(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182120
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】時計部品、時計および時計部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 5/02 20060101AFI20231219BHJP
G04B 19/06 20060101ALI20231219BHJP
G04B 19/04 20060101ALI20231219BHJP
A44C 5/00 20060101ALI20231219BHJP
A44C 5/02 20060101ALI20231219BHJP
C23C 14/16 20060101ALI20231219BHJP
C23C 16/04 20060101ALI20231219BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
G04B5/02
G04B19/06 Q
G04B19/04 C
A44C5/00 C
A44C5/02 B
C23C14/16 Z
C23C16/04
C23C14/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095532
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤井 丈徳
(72)【発明者】
【氏名】久米 克典
(72)【発明者】
【氏名】宮川 拓也
【テーマコード(参考)】
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA21
4K029BB03
4K029BD07
4K029CA01
4K029CA05
4K029GA00
4K029HA05
4K030BB14
4K030CA02
4K030CA11
4K030LA24
(57)【要約】
【課題】腕時計などに利用可能であり、日本刀を象徴する刃文の模様を有し、量産可能な時計部品、時計および時計部品の製造方法の提供。
【解決手段】部品の形に形成された金属部材で構成される時計部品であって、金属部材の表面は、金属部材の素材色とは異なる色のコーティング材で被覆された被覆領域と、金属部材の素材色を露出させた露出領域とを有し、被覆領域および露出領域との境界部分で刃文風の模様が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品の形に形成された金属部材で構成される時計部品であって、
前記金属部材の表面は、
前記金属部材の素材色とは異なる色のコーティング材で被覆された被覆領域と、
前記金属部材の素材色を露出させた露出領域とを有し、
前記被覆領域および前記露出領域との境界部分で刃文風の模様が形成されている時計部品。
【請求項2】
部品の形に形成された玉鋼で構成される時計部品であって、
前記玉鋼の表面は、
酸化膜で被覆された被覆領域と、
前記玉鋼の素材色を露出させた露出領域とを有し、
前記被覆領域および前記露出領域との境界部分で刃文風の模様が形成されている時計部品。
【請求項3】
請求項1に記載の時計部品において、
前記金属部材は、ステンレス、チタン、シルバーのいずれかであることを特徴する時計部品。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の時計部品において、
前記時計部品は、時計において可動する部品であることを特徴とする時計部品。
【請求項5】
請求項4に記載の時計部品において、
前記時計部品は、回転錘または指針であることを特徴する時計部品。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の時計部品において、
前記時計部品は文字板であり、
前記文字板の外周に沿って前記刃文風の模様が形成されていることを特徴とする時計部品。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の時計部品において、
前記時計部品は、バンドであることを特徴とする時計部品。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の時計部品を有することを特徴とする時計。
【請求項9】
請求項8に記載の時計において、
前記時計部品は、時計の外装部品によって密閉される空間に配置されていることを特徴とする時計。
【請求項10】
金属製の素材を時計部品の形にして金属部材を成形する成形工程と、
前記金属部材の表面に、前記金属部材の素材色とは異なる色のコーティング材を被覆する被覆工程と、
前記コーティング材の一部を剥がして前記金属部材の素材色を露出させた露出領域を形成し、前記コーティング材で被覆された被覆領域との境界部分に刃文風の模様を形成する模様形成工程と、
を有する時計部品の製造方法。
【請求項11】
金属製の素材を時計部品の形にして金属部材を成形する成形工程と、
前記金属部材の素材色を露出させる露出領域を、マスキング材で覆うマスク工程と、
前記金属部材の表面に、前記金属部材の素材色とは異なる色のコーティング材を被覆して被覆領域を形成し、前記露出領域との境界部分に刃文風の模様を形成する模様形成工程と、
前記マスキング材を除去するマスク除去工程と、
を有する時計部品の製造方法。
【請求項12】
玉鋼を時計部品の形に成形する成形工程と、
前記玉鋼の表面を被覆する酸化膜の一部を剥がすことで、前記玉鋼の素材色を露出させた露出領域を形成し、前記酸化膜で被覆された被覆領域との境界部分に刃文風の模様を形成する模様形成工程と、
を有する時計部品の製造方法。
【請求項13】
請求項10または請求項12に記載の時計部品の製造方法において、
前記模様形成工程は、ブラスト処理、レーザー加工または研磨加工によって前記コーティング材または前記酸化膜の一部を剥がして前記刃文風の模様を形成する
ことを特徴とする時計部品の製造方法。
【請求項14】
請求項11に記載の時計部品の製造方法において、
前記コーティング材は、蒸着、スパッタ、化学気相成長のいずれかの加工方法によって形成される
ことを特徴とする時計部品の製造方法。
【請求項15】
請求項10から請求項12までのいずれか一項に記載の時計部品の製造方法において、
窒素またはポリシラザンによって前記被覆領域および前記露出領域を被覆する表面処理工程を実行する
ことを特徴とする時計部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計部品、時計および時計部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
時計は、時刻を確認する実用性に加え、ユーザーが愛用する嗜好品としての面も備えている。例えば、特許文献1には、日本刀用の鍔を文字板とすることで、鍔の鑑賞とともに時刻表示を行うことができる置き時計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1は、実際の日本刀の鍔を用いるものであるため、腕時計や懐中時計などには利用できない。このため、腕時計などに利用可能な時計部品として、日本刀を象徴する刃文の模様を有し、量産可能な時計部品が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の時計部品は、部品の形に形成された金属部材で構成される時計部品であって、前記金属部材の表面は、前記金属部材の素材色とは異なる色のコーティング材で被覆された被覆領域と、前記金属部材の素材色を露出させた露出領域とを有し、前記被覆領域および前記露出領域との境界部分で刃文風の模様が形成されていることを特徴とする。
【0006】
本開示の時計部品は、部品の形に形成された玉鋼で構成される時計部品であって、前記玉鋼の表面は、酸化膜で被覆された被覆領域と、前記玉鋼の素材色を露出させた露出領域とを有し、前記被覆領域および前記露出領域との境界部分で刃文風の模様が形成されていることを特徴とする。
【0007】
本開示の時計は、前記時計部品を有することを特徴とする。
【0008】
本開示の時計部品の製造方法は、金属製の素材を時計部品の形にして金属部材を成形する成形工程と、前記金属部材の表面に、前記金属部材の素材色とは異なる色のコーティング材を被覆する被覆工程と、前記コーティング材の一部を剥がして前記金属部材の素材色を露出させた露出領域を形成し、前記コーティング材で被覆された被覆領域との境界部分に刃文風の模様を形成する模様形成工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
本開示の時計部品の製造方法は、金属製の素材を時計部品の形にして金属部材を成形する成形工程と、前記金属部材の素材色を露出させる露出領域を、マスキング材で覆うマスク工程と、前記金属部材の表面に、前記金属部材の素材色とは異なる色のコーティング材を被覆して被覆領域を形成し、前記露出領域との境界部分に刃文風の模様を形成する模様形成工程と、前記マスキング材を除去するマスク除去工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本開示の時計部品の製造方法は、玉鋼を時計部品の形に成形する成形工程と、前記玉鋼の表面を被覆する酸化膜の一部を剥がすことで、前記玉鋼の素材色を露出させた露出領域を形成し、前記酸化膜で被覆された被覆領域との境界部分に刃文風の模様を形成する模様形成工程と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態の時計部品である回転錘の重錘を用いた時計を示す正面図である。
【
図2】第1実施形態の重錘を用いた時計を示す裏面図である。
【
図4】第1実施形態の重錘の製造工程を示すフローチャートである。
【
図5】第2実施形態の時計部品である重錘を用いた時計を示す裏面図である。
【
図6】第2実施形態の重錘の製造工程を示すフローチャートである。
【
図7】第3実施形態の時計部品である文字板を用いた時計を示す正面図である。
【
図8】第3実施形態の文字板の製造工程を示すフローチャートである。
【
図9】第3実施形態の文字板の変形例を示す正面図である。
【
図10】第4実施形態の時計部品であるバンドを用いた時計を示す正面図である。
【
図11】第4実施形態のバンドの変形例を示す正面図である。
【
図12】第4実施形態のバンドの他の変形例を示す正面図である。
【
図13】第4実施形態のバンドの他の変形例を示す正面図である。
【
図14】第5実施形態の時計部品である指針を示す正面図である。
【
図15】第5実施形態の指針の変形例を示す正面図である。
【
図16】時計部品である回転錘の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1実施形態]
以下、第1実施形態に係る時計1を図面に基づいて説明する。
図1は、時計1を示す正面図であり、
図2は、時計1を示す裏面図である。本実施形態の時計1は、ユーザーの手首に装着される腕時計であり、円筒状の外装ケース2を備え、外装ケース2の内周側に、文字板3が配置されている。外装ケース2の二つの開口のうち、表面側の開口は、カバーガラスで塞がれており、裏面側の開口は裏蓋9で塞がれている。裏蓋9は、リング状の枠9Aと、枠9Aに取り付けられた裏蓋ガラス9Bとで構成されている。外装ケース2内には、図示略のぜんまいを動力源とするムーブメントが収容され、ぜんまいを巻き上げる自動巻上機構を構成する回転錘10も設けられている。
ぜんまいや回転錘10を備える時計のムーブメントは一般的であるため説明を省略する。また、外装ケース2、カバーガラス、裏蓋9によって、ムーブメントを収納する内部空間を密閉する時計1の外装部品が構成されている。
【0013】
時計1は、
図1に示すように、時刻情報を指示する時針4、分針5、秒針6と、ぜんまいの巻上げ残量を指示するパワーリザーブ針7とを備えている。文字板3には、カレンダー小窓3Aが設けられており、カレンダー小窓3Aから、日車8が視認可能となっている。
【0014】
図2に示すように、回転錘10は、ムーブメントの輪列受けに回転自在に軸支された錘体11と、錘体11の外周にピンやリベット等の締結部材110で固定された重錘12とを備えている。なお、錘体11および重錘12は、接着剤や溶接などで固着されてもよい。また、錘体11および重錘12は、一体に成形されてもよい。
重錘12は、刃文風の模様が形成された時計部品であり、
図3に示すように、ステンレス、チタン、シルバーのいずれかの金属製の素材を重錘12の部品形状に成形した金属部材13と、金属部材13の表面に積層されたコーティング材141とで構成されている。
金属部材13は、錘体11に締結部材110で取り付けられる取付片131と、取付片131に比べて厚肉とされた重錘本体132とを備える。
重錘本体132の表面すなわち裏蓋ガラス9Bから視認可能な面には、コーティング材141が積層されて形成される被覆領域14と、金属部材13が露出する露出領域17とが設けられている。
【0015】
被覆領域14は、
図2に示すように、錘体11側つまり内周側に設けられた第1被覆領域15と、第1被覆領域15の外周側に設けられた第2被覆領域16とを備える。
第1被覆領域15は、日本刀の鎬地を模した領域であり、第2被覆領域16、露出領域17に比べて濃い色とされている。具体的には、第1被覆領域15は、金属部材13の素材色とは異なる色のコーティング材141が被覆された領域である。ここで、金属部材13の素材色は銀色などであるため、コーティング材141の色は、黒、グレー、濃紺などの黒あるいは黒に近い濃い色が好ましい。なお、コーティング材141は、金属部材13の表面をコーティング可能な塗料などで構成されている。
第2被覆領域16は、日本刀の平地を模した領域であり、第1被覆領域15に比べて薄い色であり、露出領域17に比べて濃い色とされている。具体的には、第2被覆領域16は、コーティング材141を被覆した後、レーザー加工などによってコーティング材141を剥がす量を制御することで、第1被覆領域15に比べて薄い色とされた領域である。
露出領域17は、日本刀の刃を模した領域であり、金属部材13が露出されるため、金属部材13の素材色、例えば銀色が露出した領域とされている。
そして、第2被覆領域16と露出領域17との境界線によって刃文風の模様18が形成されている。刃文風の模様18とは、コーティング材141で被覆した被覆領域14と、金属部材13の素材色を露出させた露出領域17との色の違いによって形成される模様である。このため、金属部材13の成分を変化させて形成した刃文ではないため、刃文風の模様18と定義したものである。
【0016】
次に、時計部品である重錘12の製造方法について、
図4のフローチャートを参照して説明する。
最初に、ステンレス、チタン、シルバーなどの金属製の素材を時計部品の形にして金属部材13を成形する成形工程S1を実行する。本実施形態では、時計部品は重錘12であるため、成形工程S1では、ステンレスなどの金属素材を溶解し、重錘用の型に流し込んで金属部材13を成形する。
次に、金属部材13の表面にコーティング材141を被覆する被覆工程S2を実行する。コーティング材141を被覆する方法は、例えば、蒸着、スパッタ、CVDなどのコーティング材141および金属部材13の種類などに応じた各種成膜方法が利用できる。CVDは、chemical vapor depositionの略語であり、日本語では化学気相成長と呼ばれる。
【0017】
次に、刃文風の模様18を形成する模様形成工程S3を実行する。本実施形態の模様形成工程S3では、第2被覆領域16、露出領域17に被覆されたコーティング材141を削って剥がすことで模様18を形成している。
ここで、コーティング材141を剥がして模様18を形成する加工方法は、以下に説明するように複数の加工方法があるため、金属部材13、コーティング材141の種類や、金属部材13の形状、サイズなどに応じて適切な加工方法を採用すればよい。
【0018】
第1の加工方法は、レーザー加工である。レーザー加工は、光のエネルギーをレンズで集め、コーティング材141や金属を溶かして除去する加工方法である。また、レーザー強度を調整することで、コーティング材141の除去量も調整できる。
したがって、強度を弱くしたレーザー光線を照射してコーティング材141を所定割合で除去することで、第2被覆領域16を第1被覆領域15に比べて薄い色に形成できる。例えば、コーティング材141が黒色の場合、第1被覆領域15は黒色の領域となり、第2被覆領域16は、黒色に比べて薄い色つまりグレー色の領域となる。
また、強度を強くしたレーザー光線を照射してコーティング材141を除去することで、金属部材13の素材色が露出する露出領域17を形成できる。
このようにレーザー光線を用いて、第2被覆領域16および露出領域17を形成することで、各領域16,17の境界線である刃文風の模様18も精度良く形成できる。
なお、レーザー光線の強度は、各領域16、17用に予め設定しておいてもよい。また、現存する日本刀の刃文の色を再現する場合には、日本刀の刃文の色を測色機で測定し、その色に応じてレーザー光線の強度を設定して刃文の色を再現してもよい。
【0019】
レーザー光線で第2被覆領域16を形成する場合に、第2被覆領域16において第1被覆領域15側の領域ではレーザー光線の強度を弱くし、露出領域17側の領域ではレーザー光線の強度を強くすることで、第2被覆領域16を、第1被覆領域15側から露出領域17側に向かって色が濃い部分から薄い部分に変化するように、グラデーションを表現してもよい。
同様に、レーザー光線で露出領域17を形成する場合に、露出領域17の第2被覆領域16側の部分にコーティング材141がまばらに残るように制御して、刃文風の模様18を線ではなく、帯状に形成してもよい。すなわち、金属部材13の素材色が露出する露出領域17とは、コーティング材141が完全に除去される領域に限定されず、主に金属部材13の素材色が視認される領域であればよく、コーティング材141がまばらに残っていてもよい。
さらに、レーザー光線で露出領域17を形成する場合に、露出領域17の第2被覆領域16側の表面部分に細かい凹凸を形成し、光の乱反射によって白く見える部分を形成して刃文風の模様18としてもよい。すなわち、日本刀の刃文には、沸と呼ばれる白い粒子や、匂と呼ばれる霞のように見える部分で構成されるものもあり、このような刃文を模した模様18としてもよい。
すなわち、刃文風の模様18は、被覆領域14である第2被覆領域16と露出領域17との境界部分に、線状に形成されるものに限らず、帯状などに形成されるものでもよい。
【0020】
第2の加工方法は、ブラスト処理である。ブラスト処理は、粒子状の無数の研磨材を投射して被加工物に衝突させ、表面の粗化、研削、研掃等を行う表面加工処理方法である。また、研磨材の種類や投射量、投射速度などのブラスト処理の設定条件を適宜調整することで、コーティング材141の除去量も調整できる。
したがって、第1被覆領域15および露出領域17の両領域をマスキング材で覆い、露出している第2被覆領域16をブラスト処理する際に、ブラスト処理の設定条件を調整してコーティング材141を所定割合で除去することで、第1被覆領域15に対して薄い色の第2被覆領域16を形成できる。
また、第1被覆領域15および第2被覆領域16の両領域をマスキング材で覆い、露出している露出領域17をブラスト処理する際に、ブラスト処理の設定条件を調整してコーティング材141を除去することで、金属部材13の素材色が露出する露出領域17を形成できる。
【0021】
なお、第2被覆領域16に対してブラスト処理する際に、第1被覆領域15および露出領域17を覆うマスキング材は金属部材13に密着させ、第2被覆領域16のコーティング材141の剥がし量を制御するためのマスキング材を、金属部材13に対して間隔を空けて配置して第2被覆領域16の色をグラデーションで表現してもよい。すなわち、金属部材13の第2被覆領域16とマスキング材との隙間に研磨材を投射し、第2被覆領域16において第1被覆領域15側の領域では研磨材の当たり方を弱くし、露出領域17側の領域では研磨材の当たり方を強くすることで、第2被覆領域16を、第1被覆領域15側から露出領域17側に向かって色が濃い部分から薄い部分に変化するように、グラデーションを表現してもよい。
なお、剥がし量を制御するためのマスキング材と金属部材13との隙間は、例えば、1mm~5mm程度が好ましい。隙間が1mm未満と狭い場合には研磨材の粒子が前記隙間に入り込まずにコーティング材141を削ることができない可能性がある。一方、隙間が5mmより広い場合は、マスキング材によるマスク効果がなくなり、グラデーション効果を得ることが難しい可能性がある。
さらに、露出領域17の第2被覆領域16側のブラスト処理の条件を設定することで、レーザー加工と同様に、コーティング材141をまばらに残したり、表面部分に細かい凹凸を形成して模様18としてもよい。
【0022】
第3の加工方法は、研磨加工装置による研磨加工である。研磨加工は、砥粒と呼ばれる硬度が高く微細な粒を作用させて、材料の表面を少量ずつ削り、滑らかな状態へ加工する技術である。また、砥粒の種類やサイズ、研磨時間などの研磨加工条件を調整することで、コーティング材141の除去量も調整できる。
したがって、第2被覆領域16に対する研磨加工条件を調整してコーティング材141を所定割合で除去することで、第1被覆領域15に対して薄い色の第2被覆領域16を形成できる。
また、露出領域17に対する研磨加工条件を調整してコーティング材141を除去することで、金属部材13の素材色が露出する露出領域17を形成できる。
さらに、第2被覆領域16において第1被覆領域15側の領域における研磨加工条件と、露出領域17側の領域における研磨加工条件とを変更することで、第2被覆領域16を、第1被覆領域15側から露出領域17側に向かって色が濃い部分から薄い部分に変化するように、グラデーションを表現してもよい。また、露出領域17の第2被覆領域16側の研磨加工条件を設定することで、レーザー加工と同様に、コーティング材141をまばらに残したり、表面部分に細かい凹凸を形成して模様18としてもよい。
【0023】
第4の加工方法は、砥石等を利用して研師と呼ばれる作業者がコーティング材141を除去する方法である。作業者の研ぎ方によってコーティング材141の除去状態を調整でき、第2被覆領域16、露出領域17をそれぞれ形成できる。
【0024】
第5の加工方法は、薬液を利用してコーティング材141を除去する浸漬処理である。具体的には、コーティング材141が塗布された金属部材13の一部を、金属部材13やコーティング材141を溶かすことができる酸やアルカリ系の水溶液からなる薬液に浸漬してコーティング材141を除去するものである。また、薬液の種類や濃度、浸漬時間などの浸漬処理条件を調整することで、コーティング材141の除去量も調整できる。
したがって、第2被覆領域16および露出領域17を薬液に浸漬し、露出領域17を薬液に浸漬する時間に比べて、第2被覆領域16を薬液に浸漬する時間を短くすることで、第1被覆領域15に対して薄い色の第2被覆領域16と、金属部材13の素材色が露出する露出領域17とを形成できる。
この際、薬液の液面を波打たせることで、波状の模様18を形成できる。このため、超音波振動装置等を用いて薬液の液面を積極的に波打たせてもよい。
【0025】
第6の加工方法は、コーティング材141を除去する領域に薬液を塗布する方法である。この場合、塗布する薬液の種類や濃度、塗布時間等の塗布条件を調整することで、コーティング材141の除去量も調整できる。
したがって、第2被覆領域16および露出領域17にそれぞれ薬液を塗布することで、第1被覆領域15に対して薄い色の第2被覆領域16と、金属部材13の素材色が露出する露出領域17とを形成できる。
【0026】
以上の工程で製造された重錘12は、錘体11に締結部材110で固定され、ムーブメントに組み込まれる。このムーブメントを外装ケース2に組み込むことで時計1を製造できる。
【0027】
[第1実施形態の効果]
本実施形態によれば、時計1の裏蓋9側から視認可能な回転錘10の重錘12に、刃文風の模様18を施すことができる。このため、回転錘10を有する時計1を、日本刀をモチーフとした時計とすることができ、時計としての実用性に加えて、日本刀をモチーフとしたことで高付加価値の時計を提供することができる。
金属部材13の素材は、ステンレス、チタン、シルバーのいずれかであるため、日本刀の素材である玉鋼に比べて入手が容易であり、生産コストを低減できる。また、ステンレス、チタン、シルバーのいずれかを用いて金属部材13を構成し、その表面の一部を黒色等のコーティング材141でコーティングして被覆領域14を形成し、金属部材13の素材色が露出する露出領域17を形成することで、玉鋼を用いた場合と同様の黒銀の色味を模することができる。
【0028】
刃文風の模様18は、成形工程S1で時計部品の形状、具体的には重錘12の形状に成形された金属部材13の表面に、被覆工程S2でコーティング材141を付着し、模様形成工程S3でコーティング材141の一部を剥がして除去することで、被覆領域14と露出領域17との色の濃さが異なる領域を形成し、各領域14、17の境界部分で模様18を形成しているので、刃文風の模様18が形成された時計部品を量産することができる。すなわち、日本刀の刃文は、焼き入れなどで鋼の成分を変化させて形成するものである。また、腕時計用の時計部品である回転錘10は日本刀に比べて非常に小さい部品である。したがって、時計部品に刃文を形成するために、日本刀と同じような製造工程を実施することは難しく、このような製造工程によって刃文が形成された時計部品を量産することは困難である。
これに対し、本実施形態では、コーティング材141で被覆された被覆領域14と、金属部材13の素材色が露出する露出領域17とを形成することで、刃文風の模様18つまりユーザーが視認した際に刃文をイメージできる模様18を形成しているので、焼き入れなどの工程も不要にでき、時計部品を量産することができる。特に、模様形成工程S3において、コーティング材141を剥がす加工は、レーザー加工等の機械加工で実現できるため、回転錘10の重錘12のように小さな部品であっても精度良く加工することができ、時計部品を量産することができる。
【0029】
模様形成工程S3において、レーザー加工、ブラスト処理、研磨加工等の機械加工によってコーティング材141を剥がす場合には、所望の箇所のみコーティング材141を剥がすことができ、様々な刃文風の模様18を形成できる。このため、モデルとなる実際の日本刀の刃文を再現することもでき、より付加価値を高めることができる。
一方で、作業者が砥石などを用いてコーティング材141を剥がす場合には、一品毎に異なる刃文風の模様18を形成することができるため、一品毎に異なる模様18となることによる貴重性を高めることができる。
【0030】
被覆領域14は、第1被覆領域15および第2被覆領域16の2つの領域で構成され、第1被覆領域15と第2被覆領域16とで色の濃度を変化させているので、刃文風の模様18に加えて、鎬地や平地などを模したデザインにでき、より日本刀のモチーフを表現できる。
【0031】
回転錘10は、時計1を揺らすことで回動する可動部品であり、刃文風の模様18を施すことによって、可動部品の動きをより強調できる。特に、回転錘10の重錘12の外周に沿って刃文風の模様18を形成しているので、回転錘10が回動すると、あたかも日本刀を振りかざすような表現ができ、ユーザーに対して本物の日本刀をイメージさせることができる。
回転錘10は、外装ケース2や裏蓋9等の外装部品により密閉された空間に配置されているので、水や酸素との接触を阻止することができる。このため、金属部材13の素材色が露出する露出領域17に錆が発生することを防止でき、金属部材13の素材の無垢な表面を活かしたデザインとすることができる。
【0032】
なお、時計に用いられる回転錘10は、ぜんまいの巻き上げ用に限定されず、発電用のローターの回転に用いてもよい。すなわち、ステッピングモーターで輪列を駆動するクオーツ時計において、二次電池を充電するために、コイルが巻かれたステーターと、ローターとを備える発電機を内蔵する場合に、ローターを回転させて発電するための回転錘10を用いてもよい。
【0033】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る時計1Bについて、
図5を参照して説明する。
時計1Bは、時計部品である回転錘10Bの重錘12B以外は、第1実施形態の時計1と同じであるため、同一符号を付して説明を省略する。
重錘12Bは、玉鋼で構成されている。玉鋼は、古式製鉄法であるたたら製鉄法によって製錬されて日本刀の素材となる鋼であり、主成分の90%以上が鉄であり、その他は炭素等で構成されたものである。
重錘12Bの表面には、被覆領域14Bと露出領域17Bとの2つの領域が形成され、これらの各領域14B、17Bの境界線によって刃文風の模様18Bが形成されている。
【0034】
次に、時計部品である重錘12Bの製造方法について、
図6のフローチャートを参照して説明する。なお、
図6は、玉鋼を製造する工程と、製造した玉鋼を重錘12Bに加工する工程とを含むフローチャートである。
すなわち、最初に、玉鋼製造工程S11を実行する。玉鋼製造工程S11では、たたら製鉄と呼ばれる古式製鉄法によって素材となる玉鋼を製造する。
次に、水圧し工程S12を実行する。水圧し工程S12では、玉鋼を加熱しながら薄く延ばし、焼入れして小割りにする。
次に、鍛錬工程S13を実行する。水圧し工程S12で小割りにした素材に泥と藁灰をかけて溶融寸前まで加熱して叩く。このサイクルを、数回繰り返すことで、炭素含有量の調整やスラグ分の除去、組織の調整が行われる。
次に、成形工程S14を実行する。成形工程S14では、鍛錬した玉鋼を溶解し、重錘12Bの型に流し込んで重錘12Bを成形する。成形工程S14の後、玉鋼製の重錘12Bの表面は酸素と反応して酸化膜が形成される。なお、空気が存在する通常環境下で、玉鋼が溶解しない温度、例えば1300度以下で加熱して熱酸化によって酸化膜を形成してもよい。
【0035】
次に、刃文風の模様18Bを形成する模様形成工程S15を実行する。本実施形態の模様形成工程S15では、露出領域17の酸化膜を削って剥がすことで模様18Bを形成する。この酸化膜を剥がして模様18Bを形成する加工方法は、第1実施形態と同じ方法、すなわちレーザー加工、ブラスト処理、研磨加工などが利用できる。
次に、重錘12をさびにくくするための表面処理工程S16を実行する。表面処理工程S16は、例えば、玉鋼製の重錘12を窒素環境下において高温で熱し、玉鋼の表面に窒素を結合させる処理や、ポリシラザンで表面を覆う処理など、重錘12Bの見た目を変えることなく、防錆効果を高める処理であればよい。
以上の工程で製造された重錘12Bは、錘体11に締結部材110で固定され、ムーブメントに組み込まれる。このムーブメントを外装ケース2に組み込むことで時計1Bを製造できる。
【0036】
[第2実施形態の効果]
第2実施形態の時計1Bにおいても、回転錘10Bに刃文風の模様18Bを施すことができるため、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。すなわち、回転錘10Bを有する時計1Bを、日本刀をモチーフとした時計とすることができ、時計としての実用性に加えて、日本刀をモチーフとしたことで高付加価値の時計を提供することができる。
さらに、重錘12Bを、日本刀の素材である玉鋼を用いて製造しているので、酸化膜の被覆領域14Bと、玉鋼の素材色が露出する露出領域17Bとで、刀らしい黒銀の色味を出すことができ、時計1Bに高付加価値を付与できる。また、刃文風の模様18Bは、玉鋼の表面を酸化させた酸化膜による被覆領域14Bと、酸化膜を除去して玉鋼を露出させた露出領域17Bとの境界線で形成しているので、日本刀の素材である玉鋼を用いて刃文風の模様18Bが形成された時計部品を量産することができる。
【0037】
可動部品である回転錘10Bに、刃文風の模様18Bを形成しているので、可動部品の動きにより、あたかも日本刀を振りかざすような表現ができ、日本刀の素材である玉鋼を用いていることとの相乗効果によって、ユーザーに対して本物の日本刀を強くイメージさせることができる。
【0038】
表面処理工程S16によって玉鋼が露出する露出領域17Bの表面も処理しているので防錆効果を高めることができる。このため、外装ケース2により密閉された空間に回転錘10Bを配置するとともに、重錘12Bの表面を酸化しにくいように処理することで、玉鋼が露出する露出領域17に錆が発生することを防止でき、玉鋼の素材の無垢な表面を活かしたデザインとすることができる。
【0039】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る時計1Cについて、
図7を参照して説明する。時計1Cは、時計部品である文字板30の外周に刃文風の模様38を形成したものである。
時計1Cは、外装ケース2Cと、文字板30と、時針4、分針5、秒針6とを備えている。時計1Cは、文字板30以外は、従来の腕時計と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0040】
文字板30は、円板状の金属部品であり、目盛31の外周側に、被覆領域34と、露出領域37とが形成されている。文字板30の材質は、前記第1実施形態と同様に、ステンレス、チタン、シルバー等を利用できる。
被覆領域34は、目盛31側つまり内周側に形成された第1被覆領域35と、第1被覆領域35の外周側に形成された第2被覆領域36とで構成されている。露出領域37は、第2被覆領域36の外周側に形成され、第2被覆領域36と露出領域37との境界線によって刃文風の模様38が形成されている。
【0041】
第1被覆領域35は、第1被覆領域15と同様に、文字板30の素材色とは異なる色のコーティング材が被覆された領域である。
第2被覆領域36は、第2被覆領域16と同様に、第1被覆領域35に比べて薄い色であり、露出領域37に比べて濃い色とされている。
露出領域37は、金属製の文字板30の素材色、例えば銀色が露出した領域とされている。
【0042】
次に、刃文風の模様38が形成された時計部品である文字板30の製造方法について
図8のフローチャートを参照して説明する。本実施形態では、第1被覆領域35および第2被覆領域36の2つの領域に、色の濃さが異なるコーティング材を成膜することで製造している。
最初に、金属製の素材を時計部品の形にして文字板30を成形する成形工程S21を実行する。本実施形態では、時計部品は文字板30であるため、成形工程S21では、ステンレスなどの金属板材をプレス機などで円板状に打ち抜き加工することなどで成形する。
【0043】
次に、文字板30の表面において、被覆領域34以外をマスキング材で覆う第1マスク工程S22を実行する。
次に、マスキング材で被覆されていない部分、すなわち被覆領域34にコーティング材を成膜する第1成膜工程S23を実行する。第1成膜工程S23では、蒸着、スパッタ、CVDなどの一般的な成膜方法が利用できる。この第1成膜工程S23では、グレーなどの薄い色のコーティング材を成膜する。
【0044】
次に、第1被覆領域35をマスキング材で覆い、第2被覆領域36のみを露出させる第2マスク工程S24を実行する。
次に、第2被覆領域36にコーティング材を成膜する第2成膜工程S25を実行する。第2成膜工程S25の成膜方法は第1成膜工程S23と同様である。この第2成膜工程S25では、例えば黒色などの第1成膜工程S23で形成されるコーティング材よりも濃い色のコーティング材を成膜する。
第2被覆領域36にコーティング材を成膜した時点で、第2被覆領域36と、マスキング材で覆われた露出領域37との境界線に刃文風の模様38が形成される。このため、第2成膜工程S25は、本実施形態の模様形成工程である。
【0045】
次に、マスキング材を除去するマスク除去工程S26を実行する。これにより、金属部材の素材色が露出する露出領域37と、コーティング材で成膜された第2被覆領域36との境界線によって形成される刃文風の模様38を視認できるようになる。
なお、第1マスク工程S22では第1被覆領域35以外をマスクし、第1成膜工程S23で第1被覆領域35にコーティング材を成膜し、第2マスク工程S24では第2被覆領域36以外をマスクし、第2成膜工程S25で第2被覆領域36にコーティング材を成膜してもよい。
【0046】
[第3実施形態の効果]
第3実施形態の時計1Cでは、文字板30に刃文風の模様38を施すことができるため、前記各実施形態と同様に、日本刀をモチーフとした時計1Cとすることができ、時計としての実用性に加えて、日本刀をモチーフとしたことで高付加価値の時計を提供することができる。
また、文字板30は、時計1Cを手首に装着した状態でも常に目視できるため、ユーザーに対して日本刀のモチーフを常に意識させることができ、満足感を高めることができる。
【0047】
文字板30は、時計部品の中では面積が大きい部品であるため、刃文風の模様38を容易に形成できる。また、模様38は、目盛31の外周側に形成されているので、時針4、分針5、秒針6が指示する目盛31の視認性を低下させることがなく、実用性と意匠性とを両立することができる。
【0048】
被覆領域34は、第1被覆領域35および第2被覆領域36の2つの領域で構成され、第1被覆領域35と第2被覆領域36とで色の濃度を変化させているので、刃文風の模様38に加えて、鎬地や平地などを模したデザインにでき、より日本刀のモチーフを表現できる。
第1被覆領域35、第2被覆領域36は、第1マスク工程S22、第1成膜工程S23、第2マスク工程S24、第2成膜工程S25、マスク除去工程S26によって形成しているので、成膜後にコーティング材を剥がして露出領域37を形成する必要が無く、コーティング材の使用量を抑制できてコストを低減できる。
また、成膜により刃文風の模様18を形成しているので、文字板30を量産することができる。
さらに、文字板30の素材は、ステンレス、チタン、シルバーのいずれかであるため、玉鋼に比べて入手が容易であり、生産コストを低減できる。また、ステンレス、チタン、シルバーのいずれかを用いて文字板30を構成し、その外周部分の表面を成膜することで被覆領域34を形成しているので、玉鋼を用いた場合と同様の黒銀の色味を模することができる。
【0049】
文字板30は、外装ケース2により密閉された空間に配置されているので、水や酸素との接触を阻止することができる。このため、文字板30が露出する露出領域37に錆が発生することを防止でき、文字板30の素材の無垢な表面を活かしたデザインとすることができる。
【0050】
なお、文字板30に形成する刃文風の模様38は、文字板30の外周全体に形成するものに限定されず、
図9に示す時計1Cのように、文字板30の外周の一部分に形成してもよい。また、
図9では、文字板30の12時位置から時計回りに6時位置まで、被覆領域34の第1被覆領域35、第2被覆領域36と、露出領域37とを形成して刃文風の模様38を設けていたが、模様38の形成位置や数は適宜設定すればよい。例えば、文字板30の1時位置から5時位置までと、7時位置から11時位置までの2箇所等、文字板30の外周の複数箇所に模様38を形成してもよい。
【0051】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態に係る時計1Dについて、
図10を参照して説明する。時計1Dは、時計部品であるバンド40の表面に刃文風の模様を形成したものである。
時計1Dは、外装ケース2Dと、文字板3と、時針4、分針5、秒針6とを備えており、バンド40以外は、従来の腕時計と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0052】
バンド40は、金属製の複数の駒41をピンなどで連結して構成される。金属製の駒41によって構成されるバンド40の構造は一般的な金属製のバンドと同様であるため、説明を省略する。
駒41の表面には、被覆領域44と、露出領域47とが形成されている。駒41の材質は、前記第1実施形態と同様に、ステンレス、チタン、シルバー等を利用できる。
被覆領域44は、駒41の表面中心に略円形に形成された第1被覆領域45と、第1被覆領域45の外周側に略リング状に形成された第2被覆領域46とで構成されている。露出領域47は、第2被覆領域46の外周側に形成され、第2被覆領域46と露出領域47との境界線によって刃文風の模様48が形成されている。
【0053】
第1被覆領域45は、前記第1,3実施形態と同様に、第2被覆領域46、露出領域47に比べて濃い色とされている。第2被覆領域46は、第1被覆領域45に比べて薄い色であり、露出領域47に比べて濃い色とされている。
露出領域47は、金属製の駒41の素材色、例えば銀色が露出した領域とされている。
【0054】
以上の刃文風の模様48が形成された時計部品であるバンド40の製造方法は、前記第1実施形態と同様であるため、簡略して説明する。
まず、金属製の素材を時計部品である駒41の形に成形する。本実施形態では、時計部品は駒41であるため、ステンレスなどの金属材を溶解し、駒41用の型に流し込んで成形する。
次に、駒41の表面にコーティング材141を塗布する。その後、模様形成工程S3と同様に、コーティング材141の一部を剥がして第2被覆領域46、露出領域47を形成する。
その後、各駒41をピンなどで連結してバンド40を製造する。
【0055】
[第4実施形態の効果]
第4実施形態の時計1Dは、前記各実施形態と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、バンド40の駒41に刃文風の模様48を施すことができるため、前記各実施形態と同様に、日本刀をモチーフとした時計1Dとすることができ、時計としての実用性に加えて、日本刀をモチーフとしたことで高付加価値の時計を提供することができる。
また、バンド40の駒41は、時計1Dを手首に装着した状態でも常に目視できるため、ユーザーに対して日本刀のモチーフを常に意識させることができ、満足感を高めることができる。さらに、バンド40の駒41は、時計部品の中では比較的面積が大きい部品であるため、刃文風の模様48を容易に形成できる。
【0056】
なお、バンド40の駒41の模様に関しては、
図10に示すものに限定されず、
図11に示す時計1Dのバンド40Aのように、各駒41の表面において、バンド40Aの長手方向に沿った複数の駒41に跨がって連続する第1被覆領域45、第2被覆領域46、露出領域47を設けて、刃文風の模様48を形成してもよい。
また、
図12に示す時計1Dのバンド40Bのように、各駒41の表面において、バンド40Bの短辺方向に沿った第1被覆領域45、第2被覆領域46、露出領域47を設けて、刃文風の模様48を形成してもよい。
【0057】
さらに、駒41毎に被覆領域44、露出領域47を設けて模様48を形成するものに限定されず、例えば、
図13に示す時計1Dのバンド40Cのように、駒41である中駒42および外駒43で異なる領域を設けてバンド40C全体で刃文風の模様48を形成してもよい。すなわち、バンド40Cの幅方向の中央に配置された中駒42の表面全面には、第1被覆領域45を形成する。また、中駒42の両側に配置される外駒43の表面には、中駒42側つまりバンド40Cの中心側からバンド40Cの外縁側に向かって、第1被覆領域45、第2被覆領域46、露出領域47を順次形成する。このようなバンド40Cによれば、バンド40Cの両側にかつバンド40Cの長手方向に沿って連続する刃文風の模様48を形成することができる。
【0058】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態に係る時計部品である指針50Aについて、
図14を参照して説明する。指針50Aは、時針、分針、秒針、クロノグラフ針、パワーリザーブ針など、時計において時刻や計測時間、持続時間などの各種情報を指示するものである。
指針50Aは、前記各実施形態と同様に、ステンレス、チタン、シルバー、玉鋼などの金属材を成形したものである。
指針50Aの表面には、被覆領域54と、露出領域57とが形成されている。被覆領域54は、指針50Aにおいて、回転軸に固定される基端側から先端側に向かって略直線状に形成された第1被覆領域55と、第1被覆領域55の周囲に形成された第2被覆領域56とで構成されている。露出領域57は、第2被覆領域56の外側に形成され、第2被覆領域56と露出領域57との境界線によって刃文風の模様58が指針50Aの外周全体に形成されている。
第1被覆領域55は、第2被覆領域56、露出領域57に比べて濃い色とされている。第2被覆領域56は、第1被覆領域55に比べて薄い色であり、露出領域57に比べて濃い色とされている。露出領域57は、金属製の指針50Aの素材色、例えば銀色が露出した領域とされている。
【0059】
なお、指針としては、
図15に示す指針50Bのように、指針50Bの片側に刃文風の模様58が形成されたものでもよい。すなわち、指針50Bの一方の側縁から他方の側縁に向かって、被覆領域54の第1被覆領域55、第2被覆領域56、露出領域57が順次形成されている。これにより、第2被覆領域56と露出領域57との境界線によって刃文風の模様58が指針50Bの片側に沿って形成されている。
【0060】
これらの各指針50A、50Bの刃文風の模様58の製造方法は、前記各実施形態と同様である。すなわち、金属製の素材を時計部品である指針50A、50Bの形に成形する。例えば、金属製の板材からプレス加工で指針50A、50Bを成形する。
次に、指針50A、50Bの表面をコーティング材で被覆した後、レーザー加工などでコーティング材を剥がして第2被覆領域56、露出領域57を形成する。あるいは、露出領域57等をマスキング材で隠した状態で、第1被覆領域55や第2被覆領域56を蒸着などの成膜方法で被膜を形成してもよい。さらに、防錆用の表面処理などを行ってもよい。以上の工程により、指針50A、50Bを製造することができる。
【0061】
[第5実施形態の効果]
指針50A、50Bに刃文風の模様58を形成すれば、前記各実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、指針50A、50Bは可動部品であるため、回転錘10、10Bと同様に、日本刀を振りかざすイメージを与えることができる。特に、指針50A、50Bは、細長い形状であり、時計部品の中で最も刀に近い形であるため、より日本刀のモチーフを強調できる。
【0062】
[他の実施形態]
なお、本発明は前記各実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
例えば、回転錘に形成される模様18は回転錘の外周に沿って形成されるものに限定されず、例えば、
図16に示す回転錘10Cのように、回転錘の外周以外に形成されていてもよい。回転錘10Cは、錘体11Cと、重錘12Cとを備えている。錘体11Cは、ゼンマイの巻き上げ等に用いられる回転軸と、重錘12Cとを連結する部分であり、両側面が外側に湾曲して形成されている。また、錘体11Cにおいて重錘12Cとは反対側の端部は、先端が尖った形状とされている。重錘12Cは平面略円弧状に形成されている。
錘体11Cの表面の中心には第1被覆領域15が形成され、その両側には第2被覆領域16が形成され、第2被覆領域16の外側には露出領域17が形成されている。第2被覆領域16と露出領域17との境界線によって刃文風の模様18が形成されている。
回転錘10Cの錘体11Cに刃文風の模様18を形成した場合でも、回転錘10Cが回転すると錘体11Cも回転するため、刀を振りかざすような表現ができ、ユーザーに対して日本刀をイメージさせることができる。
【0063】
刃文風の模様が形成される時計部品としては、回転錘、文字板、バンド、指針に限定されず、外装ケース、裏蓋、ベゼル等でもよく、時計において視認可能な時計部品であればよい。また、刃文風の模様が形成される可動部品としては、回転錘や指針に限定されず、例えば、てんぷやアンクルなどでもよいし、歯車等でもよい。
また、時計部品を構成する金属材としては、前記実施形態のステンレス、チタン、シルバー、玉鋼に限定されず、その他の金属材でもよい。なお、外装ケース、裏蓋、ベゼルなどの時計の外側に露出する時計部品を玉鋼などの錆びやすい部材で構成する場合には、窒化処理やポリシラザンのコーティングのように、金属材の無垢感を損なわずに防錆効果が得られる表面処理を行えばよい。
時計部品に被覆領域や露出領域を形成する加工方法は、時計部品の形状、サイズ、材質などに応じて適宜選択すればよい。例えば、第3実施形態のように、マスク工程や成膜工程を実行して模様を形成する方法で、回転錘やバンド、指針に模様を形成してもよい。同様に、文字板においても、コーティング材の一部を剥がす方法で模様を形成してもよい。また、露出領域の一部の表面に凹凸を形成して刃文風の模様を表現してもよいし、金属表面に印刷可能なインクを用いて模様を印刷してもよい。すなわち、金属部材や玉鋼の表面にコーティング材を塗布したり、表面を削ってコーティング材を剥がしたり、表面に凹凸などを加工したり、インクで印刷することなどの様々な表面処理を行うことで、金属部材や玉鋼の成分を変化させずに刃文のように見える模様を形成すればよい。
【0064】
被覆領域の色を設定する際に、現存する日本刀の色を測色計で計測し、そのデータに基づいて被覆領域の色を設定してもよい。
被覆領域は、1つの領域あるいは2つの被覆領域で構成するものに限定されず、3つ以上の領域で形成してもよい。また、1つの領域で形成する場合にグラデーションを形成してもよいし、第1被覆領域や第2被覆領域をグラデーションで形成してもよい。さらには、露出領域もグラデーションで形成してもよい。
【0065】
刃文風の模様は、1つの部品の外周などに連続して形成されるものに限定されず、途中で分断されて複数の模様としてもよいし、例えば、指針の先端部分のみに模様を形成するなど、部品の途中で途切れる模様でもよい。
【0066】
[本開示のまとめ]
本開示の時計部品は、部品の形に形成された金属部材で構成される時計部品であって、前記金属部材の表面は、前記金属部材の素材色とは異なる色のコーティング材で被覆された被覆領域と、前記金属部材の素材色を露出させた露出領域とを有し、前記被覆領域および前記露出領域との境界部分で刃文風の模様が形成されている。
本開示によれば、時計部品に刃文風の模様を形成できるので、日本刀をモチーフとしたことで高付加価値の時計を提供することができる。また、刃文風の模様は、時計部品に金属部材の素材色を露出させた露出領域と、金属部材の素材色と異なる色のコーティング材で被覆した被覆領域とを設け、これらの領域の境界部分で形成しているので、実際の日本刀の製造工程を行う必要が無いため、時計部品を量産することができる。
【0067】
本開示の時計部品は、部品の形に形成された玉鋼で構成される時計部品であって、前記玉鋼の表面は、酸化膜で被覆された被覆領域と、前記玉鋼の素材色を露出させた露出領域とを有し、前記被覆領域および前記露出領域との境界部分で刃文風の模様が形成されている。
本開示によれば、時計部品に刃文風の模様を形成できるので、日本刀をモチーフとしたことで高付加価値の時計を提供することができる。また、刃文風の模様は、時計部品に玉鋼の素材色を露出させた露出領域と、酸化膜で被覆した被覆領域とを設け、これらの領域の境界部分で形成しているので、実際の日本刀の製造工程を行う必要が無いため、時計部品を量産することができる。さらに、日本刀の素材である玉鋼を用いて時計部品を製造しているので、刀らしい黒銀の色味を出すことができ、時計に高付加価値を付与できる。
【0068】
本開示の時計部品において、前記金属部材は、ステンレス、チタン、シルバーのいずれかであることが好ましい。
金属部材として、ステンレス、チタン、シルバーのいずれかを用いれば、玉鋼に比べて容易に入手できてコストを低減できる。また、ステンレス、チタン、シルバーのいずれかを用いて金属部材を構成し、その表面を黒色等のコーティング材でコーティングすることで、玉鋼を用いた場合と同様の黒銀の色味を模することができる。
【0069】
本開示の時計部品において、前記時計部品は、時計において可動する部品であることが好ましい。
回転錘や指針などの時計において可動する時計部品に刃文風の模様を形成しているので、可動部品の動きをより強調できる。
【0070】
本開示の時計部品において、前記時計部品は、回転錘または指針であることが好ましい。
時計部品が回転錘や指針であれば、回転錘や指針の回転時に刃文風の模様も回転するため、日本刀を振っているような表現ができ、ユーザーに対して本物の日本刀をイメージさせることができる。
【0071】
本開示の時計部品において、前記時計部品は文字板であり、前記文字板の外周に沿って前記刃文風の模様が形成されていることが好ましい。
文字板は、時計部品の中では面積が大きい部品であるため、刃文風の模様を容易に形成できる。また、文字板は、時計を手首に装着した状態でも常に目視できるため、ユーザーに対して日本刀のモチーフを常に意識させることができ、満足感を高めることができる。
【0072】
本開示の時計部品において、前記時計部品は、バンドであることが好ましい。
バンドの駒は、時計部品の中では比較的面積が大きい部品であるため、刃文風の模様を容易に形成できる。また、バンドは、時計を手首に装着した状態でも常に目視できるため、ユーザーに対して日本刀のモチーフを常に意識させることができ、満足感を高めることができる。
【0073】
本開示の時計は、前記時計部品を有することを特徴とする。
本開示によれば、刃文風の模様を形成した前記時計部品を有するので、日本刀をモチーフとした高付加価値の時計を量産することができる。
【0074】
本開示の時計において、前記時計部品は、時計の外装部品によって密閉される空間に配置されていることが好ましい。
時計部品を外装部品により密閉された空間に配置すれば、時計部品が水や酸素と接触することを阻止できる。このため、時計部品の素材色が露出する露出領域に錆が発生することを防止でき、金属部材や玉鋼の素材の無垢な表面を活かしたデザインとすることができる。
【0075】
本開示の時計部品の製造方法は、金属製の素材を時計部品の形にして金属部材を成形する成形工程と、前記金属部材の表面に、前記金属部材の素材色とは異なる色のコーティング材を被覆する被覆工程と、前記コーティング材の一部を剥がして前記金属部材の素材色を露出させた露出領域を形成し、前記コーティング材で被覆された被覆領域との境界部分に刃文風の模様を形成する模様形成工程と、を有する。
本開示によれば、コーティング材で被覆された被覆領域と、金属部材の素材色が露出する露出領域とを形成することで、刃文風の模様を形成しているので、焼き入れなどの工程も不要にでき、時計部品を量産することができる。
【0076】
本開示の時計部品の製造方法は、金属製の素材を時計部品の形にして金属部材を成形する成形工程と、前記金属部材の素材色を露出させる露出領域を、マスキング材で覆うマスク工程と、前記金属部材の表面に、前記金属部材の素材色とは異なる色のコーティング材を被覆して被覆領域を形成し、前記露出領域との境界部分に刃文風の模様を形成する模様形成工程と、前記マスキング材を除去するマスク除去工程と、を有する。
本開示によれば、コーティング材で被覆された被覆領域と、金属部材の素材色が露出する露出領域とを形成することで、刃文風の模様を形成しているので、焼き入れなどの工程も不要にでき、時計部品を量産することができる。また、露出領域をマスキング材で覆った状態で、コーティング材を被覆して被覆領域を形成しているので、マスク除去工程でマスキング材を除去した後で、コーティング材を剥がして露出領域を形成する必要が無く、コーティング材の使用量を抑制できてコストを低減できる。
【0077】
本開示の時計部品の製造方法は、玉鋼を時計部品の形に成形する成形工程と、前記玉鋼の表面を被覆する酸化膜の一部を剥がすことで、前記玉鋼の素材色を露出させた露出領域を形成し、前記酸化膜で被覆された被覆領域との境界部分に刃文風の模様を形成する模様形成工程と、を有する。
本開示によれば、酸化膜で被覆された被覆領域と、玉鋼の素材色が露出する露出領域とを形成することで、刃文風の模様を形成しているので、焼き入れなどの工程も不要にでき、時計部品を量産することができる。さらに、日本刀の素材である玉鋼を用いて時計部品を製造しているので、刀らしい黒銀の色味を出すことができ、時計に高付加価値を付与できる。
【0078】
本開示の時計部品の製造方法において、前記模様形成工程は、ブラスト処理、レーザー加工または研磨加工によって前記コーティング材または前記酸化膜の一部を剥がして前記刃文風の模様を形成することが好ましい。
本開示によれば、ブラスト処理、レーザー加工または研磨加工によって、コーティング材や酸化膜の一部を剥がしているので、所望の箇所のみを剥がすことができ、所望の刃文風の模様を形成できる。
【0079】
本開示の時計部品の製造方法において、前記コーティング材は、蒸着、スパッタ、化学気相成長のいずれかの加工方法によって形成されることが好ましい。
本開示によれば、蒸着、スパッタ、化学気相成長によって、コーティング材を成膜しているので、コーティング材を剥がす必要が無く、所望の刃文風の模様を形成できる。
【0080】
本開示の時計部品の製造方法において、窒素またはポリシラザンによって前記被覆領域および前記露出領域を被覆する表面処理工程を実行することが好ましい。
本開示によれば、表面処理工程によって被覆領域や露出領域を保護することができ、時計部品の錆の発生も防止できる。
【符号の説明】
【0081】
1…時計、1B…時計、1C…時計、1D…時計、2…外装ケース、2C…外装ケース、2D…外装ケース、3…文字板、4…時針、5…分針、6…秒針、9…裏蓋、10…回転錘、10B…回転錘、10C…回転錘、11…錘体、12…重錘、12B…重錘、13…金属部材、14…被覆領域、14B…被覆領域、15…第1被覆領域、16…第2被覆領域、17…露出領域、17B…露出領域、18…模様、18B…模様、30…文字板、34…被覆領域、35…第1被覆領域、36…第2被覆領域、37…露出領域、38…模様、40…バンド、40A…バンド、40B…バンド、40C…バンド、41…駒、42…中駒、43…外駒、44…被覆領域、45…第1被覆領域、46…第2被覆領域、47…露出領域、48…模様、50A…指針、50B…指針、54…被覆領域、55…第1被覆領域、56…第2被覆領域、57…露出領域、141…コーティング材。