(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182074
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】共重合ポリエステル組成物、ならびに、これによって構成されるスパンボンド不織布、衛生材料
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20231219BHJP
C08G 63/16 20060101ALI20231219BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20231219BHJP
D04H 3/011 20120101ALI20231219BHJP
【FI】
C08L67/02
C08G63/16
D04H3/16
D04H3/011
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095468
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡 一平
(72)【発明者】
【氏名】町田 華菜子
(72)【発明者】
【氏名】牧野 正孝
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
4L047
【Fターム(参考)】
4J002CF101
4J002EJ066
4J002FD206
4J002GK02
4J029AA03
4J029AB07
4J029AC02
4J029AD06
4J029AD07
4J029AE02
4J029BA03
4J029BF25
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029HA01
4J029HB01
4J029JE182
4L047AA21
4L047AA29
4L047AB03
4L047BA08
4L047CC03
(57)【要約】
【課題】 スパンボンド不織布へ加工した際に優れた柔軟性と触感を示す共重合ポリエステル組成物を提供する。
【解決手段】 ポリアルキレングリコールを共重合した共重合ポリエステル組成物であって、ガラス転移点が40℃~80℃であり、溶融滞留保持(前記共重合ポリエステル組成物の融点+30℃、15分間)した際の溶融粘度保持率が70%以上であり、かつ、TEM観察によって共重合ポリエステル組成物の断面に確認できる海島型の相分離構造における、島相の長さ平均分散径が400nm~1000nmである、共重合ポリエステル組成物により解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレングリコールを共重合した共重合ポリエステル組成物であって、ガラス転移点が40℃~80℃であり、前記共重合ポリエステル組成物の融点+30℃の温度に加温してから15分間溶融滞留保持した際の溶融粘度保持率が70%以上であり、かつ、TEM観察によって共重合ポリエステル組成物の断面に確認できる海島型の相分離構造における、島相の長さ平均分散径が400nm~1000nmである、共重合ポリエステル組成物。
【請求項2】
前記ポリアルキレングリコールが、重量平均分子量8300~25000のポリエチレングリコールである、請求項1に記載の共重合ポリエステル組成物。
【請求項3】
前記共重合ポリエステル組成物に対する前記ポリアルキレングリコールの含有量が2質量%~14質量%である、請求項1または2に記載の共重合ポリエステル組成物。
【請求項4】
前記共重合ポリエステル組成物がヒンダードフェノール系化合物を含有する、請求項1または2に記載の共重合ポリエステル組成物。
【請求項5】
前記共重合ポリエステル組成物に対する前記ヒンダードフェノール系化合物の含有量が0.05質量%~0.55質量%である、請求項4に記載の共重合ポリエステル組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の共重合ポリエステル組成物によって構成される、スパンボンド不織布。
【請求項7】
請求項1または2に記載の共重合ポリエステル組成物によって構成される、衛生材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパンボンド不織布へ加工した際に優れた柔軟性と触感を示す共重合ポリエステル組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スパンボンド不織布は、生産性や加工性に優れることから、衛生材料、医療材料、建築資材、寝装寝具、生活資材、産業資材など、多岐に渡る分野に展開されている。スパンボンド不織布の原料としては、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステルなどが一般的に用いられており、目的用途に応じて原料が選定されている。
【0003】
これら用途のうち、紙おむつや生理用ナプキン、ウェットシートなどの優れた柔軟性と触感が要求される用途に関してはポリプロピレン樹脂が原料として用いられることが多いが、ポリプロピレン樹脂は疎水性であるため、上記用途に用いるためにはスパンボンド不織布へと加工した後に親水剤を不織布に塗布する必要がありコスト面に課題があった。
【0004】
そこで上記課題を解決すべく、ポリエチレングリコールを共重合したポリエチレンテレフタレート組成物からなる繊維で構成されるスパンボンド不織布が提案されている(特許文献1、2参照)。前記不織布は、組成物そのものが親水性であることから親水剤の塗布が不要であり、かつ、従来のポリエチレンテレフタレート単成分不織布と比較して柔軟で触感に優れたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2019/146660号
【特許文献2】特開2020-16000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2で示されたスパンボンド不織布は、従来のポリエチレンテレフタレート単成分不織布と比較して柔軟で触感に優れたものではあるが、その性能については、なお改善の余地がある。そこで、さらに柔軟性や親水性に優れたスパンボンド不織布とすべく、ポリエチレングリコール共重合量の最適化が検討されたが、共重合量を低下させると当然柔軟性は悪化し、共重合量を増加させると組成物の製造時や不織布製布時に生じる分解ポリエチレングリコールの量が増え、ブリードアウトした分解ポリエチレングリコールによって不織布にべたつき感が生じてしまい触感が悪化するという課題が生じる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ポリエチレンテレフタレートに対するポリエチレングリコールの共重合量を従来品から極端に増量させることなく、スパンボンド不織布へ加工した際に柔軟性や触感を飛躍的に向上させることができる共重合ポリエステル組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、共重合ポリエステル組成物に共重合させるポリアルキレングリコールの共重合量だけを制御するのではなく、さらに、ガラス転移点、溶融粘度保持率、および、組成物中に発現させた相分離構造を特定の範囲に制御することによって、スパンボンド不織布へ加工した際に優れた溶融加工性や柔軟性、触感を飛躍的に向上できるという知見を得た。
【0009】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0010】
[1] ポリアルキレングリコールを共重合した共重合ポリエステル組成物であって、ガラス転移点が40℃~80℃であり、前記共重合ポリエステル組成物の融点+30℃の温度に加温してから15分間溶融滞留保持した際の溶融粘度保持率が70%以上であり、かつ、TEM観察によって共重合ポリエステル組成物の断面に確認できる海島型の相分離構造における、島相の長さ平均分散径が400nm~1000nmである、共重合ポリエステル組成物。
【0011】
[2] 前記ポリアルキレングリコールが、重量平均分子量8300~25000のポリエチレングリコールである、前記[1]に記載の共重合ポリエステル組成物。
【0012】
[3] 前記共重合ポリエステル組成物に対する前記ポリアルキレングリコールの含有量が2質量%~14質量%である、前記[1]または[2]に記載の共重合ポリエステル組成物。
【0013】
[4] 前記共重合ポリエステル組成物がヒンダードフェノール系化合物を含有する、前記[1]~[3]のいずれかに記載の共重合ポリエステル組成物。
【0014】
[5] 前記共重合ポリエステル組成物に対する前記ヒンダードフェノール系化合物の含有量が0.05質量%~0.55質量%である、前記[4]に記載の共重合ポリエステル組成物。
【0015】
[6] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の共重合ポリエステル組成物によって構成される、スパンボンド不織布。
【0016】
[7] 前記[1]~[5]のいずれかに記載の共重合ポリエステル組成物によって構成される、衛生材料。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、共重合ポリエステル組成物のガラス転移点、溶融時粘度保持率、および、共重合ポリエステル組成物中に発現させた相分離構造を特定の範囲に制御することによって、スパンボンド不織布へ加工した際に優れた溶融加工性や柔軟性、触感が発現する共重合ポリエステル組成物を得ることができる。このような共重合ポリエステル組成物は、紙おむつや生理用ナプキン、ウェットシート等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の共重合ポリエステル組成物は、ポリアルキレングリコールを共重合した共重合ポリエステル組成物であって、ガラス転移点が40℃~80℃であり、前記共重合ポリエステル組成物の融点+30℃の温度に加温してから15分間溶融滞留保持した際の溶融粘度保持率が70%以上であり、かつ、TEM観察によって共重合ポリエステル組成物の断面に確認できる海島型の相分離構造における、島相の長さ平均分散径が400nm~1000nmである。以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0019】
[共重合ポリエステル組成物]
本発明の共重合ポリエステル組成物に用いることのできるジカルボン酸としては、テレフタル酸やイソフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸化合物、アジピン酸やセバシン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸化合物、シクロヘキサンジカルボン酸に代表される脂環式ジカルボン酸化合物が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、重縮合反応性に優れ、ガラス転移点を40℃~80℃の範囲に制御しやすい点から芳香族ジカルボン酸を用いることが好ましく、テレフタル酸やイソフタル酸を用いることがより好ましい。エステル形成性誘導体としては、上記ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステルなどのアルキルエステル、それらの酸塩化物や酸臭化物などの酸ハロゲン化物、さらには酸無水物などが挙げられる。例えば、重縮合反応性に優れる点から、メチルエステルやエチルエステルなどのアルキルエステルが好ましく、メチルエステルが特に好ましい。ジカルボン酸成分としては、これらのうち1種類の化合物種を使用しても良く、2種類以上を組み合わせても良い。
【0020】
本発明の共重合ポリエステル組成物において、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体と重縮合反応させるポリアルキレングリコール以外のジオール成分としては、ガラス転移点を40℃~80℃の範囲に制御できる点からエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0021】
なお、本発明の共重合ポリエステル組成物において、その組成分析は、後述する特定の化合物については必要な前処理をした上で、核磁気共鳴装置(NMR、例えば、日本電子株式会社製「AL-400」など)、重溶媒として1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール-D2(重水素化HFIP)を用い、重溶媒1mLに対し測定サンプル50mgのサンプル濃度で積算回数128回として行うこととする。
【0022】
本発明の共重合ポリエステル組成物は、ガラス転移点が40℃~80℃の範囲である。組成物のガラス転移点を40℃以上、好ましくは65℃以上とすることで、前記の共重合ポリエステル組成物をスパンボンド不織布とした際、その触感が滑り性に優れたなめらかなものとなる。一方、組成物のガラス転移点が80℃以下であると、スパンボンド不織布へ加工する際、エジェクター通過時の延伸性に優れ、強度の高いスパンボンド不織布が得られる。
【0023】
なお、本発明において、共重合ポリエステル組成物のガラス転移点とは、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1) 共重合ポリエステル組成物について、直径3.0±1.5mm、高さ4.0±1.0mmの円柱状のペレットを作製する。
(2) (1)のペレットを、150℃、真空下で12時間乾燥させる。
(3) 示差走査熱量計(DSC、例えば、TA Instruments社製「Q-2000」など)を用い、以下の条件でガラス転移点を測定する。
・昇温速度: 16℃/分
・測定温度: -20℃から300℃まで
(4) (3)で得られたガラス転移点(℃)について、小数点以下第1位で四捨五入する。
【0024】
また、本発明の共重合ポリエステル組成物について、ガラス転移点を40℃~80℃の範囲とするための手段としては、前記のとおり、ポリアルキレングリコール以外のジオール成分としてエチレングリコールを用いること、さらに、ポリアルキレングリコールの重量平均分子量を後述する範囲に調整することなどが挙げられる。
【0025】
本発明の共重合ポリエステル組成物は、前記共重合ポリエステル組成物の融点+30℃の温度に加温してから15分間溶融滞留保持した際の溶融粘度保持率が70%以上であり、かつ、TEM観察によって共重合ポリエステル組成物の断面に確認できる海島型の相分離構造における、島相の長さ平均分散径が400nm~1000nmである。この2つの要件を同時に満たすことによって、初めて、ペレットへの加工性、紡糸性、スパンボンド不織布を製造する際の幅方向への収縮を抑制されるなどといったスパンボンド不織布への加工性に優れ、かつ、不織布表面のべたつきが抑制された、触感に優れたスパンボンド不織布を容易に製造でき、共重合ポリエステル組成物とすることができる。
【0026】
まず、本発明の共重合ポリエステル組成物は、前記共重合ポリエステル組成物の融点+30℃の温度に加温してから15分間溶融滞留保持した際の溶融粘度保持率が70%以上である。以降、単に「溶融粘度保持率」と略記することがある。
【0027】
一般に、ポリエステル組成物の溶融加工には、最低でもそのポリエステル組成物の融点+30℃の温度に加温するが、本発明では、その際の溶融粘度保持率が70%以上であることで、共重合ポリエステル組成物中のポリアルキレングリコール成分の分解を抑制し、スパンボンド不織布へ加工した際に分解したポリアルキレングリコールがブリードアウトして、不織布表面にべたつきが発生し触感が悪化するのを抑制することができる。この観点から、溶融粘度保持率は72%以上がより好ましく、76%以上がさらに好ましく、78%以上が最も好ましい。また、ポリアルキレングリコールを、ポリエステル樹脂に共重合させた場合、溶融粘度保持率は好ましくは100%以下、より好ましくは95%以下であれば組成物中の架橋を抑制でき、紡糸性に優れたものとなる。
【0028】
なお、本発明において、共重合ポリエステル組成物の溶融粘度保持率とは、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1) 共重合ポリエステル組成物について、直径3.0±1.5mm、高さ4.0±1.0mmの円柱状のペレットを作製する。
(2) (1)のペレットを、150℃、真空下で12時間乾燥させる。
(3) 示差走査熱量計(DSC、例えば、TA Instruments社製「Q-2000」など)を用い、以下の条件で融点を測定する。
昇温速度: 16℃/分
測定温度: -20℃から300℃まで
(4) (3)で得られた融点(℃)について、小数点以下第1位で四捨五入する。
(5) キャピログラフ(例えば、株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ「1B」など)のバレル温度およびキャピラリー温度を当該共重合ポリエステル組成物の融点+30℃となるように設定し、ペレットを投入する。
(6) ペレット投入後、当該ペレットが溶融するまで5分間待機し、その時点での溶融粘度を以下の条件で測定する。
・キャピラリー内径:1.0mm
・キャピラリー長:40.0mm
・剪断速度:243/秒
なお、上記の5分間待機をしても溶融しない共重合ポリエステル組成物は、溶融粘度保持率が70%未満であるものとする。
(7) 当該ペレットを投入した直後から20分後の溶融粘度を(6)と同じ条件で測定する。
(8) (6)で得られた溶融粘度をA(Pa・s)とし、(7)で得られた溶融粘度をB(Pa・s)として、以下の式で得られる値R(%)について、小数点以下第1位で四捨五入する
R=B/A×100 。
【0029】
また、本発明の共重合ポリエステル組成物について、溶融粘度保持率を70%以上の範囲とするための手段としては、含有するポリアルキレングリコールの重量平均分子量、含有量を後述する範囲に調整すること、さらに、含有するヒンダードフェノール系化合物を後述する範囲に調整することなどが挙げられる。
【0030】
次に、本発明の共重合ポリエステル組成物は、TEM観察によって共重合ポリエステル組成物の断面に確認できる海島型の相分離構造における、島相の長さ平均分散径(以降、単に「島層の長さ平均分散径」と略記することがある)が400nm~1000nmである。ここで、本発明において「TEM観察」とは、後述する方法によって透過型電子顕微鏡観察を行うことをいう。
【0031】
ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルが柔軟化するためにはポリアルキレングリコールを島相とした海島型の相分離構造の形成が必須であり、島相が外力を吸収することで柔軟性が与えられ、触感が良好となる。島相の長さ平均分散径の範囲について、その下限が400nm以上、好ましくは435nm以上、さらに好ましくは565nm以上であることで、島相が外力を十分に吸収することができ、柔軟性、触感の発現を優れたものとすることができる。一方、島相の長さ平均分散径の範囲について、その上限が1000nm以下、好ましくは784nm以下であることで、溶融加工時において共重合ポリエステル組成物の塑性変形を安定なものとし、共重合ポリエステル組成物を製造する際のペレットへの加工性が安定なものとなって、ミスカットを抑制することができる。さらに、スパンボンド不織布を製布する際には、熱接着工程において、製布幅方向への収縮を抑制し、目付をより均一なものとすることができる。
【0032】
なお、本発明において、共重合ポリエステル組成物の島相の長さ平均分散径とは、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1) 共重合ポリエステル組成物について、凍結超薄切片作製装置(例えば、LEICA社製 「LEICA ULTRACUT UCT」など)を用いて超薄切片を作成する。
(2) 透過型電子顕微鏡(TEM、例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「HT-7700」など)を用い、無染色で(1)の超薄切片を以下の条件で観察する。
・加速電圧:100kV
・倍率:1000倍
(3) 得られたTEM画像について、画像解析ソフト(例えば、MEDIA CYBERNETICS社製「Image-Pro Plus」など)を用い、島相の粒径解析を行う。
(4) 得られた粒径データを用い、以下の式にて得られた値dL(nm)を小数点以下第1位で四捨五入する
dL=Σ((Di)2×Ni)/Σ(Di×Ni)
ここで、Di:島相の直径(nm)、Ni:画像内における直径Diの島相の個数(個)である。
【0033】
また、本発明の共重合ポリエステル組成物は、TEM観察によって共重合ポリエステル組成物の断面に確認できる海島型の相分離構造における、島相の個数平均分散径(以降、単に「島層の個数平均分散径」と略記することがある)が240nm~450nmであることが好ましい。
【0034】
島相の個数平均分散径の範囲について、その下限が240nm以上、好ましくは355nm以上であることで、島相が外力を十分に吸収することができ、柔軟性、触感の発現を優れたものとすることができる。一方、島相の個数平均分散径の範囲について、その上限が450nm以下、好ましくは414nm以下であることで、溶融加工時において共重合ポリエステル組成物の塑性変形を安定なものとし、共重合ポリエステル組成物を製造する際のペレットへの加工性が安定なものとなって、ミスカットを抑制することができる。さらに、スパンボンド不織布を製布する際には、熱接着工程において、製布幅方向への収縮を抑制し、目付をより均一なものとすることができる。
【0035】
なお、本発明において、共重合ポリエステル組成物の島相の個数平均分散径とは、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1) 共重合ポリエステル組成物について、凍結超薄切片作製装置(例えば、LEICA社製 「LEICA ULTRACUT UCT」など)を用いて超薄切片を作成する。
(2) 透過型電子顕微鏡(TEM、例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「HT-7700」など)を用い、無染色で(1)の超薄切片を以下の条件で観察する。
・加速電圧:100kV
・倍率:1000倍
(3) 得られたTEM画像について、画像解析ソフト(例えば、MEDIA CYBERNETICS社製「Image-Pro Plus」など)を用い、島相の粒径解析を行う。
(4) 得られた粒径データを用い、以下の式にて得られた値dN(nm)を小数点以下第1位で四捨五入する
dN=Σ(Di×Ni)/ΣNi
ここで、Di:島相の直径(nm)、Ni:画像内における直径Diの島相の個数(個)である。
【0036】
本発明の共重合ポリエステル組成物は、測定される長さ平均分散径と個数平均分散径の比dL/dNが1.0~2.0の範囲であることが好ましい。長さ平均分散径と個数平均分散径の比がこの範囲にあるとき、柔軟性、触感の発現を優れたものとするだけでなく、スパンボンド不織布へ加工する際に単繊維中の太さムラが抑制傾向となる。
【0037】
また、本発明の共重合ポリエステル組成物について、島相の長さ平均分散径、島相の個数平均分散径、長さ平均分散径と個数平均分散径の比を上記の範囲とするための手段としては、含有するポリアルキレングリコールの重量平均分子量や含有量を後述する範囲に調整すること、さらに、含有するヒンダードフェノール系化合物の含有量を後述する範囲に調整することなどが挙げられる。
【0038】
本発明の共重合ポリエステル組成物は、前記のポリアルキレングリコールが、重量平均分子量8300~25000のポリエチレングリコールであることが好ましい。
【0039】
前記のポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコールなどが好ましい例として挙げられる。なかでも、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールがより好ましく、ポリエチレングリコールが最も好ましい。なお、本発明の共重合ポリエステル組成物において、前記のポリアルキレングリコールの同定は、前記の組成分析の方法によって行うものとする。
【0040】
ポリアルキレングリコールの重量平均分子量の範囲について、その下限が好ましくは8300以上、より好ましくは15000以上、さらに好ましくは17000以上であることで、スパンボンド不織布へ加工した際に親水性に優れ、例えば、マスクとして用いる場合に後加工による親水化剤の添加が不要とできるため、洗濯するなどして繰り返し使用することも可能とすることができる。一方、ポリアルキレングリコールの重量平均分子量の範囲について、その上限が好ましくは25000以下、より好ましくは22000以下であることで、紡糸工程において糸切れの少ない共重合ポリエステル組成物とすることができる。
【0041】
なお、本発明の共重合ポリエステル組成物において、前記のポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、検出器として示差屈折率検出器RI(例えば、感度128xのWaters社製「Waters-2410」など)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、例えば、Waters社製「Waters-2690」など)を用いて、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1) 共重合ポリエステル組成物を0.05g採取し、1mLの28%アンモニア水中にて120℃で5時間加熱溶解し、放冷後、精製水1mL、6M塩酸1.5mLを加え、精製水で5mL定容、遠心分離後、0.45μmフィルタにて濾過する。
(2) 濾液を、検出器として示差屈折率検出器RI(例えば、感度128xのWaters社製「Waters-2410」など)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、例えば、Waters社製「Waters-2690」など)を用い、以下の条件で測定する。
・カラム:TSKgelG3000PWXL(1本)(東ソー株式会社製)
・溶媒:0.1M塩化ナトリウム水溶液
・流速:0.8mL/分
・カラム温度:40℃
・注入量:0.05mL
・標準試料:ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド
なお、カラムについて、同一のものが入手できない場合には、これと同等の性能を有するカラムで測定するものとする。
【0042】
また、本発明の共重合ポリエステル組成物は、前記の共重合ポリエステル組成物に対する前記のポリアルキレングリコールの含有量が2質量%~14質量%であることが好ましい。ポリアルキレングリコールの含有量の範囲について、その下限が好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上であることで、スパンボンド不織布へ加工した際に親水性に優れ、例えば、マスクとして用いる場合に後加工による親水化剤の添加が不要とできるため、洗濯するなどして繰り返し使用することも可能とすることができる。一方、ポリアルキレングリコールの含有量の範囲について、その上限が好ましくは14質量%以下、より好ましくは8質量%以下であることで、紡糸工程において糸切れの少ない共重合ポリエステル組成物とすることができる。
【0043】
なお、ポリアルキレングリコールの含有量については、以下の方法によって測定、算出される、反応ポリアルキレングリコールの含有量(質量%)と遊離ポリアルキレングリコールの含有量(質量%)との合計を小数点以下第1位で四捨五入した値のことを指す。
(1) 共重合ポリエステル組成物1gをヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)100mLに溶解させる。
(2) さらに、メタノール500mLに再沈殿させて、遊離ポリアルキレングリコールを除去する。
(3) 共重合ポリエステル組成物(再沈殿前の共重合ポリエステル組成物)と遊離ポリアルキレングリコールを除去した共重合ポリエステル組成物(再沈殿後の共重合ポリエステル組成物)とについて、前記の組成分析の方法に基づいて組成分析を行う。
(4) 以下の式によって得られるRr-PAG(質量%)を小数点以下第2位で四捨五入して得られる値を反応ポリアルキレングリコールの含有量(質量%)とする。同様に、以下の式によって得られるRi-PAG(質量%)を小数点以下第2位で四捨五入して得られる値を遊離ポリアルキレングリコールの含有量(質量%)とする
Rr-PAG=[再沈殿後の共重合ポリエステル組成物中のポリアルキレングリコールの含有量(質量%)]/[再沈殿前の共重合ポリエステル組成物中のポリアルキレングリコールの含有量(質量%)]×100
Ri-PAG=[再沈殿前の共重合ポリエステル組成物中のポリアルキレングリコールの含有量(質量%)]/[100-Rr-PAG]×100 。
【0044】
また、本発明の共重合ポリエステル組成物は、前記の共重合ポリエステル組成物に対する遊離ポリアルキレングリコールの含有量が0.5質量%~3.0質量%であることが好ましい。遊離ポリアルキレングリコールの含有量が好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.8質量%以下、さらに好ましくは2.6質量%以下であることで、スパンボンド不織布へ加工した際の表面べたつきがなく、触感に優れる共重合ポリエステル組成物とすることができる。一方、遊離ポリアルキレングリコールの含有量が好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.3質量%以上であることで、ポリアルキレングリコールの相分離構造発達を促進し、スパンボンド不織布へと加工した際に、柔軟性、触感の発現を優れたものとできる。
【0045】
なお、共重合ポリエステル組成物に対する遊離ポリアルキレングリコールの含有量は上記の共重合ポリエステル組成物に対する該ポリアルキレングリコールの含有量の測定・算出方法によって求められる、遊離ポリアルキレングリコールの含有量(質量%)のことを指す。
【0046】
本発明の共重合ポリエステル組成物は、ヒンダードフェノール系化合物を含有することが好ましい。発明者らは、ヒンダードフェノール系化合物は酸化防止剤として機能しポリアルキレングリコールの熱分解を抑制するだけでなく、共重合ポリエステル組成物中において、海相であるポリエステル相と島相であるポリアルキレングリコール相との界面に存在し、相分離促進剤として機能することを発見した。そして、このヒンダードフェノール系化合物がこの界面に適量存在することによって、共重合されたポリアルキレングリコールの相分離構造が発達し、スパンボンド不織布へと加工した際に、柔軟性、触感の発現を優れたものとできることを見出した。
【0047】
本発明におけるヒンダードフェノール系化合物としては、フェノールのオルト位とメタ位の両側にtert-ブチル構造を有するものだけでなく、フェノールのオルト位とメタ位のどちらか片側のみにtert-ブチル構造を有する、いわゆるハーフヒンダードフェノール系化合物であってもよい。フェノールのオルト位とメタ位の両側にtert-ブチル構造を有する化合物としては、例えば、安価に入手できる[ペンタエリスリトール-テトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート)](商品名:イルガノックス(登録商標)1010)を用いることが好ましい。ハーフヒンダードフェノール系化合物としては、例えば、安価に入手できる1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン(商品名:サイアノックス(登録商標)1790)を用いることが好ましい。
【0048】
なお、本発明の共重合ポリエステル組成物において、前記のヒンダードフェノール系化合物の同定は、前処理として、以下の方法を行った上で、前記の組成分析の方法によって行うものとする。
(1) 共重合ポリエステル組成物8gについて、トルエン150mLで還流処理を35分間行い、混合液を100℃に冷却する。
(2) 遠心分離管に投入して遠心分離を行い、上層液体を0.45μmのフィルタで濾過する。
(3) ろ液をメタノールで希釈して、さらに遠心分離して上層液体を得る。
(4) この上層液体を0.45μmのフィルタで濾過し、メタノールを蒸留除去し回収物を得る。
【0049】
本発明の共重合ポリエステル組成物は、ヒンダードフェノール系化合物を含有する場合において、前記の共重合ポリエステル組成物に対する前記のヒンダードフェノール系化合物の含有量が0.05質量%~0.55質量%であることが好ましい。この含有量の範囲について、その下限が好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.13質量%以上であることで、共重合されたポリアルキレングリコールの相分離構造発達を促進し、スパンボンド不織布へと加工した際に、柔軟性、触感の発現を優れたものとできる。一方、含有量の範囲について、その上限が好ましくは0.55質量%以下、より好ましくは0.35%以下であることで、共重合されたポリアルキレングリコールの過剰な相分離構造発達を抑制でき、溶融加工時において共重合ポリエステル組成物の塑性変形を安定なものとし、共重合ポリエステル組成物を製造する際のペレットへの加工性が安定なものとなって、ミスカットを抑制することができる。
【0050】
なお、本発明の共重合ポリエステル組成物において、前記のヒンダードフェノール系化合物の含有量は、以下の方法によって測定、算出される値のことを指す。
(1) 共重合ポリエステル組成物8gについて、トルエン150mLで還流処理を35分間行い、混合液を100℃に冷却する。
(2) 遠心分離管に投入して遠心分離を行い、上層液体を0.45μmのフィルタで濾過する。
(3) ろ液をメタノールで希釈して、さらに遠心分離して上層液体を得る。
(4) この上層液体に内部標準物を添加し、0.45μmのフィルタで濾過する。
(5) 得られたろ液について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、例えば、株式会社島津製作所製「NexeraXR(40シリーズ)」など)を用いて、以下の条件で測定を行う。
・カラム:Inertsil ODS-3 5μm(1本)(GLサイエンス)
・溶媒:移動相A/B:メタノール/水(12%)
・流速:1.3mL/分
・カラム温度:40度
・紫外線波長:284nm
(6) 得られた含有量(質量%)について、小数点以下第3位で四捨五入する。
【0051】
ここで、本発明の共重合ポリエステル組成物は、上記のとおり、前記のポリアルキレングリコールを共重合した共重合ポリエステルそのもの(以降、共重合ポリエステルポリマーと略記することがある)、共重合ポリエステルポリマーに前記のポリアルキレングリコールを含有させてなる組成物、これらに前記のヒンダードフェノール系化合物を含有させてなる組成物を含む概念であるが、さらに、本発明の目的を阻害しない範囲で、使用目的に応じて、着色用の顔料等の樹脂添加剤を含有させてもよい。
【0052】
[共重合ポリエステル組成物の製造方法]
本発明の共重合ポリエステル組成物は、任意の方法によって合成できる。例えば、以下に示す一般的なポリエチレンテレフタレートの合成方法と同様の工程を用いることができる。
【0053】
ポリエチレンテレフタレートはテレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応、または、テレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応によって、テレフタル酸のグリコールエステルまたはその低重合体を生成させる第一段階の反応、そして第一段階の反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱し、所望の重合度となるまで重縮合反応を行う第二段階の反応によって合成できる。
【0054】
エステル化反応は無触媒においても反応が進む。エステル交換反応においては、通常、リチウム、マンガン、コバルト、カルシウム、マグネシウム、亜鉛等の化合物を触媒に用いて進行させる。エステル化反応、または、エステル交換反応が実質的に完結した後に、安定剤であるリン化合物の添加が行われてもよい。このリン化合物としては、リン酸あるいはリン酸トリメチルが好ましく用いられる。
【0055】
重縮合反応触媒としては、アンチモン系化合物、チタン系化合物、ゲルマニウム系化合物などの化合物等を用いることができる。特に、三酸化アンチモンが重合活性に優れている。これら重縮合反応触媒の働きを補助でき、かつ、ポリマー色調の調整が可能なコバルト化合物を重縮合反応触媒と同時に添加してもよい。コバルト化合物としては、酢酸コバルトが好ましく用いられる。
【0056】
複数のジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、ポリアルキレングリコール、ヒンダードフェノール系化合物を原料としてポリエステル組成物を合成する場合、各原料の添加時期はいずれか1種のジカルボン酸成分とアルキレングリコールを用いてエステル化反応またはエステル交換反応を開始させるのと同時、あるいはエステル化反応またはエステル交換反応が開始してから重縮合反応が開始されるまでの任意の段階でよい。
【0057】
また、本発明の共重合ポリエステル組成物を使用するに際し、使用目的に応じて着色用の顔料や酸化防止剤等の樹脂添加剤が含有されていてもよい。例えば、顔料として酸化チタン粒子を含んでいてもよく、酸化チタン粒子を含むことによって繊維間摩擦が低減され、熱伝導性向上による熱ロール圧着(スパンボンド)工程の通過性も向上する。このような顔料の重合工程における添加時期は、エステル化反応またはエステル交換反応を開始させるのと同時、あるいはエステル化反応またはエステル交換反応が開始してから重縮合反応が終了するまでの任意の段階でよい。
【0058】
[スパンボンド不織布、衛生材料]
本発明の共重合ポリエステル組成物は、前記のとおり優れた溶融加工性を有し、柔軟性、触感を発現させることができることから、本発明のスパンボンド不織布は、前記の共重合ポリエステル組成物によって構成されることが好ましい。ここで、本発明において「共重合ポリエステル組成物によって構成される」とは、前記の共重合ポリエステル組成物単成分からなる繊維で構成されたスパンボンド不織布に限定されず、本発明の目的を阻害しない範囲であるならば、前記の共重合ポリエステル組成物とは別の熱可塑性樹脂と複合化された態様のスパンボンド不織布、例えば、前記の共重合ポリエステル組成物と該別の熱可塑性樹脂との芯鞘複合繊維で構成されてなるスパンボンド不織布についても含むこととする。
【0059】
また、本発明の共重合ポリエステル組成物は、前記のとおり優れた溶融加工性を有し、柔軟性、触感を発現させることができることから、本発明の衛生材料は、前記の共重合ポリエステル組成物によって構成されることもまた好ましい。ここでも、本発明において「共重合ポリエステル組成物によって構成される」とは、スパンボンド不織布同様、本発明の目的を阻害しない範囲であるならば、前記の共重合ポリエステル組成物単成分からなる繊維で構成された衛生材料に限定されない。この衛生材料には、前記の共重合ポリエステル組成物によって構成されるスパンボンド不織布を用いることもできる。
【0060】
この衛生材料としては、マスクや紙おむつ、生理用ナプキン、ウェットシートなどが挙げられ、それぞれに好適に用いることができるが、これらに用途が限定されるものではない。なお、マスクに用いる際には、例えば、そのプレフィルターや肌面不織布などに用いることができ、紙おむつに用いる際には、例えば、そのトップシート、バックシートなどに用いることができ、生理用ナプキンに用いる際には、例えば、そのトップシート、防漏材などに用いることができる。
【0061】
なお、本発明の共重合ポリエステル組成物は、前記のスパンボンド不織布の構成成分のみならず、長繊維・短繊維に成形したのち、織物や編物に加工してもよいが、これらに用途が限定されるものではない。
【実施例0062】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、これらは例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0063】
A.共重合ポリエステル組成物の組成分析
共重合ポリエステル組成物の組成(ジカルボン/ジオール成分の種類・共重合量、ヒンダードフェノール系化合物の種類)分析は、核磁気共鳴装置(NMR)として日本電子株式会社製「AL-400」を用い、前記の方法に基づいて実施した。
【0064】
B.ポリアルキレングリコールの重量平均分子量測定
ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、検出器として感度128xのWaters社製「Waters-2410」を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置として、Waters社製「Waters-2690」を用いて、前記の方法に基づいて測定した。
【0065】
C.ヒンダードフェノール系化合物の含有量測定
ヒンダードフェノール系化合物の含有量測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)として、株式会社島津製作所製「NexeraXR(40シリーズ)」を用い、前記の方法に基づいて測定した。
【0066】
D.共重合ポリエステル組成物中の水酸化カリウム含有量分析
共重合ポリエステル組成物中の水酸化カリウム含有量は、共重合ポリエステル組成物を260℃にてプレート状に溶融成形したのち、理学電気株式会社製の蛍光X線分析装置「3270」を用いてカリウム元素の含有量を測定し、そこから換算して水酸化カリウムの含有量を算出した。
【0067】
E.固有粘度(IV)
得られたポリエステル組成物を、o-クロロフェノール溶媒に溶解し、0.5g/dL、0.2g/dL、0.1g/dLの濃度の溶液を調整した。その後、得られた濃度Cの溶液の25℃における相対粘度(ηr)を、ウベローデ粘度計により測定し、(ηr-1)/CをCに対してプロットした。得られた結果を濃度0に外挿することにより、固有粘度を求めた。
【0068】
F.共重合ポリエステル組成物のガラス転移点および融点測定
得られたポリエステル組成物のガラス転移点、融点の測定には、示差走査熱量計として、TA Instruments社製「Q-2000」を用いて、前記の方法により測定、算出した。
【0069】
G.共重合ポリエステル組成物の溶融粘度保持率測定
得られたポリエステル組成物の溶融粘度保持率の測定には、キャピログラフとして、株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ「1B」を用い、前記の方法により測定、算出した。
【0070】
H.反応ポリアルキレングリコール含有量および遊離ポリアルキレングリコール含有量、ならびに、ポリアルキレングリコールの含有量の測定
反応ポリアルキレングリコールの含有量、遊離ポリアルキレングリコールの含有量、そして、ポリアルキレングリコールの含有量は、NMRとして、日本電子株式会社製「AL-400」を用い、前記の方法によって測定、算出を行った。
【0071】
I.島相の長さ平均分散径、個数平均分散径測定、および、島相形成性評価
共重合ポリエステル組成物の長さ平均分散径、個数平均分散径については、凍結超薄切片作製装置としてLEICA社製「LEICA ULTRACUT UCT」、透過型電子顕微鏡(TEM)として株式会社日立ハイテクノロジーズ製「HT-7700」、画像処理ソフトとしてMEDIA CYBERNETICS社製「Image-Pro Plus」を用い、前記の方法に基づいて、前記の方法により測定、算出した。なお、詳細な測定条件は以下のとおりとした。
加速電圧:100kV
倍率:1000倍
なお、個数平均分散径は、画像処理によって得られた粒径データを用い、以下の式にて得られた値dN(nm)を小数点以下第1位で四捨五入して得られた値のことである
dN=Σ(Di×Ni)/ΣNi
ここで、Di:島相の直径(nm)、Ni:画像内における直径Diの島相の個数(個)である。
また、得られた長さ平均分散径を基に、島相形成性評価をS、A、B、Cの4段階で判定した。
S:長さ平均分散径が565~784nmであるもの。
A:長さ平均分散径が435~564nm、785~1000nmであるもの。
B:長さ平均分散径が400~434nmであるもの。
C:長さ平均分散径が400nm未満、または1000nmより大きいもの。
【0072】
J.ペレットカッティング性評価
得られたポリエステル組成物をペレットにした際のカッティング性について、評価を行った。前記の共重合ポリエステル組成物について、重合完了後に吐出孔の孔径が20mmの口金からストランド状に吐出・水冷固化させて断面長径3mm、断面短径2mmの楕円状断面を有するストランド状物を得た後、このストランド状物を長さ4mm毎に切断できる条件でストランドカッターにてペレット化した際のミスカットの発生個数に応じてA、Bの判定を行った。
A:カッティング後のペレット100個中にミスカットペレットが5個未満。
B:カッティング後のペレット100個中にミスカットペレットが5個より多く存在する。
【0073】
K.製布性評価
スパンボンド不織布製造時における熱接着工程の挙動に応じてA、Bの判定を行った。
A:製布幅方向の収縮が15%以下であったもの。
B:製布幅方向の収縮が15%より大きかったもの。
【0074】
L.目付測定
目付測定は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量」に基づいて行った。実施例のポリエステル組成物より得られたスパンボンド不織布について20cm×25cmの試験片を3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その単純な数平均値を求めて1m2当たりの質量を算出し、小数点第1位で四捨五入した値を目付とした。
【0075】
M.剛軟度測定、および柔軟性評価
剛軟度測定は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.7 剛軟度」の「6.7.3 41.5°カンチレバー法」に基づいて行った。実施例のポリエステル組成物より得られたスパンボンド不織布について25mm×150mmの試験片を5枚採取し、45°の斜面をもつ水平台の上に試験片の短辺をスケール基線に合わせて置いた。手動により試験片を斜面の方向に滑らせて、試験片の一端の中央点が斜面と接したとき、他端の位置の移動長さをスケールによって読んだ。試験片5枚の裏表について測定して移動長さの単純な数平均値を求めた後、移動長さに1/2をかけた曲げ長さCおよび目付Mより下式を用いて剛軟度を算出し、小数点第1位を四捨五入して求めた。
剛軟度(mN・cm)=M×C3×0.001、Mは目付、Cは曲げ長さ(cm)
さらに得られた剛軟度を基に、柔軟性評価をS、A、Bの3段階で判定した。
S:剛軟度が0.1~0.4mN・cmであるもの。
A:剛軟度が0.5~0.6mN・cmであるもの。
B:剛軟度が0.7mN・cm以上であるもの。
【0076】
N.触感評価
任意に選定した15名が実施例のポリエステル組成物より得られたスパンボンド不織布の表面を手で触り、下記の基準に従って評価した。各不織布について最も選択の多かった判定をその不織布の触感評価とした。
S:表面が特になめらかで、べたつきが一切なく触感が非常に優れる。
A:表面が比較的なめらかで触感に優れるか、表面が特になめらかだがわずかにべたつきを感じる。
B:表面がなめらかでなく、触感に劣る。
C:表面が顕著にべたつき、触感に劣る。
【0077】
[実施例1]
エステル化反応槽においてビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート及びその低重合体150.0kgを常圧、250℃で融解させ、そこへテレフタル酸(TPA)95.5kgとエチレングリコール(EG)41.0kgの混合スラリーを常圧、240~250℃の温度制御下で150分かけて逐次的に添加しつつ、発生した水を留去することでエステル化反応を行い、ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート及びその低重合体260.4kgを得た。
【0078】
得られたビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート及びその低重合体260.4kgのうち110.4kgを重縮合槽へ移送し、重量平均分子量17000のポリエチレングリコール9.6kgを加えた後、攪拌しながら250℃に昇温した。昇温完了後、安定剤としてリン酸トリメチル30g、重縮合触媒として三酸化アンチモン48g、助剤として酢酸コバルト24gを添加し、顔料として酸化チタン粒子360gを加え、さらに真空下で100分かけて285℃まで昇温させ、所望の重合度となるまで重縮合反応を進行させた。
【0079】
重縮合槽を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、口金からストランド状に押出して水槽冷却し、長さ4mm、断面長径3mm、断面短径2mmの楕円柱状ペレットとなるようカッティングを実施した。得られたポリエステル組成物は、ガラス転移点、溶融粘度保持率、島相長さ平均分散径ともに本発明の請求の範囲を満たすものであった。
【0080】
得られたポリエステル組成物を単軸押出機にて溶融し、紡糸温度285℃で、口金孔径が0.30mmの矩形丸孔口金から、単孔吐出量1.1g/分で紡出した。このときの剪断速度は5861秒-1であった。紡出した糸条を、冷風にて冷却固化した後、矩形エジェクターにおいて糸状の牽引速度が5320m/分、紡糸ドラフトが403となるように空気牽引した繊維ウェブを、口金中心部の鉛直方向におけるネットコンベア上での吸引風速を10.7m/秒として捕集した。得られた繊維ウェブを、上ロールに金属製で水玉柄の彫刻がなされた接着面積率16%のエンボスロールを用い、下ロールに金属製フラットロールで構成される上下一対の熱エンボスロールを用いて、線圧が50N/cmで、熱接着温度が230℃の温度で熱接着し、目付が30g/m2のスパンボンド不織布を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表1に記す。実施例1で得られたスパンボンド不織布は柔軟性・触感に優れるものであった。
【0081】
[実施例2]
実施例1で用いたPEGの分子量の含有量を表1に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表1に記す。得られたポリエステル組成物から製造したスパンボンド不織布は柔軟性・触感に優れるものであった。
【0082】
[実施例3~7]
実施例1で用いたPEGの分子量を表1に記載の通りとし、新たに[ペンタエリスリトール-テトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート)](IR1010)を表1に記載の含有量となるようPEGと同時添加したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表1に記す。得られたポリエステル組成物から製造したスパンボンド不織布は柔軟性・触感に優れるものであった。
【0083】
[実施例8~14]
実施例1で用いたPEGの分子量と含有量を表1または表2に記載の通りとし、新たにIR1010を表1または表2に記載の含有量となるようPEGと同時添加したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表1または表2に記す。得られたポリエステル組成物から製造したスパンボンド不織布は柔軟性・触感に優れるものであった。
【0084】
[実施例15、16]
実施例1で用いたTPAをジカルボン酸成分として89モル%となるよう減量し、イソフタル酸(IPA)をジカルボン酸成分として11モル%となるよう追加し、PEGの分子量と含有量を表2に記載の通りとし、新たにIR1010を表2に記載の含有量となるようPEGと同時添加したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表2に記す。得られたポリエステル組成物から製造したスパンボンド不織布は柔軟性・触感に優れるものであった。
【0085】
[実施例17]
実施例1で用いたPEGを重量平均分子量8300のポリプロピレングリコールに変更し、含有量を14質量%とし、新たにIR1010を表2に記載の含有量となるようPEGと同時添加したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表2に記す。得られたポリエステル組成物から製造したスパンボンド不織布は柔軟性・触感に優れるものであった。
【0086】
[実施例18]
実施例1で用いたPEGの分子量を表1に記載の通りとし、新たに1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン(CN1790)を表2に記載の含有量となるようPEGと同時添加したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表2に記す。得られたポリエステル組成物から製造したスパンボンド不織布は柔軟性・触感に優れるものであった。
【0087】
【0088】
【0089】
[比較例1]
実施例1で用いたPEGを含有しなかったこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物およびスパンボンド不織布を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表3に記す。
【0090】
比較例1で得られる組成物はポリエチレンテレフタレートであり、PEG相分離構造が存在しないことから製造されるスパンボンド不織布は柔軟性・触感ともに劣るものであった。
【0091】
[比較例2]
実施例8で用いたIR1010を添加しなかったこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物およびスパンボンド不織布を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表3に記す。
【0092】
比較例2で得られる組成物は、実施例8と比較してIR1010が含有されていないことが原因で島相の長さ平均分散径が400nm未満となり、製造されるスパンボンド不織布は柔軟性・触感ともに劣るものであった。
【0093】
[比較例3]
実施例1で用いたPEGの分子量を表3に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物およびスパンボンド不織布を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表3に記す。
【0094】
比較例3で得られる組成物は、実施例1と比較してPEG分子量が過少なことが原因で島相の長さ平均分散径が400nm未満となり、製造されるスパンボンド不織布は柔軟性・触感ともに劣るものであった。
【0095】
[比較例4、5]
実施例4で用いたPEGの分子量あるいはIR1010の含有量を表3に記載の通りとしたこと以外は実施例4と同様に実施し、ポリエステル組成物およびスパンボンド不織布を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表3に記す。
【0096】
比較例4で得られる組成物は、実施例4と比較してIR1010含有量が過剰であることが原因で島相の長さ平均分散径が1000nmより大きくなり、ペレットカッティング性が著しく悪化した。
【0097】
比較例5で得られる組成物は、実施例4と比較して主にPEG分子量が過大なことが原因で島相の長さ平均分散径が1000nmより大きくなり、ペレットカッティング性が著しく悪化した。また、溶融粘度保持率が70%未満となり、製造されるスパンボンド不織布はPEGブリードアウトによってべたつきを強く感じるものであった。
【0098】
[比較例6~9]
実施例7で用いたPEGの含有量とIR1010の含有量を表3に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物およびスパンボンド不織布を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表3に記す。
【0099】
比較例6で得られる組成物は、実施例7と比較してPEG含有量が過剰なことが原因で島相の長さ平均分散径が1000nmより大きくなり、ペレットカッティング性が著しく悪化した。
【0100】
比較例7で得られる組成物は、比較例6で生じた長さ平均分散径の過大を修正すべく相分離促進効果のあるIR1010含有量を比較例6から減量したが、その結果、酸化防止効果が低減して溶融粘度保持率が70%未満となり、製造されるスパンボンド不織布はPEGブリードアウトによってべたつきを強く感じるものであった。
【0101】
比較例8、9で得られる組成物は、実施例7と比較してPEG含有量が過剰なことが原因で島相の長さ平均分散径が1000nmより大きくなり、ペレットカッティング性が著しく悪化した。また、溶融粘度保持率が70%未満となり、製造されるスパンボンド不織布はPEGブリードアウトによってべたつきを強く感じるものであった。
【0102】
[比較例10]
実施例13で用いたPEGの含有量を表4に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物およびスパンボンド不織布を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表4に記す。
【0103】
比較例10で得られる組成物は、実施例13と比較してPEG含有量が過大なことが原因で島相の長さ平均分散径が1000nmより大きくなり、ペレットカッティング性が著しく悪化した。また、溶融粘度保持率が70%未満となり、製造されるスパンボンド不織布はPEGブリードアウトによってべたつきを強く感じるものであった。
【0104】
[比較例11~13]
実施例14で用いたPEGの含有量とIR1010の含有量を表4に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物およびスパンボンド不織布を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表4に記す。
【0105】
比較例11で得られる組成物は、実施例14と比較して主にPEG含有量が過少なことが原因で島相の長さ平均分散径が400nm未満となり、製造されるスパンボンド不織布は柔軟性・触感ともに劣るものであった。改善のためにはPEG重量平均分子量を増大させる必要がある。
【0106】
比較例12で得られる組成物は、比較例7で生じた溶融粘度保持率の不足を修正すべく溶融粘度保持率が改善傾向となるPEG重量平均分子量の低減を試みたところ、島相の長さ平均分散径が400nm未満となり、製造されるスパンボンド不織布は、べたつきは改善されたものの柔軟性・触感ともに劣るものであった。
【0107】
比較例13で得られる組成物は、実施例14と比較してIR1010含有量が過少なことが原因で島相の長さ平均分散径が400nm未満となり、製造されるスパンボンド不織布は柔軟性・触感ともに劣るものであった。改善のためにはPEG重量平均分子量を増大させる必要がある。
【0108】
[比較例14、15]
実施例14で用いたPEGの分子量と含有量を表4に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物およびスパンボンド不織布を得た。なお、この時用いたPEGは重量平均分子量6400、数平均分子量5500のものであった。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表4に記す。
【0109】
比較例14、15で得られる組成物は、実施例14と比較して主にPEG分子量と含有量が過少なことが原因で島相の長さ平均分散径が400nm未満となり、製造されるスパンボンド不織布は柔軟性・触感ともに劣るものであった。改善のためにはPEG重量平均分子量と含有量を増大させる必要がある。
【0110】
[比較例16~18]
実施例1で用いたPEGの分子量と含有量を表4に記載の通りとし、新たにIR1010を表4に記載の含有量となるようPEGと同時添加し、PEG分解抑制効果があるとされる水酸化カリウムを新たにカリウム金属原子換算で40ppm添加したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物およびスパンボンド不織布を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表4に記す。
【0111】
比較例16で得られる組成物は、比較例7で生じた長さ平均分散径の過大を修正すべく相分離促進効果のあるIR1010含有量を比較例7から減量し、かつ、溶融粘度保持率向上のため水酸化カリウムをPEGと同時添加したが、IR1010減量を補うほどのPEG分解抑制効果は発現せず、溶融粘度保持率は70%未満となり、製造されるスパンボンド不織布はPEGブリードアウトによってべたつきを強く感じるものであった。
【0112】
比較例17で得られる組成物は、比較例16で生じた溶融粘度保持率の不足を修正すべく溶融粘度保持率が改善傾向となるPEG重量平均分子量の低減を試みたが、重量平均分子量15000では不十分であったため溶融粘度保持率は70%未満のままとなり、製造されるスパンボンド不織布はPEGブリードアウトによってべたつきを強く感じるものであった。
【0113】
比較例18で得られる組成物は、比較例16で生じた溶融粘度保持率の不足を修正すべく溶融粘度保持率が改善傾向となるPEG重量平均分子量の低減を試みたところ、島相の長さ平均分散径が400nm未満となり、製造されるスパンボンド不織布はべたつきは改善されたものの柔軟性・触感ともに劣るものであった。
【0114】
[比較例19]
実施例1で用いたEGを1,4ブタンジオールに変更し、PEGの分子量と含有量を表4に記載の通りとし、三酸化アンチモン触媒をテトラ-n-ブトキシチタネート触媒に変更し、酸化チタン粒子を添加せず、新たにIR1010を表4に記載の含有量となるようPEGと同時添加し、エステル化反応温度を230℃に変更し、重縮合反応温度を常時250℃に変更したこと以外は実施例1と同様に実施し、ポリエステル組成物およびスパンボンド不織布を得た。各種ポリマー、スパンボンド不織布の特性を表4に記す。
【0115】
比較例19で得られる組成物は、主骨格がポリブチレンテレフタレートであることからガラス転移点が40℃未満となり、製造されるスパンボンド不織布は摩擦による強い抵抗感が生じて劣った触感となった。
【0116】
【0117】