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特開2023-182082漏洩磁気検査装置、漏洩磁気検査装置の調整方法及び、欠陥検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182082
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】漏洩磁気検査装置、漏洩磁気検査装置の調整方法及び、欠陥検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/83 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G01N27/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095482
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】横田 廣幸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 英紀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】村田 祐治
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀貴
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB22
2G053BA03
2G053BA15
2G053BB03
2G053BB11
2G053BC03
2G053BC14
2G053CA03
2G053CA05
2G053CB07
2G053CB24
2G053DA01
2G053DA10
2G053DB03
(57)【要約】
【課題】励磁器の磁束の方向に直交する方向の欠陥を精度よく検出することが可能な漏洩磁気検査装置を提供する。
【解決手段】 漏洩磁気検査装置は、一端側に互いに異なる磁極が形成され、かつ前記一の方向に対して直交する方向に沿って配列される一対の脚部を有する励磁器と、前記一対の脚部の一端側において、前記一対の脚部の一方から他方に向かって配列され、かつ磁束を検出する複数の検出器と、前記複数の検出器の各々の検出信号に基づいて前記検査対象物の欠陥を検出する欠陥検出ユニットと、を備える。前記欠陥検出ユニットは、前記複数の検出器の前記検出信号の各々に対して、前記一対の脚部間の磁気環境に応じたバイアス信号を加えるバイアス部と、前記バイアス部を通過した前記検出器ごとの信号に対して増幅処理を行うアンプ部と、前記増幅処理がされた信号に基づいて欠陥判定を行う欠陥判定部と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の検査対象物を一の方向へ搬送する搬送部と、
一端側に互いに異なる磁極が形成され、かつ前記一の方向に対して直交する方向に沿って配列される一対の脚部を有する励磁器と、
前記一対の脚部の一端側において、前記一対の脚部の一方から他方に向かって配列され、かつ磁束を検出する複数の検出器と、
前記複数の検出器の各々の検出信号に基づいて前記検査対象物の欠陥を検出する欠陥検出ユニットと、を備え、
前記欠陥検出ユニットは、
前記複数の検出器の前記検出信号の各々に対して、前記一対の脚部間の磁気環境に応じたバイアス信号を加えるバイアス部と、
前記バイアス部を通過した前記検出器ごとの信号に対して増幅処理を行うアンプ部と、
前記アンプ部によって増幅処理がされた前記信号に基づいて欠陥判定を行う欠陥判定部と、を含む、漏洩磁気検査装置。
【請求項2】
前記バイアス部が出力する前記バイアス信号を設定するバイアス信号設定部を備え、
前記バイアス信号設定部は、各々の前記バイアス信号の設定値の入力を受け付ける設定情報入力部を含みかつ、前記設定情報入力部が受け付けた前記設定値に基づいて前記バイアス信号を設定する、請求項1に記載の漏洩磁気検査装置。
【請求項3】
前記バイアス部が出力する前記バイアス信号を設定するバイアス信号設定部を備え、
前記バイアス信号設定部は、前記アンプ部により増幅処理された前記検出器ごとの出力に応じた増幅信号の入力を受け付ける信号入力部を含みかつ、
前記信号入力部に入力された前記増幅信号の強度に応じて前記バイアス信号を設定する請求項1に記載の漏洩磁気検査装置。
【請求項4】
前記バイアス信号設定部は、欠陥を有しない前記検査対象物を磁化させた際の前記検出器ごとの信号を取得し、当該信号に基づいて、前記バイアス信号を設定する、請求項2又は3に記載の漏洩磁気検査装置。
【請求項5】
前記バイアス部は、複数の検出器の前記検出信号の各々に対して、前記一対の脚部の一方から他方の間に形成される磁気勾配に応じたバイアス信号を加える、請求項1~3のいずれかに記載の漏洩磁気検査装置。
【請求項6】
前記バイアス部は、複数の検出器の前記検出信号の各々に対して、前記一対の脚部の一方から他方の間に形成される磁気勾配に応じたバイアス信号を加える、請求項4に記載の漏洩磁気検査装置。
【請求項7】
請求項2又は3に記載の漏洩磁気検査装置を用いて、欠陥を有しない前記検査対象物を磁化させて、前記バイアス信号を設定する、漏洩磁気検査装置の調整方法。
【請求項8】
請求項7に記載の漏洩磁気検査装置の調整方法を用いて、前記バイアス信号の設定値を設定し、設定された前記バイアス信号の設定値を維持して前記検査対象物の欠陥を検査する欠陥検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、薄鋼板の欠陥を検出する漏洩磁気検査装置、漏洩磁気検査装置の調整方法及び、欠陥検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料缶用のブリキ鋼板、自動車用鋼板等の軟磁性の薄鋼板を製造するライン上(以下、オンラインとも称する)において、薄鋼板の表面や内部の欠陥を非破壊で検出することが行われている。
【0003】
このような検査装置としては、検査対象物である薄鋼板の欠陥に起因する磁束を検出する漏洩磁気検査装置が知られている。漏洩磁気検査装置は、薄鋼板の検査領域の磁束を飽和させる励磁器(磁化器)と、磁化させた薄鋼板から漏洩した磁束を検出する検出器と、を含んで構成されている。すなわち、漏洩磁気検査装置は、薄鋼板から漏れ出た欠陥に起因する磁束を検出することにより、薄鋼板の欠陥を検出する。
【0004】
ところで、薄鋼板をその幅方向に磁化させて欠陥検査を行うC方向磁化では、励磁器の磁極間に複数の検出器が配置される。このように検出器が配置される場合、当該磁極間における磁束密度は、検出精度の観点からばらつきが少ない方が好ましい。そこで、従来では、励磁器の磁極間の磁束のばらつきを低減することが行われている。(特許文献1~3参照)。
【0005】
ところで、特許文献4には、薄鋼板の長手方向に延伸した欠陥を含む多様な欠陥を検出する漏洩磁気検査装置が開示されている。特許文献4に記載された欠陥判別ユニットでは、薄鋼板をその長手方向に磁化させて欠陥検査を行うL方向磁化が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-15227号公報
【特許文献2】特開平7-22240号公報
【特許文献3】特許第6908213号公報
【特許文献4】特開2014-106136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に記載された技術を適用して、励磁器の磁極間の磁束のばらつきを低減しても、当該磁束密度を完全に均一化するのは困難である。
【0008】
そのため、C方向磁化を採用する場合には、複数の検出器の間で欠陥に対する感度に差が生じる問題がある。特に、薄鋼板の長手方向の延伸した欠陥は極めて低周波の信号として検出される傾向がある。各々の検出器の間で欠陥に対する感度に差が生じると、このような低周波の欠陥信号に対する検出感度が低下する問題がある。
【0009】
ところで、漏洩磁気検査では、検出器からの信号がアンプによって増幅された後に、バンドパスフィルタによって所定の帯域がカットされる信号処理が行われる。
【0010】
特許文献4に記載の欠陥判別ユニットをC方向磁化による欠陥検査に用いると、磁極間に生じる磁気勾配の影響により、検出器で検出される信号に直流信号が重畳される。そのため、アンプによる検出信号の増幅を一様に行うと、検出器によっては飽和が生じる恐れがある。したがって、アンプによる検出信号の増幅は、磁気勾配の影響を最も受ける検出器を考慮して、飽和が生じない程度に制限されている。
【0011】
上述のように、薄鋼板の長手方向の延伸した欠陥は極めて低周波の信号として検出される傾向がある。このため、アンプによる検出信号の増幅が制限されると、検出信号に含まれる低周波のノイズと欠陥信号との分離が困難になり、薄鋼板の長手方向に延伸した欠陥を適切に検出することができない問題がある。
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、検査対象物の欠陥を精度よく検出することが可能な漏洩磁気検査装置、漏洩磁気検査装置の調整方法及び、欠陥検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有する。
【0014】
[1]
板状の検査対象物を一の方向へ搬送する搬送部と、
一端側に互いに異なる磁極が形成され、かつ前記一の方向に対して直交する方向に沿って配列される一対の脚部を有する励磁器と、
前記一対の脚部の一端側において、前記一対の脚部の一方から他方に向かって配列され、かつ磁束を検出する複数の検出器と、
前記複数の検出器の各々の検出信号に基づいて前記検査対象物の欠陥を検出する欠陥検出ユニットと、を備え、
前記欠陥検出ユニットは、
前記複数の検出器の前記検出信号の各々に対して、前記一対の脚部間の磁気環境に応じたバイアス信号を加えるバイアス部と、
前記バイアス部を通過した前記検出器ごとの信号に対して増幅処理を行うアンプ部と、
前記アンプ部によって増幅処理がされた前記信号に基づいて欠陥判定を行う欠陥判定部と、を含む、漏洩磁気検査装置。
[2]
前記バイアス部が出力する前記バイアス信号を設定するバイアス信号設定部を備え、
前記バイアス信号設定部は、各々の前記バイアス信号の設定値の入力を受け付ける設定情報入力部を含みかつ、前記設定情報入力部が受け付けた前記設定値に基づいて前記バイアス信号を設定する、[1]に記載の漏洩磁気検査装置。
[3]
前記バイアス部が出力する前記バイアス信号を設定するバイアス信号設定部を備え、
前記バイアス信号設定部は、前記アンプ部により増幅処理された前記検出器ごとの出力に応じた増幅信号の入力を受け付ける信号入力部を含みかつ、
前記信号入力部に入力された前記増幅信号の強度に応じて前記バイアス信号を設定する[1]に記載の漏洩磁気検査装置。
[4]
前記バイアス信号設定部は、欠陥を有しない前記検査対象物を磁化させた際の前記検出器ごとの信号を取得し、当該信号に基づいて、前記バイアス信号を設定する、[2]又は[3]に記載の漏洩磁気検査装置。
[5]
前記バイアス部は、複数の検出器の前記検出信号の各々に対して、前記一対の脚部の一方から他方の間に形成される磁気勾配に応じたバイアス信号を加える、[1]~[3]のいずれかに記載の漏洩磁気検査装置。
[6]
前記バイアス部は、複数の検出器の前記検出信号の各々に対して、前記一対の脚部の一方から他方の間に形成される磁気勾配に応じたバイアス信号を加える、[4]に記載の漏洩磁気検査装置。
[7]
[2]又は[3]に記載の漏洩磁気検査装置を用いて、欠陥を有しない前記検査対象物を磁化させて、前記バイアス信号を設定する、漏洩磁気検査装置の調整方法。
[8]
[7]に記載の漏洩磁気検査装置の調整方法を用いて、前記バイアス信号の設定値を設定し、設定された前記バイアス信号の設定値を維持して前記検査対象物の欠陥を検査する欠陥検査方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バイアス部を有することにより、励磁器の磁極間に形成される磁気環境の影響を緩和させることができる。したがって、アンプによる検出信号の増幅量を一様にすることができ、例えば、低周波の信号を精度よく検出することが可能となる。その結果、例えば、薄鋼板の長手方向に形成された欠陥を精度よく検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】漏洩磁気検査装置の構成を示す構成図である。
図2】漏洩磁気検査装置を用いた検査対象物の欠陥検査の態様を示す説明図である。
図3図1の欠陥検出ユニットの構成を示すブロック図である。
図4】バイアス器の各々のバイアス信号を設定する態様を示す説明図である。
図5】励磁ヨークの磁極間の幅方向の位置における磁束密度を示すグラフである。
図6】バイアス部による検出器の検出信号に対してバイアス信号を加える態様を示す説明図である。
図7】第2実施形態に係る欠陥検出ユニットの構成を示すブロック図である。
図8】励磁ヨークの磁極間の幅方向の位置における磁束密度を示すグラフである。
図9】第3実施形態に係る欠陥検出ユニットの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る漏洩磁気検査装置の構成を示す。図1に示すように、漏洩磁気検査装置100は、板状の検査対象物である薄鋼板(以下、ストリップともいう)SPを一の方向(図1の紙面に垂直な方向)へ搬送する搬送部10と、ストリップSPを磁化させる励磁器20と、ストリップSPから漏れた磁束を検出する複数の検出器31~36と、複数の検出器31~36の各々の検出信号に基づいてストリップSPの欠陥を検出する欠陥検出ユニット40と、欠陥検出ユニット40による検出結果を表示する表示部50と、を備える。
【0018】
ストリップSPとしては、例えば、ブリキ鋼板、TFS(ティンフリースチール)、亜鉛メッキ鋼板、亜鉛メッキ鋼板の原板等の軟磁性材を挙げることができる。ストリップSPの厚さは、0.1~3.2mmとすることが好ましく、0.1~2.0mmとすることがより好ましい。例えば、ストリップSPが飲料缶用である場合、0.2mm程度とするとよく、自動車鋼板用では0.8mm程度とするとよい。
【0019】
図2は、ストリップSPの欠陥検査の態様を示している。図2にも示すように、搬送部10は、非磁性材料で形成された複数の非磁性ロール11を含む。本実施形態においては、非磁性ロール11は一の方向(流れ方向)である矢印方向に沿って2つ配置されている。したがって、搬送部10は、一の方向(流れ方向)にストリップSPを搬送することができる。なお、搬送部10である2つの非磁性ロール11の間に、ストリップSPが巻き付くように他の非磁性ロール(図示せず)を配置して、ストリップSPと他の非磁性ロールとの接触面の反対側に励磁器20を配置するように構成してもよい。
【0020】
励磁器20は、図1にも示すように、ストリップSPと対向するように設けられた励磁ヨーク21と、磁気発生手段としての励磁コイル22と、を有する。
【0021】
励磁ヨーク21は、図2にも示すように柱状に形成されている一対の脚部21aを有する。一対の脚部21aは、一端側に互いに異なる磁極(N極、S極)が形成され、かつ一の方向に対して直交する方向に沿って配列されている。励磁ヨーク21は、一対の脚部21aの他端側を接続する梁状の接続部23を有する。尚、励磁ヨーク21の材質は軟磁性体であればよい。励磁ヨーク21の具体的な素材としては、実用上は経済性を考慮して、例えば、一般構造用圧延鋼材(例えばSS400)等の鋼材を用いることができる。
【0022】
励磁ヨーク21は、搬送部10の搬送方向(一の方向)からみて、底部側(一端側)が開口しかつ、上部側(他端側)が閉口した門型(U字状)に形成されている。したがって、励磁ヨーク21は、一対の脚部21aの一端側の間に設けられた開口部OPを有する。
【0023】
一対の脚部21aの各々の一端は、ストリップSPの表面に近接して設けられている。すなわち、一対の脚部21aは、ストリップSPの表面上において、当該表面と対向して設けられている。言い換えれば、励磁器20は、ストリップSPと対向する位置に設けられている。
【0024】
ここで、励磁器20とストリップSPとが対向するとは、励磁ヨーク21の各々の脚部21aの一端がストリップSPに向けられて配置され、各々の脚部21aがストリップSPの表面に対してなす角度が概ね垂直であることをいう。
【0025】
本実施形態においては、一対の脚部21aは、ストリップSPの表面に対してその軸方向が垂直に配置されている。また、一対の脚部21aの各々は、ストリップSPの表面と間隔を有して設けられている。
【0026】
一対の脚部21aのうちの一方の脚部21aとストリップSPの表面との間隔は、他方の脚部21aとストリップSPの表面との間隔と実質的に同一になるように配置することが好ましい。尚、各々の脚部21aの一端からストリップSPの表面までの間隔は、概ね0.5~7.0mmとすることが好ましい。
【0027】
励磁コイル22は、励磁ヨーク21の接続部23に巻回されている。励磁コイル22は、直流電流が供給されることにより直流磁界を発生し、励磁ヨーク21を磁化させる。すなわち、励磁コイル22は、直流電流が供給されると、励磁ヨーク21とともに電磁石となる。
【0028】
励磁コイル22は、その巻き数及び供給される電流のうち、少なくとも一方を大きくすることにより強力な電磁石となる。励磁コイル22は、励磁ヨーク21を介してストリップSPの検査領域に磁束を供給し、ストリップSPを磁化させる。
【0029】
励磁コイル22の巻き数は片側の脚部21aについて400~2,000程度とするとよい。また、励磁コイル22に供給される電流は、1~9A程度とすることが好ましい。励磁ヨーク21が磁化された際には、一対の脚部21aの一端に互いに異なる磁極が形成される。具体的には、一方の脚部21aの先端がN極となり、他方の脚部21aの先端がS極となる。
【0030】
励磁器20は、その直流磁界を用いて強力な磁束をストリップSPの検査領域に供給し、ストリップSPを磁化させる。具体的には、ストリップSPの当該検査領域は、磁束が供給されると概ね1.7T以上の磁束密度となり、磁束飽和状態又は、磁束飽和に近い状態となる。
【0031】
尚、励磁器20の奥行方向の長さ(図1の紙面垂直方向の長さ、図2の流れ方向に沿った長さ)は、ストリップSPの大きさに応じて任意に設定することができる。例えば、励磁器20の奥行方向の長さは、40~100mm程度とすることが好ましい。
【0032】
励磁器20の奥行長さを40mm未満とすると、開口部OP(一対の脚部21a間)に形成される磁場が不均一となる傾向があり、欠陥の検出精度に影響を及ぼす恐れがある。また、励磁器20の奥行長さが100mmを超えると、欠陥の検出に必要以上の励磁エネルギーが必要となり、エネルギー効率が悪化する傾向がある。
【0033】
本実施形態では、図1に示すように、ストリップSPは、励磁器20によってストリップSPの搬送方向(一の方向)と直交するクロス方向(C方向、ストリップSPの幅方向)に励磁(C方向励磁)される。このため、ストリップSPの搬送方向(一の方向)に発生する長い欠陥を検出する際には、クロス方向に励磁することが有効となる。
【0034】
C方向励磁の場合、励磁ヨーク21の開口部OPを広くする(一対の脚部21a間の距離を長くする)ことにより、ストリップSPの幅方向に配置する励磁器20の数を減らすことができる。これにより、設備費の低廉化を図ることができる。
【0035】
そのような観点から、開口部OPの間隔(一対の脚部21a間の距離)Lは、40~600mmとすることが好ましい。開口部OPの間隔Lが40mm未満とすると、ストリップSPの幅方向に配置する励磁器20の数を減らすことができず、設備費の低廉化を十分に図ることができない恐れがある。
【0036】
開口部OPの間隔Lを長くするほど、1の励磁器20によって検出できる幅方向の範囲を広くすることができる点で望ましい。しかし、開口部OPの間隔Lを長くするほど、ストリップSPに供給される磁束が弱くなる。このため、間隔Lが600mmを超えると、欠陥の検出感度が低下する恐れがある。また、開口部OPの間隔Lが600mmを超えると、励磁器20の重量が大きくなり、それを保持する付帯的な装置も大型化する傾向がある。
【0037】
ストリップSPに供給される磁束を十分に確保する観点から、開口部OPの間隔Lは300mm以下とすることが好ましく、200mm以下とすることがより好ましく、100~150mmとすることがさらに好ましい。
【0038】
幅が広いストリップSPを検査する場合、励磁器20を幅方向に複数台設置して、ストリップSPの幅方向の全体を検査できるようにすることが好ましい。
【0039】
検出器31~36は、磁気飽和状態となっているストリップSPから漏洩する磁束(磁力線)を検出する。検出器31~36としては、コイル式素子やホール素子などが挙げられる。
【0040】
再び図1を参照すると、検出器31~36は、開口部OPにストリップSPを磁化する方向に複数配置されている。言い換えれば、検出器31~36は、一対の脚部21aの一端側において、一対の脚部21aの一方から他方に向かって配列されている。
【0041】
検出器31~36は、磁極間の距離、すなわち一対の脚部21aの間隔に応じて複数設けられるとよい。検出器31~36が設けられる数に特に制限はないが、本実施形態においては、互いに所定の間隔を有して6つ配されている。
【0042】
それぞれの検出器31~36は、磁束を検出すると、その磁束に応じた大きさのアナログ電圧信号を欠陥検出ユニット40に送信する。
【0043】
欠陥検出ユニット40は、検出器31~36から送信された検出信号に基づいて、ストリップSPが欠陥を有することを検出する。すなわち、欠陥検出ユニット40は、ストリップSPの欠陥に対応する欠陥信号を検出する機能を備える。欠陥検出ユニット40は、ストリップSPが欠陥を有することを検出すると、表示部50に検出結果を表示させる。
【0044】
表示部50は、欠陥検出ユニット40から送信された検出結果を表示する。表示部50としては、例えば、ディスプレイ等を用いることができる。検出結果の表示の態様は、例えば、「欠陥あり」の文字を表示させることができる。
【0045】
図3は、欠陥検出ユニット40の構成を示す。図3に示すように、欠陥検出ユニット40は、開口部OPに配置される複数の検出器31~36から送信された検出信号に対して個別にバイアス信号を加えるバイアス部41と、バイアス部41を通過した検出器31~36ごとの信号に対して増幅処理を行うアンプ部42と、アンプ部42で増幅された検出器31~36ごとの信号をデジタル信号に変換するA/D変換部43と、A/D変換部43を通過したデジタル信号の所定の帯域をカットするフィルタ部44と、フィルタ部44を通過した信号を用いて欠陥判定を行う欠陥判定部45と、を含む。尚、フィルタ部44は、必須の構成ではなく、実施の態様に応じて適宜欠陥検出ユニット40を構成するとよい。
【0046】
バイアス部41は、バイアス器411~416を有する。バイアス器411~416の各々は、検出器31~36から出力された検出信号を予め設定されたバイアス信号を付与する。バイアス器411~416の各々が付与するバイアス信号は、開口部OPに形成される磁気環境、すなわち、磁気勾配に応じて定められる。
【0047】
具体的には、バイアス部41は、それぞれの検出器31~36に対して、個別に設定したバイアス信号を付与する複数のバイアス器411~416を含んで構成される。
【0048】
バイアス器411~416は、各々の検出器31~36に対応して設けられている。バイアス器411~416は、検出器31~36のセンサー信号(検出信号)に対して、個別にバイアス信号を加える加算器または減算器から構成してもよい。
【0049】
すなわち、バイアス器411~416は、検出器31~36からの信号と、外部信号として一定の電圧値と、が入力される。バイアス器411~416は、それらの加算結果または減算結果に対応するバイアス信号をアンプ部42に出力する。
【0050】
アンプ部42は、それぞれのバイアス器411~416から出力された検出信号に対して増幅を行う。アンプ部42は、例えば、バイアス器411~416から出力される信号の各々に対して同一の増幅率で増幅する。
【0051】
増幅率の設定は、例えば、最大電圧を5Vとし、その最大電圧の範囲内でありかつ、ストリップSPの欠陥を感度良く検出できる大きな増幅率を設定するとよい。本実施形態の漏洩磁気検査装置100は、バイアス部41によって開口部OPに形成される磁気環境、すなわち、磁気勾配の影響が低減されているので、従来技術に比べて大きな増幅率を設定することができる。
【0052】
A/D変換部43は、ストリップSPで検出される欠陥の判定を行う際に外乱となるノイズの影響を軽減する。これにより、欠陥判定部45は、欠陥判定を正確に行うことができる。A/D変換部43が行う信号処理は、例えば96Hz程度とするとよい。このようにA/D変換部43を設定することで、ストリップSPの搬送速度を700m/minに設定した場合でも、欠陥を良好に検出することができる。
【0053】
フィルタ部44は、時系列のデジタル信号に対して、予め設定された低周波成分及び高周波成分を遮断する。具体的には、フィルタ部44は、A/D変換部43と欠陥判定部45の間に、必要に応じて配される。
【0054】
フィルタ部44は、デジタル信号に対して、予め設定された低周波成分を遮断する低周波遮断部44a及び、予め設定された高周波成分を遮断する高周波遮断部44bを有する。
【0055】
低周波遮断部44a及び、高周波遮断部44bは、バンドパスフィルタ(BPF)を用いることができる。具体的には、低周波遮断部44aとしては、ハイパスフィルタを用いることができる。高周波遮断部44bとしては、ローパスフィルタを用いることができる。フィルタ部44は、ハイパスフィルタと、ローパスフィルタと、を組み合わせて構成することが好ましい。
【0056】
バンドパスフィルタのカットオフ周波数の下限は、検出したい欠陥長さの通過時間を一波長とした正弦波の周波数相当よりも小さい周波数に設定とするとよい。また、カットオフ周波数の帯域は、ストリップSPの長手方向に長い欠陥でS/Nが高くなるように選択するとよい。
【0057】
例えば、バンドパスフィルタのカットオフ周波数の下限は0.01~100.00Hzで設定するとよく、好ましくは、0.10~10.00Hzで設定するとよい。また、バンドパスフィルタのカットオフ周波数の下限は、ストリップSPの欠陥検査を行う製造ラインのライン速度に応じて決定するとよく、ライン速度の変化に応じてカットオフ周波数の下限を変更するようにしてもよい。
【0058】
バンドパスフィルタのカットオフ周波数の上限は、100~200Hzに設定するとよい。カットオフ周波数の上限をこのような範囲にすることで、ライン速度が速くなった場合にストリップSPのバタつき等による影響(ノイズ)を排除することができる。
【0059】
欠陥判定部45は、従来の欠陥検出ユニットに用いられる欠陥判定部と同様の機能を有するものを適用できる。すなわち、欠陥判定部45は、CPU,ROM,RAMを有するコンピュータ(図示せず)を有する。欠陥判定部45は、閾値と欠陥信号とを対比し、欠陥信号が閾値を越えた場合に、ストリップSPに欠陥があると判定する。
【0060】
具体的には、欠陥判定部45は、欠陥信号が予め定めた閾値を超えた場合に、「欠陥有り」と判定する。当該判定における閾値の設定は、欠陥を有するストリップSPの信号強度に基づいて行うとよい。例えば、過去の操業実績において、欠陥と判定された欠陥信号の強度を特定し、当該欠陥信号の強度を参考値とし、当該参考値に基づいて閾値を設定するとよい。
【0061】
欠陥判定部45は、このような欠陥判定処理により、閾値を超えた信号が得られたときに「欠陥有り」とする表示情報を生成し、当該表示情報を表示部50に出力する。
【0062】
尚、欠陥判定部45は、コンピュータによる情報処理により、検出した欠陥に関する大きさや重度などを判定し、表示部50にそれらの判定結果を表示させるとよい。具体的には、欠陥判定部45は、欠陥信号の閾値からの差分に基づいて、欠陥の大きさや、欠陥の重要度の度合いを示す欠陥度合い情報を生成し、当該欠陥度合い情報を表示部50に表示させる。
【0063】
図4は、バイアス器411~416の各々のバイアス信号を設定する態様を示している。図4に示すように、漏洩磁気検査装置100は、バイアス部41のバイアス器411~416の各々が出力するバイアス信号を設定するバイアス信号設定部46を備える。
【0064】
バイアス信号設定部46としては、例えば、ラダータイプのバイアス回路を用いることができる。ラダータイプのバイアス回路は、複数の固定抵抗器R―0~R―5を直列に接続しかつ、固定抵抗器R―5の一端及び、固定抵抗器R―0一端に定電圧を付与するバイアス電源を接続することにより構成することができる。
【0065】
ラダータイプのバイアス回路をバイアス信号設定部46として用いることで、固定抵抗器R―5~R―0間から互いに異なるバイアス電圧が取り出され、当該バイアス電圧がバイアス器411~416の各々に入力される。言い換えれば、バイアス信号設定部46は、各々のバイアス電圧をバイアス器411~416に入力することにより、バイアス部41が出力するバイアス信号を設定する。
【0066】
具体的には、バイアス信号の設定値は、バイアス信号設定部46をラダータイプのバイアス回路として構成した場合、互いに直列に配置した各々の固定抵抗器の抵抗値を調整することにより設定することができる。
【0067】
各々の固定抵抗器の抵抗値は、欠陥のないストリップSPを磁化して、すべての検出器31~36のセンサー出力が概ねゼロになるように調整するとよい。
【0068】
このような抵抗値の調整は、漏洩磁気検出装置の製造の際、又は、オンラインでの欠陥検出で使用する前に実施するとよい。開口部OPに形成される磁気環境、すなわち、磁気勾配は、励磁器20の配置によって決定される。このため、励磁器20及ぶ検出器31~36の構成を変更しない限りバイアス信号の再調整は基本的には不要となる。ただし、励磁コイル22などの経時的な特性変化(磁気環境の変化)により、磁気勾配の挙動が変化することもあるため、3か月に一度程度の調整を行うことが好ましい。
【0069】
図5は、励磁ヨーク21の幅方向の位置に応じた磁束密度を示している。尚、図5における幅方向の位置は、間隔Lの中心からの距離を示している。漏洩磁気検査装置100では、開口部OPの間隔Lを大きくすると、開口部OPにおける磁気勾配が生じやすい。例えば、図5に示すように、励磁ヨーク21には、その幅方向の位置に応じて磁気が異なり、-60~60mTまでの磁気勾配が形成されている。
【0070】
具体的には、開口部OPの幅方向の位置が40mmあたりで、約60mTの磁気勾配が生じている。バイアス部41を備えていない場合、このような磁気勾配が生じると、検出器で出力される電圧にも同様の磁気勾配が重畳される。
【0071】
すなわち、ストリップに欠陥が存在しない場合には、それぞれの検出器からセンサー出力は0Vで出力されることが好ましい。しかし、磁気勾配の影響により、検出器からは+αVから-αVの範囲で出力される。
【0072】
従来の欠陥検出ユニットでは、検出器からのセンサー出力をアンプ部により、そのまま増幅するので、増幅率が大きいと、例えば+αVの出力が出されている検出器の出力が飽和(例えば+5V)する場合がある。
【0073】
アンプ部により増幅されたアナログ信号が飽和してしまうと、ストリップSPの欠陥検査時に磁束の変動を検出できなくなり、適切な欠陥の検出が困難となる。そのため、アンプ部における増幅率に上限を設ける必要が生じ、結果として検出器のセンサー出力を十分増幅させることができず、欠陥検出の感度が低下する。また、複数の検出器を配置するC方向励磁において、開口部OPの全域で磁束密度を均一に付与することは困難である。
【0074】
図6は、バイアス部41による検出器31~36の検出信号に対してバイアス信号を加える態様を示している。図6に示されるように、バイアス信号設定部46は、ストリップSPに欠陥がない場合にはバイアス器411~416から出力されるバイアス信号(電圧)が0Vになるように、バイアス器411~416が出力するバイアス信号を設定する。
【0075】
したがって、本実施形態の漏洩磁気検査装置100は、バイアス部41を備えることにより、開口部OPに生じる磁気環境、すなわち、磁気勾配から受ける個々の検出器31~36への影響を一定程度低減することができる。このため、ストリップSPに欠陥が生じていない場合に、検出器31~36の出力を全体としてゼロに近づけることができる。これにより、検出器31~36が欠陥を検出した際にアンプ部42においてセンサー信号を増幅させても信号が飽和することがなくなり、欠陥検出の精度を高めることができる。
【0076】
漏洩磁気検査装置100は、励磁器20の構成によって異なる磁気環境、すなわち、磁気勾配の特性に応じて、適正なバイアス信号の設定値を各々のバイアス器411~416に対して設定するとよい。
【0077】
例えば、バイアス信号設定部46は、励磁器20によって欠陥のないストリップSPを検査する場合に、アンプ部42から出力されるそれぞれの検出器31~36の計測値を取得し、各々の計測値がゼロになるようにバイアス信号を設定するとよい。言い換えれば、バイアス信号設定部46は、欠陥を有しないストリップSPを磁化させた際の検出器31~36ごとの信号を取得し、当該信号に基づいて、バイアス信号を設定する。
【0078】
これにより、ストリップSPに欠陥が生じていない状態で検出器31~36のセンサー出力を個別にゼロに近づけることができる。したがって、漏洩磁気検査装置100は、開口部OPに生じる磁気勾配が直線状ではない場合でも、個々の検出器31~36への磁気勾配の影響をキャンセルすることができる。言い換えれば、漏洩磁気検査装置100は、開口部OPの磁気環境の影響を低減することができる。
【0079】
ストリップSPの欠陥検査(操業)の際には、設定されたバイアス信号の設定値でバイアス信号設定部46から出力されるバイアス信号を維持するとよい。このようにすることで、アンプ部42においてセンサー信号を一様に増幅させても信号が飽和することを抑制することができ、欠陥検出の感度を向上させることができる。
【0080】
このように、ラダータイプのバイアス回路を用いて、バイアス信号の設定値が操業の際に維持されることで、簡易な構成で運用コストを低減することができる。
【0081】
また、バイアス信号設定部46は、可変抵抗素子を用いたラダータイプのバイアス回路を用いてもよい。この場合、ストリップSPに欠陥が生じていない状態で検出器31~36のセンサー出力を個別に記録しておき、バイアス部41から出力がゼロに近づくように、バイアス回路の可変抵抗素子の抵抗値を個別に調整することができる。このように、バイアス信号設定部46を構成することにより、簡易な回路により構成することができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0082】
以上のように、本発明の漏洩磁気検査装置100によれば、開口部OPにおける磁束密度が不均一な場合であっても、高感度に欠陥を検出することが可能となる。
【0083】
(第2実施形態)
バイアス器411~416は、例えば、バイアス信号を設定するコンピュータと接続され、当該コンピュータからの信号に基づいて、バイアス信号を加えるようにしてもよい。
【0084】
本実施形態の欠陥検出ユニットは、複数の検出器31~36からの検出信号に対して、予め設定されるバイアス信号の設定値を、電圧信号に変換してバイアス部41に加える。尚、第1実施形態と同一の構成については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0085】
図7は、本実施形態に係る欠陥検出ユニット60の構成を示している。図7に示すように、欠陥検出ユニット60は、バイアス信号設定部61を有する。バイアス信号設定部61は、バイアス信号の設定値の入力を受け付ける設定情報入力部62と、入力されるバイアス信号の設定値を調整する設定部63と、バイアス信号としてアナログ電圧をバイアス部41に与えるためのD/A変換部64と、を有する。尚、D/A変換部64は、必須の構成ではなく、実施の態様に応じて適宜用いられる。
【0086】
設定情報入力部62は、ユーザの操作により、文字、数字等を入力することが可能な入力装置である。設定情報入力部62としては、例えば、キーボード、タッチパネル等を用いることができる。
【0087】
設定部63は、CPU,ROM,RAMを含むコンピュータである。設定部63は、設定情報入力部62及び、D/A変換部64とデータ通信可能に接続されている。したがって、設定部63は、設定情報入力部62が受け付けたバイアス信号の設定値をD/A変換部64を介してバイアス部41に入力可能である。
【0088】
本実施形態の漏洩磁気検査装置100によれば、設定情報入力部62で入力されるバイアス信号の設定値を、それぞれのバイアス器411~416に対するバイアス信号として与えることが可能になる。
【0089】
図8は、励磁ヨーク21の幅方向の位置に応じた磁気を示している。尚、図8における幅方向の位置は、間隔Lの中心からの距離を示している。漏洩磁気検査装置100では、開口部OPの間隔Lを大きくすると、その位置に応じて磁束密度が変化しやすい。例えば、図8に示すように、励磁ヨーク21には、その幅方向の位置に応じて磁気が異なり、間隔Lの中心である0mm付近においては約1690mTであるが、-60mm及び60mmの位置においては、約1745mTである。すなわち、図8においては、磁束密度は、下に凸となるような湾曲した曲線で表されている。
【0090】
したがって、このような磁束密度に対応した設定値が設定情報入力部62を介して入力されることにより、バイアス信号設定部61は、検出器31~36の出力をゼロに近づけるようにバイアス信号を設定することができる。
【0091】
本実施形態の漏洩磁気検査装置100によれば、検出器31~36の出力をゼロに近づけるように個別に調整することができる。したがって、本実施形態の漏洩磁気検査装置100は、図5に示すような開口部OPにおいて直線状の磁気勾配が生じている場合だけでなく、図8に示す曲線状の磁束密度分布が生じる場合であっても、欠陥の検出の感度を良好にすることができる。言い換えれば、本実施形態の漏洩磁気検査装置100は、開口部OPに生じる磁気環境の影響を低減することにより、欠陥の検出の感度を良好にすることができる。
【0092】
また、第1実施形態と同様に、バイアス信号設定部61は、励磁器20によって欠陥のないストリップSPを検査する場合に、アンプ部42から出力されるそれぞれの検出器31~36の計測値を取得し、各々の計測値がゼロになるようにバイアス信号を設定するとよい。具体的には、バイアス信号設定部61は、各々の計測値がゼロになるように設定情報入力部62から入力された設定値を参照してバイアス信号を設定するとよい。
【0093】
尚、バイアス信号の設定値は、アンプ部42に接続された電圧計から出力に基づいて設定するとよい。例えば、バイアス信号の設定値は、アンプ部42からの出力と同じ絶対値で、正負が異なる値を設定してもよい。
【0094】
このように設定値を設定することで、検出器31~36などの素子やアンプ部42の温度変化によるドリフトやオフセットなどの外乱が発生しても、それらの影響を除去することができる。このため、アンプ部42は、安定的に増幅を行うことが可能となる。
【0095】
(第3実施形態)
バイアス信号設定部は、A/D変換部43によって変換されたデジタル信号に基づいて、バイアス信号を設定するようにしてもよい。尚、第1実施形態及び第2実施形態と同一の構成については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0096】
図9は、本実施形態に係る欠陥検出ユニット70の構成を示している。図9に示すように、欠陥検出ユニット70は、バイアス信号設定部71を有する。バイアス信号設定部71は、アンプ部により増幅処理された検出器31~36ごとの出力に応じた増幅信号の入力を受け付ける信号入力部72と、バイアス信号の設定値を調整する設定部73と、バイアス信号としてアナログ電圧をバイアス部41に与えるためのD/A変換部74と、を有する。尚、D/A変換部74は、必須の構成ではなく、実施の態様に応じて適宜用いられる。
【0097】
信号入力部72は、A/D変換部43から出力される信号を設定部73に送信するためのインターフェースである。
【0098】
設定部73は、CPU,ROM,RAMを含むコンピュータである。設定部73は、信号入力部72及び、D/A変換部74とデータ通信可能に接続されている。したがって、設定部73は、信号入力部72に入力された信号に基づく設定値をD/A変換部74を介してバイアス部41に入力可能である。
【0099】
設定部73は、信号入力部72に入力される信号に基づいて、その信号と絶対値が同じでありかつ、正負が異なる値を設定値として設定するとよい。設定部73がこのように設定値を設定することにより、A/D変換部43から出力される信号の値がゼロに近づけることができる。したがって、本実施形態の漏洩磁気検査装置100によれば、励磁器20の構成によって異なる磁気勾配の特性に応じて、適正なバイアス信号の設定値が自動的に設定することができる。
【0100】
尚、設定部73による設定は、欠陥のないストリップSPを用いて行われるとよい。言い換えると、バイアス信号設定部71は、欠陥を有しないストリップSPを磁化させた際の検出器31~36ごとの信号を取得し、当該信号に基づいて、バイアス信号を設定する。
【0101】
また、自動的に設定されたバイアス信号の設定値は、例えばバイアス信号設定部71に備える記憶部(図示せず)に格納するとよい。設定部73は、ストリップSPの欠陥の検査の際(操業の際)に記憶部で保持されている当該設定値を読み出し、その設定値を用いてバイアス信号を設定するようにしてもよい。このように設定値が設定されることで、アンプ部42において信号を増幅させても信号が飽和することを抑止することができ、欠陥の検出の感度を高めることができる。
【0102】
尚、欠陥の検査が実行されている操業の際には、設定部73は、記憶部(図示せず)に保持されている設定値を用いて設定するとよい。このようにした場合であっても、信号入力部72は、アンプ部42により増幅処理された検出器31~36ごとの信号の入力を受け付けるようにしてもよい。
【0103】
尚、欠陥検出ユニット40を構成する各機器に経時的な特性変化が生じ、磁気環境、すなわち、磁気勾配の特性が変化する場合がある。このため、漏洩磁気検査装置100が一定期間稼働した後には、バイアス信号の設定を行うとよい。例えば、漏洩磁気検査装置100が3か月程度継続して稼働した後に、バイアス信号の再設定を行うようにするとよい。このような再設定を行うために、設定部73は、バイアス信号の再設定を行う「再設定モード」と、設定された設定値を維持する「操業モード」とのモードの切り替えができるようにするとよい。
【0104】
本実施形態の漏洩磁気検査装置100によれば、第2実施形態と同様に、検出器31~36の出力をゼロに近づけるように個別に設定することができる。したがって、本実施形態の漏洩磁気検査装置100は、図5に示すような開口部OPにおいて直線状の磁気勾配が生じている場合だけでなく、図8に示す曲線状の磁束密度分布が生じる場合であっても、欠陥の検出の感度を良好にすることができる。言い換えれば、本実施形態の漏洩磁気検査装置100は、開口部OPに生じる磁気環境の影響を低減することにより、欠陥の検出の感度を良好にすることができる。
【0105】
また、第2実施形態と同様に、バイアス信号の設定値は、アンプ部42に接続された電圧計から出力に基づいて設定するとよい。例えば、バイアス信号の設定値は、アンプ部42からの出力と同じ絶対値で、正負が異なる値を設定してもよい。
【0106】
このように設定値を設定しても第2実施形態と同様に、検出器31~36などの素子やアンプ部42の温度変化によるドリフトやオフセットなどの外乱が発生しても、それらの影響を除去することができる。このため、アンプ部42は、安定的に増幅を行うことが可能となる。
【0107】
尚、本実施形態においては、A/D変換部43によって変換されたデジタル信号が入力されるようにしたが、アンプ部42によって増幅されたアナログ信号が信号入力部72に入力されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0108】
100 漏洩磁気検査装置
10 搬送部
20 励磁器
21a 脚部
31~36 検出器
40 欠陥検出ユニット
41 バイアス部
42 アンプ部
45 欠陥判定部
46 バイアス信号設定部
61 バイアス信号設定部
62 設定情報入力部
71 バイアス信号設定部
72 信号入力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9