(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182230
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】テザーに接続されて空中に飛揚される飛行体の姿勢制御装置
(51)【国際特許分類】
B64C 31/06 20200101AFI20231219BHJP
B64C 13/18 20060101ALI20231219BHJP
B64D 45/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
B64C31/06
B64C13/18 Z
B64D45/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095714
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】深川 建
(57)【要約】
【課題】 カイトシステムに於けるカイトの如きテザー2に接続されて空中に飛揚している飛行体1の姿勢の制御に於いて、飛行体の姿勢が安定した状態でのデバイス3、4の作動を回避して無駄なエネルギーの消費を抑制する。
【解決手段】 テザー2に接続されて空中に飛揚される飛行体1の姿勢制御装置は、飛行体の姿勢を表わす姿勢状態量を検出するセンサ手段と、センサ手段により検出された姿勢状態量がその目標値に近づくように制御デバイスを作動するデバイス制御手段とを含み、デバイス制御手段が、検出された姿勢状態量が目標値を含む所定の範囲内にあるときには、制御デバイスを変動させないよう構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テザーに接続されて空中に飛揚される飛行体の姿勢制御装置であって、
前記飛行体の姿勢を表わす姿勢状態量を検出するセンサ手段と、
前記センサ手段により検出された姿勢状態量がその目標値に近づくように制御デバイスを作動するデバイス制御手段と
を含み、
前記デバイス制御手段が、前記検出された姿勢状態量が前記目標値を含む所定の範囲内にあるときには、前記制御デバイスを変動させないよう構成されている装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上空にカイト(凧)の如き飛行体を係留するカイトシステムに係り、より詳細には、カイトシステムに於ける飛行体の姿勢を制御する装置に係る。
【背景技術】
【0002】
上空にカイトなどの飛行体を飛揚し、風力発電などを行うカイトシステムの利用が検討されている(例えば、特許文献1)。カイトシステムに於ける飛行体は、その飛揚及び滞空のためのエネルギーとして、主として高高度域に流れる偏西風或いは貿易風等の気流エネルギーを利用することとなるので、省エネルギーの観点から極めて有利である。また、そのようなカイトシステムに於ける飛行体の姿勢の制御は、特許文献1にも例示されている如く、地上から飛行体へ接続される複数本のテザーの張力のバランスを変更したり、飛行体の形状を適宜変更することによって可能である。なお、カイトに接続されているようなテザーなしで、上空に飛揚する飛行体の姿勢制御については、例えば、特許文献2、3などに記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-94521
【特許文献2】特開平6-227498
【特許文献3】特開2003-160099
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如きカイトシステムに於けるカイトの如きテザーに接続されて飛揚している飛行体の姿勢の制御は、典型的には、飛行体に搭載されたセンサにより検知される姿勢角、角速度、加速度などの飛行体の動きに対応して、飛行体上の空気流を変更するスポイラなどのデバイスや、テザーから飛行体へ作用する張力のバランスを調節するプライドルなどのデバイスを作動することにより行われる。この点に関し、飛行体に於いて、飛行体の受けている風力とテザーからの張力とがほぼつり合い、上空で略静止している状態、或いは、その動きが準静的である場合、飛行体自体は、速度を持っていない状態、即ち、速度が略0である状態であるので、飛行体が安定的に飛揚している状態でも、風の多少の変動を受けると、或る程度の姿勢のふらつきが生ずることとなる。また、カイトの如き飛行体は、柔軟な或いは弾性変形し易い構造であるので、飛行体の動きを検知するセンサの取り付け部分の剛性が弱く、多少の風の変動等により、飛行体の動きとは別に、センサが変位や振動を検知することがある。即ち、カイトシステムに於けるカイトやバルーンの如き飛行体の場合、その安定性を損なうことの無いレベルの外乱による運動が発生したとき、その姿勢が安定した状態でも、センサ値の変動が現れ易い。そのような姿勢が安定した状態でのセンサ値の変動に応答して姿勢の制御のデバイスを作動する場合、無駄なエネルギーの消費となるので、そのようなデバイスの作動は回避できることが好ましい。
【0005】
かくして、本発明の課題は、カイトシステムに於けるカイトの如きテザーに接続されて空中に飛揚している飛行体の姿勢の制御に於いて、飛行体の姿勢が安定した状態でのデバイスの作動を回避して無駄なエネルギーの消費を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記の課題は、テザーに接続されて空中に飛揚される飛行体の姿勢制御装置であって、
前記飛行体の姿勢を表わす姿勢状態量を検出するセンサ手段と、
前記センサ手段により検出された姿勢状態量がその目標値に近づくように制御デバイスを作動するデバイス制御手段と
を含み、
前記デバイス制御手段が、前記検出された姿勢状態量が前記目標値を含む所定の範囲内にあるときには、前記制御デバイスを変動させないよう構成されている装置によって達成される。
【0007】
上記の構成に於いて、「飛行体」とは、カイトシステムのカイトやバルーンなどのテザーに接続されて空中に飛揚される任意の形式の飛行体であってよい。テザーは、本装置の制御対象である飛行体と地上の施設又は別の飛行体との間を接続するテザー(ロープ)であってよい。「姿勢状態量」とは、飛行体の姿勢角、角速度、加速度などの飛行体の動きを表わす任意の状態量であってよい。姿勢状態量の「目標値」は、任意の態様にて決定された飛行体の姿勢が安定しているときの姿勢状態量の値であってよい。「制御デバイス」は、飛行体に於いて、気流を制御するよう作動するスポイラ、飛行体に作用するテザーからの張力のバランス、向き、大きさを調節する任意の手段(ブライドルなど)であってよい。
【0008】
上記の本発明の装置に於いては、基本的には、飛行体に於いて検出された姿勢状態量がその目標値に一致するように制御デバイスが制御されるところ、検出された姿勢状態量がその目標値を含む所定の範囲内にあるときには、制御デバイスが変動されないようにする。即ち、制御デバイスの作動に於いて、姿勢状態量の変位に対する不感帯が設定される。例えば、制御デバイスがカイトの表面に設けられたスポイラであり、スポイラの開度によって気流が変化する構成の場合には、姿勢状態量の変位が不感帯の範囲内である場合には、スポイラの開度を変更する作動が実行されないようにされる。かかる構成によれば、姿勢状態量に多少の変位があっても、それが、飛行体の姿勢の或る程度の範囲内のふらつきやセンサの取り付け部分の過渡的な小さな変位などによるものであり、飛行体の姿勢の安定性を損なうことの無いレベルの外乱である場合には、制御デバイスの変動は実行されず、これにより、無駄なエネルギーの消費が回避されることとなる。なお、不感帯の大きさ、即ち、姿勢状態量の「目標値を含む所定の範囲」は、飛行体の姿勢の安定性を損なうことがない姿勢状態量の変位の範囲であり、予め、実験等により決定されてよい。
【0009】
上記の本発明の構成に於いて、一つの飛行体に於いて、複数の姿勢状態量が検出され、それぞれの姿勢状態量に対して、別々の制御デバイスの状態が制御される場合には、それぞれ制御デバイスに対して独立に不感帯が設定されていてよい。
【発明の効果】
【0010】
上記の本発明の構成によれば、飛行体の姿勢が準静的である場合に、風の多少の変動による姿勢のフラフラとした動きやセンサの取付部分の剛性の低さに起因する動きなど、通常の線形フィードバック制御では、制御デバイスを動かすこととなっていた状況に於いて、制御デバイスの状態を変化させないこととなるので、かかる制御デバイスの変動に要するエネルギーの消費が回避され、これにより、カイトシステムに要するエネルギーの節約ができることとなる。なお、飛行体又は制御装置を動かしたときに、制御デバイスが作動しない範囲がある場合には、本発明の範囲に属すると理解されるべきである。
【0011】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(A)は、本実施形態が適用されるカイトの模式的な斜視図である。
図1(B)は、本実施形態の制御装置による制御構成をブロック図の形式で表わした図である。
図1(C)は、本実施形態に於けるカイトの状態量の変化に対する制御デバイスの作動量の変化を表わすグラフ図である。
【符号の説明】
【0013】
1…飛行体(カイト)
2、2a…テザー
3…スポイラ
4…ブライドル
W…風
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
カイト(飛行体)の構成
本実施形態の飛行体の姿勢制御装置は、
図1(A)に模式的に描かれている如き、カイトシステムに於けるテザー2に接続されて飛揚されるカイト或いはバルーン(図示せず)の如き飛行体1の姿勢の制御に用いられる。システムに於いて、カイトの如き飛行体1は、図示の如く、空中に於いて、風Wの力を空中に浮揚し、かかる風力と、地上又は別の飛行体との間に接続されたテザー2からの張力Tとのつり合いによって、空中に係留される。そして、飛行体1の姿勢の制御は、飛行体1に取り付けられたモーションセンサにより、姿勢角(ロール角、ヨー角、ピッチ角)、角速度、加速度を検出して、それらの検出値に基づいて、カイト1の表面に取り付けられてその周囲の気流を変化させるスポイラ3の如き空力デバイスを適宜作動すること、或いは、テザー2に取り付けられたブライドル4により、ブライドル4からカイト1の左右の部位へ接続されているテザー2aの長さを調節することなどにより、達成される。
【0015】
上記のカイト1の如き飛行体の高度、位置、姿勢は、既に述べた如き風力Wとテザー2からの張力Tとのつり合いの位置により決定され、特に、風力と張力とが釣り合った状態にあるときには、飛行体の動きは、略静止した状態(準静的な状態)となる。その場合、風力に多少のゆらぎが発生するだけでも、安定性に殆ど影響のないレベルで飛行体の姿勢にふらつきが生じることがある。また、カイトの如き飛行体1は、通常、柔軟な弾性変形する材料で形成されているので、そこに取り付けられたモーションセンサの部位が飛行体1の有意な動きがなくても変位することがある。そのような飛行体の姿勢の安定性に殆ど影響のないレベルでの姿勢のふらつきやモーションセンサの部位の変位に対応して、空力デバイス3やブライドル4などの制御デバイスの状態を変化させることは、無駄であり、また、その分、エネルギーの消費効率を悪化させることとなる。そこで、本実施形態に於いては、かかる安定性に殆ど影響のないレベルでの姿勢のふらつきやモーションセンサの部位の変位があっても、制御デバイスの状態を変動させないように、制御の構成が改良される。
【0016】
姿勢制御の構成と作動
図1(B)を参照して、本実施形態の飛行体1の姿勢制御装置に於いては、飛行体1の姿勢を表わす姿勢状態量(姿勢角(ロール角、ヨー角、ピッチ角)、角速度、加速度)について、飛行体の姿勢が安定しているときのそれらの値を目標値として、任意の態様にて決定する目標値決定部と、かかる目標値決定部からの目標値と、飛行体1に搭載された姿勢状態量を検出するモーションセンサからの検出値とを受容し、検出値が目標値に近づくように、各制御デバイスの変位量を決定し、かかる変位量に対応する制御指令を各制御デバイスへ与える作動制御部とが設けられる。かかる作動制御部に於いて、モーションセンサからの姿勢状態量の目標値と検出値との差から制御デバイスの状態の変化量を決定する際に、
図1(C)に示されている如く、目標値と検出値との差の大きさが所定の範囲内(-Δ~Δ)であるときには、かかる姿勢状態量に於ける差は、安定性に殆ど影響のないレベルでの姿勢のふらつきやモーションセンサの部位の変位によるものと判断し、制御デバイスの状態の変化量を0とする、即ち、制御デバイスの変化量に於いて、姿勢状態量に於ける差に対する不感帯が設定される。具体的には、制御デバイスがスポイラ3である場合、目標値と検出値との差の大きさがあっても、それが不感帯にある場合には、そのときのスポイラ角度が保持されることとなる。また、制御デバイスがブライドル4である場合には、目標値と検出値との差の大きさがあっても、それが不感帯にある場合には、ブライドル4のテザーに於ける位置は保持されることとなる。
【0017】
上記の本実施形態の制御構成によれば、姿勢状態量の目標値と検出値との差の大きさが所定の範囲内である場合、即ち、飛行体の姿勢のふらつきが姿勢の安定性に殆ど影響のないレベルであるとき、或いは、目標値と検出値とのずれがモーションセンサの部位の変位によるものであるときには、制御デバイスの状態を変化させる作動が実行されず、その分、エネルギーが節約されることとなる。なお、所定の範囲内(-Δ~Δ)は、安定性に殆ど影響のないレベルでの姿勢のふらつきが生じたときやモーションセンサの部位の変位が生じたときの姿勢状態量に於ける目標値と検出値との差の大きさの範囲を予め実験的に調べることにより決定されてよい。
【0018】
飛行体1に複数の制御デバイスが搭載されている場合には、それぞれの制御デバイスについて、独立に姿勢状態量に於ける差に対する不感帯が設定されてよい。
【0019】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとって多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。