(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182081
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】電縫鋼管の溶接管理装置、溶接管理システム、電縫鋼管の溶接管理方法、および電縫鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 37/08 20060101AFI20231219BHJP
B23K 13/00 20060101ALI20231219BHJP
B23K 13/08 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B21C37/08 R
B21C37/08 A
B23K13/00 A
B23K13/08 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095481
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】松本 昌士
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊一
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
【テーマコード(参考)】
4E028
【Fターム(参考)】
4E028CA02
4E028CA08
4E028CA13
4E028CA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】溶接欠陥を抑止するための電縫鋼管の溶接管理装置、溶接管理システム、電縫鋼管の溶接管理方法、および電縫鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】エッジ温度検出部と、エッジ温度差算出部と、V収束角度算出部と、溶接後排出溶鋼面積算出部と、電縫溶接条件の良否を判定する溶接状態判定部と、を備える、電縫鋼管の溶接管理装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板又は鋼帯に対して周方向に曲げ加工を施し、両エッジ部を突き合わせてオープン管とし、その後突き合わせたオープン管両エッジ部に対して、スタンドを用いてアプセットする電縫溶接により製造する電縫鋼管の溶接管理装置であって、
電縫溶接前において、少なくとも一方のオープン管エッジ表面の温度分布の画像と、前記温度分布の画像の画素情報から変換した空間座標とに基づいて、
オープン管エッジ表面の外表面温度T0、内表面温度Ti、肉厚中央部の温度Tcおよび温度測定をした位置の座標を検出する電縫溶接前エッジ温度検出部と、
前記オープン管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTを算出するエッジ温度差算出部と、
前記オープン管両エッジ部に沿って収束する直線によって形成される接合点を含む領域の画像情報に基づいて、オープン管エッジ部に沿って収束する直線が成すV収束角度θを算出するV収束角度算出部と、
溶接方向に対して電縫溶接後の溶接スタンドのロールセンター直下位置より下流側の管外面に排出された溶鋼を含む画像情報に基づいて、溶接方向に対して前記溶接スタンドのロールセンター直下位置より下流側の管外面に排出された溶鋼面積Aを算出する溶接後排出溶鋼面積算出部と、
前記オープン管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTと、前記肉厚中央部の温度Tcと、前記V収束角度θと、前記排出された溶鋼面積Aの情報に基づいて、電縫溶接条件の良否を判定する溶接状態判定部と、
を備える、電縫鋼管の溶接管理装置。
【請求項2】
前記溶接方向に対して電縫溶接後の溶接スタンドのロールセンター直下位置より下流側の管外面に排出された溶鋼量に基づいて電縫溶接条件の良否を判定するにあたって、任意の前記V収束角度θに対して、所定の前記外表面温度T0、所定の前記内表面温度Ti、所定の前記肉厚中央部の温度Tcが得られるよう溶接電力を調整する、請求項1に記載の電縫鋼管の溶接管理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電縫鋼管の溶接管理装置と、
電縫溶接前において、オープン管両エッジ表面の温度分布を撮像するエッジ温度分布撮影装置と、
電縫溶接前において、オープン管両エッジ部に沿って収束する直線によって形成される接合点、および
電縫溶接後において、溶接方向に対して溶接スタンドのロールセンター直下位置より下流側の管外面に排出された溶鋼を撮影する溶接部撮影装置と、
を備える、電縫鋼管の溶接管理システム。
【請求項4】
鋼板又は鋼帯に対して周方向に曲げ加工を施し、両エッジ部を突き合わせてオープン管とし、その後突き合わせたオープン管両エッジ部に対して、スタンドを用いてアプセットする電縫溶接により製造する電縫鋼管の溶接管理方法であって、
電縫溶接前において、少なくとも一方のオープン管エッジ表面の温度分布の画像と、前記温度分布の画像の画素情報から変換した空間座標とに基づいて、オープン管エッジ表面の外表面温度T0、内表面温度Ti、肉厚中央部の温度Tcおよび温度測定をした位置の座標を検出する電縫溶接前エッジ温度検出工程と、
前記オープン管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTを算出するエッジ温度差算出工程と、
前記オープン管両エッジ部に沿って収束する直線によって形成される接合点を含む領域の画像情報に基づいて、オープン管エッジ部に沿って収束する直線が成すV収束角度θを算出するV収束角度算出工程と、
溶接方向に対して電縫溶接後の溶接スタンドのロールセンター直下位置より下流側の管外面に排出された溶鋼を含む画像情報に基づいて、溶接方向に対して前記溶接スタンドのロールセンター直下位置より下流側の管外面に排出された溶鋼面積Aを算出する溶接後排出溶鋼面積算出工程と、
前記オープン管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTと、前記肉厚中央部の温度Tcと、前記V収束角度θと、前記排出された溶鋼面積Aの情報に基づいて、電縫溶接条件の良否を判定する溶接状態判定工程と、
を含む、電縫鋼管の溶接管理方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電縫鋼管の溶接管理方法を用いて、電縫鋼管を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫鋼管の電縫溶接直前におけるオープン管エッジ部について温度分布を定量化し、電縫溶接現象の構成因子と組み合わせることで溶接欠陥を抑止するための電縫鋼管の溶接管理装置、溶接管理システム、および電縫鋼管の溶接管理方法および電縫鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電縫鋼管は、ロール成形を用いて、鋼板又は鋼帯に対して周方向に連続的な曲げ加工し、両端部を突き合わせて円形断面の空筒にした略管形のオープン管とし、その後突き合わせたオープン管両エッジ部を連続的に電縫溶接して製造される。
【0003】
電縫溶接時において、上記両エッジ部をコンタクトチップによる直接通電もしくは誘導コイルによる誘導電流で融点以上に加熱し、その直後に溶接ロール(スクイズロール)で両エッジの接合部を衝合(アプセット)する。その際、鋼板又は鋼帯の溶融加熱過程で発生する酸化物(ペネトレータ)をアプセットにより管の内外面に流出させ、余盛(ビード)と称する不要部分に排出させて溶接欠陥の発生を抑止している。電縫溶接後、余盛部は切削工具等により管から切削除去される。
【0004】
溶接欠陥を抑制するために、ペネトレータの発生や、溶接されるまでのペネトレータ同士の凝集を極力抑制することが重要である。そのためには、前記溶融加熱過程から、両エッジの接合開始までの時間が過大にならないように溶接条件を調整する必要がある。また、アプセットの工程でペネトレータをビードへ滞りなく排出することも重要である。そのためには、接合開始までのエッジ部の肉厚方向の温度分布の偏差を小さくし、アプセット中の溶融エッジ部の凝固によるペネトレータの排出不良を抑制する必要がある。
【0005】
上記問題を解決する方法として、電縫鋼管の製造における溶接欠陥抑止には種々の技術が開示されており、例えば、電縫溶接現象を映像化し、かつ、溶融加熱過程におけるエッジ部の温度を測定した溶接工程の溶接管理システムが提案されている。
【0006】
特許文献1は、衝合前のオープン管の両エッジの外面および内面の角部位置の座標を、撮影した画像から検出すると共に両エッジの外面および内面の角部の温度分布を算出し、検出した座標と算出した温度分布とを照合してその検出座標におけるエッジの温度を求めて両エッジの加熱条件を制御する溶接温度測定方法が提案されている。
【0007】
特許文献2は、電縫溶接の画像を取得し、衝合前のオープン管の両エッジがV字状に収束するV収束部位を含む領域の画像を取得し、前記画像において両エッジの衝合部、あるいは両エッジが幾何学的になす収束点のいずれかにおいて、肉厚内部における溶融部が表面へ排出し始める領域の温度を輝度レベルで温度変換し、その温度が閾値以上であることを判定する電縫溶接の操業上の監視装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11‐33621号公報
【特許文献2】特許第5549963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、接合端面の内外面における角部の温度を測定しているため、衝合前の両端面同士のラップ状態の影響を監視することはできるが、電縫溶接の高周波加熱で最も加熱されにくい肉厚中央部の温度データが無いため、肉厚中央部の加熱不足が原因で十分な溶接部特性が得られない問題がある。
【0010】
特許文献2では、両エッジの衝合部、あるいは両エッジが幾何学的になす収束点のいずれかにおいて、外表面あるいは内表面の温度に対して、下限値を設定して溶接条件の良否判定を行っているが、こちらも特許文献1と同様に、肉厚中央部の温度データが無いため、十分な溶接部特性が得られない問題がある。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、溶接欠陥を抑止するための電縫鋼管の溶接管理装置、溶接管理システム、電縫鋼管の溶接管理方法、および電縫鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、電縫溶接における両エッジ端面の肉厚方向の温度分布、および、そのときの両エッジが成す直線が幾何学的に成す角度(V収束角度)が、スクイズロールによるアプセット後の溶接部に残存するペネトレータの形態および溶接部特性に及ぼす影響について鋭意研究を行った。その結果、以下のことが明らかになった。
【0013】
ここでは、電縫溶接の流れについて、
図3に示す電縫溶接の加熱から溶接までの一例をもって説明する。
【0014】
従来、電縫溶接では、直接通電加熱方式、あるいは誘導加熱方式による高周波電流を用いた加熱を行っている。このとき、高周波加熱特有の加熱現象で、加熱の初期段階に表皮効果が発現する。そのため、肉厚中央部に比べて先にエッジ部の外表面および内表面側の温度が高温になる。このエッジ部の熱伝導により肉厚中央部への熱の移動が発生する。次いで、加熱過程が進行すると、端面同士の距離が近くなるため、近接効果が発現して肉厚中央部の昇温速度が増加する。そして、エッジ部全体の極表層部を融点まで加熱しながら、スクイズロールによるアプセットを経て衝合部202で電縫溶接が成される。このとき、エッジ部の溶融金属は表面に分布していたペネトレータとともに、管外部に排出されて溶接ビード207を形成する。
【0015】
前述しているように電縫溶接では肉厚中央部の温度はエッジ部の内面および外面よりも加熱が遅延するため、温度が低くなりやすい。エッジ部の肉厚中央部の加熱が不十分であると、加熱過程において、肉厚中央部で発生したペネトレータを溶接ビード207へ排出するための十分な溶接金属量が得られない問題がある。そのため、加熱過程において、肉厚中央部の近接効果を早期に発現させて、肉厚方向の温度偏差を小さくする必要があり、そのために、V収束角度などのように両エッジの接合端面同士の突合せ状態を調整するための成形ロールのロールポジションを制御するなどの対策が必要になる。
【0016】
本発明は上記知見に基づくものであり、その要旨は以下の通りである。
[1] 鋼板又は鋼帯に対して周方向に曲げ加工を施し、両エッジ部を突き合わせてオープン管とし、その後突き合わせたオープン管両エッジ部に対して、スタンドを用いてアプセットする電縫溶接により製造する電縫鋼管の溶接管理装置であって、
電縫溶接前において、少なくとも一方のオープン管エッジ表面の温度分布の画像と、前記温度分布の画像の画素情報から変換した空間座標とに基づいて、
オープン管エッジ表面の外表面温度T0、内表面温度Ti、肉厚中央部の温度Tcおよび温度測定をした位置の座標を検出する電縫溶接前エッジ温度検出部と、
前記オープン管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTを算出するエッジ温度差算出部と、
前記オープン管両エッジ部に沿って収束する直線によって形成される接合点を含む領域の画像情報に基づいて、オープン管エッジ部に沿って収束する直線が成すV収束角度θを算出するV収束角度算出部と、
溶接方向に対して電縫溶接後の溶接スタンドのロールセンター直下位置より下流側の管外面に排出された溶鋼を含む画像情報に基づいて、溶接方向に対して前記溶接スタンドのロールセンター直下位置より下流側の管外面に排出された溶鋼面積Aを算出する溶接後排出溶鋼面積算出部と、
前記オープン管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTと、前記肉厚中央部の温度Tcと、前記V収束角度θと、前記排出された溶鋼面積Aの情報に基づいて、電縫溶接条件の良否を判定する溶接状態判定部と、
を備える、電縫鋼管の溶接管理装置。
[2] 前記溶接方向に対して電縫溶接後の溶接スタンドのロールセンター直下位置より下流側の管外面に排出された溶鋼量に基づいて電縫溶接条件の良否を判定するにあたって、任意の前記V収束角度θに対して、所定の前記外表面温度T0、所定の前記内表面温度Ti、所定の前記肉厚中央部の温度Tcが得られるよう溶接電力を調整する、[1]に記載の電縫鋼管の溶接管理装置。
[3] [1]または[2]に記載の電縫鋼管の溶接管理装置と、
電縫溶接前において、オープン管両エッジ表面の温度分布を撮像するエッジ温度分布撮影装置と、
電縫溶接前において、オープン管両エッジ部に沿って収束する直線によって形成される接合点、および
電縫溶接後において、溶接方向に対して溶接スタンドのロールセンター直下位置より下流側の管外面に排出された溶鋼を撮影する溶接部撮影装置と、
を備える、電縫鋼管の溶接管理システム。
[4] 鋼板又は鋼帯に対して周方向に曲げ加工を施し、両エッジ部を突き合わせてオープン管とし、その後突き合わせたオープン管両エッジ部に対して、スタンドを用いてアプセットする電縫溶接により製造する電縫鋼管の溶接管理方法であって、
電縫溶接前において、少なくとも一方のオープン管エッジ表面の温度分布の画像と、前記温度分布の画像の画素情報から変換した空間座標とに基づいて、オープン管エッジ表面の外表面温度T0、内表面温度Ti、肉厚中央部の温度Tcおよび温度測定をした位置の座標を検出する電縫溶接前エッジ温度検出工程と、
前記オープン管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTを算出するエッジ温度差算出工程と、
前記オープン管両エッジ部に沿って収束する直線によって形成される接合点を含む領域の画像情報に基づいて、オープン管エッジ部に沿って収束する直線が成すV収束角度θを算出するV収束角度算出工程と、
溶接方向に対して電縫溶接後の溶接スタンドのロールセンター直下位置より下流側の管外面に排出された溶鋼を含む画像情報に基づいて、溶接方向に対して前記溶接スタンドのロールセンター直下位置より下流側の管外面に排出された溶鋼面積Aを算出する溶接後排出溶鋼面積算出工程と、
前記オープン管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTと、前記肉厚中央部の温度Tcと、前記V収束角度θと、前記排出された溶鋼面積Aの情報に基づいて、電縫溶接条件の良否を判定する溶接状態判定工程と、
を含む、電縫鋼管の溶接管理方法。
[5] 前記[4]に記載の電縫鋼管の溶接管理方法を用いて、電縫鋼管を製造する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電縫溶接時の肉厚方向の温度分布、溶接条件を測定しながら溶接することで、優れた品質を有する電縫鋼管が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明を実施するための形態の1例を示す溶接管理装置およびそれを含めた溶接管理システムを説明するための図である。
【
図2】本実施の形態の溶接管理システムの処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】電縫溶接の溶接部画像の各部位の説明図である。
【
図5】電縫溶接における肉厚中央部の温度Tcと、排出溶鋼面積Aの各条件におけるへん平試験の結果から溶接部の良否判定を行い、各肉厚中央部の温度Tcにおける排出溶鋼面積の上下限AmaxとAminを設定し、各上下限点を通る関数の導出方法の一例を説明するための図である。
【
図6】電縫溶接における肉厚中央部の温度Tcと、排出溶鋼面積Aの各条件におけるへん平試験の結果から溶接部の良否判定を行い、各肉厚中央部の温度Tcにおける排出溶鋼面積の上下限AmaxとAminを設定し、各上下限点を通る関数を導出した後、溶接部不良を排除するための指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分の上下限ΔTmaxとΔTminの導出方法の一例を説明するための図である。
【
図7】電縫溶接における各V収束角度θにおいて、肉厚中央部の温度Tcと、排出溶鋼面積Aの各条件におけるへん平試験の結果から、肉厚中央部の温度Tcと、排出溶鋼面積Aの関係から溶接の許容範囲の分布を導出し、前記溶接の許容範囲の分布を、各V収束角度θで内挿し、任意の溶接条件における許容範囲の導出方法の一例を説明するための図である。
【
図8】V収束角度θが5°における、指定位置の肉厚中央部の温度Tcと排出溶鋼面積Aの許容範囲を導出した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である溶接管理装置およびそれを含めた溶接管理システム、および電縫鋼管の溶接管理方法を詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0020】
まず、
図1を参照して、本実施の形態の対象とする処理の流れと、溶接管理システムを含む溶接管理装置の概略構成について説明する。
図1は、本発明を実施するための形態の1例を示す溶接管理装置およびそれを含めた溶接管理システムを説明するための図である。鋼板(又は鋼帯)は、ロール成形によって連続的に円筒形状へと成形された後、図中の溶接方向4に進みながら、フィンパスロール2によって円筒形状の安定性が確保されつつ、両エッジ部の突き合わせ位置がセンタリングされながらオープン管1へと成形される。その後、オープン管1の両エッジ部は、高周波発振装置3から一対のコンタクトチップ31a、31bを介して高周波電流が供給されて、溶融するまで加熱される。コンタクトチップ31a、31bの代わりに誘導加熱のワークコイルを用いることも可能である。
【0021】
次に、オープン管1は、スクイズロール41a、41b、トップロール42a、42bからなるロール群で囲まれた溶接スタンド40を通過しながら両エッジ部が圧接され、溶鋼が外面(管状の鋼板の外周面)に排出されながら溶接(電縫溶接)される。
【0022】
エッジ温度分布撮影装置10は、例えばサーモグラフィのように温度分布を2次元画像で計測可能な温度計であり、コンタクトチップ31a、31bと溶接スタンド40の間に位置するオープン管1のエッジ部の肉厚全体を撮影できるように設置され、少なくとも向い合う一方のエッジ部において外面から内面まで加熱された表面を撮影する。このとき、温度計は放射温度計、あるいは、二色温度計など温度分布を測定できる温度計であればいずれでも良い。また、エッジ温度分布撮影装置10には光学系の調整のためのズームレンズや露光調整器などの調整器も含まれる。撮影視野100mm×40mmで分解能を500μm/画素以下を確保することが好ましい。より好ましくは100μm/画素以下であり、このとき、カメラの画素数は1920×1080以上であることが好ましい。分解能が500μm/画素超の大きな分解能であるとエッジ部温度の検出精度が著しく悪化する場合がある。
【0023】
溶接部撮影装置11は、例えばカメラを用いて、溶接方向4に対して溶接スタンド40のスクイズロールセンターを基準に下流側、上流側を撮影可能に設置され、オープン管1の両エッジ部(溶接部)が加熱されて溶融し圧接される様子を撮影する。この溶接部撮影装置11により撮影される撮影画像には、後述する接合点(V収束点)、およびスクイズロールのロールセンターが含まれるように、溶接部撮影装置11の位置調整を行う。このとき、カメラはカラー画像撮影用あるいは、モノクロ画像撮影用のいずれでも良い。また、溶接部撮影装置11には光学系の調整のためのズームレンズや露光調整器などの調整器も含まれる。撮影視野100mm×40mmで分解能を100μm/画素以下を確保することが好ましい。より好ましくは50μm/画素以下であり、このとき、カメラの画素数は1920×1080以上であることが好ましい。分解能が100μm/画素よりも大きい分解能であると溶鋼の検出精度が著しく悪化する場合がある。
また、電縫溶接の溶接速度は、100m/minを超える速度で溶接される場合があり、撮影視野100mmの領域以内で、任意の撮影点を1回以上撮影するためにはフレーム速度を20fps以上に設定することが好ましい。フレーム速度が20fps未満の場合、電縫管の溶接部には溶接の画像解析が実施できていない領域が発生し、溶接欠陥を見逃す可能性がある。
【0024】
溶接管理装置1000は、エッジ温度分布撮影データ入力部100および溶接部撮影データ入力部110により、それぞれエッジ温度分布撮影装置10および溶接部撮影装置11で撮像された溶接部の画像を取得する。溶接管理装置1000は、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータで構成され、CPUなどによる演算処理機能、GPUなどによる画像処理機能、後述の記憶部1403の一例としてのROMやRAMなどの各種メモリ機能を有し、その他、データ通信端子で接続されたハードディスクなどの記録媒体、グラフィックへの表示装置やアラーム装置等の出力を備える。溶接管理装置1000では処理プログラム等を記憶したメモリおよび処理プログラムを実行するCPUなどを用いて、温度分布処理部121において、電縫溶接前エッジ温度検出部122で高周波電流によって加熱された少なくとも一方のエッジ部の外面から内面までの肉厚方向の温度分布の検出、座標空間算出部123により温度分布を撮像した空間の座標(位置)を変換、データ処理部124による上記加熱されたエッジの外面から内面までの温度分布における、管長手方向の指定位置の温度分布の抽出、エッジ温度差算出部125により、上記指定位置におけるオープン管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTの算出を行う、といった一連の処理が行われる。並列して溶接画像処理部131において、管エッジ画像検出部132によるV収束点周辺の赤熱した両端部のエッジの検出、V収束角度算出部133によるV収束角度θおよびV収束点の算出、接合点検出部134による実際に管両エッジが接合する位置の検出、溶接後排出溶鋼面積算出部135による溶接スタンドより下流側の管外面に排出された排出溶鋼面積Aの算出、といった一連の処理が行われる。さらに、溶接状態判定部1401による溶接判定、および出力部1402による判定結果の出力等を行い、溶接管理処理を実行する。
【0025】
ここで、
図2のフローチャートを参照して、溶接管理装置1000による溶接管理処理手順について説明する。
図2は、本実施の形態の溶接管理装置の処理手順を示すフローチャートである。
図2のフローチャートでは、例えば、操作者によりエッジ温度分布撮影データ入力部100および溶接部撮影データ入力部110への溶接管理処理開始の指示入力があったタイミングで開始となり、ステップS1およびステップS6の処理が同時並行に進む。
【0026】
ステップS1の処理では、エッジ温度分布撮影装置10から、高周波加熱によって加熱されたオープン管1の両エッジ部の少なくとも一方に対し、溶接されるまでの区間において、電縫溶接前エッジ温度検出部122が、溶接前のエッジ部の全厚にわたる2次元の温度分布データを取得する。ここでは撮像された温度分布データから、エッジ部の接合面上の、すなわち、管長手方向と肉厚方向の2次元の温度分布データを抽出する。これにより、ステップS1の処理は完了し、溶接管理処理はステップS2の処理に進む。
【0027】
ステップS2の処理では、ステップS1の処理で撮像した2次元の温度分布データ、あるいは、エッジ温度分布撮影装置10に付属しているCCDカメラによって撮影された画像から、複数の座標標準点を検出し、座標空間算出部123が画素から長さの単位へと空間座標変換を行う。ここでいう座標標準点は、予め座標位置あるいは、各々の標準点間距離が自明なマーカーであることが好ましいが、この限りではない。任意の2点の標準点間距離を検出し、該標準点間距離の実空間距離を入力することで、座標空間算出部123が温度分布データの画像内の空間座標変換を行う。同時に前記温度分布データの画像において、任意の位置に2次元座標の原点の設定を行う。また、画素から長さの単位へ座標変換するために必要な演算式を、前もって導出しておいても良い。これにより、ステップS2の処理は完了し、溶接管理処理はステップS3の処理に進む。
【0028】
ステップS3の処理では、データ処理部124が、上記の空間座標変換処理後の温度分布データから、任意の管の長手位置における、管エッジ部の肉厚方向の温度分布を座標値とともに抽出する。データ処理部124が、抽出する範囲は指定した管の長手位置に対して±0.5mmの長手方向の領域を含み、管エッジ部の全厚の領域を抽出する。管エッジ部の外表面および内表面に該当する角部は高周波加熱特有の表皮効果によって加熱が顕著である。そのため、肉厚方向の温度分布においては、管エッジ部の外面および内面の角部位置を中心に温度が高くなっている。全厚領域の判定として、肉厚方向の温度分布の管エッジ部の外面および内面位置におけるピーク間の距離を温度分布から検出される管の肉厚とし、予め入力していた管の肉厚との誤差が3%以下であれば、管エッジ部の外面周辺の温度分布のピーク頂点を原点とし、管エッジ部周辺の温度分布のピーク頂点までの、肉厚方向の温度分布を抽出する。
前記誤差が3%超であれば、適切な温度分布が取れていないと判断され、エッジ温度分布撮影装置10の視野調整(エッジ温度分布撮影装置10に付属しているCCDカメラによって撮影された画像から、複数の座標標準点を検出し、座標空間算出部123にて画素から長さの単位へと空間座標変換を行う作業)を行い、再度、ステップS1からの処理を行い、前記誤差が3%以下になるまで繰り返す。これにより、ステップS3の処理は完了し、溶接管理処理はステップS4の処理に進む。
【0029】
ステップS4の処理では、前記抽出した肉厚方向の温度分布データを用いて、データ処理部124が管エッジ部の外表面および内表面位置における温度のピーク間の中央部位置の温度を抽出し、これを肉厚中央部の温度Tcとする。また、同時に、管エッジ部の外表面および内表面位置周辺の温度分布のピーク頂点位置の温度をそれぞれ、外表面温度To、内表面温度Tiとして抽出する。
これにより、ステップS4の処理は完了し、溶接管理処理はステップS5の処理に進む。
【0030】
ステップS5の処理では、エッジ温度差算出部125が、前記抽出した管エッジ部の外表面温度To、内表面温度Tiを用いて、これらの温度差分ΔTを算出する。ここでは、上記の温度差分ΔTは内表面温度Tiから外表面温度Toを差し引く計算を行い、差分値に正負の符号が付いたまま記憶する。これにより、ステップS5の処理は完了し、溶接管理処理はステップS9の処理に進む。
【0031】
上記のステップS1~S5と並行して行われるステップS6の処理では、高周波加熱によって赤熱に加熱されている管エッジ部を、溶接部撮影装置11により撮像された画像に基づいて、溶接画像処理部131の管エッジ画像検出部132がエッジ検出を行う。ここでは、エッジ検出方法については微分法を用いるが、これに限らない。具体的に
図3および
図4を示しながら説明する。
図3は電縫溶接の形態の一例を示す図であり、
図4は電縫溶接の溶接部画像の各部位の説明図である。
まず、撮像された画像を用いて加熱部201周辺の輝度の変化から、溶接部のエッジ検出画像20を得る。なお、具体的には、一次微分を用いた勾配法により輝度が大きな溶鋼部と、輝度が小さな溶鋼部以外との境界を、輝度変化の極値が示される位置として判断する。
この溶接部のエッジ検出画像20において、両エッジ部同士が接合していない状態の開口部205から、鉛直方向に画像処理を行い、最初にエッジを検出した位置を各エッジ部上の点とする。この処理を開口部205の長手方向の全長のうちの数点で同様の処理を行い、各エッジ部上に検出された複数の点から最小二乗法によって、オープン管の両エッジ端面を近似した直線La、Lbを近似する。ここでは開口部205は、両エッジの加熱部201に挟まれた領域であり、各エッジ部上の点を検出する前に予め、開口部205に含まれる位置を手動で指定することなどがあるが、これに限らない。これにより、ステップS6の処理は完了し、溶接管理処理はステップS7の処理に進む。
【0032】
ステップS7の処理では、V収束角度算出部133が、上記のオープン管両エッジの検出により算出された直線La、Lbを用いてV収束角度θを算出し、抽出する。溶接部のエッジ検出画像におけるV収束角度θはLa、Lbの2直線が成す角度であり、開口部205側の鋭角の角度とする。これにより、ステップS7の処理は完了し、溶接管理処理はステップS8の処理に進む。
【0033】
ステップS8の処理では、溶接後排出溶鋼面積算出部135が、溶接スタンド(SQスタンド)40以降の、管の外面に排出された溶鋼面積Aを算出する。ここで、SQスタンド40以降の位置とは、溶接方向に対してSQスタンドのロールセンター直下位置204よりも下流側のことを示し、その位置は予め指定しておく。指定方法は座標位置を直接指定する方法や、SQスタンドのロールセンター直下位置204を示すマーカーの座標位置を検出する方法があるが、この限りではない。溶接部撮影装置11により撮像された画像を用いて、SQスタンドのロールセンター直下位置204よりも下流側にある排出された溶鋼をSQスタンド以降の排出溶鋼203とする。このSQスタンド以降の排出溶鋼203が占める画素の面積を管の外面に排出された溶鋼面積として検出し、所定の閾値よりも大きい輝度を有する画素群を溶鋼面積と判定する。前記検出した管の外面に排出された溶鋼面積について、同一視野における50枚の画像で処理を行い、その検出された溶鋼面積の平均値を算出し、その数値を管の外面に排出された溶鋼面積Aとする。平均処理を行う画像群はSQロールの回転の1周期分以上であることが好ましい。これにより、ステップS8の処理は完了し、溶接管理処理はステップS9の処理に進む。
【0034】
ステップS9の処理では、溶接状態判定部1401が、ステップ5とステップ8の処理が完了した後に算出や検出された、上記指定位置の肉厚中央部の温度Tcと、上記指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTと、上記V収束角度θと、上記溶接スタンド以降の排出溶鋼面積Aに基づいて溶接条件の良否判定を行う。具体的には、種々の溶接条件により得られた鋼管を用いて、オフラインで溶接部の評価試験を行い、得られた溶接部の特性と、溶接管理装置1000により算出や検出された、上記指定位置の管肉厚中央部の温度Tcと、上記指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTと、上記V収束角度θと、上記溶接スタンド以降の排出溶鋼面積Aとの関係性を予め明らかにし、所望の溶接部の品質が得られる上記指定位置の肉厚中央部Tcと上記指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTの許容範囲の上下限を設定しておく。
【0035】
上記許容範囲の設定においては、上記V収束角度θごとに実施し、その方法を以下に示す。あるV収束角度θで溶接を行った時の上記指定位置の肉厚中央部Tcと上記溶接スタンドを通過した後の排出溶鋼面積Aをパラメーターとして扱う許容範囲の境界は、上記溶接スタンドを通過した後の排出溶鋼面積Aおよび、上記指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTを用いて許容範囲の上下限を決定する。オフラインでの溶接部の評価試験はへん平試験、溶接部中の酸化物を検知する超音波探傷試験、溶接部から試験片を切出したシャルピー衝撃試験などがあるが、所望される特性に合わせて試験方法を選定する。
【0036】
上記排出溶鋼面積Aと上記指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTの許容範囲の上下限の設定方法例を
図5、
図6および
図7に示しながら以下に説明するが、この限りではない。
図5は、電縫溶接における肉厚中央部の温度Tcと、排出溶鋼面積Aの各条件におけるへん平試験の結果から溶接部の良否判定を行い、各肉厚中央部の温度Tcにおける排出溶鋼面積の上下限AmaxとAminを設定し、各上下限点を通る関数の導出方法の一例を説明するための図である。まず、種々の溶接条件によって検出された溶接スタンドを通過した後の排出溶鋼面積Aと、検出したときに溶接を行っていた鋼管溶接部に所望される特性とを対応させる。ここでは、鋼管の溶接部に所望される特性として、へん平試験で測定される溶接部のへん平率を用いる。ここで、へん平率はJIS G3478:2015に記載のへん平試験方法に基づき、算出することができ、H/D(管の外径D、へん平試験において溶接部に割れが発生し始めるときの平板間の距離H)として求められる。へん平率H/Dが小さいほど溶接部の強度が大きく、優れた溶接部の特性であることを示す指標である。また、へん平率は鋼管の種類によって許容される上限値が定められている。
【0037】
まず、任意のV収束角度θにおける、排出溶鋼面積Aおよび上記指定位置の肉厚中央部Tcおよびへん平率H/Dの関係を明らかにする。上記任意のV収束角度θを一定にした電縫溶接を行うためには、成形に用いるフィンパスロールのフィン幅やスクイズロールのロールポジションを変更せずに電縫溶接を行う。電縫溶接を行うにあたって、エッジ温度分布撮影装置10による指定位置の肉厚中央部Tcと上記指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTの測定、および、溶接部撮影装置11によるV収束角度θと排出溶鋼面積Aの算出を行う。そして、溶接電力を調整した電縫溶接を行い、得られた管に対して上記へん平試験を行って、へん平率H/Dを測定する。
【0038】
次いで、スクイズロールよりも上流側にある成形に用いるロールのロールポジション、を変更し、オープン管の端部周辺の外径曲率を変更させて、電縫溶接における両エッジの突合せ角度の調整を行う。ここで示す突合せ角度とは、オープン管を正面から見て両エッジの向かい合う端面同士が成す角度のことである。
ロールポジションを変更する成形に用いるロールは、エッジフォーミングやフィンパスロールなどを示すが、この限りではない。両エッジの突合せ角度を変更したとき、上記同様に溶接電力を調整した電縫溶接を行い、得られた管に対して上記へん平試験を行って、へん平率H/Dを測定する。電縫溶接における両エッジの突合せ角度を変更したとき、オープン管正面からその断面を見て、オープン管の開口部の幅が外面側の方が広いとき(V字型突合せ)のとき、近接効果の差によって外表面温度T
0は内表面温度T
iよりも小さくなり、上記指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTは正になる。また、逆に、オープン管の開口部の幅が外面側の方が狭いとき(逆V字型突合せ)のとき、近接効果の差によって外表面温度T
0は内表面温度T
iよりも大きくなり、上記指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTは負になる。
上記のようにして繰り返し行った電縫溶接において、
図5に示すように、指定位置の肉厚中央部Tcと排出溶鋼面積Aの組合せを有する電縫鋼管において測定されたへん平率H/Dをプロットさせる。ここで、溶接部特性が〇は、目標のへん平率H/D以下である、すなわち、目標の溶接部の強度を満たしており、×は、目標のへん平率H/D超、すなわち、目標の溶接部の強度を満たしていない。各座標データにおいて、所望のへん平率を満たすことができる条件の、各指定位置の肉厚中央部Tcにおける排出溶鋼面積Aの上下限の境界を求める。各Tcにおける排出溶鋼面積Aの上限および下限の境界はそれぞれ、Tcを一定条件のもと、排出溶鋼面積Aの増加方向、減少方向に3プロット以上連続して溶接部特性が×となるデータ群の領域に対して、上限であれば上記×となるデータ群の領域に近接している溶接部特性が〇である最大値の排出溶鋼面積、下限であれば上記×となるデータ群の領域に近接している溶接部特性が〇である最小値の排出溶鋼面積とする。
そして、各指定位置の肉厚中央部Tcにおける排出溶鋼面積Aの上限Amax、および、下限Aminを最小二乗法などの計算手法を用いて、排出溶鋼面積Aの許容範囲を求める。ここでは境界の与え方については指定が無いが、計算コストを小さくするために、直線近似による境界の算出方法でも可能である。上記排出溶鋼面積がAmin未満であれば、溶接において、スクイズロールの圧接により、外部へ排出されるエッジ部の溶鋼が不十分となり、溶接部に酸化物が残存して、へん平率が悪化し、また、上記排出溶鋼面積がAmax超の場合、溶接において、エッジ部が過加熱となり、エッジ部表面の酸化物の生成、成長が顕著になるため、へん平率が悪化するため、排出溶鋼面積Aの許容範囲はAmin~Amaxとする。
【0039】
次いで、上記にようにして排出溶鋼面積Aの上下限の境界を定められた座標データに対し、許容範囲内に存在する各指定位置の肉厚中央部Tcにおける排出溶鋼面積Aの組合せのうち、各排出溶鋼面積Aにおける指定位置の肉厚中央部Tcの上下限の境界を求める。
図6は、電縫溶接における肉厚中央部の温度Tcと、排出溶鋼面積Aの各条件におけるへん平試験の結果から溶接部の良否判定を行い、各肉厚中央部の温度Tcにおける排出溶鋼面積の上下限AmaxとAminを設定し、各上下限点を通る関数を導出した後、溶接部不良を排除するための指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分の上下限ΔTmaxとΔTminの導出方法の一例を説明するための図である。肉厚中央部Tcの上下限の境界を求めるにあたっては、
図6に示すように各点において算出された指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTに基づいた境界の導出を行う。ここでは、各点における指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTが、0℃以上10℃未満、―10℃以上0℃未満というように、一定間隔のデータ群に区分を行う。例えば、
図6中のΔT1は、-200℃以上-150℃未満、ΔT2は-150℃以上-100℃未満、ΔT4は250℃以上300℃未満である。上記のようにして区分されたデータ群の中にあるデータがAmin~Amaxの範囲内において全て所望の溶接部特性を満たす温度差分ΔTの最大値ΔTmax及び最小値ΔTminのデータ群を抽出し、指定位置の肉厚中央部Tcと排出溶鋼面積Aのグラフ中から、これら温度差分最大値ΔTmax及び最小値ΔTminの範囲を満たす境界を求める。境界線は例えば最小二乗法などの計算手法を用いて求める。ここでは境界の与え方については指定が無いが、計算コストを小さくするために、直線近似による境界の算出方法でも可能である。上記のように、
図5で求めた排出溶鋼面積Aの境界に対して管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTを適用することで、溶接部特性が〇であるプロット群の中に混在している×の水準を取り除くことができ、溶接部特性が×となる条件を排除することが可能となる。また技術的な観点から、上記指定位置の肉厚中央部Tcが下限ΔTmin未満であれば、管外面側の過加熱が顕著になり、管外面へ排出される溶鋼面積を過大に評価される。そのため、肉厚中央部が十分加熱されていないのにも関わらず、溶接部撮影装置11を用いた画像分析では、外面へ排出される溶鋼面積は合格であると誤った判定を行うため、結果として所望の溶接部のへん平率を満たせない。また、上記指定位置の肉厚中央部Tcが上限ΔTmax超であれば、エッジ部外面の加熱が不十分となり、スクイズロールによるアップセットにおいて、エッジ部外面近傍の溶融部が早期に凝固し、外面側外部への溶鋼排出の経路を塞ぐため、酸化物を含んだ溶鋼が十分に排出されなくなり、所望のへん平率が得られない問題がある。
【0040】
図7は、電縫溶接における各V収束角度θにおいて、肉厚中央部の温度Tcと、排出溶鋼面積Aの各条件におけるへん平試験の結果から、肉厚中央部の温度Tcと、排出溶鋼面積Aの関係から溶接の許容範囲の分布を導出し、前記溶接の許容範囲の分布を、各V収束角度θで内挿し、任意の溶接条件における許容範囲の導出方法の一例を説明するための図である。上記のへん平率H/Dに基づいた、排出溶鋼面積Aおよび上記指定位置の肉厚中央部Tcの組合せの許容範囲の導出について、V収束角度θを変更し、同様の処理を繰り返し行うことで、
図7に示す溶接の許容範囲2000を決定する。ここで、V収束角度θのピッチは特に指定しないが、通常の操業条件において、プリセットするV収束角度θの最大値と最小値の間で5分割以上分けて許容範囲の導出を行うことが好ましい。また、上記のように直接許容範囲を求めていないV収束角度θの条件については、その前後で許容範囲を求めたV収束角度θの許容範囲を内挿して近似するなどの処理を行う。この処理で得られた結果については、記憶部1403に記録しておくことができる。これにより、ステップS9の処理は完了し、溶接管理処理はステップS10の処理に進む。
【0041】
ステップS10の処理では、出力部1402が、ステップS9で得られた溶接条件の良否判定を外部へ出力する。外部への出力にはオペレータが判定結果を認知する必要があるため、溶接管理装置1000に備えらえたグラフィック装置やアラーム装置等へ出力することが好ましい。これにより、ステップS10の処理は完了し、一連の溶接管理処理を終了させる。
【0042】
以上、本発明の実施形態として、電縫鋼管の溶接管理装置について説明した。
また、本発明では、上述した溶接管理装置を有する溶接管理システムも提供される。
また、上記の溶接管理装置を有する溶接管理システムは、電縫鋼管を製造する際に用いることができ、具体的に、電縫鋼管の製造方法は、鋼板又は鋼帯に対して周方向に連続的な曲げ加工を施し、両エッジ部を突き合わせてオープン管とし、その後突き合わせたオープン管の両エッジ部に対して、溶接スタンドを用いて連続的にアプセットする電縫溶接により製造するが、電縫溶接の際、前述した溶接システムにより行われる処理により溶接管理を行う。電縫鋼管の溶接管理方法も上記で説明した方法にて実施される。さらに、上述した電縫鋼管の溶接管理方法を用いて、電縫鋼管を製造することができる。
【0043】
このように、本発明によれば、電縫溶接時の端面の加熱分布や突合せ状態を精度高く測定し、溶接後の排出溶鋼量も考慮することで、溶接欠陥を抑制することができる。
【0044】
また、上述した本発明の実施の形態について、これら実施の形態は本発明を実施するための一例に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内であれば、当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【実施例0045】
管厚5mmで鋼管外径がφ90mmの種々の電縫溶接管に対して、まず、溶接条件の許容範囲を導出するために、V収束角度θを3~7°、エッジ肉厚中央部の温度Tcを測定する位置を溶接スタンドのスクイズロールの軸直下から上流側へ6mm離れた位置とし、成形中のエッジベンド成形を調整して、同位置における管内外面温度の差分値ΔTを-300℃~+300℃、溶接速度を40m/minとして電縫溶接を行った。V収束角度θはフィンパスロールのフィンロール幅を変更して調整した。また、管内外面温度の温度差分ΔTを調整するために、フィンパスロールのロールポジションを変更し、特にエッジ部周辺の曲げ変形を調整した。
【0046】
種々の電縫溶接において、溶接電力を変更しながら2色式温度計カメラを用いて、フレームレート20fps、管長手方向の画素数を1920画素、管肉厚方向の画素数を1080画素、管長手方向の視野を50mmとして溶接前の温度分布の2次元画像を取得した。また、種々の電縫溶接においてCCDカメラを用いて、フレームレート20fps、管長手方向の画素数を1920画素、管長手方向の視野を60mmとして、溶接中の溶接部前後の画像を取得した。これら取得した画像から、各フレームの指定位置の肉厚中央部の温度Tcと、前記指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTと、前記V収束角度θと、前記溶接スタンドを通過した後の排出溶鋼面積Aを抽出し、V収束角度θを所定の値に固定にした時のTc、ΔT、Aについてはスクイズロールの一回転分の平均値を算出した。得られた鋼管を100mm長さに切り出し、JIS G3478:2015に基づいて溶接部のへん平試験を行い、鋼管を2枚の平板で挟み、溶接部に割れが生じた時の2枚の平板間の距離Hを測定し、平板間の距離Hを鋼管の初期外径Dで除したへん平率H/Dを算出した。へん平率H/Dが2/3以下であれば合格とした。これらの一連の作業について、V収束角度を3°~7°まで1°間隔で溶接条件の許容範囲を導出した。
【0047】
代表として、V収束角度θが5°における、上記指定位置の肉厚中央部の温度Tcと上記排出溶鋼面積Aの許容範囲を導出した結果を
図8に示す。各上記指定位置の肉厚中央部の温度Tcと上記排出溶鋼面積Aの許容範囲の上下限については、各一定の上記排出溶鋼面積Aにおける指定位置の肉厚中央部の温度Tcの上限値および下限値のそれぞれを最小二乗法による直線近似を行った。同様に、各一定の指定位置の肉厚中央部の温度Tcにおける排出溶鋼面積Aの上限値および下限値のそれぞれを最小二乗法による直線近似を行った。ここでは、指定位置の管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTの上限(ΔTmax)は250℃であり、下限(ΔTmin)は-80℃であった。
【0048】
表1に発明例と比較例の肉厚中央部の温度Tc、内外面温度差分値ΔT、V収束角度θ、排出溶鋼面積Aおよび鋼管のへん平率の合格率を示す。発明例は、管エッジ表面の外表面と内表面との温度差分ΔTを約+100℃、V収束角度を約5°となるようにロールポジションのセットアップを行い、エッジ肉厚中央部の温度Tcが1400℃±10℃、排出溶鋼面積が3.2±0.2mm2を満たすように溶接電力を調整した。これに対して、比較例は電縫溶接時の溶接管理を行わず、溶接電力を調整し、排出溶鋼の状態を目視のみで確認した。
【0049】
得られた電縫鋼管から切り出した100mm長さのサンプル100本に対して、JIS G3478:2015に基づいて溶接部のへん平試験を行い、へん平率H/Dを測定した。へん平率H/Dの合格率は、2/3以下を満たした鋼管の本数が占める割合としており、合格率が95%以上であると適切に電縫溶接できていると判断される。発明例である鋼管No.1では合格率が100%であり、適切に電縫溶接できているのに対し、比較例である鋼管No.2では合格率が92%であり、所定の電縫溶接ができていない。
【0050】