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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182218
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】コアレスリニアモータ、駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095698
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達矢
(72)【発明者】
【氏名】篠平 大輔
【テーマコード(参考)】
5H641
【Fターム(参考)】
5H641BB06
5H641GG02
5H641GG05
5H641GG07
5H641HH03
5H641HH06
5H641JA09
(57)【要約】
【課題】可動子が軌道から脱落する可能性を低減できるコアレスリニアモータ等を提供する。
【解決手段】レールに沿う駆動方向(X軸方向)に相対移動可能な可動子3および固定子2の一方に永久磁石3N、3Sが設けられ、他方にコイル41が設けられるコアレスリニアモータ4において、コイル41が永久磁石3N、3Sと対向する対向面の反対側の背面に、永久磁石3N、3Sとの間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材42が設けられる。コイル41の背面と軟磁性部材42の間に絶縁層43が設けられる。コイル41と永久磁石3N、3Sの対向方向(Z軸方向)および駆動方向(X軸方向)に直交する非駆動方向(Y軸方向)において、永久磁石3N、3Sおよび軟磁性部材42の幅はコイル41の幅より大きい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道に沿う駆動方向に相対移動可能な可動子および固定子の一方に永久磁石が設けられ、他方にコイルが設けられるコアレスリニアモータにおいて、
前記コイルが前記永久磁石と対向する対向面の反対側の背面に、前記永久磁石との間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材が設けられる、
コアレスリニアモータ。
【請求項2】
前記コイルの背面と前記軟磁性部材の間に絶縁層が設けられる、請求項1に記載のコアレスリニアモータ。
【請求項3】
前記コイルと前記永久磁石の対向方向および前記駆動方向に直交する非駆動方向において、前記永久磁石および前記軟磁性部材の幅は前記コイルの幅より大きい、請求項1または2に記載のコアレスリニアモータ。
【請求項4】
軌道に沿う駆動方向に相対移動可能な可動子および固定子の一方に永久磁石が設けられ、他方にコイルが設けられるコアレスリニアモータにおいて、
前記永久磁石との間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材が、前記駆動方向に直交する非駆動方向の前記コイルの両側において当該永久磁石と対向するように設けられる、
コアレスリニアモータ。
【請求項5】
前記コイルおよび前記軟磁性部材が前記永久磁石と対向する対向面の反対側の背面に、当該コイルおよび当該軟磁性部材が取り付けられる非磁性部材が設けられる、請求項4に記載のコアレスリニアモータ。
【請求項6】
前記コイルおよび前記軟磁性部材が前記永久磁石と対向する対向面の反対側の背面に、
当該コイルおよび当該軟磁性部材が取り付けられて前記永久磁石との間で磁気的な引力を発生させる第2軟磁性部材が設けられる、請求項4に記載のコアレスリニアモータ。
【請求項7】
前記コイルの背面と前記第2軟磁性部材の間に絶縁層が設けられる、請求項6に記載のコアレスリニアモータ。
【請求項8】
前記永久磁石は前記可動子に設けられ、
前記コイルは前記固定子に設けられる、
請求項1または4に記載のコアレスリニアモータ。
【請求項9】
曲線部を含む軌道と、
前記軌道に設けられる固定子と、
前記軌道に沿う駆動方向に移動可能な可動子と、
前記可動子および前記固定子の一方に永久磁石が設けられ、他方にコイルが設けられるコアレスリニアモータと、
前記コイルが前記永久磁石と対向する対向面の反対側の背面に、前記永久磁石との間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材と、
を備える駆動装置。
【請求項10】
曲線部を含む軌道と、
前記軌道に設けられる固定子と、
前記軌道に沿う駆動方向に移動可能な可動子と、
前記可動子および前記固定子の一方に永久磁石が設けられ、他方にコイルが設けられるコアレスリニアモータと、
前記駆動方向に直交する非駆動方向の前記コイルの両側において前記永久磁石と対向するように設けられ、当該永久磁石との間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材と、
を備える駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアレスリニアモータ等に関する。
【背景技術】
【0002】
相対移動可能な可動子および固定子の一方に永久磁石が設けられ、他方に電磁石が設けられるリニアモータとして、特許文献1に開示されているようなコアレスリニアモータが知られている。コアレスリニアモータでは、電磁石に鉄芯等のコアが設けられず、コイルがコアに巻かれていない。鉄損等のコアによる損失がなく、軌道方向または駆動方向に沿って間欠的に配置されていたコアと永久磁石が引き合うことによるコギングもなくなるため、高い効率と円滑な駆動が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-74976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、コアは永久磁石との間の磁気的な引力によって、可動子が固定子(軌道)から脱落することを防止する機能も果たしていた。このため、コアのないコアレスリニアモータでは、例えば可動子が軌道の曲線部を移動する際に加わる遠心力や重力によって、可動子が固定子(軌道)から脱落する可能性が高まる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、可動子が軌道から脱落する可能性を低減できるコアレスリニアモータ等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のコアレスリニアモータは、軌道に沿う駆動方向に相対移動可能な可動子および固定子の一方に永久磁石が設けられ、他方にコイルが設けられるコアレスリニアモータにおいて、コイルが永久磁石と対向する対向面の反対側の背面に、永久磁石との間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材が設けられる。
【0007】
この態様では、可動子および固定子(軌道)の一方に設けられる永久磁石との間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材が、可動子および固定子(軌道)の他方に設けられるコイルの背面に設けられるため、可動子が固定子(軌道)から脱落する可能性を低減できる。
【0008】
本発明の別の態様もコアレスリニアモータである。このコアレスリニアモータは、軌道に沿う駆動方向に相対移動可能な可動子および固定子の一方に永久磁石が設けられ、他方にコイルが設けられるコアレスリニアモータにおいて、永久磁石との間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材が、駆動方向に直交する非駆動方向のコイルの両側において当該永久磁石と対向するように設けられる。
【0009】
この態様では、可動子および固定子(軌道)の一方に設けられる永久磁石との間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材が、可動子および固定子(軌道)の他方に設けられるコイルの両側において永久磁石と対向するように設けられるため、可動子が固定子(軌道)から脱落する可能性を低減できる。
【0010】
本発明の更に別の態様は、駆動装置である。この装置は、曲線部を含む軌道と、軌道に設けられる固定子と、軌道に沿う駆動方向に移動可能な可動子と、可動子および固定子の一方に永久磁石が設けられ、他方にコイルが設けられるコアレスリニアモータと、コイルが永久磁石と対向する対向面の反対側の背面に、永久磁石との間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材と、を備える。
【0011】
本発明の更に別の態様も駆動装置である。この装置は、曲線部を含む軌道と、軌道に設けられる固定子と、軌道に沿う駆動方向に移動可能な可動子と、可動子および固定子の一方に永久磁石が設けられ、他方にコイルが設けられるコアレスリニアモータと、駆動方向に直交する非駆動方向のコイルの両側において永久磁石と対向するように設けられ、当該永久磁石との間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材と、を備える。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コアレスリニアモータ等において可動子が軌道から脱落する可能性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】リニア搬送システムの全体構造を示す斜視図である。
図2】固定子および可動子によって構成される第1実施形態に係るコアレスリニアモータを模式的に示す斜視図である。
図3】第1実施形態に係るコアレスリニアモータのZX断面図である。
図4】固定子および可動子によって構成される第2実施形態に係るコアレスリニアモータを模式的に示す斜視図である。
図5】固定子および可動子によって構成される第3実施形態に係るコアレスリニアモータを模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態ともいう)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0016】
図1は、本発明に係る駆動装置の一態様であるリニア搬送システム1の全体構造を示す斜視図である。リニア搬送システム1は、環状のレールまたは軌道を構成する固定子2と、当該固定子2に対して駆動されレールに沿って移動可能な複数の可動子3A、3B、3C、3D(以下では総称して可動子3ともいう)を備える。固定子2に設けられる電磁石またはコイルと、可動子3に設けられる永久磁石が互いに対向することで、環状のレールに沿ってリニアモータが構成されている。なお、固定子2が形成するレールは環状に限らない任意の形状でよい。例えば、レールは直線状でもよいし、曲線状でもよいし、一つのレールが複数のレールに分岐してもよいし、複数のレールが一つのレールに合流してもよい。また、固定子2が形成するレールの設置方向も任意である、図1の例では水平面内にレールが配設されるが、レールは鉛直面内に配設されてもよいし、任意の傾斜角の平面内や曲面内に配設されてもよい。
【0017】
固定子2は、水平方向を法線方向とするレール面21を有する。レール面21はレールの形成方向に沿って帯状に延在し、図1の例のように環状のレールを形成する場合は(仮想的な)両端が連結された無端帯状となる。このように任意の形状のレールを形成可能なレール面21には、電磁石を備える複数の駆動モジュール(不図示)が、レールに沿って連続的または周期的に埋設または配置されている。駆動モジュールにおける電磁石は、可動子3の永久磁石および/または電磁石自体に対してレールに沿った推進力を及ぼす磁界を発生させる。具体的には、これらの多数の電磁石に三相交流等の駆動電流を流すと、永久磁石を備える可動子3をレールに沿う所望の接線方向に直線駆動する移動磁界が発生する。なお、図1の例では環状のレールを水平面内に形成するレール面21の法線方向が水平方向であったが、レール面21の法線方向は鉛直方向その他の任意の方向でもよい。
【0018】
固定子2において、レール面21に対して垂直な上面または下面に設けられる測位部22には、可動子3に取り付けられる測位対象または測位スケールとしての磁気スケール(不図示)の位置を測定可能な複数の位置検知部としての磁気センサ(不図示)が連続的にまたは周期的に埋設されている。一定ピッチの縞状の磁気パターンまたは磁気目盛りによって形成される磁気スケールを測位対象とする磁気センサは、一般的に複数の磁気検出ヘッドを備える。磁気スケールの磁気パターンのピッチまたは周期に対して、複数の磁気検出ヘッドの間隔をずらすことによって、磁気センサは磁気スケールの位置を高精度に測定できる。二つの磁気検出ヘッドが設けられる典型的な磁気センサでは、例えば、二つの磁気検出ヘッドの間隔が磁気スケールの磁気パターンに対して1/4ピッチずれている(位相が90度ずれている)。なお、以上とは逆に、可動子3に磁気センサを設け、固定子2に磁気スケールを設けてもよい。また、測位部22によって測定された可動子3の位置を時間で微分すれば可動子3の速度を検知でき、当該速度を時間で微分すれば可動子3の加速度を検知できる。
【0019】
固定子2に設けられる位置検知部および可動子3に取り付けられる測位対象または測位スケールは以上のような磁気式に限らず、光学式その他の方式でもよい。光学式の場合、可動子3には一定ピッチの縞模様または目盛りによって形成される光学スケールが取り付けられ、固定子2には光学スケールの縞模様を光学的に読み取り可能な光学センサが設けられる。磁気式や光学式では、位置検知部が測位対象(磁気スケールや光学スケール)を非接触で測定するため、可動子3が搬送する被搬送物が飛散して測位箇所(固定子2の上面)に入り込んだ場合の位置検知部の故障等のリスクを低減できる。但し、光学式では測位箇所に入り込んだ液体や粉体等の被搬送物によって光学スケールが覆われると測位精度が悪化してしまうため、磁性が無視できる被搬送物であれば測位箇所に入り込んでも測位精度を悪化させない磁気式とするのが好ましい。
【0020】
可動子3は、固定子2のレール面21に対向する可動子本体31と、可動子本体31の上部から水平方向に張り出して固定子2の測位部22に対向する被測位部32と、被測位部32とは反対側(固定子2から遠い側)に可動子本体31から水平方向に張り出して被搬送物が載置または固定される搬送部33を備える。可動子本体31は、レールに沿って固定子2のレール面21に埋設されている複数の電磁石と対向する一または複数の永久磁石(図1では不図示)を備える。固定子2の電磁石が発生させる移動磁界が可動子3の永久磁石および/または電磁石自体にレールの接線方向の直線動力または推進力を加えるため、可動子3は固定子2に対してレール面21に沿って直線駆動される。
【0021】
なお、永久磁石が可動子3に設けられる駆動方式はMM(Moving Magnet)型とも呼ばれる。MM型では永久磁石と対になる電磁石が固定子2に設けられるため、可動子3には電磁石のコイルに電流を流すための配線を接続する必要がない。従って、配線によって可動子3の可動範囲が制限されることがなくなる。但し、本実施形態はMC(Moving Coil)型、すなわち可動子3に電磁石またはコイルが設けられる駆動方式のリニア搬送システム1にもMM型と同様に適用可能である。
【0022】
可動子3の被測位部32には、測位対象または測位スケールとしての磁気スケールや光学スケールが、固定子2の測位部22に設けられる位置検知部(磁気センサや光学センサ)と対向するように設けられる。位置検知部が固定子2の上面に設けられる図1の例では、磁気スケール等の測位対象が可動子3の被測位部32の下面に取り付けられる。測位部22および被測位部32が磁気式の場合、レール面21の電磁石および可動子本体31の永久磁石の間の磁界が、測位部22および被測位部32の磁気測位に影響しないように、固定子2においてはレール面21と測位部22を異なる面または離れた箇所に形成し、可動子3においては可動子本体31と被測位部32を異なる面または離れた箇所に形成するのが好ましい。
【0023】
図1では四つの可動子3A、3B、3C、3Dが例示されたが、例えば少量の被搬送物を多数搬送するリニア搬送システム1では、1,000を超える数の可動子3が必要になることも想定される。
【0024】
図2は、固定子2および可動子3によって構成される第1実施形態に係るコアレスリニアモータ4を模式的に示す斜視図である。以降の説明では、三次元の直交座標系を形成する互いに直交するX軸、Y軸、Z軸によって方向を表す。X軸方向はレールに沿う駆動方向または軌道方向であり、可動子3の固定子2に対する移動方向である。以下では、X軸方向の寸法を「長さ」ともいう。Y軸方向は、固定子2の表面であるレール面21内においてX軸方向(駆動方向)と直交する非駆動方向である。以下では、Y軸方向の寸法を「幅」ともいう。Z軸方向はレール面21の法線方向であり、可動子3に設けられる永久磁石3N、3Sと、固定子2に設けられるコイル41が対向する対向方向である。以下では、Z軸方向の寸法を「厚さ」または「高さ」ともいう。
【0025】
また、Z軸方向を法線方向として図2における上方を向く面を「上面」または「表面」ともいい、Z軸方向を法線方向として図2における下方を向く面を「下面」または「裏面」ともいう。図2における永久磁石3N、3Sは可動子3の下面または裏面に取り付けられており、図2におけるコイル41は固定子2の上面または表面に取り付けられている。図1の例では、レール面21の法線方向であるZ軸方向が水平方向であり、Y軸方向が鉛直方向である。従って、図2における可動子3にはY軸方向(非駆動方向)の重力が加わる。また、レールの曲線部では可動子3にZ軸方向(対向方向)の遠心力が加わる。
【0026】
図3は、第1実施形態に係るコアレスリニアモータ4のZX断面図である。可動子3の下面には駆動方向(X軸方向)に沿って複数の永久磁石3N、3Sが取り付けられている。永久磁石3Nの下面にはN極が形成されており、永久磁石3Sの下面にはS極が形成されている。可動子3の下面に駆動方向に沿ってN極とS極が交互に現れるように、永久磁石3Nおよび永久磁石3Sは駆動方向に沿って交互に配置されている。各永久磁石3Nおよび各永久磁石3Sの駆動方向の長さは略一定である。
【0027】
固定子2の上面であるレール面21には駆動方向(X軸方向)に沿って、三相交流が印加される三相コイル41U、41V、41Wが取り付けられている。U相コイル41UにはU相電流が流され、V相コイル41VにはV相電流が流され、W相コイル41WにはW相電流が流される。なお、図3における「U」「V」「W」に付されたオーバーライン(上線)は、オーバーラインが付されていない「U」「V」「W」と電流の向きが逆であることを意味する。例えば、オーバーラインが付されていない「U」のU相コイル41Uに紙面の手前から奥に向かうU相電流が流れる場合、オーバーラインが付されている「U」のU相コイル41Uには紙面の奥から手前に向かうU相電流が流れる。
【0028】
以上のような三相交流が印加された三相コイル41U、41V、41Wが発生させる磁界が可動子3の永久磁石3N、3Sに作用することで、可動子3において駆動方向(X軸方向)の推進力が生まれる。なお、図3では便宜的にU相コイル41U、V相コイル41V、W相コイル41Wをそれぞれ一つだけ示すが、実際のレール面21には駆動方向(X軸方向)に沿ってU相コイル41U、V相コイル41V、W相コイル41Wの多数の組が周期的に配置される。
【0029】
以上のように三相コイル41U、41V、41Wは電磁石として機能するが、鉄芯等のコアを持たない。すなわち、コアレスリニアモータ4における三相コイル41U、41V、41Wはコアレスである。コアのあるリニアモータにおいてはU相コイル41U、V相コイル41V、W相コイル41Wのそれぞれが巻かれるコアが存在するが、図3のコアレスリニアモータ4においては空気等が存在するだけである。なお、空気等の代わりに樹脂等の非磁性材料または絶縁材料がコアの代わりに充填されていてもよい。コアレスリニアモータ4では、鉄損等のコアによる損失がなく、駆動方向(X軸方向)に沿って間欠的に配置されていたコア(不図示)と永久磁石3N、3Sが引き合うことによるコギングもなくなるため、高い効率と円滑な駆動が実現される。
【0030】
三相コイル41U、41V、41Wが永久磁石3N、3Sと対向する対向面(上面)の反対側の背面(下面)には、永久磁石3N、3Sとの間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材42が設けられる。軟磁性部材42は、例えば、鉄、炭素鋼、ケイ素鋼、パーマロイ、センダスト、パーメンジュール、ソフトフェライト、アモルファス磁性合金、ナノクリスタル磁性合金等の透磁率が高い軟磁性材料によって形成される。三相コイル41U、41V、41W(および後述する絶縁層43)を間に挟んでZ軸方向に対向する軟磁性部材42と永久磁石3N、3Sの間にはZ軸方向の磁気的な引力が発生する。このため、永久磁石3N、3Sを備える可動子3が、遠心力(Z軸方向)や重力(Y軸方向)によって、軟磁性部材42を備える固定子2(レール)から脱落する可能性が低下する。
【0031】
また、軟磁性部材42は、永久磁石3N、3Sとの磁気的な相互作用によって、永久磁石3N、3Sが生成する磁界を整形する機能も果たす。特に可動子3における駆動方向の両端にある永久磁石3N(図3における左端)、3S(図3における右端)が生成する磁界は駆動方向の両側に膨らみやすい(端効果とも呼ばれる)が、軟磁性部材42があることによって両端からの磁界の膨らみを抑制できる。このため、可動子3の駆動効率や駆動精度を高められる。
【0032】
三相コイル41U、41V、41Wの背面(下面)と軟磁性部材42の表面(上面)の間には絶縁層43が設けられる。絶縁層43は、三相コイル41U、41V、41Wに流される電流が、導体でもある軟磁性部材42に流れないように絶縁する。典型的な三相コイル41U、41V、41Wの表面は絶縁材料で被覆されているものの、本実施形態のリニア搬送システム1では三相コイル41U、41V、41Wに大きな電流が流されることもあるため、軟磁性部材42へのリーク電流が発生する可能性がある。絶縁層43によって、このようなリーク電流も確実に遮断できる。また、絶縁層43を絶縁紙や樹脂等の絶縁材料かつ非磁性材料によって形成することで、永久磁石3N、3Sと三相コイル41U、41V、41Wの間の磁気的な推進力(X軸方向)の生成、および、永久磁石3N、3Sと軟磁性部材42の間の磁気的な引力の生成(Z軸方向)のいずれにも磁気的な悪影響を及ぼさない。
【0033】
図3に示されるように、軟磁性部材42および絶縁層43は、駆動方向(X軸方向)に沿って連続的に形成される。また、図2に示されるように、非駆動方向(Y軸方向)において、永久磁石3N、3Sおよび軟磁性部材42の幅は三相コイル41U、41V、41Wの幅より大きい。このため、三相コイル41U、41V、41Wが存在しない非駆動方向の両端において、永久磁石3N、3Sと軟磁性部材42の間で磁気的な引力を安定的に発生させられる。従って、可動子3の駆動状態(三相コイル41U、41V、41Wを流れる電流の状態)によらず、可動子3が固定子2(レール)から脱落する可能性を低減できる。
【0034】
図4は、固定子2および可動子3によって構成される第2実施形態に係るコアレスリニアモータ4を模式的に示す斜視図である。図2および図3における第1実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0035】
非駆動方向(Y軸方向)におけるコイル41の両側(図4における左側および右側)には、永久磁石3N、3Sとの間で磁気的な引力を発生させる軟磁性部材42A、42Bが当該永久磁石3N、3SとZ軸方向に対向するように設けられる。軟磁性部材42A、42Bは、例えば、鉄、炭素鋼、ケイ素鋼、パーマロイ、センダスト、パーメンジュール、ソフトフェライト、アモルファス磁性合金、ナノクリスタル磁性合金等の透磁率が高い軟磁性材料によって形成される。図2の第1実施形態における軟磁性部材42と異なり、三相コイル41U、41V、41W等を間に挟まずに永久磁石3N、3Sと直接的に対向する軟磁性部材42A、42Bは、第1実施形態よりも強い磁気的な引力を永久磁石3N、3Sに及ぼす。このため、永久磁石3N、3Sを備える可動子3が、遠心力(Z軸方向)や重力(Y軸方向)によって、軟磁性部材42A、42Bを備える固定子2(レール)から脱落する可能性が低下する。
【0036】
ここで、軟磁性部材42A、42Bと永久磁石3N、3Sの間の磁気的な引力の強さは、主に軟磁性部材42A、42Bと永久磁石3N、3Sの対向方向(Z軸方向)の距離によって決まる。図2および図3の第1実施形態では、軟磁性部材42と永久磁石3N、3Sの間に三相コイル41U、41V、41Wおよび絶縁層43が介在していたため、主に三相コイル41U、41V、41Wの厚さの影響で軟磁性部材42と永久磁石3N、3Sを十分に接近させることが難しい場合も想定される。これに対して図4の第2実施形態では、コイル41の厚さと独立に軟磁性部材42A、42Bの厚さを自由に調整できる。例えば、図4の例のように、対向方向(Z軸方向)において軟磁性部材42A、42Bの厚さはコイル41の厚さと異なり、具体的には軟磁性部材42A、42Bの厚さはコイル41の厚さより大きい。このように、軟磁性部材42A、42Bと永久磁石3N、3Sの対向方向(Z軸方向)の距離を小さくできるため、軟磁性部材42A、42Bと永久磁石3N、3Sの間の磁気的な引力を強くできる。
【0037】
コイル41および軟磁性部材42A、42Bが永久磁石3N、3Sと対向する対向面(上面)の反対側の背面(下面)には、当該コイル41および当該軟磁性部材42A、42Bが取り付けられる非磁性部材44が設けられる。非磁性部材44は、第1実施形態における絶縁層43と同様に絶縁材料かつ非磁性材料によって形成され、コイル41に流される電流が導体でもある軟磁性部材42A、42Bに流れないように絶縁する。なお、絶縁を目的として、コイル41と軟磁性部材42A、42Bの間には非駆動方向(Y軸方向)の隙間が設けられている。
【0038】
軟磁性部材42A、42Bおよび非磁性部材44は、駆動方向(X軸方向)に沿って連続的に形成される。また、非駆動方向(Y軸方向)において、永久磁石3N、3Sおよび非磁性部材44の幅はコイル41の幅より大きい。非磁性部材44の非駆動方向の両端部においてコイル41が設けられない領域に、軟磁性部材42A、42Bが設けられて永久磁石3N、3Sの非駆動方向の両端部と対向して磁気的な引力を安定的に発生させる。駆動方向(X軸方向)に延在する軟磁性部材42A、42Bと、非駆動方向(Y軸方向)に延在する永久磁石3N、3Sは、互いにねじれの位置にある。
【0039】
図5は、固定子2および可動子3によって構成される第3実施形態に係るコアレスリニアモータ4を模式的に示す斜視図である。このコアレスリニアモータ4は、第1実施形態における構成要素(軟磁性部材42および絶縁層43)と、第2実施形態における構成要素(軟磁性部材42A、42B)を組み合わせたものである。
【0040】
具体的には、第2実施形態における非磁性部材44の代わりに第1実施形態における軟磁性部材42(以下では第2軟磁性部材42ともいう)が、コイル41および軟磁性部材42A、42B(以下では第1軟磁性部材42A、42Bともいう)が永久磁石3N、3Sと対向する対向面の反対側の背面に設けられる。また、コイル41および第1軟磁性部材42A、42Bの背面と第2軟磁性部材42の表面の間に、第1実施形態における絶縁層43が設けられる。
【0041】
本実施形態によれば、第1軟磁性部材42A、42Bと永久磁石3N、3Sの間、および、第2軟磁性部材42と永久磁石3N、3Sの間において、対向方向(Z軸方向)の磁気的な引力が発生するため、可動子3が固定子2(レール)から脱落する可能性が低下する。
【0042】
また、コイル41および第1軟磁性部材42A、42Bの背面と第2軟磁性部材42の表面の間に設けられる絶縁層43によって、コイル41から第2軟磁性部材42および第1軟磁性部材42A、42Bへのリーク電流を確実に遮断できる。
【0043】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0044】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 リニア搬送システム、2 固定子、3 可動子、4 コアレスリニアモータ、41 コイル、42 軟磁性部材、43 絶縁層、44 非磁性部材。
図1
図2
図3
図4
図5