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特開2023-182176高温水蒸気電解セル及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182176
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】高温水蒸気電解セル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20231219BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20231219BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20231219BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20231219BHJP
   C25B 9/63 20210101ALI20231219BHJP
   H01M 8/0656 20160101ALI20231219BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C04B38/00 303Z
C25B9/23
C25B1/042
C25B9/63
H01M8/0656
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095641
(22)【出願日】2022-06-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の運用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅山 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
【テーマコード(参考)】
4G019
4K021
5H127
【Fターム(参考)】
4G019FA15
4K021AA01
4K021DB31
5H127AB04
5H127BA02
5H127BA14
(57)【要約】
【課題】電解セルのガス透過性を維持しつつ、強度を高めた支持層を備えることにより、水蒸気の電解反応と機械的強度とを両立させた高温水蒸気電解セルを提供する。
【解決手段】実施形態の高温水蒸気電解セル1は、ガス透過性を有する支持層2と、支持層2上に設けられ、ガス透過性を有し、かつ内部に流入した水蒸気を酸素イオンと水素に電気分解可能な水素極3と、水素極で生成された酸素イオンを伝導可能な固体酸化物電解質層4と、ガス透過性を有し、かつ固体酸化物電解質層から到達した酸素イオンから酸素分子を生成可能な酸素極6とを具備する。支持層2は、酸化ニッケルからなる第1酸化物と、ガドリニウム固溶セリア及びイットリア安定化ジルコニアの少なくとも1つの第2酸化物との複合体と、10×10-6/K以下の熱膨張係数を有する第3酸化物とを含有する多孔質焼結層を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス透過性を有する支持層と、
前記支持層上に設けられ、ガス透過性を有し、かつ内部に流入した水蒸気を酸素イオンと水素に電気分解可能な水素極と、
前記水素極で生成された前記酸素イオンを伝導可能な固体酸化物電解質層と、
ガス透過性を有し、かつ前記固体酸化物電解質層から到達した前記酸素イオンから酸素分子を生成可能な酸素極とを具備し、
前記支持層は、酸化ニッケルからなる第1酸化物と、ガドリニウム固溶セリア及びイットリア安定化ジルコニアからなる群より選ばれる少なくとも1つの第2酸化物との複合体を主構成成分として含有し、かつ10×10-6/K以下の熱膨張係数を有する第3酸化物を含有する多孔質焼結層を備える、高温水蒸気電解セル。
【請求項2】
前記複合体は、前記第1酸化物と前記第2酸化物とを質量比で5:5~7:3の比率で含み、かつ前記第3酸化物を前記第2酸化物の含有量に対して0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含む、請求項1に記載の高温水蒸気電解セル。
【請求項3】
前記第3酸化物は、アルミナ、シリカ、及びムライトからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1又は請求項2に記載の高温水蒸気電解セル。
【請求項4】
前記多孔質焼結層内に存在する、前記第2酸化物及び前記第3酸化物の少なくとも一方を含む凝集体の粒径が20μm以下である、請求項1に記載の高温水蒸気電解セル。
【請求項5】
前記多孔質焼結層は、30%以上50%以下の気孔率を有する、請求項1に記載の高温水蒸気電解セル。
【請求項6】
請求項1に記載の高温水蒸気電解セルの製造方法であって、
前記第1酸化物粉末と前記第2酸化物粉末と前記第3酸化物粉末とを含む原料粉末を調製する工程と、
前記原料粉末にバインダと気孔形成剤と溶媒を加えて原料スラリーを作製する工程と、
前記原料スラリーをシート状に成形し、成形体を得る工程と、
前記成形体を脱脂し、脱脂体を得る工程と、
前記脱脂体を焼結し、前記支持層として多孔質焼結層を得る工程と
を具備する高温水蒸気電解セルの製造方法。
【請求項7】
前記原料粉末は、前記第1酸化物と前記第2酸化物とを質量比で5:5~7:3の比率で含み、かつ前記第3酸化物を前記第2酸化物の含有量に対して0.5質量%以上5質量%以下の範囲で含む、請求項6に記載の高温水蒸気電解セルの製造方法。
【請求項8】
前記第2酸化物粉末及び前記第3酸化物粉末は、それぞれ0.05μm以上1μm以下の平均粒径を有する、請求項6に記載の高温水蒸気電解セルの製造方法。
【請求項9】
前記成形体の形成工程は、前記成形体の前記原料スラリーのシート層上に、前記水素極の形成スラリーをシート状に成形して積層成形体を作製する工程と、前記積層成形体上に前記固体酸化物電解質層の形成シートを積層する工程とを備え、前記脱脂工程及び前記焼結工程は、前記固体酸化物電解質層の形成シートが積層された前記積層成形体に対して実施される、請求項6に記載の高温水蒸気電解セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高温水蒸気電解セル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇、大気中への二酸化炭素の放出による地球温暖化等の環境問題、エネルギーセキュリティー、等の観点から、太陽光、風力、地熱等に代表される再生可能エネルギーの導入が推進されている。また、二次エネルギーとして、貯蔵や輸送の観点から、水素エネルギーが注目されている。水素エネルギーは例えば燃料電池自動車への適用が期待されており、低コストで品質の高い水素の製造や貯蔵が求められている。
【0003】
水素の製造には、現在コストや技術の観点から化石燃料を改質して製造する手法が主流とされている。しかし、化石燃料の改質による水素製造は、その製造過程において二酸化炭素を不可避的に発生させる。これに対し、水を原料として再生可能エネルギーを用いて水素を製造する方法は、二酸化炭素を発生させず、環境負荷が少ないことが分かっている。水や水蒸気を電解して水素を発生する方法としては、固体高分子電解質膜(Polymer Electrolyte Membrane:PEM)を用いるPEM型や、固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrolysis Cell:SOEC)を用いるSOEC型が知られている。なかでも、SOEC型は水素を製造するための電力が原理的に少なく、将来の水素製造方法として期待されている。
【0004】
水素製造のための水や水蒸気の電解に用いられるSOECは、電子を通す水素極の支持層と、水を電解する水素極(活性層)と、酸素イオンを伝導する固体酸化物電解質層と、酸素イオンを結合して酸素分子にする酸素極とにより構成されている。電解質は酸素イオン伝導性及び水素ガスと酸素ガスとを分離する役割を有しており重要である。また、支持層には電子を通す機能の他に、水蒸気を活性層に供給するためのガス透過性と、電解セルの形態を維持するための強度とが要求される。このため、支持層にはガス透過性を実現するために多孔質層が用いられている。従って、支持層には、欠陥とみなされる気孔を有する多孔質層で、高強度を実現するという二律背反の特性が要求されている。
【0005】
すなわち、SOECの支持層には、強度といった機械的信頼性が要求される一方で、ガス透過性が求められることから、破壊の起点となる気孔を内在しているために強度が低くなりやすい。このように、支持層には機械的信頼性とガス透過性の両立が求められているが、ガス透過性という電解セル性能を確保するためには、多孔質層に基づく機械的信頼性を低く抑えざるを得ないといった課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-154864号公報
【特許文献2】特開2016-071983号公報
【特許文献3】特許第5498191号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、電解セルに求められるガス透過性を維持しつつ、強度を高めた支持層を備えることにより、水蒸気の電解反応と機械的強度とを両立させることを可能にした高温水蒸気電解セルとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の高温水蒸気電解セルは、ガス透過性を有する支持層と、前記支持層上に設けられ、ガス透過性を有し、かつ内部に流入した水蒸気を酸素イオンと水素に電気分解可能な水素極と、前記水素極で生成された前記酸素イオンを伝導可能な固体酸化物電解質層と、ガス透過性を有し、かつ前記固体酸化物電解質層から到達した前記酸素イオンから酸素分子を生成可能な酸素極とを具備する。実施形態の高温水蒸気電解セルにおける支持層は、酸化ニッケルからなる第1酸化物と、ガドリニウム固溶セリア及びイットリア安定化ジルコニアからなる群より選ばれる少なくとも1つの第2酸化物との複合体を主構成成分として含有し、かつ10×10-6/K以下の熱膨張係数を有する第3酸化物を含有する多孔質焼結層を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の高温水蒸気電解セルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の高温水蒸気電解セルについて、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0011】
図1は実施形態による高温水蒸気電解セルの断面を示している。図1に示す高温水蒸気電解セル1は、高温の水蒸気を電気分解することにより水素と酸素を生成するSOECであって、支持層2と水素極3と固体酸化物電解質層4と中間層5と酸素極6とを具備している。中間層5は必要に応じて設けられる。ここでは平板型のSOEC1を示しているが、これに限らず、円筒型等の平板型ではない電解セル1であってもよい。
【0012】
支持層2は、電解セル1の強度を主として担う強度メンバーであって、ガス透過性を有する多孔質焼結体からなり、水蒸気が流通可能な水蒸気通路を有している。支持層2は、酸化ニッケル(NiO)からなる第1酸化物と、ガドリニウム固溶セリア(Gadolinia Doped Ceria(CeO):GDC)とイットリア安定化ジルコニア(Yttria(Y) Stabilized Zirconia(ZrO):YSZ)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第2酸化物との複合体を主構成成分として含有し、このような複合材料に加えて10×10-6/K以下の熱膨張係数を有する第3酸化物を含有する多孔質焼結層を備えている。支持層2としての多孔質焼結体は、例えば30%以上50%以下程度の気孔率を有している。支持層2としての多孔質焼結体の成分比を含む具体的な構成については、後に詳述する。
【0013】
支持層2上には、水素極3が設けられている。水素極3は水素極活性材料からなる多孔質層で構成されており、具体的には網状構造(network structure)の骨格によりガス透過性を有している。水素極3は、内部に網状構造の骨格に少なくとも部分的に囲まれた開放気孔(open pore)を有しており、当該開放気孔に流入した水蒸気を酸素イオンと水素に電気分解可能なものである。水素極3は、例えばNiOとガドリニウム固溶セリア(Gadolinia Doped Ceria(CeO):GDC)との複合体からなる。これ以外にも、Co、Fe、Cu、Ru等の酸化物と、希土類元素の酸化物や希土類元素で安定化されたジルコニアとの複合体を水素極3に適用してもよい。支持層2の水蒸気通路から水素極3内の開放気孔に流入した水蒸気は、主に水素極(活性層)3内で酸素イオンと水素とに電気分解される。電気分解により生成された水素ガス(H)は、図示しないガス流路から外部に導出され、例えば貯蔵される。生成された酸素イオンは、固体酸化物電解質層4内に伝導する。
【0014】
固体酸化物電解質層4は、一方の面が水素極3と積層されており、他方の面が中間層5を介して酸素極6と、もしくは酸素極6と直接積層されている。固体酸化物電解質層4は、緻密質な固体酸化物電解質からなり、酸素イオン等のイオンを通すものの、電気を通さないイオン伝導体である。固体酸化物電解質層4には、例えばY、Sc、Ce、Gd、Sm等の希土類元素の酸化物からなる安定化剤が固溶された安定化ジルコニア、代表的にはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)やセリア安定化ジルコニア(CSZ)、あるいはこれらの複合体を用いることができる。
【0015】
酸素極6は、酸素極活性材料からなり、ガス拡散性及び電子伝導性を有する多孔質体で構成されており、多孔質体内に固体酸化物電解質層4から到達した酸素イオン(O2-)及び外部電源から供給された電子(e)により酸素分子(O)を生成可能なものである。生成された酸素ガス(O)は、図示しないガス流路から外部に導出され、例えば必要に応じて貯蔵される。酸素極6は、ABOで表されるペロブスカイト構造を有する酸化物(以下、ペロブスカイト酸化物と記す。)を含む多孔質の焼結体からなる。酸素極6には、例えばR1-x1-y3-δ、(ここで、RはLa等の希土類元素、AはSr、Ca、Ba等のアルカリ土類元素、B及びCはCr、Mn、Co、Fe、Ni等の金属元素であり、x、y及びδは0≦x≦1、0≦y≦1、及び0≦δ≦1を満足する原子比である)で表されるペロブスカイト酸化物を用いることができる。酸素極6の代表例としては、(La1-xSr)(Co1-yFe)O3-δ(LSCF)が挙げられる。
【0016】
中間層5は、固体酸化物電解質層4と酸素極6との間に必要に応じて配置され、固体酸化物電解質層4と酸素極6との間における元素の拡散と反応を防止する緻密質な反応防止層である。実施形態のSOEC1は、支持層2、水素極3、固体酸化物電解質層4、必要に応じて中間層5、及び酸素極6を順に積層することにより構成される。より具体的には、支持層2上に水素極3の薄膜を形成し、さらに水素極3上に固体酸化物電解質層4の薄膜を形成する。さらに、固体酸化物電解質層4上に、中間層5と酸素極6の薄膜を形成することによりSOEC1が構成される。各構成要素の厚さに関しては、例えば支持層2は500μm以上800μm以下、水素極3は30μm以上50μm以下、固体酸化物電解質層4は10μm以上15μm以下、中間層5は5μm以上10μm以下、酸素極6は30μm以上50μm以下程度の厚さを有する。
【0017】
次に、支持層2について詳述する。高温水蒸気電解セル1は、例えば原料粉末にバインダ及び気孔形成剤等と溶媒を加えてスラリー化し、このスラリーをシート成形、積層、及び圧着して成形体とし、成形体に脱バインダ処理である脱脂工程や焼結工程を施して製造される。支持層2の多孔質化のために添加される気孔形成剤は、脱脂工程において熱分解されて除去され、残った穴が焼結後も残存して支持層2の多孔質化を実現している。一般的に気孔率は40%前後であり、この高い気孔率でガス透過性を発揮させている。
【0018】
しかしながら、上記したような多孔質の焼結体に荷重が付加された場合、気孔の周囲に位置するマトリックスには、その形状に応じた応力が発生する。この発生応力がマトリックスの破断強度より高くなった場合には、亀裂が発生し、さらに亀裂が伸展することによって、支持層2の破壊、ひいては電解セル1全体の大規模破壊を引き起こしてしまう。そのため、気孔の径や形状といった気孔形態の制御が重要になる。気孔形成剤には、最も応力集中がしにくい球状の粒子が用いられることが多い。脆性材料であるセラミックス(焼結体)には、ハンドリングやセッティングのしやすさ等から高い強度が要求される。ヤング率が高いとわずかな変形でも高い応力が発生して容易に破壊することから、ヤング率は低いほうが好ましい。亀裂は粒界を進展することが多いことから、添加物を加えて粒界強度やマトリクス材料自体の強度を向上させたり、あるいは圧縮応力を付与することで高強度化することが有効である。
【0019】
そこで、実施形態における支持層2には、水素極3と接する支持層2の構成材料として有効なNiOからなる第1酸化物とGDC及びYSZから選ばれる少なくとも1つの第2酸化物との複合体の焼結体を使用するだけでなく、そのような複合体に10×10-6/K以下の熱膨張係数を有する第3酸化物を含有させた焼結体を適用している。このような熱膨張係数がNiOやGDC及びYSZより小さい第3酸化物を添加し、粒界に圧縮応力を発生させることによって、支持層2を構成する多孔質焼結体の強度を高めることができる。従って、支持層2の強度及びそれに基づく機械的信頼、ひいては電解セル1全体の機械的信頼性を向上させることが可能になる。第3酸化物の熱膨張係数が10×10-6/Kを超えると、第1酸化物や第2酸化物の熱膨張係数の差を良好に得ることができないため、粒界に圧縮応力を発生させることができない。
【0020】
上記した支持層2としての多孔質焼結体の主構成材料のうち、NiOの熱膨張係数は14.0×10-6/K、GDCの熱膨張係数は12×10-6/K、YSZの熱膨張係数は10.5×10-6/K程度である。このような主構成材料からなる複合体に、それらより熱膨張係数が小さい、10×10-6/K以下の熱膨張係数を有する第3酸化物を添加して多孔質焼結体を作製することによって、多孔質焼結体の粒界に圧縮応力を発生させることができる。すなわち、NiOからなる第1酸化物の粉末とGDC及びYSZから選ばれる少なくとも1つの第2酸化物の粉末と熱膨張係数が小さい第3酸化物の粉末とを混合した原料粉末の成形体を焼結した場合、所定の温度まで昇温して所望時間保持した後の冷却工程において、熱膨張係数が小さい第3酸化物の粒子とNiO、GDC、YSZの粒子との界面に熱膨張係数の差に基づく圧縮応力が発生する。第2酸化物としては、第3酸化物との熱膨張係数の差がより大きいGDCを用いることがより有効である。このような粒界に生じる圧縮応力によって、支持層2としての多孔質焼結体の強度及びそれに基づく機械的信頼、ひいては電解セル1全体の機械的信頼性を向上させることが可能になる。
【0021】
10×10-6/K以下の熱膨張係数を有する第3酸化物としては、6.3×10-6/Kの熱膨張係数を有するアルミナ(AlO)、0.5×10-6/Kの熱膨張係数を有するシリカ(SiO)、及び5.5×10-6/Kの熱膨張係数を有するムライト(アルミノケイ酸塩/AlO・SiO)からなる群より選ばれる少なくとも1つが好ましく用いられる。上記したアルミナ、シリカ、及びムライトは、熱膨張係数が10×10-6/K以下と小さいことに加えて、支持層2の主構成材料であるNiO、GDC、YSZとの反応性が低いことから、支持層2の構成材料として有効なNiOとGDC及びYSZの少なくとも1つとの複合体を含む多孔質焼結体の特性等を低下させることがない。従って、高強度に加えて水蒸気の電解特性に優れる電解セル1を提供することができる。
【0022】
水素極3の支持層2の構成材料において、NiO(第1酸化物)とGDC及びYSZの少なくとも1つ(第2酸化物)との質量比は5:5~7:3の範囲であることが好ましい。このような第1酸化物と第2酸化物との質量比を満足させることによって、支持層2の機能及び特性を良好に満足させることができる。このような複合体において、第3酸化物の含有量は第2酸化物の含有量に対して0.5質量%以上5質量%以下の範囲とすることが好ましい。第3酸化物の含有量が第2酸化物の含有量に対して0.5質量%未満であると、第1酸化物と第2酸化物との複合体による多孔質焼結体の強度向上効果を十分に得ることができないおそれがある。第3酸化物の含有量は第2酸化物の含有量に対して1質量%以上であることがより好ましい。第3酸化物の含有量が第2酸化物の含有量に対して5質量%を超えると、第1酸化物と第2酸化物との複合体による支持層2の特性(セル特性等)を低下させるおそれがある。第3酸化物の含有量は第2酸化物の含有量に対して4質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
支持層2を構成する第1酸化物と第2酸化物と第3酸化物の複合体からなる多孔質焼結体において、第2酸化物及び第3酸化物の少なくとも一方を含む凝集体の粒子径は20μm以下であることが好ましい。粒子径が20μmを超える凝集体は、亀裂の発生起点となり、さらに発生した亀裂が伸展しやすくなるため、強度の低下要因となる。従って、凝集体の粒子径は20μm以下であることが好ましい。支持層2を構成する多孔質焼結体の気孔率は、前述したように30%以上50%以下程度であることが好ましい。多孔質焼結体の気孔率が30%未満であると、ガスの透過性が低下して電解セル1の特性が低下しやすくなる。多孔質焼結体の気孔率が50%を超えると、ガスの透過性は向上するものの、支持層2の強度等の機械的特性が低下しやすくなる。
【0024】
実施形態の高温水蒸気電解セル1の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下のようにして作製することができる。まず、酸化ニッケル(NiO)からなる第1酸化物とガドリニウム固溶セリア(GDC)及びイットリア安定化ジルコニア(YSZ)の少なくとも一方の第2酸化物とアルミナ(AlO)、シリカ(SiO)、ムライト(AlO・SiO)等の第3酸化物の各粉末を、上記した比率で混合して原料粉末を調製する。この際、第2酸化物粉末及び第3酸化物粉末は0.05μm以上1μm以下の平均粒径を有することが好ましい。これらの酸化物粉末の平均粒径が1μmを超えると、作製する多孔質焼結体中に粒径が大きい凝集粒子が生じやすくなる。平均粒径が0.05μm未満であると、スラリーを調製する際に分散性が低くなり多孔質焼結体の均質性が低下すると共に、結晶粒が十分に成長せず、多孔質焼結体の強度が低下しやすくなる。第1酸化物粉末の平均粒径は必ずしも限定されるものではないが、第2酸化物粉末や第3酸化物粉末と同様に、0.05μm以上1μm以下の平均粒径を有することが好ましい。
【0025】
次に、上記した原料粉末にバインダや気孔形成剤を添加し、さらに必要に応じて溶媒を加えて混合して原料スラリーを調製する。このような原料スラリーをシート成形してシートを作製する。次いで、得られたシート上に水素極3の形成スラリーと固体酸化物電解質層4の形成スラリーを順にシート状に成形することによって、積層成形体を作製する。このような積層成形体に対して熱圧着、脱脂、及び焼結の各工程を施すことによって、多孔質状の積層焼結体を作製する。積層焼結体上に中間層5及び酸素極6の形成材料の成形及び焼き付けの各工程を実施することによって、高温水蒸気電解セル1を得る。なお、これら各構成層は個別に脱脂及び焼結してもよい。
【実施例0026】
次に、実施形態の電解セルの具体例及びその評価結果について述べる。
【0027】
(実施例1、比較例1)
高温水蒸気電解セルを製造するにあたって、まず支持層の原料として平均粒径が0.5μmの酸化ニッケル(NiO)粉末と平均粒径が0.2μmのガドリニウム固溶セリア(GDC)粉末を用意した。これらを質量比が6:4となるように配合する際に、平均粒径が0.3μmのアルミナ粉末をGDCの添加量に対して1質量%、3質量%、4質量%、5質量%の各範囲で添加して原料粉末を調製した。アルミナ粉末の添加量は後述する表1に示す。また、比較例1として、NiO粉末とGDC粉末のみを質量比で6:4となるように混合した原料粉末、及び平均粒径が0.3μmのアルミナ粉末をGDCの添加量に対して6質量%添加した原料粉末をそれぞれ調製した。
【0028】
上記した組成比に調製した複数の原料粉末100質量部に、それぞれバインダとしてポリビニルアセタール樹脂を10重量部と、気孔形成剤として平均粒径が1μmのポリメタクリル酸メチル樹脂を5重量部とを加え、さらに溶媒としてエタノールを加えて24時間ポット混合してスラリーをそれぞれ作製した。このようにして作製した各スラリーを、それぞれ0.6mmの厚さにシート成形して支持層用のシートを作製した。
【0029】
次に、水素極活性層の形成材料としてNiO-GDC系スラリーを、上記した各シート上にシート成形した。電解質層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にシリコーン被膜を形成したシートを用いて、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)スラリーを15μmの厚さでシート状にスクリーン印刷した。さらに、作製した支持層及び水素極活性層のためのシートと電解質層のためのシートとを、70℃の温度にて15MPaの圧力で20分間熱圧着して積層成形体とした後、400℃で2時間脱脂を行った。さらに、脱脂体を1400℃で2時間焼結を行って焼結体を得た。脱脂及び焼結時の雰囲気は大気雰囲気と、また昇温速度は10℃/時間とした。このようにして得た焼結体の電解質側に酸素極としてLSCFをスクリーン印刷した後、1000℃で1時間焼成して焼き付けて酸素極を形成した。
【0030】
このようにして、電解セル用の50×50mmの焼結体を得た。このような焼結体を用いて、荷重負荷速度0.5mm/分で3点曲げ試験を行って、それぞれ破壊強度を測定した。GDCの添加量に対するアルミナの添加量と破壊強度とを表1に示す。また、比較のためにアルミナの添加を行わなかった材料(アルミナ:0質量%)とアルミナを過剰に添加した材料(アルミナ:6質量%)についても、同様に支持層用スラリーを調製して電解セル用の焼結体を作製した。表1に示すように、NiO-GDC系材料と共にアルミナを添加した原料粉末を用いて形成した支持層を有する電解セル用の焼結体は、アルミナを添加していない材料に比べて強度が大きいことが分かる。ただし、アルミナの添加量をGDCの添加量に対して6質量%とした場合、強度が若干低下しているため、アルミナの添加量はGDCの添加量に対して5質量%以下とすることが好ましいことが分かる。
【0031】
【表1】
【0032】
(実施例2)
実施例1における支持層のためのシートを作製するにあたって、アルミナ粉末の平均粒径を変更する以外は、実施例1と同様に、支持層及び水素極活性層のためのシートの作製、そのようなシートと電解質層のためのシートとを積層した成形体の作製、成形体の脱脂及び焼結を行い、さらに酸素極としてのLSCFの印刷及び焼き付けを行って、それぞれ電解セル用の焼結体を作製した。これら電解セル用焼結体の破壊強度を実施例1と同様にして測定した。アルミナ粉末の平均粒径と破壊強度とを表2に示す。表2に示すように、アルミナ粉末の平均粒径があまり大きいと、強度が若干低下している。従って、NiO-GDC-アルミナ系複合体の多孔質焼結体を作製するにあたって、アルミナ粉末の平均粒径は小さい方が好ましいことが分かる。
【0033】
【表2】
【0034】
(実施例3)
実施例1における支持層及び水素極活性層のためのシートと電解質層のためのシートとを積層した成形体を作製するにあたって、成形体の焼結時における保持時間を2時間から200時間の間で変えることによって、GDC及びアルミナの少なくとも一方を含む凝集粒子の粒径を変えた焼結体を作製した。それ以外については、実施例1と同様の工程を適用することによって、電解セル用の焼結体を作製した。これら電解セル用焼結体の破壊強度を実施例1と同様にして測定した。GDC及びCSZの少なくとも一方を含む凝集体の粒径と破壊強度とを表3に示す。表3に示すように、NiO-GDC系材料とアルミナとの複合体を用いた電解セル用焼結体において、GDC及びアルミナの少なくとも一方を含む凝集体の粒径が20μmを超えると、強度が若干低下しているため、凝集体の粒径20μm以下であることが好ましいことが分かる。
【0035】
【表3】
【0036】
上記した実施例1~3において、アルミナに代えてシリカ又はムライトを含有させた焼結体においても、強度の向上が確認された。
【0037】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0038】
1…高温水蒸気電解セル、2…支持層、3…水素極、4…固体酸化物電解質層、5…中間層、6…酸素極。
図1