(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182215
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】付加製造装置
(51)【国際特許分類】
B22F 12/40 20210101AFI20231219BHJP
B22F 10/34 20210101ALI20231219BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20231219BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231219BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20231219BHJP
【FI】
B22F12/40
B22F10/34
B33Y30/00
B33Y70/00
B22F10/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095690
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 眞里
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 好一
(72)【発明者】
【氏名】田野 誠
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩平
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018BA02
(57)【要約】
【課題】均質な造形物を製造可能な付加製造装置を提供する。
【解決手段】粉末材料PAを供給する粉末材料供給装置10と、ビームBMの照射により基材Bの表面に造形物Wを形成するビーム照射装置20と、を備え、前記ビーム照射装置20による前記ビームBMの走査方向D1と交差する交差方向D2についての前記ビームBMの照射領域Sは、第一ビード61のうち前記走査方向D1と交差する交差方向D2の一部である第一照射領域S1と、前記基材Bの表面のうち交差方向D2について前記第一照射領域S1に隣接する第二照射領域S2と、を備え、前記ビーム照射装置20による前記ビームBMの前記交差方向D2についての前記ビームBMの強度分布は、前記第一照射領域S1と前記第二照射領域S2とで最大値が異なる強度に設定されている、付加製造装置1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末材料を供給する粉末材料供給装置と、
ビームの照射により前記粉末材料を溶融して前記ビームの走査方向に延在するビードを形成し、既に形成された第一ビードと前記第一ビードに隣接して形成される第二ビードとを結合することにより基材の表面に造形物を形成するビーム照射装置と、
を備え、
前記ビーム照射装置による前記ビームの前記走査方向と交差する交差方向についての前記ビームの照射領域は、前記第一ビードのうち前記交差方向の一部である第一照射領域と、前記基材の表面のうち前記交差方向について前記第一照射領域に隣接する第二照射領域と、を備え、
前記第一ビードの前記第一照射領域に前記ビームが照射されることにより前記第一ビードが再溶融するための再溶融条件と、前記基材の前記第二照射領域に前記ビームが照射されることにより前記基材が溶融するための溶融条件とは異なり、
前記ビーム照射装置による前記ビームの前記交差方向についての前記ビームの強度分布は、前記第一照射領域と前記第二照射領域とで最大値が異なる強度に設定されている、付加製造装置。
【請求項2】
前記粉末材料は、前記基材と異なる金属または金属化合物を主成分として含む、請求項1に記載の付加製造装置。
【請求項3】
前記粉末材料が超硬合金を主成分として含む、請求項1または2に記載の付加製造装置。
【請求項4】
層状に粉末材料を供給する粉末材料供給装置と、
ビームの照射により前記粉末材料を溶融して前記ビームの走査方向に延在するビードを形成し、既に形成された第一ビードと前記第一ビードに隣接して形成される第二ビードとを結合することにより造形物を形成するビーム照射装置と、
を備え、
前記ビーム照射装置による前記ビームの前記走査方向と交差する交差方向についての前記ビームの照射領域は、前記第一ビードのうち前記交差方向の一部である第一照射領域と、前記交差方向について前記第一照射領域に隣接し前記粉末材料が配置された第二照射領域と、を備え、
前記第一ビードの前記第一照射領域に前記ビームが照射されることにより前記第一ビードが再溶融するための再溶融条件と、前記第二照射領域に前記ビームが照射されることにより前記粉末材料が溶融するための溶融条件とは異なり、
前記ビーム照射装置による前記ビームの前記交差方向についての前記ビームの強度分布は、前記第一照射領域と前記第二照射領域とで最大値が異なる強度に設定されている、付加製造装置。
【請求項5】
前記ビードのビーム吸収率と、前記粉末材料のビーム吸収率が異なっている、請求項1または4に記載の付加製造装置。
【請求項6】
前記ビードの熱伝導率と、前記粉末材料の熱伝導率が異なっている請求項1または4に記載の付加製造装置。
【請求項7】
前記ビーム照射装置は、前記ビームを発生させるビーム源と、前記ビーム源が発生させた前記ビームについて、前記走査方向と交差する方向について最大値が異なる強度分布に調整する調整手段と、を備える請求項1または4に記載の付加製造装置。
【請求項8】
前記ビームは、複数のサブビームが組み合わされて形成され
前記調整手段は、前記複数のサブビームの光路を調整することにより、前記ビームの強度分布を前記走査方向と交差する方向について異ならせる、請求項7に記載の付加製造装置。
【請求項9】
前記調整手段は回折格子である、請求項7に記載の付加製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造には、例えば、指向性エネルギー堆積(Directed Energy Deposition)方式、粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion)方式等があることが知られている。
【0003】
指向性エネルギー堆積方式は、ビーム(レーザビーム及び電子ビーム等)の照射と材料の供給を行う加工ヘッドの位置を制御することで付加製造を行う。指向性エネルギー堆積方式には、LMD(Laser Metal Deposition)等が含まれる。
【0004】
粉末床溶融結合方式は、平らに敷き詰められた粉末材料に対して、ビームを照射することで付加製造を行う。粉末床溶融結合方式には、SLM(Selective Laser Melting)、EBM(Electron Beam Melting)等が含まれる。
【0005】
このような技術の一例として特許文献1(特開2022-32283号公報)および特許文献2(特開2019-196523号公報)に記載の付加製造装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-32283号公報
【特許文献2】特開2019-196523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、指向性エネルギー堆積方式のLMDは、硬質材料を含む粉末材料等を噴射しながらビームを照射することにより、粉末材料等を溶融させた後に凝固させることができる。これにより、LMDは、例えば、基材に対して部分的に筋状の硬質材料の造形物、所謂、ビードを付加する肉盛技術として利用されている。複数のビードを形成して基材に肉盛加工を行う場合、先に形成されたビードの一部に新たに形成されるビードを重ねて形成し、これにより基材の表面に造形物を形成する場合がある。この場合、ビードを構成する金属種を再溶融させる条件と、基材を構成する金属種を溶融させる条件とが異なる場合が生じうる。例えば、ビードを構成する金属種と、基材を構成する金属種とが異なっていると、ビームの強度をビードが適切に再溶融可能な条件に設定した場合に、ビードは適切に再溶融できるが、基材は過剰に加熱されてしまう事態が発生するおそれがある。このような場合、先に形成されたビードと、基材に新たに重ねられたビードの品質が不均一となり、その結果、造形物の品質が低下してしまうおそれがある。
【0008】
また、粉末床溶融結合方式のSLMにおいても、先に形成されたビードの一部に新たに形成されるビードを重ねて形成し、造形物を形成する場合がある。この場合、粉末材料が溶融後に固化したビードは中実な構成となっているので、中実な固体であるビードと、粉末材料とでは、ビームの吸収率、熱伝導率等が異なる可能性がある。このため、ビードを構成する金属種と、粉末材料を構成する金属種とが同一であっても、ビードを再溶融させる条件と、粉末材料を溶融させる条件とが異なる場合が生じうる。すると、LMDの場合と同様に、造形物の品質が低下するおそれがある。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、均質な造形物を製造可能な付加製造装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、
粉末材料を供給する粉末材料供給装置と、
ビームの照射により前記粉末材料を溶融して前記ビームの走査方向に延在するビードを形成し、既に形成された第一ビードと前記第一ビードに隣接して形成される第二ビードとを結合することにより基材の表面に造形物を形成するビーム照射装置と、
を備え、
前記ビーム照射装置による前記ビームの前記走査方向と交差する交差方向についての前記ビームの照射領域は、前記第一ビードのうち前記交差方向の一部である第一照射領域と、前記基材の表面のうち前記交差方向について前記第一照射領域に隣接する第二照射領域と、を備え、
前記第一ビードの前記第一照射領域に前記ビームが照射されることにより前記第一ビードが再溶融するための再溶融条件と、前記基材の前記第二照射領域に前記ビームが照射されることにより前記基材が溶融するための溶融条件とは異なり、
前記ビーム照射装置による前記ビームの前記交差方向についての前記ビームの強度分布は、前記第一照射領域と前記第二照射領域とで最大値が異なる強度に設定されている、付加製造装置にある。
【0011】
また、本発明の他の態様は、
層状に粉末材料を供給する粉末材料供給装置と、
ビームの照射により前記粉末材料を溶融して前記ビームの走査方向に延在するビードを形成し、既に形成された第一ビードと前記第一ビードに隣接して形成される第二ビードとを結合することにより造形物を形成するビーム照射装置と、
を備え、
前記ビーム照射装置による前記ビームの前記走査方向と交差する交差方向についての前記ビームの照射領域は、前記第一ビードのうち前記交差方向の一部である第一照射領域と、前記交差方向について前記第一照射領域に隣接し前記粉末材料が配置された第二照射領域と、を備え、
前記第一ビードの前記第一照射領域に前記ビームが照射されることにより前記第一ビードが再溶融するための再溶融条件と、前記第二照射領域に前記ビームが照射されることにより前記粉末材料が溶融するための溶融条件とは異なり、
前記ビーム照射装置による前記ビームの前記交差方向についての前記ビームの強度分布は、前記第一照射領域と前記第二照射領域とで最大値が異なる強度に設定されている、付加製造装置にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様においては、第一照射領域に照射されるビームの強度の最大値と、第二照射領域に照射されるビームの強度の最大値とを異ならせることにより、第一照射領域を照射するビームの強度を第一ビードの再溶融条件に適合させるとともに、第二照射領域を照射するビームの強度を基材の溶融条件に適合させることができる。これにより、第一照射領域の第一ビードを適切に再溶融させるとともに、第二照射領域の基材を適切に溶融させることができるので、基材の表面に均質な造形物を形成することができる。
【0013】
また、本発明の他の態様においては、第一照射領域に照射されるビームの強度の最大値と、第二照射領域に照射されるビームの強度の最大値とを異ならせることにより、第一照射領域を照射するビームの強度を第一ビードの再溶融条件に適合させるとともに、第二照射領域を照射するビームの強度を粉末材料の溶融条件に適合させることができる。これにより、第一照射領域の第一ビードを適切に再溶融させるとともに、第二照射領域の粉末材料を適切に溶融させることができるので、均質な造形物を形成することができる。
【0014】
以上のごとく、本発明によれば、均質な造形物を製造可能な付加製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】実施形態1の付加製造装置によって第一ビードおよび第二ビードが付加製造される状態を説明するための図である。
【
図3】
図2におけるIII-III線断面図である。
【
図4】実施形態1の付加製造装置によって照射されるビームの強度分布を模式的に示すグラフである。
【
図5】実施形態2の付加製造装置によって照射されるビームの強度分布を模式的に示すグラフである。
【
図7】実施形態3の付加製造装置によって照射されるビームの照射領域を示す図である。
【
図9】実施形態の4付加製造装置によって照射されるビームの照射領域を示す図である。
【
図10】実施形態5の付加製造装置を示す図である。
【
図11】実施形態5の付加製造装置によって第一ビードおよび第二ビードが付加製造される状態を説明するための図である。
【
図12】変形例(1)の付加製造装置によって照射されるビームの強度分布を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態1)
1-1.付加製造装置の構成
実施形態1の付加製造装置1について
図1を参照して説明する。本形態の付加製造装置1は、例えば、指向性エネルギー堆積方式であってLMD方式により、粉末材料PAを用いて基材Bに造形物Wを付加製造する。本形態では、粉末材料PAは、基材Bと異なる金属または金属化合物を主成分として含む。ただし、主成分とは、最も多い割合で含まれる成分を意味する。
【0017】
図1に示すように、付加製造装置1は、粉末材料供給装置10、およびビーム照射装置20を主に備える。本形態の付加製造装置1は、指向性エネルギー堆積方式であってLMD型の付加製造装置1が用いられる。このため、付加製造装置1についての詳細な構成及び動作等については省略する。
【0018】
粉末材料供給装置10は、ホッパ11、バルブ12、ガスボンベ13および噴射ノズル14を備える。ホッパ11は、粉末材料PAを貯蔵する。粉末材料PAは、硬質粉末材料PA1と結合粉末材料PA2とが混合された状態になっている。
【0019】
本形態においては、粉末材料PAは、硬質粉末材料PA1と結合粉末材料PA2とが混合されている。硬質粉末材料PA1と結合粉末材料PA2とを混合して焼結したものは超硬合金とされており、本形態の粉末材料PAは超硬合金を主成分として含む。ただし、粉末材料PAは、一種類の粉末材料であってもよいし、三種類以上の粉末材料が混合されていてもよい。
【0020】
本形態においては、硬質粉末材料PA1は、金属炭化物を含む。金属炭化物としては特に限定されず、炭化タングステン(WC)、炭化チタン(TiC)、炭化タンタル(TaC)等から一つまたは複数の金属炭化物が任意に選択される。本形態では、硬質粉末材料PA1として炭化タングステン(WC)が用いられる。
【0021】
結合粉末材料PA2は、硬質粉末材料PA1同士を結合するバインダとして作用する。結合粉末材料PA2としては、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)等から一つまたは複数の金属が選択される。本形態ではコバルトが用いられる。
【0022】
本形態においては、基材Bは鉄(Fe)、炭素鋼(S45C)等、任意に選択された金属種により構成される。
【0023】
本形態においては、粉末材料PAを構成する金属種のビーム吸収率は、基材Bを構成する金属種のビーム吸収率よりも小さい。また、粉末材料PAを構成する金属種の熱伝導率は、基材Bを構成する金属種の熱伝導率よりも大きい。
【0024】
バルブ12は、粉末導入バルブ12a、粉末供給バルブ12bおよびガス導入バルブ12cを備える。粉末導入バルブ12aは、配管11aを介してホッパ11と接続される。粉末供給バルブ12bは、配管14aを介して噴射ノズル14と接続される。ガス導入バルブ12cは、配管13aを介してガスボンベ13と接続される。
【0025】
噴射ノズル14および配管は、噴射ノズル14側に傾斜部分を有する筒状の容器15に収容される。噴射ノズル14は、容器15の傾斜部分の先端に配置され、配管14aを介して、例えば、ガスボンベ13から供給される高圧の窒素により、粉末材料PAを基材Bに向けて噴射する。尚、粉末材料PAを噴射するガスは、窒素に限定されるものではなくアルゴン等の不活性ガスであっても良い。
【0026】
ビーム照射装置20は、ビーム源21により生成され供給されるビームBMを基材Bの所望の位置に照射する照射部を備える。ビーム源21は、制御装置30によって制御されて、ビームBMを生成する。
【0027】
照射部22は、容器15の内部に配置される。照射部22は、容器15の内部に配置された後述するコリメートレンズ41、回折格子42および集光レンズ43等の光学系を通してビームBMを照射する。尚、「加工ヘッド」は、噴射ノズル14、ビーム照射装置20および容器15を含んで構成される。
【0028】
そして、ビームBMは、
図1に示すように、基材Bにおいて粉末材料供給装置10から供給された粉末材料PAを溶融させる。溶融した粉末材料PAが固化することにより、基材Bの表面には、複数の筋状のビード60が形成され、肉盛加工(付加製造)が行われる。
【0029】
ここで、本形態においては、ビームBMとしてレーザ光を用いる。但し、ビームBMはレーザ光に限られず、例えば、電子ビームを用いることも可能である。又、本形態においては、ビーム照射装置20の照射部22は、四角形状の照射形状となるビームBMを照射する。しかし、ビームBMの照射形状は四角形状に限られず、例えば、円形状、長円形状、または三角形状や五角形状等の多角形状とすることも可能である。
【0030】
詳細には図示しないが、制御装置30は、CPU、ROM、RAM、インターフェース等を主要構成部品とするコンピュータ装置である。制御装置30は、粉末材料供給装置10の粉末供給を制御する。具体的に、制御装置30は、粉末供給バルブ12bおよびガス導入バルブ12cの開閉を制御することにより、噴射ノズル14から基材Bに向けた粉末材料PAの噴射供給を制御する。
【0031】
また、制御装置30は、ビーム照射装置20のビーム照射を制御する。具体的に、制御装置30は、ビーム源21および照射部22の作動を制御して、照射部22から基材Bに向けて照射されるビームBMの出力、供給された粉末材料PAを溶融するビームスポット径等を制御する。
【0032】
制御装置30は、基材Bに対するビームBMの相対的な走査を制御する。具体的に、制御装置30は、
図1に示すように、モータM1の回転を制御して基材Bを中心軸線Cの回りに回転させると共に、モータM2の回転を制御して基材Bを中心軸線Cの方向に移動させる。これにより、制御装置30は、基材Bに対するビームBMの相対的な走査を制御する。本形態において、制御装置30は、
図1にて太い矢線で示すように、基材Bをビーム照射装置20に対して相対的に
図1の左方向(ビーム照射装置20を基材Bに対して相対的に
図1の右方向)に移動させる場合を例示する。
【0033】
尚、本形態においては、制御装置30が基材Bをビーム照射装置20に対して回転および移動させるようにする。しかしながら、ビーム照射装置20、より具体的には、噴射ノズル14、ビーム照射装置20および容器15を含む加工ヘッドを基材Bに対して相対的に移動させるように構成することも可能である。この場合、図示しない駆動装置、例えば、XYZステージや多関節を有するロボットアーム等により、加工ヘッドは三次元空間にて自在に移動可能とされる。これにより、制御装置30が駆動装置(XYZステージやロボットアーム等)の作動を制御することにより、噴射ノズル14の供給位置および照射部22の照射位置は基材Bに対して相対的に移動することができる。
【0034】
1-2.照射部22の構成
続いて、照射部22について
図1~
図3を参照して説明する。照射部22は、光ファイバ(図示せず)により伝送されたビームBMが入射し、平行光を回折格子42に出射するコリメートレンズ41と、回折格子42から出射された光を照射領域Sに集光する集光レンズ43とを備える。ただし、回折格子42は調整手段の一例である。
【0035】
光ファイバの端部はビーム源21に接続されており、光ファイバの端部から、本形態に係るビームBMであるレーザ光が、コリメートレンズ41に出射される。本形態に係るビーム源21は、マルチモードレーザ装置であり、具体的には、イッテルビウムイオン(Yb3+)を添加した石英ファイバをレーザ媒体とするイッテルビウムファイバレーザを採用している。ビーム源21のタイプは特に限定されず、YAGレーザをはじめとするその他の任意のシングルモードまたはマルチモードレーザ装置を用いることができる。
【0036】
本形態に係るコリメートレンズ41は、光ファイバの出射端から出射されるビームBMを平行光にして、回折格子42に入射させる。本形態に係る回折格子42としては、例えば石英基板で形成され、基板上にフォトリソグラフィ技術と反応性イオンエッチング技術とを用いて、凹凸パターンが加工されたものを使用することができる。凹凸パターンが形成された回折格子42にビームBMを照射すると、その凹凸パターンに応じた強度分布を有する回折像を得ることができる。
【0037】
本形態においては、回折格子42の基板表面には、走査方向D1と交差する交差方向D2について、ビームBMの強度分布が、後述する第一照射領域S1と第二照射領域S2とで最大値が異なるような回折像を得るための凹凸パターンが形成されている。
【0038】
例えば、光ファイバからのビームBMがコリメートレンズ41に入射して、平行光にコリメートされる。これにより、ビームBMが回折格子42に入射し、回折格子42から出射された光が集光レンズ43に入射する。そして、集光レンズ43から、集光されたビームBMが照射領域Sに照射されるようになっている。
【0039】
本形態に係る照射部22では、
図1に示すように、コリメートレンズ41から出射されるビームBMの光径が、回折格子42の入射面と同じか、またはやや小さくなるように、コリメートレンズ41が配置されている。このような配置により、コリメートレンズ41から出射されるビームBMの強度分布が、回折格子42によって確実に所定の強度分布となる。
【0040】
図2に示すように、このように形成された強度分布を有するビームBMが、集光レンズ43により照射領域Sに集光され、略長方形状の照射領域が形成される。照射領域S内に、粉末材料PAが供給されるようになっている。
【0041】
なお、ビームBMとして電子ビームが用いられる場合には、ビーム源は公知の電子銃が用いられ、調整手段としては公知の磁界コイル等が用いられる。
【0042】
図3に示すように、照射領域Sは、後述する第一ビード61のうち交差方向D2の一部の領域である第一照射領域S1と、基材Bの表面のうち交差方向D2について第一照射領域S1に隣接する領域である第二照射領域S2と、を備える。
【0043】
交差方向D2について第一照射領域S1の範囲は特に限定されないが、第一ビード61のうち、交差方向D2の全幅について、第二ビード62が形成される側縁から三分の一から三分の二の領域が好ましい。第一照射領域S1の範囲が、交差方向D2について第二ビード62が形成される側縁から三分の一よりも大きいことにより、造形物Wの表面の平面度が向上するので好ましい。また、第一照射領域S1の範囲が、交差方向D2について第二ビード62が形成される側縁から三分の二よりも小さいことにより、第一ビード61と第二ビード62との重なり代が過度に大きくなることが抑制されるため、造形物Wの製造効率が向上するので好ましい。
【0044】
本形態では、第一照射領域S1は、第一ビード61のうち、交差方向D2について第二ビード62が形成される側縁から略二分の一の領域とされている。換言すると、第一照射領域S1は、第一ビード61の頂点付近から、第二ビード62が形成される側縁にわたる領域とされている。
【0045】
交差方向D2について、第二照射領域S2の幅寸法は、照射領域Sの幅寸法から第一照射領域S1に幅寸法を引いたものとなっている。本形態においては、第二照射領域S2の幅寸法と、第一照射領域S1の幅寸法と略同じ構成となっている。
【0046】
1-3.付加製造方法
次に、付加製造装置1による付加製造方法、具体的に、基材Bの表面に複数のビード60を形成する肉盛加工について、
図1~
図4を参照して説明する。
【0047】
図1に示すように、モータM1が回転されることにより、ビーム照射装置20と基材Bとが相対的に走査方向D1に移動する。ビーム照射装置20からビームBMが基材Bの表面に照射される。これにより、基材Bの表面のうちビームBMが照射された照射領域Sにおいて、基材Bの表面が溶融する。これにより基材Bの表面に、基材Bの一部が溶融した溶融池(図示せず)が形成される。ビームBMの強度は、照射領域S内において略均一に設定されている。ビームBMの強度プロファイルは、ガウス分布形、またはトップハット形でもよい。
【0048】
噴射ノズル14から粉末材料PAが照射領域Sに噴射される。照射領域Sにおいて粉末材料PAは溶融池に落下し、溶融する。これにより溶融池には、基材Bの成分と、粉末材料PAの成分とが混ざった状態となる。
【0049】
モータM1が回転されることにより、ビーム照射装置20と基材Bとが相対的に走査方向D1について移動する。すると、基材Bの表面のうちビームBMが照射された照射領域Sが、走査方向D1についてずれる。これにより、照射領域Sから外れることになった溶融池の温度が低下し固化する。この結果、走査方向D1に沿って延在する第一ビード61が形成される。第一ビード61は、基材Bの表面から突出して形成されている。第一ビード61の、走査方向D1と直交する平面における断面形状は略半円形状をなしている。
【0050】
また、ビーム照射装置20と基材Bとが相対的に走査方向D1について移動することにより基材Bの表面に新たに形成された照射領域Sにおいては、上記と同様に、基材Bの表面が溶融し、新たに溶融池が形成され、溶融池内に噴射された粉末材料PAが溶融する。
【0051】
上記のように、モータM1が所定量回転することにより、基材Bの表面に、走査方向D1について所定長さの第一ビード61が形成される。
【0052】
モータM2が回転されることにより、交差方向D2について基材Bが軸送りされる。これにより、照射領域Sが、交差方向D2について所定量ずれる。本形態では、照射領域Sは第一ビード61の幅寸法の略二分の一だけずれる(
図2参照)。
【0053】
その後、モータM1が回転されることにより、ビーム照射装置20と基材Bとが走査方向D1について相対的に移動する。
【0054】
この状態においては、
図3に示すように、ビームBMの照射領域Sは、交差方向D2について第一ビード61の幅寸法の略二分の一の領域である第一照射領域S1と、基材Bの表面のうち交差方向D2について第一照射領域S1と隣接する第二照射領域S2と、を備える。
【0055】
ビーム照射装置20と基材Bとが走査方向D1について相対的に移動したときに、ビーム照射装置20から出射されるビームBMの強度分布が、第一照射領域S1と第二照射領域S2とで最大値が異なる強度に変更される。
図4に示すように、第一照射領域S1におけるビームBMの強度の最大値は、第二照射領域S2におけるビームBMの最大値よりも大きい。
【0056】
第一照射領域S1においてビームBMの強度が最大値となるのは、第一ビード61の基材Bからの突出高さ寸法が最大となる頂点付近に設定されている。第一ビード61の頂点付近は、他の部分に比べて第一ビード61が厚肉となっている。このため、第一ビード61が再溶融するために必要な熱量は他の部分に比べて多い。第一ビード61の基材Bからの突出高さ寸法が小さくなるにしたがって、第1照射領域におけるビームBMの強度は小さくなるように設定されている。
【0057】
第二照射領域S2においては、ビームBMの強度は、交差方向D2について略均一になっている。すなわち、第一ビード61と基材Bの表面との境界部分から、交差方向D2について第一ビード61と反対側の端部に至るまで、第一ビード61の強度は交差方向D2について略均一になっている。第二照射領域S2においては、基材Bの表面が溶融して適切な基材溶融池72が形成されるために必要な熱量が供給されるように、ビームBMの強度が設定されている。
【0058】
上記の構成により、第一照射領域S1においては第一ビード61が適切に再溶融してビード溶融池71が形成され、第二照射領域S2においては基材Bの表面が適切に溶融して基材溶融池72が形成される。
【0059】
噴射ノズル14から粉末材料PAが照射領域Sに噴射される。照射領域Sにおいて粉末材料PAはビード溶融池71および基材溶融池72に供給され、溶融する。ビード溶融池71および基材溶融池72はそれぞれ適切に形成されているので、ビード溶融池71および基材溶融池72に供給された粉末材料PAは均一に溶融する。
【0060】
モータM1が回転されることにより、ビーム照射装置20と基材Bとが相対的に走査方向D1について移動する。すると、基材Bの表面のうちビームBMが照射された照射領域Sが、走査方向D1にずれる。これにより、照射領域Sから外れることになったビード溶融池71および基材溶融池72の温度が低下し固化する。この結果、走査方向D1に沿っての延在する第二ビード62が、交差方向D2について均一に形成される。
【0061】
第二ビード62は、交差方向D2について第一ビード61に隣接しているとともに、第一ビード61と接合している。
【0062】
上記のようにモータM1が所定量回転することにより、基材Bの表面に、走査方向D1について所定長さの第二ビード62が形成される。
【0063】
モータM2が回転されることにより、交差方向D2について基材Bが軸送りされる。これにより、照射領域Sが、交差方向D2について所定量ずれる。以後、上記の工程が繰り返されることにより、走査方向D1に延びるとともに交差方向D2に隣接する複数のビード60が形成される。この結果、複数のビード60により基材Bの表面に、走査方向D1および交差方向D2に均一に広がる造形物Wが形成される。ただし、モータM1の回転と、モータM2の回転による軸送りが同期制御される構成としてもよい。
【0064】
1-4.作用効果の説明
続いて、本形態の作用効果について説明する。本形態においては、基材Bを構成する材料として、例えば鉄、炭素鋼(S45C)が用いられる。また、本形態においては、第一ビード61を構成する材料として、硬質粉末材料PA1としての炭化タングステンと、結合粉末材料PA2としてのコバルトが用いられる。
【0065】
本形態において基材Bを構成する材料として例示される鉄の融点は1538℃であり、炭素鋼(S45C)の融点は約1535℃である。一方、本形態においては粉末材料PAを構成する材料として例示される炭化タングステンの融点は2870℃であり、コバルトの融点は1495℃である。
【0066】
仮に、第一照射領域S1のビームBMの強度と第二照射領域S2のビームBMの強度とを同一に設定し、且つ、基材Bの融点に適合するように設定すると、基材Bの表面には適切な基材溶融池72が形成されると考えられる。しかし、第一ビード61においては、コバルトは再溶融するが、炭化タングステンは、コバルトが溶融したビード溶融池71の中で溶け残った状態になってしまうおそれがある。すると、第一ビード61の表面に形成されたビード溶融池71が不均一な状態になる。この結果、適切に形成された基材溶融池72が固化するとともに、不均一に形成されたビード溶融池71が固化することにより形成された第二ビード62は、不均一な状態になるおそれがある。
【0067】
一方、仮に、第一照射領域S1のビームBMの強度と第二照射領域S2のビームBMの強度とを同一に設定し、且つ、第一ビード61の融点に適合するように設定すると、第一ビード61の表面には適切なビード溶融池71が形成されると考えられる。しかし、基材Bは過度に溶融してしまい、基材Bの肉厚が不均一になることが懸念される。すると、強度等、基材Bの性能が設計値より低下するおそれがある。
【0068】
そこで、本形態においては、第一ビード61に設定された第一照射領域S1のビームBM強度の最大値は、基材Bに設定された第二照射領域S2のビームBM強度の最大値よりも大きく設定されている。
【0069】
さらに、第一照射領域S1において、第一ビード61の基材Bからの突出高さ寸法の大きさに対応して、ビームBMの強度が交差方向D2について小さくなるように設定されている。
【0070】
上記のように、本形態においては、第一照射領域S1に照射されるビームBMの強度の最大値と、第二照射領域S2に照射されるビームBMの強度の最大値とを異ならせることにより、第一照射領域S1を照射するビームBMの強度を第一ビード61の再溶融条件に適合させるとともに、第二照射領域S2を照射するビームBMの強度を基材Bの溶融条件に適合させることができる。これにより、第一照射領域S1の第一ビード61を適切に再溶融させるとともに、第二照射領域S2の基材Bを適切に溶融させることができるので、基材Bの表面に均質な造形物Wを形成することができる。
【0071】
本形態においては、ビーム照射装置20は、ビームBMを発生させるビーム源21と、ビーム源21が発生させたビームBMについて、走査方向D1と交差する方向について最大値が異なる強度分布に調整する調整手段と、を備える。この調整手段により、ビーム源21が発生させたビームBMの強度分布を、走査方向D1と交差する方向について最大値が異なるようにすることができる。
【0072】
本形態においては、調整手段は回折格子42である。回折格子42という簡易な手法により、ビームBMの強度分布を、走査方向D1と交差する方向について最大値が異なるようにすることができる。
【0073】
1-5.実施形態1の別形態1
本形態においては、粉末材料PAのビーム吸収率が、基材Bのビーム吸収率と異なっていてもよく、例えば、粉末材料PAのビーム吸収率が、基材Bのビーム吸収率よりも低いものとしてもよい。
【0074】
上記の場合、仮に、第一照射領域S1のビームBMの強度と第二照射領域S2のビームBMの強度とを同一に設定し、且つ、基材Bのビーム吸収率に適合するように設定すると、基材Bの表面には適切な基材溶融池72が形成されると考えられる。しかし、第一ビード61においては、粉末材料PAのビーム吸収率は基材Bのビーム吸収率よりも低いので、ビームBMが十分に吸収されず、ビード溶融池71が部分的にしか形成されない状態になるおそれがある。すると、第一ビード61の表面に形成されたビード溶融池71が不均一な状態になる。この結果、適切に形成された基材溶融池72が固化するとともに、不均一に形成されたビード溶融池71が固化することにより形成された第二ビード62は、不均一な状態になるおそれがある。
【0075】
一方、仮に、第一照射領域S1のビームBMの強度と第二照射領域S2のビームBMの強度とを同一に設定し、且つ、第一ビード61のビーム吸収率に適合するように設定すると、第一ビード61の表面には適切なビード溶融池71が形成されると考えられる。しかし、基材Bは過度に溶融してしまい、基材Bの肉厚が不均一になることが懸念される。すると、強度等、基材Bの性能が設計値より低下するおそれがある。
【0076】
そこで、本形態においては、第一ビード61に設定された第一照射領域S1のビームBM強度の最大値は、ビームBM吸収率が大きな基材Bに設定された第二照射領域S2のビームBM強度の最大値よりも大きく設定されている。
【0077】
1-6.実施形態1の別形態2
また、本形態においては、粉末材料PAを構成する金属種の熱伝導率が、基材Bを構成する金属種の熱伝導率と異なっていてもよく、例えば、粉末材料PAを構成する金属種の熱伝導率が、基材Bを構成する金属種の熱伝導率よりも大きいものとしてもよい。
【0078】
上記の場合、仮に、第一照射領域S1のビームBMの強度と第二照射領域S2のビームBMの強度とを同一に設定し、且つ、基材Bの熱伝導率に適合するように設定すると、基材Bの表面には適切な基材溶融池72が形成されると考えられる。しかし、第一ビード61においては、粉末材料PAを構成する金属種の熱伝導率は基材Bを構成する金属種の熱伝導率よりも大きいため、熱が拡散して十分に温度が上昇せず、ビード溶融池71が部分的にしか形成されない状態になるおそれがある。すると、第一ビード61の表面に形成されたビード溶融池71が不均一な状態になる。この結果、適切に形成された基材溶融池72が固化するとともに、不均一に形成されたビード溶融池71が固化することにより形成された第二ビード62は、不均一な状態になるおそれがある。
【0079】
一方、仮に、第一照射領域S1のビームBMの強度と第二照射領域S2のビームBMの強度とを同一に設定し、且つ、第一ビード61の熱伝導率に適合するように設定すると、第一ビード61の表面には適切なビード溶融池71が形成されると考えられる。しかし、基材Bは過度に溶融してしまい、基材Bの肉厚が不均一になることが懸念される。すると、強度等、基材Bの性能が設計値より低下するおそれがある。
【0080】
そこで、本形態においては、熱伝導率が大きな第一ビード61に設定された第一照射領域S1のビームBM強度の最大値は、熱伝導率が小さな基材Bに設定された第二照射領域S2のビームBM強度の最大値よりも大きく設定されている。
【0081】
(実施形態2)
続いて、実施形態2について
図5を参照して説明する。本形態では、
図5に示すように、ビームBMの強度分布は、交差方向D2について、第一照射領域S1内で略均一であるとともに第二照射領域S2内で略均一である。また、第一照射領域S1におけるビームBM強度の最大値は、第二照射領域S2におけるビームBM強度の最大値よりも大きい。
【0082】
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0083】
本形態は、例えば、第一ビード61を再溶融させるための再溶融条件と、基材Bを溶融させるための溶融条件との差が、比較的に小さな場合に有効である。
【0084】
(実施形態3)
続いて、実施形態3について
図6~
図7を参照して説明する。
図6に示すように、本形態の付加製造装置1においては、ビームBMは、公知の反射鏡等により、サブビームBM1とサブビームBM2に分岐される。サブビームBM1は、分岐された後、公知の集光レンズを介して第一照射領域S1に照射される。サブビームBM2は、調整手段(コリメートレンズ41、回折格子42および集光レンズ43)により調整されて第二照射領域S2に照射される。
【0085】
図7に、照射領域Sを、基材Bの表面の法線方向から見た平面図を示す。サブビームBM1に照射される第一照射領域S1は円形状をなしている。サブビームBM2に照射される第二照射領域S2は長方形状をなしている。
図7において、第一照射領域S1の右半分と、第二照射領域S2の左端部寄りの領域の一部とは、重複している。第一照射領域S1と第二照射領域S2とが重複する領域においては、ビームBMの強度が、他の領域に比べて大きくなっている。ただし、サブビームBM1の第一照射領域S1の形状、およびサブビームBM2の第二照射領域S2の形状は任意であり、例えば、第一照射領域S1が長方形状をなして第二照射領域S2が円形状をなしてもよく、また、第一照射領域S1および第二照射領域S2がともに円形状でもよいし、第一照射領域S1および第二照射領域S2がともに四角形状でもよい。
【0086】
(実施形態4)
続いて、実施形態4について
図8~
図9を参照して説明する。
図8に示すように、本形態では、ビームBMは、3つのサブビームBM1,BM2,BM3に分岐される。
図9に示すように、各サブビームBM1,BM2,BM3は、反射鏡等の公知の調整手段により、第一照射領域S1を照射する2つのサブビームBM1,BM2の照射領域S11,S12が、走査方向D1に並ぶ配置に調整され、1つのサブビームBM3の第二照射領域S2が、走査方向D1に並ぶ2つのサブビームBM1,BM2について交差方向D2に並ぶ配置に調整される。2つのサブビームBM1,BM2の照射領域S11,S12が、第一照射領域S1に相当する。これにより、走査方向D1について、第一照射領域S1におけるビームBM強度の最大値が、第二照射領域S2におけるビームBM強度の最大値より大きくなるように設定される。
【0087】
ただし、サブビームの個数は、2つ、または4つ以上でもよい。また、複数のビーム源21から出射される複数のサブビームの照射領域Sを、反射鏡等の公知の調整手段により調整する構成としてもよい。
【0088】
本形態においては、ビームBMは、複数のサブビームBM1,BM2,BM3が組み合わされて形成され、調整手段は、複数のサブビームBM1,BM2,BM3の光路を調整することにより、ビームBMの強度分布を走査方向D1と交差する方向について異ならせる。複数のサブビームBM1,BM2,BM3を用いることにより、ビームBMの強度分布を走査方向D1と交差する方向について最大値が異なるようにすることができる。
【0089】
(実施形態5)
5-1.付加製造装置101の構成
続いて、実施形態5に係る付加製造装置101について
図10を参照して説明する。本形態に係る付加製造装置101は、粉末床溶融結合方式であってSLM方式を採用する。本例において、付加製造装置101は、層状に配置された粉末材料PBにビームBMを照射することを繰り返すことによって、造形物Wを成形する装置である。
【0090】
付加製造装置101は、
図10に示すように、チャンバ110、造形物支持装置120、粉末材料供給装置130、およびビーム照射装置140を備える。チャンバ110は、内部の空気を、例えばHe(ヘリウム)、N
2(窒素)やAr(アルゴン)等の不活性ガスに置換可能となるように構成されている。なお、チャンバ110は、内部を不活性ガスに置換するのではなく、減圧可能な構成としてもよい。
【0091】
造形物支持装置120は、チャンバ110の内部に設けられ、造形物Wを造形するための支持部材により構成される。造形物支持装置120は、支持部材として、造形用容器121、昇降テーブル122、およびベース123を備える。造形用容器121は、上側に開口部を有し、上下方向の軸線に平行な内壁面を有する。昇降テーブル122は、造形用容器121の内部にて内壁面に沿うように上下方向に移動可能に設けられる。ベース123は、昇降テーブル122の上面に着脱可能に取り付けられ、ベース123の上面が造形物Wを成形するための部位となる。つまり、ベース123は、上面に層状に粉末材料を配置すると共に、成形時に造形物Wを支持するための部材である。
【0092】
粉末材料供給装置130は、チャンバ110の内部であって、造形物支持装置120に隣接して設けられる。粉末材料供給装置130は、粉末収納容器131、供給テーブル132、およびリコータ133を備える。粉末収納容器131は、上側に開口部を有しており、粉末収納容器131の開口部の高さは、造形用容器121の開口部の高さと同一に設けられている。粉末収納容器131は、上下方向の軸線に平行な内壁面を有する。供給テーブル132は、粉末収納容器131の内部にて内壁面に沿うように上下方向に移動可能に設けられる。そして、粉末収納容器131内において、供給テーブル132の上側領域に、粉末材料PBが収納されている。
【0093】
リコータ133は、造形用容器121の開口部および粉末収納容器131の開口部の全領域に亘って、両開口部の上面に沿って往復移動可能に設けられている。リコータ133は、
図10の右から左に移動するときに、粉末収納容器131の開口部から盛り出ている粉末材料PBを、造形用容器121側に運搬する。さらに、リコータ133は、運搬した粉末材料PBをベース123の上面にて層状に配置する。
【0094】
ビーム照射装置140は、ベース123の上面に層状に配置された粉末材料PBの表面に、ビームBMを照射する。ビームBMは、上述したように、レーザビームおよび電子ビーム等である。ビーム照射装置140は、層状に配置された粉末材料PBにビームBMを照射することにより、粉末材料PBを粉末材料PBの融点以上の温度に加熱する。そうすると、粉末材料PBは、溶融し、その後凝固することで、一体化された層状の造形物Wが成形される。つまり、隣接する粉末材料PB同士は、溶融接合によって一体化される。
【0095】
また、ビーム照射装置140は、予め設定されたプログラムに基づいて、ビームBMの照射位置を移動させることができる。ビームBMの照射位置を移動することにより、所望の層状の造形物Wを成形することができる。
【0096】
5-2.付加製造方法
次に、付加製造装置101を用いた積層造形方法について、
図10~
図11を参照して説明する。
図10に示すように、まず、粉末材料供給装置130における供給テーブル132を下方に位置決めした状態で、粉末収納容器131内に粉末材料PBを収納させておく。
【0097】
続いて、粉末材料PBを、ベース123の上面に層状に配置させる。詳細には、以下のように行われる。供給テーブル132を上昇させて、所望量の粉末材料PBが粉末収納容器131の開口部から盛り出た状態とする。同時に、造形物支持装置120において、ベース123が昇降テーブル122の上面に取り付けられ、ベース123の上面が、造形用容器121の開口部より僅かに下方に位置するように、昇降テーブル122を位置決めする。さらに、リコータ133を粉末材料供給装置130側から造形物支持装置120側に向かって移動させる。これにより、粉末材料供給装置130内の粉末材料PBが、ベース123の上面に移動し、ベース123の上面において同一厚みの層状に配置される。
【0098】
続いて、ビーム照射装置140によりビームBMの照射を開始する。つまり、ビームBMは、所定のプログラムに基づいて走査方向D1に沿って走査される。そして、ビーム照射装置140は、粉末材料PBの融点以上の温度で粉末材料PBを加熱する。ビームBMの強度は、照射領域S内において略均一に設定されている。ビームBMの強度プロファイルは、ガウス分布形、またはトップハット形でもよい。
【0099】
ビーム照射装置140は、粉末材料PBの融点以上の温度で粉末材料PBを加熱する。つまり、ビームBMが照射された粉末材料PBは、溶融し、その後に凝固される。これにより、走査方向D1に延在する第一ビード61が形成される。
【0100】
交差方向D2について第一ビード61と隣接する領域においては、ビームBMが照射されていないので、粉末材料PBは粉末状態で存在している。
【0101】
続いて、所定のプログラムに基づいて、ビーム照射装置140が、交差方向D2について所定量ずれる。本形態では、照射領域Sは第一ビード61の幅寸法の略二分の一だけずれる。
【0102】
その後、所定のプログラムに基づいて、ビーム照射装置140と基材Bとが走査方向D1について相対的に移動する。
【0103】
この状態においては、
図11に示すように、ビームBMの照射領域Sは、交差方向D2について第一ビード61の幅寸法の略二分の一の領域である第一照射領域S1と、基材Bの表面のうち交差方向D2について第一照射領域S1と隣接する第二照射領域S2と、を備える。
【0104】
ビーム照射装置140と基材Bとが走査方向D1について相対的に移動したときに、ビーム照射装置140から出射されるビームBMの強度分布が、第一照射領域S1と第二照射領域S2とで最大値が異なる強度に変更される。ビームBMの強度分布は実施形態1と同様なので、重複する説明を省略する。
【0105】
上記の構成により、第一照射領域S1においては第一ビード61が適切に再溶融してビード溶融池171が形成され、第二照射領域S2においては粉末材料PBが適切に溶融して粉末溶融池172が形成される。
【0106】
所定のプログラムに基づいて、ビーム照射装置140が走査方向D1について移動する。すると、ビームBMが照射された照射領域Sが、走査方向D1にずれる。これにより、照射領域Sから外れることになったビード溶融池171および粉末溶融池172の温度が低下し固化する。この結果、走査方向D1に沿ってのびる第二ビード62が、交差方向D2について均一に形成される。
【0107】
第二ビード62は、交差方向D2について第一ビード61に隣接しているとともに、第一ビード61と接合している。
【0108】
所定のプログラムに基づいて、交差方向D2について照射装置が移動される。これにより、照射領域Sが、交差方向D2について所定量ずれる。以後、上記の工程が繰り返されることにより、走査方向D1に延びるとともに交差方向D2に隣接する複数のビードが形成される。この結果、複数のビードにより、走査方向D1および交差方向D2に均一に広がる造形物Wが形成される。
【0109】
5-3.作用効果の説明
続いて、本形態の作用効果について説明する。本形態においては、第一ビード61は粉末材料PBが溶融した後に固化して形成されるので、第一ビード61を構成する金属と、粉末材料PBを構成する金属とは同一である。しかし、第一ビード61は粉末材料PBが溶融した後に固化して形成されるので、中実な構造を有する。このため、中実な第一ビード61と、粉末材料PBとでは、ビームBMの吸収率、ビームBMの反射率、熱容量等が異なる。
【0110】
本形態では、第一ビード61のビームBMの吸収率が、粉末材料PBのビームBMの吸収率よりも低い場合について説明する。このような場合、仮に、第一照射領域S1のビームBMの強度と第二照射領域S2のビームBMの強度とを同一に設定し、且つ、粉末材料PBのビーム吸収率に適合するように設定すると、粉末材料PBの表面には適切な溶融池が形成されると考えられる。しかし、第一ビード61においてはレーザ光が十分に吸収されないため、溶融池が部分的にしか形成されない状態になるおそれがある。すると、第一ビード61の表面に形成された溶融池が不均一な状態になるため、この溶融池が固化することにより形成された第二ビード62も不均一な状態になるおそれがある。
【0111】
一方、仮に、第一照射領域S1のビームBMの強度と第二照射領域S2のビームBMの強度とを同一に設定し、且つ、第一ビード61のビーム吸収率に適合するように設定すると、第一ビード61の表面には適切な溶融池が形成されると考えられる。しかし、粉末材料PBは過度に溶融してしまい、さらに、粉末材料PBの下方に形成された造形物Wの肉厚が不均一になることが懸念される。すると、強度等、造形物Wの性能が設計値より低下するおそれがある。
【0112】
そこで、本形態においては、ビームBM吸収率が小さな第一ビード61に設定された第一照射領域S1のビームBM強度の最大値は、ビームBM吸収率が大きな粉末材料PBに設定された第二照射領域S2のビームBM強度の最大値よりも大きく設定されている。
【0113】
上記のように、本形態においては、第一照射領域S1に照射されるビームBMの強度の最大値と、第二照射領域S2に照射されるビームBMの強度の最大値とを異ならせることにより、第一照射領域S1を照射するビームBMの強度を第一ビード61の再溶融条件に適合させるとともに、第二照射領域S2を照射するビームBMの強度を粉末材料PBの溶融条件に適合させることができる。これにより、第一照射領域S1の第一ビード61を適切に再溶融させるとともに、第二照射領域S2の粉末材料PBを適切に溶融させることができるので、均質な造形物Wを形成することができる。
【0114】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【0115】
(1)
図12に示すように、ビームBMの強度分布は、交差方向D2について、第一照射領域S1内で略均一であるとともに第二照射領域S2内で略均一である構成とし、第一照射領域S1におけるビームBM強度の最大値が、第二照射領域S2におけるビームBM強度の最大値よりも小さい構成としてもよい。本形態は、例えば、LMD方式の付加製造装置において第一ビード61を構成する金属種の融点が、基材Bを構成する金属種の融点よりも低い場合に有効である。
【0116】
(2)LMD方式の付加製造装置において、粉末材料PAが銅を主成分として含み、基材Bが鉄または炭素鋼を主成分として含む構成としてもよい。銅のビーム吸収率は、鉄または炭素鋼のビーム吸収率よりも低いので、第一照射領域S1におけるビームBM強度の最大値を、第二照射領域S2におけるビームBM強度の最大値よりも大きくすることにより、鉄または炭素鋼を主成分とする基材Bの表面に、銅を主成分とする均一な造形物Wを形成することができる。
【0117】
(3)本発明は、LMD方式の付加製造装置において、粉末材料PAの熱容量と、基材Bの熱容量とが異なっている場合にも好適に適用できる。また、本発明は、粉末材料PAのビーム反射率と、基材Bのビーム反射率とが異なる場合にも好適に適用できる。
【0118】
(4)付加製造装置は、1つの回折格子42と、複数のビーム照射装置20を備える構成としてもよい。
【符号の説明】
【0119】
1,101:付加製造装置、 10、130:粉末材料供給装置、 20、140:ビーム照射装置、 60:ビード、 61:第一ビード、 62:第二ビード、 B:基材、 BM:ビーム、 BM1,BM2,BM3:サブビーム、 D1:走査方向、 D2:交差方向、 PA,PB:粉末材料、 S:照射領域、 S1:第一照射領域、 S2:第二照射領域