(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182033
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231219BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101G
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095406
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
(72)【発明者】
【氏名】早川 絵里
(72)【発明者】
【氏名】安藤 雅
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 輝
【テーマコード(参考)】
5F004
5F131
【Fターム(参考)】
5F004AA16
5F004BB22
5F004BB25
5F004BB26
5F004BB29
5F004CA04
5F131AA02
5F131BA19
5F131BB03
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA03
5F131EB11
5F131EB14
5F131EB17
5F131EB18
5F131EB78
5F131EB79
5F131EB82
5F131EB84
(57)【要約】
【課題】対象物を保持する保持装置において、対象物が載置される側の面の冷却速度、および対象物が載置される側の面の面内温度分布の均一性の少なくともいずれか一方を向上させる技術を提供する。
【解決手段】保持装置は、対象物が載置される側の第1面と、第1面の裏面である第2面とを有する板状に形成される板状部と、板状部の第2面側に配置され、板状部を支持し、冷却機能を有し、板状に形成されるベース部と、板状部とベース部との間に配置され、板状部とベース部とを接合する接合部と、を備え、接合部の熱抵抗は、-60℃の時に1.1×10
-3(m
2K/W)以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を保持する保持装置であって、
前記対象物が載置される側の第1面と、前記第1面の裏面である第2面とを有する板状に形成される板状部と、
前記板状部の前記第2面側に配置され、前記板状部を支持し、冷却機能を有し、板状に形成されるベース部と、
前記板状部と前記ベース部との間に配置され、前記板状部と前記ベース部とを接合する接合部と、
を備え、
前記接合部の熱抵抗は、-60℃の時に1.1×10-3(m2K/W)以下であることを特徴とする、
保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記接合部は、
-60℃のときの熱伝導率をλ1とし、25℃のときの熱伝導率をλ2としたとき、λ1/λ2が1.18以下であること、および
-60℃のときの熱抵抗をθ1とし、25℃のときの熱抵抗をθ2としたとき、θ1/θ2が0.85以上であること、
の少なくともいずれか一方を満たすことを特徴とする、
保持装置。
【請求項3】
請求項1に記載の保持装置であって、
前記接合部は、25℃のときの熱抵抗が1.2×10-3(m2K/W)以下であることを特徴とする、
保持装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接合部は、25℃および-60℃のときの熱伝導率が0.7(W/mK)以上であることを特徴とする、
保持装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接合部は、窒化アルミニウム(AlN)を含有することを特徴とする、
保持装置。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接合部の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5(mm)以上であることを特徴とする、
保持装置。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記ベース部を貫通する孔部と、
前記孔部の内壁を覆う絶縁部と、
前記絶縁部における前記板状部の前記第2面に対向する端面と、前記板状部とを接合する孔用接合部と、
を有し、
前記孔用接合部は、前記接合部を構成する材料と同一の材料により形成されており、かつ、前記接合部より厚みが薄いことを特徴とする、
保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物を保持する保持装置として、例えば、半導体を製造する際にウェハ等の対象物を保持する静電チャックが知られている。静電チャックは、一般に、対象物が載置される板状部と、冷媒流路が形成されるベース部と、板状部とベース部とを接合する接合部と、を備える。例えば、特許文献1、2には、接着剤層(接合部)の材質として、シリコーン樹脂や、シリコーン樹脂に酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウム等の熱伝導性フィラーを添加した複合樹脂等からなる接着剤を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-287344号公報
【特許文献2】特開2014-207374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
静電チャックが強いプラズマエネルギーに曝露される環境下や、静電チャックに高電力が入力される環境下で使用される場合、ウェハ載置面は高温になりやすい。上記特許文献1、2に記載されている静電チャックを、このような環境下で用いると、接着剤層の熱伝導率が比較的低いため、ウェハ載置面の冷却速度が十分に得られない虞がある。そのため、ウェハ載置面の冷却速度を早くするために、接合部の熱引きを良くすることが望まれている。
【0005】
また、上記のようにウェハ載置面が高温になりやすい場合、これを冷却するためにベース側は極低温で使用するため、接合部の上下ならびに面内での温度差が大きくなる。上記特許文献1、2に記載されているシリコーン樹脂は、低温域に熱伝導率が大きく変化する温度域が存在するため、接合部において温度分布が生じて、接合部の熱伝導特性が変化すると、静電チャックのウェハ載置面の面内温度分布の不均一性が大きくなる虞がある。そのため、温度によって熱伝導率が変化する程度が小さい接合部が求められている。なお、これらの課題は、静電チャックに限定されず、プラズマによるエッチング装置等の半導体製造装置等、種々の保持装置に共通する課題である。
【0006】
本開示は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、対象物を保持する保持装置において、対象物が載置される側の面の冷却速度、および対象物が載置される側の面の面内温度分布の均一性の少なくともいずれか一方を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、対象物を保持する保持装置が提供される。この保持装置は、前記対象物が載置される側の第1面と、前記第1面の裏面である第2面とを有する板状に形成される板状部と、前記板状部の前記第2面側に配置され、前記板状部を支持し、冷却機能を有し、板状に形成されるベース部と、前記板状部と前記ベース部との間に配置され、前記板状部と前記ベース部とを接合する接合部と、を備え、前記接合部の熱抵抗は、-60℃の時に1.1×10-3(m2K/W)以下である。
【0008】
この形態の保持装置によれば、接合部の熱抵抗は-60℃の時に1.1×10-3(m2K/W)以下であり、熱抵抗が小さいため、例えば、保持装置の板状部が高温になり、ベース部を-60℃程度の極低温にして使用する場合に、板状部を急速に冷却することができる。そのため、対象物が載置される側の面の冷却速度を向上させることができる。
【0009】
(2)上記形態の保持装置において、前記接合部は、-60℃のときの熱伝導率をλ1とし、25℃のときの熱伝導率をλ2としたとき、λ1/λ2が1.18以下であること、および-60℃のときの熱抵抗をθ1とし、25℃のときの熱抵抗をθ2としたとき、θ1/θ2が0.85以上であること、の少なくともいずれか一方を満たてもよい。このような構成にすると、接合部の温度変化に伴う熱伝導性の変化が小さいため、板状部の温度分布の均一性を向上させることができる。
【0010】
(3)上記形態の保持装置において、前記接合部は、25℃のときの熱抵抗が1.2×10-3(m2K/W)以下であってもよい。このような構成にすると、保持装置の使用温度が室温(25℃)の場合にも、接合部が良好な熱伝導性を有するため、板状部を急速に冷却することができる。
【0011】
(4)上記形態の保持装置において、前記接合部は、25℃および-60℃のときの熱伝導率が0.7(W/mK)以上であってもよい。このような構成にすると、極低温(例えば、-60℃)でも、室温でも十分な熱伝導性を得ることができる。
【0012】
(5)上記形態の保持装置において、前記接合部は、窒化アルミニウム(AlN)を含有してもよい。このようにすると、柔軟性および応力緩和性能が良好、かつ熱伝導性が良好な接合部を提供することができる。
【0013】
(6)上記形態の保持装置において、前記接合部の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5(mm)以上であってもよい。このような構成にすると、接合部の柔軟性および応力緩和性能を十分に確保することが可能になる。そのため、接合部にせん断力が加えられたときの接合部の損傷を抑えることができる。
【0014】
(7)上記形態の保持装置において、前記ベース部を貫通する孔部と、前記孔部の内壁を覆う絶縁部と、前記絶縁部における前記板状部の前記第2面に対向する端面と、前記板状部とを接合する孔用接合部と、を有し、前記孔用接合部は、前記接合部を構成する材料と同一の材料により形成されており、かつ、前記接合部より厚みが薄くてもよい。この形態の保持装置では、ベース部を貫通する孔部を有するため、板状部において孔部と対応する位置は冷却されにくい。そのため、このような構成とすれば、熱伝導性が良好な孔用接合部を介して板状部の孔部と対応する部分を放熱させることができるため、板状部の温度の不均一性を抑制することができる。
【0015】
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、保持装置を含む半導体製造装置、保持装置の製造方法、接合部の形成方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態における静電チャックの構成を概略的に示す説明図である。
【
図2】静電チャックの断面構成を模式的に表す説明図である。
【
図3】各サンプルの評価結果をまとめて示す説明図である。
【
図5】アルミナ10μmの粒度分布を示す図である。
【
図6】窒化アルミニウム15μmのSEM像および粒度分布を示す図である。
【
図7】窒化アルミニウム5μmのSEM像および粒度分布を示す図である。
【
図8】窒化アルミニウム2μmのSEM像および粒度分布を示す図である。
【
図9】各サンプルの熱伝導率の温度依存性を示す説明図である。
【
図10】各サンプルの熱抵抗の温度依存性を示す説明図である。
【
図11】各サンプルの熱抵抗の温度依存性を示す説明図である。
【
図12】最大せん断応力およびひずみ量の算出方法を模式的に示す説明図である。
【
図13】第1シリコーン樹脂を用いたサンプルの組成と熱伝導率を示す図である。
【
図14】第1シリコーン樹脂を用いたサンプルの組成と熱伝導率を示す図である。
【
図15】第1シリコーン樹脂を用いたサンプルの熱伝導率の三角図を示す。
【
図16】第2シリコーン樹脂を用いたサンプルの組成と熱伝導率を示す図である。
【
図17】第2シリコーン樹脂を用いたサンプルの組成と熱伝導率を示す図である。
【
図18】第2シリコーン樹脂を用いたサンプルの熱伝導率の三角図を示す。
【
図19】第2実施形態の静電チャックの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.第1実施形態:
(A-1)静電チャックの全体構成:
図1は、第1実施形態における静電チャック10の構成を概略的に示す説明図である。
図2は、静電チャック10の断面構成を模式的に表す説明図である。
図1では、静電チャック10の一部を破断して示している。また、図には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック10は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。各図に示されるX軸、Y軸、Z軸は、それぞれ同じ向きを表す。なお、上記各図は、各部の配置を模式的に表しており、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
【0018】
静電チャック10は、対象物を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバ内で、対象物であるウェハW(
図2)を固定するために使用される。静電チャック10は、板状部20と、ベース部30と、接合部40と、を備える。これらは、-Z軸方向(鉛直下方)に向かって、板状部20、接合部40、ベース部30の順に積層されている。本実施形態における静電チャック10を、「保持装置」とも呼ぶ。
【0019】
板状部20は、対象物が載置される側の第1面24と、第1面24の裏面である第2面26とを有する略円形の板状部材であり、セラミック(例えば、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等)を主成分として形成されている。本願明細書において、特定成分が「主成分である」あるいは「主に形成する材料である」とは、当該特定成分の含有率が、50体積%以上であることを意味する。板状部20の直径は、例えば、50mm~500mm程度とすればよく、通常は200mm~350mm程度である。板状部20の厚さは、例えば1mm~10mm程度とすればよい。他の実施形態では、板状部20は、例えば、ポリイミド等の樹脂等のセラミック以外の材料を主成分として形成されてもよい。
【0020】
図2に示すように、板状部20の内部には、吸着電極22が配置されている。吸着電極22は、例えば、タングステンやモリブデンなどの導電性材料により形成されている。吸着電極22に対して図示しない電源から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWが板状部20の第1面24に吸着固定される。吸着電極22は、双極型であってもよく、単極型であってもよい。また、板状部20の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された抵抗発熱体で構成されて、第1面24に吸着固定されたウェハWを加熱するための、図示しないヒータ電極を設けてもよい。
【0021】
ベース部30は、板状部20の第2面26側に配置され、板状部20を支持し、冷却機能を有し、略円形に形成された板状部材である。ベース部30は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、モリブデン、チタン、タングステン、ニッケルのうちの少なくとも一種の金属を含むこととすることができる。モリブデン、チタン、タングステンは、上記した金属の中でも熱膨張率が比較的小さいため、これらのうちの少なくとも一種の金属を用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30と板状部20との間の熱膨張率差を抑えることができて望ましい。なお、本願明細書において、「熱膨張率」は、「線膨張率」を指す。また、マグネシウムは、ヤング率が比較的小さいため、マグネシウムを用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30で生じる熱応力を低減することができて望ましい。また、アルミニウムは、熱伝導率が比較的高く、加工が容易で低コストである。そのため、アルミニウムを用いてベース部30を構成する場合には、ベース部30による板状部20およびウェハWの冷却効率を高めることができ、静電チャック10の製造コストを抑えることができて望ましい。ベース部30による冷却効率を高めつつ製造コストを抑える観点からは、ベース部30における金属の含有割合が高い方が望ましく、ベース部30は、金属を主成分とすることが望ましい。例えば、汎用性が高いアルミニウムを90質量%以上含有すること(例えば、A6061、A5052などのアルミニウム合金により構成すること)が望ましい。ただし、ベース部30は、セラミックなどの金属以外の成分を含んでいてもよい。ベース部30の直径は、例えば、220mm~550mm程度とすればよく、通常は220mm~350mmである。ベース部30の厚さは、例えば、20mm~40mm程度とすればよい。
【0022】
ベース部30の内部には、複数の冷媒流路32がXY平面に沿うように形成されている。冷媒流路32に、例えばフッ素系不活性液体や水や液体窒素等の冷媒を流すことにより、ベース部30が冷却される。そして、接合部40を介したベース部30と板状部20との間の伝熱により板状部20が冷却され、板状部20の第1面24に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。ベース部30の内部に冷媒流路32を有する形態の他、ベース部30の外部からベース部30を冷却することにより、ベース部30に冷却機能を持たせてもよい。
【0023】
接合部40は、板状部20とベース部30との間に配置されて、板状部20とベース部30とを接合する。接合部40は、樹脂材料によって形成される接着剤を含む。接合部40は、さらに、接合部40の性質や接合部40を形成するためのペーストの性質を調整するための種々の充填材(無機フィラー)を含んでいてもよい。すなわち、接合部40は、接着剤と無機充填剤とを含む複合物により構成することができる。ただし、接合部40が後述する性質を満たすならば、接合部40は無機充填剤を含まないこととしてもよい。接合部40の厚みは、接合部40の熱抵抗を低減する観点から、例えば、1.00mm以下とすればよく、0.60mm以下が望ましく、0.50mm以下がより望ましく、0.35mm以下がさらに望ましい。接合部40の厚みは、例えば、接合部40の柔軟性および強度を確保する観点から、0.05mm以上とすればよい。接合部40について、後に詳述する。
【0024】
静電チャック10には、さらに、複数のガス供給路50が形成されている。ガス供給路50は、板状部20、接合部40、およびベース部30をZ方向に貫通して設けられており、第1面24に形成されたガス吐出口52において開口している(
図1参照)。ガス供給路50は、図示しないガス供給装置から、例えばヘリウムガス等の不活性ガスを供給されて、第1面24とウェハWとの間の空間に対して、ガス吐出口52から不活性ガスを供給する。これにより、板状部20とウェハWとの間の伝熱性を高めて、ウェハWの温度分布の制御性がさらに高められる。なお、ガス供給路50は必須ではなく、静電チャック10にガス供給路50を設けないこととしてもよい。
【0025】
(A-2)接合部の構成:
本実施形態の静電チャック10が備える接合部40の熱抵抗は、-60℃の時に1.1×10-3(m2K/W)以下である。接合部40の熱抵抗をR(m2K/W)、接合部40の厚みをt(m)、接合部40の熱伝導率をλ(W/mK)とすると、接合部40の熱抵抗Rは、以下の(1)式により求められる。
【0026】
R(m2K/W)=t(m)÷λ(W/mK) …(1)
【0027】
静電チャック10が強いプラズマエネルギーに曝露される環境下や、静電チャック10に高電力が入力される環境下で使用される場合、板状部20の第1面24は高温になりやすい。板状部20の第1面24が、例えば、120℃になるような使用条件の場合、板状部20を冷却するために、ベース部30に供給される冷媒の温度を、例えば、-60℃程度にする場合がある。ベース部30が低温になると接合部40も低温になるため、-60℃における接合部40の熱抵抗を上記の値にすることにより、ベース部30の温度を極低温(例えば、-60℃)にする場合に、接合部40を介したベース部30と板状部20との間の伝熱、すなわち、板状部20からベース部30への熱引きが行われ易くなり、静電チャック10における冷却効率を高めることができる。上述の通り、接合部40は、樹脂によって構成される接着剤を備え、接着剤は一般的に温度が上昇するほど熱伝導率が低下する。すなわち、接合部40の厚みを一定にした場合、温度が上昇するほど熱抵抗が大きくなる傾向にある。-60℃における接合部40の熱抵抗を上記の値にすれば、接合部40の温度が-60℃より高くなっても十分な冷却性能を得ることができる。そのため、対象物が載置される側の面(第1面24)の冷却速度を向上させることができる。
【0028】
接合部40の熱伝導率は、特に限定されないが、-60℃のときの熱伝導率をλ1とし、25℃のときの熱伝導率をλ2としたとき、λ1/λ2が1.18以下であることが好ましい。ここで、25℃は、静電チャック10を使用する際の室温(常温)である。上述の通り、接着剤は一般的に温度が上昇するほど熱伝導率が低下する。接合部40の熱伝導率を上記のようにすると、接合部40の温度変化に伴う熱伝導性の変化が小さい。接合部40の温度変化に伴う熱伝導性の変化が大きい場合いは、低温の部分がより冷却され、高温部分の冷却が遅いため、接合部40の上下および面内での温度差が大きくなる虞がある。これに対し、接合部40の熱伝導率を上記のようにすると、接合部40の温度変化に伴う熱伝導性の変化が小さいため、接合部40の上下および面内での温度差を抑制することができる。換言すると、板状部20の温度分布の均一性を向上させることができる。なお、λ1/λ2は通常、1.00以上である。
【0029】
接合部40の熱抵抗について、-60℃のときの熱抵抗をθ1とし、25℃のときの熱抵抗をθ2としたとき、θ1/θ2が0.85以上であることが好ましい。このようにすると、接合部40の温度変化に伴う熱抵抗の変化が小さいため、接合部40の上下および面内での温度差を抑制することができる。換言すると、板状部20の温度分布の均一性を向上させることができる。なお、θ1/θ2は通常、1.00以下である。
【0030】
接合部40の25℃のときの熱抵抗は特に限定されないが、1.2×10-3(m2K/W)以下が好ましい。このようにすると、静電チャック10の使用温度が室温(25℃)の場合にも、接合部40が良好な熱伝導性を有するため、板状部20を急速に冷却することができる。
【0031】
接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は特に限定されないが、0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上とすることがより望ましく、1.1mm以上とすることがさらに望ましい。なお、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、通常は、5.0mm以下となる。最大せん断応力時ひずみ量とは、接合部40の柔軟性や応力緩和性能を表す指標となる値であり、接合部40にせん断力を加えたときに接合部40で発生するせん断応力が最大になるとき、すなわち、接合部40で最大せん断応力が発生するときに、接合部40で生じるひずみの大きさ(せん断力方向の変位量)をいう。最大せん断応力時ひずみ量が大きいほど、接合部40の柔軟性が高いことを示す。最大せん断応力時ひずみ量を測定するための引張試験機を用いた具体的な測定方法については、後に詳しく説明する。接合部40の最大せん断応力時ひずみ量を上記の値にすれば、接合部40の柔軟性および応力緩和性能を十分に確保することが可能になる。そのため、接合部40にせん断力が加えられたときの接合部40の損傷を抑えることができる。
【0032】
なお、接合部40の熱抵抗の下限値は、例えば、0.6×10-4(m2K/W)とすることができる。接合部40の熱抵抗を抑えるためには、既述したように無機充填剤を構成する材料を適宜選択すると共に無機充填剤の含有割合を増加させる方法が考えられる。しかしながら、無機充填剤の含有割合を過剰に増加させると、接合部40の柔軟性が損なわれ、接合部40の後述する最大せん断応力時ひずみ量の大きさを十分に確保し難くなる可能性がある。また、接合部40の熱抵抗を抑えるためには、接合部40を薄くする方法が考えられる。しかしながら、接合部40を過剰に薄くすると、接合部40の強度が低下すると共に、接合部40の柔軟性を確保し難くなり、最大せん断応力時ひずみ量を所望の数値範囲にすることが困難になる可能性がある。そのため、接合部40の熱抵抗は、上記した0.6×10-4(m2K/W)以上とすることが望ましい。
【0033】
接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、接合部40に含まれる接着剤(樹脂)により変更することができる。例えば、接合部40を構成する樹脂の種類により最大せん断応力時ひずみ量を変更できる他、同種の樹脂を用いる場合であっても、高分子材料である樹脂における架橋点間の距離を制御することで、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量を変更できる。具体的には、上記樹脂における架橋点となる官能基の含有量(官能基当量)を少なくすると、架橋点間の距離が長くなって樹脂の柔軟性が向上するため、最大せん断応力時ひずみ量を大きくすることができる。また、樹脂における反応性官能基の含有量が同等の場合であっても、樹脂の硬化温度や硬化時間等の硬化条件により、架橋点間の距離を制御することができる。すなわち、硬化温度を高める場合、あるいは、硬化時間を長くする場合には、樹脂の硬化がさらに進行し、架橋密度が増加して、架橋点間の距離が短くなる。
【0034】
また、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量は、接合部40の厚みを厚くすることによって大きくすることもできる。
【0035】
また、接合部40における無機充填剤の含有割合が大きいほど、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量が小さくなる傾向がある。これは、無機充填剤の含有割合が大きいほど、無機充填剤が周囲の樹脂(樹脂組成物)を拘束する程度が大きくなり、接合部40の柔軟性が低下して、接合部40がひずみ難くなるためと考えられる。
【0036】
接合部40を構成する接着剤としては、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、あるいはエポキシ樹脂等を用いることができる。特にシリコーン樹脂は、比較的耐熱性および柔軟性に優れるため望ましい。これらの樹脂の中でもシリコーン樹脂は、弾性率が比較的低いために、接合部40で生じる熱応力を緩和する機能が高く、また、耐熱温度が比較的高いため、望ましい。
【0037】
無機充填剤としては、セラミック、金属酸化物、金属、あるいは他の無機化合物を含む種々の無機材料から成る、粒状あるいは粉体状等の物質を用いることができる。具体的には、無機充填剤としては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)、酸化イットリウム(イットリア:Y2O3)、フッ化イットリウム(YF3)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、二酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を用いることができる。無機充填剤を構成する上記のような無機材料は、一般に、接着剤である樹脂よりも熱伝導率が高いため、接合部40に無機充填剤を添加することにより、接合部40における熱伝導性を高めることができる。特に、熱伝導率が比較的高く、接合部40の熱抵抗を抑え易くなるという観点から、無機充填剤を構成する材料としては、窒化アルミニウムや酸化アルミニウムや炭化ケイ素が好ましく、窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムが特に好ましい。
【0038】
なお、接合部40は、さらに、硬化反応を促進する触媒、硬化や接着を促進して接着性を付与するためのシランカップリング剤、架橋剤、接着剤の硬化速度を調整するための反応抑制剤、あるいは粘度調整剤等を含んでいてもよい。接合部40が含む触媒としては、従来知られる種々の触媒を利用可能であり、例えば、白金触媒、ロジウム触媒、チタン触媒、ビスマス触媒等を用いることができる。中でも、反応性が高い白金触媒を用いることが望ましい。接合部40が含むシランカップリング剤としては、特に制限は無く、例えば、有機反応性基としてビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基のいずれかを有するものなど、従来知られるシランカップリング剤の中から適宜選択することができる。また、上記シランカップリング剤の代わりに、チタネート系カップリング剤やアルミネート系カップリング剤を使用してもよい。接合部40が含む架橋剤としては、1分子中に少なくとも3つのヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることができる。より具体的には、例えば、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、および、ポリ(ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン)の少なくとも一方を用いることができる。
【0039】
接合部40が含む反応抑制剤としては、従来知られる種々の反応抑制剤を利用可能であり、例えば、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン、トリアリルイソシアヌレート等を用いることができる。接合部40が含む粘度調整剤としては、従来知られる種々の粘度調整剤を利用可能であり、例えば、煙霧質シリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、煙霧質アルミナ、ヒュームドアルミナ、コロイダルアルミナ等を用いることができる。上記した触媒、シランカップリング剤、架橋剤、反応抑制剤、あるいは粘度調整剤等の種類および添加量は、例えば接合部40を構成する樹脂の種類等に応じて、適宜選択すればよい。
【0040】
接合部40の熱抵抗は、(1)式より、接合部40の厚さを薄くすることにより小さくすることができる。例えば、接合部40の厚みを0.5mm以下とすることで、接合部40の-60℃における熱抵抗を1.1×10-3(m2K/W)以下にすることが容易になる。また、接合部40の熱伝導率を高めて、例えば0.7W/mK以上にすることで、接合部40の厚みを0.5mmより大きくしても、接合部40の-60℃における熱抵抗を1.1×10-3(m2K/W)以下にすることが比較的容易になる。接合部40の熱伝導率を高めるには、例えば、後述するように、熱伝導率がより高い材料から成る無機充填剤を用いたり、無機充填剤の含有割合を高めたりすればよい。
【0041】
また、接合部40の熱抵抗は、例えば、接合部40に含まれる無機充填剤の材料や、接合部40における無機充填剤の含有量や、接合部40に含まれる樹脂の種類により変更することができる。熱伝導率がより高い材料によって構成される無機充填剤を用いることにより、また、無機充填剤の含有量を増加させることにより、また、熱伝導率がより高い樹脂を用いることにより、接合部40の熱伝導率を高めて、接合部40の熱抵抗を小さくすることができる。
【0042】
さらに、接合部40の熱抵抗は、接合部40に含まれる無機充填剤の粒子の形状により変更することができる。
【0043】
無機充填剤は、均質な材料により形成する他、例えば、無機充填剤の粒子本体を構成する材料とは異なる材料からなる被覆層を表面に設けてもよい。被覆層を構成する材料を適宜選択することにより、無機充填剤の耐水性を高めたり、無機充填剤と樹脂との馴染みを良好にして接合部40の柔軟性を高めたりすることが可能になる。例えば、無機充填剤として窒化アルミニウムの粉末を用いる際に、無機充填剤を構成する窒化アルミニウム粒子の表面に、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、あるいはリン酸アルミニウム(AlPO4)を含む被覆層を設けることとしてもよい。
【0044】
静電チャック10においては、一般に、ベース部30の方が板状部20よりも熱膨張率が高く、温度変化により大きく膨張・収縮する。そのため、温度条件によっては、ベース部30が熱膨張する程度の方が、板状部20が熱膨張する程度よりも大きくなる場合もある。このように、板状部20とベース部30との間で膨張や収縮の程度が異なるために、接合部40においては、X軸方向のせん断力が加わり、せん断応力が発生する。そのため、上記したように接合部40の最大せん断応力時ひずみ量の大きさを、より大きくすることで、接合部40に大きなせん断力が加わる場合であっても、接合部40で生じるせん断応力を低減し、接合部40の損傷を抑えることができる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の静電チャック10によれば、静電チャック10が備える接合部40の熱抵抗が-60℃の時に1.1×10-3(m2K/W)以下である。そのため、板状部20に対する入熱がより大きくなる場合であって、ベース部30がごく低温(例えば、-60℃)にされる場合にも、静電チャック10における冷却性能を高めることができる。その結果、板状部20の過剰な温度上昇が抑えられ、温度上昇に起因するウェハの加工精度の低下を抑えると共に、板状部20とベース部30との温度差により接合部40で発生するせん断応力を抑制することができる。
【0046】
また、接合部40について、-60℃のときの熱伝導率をλ1とし、25℃のときの熱伝導率をλ2としたとき、λ1/λ2が1.18以下とするか、-60℃のときの熱抵抗をθ1とし、25℃のときの熱抵抗をθ2としたとき、θ1/θ2が0.85以上とすると、接合部40の温度変化に伴う熱伝導性の変化を小さくすることができるため、接合部40の上下および面内での温度差を抑制することができる。
【0047】
また、接合部40の25℃のときの熱抵抗を、1.2×10-3(m2K/W)以下にすると、静電チャック10の使用温度が室温(25℃)の場合にも、接合部40が良好な熱伝導性を有するため、板状部20を急速に冷却することができる。
【0048】
また、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量を大きくするほど、接合部40の応力緩和性能が高まるため、接合部40の最大せん断応力時ひずみ量を0.5mm以上とすることで、接合部40においてせん断応力が発生する場合であっても、せん断応力に起因する接合部40の損傷を抑えることができる。
【0049】
このような効果は、特に、静電チャック10が、より高出力のプラズマに晒される場合のように、板状部に対する入熱が大きい場合に、顕著に得られる。例えば、板状部20を加熱するためのヒータ電極を設けない場合であっても、高いプラズマパワーと共に静電チャック10を使用する場合には、板状部20の載置面とベース部30との間の温度差が大きくなり易いため、本実施形態による効果が顕著に得られる。
【実施例0050】
以下では、本開示の保持装置について、実施例に基づいて説明する。ここでは、熱伝導率、熱抵抗、および最大せん断応力時ひずみ量の少なくとも一つが異なる種々の接合部に対応するサンプルとして、サンプル1~11までのシート状のサンプルを作製した。また、各シート状のサンプル1~11と同じ組成の接合部を備える静電チャック形態のサンプルを作製した。以下では、静電チャック形態のサンプルについても、接合部と同じ組成のシート状のサンプルと同じサンプル番号で呼ぶ。
【0051】
図3は、各サンプルの接合部の厚み、熱伝導率(-60℃、25℃)、熱伝導率の比(-60℃/25℃)、熱抵抗、熱抵抗の比(-60℃/25℃)、最大せん断応力時ひずみ量の値と共に、静電チャックにおける板状部の温度分布、および降温速度の評価結果をまとめて示す説明図である。
図4は、各サンプルの組成を示す説明図である。
図5は、サンプルに用いられるアルミナ10μmの粒度分布を示す図である。
図6は、サンプルに用いられる窒化アルミニウム15μmのSEM像および粒度分布を示す図である。
図7は、サンプルに用いられる窒化アルミニウム5μmのSEM像および粒度分布を示す図である。
図8は、サンプルに用いられる窒化アルミニウム2μmのSEM像および粒度分布を示す図である。
図9は、各サンプルの熱伝導率の温度依存性を示す説明図である。
図10および
図11は、各サンプルの熱抵抗の温度依存性を示す説明図である。
図10および
図11は、厚みが0.5mmのサンプル(サンプル1、3、4、6、8、10)について示す。
図11は、サンプル1、3、4、6について、拡大して(縦軸の最大値を
図10より小さくして)示している。
【0052】
<各サンプルの作製>
[シート状のサンプルの作製]
各サンプルでは、接着剤として、シリコーン樹脂を用いた。具体的には、硬化前の接着剤材料(樹脂材料)として、ポリジメチルシロキサン、およびフェニル基5mol%含有ポリジメチルシロキサンのいずれか一方を用いた。具体的には、サンプル1~3は、フェニル基5mol%含有ポリジメチルシロキサンを用い、サンプル4~11は、ポリジメチルシロキサンを用いた。
図4に示すように、サンプル1と2、サンプル4と5、サンプル6と7、サンプル8と9、サンプル10と11は、それぞれ、同一の組成であり、
図3に示すように、一方は厚みが0.5mmであり、他方は厚みが1mmである。各サンプルの組成は、
図4に示す通りである。
【0053】
図4に記載された充填剤であって、「アルミナ10μm」は、平均粒子径が10μmのアルミナ粒子であり、BET比表面積は1.3m
2/gである。粒度分布は、
図5に示すとおりである。平均粒子径は、粒度分布を用いて、以下の方法により求めた。なお、アルミナ10μmの形状は、略真球状である(
図4)。ここで、充填剤を断面視したときの内接円の半径をR1とし、外接円の半径をR2としたときに、「R2/R1」の値の平均値が1.0に近い(例えば、1.05未満)ものを「真球」としている。
平均粒子径は公知の粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。充填剤を水中に分散させた後、例えばマイクロトラックMT3000IIを用いて測定し、累積頻度が50%となる径を平均粒子径とした。平均粒子径の求め方は、窒化アルミニウムについても同様である。
【0054】
「窒化アルミニウム15μm」は、平均粒子径が15μmの窒化アルミニウム粒子であり、BET比表面積は0.9m
2/gである。粒度分布は、
図6に示すとおりである。「窒化アルミニウム5μm」は、平均粒子径が5μmの窒化アルミニウム粒子であり、BET比表面積は1.3m
2/gである。粒度分布は、
図7に示すとおりである。「窒化アルミニウム2μm」は、平均粒子径が2μmの窒化アルミニウム粒子であり、BET比表面積は2.8m
2/gである。粒度分布は、
図8に示すとおりである。窒化アルミニウムの形状は、角粒状である。ここで、「角粒状」は、
図6~
図8のSEM(走査電子顕微鏡)像で示すように、角ばった不定形の粒子であり、直方体、真球、棒状、板状でなく形状である。充填剤の粒子形状が真球とは異なって角を有すると、粒子同士の接点が多くなって、接合部40内で熱伝導パスが形成され易くなり、接合部40の熱抵抗が小さくなる。
【0055】
シート状のサンプルの作製方法は、以下の通りである。
充填剤とシリコーン樹脂を混合し、ペースト状の接着剤を作製した。混合方法は特に制限はなく、公知の撹拌羽根による混合、三本ロール、ニーダー、自転・公転ミキサー、プラネタリーミキサーなどを使用することができる。作製したペースト状の接着剤を、公知の塗工装置で離型性のあるフィルムの上に塗り広げ、硬化させることでシート状のサンプルを得ることができる。塗工装置には例えば、ロールコータ―、バーコーター、ダイコーター、ナイフコーターなどを用いることができる。離型性のあるフィルムには、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いることができ、離型性を高めるため離型剤を塗布したPETフィルムを用いてもよい。上記の各種塗工装置では成形が困難な厚みのある硬化物、ブロック状の硬化物を得るためには、接着剤を所定の大きさの容器に入れたのち、硬化してもよい。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の容器を用いると、取り出しやすく好適である。硬化のためには必要に応じて加熱してもよい。
【0056】
[静電チャック形態のサンプルの作製]
サンプル1~12の静電チャックは、いずれも、
図2に示す第1実施形態の静電チャック10と同様の構成を有している。静電チャック10の形態のサンプルは、上記した半硬化させた接着ペーストを、板状部20とベース部30との間に配置して、その後、接着ペーストを硬化させることにより作製した。板状部20としては、酸化アルミニウムによって構成される板状部(熱膨張率は7ppm/K)を用い、ベース部30としては、アルミニウムによって構成されるベース部(熱膨張率は23ppm/K)を用いた。板状部20および接合部の直径は350mmとした。
【0057】
<評価方法>
・熱伝導率
熱伝導率は、ブロック状のサンプルを対象として、公知の熱伝導率計(アグネ製熱伝導率測定装置ARC-TC-1000)を使用し、熱線法(プローブ法)により測定した。なお、ブロック状のサンプルに代えて、静電チャックに組み込まれた接合部を対象として熱伝導率を測定する場合には、静電チャックの板状部を平面研削盤等で削り取り、接合部を露出させた後に、ナイフ等を用いて接合部を剥ぎ取って、熱伝導率の測定を行えばよい。
【0058】
・熱抵抗
熱抵抗Rは、上記のようにして測定した各サンプルの熱伝導率の測定値を用いて、以下の(1)式により求めた。(1)式において、tは接合部の厚みであり、λは接合部の熱伝導率、すなわち、上記の様に測定した各サンプルの熱伝導率である。
【0059】
R(m2K/W)=t(m)÷λ(W/mK) …(1)
【0060】
・最大せん断応力時ひずみ量
最大せん断応力時ひずみ量は、公知の引張試験機(島津製作所製オートグラフAGSー5kNX)を使用し、引張試験によって測定した。
【0061】
図12は、最大せん断応力およびひずみ量の算出方法を模式的に示す説明図である。
図12(A)は、引張試験を正面から見た様子を表し、
図12(B)および
図12(C)は、側面から見た様子を表す。また、
図12(A)および
図12(B)は、試験開始時の様子を表し、
図12(C)は、試験開始後の様子を表す。サンプル1~12の試験片70は、各サンプルの半硬化の接着シートを、幅25mm×長さ100mm×厚さ1mmの2枚のアルミニウム板80の端から12.5mmの位置までの、25mm×12.5mmの部分にそれぞれ貼り付け、2枚のアルミニウム板80を互いに逆方向に引っ張ることができる向きで貼り合わせた後、上記した半硬化の接着シートを硬化させることにより作製した。試験開始時の試験片70の厚さtは、
図8~
図11に示す接合部の厚さとした。次に、上記試験片にせん断力が作用するように、2つのアルミニウム板80を引張試験の治工具で把持し、相対移動させた。ここでは、引張試験機を用いて、一方のアルミニウム板を接着面に平行な一方の方向に引張速度2mm/分で移動させながら、荷重と、移動距離としてのひずみ量δとを測定した(
図12(C)参照)。引張試験機と治工具は十分に剛性の高いものを用い、引張試験機の治工具の移動距離をひずみ量δとした。
図12(B)では、2つのアルミニウム板の相対的な移動の方向を、白抜き矢印で示している。荷重を移動前の試験片の接着面積(25mm×12.5mm)で除すことにより、せん断応力を算出した。このような2枚のアルミニウム板の相対移動を、試験片70が破断するまで継続し、せん断応力が最大となった時のせん断応力を、最大せん断応力(単位は、MPa)とした。最大せん断応力時ひずみ量(単位は、mm)は、
図12に示す引張試験において、せん断応力が最大になったときのひずみ量δとした。なお、すでに静電チャックに組み込まれている接合部の最大せん断応力時ひずみ量を測定する場合には、例えば、以下のように行う。まず、レーザーカット等の加工方法により、接合部を被着体(板状部およびベース部)ごと切り出す。切り出す試験片の形状は、引張試験機の治具で保持することができ、かつ、接合されている2つの被着体を、
図12に示されるように互いに逆方向に引っ張ることができる形状であればよい。引張試験を行う前に、切り出した試験片における接合部の面積と、接合部の厚さとを測定する。その後は、上述した方法と同様に引っ張り試験を行い、最大せん断応力時ひずみ量を測定すればよい。
【0062】
・板状部の温度分布
静電チャックの各サンプル1~11について、板状部の温度分布を評価した。具体的には、各サンプルの板状部の表面温度の平均値が約100℃で時間的に一定になるように、板状部を加熱し、同時にベース部の冷媒流路に-60℃の冷媒を供給して冷却した。その時、板状部の表面温度の最大値と最小値との温度差が2℃未満を「◎」、2℃以上5℃未満を「〇」、5℃以上を「×」と評価した。なお、板状部の表面温度とその時間変化は赤外線放射温度計を用いて測定した。板状部は、板状部にプラズマを照射することで加熱できる。また、板状部にヒータ電極を設けた場合は、ヒータ電極に通電することでも加熱でき、プラズマ照射による加熱と併用してもよい。
【0063】
・板状部の降温速度
静電チャックの各サンプル1~11について、上記板状部の温度分布の評価方法と同じく、板状部の表面温度の平均値が約100℃で時間的に一定になるように、板状部を加熱し、同時にベース部の冷媒流路に-60℃の冷媒を供給して冷却した後、板状部の加熱を停止し、ベース部の冷却を継続した。板状部の加熱を停止した時間を起点とし、板状部の表面温度の平均値の経時変化を測定した。板状部の平均温度が0℃以下に冷却されるのに要する時間を測定し、15秒以下の場合を「〇」、15秒を超える場合を「×」と評価した。
【0064】
サンプル1~7は、下記〔1〕の要件を満たしている。
〔1〕接合部の熱抵抗は、-60℃の時に1.1×10-3(m2K/W)以下である。
【0065】
サンプル1~3は、上記〔1〕の要件に加え、さらに、下記〔2〕、〔3〕の要件を満たしている。
〔2〕接合部は、-60℃のときの熱伝導率をλ1とし、25℃のときの熱伝導率をλ2としたとき、λ1/λ2が1.18以下である。
〔3〕接合部は、-60℃のときの熱抵抗をθ1とし、25℃のときの熱抵抗をθ2としたとき、θ1/θ2が0.85以上である。
【0066】
サンプル1~6は、上記〔1〕の要件に加え、さらに、下記〔4〕の要件を満たしている。
〔4〕接合部は、25℃のときの熱抵抗が1.2×10-3(m2K/W)以下である。
【0067】
サンプル1~7は、さらに、下記〔5〕の要件を満たしている。
〔5〕接合部は、25℃および-60℃のときの熱伝導率が0.7(W/mK)以上である。
【0068】
サンプル1、2、4、および5は、さらに、下記〔6〕の要件を満たしている。
〔6〕接合部は、窒化アルミニウム(AlN)を含有する。
【0069】
サンプル1~7は、さらに、下記〔7〕の要件を満たしている。
〔7〕接合部の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5(mm)以上である。
【0070】
このように、サンプル8~11は、少なくとも上記〔1〕の要件を、いずれも満たしておらず、板状部の温度分布および降温速度の評価が「×」である(
図3)。
【0071】
図3に示すように、サンプル1~8は、温度分布、および降温速度の評価が「〇」または「◎」であり、良好である。すなわち、上記要件〔1〕を満たすことにより、板状部からベース部に対する熱の移動を良好にすることができたといえる。
【0072】
さらに、サンプル1~3は、上記〔2〕、〔3〕の要件を満たしており、
図9、
図11に示すように熱伝導率および熱抵抗が急激に変化する温度域がない。サンプル4~7は、サンプル8~11と比較して熱抵抗が小さく、板状部を急速に冷却することができるものの、熱伝導率および熱抵抗が、-20℃~-40℃の範囲で急激に変化する(
図9、
図11)。そうすると、板状部において温度が低い部分がより冷却されるため、温度の均一性が低下する虞がある。これに対し、サンプル1~3は、上述の通り、熱伝導率および熱抵抗が急激に変化する温度域がないため、板状部の温度の均一性がサンプル4~7より良好である。
【0073】
サンプル1~7は、上記〔5〕の要件を満たしており、温度分布および降温速度の評価が良好である。接合部は、25℃および-60℃のときの熱伝導率が0.7(W/mK)以上であると、極低温から常温の範囲に亘り、十分な熱伝導性を得ることができる。
【0074】
サンプル1、2、4、および5は、充填剤として窒化アルミニウム(AlN)を含有し、サンプル3、6、および7は、充填剤としてアルミナを含有する(
図4)。そのため、サンプル1、2、4、および5は、サンプル3、6、および7より熱伝導率が高く、熱抵抗が小さく(
図3、
図9~
図11)、板状部の降温速度が3、6、および7より速い。
【0075】
サンプル1、3、4、6は、最大せん断応力時ひずみ量が0.5mm以上である。最大せん断応力時ひずみ量とは、柔軟性や応力緩和性能を表す指標となる値であり、0.5mm以上であれば、静電チャックの接合部の柔軟性および応力緩和性能を十分に確保することが可能になる。
【0076】
<熱伝導率の調整方法の検討>
上記実施形態の接合部40を形成可能な材料を作成すべく、形成材料の熱伝導率の調整方法を検討した。具体的には、シリコーン樹脂(シリコーン接着剤)の種類と、充填剤の種類、および割合を違えた複数のサンプルを作成し、熱伝導率を測定した。詳しくは、第1シリコーン樹脂として、フェニル基5mol%含有ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーン樹脂を用い、第2シリコーン樹脂として、ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーン樹脂を用いた。充填剤としては、窒化アルミニウムの粒子径が異なる3種(15μm、5μm、2μm)を用いた。第1シリコーン樹脂、第2シリコーン樹脂ともに加熱することにより硬化、接着することができるシリコーン樹脂(シリコーン接着剤)であり、主成分以外に、公知のシランカップリング剤、ポリジメチルシロキサン構造と硬化に必要な官能基を持つ架橋剤、シリコーンの硬化触媒などを含有する。
【0077】
図13、
図14は、第1シリコーン樹脂を用いたサンプルの組成と熱伝導率を示す図である。
図15は、第1シリコーン樹脂を用いたサンプルの熱伝導率の三角図を示す。
図16、
図17は、第2シリコーン樹脂を用いたサンプルの組成と熱伝導率を示す図である。
図18は、第2シリコーン樹脂を用いたサンプルの熱伝導率の三角図を示す。
図15、
図18では、軸は、重量割合であり、ポイントの横に伝導率を図示している。
図13、
図14、
図16、および
図17における熱伝導率は、C-THERM社製 熱伝導率測定装置TCiを使用して測定した。なお、上記
図3に示した熱伝導率は、アグネ製熱伝導率測定装置ARC-TC-1000)を使用し、熱線法(プローブ法)により測定しており、測定のメカニズムが異なるため測定結果の大小関係は変化しないが、値そのものは必ずしも一致しない。
【0078】
図13に示すサンプルS1の組成は、
図4に示すサンプル1、2の組成と一致する。
図13、
図14では、サンプルS1の熱伝導率を基準(「1」)とし、残余のサンプルの熱伝導率を「熱伝導率の比」として示している。また、
図16に示すサンプルS18の組成は、
図4に示すサンプル4、5の組成と一致する。
図16、
図17では、サンプルS18の熱伝導率を基準(「1」)とし、残余のサンプルの熱伝導率を「熱伝導率の比」として示している。
【0079】
図15では、熱伝導率1.35W/mK以上を囲んで図示している。また、
図18では、熱伝導率1.30W/mK以上を囲んで図示している。また、
図15、および
図18に示すように、第1シリコーン樹脂を用いる場合も、第2シリコーン樹脂を用いる場合も、15umの粒子の割合が多い場合が、熱伝導率が高い結果であった。ただし、15umの粒子だけの場合よりも、5um、2umの粒子を添加した場合の方が、より高い熱伝導率が得られた。大きい粒子の間に小さい粒子が入り、粒子同士が近接したためと考えられる。
【0080】
熱伝導率が大きく変化しない接着剤は、ガラス転移温度や結晶化温度といった相転移温度が使用温度範囲に存在しない接着剤である。このような接着剤は、シリコーン系接着剤の中でもフェニル基を5mol%含有するシリコーン接着剤である。フェニル基は、立体障害が大きいため、低温まで結晶化せず柔軟でかつ熱伝導率の変化が小さいと推定される。
【0081】
シリコーン接着剤の高熱伝導化は、無機系充填剤を配合することで実現できる。高熱伝導化のためには、充填剤を多く配合する必要があるが、多く配合できる充填剤の形状は真球状や粒状である。棒状、板状、針状は流動性が低下してしまうため、多く配合することが困難であり、少量でも接着剤の硬度が上昇してしまうため静電チャックのような熱膨張率が異なる材料を接合する用途には使用できない。
【0082】
充填剤を配合した接着剤の熱伝導率をより高めるためには、充填剤の形状は、真球状よりも粒状がより好ましい。充填剤の粒子同士が接触もしくはできるだけ近接した場所が多い方が好ましい。粒状の場合、部分的に突起があったり、窪んだりしているため、隣の粒子との接点が増加するためと考えられる。
【0083】
接着剤の高熱伝導化の観点では、芳香族官能基を備えることが好ましい。芳香族官能基を含む方が密度が高く、同じ重量割合で配合した場合、芳香族官能基を含む方が体積割合での含有量は、樹脂が減り、充填剤が増加するためと考えられる。別の理由は、ポリジメチルシロキサンのようなシグマ結合よりも、芳香族基のようなパイ結合の方が熱伝導性が高いことが考えられる。また、芳香族基は、アルミナや窒化アルミニウム中のアルミニウムのような金属原子や、表面処理剤に含まれるリン原子に対して配位することができるため、充填剤と接着剤の界面の熱抵抗を下げ、全体として熱伝導率を高めることに寄与することも考えられる。
【0084】
B.第2実施形態:
図19は、第2実施形態の静電チャック10Aの構成を模式的に示す断面図である。
図20は、
図19におけるX部の拡大図である。第2実施形態の静電チャック10Aは、第1実施形態の静電チャック10に加え、端子用貫通孔60(
図19)を備える。第2実施形態の静電チャック10Aにおいて、第1実施形態の静電チャック10と共通する部分には同じ参照番号を付す。端子用貫通孔60を、単に「孔部」とも呼ぶ。
【0085】
図19に示すように、端子用貫通孔60は、ベース部30Aおよび接合部40Aを貫通し、板状部20Aにおいて、吸着電極22の下方まで至っている。端子用貫通孔60内には、電極端子62が配置され、ビア72を介して吸着電極22と電気的に接続される。
【0086】
詳しくは、
図20に示すように、板状部20Aには、ビア72を介して吸着電極22に導通する電極パッド74が配置されている。本実施形態では、Z軸方向視での電極パッド74の形状は、略円形である。電極パッド74およびビア72は、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成されている。
【0087】
ベース部30Aに形成された端子用貫通孔60内には、Z軸方向に延びる柱状の電極端子62が配置されている。本実施形態では、電極端子62の断面(面方向に平行な断面)は、円形である。電極端子62の上端は、電極パッド74まで達しており、電極端子62は、例えば金属ろう材による接合部によって電極パッド74に接合されている。
【0088】
ベース部30Aの端子用貫通孔60内に配置された電極端子62とベース部30Aとの間を絶縁するため、ベース部30Aの端子用貫通孔60内には絶縁部64が配置されている。絶縁部64は、電極端子62と端子用貫通孔60の表面との間に介在するように、電極端子62を連続的に取り囲んでいる。絶縁部64は、例えば、樹脂やセラミックス等の絶縁材料により構成されている。本実施形態では、絶縁部64の熱伝導率は、板状部20Aの熱伝導率より低い(すなわち、板状部20Aの熱伝導率は、絶縁部64の熱伝導率より高い)。なお、絶縁部64の周り、具体的には、絶縁部64と電極端子62との間や、絶縁部64と板状部20Aとの間、絶縁部64とベース部30Aとの間には、孔用接合部66が配置されている。孔用接合部66は、接合部40Aを構成する材料と同一の材料により形成されており、絶縁部64を電極端子62や板状部20A、ベース部30Aに接合する。詳しくは、孔用接合部66は、絶縁部64における板状部20Aの第2面26に対向する端面64Sと、板状部20Aとを接合する。また、孔用接合部66は、接合部40Aより厚みが薄い。端子用貫通孔60の部分は、ベース部30Aの中で、熱伝導性が低いため、板状部20Aの温度分布に温度差が生じる原因になりやすい。接合部40Aを構成する材料とベース部30Aを構成する材料とでは、熱伝導率は接合部40Aを構成する材料の方が低いため、孔用接合部66を接合部40Aより薄くすることで、熱伝導性の低下を抑制し、温度差が生じる可能性を低減している。
【0089】
吸着電極22への給電のための構成は上述の通りである。静電チャック10の使用時には、吸着電極22に、電源(図示せず)から、電極端子62、電極パッド74およびビア72を介して吸着電極22に至る導通経路を介して、電圧が印加される。これにより、ウェハWを吸着面S1に吸着固定するための静電引力が発生する。
【0090】
端子用貫通孔60において、一般的なシリコーン接着剤等の樹脂接着剤を用いて絶縁部64と静電チャック10Aとを接合すると、接着剤の熱伝導性が良くないため、板状部20Aにおいて、端子用貫通孔60に対応する部分の放熱性が低下し、板状部20Aの第1面24における温度の不均一性が大きくなる虞がある。これに対し、本実施形態の静電チャック10Aによれば、接合部40Aと同一の材料により形成され、熱伝導性が良好な孔用接合部66を介して板状部20Aの端子用貫通孔60と対応する部分を放熱させることができる。その結果、板状部20Aの温度の不均一性をさらに抑制することができる。
【0091】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0092】
本開示は、以下の適用例としても実現することが可能である。
[適用例1]
対象物を保持する保持装置であって、
前記対象物が載置される側の第1面と、前記第1面の裏面である第2面とを有する板状に形成される板状部と、
前記板状部の前記第2面側に配置され、前記板状部を支持し、冷却機能を有し、板状に形成されるベース部と、
前記板状部と前記ベース部との間に配置され、前記板状部と前記ベース部とを接合する接合部と、
を備え、
前記接合部の熱抵抗は、-60℃の時に1.1×10-3(m2K/W)以下であることを特徴とする、
保持装置。
[適用例2]
適用例1に記載の保持装置であって、
前記接合部は、
-60℃のときの熱伝導率をλ1とし、25℃のときの熱伝導率をλ2としたとき、λ1/λ2が1.18以下であること、および
-60℃のときの熱抵抗をθ1とし、25℃のときの熱抵抗をθ2としたとき、θ1/θ2が0.85以上であること、
の少なくともいずれか一方を満たすことを特徴とする、
保持装置。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の保持装置であって、
前記接合部は、25℃のときの熱抵抗が1.2×10-3(m2K/W)以下であることを特徴とする、
保持装置。
[適用例4]
適用例1から適用例3のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接合部は、25℃および-60℃のときの熱伝導率が0.7(W/mK)以上であることを特徴とする、
保持装置。
[適用例5]
適用例1から適用例4のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接合部は、窒化アルミニウム(AlN)を含有することを特徴とする、
保持装置。
[適用例6]
適用例1から適用例5のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接合部の最大せん断応力時ひずみ量は、0.5(mm)以上であることを特徴とする、
保持装置。
[適用例7]
適用例1から適用例6のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記ベース部を貫通する孔部と、
前記孔部の内壁を覆う絶縁部と、
前記絶縁部における前記板状部の前記第2面に対向する端面と、前記板状部とを接合する孔用接合部と、
を有し、
前記孔用接合部は、前記接合部を構成する材料と同一の材料により形成されており、かつ、前記接合部より厚みが薄いことを特徴とする、
保持装置。