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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182217
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】車両の運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20231219BHJP
   B60W 50/08 20200101ALI20231219BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20231219BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20231219BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20231219BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20231219BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20231219BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20231219BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W50/08
B60W30/02
B60W60/00
G08G1/16 D
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095694
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀口 陽宣
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA25
3D232DA33
3D232DA72
3D232DA82
3D232DA84
3D232DA87
3D232DA90
3D232DB12
3D232DB13
3D232DC09
3D232DC10
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD03
3D232DD15
3D232EB04
3D232EC23
3D232EC34
3D232FF01
3D232GG01
3D241BA18
3D241BA51
3D241BB27
3D241BC01
3D241BC02
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CD12
3D241CE04
3D241CE05
3D241DA52Z
3D241DA58Z
3D241DB01Z
3D241DB02Z
3D241DB12Z
3D241DB20Z
3D241DB32Z
3D241DC18Z
3D241DC35Z
3D241DC42Z
3D241DC43Z
5H181AA01
5H181BB04
5H181CC04
5H181CC24
5H181FF04
5H181FF10
5H181FF22
5H181FF27
5H181FF32
5H181LL01
5H181LL04
5H181LL06
5H181LL09
5H181LL15
(57)【要約】
【課題】運転者が、過去に操舵オーバライドを行ったコーナと一致する状況での走行に際して、操舵オーバライドを不要とし、高い利便性を得ることができるようにする。
【解決手段】運転支援制御ユニット11は、運転支援制御部11aと記憶部11bとを備え、運転支援制御部11aは、コーナリング走行中における運転者のハンドル操作が操舵オーバライドと判定された場合、コーナの曲率データを含む各種状況データを時系列で取得して記憶部11bに今回のコーナリングデータとして記憶させる。又、現在自車両Mがコーナに進入或いはコーナリング走行中と判定した場合、このコーナの曲率と一致する曲率データが記憶部11bに記憶されている過去の状況データに存在するか否かを調べ、一致する曲率データが存在する場合、この一致する曲率データを有する状況データで指示目標操舵角を補正して補正後の目標操舵角を今回の指示目標操舵角として設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得部と、
前記自車両の状態を検出する自車両状態検出部と、
各種データを記憶する記憶部と、
前記自車両前方に設定した目標進行路に沿って該自車両を走行させる指示目標操舵角を設定し、該指示目標操舵角に従った操舵制御を行う運転支援制御部と
を備える車両の運転支援装置において、
前記運転支援制御部は、
コーナリング走行中における運転者のハンドル操作が操舵オーバライドか否かを調べる操舵オーバライド判定部と、
前記操舵オーバライド判定部で操舵オーバライドと判定した場合、コーナの曲率データを含む各種状況データを時系列で取得して、前記記憶部に今回のコーナリングデータとして記憶させる状況データ取得部と、
前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報或いは前記目標進行路に基づき、現在の該自車両がコーナに進入或いはコーナリング走行中か否かを調べるコーナリング動作判定部と、
前記コーナリング動作判定部で現在の前記自車両がコーナに進入或いはコーナリング走行中と判定した場合、前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報或いは前記目標進行路に基づいて求めたコーナの曲率と一致する曲率データが前記記憶部に記憶されている前記状況データに存在するか否かを調べる曲率データ一致判定部と、
前記曲率データ一致判定部で一致する曲率データが前記記憶部に記憶されている前記状況データに存在すると判定した場合、一致する該曲率データを有する過去の前記状況データで前記指示目標操舵角を補正して補正後の目標操舵角を設定する目標操舵角設定部と、
前記目標操舵角設定部で補正後の前記標操舵角が設定された場合、該目標操舵角を今回の前記指示目標操舵角として設定する操舵制御部と
を備えることを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項2】
前記状況データ取得部で取得する前記状況データには、前記自車両に影響を及ぼす外部環境要素と該自車両に関わる内部環境要素とが含まれており、
前記目標操舵角設定部は、
前記内部環境要素と前記外部環境要素とを検出する要素検出部と、
前記状況データの前記内部環境要素及び前記外部環境要素と前記要素検出部で検出した現在の前記外部環境要素及び前記内部環境要素とを比較する環境要素比較部と、
前記環境要素比較部で比較した結果に応じた操舵オーバライド補正量を算出し、該操舵オーバライド補正量で前記指示目標操舵角を補正して補正後の前記目標操舵角を設定する補正後目標操舵角設定部と
を備えることを特徴とする請求項1記載の車両の運転支援装置。
【請求項3】
前記運転支援制御部は、前記自車両の速度を制御する走行制御部を更に有し、
前記目標操舵角設定部は、前記指示目標操舵角に基づいて算出したヨーレートと前記補正後目標操舵角に基づいて算出したヨーレートとの比率が予め設定したしきい値を超えている場合、現在の前記自車両の車速を減速させる減速指示を前記走行制御部に出力する減速指示部を
更に備えることを特徴とする請求項2記載の車両の運転支援装置。
【請求項4】
前記減速指示部は、前記比率が前記しきい値となる目標車速を設定し、又前記比率と前記しきい値との差分に基づいて減速度を算出し、該減速度で現在の前記自車両の車速を前記目標車速に到達するまでの前記減速指示を前記走行制御部に出力する
ことを特徴とする請求項3記載の車両の運転支援装置。
【請求項5】
前記しきい値は、前記自車両がコーナリング走行時において走行安定が損なわれないレベルの上限値に設定されている
ことを特徴とする請求項3或いは4記載の車両の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動操舵制御で走行中に運転者が操舵オーバライド操作を行った際の各種状況データを記憶し、同一の状況での走行に際しては、記憶されている状況データに基づいて指示目標操舵角を補正する車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の負担を軽減し、快適且つ安全に運転できるようにする運転支援装置が種々提案され、一部は既に実用化されている。この種の運転支援は、追従車間距離制御(ACC:Adaptive Cruise Control)機能と車線逸脱抑制機能付き車線維持(ALKB:Active Lane Keep Bouncing)制御機能とを備えることにより、先行車との車間を維持しつつ走行車線の中央に設定した目標進行路に沿って自車両を自動走行させることができる。
【0003】
又、自動運転支援においては、自車両に搭載されているカーナビゲーションシステムを利用して、運転者が目的地を入力すると、カーナビゲーションシステムがGNSS(Global Navigation Satellite System)衛星等の測位衛星から受信した位置情報に基づいて自車両の現在位置を検出し、道路地図情報とのマッチングにより自車位置から目的地までの走行ルートを構築する。そして、構築した走行ルートの中で自動運転が可能な区間では、自動運転支援装置が、自車両の進むべき目標進行路を走行車線の中央に設定し、運転者に代わって自車両を目標進行路に沿って自律走行させる(ナビ連動ルート走行)。
【0004】
更に、運転支援装置が、運転者による操舵介入(操舵オーバライド)を検出した場合、継続している運転支援が解除され、自車両の運転操作が運転者に引き継がれる。これに対し、例えば、特許文献1(特開2012-51441公報)には、システムが運転者の操舵オーバライドを検出した場合、自動運転を中止するが、操舵オーバライドが検出されなくなった場合、自動運転へ復帰させる技術が開示されている。
【0005】
更に、特許文献1には、自動運転の目標進行路を生成するに際し、データベースに蓄積されている過去の操舵オーバライド時の情報を加味して目標進行路を生成する技術も開示されている。すなわち、同文献では、過去の操舵オーバライド情報として、周辺環境情報や自車情報をデータベースに蓄積し、一致する条件(類似のシーン)が検出された場合、その一致する条件の周辺環境情報と自車情報から、目標進行路に対する補正値を算出し、この目標進行路を当該補正値で補正し、新たな目標進路を生成するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-51441公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した文献に開示されているオーバライドは、コーナを走行中においては運転者がブレーキ操作を行うことによるブレーキオーバライドである。従って、その後の一致する条件における目標進行路の補正値は、コーナ進入のシーンでの速度の変化と目標進行路における速度の変化とを比較し、その速度の変化の違いから速度の補正量を算出しているに過ぎない。
【0008】
そのため、コーナを走行中に操舵オーバライドが検出された場合には、その後、一致する条件が検出されても、自動操舵制御において運転者のハンドル操作による操舵角の変化が目標進行路に反映されず、一致する条件のコーナを走行するに際し、運転者は操舵オーバライドを毎回繰り返し行うこととなり、不便を強いることになる。
【0009】
本発明は、運転者が、過去に操舵オーバライドを行ったコーナと一致する状況での走行に際しては、運転者による操舵オーバライドを不要とし、高い利便性を得ることのできる車両の運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、自車両前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得部と、前記自車両の状態を検出する自車両状態検出部と、各種データを記憶する記憶部と、前記自車両前方に設定した目標進行路に沿って該自車両を走行させる指示目標操舵角を設定し、該指示目標操舵角に従った操舵制御を行う運転支援制御部とを備える車両の運転支援装置において、前記運転支援制御部は、コーナリング走行中における運転者のハンドル操作が操舵オーバライドか否かを調べる操舵オーバライド判定部と、前記操舵オーバライド判定部で操舵オーバライドと判定した場合、コーナの曲率データを含む各種状況データを時系列で取得して、前記記憶部に今回のコーナリングデータとして記憶させる状況データ取得部と、前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報或いは前記目標進行路に基づき、現在の該自車両がコーナに進入或いはコーナリング走行中か否かを調べるコーナリング動作判定部と、前記コーナリング動作判定部で現在の前記自車両がコーナに進入或いはコーナリング走行中と判定した場合、前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報或いは前記目標進行路に基づいて求めたコーナの曲率と一致する曲率データが前記記憶部に記憶されている前記状況データに存在するか否かを調べる曲率データ一致判定部と、前記曲率データ一致判定部で一致する曲率データが前記記憶部に記憶されている前記状況データに存在すると判定した場合、一致する該曲率データを有する過去の前記状況データで前記指示目標操舵角を補正して補正後の目標操舵角を設定する目標操舵角設定部と、前記目標操舵角設定部で補正後の前記目標操舵角が設定された場合、該目標操舵角を今回の前記指示目標操舵角として設定する操舵制御部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コーナリング走行中における運転者のハンドル操作が操舵オーバライドと判定された場合、コーナの曲率データを含む各種状況データを時系列で取得して記憶部に今回のコーナリングデータとして記憶させ、又現在自車両がコーナに進入或いはコーナリング走行中と判定した場合、このコーナの曲率と一致する曲率データが記憶部に記憶されている過去の状況データに存在するか否かを調べ、一致する曲率データが存在する場合、この一致する曲率データを有する状況データで指示目標操舵角を補正して補正後の目標操舵角を今回の指示目標操舵角として設定するようにしたので、運転者が、過去に操舵オーバライドを行ったコーナと一致する状況での走行に際しては、運転者による操舵オーバライドが不要となり、高い利便性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】運転支援装置の概略構成図
図2】自動操舵制御ルーチンを示すフローチャート
図3】操舵オーバライド時状況データ取得ルーチンを示すフローチャート
図4】補正後目標操舵角設定サブルーチンを示すフローチャート
図5】コーナリング走行時における目標操舵角を操舵角補正量で補正した状態を示すタイムチャート
図6】減速度設定テーブルの概念図
図7】コーナリング走行時における基本の目標操舵角と補正後目標操舵角とを示す俯瞰図
図8図7において対向車とすれ違う際の基本の目標操舵角と補正後目標操舵角とを示す俯瞰図
図9】連続するカーブをコーナリング走行する際における基本の目標操舵角と補正後目標操舵角とを示す俯瞰図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。尚、本実施形態では、便宜的に走行車線は左側通行が規定されている道路で説明する。従って、走行車線が右側通行に規定されている道路では、左右を逆に読み替えて適用する。
【0014】
図1において、自車両M(図7図9参照)に搭載されている運転支援装置1は、運転支援制御ユニット11を有している。更に、この運転支援制御ユニット11は、自動運転時における車速制御、操舵制御等の走行に必要な運転支援を実行する運転支援制御部11aと、運転者が操舵オーバライドを行った際の自車両Mの走行状態を示す走行データ、及び周辺環境データ等の各種データを記憶する記憶部11bとを備えている。
【0015】
尚、この運転支援制御部11a、及び後述する走行環境情報取得部としてのカメラユニット21に設けられている前方走行環境認識部21dは、CPU、RAM、ROM、書き換え可能な不揮発性メモリ(フラッシュメモリ又はEEPROM)、及び周辺機器を備えるマイクロコントローラで構成されている。ROMにはCPUにおいて各処理を実行させるために必要なプログラムや固定データ等が記憶されている。又、RAMはCPUのワークエリアとして提供され、CPUでの各種データが一時記憶される。尚、CPUはMPU(Microprocessor)、プロセッサとも呼ばれている。又、CPUに代えてGPU(Graphics Processing Unit)やGSP(Graph Streaming Processor)を用いても良い。或いはCPUとGPUとGSPとを選択的に組み合わせて用いても良い。
【0016】
又、運転支援制御ユニット11の入力側に、自動運転を行う際に必要とするパラメータを取得するシステム・センサ類が接続されている。このシステム・センサ類としては、カメラユニット21、カーナビゲーションシステム22、及び、車速センサ23、操舵角センサ24、ヨーレートセンサ25、操舵トルクセンサ26等があり、この中で、各センサ23~26が、本発明の自車両Mの状態を検出する自車両状態検出部に対応している。
【0017】
ここで、カメラユニット21は、自車両Mの車室内前部の上部中央に固定されており、車幅方向の中央(車幅中央)を挟んで左右対称な位置に配設されているメインカメラ21a及びサブカメラ21bからなる車載カメラ(ステレオカメラ)と、画像処理ユニット(IPU)21c、及び前方走行環境認識部21dとを有している。
【0018】
このカメラユニット21は、メインカメラ21aで基準画像データを撮像し、サブカメラ21bで比較画像データを撮像する。そして、この両画像データをIPU21cにて所定に画像処理する。前方走行環境認識部21dは、IPU21cで画像処理された基準画像データと比較画像データとを読込み、その視差に基づいて両画像中の同一対象物の距離情報データ(自車両Mから対象物までの距離)を、三角測量の原理を利用して算出する。
【0019】
次いで、この距離情報に対して周知のグルーピング処理を行い、グルーピング処理した距離情報を予め記憶しておいた三次元的な道路形状データや立体物データ等と比較(パターンマッチング)する。これにより、コーナの曲率データ、交差点等の道路形状データ、車線の左右を区画する区間線データや対向車を含む移動体データ等の前方走行環境情報を抽出する。
【0020】
又、カーナビゲーションシステム22は、測位電波受信部(図示せず)を有している。カーナビゲーションシステム22は、この測位電波受信部で受信したGNSS等の測位衛星からの位置信号に基づいて、自車両Mの位置情報(緯度、経度、高度等の座標)を取得する。そして、カーナビゲーションシステム22は、運転者が設定した目的地までの走行ルートを高精度道路地図データベース22aに格納されている、高精度な道路地図情報(ダイナミックマップ)上に表示させると共に、取得した車両位置の座標上に自車両Mの現在位置を重ねる。この道路地図情報としては、自車両Mを自動運転させる際に必要とする道路や構造物の形状や車線情報等がある。
【0021】
又、車速センサ23は自車両Mの車速(自車速)を、4輪に設けた車輪速センサで検出した車輪速の平均値などから検出する。操舵角センサ24は操舵輪の操舵角を検出する。ヨーレートセンサ25は自車両Mに作用するヨーレートを検出する。操舵トルクセンサ26は運転者のハンドル操作によって発生する操舵トルクを検出する。
【0022】
一方、この運転支援制御ユニット11の出力側に、ブレーキ駆動部31、電動パワステモータ駆動部(EPS駆動部)32、加減速制御部33、運転者に注意を促す情報を報知するモニタ、スピーカ等の報知装置34等が接続されている。
【0023】
ここで、ブレーキ駆動部31は、ブレーキアクチュエータ(図示せず)を駆動させ、各車輪に設けたブレーキキャリパのホイールシリンダに供給するブレーキ液圧を調整することで、自車両Mを強制ブレーキにより所定に減速させる。EPS駆動部32は、EPSモータを駆動して走行時における自車両Mの操舵制御を行う。又、加減速制御部33は、駆動源(エンジンや電動モータ等)の駆動力を制御し(エンジンブレーキや回生ブレーキ)、ブレーキ駆動部31との協調制御により走行時における自車速を目標車速に収束させる。
【0024】
ところで、自動運転においては、基本的に目標進行路を走行車線の中央に設定している。従って、運転支援制御部11aでは、自動運転によりコーナリング走行する際においても左右を区画線で区画された走行車線の中央に目標進行路が設定される。そのため、運転支援制御部11aではEPS駆動部32に対し、目標進行路をトレースする指示目標操舵角(図7図9参照)に対応する駆動信号を送信する。
【0025】
しかし、運転者の操舵感覚によっては、コーナリング走行において、自車両Mを車線幅の中央に沿って走行させることに違和感を覚える場合がある。すなわち、図7に破線で示すように、コーナリング走行に際し、自車両Mを走行車線の内側(イン)を好んで走行させようとする運転者においては、自己のイメージと異なる軌道を自車両Mが走行しているため、毎回、操舵オーバライドを強いることになる。
【0026】
そのため、運転支援制御部11aでは、コーナリング走行時における運転者の好みを学習し、同様の環境で且つ同様の道路形状におけるコーナリング走行に際しては、予め記憶されている基本の目標進行路を運転者の好む進行路に学習補正して、新たな目標進行路をトレースする指示目標操舵角を設定するようにしている。
【0027】
運転支援制御部11aにおいて実行するコーナリング走行時の学習補正は、図2に示す自動操舵制御ルーチンにおいて処理される。
【0028】
このルーチンでは、先ず、ステップS1で、自車両Mが自動運転中か否かを調べる。自動運転か否かは、例えば、自動運転スイッチ(図示せず)がONで、且つ、カーナビゲーションシステム22で構築した現在の走行ルートが自動運転の運転条件(自動運転区間を走行中など)を満足している場合、自動運転中と判定し、ステップS2へ進む。又、自動運転スイッチがOFF、或いは現在の走行ルートが自動運転区間ではない場合は、ルーチンを抜ける。
【0029】
ステップS2では、自車両Mがコーナリング動作している(コーナ進入、或いはコーナリング走行中)か否かを調べる。自車両Mがコーナリング動作しているか否かは、例えば、走行ルートから設定した自車両M前方における走行ルートの道路曲率、或いはカメラユニット21で取得した自車両M前方の道路形状(道路曲率)から設定した道路曲率、或いは操舵角センサ24で検出した操舵角の変化に基づいて判定する。尚、このステップS2での処理が、本発明のコーナリング動作判定部に対応している。
【0030】
そして、運転支援制御部11aは、自車両Mがコーナリング動作していると判定した場合、ステップS3へ進む。又、自車両Mがコーナリング動作をしていないと判定した場合は、ステップS9へジャンプする。
【0031】
ステップS3へ進むと、運転者の意図的なハンドル操作による操舵オーバライドの有無を調べる。運転者が操舵オーバライドを行っているか否かは、例えば、操舵トルクセンサ26で検出した操舵トルクと、予め設定されているオーバライド判定しきい値とを比較して調べる。尚、このステップS3での処理が、本発明の操舵オーバライド判定部に対応している。
【0032】
そして、この操舵トルクが操舵トルクしきい値未満の場合、運転支援制御部11aは、運転者は意図的なハンドル操作を行っていないと判定し、ステップS4へ進む。又、操舵トルクが操舵トルクしきい値以上の場合、運転支援制御部11aは、運転者がハンドルを意図的に操作した操舵オーバライドであると判定し、ステップS5へ分岐する。
【0033】
ステップS5では、操舵オーバライドが、運転者が障害物を回避しようとするなどの過渡的なハンドル操作によるものか、コーナリング走行時における継続的なハンドル操作によるものかを調べる。ハンドル操作が過渡的か否かは、例えば、操舵トルクセンサ26で検出した操舵トルクが操舵トルクしきい値以上を示す継続時間に基づいて判定する。
【0034】
そして、この継続時間が判定時間(例えば、0.5~1.0[sec])以上の場合、継続的な操舵オーバライドと判定し、ステップS6へ進む。又、継続時間が判定時間未満の場合、過渡的な操舵オーバライドと判定し、ステップS7へ分岐する。
【0035】
ステップS6へ進むと、操舵オーバライドデータ取得フラグFovrをセットして(Fovr←1)、ステップS9へジャンプする。又、ステップS7へ分岐すると、自動運転を解除してルーチンを抜ける。尚、自動運転を解除するに際しては、報知装置34から運転者に対し、予め自動運転を解除して手動運転に遷移する旨を報知する。
【0036】
上述した操舵オーバライドデータ取得フラグFovrの値は、図3に示す操舵オーバライド時状況データ取得ルーチンにおいて読込まれる。
【0037】
ここで、図2に示す自動操舵制御ルーチンの説明を中断し、図3のルーチンにおける処理について説明する。尚、このルーチンでの処理が、本発明の状況データ取得部に対応している。
【0038】
このルーチンでは、先ず、ステップS11で操舵オーバライドデータ取得フラグFovrの値を参照する。そして、Fovr=0の過渡的オーバライドの場合は、ルーチンを抜ける。又、Fovr=1の継続的操舵オーバライドの場合、ステップS12へ進み、運転支援制御部11aで設定したコーナリング走行時の基本の目標進行路をトレースする目標操舵角(指示目標操舵角)と操舵角センサ24で検出した実際の操舵角(実操舵角)との差分を演算周期毎に算出する。これにより、操舵オーバライド時における運転者の操舵パターンが記録される。
【0039】
次いで、ステップS13へ進み、現在の各種状況データを取得する。取得する状況データは、自動運転要素、オーバライド要素、外部環境要素、内部環境要素等である。自動運転要素としてのデータは、車速センサ23で検出した自車速、カーナビゲーションシステム22で読込んだ道路地図情報或いはカメラユニット21で抽出した前方走行環境情報から取得したコーナの曲率データ、基本の目標進行路に対する自車両Mの横位置データ、対向車の有無等である。
【0040】
オーバライド要素としては、操舵角センサ24で検出した実操舵角がある。又、外部環境要素は自車両Mに影響を及ぼす要素であり、路面μ、天候情報等がある。ここで、路面μ、天候情報は、カーナビゲーションシステム22を通じて、車々間通信、路車間通信、情報配信通信等の通信にて自車両Mの外部装置から取得する。或いは、カメラユニット21の前方走行環境情報から推定する。
【0041】
又、内部環境要素は自車両Mに関わる要素であり、乗員数、積載重量(ばね上荷重)、タイヤの空気圧、タイヤ状態等が含まれる。ここで、乗員数は、例えばカーナビゲーションシステム22に装備されているハンズフリーマイクで集音した音声を分析して解析する。積載重量は、例えば発進時における車速センサで検出した車速の微分値(加速度)と駆動源(エンジンや電動モータ)の出力の変化とに基づいて推定する。
【0042】
又、タイヤの空気圧は空気圧が低下しているか否かを調べるもので、一方、タイヤ状態はタイヤが履き替えられている状態やタイヤの摩耗状態を調べるものである。これらは、例えば、各車輪速センサで検出した各タイヤの回転数と走行距離から一回転当たりの移動距離を算出し、予め設定されている基準移動距離と比較することで推定する。
【0043】
その後、ステップS14へ進み、運転支援制御部11aは、運転者による操舵オーバライドが終了したか否かを調べる。操舵オーバライドの終了は、操舵トルクセンサ26で検出した操舵トルクが操舵トルクしきい値未満となったか否かで判定する。そして、操舵トルクが操舵トルクしきい値以上の場合は、操舵オーバライドが継続していると判定し、ステップS12へ戻る。又、操舵トルクが操舵トルクしきい値未満の場合、操舵オーバライド終了と判定し、ステップS15へ進む。
【0044】
ステップS15では、今回の指示目標操舵角及び実操舵角との差分を含む各種状況データを時系列で取得し、不揮発性メモリの所定アドレスに、今回のコーナリングデータとして記憶させて、ステップS16へ進む。ステップS16では操舵オーバライドデータ取得フラグFovrをクリアさせてルーチンを抜ける。
【0045】
ここで、説明を図2のルーチンに戻す。図2のステップS3からステップS4へ進むと、進入しようとし、或いは既に進入しているコーナの曲率と一致するコーナの曲率データを含む過去の状況データが不揮発性メモリに記憶されているか否かを調べる。このコーナの曲率データは道路地図情報から取得し、或いはコーナの曲率をカメラユニットの前方走行環境情報に基づいて算出する。又、この一致度は完全である必要は無く、予め設定した±許容値に収まっていれば良い。尚、このステップS4での処理が、本発明の曲率データ一致判定部に対応している。
【0046】
そして、一致する曲率データが無い場合はステップS9へジャンプする。又、過去に一致する曲率データがある場合は、ステップS8へ進み、一致する曲率データを有する過去の状況データに基づいて、コーナリング走行時における補正後の目標操舵角(補正後目標操舵角)を設定する。この補正後目標操舵角は、図4に示す補正後目標操舵角設定サブルーチンにおいて設定される。尚、この図4での処理が、本発明の目標操舵角設定部に対応している。
【0047】
このサブルーチンでは、先ず、ステップS21で、一致するコーナの曲率データを含む状況データを不揮発性メモリから読込む。次いで、ステップS22へ進み、現在の自車両Mの内部環境要素(乗員数、積載重量、タイヤの空気圧、タイヤ状態等)と外部環境要素(路面μ、天候情報等)を検出する。この内部環境要素と外部環境要素とを検出する手法については既述したので説明を省略する。尚、このステップS22での処理が、本発明の要素検出部に対応している。
【0048】
その後、ステップS23へ進み、過去の状況データに含まれている内部環境要素及び外部環境要素と、今回検出した内部環境要素と外部環境要素とを比較する。そして、比較した環境要素が一致している場合は、ステップS24へ分岐する。内部環境要素と外部環境要素との少なくとも一方が不一致の場合は、ステップS25へ進む。尚、このステップS23での処理が、本発明の環境要素比較部に対応している。
【0049】
ステップS24へ進むと、不揮発性メモリから読込んだ状況データの自動運転要素とオーバライド要素に基づいて、コーナに設定されている指示目標操舵角を補正して新たな今回の目標操舵角(補正後目標操舵角)を設定し(図7図9参照)、図2のステップS9へ進む。
【0050】
一方、ステップS25へ進むと、今回の内部環境要素及び外部環境要素と、状況データの内部環境要素及び外部環境要素とを比較し、過去の状況データに記憶されている自動運転要素とオーバライド要素とに基づいて目標操舵角をそのまま補正した場合の影響度を算出する。
【0051】
例えば、外部環境要素では、今回の天候が雨天或いは積雪であり、路面μが状況データの路面μに比し低い場合、状況データの路面μをそのまま反映させてコーナリング走行させると自車両Mの挙動が不安定化する可能性、すなわち影響度が高くなる。又、内部環境要素では、今回の積載重量が状況データの積載重量よりも増加している場合、状況データの操舵角で目標操舵角をそのまま補正した場合、コーナを曲がりきれない操舵角(操舵オーバライド)不足となる可能性、すなわち、影響度が高くなる。
【0052】
次いで、ステップS26へ進み、上述した影響度に応じた操舵オーバライド補正量を算出する。例えば、今回の路面μが状況データの路面μよりも低い場合、今回読込んだオーバライド要素の実操舵角(運転者のハンドル操作によるオーバライド操舵角)を、予め実験などから求めた補正量で補正して操舵オーバライド補正量を設定する。尚、この場合、目標操舵角まで緩やかな角速度で操舵させるようにしても良い。又、例えば、今回の積載重量が状況データの積載重量よりも増加している場合、その増加分に応じて予め実験などから求めた、オーバライド量を補正する補正量(操舵オーバライド補正量)を設定する。
【0053】
その結果、図5に実線で示す指示目標操舵角が、一点鎖線で示すオーバライド要素に含まれている操舵角(オーバライド操舵角)でそのまま補正されず、それを制限した操舵オーバライド補正量(破線)で補正される。
【0054】
次いで、ステップS27へ進み、指示目標操舵角を操舵オーバライド補正量で補正して新たな目標操舵角(補正後目標操舵角)を設定し(図7図9参照)、ステップS28へ進む。尚、このステップS27での処理が、本発明の補正後目標操舵角設定部に対応している。
【0055】
ステップS28では、指示目標操舵角を時間微分して得られるヨーレートAと、補正後目標操舵角を時間微分して得られるヨーレートBとの比率Rを算出する(R=(B/A)・100[%])。次いで、ステップS29において、この比率Rと予め設定されているしきい値Cと比較する。しきい値Cはコーナリング走行時の走行安定が損なわれないレベルの上限値であり、予め実験等から求めて設定されている。
【0056】
そして、R>Cの場合、新たに設定した目標操舵角によるコーナリング走行では、走行安定性が損なわれると判定し、ステップS30へ進む。又、R≦Cの場合、図2のステップS9へ進む。
【0057】
ステップS30では、比率Rがしきい値Cとなる目標車速を設定し、運転支援制御部11aに設けられている走行制御部(図示せず)に設定した目標車速の指示を出力する。次いで、ステップS31で、比率Rとしきい値Cとの差分Δ1に応じた減速度を設定する。すなわち、このステップS31では、差分Δ1に基づいて減速度設定テーブルを参照する。図6に減速度設定テーブルの概念を示す。同図に示すように、減速度(負の加速度)aは、差分Δ1が大きくなるに従い、絶対値が大きくなる減速度(負の加速度)が設定され、所定差分Δ1で一定になるように設定されている。
【0058】
ステップS31では、減速度設定テーブルを参照して、現在の自車速を目標車速まで減速させる際の減速度(負の加速度)aを設定し、運転支援制御部11aに設けられている走行制御部(図示せず)に減速指示を出力して、図2のステップS9へ進む。尚、ステップS28~S31での処理が、本発明の減速指示部に対応している。
【0059】
走行制御部は、自車両Mを指示された減速度で目標車速まで減速させるべく、ブレーキ駆動部31、加減速制御部33を動作させて、自車両Mを所定に減速させる。自車速を減速させることで、今回設定した補正後目標操舵角をほぼ維持できるため、運転者のイメージした軌道に沿って自車両Mをコーナリング走行させることができる。又、減速度を制限することで、急減速が回避され、搭乗者に与える不快感を軽減することができる。
【0060】
図2のステップS6或いはステップS8からステップS9へ進むと、運転支援制御部11aは自動操舵を継続させてルーチンを抜ける。
【0061】
すなわち、ステップS6からステップS9へ進むと、運転支援制御部11aは、自動操舵機能を維持しつつ、運転者のハンドル操作による操舵オーバライドを優先した操舵制御を実行してルーチンを抜ける。そして、運転者による操舵オーバライドが終了すると、運転支援制御部11aは、指示目標操舵角にて自動操舵による操舵制御を継続させる。一方、ステップS8からステップS9へ進むと、運転支援制御部11aは、補正後目標操舵角を、今回の指示目標操舵角に設定して自動操舵による操舵制御を継続させる。尚、このステップS9での処理が、本発明の操舵制御部に対応している。
【0062】
このように、自車両Mがコーナに進入し、或いはコーナを走行中において、運転者が操舵オーバライドを行った場合、運転支援制御部11aは、そのときの各種状況データを時系列で一つのコーナリング走行データとして不揮発性メモリに逐次記憶させる。その後、自車両Mがコーナに進入し、或いはコーナを走行するに際し、当該コーナの曲率と一致するコーナの曲率データを含む過去の状況データが不揮発性メモリに記憶されているか否かを調べる。
【0063】
そして、一致するコーナの曲率を有する過去の状況データが不揮発性メモリに記憶されている場合、その状況データに記憶されているデータに基づき、指示目標操舵角を補正して、補正後目標操舵角を設定する。本実施形態では、この補正後目標操舵角を今回の指示目標操舵角として設定し、コーナを自動操舵で継続的に走行させるようにしたので、運転者が過去に操舵オーバライドを行ったコーナと一致する状況での走行においては、運転者による操舵オーバライドが不要となり、高い利便性を得ることができる。
【0064】
又、コーナの曲率が一致した場合であっても、内部環境要素と外部環境要素とが相違する場合、その影響度応じて、操舵オーバライド補正量を求めてオーバライド操舵角を補正するようにしている。そのため、多少の状況が変化した場合であっても、自車両Mの挙動を安定させた状態で自動操舵によりコーナリング走行させることができる。
【0065】
更に、指示目標操舵角によるヨーレートAと、補正後目標操舵角によるヨーレートBとの比率R(=(B/A)・100[%])としきい値Cとを比較し、R>Cの場合、走行安定性が損なわれるので、目標車速を減速させることで、補正後目標操舵角を変更することなくコーナリング走行を実行させる。これにより、走行安定性が損なわれ易い状況であっても、運転者のイメージした軌道に沿って自車両Mをコーナリング走行させることが可能となる。
【0066】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば図7図9には、コーナリング走行に際し、運転者が車線内側(イン)へ操舵オーバライドさせた場合を例示しているが、車線外側(アウト)へ操舵オーバライドさせた場合には、その状況データが不揮発メモリに記憶される。
【符号の説明】
【0067】
1…運転支援装置、
11…運転支援制御ユニット、
11a…運転支援制御部、
11b…記憶部、
21…カメラユニット、
21a…メインカメラ、
21b…サブカメラ、
21d…前方走行環境認識部、
22…カーナビゲーションシステム、
22a…高精度道路地図データベース、
23…車速センサ、
24…操舵角センサ、
25…ヨーレートセンサ、
26…操舵トルクセンサ、
31…ブレーキ駆動部、
32…電動パワステモータ駆動部、
33…加減速制御部、
34…報知装置、
A,B…ヨーレート、
C…しきい値、
Fovr…操舵オーバライドデータ取得フラグ、
M…自車両、
R…比率、
Δ1…差分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9