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特開2023-182088信号処理装置、および、レーダシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182088
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】信号処理装置、および、レーダシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/34 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G01S13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095493
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 延正
(72)【発明者】
【氏名】神野 真吾
(72)【発明者】
【氏名】小林 佳枝
(72)【発明者】
【氏名】榎並 達也
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB19
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD02
5J070AE01
5J070AE09
5J070AF03
5J070AH31
5J070AH35
5J070AH40
5J070AH45
5J070AK35
(57)【要約】
【課題】ビート信号に含まれる干渉成分を周波数領域で除去する場合に、より広い周波数域で干渉成分を除去できる技術を提供する。
【解決手段】信号処理装置200は、時間領域のビート信号Bwを周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の第1信号Bwf1にフーリエ変換し、第1信号の各正の周波数成分を順番に適応フィルタ221の主要入力信号とし、対応する各負の周波数成分を順番に適応フィルタの参照入力信号として、主要入力信号および参照入力信号に基づく出力信号を出力する適応処理を実行し、適応処理において、FIRフィルタ222によって参照入力信号を処理するFIRフィルタ処理と、出力信号として主要入力信号とFIR処理によって処理された参照入力信号との残差を出力する出力処理と、残差に基づいてタップ係数を更新する更新処理とを実行し、タップ係数を更新するためのステップサイズパラメータをビン番号に基づいて変化させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号処理装置(200)であって、
送信波を反射した物標(OB)からの反射波を受信して得られる受信信号(Dw)と、前記送信波を送信するための送信信号(Tw)と、が直交ミキサ(105)でミキシングされることによって生成される時間領域の信号を表すビート信号(Bw)を、周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の第1信号(Bwf1)にフーリエ変換する変換部(210)と、
FIRフィルタ(222)を含む適応フィルタ(221)を有し、前記第1信号から干渉信号成分(IFIf)が除去された干渉除去後信号(Ts)を生成する処理部(220)と、を備え、
前記処理部は、前記第1信号の各正の周波数成分を順番に前記適応フィルタの主要入力信号とし、各正の周波数成分と対応する前記第1信号の各負の周波数成分を順番に前記適応フィルタの参照入力信号として、前記主要入力信号および前記参照入力信号に基づく出力信号を出力する適応処理を実行し、
前記処理部は、前記適応処理において、
前記FIRフィルタによって前記参照入力信号を処理するFIRフィルタ処理と、
前記出力信号として、前記主要入力信号と、前記FIRフィルタ処理によって処理された前記参照入力信号と、の残差を出力する出力処理と、
前記残差に基づいて、前記FIRフィルタのタップ係数を更新する更新処理と、を実行し、
前記タップ係数を更新するためのステップサイズパラメータを、前記第1信号の周波数ビンのビン番号に基づいて変化させる、
信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記処理部は、前記ステップサイズパラメータを、前記ビン番号に対して単調増加させる、信号処理装置。
【請求項3】
信号処理装置(200)であって、
送信波を反射した物標(OB)からの反射波を受信して得られる受信信号(Dw)と、前記送信波を送信するための送信信号(Tw)と、が直交ミキサ(105)でミキシングされることによって生成される時間領域の信号を表すビート信号(Bw)を、周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の第1信号(Bwf1)にフーリエ変換する変換部(210)と、
FIRフィルタ(222)を含む適応フィルタ(221)を有し、前記第1信号から干渉信号成分(IFIf)が除去された干渉除去後信号(Ts)を生成する処理部(220)と、を備え、
前記処理部は、前記第1信号の各正の周波数成分を順番に前記適応フィルタの主要入力信号とし、各正の周波数成分と対応する前記第1信号の各負の周波数成分を順番に前記適応フィルタの参照入力信号として、前記主要入力信号および前記参照入力信号に基づく出力信号を出力する適応処理を実行し、
前記処理部は、前記適応処理において、
前記FIRフィルタによって前記参照入力信号を処理するFIRフィルタ処理と、
前記出力信号として、前記主要入力信号と、前記FIRフィルタ処理によって処理された前記参照入力信号と、の残差を出力する出力処理と、
前記残差に基づいて、前記FIRフィルタのタップ係数を更新する更新処理と、を実行し、
前記第1信号の次の周波数ビンの正の周波数成分を前記主要入力信号とする前に、前記第1信号の現在の周波数ビンに関して、更新された前記タップ係数を用いて前記FIRフィルタ処理と前記出力処理と前記更新処理とを実行する再計算処理を、予め定められた回数だけ実行する、信号処理装置。
【請求項4】
信号処理装置(200)であって、
送信波を反射した物標(OB)からの反射波を受信して得られる受信信号(Dw)と、前記送信波を送信するための送信信号(Tw)と、が直交ミキサ(105)でミキシングされることによって生成される時間領域の信号を表すビート信号(Bw)を、周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の第1信号(Bwf1)にフーリエ変換する変換部(210)と、
FIRフィルタ(222)を含む適応フィルタ(221)を有し、前記第1信号から干渉信号成分(IFIf)が除去された干渉除去後信号(Ts)を生成する処理部(220)と、を備え、
前記処理部は、前記第1信号の各正の周波数成分を順番に前記適応フィルタの主要入力信号とし、各正の周波数成分と対応する前記第1信号の各負の周波数成分を順番に前記適応フィルタの参照入力信号として、前記主要入力信号および前記参照入力信号に基づく出力信号を出力する適応処理を実行し、
前記処理部は、前記適応処理において、
前記FIRフィルタによって前記参照入力信号を処理するFIRフィルタ処理と、
前記出力信号として、前記主要入力信号と、前記FIRフィルタ処理によって処理された前記参照入力信号と、の残差を出力する出力処理と、
前記残差に基づいて、前記FIRフィルタのタップ係数を更新する更新処理と、を実行し、
前記適応処理として、近距離に相当する周波数ビンから遠距離に相当する周波数ビンに向かうように順に、前記第1信号の正の周波数成分を前記主要入力信号とする第1適応処理と、中距離に相当する周波数ビンから前記近距離に相当する周波数ビンに向かうように順に、前記第1信号の正の周波数成分を前記主要入力信号とする第2適応処理と、を実行し、
前記第1適応処理の出力処理によって出力される信号と、前記第2適応処理の出力処理によって出力される信号と、が接合された信号を、前記干渉除去後信号として出力する、
信号処理装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の信号処理装置であって、
前記変換部は、前記ビート信号を、周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の第2信号(Bwf2)にフーリエ変換し、
前記処理部は、前記第2信号の、予め定められた周波数より高い周波数域を表す高周波域における正の周波数成分と負の周波数成分との信号強度差が、予め定められた基準値以下であるか否かを判定する判定処理を実行し、
前記信号強度差が前記基準値以下である場合に、前記適応処理を実行する、信号処理装置。
【請求項6】
レーダシステム(100)であって、
請求項1から4のいずれか一項に記載の信号処理装置と、
前記送信信号に基づいて前記物標に前記送信波を送信する送信部(102)と、
前記受信信号を受信する受信部(103)と、
前記直交ミキサと、
前記出力信号に基づいて前記物標を測定する測定部と、を備える、レーダシステム。
【請求項7】
レーダシステム(100)であって、
請求項5に記載の信号処理装置と、
前記送信信号に基づいて前記物標に前記送信波を送信する送信部(102)と、
前記受信信号を受信する受信部(103)と、
前記直交ミキサと、
前記出力信号に基づいて前記物標を測定する測定部と、を備える、レーダシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号処理装置、および、レーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
物標に電磁波として送信された送信信号と、物標に反射された電磁波が受信された受信信号とのミキシングによって得られるビート信号に基づいて物標を測定するレーダシステムにおいて、ビート信号に他のレーダシステムの送信信号の干渉による干渉信号が生じる場合がある。非特許文献1には、複素信号として表されたビート信号に含まれる干渉信号を、干渉信号の正の周波数成分と負の周波数成分との相関性を利用して、適応フィルタによって周波数領域で除去する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Feng Jin, Siyang Cao “Automotive Radar Interference Mitigation Using Adaptive Noise Canceller”, IEEE TRANSACTIONS ON VEHICULAR TECHNOLOGY, VOL. 68, NO. 4, APRIL 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の技術では、近傍領域に対応する周波数域において効果的に干渉成分を除去できるが、より近い超近傍領域や、遠方領域に対応する周波数域においては、十分に干渉成分を除去できない場合がある。そのため、より広い周波数域で干渉成分を除去することについて、更なる改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の第1の形態によれば、信号処理装置(200)が提供される。この信号処理装置は、送信波を反射した物標(OB)からの反射波を受信して得られる受信信号(Dw)と、前記送信波を送信するための送信信号(Tw)と、が直交ミキサ(105)でミキシングされることによって生成される時間領域の信号を表すビート信号(Bw)を、周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の第1信号(Bwf1)にフーリエ変換する変換部(210)と、FIRフィルタ(222)を含む適応フィルタ(221)を有し、前記第1信号から干渉信号成分(IFIf)が除去された干渉除去後信号(Ts)を生成する処理部(220)と、を備える。前記処理部は、前記第1信号の各正の周波数成分を順番に前記適応フィルタの主要入力信号とし、各正の周波数成分と対応する前記第1信号の各負の周波数成分を順番に前記適応フィルタの参照入力信号として、前記主要入力信号および前記参照入力信号に基づく出力信号を出力する適応処理を実行する。前記処理部は、前記適応処理において、前記FIRフィルタによって前記参照入力信号を処理するFIRフィルタ処理と、前記出力信号として、前記主要入力信号と、前記FIRフィルタ処理によって処理された前記参照入力信号と、の残差を出力する出力処理と、前記残差に基づいて、前記FIRフィルタのタップ係数を更新する更新処理と、を実行し、前記タップ係数を更新するためのステップサイズパラメータを、前記第1信号の周波数ビンのビン番号に基づいて変化させる。
【0007】
このような形態によれば、遠方に対応する周波数域において、残差を小さくできる可能性が高まる。そのため、遠方に対応する周波数域において、第1信号から干渉信号成分を効果的に除去できる可能性が高まる。
【0008】
本開示の第2の形態によれば、信号処理装置(200)が提供される。この信号処理装置は、送信波を反射した物標(OB)からの反射波を受信して得られる受信信号(Dw)と、前記送信波を送信するための送信信号(Tw)と、が直交ミキサ(105)でミキシングされることによって生成される時間領域の信号を表すビート信号(Bw)を、周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の第1信号(Bwf1)にフーリエ変換する変換部(210)と、FIRフィルタ(222)を含む適応フィルタ(221)を有し、前記第1信号から干渉信号成分(IFIf)が除去された干渉除去後信号(Ts)を生成する処理部(220)と、を備える。前記処理部は、前記第1信号の各正の周波数成分を順番に前記適応フィルタの主要入力信号とし、各正の周波数成分と対応する前記第1信号の各負の周波数成分を順番に前記適応フィルタの参照入力信号として、前記主要入力信号および前記参照入力信号に基づく出力信号を出力する適応処理を実行する。前記処理部は、前記適応処理において、前記FIRフィルタによって前記参照入力信号を処理するFIRフィルタ処理と、前記出力信号として、前記主要入力信号と、前記FIRフィルタ処理によって処理された前記参照入力信号と、の残差を出力する出力処理と、前記残差に基づいて、前記FIRフィルタのタップ係数を更新する更新処理と、を実行し、前記第1信号の次の周波数ビンの正の周波数成分を前記主要入力信号とする前に、前記第1信号の現在の周波数ビンに関して、更新された前記タップ係数を用いて前記FIRフィルタ処理と前記出力処理と前記更新処理とを実行する再計算処理を、予め定められた回数だけ実行する。
【0009】
このような形態によれば、再計算処理を実行しない場合と比較して、タップ係数を更新する回数を増やすことができる。そのため、遠方に対応する周波数域において、第1信号から干渉信号成分を効果的に除去できる可能性が高まる。
【0010】
本開示の第3の形態によれば、信号処理装置(200)が提供される。この信号処理装置は、送信波を反射した物標(OB)からの反射波を受信して得られる受信信号(Dw)と、前記送信波を送信するための送信信号(Tw)と、が直交ミキサ(105)でミキシングされることによって生成される時間領域の信号を表すビート信号(Bw)を、周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の第1信号(Bwf1)にフーリエ変換する変換部(210)と、FIRフィルタ(222)を含む適応フィルタ(221)を有し、前記第1信号から干渉信号成分(IFIf)が除去された干渉除去後信号(Ts)を生成する処理部(220)と、を備える。前記処理部は、前記第1信号の各正の周波数成分を順番に前記適応フィルタの主要入力信号とし、各正の周波数成分と対応する前記第1信号の各負の周波数成分を順番に前記適応フィルタの参照入力信号として、前記主要入力信号および前記参照入力信号に基づく出力信号を出力する適応処理を実行する。前記処理部は、前記適応処理において、前記FIRフィルタによって前記参照入力信号を処理するFIRフィルタ処理と、前記出力信号として、前記主要入力信号と、前記FIRフィルタ処理によって処理された前記参照入力信号と、の残差を出力する出力処理と、前記残差に基づいて、前記FIRフィルタのタップ係数を更新する更新処理と、を実行し、前記適応処理として、近距離に相当する周波数ビンから遠距離に相当する周波数ビンに向かうように順に、前記第1信号の正の周波数成分を前記主要入力信号として入力する第1適応処理と、中距離に相当する周波数ビンから前記近距離に相当する周波数ビンに向かうように順に、前記第1信号の正の周波数成分を前記主要入力信号として入力する第2適応処理と、を実行し、前記第1適応処理の出力処理によって出力される信号と、前記第2適応処理の出力処理によって出力される信号と、が接合された信号を、前記干渉除去後信号として出力する。
【0011】
このような形態によれば、干渉除去後信号に、残差の収束過程による影響が生じることを抑制できる。そのため、例えば、単に、近距離に相当する周波数ビンから遠距離に相当する周波数ビンに向かうように順に第1信号の周波数成分を適応処理によって処理する場合と比較して、超近傍に対応する周波数域において、第1信号から干渉信号成分を効果的に除去できる可能性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態におけるレーダ装置の概略構成を示す説明図。
図2】ミキシング前の高周波信号とミキシング後のビート信号との例を示す説明図。
図3】第1実施形態における干渉信号処理のフローチャート。
図4】第1信号の例を示す説明図。
図5】ビート信号に窓関数が乗算された様子を示す第1の説明図。
図6】ビート信号に窓関数が乗算された様子を示す第2の説明図。
図7】適応処理のフローチャート。
図8】適応フィルタの説明図。
図9】FIRフィルタの説明図。
図10】ステップサイズパラメータとビン番号との関係を示す説明図。
図11】出力信号の接合を説明する図。
図12】適応処理のシミュレーション結果を示す図。
図13】第2実施形態における干渉信号処理のフローチャート。
図14】ビート信号の端部に干渉信号が生じた例を示す説明図。
図15】第3実施形態における干渉信号処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.第1実施形態:
図1に示したレーダシステム100は、例えば、自動車や二輪車等の車両に搭載され、物標OBを測定する。物標OBとは、例えば、歩行者や、他の車両、道路上の障害物のことを指す。「物標OBを測定する」とは、例えば、レーダシステム100が搭載された自己の車両と物標OBとの間の距離や角度、自己の車両に対する物標OBの相対速度を測定することを指す。本実施形態におけるレーダシステム100は、FCM(Fast-Chirp Modulation)方式によって物標OBを測定するミリ波レーダによって構成されている。
【0014】
図1に示すように、レーダシステム100は、信号生成部101、送信部102、受信部103、直交ミキサ105を有するビート信号生成部104、および、信号処理装置200を備えている。
【0015】
信号生成部101は、例えば、PLL(Phase Locked Loop)回路によって構成され、送信信号Twを生成する。本実施形態における信号生成部101は、送信信号Twとして、周波数が時間に対して線形なチャープ信号を連続的に生成する。
【0016】
送信部102は、送信信号Twを電磁波Ewとして空間に放射するアンテナとして構成され、パワーアンプPAによって増幅された送信信号Twを電磁波Ewとして放射する。受信部103は、物標OBで反射した電磁波Ewを、受信信号Dwとして受信するアンテナとして構成されている。以下では、送信信号Twによって送信された電磁波Ewのことを、送信波とも呼ぶ。また、物標OBによって反射された電磁波Ewのことを、反射波とも呼ぶ。
【0017】
ビート信号生成部104は、ビート信号Bwを生成する。ビート信号Bwは、受信信号Dwと送信信号Twとが直交ミキサ105でミキシングされることによって生成される時間領域の複素信号を表す。ビート信号生成部104は、直交ミキサ105に加え、ローパスフィルタによって構成されたフィルタ部106と、アナログデジタル変換器(ADC:Analog-to-Digital Converter)によって構成されたアナログデジタル変換部107とを有している。
【0018】
本実施形態では、ビート信号生成部104は、信号BwIと信号BwQとを生成する。信号BwIは、送信信号Twと同位相の局部発振信号LOと、低ノイズアンプLNAによって増幅された受信信号Dwとがミキシングされた信号に基づく信号である。信号BwQは、送信信号Twに対して位相を90°遅らせた局部発振信号LOと、同様に増幅された受信信号Dwとがミキシングされた信号に基づく信号である。フィルタ部106は、直交ミキサ105の出力信号から高周波成分を減衰させ、アナログデジタル変換部107におけるエイリアシングを抑制する。アナログデジタル変換部107は、フィルタ部106によって処理された信号を、時間領域のデジタル信号に変換して出力する。このようにビート信号生成部104によって出力される信号BwIは、ビート信号Bwの実数部に相当し、信号BwQは、ビート信号Bwの虚数部に相当する。
【0019】
図2は、横軸を時間とし、縦軸を周波数とする模式的なグラフである。図2には、ビート信号Bwの例と、そのビート信号Bwの生成に用いられた局部発振信号LOおよび受信信号Dwの例と、が示されている。図2では、受信信号Dwは、所望信号Dwpと、混入信号Iwとによって、模式的に表されている。混入信号Iwは、他の車両に搭載されたレーダシステム等から送信された電磁波が受信信号Dwに入り込むことによって生じる。また、図2では、ビート信号Bwは、物標OBに由来する所望信号IFOと、混入信号Iwに由来する干渉信号IFIとによって、模式的に表されている。図2に示すように、所望信号IFOは、周波数として正の周波数のみを有する信号である。より詳細には、所望信号IFOは、物標OBに応じた、ある特定の正の周波数のみを有している。これに対して、干渉信号IFIは、正負両方の周波数を有する信号である。干渉信号IFIは、局部発振信号LOと混入信号Iwとが交差する時間Tcに対して対称性を有しており、干渉信号IFIの正の周波数域の時間波形と、負の周波数域の時間波形とは略対称である。
【0020】
信号処理装置200は、CPUと、記憶部と、外部との信号の入出力を行う入出力インターフェイスとを備えるコンピュータとして構成されている。
【0021】
信号処理装置200は、変換部210と、処理部220と、測定部230とを備える。本実施形態における変換部210と処理部220と測定部230とは、信号処理装置200の記憶部に記憶されたプログラムをCPUが実行することによって実現される機能部である。他の実施形態では、変換部210や処理部220、測定部230は、例えば、CPUからの指示によって動作する、信号処理装置200とは別体の装置として構成されていてもよい。また、信号処理装置200の機能の一部や全部が、例えば、ハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0022】
変換部210は、上述した複素時間波形であるビート信号Bwを、第1信号Bwf1にフーリエ変換する。より詳細には、変換部210は、ビート信号Bwを、第1信号Bwf1に高速フーリエ変換する。第1信号Bwf1とは、ビート信号Bwの周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の信号のことを指す。本実施形態では、ビート信号Bwの周波数ビンの数は、1024個である。
【0023】
処理部220は、第1信号Bwf1から、第1信号Bwf1に含まれる干渉信号成分IFIfが除去された干渉除去後信号Tsを生成する。処理部220は、FIR(Finite Impulse Response)フィルタ222を含む適応フィルタ221を有している。適応フィルタ221やFIRフィルタ222の詳細については後述する。
【0024】
測定部230は、後述するように、生成された干渉除去後信号Tsに基づいて、物標OBを測定する。
【0025】
本実施形態における信号処理装置200は、図3に示した干渉信号処理を実行することによって、上述した干渉除去後信号Tsを生成する。本実施形態では、干渉信号処理は、信号処理装置200にビート信号Bwが入力されるたびに実行される。より詳細には、本実施形態では、送信部102によって複数の一連の送信信号Twが1セットのチャープ信号群として送信され、それらの送信信号Twに対応して複数のビート信号Bwが生成されて信号処理装置200に入力される。チャープ信号群は、通常、2の累乗数個のチャープ信号によって構成され、例えば、512個のチャープ信号によって構成される。
【0026】
ステップS110にて、変換部210は、ビート信号Bwを、第1信号Bwf1にフーリエ変換する。変換部210は、ステップS110では、ビート信号Bwに窓関数(例えば、ハニング窓や、ハミング窓、ブラックマン窓)を積算した後に、その窓関数が乗算された信号を高速フーリエ変換することで、第1信号Bwf1を生成する。
【0027】
図4は、横軸を周波数とし、縦軸を振幅とする模式的なグラフである。図4には、第1信号Bwf1の例が示されている。図4には、第1信号Bwf1の例として、図2で説明したビート信号Bwに由来する信号が示されている。図4では、第1信号Bwf1は、物標OBに由来する所望信号成分IFOfと、干渉信号成分IFIfとによって表されている。図4に示すように、第1信号Bwf1は、正の周波数における周波数成分を表す正の周波数成分と、負の周波数における周波数成分を表す負の周波数成分とを含む。なお、技術の理解を容易にするために、図4には第1信号Bwf1の周波数成分として振幅のみを示したが、第1信号Bwf1は複素信号であるので、実際には、周波数成分として、振幅に加え位相を有する。
【0028】
第1信号Bwf1における周波数ビンの番号のことを、ビン番号nとも呼ぶ。第1信号Bwf1において、互いに対応する正の周波数ビンおよび負の周波数ビンには、同一のビン番号nが付与される。この「互いに対応する周波数ビン」とは、周波数の絶対値が互いに同じである正の周波数ビンおよび負の周波数ビンのことを指す。図4には、ビン番号nが模式的に示されている。図4に示すように、正の周波数ビンおよび負の周波数ビンには、それぞれ、周波数の絶対値が小さい周波数ビンから大きい周波数ビンへと順に、1ずつ増える連続番号が付与される。以下では、「互いに対応する周波数ビン」を有する正の周波数成分や負の周波数成分のことを、単に、「負の周波数成分に対応する正の周波数成分」や、「正の周波数成分に対応する負の周波数成分」とも呼ぶ。
【0029】
上述したように、複素時間波形であるビート信号Bwに含まれる干渉信号IFIの正の周波数域と負の周波数域とは略対称であり相関するため、ビート信号Bwをフーリエ変換した第1信号Bwf1に含まれる干渉信号成分IFIfの正の周波数成分と負の周波数成分ともまた相関する。より詳細には、干渉信号成分IFIfの正の周波数成分と負の周波数成分とは、周波数位置のゼロ位置に対して略対称である。なお、図4には示されていないが、干渉信号成分IFIfの、互いに対応する正の周波数成分と負の周波数成分との差は、実際には、より高い周波数域においてより大きくなる。そのため、干渉信号成分IFIfの正の周波数成分と負の周波数成分とは、全体として周波数のゼロ位置に対して略対称であるが、より高い周波数域では、その対称性がやや低くなる。
【0030】
図5および図6は、横軸を時間とし、縦軸を振幅とする模式的なグラフである。図5には、ビート信号Bwの時間Tcより早い側に干渉信号IFIが生じている場合に、ビート信号Bwにハニング窓が乗算された様子が示されている。図6には、時間Tcに干渉信号IFIが生じている場合に、ビート信号Bwにハニング窓が乗算された様子が示されている。図5および図6に示すように、ビート信号Bwへの窓関数の乗算によって、ビート信号Bwの時間位置の端に近いほど、ビート信号Bwの信号強度が減少する。より詳細には、図5には、ビート信号Bwに含まれる干渉信号IFIのより早い側の強度が、窓関数の乗算によって、より遅い側の強度よりも減少した様子が示されている。つまり、図5では、干渉信号IFIの正の周波数域の強度は、負の周波数域の強度よりも低い。また、図5の例とは逆に、例えば、ビート信号Bwの時間Tcより遅い側に干渉信号IFIが生じている場合には、ビート信号Bwにハニング窓等の窓関数を乗算することにより、干渉信号IFIの負の周波数域の強度が正の周波数域の強度よりも減少する。そのため、ビート信号Bwの時間Tcより早い側、あるいは遅い側に干渉信号IFIが生じている場合、このビート信号Bwから生成される第1信号Bwf1における干渉信号成分IFIfのより高い周波数域における正の周波数成分と負の周波数成分との差は、より大きくなる。
【0031】
図3のステップS120にて、処理部220は、第1信号Bwf1の干渉信号成分IFIfの強度が、所定の強度以上であるか否かを判定する。本実施形態では、処理部220は、ステップS120において、第1信号Bwf1の負の周波数域における電力の積算値が、予め定められた基準電力値以上であるか否かを判定する。なお、他の実施形態では、処理部220は、ステップS120において、例えば、第1信号Bwf1の負の周波数域における振幅の積算値が、予め定められた基準振幅以上であるか否かを判定してもよい。
【0032】
ステップS120で電力の積算値が基準電力値以上であると判定された場合、つまり、干渉信号成分IFIfの強度が所定の強度以上であると判定された場合、ステップS130にて、処理部220は、適応処理を実行する。適応処理とは、第1信号Bwf1の各正の周波数成分を順番に適応フィルタ221の主要入力信号とし、各正の周波数成分と対応する負の周波数成分を順番に適応フィルタ221の参照入力信号として、主要入力信号および参照入力信号に基づく出力信号を出力する処理のことを指す。適応フィルタ221の主要入力信号は、観測信号や主信号、主入力とも呼ばれ、適応フィルタ221のP端子に入力される。適応フィルタ221の参照入力信号は、参照信号や参照入力とも呼ばれ、適応フィルタ221のN端子に入力される。適応処理の適応アルゴリズムとしては、例えば、最小平均二乗(LMS:Least Mean Square)アルゴリズムや、正規化最小平均二乗(NLMS:Normalized Least Mean Square)アルゴリズム、再帰的最小二乗(RLS:Recursive Least Square)アルゴリズムが用いられる。
【0033】
図3に示すように、本実施形態では、処理部220は、適応処理として、第1適応処理と、第2適応処理とを実行する。第1適応処理と第2適応処理とでは、周波数ビンが処理される順番がそれぞれ異なる。より詳細には、第1適応処理では、処理部220は、近距離に相当する周波数ビンから遠距離に相当する周波数ビンに向かうように順に、正の周波数成分を適応フィルタ221の主要入力信号とする。第2適応処理では、処理部220は、中距離に相当する周波数ビンから近距離に相当する周波数ビンに向かうように順に、負の周波数成分を適応フィルタ221の主要入力信号とする。中距離とは、近距離よりも遠く、遠距離よりも近い距離のことを指す。遠距離とは、近距離および中距離よりも遠い距離のことを指す。より小さいビン番号nを有する周波数ビンは、より近い距離に相当する周波数ビンであり、より大きいビン番号nを有する周波数ビンは、より遠い距離に相当する周波数ビンである。以下では、第1適応処理と第2適応処理とを特に区別しない場合、両者を単に適応処理とも呼ぶ。
【0034】
本実施形態では、処理部220は、第1適応処理では、最も近い距離に相当する周波数ビンから最も遠い距離に相当する周波数ビンに向かうように順に、正の周波数成分を処理する。つまり、例えば、周波数ビンの数が1024個である場合、処理部220は、第1適応処理において、ビン番号が1番の周波数ビンから、ビン番号が1024番の周波数ビンに向かうように順に、正の周波数成分を処理する。
【0035】
処理部220は、適応処理において、図7に示した各ステップを実行する。本実施形態では、処理部220は、1つの周波数ビンに関して、図10に示したステップS131~ステップS135を複数回繰り返し実行する。
【0036】
図7に示すように、適応処理では、まず、ステップS131にて、処理部220は、FIRフィルタ処理を実行する。FIRフィルタ処理とは、FIRフィルタ222によって、
適応フィルタ221の参照入力信号を処理する処理のことを指す。
【0037】
図8に示すように、ビン番号nの負の周波数成分N(n)がFIRフィルタ222に入力されることによって、出力成分y(n)が出力される。出力成分y(n)は、FIRフィルタ処理によって処理された参照入力信号であるとも言える。出力成分y(n)は、下記式(1)によって表される。
y(n)=w(n)X …(1)
上記式(1)におけるXは入力ベクトルを表す。w(n)は、FIRフィルタ222のタップ係数を表す。添え字Tは、ベクトルの転置を表す。タップ係数w(n)は、FIRフィルタ係数とも呼ばれる。
【0038】
図9に示すように、FIRフィルタ222は、タップ数Lの直接型のフィルタとして構成されている。上述した入力ベクトルXは、成分として負の周波数成分N(n)~N(n-(L-1))を有するL次のベクトルである。タップ係数w(n)は、成分としてw(n)~w(n)を有するL次のベクトルである。図9に示すように、FIRフィルタ222は、入力ベクトルXにタップ係数w(n)を畳み込む。これにより、FIRフィルタ222の出力成分y(n)として、FIRフィルタ222の各タップにおける、入力ベクトルXの成分と、タップ係数w(n)の成分との積の和が出力される。なお、他の実施形態では、FIRフィルタ222は、転置型や、縦続型、格子型のフィルタとして構成されていてもよい。
【0039】
次に、図7のステップS132にて、処理部220は、出力処理を実行する。出力処理とは、図8に示した適応フィルタ221の出力信号として、適応フィルタ221の主要入力信号と、FIRフィルタ処理によって処理された参照入力信号との残差ε(n)を出力する処理のことを指す。つまり、出力処理では、残差ε(n)として、ビン番号nの周波数ビンにおける正の周波数成分P(n)と出力成分y(n)との残差が出力される。以下では、残差ε(n)のことを出力信号ε(n)とも呼ぶ。出力信号ε(n)は、図8に示すように減算器223によって生成される。出力信号(n)は、下記式(2)によって表される。
ε(n)=P(n)-y(n) …(2)
【0040】
次に、図7のステップS133にて、処理部220は、更新処理を実行する。更新処理とは、残差ε(n)に基づいて、上述した適応アルゴリズムを用いて、タップ係数w(n)を更新する処理のことを指す。タップ係数w(n)は、下記式(3)を用いて更新される。
(n)=w(n)+με(n)X …(3)
上記式(3)におけるwは、更新後のタップ係数を表す。μは、タップ係数w(n)を更新するためのステップサイズパラメータを表す。Xは、入力ベクトルXの複素共役を表す。
【0041】
本実施形態では、処理部220は、ステップサイズパラメータμを、ビン番号nに基づいて変化させる。より詳細には、処理部220は、ステップサイズパラメータμを、ビン番号nに対して全体として増加させる。より具体的には、本実施形態では、処理部220は、ステップサイズパラメータμを、ビン番号nに対して単調増加させる。図10に示すように、本実施形態におけるステップサイズパラメータμは、ビン番号nに対して正の傾きを有する一次関数として定義されている。なお、本明細書において、単調増加とは、ある変数が他の変数に対して減少することなく増加することを指す。そのため、他の実施形態において、ステップサイズパラメータμをビン番号nに対して単調増加させる場合、ステップサイズパラメータμは、例えば、ビン番号nに対して単調増加する二次関数や指数関数等として定義されてもよいし、ビン番号nに対して一定の値をとるステップ状の部分を有する関数として定義されてもよい。
【0042】
上述したように、干渉信号成分IFIfの正の周波数成分と負の周波数成分との差は、より高い周波数域においてより大きくなるので、例えば、ステップサイズパラメータμをビン番号nによらず一定とした場合、より低い周波数域においてタップ係数w(n)を適切に更新できても、より高い周波数域においてタップ係数w(n)の更新幅が不足し、タップ係数w(n)を適切に更新できない場合がある。これにより、より低い周波数域において残差ε(n)が比較的小さくても、より高い周波数域において残差ε(n)が大きくなる場合がある。本実施形態では、上記のようにステップサイズパラメータμをビン番号nに基づいて変化させるので、より高い周波数域においても、つまり、より遠い領域に対応する周波数域においても、タップ係数w(n)を適切に更新できる可能性が高まる。そのため、遠方領域に対応する周波数域において、残差ε(n)を小さくできる可能性が高まる。
【0043】
次に、図7のステップS134にて、処理部220は、再計算回数が予め定められた回数以上であるか否かを判定する。再計算回数とは、後述する再計算処理が実行された回数のことを指す。再計算回数は、周波数ビンごとにカウントされる。ある周波数ビンに関してステップS134が初めて実行された場合、再計算回数は0回である。本実施形態では、処理部220は、ステップS134において、再計算回数が2回以上であるか否かを判定する。
【0044】
ステップS134で再計算回数が2回未満であると判定された場合、処理部220は、ステップS131に処理を戻す。再度実行されるステップS131~ステップS133では、処理部220は、直前に更新されたタップ係数を用いて、FIRフィルタ処理と、出力処理と、更新処理とを再度実行する。
【0045】
例えば、ある周波数ビンに関して2回目に実行されるステップS131では、処理部220は、上記式(1)におけるタップ係数w(n)として、1回目に実行されたステップS133で更新されたタップ係数w(n)を用いる。同様に、2回目に実行されるステップS132では、処理部220は、上記式(2)における出力成分y(n)として、更新されたタップ係数w(n)を用いて算出された出力成分y(n)を用いて、出力信号ε(n)を出力する。同様に、2回目に実行されるステップS133では、処理部220は、上記式(3)におけるタップ係数w(n)として、更新されたタップ係数w(n)を用いて、タップ係数を更に更新する。
【0046】
このように、本実施形態では、処理部220は、第1信号Bwf1の次の周波数ビンの周波数成分を適応処理によって処理する前に、より詳細には、次の周波数ビンの正の周波数成分を適応フィルタ221の主要入力信号とする前に、更新されたタップ係数を用いて、現在の周波数ビンに対して、FIRフィルタ処理と更新処理と出力処理とを再度実行する処理である再計算処理を実行する。なお、第1適応処理における現在の周波数ビンのビン番号がnである場合、「次の周波数ビン」は、n+1番の周波数ビンである。第2適応処理における現在の周波数ビンのビン番号がnである場合、「次の周波数ビン」は、ビン番号がn-1番の周波数ビンである。
【0047】
ステップS134で再計算回数が2回以上であると判定された場合、処理部220は、ステップS135に処理を進める。つまり、本実施形態では、処理部220は、再計算処理を予め定められた回数だけ、より詳細には2回だけ実行する。本実施形態では、ある周波数ビンに関して、ステップS131~ステップS133が、計3回実行されるとも言える。他の実施形態では、再計算回数は、例えば、1回であっても3回以上であってもよい。ただし、再計算回数は、1回~3回であると好ましい。
【0048】
なお、本実施形態とは異なり、例えば、時間領域の信号を適応フィルタによってリアルタイムで処理する場合、上述した再計算処理と同様の処理を実行すること、つまり、1つの時間成分に対してFIRフィルタによる処理等を複数回実行することは、一般的に、時間的な制約により難しい。これに対して、本実施形態では、適応処理において、周波数領域の信号である第1信号Bwf1を処理するので、再計算処理を容易に実行できる。
【0049】
ステップS135にて、処理部220は、現在の周波数ビンが、適応処理における最後の周波数ビンであるか否かを判定する。処理部220は、最後の周波数ビンではないと判定した場合、ステップS131に処理を戻す。その後、次の周波数ビンに関して、同様に、ステップS131~ステップS134を実行する。処理部220は、ステップS135で最後の周波数ビンであると判定した場合、適応処理を終了させる。
【0050】
図3のステップS140にて、処理部220は、第1適応処理の出力信号、および、第2適応処理の出力信号を接合し、接合されて生成された信号を、干渉除去後信号Tsとして、測定部230へと出力する。
【0051】
図11の上部には、第1適応処理の出力信号の例としての信号Op1と、第2適応処理の出力信号の例としての信号Op2とが示されている。また、図11の上部には、第1適応処理および第2適応処理によって処理された第1信号Bwf1の例として、信号Bwf1aが示されている。図11の下部には、信号Op1と信号Op2とが接合された信号Ojが示されている。図11には、第1適応処理において最初に処理される周波数ビンSt1と、第2適応処理において最初に処理される周波数ビンSt2と、信号Op1と信号Op2とが接合される周波数ビンEとが示されている。なお、図11では、信号Op1、信号Op2、信号Bwf1a、および、信号Ojは、いずれも干渉信号成分IFIfのみによって表されているが、実際には、信号Op1と信号Op2との少なくとも一方、および、信号Bwf1a、信号Ojには、物標OBに由来する信号が含まれる。周波数ビンEのビン番号は、周波数ビンSt1のビン番号よりも大きく、周波数ビンSt2のビン番号よりも小さい。より詳細には、図11の例では、周波数ビンEのビン番号に対応する周波数位置は、信号Op2の極小点に相当し、後述する収束過程が終了する点に相当する。信号Ojは、周波数ビンEのビン番号以下の周波数域では、信号Op2と同様の周波数成分を有し、周波数ビンEのビン番号より大きい周波数域では、信号Op1と同様の周波数成分を有する信号として生成されている。
【0052】
一般に、適応処理における残差の収束には、ある程度の時間を要する。なお、本実施形態における適応処理のように、周波数領域の離散信号を処理する場合、「ある程度の時間」とは、「ある程度の周波数ビンの数」のことを指す。例えば、図11の例では、信号Op1の周波数ビンSt1付近の周波数域と、信号Op2の周波数ビンSt2付近の周波数域とには、残差ε(n)が比較的高い領域が存在する。この領域は、残差ε(n)が収束するまでの収束過程に対応する領域である。本実施形態では、信号Op1と信号Op2とを接合して信号Ojを生成し、この信号Ojを干渉除去後信号Tsとして出力するので、例えば、単一の出力信号からなる信号を干渉除去後信号Tsとして出力する場合と比較して、干渉除去後信号Tsに、こういった収束過程の影響が生じることを抑制できる。なお、例えば、第2適応処理に代えて、遠距離に相当する周波数ビンから近距離に相当する周波数ビンに向かうように順に正の周波数成分を適応フィルタ221の主要入力信号とする適応処理を実行した場合、上述したように、より高い周波数域では正の周波数成分と負の周波数成分との差が大きいので、残差ε(n)が収束せず発散する可能性がある。本実施形態における第2適応処理では、中距離に相当する周波数ビンから負の周波数成分を処理するので、このような残差ε(n)の発散を抑制できる。
【0053】
図12は、横軸を周波数ビンとし、縦軸を電力とするグラフである。図12では、負の周波数成分の周波数ビンのビン番号には、負の符号が付されている。図12は、上述した時間Tcに干渉信号IFIを含むビート信号Bwがフーリエ変換された信号Bwf1bを、適応処理で処理した場合のシミュレーション結果を示している。図12には、干渉除去後信号Tsとして、信号Bwf1bを、上述した適応処理によって処理することにより生成される信号Tsaのシミュレーション結果が示されている。また、図12には、同様の信号Bwf1aを、上述した適応処理とは別の適応処理で処理することによって生成される信号Tsbのシミュレーション結果が示されている。この別の適応処理とは、ビン番号が1番の周波数ビンから1024番の周波数ビンに向かうように順に、信号Bwf1aの各周波数成分を、ステップサイズパラメータμを一定とし、かつ、再計算処理を実行することなく処理する適応処理である。信号Bw1fbは、図4で説明した第1信号Bwf1と同様に、物標OBに由来する所望信号成分IFOfと、干渉信号成分IFIfとを含んでいる。図12の例では、所望信号成分IFOfは、ビン番号nが180の周波数ビンの位置付近に含まれている。信号Bwf1bの干渉信号成分IFIfは、全周波数域に亘って含まれている。
【0054】
図12に示すように、信号Bwf1bが干渉信号処理で処理されることによって、干渉信号成分IFIfが減少するため、信号Tsaにおける干渉信号成分IFIfに対する所望信号成分IFOfのS/N比は、信号Bw1faにおけるS/N比と比較して上昇する。また、図12に示すように、信号Tsaでは、信号Tsbと比較して、超近傍領域に対応する周波数域や遠方領域に対応する周波数域において、干渉信号成分IFIfが特に効果的に除去されたことがわかる。より詳細には、信号Tsaでは、信号Tsbと比較して、ビン番号が1~20の周波数位置、および、ビン番号が600以上の周波数位置において、干渉信号成分IFIfが効果的に低減したことがわかる。本実施形態では、ビン番号が1~20の周波数位置は、受信部103からの距離が約0m~6mの位置に相当する周波数位置であり、ビン番号が600以上の周波数位置は、受信部103からの距離が約180m以上の位置に相当する周波数位置である。
【0055】
処理部220は、ステップS140の後、干渉信号処理を終了させる。また、処理部220は、上述したステップS120で干渉信号成分IFIfの強度が所定の強度未満であると判定された場合にも、干渉信号処理を終了させる。この場合、第1信号Bwf1が、測定部230へと出力される。干渉信号成分IFIfの強度が所定の強度未満であると判定された場合、第1信号Bwf1における干渉信号成分IFIfの強度は、所望信号成分IFOfと比較して相対的に小さい。そのため、この場合、第1信号Bwf1を物標OBの測定に用いても、干渉信号成分IFIfによる影響が物標OBの測定結果に及ぶことが抑制される。
【0056】
測定部230は、上述した干渉信号処理によって生成された干渉除去後信号Tsに基づいて、物標OBの測定を実行する。本実施形態では、測定部230は、上述したチャープ信号群を構成する各信号に基づくビート信号Bwが干渉信号処理によって処理されることで生成される全ての干渉除去後信号Ts、および、干渉信号成分IFIfの強度が所定の強度未満であると判定された全ての第1信号Bwf1に基づいて、物標OBを測定する。この場合、測定部230は、例えば、これらの信号を個別に解析することによって物標OBを測定してもよいし、これらの信号を更にフーリエ変換した結果に基づいて物標OBを測定してもよい。
【0057】
以上で説明した本実施形態における信号処理装置200によれば、処理部220は、第1信号Bwf1の各正の周波数成分を順番に適応フィルタ221の主要入力信号とし、各正の周波数成分と対応する各負の周波数成分を順番に適応フィルタ221の参照入力信号として、主要入力信号に基づく出力信号を出力する適応処理において、FIRフィルタ222によって参照入力信号を処理するFIRフィルタ処理と、適応フィルタ221の出力信号として、適応フィルタ221の主要入力信号とFIRフィルタ222によって処理された参照入力信号との残差ε(n)を出力する出力処理と、残差ε(n)に基づいてタップ係数w(n)を更新する更新処理とを実行する。そして、処理部220は、タップ係数w(n)を更新するためのステップサイズパラメータμを、ビン番号nに基づいて変化させる。これにより、遠方領域に対応する周波数域において、残差ε(n)を小さくできる可能性が高まる。そのため、遠方領域に対応する周波数域において、第1信号Bwf1から干渉信号成分IFIfを効果的に除去できる可能性が高まる。
【0058】
また、本実施形態では、処理部220は、ステップサイズパラメータμを、ビン番号nに対して単調増加させる。これにより、干渉信号成分IFIfの正の周波数成分と負の周波数成分との差がより高い周波数域においてより大きくなるのに対応して、ステップサイズパラメータμを大きくできる。そのため、タップ係数w(n)をより適切に更新できる可能性が高まるので、遠方領域に対応する周波数域において、第1信号Bwf1から干渉信号成分IFIfを効果的に除去できる可能性がより高まる。
【0059】
また、本実施形態では、処理部220は、次の周波数ビンの正の周波数成分を適応フィルタ221の主要入力信号とする前に、更新されたタップ係数w(n)を用いて、現在の周波数ビンに関して、FIRフィルタ処理と出力処理と更新処理とを実行する再計算処理を、予め定められた回数だけ実行する。これにより、再計算処理を実行しない場合と比較して、タップ係数w(n)を更新する回数を増やすことができる。そのため、遠方領域に対応する周波数域において、第1信号Bwf1から干渉信号成分IFIfを効果的に除去できる可能性が高まる。
【0060】
また、本実施形態では、処理部220は、適応処理として、近距離に相当する周波数ビンから遠距離に相当する周波数ビンに向かうように順に、正の周波数成分を適応フィルタ221の主要入力信号とする第1適応処理と、中距離に相当する周波数ビンから近距離に相当する周波数ビンに向かうように順に、正の周波数成分を適応フィルタ221の主要入力信号とする第2適応処理とを実行する。処理部220は、第1適応処理の出力処理によって出力される信号Op1と、第2適応処理の出力処理によって出力される信号Op2とが接合された信号Ojを、干渉除去後信号Tsとして出力する。これにより、干渉除去後信号Tsに、残差ε(n)の収束過程による影響が生じることを抑制できる。そのため、例えば、単に、近距離に相当する周波数ビンから遠距離に相当する周波数ビンに向かうように順に第1信号の周波数成分を適応処理によって処理する場合と比較して、超近傍領域に対応する周波数域において、第1信号Bwf1から干渉信号成分IFIfを効果的に除去できる可能性が高まる。
【0061】
B.第2実施形態:
第2実施形態における信号処理装置200は、図13の干渉信号処理を実行する。図13では、第1実施形態で説明した図3と同様の工程には、図3と同じ符号が付されている。本実施形態における信号処理装置200は、干渉信号処理において、第1実施形態とは異なり、適応処理を実行する前に、後述する判定処理を実行する。第2実施形態におけるレーダシステム100や信号処理装置200の構成のうち、特に説明しない点については、第1実施形態と同様である。
【0062】
判定処理とは、図14の下部に示した第2信号Bwf2の高周波域における正の周波数成分と、高周波域における負の周波数成分との信号強度差が、予め定められた基準値以下であるか否かを判定する処理のことを指す。第2信号Bwf2は、ビート信号Bwが、周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の信号にフーリエ変換されることによって生成される。本明細書において、「高周波域」は、周波数の絶対値が予め定められた周波数より高い周波数域を表す。
【0063】
図13のステップS102にて、変換部210は、ビート信号Bwを第2信号Bwf2にフーリエ変換する。ステップS102では、変換部210は、ビート信号Bwにおける混入信号Iwに由来する干渉信号IFIの対称性を変化させないように、ビート信号Bwを第2信号Bwf2にフーリエ変換する。より詳細には、変換部210は、ステップS102において、ビート信号Bwに窓関数を積算することなく、ビート信号Bwをそのままフーリエ変換する。
【0064】
ステップS104にて、処理部220は、判定処理を実行する。本実施形態では、処理部220は、ステップS104において、高周波域における正の周波数成分の電力の積算値と、対応する周波数域における負の周波数成分の電力の積算値との差が、正の周波数成分の電力の積算値に対して10%以下であるか否かを判定する。処理部220は、ステップS104で電力の積算値の差が10%以下であると判定した場合、つまり、信号強度差が基準値以下であると判定した場合、図3で説明したのと同様に、ステップS110以降を実行する。
【0065】
ステップS104で電力の積算値の差が10%を超えると判定された場合、つまり、信号強度差が基準値より大きいと判定された場合、ステップS142にて、処理部220は、ビート信号Bwを第1信号Bwf1にフーリエ変換する。その後、処理部220は、干渉信号処理を終了させる。この場合、測定部230には、この第1信号Bwf1が測定部230に出力される。なお、本実施形態におけるステップS110やステップS142で第1信号Bwf1に変換されるビート信号Bwは、ステップS102で第2信号Bwf2に変換されるビート信号Bwと同様の信号である。
【0066】
図14の上部には、横軸を時間とし、縦軸を振幅とする模式的なグラフが示され、図14の下部には、横軸を周波数とし、縦軸を振幅とする模式的なグラフが示されている。図14の上部には、ビート信号Bwの時間位置における左端部、つまり、ビート信号Bwのより早い側の端部において、干渉信号IFIが生じた例が示されている。図14の下部には、このビート信号Bwがフーリエ変換されて生成された第2信号Bwf2の例が示されている。図14では、第2信号Bwf2は、図4で説明した第1信号Bwf1と同様に、所望信号成分IFOfと、干渉信号成分IFIfとによって表されている。
【0067】
図14に示すように、ビート信号Bwの端部に干渉信号IFIが生じた場合、干渉信号IFIの全部や一部が欠ける場合がある。より詳細には、図14の例では、図14の上部に示すように、干渉信号IFIの正の周波数域の信号の一部が欠けている。また、これにより、図14の下部に示すように、第2信号Bwf2に含まれる干渉信号成分IFIfの正の周波数成分の一部が欠けている。このように、ビート信号Bwの端に干渉信号IFIが生じた場合、第1信号Bwf1や第2信号Bwf2に含まれる干渉信号成分IFIfの正の周波数成分と負の周波数成分との対称性が低下する。そのため、この場合に、第1信号Bwf1に対して適応処理を実行すると、残差ε(n)が発散して収束しない可能性がある。本実施形態では、上述した判定処理によって、正の周波数成分と負の周波数成分との信号強度差に基づいて、正の周波数成分と負の周波数成分との対称性を判定できる。そして、信号強度差が基準値以下と判定された場合、つまり、正の周波数成分と負の周波数成分との対称性が高い場合に適応処理を実行し、逆の場合には適応処理を実行しないので、上記の適応処理における残差ε(n)の発散を抑制できる。上述した高周波域の範囲や、基準値の大きさは、例えば、正の周波数成分と負の周波数成分との対称性を適切に判定できるように定められると好ましい。
【0068】
また、図示は省略するが、ビート信号Bwの右端部、つまり、ビート信号Bwのより遅い側の端部において干渉信号IFIが生じた場合も上記と同様である。この場合、干渉信号IFIの負の周波数域の信号の一部や全部が欠けることにより、第1信号Bwf1や第2信号Bwf2に含まれる干渉信号成分IFIfの負の周波数成分の一部や全部が欠ける。
【0069】
なお、上述したように、ビート信号Bwに窓関数を乗じることによりビート信号Bwの端側における信号強度は低下するので、ビート信号Bwの時間位置の端部に干渉信号IFIが生じた場合、ビート信号Bwにハニング窓等の窓関数を乗じることで、ビート信号Bwの時間Tcに干渉信号IFIが生じた場合と比較して、干渉信号IFIの振幅をより減少させることができる。その後、この窓関数が乗じられたビート信号Bwをフーリエ変換して第1信号Bwf1を生成することで、第1信号Bwf1における干渉信号成分IFIfの信号強度を低下させることができる。つまり、ビート信号Bwの端部に干渉信号IFIが生じた場合、上述したステップS142を実行することで、第1信号Bwf1における干渉信号成分IFIfの信号強度を効果的に低減できる。そのため、この場合、例えば、ステップS142で生成された第1信号Bwf1を物標OBの測定に用いても、干渉信号成分IFIfによる影響が物標OBの測定結果に及ぶことが抑制される。
【0070】
以上で説明した第2実施形態によれば、処理部220は、第2信号Bwf2の高周波衰期における正の周波数成分と負の周波数成分との信号強度差が基準値以下であるか否かを判定する判定処理を実行し、信号強度差が基準値以下である場合に、適応処理を実行する。そのため、適応処理における残差ε(n)の発散を抑制できる。
【0071】
C.第3実施形態:
第3実施形態における信号処理装置200は、図15の干渉信号処理を実行する。図15では、第2実施形態で説明した図13と同様の工程には、図13と同じ符号が付されている。本実施形態における信号処理装置200は、第2実施形態と同様に判定処理を実行する。一方で、本実施形態では、信号処理装置200は、第2実施形態とは異なり、判定処理において、第2信号Bwf2の高周波域における正の周波数成分の電力の最頻値と負の周波数成分の電力の最頻値とを比較する。第3実施形態におけるレーダシステム100や信号処理装置200の構成のうち、特に説明しない点については、第2実施形態と同様である。
【0072】
図15のステップS104bにて、処理部220は、判定処理を実行する。本実施形態では、処理部220は、ステップS104bにおいて、上述した高周波域における電力の最頻値の差が、正の周波数成分の電力の最頻値に対して10%以下であるか否かを判定する。処理部220は、ステップS104bで電力の最頻値の差が10%以下であると判定した場合、つまり、信号強度差が基準値以下であると判定した場合、図13で説明したのと同様に、ステップS110以降を実行する。また、信号強度差が基準値より大きいと判定した場合、図13で説明したのと同様に、ステップS142を実行する。
【0073】
以上で説明した第3実施形態によっても、第2実施形態と同様に適応処理における残差ε(n)の発散を抑制できる。なお、第2実施形態や第3実施形態では、判定処理において、各成分の電力の積算値や最頻値を比較しているが、他の実施形態において判定処理を実行する場合、例えば、各成分の振幅の積算値や最頻値を比較してもよい。
【0074】
D.他の実施形態:
(D-1)上記実施形態では、処理部220は、(a)適応処理においてステップサイズパラメータμをビン番号nに基づいて変化させること、(b)適応処理において再計算処理を予め定められた回数だけ実行すること、および、(c)適応処理として第1適応処理および第2適応処理を実行すること、の全てを実行している。これに対して、処理部220は、上記(a)~(c)のうちいずれか1つのみ、あるいは、いずれか2つのみを実行してもよい。
【0075】
(D-2)上記実施形態では、処理部220は、適応処理において、ステップサイズパラメータμをビン番号nに対して単調増加させている。これに対して、処理部220は、適応処理において、ステップサイズパラメータμをビン番号nに対して単調増加させなくてもよい。この場合、ステップサイズパラメータμが、例えば、部分的にビン番号nに対して減少する部分を有し、かつ、全体としてビン番号nに対して増加する関数として定義されていてもよい。
【0076】
(D-3)上記実施形態では、処理部220は、図3図13図15のステップS120において、第1信号Bwf1の干渉信号成分IFIfの強度が所定の強度以上であるか否かを判定しているが、この判定を実行しなくてもよい。
【0077】
E.他の形態:
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0078】
<形態1>信号処理装置(200)は、送信波を反射した物標(OB)からの反射波を受信して得られる受信信号(Dw)と、前記送信波を送信するための送信信号(Tw)と、が直交ミキサ(105)でミキシングされることによって生成される時間領域の信号を表すビート信号(Bw)を、周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の第1信号(Bwf1)にフーリエ変換する変換部(210)と、FIRフィルタ(222)を含む適応フィルタ(221)を有し、前記第1信号から干渉信号成分(IFIf)が除去された干渉除去後信号(Ts)を生成する処理部(220)と、を備える。前記処理部は、前記第1信号の各正の周波数成分を順番に前記適応フィルタの主要入力信号とし、各正の周波数成分と対応する前記第1信号の各負の周波数成分を順番に前記適応フィルタの参照入力信号として、前記主要入力信号および前記参照入力信号に基づく出力信号を出力する適応処理を実行する。前記処理部は、前記適応処理において、前記FIRフィルタによって前記参照入力信号を処理するFIRフィルタ処理と、前記出力信号として、前記主要入力信号と、前記FIRフィルタ処理によって処理された前記参照入力信号と、の残差を出力する出力処理と、前記残差に基づいて、前記FIRフィルタのタップ係数を更新する更新処理と、を実行し、前記タップ係数を更新するためのステップサイズパラメータを、前記第1信号の周波数ビンのビン番号に基づいて変化させる。
【0079】
<形態2>上記形態1の信号処理装置において、前記処理部は、前記ステップサイズパラメータを、前記ビン番号に対して単調増加させてもよい。
【0080】
<形態3>信号処理装置(200)は、送信波を反射した物標(OB)からの反射波を受信して得られる受信信号(Dw)と、前記送信波を送信するための送信信号(Tw)と、が直交ミキサ(105)でミキシングされることによって生成される時間領域の信号を表すビート信号(Bw)を、周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の第1信号(Bwf1)にフーリエ変換する変換部(210)と、FIRフィルタ(222)を含む適応フィルタ(221)を有し、前記第1信号から干渉信号成分(IFIf)が除去された干渉除去後信号(Ts)を生成する処理部(220)と、を備える。前記処理部は、前記第1信号の各正の周波数成分を順番に前記適応フィルタの主要入力信号とし、各正の周波数成分と対応する前記第1信号の各負の周波数成分を順番に前記適応フィルタの参照入力信号として、前記主要入力信号および前記参照入力信号に基づく出力信号を出力する適応処理を実行する。前記処理部は、前記適応処理において、前記FIRフィルタによって前記参照入力信号を処理するFIRフィルタ処理と、前記出力信号として、前記主要入力信号と、前記FIRフィルタ処理によって処理された前記参照入力信号と、の残差を出力する出力処理と、前記残差に基づいて、前記FIRフィルタのタップ係数を更新する更新処理と、を実行し、前記第1信号の次の周波数ビンの正の周波数成分を前記主要入力信号とする前に、前記第1信号の現在の周波数ビンに関して、更新された前記タップ係数を用いて前記FIRフィルタ処理と前記出力処理と前記更新処理とを実行する再計算処理を、予め定められた回数だけ実行する。
【0081】
<形態4>信号処理装置(200)は、送信波を反射した物標(OB)からの反射波を受信して得られる受信信号(Dw)と、前記送信波を送信するための送信信号(Tw)と、が直交ミキサ(105)でミキシングされることによって生成される時間領域の信号を表すビート信号(Bw)を、周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の第1信号(Bwf1)にフーリエ変換する変換部(210)と、FIRフィルタ(222)を含む適応フィルタ(221)を有し、前記第1信号から干渉信号成分(IFIf)が除去された干渉除去後信号(Ts)を生成する処理部(220)と、を備える。前記処理部は、前記第1信号の各正の周波数成分を順番に前記適応フィルタの主要入力信号とし、各正の周波数成分と対応する前記第1信号の各負の周波数成分を順番に前記適応フィルタの参照入力信号として、前記主要入力信号および前記参照入力信号に基づく出力信号を出力する適応処理を実行する。前記処理部は、前記適応処理において、前記FIRフィルタによって前記主要入力信号を処理するFIRフィルタ処理と、前記出力信号として、前記主要入力信号と、前記FIRフィルタ処理によって処理された前記参照入力信号と、の残差を出力する出力処理と、前記残差に基づいて、前記FIRフィルタのタップ係数を更新する更新処理と、を実行し、前記適応処理として、近距離に相当する周波数ビンから遠距離に相当する周波数ビンに向かうように順に、前記第1信号の正の周波数成分を前記主要入力信号とする第1適応処理と、中距離に相当する周波数ビンから近距離に相当する周波数ビンに向かうように順に、前記第1信号の正の周波数成分を前記主要入力信号とする第2適応処理と、を実行し、前記第1適応処理の出力処理によって出力される信号と、前記第2適応処理の出力処理によって出力される信号と、が接合された信号を、前記干渉除去後信号として出力する。
【0082】
<形態5>上記形態1から4のいずれか一の形態のレーダ装置において、前記変換部は、前記ビート信号を、周波数成分が周波数ビンごとに表された周波数領域の第2信号(Bwf2)にフーリエ変換し、前記処理部は、前記第2信号の、予め定められた周波数より高い周波数域を表す高周波域における正の周波数成分と負の周波数成分との信号強度差が、予め定められた基準値以下であるか否かを判定する判定処理を実行し、前記信号強度差が前記基準値以下である場合に、前記適応処理を実行してもよい。
【0083】
<形態6>レーダシステム(100)は、上記形態1から5のいずれか一の形態の信号処理装置と、前記送信信号に基づいて前記物標に前記送信波を送信する送信部(102)と、前記受信信号を受信する受信部(103)と、前記直交ミキサと、前記出力信号に基づいて前記物標を測定する測定部と、を備える。
【符号の説明】
【0084】
100…レーダシステム、101…信号生成部、102…送信部、103…受信部、105…直交ミキサ、106…フィルタ部、107…アナログデジタル変換部、200…信号処理装置、210…変換部、220…処理部、221…適応フィルタ、222…FIRフィルタ、230…測定部、Bw…ビート信号、Bwf1…第1信号、Bwf2…第2信号、Dw…受信信号、Ew…電磁波、IFIf…干渉信号成分、OB…物標、Ts…干渉除去後信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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