(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001822
(43)【公開日】2023-01-06
(54)【発明の名称】溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20221226BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20221226BHJP
【FI】
G01N17/00
C23C2/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021102799
(22)【出願日】2021-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】591006298
【氏名又は名称】JFEテクノリサーチ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596053585
【氏名又は名称】西日本高速道路エンジニアリング中国株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】吉田 新
(72)【発明者】
【氏名】梶山 浩志
(72)【発明者】
【氏名】俵 司
(72)【発明者】
【氏名】山根 久美子
【テーマコード(参考)】
2G050
4K027
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050EB10
2G050EC05
4K027AA22
4K027AB28
4K027AB35
4K027AB43
4K027AE21
(57)【要約】
【課題】溶融亜鉛めっき構造物の健全性をより正確に評価することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、施工当初に素地鋼板/亜鉛めっき層(合金層/亜鉛層)を有する溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法である。直円錐形状の先端部を有し、前記先端部が前記直円錐の軸を中心に回転可能な電動ドリルを用意する。前記電動ドリルの前記先端部を一定の速度で回転させた状態で、前記先端部を前記溶融亜鉛めっき構造物の被評価部位に押し付けることで、前記先端部で前記被評価部位を削り、前記被評価部位に、前記素地鋼板に達する逆直円錐形状の凹部を形成する。その結果、凹部の拡大観察において、前記合金層と前記亜鉛層とを識別することができる。そこで、前記凹部の拡大観察において、前記合金層の周囲に、前記合金層と分離して前記亜鉛層が特定されるか否かに基づいて、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性を評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工当初に、素地鋼板と、前記素地鋼板上の亜鉛めっき層と、を有し、前記亜鉛めっき層が、前記素地鋼板上の合金層と、前記合金層上の亜鉛層と、を有する溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法であって、
直円錐形状の先端部を有し、前記先端部が前記直円錐の軸を中心に回転可能な電動ドリルを用意する第1工程と、
前記電動ドリルの前記先端部を一定の速度で回転させた状態で、前記先端部を前記溶融亜鉛めっき構造物の被評価部位に押し付けることで、前記先端部で前記被評価部位を削り、前記被評価部位に、前記素地鋼板に達する逆直円錐形状の凹部を形成する第2工程と、
前記凹部を拡大観察する第3工程と、
前記凹部の拡大観察において、(i)前記素地鋼板の周囲に、前記素地鋼板と分離して前記合金層が特定されるか否かに基づいて、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性を評価し、(ii)前記合金層が特定された場合には、前記合金層の周囲に、前記合金層と分離して前記亜鉛層が特定されるか否かに基づいて、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性をさらに評価する第4工程と、
を有することを特徴とする溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項2】
前記第4工程では、(i)で前記素地鋼板の周囲に前記合金層が特定され、かつ、(ii)で前記合金層の周囲に前記亜鉛層が特定された場合には、前記被評価部位において前記素地鋼板上に前記合金層及び前記亜鉛層の両方が残存しており、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が良好であると評価する、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項3】
前記第4工程の(i)では、明るさの違い及び模様の違いの一方又は両方に基づいて、前記素地鋼板と前記合金層とを識別し、前記第4工程の(ii)では、明るさの違い及び模様の違いの一方又は両方に基づいて、前記合金層と前記亜鉛層とを識別する、請求項2に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項4】
前記第4工程では、(i)で前記素地鋼板の周囲に前記合金層が特定され、かつ、(ii)で前記合金層の周囲に前記亜鉛層が特定された場合には、(ii)で前記亜鉛層の周囲に、前記亜鉛層と分離して別の領域が特定され、前記亜鉛層上に腐食生成物が存在すると評価されたとしても、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が良好であると評価する、請求項2又は3に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項5】
前記第4工程の(ii)では、明るさの違い及び模様の違いの一方又は両方に基づいて、前記亜鉛層と前記別の領域とを識別する、請求項4に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項6】
前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が良好であるとの評価は、前記溶融亜鉛めっき構造物の前記被評価部位が引き続きそのまま使用可能であることを意味する、請求項2~5のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項7】
前記第4工程では、(i)で前記素地鋼板の周囲に前記合金層が特定され、かつ、(ii)で前記亜鉛層が特定されない場合には、前記被評価部位において前記素地鋼板上に前記合金層が残存しているものの、前記亜鉛層が残存しておらず、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が不良であると評価する、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項8】
前記第4工程の(i)では、明るさの違い及び模様の違いの一方又は両方に基づいて、前記素地鋼板と前記合金層とを識別する、請求項7に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項9】
前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が不良であるとの評価は、前記溶融亜鉛めっき構造物の前記被評価部位が修繕を要することを意味する、請求項7又は8に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項10】
前記第4工程では、(i)で前記合金層が特定されない場合には、前記被評価部位において前記素地鋼板上に前記合金層及び前記亜鉛層が残存しておらず、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が特に不良であると評価する、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項11】
前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が特に不良であるとの評価は、前記溶融亜鉛めっき構造物の前記被評価部位が修繕を要する又は使用不可能であることを意味する、請求項10に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項12】
前記第3工程は、前記凹部を可視光で照らした状態で行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項13】
前記第3工程は顕微鏡を用いて行われる、請求項1~12のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項14】
前記第3工程において、前記凹部の拡大画像を取得し、前記第4工程は、前記凹部の拡大画像を用いて行う、請求項1~13のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項15】
前記拡大画像の取得は固体撮像素子を用いて行う、請求項14に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項16】
前記電動ドリルの前記先端部が炭化タングステン鋼からなる、請求項1~15のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【請求項17】
前記溶融亜鉛めっき構造物が橋梁である、請求項1~16のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき仕様の橋梁、鉄塔、建築物、ガードレールや標識等の道路付帯設備など、素地鋼板に溶融亜鉛めっきが施されてなる構造物(本明細書において「溶融亜鉛めっき構造物」と称する。)の健全性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁の破損、倒壊及び崩落等によって生じ得る人的被害を避けるため、長さ2mを超える橋梁には、5年に一回の点検が国土交通省の省令で義務付けられている。また、修繕等に必要な費用を軽減させることも目的として、橋梁等の構造物には定期的に健全性を評価することが求められている。なお、ここでいう「健全性」とは、構造物を使用する主目的が妨げられることのない状態に保たれている度合いを意味する。
【0003】
橋梁は、コンクリート橋と鋼橋とに大別される。鋼橋は、耐候性鋼橋梁(裸仕様)、塗装仕様の橋梁、及び溶融亜鉛めっき仕様の橋梁に大別される。耐候性鋼橋梁の健全性評価は、外観調査、錆厚測定、セロテープ(登録商標)試験、板厚測定、及び付着塩分量の測定などに基づき行われる。塗装仕様の橋梁の健全性評価は、外観調査、付着性評価、光沢度・色差の測定、電磁膜厚計又はカット式膜厚計による塗膜厚測定、付着塩分量の測定などに基づいて行われる。これら耐候性鋼橋梁及び塗装仕様の橋梁に対する健全性評価方法は、信頼し得る手法として確立している。
【0004】
溶融亜鉛めっき仕様の橋梁に対する健全性評価は、溶融亜鉛めっき橋梁が国内で初めて施工された1963年から現在に至るまで、外観調査(表面外観調査)と、電磁膜厚計によるめっき厚測定とに基づいて行われてきた。電磁膜厚計は、磁性体までの距離を測定するツールである。亜鉛めっき層の表面から素地鋼板(磁性体)までの距離を電磁膜厚計により測定することで、亜鉛めっき層の厚さを把握することができる。ただし、亜鉛の腐食生成物(白錆)及び鉄の腐食生成物(赤錆)は、特殊な場合を除いて非磁性体であることから、素地鋼板上にこれら腐食生成物が存在している場合、電磁膜厚計による測定値は、亜鉛めっき層及び腐食生成物の総厚さとなるため、亜鉛めっき層単独の厚さを把握することはできない。また、亜鉛めっき層は、素地鋼板上に位置する鉄と亜鉛の合金層と、該合金層上に位置する亜鉛層(以下、「η層」とも称する。)とを含むところ、電磁膜厚計による測定値では、合金層及び亜鉛層の厚さを個別に測定することもできない。以上のとおり、電磁膜厚計による厚み測定では、合金層、亜鉛層、亜鉛の腐食生成物及び鉄の腐食生成物の総厚さを把握することができるに過ぎず、これらの個別の厚さを把握することができない。
【0005】
そのため、結局のところ、溶融亜鉛めっき仕様の橋梁に対する健全性評価は、外観調査のみに頼ることになる。例えば、美麗なめっき外観が維持されている場合や、白錆(亜鉛層の腐食生成物)は観察されるものの、赤錆(合金層の腐食生成物又は素地鋼板の腐食生成物)は観察されず、亜鉛層が明らかに残存しており、合金層及び素地鋼板が露出していない場合には、健全性は良好と評価される。他方で、赤錆が観察される場合に関しては、段階的に、(1)亜鉛層の劣化が進み、合金層が局部的に露出している場合、(2)亜鉛層の劣化が進み、合金層が全面的に露出している場合、(3)合金層の劣化が素地鋼板表面まで進行している場合、(4)亜鉛めっき層が消失し、素地鋼板表面が腐食している場合、などに分類される。このうち、(1)の場合には、塗装を施すなどの修繕を検討し、(2)~(4)の場合には修繕が必要であると評価する。しかし、このような外観に頼る健全性評価方法では、個人差による評価ばらつきが否めず、正確な評価を行うことができない。また、表面に赤錆が観察されても、その赤錆が他部位からの流れ錆である場合には、その赤錆の下に亜鉛層が残存していることがある。そのような場合には、本来、健全性は良好と評価されるべきである。しかし、現状の外観調査のみでは、赤錆が、合金層の腐食生成物、素地鋼板の腐食生成物、及び他部位からの流れ錆のいずれであるのか区別することができず、一律に修繕が必要であるとの評価となっている。つまり、他部位からの流れ錆の影響で外観異常となっている場合には、健全なめっき層が残存しているにも関わらず、必要のない修繕を行ってしまうという可能性がある。これは、LCC(Life Cycle Cost)の観点から好ましくない。
【0006】
このように、溶融亜鉛めっき仕様の橋梁の健全性を正確に評価することができる手法はこれまで得られておらず、長年求められてきた。また、健全性評価という観点では、橋梁に限らず、鉄塔、建築物、ガードレールや標識等の道路付帯設備など、溶融亜鉛めっき構造物全般において、正確な健全性評価が求められる。そのためには、素地鋼板上において、合金層、亜鉛層及び腐食生成物の各々が存在するか否か、あるいは、各々の厚さがどの程度かを把握することができる手法が必要であると、本発明者らは考えた。
【0007】
ここで、特許文献1には、「被膜層に対して一定角度の切り込みをつけ、該切り込み面に光を照射し、その反射光を一定倍率の光学的拡大手段により拡大して結像板上に結像せしめ、その映像長さから被膜厚さを算出することを特徴とする被膜厚さ測定方法」が記載されている。また、測定対象として、鋼板、亜鉛鉄板等の金属板その他の物体上の塗料層、めっき層等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の厚さ測定方法は、いわゆる水平カット方式のカット式膜厚計による厚さ測定に関するものであり、既述のとおり、塗装仕様の橋梁の健全性評価における塗膜厚測定に慣用されている。ここで、
図6(A),(B)を参照して、特許文献1の厚さ測定方法を用いて、溶融亜鉛めっき構造物における、素地鋼板上の亜鉛めっき層の厚さを測定する場合について説明する。まず、作業者が、V字型形状の先端部を有する刃物を用いて手動で溶融亜鉛めっき構造物の被評価部位をストレートに罫書き、被評価部位に、亜鉛めっき層を貫通して素地鋼板に達する断面V字型のストレートな凹部(溝)を形成する。そして、
図6(A)に示す俯瞰方向zから凹部を拡大観察すると、
図6(B)に示すように、素地鋼板/亜鉛めっき層の境界と亜鉛めっき層表面とを視認することができる。V字型の溝の角度θは既知であるため、
図6(B)における素地鋼板/亜鉛めっき層の境界と亜鉛めっき層表面との距離sを測定すれば、亜鉛めっき層の厚さdは、d=s/tanθの計算により求めることができる。
【0010】
しかしながら、本発明者らの検討によると、この方法では、確かに特許文献1に記載されているように、亜鉛めっき層全体の厚みを把握することは可能であったが、亜鉛めっき層中の合金層及び亜鉛層の厚さを個別に把握することができないことが分かった。これは、俯瞰方向zから凹部を拡大観察した際に、亜鉛層/合金層の境界(
図6(B)において破線で示した)を識別することができないためである。また、亜鉛層/合金層の境界が不明であるため、素地鋼板上に赤錆が見られた場合に、その赤錆が、合金層の腐食生成物なのか、他部位からの流れ錆なのかを判断できない。つまり、外観調査と特許文献1に記載の方法による厚さ測定とを組み合わせても、依然として溶融亜鉛めっき構造物の健全性を正確に評価することはできなかった。
【0011】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、溶融亜鉛めっき構造物の健全性をより正確に評価することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討し、以下の知見を得た。まず、直円錐形状の先端部を有し、前記先端部が前記直円錐の軸を中心に回転可能な電動ドリルを用意した。そして、電動ドリルの前記先端部を一定の速度で回転させた状態で、前記先端部を前記溶融亜鉛めっき構造物の被評価部位に押し付けることで、前記先端部で前記被評価部位を削り、前記被評価部位に逆直円錐形状の凹部を形成する。このようにすることで、凹部の拡大観察において、素地鋼板、合金層、亜鉛層、及び腐食生成物の各々を異なる領域として視認することができること、すなわち、素地鋼板/合金層の境界、合金層/亜鉛層の境界、亜鉛層/腐食生成物の境界、合金層/腐食生成物の境界、及び素地鋼板/腐食生成物の境界を特定することができることが分かった。そのため、凹部の拡大観察によって、素地鋼板上において、合金層、亜鉛層及び腐食生成物の各々が存在するか否か、あるいは、各々の厚さがどの程度かを把握することができることを見出した。
【0013】
以上の知見に基づいて完成された本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]施工当初に、素地鋼板と、前記素地鋼板上の亜鉛めっき層と、を有し、前記亜鉛めっき層が、前記素地鋼板上の合金層と、前記合金層上の亜鉛層と、を有する溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法であって、
直円錐形状の先端部を有し、前記先端部が前記直円錐の軸を中心に回転可能な電動ドリルを用意する第1工程と、
前記電動ドリルの前記先端部を一定の速度で回転させた状態で、前記先端部を前記溶融亜鉛めっき構造物の被評価部位に押し付けることで、前記先端部で前記被評価部位を削り、前記被評価部位に、前記素地鋼板に達する逆直円錐形状の凹部を形成する第2工程と、
前記凹部を拡大観察する第3工程と、
前記凹部の拡大観察において、(i)前記素地鋼板の周囲に、前記素地鋼板と分離して前記合金層が特定されるか否かに基づいて、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性を評価し、(ii)前記合金層が特定された場合には、前記合金層の周囲に、前記合金層と分離して前記亜鉛層が特定されるか否かに基づいて、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性をさらに評価する第4工程と、
を有することを特徴とする溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0014】
[2]前記第4工程では、(i)で前記素地鋼板の周囲に前記合金層が特定され、かつ、(ii)で前記合金層の周囲に前記亜鉛層が特定された場合には、前記被評価部位において前記素地鋼板上に前記合金層及び前記亜鉛層の両方が残存しており、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が良好であると評価する、上記[1]に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0015】
[3]前記第4工程の(i)では、明るさの違い及び模様の違いの一方又は両方に基づいて、前記素地鋼板と前記合金層とを識別し、前記第4工程の(ii)では、明るさの違い及び模様の違いの一方又は両方に基づいて、前記合金層と前記亜鉛層とを識別する、上記[2]に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0016】
[4]前記第4工程では、(i)で前記素地鋼板の周囲に前記合金層が特定され、かつ、(ii)で前記合金層の周囲に前記亜鉛層が特定された場合には、(ii)で前記亜鉛層の周囲に、前記亜鉛層と分離して別の領域が特定され、前記亜鉛層上に腐食生成物が存在すると評価されたとしても、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が良好であると評価する、上記[2]又は[3]に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0017】
[5]前記第4工程の(ii)では、明るさの違い及び模様の違いの一方又は両方に基づいて、前記亜鉛層と前記別の領域とを識別する、上記[4]に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0018】
[6]前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が良好であるとの評価は、前記溶融亜鉛めっき構造物の前記被評価部位が引き続きそのまま使用可能であることを意味する、上記[2]~[5]のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0019】
[7]前記第4工程では、(i)で前記素地鋼板の周囲に前記合金層が特定され、かつ、(ii)で前記亜鉛層が特定されない場合には、前記被評価部位において前記素地鋼板上に前記合金層が残存しているものの、前記亜鉛層が残存しておらず、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が不良であると評価する、上記[1]に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0020】
[8]前記第4工程の(i)では、明るさの違い及び模様の違いの一方又は両方に基づいて、前記素地鋼板と前記合金層とを識別する、上記[7]に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0021】
[9]前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が不良であるとの評価は、前記溶融亜鉛めっき構造物の前記被評価部位が修繕を要することを意味する、上記[7]又は[8]に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0022】
[10]前記第4工程では、(i)で前記合金層が特定されない場合には、前記被評価部位において前記素地鋼板上に前記合金層及び前記亜鉛層が残存しておらず、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が特に不良であると評価する、上記[1]に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0023】
[11]前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性が特に不良であるとの評価は、前記溶融亜鉛めっき構造物の前記被評価部位が修繕を要する又は使用不可能であることを意味する、上記[10]に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0024】
[12]前記第3工程は、前記凹部を可視光で照らした状態で行われる、上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0025】
[13]前記第3工程は顕微鏡を用いて行われる、上記[1]~[12]のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0026】
[14]前記第3工程において、前記凹部の拡大画像を取得し、前記第4工程は、前記凹部の拡大画像を用いて行う、上記[1]~[13]のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0027】
[15]前記拡大画像の取得は固体撮像素子を用いて行う、上記[14]に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0028】
[16]前記電動ドリルの前記先端部が炭化タングステン鋼からなる、上記[1]~[15]のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【0029】
[17]前記溶融亜鉛めっき構造物が橋梁である、上記[1]~[16]のいずれか一項に記載の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法によれば、溶融亜鉛めっき構造物の健全性をより正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の第一の実施形態における凹部(被評価部位)の模式図であり、(A)は、凹部の断面図((B)におけるI-I断面図)であり、(B)は、凹部の上面図((A)における俯瞰方向zから見た図)である。
【
図2】本発明の第二の実施形態における凹部(被評価部位)の模式図であり、(A)は、凹部の断面図((B)におけるI-I断面図)であり、(B)は、凹部の上面図((A)における俯瞰方向zから見た図)である。
【
図3】本発明の第三の実施形態における凹部(被評価部位)の模式図であり、(A)は、凹部の断面図((B)におけるI-I断面図)であり、(B)は、凹部の上面図((A)における俯瞰方向zから見た図)である。
【
図4】本発明の第四の実施形態における凹部(被評価部位)の模式図であり、(A)は、凹部の断面図((B)におけるI-I断面図)であり、(B)は、凹部の上面図((A)における俯瞰方向zから見た図)である。
【
図5】本発明の第五の実施形態における凹部(被評価部位)の模式図であり、(A)は、凹部の断面図((B)におけるI-I断面図)であり、(B)は、凹部の上面図((A)における俯瞰方向zから見た図)である。
【
図6】従来例における凹部(被評価部位)の模式図であり、(A)は、凹部の断面図((B)におけるI-I断面図)であり、(B)は、凹部の上面図((A)における俯瞰方向zから見た図)である。
【
図7】実施例1において、(A)はサンプルの外観写真であり、(B)は前記サンプルの凹部をデジタルカメラで撮影した拡大画像であり、(C)は前記サンプルの凹部をカット式膜厚測定器に備えられたCCDカメラで撮影した拡大画像である。
【
図8】実施例1において、前記サンプルの断面の光学顕微鏡画像であり、(A)はエッチング処理無しの画像であり、(B)はエッチング処理有りの画像である。
【
図9】実施例1において、
図7(C)の拡大画像に対して、凹部の外周部、亜鉛層/合金層の境界、及び合金層/素地鋼板の境界を指定した画像である。
【
図10】実施例2において、実橋Aの被評価部位1~3の外観画像である。
【
図11】実施例2において、実橋Aの被評価部位1の凹部の拡大画像である。
【
図12】実施例3において、実橋Aの被評価部位4~6の外観画像である。
【
図13】実施例3において、実橋Aの被評価部位4の凹部の拡大画像である。
【
図14】実施例4において、実橋Bの被評価部位7,8の外観画像である。
【
図15】実施例4において、実橋Bの被評価部位7の凹部の拡大画像である。
【
図16】実施例4において、実橋Bの被評価部位8の凹部の拡大画像である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[評価対象の溶融亜鉛めっき構造物]
本実施形態において、評価対象の溶融亜鉛めっき構造物は、例えば
図1(A)に示されているように、施工当初の段階では、素地鋼板と、前記素地鋼板上の亜鉛めっき層と、を有し、前記亜鉛めっき層が、前記素地鋼板上の合金層と、前記合金層上の亜鉛層(η層)と、を有する。
【0033】
素地鋼板の鋼種、成分組成、組織及び機械的特性などは、溶融亜鉛めっき構造物の種類に応じて適宜選択され、特に限定されない。亜鉛めっき層は、常法により素地鋼板に溶融亜鉛めっきが施されて形成されるものであり、特に限定されない。通常、亜鉛めっき層は、純亜鉛に近い組成の亜鉛層(η層)と、素地鋼板/亜鉛めっき層の界面に形成される合金層と、を有する。合金層の組成は、例えば、ζ層(FeZn13)、δ1層(FeZn7)、Γ1層(Fe5Zn21)、及びΓ層(Fe3Zn10)などを挙げることができ、合金層は、これらから選択された少なくとも1つの層からなるものとする。
【0034】
溶融亜鉛めっき構造物の種類は特に限定されず、橋梁、鉄塔、建築物、ガードレールや標識等の道路付帯設備などを挙げることができる。
【0035】
[溶融亜鉛めっき構造物の表面状態]
溶融亜鉛めっき構造物は、施工後、環境や使用期間に応じて種々の表面状態を取り得る。以下に、代表的な例を説明する。
【0036】
(第一の態様)
図1(A)を参照して、第一の態様は、素地鋼板/合金層/亜鉛層の構成で、かつ、亜鉛層の表面に腐食生成物が発生していない状態である。この状態は、施工当初と同等の状態であり、最も健全性が高いと評価されるべきである。
【0037】
(第二の態様)
図2(A)を参照して、第二の態様は、素地鋼板/合金層/亜鉛層の構成で、かつ、亜鉛層の表面に赤錆が存在する状態である。赤錆の直下に亜鉛層が存在していることから、この赤錆は、合金層の腐食生成物又は素地鋼板の腐食生成物ではなく、他部位からの流れ錆である。この状態は、亜鉛層が残存していることから、本来であれば健全性は良好と評価されるべきである。しかし、従来の外観調査のみによる健全性評価では、赤錆による外観異常がある場合には、一律に修繕が必要であると評価されていた。
【0038】
(第三の態様)
図3(A)を参照して、第三の態様は、素地鋼板/合金層/亜鉛層の構成で、かつ、亜鉛層上に白錆(η層の腐食生成物)が存在する状態である。これは、亜鉛めっき層の腐食が軽度に進行して、亜鉛の腐食生成物である白錆が生じた段階であり、初期外観と比較すると金属光沢が低下し、全体的に白っぽい外観となる。この状態は、亜鉛層が残存していることから、健全性は良好と評価されるべきである。
【0039】
(第四の態様)
図4(A)を参照して、第四の態様は、素地鋼板/合金層の構成で、かつ、合金層上に赤錆(合金層の腐食生成物)が存在する状態である。これは、亜鉛めっき層の腐食がさらに進行して、亜鉛層が消失し、合金層が露出した状態である。合金層が露出すると、赤く点状の錆が見え始め、腐食の進行とともに全面が赤く変化していく。この状態は、亜鉛層が消失していることから、健全性は不良と評価されるべきであり、すなわち、溶融亜鉛めっき構造物の当該部位に修繕を行う必要がある。
【0040】
(第五の態様)
図5(A)を参照して、第五の態様は、素地鋼板上に赤錆(素地鋼板の腐食生成物)が存在する状態である。これは、亜鉛めっき層全体が消失し、素地鋼板が露出した状態である。素地鋼板が露出すると、鉄の腐食生成物である赤錆が観察される。この状態は、亜鉛めっき層全体が消失していることから、健全性は特に不良と評価されるべきであり、すなわち、溶融亜鉛めっき構造物の当該部位に早急に修繕を行うか、当該部位を早急に交換する必要がある。特に、素地鋼板の腐食が進行すると、構造物の強度が低下し、破損、損壊及び崩落の可能性が生じる。よって、素地鋼板の腐食が始まる前(第五の態様になる前)に、修繕(新たな防錆処理)を行う必要がある。ただし、合金層の腐食が進行した状態(第四の態様)と素地鋼板が腐食している状態(第五の態様)とは、外観のみで判別するのは困難な場合がある。そこで、第四の態様と第五の態様とを正確に判別する健全性評価方法も求められる。
【0041】
[溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法]
本実施形態による溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法では、まず、直円錐形状の先端部を有し、前記先端部が前記直円錐の軸を中心に回転可能な電動ドリルを用意する。そして、電動ドリルの前記先端部を一定の速度で回転させた状態で、前記先端部を前記溶融亜鉛めっき構造物の被評価部位に押し付けることで、前記先端部で前記被評価部位を削り、前記被評価部位に逆直円錐形状の凹部を形成する。このようにすることで、凹部の拡大観察において、素地鋼板、合金層、亜鉛層、及び腐食生成物の各々を異なる領域として視認することができる。すなわち、素地鋼板/合金層の境界、合金層/亜鉛層の境界、亜鉛層/腐食生成物の境界、合金層/腐食生成物の境界、及び素地鋼板/腐食生成物の境界を特定することができる。そのため、凹部の拡大観察によって、素地鋼板上において、合金層、亜鉛層及び腐食生成物の各々が存在するか否か、あるいは、各々の厚さがどの程度かを把握することができる。
【0042】
このような効果が得られる原理を本発明者らは以下のように考えている。溶融亜鉛めっき構造物の各層の硬度を比較すると、硬度が低い方から、亜鉛層、素地鋼板、合金層となる。また、各層の破壊靭性値を比較すると、破壊靭性値の高い方から、亜鉛層、合金層、素地鋼板となる。また、腐食生成物も、亜鉛層、合金層、素地鋼板とは異なる硬度及び破壊靭性値を有する。このように、亜鉛層、合金層、素地鋼板及び腐食生成物は、互いに異なる物性値を有する。ここで、本実施形態のように、直円錐形状の先端部を有する電動ドリルを用いて、一定の回転速度で少しずつ被評価部位を削って凹部を形成すると、上記のような各層の物性値の違いに起因して、各層ごとに凹部の微細な表面形状に差異が生じる。最も顕著な例としては、凹部の表面では、亜鉛層の部分では合金層の部分よりも表面形状が荒かった。このように、各層ごとに凹部の微細な表面形状に差異が生じることから、凹部の拡大観察において、各層を異なる領域として視認(光学的に判別)することができるものと考えられる。これに対して、
図6(A),(B)に示した特許文献1に記載の方法では、作業者が、V字型形状の先端部を有する刃物を用いて手動で溶融亜鉛めっき構造物の被評価部位をストレートに罫書くことで凹部を形成するが、この方法では、各層ごとに凹部の微細な表面形状に差異を生じさせることができず、このため、凹部の拡大観察において、各層を異なる領域として視認することができないと考えられる。
【0043】
以下、本実施形態による健全性評価方法によって、上記の第一乃至第五の各態様がどのように評価できるかについて説明する。
【0044】
[第1工程:電動ドリルの用意]
まず、直円錐形状の先端部を有し、前記先端部が前記直円錐の軸を中心に回転可能な電動ドリルを用意する。各層ごとに凹部の微細な表面形状に差異が生じる観点から、電動ドリルの前記先端部が炭化タングステン鋼等のハイス、超合金鋼、ダイヤモンド焼結体等の少なくとも一つからなるものとすることが好ましい。
【0045】
[第2工程:凹部の形成]
続いて、電動ドリルの前記先端部を一定の速度で回転させた状態で、前記先端部を前記溶融亜鉛めっき構造物の被評価部位に押し付けることで、前記先端部で前記被評価部位を削り、前記被評価部位に逆直円錐形状の凹部を形成する。すなわち、先端部の直円錐の軸が、凹部形成前の被評価部位表面に垂直となる状態を維持したまま、電動ドリルの先端部を被評価部位に押し付ける。
【0046】
凹部の直径及び凹部の角度(
図1(A)におけるθ)は、電動ドリルの先端部の形状と切削深さによって決定され、構造物の種類や目的の測定精度に応じて適宜決定すればよく、特に限定されない。ただし、凹部の直径は、例えば1~4mmの範囲とすることができる。直径が1mm以上であれば、凹部の拡大観察により、各層を異なる領域として十分に識別することができ、直径が4mm以下であれば、凹部が構造物の保全性を大きく損なうことがない。凹部の角度(
図1(A)におけるθ)は、例えば45~85度(°)の範囲とすることができる。凹部の角度が当該範囲内であれば、各層を異なる領域として十分に識別することができる。
【0047】
凹部の深さに関しては、上記の第一乃至第五の全ての態様で健全性を適切に評価するために、(亜鉛層及び合金層の各々が存在する場合には、これらを貫通して)素地鋼板に達する凹部を形成する。ただし、外観調査の結果、明らかに亜鉛層が残存していると思われる場合には、素地鋼板に達していなくても、少なくとも亜鉛層を貫通して合金層に達するように凹部を形成してもよい。このようにすれば、少なくとも亜鉛層と合金層との識別は可能となる。
【0048】
電動ドリルの先端部の回転速度は、一定であれば特に限定されないが、各層ごとに凹部の微細な表面形状に差異を生じさせる観点から、60~240rpmの範囲とすることが好ましい。
【0049】
電動ドリルの被評価部位への押し付け荷重は、各層ごとに凹部の微細な表面形状に差異を生じさせる観点から、一定であることが好ましく、また、30~80Nの範囲とすることが好ましい。
【0050】
以上のような第1工程及び第2工程は、例えば市販のドリル切削型カット式膜厚計(Erichsen社製、ペイントボアラー518PC)により実現できる。この装置は可搬式であるため、実地での構造物の健全性評価に好適に用いることができる。なお、ドリル切削型カット式膜厚計は、特許文献1に記載の直線型カット式膜厚計と同様に、従来は塗膜厚の測定に用いられていたが、溶融亜鉛めっき構造物における亜鉛めっき層の厚さ測定には適用されてこなかった。
【0051】
なお、本発明では、直円錐形状の先端部を有する電動ドリルを用いて、被評価部位に逆直円錐形状の凹部を形成する。しかし、各層ごとに凹部の微細な表面形状に差異を生じさせることができれば、ドリルの先端部形状及び凹部の形状は本発明のものに限定されない。
【0052】
[第3工程:凹部の拡大観察]
続いて、凹部を拡大観察する。既述のとおり、凹部の直径は最大で数mmであるため、素地鋼板、合金層、亜鉛層、及び腐食生成物の各々を異なる領域として視認するためには、凹部を拡大観察することが必要である。
【0053】
凹部の拡大観察は、凹部を可視光で照らした状態で行われることが好ましい。これにより、素地鋼板、合金層、亜鉛層、及び腐食生成物の各々を異なる領域として、より明確に視認することができる。すなわち、素地鋼板/合金層の境界、合金層/亜鉛層の境界、亜鉛層/腐食生成物の境界、合金層/腐食生成物の境界、及び素地鋼板/腐食生成物の境界をより精度よく特定することができる。
【0054】
凹部の拡大観察は、例えば、デジタルカメラの拡大モードや、スコープ、光学顕微鏡など、任意の顕微鏡を用いて、凹部の光学的な拡大像を得て、それを目視することで行うことができる。
【0055】
さらに、凹部の拡大画像を取得することが好ましい。これにより、凹部の拡大画像を用いて、後述の第4工程(健全性の評価)を行うことができる。この場合、取得した拡大画像を目視観察することで、時間的制約を受けることなく健全性評価を行うことができる。また、拡大画像において、各層間の境界を特定して各層の厚みを測定するなど、拡大画像の解析によって、より詳細かつ定量的な健全性の評価を行うことができる。
【0056】
拡大画像の取得は、デジタルカメラ、カット式膜厚計に備え付けのCCDカメラ、各種顕微鏡に備え付けのカメラなど、任意の固体撮像素子を用いて行うことができる。
【0057】
[第4工程:健全性の評価]
第4工程では、凹部の拡大観察に基づいて、溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価を行う。以下、上記の第一乃至第五の各態様に則して具体的に説明する。
【0058】
図1(A),(B)を参照して、第一の実施形態では、被評価部位に素地鋼板に達する逆直円錐形状の凹部を形成する。
図1(A)に示す俯瞰方向zから凹部を拡大観察すると、
図1(B)のように、素地鋼板、合金層、及び亜鉛層の各々を異なる領域として視認することができる。すなわち、素地鋼板/合金層の境界及び合金層/亜鉛層の境界を特定することができる。そのため、凹部の拡大観察によって、被評価部位において素地鋼板上に合金層及び亜鉛層の両方が残存していることが把握でき、健全性が良好であると評価することができる。また、凹部の角度θは既知のため、凹部の拡大画像において、亜鉛層の延在長さs
1を測定すれば、亜鉛層の厚さd
1は、d
1=s
1/tanθの計算により求めることができる。同様に、合金層の厚さd
2は、d
2=s
2/tanθの計算により求めることができる。このように、本実施形態では、亜鉛層と合金層とを分離して識別した上で、各層の厚さを求めることができる。
【0059】
図2(A),(B)を参照して、第二の実施形態では、被評価部位に素地鋼板に達する逆直円錐形状の凹部を形成する。
図2(A)に示す俯瞰方向zから凹部を拡大観察すると、
図2(B)のように、素地鋼板、合金層、亜鉛層、及び赤錆の各々を異なる領域として視認することができる。すなわち、素地鋼板/合金層の境界、合金層/亜鉛層の境界、及び亜鉛層/赤錆の境界を特定することができる。そのため、外観調査では赤錆が観察されるものの、凹部の拡大観察によって、被評価部位において素地鋼板上に合金層及び亜鉛層の両方が残存していることが把握でき、健全性が良好であると評価することができる。また、第一の実施形態と同様にして、亜鉛層、合金層、及び腐食生成物(赤錆)の厚さを個別に求めることができる。このようにして、本実施形態では、亜鉛層、合金層、及び腐食生成物(赤錆)を分離して識別した上で、各層の厚さを求めることができる。本実施形態は、本来必要のない修繕を実施してしまう可能性を排除できる点において好ましい。
【0060】
図3(A),(B)を参照して、第三の実施形態では、被評価部位に素地鋼板に達する逆直円錐形状の凹部を形成する。
図3(A)に示す俯瞰方向zから凹部を拡大観察すると、
図3(B)のように、素地鋼板、合金層、亜鉛層、及び白錆の各々を異なる領域として視認することができる。すなわち、素地鋼板/合金層の境界、合金層/亜鉛層の境界、及び亜鉛層/白錆の境界を特定することができる。そのため、凹部の拡大観察によって、被評価部位において素地鋼板上に合金層及び亜鉛層の両方が残存していることが把握でき、健全性が良好であると評価することができる。また、第一の実施形態と同様にして、亜鉛層、合金層、及び腐食生成物(白錆)の厚さを個別に求めることができる。このようにして、本実施形態では、亜鉛層、合金層、及び腐食生成物(白錆)を分離して識別した上で、各層の厚さを求めることができる。
【0061】
図4(A),(B)を参照して、第四の実施形態では、被評価部位に素地鋼板に達する逆直円錐形状の凹部を形成する。
図4(A)に示す俯瞰方向zから凹部を拡大観察すると、
図4(B)のように、素地鋼板、合金層、及び赤錆の各々を異なる領域として視認することができる。すなわち、素地鋼板/合金層の境界及び合金層/赤錆の境界を特定することができる。そのため、凹部の拡大観察によって、被評価部位において亜鉛層が消失していることが把握でき、健全性が不良であると評価することができる。また、第一の実施形態と同様にして、合金層及び腐食生成物(赤錆)の厚さを個別に求めることができる。このようにして、本実施形態では、合金層及び腐食生成物(赤錆)を分離して識別した上で、各層の厚さを求めることができる。
【0062】
図5(A),(B)を参照して、第五の実施形態では、被評価部位に素地鋼板に達する逆直円錐形状の凹部を形成する。
図5(A)に示す俯瞰方向zから凹部を拡大観察すると、
図5(B)のように、素地鋼板及び赤錆の各々を異なる領域として視認することができる。すなわち、素地鋼板/赤錆の境界を特定することができる。そのため、凹部の拡大観察によって、被評価部位において亜鉛めっき層全体が消失していることが把握でき、健全性が特に不良であると評価することができる。
【0063】
(合金層の有無及び亜鉛層の有無による健全性の評価)
以上を踏まえると、本発明の一実施形態では、凹部の拡大観察において、(i)前記素地鋼板の周囲に、前記素地鋼板と分離して前記合金層が特定されるか否かに基づいて、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性を評価し、(ii)前記合金層が特定された場合には、前記合金層の周囲に、前記合金層と分離して前記亜鉛層が特定されるか否かに基づいて、前記溶融亜鉛めっき構造物の健全性をさらに評価することができる。具体的には、以下のとおりである。
【0064】
(i)で素地鋼板の周囲に合金層が特定され、かつ、(ii)で合金層の周囲に亜鉛層が特定された場合には、被評価部位において素地鋼板上に合金層及び亜鉛層の両方が残存しており、溶融亜鉛めっき構造物の健全性が良好であると評価する。これは、
図1(A),(B)、
図2(A),(B)、及び
図3(A),(B)の例に該当する。
【0065】
なお、
図2(A),(B)の例のように、(i)で素地鋼板の周囲に合金層が特定され、かつ、(ii)で合金層の周囲に亜鉛層が特定された場合には、亜鉛層の周囲に、亜鉛層と分離して別の領域が特定され、亜鉛層上に腐食生成物が存在すると評価されたとしても、被評価部位において素地鋼板上に合金層及び亜鉛層の両方が残存しているため、溶融亜鉛めっき構造物の健全性が良好であると評価する。
【0066】
また、(i)で素地鋼板の周囲に合金層が特定され、かつ、(ii)で亜鉛層が特定されない場合には、被評価部位において素地鋼板上に合金層が残存しているものの、亜鉛層が残存しておらず、溶融亜鉛めっき構造物の健全性が不良であると評価する。これは、
図4(A),(B)の例に該当する。
【0067】
また、(i)で合金層が特定されない場合には、被評価部位において素地鋼板上に合金層及び亜鉛層が残存しておらず、溶融亜鉛めっき構造物の健全性が特に不良であると評価する。これは、
図5(A),(B)の例に該当する。
【0068】
よって、本実施形態によれば、合金層の腐食が進行した状態(第四の態様)と素地鋼板が腐食している状態(第五の態様)を、正確に判別することができる。
【0069】
(健全性評価の定義)
溶融亜鉛めっき構造物の健全性が良好であるとの評価は、溶融亜鉛めっき構造物の被評価部位が引き続きそのまま使用可能であることを意味する。また、溶融亜鉛めっき構造物の健全性が不良であるとの評価は、溶融亜鉛めっき構造物の被評価部位が修繕を要することを意味する。修繕は、構造物の被評価部位の耐食性を補強する任意の処理であり、例えば、塗装、金属溶射などを挙げることができる。溶融亜鉛めっき構造物の健全性が特に不良であるとの評価は、溶融亜鉛めっき構造物の前記被評価部位が修繕を要する又は使用不可能であることを意味する。特に不良であるとの評価の場合には、早急に修繕を行うか、当該被評価部位を早急に交換する必要がある。
【0070】
(各層の識別)
凹部の拡大観察において、(A)合金層と亜鉛層との識別、(B)亜鉛層と該亜鉛層上の腐食生成物との識別、及び(C)素地鋼板と合金層との識別は、いずれも、明るさの違い及び模様の違いの一方又は両方に基づいて行うことができる。例えば、亜鉛層は比較的白っぽい外観を有し、合金層は比較的暗い外観を有する。また、光照射下で凹部の拡大観察を行う場合、各層の領域ごとにハレーションパターンが異なることがある。このような模様の違いによって、各層を識別することができる。
【実施例0071】
以下に示す実施例において、「本発明手法」では、ドリル切削型カット式膜厚計(Erichsen社製、ペイントボアラー518PC)を用いた。膜厚計に付属した炭化タングステン鋼製の直円錐形状の先端部を有する電動ドリルで、被評価部位に素地鋼板に達する逆直円錐形状の凹部を形成した。その後、膜厚計に付属したCCDカメラにより、凹部の拡大画像を取得した。CCDカメラの周囲には、8方向からLEDライトが備え付けられており、光照射下にて凹部の拡大画像を取得した。その後、作業者が、各拡大画像において、各層の特定と、隣接する層間の境界の特定を行った。その結果に基づき、専用のソフトウェアが解析を行い、各層の厚さを算出した。
【0072】
(実施例1)
図7(A)に示すように、100×200×10mmの素地鋼板(SS400材)に溶融亜鉛めっきを施したサンプルを用意した。サンプルの任意に定めた被評価部位に対し、電磁膜厚計によるめっき厚測定と、本発明手法による凹部の拡大観察を行った。また、被評価部位近傍の一部を切り出し、光学顕微鏡を用いて断面観察を行った。
【0073】
図7(B)は、サンプルの凹部を市販のデジタルカメラ(光照射なし)で撮影した拡大画像である。この拡大画像では、白いリング状の領域と、その内側の灰色の領域が確認できた。
【0074】
図7(C)は、サンプルの凹部をカット式膜厚測定器に備えられたCCDカメラで撮影した拡大画像である。この拡大画像では、白いリング状の領域の内側に、8方向からのLEDライトに起因するハレーションが放射状に見られた。ただし、中心部ではハレーションパターンが不鮮明であり、白いリング状の領域に近い領域ではハレーションパターンが鮮明であり、ハレーションパターンが異なる2つの領域に分かれていた。そこで、
図9に示すように3つの境界を指定して、解析を行った。解析結果は、最内円から最外円の距離対応する厚さが80μmであり、白いリング状の領域に対応する厚さが50μmであった。
【0075】
電磁膜厚計の測定値は77.8μmであった。そのため、拡大画像(
図9)における再内円(ハレーションパターンの切り替わり箇所)は、素地鋼板と合金層との境界であることがわかった。
【0076】
光学顕微鏡による断面観察の結果を
図8(A),(B)に示す。断面観察では、亜鉛めっき層の厚さが83.7μmであり、電磁膜厚計の測定値(77.8μm)及び本発明手法による亜鉛めっき層の厚さ(80μm)と同等の値であった。また、エッチング後の断面から、亜鉛層(η層)の厚さが約50μmであったことより、本発明手法による凹部の拡大画像において、白いリング状に観察された領域はη層に対応していることが分かった。
【0077】
以上より、本発明手法を用いることにより、亜鉛層(η層)及び合金層の厚さをそれぞれ測定できることがわかった。
【0078】
【0079】
(実施例2)
供用後18年の実際の橋梁Aで本発明手法により健全性評価を行った。目視では腐食生成物が見られず、健全性が保たれていると思われる箇所(
図10の被評価部位1~3)を選定し、電磁膜厚計によるめっき厚測定と、本発明手法による健全性の評価を行った。結果を表2に示す。両方式によるめっき厚の測定結果は同等の値であった。また、本発明手法では、η層と合金層の厚さをそれぞれ測定可能であった。
【0080】
図11に、被評価部位1の凹部の拡大画像を示す。この拡大画像では、外周から順に、白いリング状の領域、黒いリング状の領域、及び若干白い円状の領域の3領域が識別される。そのため、これら3領域を、それぞれ亜鉛層(η層)、合金層、及び素地鋼板と特定した。被評価部位2,3も同様であった。これら被評価部位1~3では、素地鋼板上に合金層及び亜鉛層の両方が残存していることが把握でき、健全性が良好であると評価することができる。
【0081】
【0082】
(実施例3)
供用後18年の実際の橋梁Aで本発明手法により健全性評価を行った。目視では表面が赤く見える箇所(
図12の被評価部位4~6)を選定し、電磁膜厚計によるめっき厚測定と、本発明手法による健全性の評価を行った。結果を表3に示す。本発明手法では、錆層、η層及び合金層の厚さをそれぞれ測定できた。
【0083】
図13に、被評価部位4の凹部の拡大画像を示す。この拡大画像では、外側から順に、ハレーションパターンが存在しない領域、白いリング状の領域、黒いリング状の領域、及び白い円状の領域の4領域が識別される。そのため、これら4領域を、それぞれ錆層、亜鉛層(η層)、合金層、及び素地鋼板と特定した。η層が観察され、合金層が露出していないことから、外観上赤く見える部分は、他部位からの赤錆が付着したものであることがわかった。現地で周囲の状況を良く観察すると、伸縮装置から漏水があり、桁端部の通気口から吹き付ける風で、被評価部位に吹き付けていることが分かった。これら被評価部位4~6では、外観調査では赤錆が観察されるものの、凹部の拡大観察によって、素地鋼板上に合金層及び亜鉛層の両方が残存していることが把握でき、健全性が良好であると評価することができる。
【0084】
【0085】
(実施例4)
供用後29年の実際の橋梁Bで本発明手法により健全性評価を行った。腐食の進行が激しいと思われる箇所(
図14の被評価部位7,8)を選定し、電磁膜厚計によるめっき厚測定と、本発明手法による健全性の評価を行った。結果を表4及び
図15,16に示す。
【0086】
図15に、被評価部位7の凹部の拡大画像を示す。この拡大画像では、黒くハレーションパターンが存在しないリング状の領域と、その内側にハレーションパターンが存在する円状の領域の2領域が識別される。そのため、これら2領域をそれぞれ合金層及び素地鋼板と特定した。合金層の厚さは309μmと算出された。被評価部位7では、合金層は残存しているものの、亜鉛層が消失していることが把握でき、健全性が不良であると評価することができる。また、赤錆は合金層の腐食生成物であることが分かる。
【0087】
図16に、被評価部位8の凹部の拡大画像を示す。この拡大画像では、ハレーションパターンが存在する略円状の1つの領域のみが視認できる。そのため、この領域を素地鋼板と特定した。被評価部位8では、亜鉛めっき層全体が消失して、素地鋼板が露出していることが把握でき、健全性が特に不良であると評価することができる。また、赤錆は素地鋼板の腐食生成物であることが分かる。
【0088】
本発明の溶融亜鉛めっき構造物の健全性評価方法によれば、溶融亜鉛めっき構造物の健全性をより正確に評価することができる。亜鉛層及び合金層の正確な残厚を把握することにより、将来的なメンテナンス時期、優先順位、及びメンテナンスの計画を効率的に立てることが可能となる。
また、亜鉛層の腐食速度は純亜鉛の腐食速度として検討が可能である。純亜鉛の腐食速度は、暴露試験や電気抵抗式センサを用いて測定が可能である。本発明によって測定可能になった亜鉛層の厚さと純亜鉛の腐食速度とに基づいて、亜鉛層が消失するまでの期間つまり合金層が露出するまでの期間の目安をより詳細に把握することができる。この目安はメンテナンスの実施時期を検討する上で有用な情報となる。