(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182036
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】栄養塩の回収方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/38 20220101AFI20231219BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20231219BHJP
A61F 13/84 20060101ALN20231219BHJP
A61F 13/53 20060101ALN20231219BHJP
B09B 101/67 20220101ALN20231219BHJP
【FI】
B09B3/38
B09B3/40
A61F13/84 ZAB
A61F13/53 300
B09B101:67
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095413
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨部 圭一郎
【テーマコード(参考)】
3B200
4D004
【Fターム(参考)】
3B200BB17
4D004AA50
4D004AC04
4D004BA04
4D004BA06
4D004CA15
4D004CA22
4D004CA28
4D004CA41
4D004CA42
4D004CB28
4D004CB32
4D004CB37
(57)【要約】
【課題】使用済み吸収性物品から効率的に栄養塩を回収する技術に関する。
【解決手段】本発明の一形態に係る栄養塩の回収方法は、吸水性樹脂と熱可塑性樹脂とを有する使用済み吸収性物品から栄養塩を回収する方法である。前記栄養塩の回収方法は、前記吸収性物品を含む被処理物を攪拌し、かつ乾燥させる乾燥ステップと、前記被処理物を、前記熱可塑性樹脂の軟化点以上、前記吸水性樹脂の熱分解温度未満の温度で加熱する加熱ステップと、前記加熱ステップ後に、前記被処理物を攪拌し、かつ前記熱可塑性樹脂の軟化点未満まで冷却することで、粒状体を得る粒状化ステップと、前記粒状体から前記栄養塩を回収する回収ステップと、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性樹脂と熱可塑性樹脂とを有する使用済み吸収性物品から栄養塩を回収する方法であって、
前記吸収性物品を含む被処理物を攪拌し、かつ乾燥させる乾燥ステップと、
前記被処理物を、前記熱可塑性樹脂の軟化点以上、前記吸水性樹脂の熱分解温度未満の温度で加熱する加熱ステップと、
前記加熱ステップ後に、前記被処理物を攪拌し、かつ前記熱可塑性樹脂の軟化点未満まで冷却することで、粒状体を得る粒状化ステップと、
前記粒状体から前記栄養塩を回収する回収ステップと、を含む
栄養塩の回収方法。
【請求項2】
前記回収ステップでは、前記粒状体の粒度に基づいて前記栄養塩を分離することで、前記栄養塩を回収する
請求項1に記載の栄養塩の回収方法。
【請求項3】
前記回収ステップでは、前記栄養塩を含み第1粒度を有する第1粒状体と、前記吸水性樹脂を含み前記第1粒度よりも大きい第2粒度を有する第2粒状体とを分離することで、前記第1粒状体を回収する
請求項2に記載の栄養塩の回収方法。
【請求項4】
前記粒状体の粒度分布が、前記第1粒度に対応する第1ピークと、前記第2粒度に対応する第2ピークと、を有する
請求項3に記載の栄養塩の回収方法。
【請求項5】
前記乾燥ステップでは、前記吸収性物品を破砕することで前記吸水性樹脂を露出させる
請求項1から4のいずれか一項に記載の栄養塩の回収方法。
【請求項6】
前記加熱ステップでは、前記被処理物の一部を炭化させる
請求項1から5のいずれか一項に記載の栄養塩の回収方法。
【請求項7】
前記被処理物には、セルロースが含まれる
請求項1から6のいずれか一項に記載の栄養塩の回収方法。
【請求項8】
吸水性樹脂と熱可塑性樹脂とを有する使用済み吸収性物品から栄養塩を含む肥料を製造する方法であって、
前記吸収性物品を含む被処理物を攪拌し、かつ乾燥させる乾燥ステップと、
前記被処理物を、前記熱可塑性樹脂の軟化点以上、前記吸水性樹脂の熱分解温度未満の温度で加熱する加熱ステップと、
前記加熱ステップ後に、前記被処理物を攪拌し、かつ前記熱可塑性樹脂の軟化点未満まで冷却することで、粒状体を得る粒状化ステップと、
前記粒状体から前記栄養塩を回収する回収ステップと、を含む
肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済み吸収性物品のリサイクル技術に関する。
【背景技術】
【0002】
紙おむつ及び生理用ナプキンなどの使用済み吸収性物品は、尿、便、経血等の排泄物を吸収している。これらの排泄物には、肥料として利用可能な栄養塩(リン、窒素、カリウム及び/又はカルシウム)が含まれている。そこで、使用済み吸収性物品から、排泄物由来の栄養塩を回収し、再利用する技術が知られている。例えば特許文献1には、使用済み吸収性物品をカルシウム化合物含有水溶液に浸漬して高吸水性ポリマーを不活化し、吸収性物品の構成素材を含む固体とカルシウム化合物および栄養塩を含む液体とに分離することで、液体から栄養塩を回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法において、液体から回収した栄養塩を肥料等として再利用する場合には、液体中からさらに栄養塩を回収する必要があり、プロセスが煩雑になる。また、この方法では、大量の処理液や大型の処理装置を要する可能性があるため、より効率的な栄養塩のリサイクル技術が望まれている。
【0005】
本発明の課題は、使用済み吸収性物品から効率的に栄養塩を回収する技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る栄養塩の回収方法は、吸水性樹脂と熱可塑性樹脂とを有する使用済み吸収性物品から栄養塩を回収する方法である。
前記栄養塩の回収方法は、
前記吸収性物品を含む被処理物を攪拌し、かつ乾燥させる乾燥ステップと、
前記被処理物を、前記熱可塑性樹脂の軟化点以上、前記吸水性樹脂の熱分解温度未満の温度で加熱する加熱ステップと、
前記加熱ステップ後に、前記被処理物を攪拌し、かつ前記熱可塑性樹脂の軟化点未満まで冷却することで、粒状体を得る粒状化ステップと、
前記粒状体から前記栄養塩を回収する回収ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、使用済み吸収性物品から効率的に栄養塩を回収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に利用可能な粒状化装置の概略構成図である。
【
図3】上記実施形態に係る栄養塩の回収方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の概略説明]
本発明の一実施形態に係る栄養塩の回収方法は、使用済み吸収性物品を粒状化して、粒状体から栄養塩を回収するように構成される。これにより、栄養塩を効率よく回収することができ、肥料等として有効活用することができる。また、本実施形態では、粒状化の過程で吸水性樹脂から栄養塩が分離されるため、吸水性及び吸湿性の低く扱いやすいリサイクル材を製造することができる。したがって、本実施形態に係る回収方法は、使用済み吸収性物品を含む廃棄物のリサイクルの促進に寄与し、ひいては資源循環型社会の実現に寄与する。
【0010】
本実施形態において、吸収性物品とは、吸水性樹脂と熱可塑性樹脂とを有し、排泄物を含む体液の吸収が可能な物品を意味する。また、本実施形態において、使用済み吸収性物品とは、排泄物及び/又はその他の体液を吸収又は付着した状態の吸収性物品を意味する。本実施形態に係る吸収性物品は、例えば、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、尿取りパッド、パンティライナー、ペット用トイレシート、簡易トイレ、ドリップシートから選択された1以上の物品を含む。なお、「ドリップシート」は、肉や魚等の食材の余分な水分(体液)を吸収する吸水シートを意味する。
【0011】
本実施形態において、排泄物は、尿や経血などの液状の排泄物と、便などの固形の排泄物を含む。また、その他の体液は、肉や魚等の動物性の食材等から滲出した液体を含む。これらの排泄物及び体液には、栄養塩が含まれる。本実施形態において、栄養塩とは、肥料として利用可能な窒素、リン、カリウム又はカルシウムを含む塩をいい、より具体的には、アンモニウム塩、リン酸塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。
【0012】
使い捨ておむつ、生理用ナプキン等の排泄物の処理に用いられる吸収性物品は、一般に、吸水性樹脂を含む吸収体と、吸収体の表裏を被覆するシート材と、を含み、各部材が接着剤等によって接合された構成を有する。当該シート材は、例えば、熱可塑性樹脂及び/又はセルロース等を含む。吸収体は、吸水性樹脂を含む吸収性コアを少なくとも含み、さらに吸収性コアを被覆するコアラップシートを含んでいてもよい。コアラップシートは、例えば、セルロース等の親水性材料からなる。また、吸収性コアは、吸水性樹脂の他、セルロースからなるパルプ等の親水性材料を含んでいてもよい。
【0013】
本実施形態において、吸水性樹脂は、吸水性を有する樹脂であり、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシル基又はその塩を有する高分子化合物の部分架橋体、多糖類の部分架橋体等から選択される1以上の吸水性樹脂を含む。カルボキシル基又はその塩を有する高分子化合物の部分架橋体は、ポリアクリル酸塩架橋体、ポリ(ビニルアルコール/アクリル酸塩)共重合体(架橋体)、澱粉-アクリル酸塩グラフト共重合体(架橋体)及びポリビニルアルコール-ポリ無水マレイン酸塩グラフト共重合体(架橋体)等を含む。多糖類の部分架橋体は、カルボキシメチルセルロース塩架橋体等を含む。
また、上記吸水性樹脂を構成する「塩」としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩等)、アンモニウム塩(第四級アンモニウム塩、第四級アルキルアンモニウム塩等)等から選択された1以上の塩を含む。
本発明の吸水性樹脂は、好ましくは、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム又はポリアクリル酸ナトリウム架橋体から選択された1以上の吸水性樹脂を含む。
【0014】
本実施形態において、熱可塑性樹脂は、特定の種類に限定されず、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレンなどが挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、例えば、吸収性物品におけるシート材や外装材等として用いられる。また、熱可塑性樹脂は、吸収性物品以外の被処理物にも含まれていてもよい。
【0015】
本実施形態の回収方法の対象となる被処理物は、使用済み吸収性物品のみから構成されていてもよいが、他の廃棄物、副材等を含んでいてもよい。当該他の廃棄物は、特に限定されず、例えば、使用済みの包装容器(食品容器やボトル等)や、海洋ゴミ、家庭や事業場などから出されたその他の廃棄物を含んでいてもよい。
【0016】
本実施形態において、被処理物には、セルロースが含まれることが好ましい。被処理物がセルロースを含むことで、後述するように、加熱ステップS2で被処理物の一部を炭化させやすくなる。セルロースは、吸収性物品に含まれていてもよいし、吸収性物品以外の被処理物に含まれていてもよい。
【0017】
本実施形態において、「粒状」とは破砕された被処理物の各砕片の形状を意味する。また、「粒状体」とは、相互に分離した複数の砕片の集合体を意味する。更に、「粒状化」とは、被処理物を粒状体とすることを意味する。本実施形態における粒状体の最大径は、取り扱い性の観点から、好ましくは5cm以下であり、より好ましくは1cm以下であり、更に好ましくは0.5cm以下である。
【0018】
本実施形態において、粒状体の粒度とは、粒状体のサイズの度合いを意味する。つまり、粒状体の粒度は、粒状体をサイズ毎に分離する際の基準となる。ここでいう粒状体のサイズは、各粒状体を球体と仮定した場合の直径に相当する粒径の範囲として定義されてもよいが、粒状体のサイズを分類できれば厳密に粒径で定義されなくてもよい。例えば粒状体の粒度は、ふるいの目開きや、分級機において設定された分級点などによって規定され得る。
【0019】
[粒状化装置の構成]
まず、本実施形態に係る回収方法に使用可能な処理装置の一例として、粒状化装置100について説明する。
図1は粒状化装置100を正面から示しており、
図2は粒状化装置100を側方から示している。粒状化装置100は、処理槽101を有する。処理槽101は、壁部101aと収容部101bとを有する。収容部101bは、粒状化装置100による粒状化処理の対象となる被処理物を収容可能であり、周囲を壁部101aによって囲まれた処理槽101の内部空間として構成される。
図1,2はそれぞれ、壁部101aを鉛直方向に破断した縦断面で示すことで、収容部101bの内部を示している。処理槽101では、被処理物の出し入れのための収容部101b内への外部からのアクセスが可能なように、壁部101aの一部が開閉可能に構成されている。
【0020】
また、粒状化装置100は、攪拌シャフト102を更に有する。攪拌シャフト102は、軸部102aと複数の羽根部102bとを有する。軸部102aは、水平方向側方に延びる回転軸Cを中心に回転可能な丸棒状の部材として構成される。軸部102aでは、両端部が収容部101bの側方において壁部101aによって支持され、壁部101aに支持された両端部間の部分が収容部101b内に位置する。複数の羽根部102bは、軸部102aにおける収容部101b内に位置する部分全体に実質的に偏りなく、長手方向に沿って間隔をあけて設けられている。また、各羽根部102bは、軸部102aの外周面から径方向の様々な方向に突出している。
【0021】
更に、粒状化装置100は、ヒータ103を有する。ヒータ103は、処理槽101の壁部101aの外側に取り付けられている。ヒータ103は、通電によって壁部101aを介して収容部101b内の温度を上昇させることが可能に構成されている。つまり、粒状化装置100では、ヒータ103によって収容部101bに収容された被処理物を加熱することができる。なお、ヒータ103における加熱方式や設置位置などの各構成は、処理槽101の構成や被処理物の性質などに応じて様々に決定可能である。
【0022】
加えて、粒状化装置100は、送風機構104を更に有する。送風機構104は、給気部104aと排気部104bとを有する。給気部104a及び排気部104bは、それぞれ処理槽101の壁部101aに設けられ、収容部101bを挟んで相互に側方に対向している。送風機構104は、給気部104aから収容部101b内に空気を供給し、排気部104bから処理槽101内の空気を排出することで、収容部101b内に送風を行うことが可能に構成されている。このため、粒状化装置100では、送風機構104によって、被処理物の冷却時における温度の下降を促進することができる。なお、粒状化装置100において送風機構104による送風に用いる気体は、空気に限定されず、例えば、窒素などの不活性ガスなどであってもよい。
【0023】
以上のような構成により、粒状化装置100は、回転軸Cを中心として軸部102aを回転させることで、収容部101b内において複数の羽根部102bから加わる力と重力との相互作用によって被処理物を良好に攪拌することができる。したがって、粒状化装置100は、ヒータ103及び/又は送風機構104による温度制御と、攪拌処理とを組み合わせて行うことができ、後述する乾燥ステップS1、加熱ステップS2及び粒状化ステップS3を行うことができる。
【0024】
なお、粒状化装置100の構成は、上記に限定されず、様々に変更することができる。例えば、粒状化装置100では、軸部102aの回転軸Cが、水平方向に沿って延びていることは必須ではなく、水平面に対して傾いていてもよい。しかし、粒状化装置100において重力による攪拌作用を有効に得るためには、少なくとも軸部102aの回転軸Cが鉛直方向に対して傾いていることが必要であり、軸部102aの回転軸Cの水平面に対する角度が小さいことが好ましい。具体的に、粒状化装置100では、軸部102aの回転軸Cの水平面に対する角度が、30°以下であることが好ましい。
【0025】
[栄養塩の回収方法]
図3に示すように、本実施形態に係る栄養塩の回収方法では、乾燥ステップS1と、加熱ステップS2と、粒状化ステップS3と、回収ステップS4と、を含む。本実施形態では、乾燥ステップS1、加熱ステップS2、及び粒状化ステップS3に粒状化装置100を用いる例を挙げて説明する。この例では、まず、吸収性物品を含む被処理物を処理槽101の収容部101b内に収容し、乾燥ステップS1を行う。
【0026】
(乾燥ステップS1)
乾燥ステップS1では、吸収性物品を含む被処理物を攪拌し、かつ乾燥させる。これにより、吸収性物品に含まれる水分が蒸発して被処理物が軽量化するとともに、攪拌によって被処理物が破砕される。また、吸水性樹脂から染み出した水分とともに、この水分に溶解していた栄養塩の結晶が吸水性樹脂の周囲に析出する。さらに、攪拌により、吸水性樹脂と栄養塩の結晶とを分離することができる。本実施形態では、粒状化装置100のヒータ103によって収容部101b内の温度を調整しつつ、攪拌シャフト102を回転させ、処理槽101の収容部101b内に収容された被処理物を攪拌する。
【0027】
本ステップにおける乾燥温度は特に限定されないが、40℃以上であって、後述する熱可塑性樹脂の軟化点未満とすることができる。当該乾燥温度は、略一定に維持されていてもよいが、加熱ステップS2へ円滑に移行する観点から、連続的又は段階的に上昇するように設定されることが好ましい。昇温させる場合の昇温速度は0.001℃/分以上20℃/分以下であることが好ましい。
【0028】
仮に攪拌せずに乾燥させた場合、吸水性樹脂に保持されていた水分が外部に染み出す際に、吸水性樹脂とパルプやコアラップシート等の親水性の高い材料とが水分を介し結合しやすくなる。この状態で乾燥させた場合、吸水性樹脂と他の材料が固着して塊状になり、吸水性樹脂及び栄養塩の分離が難しくなる。これに対し、本実施形態では、攪拌しながら乾燥することで、栄養塩、吸水性樹脂及び他の材料の分離を促進しつつ、吸水性樹脂中の水分量を減少させることができる。
【0029】
また、上述のように、吸収性物品では、吸水性樹脂がパルプやシート材と一体化していることが多い。このため、本ステップでは、吸収性物品を破砕することで吸水性樹脂を露出させることが好ましい。これにより、吸水性樹脂からの栄養塩の析出を促進させることができるとともに、吸水性樹脂の水分量をより効率よく減少させることができる。また、栄養塩、吸水性樹脂及び他の材料の分離をより促進させることができる。
【0030】
(加熱ステップS2)
続いて、加熱ステップS2では、被処理物を、熱可塑性樹脂の軟化点以上、吸水性樹脂の熱分解温度未満の温度で加熱する。これにより、熱可塑性樹脂は軟化して変形しやすくなる一方で、吸水性樹脂は熱分解せずに分子構造が維持される。したがって、吸水性樹脂に対し、熱可塑性樹脂の物性を大きく変化させることができる。本実施形態では、例えば、ヒータ103によって被処理物の温度が調整される。また本ステップにおいても、例えば攪拌シャフト102を回転させることにより、攪拌することが好ましい。これにより、被処理物を均質に加熱することができるとともに、被処理物を破砕しやすくなる。
【0031】
本実施形態において、「軟化点」とは、被処理物に含まれる熱可塑性樹脂が急速に軟化を開始する温度を意味する。被処理物に複数の熱可塑性樹脂が含まれる場合、「熱可塑性樹脂の軟化点」として、任意の熱可塑性樹脂の軟化点を選択することができるが、好ましくは、被処理物に含まれる最も軟化点の高い熱可塑性樹脂の軟化点を選択することができる。被処理物に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点は、含まれる熱可塑性樹脂が特定できる場合、あらかじめ測定したビカット軟化温度を使用することができる。ビカット軟化温度はJIS K 7206:2016(ISO 306:2013)に準拠して測定することができる。また、被処理物に含まれる熱可塑性樹脂の軟化点は、含まれる熱可塑性樹脂が特定できていない場合、被処理物から樹脂を取り出し、ビカット軟化温度を測定することで、その値を用いることができる。例えば、ポリプロピレンの軟化温度は160~200℃であり、ポリエチレンテレフタレートの軟化温度は200~250℃である。
【0032】
本実施形態において、吸水性樹脂の「熱分解温度」とは、熱により分子鎖が切断され、低分子化する際の温度である。熱分解温度は、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)を用いて、大気雰囲気中において吸水性樹脂の試料を所定の昇温速度(5~10℃/min)で加熱した際に、試料の重量が5%減少する温度とする。例えば、本実施形態において、吸水性樹脂の熱分解温度は、450~500℃であり得る。架橋された構造を有し軟化点を持たない吸水性樹脂では、熱分解温度において大きな物性の変化が生じ得る。
【0033】
本ステップの加熱温度は、略一定に維持されていてもよく、熱可塑性樹脂の軟化点以上、吸水性樹脂の熱分解温度未満の範囲内で変化してもよい。具体的に、本ステップの最高温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上であり、好ましくは450℃以下、より好ましくは300℃以下である。また、本ステップにおける上記最高温度の維持時間は、好ましくは60分以上、より好ましくは120分以上であり、好ましくは480分以下、より好ましくは300分以下である。
【0034】
なお、本ステップでは、被処理物の炭化が進行する温度条件で行うことで、被処理物の一部を炭化させてもよい。特に、被処理物がセルロースなどの易炭化性の成分を含む場合には、本ステップにおいて炭化物が生成されやすくなる。被処理物の一部を炭化させることにより、脆性の高い炭化物が生成され、次の粒状化ステップS3において細かい粒状体が形成されやすくなる。
【0035】
(粒状化ステップS3)
加熱ステップS2の後には、粒状化ステップS3が行われる。粒状化ステップS3では、被処理物を攪拌し、かつ熱可塑性樹脂の軟化点未満まで冷却することで、粒状体を得る。本ステップにより、被処理物の均質化、高密度化、及び軽量化が促進されるとともに、相互に分離した状態の粒状体を得ることができる。これにより、乾燥に伴って析出された栄養塩の結晶が吸水性樹脂等と分離した状態を維持しやすくなり、次のステップにおいて栄養塩の回収が容易になる。本実施形態の粒状化ステップS3では、例えば、ヒータ103による被処理物の加熱を停止する一方で、攪拌シャフト102によって被処理物の攪拌を行う。さらに、本実施形態の粒状化ステップS3では、送風機構104によって送風することが好ましい。これにより、収容部101bにおいて加熱された被処理物の温度を速やかに下降させることができる。但し、本ステップにおける送風機構104の使用は必須ではない。
【0036】
熱によって軟化した熱可塑性樹脂が冷却する過程では、降温に伴う硬化とシキソトロピー性による粘性の増大とが同時に進行する。本実施形態の粒状化ステップS3では、冷却に伴って攪拌が行われることで、シキソトロピー性によって熱可塑性樹脂の粘度を低い状態に維持しつつ、熱可塑性樹脂の硬化を進行させる。これにより、熱可塑性樹脂が塊状の大きな粒状体を形成することなく、細かく破砕されて粒度の小さい粒状体を形成しやすくなる。また、乾燥ステップS1で析出された栄養塩の結晶も、粒度の小さい粒状体を構成し得る。さらに、加熱ステップS2において脆性の高い炭化物が生成された場合、本ステップの攪拌によって炭化物も細かく破砕され、粒度の小さい粒状体を形成し得る。
【0037】
一方で、熱分解されていない吸水性樹脂は、熱可塑性樹脂や炭化物よりも破砕されにくい。本ステップにおいて冷却されながら攪拌されることで、吸水性樹脂が他の粒状体と結合した塊状になることが抑制される。したがって、本ステップにより、吸水性樹脂が、他の粒状体よりもサイズの大きい粒状体を構成し得る。
【0038】
このように、本ステップでは、粒度の異なる粒状体が形成される。大きい粒度の粒状体は、吸水性樹脂を多く含む。小さな粒度の粒状体は、栄養塩の結晶で構成された粒状体に加えて、熱可塑性樹脂、炭化物等の粒状体で構成される。つまり、本実施形態では、被処理物から相互に分離しやすい形態の粒状体が形成されるため、被処理物から栄養塩を回収することが容易になる。
【0039】
(回収ステップS4)
続いて、回収ステップS4では、粒状体から栄養塩を回収する。本実施形態における栄養塩の回収は、栄養塩で構成された粒状体のみを回収する態様に限定されず、均質に混合された分離前の粒状体よりも、回収された粒状体における栄養塩の含有率が高くなるように粒状体の一部を回収する態様を含む。なお、栄養塩の含有率は、窒素、リン、カリウム及びカルシウムを含む塩の合計の含有率とする。
【0040】
本実施形態では、例えば、粒状体の粒度に基づいて栄養塩を分離することで、栄養塩を回収することが好ましい。この場合、相対的に粒度の小さい粒状体を回収することで、栄養塩の含有率の高い粒状体を回収することができる。本実施形態では、例えば、粒状化装置100の収容部101bから粒状体を取り出し、ふるい、分級機等の器具や装置を用いて粒状体を粒度によって分離する。回収方法としては乾式でも湿式でもよいが、乾燥状態の粒状体を取り扱うため、乾式であることが好ましい。本ステップでは、比較的単純な装置構成で自動的に吸水性樹脂を分離する観点から、振動ふるい機を用いることが好ましい。また、本ステップでは、粒状体を少なくとも2つの粒度に分離すればよいが、3以上の粒度に分離してもよい。なお、栄養塩の回収方法はこれに限定されない。他の回収方法については後述する。
【0041】
粒状体の粒度に基づいて栄養塩を分離する場合、例えば、第1粒度を有する第1粒状体と、第1粒度よりも粒度の大きい第2粒度を有する第2粒状体と、を分離し、第1粒状体を回収することができる。第2粒状体は、吸水性樹脂を含む吸水性樹脂含有粒状体として構成される。第1粒状体は、吸水性樹脂の含有量が第2粒状体よりも低く、吸水性樹脂以外の成分を主に含む吸水性樹脂低含有粒状体として構成される。第2粒状体における吸水性樹脂の含有率は、好ましくは31質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。第1粒状体は、例えば、栄養塩、熱可塑性樹脂、炭化物等から選択された1又は複数の成分を含む。第1粒状体における吸水性樹脂の含有率は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。第1粒状体を回収することで、栄養塩を含み、かつ、吸水性樹脂の含有率の低い粒状体を回収することができる。これにより、吸水性及び吸湿性の低い栄養塩の含有物を得ることができ、肥料等として再利用しやすくなる。また、後述するように、水性の溶媒を用いて第1粒状体から栄養塩を精製することも容易になる。
【0042】
さらに、本実施形態では、例えば、粒状化ステップS3を行った後の粒状体の粒度分布が、第1ピーク及び第2ピークを有していることが好ましい。粒度分布におけるピークとは、粒径を横軸、頻度(%)を縦軸として粒度分布のグラフを作成した場合に、上に凸な山状となる部分のピークを意味する。複数の粒度分布のうち、ピークの高い順に2つ粒度を選択し粒度の小さい方を第1粒度とし、もう一方を第2粒度とする。また、「第1粒度が第1ピークに対応する」とは、第1粒度が第1ピークに対応する粒径を含むように設定されていることを意味する。「第2粒度が第2ピークに対応する」とは、第2粒度が第2ピークに対応する粒径を含むように設定されていることを意味する。粒度分布がこのように2つ以上の山を持つ形状となることで、第1粒状体を、吸水性樹脂を多く含む第2粒状体からより確実に分離することができる。
【0043】
また、第1粒度の粒径の上限値は、粒度分布のグラフに基づいて設定されてもよい。具体的に、第1粒度の粒径の上限値は、第1ピークに対応する粒径と、第2ピークに対応する粒径との間に設定されることが好ましく、さらに、第1ピーク及び第2ピーク間に位置する、粒度分布のグラフの下に凸な部分に対応する粒径に設定されることがより好ましい。なお、粒状体の粒度分布は、公知の粒度分布測定方法によって確認することができる。
【0044】
具体的に、第1粒度の粒径の上限値は、好ましくは106μm以上、より好ましくは150μm以上であり、好ましくは600μm以下、より好ましくは300μm以下である。例えば、本ステップでふるいを用いる場合、ふるいの目開きは、好ましくは106μm以上、より好ましくは150μm以上であり、好ましくは600μm以下、より好ましくは300μm以下である。ふるいを用いる場合は、粒状化ステップS3で得られた粒状体を上記目開きのふるいに通過させ、ふるい上に残った粒状体を第2粒状体、ふるいを通過した粒状体を第1粒状体とすることができる。
【0045】
さらに、本ステップでは、より栄養塩の純度を高めるため、回収された栄養塩を含む粒状体から栄養塩を精製してもよい。この場合、例えば、粒状体を水などの水性の溶媒に添加して、栄養塩を抽出してもよい。第1粒状体は、上述のように吸水性樹脂の含有率が低いため、水性の溶媒の添加によっても膨潤しにくい。このため、第1粒状体を用いることで、栄養塩の精製が容易になる。
【0046】
[肥料の製造方法]
本実施形態では、以上のような栄養塩の回収方法を用いて、肥料を製造することができる。本実施形態に係る肥料の製造方法も、栄養塩の回収方法と同様に、上述の乾燥ステップS1、加熱ステップS2、粒状化ステップS3、及び栄養塩の回収ステップS4を含む(
図3参照)。肥料は、回収ステップS4で回収された粒状体で構成されてもよい。また、回収ステップS4において栄養塩が精製された場合には、精製された栄養塩で肥料が構成されてもよい。
【0047】
あるいは、肥料の製造方法は、上記ステップS1~S4に加えて、回収された栄養塩に添加物を添加するステップを含んでいてもよい。添加物は、マグネシウム、硫黄、鉄、マンガン、ホウ素、亜鉛、モリブデン、銅、塩素、その他の肥料に添加可能な添加物から選択された1又は複数の材料を含む。これにより、所望の成分を含む肥料を製造することができる。
【0048】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態によれば、吸収性物品を含む被処理物に対し、上述の乾燥ステップS1、加熱ステップS2及び粒状化ステップS3を行うことで、被処理物を軽量で、かつ細かく分離した状態の粒状体として扱うことができる。また、加熱ステップS2における温度を熱可塑性樹脂の軟化点以上、吸水性樹脂の熱分解温度未満に設定することで、粒状化ステップS3において吸水性樹脂が細かく破砕されにくい物性となり、粒度の大きな第2粒状体を形成することができる。これにより、栄養塩の結晶で構成された粒度の小さな第1粒状体を、吸水性樹脂を多く含む第2粒状体から分離することができる。したがって、栄養塩と吸水性樹脂を効率よく分離することができ、再び吸水性樹脂に取り込まれにくい状態で栄養塩を回収することができる。
【0049】
回収された栄養塩を含む粒状体は、上述のように吸水性樹脂の含有率が低いため、水による膨潤や吸湿を抑制することができる。このため、この粒状体自体を肥料として再利用することもできる。あるいは、粒状体から溶媒を用いて栄養塩を精製することも容易になる。したがって、本実施形態によれば、使用済み吸収性物品に含まれる栄養塩を有効活用することができ、資源の循環を促進することができる。また、本実施形態では、乾式のプロセスによって栄養塩を回収可能な粒状体を形成することができる。これにより本実施形態では、湿式のプロセスと比較して、被処理物の収容に必要な容積を低減することができるため、装置の大型化を抑制できる。また、乾式のプロセスにより、排液等による水質汚染を防止することができる。
【0050】
[本実施形態の追加説明]
乾燥ステップS1において、粒状化装置100に被処理物を収容する場合は、収容部101b内に収容する被処理物の量がある程度多いことが好ましい。具体的に、乾燥ステップS1開始時に収容部101b内に収容する被処理物の量は、粒状化ステップS3の終了時の収容部101b内における被処理物の粒状体の嵩が軸部102aを超えるように設定することが好ましい。収容部101b内における粒状体の嵩は、例えば、
図1,2に示すように、収容部101b内において粒状体を水平面に沿って平滑に均した表面の鉛直方向の高さLとして得られる。このように、破砕の進行によって被処理物の嵩が最も低くなった粒状化ステップS3の終了時の状態を基準として乾燥ステップS1開始時に収容部101b内に収容する被処理物の量を規定することで、乾燥ステップS1、加熱ステップS2及び粒状化ステップS3の全過程において軸部102aが攪拌中の被処理物中に埋まった状態に維持される。これにより、粒状化ステップS3において被処理物を効率的に攪拌することができる。なお、被処理物を効率的に攪拌する観点から、粒状化ステップS3の終了時の収容部101b内において、被処理物の粒状体の嵩が軸部102aの全体を超え、つまり軸部102aが被処理物の粒状体に完全に埋まっていることが好ましい。しかしながら、上記のように軸部102aが水平面に対して傾いている場合などには、粒状化ステップS3の終了時の収容部101b内において、被処理物の粒状体の嵩が軸部102aの少なくとも一部を超えていれば、被処理物を効率的に攪拌可能な効果が得られる。
【0051】
本実施形態に係る被処理物は、使用済み吸収性物品を含む廃棄物に限定されず、嵩増しのための副材を含んでいてもよい。これにより、収容部101b内の被処理物の量を十分に確保することができる。副材は、任意に選択可能である。例えば、セラミックスなどの耐熱性の高い硬質の材料で形成され、乾燥、加熱及び粒状化の過程で変化が生じない物体(例えば、アルミナボール、ジルコニアボール、窒化珪素ボール、炭化珪素ボール等のセラミックボールなど)を副材として用いることができる。このような副材は、粒状化ステップS3の後に収容部101b内に残したままとすることで繰り返し嵩増しのための副材として利用することができる。これ以外にも、吸収性物品以外の任意の物体(例えば、食品残渣や農業廃棄物などの廃棄物等)を副材として用いることができる。また、加熱ステップS2において被処理物を炭化させる場合には、例えば、炭化しやすいセルロースを主成分とする物体(例えば、木質ペレット、紙屑、選定枝等)や、既に炭化された炭化物(例えば、炭化燃料ペレット、活性炭等)を副材として用いることで、被処理物の炭化を促進させることができる。
【0052】
また、先行して行われた粒状化処理の粒状化ステップS3で得られた被処理物の粒状体を、その後に行われる粒状化処理の副材として用いることもできる。特に、複数回の粒状化処理を連続して行う場合には、前回の粒状化処理の粒状化ステップS3の後に被処理物の粒状体の少なくとも一部を収容部101b内に残したまま乾燥ステップS1で新たな被処理物を投入することで、前回の粒状化処理で得られた被処理物の粒状体を副材として用いることができる。これにより、乾燥ステップS1において新たに投入する被処理物の量にばらつきがある場合にも、新たに投入する廃棄物の量を逆算した分だけ収容部101bから被処理物の粒状体を回収しておくことで、収容部101b内の被処理物の量が一定に保たれる。これにより、安定した粒状化処理を繰り返し行うことが可能となる。
【0053】
また、加熱ステップS2において被処理物の一部を炭化させ、回収ステップS4で粒度に基づいて第1粒状体を回収した場合、この第1粒状体には栄養塩の他、炭化物が含まれる。このため、栄養塩を上述のように精製し、栄養塩を取り除いた後の第1粒状体は、炭化物として利用することができる。この炭化物は、燃料の他、例えば、水の浄化処理剤、断熱材等の建材、吸着剤、解毒剤、消臭剤、使い捨てカイロの原料、活性炭等などとして有効利用することができる。第2粒状体由来の炭化物は、高い均質性を有することに加えて、吸水性樹脂の含有率が低いため、水による膨潤や吸湿を抑制できる。したがって、当該第1粒状体は、利用しやすいリサイクル材となり得る。
【0054】
更に、加熱ステップS2において被処理物の一部を炭化させる場合には、難炭化性の熱可塑性樹脂を構成する炭素を少しでも多く炭化物の一部として固定することが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂を構成する炭素に由来する二酸化炭素の排出量を削減することができる。この観点から、被処理物として収容部101b内にリン酸及びリン酸塩の少なくとも一方を触媒として添加することが好ましい。リン酸及びリン酸塩は、熱可塑性樹脂から炭素以外の水素や水などが脱離する反応を促進させる作用を有する。このため、リン酸やリン酸塩を触媒として用いることで、加熱ステップS2の過程において廃棄物に含まれる熱可塑性樹脂からの水素や水などの脱離が進行し、熱可塑性樹脂が単体の炭素として炭化物の表面に一体として固定されやすくなる。被処理物に触媒として添加するリン酸塩は、例えば、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、及びリン酸ナトリウムの少なくとも一種で構成することができる。リン酸アンモニウムとしては、リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、及びリン酸3アンモニウムが挙げられる。リン酸カリウムとしては、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム及びリン酸3カリウムが挙げられる。リン酸ナトリウムとしては、リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム及びリン酸3ナトリウムが挙げられる。なお、リン酸及びリン酸塩は、加熱により縮合しポリリン酸及びポリリン酸塩に変化するが、ポリリン酸及びポリリン酸塩は加熱ステップS2で軟化するため、熱可塑性樹脂と同様に降温の過程において砕片同士を結合させる性質を持つ。しかし、本実施形態に係る粒状化ステップS3において攪拌することで、被処理物が相互に分離した砕片で構成される粒状体として維持される。
【0055】
また、被処理物が軟化点の異なる2種類以上の熱可塑性樹脂を含む場合は、上述のように、加熱ステップS2の加熱温度は、任意の熱可塑性樹脂の軟化点を基準として設定され得る。このため、被処理物中に、加熱ステップS2の最高温度よりも高い軟化点を有する熱可塑性樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート等)が存在し得る。このような加熱ステップS2で軟化点に到達しない熱可塑性樹脂は、粒状化ステップS3後に、粒状体とならず繊維状又は紐状の物体を構成し得る。この繊維状又は紐状の熱可塑性樹脂は、粒状体との形状の差異に基づいて取り除くことができ、粒状体から容易に分離することができる。つまり、本実施形態においては、被処理物が軟化点の高い熱可塑性樹脂を含む場合であっても、回収ステップS4において栄養塩の回収が可能となる。
【0056】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0057】
上述の実施形態では、回収ステップS4において、粒度に基づいて栄養塩を回収すると説明したが、この態様に限定されない。例えば、回収ステップS4では、粒状体の比重差に基づいて栄養塩を回収することもできる。つまり、この例では、栄養塩の結晶からなる粒状体の比重が他の粒状体の比重よりも軽いことを利用して、栄養塩を回収することができる。比重差に基づく分離は、湿式でも乾式でもよい。あるいは、回収ステップS4の他の態様として、粒状化ステップS3で得られた粒状体を液状の溶媒によって抽出することで、栄養塩を回収することもできる。
【実施例0058】
[実施例及び比較例]
本実施形態に係る栄養塩の回収方法の実施例及び比較例について説明する。各実施例及び比較例では、実際の使用済み吸収性物品又はそれを想定した被処理物のサンプルを用意した。具体的に、各実施例1,2及び比較例1~4に係る被処理物サンプルは、15kgの未使用の紙おむつ(メリーズパンツLサイズ、花王株式会社製)に、7.5kgの水道水を吸水させたものとした。また、当該サンプルには、尿に含まれる栄養成分を再現するため、0.6kgのリン酸2水素アンモニウムを添加した。また、各実施例3,4及び比較例5に係る被処理物サンプルは、保育園から回収した実際の使用済み紙おむつ15kgとした。
【0059】
実施例1~4の被処理物サンプルに対しては、上述の乾燥ステップS1、加熱ステップS2、粒状化ステップS3及び回収ステップS4の全てを含む工程を実施した。
一方で、比較例1~5の被処理物サンプルに対しては、表1に示すように、上述の乾燥ステップS1、加熱ステップS2、粒状化ステップS3又は回収ステップS4の少なくともいずれか1つを実施しなかった。具体的に、比較例1では、全てのステップを行わなかった。比較例2では、乾燥ステップS1のうちの攪拌のみを行い、他の処理を行わなかった。比較例3では、乾燥ステップS1は行ったが、他のステップを行わなかった。比較例4及び5では、乾燥ステップS1、加熱ステップS2及び粒状化ステップS3を行ったが、回収ステップS4を行わなかった。
【0060】
実施例1~4及び比較例4,5では、乾燥ステップS1及び加熱ステップS2を連続して行った。これらのステップでは、20℃から200℃まで0.5℃/分で昇温させ、200℃で180分間維持した。これらのステップの間、被処理物の攪拌を連続して行った。実施例1~4及び及び比較例4,5の粒状化ステップS3では、送風しながら、200℃から30℃まで0.2℃/分で降温し、攪拌しながら冷却した。
【0061】
【0062】
[回収処理]
実施例1~4の粒状化ステップS3後の粒状体サンプルに対して、ふるいを用いて回収処理(回収ステップS4)を行った。実施例1及び3では、300μmの目開きのふるいを用い、ふるいを通過した粒状体を回収した。実施例2及び4では、150μmの目開きのふるいを用い、ふるいを通過した粒状体を回収した。
【0063】
一方、比較例1のサンプルは、おむつそのものの形態を維持しており、栄養塩を回収することはできなかった。また、比較例2のサンプルは、紙おむつが破砕されて吸水性樹脂が露出してはいたものの、栄養塩を回収することはできなかった。比較例3のサンプルでは、紙おむつが破砕されて乾燥した状態であり、析出された栄養塩の結晶が見受けられたが、この析出物が紙おむつの破砕物に付着しており、栄養塩を回収することができなかった。比較例4及び5では、ふるいによる分離を行わず、全ての粒状体を回収した。
【0064】
[元素比率の測定]
回収された実施例1~4及び比較例4,5の粒状体サンプルの窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)及びカルシウム(Ca)の元素比率を測定した。これらの元素は、栄養塩を構成する。その結果を、表1に示す。なお、未使用おむつとリン酸2水素アンモニウムを用いた実施例1,2及び比較例1~4にはKは含まれないため、これらのサンプルのKは測定できなかった。元素比率は、以下のように測定された。窒素(N)は、日本産業規格「-石炭類及びコークス類-機器分析装置による元素分析方法(JIS M 8819)」に基づき、元素分析計を用いて測定を行った。リン(P)、カリウム(K)及びカルシウム(Ca)は、「廃棄物固形化燃料-第5部:金属含有量試験方法(JIS Z 7302-5:2002)」に基づき、IPC発光分析を用いて測定を行った。
【0065】
同一の被処理物サンプルを用いた実施例1,2と比較例4の結果を比較する。表1に示すように、実施例1,2の各元素の元素比率は、比較例4の各元素の元素比率よりも大きくなった。この結果から、上記回収処理により、回収前の粒状体よりも栄養塩の含有率の高い粒状体を回収できることがわかった。また、実施例1よりも目開きの小さいふるいを用いた実施例2の方が、元素比率が大きい元素があった(例えばN、Ca)。これにより、目開きが300μm未満、例えば150μm以下のふるいを用いることで、栄養塩の含有率のより高い粒状体を回収できることがわかった。保育園から回収された使用済みおむつを用いた実施例3,4と比較例5についても、同様の結果が得られた。これらの結果から、乾燥ステップS1、加熱ステップS2、及び粒状化ステップS3を行った後、ふるいを用いて回収ステップS4を行うことで、粒状化ステップS3後の粒状体よりも、栄養塩の含有率の高い粒状体を回収できることがわかった。