(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182228
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】インナシャフト及びその製造方法、並びに、ステアリングシャフト
(51)【国際特許分類】
B62D 1/20 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
B62D1/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095712
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 一樹
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DC16
3D030DC27
3D030DC29
3D030DC39
3D030DD13
3D030DD63
3D030DF01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】重量の増大を抑制しつつ、ステアリングシャフトの伸縮ストローク量を大きくすることが可能で、かつ、全ストローク範囲でステアリングシャフトの伸縮動作時における摺動抵抗の低減を図れる、インナシャフトの構造を実現する。
【解決手段】インナシャフト18を、金属製のシャフト本体20と合成樹脂製の樹脂被覆部21とから構成する。シャフト本体20を、雄スプライン部23と、雄スプライン部23よりも断面積の小さい非スプライン部24とを有するものとする。樹脂被覆部21により雄スプライン部23及び非スプライン部24を覆うことで、雄スプライン部23の周囲に樹脂コーティング層31を形成し、非スプライン部24の周囲に、樹脂コーティング層31の断面輪郭形状と同じ断面輪郭形状を有する樹脂雄スプライン部32を形成する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一方側部に雄スプライン部を有し、かつ、前記雄スプライン部の軸方向他方側に隣接する部分に、前記雄スプライン部よりも断面積の小さい非スプライン部を有する、金属製のシャフト本体と、
前記シャフト本体のうちで、前記雄スプライン部及び前記非スプライン部を含む範囲の外周面を覆う、合成樹脂製の樹脂被覆部と、を備え、
前記樹脂被覆部は、前記雄スプライン部の周囲に形成された樹脂コーティング層と、前記非スプライン部の周囲に形成され、かつ、前記樹脂コーティング層の断面輪郭形状と同じ断面輪郭形状を有する樹脂雄スプライン部と、を備える、
インナシャフト。
【請求項2】
前記シャフト本体は、前記雄スプライン部の軸方向一方側に隣接する部分に、前記雄スプライン部の歯底円直径よりも外径の小さい小径軸部を有し、
前記樹脂被覆部は、前記小径軸部の外周面を覆っており、前記小径軸部の周囲に、樹脂抜け止め部を備える、
請求項1に記載したインナシャフト。
【請求項3】
前記シャフト本体は、前記非スプライン部よりも軸方向他方側に、前記樹脂被覆部によって外周面を覆われない、露出軸部を有する、請求項1に記載したインナシャフト。
【請求項4】
前記露出軸部は、位相決めに利用可能な位相決め部を備える、請求項3に記載したインナシャフト。
【請求項5】
前記非スプライン部は、円形の断面形状を有する、請求項1に記載したインナシャフト。
【請求項6】
前記非スプライン部は、前記雄スプライン部の歯底円直径と同じ大きさの外径を有する、請求項5に記載したインナシャフト。
【請求項7】
前記非スプライン部は、非円形の断面形状を有する、請求項1に記載したインナシャフト。
【請求項8】
請求項1~7のうちのいずれか1項に記載したインナシャフトの製造方法であって、
前記シャフト本体のうちで、少なくとも前記非スプライン部から軸方向一方側に存在する部分を、内面にスプライン成形部を備えた金型のキャビティ内に配置し、該キャビティ内に注入した溶融樹脂を固化することで、前記シャフト本体の外周面に前記樹脂被覆部を形成する工程を備える、
インナシャフトの製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のうちのいずれか1項に記載したインナシャフトの製造方法であって、
前記シャフト本体のうちで、少なくとも前記非スプライン部から軸方向一方側に存在する部分を、溶融した合成樹脂の中に浸漬することにより、前記シャフト本体の外周面に樹脂被覆中間材を形成する工程と、
前記樹脂被覆中間材の外周面に切削加工を施すことで、前記樹脂被覆部を形成する工程と、を備える、
インナシャフトの製造方法。
【請求項10】
アウタシャフトと、前記アウタシャフトに対しトルク伝達を可能にかつ軸方向の相対変位を可能にスプライン係合したインナシャフトとを有し、後側の端部にステアリングホイールが固定される、ステアリングシャフトであって、
前記インナシャフトが、請求項1~7のうちのいずれか1項に記載したインナシャフトである、
ステアリングシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナシャフト及びその製造方法、並びに、インナシャフトを備えたステアリングシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の自動運転技術が急速に進展している。このため、近い将来、自動運転のレベルは、特定の条件下においては自動車が自動で運転を行うレベル(レベル3、4)や、完全自動運転のレベル(レベル5)にまで到達すると考えられている。このような自動運転技術を備える自動運転車両においては、運転者がステアリングホイールを操作する必要性が低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動運転車両には、自動運転中に、ステアリングホイールを前方に大きく退避させて、ステアリングホイールを、ダッシュボードに格納する、又は運転者から遠ざけて配置することで、運転席前方の空間を広く確保することが求められる可能性がある。
【0005】
ステアリングホイールを前方に大きく退避させるためには、ステアリングホイールが固定されるステアリングシャフトの伸縮ストローク量を、従来構造のステアリングシャフトの伸縮ストローク量よりも大きくする必要がある。具体的には、ステアリングホイールの前後位置の調整が可能なステアリング装置を構成するステアリングシャフトにあっては、ステアリングホイールの前後位置の調整を可能とする分の伸縮ストローク量よりも、ステアリングホイールを前方に退避移動させられる分だけ、伸縮ストローク量を大きくする必要がある。
【0006】
ステアリングシャフトは、インナシャフトに備えられた雄スプライン部とアウタシャフトに備えられた雌スプライン部とをスプライン係合させることで、全長を伸縮可能に構成されている。そこで、ステアリングシャフトの伸縮ストローク量を大きくするために、雄スプライン部の全長を長くすることが考えられる。
【0007】
ただし、雄スプライン部は、インナシャフトのうちで雄スプライン部から軸方向に外れた部分よりも、インナシャフトの中心軸に直交する仮想平面に関する断面積が大きい。このため、ステアリングシャフトの伸縮ストローク量を大きくするために、雄スプライン部の全長を長くすると、インナシャフトの重量が増大しやすく、ステアリングシャフトの重量も増大しやすいといった問題が生じる。
【0008】
なお、特開2017-52514号公報(特許文献1)には、雄スプライン部の外周面を合成樹脂製のコーティング層により覆うことで、雄スプライン部と雌スプライン部との金属接触を防止し、ステアリングシャフトの伸縮動作時における摺動抵抗を低減する技術が開示されている。ただし、特開2017-52514号公報には、インナシャフトの外周面のうちで雄スプライン部以外の部分を合成樹脂により覆うことは、一切記載されていない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、重量の増大を抑制しつつ、ステアリングシャフトの伸縮ストローク量を大きくすることが可能で、かつ、全ストローク範囲で、ステアリングシャフトの伸縮動作時における摺動抵抗の低減を図れる、インナシャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、上記課題を解決する手段について鋭意検討した結果、ステアリングホイールの前後位置が、運転者がステアリングホイールの操作を行うドライバー操作範囲に位置している場合には、インナシャフトとアウタシャフトとの間で比較的大きなトルクの伝達を可能とする必要があるのに対し、運転者がステアリングホイールの操作を行わないドライバー非操作範囲に位置している場合には、インナシャフトとアウタシャフトとを軸方向に相対変位させることができれば、インナシャフトとアウタシャフトとの間で大きなトルクを伝達できる必要はないとの知見を得た。そして、ドライバー非操作範囲では、インナシャフトに、合成樹脂製の雄スプライン部を設ければ、金属製の雄スプライン部は省略できるとの考えに至り、本発明を完成させるに至ったものである。具体的には、本発明のインナシャフト及びその製造方法、並びに、ステアリングシャフトは、以下の手段を採用している。
【0011】
本発明の一態様にかかるインナシャフトは、金属製のシャフト本体と、合成樹脂製の樹脂被覆部とを備える。
シャフト本体は、軸方向一方側部に雄スプライン部を有し、かつ、前記雄スプライン部の軸方向他方側に隣接する部分に、前記雄スプライン部よりも断面積の小さい非スプライン部を有している。
前記樹脂被覆部は、前記シャフト本体のうちで、前記雄スプライン部及び前記非スプライン部を含む範囲の外周面を覆っている。
前記樹脂被覆部は、前記雄スプライン部の周囲に形成された樹脂コーティング層と、前記非スプライン部の周囲に形成され、かつ、前記樹脂コーティング層の断面輪郭形状と同じ断面輪郭形状を有する樹脂雄スプライン部と、を備えている。
なお、本明細書及び特許請求の範囲で、断面とは、特に断らない限り、インナシャフトの中心軸に直交する仮想平面に関する断面をいう。
【0012】
本発明の一態様にかかるインナシャフトでは、前記シャフト本体を、前記雄スプライン部の軸方向一方側に隣接する部分に、前記雄スプライン部の歯底円直径よりも外径の小さい小径軸部を有するものとすることができる。
また、前記樹脂被覆部を、前記小径軸部の外周面を覆い、前記小径軸部の周囲に、樹脂抜け止め部を備えるものとすることができる。
この場合には、前記樹脂抜け止め部を、前記樹脂コーティング層及び前記樹脂雄スプライン部のそれぞれの断面輪郭形状と同じ断面輪郭形状を有するものとすることができる。
【0013】
本発明の一態様にかかるインナシャフトでは、前記シャフト本体を、前記非スプライン部よりも軸方向他方側に、前記樹脂被覆部によって外周面を覆われない、露出軸部を有するものとすることができる。
この場合には、前記露出軸部を、位相決めに利用可能な位相決め部を備えるものとすることができる。
【0014】
本発明の一態様にかかるインナシャフトでは、前記非スプライン部を、円形の断面形状を有するものとすることができる。
この場合には、前記非スプライン部を、前記雄スプライン部の歯底円直径と同じ外径を有するものとすることができる。
あるいは、本発明の一態様にかかるインナシャフトでは、前記非スプライン部を、非円形の断面形状を有するものとすることができる。
この場合には、前記非スプライン部を、外周面の円周方向一部又は複数箇所に、突起部又は/及び凹溝部を有するものとすることができる。
【0015】
本発明の一態様にかかるインナシャフトの製造方法は、本発明の一態様にかかるインナシャフトの製造方法であって、前記シャフト本体のうちで、少なくとも前記非スプライン部から軸方向一方側に存在する部分を、内面にスプライン成形部を備えた金型のキャビティ内に配置し、該キャビティ内に注入した溶融樹脂を固化することで、前記シャフト本体の外周面に前記樹脂被覆部を形成する工程を備えている。
【0016】
本発明の一態様にかかるインナシャフトの製造方法は、本発明の一態様にかかるインナシャフトの製造方法であって、前記シャフト本体のうちで、少なくとも前記非スプライン部から軸方向一方側に存在する部分を、溶融した合成樹脂の中に浸漬することにより、前記シャフト本体の外周面に樹脂被覆中間材を形成する工程と、前記樹脂被覆中間材の外周面に切削加工を施すことで、前記樹脂被覆部を形成する工程とを備えている。
【0017】
本発明の一態様にかかるステアリングシャフトは、アウタシャフトと、前記アウタシャフトに対してトルク伝達を可能にかつ軸方向の相対変位を可能にスプライン係合したインナシャフトとを有し、後側の端部にステアリングホイールが固定される。
前記インナシャフトは、本発明の一態様にかかるインナシャフトである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様にかかるインナシャフトによれば、重量の増大を抑制しつつ、ステアリングシャフトの伸縮ストローク量を大きくでき、かつ、全ストローク範囲で、ステアリングシャフトの伸縮動作時における摺動抵抗の低減を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかるステアバイワイヤ式のステアリング装置を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例に関して、ステアバイワイヤ式の操舵ユニットを、後側から見た端面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の第1例を示す、
図2のA-A線断面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第1例に関して、ステアバイワイヤ式の操舵ユニットを示す、斜視図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の第1例に関して、ステアリングシャフトを構成するインナシャフトを取り出して示す図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)のB-B線拡大断面図であり、(C)は(A)のC-C線拡大断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の第1例に関して、ステアリングシャフトを構成するインナシャフトのシャフト本体を取り出して示す図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)のD-D線拡大断面図であり、(C)は(A)のE-E線拡大断面図である。
【
図7】
図7は、実施の形態の第1例に関して、ステアリングシャフト及びステアリングホイールを取り出して示す模式図であり、(A)は、ステアリングホイールの前後位置をドライバー操作範囲Xのうちで最も後方に移動させた状態を示し、(B)は、ステアリングホイールの前後位置をドライバー操作範囲Xのうちで最も前方に移動させた状態を示し、(C)は、ステアリングホールの前後位置をドライバー非操作範囲Yのうちで最も前方に移動させた状態を示している。
【
図8】
図8は、実施の形態の第1例に関して、ステアリングシャフトを構成するインナシャフトの製造方法を示す、断面模式図である。
【
図10】
図10は、実施の形態の第2例を示す、
図5に相当する図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)のG-G線拡大断面図であり、(C)は(A)のH-H線拡大断面図であり、(D)は(A)のI-I線拡大断面図である。
【
図11】
図11は、実施の形態の第2例を示す、
図6に相当する図であり、(A)は平面図であり、(B)は(A)のJ-J線拡大断面図であり、(C)は(A)のK-K線拡大断面図であり、(D)は(A)のL-L線拡大断面図である。
【
図13】
図13は、実施の形態の第4例に関して、ステアリングシャフトを構成するインナシャフトの製造方法を工程順に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図9を用いて説明する。本例では、本発明のインナシャフト及びステアリングシャフトを、自動運転車両用のステアバイワイヤ式のステアリング装置に適用している。なお、以下の説明において、前後方向は、車両の前後方向を意味し、上下方向は、車両の上下方向を意味し、幅方向は、車両の幅方向を意味する。
【0021】
〔ステアリング装置の全体構成〕
本例のステアリング装置1は、ステアバイワイヤ式のステアリング装置である。ステアリング装置1は、
図1に全体構成を示すように、ステアリングホイール2が取り付けられた操舵ユニット3と、1対の操舵輪4を転舵させる転舵ユニット5と、制御装置(ECU)6とを備える。ステアリング装置1は、操舵ユニット3と転舵ユニット5とが、機械的に接続されておらず、電気的に接続されたリンクレス構造を有する。
【0022】
操舵ユニット3は、運転者によるステアリングホイール2の操作を、トルクセンサ7(
図3参照)や図示しない舵角センサにより測定し、その測定結果を、制御装置6に出力する。制御装置6には、トルクセンサ7により測定された操舵トルク、舵角センサにより測定された操舵角、車速、ヨーレイト、加速度など、運転状況を示す各種信号が入力される。制御装置6は、運転状況を示す各種信号に基づいて、転舵ユニット5が備える転舵用アクチュエータ8を駆動する。これにより、ラック軸やねじ軸などの直動部材を幅方向に変位させ、1対のタイロッド9を押し引きして、1対の操舵輪4に舵角を付与する。
【0023】
また、制御装置6は、たとえば、操舵トルク、操舵角、車速などの運転状況を示す各種信号に基づいて、操舵ユニット3が備える後述する反力発生装置11の反力付与モータ72(
図2参照)の駆動を制御し、ステアリングホイール2に運転状況に応じた操舵反力を付与する。
【0024】
〔操舵ユニット〕
操舵ユニット3は、ステアリングホイール2の位置を調整するための位置調整装置10と、ステアリングホイール2に操舵反力を付与するための反力発生装置11とを備える。
【0025】
位置調整装置10は、ステアリングホイール2の前後位置及び上下位置のそれぞれを調整する機能を備える。言い換えれば、位置調整装置10は、ステアリングホイール2の前後位置を調整するためのテレスコピック機構、及び、ステアリングホイール2の上下位置を調整するためのチルト機構をそれぞれ備える。さらに本例の位置調整装置10は、自動運転中に、ステアリングホイール2を前方に大きく退避させる機能を有する。
【0026】
位置調整装置10は、ステアリングシャフト12と、ステアリングコラム13と、ロア側テレスコ用アクチュエータ14と、アッパ側テレスコ用アクチュエータ15と、チルト用アクチュエータ16とを備える。
【0027】
〈ステアリングシャフト〉
ステアリングシャフト12は、全長を伸縮可能に構成されており、ステアリングコラム13の内側に、複数(図示の例では2つ)の転がり軸受17a、17bを利用して回転自在に支持されている。ステアリングシャフト12の後側の端部には、ステアリングホイール2が固定されている。ステアリングシャフト12の前側の端部は、反力発生装置11を構成する出力シャフト28に対し、トーションバー30を介して連結されている。
【0028】
ステアリングシャフト12は、前側に配置されたインナシャフト18と、後側に配置された中空筒状のアウタシャフト19とを、スプライン係合により、トルク伝達可能にかつ軸方向の相対変位を可能に組み合わせてなる。特に本例のステアリングシャフト12は、自動運転時に、ステアリングホイール2を前方に大きく退避させるために、ステアリングホイール2の前後位置の調整のみが可能な従来構造のステアリングシャフトに比べて、伸縮ストローク量が大きく設定されている。
【0029】
《インナシャフト》
図5に示すように、インナシャフト18は、炭素鋼などの金属製のシャフト本体20と、合成樹脂製の樹脂被覆部21とからなる。また、インナシャフト18は、軸方向に関して樹脂被覆部21と整合する部分の外周面に、軸方向に連続した同一諸元の(軸方向にわたり歯幅及び歯丈が等しい)スプライン22を有している。スプライン22の内部構造は、スプライン22の軸方向一方側の半部と軸方向他方側の半部とで相違している。スプライン22(樹脂被覆部21)の軸方向寸法L
22は、ステアリングホイール2を前方に大きく退避させるのに必要な、ステアリングシャフト12の伸縮ストローク量に基づいて設定される。なお、インナシャフト18に関する以下の説明において、軸方向一方側は後側に相当し、軸方向他方側は前側に相当する。
【0030】
(シャフト本体)
図6に示すように、シャフト本体20は、軸方向一方側から順に、雄スプライン部23と、非スプライン部24と、露出軸部25とを有する。このうちの雄スプライン部23及び非スプライン部24は、樹脂被覆部21により覆われており、露出軸部25は、樹脂被覆部21により覆われずに外部に露出している。
【0031】
雄スプライン部23は、シャフト本体20の軸方向一方側の端部に備えられている。雄スプライン部23は、円周方向に関する凹凸形状を有している。雄スプライン部23は、外周面に、シャフト本体20の軸方向に伸長する複数の雄スプライン歯23aを有する。複数の雄スプライン歯23aは、円周方向に等ピッチで配置されている。雄スプライン歯23aの歯厚及び歯丈は、軸方向一方側の端部に備えられた面取り部を除き、軸方向にわたり一定である。
【0032】
雄スプライン部23の軸方向寸法L
23は、
図7に示すように、ステアリングホイール2の前後位置が、運転者がステアリングホイール2の操作を行うドライバー操作範囲Xに位置している状態で、雄スプライン部23とアウタシャフト19に備えられた雌スプライン部35とが、後述する樹脂コーティング層31を介して十分な係合代でスプライン係合できる長さ寸法に規制されている。具体的には、雄スプライン部23の軸方向寸法L
23は、30mm~90mm程度である。なお、本例において、ドライバー操作範囲Xとは、ステアリングホイール2の操作を行う運転者がステアリングホイール2の前後位置の調整を行える前後位置調整範囲である。
【0033】
非スプライン部24は、雄スプライン部23の軸方向他方側に隣接して配置されており、シャフト本体20の軸方向中間部に備えられている。シャフト本体20の中心軸Oに直交する仮想平面に関して、非スプライン部24の断面積は、雄スプライン部23の断面積よりも小さい。本例では、非スプライン部24は、円形の断面形状を有しており、雄スプライン部23の歯底円直径dbと同じ大きさの外径D24を有している(db=D24)。このため、非スプライン部24は、丸棒形状(円柱形状)を有している。ただし、本発明を実施する場合に、非スプライン部の断面形状は、円形に限らず、欠円形や多角形などの非円形としても良い。あるいは、非スプライン部は、雄スプライン部を構成する複数の雄スプライン歯よりも歯丈が低い、及び/若しくは、歯幅が小さい複数の歯を有する、並びに/又は、雄スプライン部を構成する複数の雄スプライン歯の総数よりも少ない数の歯を有することもできる。
【0034】
露出軸部25は、非スプライン部24の軸方向他方側に配置されており、シャフト本体20の軸方向他方側の半部に備えられている。
【0035】
露出軸部25は、延長軸部26と、雄ストッパ部27とを有する。
【0036】
延長軸部26は、非スプライン部24の軸方向他方側に隣接する部分に備えられている。本例では、延長軸部26は、円形の断面形状を有しており、非スプライン部24の外径D24と同じ大きさの外径を有している。このため、延長軸部26は、非スプライン部24と同様に、丸棒形状を有している。本例では、延長軸部26と非スプライン部24との相違は、樹脂被覆部21により覆われているか否かだけである。ただし、本発明を実施する場合に、延長軸部の断面形状と非スプライン部の断面形状とを互いに異ならせたり、延長軸部の外径と非スプライン部の外径とを互いに異ならせたり、表面性状を互いに異ならせたりすることもできる。
【0037】
雄ストッパ部27は、延長軸部26の軸方向他方側に隣接して配置されており、シャフト本体20の軸方向他方側の端部に備えられている。雄ストッパ部27は、反力発生装置11を構成する出力シャフト28に備えられた雌ストッパ部29と円周方向に係合することで、インナシャフト18と出力シャフト28との相対回転を所定角度の範囲内に規制し、トーションバー30の過大な捩れを防止する機能を有する。
【0038】
雄ストッパ部27は、円周方向に関する凹凸形状(歯車形状)を有している。具体的には、雄ストッパ部27は、それぞれが軸方向に伸長した雄側歯部27aと雄側溝部27bとを、円周方向に関して交互にかつ等ピッチに配置することで構成されている。本例では、露出軸部25を構成する雄ストッパ部27が、シャフト本体20の位相決めに利用可能な位相決め部として機能する。
【0039】
(樹脂被覆部)
樹脂被覆部21は、ポリアミド樹脂(PA)、ポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、ポリアセタール樹脂(POM)などの摩擦係数の低い合成樹脂製である。樹脂被覆部21は、シャフト本体20のうちで、雄スプライン部23及び非スプライン部24を含む範囲の外周面を覆っている。本例では、樹脂被覆部21は、雄スプライン部23の外周面及び非スプライン部24の外周面をそれぞれ覆っている。
【0040】
樹脂被覆部21は、雄スプライン部23の周囲に形成された樹脂コーティング層31と、非スプライン部24の周囲に形成された樹脂雄スプライン部32とからなる。
【0041】
樹脂コーティング層31は、雄スプライン部23の凹凸形状の表面全体を覆っている。また、樹脂コーティング層31の厚さ(膜厚)は、全周にわたりほぼ一定であり、雄スプライン歯23aの歯幅及び歯丈に比べて十分に小さい。具体的には、樹脂コーティング層31の厚さは、10μm~1000μm程度である。このため、樹脂コーティング層31は、雄スプライン歯23aの外形に沿った輪郭形状を有している。樹脂コーティング層31の軸方向寸法L31は、雄スプライン部23の軸方向寸法L23と同じである(L31=L23)。
【0042】
樹脂雄スプライン部32は、非スプライン部24の円筒面状の表面全体を覆っている。樹脂雄スプライン部32は、雄スプライン部23を覆った樹脂コーティング層31の軸方向他方側に隣接して配置されており、樹脂コーティング層31と軸方向につながっている。つまり、樹脂雄スプライン部32と樹脂コーティング層31とは、一体に構成されている。
【0043】
樹脂雄スプライン部32は、インナシャフト18の軸方向に伸長する複数の樹脂雄スプライン歯32aを、円周方向に等ピッチで配置することで構成されている。樹脂雄スプライン歯32aは、金属製の雄スプライン歯23aと同数備えられており、かつ、雄スプライン歯23aと同一ピッチで配置されている。このため、樹脂雄スプライン歯32aと雄スプライン歯23aとの円周方向に関する位相は、互いに一致している。
【0044】
樹脂雄スプライン歯32aの歯厚及び歯丈は、軸方向にわたり一定である。具体的には、樹脂雄スプライン歯32aの歯厚は、雄スプライン歯23aの歯幅に、樹脂コーティング層31の2倍の厚さを加えたものに等しい。また、樹脂雄スプライン歯32aの歯丈は、雄スプライン歯23aの歯丈に、樹脂コーティング層31の厚さを加えたものに等しい。このため、樹脂雄スプライン歯32aの歯先面、歯底面及び側面のそれぞれは、樹脂コーティング層31により覆われた状態の雄スプライン歯23aの歯先面、歯底面及び側面のそれぞれと、軸方向に滑らかにつながっている。したがって、インナシャフト18の中心軸に直交する仮想平面に関して、樹脂雄スプライン部32の断面輪郭形状は、樹脂コーティング層31の断面輪郭形状と同じである。
【0045】
樹脂雄スプライン部32の軸方向寸法L
32は、ステアリングホイール2の前後位置を、
図7の(B)に示すように、ドライバー操作範囲Xである前後位置調整範囲内で最も前方に位置させた状態から、
図7の(C)に示すように、ステアリングホイール2をダッシュボードなどに格納できるまで前方に移動させるのに必要な長さ寸法に規制されている。樹脂雄スプライン部32の軸方向寸法L
32は、非スプライン部24の軸方向寸法L
24と同じであり(L
32=L
24)、具体的には90mm~130mm程度である。
【0046】
なお、図示の例では、樹脂雄スプライン部32の軸方向寸法L32は、樹脂コーティング層31の軸方向寸法L31よりも少しだけ大きい。ただし、本発明を実施する場合には、樹脂雄スプライン部の軸方向寸法(=非スプライン部の軸方向寸法)を、樹脂コーティング層の軸方向寸法(=雄スプライン部の軸方向寸法)よりも、十分に大きくすることもできるし、小さくすることもできる。また、樹脂雄スプライン部の軸方向寸法(=非スプライン部の軸方向寸法)と、樹脂コーティング層の軸方向寸法(=雄スプライン部の軸方向寸法)とを、同じにすることもできる。樹脂雄スプライン部32の軸方向寸法L32の下限値は、90mm程度である。
【0047】
本例では、樹脂コーティング層31により覆われた雄スプライン部23が、スプライン22の軸方向一方側の半部を構成し、樹脂雄スプライン部32が、スプライン22の軸方向他方側の半部を構成している。したがって、スプライン22の軸方向一方側の半部は、表面のみが合成樹脂製で内部が金属製であるのに対し、スプライン22の軸方向他方側の半部は、表面から内部に至るまで合成樹脂製である。
【0048】
(アウタシャフト)
アウタシャフト19は、中空円筒形状を有している。アウタシャフト19は、インナシャフト18の後側に配置されている。アウタシャフト19は、前側半部に小径筒部33を有し、かつ、後側半部に大径筒部34を有する。アウタシャフト19は、小径筒部33の内周面に、雌スプライン部35を有する。アウタシャフト19の後側の端部には、ステアリングホイール2が固定される。
【0049】
雌スプライン部35は、円周方向に関する凹凸形状を有している。雌スプライン部35は、アウタシャフト19の軸方向に伸長する複数の雌スプライン歯35aを、円周方向に等ピッチで配置することで構成されている。雌スプライン歯35aの歯厚及び歯丈は、軸方向端部に備えられた面取り部を除き、軸方向にわたり一定である。
【0050】
雌スプライン部35の軸方向寸法は、樹脂被覆部21の軸方向寸法L21(=L31+L32)よりも短い。具体的には、雌スプライン部35の軸方向寸法は、たとえば樹脂コーティング層31の軸方向寸法L31の1.5倍~2倍程度である。
【0051】
大径筒部34は、雌スプライン歯35aの歯底円直径よりも大きな内径を有している。
【0052】
アウタシャフト19に備えられた雌スプライン部35は、インナシャフト18に備えられたスプライン22にスプライン係合している。これにより、アウタシャフト19は、ステアリングホイール2とともに、インナシャフト18に対して前後方向に相対移動し、ステアリングシャフト12を伸縮させる。
【0053】
特に本例では、ステアリングホイール2の前後位置に応じて、インナシャフト18とアウタシャフト19とのスプライン係合態様が切り替わる。以下、
図7を用いて具体的に説明する。
なお、
図7の(A)は、ステアリングホイール2の前後位置をドライバー操作範囲Xのうちで最も後方に移動させた状態を示しており、
図7の(B)は、ステアリングホイール2の前後位置をドライバー操作範囲Xのうちで最も前方に移動させた状態を示している。
図7の(C)は、ステアリングホイール2の前後位置をドライバー非操作範囲Yのうちで最も前方に移動させた状態を示している。
【0054】
図7の(A)及び(B)に示すように、運転者からステアリングホイール2までの距離が近く、ステアリングホイール2の前後位置が、運転者がステアリングホイール2の操作を行うドライバー操作範囲Xに位置している場合には、雌スプライン部35は、スプライン22の軸方向一方側の半部を構成する雄スプライン部23と、樹脂コーティング層31を介して十分な係合代で、好ましくは全長にわたって、スプライン係合する。このため、ドライバー操作範囲Xでは、インナシャフト18とアウタシャフト19との間で、比較的に大きなトルクを伝達することが可能になる。したがって、運転者からステアリングホイール2に入力されるトルク、及び、反力発生装置11が発生するトルクを、インナシャフト18とアウタシャフト19との間で伝達することが可能となる。なお、ステアリング装置にアシスト装置を備える場合には、アシスト装置が発生するトルクを、インナシャフトとアウタシャフトとの間で伝達することもできる。
【0055】
なお、雌スプライン部35は、ドライバー操作範囲においても、樹脂雄スプライン部32の軸方向一方側部分とスプライン係合する可能性がある。ただし、この場合における、雌スプライン部35と樹脂雄スプライン部32との係合代は十分に小さく、雌スプライン部35と雄スプライン部23とが十分な係合代でスプライン係合しているため、樹脂雄スプライン部32に大きなトルクが伝達されることはない。
【0056】
図7の(C)に示すように、運転者からステアリングホイール2までの距離が遠く、ステアリングホイール2の前後位置が、運転者がステアリングホイール2の操作を行わないドライバー非操作範囲Yに位置している場合には、雌スプライン部35は、スプライン22の軸方向他方側の半部を構成する樹脂雄スプライン部32と十分な係合代でスプライン係合する。このため、ドライバー非操作範囲Yでは、インナシャフト18とアウタシャフト19との間で大きなトルクを伝達することはできないが、インナシャフト18とアウタシャフト19とを軸方向に相対変位させることは可能になる。なお、雌スプライン部35が樹脂雄スプライン部32と係合する際には、樹脂コーティング層31により覆われた雄スプライン部23は、大径筒部34の内側に挿入される。
【0057】
(インナシャフトの製造方法)
本例のインナシャフト18は、たとえば以下のような製造方法により製造することができる。
【0058】
先ず、炭素鋼などの金属製で円柱状の素材に切削加工を施した後、冷間鍛造、ホブ加工及び転造加工などの塑性加工(スプライン加工)を施す。これにより、
図6に示すように、軸方向一方側から順に、雄スプライン部23、非スプライン部24、露出軸部25を有する、シャフト本体20を造る。
【0059】
その後、シャフト本体20の外周面に、インジェクション成形により、樹脂被覆部21を形成する工程を行う。このために、シャフト本体20のうち、非スプライン部24から軸方向一方側に存在する部分を、金型36のキャビティ37内に配置する。具体的には、
図8に示すように、シャフト本体20のうちの雄スプライン部23及び非スプライン部24を、金型36のキャビティ37内に配置する。
【0060】
金型36は、第1金型38と第2金型39とを組み合わせて成り、内面にスプライン成形部40を有する。スプライン成形部40は、円周方向に関する凹凸形状を有しており、樹脂コーティング層31及び樹脂雄スプライン部32のそれぞれの断面輪郭形状に合致する輪郭形状を有している。
【0061】
本例では、シャフト本体20のうちの雄スプライン部23及び非スプライン部24を、金型36のキャビティ37内に配置する際に、露出軸部25に備えられた雄ストッパ部27を利用して、雄スプライン部23とスプライン成形部40との円周方向に関する位相を一致させる。具体的には、雄ストッパ部27を構成する雄側溝部27bの一箇所乃至複数箇所に、第1金型38又は/及び第2金型39を係合させることで、雄スプライン部23とスプライン成形部40との間の隙間を全周にわたり均一にする。
【0062】
その後、第1金型38に備えられたゲート41を通じて、溶融樹脂をキャビティ37内に注入する。そして、溶融樹脂をキャビティ37内で固化させる。これにより、固化した溶融樹脂により樹脂被覆部21を形成する。つまり、シャフト本体20の外周面のうちで、雄スプライン部23及び非スプライン部24を覆うように、樹脂被覆部21を形成する。本例では、このようにして、シャフト本体20と樹脂被覆部21とからなるインナシャフト18を製造する。
【0063】
《ステアリングコラム》
ステアリングコラム13は、全長を伸縮可能に構成されており、図示しない車体に支持されている。ステアリングコラム13は、ブラケット42と、コラム本体43とを備える。本例のステアリングコラム13は、前後方向の伸縮ストローク量を大きく確保するために、2段式の伸縮構造を有している。
【0064】
ブラケット42は、コラム本体43を車体に支持するためのもので、車体に固定される固定ブラケット44と、該固定ブラケット44に対して前後方向の相対変位を可能に支持された変位ブラケット45とを備える。
【0065】
固定ブラケット44は、略矩形平板状の固定板部46と、略U字形状の固定側支持フレーム47とを備える。固定板部46は、複数本の取付ボルト48を利用して車体に固定される。固定側支持フレーム47は、固定板部46の前側の端部に備えられており、固定板部46の幅方向両側の端部を連結している。
【0066】
変位ブラケット45は、固定板部46の下面に重ねられるように配置された変位板部49と、略U字形状の変位側支持フレーム50とを備える。変位板部49は、リニアガイド51を利用して、固定板部46に対し前後方向の相対変位を可能に支持されている。変位側支持フレーム50は、変位板部49の後側の端部に備えられており、変位板部49の幅方向両側の端部を連結している。変位側支持フレーム50を構成する左右1対の支持壁部52のうち、一方の支持壁部52の内側面には、チルト用アクチュエータ16を構成するチルト用送りねじ装置70の図示しないねじ軸が、軸方向を上下方向に向けて、回転自在に支持されている。
【0067】
コラム本体43は、全体が略円筒状に構成されており、軸方向を前後方向に向けて配置されている。コラム本体43は、前後方向中間部に配置されたアウタコラム53と、該アウタコラム53の前側部に内嵌されたロア側インナコラム54と、該アウタコラム53の後側部に内嵌されたアッパ側インナコラム55とを備える。
【0068】
アウタコラム53は、変位ブラケット45に対し上下方向の移動を可能に支持されている。アウタコラム53の後側部は、変位ブラケット45を構成する変位側支持フレーム50の内側を前後方向に挿通している。アウタコラム53の後側部の外周面には、チルト用アクチュエータ16を構成するチルト用送りねじ装置70の図示しないナットが枢支されている。アウタコラム53は、下面の前後方向中間部に、前後方向に伸長したスリット56(
図3参照)を有する。アウタコラム53は、外周面の複数箇所に、ねじ孔57を有する。ねじ孔57のそれぞれには、先端部がポリアセタール(POM)などの摩擦係数が小さい材料から作られたスクリュープラグ58が螺合されている。
【0069】
ロア側インナコラム54は、アウタコラム53の前側部に対し、前後方向の相対変位を可能に内嵌されている。ロア側インナコラム54の外周面には、アウタコラム53に備えられたねじ孔57に螺合したスクリュープラグ58の先端部が押し当てられている。これにより、アウタコラム53に対するロア側インナコラム54のがたつきが抑制されている。
【0070】
アッパ側インナコラム55は、アウタコラム53の後側部に対し、前後方向の相対変位を可能に内嵌されている。アッパ側インナコラム55の外周面には、アウタコラム53に備えられたねじ孔57に螺合したスクリュープラグ58の先端部が押し当てられている。これにより、アウタコラム53に対するアッパ側インナコラム55のがたつきが抑制されている。
【0071】
〈ロア側テレスコ用アクチュエータ〉
ロア側テレスコ用アクチュエータ14は、固定ブラケット44と変位ブラケット45との間に掛け渡すように配置され、変位ブラケット45を固定ブラケット44に対し前後方向に変位させる。これにより、アウタコラム53とロア側インナコラム54とを前後方向に相対変位させ、コラム本体43を伸縮させる。
【0072】
ロア側テレスコ用アクチュエータ14は、ロア側テレスコ用モータ59と、ロア側送りねじ装置60とを備える。
【0073】
ロア側テレスコ用モータ59は、図示しないモータ出力軸を上下方向に向けて、固定ブラケット44を構成する固定側支持フレーム47の幅方向の側面に支持固定されている。
【0074】
ロア側送りねじ装置60は、
図2に示すように、ロア側ねじ軸61と、ロア側ナット62とを備える。ロア側ねじ軸61は、軸方向を前後方向に向けて配置されており、図示しないウォーム減速機などの減速機構を介して、ロア側テレスコ用モータ59により回転駆動される。ロア側ねじ軸61は、固定ブラケット44に対し回転のみ可能に支持されている。ロア側ナット62は、ロア側ねじ軸61に螺合しており、変位ブラケット45の幅方向の側面に対して支持されている。すなわち、ロア側テレスコ用アクチュエータ14は、ロア側テレスコ用モータ59を回転駆動することにより、ロア側ナット62をロア側ねじ軸61の軸方向に変位させることで、アウタコラム53をロア側インナコラム54に対し前後方向に相対変位させる。
【0075】
〈アッパ側テレスコ用アクチュエータ〉
アッパ側テレスコ用アクチュエータ15は、アウタコラム53とアッパ側インナコラム55との間に掛け渡すように配置され、アッパ側インナコラム55をアウタコラム53に対し前後方向に変位させる。これにより、コラム本体43を伸縮させる。
【0076】
アッパ側テレスコ用アクチュエータ15は、アッパ側テレスコ用モータ63と、アッパ側送りねじ装置64とを備える。
【0077】
アッパ側テレスコ用モータ63は、図示しないモータ出力軸を幅方向に向けて、アウタコラム53の前側の端部の下方に支持されている。
【0078】
アッパ側送りねじ装置64は、アッパ側ねじ軸65と、アッパ側ナット66とを備える。アッパ側ねじ軸65は、軸方向を前後方向に向けて配置されており、図示しないウォーム減速機などの減速機構を介して、アッパ側テレスコ用モータ63により回転駆動される。アッパ側ねじ軸65は、アウタコラム53に対し回転のみ可能に支持されている。アッパ側ナット66は、アッパ側ねじ軸65に螺合しており、アッパ側インナコラム55の下面に対してコネクタ部材67を介して支持されている。コネクタ部材67は、アウタコラム53のスリット56の内側に配置され、アッパ側インナコラム55の下面に固定されている。すなわち、アッパ側テレスコ用アクチュエータ15は、アッパ側テレスコ用モータ63を回転駆動することにより、アッパ側ナット66をアッパ側ねじ軸65の軸方向に変位させることで、アッパ側インナコラム55をアウタコラム53に対し前後方向に相対変位させる。
【0079】
〈チルト用アクチュエータ〉
チルト用アクチュエータ16は、変位ブラケット45を構成する変位側支持フレーム50とアウタコラム53との間に掛け渡すように配置され、アウタコラム53を変位ブラケット45に対し上下方向に変位させる。また、後述するように、位置調整装置10の前側に接続される反力発生装置11を、固定側支持フレーム47に対し、幅方向に配置された1対の枢支ボルト68により回動可能に支持している。これにより、コラム本体43をブラケット42に対し、枢支ボルト68を中心として上下方向に揺動させることが可能になる。
【0080】
チルト用アクチュエータ16は、チルト用モータ69と、チルト用送りねじ装置70とを備える。
【0081】
チルト用モータ69は、図示しないモータ出力軸を前後方向に向けて、変位側支持フレーム50を構成する一方の支持壁部52に固定されている。
【0082】
チルト用送りねじ装置70は、図示しないチルト用ねじ軸と、チルト用ナットとを備える。チルト用ねじ軸は、軸方向を上下方向に向けて配置されており、図示しないウォーム減速機などの減速機構を介して、チルト用モータ69により回転駆動される。チルト用ねじ軸は、一方の支持壁部52に対し回転のみ可能に支持されている。チルト用ナットは、チルト用ねじ軸に螺合しており、アウタコラム53の幅方向の側面に枢支されている。すなわち、チルト用アクチュエータ16は、チルト用モータ69を回転駆動することにより、チルト用ナットをチルト用ねじ軸の軸方向に変位させることで、アウタコラム53を変位ブラケット45に対し上下方向に相対変位させる。
【0083】
《ステアリングホイールの位置調整方法》
本例の位置調整装置10により、ステアリングホイール2の前後位置を調整するには、ロア側テレスコ用アクチュエータ14又は/及びアッパ側テレスコ用アクチュエータ15を駆動する。そして、ロア側テレスコ用アクチュエータ14を駆動した場合には、変位ブラケット45を固定ブラケット44に対し前後方向に相対変位させ、アウタコラム53をロア側インナコラム54に対して前後方向に相対変位させる。これに対し、アッパ側テレスコ用アクチュエータ15を駆動した場合には、アッパ側インナコラム55をアウタコラム53に対して前後方向に相対変位させる。これにより、ステアリングコラム13の全長を伸縮させるとともに、ステアリングシャフト12の全長を伸縮させることで、ステアリングホイール2の前後位置をドライバー操作範囲Xである前後位置調整範囲内で調整する。ステアリングホイール2の前後位置を所望の位置に調整した後は、ロア側テレスコ用アクチュエータ14又は/及びアッパ側テレスコ用アクチュエータ15の駆動を停止する。
【0084】
本例の位置調整装置10により、ステアリングホイール2の上下位置を調整するには、チルト用アクチュエータ16を駆動して、アウタコラム53の後側部分を変位ブラケット45に対し上下方向に変位させる。これにより、コラム本体43の内側に回転自在に支持されたステアリングシャフト12を揺動させ、ステアリングホイール2の上下位置を調整する。ステアリングホイール2の上下位置を所望の位置に調整した後は、チルト用アクチュエータ16の駆動を停止する。
なお、ステアリングホイール2の前後位置の調整と上下位置の調整とは、同時に行うこともできるし、独立して(時間的に前後して)行うこともできる。
【0085】
さらに、本例の位置調整装置10により、自動運転中に、ステアリングホイール2を前方に大きく退避させて、ステアリングホイール2を、ダッシュボードに格納する、又は運転者から遠ざけて配置するには、ロア側テレスコ用アクチュエータ14及びアッパ側テレスコ用アクチュエータ15のそれぞれを駆動する。これにより、変位ブラケット45を固定ブラケット44に対し前方に相対変位させ、アウタコラム53をロア側インナコラム54に対して前方に相対変位させるとともに、アッパ側インナコラム55をアウタコラム53に対して前方に相対変位させる。そして、ステアリングコラム13の全長を縮めるとともに、ステアリングシャフト12の全長を縮めることで、ステアリングホイール2を前方に大きく退避させる。ステアリングホイール2を前方に大きく退避させた後は、ロア側テレスコ用アクチュエータ14及びアッパ側テレスコ用アクチュエータ15のそれぞれの駆動を停止する。
【0086】
〈反力発生装置〉
反力発生装置11は、位置調整装置10の前方に配置されており、位置調整装置10に対して固定されている。反力発生装置11は、制御装置6によって制御されており、ステアリングホイール2の舵角や車速などの運転状況に応じた大きさ及び方向の操舵反力を、ステアリングホイール2に付与する。
【0087】
反力発生装置11は、ギヤハウジング71と、反力付与モータ72と、ウォーム減速機73と、出力シャフト28と、トーションバー30とを備える。
【0088】
ギヤハウジング71は、位置調整装置10を構成するロア側インナコラム54の前側の端部に固定されている。また、ギヤハウジング71の内側には、ステアリングシャフト12を構成するインナシャフト18の前側の端部が挿入されている。これにより、ギヤハウジング71の内側に、インナシャフト18の前側の端部に備えられた雄ストッパ部27が配置されている。
【0089】
反力付与モータ72は、ギヤハウジング71に対して支持固定されている。反力付与モータ72の回転は、ウォーム減速機73、出力シャフト28及びトーションバー30を介して、ステアリングシャフト12に伝達される。
【0090】
ウォーム減速機73は、ウォームと、ウォームホイール75とを備える。ウォームは、反力付与モータ72の図示しないモータ出力軸に接続されている。ウォームホイール75は、出力シャフト28に外嵌されている。
【0091】
出力シャフト28は、軸方向を前後方向に向けて配置され、ギヤハウジング71の内側に回転自在に支持されている。出力シャフト28は、ステアリングシャフト12を構成するインナシャフト18と同軸に配置されている。出力シャフト28は、インナシャフト18に対し、トーションバー30を介して連結されている。インナシャフト18の前側の端部の周囲には、運転者からステアリングホイール2に入力された操舵トルクを測定するためのトルクセンサ7が配置されている。
【0092】
反力発生装置11により、ステアリングホイール2に操舵反力を付与するには、たとえば、操舵トルク、操舵角、車速などの運転状況を示す各種信号に基づいて、制御装置6により反力付与モータ72を駆動する。反力付与モータ72の回転は、ウォーム減速機73を介して出力シャフト28に伝達され、トーションバー30及びステアリングシャフト12を介して、ステアリングホイール2に操舵反力として付与される。
【0093】
以上のような本例のステアリング装置1を構成するインナシャフト18によれば、重量の増大を抑制しつつ、ステアリングシャフト12の伸縮ストローク量を大きくすることができ、かつ、全ストローク範囲で、ステアリングシャフト12の伸縮動作時における摺動抵抗の低減を図れる。
【0094】
すなわち、本例では、インナシャフト18の外周面に備えられたスプライン22のうちで、ステアリングホイール2の前後位置がドライバー操作範囲Xに位置している場合に、雌スプライン部35とスプライン係合する部分にのみ、金属製の雄スプライン部23を設けている。スプライン22のうちで、ステアリングホイール2の前後位置がドライバー非操作範囲Yに位置している場合に、雌スプライン部35とスプライン係合する部分には、金属製の雄スプライン部23を設けずに、雄スプライン部23の周囲に形成された樹脂コーティング層31の断面輪郭形状と同じ断面輪郭形状を有する合成樹脂製の樹脂雄スプライン部32を設けている。また、このような樹脂雄スプライン部32を、雄スプライン部23よりも断面積の小さい非スプライン部24の周囲に形成している。
【0095】
したがって、本例によれば、雄スプライン部23の全長を長くする場合に比べて、インナシャフト18の重量の増大を抑制しつつ、ステアリングシャフト12の伸縮ストローク量を大きくできる。さらに、ステアリングホイール2の前後位置がドライバー操作範囲Xに位置している場合には、雄スプライン部23と雌スプライン部35とを樹脂コーティング層31を介してスプライン係合させることができる。また、ステアリングホイール2の前後位置がドライバー非操作範囲Yに位置している場合には、樹脂雄スプライン部32と雌スプライン部35とをスプライン係合させることができる。したがって、ステアリングシャフト12の全ストローク範囲で、ステアリングシャフト12の伸縮動作時における摺動抵抗の低減を図ることができる。さらに、本例では、雄スプライン部23の全長を長くする必要がないため、インナシャフト18の加工コストの上昇を抑えることもできる。
【0096】
また、本例では、インナシャフト18を製造する際に、トーションバー30の過大な捩れを防止するための雄ストッパ部27を利用して、シャフト本体20と金型36との位相合わせを行うことができる。このため、シャフト本体20に、位相合わせを行うための専用部位を設ける必要がないので、インナシャフト18の製造コストの低減を図れる。
【0097】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図10及び
図11を用いて説明する。
【0098】
本例では、インナシャフト18aの構造のみを、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0099】
本例のインナシャフト18aを構成するシャフト本体20aは、軸方向一方側から順に、小径軸部76と、雄スプライン部23と、非スプライン部24と、露出軸部25とを有する。小径軸部76は、雄スプライン部23の軸方向一方側に隣接して配置されており、シャフト本体20aの軸方向一方側の端部に備えられている。
【0100】
小径軸部76は、雄スプライン部23の歯底円直径dbよりも小さい外径D76を有している(db<D76)。本例では、小径軸部76は、円形の断面形状を有している。つまり、小径軸部76は、非スプライン部24の外径D24よりも小さい外径D76を有する、丸棒形状を有している。本発明を実施する場合に、小径軸部の断面形状と非スプライン部の断面形状とを互いに異ならせることもできる。また、小径軸部76の軸方向寸法は、雄スプライン部23の軸方向寸法よりも十分に短い。
【0101】
樹脂被覆部21aは、シャフト本体20aのうちで、雄スプライン部23及び非スプライン部24だけでなく、小径軸部76を覆っている。樹脂被覆部21aは、小径軸部76の周囲に、樹脂抜け止め部77を有する。
【0102】
樹脂抜け止め部77は、小径軸部76の円筒面状の表面全体を覆っている。樹脂抜け止め部77は、雄スプライン部23を覆った樹脂コーティング層31の軸方向一方側に隣接して配置されており、樹脂コーティング層31と軸方向につながっている。このため、樹脂抜け止め部77と樹脂コーティング層31と樹脂雄スプライン部32とは、一体に構成されている。樹脂抜け止め部77の軸方向寸法は、小径軸部76の軸方向寸法と同じである。
【0103】
樹脂抜け止め部77は、インナシャフト18aの軸方向に伸長する複数の樹脂歯77aを、円周方向に等ピッチで配置することで構成されている。樹脂歯77aは、金属製の雄スプライン歯23aと同数備えられており、かつ、雄スプライン歯23aと同一ピッチで配置されている。このため、樹脂歯77aと雄スプライン歯23aとの円周方向に関する位相は、互いに一致している。
【0104】
樹脂歯77aの歯厚及び歯丈は、軸方向にわたり一定である。具体的には、樹脂歯77aの歯厚は、樹脂雄スプライン歯32aの歯幅に等しい。また、樹脂歯77aの歯丈は、樹脂雄スプライン歯32aの歯丈に等しい。このため、樹脂歯77aの歯先面、歯底面及び側面のそれぞれは、樹脂コーティング層31により覆われた状態の雄スプライン歯23aの歯先面、歯底面及び側面のそれぞれと、軸方向に滑らかにつながっている。したがって、インナシャフト18の中心軸に直交する仮想平面に関して、樹脂抜け止め部77の断面輪郭形状は、樹脂コーティング層31及び樹脂雄スプライン部32のそれぞれの断面輪郭形状と同じである。このため、樹脂歯77aは、スプライン22aの軸方向一方側の端部を構成している。ただし、本発明を実施する場合に、樹脂抜け止め部の外周面から樹脂歯を省略することもできる。
【0105】
以上のような本例のインナシャフト18aについても、実施の形態の第1例と同様の製造方法(インジェクション成形)により製造することができる。
【0106】
本例では、シャフト本体20aの軸方向一方側の端部に、雄スプライン部23の歯底円直径よりも外径の小さい小径軸部76を設け、該小径軸部76の周囲に樹脂抜け止め部77を形成している。このため、樹脂抜け止め部77の軸方向他方側の端面を、雄スプライン部23の軸方向一方側の端面に突き当てることで、樹脂被覆部21aが、シャフト本体20aに対して軸方向他方側に抜け出る(相対変位する)ことを有効に防止できる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0107】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、
図12を用いて説明する。
【0108】
本例では、シャフト本体20bの構造のみを、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0109】
本例のシャフト本体20bは、露出軸部25を構成する延長軸部26の円周方向一部に、位相決め凹部78を有する。
【0110】
本例のインナシャフト18bを製造する際には、延長軸部26に備えられた位相決め凹部78に、第1金型38aに備えられた位相決め凸部79を凹凸係合させた状態で、シャフト本体20bのうちの雄スプライン部23及び非スプライン部24を、金型36aのキャビティ37内に配置する。これにより、シャフト本体20bと金型36aとの位相合わせを行う。
【0111】
以上のような本例では、シャフト本体20bの軸方向他方側の端部に備えられた雄ストッパ部27ではなく、シャフト本体20bの軸方向中間部に備えられた位相決め凹部78を利用して金型36aに対する位相決めを行うことができる。このため、金型36aの小型化を図ることができる。したがって、インナシャフト18bの製造コストの低減を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0112】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、
図13を用いて説明する。
【0113】
本例では、インナシャフト18の製造方法のみが、実施の形態の第1例の製造方法と異なる。
【0114】
本例の場合にも、先ず、炭素鋼などの金属製で円柱状の素材に切削加工を施した後、冷間鍛造、ホブ加工及び転造加工などの塑性加工(スプライン加工)を施す。これにより、
図14の下側から順に、雄スプライン部23、非スプライン部24、露出軸部25を有する、シャフト本体20を製造する。
【0115】
その後、流動浸漬法及び切削加工を施すことで、シャフト本体20の外周面に樹脂被覆部21を形成する工程を行う。このために先ず、
図14の(A)に示すように、シャフト本体20のうちの雄スプライン部23及び非スプライン部24を、溶融した合成樹脂である溶融樹脂80の中に浸漬する工程を行う。これにより、
図14の(B)に示すように、シャフト本体20の外周面の下側半部に、樹脂被覆中間材81を形成する。
【0116】
その後、樹脂被覆中間材81の外周面に、シェービング加工やブローチ加工などの切削加工を施すことで、樹脂被覆中間材81から樹脂被覆部21を形成する工程を行う。このために、
図14の(C)に示すように、下側半部が樹脂被覆中間材81により覆われたシャフト本体20を、切削加工設備82にセットする。この際、露出軸部25に備えられた雄ストッパ部27を利用して、切削工具83の内周面に備えられた凹凸形状のスプライン加工部84と雄スプライン部23との円周方向に関する位相を一致させる。具体的には、雄ストッパ部27を構成する雄側溝部27bの一箇所乃至複数箇所に、切削加工設備82に備えられた位相決めピン85を係合させることで、雄スプライン部23とスプライン加工部84との位相を一致させる。
【0117】
その後、切削工具83を、シャフト本体20に対して
図14の上側に相対移動させることで、切削工具83の内周面に備えられたスプライン加工部84により、樹脂被覆中間材81の外周面を切削する。これにより、樹脂被覆中間材81の外周面にスプライン22を加工して、樹脂被覆部21を形成する。本例では、このようにして、シャフト本体20と樹脂被覆部21とからなるインナシャフト18を製造する。
【0118】
以上のような製造方法によりインナシャフト18を製造する本例では、実施の形態の第1例の製造方法のように、金型を使用する必要がないため、インナシャフト18の製造コストの低減を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0119】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0120】
実施の形態の各例においては、インナシャフトのシャフト本体を構成する非スプライン部が、円形の断面形状を有する場合について説明したが、本発明を実施する場合には、非スプライン部の断面形状は、円形に限らず、欠円形、多角形、歯車形など、非円形とすることもできる。このように、非スプライン部の断面形状を、非円形とした場合には、非スプライン部に対して樹脂雄スプライン部が相対回転することを有効に防止できる。また、非スプライン部の外周面の円周方向一部又は複数箇所に、突起部又は/及び凹溝部を設けることで、非スプライン部に対する樹脂雄スプライン部の相対回転を防止することもできる。
【0121】
本発明は、ステアバイワイヤ式のステアリング装置に限らず、リトラクタブル式のステアリング装置に適用することもできる。また、本発明は、ステアリングホイールを電動式に移動させる構造に限らず、ステアリングホイールを手動式に移動させる構造に適用することもできる。
【符号の説明】
【0122】
1 ステアリング装置
2 ステアリングホイール
3 操舵ユニット
4 操舵輪
5 転舵ユニット
6 制御装置
7 トルクセンサ
8 転舵用アクチュエータ
9 タイロッド
10 位置調整装置
11 反力発生装置
12 ステアリングシャフト
13 ステアリングコラム
14 ロア側テレスコ用アクチュエータ
15 アッパ側テレスコ用アクチュエータ
16 チルト用アクチュエータ
17a、17b 転がり軸受
18、18a、18b インナシャフト
19 アウタシャフト
20、20a、20b シャフト本体
21 樹脂被覆部
22、22a スプライン
23 雄スプライン部
23a 雄スプライン歯
24 非スプライン部
25 露出軸部
26 延長軸部
27 雄ストッパ部
27a 雄側歯部
27b 雄側溝部
28 出力シャフト
29 雌ストッパ部
30 トーションバー
31 樹脂コーティング層
32 樹脂雄スプライン部
32a 樹脂雄スプライン歯
33 小径筒部
34 大径筒部
35 雌スプライン部
35a 雌スプライン歯
36、36a 金型
37 キャビティ
38、38a 第1金型
39 第2金型
40 スプライン成形部
41 ゲート
42 ブラケット
43 コラム本体
44 固定ブラケット
45 変位ブラケット
46 固定板部
47 固定側支持フレーム
48 取付ボルト
49 変位板部
50 変位側支持フレーム
51 リニアガイド
52 支持壁部
53 アウタコラム
54 ロア側インナコラム
55 アッパ側インナコラム
56 スリット
57 ねじ孔
58 スクリュープラグ
59 ロア側テレスコ用モータ
60 ロア側送りねじ装置
61 ロア側ねじ軸
62 ロア側ナット
63 アッパ側テレスコ用モータ
64 アッパ側送りねじ装置
65 アッパ側ねじ軸
66 アッパ側ナット
67 コネクタ部材
68 枢支ボルト
69 チルト用モータ
70 チルト用送りねじ装置
71 ギヤハウジング
72 反力付与モータ
73 ウォーム減速機
75 ウォームホイール
76 小径軸部
77 樹脂抜け止め部
77a 樹脂歯
78 位相決め凹部
79 位相決め凸部
80 溶融樹脂
81 樹脂被覆中間材
82 切削加工設備
83 切削工具
84 スプライン加工部
85 位相決めピン