(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182170
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】軌条車両構体
(51)【国際特許分類】
B61F 1/14 20060101AFI20231219BHJP
B61F 1/12 20060101ALI20231219BHJP
B61D 17/10 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B61F1/14
B61F1/12
B61D17/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095633
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮永 恭
(72)【発明者】
【氏名】中村 英之
(72)【発明者】
【氏名】稲 佳彦
(57)【要約】
【課題】配線に係わる作業工数を小さくするために、コネクタで結合された配線を枕梁に設けた貫通孔を通すことができる枕梁を有するとともに高い剛性を有する台枠を備える軌条車両構体を提供する。
【解決手段】軌条車両構体は、当該軌条車両構体の床面をなす床部と、床部の下方に当該軌条車両構体の幅方向に沿って備えられる枕梁と、床部の下方に前記枕梁を貫通する態様で当該軌条車両の長手方向に沿って敷設されるとともにコネクタで中継される電線と、を有する。枕梁は、台枠の幅方向の端部に位置する端枕梁と、台枠の幅方向の中央部に位置するとともに電線が貫通する空間を有する中央枕梁と、から構成されている。中央枕梁の上記空間の高さ寸法は、コネクタの外径より大きく設定されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌条車両構体であって、
当該軌条車両構体の床面をなす床部と、
前記床部の下方に当該軌条車両構体の幅方向に沿って備えられる枕梁と、
前記床部の下方に前記枕梁を貫通する態様で当該軌条車両の長手方向に沿って敷設されるとともにコネクタで中継される電線と、
を有し、
前記枕梁は、
前記台枠の幅方向の端部に位置する端枕梁と、
前記台枠の幅方向の中央部に位置するとともに前記電線が貫通する空間を有する中央枕梁と、
から構成されており、
前記中央枕梁の前記空間の高さ寸法は、前記コネクタの外径より大きく設定されていること
を特徴とする軌条車両構体。
【請求項2】
請求項1に記載された軌条車両構体において、
前記床部は、
前記台枠の幅方向の端部に位置する端床部と、
前記台枠の幅方向の中央部に位置する中央床部と、
から構成されており、
前記端床部の高さ寸法は、前記中央床部の高さ寸法より大きく設定されており、
前記端枕梁の高さ寸法は、前記中央枕梁の高さ寸法より小さく設定されており、
前記前記端床部の高さ寸法と前記中央枕梁の高さ寸法との和は、
前記端枕梁の高さ寸法と前記中央床部の高さ寸法との和とほぼ同じに設定されること
を特徴とする軌条車両構体。
【請求項3】
請求項2に記載の軌条車両構体において、
前記端床部は、
前記台枠の長手方向に沿って押出成形された中空押し出し形材から構成されており、
前記端枕梁は、
前記台枠の幅方向に沿って押出成形された中空押し出し形材から構成されること、
を特徴とする軌条車両構体。
【請求項4】
請求項2に記載の軌条車両構体において、
前記中央床部の下方に前記台枠の長手方向に沿って備えられる中梁を有しており、
前記中央枕梁は、
前記中梁を収容する凹部を有すること、
を特徴とする軌条車両構体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両やモノレール車両のような軌道に沿って運行される軌条車両の構体に係わる。
【背景技術】
【0002】
軌条車両の構体は、一般に、床面をなす台枠と、台枠の幅方向の両端部に立設される側構体と、台枠の長手方向の両端部に立設される妻構体と、側構体と妻構体との上端部に載置される屋根構体とから成る。
【0003】
近年では、製作性の向上や遮音性の向上を目的として、対向する二枚の面板とこれら面板を接続する複数の接続リブから成るアルミニウム合金製の中空形材を用いて、屋根構体、側構体、台枠等を構成し、軌条車両構体に組み立てる手法が広まりつつある。
【0004】
特に、軌条車両構体は、台枠を構成する床板の長手方向端部寄りの下面に接合される枕梁の下方に台車を備える。枕梁を跨いで、台枠の一方の端部から他方の端部へ配線や配管を通す場合、枕梁の下方には台車があるため、枕梁の下面と台車の上面との間に配線等を通すことが難しかった。このため、枕梁の厚さ方向の中央部に台枠の長手方向に貫通する孔を設け、この貫通孔を利用して構体の中央部から幕張を貫通して構体の端部に至る配線等を敷設していた。
【0005】
特許文献1に、従来の台枠構造の一例が示されている。特許文献1の
図1には、アルミニウム合金製の中空形材によって床板を構成し、その下面に台枠の幅方向に沿う枕梁を接合した構造が示されている。さらに特許文献1の
図5には、床下配線を通すための円状および楕円状の貫通穴を枕梁内部に設けた構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、枕梁の厚さ方向寸法や、貫通孔の加工工数等を勘案して、枕梁に台枠の長手方向に沿う貫通孔を加工していた。特に、編成を通して引き通される配線は、接続する一方の配線の端部にオスコネクターを設け、他方の配線の端部にメスコネクターを設け、これらコネクタを結合して、引き通し配線を構成していた。
【0008】
これら配線作業に係わる工数を小さくするために、アウトワークでコネクタを介して結合された配線束(配線ハーネス)を床下に敷設できることが望ましい。しかしながら、枕梁を跨ぐ配線の場合、大きな外径を有するコネクタを、枕梁に備えた貫通孔を通すことが困難であったため、アウトワーク化や配線敷設作業の簡素が進まず、配線の敷設に伴う工数を小さくできない課題があった。
【0009】
また、レール上面から台枠(床部)の上面までの高さは、駅のホーム高さ寸法とほぼ同じに設定される。一方、レール上面から台枠(枕梁)の下面までの高さ寸法は、台枠の下方に備えられる台車の高さ寸法の制約を受ける。したがって、枕梁を備える部位の台枠の高さ(厚さ)寸法は、コネクタで接続された電線を貫通させるために、むやみに大きくできない制約があった。
【0010】
本発明の目的は、配線に係わる作業工数を小さくするために、コネクタで結合された配線を枕梁に設けた貫通孔を通すことができる枕梁を有するとともに高い剛性を有する台枠を備える軌条車両構体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
軌条車両構体は、当該軌条車両構体の床面をなす床部と、床部の下方に当該軌条車両構体の幅方向に沿って備えられる枕梁と、床部の下方に前記枕梁を貫通する態様で当該軌条車両の長手方向に沿って敷設されるとともにコネクタで中継される電線と、を有する。枕梁は、台枠の幅方向の端部に位置する端枕梁と、台枠の幅方向の中央部に位置するとともに電線が貫通する空間を有する中央枕梁と、から構成されている。中央枕梁の上記空間の高さ寸法は、コネクタの外径より大きく設定されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、配線に係わる作業工数を小さくするために、コネクタで結合された配線を枕梁に設けた貫通孔を通すことができる枕梁を有するとともに高い剛性を有する台枠を備える軌条車両構体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、鉄道車両構体の床面をなす台枠の平面図(
図1の視A-視A´)である。
【
図3】
図3は、横梁の鉄道車両の長手方向に交差する断面図(
図2のB-B´断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本実施例では、軌条車両の代表例として、鉄道車両を例示する。軌条車両は、敷設された軌道に沿って運行される車両の総称であり、鉄道車両、路面電車、新交通システム車両、モノレール車両等である。
【0015】
各図における方向を定義する。鉄道車両(軌道車両)の車室を構成する車体である鉄道車両の長手(レール)方向をx方向とし、鉄道車両の幅(枕木)方向をy方向とし、鉄道車両の高さ方向をz方向とする。以降、x方向、y方向、z方向と記す場合がある。
【0016】
図1は、鉄道車両の側面図である。鉄道車両(以下、単に「構体」と記すことがある。)1は、床面をなす台枠10と、台枠10のy方向の両端部に立設される側構体20と、台枠10のx方向の両端部に立設される妻構体(図示なし)と、側構体20および妻構体の上端部に載置される屋根構体40から構成される。側構体20は、窓22や乗客等が乗降する側引き戸(図示なし)等の開口部を有する。また、妻構体には、隣接する車両に乗客等が行き来する貫通路口が配置される。
【0017】
鉄道車両1のx方向の両端部の下方には軌道に沿って転動する輪軸を有する台車7が備えられる。台車7はその上部に枕木方向に隔置される一対の空気ばね(図示なし)を有しており、鉄道車両1はこの空気ばねを介して台車7に支持される。
【0018】
図2は、鉄道車両構体の床面をなす台枠10の平面図(
図1の視A-視A´)である。鉄道車両1は、その床面をなす台枠10と、台枠10のy方向の両端部に立設される側構体20と、側構体20の上部に載置される屋根構体40と、を有する。これら台枠10、側構体20および屋根構体40は、対向する2枚の面板(車内側面板と車外側面板)と、これら面板を接続する複数の接続板と、から構成されるとともに、これらの構成部材は、x方向に沿って押出成形されるアルミ合金製の中空形材押し出し形材から形成される。
【0019】
台枠10は、床面をなす床部15と、床部15のy方向の両端部にx方向に延伸する一対の側梁11と、床部15のx方向の両端部にy方向に延伸する端梁12と、端梁12のy方向の中央部から床部15のx方向の中央部に向かって延伸するとともに隔置される一対の中梁13と、一方の側梁11と他方の側梁11とを接続するとともに、そのy方向の中央部で中梁13に接続する枕梁14と、からなる。
【0020】
台枠10のx方向の端部の端梁12から枕梁14までは端台枠10bであり、端台枠10bを除く台枠10のx方向の中央部は中央台枠10aである。鉄道車両構体は、中央台枠10aの床部15の下方から端台枠10bの床部15の下方に、枕梁14を貫通する態様で引き通されるとともにコネクタ61で中継された電線60を有する。電線60を接続するコネクタ61の外径は、電線60の外径より大きい。したがって、枕梁14は、コネクタ61が通過できる寸法の空間を備える。
【0021】
枕梁14は、そのy方向の両端部に、台車7が備える空気ばねに支持される空気ばね座17aと、そのy方向の中央部が曲線等を通過する際に水平面内で旋回する台車7の軸となる中心ピンが備えられる中心ピン座17bと、を有する。台枠10(端台枠10b)をなす枕梁14は、空気ばね座17aを介して鉄道車両1の重量を支持するとともに、中心ピン座17bを介して台車7の加減速に伴う大きな荷重を鉄道車両1へ伝達するため、台枠10を構成する側梁11および中梁13に強固に固定される。
【0022】
<実施例1>
図3は、横梁の鉄道車両1の長手方向に交差する断面図(
図2のB-B´断面図)である。台枠10を構成する床部15は、台枠10のx方向の端部に位置する端床部15aと、台枠10のx方向の中央部に位置する中央床部15bと、から構成される。端床部15aおよび中央床部15は、x方向に押出成形された中空押し出し形材からなり、車内側面板15cと車外側面板15dと、これら両面板を接続する複数の接続リブ15eを有する。
【0023】
中央床部15bの下部にx方向に沿って備えられる中梁13は、中央床部15bと一体に押出し成形する構成であっても良いし、床部15とは別部品で製造した中梁13を中央床部15bの車外側面板15dに溶接して構成も良い。また、中梁13のx方向に交差する断面形状は直方体であっても、台形状であっても良い。端床部15aの高さ寸法15Haは、中央床部15bの高さ寸法15Hbより大きく設定されている。
【0024】
台枠10を構成する枕梁14は、台枠10のx方向端部に位置する端枕梁14aと、台枠10のx方向の中央部に位置する中央枕梁14bと、から構成される。端枕梁14aはy方向に押出成形される中空押し出し形材からなり、中央枕梁14bはx方向に押出成形される中空押出形材からなる。
【0025】
端枕梁14aと中央枕梁14bとは、接合(溶接)されて一体の枕梁14を構成する。端枕梁14aおよび中央枕梁14bは、上面板14cと、下面板14dと、これら面板を接続する複数の接続リブ14eとを有する。
【0026】
端枕梁14aの高さ寸法14Haは、中央枕梁14bの高さ寸法14Hbより小さく設定されている。中央枕梁14bの高さ寸法14Hbは、上面板14cと下面板14dとの間に、電線60を接続するコネクタ61を通すことができる寸法に設定される。
【0027】
枕梁14を床部15の下面に接続する時、枕梁14が中梁13と干渉しないように、中央枕梁14bは、中梁13が嵌り込む凹部14fを有する。凹部14fは一対の接続リブ14eと、下面板14dと、から構成される。x方向に交差する凹部14fの断面形状は、凹部14fに嵌合する中梁13のx方向に交差する断面形状と相似とすればよく、長方形または台形が選択される。x方向に交差する凹部14fの断面形状を台形とする場合は、中央床部15bに近い側を台形の長辺とする。
【0028】
枕梁14を、床部15の下方から床部15の下面に当接して台枠10を組立てる時、端床部15aの高さ寸法15Haと端枕梁14aの高さ寸法14Haの和は、中央床部15bの高さ寸法15Hbと中央枕梁14bの高さ寸法14Hbの和とほぼ同じ寸法となるように設定されている。
【0029】
<効果>
枕梁14を端枕梁14aと中央枕梁14bとから構成するとともに、中央枕梁14bの高さ寸法を、コネクタ61を有する電線60が中央枕梁14bのx方向に貫通できる高さ寸法に設定している。この構成によって、コネクタ61を有する電線60を枕梁14のx方向に通すことができるので、配線60を台枠10の下面に備える工数を小さくできる。
【0030】
コネクタ61を通すために中央枕梁14bの高さ寸法14Hbを大きくしているため、中央枕梁14Hbの上方に位置する中央床部15bの高さ方向の寸法15Hbは、端床部15aの高さ寸法15Haより小さく設定されている。しかしながら、x方向に延伸するとともに中央枕梁14bの高さ寸法14Hbとほぼ同じ高さ寸法を有する中梁13を中央床部15bの下方に備えることによって、中央床部15bの高さ寸法15Hbを小さくしたことによる中央床部15bの曲げ剛性の低下を補うことができる。
【0031】
さらに、中央枕梁14bの高さ寸法14Hbを大きく設定しているので、台車7の加減速に伴う荷重が中心ピンに作用して中心ピン座17bが±x方向に加振される場合であっても、中央枕梁14bが十分高い剛性を備えるため、床部15の振動や、振動に起因する騒音の発生を抑制できる。
【0032】
さらに、中央枕梁14bは、中梁13が嵌合する凹部14fを有するため、台車7が軌道の通り狂い等によって±y方向に加振される場合であっても、中央枕梁14bの凹部14fが床部15に接続する中梁13によって±y方向の変位が抑制されて、枕梁14(中央枕梁14b)の変位や振動を抑制できる。
【0033】
さらに、端床部15aの高さ寸法15Haと端枕梁14aの高さ寸法14Haの和は、中央床部15bの高さ寸法15Hbと中央枕梁14bの高さ寸法14Hbの和とほぼ同じ寸法に設定することによって、枕梁14の下面を段差のない略平面としている。この構成によって、台車7の枠体を構成する台車枠を容易に設計製造できる。
【0034】
さらに、x方向に押出成形した中空押し出し形材からなる端床部15aにy方向に押出成形した中空押し出し形材からなる端枕梁14aを重ねて台枠10を構成するため、台車7に支持される空気ばねが当接する台枠10(端枕梁14a)の剛性を高くできるので、台枠10の局所的な変形を抑制できる。
【0035】
したがって、本発明によれば、配線60に係わる作業工数を小さくするために、コネクタ61で結合された配線60を枕梁14に設けた貫通孔を通すことができる枕梁14を有するとともに高い剛性を有する台枠10を備える軌条車両構体を提供することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 …鉄道車両(軌条車両)
7 …台車
20 …側構体
22 …窓
10 …台枠
10a …中央台枠
10b …端台枠
11 …側梁
12 …端梁
13 …中梁
14 …枕梁
14a …端枕梁
14Ha…端枕梁の高さ寸法
14b …中央枕梁
14Hb…中央枕梁の高さ寸法
14c …上面板
14d …下面板
14e …接続リブ
14f …凹部
15 …床部
15a …端床部
15b …中央床部
15c …車内側面板
15d …車外側面板
15e …接続リブ
15Ha…端床部の高さ寸法
15Hb…中央床部の高さ寸法
17a …空気ばね座
17b …中心ピン座
40 …屋根構体
60 …配線
61 …コネクタ
x …長手(レール)方向
y …幅(枕木)方向
z …高さ方向