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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182000
(43)【公開日】2023-12-25
(54)【発明の名称】水系コート剤、塗膜、および積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 123/26 20060101AFI20231218BHJP
   C08F 8/06 20060101ALI20231218BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20231218BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231218BHJP
   C09D 129/04 20060101ALI20231218BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20231218BHJP
【FI】
C09D123/26
C08F8/06
C08F10/00
C09D7/63
C09D129/04
B32B27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097128
(22)【出願日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2022095099
(32)【優先日】2022-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】芦原 公美
(72)【発明者】
【氏名】奥村 暢康
(72)【発明者】
【氏名】森本 亮平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 菜保
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AH02B
4F100AH03B
4F100AK03B
4F100AK70
4F100AL07
4F100AL07B
4F100AT00
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA02B
4F100EH46B
4F100EJ86B
4F100JA06
4F100JA07
4F100JB04
4F100JB04B
4F100JK06
4F100YY00B
4J038CB141
4J038CE012
4J038JB18
4J038JB27
4J038KA03
4J038MA08
4J038MA09
4J038NA24
4J038PB06
4J038PC08
4J100AA02Q
4J100AA03P
4J100AA04R
4J100CA05
4J100HA01
4J100HA57
4J100HC30
4J100HC36
4J100HD01
4J100HE17
4J100JA01
(57)【要約】
【課題】基材に塗工する際に塗膜のコート抜けや干渉斑を低減させ、かつ、粘着材料との離型性に優れる樹脂層を形成することができる水系コート液を提供する。
【解決手段】酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と添加剤(B)を含む水系コート剤であって、添加剤(B)が両親媒性化合物、アセチレングリコール、および、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であり、添加剤(B)の含有量が酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部を超えて、50質量部以下であることを特徴とする水系コート剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と添加剤(B)を含む水系コート剤であって、添加剤(B)が両親媒性化合物、アセチレングリコール、および、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であり、添加剤(B)の含有量が酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部を超えて、50質量部以下である、水系コート剤。
【請求項2】
ペンダントドロップ法で測定される表面張力が50mN/m以下である、請求項1に記載の水系コート剤。
【請求項3】
架橋剤(C)を含有する、請求項1又は2に記載の水系コート剤。
【請求項4】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の含有量が固形分換算で15~95質量%である、請求項1又は2に記載の水系コート剤。
【請求項5】
架橋剤(C)がオキサゾリン化合物および/またはカルボジイミド化合物である、請求項3に記載の水系コート剤。
【請求項6】
ポリビニルアルコールを含有する、請求項1又は2に記載の水系コート剤。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の水系コート剤からなる塗膜。
【請求項8】
基材上に樹脂層を設けてなる積層体であって、樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、および添加剤(B)を含み、添加剤(B)が両親媒性化合物、アセチレングリコール、および、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である、積層体。
【請求項9】
請求項8に記載の積層体を製造するための方法であって、請求項1又は2に記載の水系コート剤を基材上に塗布する工程と、水系コート剤が塗布された基材を乾燥する工程を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系コート剤、塗膜、および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、樹脂の表面改質剤、分散剤、相溶化剤や接着剤、離型剤、塗料材料、インキ材料等の幅広い用途に用いられている。昨今、軽量性、加工性、耐薬品性、耐水性、電気絶縁性及び燃焼時に有害物質が生成しない等の観点からポリオレフィンの利用が増えている。
【0003】
特許文献1には、離型性を有する樹脂層として、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する樹脂層が設けられた離型フィルムが開示されている。
【0004】
しかしながら特許文献1に記載の方法では、基材に塗工して樹脂層を形成した際にコート抜けが発生してしまい、均一な塗膜とすることが難しい場合があった。また、樹脂層表面に干渉斑が発生し、外観に劣ることがあった。干渉斑のある樹脂層を離型シートに用いた場合、粘着剤等へ転写されるおそれがあり、用途によっては使用できないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-20419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、これらの問題に鑑み、基材に塗工する際に塗膜のコート抜けや干渉斑を低減させ、かつ、粘着材料との離型性に優れる樹脂層を形成することができる水系コート液を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸変性ポリオレフィン樹脂と特定の添加剤を含有する水系コート剤は、泡立ちを抑制しつつ、ぬれ性が向上するため、コート抜けや干渉斑が少ない樹脂層を基材上に形成することができることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、次のとおりである。
【0008】
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と添加剤(B)を含む水系コート剤であって、添加剤(B)が両親媒性化合物、アセチレングリコール、および、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物であり、添加剤(B)の含有量が酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部を超えて、50質量部以下である、水系コート剤。
(2)ペンダントドロップ法で測定される表面張力が50mN/m以下である、(1)の水系コート剤。
(3)架橋剤(C)を含有する、(1)又は(2)の水系コート剤。
(4)酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の含有量が固形分濃度で15~95質量%である、(1)~(2)の何れかの水系コート剤。
(5)架橋剤(C)がオキサゾリン化合物および/またはカルボジイミド化合物である、(3)の水系コート剤。
(6)ポリビニルアルコールを含有する、(1)~(5)の何れかの水系コート剤。
(7)(1)~(6)の何れかの水系コート剤からなる塗膜。
(8)基材上に樹脂層を設けてなる積層体であって、樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、および添加剤(B)を含み、添加剤(B)が両親媒性化合物、アセチレングリコール、および、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である、積層体。
(9)(8)の積層体を製造するための方法であって、(1)~(6)の何れかの水系コート剤を基材上に塗布する工程と、水系コート剤が塗布された基材を乾燥する工程を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水系コート剤は、泡立ちが抑制され、ぬれ性が向上されており、こうした水系コート剤を用いることにより、基材に塗工する際の塗膜のコート抜けや干渉斑が低減され、かつ粘着材料との離型性に優れる樹脂層を得ることができる。さらに、このような樹脂層を有する積層体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の水系コート剤は酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と添加剤(B)を含有する。
【0011】
水系コート剤に含まれる酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、その酸変性成分が酸変性ポリオレフィン樹脂の1~10質量%であることが好ましく、1~8質量%がより好ましく、2~7質量%が特に好ましい。酸変性成分の量が1質量%未満の場合は、基材との十分な密着性が得られないことがあり、被着体を汚染する可能性がある。さらに、この樹脂を水性分散化するのが困難になる傾向がある。一方、10質量%を超える場合は、泡立ちが多くなり、塗膜としたときのコート抜けが多発する傾向がある。
【0012】
酸変性成分としては、不飽和カルボン酸成分があげられる。不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でも、樹脂の分散安定性の面から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0013】
酸変性ポリオレフィン樹脂の主成分であるオレフィン成分は、特に限定されないが、エチレン、プロピレン、イソブチレン、2-ブテン、1-ブテン、1,2-ブタジエン、1,3-ブタジエン、1-ペンテン、2‐メチル‐1,3‐ブタジエン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン等の炭素数2~8のアルケンが好ましい。これらの混合物であってもよい。この中で、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のアルケンを含むことがより好ましく、エチレン、プロピレンを含むことがさらに好ましく、また、塗膜としたときの干渉斑を抑制できることから、エチレンを含むことが最も好ましい。
【0014】
酸変性ポリオレフィン樹脂を構成する各成分は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に共重合
されていればよく、その形態は限定されない。共重合の状態としては、例えば、ランダム
共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)などが挙げられる。
【0015】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、数平均分子量が15,000~150,000であることが好ましく、15,000~100,000であることがより好ましく、20,000~80,000であることがさらに好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂の数平均分子量が150,000を超えると、後述する水性分散体とするのが困難になり、20,000未満のものは、泡立ちが多くなり、塗膜としたときのコート抜けが多発したり、基材との密着性が低下することがある。
【0016】
本発明において本発明に用いることができる酸変性ポリオレフィン樹脂の商品名としては、アルケマ社製ボンダインシリーズ「LX-4110」、「HX-8210」、「HX-8290」、「AX-8390」、日本ポリエチレン社製レクスパールEAA「A210K」、「ET530H」、三井・デュポンポリケミカル社製ニュクレル「AN42115C」、「N1108C」、「N0903H」、「N1050H」、「N1110H」、日本曹達社製マレイン化ブタジエン「BN-1010等」、JX日鉱日石エネルギー社製マレイン化ブタジエン「M-1000-20」、「M-1000-80」、「M-2000-20」、「M-2000-80」、エボニック・デグサ社製マレイン化ブタジエン「polyvestOC800S」等、クラレ社製無水マレイン酸変性ポリイソプレン「LIR-403」、「LIR-410」、三井化学社製タフマーシリーズの「MP-0620」、「MH-7020」、「MA-8510」、ダウ・ケミカル社製AMPLIFYシリーズ、三洋化成社製のユーメックスシリーズ「1001」、「1010」、「100TS」、「5200」、日本製紙社製のアウローレンシリーズ「150S」、「200S」、「350S」、「353S」などが挙げられる。
【0017】
本発明の水系コート剤は酸変性ポリオレフィン樹脂を含むものであり、酸変性ポリオレフィン樹脂は水性媒体に分散又は溶解されていることが好ましい。水性媒体とは、水を主成分とする液体であり、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性化促進または表面張力の調整のため、後述する塩基性化合物や有機溶剤を含有していてもよい。
【0018】
本発明の水系コート剤において、酸変性ポリオレフィン樹脂中の酸変性成分は、塩基性化合物によって中和されていることが好ましい。酸変性成分の中和によって生成したアニオン間の電気反発力により、酸変性ポリオレフィン樹脂の微粒子間の凝集が防がれ、水性分散体に安定性が付与される。水性化の際に用いる塩基性化合物は酸変性成分を中和できるものであればよい。
【0019】
塩基性化合物は、塗膜形成時に揮発するアンモニアまたは有機アミン化合物が塗膜の耐水性の面から好ましく、中でも沸点が30~250℃、さらには50~200℃の有機アミン化合物が好ましい。沸点が30℃未満の場合は、後述する樹脂の水性化時に揮発する割合が多くなり、水性化が完全に進行しない場合がある。沸点が250℃を超えると樹脂塗膜から乾燥によって有機アミン化合物を飛散させることが困難になり、塗膜の離型性が低下する場合がある。
【0020】
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2,2-ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピロール、ピリジン等が挙げられる。
【0021】
塩基性化合物の配合量は、酸変性ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5~10倍当量であることが好ましく、0.8~5倍当量がより好ましく、0.9~3.0倍当量が特に好ましい。0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、10倍当量を超えると塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体の安定性が低下したりすることがある。
【0022】
本発明においては、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性化を促進し、分散粒子径を小さくしたり、ぬれ性を向上させてコート抜けを抑制するために、水性化の際に親水性有機溶剤を配合することが好ましい。
親水性有機溶剤は、分散安定性良好な水性分散体を得るという点から、20℃の水に対する溶解性が10g/L以上のものが好ましく、20g/L以上のものがより好ましく、50g/L以上のものがさらに好ましい。
【0023】
親水性有機溶剤は、製膜の過程で効率よく塗膜から除去させる観点から、沸点が150℃以下のものが好ましい。沸点が150℃を超える親水性有機溶剤は、塗膜から乾燥により飛散させることが困難となる傾向にあり、特に低温乾燥時の塗膜の耐水性や基材との接着性等が低下することがある。
【0024】
好ましい親水性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、1,2-ジメチルグリセリン、1,3-ジメチルグリセリン、トリメチルグリセリン等が挙げられる。
【0025】
中でも、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルは、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性化促進により効果的であり、好ましい。
【0026】
本発明では、これらの親水性有機溶剤を複数混合して使用してもよい。これらの親水性有機溶剤の添加量は、0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。添加量が30質量%を超えると、ゲル化等を引き起こす可能性がある。0.1質量%未満であると、ぬれ性に劣る場合がある。
【0027】
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性化をより促進させるために、疎水性有機溶剤をさらに
してもよい。疎水性有機溶剤としては、20℃の水に対する溶解性が10g/L未満であり、上記と同じ理由で、沸点が150℃以下であるものが好ましい。
【0028】
このような疎水性有機溶剤としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘプタン、シクロヘキサン、石油エーテル等のオレフィン系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶剤等が挙げられる。これらの疎水性有機溶剤の添加量は、水性分散体に対して15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。添加量が15質量%を超えると、ゲル化等を引き起こすことがある。
【0029】
水系コート剤中の樹脂粒子の数平均粒子径は、コート剤の保存安定性、塗膜の透明性の観点から、いずれも500nm以下が好ましく、0.5nm以上400nm以下がより好ましく、1nm以上200nm以下がさらに好ましい。数平均粒子径は、例えば、粒度分布測定装置(日機装社製、NanotracWave-UZ152型)を用い、樹脂の屈折率は1.5として測定することができる。
【0030】
次に、本発明の水系コート剤中の酸変性ポリオレフィン樹脂を水性媒体に分散又は溶解する方法について説明する。
本発明の水系コート剤中の酸変性ポリオレフィン樹脂を水性媒体に分散又は溶解する方法としては、酸変性ポリオレフィン樹脂が水性媒体中に均一に混合・分散される方法であれば、限定されない。例えば、密閉可能な容器に、酸変性ポリオレフィン樹脂、上記親水性有機溶剤、上記塩基性化合物、水などの原料を投入し、槽内の温度を40~150℃程度の温度に保ちつつ撹拌を行うことにより、水性分散体とする方法などが挙げられる。
【0031】
本発明の水系コート剤中の酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の含有量は、固形分換算で15質量%以上含むことが好ましい。15質量%未満の場合、離型性が悪くなる可能性がある。
【0032】
本発明の水系コート剤は、添加剤(B)を含むことが必要である。添加剤(B)は両親媒性化合物、アセチレングリコール、および、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である。アセチレングリコールの具体例としては、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、5,8-ジメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、4,7-ジメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,3,6,7-テトラメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,6-ジエチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール等が挙げられる。アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物は、アセチレングリコールの具体例で挙げた化合物のエチレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0033】
本発明において、両親媒性化合物とは、分子中に疎水性構造(疎水性セグメントともいう)と親水性構造(親水性セグメントともいう)の両方を有する化合物を指す。両親媒性化合物としては、両親媒性オリゴマー、または両親媒性ポリマーのいずれも用いることができる。
【0034】
疎水性セグメントとしては、特に限定されないが、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキルフェニル基、パーフルオロアルキル基、パーフルオロポリエーテル基等が挙げられる。これらは、単独で含まれていてもよく、また、複数が組み合わされた構造であってもよい。これらの中で、コート抜け個数を低減させる効果の観点から、アルキル基が好ましい。
【0035】
親水性セグメントとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、ポリグリセリン、フルクトース、スクロース、グルコース、マルトース等の多価アルコールが挙げられる。これらの中で、塗膜の干渉縞を抑制する効果の観点から、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0036】
疎水性セグメントと親水性セグメントの間の結合様態は、特に限定されないが、例えば、エーテル結合、エステル結合、アミド結合等が挙げられる。
【0037】
両親媒性ポリマーとしては、特に限定されないが、疎水性(メタ)アクリルモノマーと親水性(メタ)アクリルモノマーを有することが好ましい。
疎水性(メタ)アクリルモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、酢酸ビニル等が挙げられる。親水性(メタ)アクリルモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸モノマー;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル等のヒドロキシル基含有モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基含有モノマー;2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等のリン酸基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン等の(N-置換)アミド系モノマー;その他、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールやN-ビニル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0038】
本発明においては、水系コート剤に添加剤(B)を特定の量で含有させることにより、コート剤のぬれ性を向上させるとともに、泡立ちの発生を抑制できることから、樹脂層としたときにコート抜けを低減させることができる。さらに、樹脂層としたときの干渉斑を抑制することができる。また、含有させる添加剤の種類によっては、離型性に劣る樹脂層となることがあるが、本発明においては、上記のような特定の添加剤(B)を特定の含有量で用いることで、良好な離型性を保つことができる。
【0039】
添加剤(B)の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して3質量部を超えて、50質量部以下である必要があり、3.5~30質量部であることが好ましく、3.5~20質量部がより好ましい。添加剤(B)の量が3質量部以下の場合は、干渉斑が発生したり、また、本発明の効果(ぬれ性の向上と、泡立ちの抑制)を発現させることができず、コート抜けが発生する。一方、50質量部を超える場合は、離型性が低下する。または、干渉斑が発現したり、安定性が低下する傾向にある。
【0040】
本発明において本発明に用いることができる添加剤(B)の市販品としては、両親媒性化合物としては、共栄社化学社製ポリフローシリーズ「KL-850」、「KL-900」、日信工業社製オルフィンシリーズ「E1004」、「E1006」、「E1010」、「EXP.4123」、「EXP.4300」、「EXP.4001」、「EXP.4200」、アセチレングリコールとしては、日信工業社製サーフィノールシリーズ「420」、「440」、「485」等が挙げられる。
【0041】
本発明の水系コート剤は、架橋剤(C)を含有することが好ましい。架橋剤を含有することにより、樹脂層としたときの構成成分が架橋し、樹脂層の離型性を向上させることができる。また、塗膜としたときのコート抜けや干渉斑をいっそう抑制することができる。
架橋剤としては、酸変性ポリオレフィン樹脂と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物が用いられ、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、有機酸ヒドラジド化合物等が挙げられる。反応性の観点や、得られる樹脂層が、熱処理後も離型性に優れることから、架橋剤は、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物から選ばれる少なくとも一つの架橋剤であることが好ましい。
【0042】
オキサゾリン化合物は、分子中にオキサゾリン基を2つ以上有しているものであれば、特に限定されるものではない。例えば、2,2′-ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-エチレン-ビス(4,4′-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2′-p-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、ビス(2-オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィドなどのオキサゾリン基を有する化合物や、オキサゾリン基含有ポリマーが挙げられる。これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いやすさからオキサゾリン基含有ポリマーが好ましい。
【0043】
オキサゾリン基含有ポリマーは、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等の付加重合性オキサゾリンを重合させることにより得られる。必要に応じて他の単量体が共重合されていてもよい。オキサゾリン基含有ポリマーの重合方法は、特に限定されず、公知の種々の重合方法を採用することができる。
【0044】
オキサゾリン基含有ポリマーの市販品としては、日本触媒社製のエポクロスシリーズが挙げられ、具体的には、水溶性タイプの「WS-500」、「WS-700」、エマルションタイプの「K-2010E」、「K-2020E」、「K-2035E」、固形タイプの「RPS-1005」などが挙げられる。
【0045】
カルボジイミド化合物は、分子中に少なくとも2つ以上のカルボジイミド基を有しているものであれば特に限定されるものではない。例えば、p-フェニレン-ビス(2,6-キシリルカルボジイミド)、テトラメチレン-ビス(t-ブチルカルボジイミド)、シクロヘキサン-1,4-ビス(メチレン-t-ブチルカルボジイミド)などのカルボジイミド基を有する化合物や、カルボジイミド基を有する重合体であるポリカルボジイミドが挙げられる。これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、取り扱いやすさから、ポリカルボジイミドが好ましい。
【0046】
ポリカルボジイミドの製法は、特に限定されるものではない。ポリカルボジイミドは、例えば、イソシアネート化合物の脱二酸化炭素を伴う縮合反応により製造することができる。イソシアネート化合物も限定されるものではなく、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート、芳香族イソシアネートのいずれであってもよい。イソシアネート化合物は、必要に応じて多官能液状ゴムやポリアルキレンジオールなどが共重合されていてもよい。
【0047】
ポリカルボジイミドの市販品としては、日清紡社製のカルボジライトシリーズが挙げられ、具体的には、水溶性タイプの「SV-02」、「V-02」、「V-02-L2」、「V-04」、エマルジョンタイプの「E-02」、「E-03A」、「E-04」、有機溶液タイプの「V-01」、「V-03」、「V-07」、「V-09」、無溶剤タイプの「V-05」などが挙げられる。
【0048】
エポキシ化合物は、特に限定されるものではなく、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、変性ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテルなどを含有するエポキシ化合物を用いることができる。
【0049】
エポキシ化合物の市販品としては、ナガセケムテック社製のデナコールシリーズ(EM-150、EM-101など)、アデカ社製のアデカレジンEM-0517、EM-0526、EM-11-50B、EM-051R、阪本薬品工業社製のSR-GSG、SR-4GSLなどが挙げられる。
【0050】
イソシアネート化合物は、分子中に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有しているものであれば特に限定されるものではない。例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン2,4′-または4,4′-ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,4-ジイソシアナトブタン、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ジイソシアナト-2,2-ジメチルペンタン、2,2,4-または2,4,4-トリメチル-1,6-ジイソシアナトヘキサン、1,10-ジイソシアナトデカン、1,3-または1,4-ジイソシアナトシクロヘキサン、1-イソシアナト-3,3,5-トリメチル-5-イソシアナトメチル-シクロヘキサン、4,4′-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン、ヘキサヒドロトルエン2,4-または2,6-ジイソシアネート、ぺルヒドロ-2,4′-または4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレン1,5-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等のジイソシアネートや、それらの誘導体が挙げられる。イソシアネート化合物の中でも、水性(水溶性もしくは水分散性)のものが好ましい。
【0051】
イソシアネート化合物の市販品としては、住化コベストロウレタン社製のバイヒジュール3100、デスモジュールDN、BASF社製のバソナートHW-100、Baxenden社製のブロックイソシアネートBI200、BI220等が挙げられる。
【0052】
有機酸ヒドラジド化合物は、特に限定されるものではなく、例えば、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
上記有機酸ヒドラジドのうち市販されているものとしては、例えば、大塚化学社製の有機酸ヒドラジド、味の素ファインテクノ社製の有機酸ヒドラジド等が挙げられる。
上記大塚化学社製の有機酸ヒドラジドとしては、例えば、SDH、ADH、MDH等が挙げられる。
【0053】
上記味の素ファインテクノ社製の有機酸ヒドラジドとしては、例えば、アミキュアVDH、アミキュアVDH-J、アミキュアUDH、アミキュアUDH-J等が挙げられる。
【0054】
架橋剤の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、1~50質量部であることが好ましく、2~30質量部であることがより好ましく、3~20質量部であることがさらに好ましい。架橋剤の含有量が1質量部未満では、含有させる効果が乏しく、得られる樹脂層は、経時的に離型性が低下する場合があり、含有量が50質量部を超えると、離型性が低下する場合がある。なお、架橋剤は、2種類以上の化合物を同時に用いることもでき、同時に用いた場合、架橋剤の合計量が上記の架橋剤の含有量の範囲を満たしていればよい。
【0055】
本発明において、水系コート剤はポリビニルアルコールを含有することが好ましい。ポリビニルアルコールを含有することによって、剥離性を適度に調整できると同時に、基材との密着性を向上させて、塗膜とした際のコート抜けをいっそう抑制できる。
【0056】
ポリビニルアルコールの種類は、特に限定されないが、ビニルエステルの重合体を完全または部分ケン化したものなどが挙げられる。ポリビニルアルコールは、後述のように液状物として使用する場合のために、水溶性を有していることが好ましい。
ポリビニルアルコールの平均重合度は、特に限定されるものではなく、例えば、300~5,000が挙げられ、樹脂層を形成するための液状物の安定性向上の観点からは、300~2,000であることが好ましい。
【0057】
ポリビニルアルコールを含有する場合、含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5~1000質量部であることが好ましく、10~800質量部であることがより好ましく、20~600質量部であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコールの含有量がこの範囲であると、塗膜を形成する際にコート抜けをいっそう低減させることができる。
ポリビニルアルコールの市販品としては、例えば、日本酢ビ・ポバール社製の「J-ポバール」の「JT-05」、「VC-10」、「JP-18」、「ASC-05X」、「UMR-10HH」;クラレ社製の「クラレポバール」の「PVA-103」、「PVA-105」や、「エクセバール」の「AQ4104」、「HR3010」;デンカ社製の「デンカポバール」の「PC-1000」、「PC-2000」などが挙げられる。
【0058】
本発明の水系コート剤は、ポリウレタン樹脂を含有しないことが好ましい。ポリウレタン樹脂を含有する場合は、本発明の積層体を離型シートとして用いた際の離型性に劣ることがある。ポリウレタン樹脂は特に限定されず、ポリオール化合物とイソシアネート化合物との反応で得られるものである。
【0059】
本発明の水系コート剤は、基材とのぬれ性に優れることから、ペンダントドロップ法で測定した表面張力が50mN/m以下であることが好ましく、45mN/m以下であることがより好ましい。
表面張力を50mN/m以下とするために、添加剤(B)の種類や含有量、用いる酸変性ポリオレフィン樹脂の組成を好ましいものとすることができる。
【0060】
本発明の水系コート剤の製造方法としては、特に限定されるものではないが、あらかじめ、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体を製造し、その水性分散体に、添加剤(B)、必要に応じて架橋剤(C)やポリビニルアルコールを添加し、混合する方法が好ましい。
【0061】
本発明の水系コート剤における有効成分の固形分濃度は、成膜条件、目的とする樹脂層の厚さや性能等により適宜調整され、特に限定されるものではないが、35質量%以下であることが好ましく、1~35質量%であることがより好ましく、2~30質量%であることがさらに好ましく、3~25質量%であることが特に好ましい。35質量%を超えると水系コート剤の粘度が高くなりすぎるため、得られる樹脂層の厚さの精度が低下することがあり、1質量%未満であると水系コート剤を十分な塗工量で基材に塗布できないことがある。
【0062】
本発明の水系コート剤の粘度は、コーティングの作業性などの観点から、B型粘度計で20℃条件下において、1~500mPa・sであることが好ましく、1~100mPa・sであることがより好ましく、1~50mPa・sであることがさらに好ましく、10~20mPa・sであることが特に好ましい。水系コート剤は、粘度が100mPa・sを超えると、薄膜の塗膜を形成することが困難となる場合がある。
【0063】
本発明の水系コート剤は、様々な基材との密着性に優れるため、接着剤、プライマー、離型剤、塗料材料、インキ材料等として使用することができる。
【0064】
本発明の積層体は、基材上に樹脂層を設けたものである。樹脂層は本発明の水性コート剤を塗工して得られるものであり、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、添加剤(B)を含有する離型層である。
【0065】
本発明の積層体における樹脂層は、基材との密着性の観点から上記した酸変性ポリオレフィン樹脂以外の酸変性ポリオレフィン樹脂を含有してもよいが、離型性の観点からは含有しないこと方が望ましい。前記酸変性ポリオレフィン樹脂の種類は特に限定されないが、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/無水マレイン酸共重合体、ブタジエン/無水マレイン酸共重合体、イソプレン/無水マレイン酸共重合体、プロピレン/ブテン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/ブテン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/ヘキセン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/オクテン/無水マレイン酸共重合体などの酸変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0066】
本発明の積層体において樹脂層の厚みは、0.01~5.0μmであることが好ましく、0.03~3.0μmであることがより好ましく、0.05~1.0μmであることがさらに好ましい。樹脂層の厚みが0.01μm未満であると、十分な離型性が得られない場合があり、一方、厚みが5.0μmを超えると、コストアップとなるため好ましくない。
【0067】
本発明の積層体は、上記構成を有するものであり、例えば、本発明の水系コート剤を、樹脂層形成用水系コート剤として基材上に塗布して樹脂層を設けることにより製造することができる。本発明の水系コート剤を塗布することで、塗膜(樹脂層)のコート抜けが少なく、干渉斑を抑制した積層体を製造することができる。
【0068】
水系コート剤を基材上に塗布して樹脂層を形成する方法としては、公知の方法、例えばグラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等により、水系コート剤を基材表面に均一に塗布し、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥処理または乾燥のための加熱処理に供する方法が挙げられ、これにより、均一な樹脂層を基材に密着させて形成することができる。
【0069】
樹脂層形成の際に、基材に塗布した後、乾燥熱処理することにより、水性媒体を除去することができ、樹脂層を形成することが可能である。樹脂層を形成する際の乾燥温度は、特に限定されないが、乾燥速度、酸変性ポリオレフィン樹脂と架橋剤の反応の観点からは乾燥温度は高い方が好ましい。一方、基材として熱可塑性樹脂フィルムを用いる場合、乾燥温度が高過ぎた場合、フィルムの熱収縮により基材にしわが入ることでフィルムの外観が悪くなる場合がある。このような観点から、乾燥温度は、60~250℃であることが好ましく、より好ましくは80~200℃以上、さらに好ましくは100~180℃以上であり、120~150℃以上であることが特に好ましい。基材として熱可塑性樹脂フィルムを用いる場合、乾燥温度が高過ぎた場合、フィルムの熱収縮により基材にしわが入ることでフィルムの外観が悪くなる場合がある。
【0070】
本発明の水系コート剤が上記の架橋剤を含有する場合、本発明の積層体においては、基材上に樹脂層を形成した後、酸変性ポリオレフィン樹脂と架橋剤との反応を促進させるために、一定の温度にコントロールされた環境下でエージング処理をおこなってもよい。エージング温度は、基材へのダメージを軽減させる観点からは、比較的低いことが好ましいが、反応を十分かつ速やかに進行させるという観点からは、高温で処理することが好ましい。エージング処理は20~100℃でおこなうことが好ましく、30~70℃でおこなうことがより好ましく、40~60℃でおこなうことがさらに好ましい。
【0071】
本発明の積層体を構成する基材としては、樹脂材料、紙、合成紙、布、金属材料、ガラス材料等で形成されたものが挙げられる。基材の厚みは、特に限定されるものではないが、通常は1~1000μmであればよく、1~500μmが好ましく、10~200μmがより好ましく、25~100μmが特に好ましい。
【0072】
基材に用いることができる樹脂材料としては、例えば熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)などのポリエステル樹脂;ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン樹脂;ナイロン6、ポリ-m-キシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)等のポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアクリルニトリル樹脂;ポリイミド樹脂;これらの樹脂の複層体(例えば、ナイロン6/MXD6ナイロン/ナイロン6、ナイロン6/エチレン-ビニルアルコール共重合体/ナイロン6)や混合体等が挙げられる。
【0073】
樹脂材料は延伸処理されていてもよい。中でも、基材は、機械的特性および熱的特性に優れるポリエステル樹脂フィルムが好ましく、安価で入手が容易という点やぬれ性がよく、コート抜けを抑制できる観点からポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましい。
【0074】
基材としての熱可塑性樹脂フィルムに水系コート剤を塗布する場合、二軸延伸されたフィルムに塗布後乾燥、熱処理してもよく、また、配向が完了する以前の未延伸フィルム、あるいは一軸延伸の終了したフィルムに液状物を塗布し、乾燥後加熱して延伸するか、あるいは加熱して乾燥と同時に延伸して、配向を完了させてもよい。後者の未延伸フィルム、あるいは一軸延伸終了後のフィルムに水系コート剤を塗布後、乾燥、延伸配向する方法は、熱可塑性樹脂フィルムの製膜と同時に樹脂層を積層することができるため、コストの点から好ましい。
【0075】
上記熱可塑性樹脂フィルムは、公知の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤などを含んでいてもよい。熱可塑性樹脂フィルムは、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよく、バリア層や易接着層、帯電防止層、紫外線吸収層などの他の層が積層されていてもよい。その他の材料と積層する場合の密着性やぬれ性を良くするために、熱可塑性樹脂フィルムの表面に、前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、薬品処理、溶剤処理等が施されてもよい。
【0076】
基材として用いることができる紙としては、和紙、クラフト紙、ライナー紙、アート紙、コート紙、カートン紙、グラシン紙、セミグラシン紙等が挙げられる。紙には、目止め層などが設けてあってもよい。
【0077】
基材として用いることができる合成紙は、その構造は特に限定されず、単層構造であっても多層構造であってもよい。多層構造としては、例えば基材層と表面層の2層構造、基材層の表裏面に表面層が存在する3層構造、基材層と表面層の間に他の樹脂フィルム層が存在する多層構造を例示することができる。各層は、無機や有機のフィラーを含有していてもよいし、含有していなくてもよい。微細なボイドを多数有する微多孔性合成紙も使用することができる。
【0078】
基材として用いることができる布としては、上述した合成樹脂からなる繊維や、木綿、絹、麻などの天然繊維からなる不織布、織布、編布などが挙げられる。
基材として用いることができる金属材料としては、アルミ箔や銅箔などの金属箔や、アルミ板や銅板などの金属板などが挙げられる。
基材として用いることができるガラス材料としては、ガラス板やガラス繊維からなる布などが挙げられる。
【0079】
本発明の積層体は、様々な材料に対して良好な離型性を有することから、様々な材料に対する離型シートして使用することができ、こうした離型シートを、さらに被着体に積層することができる。
こうした離型シートは、具体的には、粘着材料や液晶ディスプレイ用部品(偏光板、位相差偏光板、位相差板など)などの保護材料として、プリント配線板のプレス工程材料や航空機等の構造材等に用いられるプリプレグの工程材料として、シート状構造体の製造時のベース基材として、転写印刷用の離型シートとして、それぞれ好適に使用することができる。特に、粘着材料に対して好適に使用することができる。
【0080】
粘着材料としては、粘着シート、接着シート、粘着テープ、接着テープなどが挙げられる。より具体的には、粘着剤がシート状に形成されたものであり、粘着剤の層が基材の上に積層されてもよく、また基材を用いなくてもよい。粘着剤の成分や基材は特に限定されないが、粘着剤としては、アクリル系粘着剤、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤が挙げられ、ここには、ロジン系、クマロン-インデン系、テルペン系、石油系、スチレン系、フェノール系、キシレン系などの粘着付与剤が含まれていてもよい。基材としては、上述の、紙、布、樹脂材料などが挙げられる。
【0081】
粘着材料に対して使用される離型シートは、その取り扱い上、離型性に優れるものが求められており、例えば、アクリル系粘着材料との剥離強度が5N/cm以下であるものが好ましい。
【0082】
本発明の積層体においては、アクリル系粘着剤層を有する樹脂テープの前記粘着剤層を、積層体の樹脂層表面に貼り付けることで得られた試料を、室温にて、剥離角度180度、剥離速度300mm/分の条件で測定したときの粘着剤層と樹脂層との剥離強度を、5N/cm以下とすることができ、より好ましくは、3N/cm以下とすることができる。アクリル系粘着材料との剥離強度が5N/cmを超える場合、積層体を粘着材料から剥離する際に、粘着材料の表面が荒れることにより、粘着性が低下する場合があるため、アクリル系粘着材料用の離型シートとして使用することが困難となることがある。
【0083】
また、積層体は、ロール状に巻き取られて取扱いされる場合が多いため、積層体を形成する樹脂層の成分が、積層体基材の背面に移行しない方が好ましい。このような樹脂層の成分の背面移行、すなわち、基材からの樹脂層の脱落は、樹脂層に粘着テープを貼り合わせ、一定条件で保持した後、粘着テープを引き剥がし、その粘着テープの粘着性の低下度合で簡易的に判断することが出来る。つまり、粘着テープの粘着性低下が少ないほど、樹脂層の脱落が少ないことを意味する。粘着テープの粘着性低下が少ないことは、再度粘着させた場合でも、十分な粘着性が残っている。さらに、高温環境下で同様の評価をした際、十分な粘着性を有する場合、その積層体は、耐熱性にも優れているということができる。粘着テープの粘着剤表面が積層体により汚染されたり、剥離の際に粘着テープの表面が著しく粗くなった場合、粘着テープの再粘着性が低下し、粘着テープとしての性能を損なう。したがって、残留接着率は高い方が好ましい。
【0084】
本発明の積層体をベース基材として用いて製造することができるシート状構造体の例としては、シリコーンゴムやフッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴムシート、塩化ビニルやウレタンからなる合成皮革、パーフロロスルホン酸樹脂などの高分子電解質などからなるイオン交換膜や、誘電体セラミックスやガラスなどからなるセラミックグリーンシート、放熱材料等を含有する放熱シート等が挙げられる。
【0085】
これらの製造工程においては、ベース基材となる本発明の積層体上に、溶媒でペースト状あるいはスラリー状とした原料を塗布、乾燥することにより、シート状構造体を形成することができる。あるいは、積層体上に、溶融させた樹脂を押出すことにより、シート状構造体を形成することができる。
【0086】
本発明の積層体を転写印刷用に使用する場合、本発明の積層体上にコーティングすることによって、印刷層、電極、保護層などの様々な機能層を形成し、積層体上の機能層を、被転写体に対して、加熱、圧着することにより、被転写体に機能層を転写し、次いで積層体を、機能層から剥離する。このように、本発明の積層体はスタンピング箔とも呼ばれるものに使用することができる。機能層としては、メタリック箔、顔料箔、多色印刷箔、ホログラム箔、静電気破壊箔、ハーフミラーメタリック箔等が挙げられる。
【実施例0087】
以下、本発明の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0088】
1.酸変性ポリオレフィン樹脂の物性
本発明では、下記方法にて各種評価を行った。
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂の不飽和カルボン酸成分含有量
フーリエ変換赤外分光光度計(PerkinElmer社製、System-2000型、分解能4cm-1)を用い、赤外吸収スペクトル分析を行い、不飽和カルボン酸成分の含有量を求めた。
【0089】
(2)不飽和カルボン酸成分以外の酸変性ポリオレフィン樹脂の構成
オルトジクロロベンゼン(d4)中、120℃にて、H-NMR、13C-NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い、求めた。13C-NMR分析では定量性を考慮したゲート付きデカップリング法を用いて測定した。
【0090】
(3)数平均分子量
数平均分子量は、GPC分析(島津製作所社製、LC-10AD型、カラムはSHODEX社製KF-804L2本、KF805L1本を連結して用いた。)を用い、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、流速1ml/分、40℃の条件で測定した。約10mgの共重合体をテトラヒドロフラン5.5mLに溶解し、PTFEメンブランフィルターでろ過したものを測定用試料とした。ポリスチレン標準試料で作成した検量線から数平均分子量を求めた。
【0091】
(4)酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)
JIS K6730記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
【0092】
2.水系コート剤の特性
(1)水系コート剤の泡立ち
水系コート剤を、100mLのスクリュー管瓶(口内径×胴径×全長=φ20×φ40×120mm)に、30mL入れ(液面高さ30mm)、1分間激しく撹拌した後、1分間静置後の泡立ちの状態を目視にて確認した。
○:液面の高さと泡の高さの合計が30mm未満
△:液面の高さと泡の高さの合計が30mm以上80mm未満
×:液面の高さと泡の高さの合計が80mm以上
【0093】
(2)保存安定性
水系コート剤を作液後、20℃で1日放置して、添加剤を混合した水系コート剤の状態を目視で観察し、下記の基準で混合安定性を評価した。評価が△以上であることが好ましく、○であることがより好ましい。
○:凝集物や相分離なし。
△:相分離が見られるが、混合・撹拌すると分散し、均一な分散体になる。
×:多量の凝集物がある、相分離があり、撹拌しても混ざらない。
【0094】
(3)粘度
300メッシュ濾過後の水性分散体を、B型粘度計(トキメック社製、DVL-BII型デ
ジタル粘度計)を用い、温度20℃における回転粘度(mPa・s)を測定した。
【0095】
(4)固形分濃度
水性分散化した酸変性ポリオレフィン樹脂を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度(質量%)を求めた。
【0096】
(5)表面張力
自動接触角計(KRUSS社、DSA30)を用いて、18μLの液滴を作製し、作製直後の表面張力をペンダントドロップ法で自動算出した。1秒ごとに測定し、計10回の平均値で評価した。
【0097】
3.積層体(離型シート)の特性
(1)アクリル系粘着剤に対する剥離強度(離型性)
得られた積層体(離型シート)の樹脂層側に、巾50mm、長さ150mmのアクリル系粘着テープ(日東電工社製、No.31B/アクリル系粘着剤)をゴムロールで圧着して、25℃の雰囲気で24時間静置し、剥離強度測定用試料とした。25℃処理後の試料について、粘着テープ/離型シート間の剥離強度の測定を行った。なお、剥離強度の測定は、25℃の恒温室で、引張試験機(インテスコ社製、精密万能材料試験機2020型)を用い、剥離角度180度、剥離速度300mm/分の条件で行った。
【0098】
(2)残留接着率
前記(1)の剥離強度の測定を行った試料を用いて、さらに残留接着率を求めた。すなわち、(1)での剥離後アクリル系粘着テープにステンレス板(SUS304、厚さ1mm)に貼付し、2kPa荷重、室温で20時間放置した。その後、アクリル系粘着テープとステンレス板の剥離強度F1の測定を行った。なお、剥離強度の測定は、(1)と同様にして行った。
一方、未使用のアクリル系粘着テープ(日東電工社製、No.31B/アクリル系粘着剤)を用い、ステンレス板(SUS304、厚さ1mm)に貼付し、2kPa荷重、室温で20時間放置した。その後、アクリル系粘着テープとステンレス板の剥離強度F2の測定を行った。なお、剥離強度の測定は、(1)と同様にして行った。
上記剥離強度F1、剥離強度F2より下記式を用いて、粘着テープの残留接着率を算出した。残留接着率は、実用上、85%以上であることが好ましい。
25℃条件下での粘着テープの残留接着率(%)=(F1/F2)×100
【0099】
(3)塗膜のコート抜け欠点
グラビヤコーターを用いて、基材フィルムに、塗膜厚みが0.1μmになるように水系コート剤を塗布し、120℃で15秒の乾燥を行い、1000mを巻き取った後、透過型欠点検出装置(ヒューテック社製)を設置したフィルムワインダーを通し(スキャン速度0.5m/秒、検出感度0.5mm以上に設定)、欠点(コート抜け)の検査を行った。検知回数から以下の基準で判断した。実用上1000mあたり20回以下であることが好ましい。
◎:1000mあたり10回以下
〇:1000mあたり11~20回
△:1000mあたり21~50回
×:1000mあたり50回以上
【0100】
(4)干渉斑
水系コート剤を、基材フィルムに厚みが0.1μmになるようにコートし、120℃で15秒乾燥させた。その後、得られた塗膜を10cm×10cmに切り出し、100cmあたりの、干渉縞(虹色模様)の発色を目視で確認し、以下の基準でコート斑を評価した。実用上、△以上の評価であることが好ましい。
×:非常に虹色が強く見える
△:虹色が強く見える
〇:虹色が見えるが弱い
◎:虹色が見えない
【0101】
4.材料
樹脂層を構成する樹脂として、下記合成例で作製した樹脂を用いた。
[酸変性ポリオレフィン樹脂P-1の製造]
プロピレン-ブテン-エチレン三元共重合体(エボニック社製、ベストプラスト708、プロピレン/ブテン/エチレン=64.8/23.9/11.3質量%)280gを、4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下で加熱溶融させた後、系内温度を170℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸32.0gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド6.0gをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、酸変性ポリオレフィン樹脂P-1を得た。得られた樹脂の特性を表1に示す。
【0102】
[酸変性ポリオレフィン樹脂P-4の製造]
エチレン/オクテン共重合体(質量比:エチレン/オクテン=61/39、数平均分子量=20,000)80gを、4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下でキシレン350gに加熱溶解させた後、系内温度を140℃に保って撹拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸20gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド10gをそれぞれ2時間かけて加え、その後6時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥し、酸変性ポリオレフィン樹脂P-4を得た。得られた樹脂の特性を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
製造例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(P-1)と、45.0gのエチレングリコールモノブチルエーテル(Bu-EG)と、6.9gのN,N-ジメチルエタノールアミン(以下、DMEA)と、188.1gの蒸留水とを上記のガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌した。そうしたところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140℃に保ってさらに60分間攪拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。さらに、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)することで、乳白黄色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体を得た。なお、フィルター上には残存樹脂は殆どなかった。
【0105】
次に分散した250gの酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体と、90gの蒸留水とを0.5Lの2口丸底フラスコに仕込み、メカニカルスターラーとリービッヒ型冷却器を設置したうえで、フラスコをオイルバスで加熱していき、水性媒体を留去した。約90gの水とBu-EGを留去したところで、加熱を終了し、室温まで冷却した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)することで、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-1を得た。
【0106】
製造例2
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた攪拌機を用いて、60.0gのボンダイン「LX-4110」(アルケマ社製、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂)と、90.0gのIPAと、3.0gのTEAと、147.0gの蒸留水とを上記のガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとした。そして系内温度を140~145℃に保って30分間攪拌した。さらに、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-2を得た。
【0107】
製造例3
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリブタジエン(エボニック・デグサ社製、polyvestOC800S、数平均分子量2400、酸価70~90mgKOH/g)、60.0gのIPA、9.0gのDMEAおよび165gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ系は乳白色になった。そこでこの状態を保ちつつ、ヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を80℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した。その後、水性分散体から、IPAを一部除去するために、ロータリーエバポレーターを用い、水を添加しながら、浴温80℃で溶媒留去した。その後、空冷にて室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体E-3を得た。
【0108】
製造例4
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、30gの酸変性ポリオレフィン樹脂(P-4)、100gのテトラヒドロフラン、18gのトリエチルアミンおよび252gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌した。この状態を保ちつつ、ヒーターの電源を入れ加熱し、系内温度を120℃に保って60分間撹拌した。その後、水浴につけて撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却し、64.5gの蒸留水を追加した。得られた水性分散体を1Lナスフラスコに入れ、60℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、176gの水性媒体を留去した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な水性分散体(E-4)を得た。なお、フィルター上には残存樹脂は殆どなかった。
【0109】
添加剤(B)として以下のものを用いた。また水100gに対して、添加剤0.1gを添加したときの溶解性、分散性を目視で確認した。
(添加剤b1)
添加剤b1として、アセチレングリコール系エチレンオキサイド付加物(日信化学工業株式会社製「オルフィンE1010」)を用いた。オルフィンE1010は水に可溶であった。
【0110】
(添加剤b2)
添加剤b2として、アセチレングリコール系エチレンオキサイド付加物(日信化学工業株式会社製「サーフィノール420」)サーフィノール420は、水にほとんど溶解せず相分離した。また水100gに対して、添加剤0.05gに減らした時の溶解性、分散性も変わらず、水にほとんど溶解せず分離した。
【0111】
(添加剤b3)
添加剤b3として、両親媒性ポリマー(共栄社化学株式会社製「ポリフローKL850」、有効成分濃度93質量%)を用いた。ポリフローKL850は、水にほとんど溶解せず懸濁(白濁)した。
【0112】
(添加剤b4)
添加剤b4として、シリコーン系添加剤(日新化学工業株式会社製「シルフェイスSAG014」)を用いた。シルフェイスSAG014は、水に可溶であった。
【0113】
(添加剤b5)
添加剤b5として、両親媒性オリゴマー(共栄社化学株式会社製「ポリフローKL900」、有効成分濃度93質量%、両親媒性オリゴマーとして、疎水性セグメントとしてのアルキル基と、親水性セグメントとしてのポリエチレングリコールが、エーテル結合により結合した化合物を含有する)を用いた。ポリフローKL900は、水にほとんど溶解せず懸濁(白濁)した。
【0114】
実施例1
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体(E-1)を、固形分濃度が5質量%になるように水で希釈してから、添加剤(b1)を、含有量が酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部となるように混合して得た水系コート剤を、樹脂層形成用の水系コート剤として用いた。二軸延伸ポリエステル樹脂フィルム(ユニチカ社製「エンブレットPET-38」、厚み38μm)のコロナ処理面に、マイヤーバーを用いて前記ポリオレフィン樹脂水性分散体をコートした後、140℃で15秒間乾燥させて、厚み0.2μmの樹脂層をフィルム上に形成させた。50℃で2日間エージングを行い、積層体(離型シート)を得た。
得られた水系コート剤、積層体(離型シート)について、各種評価を行った。その結果を表2、表3に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
実施例2
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体(E-1)を用い、架橋剤として日本触媒社製エポクロス「WS-500」を酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、5質量部となるように混合し、固形分濃度が5質量%になるように水で希釈した。そこに添加剤(b1)を、含有量が酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部となるように混合して得た水系コート剤を、樹脂層形成用の水系コート剤として用いた。実施例1と同様の操作を行って積層体(離型シート)を得た。
【0118】
実施例3、8~16、23~25、比較例1~2、4~6
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体の種類、架橋剤の種類と含有量、添加剤の種類と含有量(不揮発成分の含有量)を表2に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、積層体(離型シート)を得た。なお、カルボジイミド化合物からなる架橋剤として日清紡社製カルボジライト「E-02」を用いた。
【0119】
実施例4
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体(E-1)を用い、架橋剤として日本触媒社製エポクロス「WS-500」(固形分濃度40質量%)を酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部、他の成分として日本酢ビ・ポバール社製「VC-10」(固形分濃度10質量%)を酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して300質量部となるように混合し、固形分濃度が5質量%になるように水で希釈した。そこに添加剤(b1)を、含有量が酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して5質量部となるように混合して得た水系コート剤を、樹脂層形成用の水系コート剤として用いた。実施例1と同様の操作を行って積層体(離型シート)を得た。
【0120】
実施例5~7、17~22、26~28、比較例3
酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体の種類、架橋剤の種類と含有量、添加剤の種類と含有量(不揮発成分の含有量)を表2に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、積層体(離型シート)を得た。
【0121】
実施例1~28で得られた、酸変性ポリオレフィン樹脂と添加剤を含有する本発明の水系コート剤が用いられた積層体(離型シート)は、離型性に優れ、コート抜けの発生が低減されていた。また、干渉斑が抑制されていた。
【0122】
比較例1~3で得られた水系コート剤は、本発明で規定する添加剤(B)を含有しないため、泡立ちが発生し、表面張力が大きくぬれ性に劣るものであった。この水系コート剤を用いて得られた積層体(離型シート)においては、樹脂層のコート抜けや干渉斑が多く発生した。
【0123】
比較例4で得られた水系コート剤は、添加剤(B)に代えて、シリコーン系樹脂を含有するものであったため、表面張力は低くぬれ性には優れていたが、泡立ちが発生していた。この水系コート剤を用いて得られた積層体(離型シート)においては、樹脂層のコート抜けや干渉斑が多く発生した。
【0124】
比較例5では、添加剤(B)の含有量が、本発明で規定する範囲を外れて多かったため、泡立ちが発生していた。この水系コート剤を用いて得られた積層体(離型シート)は、離型性に劣り、樹脂層のコート抜けや干渉斑が多く発生した。
【0125】
比較例6では、添加剤(B)の含有量が、本発明で規定する範囲を外れて少なかったため、泡立ちが発生し、表面張力が大きくぬれ性に劣るものであった。この水系コート剤を用いて得られた積層体(離型シート)は、樹脂層のコート抜けや干渉斑が多く発生した。