(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181906
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】射出成形機、および射出成形機の制御装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/78 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
B29C45/78
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095290
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】常石 健悟
(72)【発明者】
【氏名】丸本 洋嗣
(72)【発明者】
【氏名】堀田 大吾
(72)【発明者】
【氏名】大野 大
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM09
4F206AP05
4F206AP10
4F206AR06
4F206AR11
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL09
4F206JP14
4F206JP15
4F206JP17
4F206JP30
4F206JQ88
4F206JQ90
(57)【要約】
【課題】可塑化部材の動作を規制するための冷間起動防止期間を簡単かつ適切に調整することができる技術を提供する。
【解決手段】射出成形機は、金型に射出する成形材料を保持するシリンダと、前記シリンダ内に移動可能かつ回転可能に設けられる可塑化部材と、前記シリンダまたは前記金型の温度を検出する温度検出器と、前記温度検出器が検出した温度に基づき、前記成形材料の温度または前記金型の温度が昇温するまでの間、前記金型への前記成形材料の射出を規制する期間である冷間起動防止期間を設定するように構成された期間設定部と、を備える。前記期間設定部は、前記温度検出器が検出した前記温度を時間に紐づけた温度時間データを記憶し、記憶されている前記温度時間データの温度実績に基づいて、前記冷間起動防止期間を調整する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型に射出する成形材料を保持するシリンダと、
前記シリンダ内に移動可能かつ回転可能に設けられる可塑化部材と、
前記シリンダまたは前記金型の温度を検出する温度検出器と、
前記成形材料の温度または前記金型の温度が昇温するまでの間、前記可塑化部材の動作を規制する期間である冷間起動防止期間を設定するように構成された期間設定部と、を備え、
前記期間設定部は、
前記温度検出器が検出した前記温度を時間に紐づけた温度時間データを記憶し、
記憶されている前記温度時間データの温度実績に基づいて、前記冷間起動防止期間を設定する、
射出成形機。
【請求項2】
前記期間設定部は、所定時間前の前記温度実績と、現在の前記シリンダまたは前記金型の温度を調整する温調機構の設定温度とを比較する、
請求項1に記載の射出成形機。
【請求項3】
前記期間設定部は、
前記冷間起動防止期間として、第1期間と、前記第1期間よりも短い第2期間と、を予め保有しており、
現在の前記温調機構の設定温度から所定時間前の前記温度実績を減算した温度差が、所定の温度閾値以上の場合に前記第1期間を設定し、前記所定の温度閾値未満の場合に前記第2期間を設定する、
請求項2に記載の射出成形機。
【請求項4】
前記期間設定部は、現在の前記温調機構の設定温度から所定時間前の前記温度実績を減算した温度差が許容範囲内である場合に、前記冷間起動防止期間としてゼロを設定する、
請求項2または3に記載の射出成形機。
【請求項5】
前記期間設定部は、所定時間前の前記温度実績がない場合に、前記温度実績がない期間の前後の前記温度実績に基づき温度変化を補間する、
請求項2または3のいずれか1項に記載の射出成形機。
【請求項6】
前記期間設定部は、トリガ条件の成立に基づき、前記冷間起動防止期間を調整し、
前記トリガ条件は、前記温調機構のオフ状態からオン状態への切り替えた場合を含む、
請求項2または3に記載の射出成形機。
【請求項7】
前記トリガ条件は、前記温調機構の設定温度が変更されて、かつ当該温調機構がオン状態となっている場合を含む、
請求項6に記載の射出成形機。
【請求項8】
前記シリンダは、前記成形材料を加熱するシリンダ本体と、前記シリンダ本体で加熱された前記成形材料を前方の前記金型に射出するノズルと、を有し、
前記温度検出器は、前記シリンダ本体の前端部に設けられる、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の射出成形機。
【請求項9】
前記期間設定部による前記冷間起動防止期間を設定変更する情報または入力範囲を制限する情報をユーザに報知するように構成された報知制御部を有する、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の射出成形機。
【請求項10】
金型に射出する成形材料を保持するシリンダまたは前記金型の温度を温度検出器により検出して、前記温度検出器が検出した温度に基づき前記シリンダまたは前記金型の温度を温調機構により調整させる射出成形機の制御装置であって、
前記成形材料の温度または前記金型の温度が昇温するまでの間、前記シリンダ内に移動かつ回転可能に設けられる可塑化部材の動作を規制する期間である冷間起動防止期間を設定するように構成された期間設定部を備え、
前記期間設定部は、
前記温度検出器が検出した前記温度を時間に紐づけた温度時間データを記憶し、
記憶されている前記温度時間データの温度実績に基づいて、前記冷間起動防止期間を設定する、
射出成形機の制御装置。
【請求項11】
前記期間設定部による前記冷間起動防止期間を設定変更する情報または入力範囲を制限する情報をユーザに報知するように構成された報知制御部を有する、
請求項10に記載の射出成形機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、射出成形機、および射出成形機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、シリンダに複数の温度検出器を備え、各温度検出器が検出する温度に基づきシリンダを昇温している。ただし、射出成形機の起動時には、温度がヒータの設定温度になったとしても、シリンダ内の成形材料の温度が設定温度に到達していない。成形材料の温度が充分に昇温していない状態でスクリュ等を動かすと、スクリュ等の可塑化部材に過度な負荷を与えて破損等が生じる可能性がある。また、温度が充分に昇温していない状態で射出成形機から金型に成形材料を射出すると、金型は、当該金型が齧る、成形品が離型しない、バリが発生する等の充填状態の不良となる可能性がある。特に、射出成形機が熱硬化成形(反応成形)を行う場合は、成形材料が正常に固化しない、成形品に必要な機能性能が得られない等の不都合が生じる。
【0003】
このため、射出成形機は、成形材料の温度が充分に上がるまで待機する期間(冷間起動防止期間)を設定しており、この冷間起動防止期間の間は可塑化部材の動作を規制するインターロックを行っている。
【0004】
ところで、停電や操作ミス等により射出成形機の運転を一時的に停止した後、直ぐに再運転する等の状況では、成形材料や金型の温度が高く、部品破損のリスクが低い場合がある。この場合でも、初期に設定された冷間起動防止期間にわたって装置の動作を待機していると、再運転に時間がかかることになる。このため、特許文献1には、射出成形機の運転停止後の一定時間以内であれば、樹脂の種別、および成形停止後から再起動までの停止時間に基づき、射出成形機の動作を可能にする射出成形機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように、樹脂の種別に応じた制御は、樹脂特性に合わせた複雑な計算プログラムを用意しなければならず、また計算プログラムを実施するための特殊な電装部品が必要となる。さらに、射出成形機の動作前には樹脂情報(例えば、せん断力、粘度、pvT特性等)の入力等が要求されることで、オペレータの負荷が増えることになる。特に、射出成形機によっては、樹脂を変更する度に樹脂情報の入力をオペレータに要求することで、オペレータに多大な負荷がかけていた。
【0007】
本発明は、可塑化部材の動作を規制するための冷間起動防止期間を簡単かつ適切に調整することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る射出成形機は、金型に射出する成形材料を保持するシリンダと、前記シリンダ内に移動可能かつ回転可能に設けられる可塑化部材と、前記シリンダまたは前記金型の温度を検出する温度検出器と、前記成形材料の温度または前記金型の温度が昇温するまでの間、前記可塑化部材の動作を規制する期間である冷間起動防止期間を設定するように構成された期間設定部と、を備え、前記期間設定部は、前記温度検出器が検出した前記温度を時間に紐づけた温度時間データを記憶し、記憶されている前記温度時間データの温度実績に基づいて、前記冷間起動防止期間を設定する。
【0009】
また、本発明の他の態様は、金型に射出する成形材料を保持するシリンダまたは前記金型の温度を温度検出器により検出して、前記温度検出器が検出した温度に基づき前記シリンダまたは前記金型の温度を温調機構により調整させる射出成形機の制御装置であって、前記成形材料の温度または前記金型の温度が昇温するまでの間、前記シリンダ内に移動可能かつ回転可能に設けられる可塑化部材の動作を規制する期間である冷間起動防止期間を設定するように構成された期間設定部を備え、前記期間設定部は、前記温度検出器が検出した前記温度を時間に紐づけた温度時間データを記憶し、記憶されている過去の前記温度時間データの温度実績に基づいて、前記冷間起動防止期間を調整する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る射出成形機、および射出成形機の制御装置は、可塑化部材の動作を規制するための冷間起動防止期間を簡単かつ適切に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る射出成形機の型開完了時の状態を示す図である。
【
図2】一実施形態に係る射出成形機の型締時の状態を示す図である。
【
図3】制御装置の構成要素の一例を機能ブロックで示す図である。
【
図5】記憶媒体に記憶される温度時間データの一例を示す図である。
【
図6】冷間起動防止期間を設定する処理フローを示すフローチャートである。
【
図7】ヒータ選択制御におけるトリガ条件のディシジョンテーブルを示す図表である。
【
図8】温度時間データの補間を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0013】
(射出成形機)
図1は、一実施形態に係る射出成形機の型開完了時の状態を示す図である。
図2は、一実施形態に係る射出成形機の型締時の状態を示す図である。本明細書において、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向は互いに垂直な方向である。X軸方向およびY軸方向は水平方向を表し、Z軸方向は鉛直方向を表す。型締装置100が横型である場合、X軸方向は型開閉方向であり、Y軸方向は射出成形機10の幅方向である。Y軸方向負側を操作側と呼び、Y軸方向正側を反操作側と呼ぶ。
【0014】
図1~
図2に示すように、射出成形機10は、金型装置800を開閉する型締装置100と、金型装置800で成形された成形品を突き出すエジェクタ装置200と、金型装置800に成形材料を射出する射出装置300と、金型装置800に対し射出装置300を進退させる移動装置400と、射出成形機10の各構成要素を制御する制御装置700と、射出成形機10の各構成要素を支持するフレーム900とを有する。フレーム900は、型締装置100を支持する型締装置フレーム910と、射出装置300を支持する射出装置フレーム920とを含む。型締装置フレーム910および射出装置フレーム920は、それぞれ、レベリングアジャスタ930を介して床2に設置される。射出装置フレーム920の内部空間に、制御装置700が配置される。以下、射出成形機10の各構成要素について説明する。
【0015】
(型締装置)
型締装置100の説明では、型閉時の可動プラテン120の移動方向(例えばX軸正方向)を前方とし、型開時の可動プラテン120の移動方向(例えばX軸負方向)を後方として説明する。
【0016】
型締装置100は、金型装置800の型閉、昇圧、型締、脱圧および型開を行う。金型装置800は、固定金型810と可動金型820とを含む。
【0017】
型締装置100は例えば横型であって、型開閉方向が水平方向である。型締装置100は、固定金型810が取付けられる固定プラテン110と、可動金型820が取付けられる可動プラテン120と、固定プラテン110に対し可動プラテン120を型開閉方向に移動させる移動機構102と、を有する。
【0018】
固定プラテン110は、型締装置フレーム910に対し固定される。固定プラテン110における可動プラテン120との対向面に固定金型810が取付けられる。
【0019】
可動プラテン120は、型締装置フレーム910に対し型開閉方向に移動自在に配置される。型締装置フレーム910上には、可動プラテン120を案内するガイド101が敷設される。可動プラテン120における固定プラテン110との対向面に可動金型820が取付けられる。
【0020】
移動機構102は、固定プラテン110に対し可動プラテン120を進退させることにより、金型装置800の型閉、昇圧、型締、脱圧、および型開を行う。移動機構102は、固定プラテン110と間隔をおいて配置されるトグルサポート130と、固定プラテン110とトグルサポート130を連結するタイバー140と、トグルサポート130に対して可動プラテン120を型開閉方向に移動させるトグル機構150と、トグル機構150を作動させる型締モータ160と、型締モータ160の回転運動を直線運動に変換する運動変換機構170と、固定プラテン110とトグルサポート130の間隔を調整する型厚調整機構180と、を有する。
【0021】
トグルサポート130は、固定プラテン110と間隔をおいて配設され、型締装置フレーム910上に型開閉方向に移動自在に載置される。尚、トグルサポート130は、型締装置フレーム910上に敷設されるガイドに沿って移動自在に配置されてもよい。トグルサポート130のガイドは、可動プラテン120のガイド101と共通のものでもよい。
【0022】
尚、本実施形態では、固定プラテン110が型締装置フレーム910に対し固定され、トグルサポート130が型締装置フレーム910に対し型開閉方向に移動自在に配置されるが、トグルサポート130が型締装置フレーム910に対し固定され、固定プラテン110が型締装置フレーム910に対し型開閉方向に移動自在に配置されてもよい。
【0023】
タイバー140は、固定プラテン110とトグルサポート130とを型開閉方向に間隔Lをおいて連結する。タイバー140は、複数本(例えば4本)用いられてよい。複数本のタイバー140は、型開閉方向に平行に配置され、型締力に応じて伸びる。少なくとも1本のタイバー140には、タイバー140の歪を検出するタイバー歪検出器141が設けられてよい。タイバー歪検出器141は、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。タイバー歪検出器141の検出結果は、型締力の検出などに用いられる。
【0024】
尚、本実施形態では、型締力を検出する型締力検出器として、タイバー歪検出器141が用いられるが、本発明はこれに限定されない。型締力検出器は、歪ゲージ式に限定されず、圧電式、容量式、油圧式、電磁式などでもよく、その取付け位置もタイバー140に限定されない。
【0025】
トグル機構150は、可動プラテン120とトグルサポート130との間に配置され、トグルサポート130に対し可動プラテン120を型開閉方向に移動させる。トグル機構150は、型開閉方向に移動するクロスヘッド151と、クロスヘッド151の移動によって屈伸する一対のリンク群と、を有する。一対のリンク群は、それぞれ、ピンなどで屈伸自在に連結される第1リンク152と第2リンク153とを有する。第1リンク152は可動プラテン120に対しピンなどで揺動自在に取付けられる。第2リンク153はトグルサポート130に対しピンなどで揺動自在に取付けられる。第2リンク153は、第3リンク154を介してクロスヘッド151に取付けられる。トグルサポート130に対しクロスヘッド151を進退させると、第1リンク152と第2リンク153とが屈伸し、トグルサポート130に対し可動プラテン120が進退する。
【0026】
尚、トグル機構150の構成は、
図1および
図2に示す構成に限定されない。例えば
図1および
図2では、各リンク群の節点の数が5つであるが、4つでもよく、第3リンク154の一端部が、第1リンク152と第2リンク153との節点に結合されてもよい。
【0027】
型締モータ160は、トグルサポート130に取付けられており、トグル機構150を作動させる。型締モータ160は、トグルサポート130に対しクロスヘッド151を進退させることにより、第1リンク152と第2リンク153とを屈伸させ、トグルサポート130に対し可動プラテン120を進退させる。型締モータ160は、運動変換機構170に直結されるが、ベルトやプーリなどを介して運動変換機構170に連結されてもよい。
【0028】
運動変換機構170は、型締モータ160の回転運動をクロスヘッド151の直線運動に変換する。運動変換機構170は、ねじ軸と、ねじ軸に螺合するねじナットとを含む。ねじ軸と、ねじナットとの間には、ボールまたはローラが介在してよい。
【0029】
型締装置100は、制御装置700による制御下で、型閉工程、昇圧工程、型締工程、脱圧工程、および型開工程などを行う。
【0030】
型閉工程では、型締モータ160を駆動してクロスヘッド151を設定移動速度で型閉完了位置まで前進させることにより、可動プラテン120を前進させ、可動金型820を固定金型810にタッチさせる。クロスヘッド151の位置や移動速度は、例えば型締モータエンコーダ161などを用いて検出する。型締モータエンコーダ161は、型締モータ160の回転を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。
【0031】
尚、クロスヘッド151の位置を検出するクロスヘッド位置検出器、およびクロスヘッド151の移動速度を検出するクロスヘッド移動速度検出器は、型締モータエンコーダ161に限定されず、一般的なものを使用できる。また、可動プラテン120の位置を検出する可動プラテン位置検出器、および可動プラテン120の移動速度を検出する可動プラテン移動速度検出器は、型締モータエンコーダ161に限定されず、一般的なものを使用できる。
【0032】
昇圧工程では、型締モータ160をさらに駆動してクロスヘッド151を型閉完了位置から型締位置までさらに前進させることで型締力を生じさせる。
【0033】
型締工程では、型締モータ160を駆動して、クロスヘッド151の位置を型締位置に維持する。型締工程では、昇圧工程で発生させた型締力が維持される。型締工程では、可動金型820と固定金型810との間にキャビティ空間801(
図2参照)が形成され、射出装置300がキャビティ空間801に液状の成形材料を充填する。充填された成形材料が固化されることで、成形品が得られる。
【0034】
キャビティ空間801の数は、1つでもよいし、複数でもよい。後者の場合、複数の成形品が同時に得られる。キャビティ空間801の一部にインサート材が配置され、キャビティ空間801の他の一部に成形材料が充填されてもよい。インサート材と成形材料とが一体化した成形品が得られる。
【0035】
脱圧工程では、型締モータ160を駆動してクロスヘッド151を型締位置から型開開始位置まで後退させることにより、可動プラテン120を後退させ、型締力を減少させる。型開開始位置と、型閉完了位置とは、同じ位置であってよい。
【0036】
型開工程では、型締モータ160を駆動してクロスヘッド151を設定移動速度で型開開始位置から型開完了位置まで後退させることにより、可動プラテン120を後退させ、可動金型820を固定金型810から離間させる。その後、エジェクタ装置200が可動金型820から成形品を突き出す。
【0037】
型閉工程、昇圧工程および型締工程における設定条件は、一連の設定条件として、まとめて設定される。例えば、型閉工程および昇圧工程におけるクロスヘッド151の移動速度や位置(型閉開始位置、移動速度切換位置、型閉完了位置、および型締位置を含む)、型締力は、一連の設定条件として、まとめて設定される。型閉開始位置、移動速度切換位置、型閉完了位置、および型締位置は、後側から前方に向けてこの順で並び、移動速度が設定される区間の始点や終点を表す。区間毎に、移動速度が設定される。移動速度切換位置は、1つでもよいし、複数でもよい。移動速度切換位置は、設定されなくてもよい。型締位置と型締力とは、いずれか一方のみが設定されてもよい。
【0038】
脱圧工程および型開工程における設定条件も同様に設定される。例えば、脱圧工程および型開工程におけるクロスヘッド151の移動速度や位置(型開開始位置、移動速度切換位置、および型開完了位置)は、一連の設定条件として、まとめて設定される。型開開始位置、移動速度切換位置、および型開完了位置は、前側から後方に向けて、この順で並び、移動速度が設定される区間の始点や終点を表す。区間毎に、移動速度が設定される。移動速度切換位置は、1つでもよいし、複数でもよい。移動速度切換位置は、設定されなくてもよい。型開開始位置と型閉完了位置とは同じ位置であってよい。また、型開完了位置と型閉開始位置とは同じ位置であってよい。
【0039】
尚、クロスヘッド151の移動速度や位置などの代わりに、可動プラテン120の移動速度や位置などが設定されてもよい。また、クロスヘッドの位置(例えば型締位置)や可動プラテンの位置の代わりに、型締力が設定されてもよい。
【0040】
ところで、トグル機構150は、型締モータ160の駆動力を増幅して可動プラテン120に伝える。その増幅倍率は、トグル倍率とも呼ばれる。トグル倍率は、第1リンク152と第2リンク153とのなす角θ(以下、「リンク角度θ」とも呼ぶ)に応じて変化する。リンク角度θは、クロスヘッド151の位置から求められる。リンク角度θが180°のとき、トグル倍率が最大になる。
【0041】
金型装置800の交換や金型装置800の温度変化などにより金型装置800の厚さが変化した場合、型締時に所定の型締力が得られるように、型厚調整が行われる。型厚調整では、例えば可動金型820が固定金型810にタッチする型タッチの時点でトグル機構150のリンク角度θが所定の角度になるように、固定プラテン110とトグルサポート130との間隔Lを調整する。
【0042】
型締装置100は、型厚調整機構180を有する。型厚調整機構180は、固定プラテン110とトグルサポート130との間隔Lを調整することで、型厚調整を行う。なお、型厚調整のタイミングは、例えば成形サイクル終了から次の成形サイクル開始までの間に行われる。型厚調整機構180は、例えば、タイバー140の後端部に形成されるねじ軸181と、トグルサポート130に回転自在に且つ進退不能に保持されるねじナット182と、ねじ軸181に螺合するねじナット182を回転させる型厚調整モータ183とを有する。
【0043】
ねじ軸181およびねじナット182は、タイバー140ごとに設けられる。型厚調整モータ183の回転駆動力は、回転駆動力伝達部185を介して複数のねじナット182に伝達されてよい。複数のねじナット182を同期して回転できる。尚、回転駆動力伝達部185の伝達経路を変更することで、複数のねじナット182を個別に回転することも可能である。
【0044】
回転駆動力伝達部185は、例えば歯車などで構成される。この場合、各ねじナット182の外周に従動歯車が形成され、型厚調整モータ183の出力軸には駆動歯車が取付けられ、複数の従動歯車および駆動歯車と噛み合う中間歯車がトグルサポート130の中央部に回転自在に保持される。尚、回転駆動力伝達部185は、歯車の代わりに、ベルトやプーリなどで構成されてもよい。
【0045】
型厚調整機構180の動作は、制御装置700によって制御される。制御装置700は、型厚調整モータ183を駆動して、ねじナット182を回転させる。その結果、トグルサポート130のタイバー140に対する位置が調整され、固定プラテン110とトグルサポート130との間隔Lが調整される。尚、複数の型厚調整機構が組み合わせて用いられてもよい。
【0046】
間隔Lは、型厚調整モータエンコーダ184を用いて検出する。型厚調整モータエンコーダ184は、型厚調整モータ183の回転量や回転方向を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。型厚調整モータエンコーダ184の検出結果は、トグルサポート130の位置や間隔Lの監視や制御に用いられる。尚、トグルサポート130の位置を検出するトグルサポート位置検出器、および間隔Lを検出する間隔検出器は、型厚調整モータエンコーダ184に限定されず、一般的なものを使用できる。
【0047】
型締装置100は、金型装置800の温度を調節する金型温調器を有してもよい。金型装置800は、その内部に、温調媒体の流路を有する。金型温調器は、金型装置800の流路に供給する温調媒体の温度を調節することで、金型装置800の温度を調節する。
【0048】
尚、本実施形態の型締装置100は、型開閉方向が水平方向である横型であるが、型開閉方向が上下方向である竪型でもよい。
【0049】
尚、本実施形態の型締装置100は、駆動部として、型締モータ160を有するが、型締モータ160の代わりに、油圧シリンダを有してもよい。また、型締装置100は、型開閉用にリニアモータを有し、型締用に電磁石を有してもよい。
【0050】
(エジェクタ装置)
エジェクタ装置200の説明では、型締装置100の説明と同様に、型閉時の可動プラテン120の移動方向(例えばX軸正方向)を前方とし、型開時の可動プラテン120の移動方向(例えばX軸負方向)を後方として説明する。
【0051】
エジェクタ装置200は、可動プラテン120に取付けられ、可動プラテン120と共に進退する。エジェクタ装置200は、金型装置800から成形品を突き出すエジェクタロッド210と、エジェクタロッド210を可動プラテン120の移動方向(X軸方向)に移動させる駆動機構220とを有する。
【0052】
エジェクタロッド210は、可動プラテン120の貫通穴に進退自在に配置される。エジェクタロッド210の前端部は、可動金型820のエジェクタプレート826と接触する。エジェクタロッド210の前端部は、エジェクタプレート826と連結されていても、連結されていなくてもよい。
【0053】
駆動機構220は、例えば、エジェクタモータと、エジェクタモータの回転運動をエジェクタロッド210の直線運動に変換する運動変換機構とを有する。運動変換機構は、ねじ軸と、ねじ軸に螺合するねじナットとを含む。ねじ軸と、ねじナットとの間には、ボールまたはローラが介在してよい。
【0054】
エジェクタ装置200は、制御装置700による制御下で、突き出し工程を行う。突き出し工程では、エジェクタロッド210を設定移動速度で待機位置から突き出し位置まで前進させることにより、エジェクタプレート826を前進させ、成形品を突き出す。その後、エジェクタモータを駆動してエジェクタロッド210を設定移動速度で後退させ、エジェクタプレート826を元の待機位置まで後退させる。
【0055】
エジェクタロッド210の位置や移動速度は、例えばエジェクタモータエンコーダを用いて検出する。エジェクタモータエンコーダは、エジェクタモータの回転を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。尚、エジェクタロッド210の位置を検出するエジェクタロッド位置検出器、およびエジェクタロッド210の移動速度を検出するエジェクタロッド移動速度検出器は、エジェクタモータエンコーダに限定されず、一般的なものを使用できる。
【0056】
(射出装置)
射出装置300の説明では、型締装置100の説明やエジェクタ装置200の説明とは異なり、充填時のスクリュ330の移動方向(例えばX軸負方向)を前方とし、計量時のスクリュ330の移動方向(例えばX軸正方向)を後方として説明する。
【0057】
射出装置300はスライドベース301に設置され、スライドベース301は射出装置フレーム920に対し進退自在に配置される。射出装置300は、金型装置800に対し進退自在に配置される。射出装置300は、金型装置800にタッチし、金型装置800内のキャビティ空間801に成形材料を充填する。射出装置300は、例えば、成形材料を加熱するシリンダ310と、シリンダ310内に進退自在に且つ回転自在に配置されるスクリュ330と、スクリュ330を回転させる計量モータ340と、スクリュ330を進退させる射出モータ350と、射出モータ350とスクリュ330の間で伝達される荷重を検出する荷重検出器360と、を有する。
【0058】
シリンダ310は、円筒状のシリンダ本体315と、シリンダ本体315の前端部に設けられるロート状のノズル320と、を含む。シリンダ本体315は、供給口311から内部に供給された成形材料を加熱する。成形材料は、例えば樹脂などを含む。成形材料は、例えばペレット状に形成され、固体の状態で供給口311に供給される。供給口311はシリンダ本体315の後部に形成される。シリンダ本体315の後部の外周には、水冷シリンダなどの冷却器312が設けられる。ノズル320は、金型装置800に対し押し付けられ、金型装置800に成形材料を充填する部分を構成する。
【0059】
また、本実施形態に係る射出成形機10は、シリンダ310の軸方向(X軸方向)に沿って、シリンダ310の加熱を独立して制御するために複数のゾーンを設定している。例えば、複数のゾーンとして、シリンダ本体315には後方から前方に向かって、第1ゾーン、第2ゾーン、第3ゾーン、第4ゾーンがこの順番で設定される。第4ゾーンがシリンダ本体315の前端部である。
【0060】
シリンダ310は、複数のゾーン毎に、加熱器313(温調機構)と、温度検出器314と、を備える。各加熱器313および温度検出器314は、シリンダ310の外周面に接触するように(または外周面から離間した近傍位置)に設けられる。例えば、加熱器313は、シリンダ310の外周面を周回する、バンドヒータ等のヒータを適用し得る。制御装置700は、それぞれのゾーン毎に設けられた加熱器313の各々を制御してシリンダ310の軸方向の温度を調整する。制御において、制御装置700は、各温度検出器314の温度がゾーン毎に設定された設定温度となるように、各加熱器313を制御する。
【0061】
スクリュ330は、シリンダ310内に回転自在に且つ進退自在に配置される。スクリュ330を回転させると、スクリュ330の螺旋状の溝に沿って成形材料が前方に送られる。成形材料は、前方に送られながら、シリンダ310からの熱によって徐々に溶融される。液状の成形材料がスクリュ330の前方に送られシリンダ310の前部に蓄積されるにつれ、スクリュ330が後退させられる。その後、スクリュ330を前進させると、スクリュ330前方に蓄積された液状の成形材料がノズル320から射出され、金型装置800内に充填される。
【0062】
スクリュ330の前部には、スクリュ330を前方に押すときにスクリュ330の前方から後方に向かう成形材料の逆流を防止する逆流防止弁として、逆流防止リング331が進退自在に取付けられる。
【0063】
逆流防止リング331は、スクリュ330を前進させるときに、スクリュ330前方の成形材料の圧力によって後方に押され、成形材料の流路を塞ぐ閉塞位置(
図2参照)までスクリュ330に対し相対的に後退する。これにより、スクリュ330前方に蓄積された成形材料が後方に逆流するのを防止する。
【0064】
一方、逆流防止リング331は、スクリュ330を回転させるときに、スクリュ330の螺旋状の溝に沿って前方に送られる成形材料の圧力によって前方に押され、成形材料の流路を開放する開放位置(
図1参照)までスクリュ330に対し相対的に前進する。これにより、スクリュ330の前方に成形材料が送られる。
【0065】
逆流防止リング331は、スクリュ330と共に回転する共回りタイプと、スクリュ330と共に回転しない非共回りタイプのいずれでもよい。
【0066】
尚、射出装置300は、スクリュ330に対し逆流防止リング331を開放位置と閉塞位置との間で進退させる駆動源を有していてもよい。
【0067】
計量モータ340は、スクリュ330を回転させる。スクリュ330を回転させる駆動源は、計量モータ340には限定されず、例えば油圧ポンプなどでもよい。
【0068】
射出モータ350は、スクリュ330を進退させる射出駆動源である。射出モータ350とスクリュ330との間には、射出モータ350の回転運動をスクリュ330の直線運動に変換する運動変換機構などが設けられる。運動変換機構は、例えばねじ軸と、ねじ軸に螺合するねじナットとを有する。ねじ軸とねじナットの間には、ボールやローラなどが設けられてよい。スクリュ330を進退させる駆動源は、射出モータ350に限定されず、例えば油圧シリンダなどでもよい。
【0069】
荷重検出器360は、射出モータ350とスクリュ330との間で伝達される荷重を検出する。検出した荷重は、制御装置700で圧力に換算される。荷重検出器360は、射出モータ350とスクリュ330との間の荷重の伝達経路に設けられ、荷重検出器360に作用する荷重を検出する。
【0070】
荷重検出器360は、検出した荷重の信号を制御装置700に送る。荷重検出器360によって検出される荷重は、スクリュ330と成形材料との間で作用する圧力に換算され、スクリュ330が成形材料から受ける圧力、スクリュ330に対する背圧、スクリュ330から成形材料に作用する圧力などの制御や監視に用いられる。
【0071】
尚、成形材料の圧力を検出する圧力検出器は、荷重検出器360に限定されず、一般的なものを使用できる。例えば、ノズル圧センサ、又は型内圧センサが用いられてもよい。ノズル圧センサは、ノズル320に設置される。型内圧センサは、金型装置800の内部に設置される。
【0072】
射出装置300は、制御装置700による制御下で、計量工程、充填工程および保圧工程などを行う。充填工程と保圧工程とをまとめて射出工程と呼んでもよい。
【0073】
計量工程では、計量モータ340を駆動してスクリュ330を設定回転速度で回転させ、スクリュ330の螺旋状の溝に沿って成形材料を前方に送る。これに伴い、成形材料が徐々に溶融される。液状の成形材料がスクリュ330の前方に送られシリンダ310の前部に蓄積されるにつれ、スクリュ330が後退させられる。スクリュ330の回転速度は、例えば計量モータエンコーダ341を用いて検出する。計量モータエンコーダ341は、計量モータ340の回転を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。尚、スクリュ330の回転速度を検出するスクリュ回転速度検出器は、計量モータエンコーダ341に限定されず、一般的なものを使用できる。
【0074】
計量工程では、スクリュ330の急激な後退を制限すべく、射出モータ350を駆動してスクリュ330に対して設定背圧を加えてよい。スクリュ330に対する背圧は、例えば荷重検出器360を用いて検出する。スクリュ330が計量完了位置まで後退し、スクリュ330の前方に所定量の成形材料が蓄積されると、計量工程が完了する。
【0075】
計量工程におけるスクリュ330の位置および回転速度は、一連の設定条件として、まとめて設定される。例えば、計量開始位置、回転速度切換位置および計量完了位置が設定される。これらの位置は、前側から後方に向けてこの順で並び、回転速度が設定される区間の始点や終点を表す。区間毎に、回転速度が設定される。回転速度切換位置は、1つでもよいし、複数でもよい。回転速度切換位置は、設定されなくてもよい。また、区間毎に背圧が設定される。
【0076】
充填工程では、射出モータ350を駆動してスクリュ330を設定移動速度で前進させ、スクリュ330の前方に蓄積された液状の成形材料を金型装置800内のキャビティ空間801に充填させる。スクリュ330の位置や移動速度は、例えば射出モータエンコーダ351を用いて検出する。射出モータエンコーダ351は、射出モータ350の回転を検出し、その検出結果を示す信号を制御装置700に送る。スクリュ330の位置が設定位置に達すると、充填工程から保圧工程への切換(所謂、V/P切換)が行われる。V/P切換が行われる位置をV/P切換位置とも呼ぶ。スクリュ330の設定移動速度は、スクリュ330の位置や時間などに応じて変更されてもよい。
【0077】
充填工程におけるスクリュ330の位置および移動速度は、一連の設定条件として、まとめて設定される。例えば、充填開始位置(「射出開始位置」とも呼ぶ。)、移動速度切換位置およびV/P切換位置が設定される。これらの位置は、後側から前方に向けてこの順で並び、移動速度が設定される区間の始点や終点を表す。区間毎に、移動速度が設定される。移動速度切換位置は、1つでもよいし、複数でもよい。移動速度切換位置は、設定されなくてもよい。
【0078】
スクリュ330の移動速度が設定される区間毎に、スクリュ330の圧力の上限値が設定される。スクリュ330の圧力は、荷重検出器360によって検出される。スクリュ330の圧力が設定圧力以下である場合、スクリュ330は設定移動速度で前進される。一方、スクリュ330の圧力が設定圧力を超える場合、金型保護を目的として、スクリュ330の圧力が設定圧力以下となるように、スクリュ330は設定移動速度よりも遅い移動速度で前進される。
【0079】
尚、充填工程においてスクリュ330の位置がV/P切換位置に達した後、V/P切換位置にスクリュ330を一時停止させ、その後にV/P切換が行われてもよい。V/P切換の直前において、スクリュ330の停止の代わりに、スクリュ330の微速前進または微速後退が行われてもよい。また、スクリュ330の位置を検出するスクリュ位置検出器、およびスクリュ330の移動速度を検出するスクリュ移動速度検出器は、射出モータエンコーダ351に限定されず、一般的なものを使用できる。
【0080】
保圧工程では、射出モータ350を駆動してスクリュ330を前方に押し、スクリュ330の前端部における成形材料の圧力(以下、「保持圧力」とも呼ぶ。)を設定圧に保ち、シリンダ310内に残る成形材料を金型装置800に向けて押す。金型装置800内での冷却収縮による不足分の成形材料を補充できる。保持圧力は、例えば荷重検出器360を用いて検出する。保持圧力の設定値は、保圧工程の開始からの経過時間などに応じて変更されてもよい。保圧工程における保持圧力および保持圧力を保持する保持時間は、それぞれ複数設定されてよく、一連の設定条件として、まとめて設定されてよい。
【0081】
保圧工程では金型装置800内のキャビティ空間801の成形材料が徐々に冷却され、保圧工程完了時にはキャビティ空間801の入口が固化した成形材料で塞がれる。この状態はゲートシールと呼ばれ、キャビティ空間801からの成形材料の逆流が防止される。保圧工程後、冷却工程が開始される。冷却工程では、キャビティ空間801内の成形材料の固化が行われる。成形サイクル時間の短縮を目的として、冷却工程中に計量工程が行われてよい。
【0082】
尚、本実施形態の射出装置300は、インライン・スクリュ方式であるが、プリプラ方式などでもよい。プリプラ方式の射出装置は、可塑化シリンダ内で溶融された成形材料を射出シリンダに供給し、射出シリンダから金型装置内に成形材料を射出する。可塑化シリンダ内には、スクリュが回転自在に且つ進退不能に配置され、またはスクリュが回転自在に且つ進退自在に配置される。一方、射出シリンダ内には、プランジャが進退自在に配置される。
【0083】
また、本実施形態の射出装置300は、シリンダ310の軸方向が水平方向である横型であるが、シリンダ310の軸方向が上下方向である竪型であってもよい。竪型の射出装置300と組み合わされる型締装置は、竪型でも横型でもよい。同様に、横型の射出装置300と組み合わされる型締装置は、横型でも竪型でもよい。
【0084】
(移動装置)
移動装置400の説明では、射出装置300の説明と同様に、充填時のスクリュ330の移動方向(例えばX軸負方向)を前方とし、計量時のスクリュ330の移動方向(例えばX軸正方向)を後方として説明する。
【0085】
移動装置400は、金型装置800に対し射出装置300を進退させる。また、移動装置400は、金型装置800に対しノズル320を押し付け、ノズルタッチ圧力を生じさせる。移動装置400は、液圧ポンプ410、駆動源としてのモータ420、液圧アクチュエータとしての液圧シリンダ430などを含む。
【0086】
液圧ポンプ410は、第1ポート411と、第2ポート412とを有する。液圧ポンプ410は、両方向回転可能なポンプであり、モータ420の回転方向を切換えることにより、第1ポート411および第2ポート412のいずれか一方から作動液(例えば油)を吸入し他方から吐出して液圧を発生させる。尚、液圧ポンプ410はタンクから作動液を吸引して第1ポート411および第2ポート412のいずれか一方から作動液を吐出することもできる。
【0087】
モータ420は、液圧ポンプ410を作動させる。モータ420は、制御装置700からの制御信号に応じた回転方向および回転トルクで液圧ポンプ410を駆動する。モータ420は、電動モータであってよく、電動サーボモータであってよい。
【0088】
液圧シリンダ430は、シリンダ本体431、ピストン432、およびピストンロッド433を有する。シリンダ本体431は、射出装置300に対して固定される。ピストン432は、シリンダ本体431の内部を、第1室としての前室435と、第2室としての後室436とに区画する。ピストンロッド433は、固定プラテン110に対して固定される。
【0089】
液圧シリンダ430の前室435は、第1流路401を介して、液圧ポンプ410の第1ポート411と接続される。第1ポート411から吐出された作動液が第1流路401を介して前室435に供給されることで、射出装置300が前方に押される。射出装置300が前進され、ノズル320が固定金型810に押し付けられる。前室435は、液圧ポンプ410から供給される作動液の圧力によってノズル320のノズルタッチ圧力を生じさせる圧力室として機能する。
【0090】
一方、液圧シリンダ430の後室436は、第2流路402を介して液圧ポンプ410の第2ポート412と接続される。第2ポート412から吐出された作動液が第2流路402を介して液圧シリンダ430の後室436に供給されることで、射出装置300が後方に押される。射出装置300が後退され、ノズル320が固定金型810から離間される。
【0091】
尚、本実施形態では移動装置400は液圧シリンダ430を含むが、本発明はこれに限定されない。例えば、液圧シリンダ430の代わりに、電動モータと、その電動モータの回転運動を射出装置300の直線運動に変換する運動変換機構とが用いられてもよい。
【0092】
(制御装置)
制御装置700は、例えばコンピュータで構成され、
図1~
図2に示すようにCPU(Central Processing Unit)701と、メモリなどの記憶媒体702と、入力インターフェース703と、出力インターフェース704とを有する。制御装置700は、記憶媒体702に記憶されたプログラムをCPU701に実行させることにより、各種の制御を行う。また、制御装置700は、入力インターフェース703で外部からの信号を受信し、出力インターフェース704で外部に信号を送信する。
【0093】
制御装置700は、計量工程、型閉工程、昇圧工程、型締工程、充填工程、保圧工程、冷却工程、脱圧工程、型開工程、および突き出し工程などを繰り返し行うことにより、成形品を繰り返し製造する。成形品を得るための一連の動作、例えば計量工程の開始から次の計量工程の開始までの動作を「ショット」または「成形サイクル」とも呼ぶ。また、1回のショットに要する時間を「成形サイクル時間」または「サイクル時間」とも呼ぶ。
【0094】
一回の成形サイクルは、例えば、計量工程、型閉工程、昇圧工程、型締工程、充填工程、保圧工程、冷却工程、脱圧工程、型開工程、および突き出し工程をこの順で有する。ここでの順番は、各工程の開始の順番である。充填工程、保圧工程、および冷却工程は、型締工程の間に行われる。型締工程の開始は充填工程の開始と一致してもよい。脱圧工程の完了は型開工程の開始と一致する。
【0095】
尚、成形サイクル時間の短縮を目的として、同時に複数の工程を行ってもよい。例えば、計量工程は、前回の成形サイクルの冷却工程中に行われてもよく、型締工程の間に行われてよい。この場合、型閉工程が成形サイクルの最初に行われることとしてもよい。また、充填工程は、型閉工程中に開始されてもよい。また、突き出し工程は、型開工程中に開始されてもよい。ノズル320の流路を開閉する開閉弁が設けられる場合、型開工程は、計量工程中に開始されてもよい。計量工程中に型開工程が開始されても、開閉弁がノズル320の流路を閉じていれば、ノズル320から成形材料が漏れないためである。
【0096】
尚、一回の成形サイクルは、計量工程、型閉工程、昇圧工程、型締工程、充填工程、保圧工程、冷却工程、脱圧工程、型開工程、および突き出し工程以外の工程を有してもよい。
【0097】
例えば、保圧工程の完了後、計量工程の開始前に、スクリュ330を予め設定された計量開始位置まで後退させる計量前サックバック工程が行われてもよい。計量工程の開始前にスクリュ330の前方に蓄積された成形材料の圧力を削減でき、計量工程の開始時のスクリュ330の急激な後退を防止できる。
【0098】
また、計量工程の完了後、充填工程の開始前に、スクリュ330を予め設定された充填開始位置まで後退させる計量後サックバック工程が行われてもよい。充填工程の開始前にスクリュ330の前方に蓄積された成形材料の圧力を削減でき、充填工程の開始前のノズル320からの成形材料の漏出を防止できる。
【0099】
制御装置700は、ユーザによる入力操作を受け付ける操作装置750や画面を表示する表示装置760と接続されている。操作装置750および表示装置760は、例えばタッチパネル770で構成され、一体化されてよい。表示装置760としてのタッチパネル770は、制御装置700による制御下で、画面を表示する。タッチパネル770の画面には、例えば、射出成形機10の設定、現在の射出成形機10の状態等の情報が表示されてもよい。また、タッチパネル770の画面には、例えば、ユーザによる入力操作を受け付けるボタン、入力欄等の操作部が表示されてもよい。操作装置750としてのタッチパネル770は、ユーザによる画面上の入力操作を検出し、入力操作に応じた信号を制御装置700に出力する。これにより、例えば、ユーザは、画面に表示される情報を確認しながら、画面に設けられた操作部を操作して、射出成形機10の設定(設定値の入力を含む)等を行うことができる。また、ユーザが画面に設けられた操作部を操作することにより、操作部に対応する射出成形機10の動作を行わせることができる。なお、射出成形機10の動作は、例えば、型締装置100、エジェクタ装置200、射出装置300、移動装置400等の動作(停止も含む)であってもよい。また、射出成形機10の動作は、表示装置760としてのタッチパネル770に表示される画面の切り替え等であってもよい。
【0100】
尚、本実施形態の操作装置750および表示装置760は、タッチパネル770として一体化されているものとして説明したが、独立に設けられてもよい。また、操作装置750は、複数設けられてもよい。操作装置750および表示装置760は、型締装置100(より詳細には固定プラテン110)の操作側(Y軸負方向)に配置される。
【0101】
(制御装置の詳細)
次に、
図3を参照して、制御装置700の構成要素の一例について説明する。なお、
図3に図示される各機能ブロックは概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。各機能ブロックの全部または一部を、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。各機能ブロックにて行われる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUにて実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0102】
図3に示すように、制御装置700は、例えば、型締制御部711と、エジェクタ制御部712と、射出制御部713と、計量制御部714と、を有する。型締制御部711は、型締装置100を制御し、
図4に示す型閉工程、昇圧工程、型締工程、脱圧工程、及び型開工程を実施する。エジェクタ制御部712は、エジェクタ装置200を制御し、突き出し工程を実施する。
【0103】
射出制御部713は、射出装置300の射出モータ350を制御して、射出工程、冷却工程を実施する。また、射出工程は、充填工程と保圧工程を含み、
図4に示すように本実施形態では型締工程中に行われる。充填工程は、シリンダ310の内部に設けられる射出部材の移動速度の実績値が設定値になるように射出モータ350を制御する工程である。充填工程は、射出部材を前方に移動させることで、射出部材の前方に蓄積された液状の成形材料を金型装置800の内部に充填させる。射出部材は、例えばスクリュ330(
図1及び
図2参照)であるが、プランジャであってもよい。
【0104】
充填工程における射出部材の移動速度は、射出モータエンコーダ351を用いて検出する。充填工程では、射出部材が前進に伴って成形材料に作用する圧力が上昇するため、保圧工程の直前に、射出部材を一時停止させる工程、又は射出部材を後退させる工程を含んでもよい。
【0105】
保圧工程は、射出部材を前方に押すことで、金型装置800内での冷却収縮による不足分の成形材料を補充する工程である。保圧工程では、充填圧力の実績値が設定値になるように射出モータ350を制御する。充填圧力は、荷重検出器360などの圧力検出器を用いて検出する。圧力検出器として、ノズル圧センサ、又は型内圧センサが用いられてもよい。
【0106】
一方、計量制御部714は、射出装置300の計量モータ340を制御し、計量工程を実施する。本実施形態において計量工程は、冷却工程中に行われる。また、計量制御部714は、計量工程時に、シリンダ310の各ゾーンの設定温度を読み出して、当該設定温度に基づきヒータ(加熱器313)の動作を制御する。ヒータ制御において、計量制御部714は、各温度検出器314が検出した温度をフィードバックすることで、設定温度を維持する。
【0107】
(冷間起動防止制御)
次に、以上の射出成形機10が行う冷間起動防止制御について説明する。射出成形機10は、機器の起動後に、金型装置800に充填する成形材料を溶融するために、シリンダ310の各ゾーンの加熱器313を動作させて、シリンダ310を加熱する。ただし、シリンダ310の温度に成形材料の温度が達するのにタイムラグがある。特に加熱器313の起動時には相互の温度に大きな差が生じる。このため、射出制御部713は、射出成形機10の起動時において、各ゾーンの成形材料の温度がシリンダ310の温度に達するまでの間、射出装置300の可塑化部材の動作(例えば、スクリュ330の移動動作や回転動作)を規制(インターロック)する冷間起動防止制御を行う。インターロックの対象としては、例えば、射出モータ350があげられ、射出装置300は、射出モータ350への電力供給を、ハードウェア的またはソフトウェア的に遮断する。冷間起動防止制御において、射出制御部713は、記憶媒体702に予め記憶された冷間起動防止期間を読み出して、この冷間起動防止期間にわたって射出モータ350の回転を停止する。尚、型締装置100においてインターロックがかかるタイミングは、任意に設定してよく、例えば、型閉工程の実施前とすることがあげられる。
【0108】
冷間起動防止期間は、可塑化部材の動作を規制している間の時間情報であり、射出装置300の構成や成形材料の種類等に基づいて、その初期値(初期の冷間起動防止期間)が記憶媒体702に予め記憶されている。冷間起動防止期間としては、例えば、15分に設定することがあげられる。尚、冷間起動防止期間の初期値は、ユーザが入力する構成でもよく、あるいは射出成形機10が成形材料の種類の情報を取得することで自動的に設定する構成でもよい。
【0109】
ここで、射出成形機10は、運転時に一時的に運転を停止して、その後に再運転を行う場合がある。運転を一時的に停止する例としては、停電、ユーザの操作ボタンの押し間違い(操作ミス)、装置の異常停止、装置の設定温度の変更等があげられる。仮に、この再運転時に、冷間起動防止期間の初期値にわたって充填工程をインターロックすると、成形材料の温度がシリンダ310の温度に達しているにもかかわらず充填工程に移行できず、再運転に時間がかかることになる。その結果、作業効率が低下することになる。
【0110】
そこで、本実施形態に係る射出成形機10は、運転を一時的に停止した後の再運転において、冷間起動防止期間を適切に調整して、再運転にかかる時間を短縮化するようにしている。尚、射出成形機10は、運転中に、シリンダ310の設定温度を上昇させた場合にも、シリンダ310の温度と成形材料の温度と間に温度差が生じる。このため、射出成形機10は、シリンダ310の設定温度の変更に伴う昇温時にも、冷間起動防止制御およびその冷間起動防止期間の調整を行う。
【0111】
具体的には
図3に示すように、制御装置700は、冷間起動防止期間を調整するように構成された期間設定部715を有する。期間設定部715は、シリンダ310の所定のゾーンにおいて温度検出器314が検出する温度を取得して、記憶媒体702に記憶する。この際、期間設定部715は、制御装置700にて計時している時間と記憶媒体702に記憶された温度とを紐づけた温度時間データTDを生成して、この温度時間データTDを記憶媒体702に記憶する。
【0112】
図5は、記憶媒体702に記憶される温度時間データTDの一例を示す図である。
図5に示すように、温度時間データTDは、射出成形時等において温度検出器314が検出した温度と、検出した時間とを一対一で対応付けている。このように、温度実績(温度検出器314が検出した温度と時間とを紐付けた個々のデータ)を用いることで、例えば、温度履歴の追跡や分析が可能となり、異常等のイベントの発生時刻を特定できる。
【0113】
温度のサンプリング間隔は、特に限定されず、例えば、10秒毎、30秒毎、1分毎、3分毎等に設定されればよい。サンプリング間隔は、予め決められた固定値であってもよく、ユーザにより変更可能となっていてもよい。期間設定部715は、射出成形機10の工程等に応じて、サンプリング間隔を自動的に変更してもよい。
【0114】
また、温度を記憶する対象のゾーンの温度検出器314も、特に限定されないが、例えば、シリンダ本体315の前端部(例えば第4ゾーン)であることがより好ましい。シリンダ本体315の前端部の内部は、成形材料が溶融した状態となっている領域であり、この部分が溶融不足になった場合に想定以上の負荷がかかって可塑化部材(スクリュ330先端のスクリューヘッド、逆流防止リング331、シートリングの3点セット、シリンダ本体315、ノズル320等)の破損につながるからである。以下では、期間設定部715が、第4ゾーンの温度検出器314の温度を取得する構成を例にあげて説明する。
【0115】
期間設定部715は、射出装置300の運転中において、温度検出器314の温度を継続的にサンプリングして、記憶媒体702に記憶していく。そして、期間設定部715は、射出成形機10の運転を一時的に停止した後に再運転を行う場合、またはシリンダ310の設定温度の変更に伴いシリンダ310を昇温させる場合等において、冷間起動防止制御を行う。この際、期間設定部715は、記憶媒体702に記憶された所定時間前の温度時間データTDの温度実績と、この温度時間データTDを記憶したゾーンの設定温度とを比較して、冷間起動防止期間の長さを設定する。なお、冷却起動防止期間の設定とは、制御装置700による冷却起動防止期間を自動的に調整する他に、冷却起動防止期間を入力する際の入力範囲を制限することを含む。
【0116】
また、制御装置700は、
図3に示すように報知制御部720を有する。報知制御部720は、射出成形機10の動作における各種情報、異常時のエラー等の画像情報を表示装置760に表示させる。また、報知制御部720は、冷間起動防止期間の長さを調整した場合に、表示装置760を介してその情報をユーザに報知する機能を有している。これにより、ユーザは、調整された冷間起動防止期間を容易に認識することができる。
【0117】
以下、冷間起動防止期間を調整する処理について、
図6を参照しながら説明する。
図6は、冷間起動防止期間を設定する処理フローを示すフローチャートである。
【0118】
射出成形機10は、ユーザによる機器の起動操作によって起動する(ステップS1)。この起動に伴って制御装置700も起動し、CPU701が記憶媒体702に記憶されたプログラムを実行することで、期間設定部715による処理が可能となる。
【0119】
制御装置700内に形成された期間設定部715は、射出成形機10の運転時に、冷間起動防止期間の調整を行うトリガ条件が成立しているか否かを判定する(ステップS2)。例えば、トリガ条件としては、以下の(a)~(c)のうちいずれか1つが成立することがあげられる。
【0120】
(a)ヒータ(各加熱器313)がオフ状態からオン状態となった
(b)ヒータ選択制御が変更されると共に、ヒータ制御がオン状態となった
(c)ヒータの設定温度が変更されてヒータが昇温中となった
【0121】
(a)のトリガ条件は、運転停止に伴ってヒータの運転が停止したが、再運転に伴ってヒータの加熱動作も再開した際の条件である。つまり、装置を一時的に停止した後に、再運転を行った場合は、ヒータがオフ状態からオン状態に切り替わるので、このトリガ条件に当てはまる。
【0122】
(b)のトリガ条件のヒータ選択制御とは、射出装置300のシリンダ310を加熱する複数のモードのうちいずれかのモードを選択することをいう。例えば、複数のモードは、射出成形を実際に行う際の温度である「成形」、射出成形を待機している際の温度である「保温」、成形材料を排出する際の温度である「パージ」等があげられる。これらのモードが変更される場合には、シリンダ310の温度と成形材料の実際の温度に差が生じる可能性がある。このため、射出制御部713は、冷間起動防止制御を実施し、このときの冷間起動防止期間を調整する。
【0123】
モードの変更に応じてシリンダ310の温度を上げる必要がある場合、射出制御部713は、ヒータを動作させてシリンダ310を加熱する。モードの変更に応じてシリンダ310の温度を上げる必要がある場合としては、例えば「保温」から「成形」に変更した場合、「パージ」から「保温」または「成形」に変更した場合等があげられる。この際、シリンダ310の温度に成形材料の実際の温度が直ぐに追従しないことで、温度差が生じる。逆に、モードの変更に応じてシリンダ310の温度を下げる必要がある場合、射出制御部713は、ヒータの加熱動作を停止してシリンダ310を放熱する。
【0124】
図7は、ヒータ選択制御におけるトリガ条件のディシジョンテーブルを示す図表である。期間設定部715は、トリガ条件を判定する際に、
図7に示すようなディシジョンテーブルを参照して、モード選択の信号およびヒータ制御(加熱動作)の信号を監視する。そして期間設定部715は、モード選択が変更され、かつヒータ制御がオン状態となった場合に、トリガ条件が成立したとするフラグを立てる。
【0125】
(c)のトリガ条件は、ヒータ(各加熱器313)の設定温度をユーザの任意により変更してヒータが昇温した場合である。ヒータの昇温は、シリンダの温度が設定変更後に所定差分以上となった状態をいう。この場合でも、シリンダ310の温度と成形材料の温度に差が生じるため、期間設定部715は、冷間起動防止制御を実施し、このときの冷間起動防止期間を調整する。
【0126】
つまり、(b)および(c)のトリガ条件は、シリンダ310の設定温度の変更に伴う昇温を判定するための条件である。このように、期間設定部715は、加熱器313の設定温度が変更された場合もトリガ条件に含めることで、シリンダ310の温度と成形材料の温度とに差が生じる可能性がある種々の状況に対応して、冷間起動防止期間を適切に調整できる。
【0127】
図6に戻り、期間設定部715は、以上のトリガ条件が成立した場合(ステップS2:YES)、冷間起動防止期間を調整するための処理フローであるステップS3に進む。一方、期間設定部715は、トリガ条件が成立しない場合(ステップS2:NO)、射出成形の運転時等において、このステップS2の判定を繰り返すことで、トリガ条件を監視し続ける。そして、射出成形の運転時等においてトリガ条件が成立した場合には、ステップS3に進む。
【0128】
ステップS3において、期間設定部715は、冷間起動防止期間を短縮できるか否かを判断するためのデータとして、記憶媒体702に記憶された温度時間データTDを参照して、トリガ条件の成立時点から所定時間前の温度実績Tzを抽出する。記憶媒体702の温度時間データTDは、上記したように、シリンダ310の所定のゾーン(例えば、第4ゾーン)の温度を温度検出器314により検出したものである。
【0129】
また、温度時間データTDにおいて抽出する時刻を指定する「所定時間前」は、シリンダ310の温度実績が加熱器313の設定温度に到達した後に、シリンダ310内の成形材料の温度が充分に昇温される時間に基づいて適切な値に設定される。この所定時間前は、実験、シミュレーション、経験またはユーザの任意に基づき予めセットしておく。
【0130】
次に、期間設定部715は、抽出した所定時間前の温度実績Tzと、所定のゾーンにおける今回の温度調整の設定温度Tsとを比較する。温度の比較において、期間設定部715は、現在の設定温度Tsから所定時間前の温度実績Tzを差し引いた温度差TGを算出する(ステップS4)。そして、期間設定部715は、設定された複数の温度範囲および判定フラグうち算出した温度差TGがいずれに含まれるかを判定する(ステップS5)。例えば、複数の温度範囲および判定フラグとしては、以下のパターンがあげられる。
【0131】
(1)TG<T1 …判定0
(2)T1≦TG<T2 …判定1
(3)T2≦TG …判定2
【0132】
上記の温度範囲を規定しているT1、T2は、温度差TGを判定するための所定の温度閾値に相当する。なお、温度閾値T1と温度閾値T2とは、T1<T2の関係が成立している。ここで、(1)の温度差TGがT1未満の場合は、所定時間前の温度実績Tzと設定温度Tsとの間の差が小さいと言える。このため、期間設定部715は、判定フラグとして判定0を立てて、冷間起動防止期間をゼロとする処理を行う。また(2)の温度差TGがT1以上T2未満の場合とは、所定時間前の温度実績Tzと設定温度Tsとの間の差が若干大きいと言える。そのため、期間設定部715は、判定フラグとして判定1を立てて冷間起動防止期間を短くする処理を行う。(3)の温度差TGがT2以上の場合とは、所定時間前の温度実績Tzと設定温度Tsの差が充分に大きいと言える。よって、期間設定部715は、判定フラグとして判定2を立てて初期値の冷間起動防止期間をそのまま使用する。尚、ステップS3において、仮に所定時間前の温度時間データTDがない場合には、期間設定部715は冷間起動防止期間の調整を行うことができない。よってこの場合も、期間設定部715は、判定フラグとして判定2を立てて、初期値の冷間起動防止期間をそのまま使用する。
【0133】
ステップS4において判定0、判定1、判定2のいずれかを判定すると、期間設定部715は、この判定に基づき冷間起動防止期間を設定する(ステップS6)。冷間起動防止期間は、射出成形機10の構成(射出モータ350)をインターロックする冷間起動防止制御の実施期間となる。期間設定部715は、インターロックの実施期間が冷間起動防止期間に達すると可塑化部材の動作を許容する。例えば、期間設定部715は、判定0の場合に冷間起動防止期間を非実施とし、判定1の場合に冷間起動防止期間を初期値よりも短い期間(第2期間)とし、判定2の場合に冷間起動防止期間を初期値(第1期間)に維持する。なお、冷間起動防止期間を調整するための温度範囲および判定フラグの数は、3つに限定されず、少なくとも2つあればよい。これにより、現在の設定温度Tsから所定時間前の温度実績Tzを減算した温度差TGが、所定の温度閾値以上の場合に第1期間を設定する一方で、所定の温度閾値未満の場合に第2期間を設定することができる。あるいは、温度範囲および判定フラグの数は、4以上でもよいことは勿論である。
【0134】
その後、期間設定部715は、初期値に設定されていた冷間起動防止期間について、ステップS6で設定した冷間起動防止期間に調整(変更または維持)する(ステップS7)。この際、射出成形機10は、期間設定部715において冷間起動防止期間を自動的に変更する構成でもよく、設定変更可能な冷間起動防止期間の入力範囲をユーザに報知して、入力範囲に基づきユーザが判断して変更する構成でもよい。冷間起動防止期間を自動的に変更する場合に、報知制御部720(
図3参照)は、期間設定部715から情報を受信して、冷間起動防止期間の設定状態をユーザに報知する。例えば、報知制御部720は、表示装置760の表示画面上で冷間起動防止期間の色を変更することで、変更をユーザの視覚的に報知する。これにより、ユーザは、射出成形をインターロックしている期間を容易に認識できる。あるいは、報知制御部720は、表示画面にポップアップ画面を生じさせてもよく、アラーム音、音声の出力、ランプを点灯させる等により変更を報知してもよい。また、ユーザが判断する場合は、冷間起動防止期間を変更できる旨の情報を報知し、その後にユーザによる冷間起動防止期間の変更後は冷間起動防止期間の設定完了の情報を報知するとよい。
【0135】
そして、射出制御部713は、期間設定部715において設定された冷間起動防止期間に基づき冷間起動防止制御を実施する(ステップS8)。あるいは冷間起動防止期間がゼロの場合、射出制御部713は、冷間起動防止制御を非実施とする。
【0136】
射出制御部713は、冷間起動防止制御において設定された冷間起動防止期間にわたってインターロックを行った後、可塑化部材の動作を許可する(ステップS9)。これにより、射出成形機10は、冷間起動防止制御の後に、ユーザが設定した動作(充填工程、計量工程を伴うパージ、成形モード等)を直ちに行うことが可能となる。例えば、射出制御部713は、可塑化部材の動作の許可後にパージ動作を開始する。これにより、射出装置300は、可塑化部材や金型装置800に大きな負荷をかけることなく、成形品を安定して成形できる。
【0137】
なお、射出制御部713は、記憶媒体702に記憶している温度時間データTDについて、所定時間前の温度実績Tzのデータがない場合に、その前後の温度時間データTDを用いて所定時間前の温度実績Tzを算出してもよい。所定時間前の温度実績Tzのデータがない場合としては、例えば、装置の動作の停止(停電を含む)、温度検出器や通信機能等の一時的な障害等があげられる。
【0138】
図8は、温度時間データTDの補間を説明するための図であり、(A)は、温度時間データTDを例示する表であり、(B)は、(A)のグラフである。
図8に示すように、射出制御部713は、冷間起動防止期間の調整のために、記憶媒体702に記憶した温度時間データTDにおいて所定時間前の温度を読み出す際に、所定時間前の温度実績Tzがない(空白の)場合、その空白期間の前後の温度および時間を読み出す。そして、射出制御部713は、空白期間の直前の温度と、空白期間の直後の温度とに基づき、空白期間の温度を直線補間する。
【0139】
図8の例では、16時4分に射出成形機10の電源がオフとなった後、16時13分に射出成形機10の電源がオンとなっている。そのため、16時4分~16時13分にわたって温度の情報がない空白期間になる。そして、射出制御部713は、16時21分に冷間起動防止期間の調整を判定している。この冷間起動防止期間の判定において、所定時間前として15分前(16時6分)の温度実績Tzを抽出しようとしても温度の情報がないことになる。
【0140】
そのため、射出制御部713は、電源オフの直前に検出された温度である16時3分の温度(250℃)を抽出すると共に、電源オンの直後に検出された温度である16時14分の温度(195℃)を抽出する。射出制御部713は、16時3分~16時14分までの期間と、2つの温度250℃、195℃に基づき線形的に低下する温度の仮想線を算出する。そして、射出制御部713は、算出した仮想線に基づき16時6分の温度である235℃を抽出する。
【0141】
このように、射出制御部713は、温度実績Tzがない空白期間の温度を補間することで、記憶媒体702に所定時間前の温度実績Tzがない場合でも、所定時間前の温度実績Tzに充分に近似した温度を、スムーズかつ精度よく得ることができる。射出成形機10は、この所定時間前の温度実績Tzを用いて冷間起動防止期間を良好に調整することが可能となる。
【0142】
以上のように、本実施形態に係る射出成形機10は、期間設定部715により、シリンダ310の温度と成形材料の温度とに差がある場合に、可塑化部材の動作(例えば、スクリュ330の移動動作や回転動作)を規制する期間である冷間起動防止期間を簡単かつ適切に調整できる。例えば、停電や操作ミス等により射出成形機10の運転を一時的に停止した後、シリンダ310の温度がそれ程下がらない段階で再起動した場合、期間設定部715は、冷間起動防止期間を短くする。これにより、射出成形機10は、スクリュ330等の可塑化部材を保護しつつ、成形材料の充填までの時間を短くできる。よって、射出成形機10は、装置の短時間の停止等において早期に復旧することが可能となり、また起動時の成形材料の消費量を削減できる。
【0143】
また、期間設定部715は、過去の温度実績Tzと、加熱器313の設定温度とを比較することで、冷間起動防止期間を簡単に調整できる。この比較において、期間設定部715は、現在の設定温度Tsから過去の温度実績Tzを減算した温度差TGを用いることで、より最適な冷間起動防止期間を設定することができる。さらに、射出成形機10は、設定温度に対して過去の温度実績Tzが近い場合に冷間起動防止期間を短くすることで、金型装置800への成形材料の充填をより短縮できる。
【0144】
射出成形機10は、冷間起動防止期間を調整するための温度検出器314をシリンダ310の前端部に備えることで、可塑化部材に負荷をかけ易いシリンダ310の前端部内における成形材料の状態を容易に監視できる。
【0145】
なお、本発明に係る射出成形機10、および射出成形機10の制御装置700は、上記の実施形態に限定されず、種々の変形例をとり得る。例えば、射出成形機10は、温度検出器314をシリンダ310に設置することに限定されず、金型装置800(固定金型810等)に設置された温度検出器により金型装置800の温度を検出する構成でもよい。金型装置800の温度が設定された温度範囲に入っていない状態で、射出成形機から金型に成形材料を射出すると、金型は、当該金型が齧る、成形品が離型しない、バリが発生する等の充填状態の不良となる可能性がある。特に、射出成形機が熱硬化成形(反応成形)を行う場合は、成形材料が正常に固化しない、成形品に必要な機能性能が得られない等の不都合が生じる。したがって、金型装置800の温度を検出して、当該金型装置800の温度に基づき冷間起動防止期間を設定し、当該金型装置800の動作または可塑化部材の動作の一つ以上を規制することで、充填状態の不良を安定的に抑制することができる。
【0146】
この場合、金型装置800の温調機構は、ヒータに限定されず、図示しない温調媒体循環装置と金型装置800との間で、温調媒体を循環させる構成であってもよい。なお、温調媒体を循環させる構成はシリンダ310に適用してもよい。
【0147】
また、温調媒体を循環させる構成の場合、射出成形機10は、記憶媒体702に記憶した所定時間前の温度実績Tzが設定温度よりも高ければ、シリンダ310に供給した温調媒体によりシリンダ310を冷却してもよい。そして、射出成形機10は、この間に装置の動作をインターロックしてよく、またインターロックの期間を温度実績Tzに基づき設定してよい。
【0148】
また、上記の実施形態では、期間設定部715は、複数の温度範囲および判定フラグに紐づいた冷間起動防止期間について温度差TGを用いて設定した。しかしながら、期間設定部715は、例えば、温度差TGと冷間起動防止期間とを対応付けた数式を用いて、冷間起動防止期間をリニアに変更してもよい。
【0149】
今回開示された実施形態に係る射出成形機10、および射出成形機10の制御装置700は、すべての点において例示であって制限的なものではない。実施形態は、添付の請求の範囲およびその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形および改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0150】
10 射出成形機
310 シリンダ
313 加熱器(温調機構)
314 温度検出器
700 制御装置
715 期間設定部
800 金型装置