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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181937
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】コンバイン
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
A01B69/00 303Q
A01B69/00 303K
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095349
(22)【出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】神▲崎▼ 健豪
(72)【発明者】
【氏名】平井 大輔
【テーマコード(参考)】
2B043
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB20
2B043BA02
2B043BA05
2B043BB14
2B043DC01
2B043EA26
2B043ED12
2B043EE05
(57)【要約】
【課題】
作業者の操縦技能に左右されず、次の刈取作業条の刈取開始位置に能率的に移動することが可能なコンバインを提供すること。
【解決手段】
走行装置で走行する機体の前側に刈取装置を設け、刈取装置で刈り取った穀稈から穀粒を分離する選別装置を設け、機体の位置情報を受信する位置情報受信装置を設け、位置情報受信装置から受信した位置情報を記録させる位置情報取得部材を設け、記録した位置情報から直進走行の基準となる第1直進基準線を算出する走行演算装置を備えると共に、走行演算装置により第1直進基準線に沿って走行させる走行アシスト機能を入切するアシスト操作部材を設け、刈取装置の刈取作業を検出する刈取センサを設け、刈取センサが非検知状態になると、第1直進基準線に直交する第2直進基準線を算出する構成である。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】

走行装置(2)で走行する機体の前側に刈取装置(3)を設け、該刈取装置(3)で刈り取った穀稈から穀粒を分離する選別装置(4)を設けたコンバインにおいて、
機体の位置情報を受信する位置情報受信装置(51)を設け、該位置情報受信装置(51)から受信した位置情報を記録させる位置情報取得部材(52)を設け、記録した位置情報から直進走行の基準となる第1直進基準線(BG1)を算出する走行演算装置(50)を備えると共に、該走行演算装置(50)により第1直進基準線(BG1)に沿って走行させる走行アシスト機能を入切するアシスト操作部材(56)を設け、
前記刈取装置(3)の刈取作業を検出する刈取センサ(57)を設け、該刈取センサ(57)が非検知状態になると、前記第1直進基準線(BG1)に直交する第2直進基準線(BG2)を算出することを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記第2直進基準線(BG2)が算出されるとき、前記位置情報受信装置(51)が取得する現在の位置情報を記録すると共に、取得した位置情報のうち、機体の進行方向に直交する方向の位置座標を、現在位置から機体左右一側方向に所定距離離間する方向に移動させて次工程直進基準点(NB)として記録し、
前記走行装置(2)は、該次工程直進基準点(NB)に向かって自動旋回走行することを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記走行装置(2)は、前記刈取センサ(57)が穀稈を検出しなくなると、斜め前方向に走行し、旋回角度が一定値に到達したときに後進走行に切り替わると、前記次工程直進基準点(NB)に向かう走行の制御が開始されることを特徴とする請求項2に記載のコンバイン。
【請求項4】
機体の進行方向の方位を検出する方位センサ(51a)を設け、
前記走行演算装置(50)は、前記次工程直進基準点(NB)と、前記位置情報受信装置(51)が受信する現在位置との距離を算出すると共に、前記第1直進基準線(BG1)または第2直進基準線(BG2)と該方位センサ(51a)の方位偏差を算出し、
前記走行演算装置(50)は、距離が小さくなり、且つ方位偏差が所定角度に近付く方向に前記走行装置(2)を後進自動操舵させ、前記次工程直進基準点(NB)に到達すると制御を終了することを特徴とする請求項3に記載のコンバイン。
【請求項5】
前記走行演算装置(50)は、後進自動走行を始めると、次工程直進基準点(NB)に到達するまでの距離、または方位偏差を算出し、
後進自動走行の開始から一定時間の移動距離、及び方位偏差角度を一移動単位として記録し、前記次工程直進基準点(NB)に到達するまでに必要な時間を算出することを特徴とする請求項4に記載のコンバイン。
【請求項6】
前記一定時間内の移動距離と一定時間内の方位偏差角度を比較し、一定時間内の移動距離が多いときは前記走行装置(2)のブレーキ出力を大きくすると共に、
時間内の方位角度変化が大きいときは前記走行装置(2)のブレーキ出力を小さくすることを特徴とする請求項5に記載のコンバイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直進走行しながら刈取装置で穀稈を刈り取るコンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のコンバインにおいて、機体を直進走行させて穀稈を刈り取り、刈取条の端部まで到達すると、約90度機体の向きを変えて、直交方向に刈取走行して圃場の中央へ向かっていく収穫方法があり、機体の向きを変える際に、ディスプレイに分草杆を示す仮想線を表示して作業者の操縦をアシストする技術が存在する。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019- 80496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では、作業者は仮想線に合わせて機体の進行方向を操作しなければならず、同時に刈取装置の高さ合わせ等の操作も必要となるので、特に操縦に不慣れな作業者では操縦のアシスト効果が得られない問題がある。
【0005】
また、圃場の形状や稲の生育状態によっては、一部を刈り取れないことや、逆に一部を走行装置で踏み潰し得る移動となるので、後から刈取に移動する余分な工数が発生すると共に、収穫量が減少する問題がある。
【0006】
本願発明は、上記の問題を解消すべく、作業者の操縦技能に左右されず、次の刈取作業条の刈取開始位置に能率的に移動することが可能なコンバインを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明は次のとおりである。

すなわち、請求項1の発明は、走行装置(2)で走行する機体の前側に刈取装置(3)を設け、該刈取装置(3)で刈り取った穀稈から穀粒を分離する選別装置(4)を設けたコンバインにおいて、機体の位置情報を受信する位置情報受信装置(51)を設け、該位置情報受信装置(51)から受信した位置情報を記録させる位置情報取得部材(52)を設け、記録した位置情報から直進走行の基準となる第1直進基準線(BG1)を算出する走行演算装置(50)を備えると共に、該走行演算装置(50)により第1直進基準線(BG1)に沿って走行させる走行アシスト機能を入切するアシスト操作部材(56)を設け、前記刈取装置(3)の刈取作業を検出する刈取センサ(57)を設け、該刈取センサ(57)が非検知状態になると、前記第1直進基準線(BG1)に直交する第2直進基準線(BG2)を算出することを特徴とするコンバインである。
【0008】
請求項2の発明は、前記第2直進基準線(BG2)が算出されるとき、前記位置情報受信装置(51)が取得する現在の位置情報を記録すると共に、取得した位置情報のうち、機体の進行方向に直交する方向の位置座標を、現在位置から機体左右一側方向に所定距離離間する方向に移動させて次工程直進基準点(NB)として記録し、前記走行装置(2)は、該次工程直進基準点(NB)に向かって自動旋回走行することを特徴とする請求項1に記載のコンバインである。
【0009】
請求項3の発明は、前記走行装置(2)は、前記刈取センサ(57)が穀稈を検出しなくなると、斜め前方向に走行し、旋回角度が一定値に到達したときに後進走行に切り替わると、前記次工程直進基準点(NB)に向かう走行の制御が開始されることを特徴とする請求項2に記載のコンバインである。
【0010】
請求項4の発明は、機体の進行方向の方位を検出する方位センサ(51a)を設け、前記走行演算装置(50)は、前記次工程直進基準点(NB)と、前記位置情報受信装置(51)が受信する現在位置との距離を算出すると共に、前記第1直進基準線(BG1)または第2直進基準線(BG2)と該方位センサ(51a)の方位偏差を算出し、前記走行演算装置(50)は、距離が小さくなり、且つ方位偏差が所定角度に近付く方向に前記走行装置(2)を後進自動操舵させ、前記次工程直進基準点(NB)に到達すると制御を終了することを特徴とする請求項3に記載のコンバインである。
【0011】
請求項5の発明は、前記走行演算装置(50)は、後進自動走行を始めると、次工程直進基準点(NB)に到達するまでの距離、または方位偏差を算出し、後進自動走行の開始から一定時間の移動距離、及び方位偏差角度を一移動単位として記録し、前記次工程直進基準点(NB)に到達するまでに必要な時間を算出することを特徴とする請求項4に記載のコンバインである。
【0012】
請求項6の発明は、前記一定時間内の移動距離と一定時間内の方位偏差角度を比較し、一定時間内の移動距離が多いときは前記走行装置(2)のブレーキ出力を大きくすると共に、時間内の方位角度変化が大きいときは前記走行装置(2)のブレーキ出力を小さくすることを特徴とする請求項5に記載のコンバインである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、走行アシスト機能の作動中に刈取センサ(57)が穀稈の刈取を検出しなくなると、刈取作業条の端部に到達したと判断し、第2直進基準線(BG2)を第1直進基準線(BG1)に直交させて形成することにより、次の刈取作業条でも走行アシスト機能を用いて刈取走行ができ、刈取精度が向上する。
【0014】
また、第2直進基準線(BG2)を第1直進基準線(BG1)を元に算出できるので、走行演算装置(50)の負荷が抑えられる。
【0015】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果に加えて、第2直進基準線(BG2)を算出する際、現在の位置座標から機体左右一側方向に所定距離離間する位置を次工程直進基準点(NB)として記録することにより、現在の刈取作業条とも次の刈取作業条に機体を移動させることになるので、穀稈を踏むことなく移動でき、収穫量の減少が防止される。
【0016】
また、次の刈取作業条から離間した点を目標に機体を自動走行させてから刈取を開始するので、作業者の労力が大きく軽減されると共に、刈取再開前に走行位置の調節ができ、精度よく穀稈の刈取を行える。
【0017】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明による効果に加えて、刈取終了位置から斜め前方向に走行すると共に、旋回角度が所定角度に到達してから後進操作が行われると次工程直進基準点(NB)に向かう走行制御が開始されるので、作業者の操縦技術に関係なく次工程の刈取作業条に適した位置の移動が可能になる。
【0018】
請求項4の発明によれば、請求項3の発明による効果に加えて、走行演算装置(50)が機体を後進自動操舵させ、次工程直進基準点(NB)と機体の距離及び方位偏差が小さくなる方向に移動させることにより、次の刈取作業条への誘導精度が向上する。
【0019】
請求項5の発明によれば、請求項4の発明による効果に加えて、一移動単位分の移動距離と方位偏差角度に基づき次工程直進基準点(NB)に到達する予想時刻を算出することにより、作業者が後進自動走行終了後に次の刈取作業走行に移行しやすく、作業能率の低下を防止できる。
【0020】
請求項6の発明によれば、請求項5の発明による効果に加えて、移動距離と方位偏差角度の比較から走行ブレーキの出力の強弱を変更することにより、次工程直進基準点(NB)に確実に到達できるので、刈取作業位置のズレによる穀稈の刈り残しが防止される。
【0021】
また、既に穀稈の刈られた、既刈り位置に刈取装置の一部が臨むことを防止できるので、能率的でない刈取作業が行われることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】コンバインの正面図
図2】コンバインの平面図
図3】コンバインの左側面図
図4】エンジンEの出力回転の伝動図
図5】エンジンEの出力回転の走行装置と刈取装置への伝動図
図6】主変速レバーの説明図
図7】無段変速装置の説明図
図8】後進90度旋回を示す模式図
図9】各操作装置と制御対象を示すブロック図
図10】第1直進基準線の算出制御を示すフローチャート
図11】(a)第1直進基準線が算出される場合を示す模式図 (b)第1直進基準線が算出されない場合を示す模式図 (c)第1及び第2直進基準線が算出される場合を示す模式図
図12】直進アシスト制御を示すフローチャート
図13】後進90度旋回制御を示すフローチャート
図14】別構成の後進90度旋回制御を示すフローチャート
図15】別構成の後進90度旋回制御を示すフローチャート
図16】現在位置と次工程直進基準点までの距離から到達予測時間を算出する制御を示すフローチャート
図17】現在位置と次工程直進基準点の方位偏差から到達予測時間を算出する制御を示すフローチャート
図18】距離及び方位偏差に基づく到達予測時間の差に基づく後進90度旋回の走行速度制御を示すフローチャート
図19】スイッチパネルを示す正面図
図20】ボリュームダイヤル操作中の音声ガイドを停止させる制御を示すフローチャート
図21】操作レバーの左右方向連続操作時に音声ガイドを停止させる制御を示すフローチャート
図22】直進アシストを無視した手動操作時に音声ガイドを停止させる制御を示すフローチャート
図23】穀稈センサと補助穀稈センサによる穀稈の検出制御を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1から図3に示すとおり、コンバインは、機体フレーム1の下側に左右一対のクローラからなる走行装置2が設けられ、機体フレーム1の前側に圃場に植生する穀稈を収穫する刈取装置3が設けられている。また、刈取装置3の後方左側部に刈取装置3で収穫された穀稈を脱穀・選別処理する脱穀装置4が設けられ、刈取装置3の後方右側部に作業者が搭乗する操縦部5が設けられる。
【0024】
操縦部5の下側には、エンジンEを搭載するエンジンルーム6が設けられ、操縦部5の後側には、脱穀装置4で脱穀・選別処理された穀粒を貯留するグレンタンク7が設けられ、グレンタンク7に貯留された穀粒は、グレンタンク7に連結された排出オーガ70によって外部に排出される。そして、操縦部5の操縦席の前方にはフロントパネル10が設けられると共に、操縦席の左方にはサイドパネル15が設けられる。
【0025】
フロントパネル10の左部には、エンジンのEの出力回転等を表示するモニタ11が設けられ、右部には、走行装置2の旋回や刈取装置3の昇降を操作する操作レバー12が設けられている。なお、操作レバー12の姿勢は、操作レバー12の下部に装着されたポテンションメータ等の角度センサ12Sで測定される。
【0026】
また、フロントパネル10の下側に位置するフロアにおける前側左部には、後述するトランスミッション21に設けられた左右一対のブレーキ装置38の作動と作動解除を行う駐車ブレーキペダル13が設けられ、フロアにおける前側右部には、後述する刈取クラッチの接続と接続解除を行う掻込ペダル14が設けられている。
【0027】
なお、駐車ブレーキペダル13の踏込み姿勢は、駐車ブレーキペダル13の下部に装着されたリミットスイッチや接触センサ等のセンサ13Sで測定され、近接センサ等のポテンションメータ等の角度センサ12Sで測定され、掻込ペダル14の踏込み姿勢は、掻込ペダル14の下部に装着されたリミットスイッチや接触センサ等のセンサ14Sで測定される。
【0028】
サイドパネル15の前部には、エンジンEの出力回転の増減速と回転方向の切替えを行う無段変速装置20を操作する主変速レバー(請求項の「変速レバー」)16が設けられ、主変速レバー16の後側には、無段変速装置20の出力回転の増減速を行うトランスミッション21を操作する副変速レバー17が設けられ、副変速レバー17の後側には、刈取クラッチ22と脱穀クラッチ23の接続と接続解除を操作する刈脱レバー18が設けられている。
【0029】
図4に示すとおり、エンジンEから出力された出力回転は、伝動経路(請求項の「第1伝動経路」)A上に設けられた無段変速装置20に伝動される。無段変速装置20の入力軸44に伝動されたエンジンEの出力回転は、無段変速装置20で増減速と回転方向の切替えが行われてトランスミッション21に伝動される。
【0030】
トランスミッション21の入力軸30に伝動された無段変速装置20の出力回転は、トランスミッション21の多段ギヤで増減速されて出力軸34から出力されて走行装置2に伝動される。なお、走行装置2の走行速度vは、トラックホイールに装着されたタコジェネレータや機体フレーム1に装着されたジャイロ等の速度センサ2Sで測定される。トランスミッション21の出力軸31から出力された出力回転は、刈取クラッチ22を介して刈取装置3に伝動される。
【0031】
また、エンジンEから出力された出力回転は、伝動経路(請求項の「第2伝動経路」)B上に設けられた脱穀クラッチ23を介して脱穀装置4に伝動される。
【0032】
図5に示す、無段変速装置20の出力回転は、トランスミッション21の入力軸30に伝動される。この入力軸30に伝動された出力回転は、ギヤ30Aと、ギヤ31Aと、ギヤ32Aを介してカウンタ軸32に伝動される。ギヤ30Aは入力軸30に設けられ、ギヤ31Aは出力軸31に回転自在に設けられ、ギヤ32Aはカウンタ軸32に設けられている。
【0033】
カウンタ軸32に伝動された出力回転は、ギヤ32Bとギヤ33Aを介してカウンタ軸33に伝動される。ギヤ32Bはカウンタ軸32に設けられ、ギヤ33Aはカウンタ軸33に設けられている。
【0034】
カウンタ軸33に伝動された出力回転は、ギヤ33Aの両側に設けられた左右一対のギヤ33Bと左右一対の34Aを介して出力軸34に伝動される。ギヤ33Bはカウンタ軸33に設けられ、ギヤ34Aは出力軸34に左右方向に摺動可能に設けられている。
【0035】
カウンタ軸33の左右一対のギヤ33Bの両側部には、カウンタ軸33の回転を制動するブレーキ装置33Cが設けられている。これにより、操作レバー12を左側に傾斜させた場合には、左側のギヤ33Bの回転速度が右側のギヤ33Bの回転速度よりも遅くなり走行装置2を進行方向の左側に旋回させ、操作レバー12を右側に傾斜させた場合には、右側のギヤ33Bの回転速度が左側のギヤ33Bの回転速度よりも遅くなり走行装置2を進行方向の右側に旋回させることができる。
【0036】
出力軸34に伝動された出力回転は、ギヤ34Aの外側に設けられた左右一対のギヤ34Bと左右一対の35Aを介して走行装置2の入力軸35に伝動される。ギヤ34Bは出力軸34に左右方向に摺動可能に設けられ、ギヤ35Aは入力軸35に設けられている。
【0037】
カウンタ軸32に伝動された出力回転は、ギヤ32Cとギヤ31B、又は、ギヤ32Dとギヤ31Cを介して出力軸31に伝動される。ギヤ32Cとギヤ32Dはカウンタ軸32に設けられ、ギヤ31Bとギヤ31Cは出力軸31に左右方向に摺動可能に設けられている。また、ギヤ31Bとギヤ31Cはシフタ装置(図示省略)を操作してシフタ36を介して左右方向に移動させることができる。
【0038】
出力軸31に伝動された出力回転は、刈取クラッチ22を介して刈取装置3の入力軸37に伝動される。
【0039】
図6に示すように、主変速レバー16を中立姿勢にした場合には、無段変速装置20の出力回転はゼロになる。主変速レバー16を中立姿勢から前側傾斜姿勢した場合には、無段変速装置20の出力回転の回転方向はエンジンEの出力回転の回転方向と同じ正回転となり、前側傾斜姿勢の傾斜角度を大きくすると無段変速装置20の出力回転は増速され、前側傾斜姿勢の傾斜角度を小さくすると無段変速装置20の出力回転は減速される。また、主変速レバー16を中立姿勢から後側傾斜姿勢した場合には、無段変速装置20の出力回転の回転方向はエンジンEの出力回転の回転方向と逆さの逆回転となり、後側傾斜姿勢の傾斜角度を大きくすると無段変速装置20の出力回転は増速され、後側傾斜姿勢の傾斜角度を小さくすると無段変速装置20の出力回転は減速される。なお、主変速レバー16の姿勢は、主変速レバー16の下部に装着されたポテンションメータ等の角度センサ16Sで測定される。
【0040】
副変速レバー17を中立姿勢にした場合には、トランスミッション21の出力回転は増減速されない。副変速レバー17を中立姿勢から前側傾斜姿勢にした場合には、トランスミッション21の出力回転は増速され、副変速レバー17を中立姿勢から後側傾斜姿勢にした場合には、無段変速装置20から伝動された出力回転は減速される。なお、副変速レバー17の姿勢は、副変速レバー17の下部に装着されたポテンションメータ等の角度センサ17Sで測定される。
【0041】
刈脱レバー18を前側傾斜姿勢にした場合には、刈取クラッチ22と脱穀クラッチ23の接続は解除される。刈脱レバー18を後側傾斜姿勢にした場合には、刈取クラッチ22と脱穀クラッチ23が接続される。また、刈脱レバー18を前側傾斜姿勢と後側傾斜姿勢の間に位置する中立姿勢にした場合には、刈取クラッチ22の接続は解除され、脱穀クラッチ23は接続される。なお、刈脱レバー18の姿勢は、刈脱レバー18の下部に装着されたポテンションメータ等の角度センサ18Sで測定される。
【0042】
図7に示すとおり、無段変速装置20のトラニオン軸40には、扇形ギヤ41が支持され、扇形ギヤ41の外周部に形成されたギヤには、前進用モータ(請求項の「駆動手段」)42の出力軸に設けられたギヤ42Aと、後進用モータ(請求項の「駆動手段」)43の出力軸に設けられたギヤ43Aが係合している。これにより、主変速レバー16の姿勢、すなわち、角度センサ16Sの測定値に基づいて前進用モータ42と後進用モータ43を駆動して無段変速装置20のトラニオン軸40を回動してエンジンEの出力回転の増減速と回転方向の切替えを行うことができる。なお、エンジンEの出力回転は、無段変速装置20の入力軸44に伝動される。
【0043】
また、図7には、無段変速装置20のトラニオン軸40を扇形ギヤ41を介して前進用モータ42と後進用モータ43で回動させる形態を図示しているが、無段変速装置20のトラニオン軸40に径方向に延在するアームを支持し、このアームの外周部に前進用ソレノイドで駆動される前進用シリンダと後進用ソレノイドで駆動される後進用シリンダを連結する形態にすることもできる。
【0044】
コンバインを用いた稲の穀稈の刈取方法として、圃場の外周寄りの作業条から直線状に刈取を行い、刈取終端部到達すると、現在の刈取作業条に直交する方向、即ち約90度方向に旋回し、次の刈取作業条でも直進しながら刈取を続け、圃場の中心に向かって刈り続ける、というものがある。
【0045】
この90度旋回は、走行装置2が左右一対のクローラであるコンバインであれば、刈取終了位置で刈取装置3を上昇させた後、左右のクローラを各々逆方向に駆動させ、その場で90度旋回、所謂信地旋回することで簡単に実現できる。
【0046】
但し、信地旋回を行うと、その反力でクローラが圃場面の土を未刈取側の稲に向かって押し出し、穀稈が土の塊に押し倒されるおそれがある。こうなると、直交する刈取作業時に倒れた穀稈を分草杆や引起し装置で引き起こして収穫することになるが、倒れた苗は十分に引き起こされないと刈り取られないことがあり、後から手作業で刈り取り収穫しなければならなくなる。
【0047】
また、土の塊の入り混じった状態で穀稈を刈り取り、脱穀装置4に引き継がせると、刈取装置3や脱穀装置4の伝動系に砕けた土が入り込み、負荷による破損を引き起こすおそれがある。
【0048】
したがって、信地旋回を用いず旋回する作業例として、図8に示すとおり、刈取作業条の終了位置Eに到達すると、刈取装置3を上昇させ、機体斜め前側の展開ポイントTに機体を旋回走行させる。なお、機体が向かう展開ポイントTは穀稈の刈り取られていない未作業(未刈取)側N寄りに位置するので、走行装置2が穀稈を踏み潰さないよう、刈取作業条の終了位置Eから少し前方に直進してから旋回を開始する。
【0049】
そして、未作業位置から離間する位置に前進した後、後進走行に切り替え、後斜め方向の次工程直進基準点NBに旋回走行する。このとき、機体は前回の刈取作業条に直交する姿勢となると共に、刈取装置3が次の刈取条に臨む位置まで後進させる。
【0050】
これにより、圃場面の土を未収穫の穀稈に寄せることなく、また倒された穀稈を引き起こすことなく次の刈取作業条で刈取作業を行えるので、刈り残しの発生や、土等の夾雑物を巻き込むことによる破損が防止される。
【0051】
しかしながら、刈取作業条の終端から前進旋回走行するときは、穀稈を踏まない軌跡で移動しなければならず、及び次の刈取作業条の始点に向けて後進走行するときは、刈取装置3が次の刈取作業条にズレなく臨む位置に移動しなければならない。したがって、作業者がコンバインの操縦に習熟していればよいが、十分に習熟していないと、旋回軌跡を何度も調整したり、刈取作業位置を調整したりすることになり、作業能率が大幅に低下すると共に、作業者に余分な労力がかかる問題が生じる。
【0052】
さらに、コンバインの操縦に関する習熟度が低ければ、穀稈の植生に沿って直線状に機体を走行させることが困難であり、蛇行により穀稈が刈り残されることや、後工程で収穫するはずの穀稈を先に刈り取ってしまう問題もある。
【0053】
上記の問題を解消し、作業者の習熟度に左右されることなく機体の移動を行うべく、図1から図3に示すとおり、グレンタンク7や操縦部5等の機体上の少なくとも一か所に、衛星と通信して現在の位置情報を取得するGPSアンテナ51を設ける。このGPSアンテナ51は、所定時間(例:0.2秒)毎に位置情報を自動取得しているが、操縦部5、または作業者が持ち運ぶ情報端末(図示省略)に作業者が任意のタイミングで位置情報を取得すると共に、位置情報である位置座標を走行制御装置50に記録させる座標取得スイッチ52を設け、特定の位置情報を取得、及び記録可能な構成とする。
【0054】
そして、図9及び図10に示すとおり、前記刈取クラッチ22と脱穀クラッチ23の入切を検出する刈取クラッチセンサ53と脱穀クラッチセンサ54を設け、これら刈取クラッチセンサ53及び脱穀クラッチセンサ54が入状態、即ち刈取作業状態であると判定されるときに座標取得スイッチ52を操作すると、第1基準点Aを走行制御装置50に記録させる。
【0055】
既に第1基準点Aが取得されているときは、第1基準点Aの座標と座標取得スイッチ52の操作で新規に取得した座標を比較する、あるいは、第1基準点Aの座標が取得されたときから、走行装置2への伝動系統の回転を検出する走行回転センサ55の検出値から走行距離を算出し、第1基準点Aを取得した座標から所定距離(例:5~10m)以上離れているかどうかを判定する。
【0056】
走行距離が所定距離未満であれば、無効な操作としてGPSアンテナ51が取得する位置情報を記録せず、ブザー等の報知装置(図示省略)で無効であることを報知する。
【0057】
一方、所定距離以上走行しているときは、座標取得スイッチ52を操作した位置の位置情報を第2基準点Bとして記録し、前記走行制御装置50は、図11(a)に示すとおり、第1基準点Aと第2基準点Bの座標を結ぶ仮想線を算出する。圃場形状が矩形であるときは、第1基準点AのX座標と第2基準点BのX座標の差異が小さいほど、A-B点間を上手く直進して刈取走行ができていると判断されるので、第1直進基準線BG1を設定する。
【0058】
即ち、第1基準点AのX座標と第2基準点BのX座標の差異が許容値を超えているときは、図11(b)に示すとおり、刈取走行軌跡が大きく斜向したものとなっている可能性があるので、直進走行の基準とする第1直進基準線BG1が直進走行の基準として不適切であることを通知し、第1基準点Aと第2基準点Bを削除する。この場合、現在の刈取作業条に直交する次工程、または現在の刈取作業条と略平行である次々工程で第1基準点Aと第2基準点Bを取得し直すことになる。
【0059】
前記GPSアンテナ51には、衛星との通信装置以外にも、機体の向き(方位)を地磁気やジャイロ等で判断するICU51aを内装する。前記走行制御装置50に第1直進基準線BG1が記録された状態で、且つ刈取クラッチセンサ53と脱穀クラッチセンサ54が入検出しているときに、操縦席5、または情報端末に設けられる直進アシストスイッチ56を操作すると、現在のICU51aが取得する機体の前進方向の方位と、第1直進基準線BG1の取得時の向き(例:東-西、南-北)を比較する。
【0060】
第1直進基準線BG1の向きと機体の前進方向の方位が平行であれば、図11(a)及び図12に示すとおり、走行制御装置50は第1直進基準線BG1をX軸方向にスライドさせて仮想直進基準線GLとして適応する。
【0061】
一方、第1直進基準線BG1の向きと機体の前進方向の方位が直交するときは、図11(c)及び図12に示すとおり、走行制御装置50は第1直進基準線BG1に直交する、即ち第1直進基準線BG1のY座標を基準としてX軸の正負方向に無限に線を伸ばした第2直進基準線BG2を生成する。
【0062】
なお、第1直進基準線BG1と機体の前進方向の方位がほぼ平行、またはほぼ直交とならないときは、進行方向の変化中であり、直進アシストに適さない状態と判断し、仮想直進基準線GLも第2直進基準線BG2も算出しないものとする。
【0063】
これにより、刈取作業条の終端部で90度機体の向きを変更し、直交する方向を次の刈取作業条とする作業条件において、作業者が直進アシストスイッチ56を操作すれば、機体は第1直進基準線BG1または第2直進基準線BG2に沿って直線状に刈取走行を行うことができる。
【0064】
なお、走行制御装置50は、左右のクローラへの伝動を入切するサイドクラッチ2a,2bを、操作レバー12の操作にかかわらず入切操作可能とする。そして、直進アシストスイッチ56が入操作されていると、第1直進基準線BG1または第2直進基準線BG2と、GPSアンテナ51が取得する位置座標を比較し、許容値以上の座標のズレが生じたときは、左右のサイドクラッチ2a,2bの入切を行うことで、直進刈取走行となる軌跡で走行させる。
【0065】
上記により、最初の刈取作業を第1直進基準線BG1が取得できる程度に行えば、後工程は最初から走行制御装置50による直進アシストを利用して刈取作業走行を行えるので、作業者の操縦習熟度にかかわらず、穀稈の刈り残しの発生が防止される。
【0066】
また、刈取クラッチセンサ53と脱穀クラッチセンサ54が検出状態であるときに直進アシストスイッチ56の操作が受け付けられるので、走行を開始する前に直進アシスト機能を使用可能にできるので、各刈取作業条の刈取開始位置から確実に穀稈の刈取収穫が可能になる。
【0067】
上記で直進走行が必要となる、刈取収穫作業は習熟度に左右されにくくなるが、90度機体の向きを変える旋回及び前後進走行についても、習熟度に左右されにくくする制御構成を示す。
【0068】
図10及び図13に示すとおり、前記刈取装置3には、刈り取る穀稈の進入を検出する穀稈センサ57を設け、この穀稈センサ57が検出状態から非検出状態に変わると、刈り取る穀稈が無くなった、即ち、刈取作業条の終了位置Eに到達したことが判断できる。この到達は、ブザー等の報知装置で作業者に報知するものとしている。
【0069】
さらに、前記直進アシストスイッチ56が操作され、走行制御装置50によって直進走行が制御されているときに穀稈センサ57が非検知状態になると、刈取作業条の終了位置Eであると共に、機体の向きを90度変更する旋回位置に到達したと判断される。
【0070】
このとき、走行制御装置50は、展開ポイントTに向かうべく、刈取装置3を上昇させ、刈取クラッチ22及び脱穀クラッチ23を切状態にし、HST60を前進方向に低速走行させる出力で作動させ、且つ、左右のサイドクラッチ2a,2bを各々入切制御して、穀稈が植生する側で、且つ穀稈の無い位置に向かって機体を移動させる、即ち、斜め前方向に移動させる。
【0071】
なお、穀稈の無い位置は、第1直進基準線BG1の取得前に行っておくか、または取得後に手動操作で刈取作業を行うことで確保するものとする。効率を重視するのであれば、別のコンバインで旋回用の空間部を確保すべく、穀稈の刈取作業を行ってもよい。
【0072】
機体を斜め前側に移動させ、ICU51aが検出する機体の前進方位と第1直進基準線BG1または第2直進基準線BG2を交差させた角度が所定角度(例:30~45度)に到達すると、展開ポイントTに到達したとして、走行制御装置50はHST60の出力を0(中立)にして走行を停止させる。
【0073】
前記穀稈センサ57が穀稈を検出しなくなったとき、走行制御装置50は、GPSアンテナ51から位置情報を取得し、記録する。この位置情報の座標と、第1直進基準線BG1または第2直進基準線BG2の座標を比較し、第1直進基準線BG1に沿って刈取収穫走行を行ったときはX軸方向に、第2直進基準線BG2に沿って刈取収穫走行を行ったときはY軸方向に所定距離(例:登録している機体の前後長分)移動させた位置を、次の刈取作業条の始端部となる、次工程直進基準点NBとして設定する。
【0074】
より詳細に言えば、第1直進基準線BG1のY座標の数値が増加するときは、X軸の正方向に座標をずらし、Y座標の数値が減少する時にはX軸の負方向に座標をずらした位置に次工程直進基準点NBは設定される。また、第2直進基準線BG2のX座標の数値が減少するときは、Y軸の正方向に座標をずらし、X座標の数値が増加する時にはY軸の負方向に座標をずらした位置に次工程直進基準点NBは設定される。
【0075】
なお、次工程直進基準点NBは、第1直進基準線BG1に沿う刈取作業時では第2直進基準線BG2のY座標と自身のY座標を一致させるものとし、第2直進基準線BG2に沿う刈取作業時では第1直進基準線BG1のX座標と自身のX座標を一致させるものとする。
【0076】
HST60の出力が停止しとき、作業者が主変速レバー16を後進に操作するか、あるいは図14に示すとおり一定時間(例:2~3秒)が経過すると、HST60は後進方向に出力する。このとき、主変速レバー16の操作量が大き過ぎると高速で後進するおそれがあるので、走行制御装置50は、HST60の出力上昇にかかる時間を通常よりも長くするか、あるいはHST60の後進出力の上限が設定されるものとすると、誤って未収穫の穀稈を機体が踏み潰すことが防止される。
【0077】
機体の後進走行が開始されると、走行制御装置50は、機体の向きが旋回前に対して左回り方向に90度回転した状態で次工程直進基準点NBに到達させるべく、左右のサイドクラッチ2a,2bを入切して、進行方向を制御する。そして、次工程直進基準点NBの座標位置、乃至近似とみなす位置に機体が到達すると、HST60の出力を0(中立)にして停止する。
【0078】
そして、作業者は機体の停止位置の直線上に未刈取の穀稈が植生しており、且つ刈取装置3の左右方向の一側が未刈取の穀稈の外側端部にあることを目視で確認し、刈取装置3を作業高さまで下降させ、刈取クラッチ22及び脱穀クラッチ23を入状態に切り替えた上で、直進アシストスイッチ56を入操作することで、第2直進基準線BG2に沿った刈取収穫作業を行うものとする。
【0079】
そして、穀稈センサ57が穀稈の進入を検出しなくなると、その場所の位置座標、異常がなければ第2直進基準線BG2のX座標から正負の方向に無限に伸び、且つ第1直進基準線BG1と平行となる、第x基準線BGxが算出され、その次の工程では第y基準線BGyが算出され…という流れを刈取作業終了まで繰り返す。なお、上記のxは奇数が、yは偶数を当てはめるものとする。
【0080】
上記により、90度機体の向きを変える際の旋回操作を、作業者が操作する必要がほぼ、あるいは全く無くなるので、作業者の労力が軽減されると共に、操作ミスにより穀稈を踏み潰したり、圃場面を荒らしたりすることが防止される。
【0081】
また、自動的に次の刈取作業開始位置の直線上に移動することにより、作業状態で且つ直進アシストスイッチ56を入操作していれば適切な軌跡で刈取走行が行われるので、作業能率が向上すると共に、刈取精度も向上する。
【0082】
後進走行が開始されたとき、図16に示すとおり、次工程直進基準点NBとGPSアンテナ51が取得する現在の位置座標から、次工程直進基準点NBまでの距離を算出する。このとき、一定時間(例:1~3秒)におけるGPSアンテナ51が取得する二点間の移動距離をサンプルとして算出し、このサンプルを元に、次工程直進基準点NBに到達する予測時間を算出する(例:サンプル=0.25m/秒、距離=5.00m (5-0.25)/0.25=残り19秒)。
【0083】
あるいは、図17に示すとおり、後進走行が開始されたとき、次工程直進基準点NBとICU51が取得する現在の機体の方位から、次工程直進基準点NBに到達するために必要な方位偏差を算出する。このとき、一定時間(例:1~3秒)におけるICU51aが取得する方位偏差の変化をサンプルとして算出し、このサンプルを元に、次工程直進基準点NBに到達する予測時間を算出する(例:サンプル=4度/秒、到達までの方位偏差40度(36-4)/4=残り9秒)。
【0084】
これらの数字は操縦部5のディスプレイなどに表示し、カウントダウンさせるものとする。必要があれば再計算し、数値を変化させてもよい。
【0085】
なお、上記では距離と方位偏差の一方のみを算出して予測時間の算出に用いているが、両方を並列的に計算し、並列して表示してもよい。この場合、距離に基づく時間は現在の走行速度での次工程直進基準点NBへの到達予想であり、方位偏差に基づく時間は機体の向きが次の刈取作業工程に一致するまでに時間とし、両者が不一致であっても問題ないものとする。但し、表示枠が一つの場合は、実際に作業が開始可能となる距離に基づく時間の表示を優先する。
【0086】
なお、方位偏差量と距離の両方から到達予想時間を算出し、両方の結果が一致する、あるいは許容範囲内で近似する場合はそのまま自動後進アシストを行うものとする。
【0087】
一方、図18に示すとおり、方位偏差量に基づく予想時間が、距離に基づく予想時間よりも長いときは、走行装置2に対するブレーキ出力を上昇させ、距離の変化量を小さくして到達予想時間を一致させる制御を行うものとする。
【0088】
これにより、機体の向きを到達までに次工程の刈取作業に適した姿勢とすることができると共に、機体の移動位置が次工程の刈取作業位置からズレることを防止できるので、作業能率や作業精度が向上する。
【0089】
逆に、距離に基づく予想時間が、方位偏差量に基づく予想時間よりも長いときは、走行装置2に対するブレーキ出力を低下させ、距離の変化量を大きくして到達予想時間を一致させる制御を行うものとする。
【0090】
これにより、機体の向きの修正は次工程の作業開始位置に移動する間に行われるので、移動速度を優先することができるので、作業能率が向上する。
【0091】
上記構成では、GPSアンテナ51により座標情報を取得しているので、刈取りを終了した位置や、自動後進アシストを始めた位置の位置情報を記録しておき、刈り残しの有無や自動後進アシストの始点が適切な位置であったか等を、作業後に確認し、次回以降の作業の改善点の検討に用いることも可能となる。
【0092】
上記の刈取終了位置は、穀稈センサ57が穀稈を検出しなくなったとき、または刈取装置3を上昇操作したときの、どちらかで取得される位置座標とすることが望ましい。しかしながら、作業条件や作業者次第で、穀稈が無い状態でも多少前進してから刈取装置3を上昇させることや、最後の穀稈を刈り取ると同時に刈取装置3の上昇操作を行うこともあるので、穀稈の非検出、刈取装置3の上昇操作のうち、先に発生したときの位置情報を刈取終了位置とする方法も考えられる。
【0093】
これにより、作業後に刈取の終了位置を圃場マップ等に出力することで、刈取終了位置のバラつきや、その後行われる自動後進アシストの開始位置としての適否を確認し、次回以降の改善点を抽出できるので、長期的な作業精度が向上する。
【0094】
なお、次の刈取作業開始位置まで機体の姿勢を変更しながら後進する自動後進アシストだが、後進の開始位置等の影響で、機体の向きが次工程の第1直進基準線BG1または第2直進基準線BG2に沿う位置まで移動した際、大幅に左右方向にズレた位置に機体がいると判定されるときは、刈取装置3が次工程の刈取位置とすべき位置に臨まず、刈り残しの発生、あるいは刈取装置3の刈取機能が発揮されない位置が発生する等の問題が生じ得るので、直進アシストスイッチ56が入操作されても、走行制御装置50は直進アシスト機能を作動させない構成とする。
【0095】
なお、手動操作等で機体を第1直進基準線BG1または第2直進基準線BG2から左右方向に座標のズレが無い、あるいは許容範囲内に近付かせると、直進アシストスイッチ56の入操作により、走行制御装置50は直進アシスト制御を行う。
【0096】
なお、直進アシストスイッチ56については、図19に示すとおり、操縦部5等に設けるスイッチパネル62の左右一側に設けられる。この直進アシストスイッチ56で、直進アシスト、及び自動後進アシストの両方を操作してもよいが、操作ミスで次工程の刈取位置に移動しにくくなることや、余分な移動の発生原因になり得る。
【0097】
これを防止すべく、図19に示すとおり、スイッチパネル62の左右他側に後進アシストスイッチ63を設け、条件が整った状態で後進アシストスイッチ63を操作すると、図15に示す自動後進が行われる構成としてもよい。また、直進アシストと自動後進アシストの間違いを更に防止すべく、直進アシストスイッチ56と後進アシストスイッチ63の左右間に、モード切替スイッチ64を設け、このモード切替スイッチ64で設定した側の操作のみ受け付ける構成としてもよい。
【0098】
これにより、誤った操作で穀稈の刈り残しや踏み潰しが発生することが防止されると共に、必要なアシスト機能を用いることで、精度の高い作業を能率的に行うことができる。
【0099】
上記の第1基準点Aや第2基準点Bの取得、直進アシストや自動後進アシストの動作は、所定の操作により行われるものであるが、作業者は自身の操作が確実に行えたかどうかの判断を、制御が開始されるまでわからない。また、衛星との通信の不良や、機体の各部の異常の発生は、ランプ等の表示で示してはいるものの、他の作業に集中している作業者には確認しにくいものである。
【0100】
したがって、図10に示すとおり、制御系統に複数の音声がプリセットされた音声ガイド装置65を搭載し、走行制御装置50は、作業者によるレバーやスイッチの操作や、機体に搭載された各センサの検出または非検出の切り替わりに合わせて、該当する音声を発するものとする。
【0101】
例えば、第1基準点Aを未取得であるときに座標取得スイッチ52を操作すると「A点を取得しました。」、第1基準点Aを取得した状態で座標取得スイッチ52を操作すると「B点を取得しました。アシスト機能の準備ができました。」、直進アシスト走行中に穀稈センサ57が非検出となる、あるいは刈取装置3が上昇された状態で直進アシストスイッチ56を操作すると「アシストを終了しました。」と発生される。
【0102】
直進アシストは、機種によって、刈取終了位置から90度旋回して次工程に移行する、横刈りを含む条横モードの他に、A-B点を結んで算出した第1直進基準線BG1に沿い、圃場の一側端部の刈取作業条と他側端部の刈取作業条で交互に刈取作業を行い、圃場端では直進アシストを切って旋回しながら、圃場の中央部を目指していく交互刈りモード等が設定されることがある。これらの複数の直進アシストのモードは、ボリュームダイヤル66を回して切り替えるものとすると操作性がよい。
【0103】
しかしながら、各モードに切り替わる際に音声ガイド装置65が都度発音していると、作業者は雑音に耐えながら切替操作を行わなければならなくなる。発音途中でボリュームダイヤル66が操作されると、前の音声が中断される設定であれば幾分不快感は軽減されるが、前の音声が中断されない設定であれば、現在のモードも判別し辛くなり、不快感が増すことになる。
【0104】
この問題を防止すべく、図20に示すとおり、ボリュームダイヤル66を用いて直進アシストのモードを切り替える、あるいは他のモードを切り替える操作を行うとき、ボリュームダイヤル66の操作位置が一定時間(例:1秒弱)変化しなかったと走行制御装置50が判断すると、はじめて音声ガイド装置65が対応する音声を発音する構成とする。
【0105】
これにより、作業者がボリュームダイヤル66を操作する際に雑音に悩まされることがなくなると共に、複数の音声ファイルが短時間に何度も読み込まれて走行制御装置50や音声ガイド装置65に負荷がかかることが防止される。特に、短時間に何度も何度も音声ファイルを読み込ませることで制御エラーが発生し、ボリュームダイヤル66の操作位置に対応しない音声が発音され、作業者が間違ったモードで作業を行うことが防止される。
【0106】
上述のとおり、GPSアンテナ51と共にECU51aを備えていることにより、直進アシスト中に機体が第1直進基準線BG1及び第2直進基準線BG2からどの程度ズレた位置を走行しているかを判断することができる。
【0107】
直進アシストは、左右の走行装置2に速度差を発生させてこのズレが修正されるよう機体の向きを補正しているが、圃場面の凹凸等でズレが大きくなったときは、作業者が操作レバー12を左右方向に操作した方が姿勢の修正量を大きくでき、速やかに直進位置に復帰できる。
【0108】
したがって、設定値以上の位置ずれが検出されたときは、操作レバー12の操作により進行方向を補正するよう、作業者に音声で指示を出す構成としている。なお、作業者がズレを認識していないことや、左右どちらにズレているかを認識していない、あるいは勘違いしている可能性があるので、発音される音声は「右(左)方向に操作レバーを操作してください。」と、直進走行位置に近付く方向への操作を具体的に説明するものとする。
【0109】
これにより、直進位置からのズレを早急に修正し、刈取装置3に刈り取られない穀稈が発生することや、刈取装置3の左右幅内に刈取作業が行われない部分が生じることを防止し、作業能率や作業精度を高めることができる。
【0110】
しかしながら、直進位置に合わせる際、操作すべき方向に操作レバー12を操作した後も音声が発音され続けると、作業者にとっては不快感の原因となり得る。
【0111】
そこで、図21に示すとおり、所定時間(例:1~2秒)以上継続して操作レバー12が同一方向に操作されたとき、走行制御装置50は音声ガイド装置65に同一の音声の発音を中止させる構成とすると、同じ音声が何度も不必要に発音されることがなく、作業者の不快感を軽減できる。
【0112】
なお、直進位置を超えても操作レバー12が継続して同じ方向に操作され、反対方向に操作しなければならないときは、「右(左)方向に操作レバーを操作してください。」と音声を発音させるものとする。
【0113】
また、図22に示すとおり、ECU51aによって算出される方位を示す仮想線と、第1直進基準線BG1または第2直進基準線BG2のなす角度が所定角度以上になるときは、作業者の意図的な操作レバー12の操作による逸脱であると判断し、音声ガイド装置65による左右方向への操作を促す音声の発音を中断する構成とする。
【0114】
但し、直進アシストスイッチ56を操作して直進アシストを切らないと、走行制御装置50は機体の位置を第1直進基準線BG1または第2直進基準線BG2に沿わせる制御を続けようとするので「アシストスイッチを切操作してください。」と一回、または所定回数(例:2~3回)発音させてもよい。
【0115】
コンバインの刈取作業において、刈取装置3を畦際付近まで接近させる刈取作業走行が行われることもある。このとき、穀稈センサ57による穀稈の有無の検出が、畦に刈取装置3を接触させない位置で走行を停止させるうえで重要になるが、肝心の穀稈センサ57が断線やショートにより故障していると、穀稈が実際にはなくとも通知がなされず、畦に刈取装置3を接触させ、破損させてしまうことがある。
【0116】
これを防止すべく、図10に示すとおり、従来装着されている穀稈センサ57より機体後方位置に補助穀稈センサ57aを設け、共に刈り取られる穀稈に接触する構成とする。
【0117】
そして、図23に示すとおり、穀稈センサ57が常に検出状態、または常に非検出状態であり、補助穀稈センサ57aが検出状態から非検出状態に変化したときは、穀稈センサ57が故障しており、補助穀稈センサ57aが正常に機能している状態と言える。
【0118】
したがって、補助穀稈センサ57aが非検出となることで穀稈が無くなったことを判断できるので、報知装置による作業者への報知が可能になる。
【0119】
あるいは、穀稈センサ57が非検出状態から検出状態に切り替わり、補助穀稈センサ57aが検出状態から非検出状態に変化したときも、穀稈センサ57が故障しており、補助穀稈センサ57aが正常に機能している状態と言える。
【0120】
一方、穀稈センサ57aが検出状態から非検出状態に切り替わったときは、穀稈センサ57aは正常に動作しているので、報知装置を作動させて作業者に通知する構成とする。
【符号の説明】
【0121】
2 走行装置
3 刈取装置
4 脱穀装置(選別装置)
5 操縦部
50 走行制御装置(走行演算装置)
51 GPSアンテナ(位置情報受信装置)
51a ECU(方位センサ)
52 座標取得スイッチ(位置情報取得部材)
56 直進アシストスイッチ(アシスト操作部材)
57 穀稈センサ(刈取センサ)
BG1 第1直進基準線
BG2 第2直進基準線
NB 次工程直進基準点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【手続補正書】
【提出日】2023-11-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置(2)で走行する機体の前側に刈取装置(3)を設け、該刈取装置(3)で刈り取った穀稈から穀粒を分離する選別装置(4)を設けたコンバインにおいて、
機体の位置情報を受信する位置情報受信装置(51)を設け、該位置情報受信装置(51)から受信した位置情報を記録させる位置情報取得部材(52)を設け
進走行の基準となる第1直進基準線(BG1)を算出する走行演算装置(50)を備えると共に、該走行演算装置(50)により第1直進基準線(BG1)に沿って走行させる走行アシスト機能を入切するアシスト操作部材(56)を設け、
前記刈取装置(3)の刈取作業を検出する刈取センサ(57)を設け、該刈取センサ(57)が非検知状態になると、その非検知状態となった位置に基づいて、前記第1直進基準線(BG1)に直交する第2直進基準線(BG2)を算出すると共に、前記直交方向に機体の向きを変える旋回段階に移行し、前記旋回段階では手動の旋回操作が許容されることを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記第2直進基準線(BG2)が算出されるとき、前記位置情報受信装置(51)が取得する現在の位置情報を記録すると共に、取得した位置情報のうち、機体の進行方向に直交する方向の位置座標を、現在位置から機体左右一側方向に所定距離離間する方向に移動させて次工程直進基準点(NB)として記録し、
前記走行装置(2)は、該次工程直進基準点(NB)に向かって自動旋回走行することを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記走行装置(2)は、前記刈取センサ(57)が穀稈を検出しなくなると、斜め前方向に走行し、旋回角度が一定値に到達したときに後進走行に切り替わると、前記次工程直進基準点(NB)に向かう走行の制御が開始されることを特徴とする請求項2に記載のコンバイン。
【請求項4】
機体の進行方向の方位を検出する方位センサ(51a)を設け、
前記走行演算装置(50)は、前記次工程直進基準点(NB)と、前記位置情報受信装置(51)が受信する現在位置との距離を算出すると共に、前記第1直進基準線(BG1)または第2直進基準線(BG2)と該方位センサ(51a)の方位偏差を算出し、
前記走行演算装置(50)は、距離が小さくなり、且つ方位偏差が所定角度に近付く方向に前記走行装置(2)を後進自動操舵させ、前記次工程直進基準点(NB)に到達すると制御を終了することを特徴とする請求項3に記載のコンバイン。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記課題を解決した本発明は次のとおりである。
すなわち、請求項1の発明は、走行装置(2)で走行する機体の前側に刈取装置(3)を設け、該刈取装置(3)で刈り取った穀稈から穀粒を分離する選別装置(4)を設けたコンバインにおいて、機体の位置情報を受信する位置情報受信装置(51)を設け、該位置情報受信装置(51)から受信した位置情報を記録させる位置情報取得部材(52)を設け、直進走行の基準となる第1直進基準線(BG1)を算出する走行演算装置(50)を備えると共に、該走行演算装置(50)により第1直進基準線(BG1)に沿って走行させる走行アシスト機能を入切するアシスト操作部材(56)を設け、前記刈取装置(3)の刈取作業を検出する刈取センサ(57)を設け、該刈取センサ(57)が非検知状態になると、その非検知状態となった位置に基づいて、前記第1直進基準線(BG1)に直交する第2直進基準線(BG2)を算出すると共に、前記直交方向に機体の向きを変える旋回段階に移行し、前記旋回段階では手動の旋回操作が許容されることを特徴とするコンバインである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】削除
【補正の内容】