(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023181995
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】ロータ用の変位体及びそれにより形成されたロータ
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20231218BHJP
【FI】
H02K9/19 B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023096065
(22)【出願日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】10 2022 114 854.8
(32)【優先日】2022-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D-70435 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ケーネン
【テーマコード(参考)】
5H609
【Fターム(参考)】
5H609PP02
5H609PP07
5H609PP08
5H609PP09
5H609QQ01
5H609QQ12
5H609QQ18
5H609QQ23
5H609RR37
5H609RR42
(57)【要約】 (修正有)
【課題】効率的にロータ巻線を冷却する手段を提供する。
【解決手段】ロータ用の変位体(20)であって、変位体(20)が、2つのロータ歯それぞれの間の溝に挿入されるように構成され、変位体(20)が、主要部(21)及び前記主要部に隣接したヘッド部(22)を有し、ヘッド部(22)が、変位体(22)の外側に向かって広がる領域を有し、変位体(20)を貫通して奥行き方向に延在する少なくとも1つの冷却流路(25)を有し、変位体(20)が、奥行き方向に少なくとも2つの隣接する層(23、24)を有する層の積層体として構成されている、変位体(20)が提供される。更に、対応するように構成されたロータ及び関連付けられた電気モータが提供される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ(1)用の変位体(20)であって、
前記変位体(20)は、2つのロータ歯それぞれの間の溝に挿入されるように構成され、
前記変位体(20)は、主要部(21)及び前記主要部に隣接するヘッド部(22)を有し、前記ヘッド部(22)が、前記変位体(22)の外側に向かって広がる部分を有し、
前記変位体(20)を貫通して奥行き方向に延在する、少なくとも1つの冷却流路(25)を備え、
前記変位体(20)は、奥行き方向に、少なくとも2つの隣接する層(23、24)を有する層の積層体として構成される、変位体(20)。
【請求項2】
前記層の積層体が、互いに絶縁された金属層(23)の列を有し、請求項1に記載の変位体(20)。
【請求項3】
前記金属材料が、常磁性金属を含む、請求項2に記載の変位体(20)。
【請求項4】
前記変位体(20)の前記主要部(21)から横方向外側に延在する少なくとも1つのリブ(26)を更に有する、請求項1~3に記載の変位体(20)。
【請求項5】
前記変位体(20)の2つの対向する側面それぞれに、同一数のリブ(26)が配置される、請求項4に記載の変位体(20)。
【請求項6】
前記リブ(26)の長さが、前記主要部(21)の内側端部から前記主要部(21)の外側端部に向かって減少する、請求項5に記載の変位体(20)。
【請求項7】
電気モータ用のロータ(1)であって、
前記ロータ(1)が、ロータ歯が中に形成される積層コア(2)を有し、
ロータ巻線が、前記ロータ歯の間に形成される溝(3)内に配置され、
少なくとも複数の前記溝(3)では、請求項1~6のいずれか一項に記載の変位体(20)が、前記ロータ(1)の軸方向に挿入される、ロータ(1)。
【請求項8】
ステータと、
請求項7に記載の前記ステータ内に装着されたロータ(1)と、を有する、電気モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータの溝に挿入されるロータ用の変位体(ディスプレーサーボディ)、及びそれにより形成されたロータに関する。
【背景技術】
【0002】
個別励起同期機械(FAM)では、ロータ内の磁界の生成は、電流が流れるコイル(電磁石)で行われる。ロータの磁束は、コイルを流れる励起電流によって可変に調整可能である。コイルは多くの場合、単一の脚柱の周りに巻かれる。
【0003】
個別励起同期機械のロータでできるだけ強力な磁界を生成するために、ロータ巻線にできるだけ大きな電流を流し、巻数を多くしなければならない。巻線の設置空間に可能な限り多くの巻数を確保するために、ロータ巻線は小さな直径を有する丸線で作られる。このワイヤが遠心力の影響で滑り落ちないようにするために、巻線を固定するためのくさび形状の変位体が使用され、その材質は通常プラスチックである。
【0004】
ロータ用の積層コアとは対照的に、ロータ巻線内ではより高い損失密度が発生するため、積層コアよりも著しく高い温度となる。したがって、個別励起同期機械の連続出力は、一般に、ロータ巻線の加熱によって制限される。巻線の最も高温となる場所は、概ね半径方向の比較的中心部に位置し、変位体に直接当たる。
【0005】
ロータコイルの電流によるロータ損失が大きいため、ロータ巻線の冷却が必要である。他の電気機械と同様に、ロータからの熱放散はロータシャフト冷却によって改善することができる。そのようなロータシャフト冷却は、例えば、米国特許第7489057号明細書から既知であり、この場合、冷却流体がロータシャフトを軸方向に流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の米国特許に記載される実施形態と比較して、ロータ冷却を更に発展させたものとして、トランスミッションや電子機械のステータの冷却回路からロータの巻線ヘッドにオイルを噴霧するものがある。ロータシャフト冷却に比べて、損失源において熱が放散されるコンセプトである。しかしながら、ロータの巻線ヘッドの外側端部のみが冷却され、ロータの中心は冷却されないという欠点がある。
【0008】
また、ロータ中心内の熱を放散するために、変位体を、巻線を冷却するための溝を各変位体内に統合するように構成することができ、その結果、各溝に溝チャネルができる。変位体に必要な空洞を設けるためには、ロータ巻線をプラスチック材料で封止する必要がある。この封止材料は、冷却流路及び変位体の構造も形成する。
【0009】
しかしながら、ロータ溝内に冷却媒体が流れる冷却流路を提供することは、動作中に生成される廃熱を放熱するための大前提にすぎない。この廃熱を巻線から冷却媒体内へと効率的に導くためには、巻線と冷却流路との間の低い熱抵抗が必要である。冷却流路がプラスチック製の変位体内に設けると、プラスチックの熱伝導率の低さによって放熱が妨げられ、冷却能力は無駄になる。
【0010】
以上のことから、本発明の課題は、追加の設置スペースを必要とすることなく、可能な限り効率的にロータ巻線を冷却する手段を提供することにあると見ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、独立請求項の発明によって解決される。更なる好ましい実施形態は、従属請求項に見出すことができる。
【0012】
本発明は、変位体本体を、より良好な熱伝導を有するように設計するという基本的な考えに基づいている。この目的のために、本発明によれば、変位体は、互いに絶縁されたシートの積層体として設計することができる。このようにすると、放熱板として作用又は使用される変位体内の渦電流損失を回避することができる。個々のシートは、例えば、アルミニウムから作ることができる。絶縁材料でコーティングされたシートが互いに隣接して配置される場合、シート(層)の積層体は、機能的には導電層と非導電層との交互配列に対応する。シートの積層方向は、ロータの回転軸に平行である。言い換えれば、変位体は、奥行き方向に積層された構造を有する。
【0013】
このように設計された変位体では、冷却剤が流れる変位体には、熱伝導の悪いプラスチックの代わりに、熱伝導率の良い金属材料が使用される。これにより、ロータ巻線から冷却媒体への熱伝達が改善されるため、廃熱をより効率的に放熱することができる。金属製変位体における迷走損失を防止するために、金属放熱板として構成された変位体は、常磁性金属、例えばアルミニウムを有することができる。
【0014】
様々な実施形態において、ロータ用の変位体が提供され、変位体は、通常ロータ溝とも呼ばれる2つのロータ歯毎の間の溝に挿入されるように構成されている。変位体は、ロータ溝の軸方向の延在に対応する奥行きを有することができる。
【0015】
この場合、変位体は、主要部と、変位体の奥行き延在方向に垂直に主要部と隣接するヘッド部とを有し、ヘッド部は、変位体の外側に延在する領域を有する。主要部は、矩形形状を有してもよく、ヘッド部は、それに隣接する台形形状を有してもよい。変位体は、変位体を貫通して奥行き方向に延在する少なくとも1つの冷却流路を更に有する。奥行き方向は、変位体が中に挿入されるときのロータの軸方向に対応する。変位体は、層の積層体(シートまたは層のスタック)として構成され、この層の積層体は奥行き方向の少なくとも2つの隣接する層を含む。好ましくは、層の積層体は、数10層を有することができる。特に、第1の層は導電層を含んでもよく、第2の層は非導電層を含んでもよく、第1の層と第2の層は交互の層配列を形成する。この場合、2つのそれぞれ隣接する絶縁層は、導電層上のコーティングとして配置することができる。原則として、全ての層は同じ形状を有することができ、すなわち、横方向に突出することなく、互いに隣接することができる。
【0016】
変位体の更なる実施形態によれば、層の積層体は、互いに絶縁された金属層の列を構成することができる。組み立てられた状態では、シートの絶縁保護層は、それらの間に配置された絶縁層に対応する。
【0017】
変位体の更なる実施形態によると、個々のシートは、金属材料、好ましくは、常磁性金属、例えば比較的軽い金属でもあるアルミニウムからなることができる。
【0018】
更なる実施形態によれば、変位体は、変位体の主要部から横方向に外側に延在する少なくとも1つのリブを更に有することができる。変位体がロータ溝に挿入されると、リブは、ロータ溝の軸方向に垂直に延在し、そのため同時に巻線の導線内に延在する。各リブは、断面でロッド形状とすることができる。
【0019】
変位体の更なる実施形態によると、変位体の2つの対向する側面のそれぞれに、等しい数のリブが、配置されてもよい。好ましくは、変位体は、変位体の主要部の対応する2つの側面それぞれに等しい数のリブを有する、ミラー対称形状を有してもよい。
【0020】
変位体の更なる実施形態によれば、これらリブの長さは、主要部の内側端部から主要部の外側端部までにおいて減少してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電動モータ用のロータが更に提供され、ロータは、ロータ歯が形成された積層コアと、ロータ歯の間に形成された溝内に配置されロータ歯に巻回されるロータ巻線とを有し、少なくともいくつかの溝には、本明細書に記載されるそれぞれの変位体がロータの軸方向に挿入される。例えば、そのような変位体は、各ロータ溝内に存在することができる。
【0022】
電気機械のステータで本発明による変位体を使用することにより、巻線と冷却流路との間のより高い熱伝導率に起因してその連続出力を増加させることができる。更に、放熱板の層状構造によって電気機械の電磁特性の劣化を回避することができ、その結果、電気機械は、かわらず高い効率で動作することができる。
【0023】
更に、本発明によれば、ステータとステータに装着されたロータとを有し、ロータは、前項に記載の本明細書に記載の少なくとも1つの変位体を用いて構成された、電気モータが提供される。
【0024】
上述した特徴及び以下でこれから説明される特徴は、それぞれ指定された組み合わせ内で使用されるだけでなく、本発明の範囲を離れることなく、他の組み合わせ内で、又は単独で使用され得ることが理解される。
【0025】
本発明の追加の利点及び構成は、説明及び添付の図面から得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】従来技術による変位体内での溝チャネル冷却を用いる個別励起同期機械のロータの構造を示す。
【
図2】軸方向層状構造を有する本発明による変位体の構造を示す。
【
図3A】ロータ溝に挿入された変位体の更なる実施形態を示す。
【
図3B】ロータ溝に挿入された変位体の更なる実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1では、変位体20内に溝チャネル冷却を有する個別励起同期機械のロータ1の例示的な構造が示されている。ロータ1は、ロータ溝3によって互いに間隔をあけて配置されるロータ歯が中に形成されているロータ積層体(ロータ積層コア)2を備えている。各ロータ溝3内には、全体としてロータ巻線を形成する導線4が配置される。各ロータ溝3では、半径方向の外側領域がくさび形状の変位体20が配置され、これは、遠心力の影響により導線4が滑ることを防止し、それによりロータ溝3内にロータ巻線4を固定する。ロータ1は、ロータ軸5に支持される。
【0028】
図2では、軸方向に積層された構造を有する本発明による変位体20の例示的な構造を示す。本発明による変位体20は、このように、シートの積層構造として具現化され、主要部21とそれに直接接続したヘッド部22とに分割することができる。シート積層構造の各シート23は、一体的に形成され、主要部21及びヘッド部22を有することができる。各シート23は、絶縁層24に囲まれており、それによりシート23間の特に軸方向(変位体20の奥行き方向)に存在し、それにより別個の層として機能する。シート23の積層方向は、
図1に示すロータ1の回転軸に平行である。熱損失を良好に放散するために、2つの冷却流路25が設けられ、それらの各々が変位体20を貫通して奥行き方向に延在する。
【0029】
図3A及び
図3Bは、ロータシートの平面における断面図で、ロータ溝3に挿入された変位体20の更なる実施形態を示す。
図3Aに示す変位体20は、
図2の断面図に示す変位体20に対応する。
図3Bに示す変位体20は、その主要部から横方向外側に突出するリブ26を有する。主要部の一方側に配置された各リブ26は、主要部の反対側にその対応する部分を有する。更に、リブ26の長さは、変位体本体20の主要部の外側または下側端部の近い位置に配置されるにつれて、減少することが示されている。これは特に、ロータ溝3の形状に起因すると考えられる。
【符号の説明】
【0030】
1:ロータ、2:ロータの積層コア、3:ロータ溝、4:導線、ロータ巻線、
5:ロータシャフト、20:変位体、21:主要部、22:ヘッド部、
23:シート、層、24:絶縁層、25:冷却流路、26:リブ
【手続補正書】
【提出日】2023-10-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ(1)用の変位体(20)であって、
前記変位体(20)は、2つのロータ歯それぞれの間の溝に挿入されるように構成され、
前記変位体(20)は、主要部(21)及び前記主要部に隣接するヘッド部(22)を有し、前記ヘッド部(22)が、前記変位体(20)の外側に向かって広がる部分を有し、
前記変位体(20)を貫通して奥行き方向に延在する、少なくとも1つの冷却流路(25)を備え、
前記変位体(20)は、奥行き方向に、少なくとも2つの隣接する層(23、24)を有する層の積層体として構成される、変位体(20)。
【請求項2】
前記層の積層体が、互いに絶縁された金属層(23)の列を有し、請求項1に記載の変位体(20)。
【請求項3】
前記金属層が、常磁性金属を含む、請求項2に記載の変位体(20)。
【請求項4】
前記変位体(20)の前記主要部(21)から横方向外側に延在する少なくとも1つのリブ(26)を更に有する、請求項1に記載の変位体(20)。
【請求項5】
前記変位体(20)の2つの対向する側面それぞれに、同一数のリブ(26)が配置される、請求項4に記載の変位体(20)。
【請求項6】
前記リブ(26)の長さが、前記主要部(21)の内側端部から前記主要部(21)の外側端部に向かって減少する、請求項5に記載の変位体(20)。
【請求項7】
電気モータ用のロータ(1)であって、
前記ロータ(1)が、ロータ歯が中に形成される積層コア(2)を有し、
ロータ巻線が、前記ロータ歯の間に形成される溝(3)内に配置され、
少なくとも複数の前記溝(3)では、請求項1~6のいずれか一項に記載の変位体(20)が、前記ロータ(1)の軸方向に挿入される、ロータ(1)。
【請求項8】
ステータと、
請求項7に記載の前記ステータ内に装着されたロータ(1)と、を有する、電気モータ。
【外国語明細書】