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特開2023-181909融合タンパク質、2本鎖DNA標識剤、2本鎖DNA標識用キット、DNA、及びベクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181909
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】融合タンパク質、2本鎖DNA標識剤、2本鎖DNA標識用キット、DNA、及びベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20231218BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231218BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231218BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231218BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/12
C07K19/00
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095293
(22)【出願日】2022-06-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊介
(72)【発明者】
【氏名】長原 礼宗
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、より安全な2本鎖DNA標識技術を提供することである。
【解決手段】本発明は、融合タンパク質であって、前記融合タンパク質が、2本鎖DNA結合タンパク質と、蛍光タンパク質と、を含み、前記2本鎖DNA結合タンパク質が、P39476、F4B8X5、A0A125SJ97、又はQ96X56である、融合タンパク質を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合タンパク質であって、
前記融合タンパク質が、2本鎖DNA結合タンパク質と、蛍光タンパク質と、を含み、
前記2本鎖DNA結合タンパク質が、P39476、F4B8X5、A0A125SJ97、又はQ96X56である、
融合タンパク質。
【請求項2】
請求項1に記載の融合タンパク質からなる、2本鎖DNA標識剤。
【請求項3】
請求項1に記載の融合タンパク質を含む、2本鎖DNA標識用キット。
【請求項4】
請求項1に記載の融合タンパク質をコードするDNA。
【請求項5】
請求項4に記載のDNAが組み込まれたベクター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融合タンパク質、2本鎖DNA標識剤、2本鎖DNA標識用キット、DNA、及びベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムプロジェクトの完了にともない、各種塩基配列情報が得られたものの、DNA代謝の分子機構等には未だ不明な部分が多く残されている。
【0003】
DNA代謝等の研究においては、DNA分子の可視化のために、蛍光イメージング技術が広く用いられている。
通常、DNA分子を蛍光観察するためには、蛍光化合物で標識する必要がある。このような蛍光化合物について各種開発されている。
【0004】
例えば、2本鎖DNAを標識する蛍光化合物は、(i)2本鎖DNAの副溝及び/又は主溝に結合するもの、(ii)dsDNAの塩基対間に挿入するもの、(iii)左記(i)及び(ii)の両方を行うもの、という3種に分類され得る。
このような蛍光化合物のうち、特に、インターカレーター型蛍光色素(「YOYO-1」、「SYTOX Orange」、ヨウ化プロピジウム等)は、2本鎖DNAと高い親和性で相互作用し、蛍光強度が非常に高いという利点があるため、DNAの1分子イメージングや、フローサイトメトリーにおける諸解析(細胞周期解析、アポトーシス検出等)等に幅広く利用されている(例えば、非特許文献1~6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Analytical Biochemistry Volume 249, Issue 1, 15 June 1997, Pages 44-53
【非特許文献2】Biochem Biophys Res Commun. 2010 Dec 10;403(2):225-9. doi: 10.1016/j.bbrc.2010.11.015. Epub 2010 Nov 10
【非特許文献3】Anal Chem. 2005 Jun 1;77(11):3554-62. doi: 10.1021/ac050306u
【非特許文献4】Nat Commun. 2015; 6: 7304
【非特許文献5】Nucleic Acids Res., 38 (2010) 6526-6532
【非特許文献6】Macromolecules 48 (2015) 1860-1865
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
他方で、インターカレーター型蛍光色素等の核酸染色試薬は、その作用上、DNAの塩基対間に入り込むため、塩基対の間隔を広げてDNAの2重らせん構造を歪め、DNA代謝等を阻害し得る(例えば、非特許文献5及び6)。そのため、インターカレーター型蛍光色素を使用した解析系は、解析の正確性を損ない得るうえ、安全性に懸念がある。
【0007】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、より安全な2本鎖DNA標識技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討した結果、蛍光タンパク質とともに、所定の2本鎖DNA結合タンパク質を含む融合タンパク質によれば上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0009】
(1) 融合タンパク質であって、
前記融合タンパク質が、2本鎖DNA結合タンパク質と、蛍光タンパク質と、を含み、
前記2本鎖DNA結合タンパク質が、P39476、F4B8X5、A0A125SJ97、又はQ96X56である、
融合タンパク質。
【0010】
(2) (1)に記載の融合タンパク質からなる、2本鎖DNA標識剤。
【0011】
(3) (1)に記載の融合タンパク質を含む、2本鎖DNA標識用キット。
【0012】
(4) (1)に記載の融合タンパク質をコードするDNA。
【0013】
(5) (4)に記載のDNAが組み込まれたベクター。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より安全な2本鎖DNA標識技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の融合タンパク質、又は核酸染色試薬(SYTOX Green)を用いた、2本鎖DNAへの結合活性を示す図である。
図2】「Aho7c-mClover3」とλDNAとの複合体に対する塩による影響を示す図である。
図3】本発明の融合タンパク質で染色された細胞における、フローサイトメトリーによる細胞内状態及び細胞内DNA含有量の解析結果を示す図である。
図4】共焦点顕微鏡による固定化細胞内核染色の観察結果を示す図である。
図5】共焦点顕微鏡による生細胞内核染色の観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0017】
<融合タンパク質>
本発明の融合タンパク質は、2本鎖DNA結合タンパク質と、蛍光タンパク質と、を含み、かつ、該2本鎖DNA結合タンパク質が、P39476、F4B8X5、A0A125SJ97、又はQ96X56である。
【0018】
本発明の融合タンパク質は、2本鎖DNAの標識に用いられる。
具体的には、まず、本発明の融合タンパク質に含まれる所定の2本鎖DNA結合タンパク質を、標識対象である2本鎖DNAに結合させる。次いで、本発明の融合タンパク質に含まれる蛍光タンパク質を発色させることで、標識対象である2本鎖DNAを可視化することができる。
また、本発明における所定の2本鎖DNA結合タンパク質は、インターカレーター型蛍光色素等の核酸染色試薬のように2本鎖DNAの塩基対間に入り込むのではなく、静電気相互作用によって2本鎖DNAに結合する(H. Robinsonら,Nature, 392 (1998) 202-205;Y.G., Gaoら,Nat. Struct. Biol. 5 (1998) 782-786等)。
【0019】
本発明において「2本鎖DNAを安全に標識する」とは、インターカレーター型蛍光色素等の核酸染色試薬を用いた系と比較して、2本鎖DNAを安全に標識することを包含する。
例えば、核酸染色試薬には、変異原性、刺激性、発癌性、催奇性等があり得る。そのため、核酸染色試薬を用いた操作においては、手袋等の着用が必須である。
これに対し、本発明における2本鎖DNA結合タンパク質は生体分子から構成されているため、本発明の融合タンパク質は手袋等を着用せずに取扱うことが可能である。
【0020】
さらに、本発明における所定の2本鎖DNA結合タンパク質は、核酸染色試薬のようにDNAの2重らせん構造を歪めないため、DNA代謝(転写、複製等)等を阻害しにくい。
そのため、本発明の融合タンパク質によれば、細胞内のDNA代謝等の挙動をより捉えやすい。
【0021】
さらに、本発明の融合タンパク質は、インターカレーター型蛍光色素等の核酸染色試薬を用いた系と比較して、蛍光退色時間(蛍光が退色するまでに要する時間)が長く、より長時間の蛍光イメージングを実現し得る。
例えば、本発明の融合タンパク質によれば、インターカレーター型蛍光色素を用いた系と比較して、蛍光退色時間が2.2~6.7倍長い可能性がある。
なお、本発明において「蛍光退色時間」は、実施例に示した方法で特定し得る。
【0022】
以下、本発明の融合タンパク質の構成について説明する。
【0023】
(1)2本鎖DNA結合タンパク質
本発明においては、2本鎖DNA結合タンパク質として所定のタンパク質、すなわち、「P39476」、「F4B8X5」、「A0A125SJ97」、又は「Q96X56」を使用することに主要な技術的特徴を有する。
2本鎖DNA結合タンパク質は、種々知られているものの、本発明らは、上記4種のタンパク質が、結合対象である2本鎖DNAの作用を阻害せずに結合し、2本鎖DNAの標識において特に有用であることを見出した。
【0024】
本発明における4種の2本鎖DNA結合タンパク質、すなわち、「P39476」、「F4B8X5」、「A0A125SJ97」、及び「Q96X56」は、いずれも、「7kda dna-binding endoribonuclease p2 family」(例えば、https://www.uniprot.org/uniprot/?query=family:%227+kDa+DNA-binding%2Fendoribonuclease+P2+family%22&sort=scoreを参照。)に属する。
【0025】
本発明における4種の2本鎖DNA結合タンパク質に対応する各遺伝子名は、以下のとおりである。ただし、以下、各2本鎖DNA結合タンパク質について、各タンパク質名及び各遺伝子名を互換的に使用することがある(例えば、2本鎖DNA結合タンパク質を、対応する遺伝子名によって特定することがある。)。
【0026】
【表1】
【0027】
本発明の融合タンパク質は、「P39476」、「F4B8X5」、「A0A125SJ97」、及び「Q96X56」のうちいずれか1以上を含む。
本発明において、これらのうち複数を含む態様は排除されないが、2本鎖DNAとの結合効率の観点等から、本発明の融合タンパク質は、「P39476」、「F4B8X5」、「A0A125SJ97」、及び「Q96X56」のうちいずれか1つのみを含むことが好ましい。
【0028】
本発明における4種の2本鎖DNA結合タンパク質の由来は特に限定されず、標識対象である2本鎖DNA結合タンパク質の由来等に応じて適宜設定できる。2本鎖DNA結合タンパク質の由来は、例えば、Saccharolobus solfataricus、Saccharolobus shibatae等であり得る。
【0029】
2本鎖DNA結合タンパク質は、発現効率の向上等の観点から、コドン使用頻度等に基づき最適化された遺伝子から発現されたものであってもよい。
コドン使用頻度に基づく遺伝子設計は、実施例に示した方法を採用できる。
【0030】
2本鎖DNA結合タンパク質は、例えば、実施例に示した遺伝子配列(配列番号13~16)に基づき発現されたものであってもよい。
【0031】
本発明における2本鎖DNA結合タンパク質のうち「F4B8X5」を用いた態様は、蛍光退色時間が特に長い点で好ましい。
【0032】
(2)蛍光タンパク質
蛍光タンパク質としては、2本鎖DNA結合タンパク質とともに発現させることができる任意の蛍光タンパク質を採用できる。
このような蛍光タンパク質として、「mClover3」、「Enhanced GFP(EGFP)」、「mCherry」等が挙げられる。
【0033】
本発明の融合タンパク質は、蛍光タンパク質を1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0034】
蛍光タンパク質は、その構造等に応じて、2本鎖DNA結合タンパク質の任意の部分に結合していてもよい。例えば、蛍光タンパク質は、2本鎖DNA結合タンパク質の末端(アミノ末端(N末端)の上流及び/又はカルボキシル末端(C末端))の下流にペプチドリンカーを介して融合し得る。
【0035】
本発明の融合タンパク質の好ましい態様は、「F4B8X5」とともに「mClover3」を含むものを包含する。
【0036】
(3)その他の構成
本発明の融合タンパク質は、2本鎖DNA結合タンパク質の結合特性や、蛍光タンパク質の発色等を阻害しない範囲で、目的に応じて、2本鎖DNA結合タンパク質、及び蛍光タンパク質以外の構成を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0037】
2本鎖DNA結合タンパク質、及び蛍光タンパク質以外の構成としては、リンカー、タンパク質タグ(SNAP-Tag、CLIP-Tag等)、抗体等が挙げられる。
【0038】
本発明は、融合タンパク質が、2本鎖DNA結合タンパク質、及び蛍光タンパク質のみからなる態様を包含する。
【0039】
<融合タンパク質の製造方法>
本発明の融合タンパク質は、融合タンパク質の製造方法として知られる任意の方法によって製造できる。
このような方法として、実施例に示した、プラスミドベクターを用いた方法等が挙げられる。得られた融合タンパク質は、適宜精製等を行ってもよい。
【0040】
<融合タンパク質の用途>
本発明の融合タンパク質は、2本鎖DNAの標識に用いられる。
したがって、本発明は、本発明の融合タンパク質からなる2本鎖DNA標識剤、本発明の融合タンパク質を含む2本鎖DNA標識用キット、本発明の融合タンパク質をコードするDNA、該DNAが組み込まれた発現ベクター等を包含する。
【0041】
本発明の融合タンパク質の標識対象である2本鎖DNAとしては特に限定されず、バクテリオファージラムダDNA(λDNA)、PCR増幅DNA断片、プラスミドDNA、ゲノムDNA等が挙げられる。
【0042】
本発明の融合タンパク質を用いた2本鎖DNAの標識方法としては特に限定されず、例えば、本発明の融合タンパク質とともに2本鎖DNAを室温(例えば、20~30℃)で、1~30分インキュベートする方法等が挙げられる。
次いで、蛍光タンパク質の種類に応じた方法で、蛍光タンパク質を発色させることで、2本鎖DNAに結合した本発明の融合タンパク質を可視化することができる。
【0043】
本発明の融合タンパク質が2本鎖DNAを標識できたかどうかは、例えば、実施例に示したゲルシフトアッセイ等によって評価できる。
【0044】
上述のとおり、本発明の融合タンパク質によれば、従来の核酸染色試薬と比較して安全に2本鎖DNAを標識できる。また、本発明の融合タンパク質は、蛍光顕微鏡やフローサイトメトリー等の使用において、蛍光が退色するまでの時間が長く、より長時間の蛍光イメージング及び蛍光検出を実現し得る。
したがって、本発明の融合タンパク質は、従来の核酸染色試薬の良好な代替品となり得るものであり、従来の核酸染色試薬と同様に利用することができる。
【実施例0045】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
<試験1>
以下の方法に基づき、2本鎖DNA結合タンパク質、及び蛍光タンパク質を含む融合タンパク質の分子クローニング、並びに、大腸菌への形質転換を行った。
【0047】
(1)2本鎖DNA結合タンパク質遺伝子配列の設計
以下の方法に基づき、大腸菌のコドン使用頻度へ最適化した2本鎖DNA結合タンパク質遺伝子配列を設計した。
まず、大腸菌の異種タンパク質である、Saccharolobus solfataricus、又はAcidianus hospitalisに由来する下記4種類の2本鎖DNA結合タンパク質を効率よく発現させるため、コドン最適化ツールを使用して、大腸菌のコドン使用頻度へ最適化した「Sso7d」、「Aho7c」、「ATSV7」及び「Sto7」の遺伝子配列を設計した。
・Sulfolobus solfataricus 7kDa DNA-binding protein(Sso7d):P39476タンパク質と対応する。
・Acidianus hospitalis 7kDa DNA-binding protein(Aho7c):F4B8X5タンパク質と対応する。
・Archaeal Large Tailed Spindle Virus 7 kDa DNA-binding protein(ATSV7):A0A125SJ97タンパク質と対応する。
・Sulfolobus tokodaii 7kDa DNA-binding protein(Sto7):Q96X56タンパク質と対応する。
【0048】
次いで、RNA2次構造予測ツールを使用して、コドン最適化ツールから複数出力された遺伝子配列のmRNAの不安定性を評価した。この工程により、大腸菌のコドン使用頻度へ最適化した「Sso7d」、「Aho7c」、「ATSV7」及び「Sto7」の遺伝子配列を選択した。これらの遺伝子配列は以下のとおりである。
【0049】
【表2】
【0050】
なお、本例において、コドン最適化ツールは、「Codon Usage Similarity Index」(COUSIN; https://cousin.ird.fr/index.php)を使用した。
RNA2次構造予測ツールは、「RNAstructure tools」(http://rna.urmc.rochester.edu/RNAstructureWeb/)を使用した。
【0051】
(2)2本鎖DNA結合タンパク質の分子クローニング
上記(1)で設計した「Sso7d」、「Aho7c」、「ATSV7」及び「Sto7」の遺伝子配列の人工合成遺伝子を、受託合成(ユーロフィン社)によって調達した。
次いで、「KOD -Plus-」(東洋紡社製)によって、添付の説明書に従い、下記プライマー(配列番号:1~8)を用いて、各遺伝子配列を増幅した。
【0052】
【表3】
【0053】
PCR反応条件は、以下のように設定した。
98℃、2分の熱変性の後、以下の温度サイクルを30サイクル行う。:98℃、30秒→55℃、30秒→68℃、30秒
【0054】
得られたPCR増幅産物、及びpET22bベクター(Novagen社製)を、制限酵素(XhoI、及びHindIII)で切断した。
次いで、「QIAquick PCR Purification kit」(QIAgen社製)を用いて、DNA産物を精製した。
精製したインサートDNA、及び各ベクターDNAを混合し、得られた混合DNA溶液と1:1になるように「DNA Ligation kit」(TaKaRa社製)を加え、恒温槽(TAITEC社製)中で16℃、1時間から終夜静置し、DNAライゲーション反応を行った。
DNAライゲーション反応後、「E.coli JM109コンピテントセル」(TaKaRa社製)を用いて、添付の説明書に従い形質転換を行い、100μg/mLのアンピシリン(ナカライテスク社製)を含むLB寒天培地に広げて、37℃で終夜培養し、形質転換体を得た。
【0055】
(3)ダイレクトコロニーPCR及びDNAシーケンシング解析-1
上記(2)で得られた形質転換体を用いて、シカジーニアスDNA抽出試薬(関東化学社製)により、添付の説明書に従い、大腸菌コロニーからDNA抽出物を調製した。
得られたDNA抽出物をPCR反応用テンプレートとして、「TaKaRa Ex-Taq Hot Start」(TaKaRa社製)によって、添付の説明書に従い、下記プライマー(配列番号:9、10)を用いて、目的DNA配列を増幅した。
【0056】
【表4】
【0057】
PCR反応条件は、以下のように設定した。
95℃、2分の熱変性の後、以下の温度サイクルを30サイクル行う。:95℃、20秒→55℃、30秒→72℃、30秒
【0058】
得られたPCR反応産物溶液の一部を、2%アガロースゲル(ナカライテスク社製)により電気泳動し、目的のバンド(約569bp)を確認した。
その後、残りのPCR反応産物溶液を、「QIAquick PCR Purification kit」(QIAgen社製)を用い、添付の説明書に従い精製した。
【0059】
得られた目的DNA配列を、受託解析(ジーンウィズ社)によって評価した結果、設計通りに、「Sso7d」、「Aho7c」、「ATSV7」及び「Sto7」の各遺伝子配列を含むクローン化DNA(ベクター)を取得した。
以下、得られた4種類のベクターを、「pET22-Sso7dベクター」、「pET22-Aho7cベクター」、「pET22-ATSV7ベクター」、「pET22-Sto7ベクター」と称する。
【0060】
(4)プラスミド抽出-1
上記(3)で得られた4種類のベクターによる大腸菌形質転換体を、100μg/mLのアンピシリンを含むLB液体培地に37℃で終夜培養した。菌体培養液を遠心で集菌し、「QIAprep Spin miniprep kit」(キアゲン社製)を用い、添付の説明書に従い、ベクターを抽出及び精製した。
【0061】
(5)蛍光タンパク質融合2本鎖DNA結合タンパク質の分子クローニング
以下の方法に基づき、上記(2)乃至(4)で得られた4種類のベクターに、蛍光タンパク質(mClover3)をクローニングした。
まず、「KOD -Plus-」(東洋紡社製)を用いて、添付の説明書に従い、下記プライマー(配列番号:11、12)を用いて、蛍光タンパク質(mClover3)の遺伝子配列(配列番号17)を増幅した。
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
PCR反応条件は、以下のように設定した。
98℃、2分の熱変性の後、以下の温度サイクルを30サイクル行う。:98℃、30秒→55℃、30秒→68℃、60秒
【0065】
得られたPCR増幅産物、及び4種類のベクターを、制限酵素(NcoI、及びEcoRI)で切断した。
次いで、「QIAquick PCR Purification kit」(QIAgen社製)を用いて、DNA産物を精製した。
精製したインサートDNA、及び各ベクターDNAを混合し、得られた混合DNA溶液と1:1になるように「DNA Ligation kit」(TaKaRa社製)を加え、恒温槽(TAITEC社製)中で16℃、1時間から終夜静置し、DNAライゲーション反応を行った。
DNAライゲーション反応後、「E.coli JM109コンピテントセル」(TaKaRa社製)を用いて、添付の説明書に従い形質転換を行い、100μg/mLのアンピシリン(ナカライテスク社製)を含むLB寒天培地に広げて、37℃で終夜培養し、形質転換体を得た。
【0066】
(6)ダイレクトコロニーPCRとDNAシーケンシング解析-2
上記(5)で得られた形質転換体を用いて、シカジーニアスDNA抽出試薬(関東化学社製)により、添付の説明書に従い、大腸菌コロニーからDNA抽出物を調製した。
得られたDNA抽出物をPCR反応用テンプレートとして、「TaKaRa Ex-Taq Hot Start」(TaKaRa社製)によって、添付の説明書に従い、「ダイレクトコロニーPCR及びDNAシーケンシング解析-1」と同様のプライマー(配列番号:9、10)を用いて、目的DNA配列を増幅した。
【0067】
PCR反応条件は、以下のように設定した。
95℃、2分の熱変性の後、以下の温度サイクルを30サイクル行う。:95℃、20秒→55℃、30秒→72℃、60秒
【0068】
得られたPCR反応産物溶液の一部を、1%アガロースゲル(ナカライテスク社製)により電気泳動し、目的のバンド(約1262bp)を確認した。
その後、残りのPCR反応産物溶液を、「QIAquick PCR Purification kit」(キアゲン社製)を用い、添付の説明書に従い精製した。
【0069】
得られた目的DNA配列を、受託解析(ジーンウィズ社)によって評価した結果、設計通りに、蛍光タンパク質(mClover3)の遺伝子配列とともに、「Sso7d」、「Aho7c」、「ATSV7」及び「Sto7」の各遺伝子配列を含むクローン化DNA(ベクター)を取得した。
以下、得られた4種類のベクターを、「pET22-Sso7d-mClover3ベクター」、「pET22-Aho7c-mClover3ベクター」、「pET22-ATSV7-mClover3ベクター」、「pET22-Sto7-mClover3ベクター」と称する。
【0070】
(7)プラスミド抽出-2
上記(6)で得られた4種類のベクターによる大腸菌形質転換体を、100μg/mLのアンピシリンを含むLB液体培地に37℃で終夜培養した。菌体培養液を遠心で集菌し、「QIAprep Spin miniprep kit」(キアゲン社製)を用い、添付の説明書に従い、ベクターを抽出及び精製した。
【0071】
<試験2>
以下の方法に基づき、蛍光タンパク質融合2本鎖DNA結合タンパク質の発現、抽出及び精製を行った。
【0072】
(1)蛍光タンパク質融合2本鎖DNA結合タンパク質の発現及び抽出
上記<試験1>で得られた4種類のベクター「pET22-Sso7d-mClover3ベクター」、「pET22-Aho7c-mClover3ベクター」、「pET22-ATSV7-mClover3ベクター」、及び「pET22-Sto7-mClover3ベクター」を大腸菌に導入した。
大腸菌への導入は、「Rosetta(商標) (DE3)pLysS Competent Cells」(Novagen社製)を用いて、添付の説明書に従った。
次いで、大腸菌を、100μg/mLのアンピシリン(ナカライテスク社製)、及び12.5μg/mLクロラムフェニコール(ナカライテスク社製)を含むLB寒天培地に広げて、37℃で終夜培養し、形質転換体を得た。
【0073】
得られた形質転換体を、100μg/mLのアンピシリンと12.5μg/mLクロラムフェニコールを含む2mLのLB液体培地に37℃で終夜培養(前培養)した。
前培養した菌体培養液を、100μg/mLのアンピシリンと12.5μg/mLクロラムフェニコールを含む100mLのLB液体培地に加え、菌体濁度(OD600値)が0.5に達するまで、37℃で培養した。
その後、菌体培養液の最終濃度が0.5mMになるようにIPTGを加え、16℃で24時間培養した。
培養後、6,000rpm、10分間、4℃で菌体培養液を遠心分離し、上清を捨て、菌体ペレットを回収した。
【0074】
得られた菌体ペレットを含むチューブに、5mLのフィルター滅菌したLysis Buffer(50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)、50mM NaCl、10mM イミダゾール)を加え、菌体ペレットを懸濁し、洗浄した。洗浄後、6,000rpm、10分間、4℃で菌体培養液を遠心分離し、菌体ペレットを回収した。
菌体ペレットを含むチューブに、5mLのLysis Bufferを加え、菌体ペレットを懸濁した後、超音波破砕機での条件下で30分間菌体を破砕した。
その後、菌体破砕液を70℃で15分間インキュベートした後、15,000rpm、30分間、4℃で遠心分離し、上清を回収した。
得られた上清を、シリンジフィルター(メルク社製)に通液した後、下記の固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)精製に供した。
【0075】
(2)蛍光タンパク質融合2本鎖DNA結合タンパク質の精製
上記(1)で得られた蛍光タンパク質融合2本鎖DNA結合タンパク質を精製するために、以下の操作を行った。
【0076】
まず、カラムに、1mLの「TALON(商標) Metal Affinity Resin」(TaKaRa社製)を加え、通液した。次いで、カラムに、10mLのLysis Bufferを加え、通液することで、「TALON(商標) Metal Affinity Resin」の洗浄、及び平衡化を行った。
【0077】
上記(1)で得られた蛍光タンパク質融合2本鎖DNA結合タンパク質の溶液をカラムに加え、通液させることで、「TALON(商標) Metal Affinity Resin」に蛍光タンパク質融合2本鎖DNA結合タンパク質を固定化させた。通液後、1mLのLysis Bufferで洗浄した。
洗浄後、カラムに、5mLのWash Buffer(50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)、50mM NaCl、40mM イミダゾール)を加え、通液することで、「TALON(商標) Metal Affinity Resin」に非特異的に結合しているタンパク質を洗浄した。
洗浄後、カラムに、5mLのElution Buffer(50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)、50mM NaCl、300mM イミダゾール)を加え、通液することで、蛍光タンパク質融合2本鎖DNA結合タンパク質を溶出させた。
次いで、溶出液に含まれる高濃度のイミダゾールを除去するため、溶出液を透析チューブに加えた後、該チューブを、1LのDialysis Buffer(50% Glycerol、100mM Tris-HCl(pH8.0)、0.2mM EDTA、0.2% NP-40、0.2% Tween20、2mM DTT)に浸し、4℃で4時間透析した。その後、透析チューブを取り出し、新たな1LのDialysis Bufferに透析チューブを浸し、4℃で16時間さらに透析した。透析サンプルを1.5mLの遮光チューブに加え、-20℃で保存した。また、透析サンプルの一部をSDS-PAGEで解析し、目的のバンド(約37kDa)を確認した。
得られた透析サンプルは、本発明の融合タンパク質(精製蛍光タンパク質融合2本鎖DNA結合タンパク質)に相当する。
以下、得られた4種類の精製蛍光タンパク質融合2本鎖DNA結合タンパク質を、「Sso7d-mClover3」、「Aho7c-mClover3」、「ATSV7-mClover3」、及び「Sto7-mClover3」と称する。これらの融合タンパク質は、2本鎖結合タンパク質のN末端の上流に蛍光タンパク質(mClover3)が結合した構造を有する。
また、これらの精製蛍光タンパク質融合2本鎖DNA結合タンパク質を、単に「本発明の融合タンパク質」ともいう。
【0078】
<試験3>
以下の方法に基づき、2本鎖DNAへの、本発明の融合タンパク質の結合評価を行った。
【0079】
(1)試験管内実験での2本鎖DNA結合評価
上記<試験2>で得られた、4種類の本発明の融合タンパク質「Sso7d-mClover3」、「Aho7c-mClover3」、「ATSV7-mClover3」、及び「Sto7-mClover3」について、2本鎖DNAへの結合をゲルシフトアッセイで評価した。
【0080】
アッセイの際には、反応溶液(1×BSA Buffer(40mM Tris-HCl(pH7.8)、1mM DTT、1mM MgCl、0.2mg/ml BSA)、5ng/μL 2本鎖DNA、2.5ng/μL 本発明の各融合タンパク質)を調製し、室温で30分間インキュベートした。
また、ネガティブコントロールとして対照反応溶液(1×BSA Buffer(40mM Tris-HCl(pH7.8)、1mM DTT、1mM MgCl、0.2mg/ml BSA)、5ng/μL 2本鎖DNA)を調製し、室温で30分間インキュベートした。
【0081】
(2)結果
得られた反応産物を、1%アガロースゲルで電気泳動を実施した。
その結果、4種類の本発明の融合タンパク質それぞれを含む2本鎖DNAのバンドは、2本鎖DNAのみのバンドと比較して、バンドの位置が上に出現した。このことから、2本鎖DNA結合タンパク質の2本鎖DNAへの結合によってゲルシフトが生じたことが示された。
上記の結果は、4種類の本発明の融合タンパク質は、2本鎖DNAへの結合活性を有することを意味する。特に、「Aho7c-mClover3」の2本鎖DNAへの結合によるバンドの移動度が高かったため、「Aho7c-mClover3」は2本鎖DNAへの結合親和性が特に高いことが示された。
【0082】
<試験4>
以下の方法に基づき、本発明の融合タンパク質による2本鎖DNAの可視化を行った。
【0083】
(1)DNA伸長固定のための基板の作成
本試験における可視化機構は以下のとおりである。
ガラス基板表面に、蛍光標識したDNA溶液をスポットし、蛍光顕微鏡でイメージングをすると、溶液内でDNA分子がブラウン運動することで、ランダムなコンフォメーションをとる。このため、DNA分子は光点としてしか観察されないため、DNAの全長鎖を把握できず、DNAに作用するタンパク質の位置情報や反応過程を捉えることが難しい(例えば、M. Oshigeら, Anal. Biochem. 400 (2010) 145-147;M. Oshigeら、J. Fluoresc. 21 (2011) 1189-1194)。
そこで、本発明者は、ガラス基板をアミノシラン化することで、ガラス基板表面をプラスにチャージすることで、マイナスにチャージされているDNA分子を伸張させ、蛍光標識したDNA1分子のイメージングを行った。
【0084】
分子コーミング法に基づき、DNA伸長固定のためのアミノシラン化ガラス基板を作製した。
まず、スライドガラス(松浪硝子社製)をガラスケースに入れた後、スライドガラスを1%(V/V)コンタミノンUSに浸漬し、50℃で30分間超音波洗浄を実施した。
次いで、スライドガラスをエタノールと脱イオン蒸留水で2回繰り返して洗浄した後、30%の過酸化水素に浸漬し、4℃で16時間程度インキュベートした。
インキュベート後、エタノールを溶媒とした2%(V/V)の3-aminopropyltriethoxysilane溶液(ナカライテスク社製)にスライドガラスを浸漬し、室温で1時間程度インキュベートした。
その後、アミノシラン化スライドガラスをエタノールで洗浄し、100℃で2時間以上ベークし、アミノシラン化ガラス基板を得た。
【0085】
(2)本発明の融合タンパク質による2本鎖DNAの可視化
4種類の本発明の融合タンパク質を用いて、2本鎖DNAであるλDNA(48,502bp)を可視化するため、反応溶液(1×BSA Buffer(40mM Tris-HCl(pH7.8)、1mM DTT、1mM MgCl、0.2mg/ml BSA)、0.25ng/μL λDNA、0.5ng/μL 本発明の各融合タンパク質)を調製し、室温で30分間インキュベートした。
また、コントロールとして対照反応溶液(1×BSA Buffer(40mM Tris-HCl(pH7.8)、1mM DTT、1mM MgCl、0.2mg/ml BSA)、0.25ng/μL λDNA、100nM SYTOX Green(Thermo Fisher Scientific社製))を調製し、室温で30分間インキュベートした。
その後、得られた調製溶液をアミノシラン処理ガラス基板に垂らし、液滴移動によりλDNAを伸長固定した。
次いで、コアユニット顕微鏡(シグマ光機社製)、青色LED蛍光ユニット(OptoSigma社製)、及び100x1.3開口数(NA)油浸対物レンズ(オリンパス社製)を用いて、青色励起のLEDの一定光量条件下(LEDライト用のコントロールユニット(CSS社製)を使用して、高レンジ調光レベル2の条件下)で蛍光標識DNAを直接観察した。蛍光画像は、CS-67M高感度冷却カメラ(ビットラン社製)を用いて取得した。このとき、励起波長及び発光波長は、488nmフィルターセット(青色励起光、EX448-63、DM494、及びEM526-52;OptoSigma社製)を選択した。
【0086】
(3)結果
画像解析の結果、本発明の各融合タンパク質とλDNAとの複合体のそれぞれが、伸長状態で直接観察された。すなわち、本発明の各融合タンパク質とλDNAとの結合によって、蛍光観察が可能であることがわかった。
【0087】
また、本発明の各融合タンパク質とλDNAとの複合体、及び、核酸染色試薬(SYTOX Green)で標識したλDNAのそれぞれにおける、蛍光退色時間(Fluorescence decay time、単位:秒)を図1に示す。図中、蛍光退色時間が長いほど、退色するまでの時間が長かったことを意味する。
【0088】
図1に示されるとおり、本発明の各融合タンパク質とλDNAとの複合体「Sso7d-mClover3-λDNA複合体」、「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」、「ATSV7-mClover3-λDNA複合体」、「Sto7-mClover3-λDNA複合体」は、それぞれ、153秒、322秒、107秒、161秒程度で退色した。
これに対し、コントロールとして用いた、核酸染色試薬(SYTOX Green)で標識したλDNAは、48秒程度で蛍光が退色した。
したがって、本発明の各融合タンパク質による2本鎖DNAの蛍光退色時間は、核酸染色試薬で染色した2本鎖DNAの蛍光退色時間よりも非常に遅いことが示された。
【0089】
また、「Aho7c-mClover3」は、上記<試験3>でも示されたとおり、2本鎖DNAとの結合親和性が特に高く、その他の融合タンパク質を用いた場合よりも、蛍光退色時間が2倍以上長かった。
このことから、「Aho7c-mClover3」は、長時間のDNAの蛍光を捉えることが可能な蛍光標識剤として有用であることが示された。
【0090】
<試験5-1>
以下の方法に基づき、「Aho7c-mClover3」と2本鎖DNAとの結合に対する塩による影響を、試験管内実験において検討した。
なお、以下、塩としては塩化ナトリウムを用いた。
【0091】
(1)2本鎖DNAとの結合に対する塩による影響の評価
塩(塩化ナトリウム等)を含む水溶液は、DNA-タンパク質間の静電的な相互作用を遮蔽することにより、DNAからタンパク質を脱離させることができる。そのため、DNAへのタンパク質の結合の性質は、塩を含む緩衝液を用いることによって評価することができる。
そこで、本発明者は、本発明の融合タンパク質のうち、「Aho7c-mClover3」について、2本鎖DNAとの結合に対する塩による影響をゲルシフトアッセイで評価した。
【0092】
アッセイの際には、異なる塩濃度(0、100、200、300、400、又は500mM)の緩衝液(1×BSA Buffer、5ng/μL 2本鎖DNA、2.5ng/μL Aho7c-mClover3)で、「Aho7c-mClover3」と2本鎖DNAとの複合体を形成させ、室温で30分間インキュベートした。
その後、得られた反応産物を1%アガロースゲルで電気泳動した。
【0093】
(2)結果
0、100、又は200mMの塩濃度では、「Aho7c-mClover3」の2本鎖DNAへの結合によって、DNAのバンドの位置が上にシフトすることが示された。
このことは、200mM程度までの塩濃度では、「Aho7c-mClover3」の2本鎖DNAへの結合が維持されたことを意味する。
【0094】
他方で、300mM以上の塩濃度では、「Aho7c-mClover3」の2本鎖DNAへの結合によって生じたDNAバンドのシフトが解消された。
このことは、300mM以上の塩濃度では、「Aho7c-mClover3」と2本鎖DNAとの結合が塩によって遮蔽され、2本鎖DNAから「Aho7c-mClover3」が脱離したことを意味する。
【0095】
以上の結果から、「Aho7c-mClover3」は、2本鎖DNAに対して、静電気相互作用に基づき結合していることが示された。
【0096】
<試験5-2>
上記<試験5-1>の結果、「Aho7c-mClover3」の2本鎖DNAへの結合は、塩濃度が300mM以上である場合に、相互作用が遮蔽され、2本鎖DNAからタンパク質が解離することが示された。
しかしながら、試験管内実験の結果は、多分子の挙動の平均値の情報しか反映しておらず、個々の分子の揺らぎの影響を解析することはできない。
そこで、以下の方法に基づき、個々の分子の平均値からの揺らぎの影響を解析した。
【0097】
(1)1分子イメージングでの複合体の塩による影響の評価
異なる塩濃度(0、25、50、100、200、又は300mM)の塩濃度を含む緩衝液(1×BSA Buffer、5ng/μL λDNA、2.5ng/μL Aho7c-mClover3)で、「Aho7c-mClover3」とλDNAとの複合体を形成させ、室温で30分間インキュベートした。
その後、得られた調製溶液を、アミノシラン処理ガラス基板に垂らし、液滴移動により、「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」を伸長固定した。
次いで、コアユニット顕微鏡(シグマ光機社製)、青色LED蛍光ユニット(OptoSigma社製)、及び100x1.3開口数(NA)油浸対物レンズ(オリンパス社製)を用いて、青色励起のLEDの一定光量条件下(LEDライト用のコントロールユニット(CSS社製)を使用して、高レンジ調光レベル2の条件下)で蛍光標識DNAを直接観察した。蛍光画像は、CS-67M高感度冷却カメラ(ビットラン社製)を用いて取得した。このとき、励起波長及び発光波長は、488nmフィルターセット(青色励起光、EX448-63、DM494、及びEM526-52;OptoSigma社製)を選択した。
【0098】
(2)結果
25mMの塩濃度では、「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」は、伸長状態で観察されたが、そのDNAの全長は、塩含まない緩衝液での「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」の全長よりも3倍程度短くなった。
このことは、塩によって、「Aho7c-mClover3」が2本鎖DNAを凝集させたことを意味する。
【0099】
50、100、200、又は300mMの塩濃度では、「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」は光点としてのみ観察された。また、緩衝液の塩濃度の増加にともない、「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」の光点の数が減少した。
このことは、「Aho7c-mClover3」のλDNAへの結合が、塩による遮蔽効果によって妨げられたため、「Aho7c-mClover3」がλDNAから解離したことを意味する。
【0100】
以上から、50mM以上の塩濃度では、「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」が凝集し、光点として観察されることがわかった。
そこで、塩濃度が100mMである緩衝液で、「Aho7c-mClover3」とλDNAとの複合体を形成させた後、その一部の溶液を、塩を含まない緩衝液に加えた場合における、「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」のDNA形態を評価した。
その結果、100mMの塩濃度では、「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」は光点としてしか観察されなかったが、複合体を形成させた後の一部の溶液を、塩を含まない緩衝液に加えた場合においては、伸長状態の「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」が観察された(図2)。
このことから、塩濃度の変化によって、「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」の形態が、伸張状態から凝集状態に変化することが示された。
【0101】
<試験6>
以下の方法に基づき、本発明の各融合タンパク質とλDNAとの複合体を基質とした、生化学的試験を行った。
このような試験において生化学的反応の有無を確認することで、本発明の各融合タンパク質が、DNAの蛍光標識剤として、DNAに働くタンパク質の動態挙動や、DNA複製等のDNA代謝を阻害するのか、あるいは、阻害せずに、その反応過程を捉えることができるかどうかがわかる。
【0102】
(1)生化学的試験
本例では、誌試験管内実験を行い、本発明の各融合タンパク質が結合した2本鎖DNAと基質とした、DNA分解酵素(T7 Exonuclease)によるDNAの分解を評価した。
【0103】
T7 ExonucleaseによるDNA分解反応を評価するために、反応溶液(1×NE Buffer4(ニューイングランドバイオラボ社製)、5ng/μL 2本鎖DNA、2.5ng/μL 本発明の各融合タンパク質)を調製し、室温で30分間インキュベートした。
また、ネガティブコントロールとして対照反応溶液(1×NE Buffer、4.5ng/μL 2本鎖DNA)を調製し、室温で30分間インキュベートした。
その後、得られた反応溶液に、0.1units/μL(最終濃度)T7 Exonucleaseを加え、25℃で30分間インキュベートした。
得られた反応産物を1%アガロースゲルで電気泳動した。
【0104】
(2)結果
T7 ExonucleaseによるDNA分解活性によって、「Sso7d-mClover3-λDNA複合体」、「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」、「ATSV7-mClover3-λDNA複合体」、「Sto7-mClover3-λDNA複合体」におけるDNAが分解することが確認された。
他方で、T7 Exonuclease非存在下では、DNAは分解されず、これらの複合体は維持された。
これらの結果から、本発明の各融合タンパク質は、DNA複製を始めとするDNA代謝を阻害せずに、DNAを蛍光標識できることがわかった。このことは、DNA-タンパク質間相互作用(転写やDNA複製等)を阻害する核酸染色試薬等の蛍光化合物と比較して、本発明の各融合タンパク質が、生体反応を阻害しにくいことを示唆する。
【0105】
<試験7>
上記の試験から、本発明の融合タンパク質のうち、「Aho7c-mClover3」は、2本鎖DNAへの蛍光標識において特に有効であることが示された。
そこで、本例では、「Aho7c-mClover3」が結合した2本鎖DNAの動態挙動を分析した。このような挙動を捉えることができれば、DNA複製を始めとするDNA代謝過程の蛍光イメージングが可能となる。
【0106】
(1)動的挙動解析
1分子イメージングは、試験管内実験では覆い隠されて解析することができない対象(例えば、DNAに作用するタンパク質の動態挙動、DNA複製等のDNA代謝の反応過程)の解析に有効である。
本例では、微細流路装置を用いて、1分子イメージングによる、「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」の動態挙動を評価した。
【0107】
微細流路内でのガラス基板を作製するために、清浄なスライドガラスにポリジメチルシロキサン(PDMS)流路(ヨダカ技研社製)を貼り付けた後、マイクロシリンジポンプ(KDS scientific社製)を用いて、33nM Neutravidinを含む、1×BSA bufferをマイクロ流路に注入した。
注入後、マイクロシリンジポンプを用いて、リポソームBuffer(10mM Tris-HCl(pH8.0)、100mM NaCl)をマイクロ流路に注入した。
その後、マイクロシリンジポンプを用いて、0.4mg/mLのDOPC(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine)リポソーム(TCI社製)をマイクロ流路に注入した。次いで、マイクロシリンジポンプを用いて、リポソームBufferをマイクロ流路に注入した。
注入後、λDNAの片末端にビオチン修飾した、0.01ngのビオチン化λDNAを含む、1×BSA bufferをマイクロ流路に注入することで、基板表面にビオチン化λDNAを固定化させた。
固定化後、20nMの「Aho7c-mClover3」を含む、1×BSA bufferをマイクロ流路に注入することで、ビオチン化λDNAに「Aho7c-mClover3」を結合させた。
余剰の蛍光を取り除くため、1×BSA bufferをマイクロ流路に注入することで、基板を洗浄した。
【0108】
コアユニット顕微鏡(シグマ光機社製)、青色LED蛍光ユニット(OptoSigma社製)、及び100x1.3開口数(NA)油浸対物レンズ(オリンパス社製)を用いて、青色励起のLEDの一定光量条件下(LEDライト用のコントロールユニット(CSS社製)を使用して、高レンジ調光レベル2の条件下)で蛍光標識DNAを直接観察した。蛍光画像は、CS-67M高感度冷却カメラ(ビットラン社製)を用いて取得した。このとき、励起波長及び発光波長は、488nmフィルターセット(青色励起光、EX448-63、DM494、及びEM526-52;OptoSigma社製)を選択した。
【0109】
(2)結果
「Aho7c-mClover3-λDNA複合体」は、流路内の溶液流れがある状態では伸長状態を維持し、溶液流れがない状態ではランダムコイル状態へと変化した。
このような挙動は、核酸染色試薬で標識したλDNAの動的挙動と同様であることから、「Aho7c-mClover3」がDNAの1分子蛍光イメージングにおいて有用であることが示された。
【0110】
<試験8>
以下の方法に基づき、フローサイトメトリーによる「Aho7c-mClover3」の細胞内核染色の解析を行った。
【0111】
(1)フローサイトメトリー
10%ウシ胎児血清(ニチレイ社製)、及び75mg/l 硫酸カナマイシン(富士フイルム和光純薬社製)を添加した「RPMI-1640培地」(Sigma-Aldrich社製)を使用し、ヒト白血病T細胞株Jurkat細胞の培養を行った。
培養は、95%のエアー、5%のCOの条件下で、37℃のインキュベーター(ESPEC Osaka Japan社製)で行った。
培養後、細胞(1×10)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、透過性緩衝液(0.1%のTriton-X 100を含むPBS緩衝液)に懸濁した。
【0112】
細胞内の核を染色するため、以下のいずれかを添加した。
・1ng/μLの「Aho7c-mClover3」、及び0.5mg/mL RNaseAを含む溶液
・2μg/mL ヨウ化プロピジウム(PI)(富士フイルム和光純薬社製)、及び0.5mg/mL RNaseAを含む溶液
・0.5mg/mL RNaseAのみを含む溶液
【0113】
各細胞について、フローサイトメトリー(BD FACS Calibur; Becton Dickinson社製)による解析を行った。
得られたデータは「Cell Quest」(Becton Dickinson社製)を使用して解析した。
【0114】
(2)結果
フローサイトメトリーによる解析結果を図3に示す。
図3に示されるとおり、「Aho7c-mClover3」によって細胞内の核が蛍光標識されたことで、細胞内のDNA含有量の評価が可能であることが示された。
以上から、「Aho7c-mClover3」は、細胞内の核染色として使用できるだけでなく、細胞内DNA含有量評価に適用できることが示された。
【0115】
特に、「Aho7c-mClover3」により蛍光標識された細胞内DNA含有量を示すヒストグラムは、ヨウ化プロピジウム(PI、細胞内DNA含有量評価において一般的に使用される核酸染色試薬)により染色された細胞内DNA含有量を示すヒストグラムとほぼ同様であった。
ただし、PIで染色した細胞内DNA含有量を示すヒストグラムでは、細胞周期のM期を示すピークが検出されたが、「Aho7c-mClover3」で蛍光標識した細胞内DNA含有量を示すヒストグラムでは、細胞周期のM期を示すピークはほとんど検出されなかった。
このことは、細胞周期のM期において、細胞内の核で染色体凝縮が起こり、「Aho7c-mClover3」が裸のDNAにアクセスすることができなかったことによると推察される。すなわち、「Aho7c-mClover3」は、細胞周期のM期の生化学的解析においても利用し得る。
【0116】
また、「Aho7c-mClover3」で染色された細胞と、PIで染色された細胞とは、細胞内状態が異なっていた。
具体的には、「Aho7c-mClover3」で染色された細胞の細胞内状態は、無染色の細胞内状態と同様であったのに対し、PIで染色された細胞の細胞内状態は、無染色の細胞内状態とは異なっていた。
このことから、「Aho7c-mClover3」は、細胞内の核内環境を維持しつつ、DNAの標識が可能であることが示唆された。
【0117】
<試験9>
以下の方法に基づき、「Aho7c-mClover3」による細胞内核染色を、共焦点顕微鏡で直接観察した。
【0118】
(1)共焦点顕微鏡による細胞内核染色の直接観察
10%ウシ胎児血清(ニチレイ社製)、及び75mg/l 硫酸カナマイシン(富士フイルム和光純薬社製)を添加した「RPMI-1640培地」(Sigma-Aldrich社製)を使用し、ヒト肝癌由来細胞株HepG2細胞の培養を行った。
培養は、95%のエアー、5%のCOの条件下で、37℃のインキュベーター(ESPEC Osaka Japan社製)で行った。
培養後、細胞(約1×10個)を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で、0.25×10cells/mLに希釈し、ガラスボトムディッシュ(松浪硝子工業株式会社製)に3.0mLずつ播種した。
ガラスボトムディッシュ中の培養細胞を72時間さらにインキュベートした後、細胞培養液をアスピレートし、PBSで2回洗浄し、「非固定化細胞(生細胞)」を得た。
次いで、得られた非固定化細胞を、1.0mLの4%パラホルムアルデヒドに浸し、4℃で15分間静置して固定した、その後、固定化細胞をPBSで3回洗浄した。洗浄後の細胞は、「固定化細胞」に相当する。
【0119】
固定化細胞内、及び非固定化細胞(生細胞)内の核を染色するため、以下のいずれかを添加した。
(染色液-1)1μgの「Aho7c-mClover3」、及び0.1%Triton X100(富士フイルム和光純薬)を含む溶液
(染色液-2)25μgのヨウ化プロピジウム(PI)(富士フイルム和光純薬社製)、及び0.1%Triton X100を含む溶液
(対照染色液)PBS、及び0.1%Triton-X100溶液を含む溶液
【0120】
各細胞について、共焦点顕微鏡(「共焦点レーザ走査型顕微鏡FV10i FLUOVIEW」、オリンパス社製)による直接観察を行った。
観察時の励起光の波長は、473nm(「Aho7c-mClover3」の励起レーザー波長)、又は、559nm(ヨウ化プロピジウム(PI)の励起レーザー波長)に設定した。
得られたデータはImage J (アメリカ国立衛生研究所(NIH)製)で解析した。
【0121】
(2)結果
共焦点顕微鏡による細胞内核染色の直接観察を図4及び5に示す。図4は、固定化細胞を染色した結果であり、図5は、非固定化細胞(生細胞)を染色した結果である。
【0122】
各図において、「Aho7c-mClover3」は、「染色液-1」で染色された細胞の観察結果である。「PI」は、「染色液-2」で染色された細胞の観察結果である。「Non-dye」は、「染色液-3」で染色された細胞の観察結果である。
また、各図において、「Phase contrast」は明視野像である。「473nm」は、473nmの励起光を照射した際の観察結果である。「559nm」は、559nmの励起光を照射した際の観察結果である。「Merged」は、「Phase contrast」、「473nm」及び「559nm」の各画像を重ね合わせたものである。
【0123】
図4及び5に示されるとおり、「Aho7c-mClover3」によって細胞内の核が蛍光標識されたことが示された。
したがって、「Aho7c-mClover3」は、共焦点顕微鏡による細胞内の核染色試薬として使用できることがわかる。
【0124】
特に、図4に示されるとおり、ガラス表面上に固定化された細胞は「Aho7c-mClover3」により細胞内の核のみが染色されていた。
一方、ヨウ化プロピジウム(PI、細胞内DNA含有量評価において一般的に使用される核酸染色試薬)により染色された固定化細胞は細胞内全体が染色された。
以上の結果から、ガラス表面上に固定化された細胞では、「Aho7c-mClover3」によって、ヨウ化プロピジウム等の核酸染色試薬よりも鮮明に細胞内の核のみを染色できることが示された。
【0125】
以上から、「Aho7c-mClover3」は、固定化細胞及び生細胞内の核内染色が可能であることが示されたことから、「Aho7c-mClover3」を用いた細胞周期解析がアポトーシス検出等に使用できる可能性が明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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