エキゾーストマニホールド)と触媒5とフィルタ6とが設けられる。エキマニ4は、エンジン2と触媒5との間を接続する排気管である。エンジン2に複数の気筒が内蔵される場合には、各気筒から排出される排気ガスを合流させる形状(多岐管状)に形成される。触媒5は、排気ガスを浄化するための触媒を含む装置であり、例えば酸化触媒装置,三元触媒装置,トラップ触媒装置等である。フィルタ6は、排気ガスに含まれる粒子状物質を濾過する装置であり、例えばDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)やGPF(ガソリンパティキュレートフィルタ)である。濾過された粒子状物質は、排気ガスの温度や成分に応じてフィルタ6の内部で焼却されうる。
【0013】
触媒5とフィルタ6とを接続する排気流路には、温度センサ11が介装される。温度センサ11は、エンジン2の排気系に介装され、設置箇所の温度を検出する温度検出手段の一つである。このような温度検出手段は、例えば触媒5よりも上流側の排気流路や、フィルタ6よりも下流側の排気流路に設けてもよい。本実施例の温度センサ11は、フィルタ6に流入する排気ガスの温度であるフィルタ上流温度TUPを検出し、その情報を演算装置10に伝達する。
【0014】
エキマニ4には、エンジン2の気筒内に導入された混合気の空燃比に対応するパラメータである空気過剰率λを検出する空燃比センサ12が設けられる。空燃比センサ12は、エンジン2の燃焼状態を表すパラメータλを検知する状態検知手段の一つである。また、エンジン2の吸気系または排気系には、エンジン2から排出される排気ガスの流量F(質量流量)の情報を取得するためのエアフローセンサ13が設けられる。
【0015】
空燃比センサ12は、エンジン2の気筒内に導入された混合気の空燃比に対応する物理量として、例えば排気ガス中に含まれる酸素量や二酸化炭素量を検出し、それらに応じた信号を出力する。本実施例の空燃比センサ12は、リニア空燃比センサ(LAFS)であり、排気ガスの拡散を律速する多孔質材料(律速層)で固体電解質を被覆した構造を持つ。空燃比センサ12では、酸素イオンが固体電解質中を移動することによって生じる起電力が計測され、その起電力の値が空燃比に対して線形な関係になるように所定の処理が施されて出力される。ここで計測される起電力に対応する空燃比を「測定空燃比」と定義すれば、エンジン2の空気過剰率λは測定空燃比を理論空燃比で除した値に対応する。本実施例の空燃比センサ12は、このような演算を内部で実行して空気過剰率λを出力し、その情報を演算装置10に伝達する。
【0016】
空燃比センサ12の内部には、センサー素子の温度を所定の活性温度範囲(例えば700~800℃)に維持するためのヒータ15(暖機手段)が内蔵される。ヒータ15の通電電流は、PWM(Pulse Width Modulation)制御によって調節される。例えば、センサー素子を素早く昇温させたいときには、通電電流のデューティ比が大きな値に設定される。一方、センサー素子の温度がある程度上昇した後、その温度を維持したいときには、通電電流のデューティ比が小さな値に設定される。
【0017】
図1に示すエアフローセンサ13は、エンジン2の吸気系に介装されて吸気の流速,温度,圧力を測定する。これらのパラメータに基づき、吸気流量が算出される。また、排気ガスの流量Fは、吸気流量に燃料の添加量を加算することで算出される。なお、エアフローセンサ13が排気系に介装される場合には、排気ガスの流速,温度,圧力に基づいて直接的に排気ガスの流量Fを算出可能である。なお、流量Fの値は、エアフローセンサ13の内部で算出されてもよいし、演算装置10で算出されてもよい。また、車両1には、車速Vに対応するパラメータを出力する車速センサ14が設けられる。車速センサ14は、例えば車輪の角速度に基づいて車速Vを算出する。車速Vの情報は、演算装置10に伝達される。なお、車速Vの値は演算装置10で算出されてもよい。
【0018】
[2.演算装置]
演算装置10(演算手段)は、少なくとも温度センサ11の設置箇所とは異なる位置における排気系の温度を推定する機能を持ったコンピュータ(ECU,Electronic Control Unit)である。演算装置10には、図示しないプロセッサ(中央処理装置),メモリ(メインメモリ),記憶装置(ストレージ),インタフェース装置などが内蔵され、内部バスを介してこれらが互いに通信可能に接続される。演算装置10で実施される判定や制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてメモリに記録,保存される。プログラムの実行時には、プログラムの内容がメモリ空間内に展開され、プロセッサによって実行される。
【0019】
本実施例の演算装置10には、図1に示すように、エンジン2,モータ3,バッテリ7,温度センサ11,空燃比センサ12,エアフローセンサ13,車速センサ14が接続される。演算装置10は、これらの各種装置から伝達される情報に基づき、エンジン2の排気系温度(例えば、エンジン2から排出される排気ガスの温度や、排気系の各所における排気ガスの温度や、排気系に介装される各種部品の温度等)を推定する。本実施例の演算装置10は、エンジン2の作動中と停止中とで異なる手法を用いて、触媒温度及びエキマニ温度(排気系温度)を推定する。
【0020】
エンジン2が作動しているときには、演算装置10は第一演算を実行し、触媒温度及びエキマニ温度の各々についての第一推定温度T1,T3を演算する。第一演算とは、第一推定温度T1,T3の演算に際し、温度センサ11で検出されたフィルタ上流温度TUPと空燃比センサ12で検出された空気過剰率λとの双方を参照する演算である。第一演算で算出される第一推定温度T1,T3には、エンジン2の燃焼状態を表す空気過剰率λの値が反映される。
【0021】
一方、エンジン2が停止しているときには、演算装置10は第二演算を実行し、触媒温度及びエキマニ温度の各々についての第二推定温度T2,T4を演算する。第二演算とは、第二推定温度T2,T4の演算に際し、空燃比センサ12で検出された空気過剰率λを参照せず、温度センサ11で検出されたフィルタ上流温度TUPを参照する演算である。第二演算は、エンジン2が停止しているときに実行されるため、エンジン2の燃焼状態を表す空気過剰率λの値は第二推定温度T2,T4には反映されないようになっている。ただし、第二演算が実施される期間は、最長で第二推定温度T2,T4とフィルタ上流温度TUPとがほぼ等しくなるまで(第二推定温度T2,T4とフィルタ上流温度TUPとの差が所定値以下になるまで)とされる。第二推定温度T2,T4とフィルタ上流温度TUPとがほぼ等しくなった時点で第二演算は終了する。
【0022】
本実施例における「エンジン2の作動中」には、エンジン2のみを利用して車両1を駆動するエンジン走行モードや、エンジン2及びモータ3を併用して車両1を駆動するエンジン併用モード(パラレルモード,シリーズモード)が含まれる。また、本実施例における「エンジン2の停止中」には、モータ3のみを利用して車両1を駆動するEVモードや、車両1の主電源が切断された停車状態が含まれる。なお、本実施例のEVモードには、EV通常モード及びEV優先モードが含まれる。EV優先モードは、EV通常モードと比較してエンジン2の始動が抑制されるように構成された(すなわち、エンジン2が始動しにくくなっている)モードである。これらのEV通常モード及びEV優先モードについては後述する。
【0023】
演算装置10は、エンジン2が停止した状態において、エンジン2を再始動させるための条件が厳しいほど、第二演算の演算頻度または演算時間を減少させるようになっている。反対に、エンジン2が停止した状態において、エンジン2を再始動させるための条件が緩いほど、第二演算の演算頻度または演算時間を増加させる。例えば、エンジン2の停止時におけるバッテリ7のSOCが高い場合には、SOCが低い場合と比較して、その後にエンジン2の再始動が必要になる可能性が低い(つまり、しばらくの間はエンジン2が停止したままになる可能性が高い)と考えられる。そこで、演算装置10は、第二演算の演算頻度を低下させ、あるいは第二演算を早期に終了させて、電力や演算能力の浪費を抑制する。反対に、エンジン2の停止時におけるバッテリ7のSOCが低い場合には、その後にエンジン2が再始動する可能性が高いため、第二演算の演算頻度を上昇させ、あるいは第二演算をできるだけ継続することで、エンジン2が再始動した直後の温度推定精度を確保する。
【0024】
具体的な数値を挙げれば、第一演算の演算頻度が例えば100[ms]周期で実行される頻度(単位時間あたりの演算回数が10[回/s])であるものとする。これに対し、第二演算の演算頻度は、少なくとも100[ms]以上の周期で実行される頻度になるように制御され、エンジン2を再始動させるための条件が厳しいほど長い周期で(例えば100~1000[ms]周期で)実行される。また、第二演算の演算時間を減少させる場合には、第二演算の終了条件に係る所定値(第二推定温度T2,T4とフィルタ上流温度TUPとの差の閾値)を大きくすればよい。
【0025】
上記の「エンジン2を再始動させるための条件」としては、バッテリ7のSOCのほか、車両1の走行モード,車速V,バッテリ温度,運転者によるアクセル及びブレーキ操作の頻度等の条件が挙げられる。例えば、既存のハイブリッド自動車において、EVモード(モータ3の駆動力だけで走行するモード)でのエンジン2の再始動条件を複数種類の条件の中から選択できるようにする技術が知られている。具体的には、乗員がEVモードとして、EV通常モード及びEV優先モードのいずれかを選択できるハイブリッド自動車が知られている。
【0026】
EV優先モードでは、図2に示すように、EV通常モードと比較して、エンジン2を再始動させるための車速Vや負荷(例えば、要求トルク,吸入空気量,アクセル開度等に応じて設定される物理量)の条件が厳しく設定される。図2中において、実線よりも左下側の領域は、EV通常モードが維持される運転領域を表し、破線よりも左下側の領域は、EV優先モードが維持される運転領域を表す。実線は、EV通常モードとエンジン併用モード(パラレルモード,シリーズモード)との境界を意味し、破線は、EV優先モードエンジン併用モード(パラレルモード,シリーズモード)との境界を意味する。ここで、実線よりも左下側の領域は、破線よりも左下側の領域の中に包含されている。つまり、EV優先モード時には、EV通常モード時よりもエンジン2が併用されにくく、エンジン2が停止したままになる可能性が高い。そこで、車両1の走行モードがEV優先モードである場合には、第二演算の演算頻度を低下させ、あるいは第二演算を早期に終了させて、電力や演算能力の浪費を抑制する。
【0027】
また、演算装置10は、フィルタ上流温度TUPと第一推定温度T1,T3との偏差が小さいほど、第二演算の演算頻度または演算時間を減少させるようになっている。これは、エンジン2が停止した時点でのフィルタ上流温度TUPと第一推定温度T1,T3との偏差が小さければ、第二推定温度T2,T4とフィルタ上流温度TUPとがほぼ同一値になるまでの期間が短くなるからである。これにより、電力や演算能力が温存されやすくなり、省エネ性能が向上する。
【0028】
触媒温度の推定に係る第一演算は、以下の式1に基づいて実行される。式1中の添え字(n)は繰り返し実行される演算の今回値を表し、添え字(n-1)は前回値を表す。また、式1中のAは温度補正値であり、空燃比センサ12で検出された空気過剰率λに応じて設定される。式1中のBは走行風補正値であり、エアフローセンサ13の検出値に由来する流量Fと車速センサ14の検出値に由来する車速Vとに基づいて設定される。本実施例では、流量Fに応じて設定される第一補正係数B1と車速Vに応じて設定される第二補正係数B2との積が走行風補正値Bとして設定される。第一補正係数B1や第二補正係数B2については後述する。第一推定温度T1の今回値T1(n)は、フィルタ上流温度TUPの前回値TUP(n-1)と空燃比補正値Aの前回値A(n-1)(換言すれば、空気過剰率λの前回値λ(n-1)から設定される空燃比補正値A)との和から、走行風補正値Bの前回値B(n-1)(換言すれば、車速Vの前回値から設定される走行風補正値B)を減じた値として算出される。
【0029】
【数1】
ここで、空気過剰率λと空燃比補正値Aとの関係を図3に例示する。空燃比補正値Aは、空気過剰率λが1のとき(測定空燃比が理論空燃比に一致しているとき)に最大値をとる。また、空気過剰率が1から離れるに連れて、空燃比補正値Aの値が小さく設定される。なお、エンジン2が停止したときには、空燃比補正値Aが0になるような特性を設定しておくことが好ましい。
【0030】
触媒温度の推定に係る第二演算は、以下の式2に基づいて実行される。式2中のB’はエンジン停止時の走行風補正値であり、時間経過とともに変化する温度低下割合と車速センサ14の検出値に由来する車速Vとに基づいて設定される。第二推定温度T2の今回値T2(n)は、エンジン2が停止したときの触媒温度T1(m)(m:エンジン2が停止したタイミング)からエンジン停止時の走行風補正値B’の前回値B’(n-1)(換言すれば、車速Vの前回値から設定される走行風補正値B’)を減じた値として算出される。本実施例では、時間経過に応じて設定される第三補正係数B3と車速Vに応じて設定される第二補正係数B2との積がエンジン停止時走行風補正値B’として設定される。
【0031】
【数2】
ここで、流量Fと第一補正係数B1との関係を図4(A)に例示し、車速Vと第二補正係数B2との関係を図4(B)に例示し、時間tと第三補正係数B3との関係を図4(C)に例示する。第一補正係数B1は、流量Fが大きいほど減少する特性を持ち、第二補正係数B2は、車速Vが大きいほど増大する特性を持つ。第三補正係数B3は、時間tが経過するほど減少する特性を持つ。なお、図4(A),(B),(C)に示す特性のグラフ形状は、エンジン2の特性,排気系の特性,エンジン2及び排気系の位置,エンジン2及び排気系の放熱性等に応じて変化しうる。なお、第二演算を簡略化したい場合には、走行風補正値B’による補正を省略してもよい。
【0032】
エキマニ温度の推定に係る第一演算は、以下の式3に基づいて実行される。式3中のDは走行風補正値である。第一推定温度T3の今回値T3(n)は、フィルタ上流温度TUPの前回値TUP(n-1)から走行風補正値Dの前回値D(n-1)(換言すれば、車速Vの前回値V(n-1)から設定される走行風補正値D)を減算することで算出される。
【0033】
【数3】
走行風補正値Dは、流量Fに応じて設定される第一補正係数D1と車速Vに応じて設定される第二補正係数D2との積として設定される。第一補正係数D1の値は、流量Fが大きいほど減少し、第二補正係数D2の値は、車速Vが大きいほど増大する特性を持つ。ただし、同一の車速Vに対する第一補正係数B1及び第一補正係数D1の値は相違しうるものであり、同一の車速Vに対する第二補正係数B2及び第二補正係数D2の値も相違しうる。第一補正係数D1は、流量Fが大きいほど減少する特性を持ち、第二補正係数D2は、車速Vが大きいほど増大する特性を持つ。
【0034】
エキマニ温度の推定に係る第二演算は、以下の式4に基づいて実行される。第二推定温度T4の今回値T4(n)は、エンジン2が停止したときのエキマニ温度T3(m)(m:エンジン2が停止したタイミング)からエンジン停止時走行風補正値D’(D’は時間経過に応じて設定される第三補正係数D3及び第一補正係数D1の積)の前回値D’(n-1)(換言すれば、車速Vの前回値V(n-1)から設定される走行風補正値D’)を減じた値として算出される。なお、第三補正係数D3は、時間tが経過するほど減少する特性を持つ。
【0035】
【数4】
【0036】
また、演算装置10は、エンジン2が停止している場合に、エンジン2を再始動させるための条件が成立する前にヒータ15をPWM制御して空燃比センサ12を暖機させる機能を持つ。例えば、エンジン2の停止中にバッテリ7のSOCが徐々に低下し、エンジン2を再始動させるための所定充電率(下限SOC)に近づいたとする。演算装置10は、バッテリ7のSOCと所定充電率との差を算出し、この差が所定充電率差未満になった場合に、所定のデューティ比でヒータ15に通電し、空燃比センサ12のセンサー素子を加熱する。
【0037】
このとき、エンジン2が停止してからの経過時間が所定時間未満である場合には、空燃比センサ12が被水している可能性が低い。そのため、経過時間が所定時間以上である場合と比較して、加熱のためのデューティ比を増加させる。これにより、センサー素子の破損のリスクがない状態で、センサー素子の温度を早期に活性温度範囲へと到達させることが可能となる。なお、このようなヒータ15の制御機能は、ヒータ15自体に制御手段(例えば、プロセッサ及びメモリ)を内蔵させることで実現してもよい。
【0038】
[3.作用]
[A.触媒温度の推定]
図5は、フィルタ上流温度TUP(検出値)及び触媒温度(推定値)の経時変動を示すグラフである。時刻t1以前はエンジン2が作動中であり、車両1の走行モードは例えばパラレルモードやシリーズモードである。このとき、フィルタ上流温度TUPは徐々に上昇している。演算装置10では、触媒温度の推定に係る第一演算が実行され、式1に基づいて第一推定温度T1が推定される。第一推定温度T1はフィルタ上流温度TUPよりも高い温度として推定されている。
【0039】
時刻t1には、エンジン2が停止する。エンジン2は、所定の停止条件が成立することで(例えば、SOCが十分に上昇したことや車速Vが所定速度以下まで低下したことで)、あるいは、乗員が車両1の主電源を切断することで停止する。このとき、演算装置10では、第一演算が第二演算に切り替えられ、式2に基づいて第二推定温度T2が推定される。また、演算装置10は、エンジン2が停止した際に、エンジン2を再始動させるための条件の厳しさの度合いを判断する。
【0040】
例えば、時刻t1(あるいはその前後)におけるバッテリ7のSOCが所定SOC以上であるか否かを判定し、所定SOC以上であれば「エンジン2を再始動させるための条件が厳しい(すなわち、エンジン2の再始動が必要になる可能性が低い状況である)」と判断する。一方、バッテリ7のSOCが所定SOC未満であれば「エンジン2を再始動させるための条件が緩い(すなわち、エンジン2の再始動が必要になる可能性が高い状況である)」と判断する。
【0041】
あるいは、時刻t1以後の車両1の走行モードがEV優先モードであるか、それともEV通常モードであるかを判定し、EV優先モードであれば「エンジン2を再始動させるための条件が厳しい(すなわち、エンジン2の再始動が必要になる可能性が低い状況である)」と判断する。一方、車両1の走行モードがEV通常モードであれば「エンジン2を再始動させるための条件が緩い(すなわち、エンジン2の再始動が必要になる可能性が高い状況である)」と判断する。
【0042】
エンジン2を再始動させるための条件が厳しい場合、演算装置10は、第二演算の演算頻度や演算時間を減少させ、電力や演算能力の浪費を抑制する。一方、エンジン2を再始動させるための条件が緩い場合には、そうでない場合と比較して、第二演算の演算頻度や演算時間を増加させ、温度推定精度を確保する。また、演算装置10は、フィルタ上流温度TUPと第一推定温度T1との偏差が小さいほど、第二演算の演算頻度または演算時間を減少させる。
【0043】
時刻t1以後のフィルタ上流温度TUPは、徐々に低下する。また、第二演算で算出される第二推定温度T2は、フィルタ上流温度TUPに漸近するように変化する。第二演算は、エンジン2の停止時を基準として、上記の演算時間が経過するか、第二推定温度T2とフィルタ上流温度TUPとの差が所定値以下になるまで継続される。第二演算が終了する時刻t2以後は、フィルタ上流温度TUPの検出のみが継続され、第二推定温度T2がフィルタ上流温度TUPと同一値であるとみなされる。
【0044】
その後、エンジン2を再始動させるための条件が成立する直前である時刻t4には、空燃比センサ12を暖機させるPWM制御が開始され、所定のデューティ比でヒータ15が通電される。PWM制御が開始されるタイミングは、例えばバッテリ7のSOCと所定充電率(下限SOC)との差が所定充電率差未満になったタイミングとされる。あるいは、停車中の車両1に乗員が乗り込んできたタイミングで、PWM制御を開始してもよい。少なくともエンジン2を再始動させる前に空燃比センサ12を暖機させることで、空燃比センサ12の検出精度が向上し、延いてはエンジン2の始動直後における第一演算の精度が高まる。
【0045】
なお、時刻t1から時刻t4までの経過時間が所定時間未満である場合には、エンジン2が停止してからあまり時間が経過しておらず、空燃比センサ12の素子が排気ガスの凝縮水によって濡れた(被水した)状態になっている可能性が小さい。したがって、経過時間が所定時間以上である場合と比較して、ヒータ15に通電される電流のデューティ比が大きな値に設定される。これにより、センサー素子の破損のリスクがない状態で、センサー素子の温度を早期に活性温度範囲へと到達させることが可能となる。また、時刻t5にエンジン2を再始動させるための条件が成立し、エンジン2が始動する。これ以後、フィルタ上流温度TUPは徐々に上昇する。演算装置10では、触媒温度の推定に係る第一演算が実行され、式1に基づいて第一推定温度T1が推定される。
【0046】
[B.エキマニ温度の推定]
図6は、フィルタ上流温度TUP(検出値)及びエキマニ温度(推定値)の経時変動を示すグラフである。エンジン2が作動中である時刻t1以前には、演算装置10において、エキマニ温度の推定に係る第一演算が実行され、式3に基づいて第一推定温度T3が推定される。第一推定温度T3はフィルタ上流温度TUPよりも低い温度として推定されている。一方、エンジン2が停止した時刻t1には、第一演算が第二演算に切り替えられ、式4に基づいて第二推定温度T4が推定される。また、演算装置10は、エンジン2が停止した際に、エンジン2を再始動させるための条件の厳しさの度合いを判断する。
【0047】
エンジン2を再始動させるための条件が厳しい場合、演算装置10は、第二演算の演算頻度や演算時間を減少させ、電力や演算能力の浪費を抑制する。一方、エンジン2を再始動させるための条件が緩い場合には、そうでない場合と比較して、第二演算の演算頻度や演算時間を増加させ、温度推定精度を確保する。また、演算装置10は、フィルタ上流温度TUPと第一推定温度T3との偏差が小さいほど、第二演算の演算頻度または演算時間を減少させる。
【0048】
第二演算で算出される第二推定温度T4は、フィルタ上流温度TUPに漸近するように変化する。第二演算は、エンジン2の停止時を基準として、上記の演算時間が経過するか、第二推定温度T4とフィルタ上流温度TUPとの差が所定値以下になるまで継続される。第二演算が終了する時刻t3以後は、フィルタ上流温度TUPの検出のみが継続され、第二推定温度T4がフィルタ上流温度TUPと同一値であるとみなされる。なお、エキマニ温度の第二演算が終了する時刻t3は、触媒温度の第二演算が終了する時刻t2とは必ずしも一致しない。また、時刻t4に空燃比センサ12を暖機させるPWM制御が開始され、ヒータ15に通電される電流のデューティ比が制御される。また、時刻t5にエンジン2が再始動し、フィルタ上流温度TUPは徐々に上昇する。演算装置10では、エキマニ温度の推定に係る第一演算が実行され、式3に基づいて第一推定温度T3が推定される。
【0049】
[4.効果]
(1)上記の実施例には、温度センサ11(温度検出手段)と空燃比センサ12(状態検知手段)と演算装置10(演算手段)とが設けられる。演算装置10は、エンジン2が停止した際に、エンジン2を再始動させるための条件が厳しいほど、第二演算の演算頻度または演算時間を減少させている。一方、エンジン2を再始動させるための条件が緩いほど、第二演算の演算頻度または演算時間を増加させている。このような構成により、排気系温度の推定精度を保ちつつ省エネ性能を改善できる。
【0050】
例えば、エンジン2の停止中には、エンジン2の燃焼温度や触媒温度を制御する必要がないため、第二演算を実行することで電力や演算能力が浪費されうる。特に、エンジン2が長時間にわたって停止したままであると推測される状況では、排気系温度はその周囲の環境温度に応じた温度に収束するため、第二演算自体が無駄になってしまうことがある。一方、第二演算の演算頻度や演算時間を「エンジン2が再始動する可能性の大小」に応じて設定することで、無駄な演算を防止しつつ第二推定温度T2,T4を算出することができる。これにより、エンジン2が再始動した直後の排気系温度を精度よく把握できるようになり、エンジン2や触媒5の制御性を向上させることができる。
【0051】
(2)上記の実施例に係る演算装置10は、エンジン2が停止した際に温度センサ11で検出されたフィルタ上流温度TUPと第一推定温度T1,T3との偏差が小さいほど、第二演算の演算頻度または演算時間を減少させている。このような構成により、電力や演算能力を温存することができ、省エネ性能を向上させることができる。反対に、フィルタ上流温度TUPと第一推定温度T1,T3との偏差が大きい場合には、第二演算の演算頻度または演算時間を増加させることで、第一推定温度T1,T3の推定精度を向上させることができる。
【0052】
(3)上記の実施例に係る演算装置10は、最長で第二推定温度T2,T4と温度センサ11で検出されたフィルタ上流温度TUPとが等しくなるまで第二演算を実行している。このような構成により、第二推定温度T2,T4がフィルタ上流温度TUPに収束した後の無用な第二演算を防止して省エネ性能を改善できる。特に、車両1の停車時におけるバッテリ7の消費電力(待機電力)を小さくすることができる。
【0053】
(4)上記の実施例に係る演算装置10は、第二演算において、フィルタ上流温度TUPを車速Vに応じたパラメータである走行風補正値Bで補正することで第二推定温度T2,T4を演算している。このような構成により、走行風による排気系温度の低下を考慮して精度のよい第二推定温度T2,T4を演算することができる。したがって、第二推定温度T2,T4の推定精度を向上させることができる。
【0054】
(5)上記の実施例に係る演算装置10は、EV通常モードとEV優先モードとを備えた車両1に適用されている。この演算装置10は、エンジン2が停止した際にEV優先モードが選択されていた場合には、EV通常モードが選択されていた場合と比較して、第二演算の演算頻度または演算時間を減少させている。このように、エンジン2を再始動させるための条件が厳しく設定されるEV優先モードにおいて、第二演算の演算頻度や演算時間を減少させることで、電力や演算能力の浪費を抑制でき、省エネ性能を改善できる。一方、エンジン2を再始動させるための条件が比較的緩いEV通常モードにおいて、第二演算の演算頻度や演算時間を増加させることで、エンジン2が再始動した直後の温度推定精度を確保できる。
【0055】
(6)上記の実施例に係る演算装置10は、エンジン2が停止した際におけるバッテリ7のSOCが高いほど、第二演算の演算頻度または演算時間を減少させている。このように、エンジン2が再始動する可能性が低いバッテリ状況において、第二演算の演算頻度や演算時間を減少させることで、電力や演算能力の浪費を抑制でき、省エネ性能を改善できる。一方、エンジン2が再始動する可能性が高いバッテリ状況において、第二演算の演算頻度や演算時間を増加させることで、エンジン2が再始動した直後の温度推定精度を確保できる。
【0056】
(7)上記の実施例には、エンジン2が停止している場合に、エンジン2を再始動させるための条件が成立する前に空燃比センサ12を加熱するヒータ15(暖機手段)が設けられる。このような構成により、空燃比センサ12に内蔵されるセンサー素子を素早く昇温させることができ、エンジン2の始動直後における第一推定温度T1,T3の推定精度を向上させることができる。
【0057】
(8)上記の実施例に係るヒータ15は、バッテリ7のSOCがエンジン2を再始動させるべき所定充電率(下限SOC)に近づいた場合に空燃比センサ12の加熱を開始する。このような構成により、エンジン2の再始動後に実行される第一演算で使用されるフィルタ上流温度TUPの検出精度を向上させることができ、第一推定温度T1,T3の推定精度を向上させることができる。
【0058】
(9)上記の実施例に係るヒータ15は、エンジン2が停止してからの経過時間が所定時間以上である場合と比較して、経過時間が所定時間未満である場合に、空燃比センサ12の加熱のためのデューティ比を増加させている。エンジン2が停止してからの経過時間が所定時間未満である場合には、空燃比センサ12が被水している可能性が低く、デューティ比を増加させたとしても、温度の急変による破損(被水割れ)のリスクがほとんどない。したがって、センサー素子の破損のリスクがない状態で、センサー素子の温度を早期に活性温度範囲へと到達させることができる。
【0059】
[5.変形例]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0060】
上記の実施例では、車両1に適用された排気系温度推定装置を例示したが、本件の適用対象は車両1に限定されない。少なくともエンジン2が停止しているときに排気系温度が推定されるシステムであれば、上記の実施例と同様の制御を適用可能である。具体的には、エンジン2が搭載された船舶,プラント,発電施設等が本件の適用対象となりうる。これらの適用対象においても、エンジン2が停止した際に、エンジン2を再始動させるための条件が厳しいほど第二演算の演算頻度または演算時間を減少させることで、電力や演算能力の浪費が抑制される。したがって、上記の実施例と同様に、排気系温度の推定精度を保ちつつ省エネ性能を改善できる。
【0061】
上記の実施例では、エンジン2の燃焼状態を表すパラメータとして空気過剰率λを検知する状態検知手段(空燃比センサ12)を例示したが、同様の機能を有するセンサとして酸素濃度センサや二酸化炭素濃度センサ等を用いることも可能である。また、上記の実施例では、触媒5とフィルタ6とを接続する排気流路に介装された温度検出手段(温度センサ11)を例示したが、温度センサ11の設置箇所は触媒5よりも上流側に設定してもよいし、フィルタ6よりも下流側に設定してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 車両
2 エンジン
3 モータ
4 エキマニ
5 触媒
6 フィルタ
7 バッテリ
10 演算装置(演算手段)
11 温度センサ(温度検出手段)
12 空燃比センサ(状態検知手段)
13 エアフローセンサ
14 車速センサ
15 ヒータ(暖機手段)
1 第一推定温度
2 第二推定温度
3 第一推定温度
4 第二推定温度
UP フィルタ上流温度
λ 空気過剰率
F 流量
V 車速
SOC 充電率
A 空燃比補正値
B 走行風補正値
1 第一補正係数
2 第二補正係数
3 第三補正係数
C 温度補正値
D 走行風補正値
1 第一補正係数
2 第二補正係数
3 第三補正係数
図1
図2
図3
図4
図5
図6