(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181978
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】建物の応答推定方法及び被災度判定システム
(51)【国際特許分類】
G01M 7/02 20060101AFI20231218BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20231218BHJP
G01H 1/00 20060101ALI20231218BHJP
G01V 1/00 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
G01M7/02 H
G01M99/00 Z
G01H1/00 E
G01V1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081385
(22)【出願日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2022094836
(32)【優先日】2022-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 藍子
(72)【発明者】
【氏名】廣石 恒二
(72)【発明者】
【氏名】欄木 龍大
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
2G105
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA22
2G024CA13
2G024FA04
2G064AA05
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC43
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE02
2G105MM01
2G105NN02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】建物の限られた階層に設けられたセンサによる地震情報から、階層の地震情報を推定する。
【解決手段】建物の応答推定方法は、複数の階層の各々をi、複数の階層の各々の高さを最上階の階層の高さで除算して基準化した基準化高さをh
iとし、第1関数A(h
i)、第2関数B(h
i)をそれぞれ、基準化高さh
iの関数としたときに、これらによって、建物の次数がj次である振動モードの形状を立式して表現し、当該振動モード形状式により、複数の次数jの各々に対し、複数の階層iの各々の揺れ幅を取得することで、振動モード形状を決定し、揺れ幅を基に、複数の階層iの各々に対応する係数を算出し、複数の階層iの中の、複数の観測階層に設けられたセンサの各々により、地震情報を観測して取得し、地震情報を基にしたデータに対し、係数を適用して、複数の階層iの中の、複数の観測階層とは異なる非観測階層における、地震情報を推定する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の階層を有する建物の、地震発生時における応答を推定する、建物の応答推定方法であって、
複数の前記階層の各々をi、複数の前記階層の各々の高さを最上階の前記階層の高さで除算して基準化した基準化高さをh
iとし、第1関数A(h
i)、第2関数B(h
i)をそれぞれ、前記基準化高さh
iの関数としたときに、前記建物の次数がjである振動モードの形状を、次の振動モード形状式(1)
【数1】
により、前記基準化高さh
iの関数として表現し、当該振動モード形状式により、複数の前記次数jの各々に対し、複数の前記階層iの各々の揺れ幅を取得し、
前記揺れ幅を基に、複数の前記階層iの各々に対応する係数を算出し、
複数の前記階層iの中の、複数の観測階層に設けられたセンサの各々により、複数の前記観測階層の各々における地震情報を観測して取得し、
前記地震情報を基にしたデータに対し、前記係数を適用して、複数の前記階層iの中の、複数の前記観測階層とは異なる非観測階層における、前記地震情報を推定する
ことを特徴とする建物の応答推定方法。
【請求項2】
前記第1関数A(h
i)及び前記第2関数B(h
i)は、正の値を有するパラメータa、パラメータbにより、次式(2)
【数2】
として、前記基準化高さh
iが大きくなればなるほど値が大きくなるように立式されている
ことを特徴とする請求項1に記載の建物の応答推定方法。
【請求項3】
前記パラメータbは、前記建物の高さ方向における重心の高さを前記最上階の階層の高さで除算して基準化した、重心基準化高さh
gを用いて、次式(3)
【数3】
として立式されていることを特徴とする請求項2に記載の建物の応答推定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の建物の応答推定方法によって、複数の前記観測階層の各々における前記地震情報を観測して取得し、これを基に複数の前記非観測階層における前記地震情報を推定する、建物応答推定部と、
複数の前記観測階層と複数の前記非観測階層の各々の前記地震情報を用いて、前記建物の被災度を判定する、被災度判定部と、
を備えることを特徴とする被災度判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の階層を有する建物において、地震発生時の応答を推定する建物の応答推定方法及び被災度判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震時に、建物の被災度を判定することが行われている。建物の被災度を正確に判定するには、建物の全ての階層に地震計等のセンサを設置し、これら全てのセンサから地震情報を取得して、階層ごとに個別に被災度を判定するのが、本来であれば望ましい。しかし、全ての階層にセンサを設置するのは、コストが嵩み、また全ての階層にセンサの設置場所を確保する必要もあるため、実施が容易ではない。
このため、次に説明する特許文献1~3のように、一部の階層のみにセンサを設け、当該センサにより得られた一部の階層のみにおける地震情報を基に、センサが設けられていない他の階層の地震情報を推定することが考えられる。
【0003】
特許文献1には、外力が作用した際の建物の応答を推定する方法であって、建物の設計モデルと限られた階のセンサ情報から得られた地震波形を与条件とし、質点系モデルによる時刻歴応答解析を行って建物の最大変形時の等価剛性を算定し、得られた等価剛性を基にして建物のモード系を再計算して更新し、更新した建物のモード系で、モードの重ね合わせによる全層応答推定法を用いた解析を行って建物の全層の最大層間変形角を推定する方法が、開示されている。
特許文献2には、多層構造の建物の健全性を確認するための方法が開示されている。当該方法においては、任意に設定した建物の観測層にセンサを設置し、地震時にセンサで取得した観測層の応答情報に基づき、ベイズの定理を用いて、事前情報である建物の設計モデルを学習的に更新するようにし、後に発生した地震時に取得した観測層の応答情報と、学習的に更新した建物の設計モデルの情報に基づいて、建物の各層の応答を推定する。
特許文献3には、建物に印加する常時微振動または加振動を測定した上下の限られた高さ方向のモード情報と水平方向のねじれモード情報に基づいて、建物の任意箇所の地震応答を推定する方法が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載された方法においては、質点系モデルによる時刻歴応答解析を行う構成であるため、対象となる建物の設計モデルが必要である。特許文献2においても、特許文献1と同様に、建物の設計モデルが必要である。したがって、例えば既存の建物で設計モデルが存在しないような場合においては、容易に適用することができない。
また、特許文献3に記載された方法においては、特許文献1、2とは異なり、設計モデルなどの構造情報が不要ではあるが、常時微振動または加振動を測定する必要がある。したがって、依然として、容易に適用することができない。
構造情報がないような建物であっても、建物の限られた階層に設けられたセンサによる地震情報から、センサが設けられていない階層の地震情報を容易かつ高い精度で推定することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-9417号公報
【特許文献2】特開2013-195354号公報
【特許文献3】特許第6916682号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、構造情報がないような建物であっても、建物の限られた階層に設けられたセンサによる地震情報から、センサが設けられていない階層の地震情報を容易かつ高い精度で推定することが可能な、建物の応答推定方法、及び当該建物の応答推定方法を用いた被災度判定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明の建物の応答推定方法は、複数の階層を有する建物の、地震発生時における応答を推定する、建物の応答推定方法であって、複数の前記階層の各々をi、複数の前記階層の各々の高さを最上階の前記階層の高さで除算して基準化した基準化高さをh
iとし、第1関数A(h
i)、第2関数B(h
i)をそれぞれ、前記基準化高さh
iの関数としたときに、前記建物の次数がjである振動モードの形状を、次の振動モード形状式(1)
【数1】
により、前記基準化高さh
iの関数として表現し、当該振動モード形状式により、複数の前記次数jの各々に対し、複数の前記階層iの各々の揺れ幅を取得し、前記揺れ幅を基に、複数の前記階層iの各々に対応する係数を算出し、複数の前記階層iの中の、複数の観測階層に設けられたセンサの各々により、複数の前記観測階層の各々における地震情報を観測して取得し、前記地震情報を基にしたデータに対し、前記係数を適用して、複数の前記階層iの中の、複数の前記観測階層とは異なる非観測階層における、前記地震情報を推定することを特徴とする。
上記のような構成によれば、建物の階層の中の、複数の観測階層のみに、センサを設け、センサにより取得された観測階層の地震情報を基にしたデータに対し、係数を適用して、非観測階層の地震情報が推定されるため、建物の全ての階層に、センサを設ける必要がない。
また、建物の振動モード形状は、従来であれば、例えば建物の各階層の重量や剛性等の構造情報を基に固有値解析を行うことで得るのが通常である。これに対し、上記のような構成において適用される係数は、上式(1)として表現された振動モード形状式により取得された揺れ幅を基に算出されるものであるが、この式(1)は、建物の各階層の高さのみが判明すれば、立式可能である。このように、建物の重量や剛性等の構造情報がなくとも、振動モード形状及び係数を、容易に得ることができる。
ここで、上記の式(1)においては、建物の振動モード形状が、複数の階層の各々の高さを最上階の階層の高さで除算して基準化した基準化高さh
iの関数として表現されている。すなわち、各階層iにおいて、当該階層iに対応する基準化高さh
iを式(1)に代入して得られる値が、当該階層iにおける揺れ幅となる。そして、建物の振動モード形状が、全体として正弦関数により表現されている。この正弦関数の出力に乗ぜられる第1関数A(h
i)は、基準化高さh
iによって値が変わる関数であるため、建物が階層ごとに異なる特性を示す場合に、その特性を、振動モード形状の振幅すなわち揺れ幅に、適切に反映させることができる。同時に、正弦関数への入力を構成する第2関数B(h
i)は、第1関数A(h
i)と同様に、基準化高さh
iによって値が変わる関数であるため、建物が階層ごとに異なる特性を示す場合に、その特性を、振動モード形状の波長に、適切に反映させることができる。このようにして、建物の特性を振動モード形状に適切に反映することができるため、これを基にして推定される、非観測階層における地震情報の精度が高まる。
このようにして、構造情報がないような建物であっても、建物の限られた階層に設けられたセンサによる地震情報から、センサが設けられていない階層の地震情報を容易かつ高い精度で推定することが可能な、建物の応答推定方法を提供することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、前記第1関数A(h
i)及び前記第2関数B(h
i)は、正の値を有するパラメータa、パラメータbにより、次式(2)
【数2】
として、前記基準化高さh
iが大きくなればなるほど値が大きくなるように立式されている。
実際の建物においては、通常、上階となるほど剛性が低くなる。このため、上記式(1)のように正弦関数を用いて振動モード形状を表現する場合においては、上階となるほど正弦関数の振幅が大きく、波長が短くなるようにすれば、振動モード形状が実際の建物に近い特性を表現するものとなる。
ここで、上記のような構成によれば、第1関数A(h
i)は、基準化高さh
iが大きくなればなるほど値が大きくなるように立式されているため、式(1)においては、基準化高さh
iが大きくなればなるほど正弦関数の振幅が大きくなる。したがって、実際の建物の、高さに依存する特性を、式(1)に反映させることができる。
特に、第1関数A(h
i)を、上記の式(2)のように設定することで、より効果的に、高さに依存する特性を、式(1)に反映させることができる。
また、第2関数B(h
i)は、基準化高さh
iが大きくなればなるほど値が大きくなるように立式されているため、式(1)においては、基準化高さh
iが大きくなればなるほど正弦関数の波長が短くなる。したがって、実際の建物の、高さに依存する特性を、式(1)に反映させることができる。
特に、第2関数B(h
i)を、上記の式(2)のように設定することで、より効果的に、高さに依存する特性を、式(1)に反映させることができる。
このようにして、高さに依存する特性を、式(1)に、より適切に反映させることができるので、センサが設けられていない階層の地震情報を、より正確に、推定することができる。
【0009】
本発明の別の態様においては、前記パラメータbは、前記建物の高さ方向における重心の高さを前記最上階の階層の高さで除算して基準化した、重心基準化高さh
gを用いて、次式(3)
【数3】
として立式されている。
上記において、建物の高さ方向における重心は、建物を横向きにしたときの重心であり、重心基準化高さh
gは、建物の高さ方向における重心の高さを、最上階の階層の高さで除算して基準化した値である。
建物においては、各階の重量が概ね一定ではなく、例えば上側に位置する各階層の面積が、下側に位置する各階層よりも小さく実現されているために、下側に位置する各階層の重量が、上側に位置する各階層の重量よりも大きいことがある。このような場合においては、建物を横向きにしたときの重心の位置が、中心よりも、下側の階層の側に、偏心している。
これに対し、上記のような構成においては、上式(2)において第2関数B(h
i)を表す際に用いられるパラメータbが、建物の重心基準化高さh
gを用いて立式されている。このように、建物の重心基準化高さh
gを変数としてパラメータb及び第2関数B(h
i)を表現することで、上記のような、建物を横向きにしたときの重心の位置が偏心している場合においても、センサが設けられていない階層の地震情報を高い精度で推定することが可能となる。
【0010】
本発明の別の態様においては、上記のような建物の応答推定方法によって、複数の前記観測階層の各々における前記地震情報を観測して取得し、これを基に複数の前記非観測階層における前記地震情報を推定する、建物応答推定部と、複数の前記観測階層と複数の前記非観測階層の各々の前記地震情報を用いて、前記建物の被災度を判定する、被災度判定部と、を備えることを特徴とする被災度判定システムを提供する。
上記のような建物の応答推定方法においては、既に説明したように、構造情報がないような建物であっても、建物の限られた階層に設けられたセンサによる地震情報から、センサが設けられていない階層の地震情報を容易かつ高い精度で推定することが可能である。したがって、これを用いた上記のような被災度判定システムにおいては、容易かつ高い精度で、建物の被災度を判定することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、構造情報がないような建物であっても、建物の限られた階層に設けられたセンサによる地震情報から、センサが設けられていない階層の地震情報を容易かつ高い精度で推定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態における被災度判定システムのブロック図である。
【
図2】上記実施形態において被災度を判定する対象となる建物の概略構成を示す図である。
【
図3】
図2に示される建物に対して決定された振動モード形状の例である。
【
図4】上記振動モード形状に用いられるパラメータの設定例である。
【
図5】中低層の建物において、実際の建物の質点系モデルによる振動モード形状と、上記実施形態において決定された振動モード形状とを比較した図である。
【
図6】超高層の建物において、実際の建物の質点系モデルによる振動モード形状と、上記実施形態において決定された振動モード形状とを比較した図である。
【
図7】Ai分布を想定したモデルによる振動モード形状と、上記実施形態において決定された振動モード形状とを比較した図である。
【
図8】上記実施形態の被災度判定システムにおける、建物の応答推定方法及び建物の被災度判定方法のフローチャートである。
【
図9】実在の、5階建ての建物の質点系モデルを用いて地震応答解析を行った結果を示す図である。
【
図10】実在の、9階建ての建物の質点系モデルを用いて地震応答解析を行った結果を示す図である。
【
図11】実在の、15階建ての建物の質点系モデルを用いて地震応答解析を行った結果を示す図である。
【
図13】上記実施形態の変形例における被災度判定システムにおける、観測波形のフーリエスペクトルを説明する図である。
【
図14】上記実施形態の第2変形例に係る被災度判定システムにおいて対象となる、下側に位置する各階層の重量が上側に位置する各階層の重量よりも大きく、高さ方向において重心が偏心した建物の一例である。
【
図15】各階層の重量が同一である場合と、下側に位置する各階層の重量が、上側に位置する各階層の重量の4倍である4つの場合の、計5つのモデルにおける、3次の振動モード形状を示す振動モード図である。
【
図16】建物の高さ方向における重心の位置と、パラメータbとの関係を示す図である。
【
図17】下側に位置する各階層の重量が、上側に位置する各階層の重量の4倍である場合の第1モデルにおいて、第1モデルを固有値解析した結果の振動モード形状と、上記実施形態により表現された振動モード形状、及び上記第2変形例により表現された振動モード形状の、各々を示す振動モード図である。
【
図18】下側に位置する各階層の重量が、上側に位置する各階層の重量の4倍である場合の第2モデルにおいて、第2モデルを固有値解析した結果の振動モード形状と、上記実施形態により表現された振動モード形状、及び上記第2変形例により表現された振動モード形状の、各々を示す振動モード図である。
【
図19】下側に位置する各階層の重量が、上側に位置する各階層の重量の4倍である場合の第3モデルにおいて、第3モデルを固有値解析した結果の振動モード形状と、上記実施形態により表現された振動モード形状、及び上記第2変形例により表現された振動モード形状の、各々を示す振動モード図である。
【
図20】下側に位置する各階層の重量が、上側に位置する各階層の重量の4倍である場合の第4モデルにおいて、第4モデルを固有値解析した結果の振動モード形状と、上記実施形態により表現された振動モード形状、及び上記第2変形例により表現された振動モード形状の、各々を示す振動モード図である。
【
図21】上記第2変形例の検証に用いた建物モデルを示す図である。
【
図22】上記建物モデルを固有値解析した結果の振動モード形状と、上記実施形態により表現された振動モード形状、及び上記第2変形例により表現された振動モード形状の各々に対し、告示波を作用させた際の、各階層の最大加速度応答値を示す最大加速度応答図である。
【
図23】上記建物モデルを固有値解析した結果の振動モード形状と、上記実施形態により表現された振動モード形状、及び上記第2変形例により表現された振動モード形状の各々に対し、エルセントロ波を作用させた際の、各階層の最大加速度応答値を示す最大加速度応答図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、地震発生時の建物応答を、建物で観測された加速度波形に、規準化高さによる高さ方向の振動モード形を基に設定される係数を掛け合わせることで推定する、建物の応答推定方法である。振動モード形は、応答推定点iの高さを建物高さで除した規準化高さh
iを用いて、振動モード形の振幅に関わる第1関数A(h
i)、及び波長に関わる第2関数B(h
i)を建物高さの関数として定義し、建物応答を推定している。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態における被災度判定システムのブロック図である。
図2は、本実施形態において被災度を判定する対象となる建物の概略構成を示す図である。
本実施形態の被災度判定システム1は、複数のセンサ2と、被災度判定装置4を備えている。被災度判定システム1は、地震時に、建物20に設けられたセンサ2により取得された地震情報を基に、被災度判定装置4により、被災度を判定する。
建物20は、地盤G上に構築され、上下方向に複数の階層を有している。本実施形態においては、建物20は、1階から10階までの、10階建てである場合について説明するが、階層の数はこれに限られず、建物20の階層の数は、複数であれば、10以外であっても構わない。
【0014】
センサ2は、例えば無線式加速度計等の地震計12である。センサ2は、複数の階層の中から選択された、複数の観測階層OFの各々に、設けられている。
図2の例においては、センサ2は、1階、4階、及び10階の、3つの階層に設けられている。複数のセンサ2の各々は、どの階層に設けられても構わないが、上下方向に分散して設けられるのが望ましい。複数のセンサ2の各々は、各観測階層OFの、例えば床スラブ上に設けられている。複数のセンサ2の各々は、地震発生時に、当該センサ2が設けられた観測階層OFに生じた加速度を、地震情報として検出(取得)する。本実施形態における地震情報は、加速度の時刻歴情報である。センサ2で検出された地震情報は、後に説明する被災度判定装置4に、無線または有線により、外部のネットワーク等を介して送信される。
本実施形態においては、センサ2の1つは、最も下の階層である1階に設けられている。この、最も下の階層に設けられたセンサ2は、地震時に建物20に直接到達する地震波の地震情報、すなわち地動の情報を示すものである。この観点から、複数の観測階層OFのうち、最も下の階層を、特に地動観測階層BFと呼称する。
また、複数の観測階層OFのうち、地動観測階層BF以外の他の階層を、応答観測階層RFと呼称する。本実施形態においては、4階と10階が応答観測階層RFに相当し、これらの階層の各々にセンサ2が設けられている。
このように、複数の観測階層OFは、1つの地動観測階層BFと、少なくとも1つの応答観測階層RFを備えている。
上記のように、本実施形態の建物20は、地上10階建ての建物であるため、1階が地動観測階層BFとなっているが、建物20が地下階を備える場合は、地下の最下階層を地動観測階層BFとしてもよい。
【0015】
このように、センサ2は、建物20の全ての階層に設けられてはおらず、限られた観測階層OFのみに設けられている。このような状態においても、本実施形態の被災度判定システム1は、全ての階層における被災度を、階層ごとに判定する。このために、本実施形態の被災度判定システム1は、地震が生じた際に、センサ2から各観測階層OFの地震情報を取得し、これを基に、センサ2が設けられていない、観測階層OFではない非観測階層NFの各々における地震情報を推定する。
被災度判定装置4は、建物応答推定部5と被災度判定部9を備えている。建物応答推定部5は、高さ情報入力部6、モード形状決定部7、及び被災度判定部9を備えている。本実施形態の被災度判定システム1においては、地震が生じる前、例えば被災度判定システム1の設置時等に、モード形状決定部7により、非観測階層NFの地震情報を推定する際に用いられる係数を算出しておく。被災度判定システム1は、このように予め算出された係数を用いて、地震時に、非観測階層NFの地震情報を推定する。
以下においてはまず、地震に先立って行われる処理を説明し、その後に地震時の処理を説明する。
【0016】
まず、被災度判定システム1の設置時に、高さ情報入力部6に、建物20の各階層の高さ情報を入力する。各階層の高さ情報は、具体的には、地動観測階層BFからの当該階層の高さである。実際には、各階層の高さ情報は、例えば、地動観測階層BFの床スラブからの、当該階層の床スラブの高さ等である。
高さ情報入力部6は、各階層の高さ情報が入力されると、各階層の基準化高さを計算する。基準化高さとは、複数の階層の各々の高さを、最上階の階層の高さで除算して、基準化した値である。例えば、上記のように高さ情報を入力した場合においては、地動観測階層BFの基準化高さは0となり、最上階の階層の基準化高さは1となり、地動観測階層BFと最上階の階層の間の階層の基準化高さは0より大きく1より小さい値となる。
【0017】
モード形状決定部7は、高さ情報入力部6によって計算された基準化高さを基に、複数の次数の固有モードにおける振動モード形状を、数式により立式する。本実施形態においては、振動モード形状を、正弦関数を用いて立式する。より具体的には、複数の階層の各々をi、基準化高さをh
iとしたときに、建物20の次数がjである振動モードの形状を、次の振動モード形状式(11)
【数4】
により、基準化高さh
iの関数として表現する。
ここで、第1関数A(h
i)、第2関数B(h
i)はそれぞれ、基準化高さh
iの関数である。具体的には、第1関数A(h
i)及び第2関数B(h
i)は、正の値を有するパラメータa、bにより、次式(12)
【数5】
として、基準化高さh
iが大きくなればなるほど値が大きくなるように立式されている。
【0018】
上記の式(11)においては、建物20の振動モード形状が、基準化高さh
iの関数として表現されている。すなわち、各階層iにおいて、当該階層iに対応する基準化高さh
iを式(11)に代入して得られる値が、当該階層iにおける揺れ幅となる。
モード形状決定部7は、上記のような振動モード形状式により、複数の次数jの各々に対し、複数の階層iの各々の揺れ幅を、上式(11)のmode
j(h
i)の値として取得する。
図3は、
図2に示される建物に対して決定された振動モード形状の例である。
図3の各図においては、縦軸が建物の基準化高さh
iに対応する階数iであり、横軸が上式(11)のmode
j(h
i)を表す刺激関数の値である。
図3の縦軸は、単位が基準化高さh
iから「階」に変換されて表示されている。
後に説明するように、応答観測階層RFにおいて得られた地震情報の各々から、地動観測階層BFにおいて得られた地震情報を引いて、応答観測階層RFの相対地震情報を計算し、応答観測階層RFの相対地震情報を基にして、非観測階層NFの各々の、地動観測階層BFに対する相対地震情報を推定し、非観測階層NFの相対地震情報に対して地動観測階層BFの地震情報を加算することで、非観測階層NFの各々の地震情報を推定する。すなわち、応答観測階層RFの数が、質点系モデルにおける質点の数に相当するため、上式(11)において表現できる振動モード形状式の次数の上限は、応答観測階層RFの数となる。
図2に示された建物20においては、応答観測階層RFは4階と10階の2つであるため、上式(11)からは、
図3に示された、次数が1の、1次の振動モード形状と、次数が2の、2次の振動モード形状の、2つの振動モード形状が算出される。
【0019】
実際の建物においては、通常、上階となるほど剛性が低くなる。このため、正弦関数を用いて振動モード形状を表現すると、上階となるほど正弦関数の振幅が大きく、波長が短くなるようにすれば、振動モード形状が実際の建物に近い特性を表現するものとなる。
ここで、第1関数A(hi)は、パラメータaは正の値を有しているので、基準化高さhiが大きくなればなるほど値が大きくなるように立式されている。このため、式(11)においては、基準化高さhiが大きくなればなるほど正弦関数の振幅が大きくなる。したがって、実際の建物の、高さに依存する特性が、式(11)に、適切に反映される。
また、第2関数B(hi)は、パラメータbは正の値を有しているので、基準化高さhiが大きくなればなるほど、分母が小さくなり、全体の値が大きくなるように立式されている。このため、式(11)においては、基準化高さhiが大きくなればなるほど正弦関数の波長が短くなる。したがって、実際の建物の、高さに依存する特性が、式(11)に、適切に反映される。
【0020】
式(12)におけるパラメータa、bは、例えば、対象となる建物の質点系モデルの振動モード形状と合うように、最小二乗法で同定することで、設定され得る。
図4は、このようにして設定された、振動モード形状に用いられるパラメータa、bの設定例である。
図4においては、実在する建物モデルを基に構築された質点系モデルと、一般的な建物モデルの各々に対して、パラメータa、bを同定した例が示されている。一般的な建物モデルにおいては、各階の重量が一定で、剛性分布をAi分布の逆数としたものと、最下層に対する最上層の剛性がそれぞれ0.7、0.3とされた台形分布としたものと、が示されている。
被災度判定システム1が適用される実際の建物20の構造にも依存して、パラメータa、bの適切な値は異なったものとなる。パラメータaは、0より大きく0.3以下の値とし、パラメータbは、0.3以上0.7以下の値とすると、より多くの建物に対して適用可能となる。特に、パラメータa、bが、それぞれ、上記の値の範囲の中間値となるように、パラメータaを0.15とし、パラメータbを0.5とするのが望ましい。パラメータa、bは、対象となる建物20の階層の数に応じて、適宜変更するようにしてもよい。
【0021】
図5は、中低層の建物において、実際の建物の質点系モデルによる振動モード形状と、式(11)を用いて決定された振動モード形状とを比較した図である。
図6は、超高層の建物において、実際の建物の質点系モデルによる振動モード形状と、式(11)を用いて決定された振動モード形状とを比較した図である。
図7は、Ai分布を想定したモデルによる振動モード形状と、式(11)を用いて決定された振動モード形状とを比較した図である。上記の
図5~
図7の縦軸は基準化高さh
iであり、横軸は(11)式のmode
j(h
i)を表す刺激関数の値である。Ai分布を想定したモデルを用いた場合においては、各階の重量を一定とし、剛性分布をAi分布の逆数として設定した質点系モデルを使用している。各図において、式(11)を用いて決定された振動モード形状には、符号L1が付されている。式(11)を用いて決定された振動モード形状においては、パラメータaは0.15、及びパラメータbは0.5と、それぞれ設定した。
本来であれば、実際の被災度判定システム1の適用対象となる建物20の各階層の重量と剛性等に関する詳細な情報があれば、これを基に固有値解析を実施すると、建物20に合った正確な振動モード形状が求められる。しかし、例えば既存の建物等、重量や剛性に関する情報がない場合もある。このような場合においても、上記の式(11)を用いれば、固有値解析を実施した場合に近い振動モード形状を得ることができる。
また、仮に重量や剛性に関する情報がある場合であっても、上記の式(11)を用いれば、固有値解析を実施することなく、固有値解析を実施した場合に近い振動モード形状を得ることができる。
【0022】
モード形状決定部7は、上式(11)のmode
j(h
i)の値として取得された揺れ幅を基に、複数の次数jの各々について、複数の階層iの各々に対応する係数を算出する。
これにはまず、モード形状決定部7は、建物の階層の数をN、応答観測階層RFの数をSとしたときに、N行S列の行列である第1行列Φを構築する。第1行列Φは、次式(13)により表現される。
【数6】
第1行列Φの要素各Φ
i、jは、複数の次数j(1≦j≦S)の各々における、複数の階層i(1≦i≦N)の各々の揺れ幅、すなわち式(11)のmode
j(h
i)の値である。このように、第1行列Φは、全ての次数における、全ての階層の固有モードを表現するものである。
【0023】
次に、モード形状決定部7は、応答観測階層RFに関する、S行S列の行列である第2行列Φ
obsを構築する。第2行列Φ
obsは、次式(14)により表現される。
【数7】
第2行列Φ
obsは、第1行列Φから、応答観測階層RFに対応する行のみを抜き出して構築した行列であり、応答観測階層RFにおける固有モードを示すものである。
このように、第2行列Φ
obsは、複数の次数j(1≦j≦S)の各々における、複数の応答観測階層k(1≦k≦S)の各々の揺れ幅を要素Φ
obsk、jとする。
【0024】
ここで、地動観測階層BFにおいて得られた地震情報に対する、応答観測階層RFにおいて得られた地震情報の相対地震情報(相対時刻歴波形)Y
obsを、次式(15)により表す。
【数8】
また、上記の相対地震情報に対する、1~S次のモード応答波形ηを、次式(16)により表す。
【数9】
すると、式(15)、(16)から、次式(17)が成立する。
【数10】
式(17)を変形することで、次式(18)のように、モード応答波形ηが求められる。
【数11】
【0025】
そして、全ての階層における応答の推定値Yを、次式(19)のように定義する。
【数12】
全ての階層における応答の推定値Yは、式(18)のモード応答波形ηと、全ての階層の固有モードを表現する第1行列Φを用いて、次式(20)のように立式することができる。
【数13】
式(20)に式(18)を代入すると、次式(21)が成立する。
【数14】
【0026】
上式(21)は、応答観測階層RFにおいて得られた地震情報の相対地震情報(相対時刻歴波形)Y
obsが得られれば、これに対して、第1行列Φに第2行列Φ
obsの逆行列を乗算した行列との行列積を計算することで、非観測階層NFを含む全ての階層における、地動観測階層BFに対する相対地震情報を推定することができることを意味している。
これに基づき、モード形状決定部7は、第1行列Φと第2行列Φ
obsを算出した後、第1行列Φに第2行列Φ
obsの逆行列を乗算して、係数行列Φ
pを計算する。係数行列Φ
pは、次式(22)により表現される。
【数15】
【0027】
例えば、
図2として例示した建物20に対し、
図3に示されるような振動モード形状が式(11)によって得られた場合において、第1行列Φは、例えば、全ての次数に対し、全ての階層の各々における式(11)の値を取得することによって、次のように表される。
【数16】
上式(23)においては、最も上の行が1階に相当し、行が下になるに従って階層が上のものとなり、最も下の行が10階に相当する。左の列は次数が1の振動モード形状に相当し、右の列は次数が2の振動モード形状に相当する。
式(23)から、応答観測階層RFに相当する、4階と10階の値を抜き出して、次式(24)のように、第2行列Φ
obsを表現する。
【数17】
その結果、係数行列Φ
pは、次のように計算される。
【数18】
【0028】
上記のようにして計算される係数行列Φpにおいては、各行が複数の階層i(1≦i≦N)の各々に相当し、各列kが複数の応答観測階層k(1≦k≦S)の各々に相当する。例えば上式(25)においては、最も上の行が1階に相当し、行が下になるに従って階層が上のものとなり、最も下の行が10階に相当する。左の列は4階に相当し、右の列は10階に相当する。
そして、各要素Φpi、kは、各階層iにおいて、各応答観測階層kの観測結果が他の応答観測階層RFの観測結果に比べてどれくらい当該階層iに近いか、その程度を示すものとなる。このため、係数行列Φpは、各階層iに対する、各応答観測階層kの地震情報の影響度を示すものとなる。
このようにして、モード形状決定部7は、第1行列Φと第2行列Φobsから、複数の階層iの各々における、複数の応答観測階層kの各々の地震情報の影響度を要素Φpi、kとする係数行列Φpを計算する。
この係数行列Φpは、地震時に非観測階層NFにおける地震情報を推定するに際し、複数の階層iの各々に対応する係数として使用される。
【0029】
実際に地震が生じた際には、複数の階層の中の、複数の観測階層OFに設けられたセンサ2の各々が、複数の観測階層OFの各々における地震情報を観測する。
非観測階層地震情報推定部8は、各センサ2から、地震情報を取得する。
非観測階層地震情報推定部8は、各応答観測階層RFにおいて観測された地震情報の各々から、それぞれ、地動観測階層BFにおける地震情報との相対地震情報を計算する。本実施形態においては、地震情報は加速度の時刻歴情報であるから、各応答観測階層RFにおいて観測された地震情報の各々から、それぞれ、地動観測階層BFにおける地震情報を引くことで、相対地震情報を計算する。これが、上式(21)における、応答観測階層RFにおいて得られた地震情報の相対地震情報(相対時刻歴波形)Yobsに相当する。
【0030】
非観測階層地震情報推定部8は、このようにして得られた相対地震情報Y
obsに対し、式(21)に示されるように係数行列Φ
p(第1行列Φに第2行列Φ
obsの逆行列を乗算した行列)を乗算して、全ての非観測階層NFにおける、地動観測階層BFに対する相対地震情報Yを計算する。
これは、実際には、次式(26)のような演算を行うことに相当する。次式において、Y
iは、階層iにおける相対地震情報である。
【数19】
例えば、
図2として例示した建物20においては、次のようにして、非観測階層NFの各階層iにおける相対地震情報Y
iを計算する。
Y
i=Φ
pi、1(4階における相対地震情報の階層iに対する影響度)×Y
obs1(4階における相対地震情報)
+Φ
pi、2(10階における相対地震情報の階層iに対する影響度)×Y
obs2(10階における相対地震情報)
このように、各階層iにおける相対地震情報Y
iは、応答観測階層RFにおける相対地震情報を、応答観測階層RFにおける相対地震情報の階層iに対する影響度すなわち係数Φ
pi、kによって重み付けした総和として、計算される。
【0031】
そして、非観測階層地震情報推定部8は、上記のようにして計算された、各階層iにおける相対地震情報Yiに対し、地動観測階層BFにおける地震情報を適用して、各階層iの地震情報を推定する。本実施形態においては、地震情報は加速度の時刻歴情報であるから、各階層iにおいて推定された相対地震情報に対し、地動観測階層BFにおける地震情報を足すことで、各階層iの地震情報を推定する。
このようにして、非観測階層地震情報推定部8は、地震情報を基にしたデータ、すなわち相対地震情報に対し、係数を適用して、複数の階層の中の、複数の観測階層OFとは異なる非観測階層NFにおける、地震情報を推定する。より詳細には、複数の階層iの中の、複数の観測階層OFとは異なる非観測階層NFの各々に対し、係数行列Φpから、当該非観測階層NFにおける、複数の応答観測階層RFの各々の地震情報の影響度を、係数Φpi、kとして取得し、複数の応答観測階層RFの各々の地震情報を基にしたデータ、すなわち相対地震情報と、当該応答観測階層RFに対応する係数Φpi、kの積の総和を計算することで、非観測階層NFにおける地震情報を推定する。
建物応答推定部5は、このようにして、複数の観測階層OFの各々における地震情報を観測して取得し、これを基に複数の非観測階層NFにおける地震情報を推定することで、複数の階層を有する建物20の、地震発生時における応答を推定する。
【0032】
被災度判定部9は、センサ2により観測された、複数の観測階層OFの各々における地震情報と、建物応答推定部5により推定された、複数の非観測階層NFの各々における地震情報と、を用いて、建物20の被災度を判定する。
被災度判定部9は、例えば、上記のようにして観測、推定された各階層の地震情報から、各階の層間変形角を計算し、階層ごとに、これを閾値と比較する。そして、被災度判定部9は、その比較結果に応じ、建物20の地震後の被災度合いを示す構造性能指標として、例えば、建物の被災度を、階層ごとに、「安全」、「要点検」、「危険」といった複数段階の判定結果として、図示されない表示装置に出力する。
【0033】
次に、
図1~
図7、及び
図8を用いて、上記の被災度判定システム1を用いた、建物の応答推定方法、及び建物の被災度判定方法を説明する。
図8は、本実施形態の被災度判定システムにおける、建物の応答推定方法(
図8におけるステップS1~S13)及び建物の被災度判定方法(
図8におけるステップS1~S15)のフローチャートである。
まず、事前準備として、高さ情報入力部6に、建物20の各階層の高さ情報を入力する(ステップS1)。高さ情報入力部6は、各階層の高さ情報が入力されると、各階層の基準化高さを計算する。
モード形状決定部7は、高さ情報入力部6によって計算された基準化高さを基に、複数の次数の固有モードにおける振動モード形状を、式(11)として示された数式により立式し、決定する(ステップS3)。
そして、モード形状決定部7は、式(13)、(14)として示したように、第1行列Φ及び第2行列Φ
obsを立式し、これを基に、式(22)により、係数行列Φ
pを計算することで、係数を算出する(ステップS5)。
【0034】
実際に地震が生じた際には、複数の階層の中の、複数の観測階層OFに設けられたセンサ2の各々が、複数の観測階層OFの各々における地震情報を観測する。
非観測階層地震情報推定部8は、各センサ2から、地震情報を取得する(ステップS11)。
非観測階層地震情報推定部8は、観測階層OFの地震情報を基に、式(26)により、非観測階層NFの地震情報を推定する(ステップS13)。
被災度判定部9は、センサ2により観測された、複数の観測階層OFの各々における地震情報と、建物応答推定部5により推定された、複数の非観測階層NFの各々における地震情報と、を用いて、建物20の被災度を判定する(ステップS15)。
【0035】
次に、本実施形態における被災度判定システム1の、応答精度の検証結果について説明する。5階建て、9階建て、15階建ての、実在の建物を基にした、質点系モデルを用いて、エルセントロ波、告示波レベル1に対する地震応答解析を行った。各階層の解析時刻歴データを観測値として、応答を推定した。5階建ての場合には、1階、4階、5階を、観測階層とした。9階建ての場合には、1階、5階、9階を、観測階層とした。15階建ての場合には、1階、6階、12階、15階を、観測階層とした。
図9は、実在の、5階建ての建物の質点系モデルを用いて地震応答解析を行った結果を示す図である。
図10は、実在の、9階建ての建物の質点系モデルを用いて地震応答解析を行った結果を示す図である。
図11は、実在の、15階建ての建物の質点系モデルを用いて地震応答解析を行った結果を示す図である。
図12は、
図10~
図12の各ケースにおいて、最大推定誤差を示した図である。
図9~
図11には、各階層の最大加速度が示されている。これら各図において、符号C1は観測値であり、符号C2は地震応答解析を行った質点系モデルの固有値解析による振動モード形状を用いた場合である。また、符号R1は、本実施形態において、パラメータaを0.15とし、パラメータbを0.5とした場合の振動モード形状を用いた場合である。
これらの図に示されるように、最大加速度は、観測値、及び地震応答解析を行った場合に近く、本実施形態の被災度判定システム1は高い精度を有することが確認された。
【0036】
次に、上記の建物の応答推定方法、及び当該建物の応答推定方法を用いた被災度判定システムの効果について説明する。
上記の建物20の応答推定方法は、複数の階層を有する建物20の、地震発生時における応答を推定する、建物20の応答推定方法であって、複数の階層の各々をi、複数の階層の各々の高さを最上階の階層の高さで除算して基準化した基準化高さをhiとし、第1関数A(hi)、第2関数B(hi)をそれぞれ、基準化高さhiの関数としたときに、建物の次数がjである振動モードの形状を、上記の振動モード形状式(11)により、基準化高さhiの関数として表現し、当該振動モード形状式により、複数の次数jの各々に対し、複数の階層iの各々の揺れ幅を取得し、揺れ幅を基に、複数の階層iの各々に対応する係数を算出し、複数の階層iの中の、複数の観測階層OFに設けられたセンサ2の各々により、複数の観測階層OFの各々における地震情報を観測して取得し、地震情報を基にしたデータ(本実施形態においては相対地震情報)に対し、係数を適用して、複数の階層iの中の、複数の観測階層OFとは異なる非観測階層NFにおける、地震情報を推定する。
上記のような構成によれば、建物20の階層の中の、複数の観測階層OFのみに、センサ2を設け、センサ2により取得された観測階層OFの地震情報を基にしたデータに対し、係数を適用して、非観測階層NFの地震情報が推定されるため、建物20の全ての階層に、センサ2を設ける必要がない。
また、建物2の振動モード形状は、従来であれば、例えば建物20の各階層の重量や剛性等の構造情報を基に固有値解析を行うことで得るのが通常である。これに対し、上記のような構成において適用される係数は、上式(11)として表現された振動モード形状式により取得された揺れ幅を基に算出されるものであるが、この式(11)は、建物20の各階層の高さのみが判明すれば、立式可能である。このように、建物20の重量や剛性等の構造情報がなくとも、振動モード形状及び係数を、容易に得ることができる。
ここで、上記の式(11)においては、建物20の振動モード形状が、複数の階層の各々の高さを最上階の階層の高さで除算して基準化した基準化高さhiの関数として表現されている。すなわち、各階層iにおいて、当該階層iに対応する基準化高さhiを式(11)に代入して得られる値が、当該階層iにおける揺れ幅となる。そして、建物20の振動モード形状が、全体として正弦関数により表現されている。この正弦関数に乗ぜられる第1関数A(hi)は、基準化高さhiによって値が変わる関数であるため、建物20が階層ごとに異なる特性を示す場合に、その特性を、振動モード形状の振幅すなわち揺れ幅に、適切に反映させることができる。同時に、正弦関数への入力を構成する第2関数B(hi)は、第1関数A(hi)と同様に、基準化高さhiによって値が変わる関数であるため、建物20が階層ごとに異なる特性を示す場合に、その特性を、振動モード形状の波長に、適切に反映させることができる。このようにして、建物20の特性を振動モード形状に適切に反映することができるため、これを基にして推定される、非観測階層NFにおける地震情報の精度が高まる。
このようにして、構造情報がないような建物20であっても、建物20の限られた階層に設けられたセンサ2による地震情報から、センサ2が設けられていない階層の地震情報を容易かつ高い精度で推定することが可能な、建物20の応答推定方法を提供することができる。
【0037】
また、第1関数A(hi)及び第2関数B(hi)は、正の値を有するパラメータa、パラメータbにより、上式(12)として、基準化高さhiが大きくなればなるほど値が大きくなるように立式されている。
実際の建物20においては、通常、上階となるほど剛性が低くなる。このため、上記式(11)のように正弦関数を用いて振動モード形状を表現する場合においては、上階となるほど正弦関数の振幅が大きく、波長が短くなるようにすれば、振動モード形状が実際の建物に近い特性を表現するものとなる。
ここで、上記のような構成によれば、第1関数A(hi)は、基準化高さhiが大きくなればなるほど値が大きくなるように立式されているため、式(11)においては、基準化高さhiが大きくなればなるほど正弦関数の振幅が大きくなる。したがって、実際の建物20の、高さに依存する特性を、式(11)に反映させることができる。
特に、第1関数A(hi)を、上記の式(12)のように設定することで、より効果的に、高さに依存する特性を、式(11)に反映させることができる。
また、第2関数B(hi)は、基準化高さhiが大きくなればなるほど値が大きくなるように立式されているため、式(11)においては、基準化高さhiが大きくなればなるほど正弦関数の波長が短くなる。したがって、実際の建物20の、高さに依存する特性を、式(1)に反映させることができる。
特に、第2関数B(hi)を、上記の式(12)のように設定することで、より効果的に、高さに依存する特性を、式(11)に反映させることができる。
このようにして、高さに依存する特性を、式(11)に、より適切に反映させることができるので、センサ2が設けられていない階層の地震情報を、より正確に、推定することができる。
【0038】
また、複数の観測階層OFは、最も下の階層である地動観測階層BFと、地動観測階層BFより上に位置する複数の応答観測階層RFを含み、複数の次数jの各々における、複数の階層iの各々の揺れ幅を要素とする第1行列Φを構築し、複数の次数jの各々における、複数の応答観測階層RFの各々の揺れ幅を要素とする第2行列Φobsを構築し、第1行列Φに第2行列Φobsの逆行列を乗算して、複数の階層iの各々における、複数の応答観測階層RFの各々の地震情報の影響度を要素とする係数行列Φpを、複数の階層iの各々に対応する係数として計算し、複数の階層iの中の、複数の観測階層OFとは異なる非観測階層NFの各々に対し、係数行列Φpから、当該非観測階層NFにおける、複数の応答観測階層RFの各々の地震情報の影響度を、係数として取得し、複数の応答観測階層RFの各々の地震情報を基にしたデータと当該応答観測階層RFに対応する係数の積の総和を計算することで、非観測階層NFにおける地震情報を推定する。
また、地震情報は、加速度の時刻歴情報であり、地震情報を基にしたデータは、複数の応答観測階層RFの各々の地震情報から、地動観測階層BFの地震情報を引いて得られる、応答観測階層RFの各々の相対地震情報である。
このような構成によれば、建物の応答推定方法、及び当該建物の応答推定方法を用いた被災度判定システムを、適切に実現することができる。
【0039】
また、被災度判定システム1は、上記のような建物20の応答推定方法によって、複数の観測階層OFの各々における地震情報を観測して取得し、これを基に複数の非観測階層NFにおける地震情報を推定する、建物応答推定部5と、複数の観測階層OFと複数の非観測階層NFの各々の地震情報を用いて、建物20の被災度を判定する、被災度判定部9と、を備える。
上記のような建物20の応答推定方法においては、既に説明したように、構造情報がないような建物であっても、建物20の限られた階層に設けられたセンサ2による地震情報から、センサ2が設けられていない階層の地震情報を容易かつ高い精度で推定することが可能である。したがって、これを用いた上記のような被災度判定システム1においては、容易かつ高い精度で、建物20の被災度を判定することができる。
【0040】
(実施形態の第1変形例)
なお、本発明の建物の応答推定方法、及び当該建物の応答推定方法を用いた被災度判定システムは、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態においては、複数の観測階層OFとして、最も下の階層である地動観測階層BFと、4階と10階の2つの応答観測階層RFの、計3つの観測階層OFにセンサ2を設置したが、これに替えて、応答観測階層RFを1つのみとし、地動観測階層BFとあわせて2つの観測階層OFにセンサ2を設置してもよい。
ここでは、
図2に示されるような建物20において、1階と9階を、それぞれ地動観測階層BFと応答観測階層RFとしてセンサ2を設置する場合について説明する。
まず事前に、次数の上限を適切に設定する。本変形例においては次数の上限を3とする。そして、これを上限とした次数の値の各々に対し、上記実施形態と同様に、式(11)、(12)により、建物20の振動モード形状を表現し、式(13)を用いて第1行列Φを構築する。本変形例においては、この第1行列Φそのものが、揺れ幅を基に算出された、複数の階層の各々に対応する係数となる。
【0041】
地震が生じると、複数の観測階層OFに設けられたセンサ2の各々が、複数の観測階層OFの各々における地震情報を観測する。本変形例においては、1階における地震情報(時刻歴波形)Y
1(t)と、9階における地震情報(時刻歴波形)Y
9(t)が取得される。
非観測階層地震情報推定部8は、各センサ2から取得された地震情報の各々から、フーリエスペクトルを計算する。
図13は、計算されたフーリエスペクトルを示す説明図である。本変形例においては、観測階層OFは1階と9階であるから、
図13には、これらの各々に対応するフーリエスペクトルが示されている。
非観測階層地震情報推定部8は、各次数に対し、当該次数に対応する周波数帯域内の波形を抽出するバンドパスフィルターを、各地震情報に適用して、地震情報を次数ごとに分離する。本変形例においては、1階の地震情報Y
1(t)から、1次の波形y
1、1(t)、2次の波形y
1、2(t)、及び3次の波形y
1、3(t)が分離され、切り出される。また、9階の地震情報Y
9(t)から、1次の波形y
9、1(t)、2次の波形y
9、2(t)、及び3次の波形y
9、3(t)が分離され、切り出される。
【0042】
次に、非観測階層地震情報推定部8は、各次数に対し、第1行列Φ内の、当該次数の応答観測階層RFに対応する要素の値によって、応答観測階層RFにおいて切り出された波形と地動観測階層BFにおいて切り出された波形の差分を除算して、当該次数のモード応答波形ηj(t)を計算する。
本変形例においては、例えば次のようにして、1次、2次、3次の各々の次数jにおける、モード応答波形ηj(t)が計算される。
1次モード応答波形:η1(t)=(y9、1(t)-y1、1(t))/Φ9、1
2次モード応答波形:η2(t)=(y9、2(t)-y1、2(t))/Φ9、2
3次モード応答波形:η3(t)=(y9、3(t)-y1、3(t))/Φ9、3
【0043】
そして、非観測階層地震情報推定部8は、非観測階層NFの各々iに対し、全ての次数jにおいて、当該階層iの当該次数jに対応する第1行列Φの値Φi、jと、当該次数jのモード応答波形ηj(t)との積の総和を計算し、当該総和と、地動観測階層BFにおける観測波形、すなわち地震情報Y1(t)の和を計算することで、非観測階層NFの各々iの各々における地震情報としての加速度の時刻歴情報Yi(t)を推定する。
本変形例においては、例えば次のようにして、非観測階層NFの地震情報Y2(t)~Y8(t)、Y10(t)が推定される。
Y10(t)=Φ10、1×η1(t)+Φ10、2×η2(t)+Φ10、3×η3(t)+Y1(t)
Y8(t)=Φ8、1×η1(t)+Φ8、2×η2(t)+Φ8、3×η3(t)+Y1(t)
Y7(t)=Φ7、1×η1(t)+Φ7、2×η2(t)+Φ7、3×η3(t)+Y1(t)
・・・
Y2(t)=Φ2、1×η1(t)+Φ2、2×η2(t)+Φ2、3×η3(t)+Y1(t)
【0044】
本変形例においては、地震情報は、加速度の時刻歴情報であり、地震情報を基にしたデータは、各々の次数jの、モード応答波形ηj(t)である。
このようにした場合においても、上記実施形態と同様に、構造情報がないような建物20であっても、建物20の限られた階層に設けられたセンサ2による地震情報から、センサ2が設けられていない階層の地震情報を容易かつ高い精度で推定することが可能な、建物20の応答推定方法を提供することができる。
【0045】
(実施形態の第2変形例)
次に、上記実施形態の第2変形例を説明する。上記実施形態においては、式(12)で表される第1関数A(h
i)及び第2関数B(h
i)を表現する、正の値を有するパラメータa、bを、例えばパラメータaを0.15、及びパラメータbを0.5と、定数として設定した。本変形例においては、パラメータbを、ある値を変数とした式として表現し、対象となる建物に応じて当該変数に適切な値を代入して得られる値を、パラメータbの値として使用する。
図14は、本変形例に係る被災度判定システムにおいて対象となる、下側に位置する各階層の重量が上側に位置する各階層の重量よりも大きく、高さ方向において重心が偏心した建物の一例である。
一部の建物においては、各階の重量が概ね一定ではなく、例えば上側に位置する各階層の面積が、下側に位置する各階層よりも小さく実現されているために、下側に位置する各階層の重量が、上側に位置する各階層の重量よりも大きいことがある。例えば
図14の10階建ての建物20Aでは、1階から3階までの、下側に位置する各階層においては、その重量が、4階から10階までの、上側に位置する階層の、各々の重量よりも、大きい状態となっている。
図2に示したような、各階層の面積が等しく、各階層の重量がほぼ等しい建物20においては、建物の高さ方向における重心、すなわち、建物を横向きにしたときの重心の、高さ、すなわち地動観測階層BFからの距離は、建物20の高さの概ね1/2の値となる。しかし、上記のような、階層ごとに重量が異なる場合においては、重量分布が下側に偏るために、建物の高さ方向における重心Wの位置が、中心よりも、下側の階層の側に、偏心する。
本変形例においては、建物の高さ方向における重心の位置が上下方向に偏心した場合においても、センサが設けられていない階層の地震情報を高い精度で推定するために、建物の高さ方向における重心の位置を変数として、上記実施形態における式(12)のパラメータbを立式することで、パラメータbに、建物の高さ方向における重心の位置を反映させる。
【0046】
まず、本変形例における重心の高さを立式する。上記実施形態においては、各階層の高さとしては、当該階層の実際の高さを、最上階の階層の高さで除算して、基準化した基準化高さを用いた。このため、本変形例において、パラメータbを立式するに際して変数となる重心の高さとしても、建物の高さ方向における重心の高さを、最上階の階層の高さで除算して基準化した値である、重心基準化高さh
gを用いる。
重心基準化高さh
gは、次式(27)によって表される。
【数20】
上式において、h
Eiは、例えば階層iの天井の高さ(階層i+1の床の高さ)を建物高さで除算した値であり、W
iは、当該階層iの上部1/2の重量と、階層i+1の下部1/2の重量の和である。
重心基準化高さh
gは、地動観測階層BFの基準化高さを0とし、最上階の階層の基準化高さを1としたときに、実際の重心の高さに相当する0以上1以下の値に設定されるのであれば、上式に限らず、どのような式、計算によって算出されてもよいのは、言うまでもない。
【0047】
以下、パラメータbの立式に関して説明する。本変形例においては、ある架空の建物を想定し、この建物を固有値解析した結果の振動モード形状と、上式(11)による振動モード形状を比較して、これらの振動モード形状が近いものとなるように、パラメータbを立式した。
具体的には、本変形例においては、30階建ての、下側に位置する各階層の重量が、上側に位置する各階層の重量よりも大きい建物を想定した。建物としては、次の12種類の重量分布を想定した。
case2_10:下側に位置する10%の各階層(3階層)の重量が、上側に位置する各階層の重量の2倍(重心基準化高さhg:0.48)
case2_20:下側に位置する20%の各階層(6階層)の重量が、上側に位置する各階層の重量の2倍(重心基準化高さhg:0.45)
case2_30:下側に位置する30%の各階層(9階層)の重量が、上側に位置する各階層の重量の2倍(重心基準化高さhg:0.44)
case2_40:下側に位置する40%の各階層(12階層)の重量が、上側に位置する各階層の重量の2倍(重心基準化高さhg:0.41)
case3_10:下側に位置する10%の各階層(3階層)の重量が、上側に位置する各階層の重量の3倍(重心基準化高さhg:0.43)
case3_20:下側に位置する20%の各階層(6階層)の重量が、上側に位置する各階層の重量の3倍(重心基準化高さhg:0.39)
case3_30:下側に位置する30%の各階層(9階層)の重量が、上側に位置する各階層の重量の3倍(重心基準化高さhg:0.37)
case3_40:下側に位置する40%の各階層(12階層)の重量が、上側に位置する各階層の重量の3倍(重心基準化高さhg:0.37)
case4_10:下側に位置する10%の各階層(3階層)の重量が、上側に位置する各階層の重量の4倍(重心基準化高さhg:0.40)
case4_20:下側に位置する20%の各階層(6階層)の重量が、上側に位置する各階層の重量の4倍(重心基準化高さhg:0.35)
case4_30:下側に位置する30%の各階層(9階層)の重量が、上側に位置する各階層の重量の4倍(重心基準化高さhg:0.34)
case4_40:下側に位置する40%の各階層(12階層)の重量が、上側に位置する各階層の重量の4倍(重心基準化高さhg:0.34)
上記の全ての場合において、剛性分布は、Ai分布の逆数に比例するように設定した。
【0048】
また、上記の12種類のデータと比較する対象となるデータ(case1)として、重量分布が全ての階層で一定となり、かつ剛性分布がAi分布の逆数に比例するように設定されたものを用意した。
【0049】
上記のような13種類のデータに対し、まず、固有値解析を行い、1次から5次までの振動モード形状を算出した。
図15は、各階層の重量が同一である場合(case1)と、下側に位置する各階層の重量が、上側に位置する各階層の重量の4倍である4つの場合(case4_10~case4_40)の、計5つのモデルにおける、3次の振動モード形状を示す振動モード図である。
図15においては、case1の振動モード形状には符号L1が、case4_10~case4_40にはそれぞれ符号L4_10~L4~40が、付されている。
図15から、重心基準化高さh
gが変わると、振動モード形状の腹の位置が異なっていることがわかる。
【0050】
次に、上記の各データに対し、j次(1~5次)の振動モード形状について、次式(28)により、固有値解析により算出された振動モード形状と、上記実施形態の式(11)による振動モード形状との、残差e
jを定義する。
【数21】
上式において、mode
Rj(h
i)は固有値解析により算出された振動モード形状であり、mode
j(h
i)は上記実施形態の式(11)による振動モード形状である。式(11)において、パラメータaの値は、上記実施形態において適切な値として説明した、値0.15に設定した。
この条件の下、各データの、j次(1~5次)の各振動モード形状に対し、残差e
jが0に近くなるような値bを計算した。
【0051】
図16は、建物の高さ方向における重心の位置と、パラメータbとの関係を示す図である。
図16においては、各データに対し、当該データに相当する重心基準化高さh
gと、当該データの各振動モード形状に対して上記のようにして計算されたパラメータbとの関係が、プロットされている。
図16に示されるように、重心基準化高さh
gとパラメータbとの間には、正の相関がみられる。したがって、この関係を線形回帰すれば、パラメータbを立式することができる。
本変形例においては、
図16を基に線形回帰した結果、パラメータbを、次式(29)として立式した。
【数22】
【0052】
この式(29)を用いて式(12)の第2関数B(h
i)を表現することで得られる、式(11)の振動モード形状を、
図17~
図20に示す。
図17~
図20は、それぞれ、case4_10~case4_40の各々において、当該モデルを固有値解析した結果の振動モード形状(符号L2)と、上記実施形態により表現された振動モード形状(符号L3)、及び本変形例により表現された振動モード形状(符号L4)の、各々を示す振動モード図である。符号L3が付された、上記実施形態により表現された振動モード形状は、パラメータa、bをそれぞれ、0.15、0.5として設定した場合に、式(11)によって表される振動モード形状である。符号L4が付された、本変形例により表現された振動モード形状は、パラメータaを0.15、とし、パラメータbを、各データに対応する重心基準化高さh
gを上式(29)に代入することによって得られた値として設定した場合に、式(11)によって表される振動モード形状である。
図17~
図20の各々においては、L4が付された線は、L3が付された線よりも、L2が付された線に近い形状となっており、建物の高さ方向における重心が偏心している場合に、パラメータbを、上式(29)を用いて設定すると、単に0.5とした場合よりも実際に近い振動モード形状が得られることがわかる。
【0053】
次に、上式(29)を用いて設定されたパラメータbにより、式(11)によって表現された振動モード形状を用いて、地震時の応答推定値を比較検証した。
図21は、検証に用いた建物モデルを示す図である。
本検証においては、15階建ての実在する建物を基に、これに対応する元となる建物モデルを作成し、これを基に、下側に位置する各階層の重量を大きくすることで、検証対象となる建物モデルを作成した。検証対象となる建物モデルは、元となる建物モデルにおいて、下側に位置する各階層の重量を実際の5倍とすることで作成した。結果として、検証対象となる建物モデルにおける重心基準化高さh
gは、0.38となった。剛性分布は、各階層のせん断力係数が、元となる建物モデルから変わらないように設定した。検証対象となる建物モデルにおいて、地動観測階層BFを1階とし、応答観測階層RFを4階と15階とした。
このようにして作成した、検証対象となる建物モデルに対し、固有値解析を行って振動モード形状を計算した。また、検証対象となる建物モデルに対し、パラメータa、bをそれぞれ、0.15、0.5として設定し、式(11)により振動モード形状を表現した。更に、検証対象となる建物モデルに対し、パラメータaを0.15、とし、パラメータbを、各データに対応する重心基準化高さh
gを上式(29)に代入することによって得られた値として設定し、式(11)により振動モード形状を表現した。
これらの振動モード形状に対し、告示波とエルセントロ波を作用させ、各階層の最大加速度応答値を計算した。
【0054】
図22と
図23は、検証対象となる建物モデルを固有値解析した結果の振動モード形状と、上記実施形態により表現された振動モード形状、及び本変形例により表現された振動モード形状の各々に対し、告示波とエルセントロ波をそれぞれ作用させた際の、各階層の最大加速度応答値を示す最大加速度応答図である。
図22、23においては、観測値に符号L5が、固有値解析により計算された振動モード形状の結果に符号L6が、パラメータa、bをそれぞれ、0.15、0.5として設定して式(11)により表される振動モード形状の結果に符号L7(本実施形態の基本形、各階層の重量が粗同一の建物対象)が、及び、パラメータaを0.15、とし、パラメータbを、各データに対応する重心基準化高さh
gを上式(29)に代入することによって得られた値として設定して式(11)により表される振動モード形状の結果に符号L8(実施形態の第2変形例、各階層の重量が異なる15階建てまでの建物対象)が、それぞれ付されている。
図22、
図23のいずれにおいても、L8が付された線は、L7が付された線よりも、L5、L6が付された線に近い形状となっており、建物の高さ方向における重心が偏心している場合に、上式(29)を用いてパラメータbを設定すると、パラメータbを単に0.5とした場合よりも、各階層の最大加速度をより正確に計算できることがわかる。
【0055】
なお、上記実施形態において、パラメータbは、0.3以上0.7以下の値とすると、より多くの建物に対して適用可能となるため好ましいと説明した。ここで、各階層の重量を一定として、偏心していない場合の建物に関し、上式(29)によって係数bの値を計算すると、例えば5階建ての建物においては、重心基準化高さhgは0.6となり、パラメータbは0.6となる。また、10階建ての建物においては、重心基準化高さhgは0.55となり、パラメータbは0.45となる。更に、15階建ての建物においては、重心基準化高さhgは0.53となり、パラメータbは0.4となる。これらのパラメータbの値は、上記の0.3以上0.7以下との範囲に収まる。したがって、上式(29)は、各階層の重量が一定の、偏心していない場合の建物に対しても、適用することが可能である。
【0056】
このように、本変形例においては、パラメータbは、建物の高さ方向における重心の高さを最上階の階層の高さで除算して基準化した、重心基準化高さhgを用いて、上式(29)として立式されている。
上記において、建物の高さ方向における重心は、建物を横向きにしたときの重心であり、重心基準化高さhgは、建物の高さ方向における重心の高さを、最上階の階層の高さで除算して基準化した値である。
建物においては、各階の重量が概ね一定ではなく、例えば上側に位置する各階層の面積が、下側に位置する各階層よりも小さく実現されているために、下側に位置する各階層の重量が、上側に位置する各階層の重量よりも大きいことがある。このような場合においては、建物を横向きにしたときの重心の位置が、中心よりも、下側の階層の側に、偏心している。
これに対し、上記のような構成においては、上式(12)において第2関数B(hi)を表す際に用いられるパラメータbが、建物の重心基準化高さhgを用いて立式されている。このように、重心基準化高さhgを変数としてパラメータb及び第2関数B(hi)を表現することで、上記のような、建物を横向きにしたときの重心の位置が偏心している場合においても、センサが設けられていない階層の地震情報を高い精度で推定することが可能となる。
【0057】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 被災度判定システム 20、20A 建物
5 建物応答推定部 OF 観測階層
9 被災度判定部 NF 非観測階層