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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182186
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】面発光レーザ素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/11 20210101AFI20231219BHJP
   H01S 5/185 20210101ALI20231219BHJP
【FI】
H01S5/11
H01S5/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095656
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AB52
5F173AB90
5F173AH22
5F173AP05
5F173AP33
5F173AR94
(57)【要約】      (修正有)
【課題】出射損失を低減することができ、発振閾値電流が低減され、駆動電流が低減された面発光レーザ素子を提供する。
【解決手段】透光性の基板上に設けられた第1の半導体層と、第1の半導体層上の活性層と、活性層上の第2の半導体層と、第1の半導体層に含まれ、活性層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を備えるフォトニック結晶層と、第2の半導体層上に設けられ、反射面を有する光反射層と、を有する。基板の裏面に光出射面を有し、フォトニック結晶層は定在する光をフォトニック結晶層と直交する方向へ回折する際の波源である回折面を有し、回折面から光出射面側に回折された第1の回折光と、回折面から光反射層側に回折され反射面で反射された第2の回折光との干渉により生成された干渉光の光強度が、第1の回折光の光強度より小さくなるように回折面と反射面との離間距離が設けられている。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性の基板と、
前記基板上に設けられた第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に設けられた活性層と、
前記活性層上に設けられた第2の半導体層と、
前記第1の半導体層に含まれ、前記活性層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を備えるフォトニック結晶層と、
前記第2の半導体層上に設けられ、反射面を有する光反射層と、を備え、
前記基板の裏面に光出射面を有し、
前記フォトニック結晶層は、前記フォトニック結晶層内に定在する光を前記フォトニック結晶層と直交する方向へ回折する際の波源である回折面を有し、
前記回折面から前記光出射面側に回折された第1の回折光と、前記回折面から前記光反射層側に回折され前記反射面で反射された第2の回折光との干渉により生成された干渉光の光強度が、前記第1の回折光の光強度より小さくなるように前記回折面と前記反射面との離間距離が設けられた、面発光レーザ素子。
【請求項2】
前記回折面は、前記フォトニック結晶層の深さ方向の中心よりも前記活性層側に位置していることを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項3】
前記第1の半導体層、前記活性層及び前記第2の半導体層は3族窒化物系の半導体層であり、前記第1の半導体層及び前記第2の半導体層はそれぞれn型及びp型の半導体層である請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項4】
前記第1の回折光と前記第2の回折光との位相差をθ、前記第1の回折光の波長をλ、前記回折面から前記反射面までの結晶層の平均屈折率をnave、前記離間距離をdr、mを0以上の整数としたとき、前記離間距離drは、以下の式で表され、
【数1】

前記位相差θは、
【数2】
を満たす請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項5】
前記第2の半導体層はp型半導体層であり、前記反射面と前記第2の半導体層との間に透光性導電体層が設けられている請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項6】
前記第2の半導体層は、ガイド層と、前記ガイド層よりも屈折率が小なるクラッド層とを有し、前記クラッド層厚さが150nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項7】
前記反射面の前記第2の回折光に対する反射率が0.05以上であることを特徴とする請求項1項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項8】
前記反射面の前記第2の回折光に対する反射率が0.6以上であることを特徴とする請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項9】
前記反射面は前期フォトニック結晶層に平行である請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項10】
前期フォトニック結晶層は、前期フォトニック結晶層の光路長が1波長未満の厚さを有する請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項11】
前記フォトニック結晶層は、主空孔及び前記主空孔よりも空孔径及び高さの小なる副空孔が格子点に配された二重格子構造を有し、深さ方向における前記副空孔の重心位置が前記主空孔の重心位置よりも前記活性層側にある請求項1乃至10のいずれか一項に記載の面発光レーザ素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザ素子、特にフォトニック結晶を有する面発光レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトニック結晶(PC:Photonic Crystal)を用いた、フォトニック結晶面発光レーザ(Photonic-Crystal Surface-Emitting Laser)の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Alの組成が変化するクラッド層を有し、フォトニック結晶層に平行方向の光の光閉じ込めを強め、損失を低減するフォトニック結晶面発光レーザが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、p型InGa1-xN層内にフォトニック結晶層を形成し、Mgによる光吸収を低減することができ、発振閾値を低減することを目的とした面発光レーザが開示されている。
【0005】
特許文献3には、第1のフォトニック結晶層と第2のフォトニック結晶層とを備え、これらの光学的な厚さを等しくした面発光レーザが開示されている。すなわち、各フォトニック結晶でフォトニック結晶層に対し垂直方向に回折される光を干渉によって弱め、垂直方向に回折される光成分を低減させる面発光レーザが開示されている。
【0006】
また、非特許文献1には、フォトニック結晶面発光レーザの回折光の定式化と、フォトニック結晶層において回折されてフォトニック結晶層に垂直な方向に発せられる回折放射波プロファイルなどが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-227095号公報
【特許文献2】特開2010-232488号公報
【特許文献3】特開2014-67945号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y. Liang et al.: Phys.Rev. B vol.84, 195119 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した特許文献1及び特許文献2等に記載の従来技術においては、垂直方向の共振器損失については低減することができない。また、特許文献3に記載の従来技術においては、フォトニック結晶層の厚さを精密に制御することが困難であることに起因して、所望のビーム形状(FFP:Far Field Pattern)を有し、垂直方向に回折される光の強度を低減させることは困難である。
【0010】
また、スマートグラスなどのウェアラブルデバイスを実現するために、小型かつ低電流で駆動できる低消費電力のレーザ光源が求められている。一方、光の出力については、直接人間の眼に入射されるという観点から低出力であることが求められている。したがって、特にウェアラブルデバイス等の用途において、小型かつ低消費電力であって、低出力なレーザ光源が求められている。
【0011】
本願発明は、出射損失を低減することができ、発振閾値電流が低減され、駆動電流が低減され、面発光レーザ素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1実施態様による面発光レーザ素子は、
透光性の基板と、
前記基板上に設けられた第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に設けられた活性層と、
前記活性層上に設けられた第2の半導体層と、
前記第1の半導体層に含まれ、前記活性層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を備えるフォトニック結晶層と、
前記第2の半導体層上に設けられ、反射面を有する光反射層と、を備え、
前記基板の裏面に光出射面を有し、
前記フォトニック結晶層は、前記フォトニック結晶層内に定在する光を前記フォトニック結晶層と直交する方向へ回折する際の波源である回折面を有し、
前記回折面から前記光出射面側に回折された第1の回折光と、前記回折面から前記光反射層側に回折され前記反射面で反射された第2の回折光との干渉により生成された干渉光の光強度が、前記第1の回折光の光強度より小さくなるように前記回折面と前記反射面との離間距離が設けられた、面発光レーザ素子。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本発明の第1の実施形態によるPCSEL素子10の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図1B図1Aのフォトニック結晶層14P(空孔層)及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔14Kを模式的に示す部分拡大断面図である。
図2A】PCSEL素子10の上面を模式的に示す平面図である。
図2B】フォトニック結晶層14Pのn側ガイド層14に平行な面における断面を模式的に示す断面図である。
図2C】PCSEL素子10の底面を模式的に示す平面図である。
図3A】レジストの主開口K1及び副開口K2、及び、エッチング後のホール14H1,14H2を模式的に示す平面図である。
図3B】ホール14H1,14H2を形成後の表面SEM(Scanning Electron Microscope)像を示す図である。
図4A】形成されたフォトニック結晶層14Pの、結晶層に垂直な断面を模式的に示す図である。
図4B】主空孔14K1及び副空孔14K2を形成後の表面SEM像を示す図である。
図5】作製した素子Ex.1~9の空孔周期PC、波源WSから反射面SRまでの離間距離dr等を示す表である。
図6図5に示す素子の閾値電流密度、スロープ効率、直接回折光Ldと反射回折光Lrとの位相差θを示す表である。
図7】Ex.1~9の離間距離dr(nm)に対する閾値電流密度Jth(kA/cm2)をプロットしたグラフである。
図8】p-クラッド層18の厚さに対するΓact,ΓPCを示すグラフである。
図9】p-クラッド層18の厚さに対するαiを示すグラフである。
図10】Ex.1~9について、離間距離drに基づいて求められた、直接回折光Ldと反射回折光Lrとの位相差θに対する閾値電流密度Jthを示す図である。
図11】位相差θ=180°のとき、R=0の値で正規化した垂直方向の損失α’の反射率Rに対する変化を示す図である。
図12】反射率Rに対する損失α’の微分(dα’/ dR)を示す図である。
図13】二重格子構造の深さ方向における、主空孔14K1及び副空孔14K2の配置断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下においては、本発明の好適な実施形態について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
1.フォトニック結晶面発光レーザの構造
フォトニック結晶面発光レーザ(以下、PCSELとも称する。)は、発光素子を構成する半導体発光構造層(n側ガイド層、発光層、p側ガイド層)と平行方向に共振器層を有し、当該共振器層に直交する方向にコヒーレントな光を放射する素子である。
【0016】
すなわち、フォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL)では、フォトニック結晶層に平行な面内を伝搬する光波はフォトニック結晶の回折効果により回折され2次元的な共振モードを形成するとともに、当該平行面に垂直な方向にも回折される。すなわち、フォトニック結晶面発光レーザでは、共振方向(フォトニック結晶層に平行な面内)に対して、光取り出し方向が垂直方向である。
【0017】
図1Aは、本発明の実施形態によるフォトニック結晶面発光レーザ素子(以下、PCSEL素子という。)10の構造の一例を模式的に示す断面図である。また、図1Bは、図1Aのフォトニック結晶層14P及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔(air hole)対14Kを模式的に示す拡大断面図である。
【0018】
図1Aに示すように、半導体構造層11が透光性の基板12上に形成されている。なお、半導体構造層11の中心軸CXに垂直に半導体層が積層されている。
【0019】
また、半導体構造層11は、六方晶系の窒化物半導体からなる。本実施形態においては、半導体構造層11は、例えば、GaN系半導体からなる。
【0020】
より詳細には、基板12上に複数の半導体層からなる半導体構造層11、すなわちn-クラッド層(第1導電型の第1のクラッド層)13、n側に設けられたガイド層であるn側ガイド層(第1のガイド層)14、光分布調整層23、活性層(ACT)15、p側に設けられたガイド層であるp側ガイド層(第2のガイド層)16、電子障壁層(EBL:Electron Blocking Layer)17、p-クラッド層(第2導電型の第2のクラッド層)18、p-コンタクト層19がこの順で形成されている。
【0021】
なお、第1導電型がn型、第1導電型の反対導電型である第2導電型がp型の場合について説明するが、第1導電型及び第2導電型がそれぞれp型、n型であってもよい。
【0022】
基板12は、六方晶のGaN単結晶であり、活性層15から放射された光の透過率が高い基板である。より詳細には、基板12は、主面(結晶成長面)が、Ga原子が最表面に配列した{0001}面である+c面の六方晶のGaN単結晶基板である。裏面(光出射面)は、N原子が最表面に配列した(000-1)面である-c面である。-c面は酸化等に対して耐性があるので光出射面として適している。
【0023】
基板12はこれに限定されないが、いわゆるジャスト基板、又は、例えば、主面がm軸方向に1°程度までオフセットした基板が好ましい。例えば、m軸方向に0.3~0.7°程度までオフセットした基板は、広範な成長条件下にて鏡面成長を得ることができる。
【0024】
主面と対向する光出射領域20Lが設けられた基板面(裏面、光出射面)は、N原子が最表面に配列した(000-1)面である「-c」面である。-c面は酸化等に対して耐性があるので光取り出し面として適している。
【0025】
以下に各半導体層の組成、層厚等の構成について説明するが、例示に過ぎず、適宜改変して適用することができる。
【0026】
n-クラッド層13は、例えばAl組成が4%のn-Al0.04Ga0.96N層であり、層厚は2μmである。アルミニウム(Al)組成比は、活性層15側に隣接する層(すなわち、n側ガイド層14)より屈折率が小さくなる組成としている。
【0027】
n側ガイド層14は、下ガイド層14A、空孔層(air-hole layer)であるフォトニック結晶層(PC層)14P及び埋込層14Bからなる。図1Bに示すように、フォトニック結晶層14Pは層厚dPCを有し、埋込層14Bは層厚dEMBを有する。例えば、フォトニック結晶層14Pの層厚dPCは40~180nmである。
【0028】
なお、本明細書において、フォトニック結晶層14Pは、n側ガイド層14において空孔の上端から下端に至る層部分をいう(図1Bを参照)。したがって、フォトニック結晶層14Pの層厚dPCは、空孔の高さに等しい。
【0029】
下ガイド層14Aは、例えば層厚が100~400nmのn-GaNである。フォトニック結晶層14Pは、層厚(又は空孔14Kの深さ)が40~180nmのn-GaNである。
【0030】
埋込層14Bは、n-GaN、n-InGaN、又はアンドープGaN、アンドープInGaNからなる。あるいは、これらの半導体層が積層された層であってもよい。埋込層14Bの層厚dEMBは、例えば50~150nmである。なお、埋込層14Bは、第1の埋込層14B1及び第2の埋込層14B2からなる。
【0031】
埋込層14B上に形成された光分布調整層23は、アンドープのIn0.03Ga0.97N層であり、例えば層厚は50nmである。
【0032】
なお、n側ガイド層14及び光分布調整層23を第1の半導体層とも称するが、光分布調整層23は設けられていなくともよい。
【0033】
発光層である活性層15は、例えば2つの量子井戸層を有する多重量子井戸(MQW)層である。MQWのバリア層及び量子井戸層は、それぞれGaN(層厚6.0nm)及びInGaN(層厚4.0nm)である。また、活性層15の発光中心波長は440nmである。
【0034】
なお、活性層15は、フォトニック結晶層14Pから180nm以内(すなわち空孔の周期PC以内)に配置されていることが好ましい。この場合、フォトニック結晶層14Pによる高い共振効果が得られる。
【0035】
p側ガイド層16は、アンドープIn0.02Ga0.98N層(層厚70nm)であるp側ガイド層(1)16AとアンドープGaN層(層厚180nm)であるp側ガイド層(2)16Bとからなる。
【0036】
p側ガイド層16は、ドーパント(Mg:マグネシウム等)による光吸収を考慮してアンドープ層としたが、良好な電気伝導性を得るためにドープしても良い。また、発振動作モードの電界分布を調整するため、p側ガイド層(1)16AのIn組成及び層厚は適宜選択することができる。
【0037】
電子障壁層(EBL)17は、マグネシウム(Mg)がドープされたp型のAl0.2Ga0.8N層であり、例えば。層厚15nmを有する。
【0038】
p-クラッド層18は、Mgドープのp-Al0.06Ga0.94N層であり、例えば、層厚600nmを有する。p-クラッド層18のAl組成は、p側ガイド層16よりも屈折率が小であるように選ばれていることが好ましい。p-クラッド層18は、第1のp-クラッド層として機能する。
【0039】
また、p-コンタクト層19は、Mgドープのp-GaN層であり、例えば。層厚20nmを有する。p-コンタクト層19のキャリア密度は、その表面に設けた透光性導電体層である透光性電極31とオーミック接合できる濃度としている。p型GaNの代わりに、p型またはアンドープInGaNを用いてもよい。あるいは、GaN層とInGaN層を積層させた層としてもよい。
【0040】
なお、p側ガイド層16、電子障壁層17、p-クラッド層18及びp-コンタクト層19からなる層を第2の半導体層とも称する。
【0041】
なお、本明細書において、「n側」、「p側」は、必ずしもn型、p型を有することを意味するものではない。例えば、n側ガイド層は活性層よりもn側に設けられたガイド層を意味し、アンドープ層(又はi層)であってもよい。
【0042】
また、n-クラッド層13は単一層ではなく複数の層から構成されていてもよく、その場合、全ての層がn層(nドープ層)である必要はなく、アンドープ層(i層)を含んでいてもよい。ガイド層16、p-クラッド層18についても同様である。
【0043】
また、上記した全ての半導体層を設ける必要はなく、フォトニック結晶層を含む第1導電型の第1の半導体層、第2導電型の第2の半導体層及びこれらの層に挟まれた活性層(発光層)を有する構成であればよい。
【0044】
p-コンタクト層19上にはp-コンタクト層19にオーミック接触する透光性電極31(アノード)が設けられている。なお、透光性電極31は、電極層としてだけではなく、第2のp-クラッド層としても機能する。
【0045】
透光性電極31は、半導体構造層11の中心軸CXを中心とする直径がRAの円形状を有している。具体的には、透光性電極31は、上面視において、例えばRA=300μmの直径を有している。
【0046】
透光性電極31は、透光性の導電体によって形成され、例えばインジウムスズ酸化物(ITO)で形成されている。なお、透光性電極31は、ITOに限定されず、亜鉛錫酸化物(ZTO)、GZO(ZnO:Ga)、AZO(ZnO:Al)等の透光性導電体を用いることができる。
【0047】
透光性電極31上には、p電極20B(第2の電極)として、銀(Ag)層及びAg層上に形成された金(Au)層からなるAg/Au層が形成されている。すなわち、p電極20Bは光反射層として機能し、透光性電極31とp電極20BのAg層との界面が反射面SRである。なお、反射面SRはフォトニック結晶層14Pと平行に設けられている。
【0048】
なお、p電極20Bとして、Pd、Al、Al合金、誘電体DBR(Distributed Bragg Reflector)等を用いることもできる。また、p電極20B上にパッド電極等を設けてもよい。
【0049】
半導体構造層11の側面及び上面、並びに透光性電極31及びp電極20Bの側面は、SiOなどの絶縁膜21で被覆されている。また、絶縁膜21は、p電極20Bに乗り上げ、p電極20Bの上面の縁部を覆うように形成されている。
【0050】
絶縁膜21は保護膜としても機能し、PCSEL素子10を構成するアルミニウム(Al)を含む結晶層を腐食性ガス等から保護する。また、付着物や実装時におけるはんだの這い上がりによる短絡等を防止し、信頼性、歩留まりの向上に寄与する。絶縁膜21の材料はSiOに限らず、ZrO、HfO、TiO、Al、SiNx、Si等を選択することができる。
【0051】
基板12の裏面には円環状のカソード電極20A(第1の電極)が形成されている。また、カソード電極20Aの内側には無反射(AR)コート層27が形成されている。
【0052】
カソード電極20Aは、Ti/Auからなり、基板12とオーミック接触している。電極材料は、Ti/Au以外に、Ti/Al、Ti/Rh、Ti/Al/Pt/Au、Ti/Pt/Auなどを選択することができる。
【0053】
活性層15からの放射光はフォトニック結晶層(PC層)14Pによって回折される。フォトニック結晶層14Pによって回折され、フォトニック結晶層14Pから直接放出された光(直接回折光Ld:第1の回折光)と、フォトニック結晶層14Pの回折によって放出され、光反射層32によって反射された光(反射回折光Lr:第2の回折光)とが基板12の裏面(出射面)12Rの光出射領域20L(図2C)から外部に出射される。
【0054】
図2Aは、PCSEL素子10の上面を模式的に示す平面図である。なお、図の明確さ及び理解の容易さのため、パッド電極33を取り除いた状態の上面を模式的に示している。
【0055】
また、図2Bは、フォトニック結晶層14Pのn側ガイド層14に平行な面における断面を模式的に示す断面図であり、図2Cは、PCSEL素子10の下面を模式的に示す平面図である。
【0056】
図2Bに示すように、フォトニック結晶層14Pにおいて空孔14Kは、例えば矩形の空孔形成領域14R内に周期的に配列されて設けられている。
【0057】
図2Cに示すように、アノード領域RAは、空孔形成領域14R内に包含されるように形成されている。 また、カソード電極20Aは、フォトニック結晶層14Pに対して垂直方向から見たときにp電極20Bに重ならないようにp電極20Bの外側に環状の電極として設けられている。
【0058】
カソード電極20Aの内側の領域が光出射領域20Lである。また、カソード電極20に電気的に接続され、外部からの給電用のワイヤを接続するボンディングパッド20Cが設けられている。
【0059】
2.フォトニック結晶層の製法及び構造
以下に、フォトニック結晶層の作製工程について説明する。結晶成長方法としてMOVPE(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法を用いた。なお、以下においては、フォトニック結晶層14Pが二重格子フォトニック結晶層である場合を例にその形成方法について説明するが、単一格子フォトニック結晶層及び多重格子フォトニック結晶層も同様にして形成することができる。
【0060】
(a)ホールの形成
まず、基板12上にn-クラッド層13としてAl組成が4%のn型Al0.04Ga0.96N層を成長した。続いて、n-クラッド層13上にn型GaN層を成長した。この成長層は、下ガイド層14Aと、フォトニック結晶層14Pを形成するための準備層である。
【0061】
上記準備層を形成後、基板をMOVPE装置のチャンバより取り出し、成長層表面に微細な孔部(ホール)を形成した。洗浄により清浄表面を得た後、プラズマCVDを用いてシリコン窒化膜(SiN)を成膜した。この上に電子線描画用レジストを塗布し、電子線描画装置に入れて2次元周期構造のパターニングを行った。
【0062】
図3Aは、レジストの主開口K1及び副開口K2、及び、エッチング後のホール14H1,14H2を模式的に示す平面図である。図3Aに示すように、長円形状の主開口K1及び主開口K1よりも小なる副開口K2からなる開口対を周期PCで正方格子状にレジストの面内で2次元配列したパターニングを行った。なお、図面の明確さのため、開口部にハッチングを施して示している。
【0063】
より詳細には、主開口K1は、その重心CD1が互いに直交する2方向(x方向及びy方向)に周期PCで正方格子状に配列されている。副開口K2も同様に、その重心CD2がx方向及びy方向に周期PCで正方格子状に配列されている。
【0064】
主開口K1及び副開口K2の長軸は結晶方位の<11-20>方向に平行であり、主開口K1及び副開口K2の短軸は<1-100>方向に平行である。
【0065】
また、副開口K2の重心CD2は、主開口K1の重心CD1に対してΔx及びΔyだけ離間している。ここでは、Δx=Δyとした。すなわち、副開口K2の重心CD2は、主開口K1の重心CD1から<1-100>方向に離間している。
【0066】
また、主開口K1及び副開口K2の重心間距離Δx、Δyを、Δx=Δy=0.4PCとした。パターニングしたレジストを現像後、ICP-RIE(Inductive Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)装置によってSiN膜を選択的にドライエッチングした。これにより周期PCで正方格子状に配列された主開口K1及び副開口K2がSiN膜を貫通するように形成された。
【0067】
なお、周期(空孔間隔)PCは、発振波長(λ)を438nmとするため、PC=177.5nmとした。
【0068】
続いて、レジストを除去し、パターニングしたSiN膜をハードマスクとしてGaN表面部に孔部(ホール)を形成した。ICP-RIE装置にて塩素系ガス及びアルゴンガスを用いてGaNを深さ方向にドライエッチングすることにより、GaN表面に垂直に掘られた長円柱状の空孔である主ホール14H1及び副ホール14H2を形成した。
【0069】
なお、上記エッチングによりGaN表面部に掘られたホールをフォトニック結晶層14Pにおける空孔(air hole)と区別するため、単に主ホール及び副ホールと称する。また、主ホール14H1,副ホール14H2を特に区別しない場合には、これらを合わせてホール14Hと称する場合がある。
【0070】
なお、ホール14Hの形状は長円柱状に限らず、円柱状、多角形状などであってもよい。
【0071】
図3Bは、ホール14H1,14H2を形成後の表面SEM(Scanning Electron Microscope)像を示す図である。
【0072】
形成された主ホール14H1は長径が138.9nm及び短径が63.2nmであり、長径/短径比は2.20であった。また、形成された副ホール14H2は長径が66.3nm及び短径が59.1nmであり、長径/短径比は1.12であった。
【0073】
また、周期PCは177.5nmで正方格子状に配列された主ホール14H1及び副ホール14H2が形成されていることが分かった。このとき、主ホール14H1及び副ホール14H2の重心間距離Δx及びΔyは、81.6nm(Δx=Δy=0.46PC)であった。また、主ホール14H1及び副ホール14H2の長軸は<11-20>軸(すなわち、a軸)に平行であった。
【0074】
(b)埋込層の形成
ホール14Hを形成した基板を洗浄した後、再度MOVPE装置のリアクタ内に導入し、アンモニア(NH3)、トリメチルガリウム(TMG)及びNH3を供給してホール14Hの開口を閉塞し、第1の埋込層14B1を形成した。
【0075】
すなわち、マストランスポートによってホール14Hの形状が熱的に安定な面で構成される形状へと変形する第1の温度(920℃)で第1の埋込層14B1を形成した。
【0076】
この第1の温度領域では、成長基板の最表面にはN原子が付着しているため、N極性面が選択的に成長される。したがって、表面には{1-101}ファセットが選択的に成長される。対向する{1-101}ファセットがそれぞれぶつかることで、ホール14Hは閉塞され埋め込まれる。これにより第1の埋込層14B1が形成される。
【0077】
続いて、主ホール14H1及び副ホール14H2を閉塞した後、厚さが50nmの第2の埋込層14B2を成長した。第2の埋込層14B2の成長は、基板温度(成長温度)を820℃(第2の埋込温度)まで降温後、トリエチルガリウム(TEG)及びトリメチルインジウム(TMI)、NH3を供給することで行った。なお、第2の埋込温度は、第1の埋込温度よりも低温であった。
【0078】
また、本実施例における第2の埋込層14B2のIn組成は3%(すなわち、Ga0.97In0.03N層)であった。第2の埋込層14B2は、光とフォトニック結晶層14Pとの結合効率(光フィールド)を調整するための光分布調整層としても機能する。
【0079】
以上の埋込工程により、主空孔14K1及び副空孔14K2からなる空孔対14Kが正方格子点の各々に配置された二重格子構造のフォトニック結晶層14Pが形成された。ここで、副空孔14K2は主空孔14K1よりも空孔径及び深さ(高さ)が小さい。
【0080】
なお、主空孔14K1及び副空孔14K2を特に区別しない場合には、これらを合わせて空孔14Kと称する場合がある。
【0081】
図4Aは、形成されたフォトニック結晶層14Pの、結晶層に垂直な断面を模式的に示す図である。3族窒化物においてホールを埋め込む際には、マストランスポートによってホール14Hの形状が熱的に安定な面で構成される形状へと変形し空孔14Kが形成される。
【0082】
すなわち、+c面基板においては、ホール14Hの内側面は(1-100)面(すなわち、m面)へと形状変化する。すなわち、長円柱状の形状から側面がm面で構成される長六角柱状の空孔14Kへと形状変化する。
【0083】
図4Bは、主空孔14K1及び副空孔14K2を形成後の表面SEM像を示す図である。
【0084】
形成された主空孔14K1は、長径が72.5nm及び短径が43.5nmであり、長径/短径比は1.67である長六角柱形状を有していた。また、副空孔14K2は長径が44.6nm及び短径が38.3nmであり、長径/短径比は1.16であり、主空孔14K1よりも正六角柱に近い長六角柱形状を有していた。
【0085】
また、主空孔14K1及び副空孔14K2の重心間距離Δx及びΔyは、81.6nm(Δx=Δy=0.46PC)であり、埋め込み前から変化していないことが確認された。また、主空孔14K1及び副空孔14K2の長軸は<11-20>軸(すなわち、a軸)に平行であることが確認された。
【0086】
また、主空孔14K1及び副空孔14K2の空孔充填率(フィリングファクタ)FF1,FF2を算出したところ、FF1=8.8%、FF2=4.2%であった。ここで空孔充填率とは、2次元的な規則配列において、単位面積あたりの各空孔が占める面積の割合である。具体的には、フォトニック結晶層14Pにおける主空孔14K1及び副空孔14K2の面積をそれぞれS1、S2としたとき、主空孔14K1及び副空孔14K2の空孔充填率FF1,FF2は次の式で与えられる。
【0087】
FF1=S1/PC, FF2=S2/PC
以上の工程により、空孔層であるフォトニック結晶層14Pを含むn側ガイド層14の形成が完了した。
【0088】
3.素子特性及び理論検討
(a)素子特性
p-クラッド層18(第1のp-クラッド層)の層厚を異ならせたPCSEL素子10を作製し、その素子特性を評価した。なお、p-クラッド層18以外の半導体層の各組成及び層厚等の構造は同一である。
【0089】
図5は、作製した実施例の素子Examples.1~9(以下、Ex.1~9)の空孔周期PC、p-クラッド層18の層厚、透光性電極31(ITO)の層厚、波源WSからp電極20B(すなわち、反射面SR)までの離間距離drを示す表である。
【0090】
また、図6は、図5に示す素子の閾値電流密度、スロープ効率、直接回折光Ldと反射回折光Lrとの位相差θを示す表である。
【0091】
図7は、上記素子の離間距離dr(nm)に対する閾値電流密度Jth(kA/cm2)をプロットしたグラフである。
【0092】
図6及び図7に示すように、本実施例の素子1~9の離間距離drにおいては、閾値電流密度Jthは離間距離drに対して単調に減少する傾向があることが分かった。
【0093】
なお、例えば非特許文献1から、結合波理論を用いて、フォトニック結晶層14Pによる回折波の回折位置である波源WSの位置(又は回折面)及び回折されてフォトニック結晶層14Pの垂直方向に放射される放射波を算出することができる。したがって、当該波源WSの位置を用いて、波源WS及び反射面SR間の離間距離drを算出することができる。
【0094】
(b)垂直方向の共振器損失
フォトニック結晶層14Pに垂直な方向の共振器損失をαv、水平な方向の共振器損失をαp、材料による吸収損失をαi、活性層の利得をg、活性層に存在する電磁界分布の割合をΓactとした場合、フォトニック結晶面発光レーザにおける発振の利得条件は下記の式(1)で表される。
【0095】
なお、以下においては、垂直方向の共振器損失αv、水平方向の共振器損失αp、材料による吸収損失αiを、それぞれ以下のようにも表記する。
【0096】
【数1】
【0097】
【数2】
上記したPCSEL素子10(Ex.1~9)の構造において、基本モードの電磁界分布のうち活性層及びフォトニック結晶層に存在する電磁界分布の割合(光閉じ込め率)をそれぞれΓact,ΓPCとしたとき、p-クラッド層18(第1のp-クラッド層)の厚さに対するΓact,ΓPC図8に示す。
【0098】
p-クラッド層18の厚さが300nm程度以上である場合、Γact,ΓPCはp-クラッド層18の厚さに依存しない。すなわち、素子Ex.1~9においては式(1)の左辺は変化しない。
【0099】
また、素子Ex.1~9においては同様の構造のフォトニック結晶層14Pを用いており、ΓPCに変化がなければ各素子において同様のフォトニック結晶層の共振効果が得られる。すなわち、水平方向の共振器損失αpは各素子で同様の値となる。
【0100】
また、共振波長における主な材料吸収は、Mgがドーピングされた層、コンタクト層中のInGaN層、ITO層で発生する。各層での吸収係数をそれぞれ100、50000、2600cm-1とし、これに各層に存在する電磁界分布の割合を掛け合わせ、その和を吸収損失αiとしたとき、p-クラッド層18の厚さに対するαiを図9に示す。
【0101】
図9に示すように、p-クラッド層18の厚さが300nm程度以上である場合には、 αiはp-クラッド層18の厚さに依存しない。したがって、離間距離drに対する閾値電流密度Jthの変化(図7)は式(1)において垂直方向の共振器損失αvが変化したためであると言える。
【0102】
(c)閾値電流密度
フォトニック結晶層14P内において伝搬する共振光は、フォトニック結晶によりフォトニック結晶層14Pに垂直な方向へ回折される。このとき、共振光は、フォトニック結晶層14P内に存在する波源WSの位置で回折されたとみなすことができる。
【0103】
非特許文献1に記載の手法にて、実施例におけるフォトニック結晶層14P内の波源WSの位置を見積もることができる。すなわち、波源WSは、フォトニック結晶層14Pの中心より約7nmだけ活性層15側の位置にあると見積もられた。
【0104】
フォトニック結晶層14P内の波源WSで垂直方向へ回折される光、すなわち、基板12の裏面(出射面)12R(-z方向)へ回折され、直接出射される直接回折光Ld、+z方向へ回折され反射面SRで反射され出射される反射回折光Lrの電界振幅及びエネルギー強度は、それぞれ、次式で表される。
【0105】
【数3】
ここで、+z方向及び-z方向に均等に回折が発生するとすれば、直接回折光Ld及び反射回折光Lrの電界振幅は等しくなり、次式で表される。
【0106】
【数4】
反射面SRで反射され、波源WSに戻ってくるときの電界振幅は、次式で表される。
【0107】
【数5】
ここで、Rは反射面SRのエネルギー反射率,θは波源WSにおける直接回折光Ld及び反射回折光Lrの位相差である。
【0108】
したがって、波源WSにおいて直接回折光Ld及び反射回折光Lrが干渉する場合、出射に寄与する光の電界振幅は、以下の式(2)で表される。
【0109】
【数6】
一方、反射回折光Lrのうち、反射面SRで吸収される光成分の電界振幅は、次式で表される。
【0110】
【数7】
したがって、フォトニック結晶層14P内の波源WSで回折され共振器から損失される光は、以下の式(3)で表される。
【0111】
【数8】
すなわち、直接回折光Ld及び反射回折光Lrの干渉が共振器損失に影響するのであれば、垂直方向への損失αvは、(1+R1/2 cosθ)倍される。
【0112】
このとき、発振の利得条件は、以下の式(4)で表される。
【0113】
【数9】
活性層15の厚さが数nmと薄い場合には、閾値電流と閾値利得とは概ね比例関係にあるため、比例定数Aを用いて、閾値電流密度Jthは以下の式(5)で表すことができる。
【0114】
【数10】
また、
【0115】
【数11】
が電流によらず一定であれば、
【0116】
【数12】
として、閾値電流密度Jthは以下の式(6)で表すことができる。
【0117】
【数13】
図10は、PCSEL素子10(Ex.1~9)について、波源WSから反射面SRまでの離間距離drに基づいて求められた、直接回折光Ld及び反射回折光Lrの位相差θに対する閾値電流密度Jthを示す図である。
【0118】
位相差θは、出射光の波数をk、光路長をxとすると、以下の式(7)で表すことができる。
【0119】
【数14】
なお、図10において、A=0.75、B=2.63、R=0.85としたときの式(6)より求まる閾値電流密度Jthの計算値(破線)を示すが、この計算値とよく一致した結果が得られた。
【0120】
すなわち、波源WSから反射面SRまでの離間距離drを調整することで、フォトニック結晶層14Pから伝搬光の損失αvを低減することができる。
【0121】
したがって、フォトニック結晶層14Pから垂直方向への伝搬光の回折による損失を低減し閾値電流密度を下げることができる。すなわち、低電流駆動が可能な2次元フォトニック結晶面発光レーザを提供することができる。
【0122】
(d)垂直方向の損失(PCSEL特有の特徴)
フォトニック結晶層に垂直な方向に出射された回折光の干渉を利用できる点はフォトニック結晶発光レーザに特有の特徴である。以下に、この点について説明する。
【0123】
一般的な端面レーザや垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL)において、共振器外において、すなわち共振器から回折によって出射された光を利用して共振器の損失を制御することは困難である。
【0124】
一方、2次元フォトニック結晶面発光レーザにおいては、2次元フォトニック結晶のΓ点における群速度がゼロになる効果を利用して共振作用を得ている。すなわち、2次元フォトニック結晶面発光レーザの共振器は2次元フォトニック結晶層である。したがって、フォトニック結晶によって共振器の外部に回折される光は、必ずフォトニック結晶層に対して垂直方向へと回折される。
【0125】
したがって、フォトニック結晶層に平行な反射面を配置することで、共振器によって回折された光の光路長を一意に決めることができる。すなわち、共振器からの回折光を利用して共振器の損失を制御することができ、発振に必要となる利得を小さくすることができる。すなわち低電流駆動が可能である。
【0126】
(e)離間距離drの範囲
以上述べたように、波源WSから反射面SRまでの離間距離drにより直接回折光Ldと反射回折光Lrとの干渉を制御することで、フォトニック結晶層14Pに垂直方向の回折による損失を制御できることが示された。
【0127】
反射面SRによる反射が無い場合と比較して、閾値電流密度を小さくするためには、式(4)の右辺が式(1)の右辺よりも小さくなるように離間距離drを決定すればよい。すなわち、以下の式(8)を満たせばよい。
【0128】
【数15】
離間距離drは、式(7)より、位相差をθ 、回折光の波長をλ、波源WS(回折面)から反射面SRまでの結晶層の平均屈折率をnave、mを0以上の整数とすると、以下の式(9)で表すことができる。
【0129】
【数16】
したがって、式(8)から、位相差θが以下の式(10)を満たせば、直接回折光Ld及び反射回折光Lrの干渉が無い場合と比較して、垂直方向への回折による損失を低減することができる。
【0130】
【数17】
すなわち、この条件において、直接回折光Ld及び反射回折光Lrの干渉光の光強度が直接回折光Ldの光強度よりも小さくなる。
【0131】
換言すれば、直接回折光Ldと反射回折光Lrとの干渉によって出射光が弱められ、放射損失(垂直方向の損失)αvが小さくなることを意味する。
【0132】
なお、フォトニック結晶層14Pの内部で干渉(弱め合い)が生じないよう、フォトニック結晶層14Pは、フォトニック結晶層14Pの光路長が1波長未満の厚さ(dPC)を有することが好ましい。
【0133】
したがって、低電流駆動が可能な2次元フォトニック結晶面発光レーザを得ることができる。
【0134】
(f)p-クラッド層の層厚
直接回折光Ld及び反射回折光Lrの干渉は、波源WS及び反射面SR間の離間距離drによって定まる。
【0135】
上記したように、PCSEL素子10(Ex.1~9)はp-クラッド層18(第1のp-クラッド層)の層厚が異なる以外は、組成及び層厚等の構造は同一である。したがって、以下においては、p-クラッド層18の層厚の条件について検討する。
【0136】
具体的には、p-クラッド層18の層厚は、式(9)で示される波源WSから反射面SRまでの離間距離drが式(10)を満たせばよい。
【0137】
しかし、図9を参照すると、p-クラッド層18の層厚が凡そ150nm以下になると、材料吸収による損失αiが増加することがわかる。これはp-クラッド層18が薄くなったことにより、基本モードの電磁界分布のコア層(活性層およびガイド層)への閉じ込めが弱くなったことに起因する。
【0138】
すなわち、基本モードが、ドーピング層、コンタクト層(InGaN)層、及び透光性電極層(ITO)により多く分布することになり、光吸収が大きくなるためである。すなわち、p-クラッド層18の層厚は150nm以上であることが好ましい。
【0139】
(g)反射面SRの反射率
式(4)からフォトニック結晶層14Pに垂直方向への実効的な損失は(1+R1/2cosθ)αvであり、反射面SRの反射率Rによってその大きさは変化する。直接回折光Ldと反射回折光Lrとの位相差θ=180°のとき、R=0の値で正規化した垂直方向の損失α’の反射率Rに対する変化を図11に示す。図11から、損失α’は反射率Rが小さいときほど急激に変化し、反射率Rによって大きく低減できることが分かる。
【0140】
図12は、反射率Rに対する損失α’の微分(すなわち、dα’/ dR)を示す。反射率Rが0から0.05程度まで変化するとdα’/ dRは大きく低下する。したがって、反射率Rが0.05よりも大きければフォトニック結晶層14Pにおける垂直方向への実効的な損失を大きく低減することができる。すなわち反射率Rは0.05よりも大きいことが好ましい。
【0141】
また図12より、反射率Rが0.6よりも大きくなるとdα’/ dRはRに対して変化しなくなる。これより、反射率Rを0.6よりも大きくすることで、フォトニック結晶層における垂直方向への実効的な損失を小さく保つことができる。すなわち、反射率Rは0.6よりも大きいことがさらに好ましい。
【0142】
(h)二重格子構造のフォトニック結晶層
図13は、二重格子構造の深さ方向における、主空孔14K1及び副空孔14K2の配置の断面を模式的に示す断面図である。ここで、主空孔14K1及び副空孔14K2の空孔高さは異なる。すなわち、主空孔14K1の高さはhK1であり、フォトニック結晶層14Pの厚さに等しい(hK1=dPC)。また、副空孔14K2の高さはhK2である。
【0143】
より詳細には、主空孔14K1の下端は副空孔14K2の下端よりも深い、すなわち-z方向に位置する。主空孔14K1及び副空孔14K2の下端の差はhDOWNである。また、副空孔14K2の上端は主空孔14K1の上端よりも深く、その差はhUPである。
【0144】
ここで、上端の差hUPは下端の差hDOWNよりも小さく、深さ方向(-z方向)における副空孔14K2の中心CPC(=CK2)は主空孔14K1の中心CK1よりも活性層15側に位置している。
【0145】
窒化物系のPCSEL素子において、サイズの異なるホールをドライエッチング法等により同時に形成し、当該ホールを埋め込んで主空孔14K1及び副空孔14K2を形成した場合、形成される主空孔14K1及び副空孔14K2の形状は側面がm面の六角柱構造となるため、フォトニック結晶層14Pのどのz方向位置においても主空孔14K1及び副空孔14K2の大小関係は埋め込み前のホールの大小関係と同じになる。
【0146】
そして、窒化物系PCSEL素子のフォトニック結晶層14Pにおいては、空孔充填率FFの大きな主空孔14K1の下端が副空孔14K2よりもフォトニック結晶層14Pの下端側に位置する、すなわち、主空孔14K1は副空孔14K2よりも深い。また、埋込成長によって副空孔14K2の上端は主空孔14K1の上端よりも深く形成される。
【0147】
また、フォトニック結晶層14Pを形成後に活性層15を形成する場合、すなわち活性層15の-z方向側にフォトニック結晶層14Pを設ける場合においては、必ずFF1>FF2の関係となる。すなわち、窒化物系PCSEL素子においては二重格子構造の場合においても、必ず波源(回折面)WSはフォトニック結晶層14Pのz方向の中心CPC(すなわち、主空孔14K1の中心)から活性層15側に、例えば0~10nm程度離れた位置に存在する
したがって、深さ方向(-z方向)において主空孔14K1だけが存在する領域(hUP及びhDOWNの領域)と、主空孔14K1及び副空孔14K2のどちらも存在する領域(hK2の領域)があるが、垂直方向に回折される伝搬光成分は主空孔14K1及び副空孔14K2のどちらも存在する領域の方が大きい。従って、波源(回折面)WSもフォトニック結晶層14Pの中心CPCよりもより+z方向(活性層15側)にずれた位置に存在する。
【0148】
なお、上記においては、空孔形状が六角柱形状であって深さ方向に断面積が変化しない空孔について説明した。主空孔14K1及び副空孔14K2のいずれかが深さ方向に断面積が変化する形状を有する場合には、副空孔14K2の重心が主空孔14K1の重心よりも活性層15側に位置していることが好ましい。
【0149】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、出射損失を低減することができ、発振閾値電流が低減され、駆動電流が低減されたフォトニック結晶面発光レーザ素子を提供することができる。
【0150】
なお、上記した実施形態における数値は例示に過ぎず適宜改変して適用することができる。また、二重格子構造のPCSEL素子について例示したが、単一格子構造のPCSEL素子、及び一般に多重格子構造のPCSEL素子について
適用することができる。
【0151】
また、本発明は、空孔が六角柱形状を有するフォトニック結晶層について例示したが、フォトニック結晶層の空孔が円柱状、矩形状、多角形状、またティアドロップ形状などの不定柱形状を有する場合についても適用することができる。
【符号の説明】
【0152】
10:PCSEL素子、
12:基板
13:第1のクラッド層
14:第1のガイド層
14A:下ガイド層
14B:埋込層
14K:空孔/空孔対
14K1/14K2:主/副空孔
14P:フォトニック結晶層(空孔層)
15:活性層
16:第2のガイド層
17;電子障壁層
18:第2のクラッド層
19:コンタクト層
20A:第1の電極
20B:第2の電極
20L:光出射領域、
27:反射防止膜
31:透光性導電体層
CD1,CD2:重心
dr:離間距離
Ld:直接回折光
Lr:反射回折光
SR:反射面
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13