(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182150
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】塗装劣化診断方法、塗装劣化診断装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095589
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】吉野 恵一
(72)【発明者】
【氏名】伊地知 弘光
(72)【発明者】
【氏名】岸垣 暢浩
(72)【発明者】
【氏名】龍岡 照久
(72)【発明者】
【氏名】山戸 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】白石 智規
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050AA04
2G050BA03
2G050CA10
2G050EB07
(57)【要約】
【課題】構造物の塗装面の寿命を推定することができる塗装劣化診断方法、塗装劣化診断装置、及びプログラムを提供する。
【解決手段】構造物の表面に形成された第1塗膜に用いられる塗料を用い、部材の表面において前記第1塗膜の膜厚以下の薄い膜厚を有する第2塗膜が異なる膜厚において形成された複数の試験片を備える試験片セットを作成し、前記試験片セットを前記構造物が設置された観測点において暴露し、複数の前記試験片の前記第2塗膜の劣化度合いを定期的に計測し、前記第2塗膜の膜厚と前記劣化度合いとの関係に基づいて膜厚に対する将来的な寿命を推定する関係曲線を算出し、前記関係曲線に基づいて前記第1塗膜の寿命を推定する、塗装劣化診断方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に形成された第1塗膜に用いられる塗料を用い、部材の表面において前記第1塗膜の膜厚以下の薄い膜厚を有する第2塗膜が異なる膜厚において形成された複数の試験片を備える試験片セットを作成し、
前記試験片セットを前記構造物が設置された観測点において暴露し、
複数の前記試験片の前記第2塗膜の劣化度合いを定期的に計測し、
前記第2塗膜の膜厚と前記劣化度合いとの関係に基づいて膜厚に対する将来的な寿命を推定する関係曲線を算出し、
前記関係曲線に基づいて前記第1塗膜の寿命を推定する、
塗装劣化診断方法。
【請求項2】
前記試験片セットの定期的な計測タイミングにおいて、計測された前記第2塗膜の膜厚と前記劣化度合いとの関係に基づいて前記劣化度合いの閾値となる寿命膜厚を算出し、
定期的な前記計測タイミングにおいて算出された複数の前記寿命膜厚と前記計測タイミングとの関係に基づいて前記関係曲線を算出する、
請求項1に記載の塗装劣化診断方法。
【請求項3】
前記第2塗膜は、前記観測点における前記構造物の表面に形成された前記第1塗膜の下層の処理状態に応じて形成される、
請求項1または2に記載の塗装劣化診断方法。
【請求項4】
構造物の表面に形成された第1塗膜に用いられる塗料を用い、部材の表面において前記第1塗膜の膜厚以下の薄い膜厚を有する第2塗膜が異なる膜厚において形成された複数の試験片を備える試験片セットを前記構造物が設置された観測点において暴露し、
複数の前記試験片の前記第2塗膜の劣化度合いを定期的に計測する検出部と、
検出値を用いて前記第2塗膜の膜厚と前記劣化度合いとの関係に基づいて膜厚に対する将来的な寿命を推定する関係曲線を算出し、前記関係曲線に基づいて前記第1塗膜の寿命を推定する演算部と、を備える、
塗装劣化診断装置。
【請求項5】
構造物の塗装面を管理する塗装劣化診断装置に搭載されたコンピュータに、
構造物の表面に形成された第1塗膜に用いられる塗料を用いて部材の表面において前記第1塗膜の膜厚以下の薄い膜厚を有する第2塗膜が異なる膜厚において形成された複数の試験片を備える試験片セットを前記構造物が設置された観測点において暴露した状態において、複数の前記試験片の前記第2塗膜の劣化度合いを定期的に計測させ、
前記第2塗膜の膜厚と前記劣化度合いとの関係に基づいて膜厚に対する将来的な寿命を推定する関係曲線を算出させ、
前記関係曲線に基づいて前記第1塗膜の寿命を推定させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装面の寿命を予測するための塗装劣化診断方法、塗装劣化診断装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔等の金属構造物は、腐食防止のために表面に塗装が施されている。金属部材の表面に施工された塗膜は、経時的に劣化が進行し金属部材が腐食する虞がある。そのため、金属構造物の塗装面は、定期的に点検され、劣化の状態に応じて塗り替え等の補修が行われる(例えば、特許文献1参照)。一般的に、構造物に施工された塗装の寿命は、塗装の目的に応じて、光沢度の低下や塗膜の消失減耗に基づいて評価されている。
【0003】
塗装の点検においては、作業者が限度見本等と塗装面とを比較して、経験や知見に基づいて塗膜下に腐食が発生しているか否かを判定し、塗り替え時期を決定している。このとき、塗装面が塗り替え時期に達していなければ、継続的に点検を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
防錆を目的とした実際の塗装の場合、塗膜下において発生する腐食の面積の拡大度合いを判断し塗り替えを行うか否かが決定されている。塗装寿命を塗膜下腐食の発生により評価するために、塗装試験片を屋外暴露して寿命評価を行う場合がある。しかしながら、近年、塗装の耐久性能が向上したことにより、塗膜下において腐食が発生するまでに長時間を要し、寿命評価に多くの時間とコストを要しているという課題がある。
【0006】
本発明は、構造物の塗装面の寿命を短期間において推定することができる塗装劣化診断方法、塗装劣化診断装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、構造物の表面に形成された第1塗膜に用いられる塗料を用い、部材の表面において前記第1塗膜の膜厚以下の薄い膜厚を有する第2塗膜が異なる膜厚において形成された複数の試験片を備える試験片セットを作成し、前記試験片セットを前記構造物が設置された観測点において暴露し、複数の前記試験片の前記第2塗膜の劣化度合いを定期的に計測し、前記第2塗膜の膜厚と前記劣化度合いとの関係に基づいて膜厚に対する将来的な寿命を推定する関係曲線を算出し、前記関係曲線に基づいて前記第1塗膜の寿命を推定する、塗装劣化診断方法である。
【0008】
本発明によれば、第1塗膜の膜厚以下の薄い膜厚を有する第2塗膜が異なる膜厚において形成された複数の試験片を備える試験片セットを用いることにより、構造物の塗装面の寿命を短期間において推定することができる。
【0009】
また、本発明は、前記試験片セットの定期的な計測タイミングにおいて、計測された前記第2塗膜の膜厚と前記劣化度合いとの関係に基づいて前記劣化度合いの閾値となる寿命膜厚を算出し、定期的な前記計測タイミングにおいて算出された複数の前記寿命膜厚と前記計測タイミングとの関係に基づいて前記関係曲線を算出してもよい。
【0010】
本発明によれば、複数の試験片の劣化度合を定期的に計測することにより、塗膜の膜厚と劣化度合いとの関係に基づいて関係曲線を算出することで、実際の構造物の塗膜の寿命を推定することができる。
【0011】
また、本発明の前記第2塗膜は、前記観測点における前記構造物の表面に形成された前記第1塗膜の下層の処理状態に応じて形成されてもよい。
【0012】
本発明によれば、構造物の塗膜の下地の状態に応じて試験片を作成することにより、構造物の塗膜の寿命をより正確に推定することができる。
【0013】
本発明の一態様は、構造物の表面に形成された第1塗膜に用いられる塗料を用い、部材の表面において前記第1塗膜の膜厚以下の薄い膜厚を有する第2塗膜が異なる膜厚において形成された複数の試験片を備える試験片セットを前記構造物が設置された観測点において暴露し、複数の前記試験片の前記第2塗膜の劣化度合いを定期的に計測する検出部と、検出値を用いて前記第2塗膜の膜厚と前記劣化度合いとの関係に基づいて膜厚に対する将来的な寿命を推定する関係曲線を算出し、前記関係曲線に基づいて前記第1塗膜の寿命を推定する演算部と、を備える塗装劣化診断装置である。
【0014】
本発明によれば、第1塗膜の膜厚以下の薄い膜厚を有する第2塗膜が異なる膜厚において形成された複数の試験片を備える試験片セットを用いることにより、構造物の塗装面の寿命を短期間において推定する塗装劣化診断装置を構成することができる。
【0015】
本発明の一態様は、構造物の塗装面を管理する塗装劣化診断装置に搭載されたコンピュータに、構造物の表面に形成された第1塗膜に用いられる塗料を用いて部材の表面において前記第1塗膜の膜厚以下の薄い膜厚を有する第2塗膜が異なる膜厚において形成された複数の試験片を備える試験片セットを前記構造物が設置された観測点において暴露した状態において、複数の前記試験片の前記第2塗膜の劣化度合いを定期的に計測させ、前記第2塗膜の膜厚と前記劣化度合いとの関係に基づいて膜厚に対する将来的な寿命を推定する関係曲線を算出させ、前記関係曲線に基づいて前記第1塗膜の寿命を推定させる、プログラムである。
【0016】
本発明によれば、第1塗膜の膜厚以下の薄い膜厚を有する第2塗膜が異なる膜厚において形成された複数の試験片を備える試験片セットを用いることにより、構造物の塗装面の寿命を短期間において推定するプログラムを構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、構造物の塗装面の寿命を短期間において推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】金属構造物の塗装面の塗膜下において発生する腐食の状態を示す図である。
【
図2】膜厚が薄い塗装面の塗膜下において発生する腐食の状態を示す図である。
【
図3】塩分が付着した塗装面の塗膜下において発生する腐食の状態を示す図である。
【
図6】試験片セットを測定点において暴露した試験結果を示すである。
【
図8】塗装劣化診断システムの構成を示す図である。
【
図9】塗装劣化診断方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の塗装劣化診断方法、塗装劣化診断装置、及びプログラムについて説明する。
【0020】
図1に示されるように、鉄塔等の金属構造物の塗装面の塗膜下において発生する腐食は、塗膜に水分が浸透し、鋼材と塗膜の界面で水分が滞留することにより発生する。塗膜への水分の浸透と、鋼材と塗膜の界面における水分の滞留とは、塗装面の膜厚に対して以下のような関係がある。
【0021】
(1)
図2に示されるように、塗装面の膜厚が薄い場合、水分が塗膜を透過して鋼材に達する時間は、塗膜が薄くなるほど短くなると共に、界面における水分の滞留が始まる時間も早くなる。
(2)
図3に示されるように、鋼材に塩分が付着しており、且つ、高湿度の環境である場合、塗膜表面に水膜が形成されると、浸透圧により塗膜下に水分が引き寄せられる。塗装膜厚が薄い場合、塗装面にはピンホール等の塗膜欠陥が増加する。塗膜欠陥部が生じると、海塩地域の環境においては塩分粒子が塗膜欠陥部を通じて塗膜下に移動し濃縮され、浸透圧による水分の移動がさらに増加する。
【0022】
発明者らは、鋭意研究の下、以上の関係に基づいて、塗装膜厚と、水分の浸透量ならびに鋼材と塗膜の界面における水分の滞留量との間には関連性があり、塗装膜厚を薄くした場合、短期間において塗膜下腐食が発生するという知見を得た。得られた知見に基づいて、短期間において塗膜下腐食を発生させる試験片が作成された。
【0023】
図4に示されるように、試験片Sn(n:自然数)は、実際の塗装面の膜厚(標準膜厚)に比して薄い膜厚を有する。膜厚を変えた複数の試験片Snにより、試験片セットSが構成される。試験片Snは、例えば、構造物の素材と同素材により形成された部材Stと、部材Stの表面に形成された塗膜Sp(第2塗膜)とにより構成されている。部材Stは、例えば、鋼材により矩形の板状に形成されている。部材Stは、例えば、亜鉛メッキ無し鋼板である。塗膜Spは、例えば、実際の構造物の表面に形成された塗膜(第1塗膜)に用いられる塗料を用いて形成されている。塗膜Spは、例えば、エポキシ樹脂系塗料である。塗膜Spは、部材Stの表面において構造物の表面に形成された塗膜の膜厚以下の膜厚を有している。
【0024】
試験片セットSは、例えば、塗膜Spが異なる膜厚において形成された複数の試験片S1~S3を備えている。試験片S1において、60μmの膜厚に形成された塗膜Spが形成されている。試験片S1の塗膜Spの膜厚は、構造物の表面に形成された塗膜の膜厚と同じ標準膜厚に形成されている。標準膜厚は、塗料の種類に応じて設定されている。本実施形態では標準膜厚を有する試験片S1に対して、水分の浸透量ならびに鋼材と塗膜の界面における水分の滞留量を増やす目的で、膜厚値を薄くし塗装した試験片S2,S3(塗装加速劣化試験片)が作製された。試験片S2においては、30μmの膜厚に形成された塗膜Spが形成されている。試験片S3においては、15μmの膜厚に形成された塗膜Spが形成されている。試験片セットSにおいて、異なる膜厚の3個以上の試験片が形成されてもよい。
【0025】
試験片セットSは、構造物が設置された観測点に暴露され、試験が行われる。観測点は、例えば、海岸から1km以内の送電鉄塔である。試験片セットSは、送電鉄塔の高さ20m付近に暴露された状態で設置される。以下、試験片セットSを用い、塗膜下腐食を短期間で発生させる屋外暴露試験を1年間行った結果を示す。
【0026】
図5には、観測点に1年間暴露された後の試験片セットSの劣化状態が示されている。外観観察の結果、標準膜厚60μmの試験片S1には、塗膜下腐食の発生は見られなかった。膜厚値15μmの試験片S3には塗膜下腐食が発生した。暴露試験において、試験片S1~S3の劣化度合となる塗膜下腐食が塗膜Spの表面に発生する錆面積率により評価された。
【0027】
図6には、試験片S1~S3の劣化度合を示す塗膜下腐食を錆面積率で評価した場合の、膜厚値と錆面積率との関係が示されている。グラフには、1年間暴露した試験片S1~S3の膜厚値に対する錆面積率(%)がプロットされた。グラフにおいて、プロットされたデータに基づいて膜厚値と錆面積率との関係を示す関係式となる直線(A)が算出された。直線(A)は、プロットされたデータに基づいて作図に基づいて導出された。直線(A)は、重回帰分析に基づいて算出されてもよい。塗膜Spの膜厚値には、塗り替えの目安となる錆面積率の閾値が設定される。閾値は、例えば、50%である。閾値は、塗膜Spの種類に応じて任意の値に設定されてもよい。直線(A)に基づいて、閾値における膜厚値X1が算出される。
【0028】
直線(A)と同様に、グラフには、複数の試験片S1~S3の塗膜Spの劣化度合いを定期的に計測したデータがプロットされる。グラフには、例えば、3年間と5年間暴露した試験片S1~S3の膜厚値に対する錆面積率(%)がプロットされ、プロットされたデータに基づいて膜厚値と錆面積率との関係を示す直線(B)及び直線(C)を算出する。直線(B)に基づいて、閾値における膜厚値X2が算出される。同様に直線(C)に基づいて、閾値における膜厚値X3が算出される。上記の通り、試験片セットのSの定期的な計測タイミングにおいて、計測された塗膜Spの膜厚と劣化度合いを示す錆面積率との関係に基づいて劣化度合いの閾値となる膜厚値X1~X3(寿命膜厚)が算出される。
【0029】
図7に示されるように、塗膜Spの膜厚の閾値の膜厚値X1~X3と劣化度合いとの関係に基づいて、膜厚に対する将来的な寿命を推定する関係曲線が算出される。図示するように、関係曲線に基づいて実際の構造物の塗膜の膜厚値に対する寿命を推定することができる。関係曲線は、定期的な計測タイミングにおいて算出された複数の膜厚値X1~X3と計測タイミングとの関係に基づいて関係曲線を算出が算出される。
【0030】
試験片Snの塗膜Spは、観測点における構造物の表面に形成された塗膜の下層の処理状態に応じて適宜変更されて形成されてもよい。試験片Snは、金属下地に塗装したものだけでなく、旧塗装面を剥離せずにケレンしたものを下地として塗装した状態、メッキ処理された状態、防錆塗装が施された状態、前回施工された塗装状態等を再現し、各状態からの劣化速度を判定するものであってもよい。この場合、関係曲線は、試験片Snの塗膜の下層の処理状態に応じて算出されてもよく、実際の構造物の塗膜の下層の処理状態に対する寿命を推定してもよい。試験片Snは、新たな塗装が施工された後は、新たな塗装面の状態に基づいて更改されてもよい。
【0031】
図8に示されるように、塗膜の寿命は、鉄塔Tを管理するための塗装劣化診断システム1に基づいて自動的に生成され、管理されてもよい。塗装劣化診断システム1は、例えば、管理対象となる複数の鉄塔Tm(m自然数)に設けられた所定数の検出部2-mと、検出部2-mの検出結果に基づいて、鉄塔Tの塗装面の劣化状態を管理する塗装劣化診断装置10とにより構成されている。
【0032】
鉄塔Tmには、鉄塔Tmの塗装状態に応じて形成された試験片Snが空中に暴露された状態において配置されている。鉄塔Tmには、試験片Snの塗膜Spの劣化速度を測定する検出部2-mが設けられている。検出部2-mは、例えば、カメラを用いて試験片Snの塗膜Spを撮像した撮像データを生成する。検出部2-mは、例えば、有線或いは無線通信に基づいてネットワークNWを介して塗装劣化診断装置10に通信可能に接続されている。検出部2-mは、例えば、定期的な計測タイミングにおいて撮像データ等の検出値を塗装劣化診断装置10に送信する。
【0033】
塗装劣化診断装置10は、管理対象となる鉄塔Tmの塗装時期を管理するための情報処理端末装置である。塗装劣化診断装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等により実現される。塗装劣化診断装置10は、検出部2-mとネットワークNWを介して通信可能に接続されている。塗装劣化診断装置10は、例えば、検出部2-mから検出値のデータを取得する取得部12と、検出値に基づいて塗膜の寿命を算出する演算部14と、演算に関するデータを記憶する記憶部16と、演算結果を表示する表示部18とを備える。
【0034】
取得部12は、鉄塔Tmに施工された塗装面に比して劣化速度が高い塗膜Spを有する試験片セットSの塗膜Spの劣化状態を測定した実測値を取得する。取得部12は、ローカルネットワーク又は公衆ネットワークに接続された通信インタフェースである。記憶部16は、ハードディスクドライブ(HDD)、フラッシュメモリ等の記憶媒体を有する。記憶部16は塗装劣化診断装置10に必ずしも内蔵され、又は外部接続されているわけではなく、ネットワークを通じてデータを提供するサーバ(不図示)に設けられていてもよい。表示部18は、液晶ディスプレイ等の表示装置である。表示部18は、鉄塔Tmの塗膜の寿命に関する情報を表示する。
【0035】
取得された撮像データを用いて、塗装劣化診断装置10において、試験片Snの塗膜Spの劣化状態が記録される。このとき、試験片Snの塗膜Spの劣化状態は、操作者の経験に基づいて入力されてもよいし、演算部14による処理に基づいて自動的に判定されてもよい。演算部14は、例えば、試験片Snを撮像した撮像データに基づいて試験片Snの劣化状態を判定する。演算部14は、例えば、予め試験片Snの腐食度合いを示す撮像データを教師データとするディープラーニングを用いた機械学習に基づいて撮像データにおける試験片Snの劣化状態を判定する。演算部14は、判定結果に基づいて塗膜の寿命を推定する。
【0036】
図9には、塗装劣化診断システム1を用いた塗装劣化診断方法の各工程がフローチャートにより示されている。管理者は、鉄塔Tmの表面に形成された第1塗膜に用いられる塗料を用い、部材Stの表面において第1塗膜の膜厚以下の薄い膜厚を有する第2塗膜を有する試験片Snを作成する。管理者は、第2塗膜が異なる膜厚において形成された複数の試験片Snを備える試験片セットSを作成する(ステップS100)。管理者は、試験片セットSを鉄塔Tmが設置された観測点において暴露する(ステップS102)。演算部14は、複数の試験片Snの塗膜Spの劣化度合いを定期的に計測する(ステップS104)。ステップS104は、管理者による処理であってもよい。
【0037】
演算部14は、第2塗膜の膜厚と劣化度合いとの関係に基づいて膜厚に対する将来的な寿命を推定する関係曲線を算出し、関係曲線に基づいて鉄塔Tmの塗膜の寿命を推定する(ステップS106)。演算部14は、表示部18を制御して鉄塔Tmの塗膜の状態に関する情報を表示させる(ステップS108)。
【0038】
演算部14は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め記憶部16に設けられたHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。
【0039】
プログラムは、構造物の塗装面を管理する塗装劣化診断装置に搭載されたコンピュータに、以下の処理を実行させる。プログラムは、構造物の表面に形成された第1塗膜に用いられる塗料を用いて部材の表面において鉄塔Tmの塗膜の膜厚以下の薄い膜厚を有する塗膜が異なる膜厚において形成された複数の試験片Snを備える試験片セットSを構造物が設置された観測点において暴露した状態において、複数の試験片Snの塗膜Spの劣化度合いを定期的に計測させる。プログラムは、第2塗膜の膜厚と前記劣化度合いとの関係に基づいて膜厚に対する将来的な寿命を推定する関係曲線を算出させ、関係曲線に基づいて鉄塔Tmの塗膜の寿命を推定させる。
【0040】
上述したように塗装劣化診断方法によれば、金属構造物の塗装面の将来的な寿命を推定することができる。塗装劣化診断方法によれば、実際の構造物の塗装面に比して劣化速度が高い塗膜Spを有する試験片Snを利用することにより、金属構造物の塗装面の劣化度合を示す関係曲線を算出することができる。塗装劣化診断方法によれば、関係曲線を利用して、観測点に設置された構造物の塗装面の将来的な寿命を予測することができる。塗装劣化診断方法によれば、試験片Snを利用することにより、実際の構造物の塗膜の劣化状態を観測する場合に比して短期間において実際の構造物の塗膜の寿命を推定することができる。塗装劣化診断方法によれば、関係曲線に基づいて管理対象となる全ての構造物の塗装面の塗装時期を管理することができる。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0042】
例えば、塗装劣化診断方法は、鉄塔Tだけでなく他の金属構造物や、船舶、車両等の金属下地を有する塗装面の劣化状態の推定に適用してもよい。検出部2-mは、撮像データの他、試験片Snに設けられた電極に流れる電流値や電圧を検出するものであってもよい。検出部2-mは、試験片Snの劣化度合を検出可能であれば、他の検出手法に置き換えられてもよい。関係曲線を利用して算出された将来的な塗装面の寿命の推定結果は、構造物の実際の塗装面の劣化状態を観察した実測データに基づいて適宜修正されてもよい。
【符号の説明】
【0043】
2-m 検出部
10 塗装劣化診断装置
14 演算部
S 試験片セット
S1~S3、Sn 試験片
Sp 塗膜
St 部材