(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182235
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】水素燃焼器、水素燃焼器システム、ジェットエンジン、及び発電装置
(51)【国際特許分類】
F02C 3/22 20060101AFI20231219BHJP
F02C 7/22 20060101ALI20231219BHJP
F02C 7/232 20060101ALI20231219BHJP
F23R 3/28 20060101ALI20231219BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
F02C3/22
F02C7/22 B
F02C7/232 B
F23R3/28 B
F23R3/28 F
F02C7/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095720
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡井 敬一
(72)【発明者】
【氏名】岡村 直行
(72)【発明者】
【氏名】田口 秀之
(57)【要約】
【課題】幅広い運転範囲で水素火炎を維持することが可能な水素燃焼器、水素燃焼器システム、ジェットエンジン、及び発電装置を提供すること。
【解決手段】本発明の一形態に係る水素燃焼器は、少なくとも1つの燃料噴射器モジュールと、水素供給管とを具備する。前記少なくとも1つの燃料噴射器モジュールは、各々が、空気を旋回させる旋回器を有する空気導入管と、前記空気導入管の内壁に衝突するように前記旋回器を通って旋回する空気に対して略垂直に気体の水素を噴射する水素噴射管と、前記空気と前記水素との混合気体の流路をステップ状に広げる保炎部とを有する複数の燃料噴射器をモジュール化して構成される。前記水素供給管は、前記燃料噴射器モジュールを構成する前記複数の燃料噴射器の前記水素噴射管に複数の供給系統を分けて水素を供給する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が、空気を旋回させる旋回器を有する空気導入管と、前記空気導入管の内壁に衝突するように前記旋回器を通って旋回する空気に対して略垂直に気体の水素を噴射する水素噴射管と、前記空気と前記水素との混合気体の流路をステップ状に広げる保炎部とを有する複数の燃料噴射器をモジュール化した少なくとも1つの燃料噴射器モジュールと、
前記燃料噴射器モジュールを構成する前記複数の燃料噴射器の前記水素噴射管に複数の供給系統を分けて水素を供給する水素供給管と
を具備する水素燃焼器。
【請求項2】
請求項1に記載の水素燃焼器であって、
前記少なくとも1つの燃料噴射器モジュールは、複数の燃料噴射器モジュールを含み、
前記水素供給管は、前記複数の燃料噴射器モジュールの各々について供給系統を分けて前記水素を供給する
水素燃焼器。
【請求項3】
請求項2に記載の水素燃焼器であって、
前記複数の燃料噴射器モジュールは、円環状に配置される
を具備する水素燃焼器。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の水素燃焼器であって、
前記水素燃焼器は、
前記複数の燃料噴射器モジュールを支持するライナヘッドと、
前記ライナヘッドに接続され、前記複数の燃料噴射器モジュールの下流に形成される燃焼領域を囲む燃焼器ライナとを有する
水素燃焼器。
【請求項5】
請求項4に記載の水素燃焼器であって、
前記ライナヘッド及び前記燃焼器ライナの少なくとも一方は、互いに隣接した前記燃料噴射器モジュールの間に設けられた複数の第1の空気孔を有する
水素燃焼器。
【請求項6】
請求項4に記載の水素燃焼器であって、
前記燃焼器ライナは、前記燃焼領域における水素火炎の流れに対して略垂直に前記空気を流入させる複数の第2の空気孔を有する
水素燃焼器。
【請求項7】
各々が、空気を旋回させる旋回器を有する空気導入管と、前記空気導入管の内壁に衝突するように前記旋回器を通って旋回する空気に対して略垂直に気体の水素を噴射する水素噴射管と、前記空気と前記水素との混合気体の流路をステップ状に広げる保炎部とを有する複数の燃料噴射器をモジュール化した少なくとも1つの燃料噴射器モジュールと、
前記燃料噴射器モジュールを構成する前記複数の燃料噴射器の前記水素噴射管に複数の供給系統を分けて水素を供給する水素供給管と
を有する水素燃焼器と、
前記水素燃焼器の運転に関する運転情報に基づいて、前記複数の供給系統における前記水素の供給量を制御する制御部と
を具備する水素燃焼器システム。
【請求項8】
請求項7に記載の水素燃焼器システムであって、
前記複数の燃料噴射器は、少なくとも1つの第1の燃料噴射器と、前記第1の燃料噴射器とは異なる供給系統に接続される複数の第2の燃料噴射器とを含み、
前記燃料噴射器モジュールは、前記第1の燃料噴射器を中央に配置し、前記第2の燃料噴射器を前記第1の燃料噴射器を囲むように環状に配置して構成される
水素燃焼器システム。
【請求項9】
請求項8に記載の水素燃焼器システムであって、
前記制御部は、前記第1の燃料噴射器又は前記第2の燃料噴射器のどちらか一方にのみに前記水素を供給する
水素燃焼器システム。
【請求項10】
請求項8に記載の水素燃焼器システムであって、
前記制御部は、前記水素燃焼器の始動時に、前記第1の燃料噴射器にのみ前記水素を供給して、前記第1の燃料噴射器をパイロット噴射器として動作させる
水素燃焼器システム。
【請求項11】
請求項8に記載の水素燃焼器システムであって、
前記制御部は、前記水素燃焼器の運転中に、前記第1の燃料噴射器への前記水素の供給量を前記第2の燃料噴射器への前記水素の供給量よりも小さくする
水素燃焼器システム。
【請求項12】
請求項8に記載の水素燃焼器システムであって、
前記制御部は、大気圧が所定のレベルよりも低い状態で水素火炎が消えた場合、前記第1の燃料噴射器への前記水素の供給量を前記第2の燃料噴射器への供給量よりも大きくする
水素燃焼器システム。
【請求項13】
請求項7から12のうちいずれか一項に記載の水素燃焼器システムであって、
前記制御部は、前記燃料噴射器における燃焼において形成される火炎形態が拡散火炎又は予混合火炎のどちらか一方が支配的となるように前記水素の供給量を制御する
水素燃焼器システム。
【請求項14】
請求項7から12のうちいずれか一項に記載の水素燃焼器システムであって、
前記制御部は、燃焼振動の予兆が検出された場合に、前記燃焼振動が抑制されるように前記水素の供給量を制御する
水素燃焼器システム。
【請求項15】
空気を圧縮する圧縮機と、
各々が、前記圧縮機からの空気を旋回させる旋回器を有する空気導入管と、前記空気導入管の内壁に衝突するように前記旋回器を通って旋回する空気に対して略垂直に気体の水素を噴射する水素噴射管と、前記空気と前記水素との混合気体の流路をステップ状に広げる保炎部とを有する複数の燃料噴射器をモジュール化した少なくとも1つの燃料噴射器モジュールと、
前記燃料噴射器モジュールを構成する前記複数の燃料噴射器の前記水素噴射管に複数の供給系統を分けて水素を供給する水素供給管と
を有する水素燃焼器と、
前記水素燃焼器からの燃焼ガスを駆動源として前記圧縮機を駆動するとともに前記燃焼ガスを排出して推力を発生させるタービンと
を具備するジェットエンジン。
【請求項16】
空気を圧縮する圧縮機と、
各々が、前記圧縮機からの空気を旋回させる旋回器を有する空気導入管と、前記空気導入管の内壁に衝突するように前記旋回器を通って旋回する空気に対して略垂直に気体の水素を噴射する水素噴射管と、前記空気と前記水素との混合気体の流路をステップ状に広げる保炎部とを有する複数の燃料噴射器をモジュール化した少なくとも1つの燃料噴射器モジュールと、
前記燃料噴射器モジュールを構成する前記複数の燃料噴射器の前記水素噴射管に複数の供給系統を分けて水素を供給する水素供給管と
を有する水素燃焼器と、
前記水素燃焼器からの燃焼ガスを駆動源として前記圧縮機及び発電機を駆動するタービンと
を具備する発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を燃料に用いた水素燃焼器、水素燃焼器システム、ジェットエンジン、及び発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素燃焼器は、燃焼時に二酸化炭素を排出しないため、温暖化等を抑止することが可能な技術として注目されている。一方で水素は、炭化水素系燃料等と比べて燃えやすい燃料であり、局所的な高温燃焼に伴う窒素酸化物(NOx)の発生を抑えることや、逆化現象等を防止するための技術が開発されている。
【0003】
例えば特許文献1には、微小な水素火炎を多点で発生させ、局所的な高温燃焼を防止してNOxの排出量を低減する燃焼装置について記載されている。非特許文献1には、水素を含む燃料と空気を同じ貫通孔に導入することで生じる渦を利用して急速混合を実現し、NOxの排出量が少ない浮き上がり火炎を発生させる燃焼器について記載されている。非特許文献2には、水素と空気とを混合して噴射する燃料噴射器の噴射孔を微細化して、逆火等の発生を防止する燃焼器について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】SATOSCHI DODO, et al. "Dry low-NOx combustion technology for novel clean coal power generation aiming at the realization of a low carbon society." Mitsubishi Heavy Industries Technical Review,2015,Vol. 52 No. 2 p24-31.
【非特許文献2】C. John Marek, et al. "Low Emission Hydrogen Combustors for Gas Turbines Using Lean Direct Injection." 41st AIAA/ASME/SAE/ASEE Joint Propulsion Conference and Exhibit 2005, AIAA-2005-3776
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水素燃焼器は、運転する状況によっては、水素火炎を維持することが難しい場合がある。例えば航空機等に水素燃焼器を搭載する場合には、気圧や温度等が変化し、水素火炎が不安定になる可能性がある。このため、幅広い運転範囲で水素火炎を維持することが可能な技術が求められている。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、幅広い運転範囲で水素火炎を維持することが可能な水素燃焼器、水素燃焼器システム、ジェットエンジン、及び発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る水素燃焼器は、少なくとも1つの燃料噴射器モジュールと、水素供給管とを具備する。
前記少なくとも1つの燃料噴射器モジュールは、各々が、空気を旋回させる旋回器を有する空気導入管と、前記空気導入管の内壁に衝突するように前記旋回器を通って旋回する空気に対して略垂直に気体の水素を噴射する水素噴射管と、前記空気と前記水素との混合気体の流路をステップ状に広げる保炎部とを有する複数の燃料噴射器をモジュール化して構成される。
前記水素供給管は、前記燃料噴射器モジュールを構成する前記複数の燃料噴射器の前記水素噴射管に複数の供給系統を分けて水素を供給する。
【0009】
この水素燃焼器では、複数の燃料噴射器をモジュール化した燃料噴射器モジュールが設けられる。各燃料噴射器では、空気導入管の内壁と衝突するように旋回空気に対して略垂直に水素が噴射され、空気と水素とが十分に混合される。混合気体は、ステップ状の保炎部から噴射される。これにより各燃料噴射器は、幅広い運転範囲での動作が可能となる。また燃料噴射器モジュールの各燃料噴射器には、複数の供給系統にわけて水素が供給される。これにより、燃焼器全体での燃料の噴射や混合の制御パターンが広がり、幅広い運転範囲で水素火炎を維持することが可能となる。
【0010】
前記少なくとも1つの燃料噴射器モジュールは、複数の燃料噴射器モジュールを含んでもよい。この場合、前記水素供給管は、前記複数の燃料噴射器モジュールの各々について供給系統を分けて前記水素を供給してもよい。
【0011】
前記複数の燃料噴射器モジュールは、円環状に配置されてもよい。
【0012】
前記水素燃焼器は、前記複数の燃料噴射器モジュールを支持するライナヘッドと、前記ライナヘッドに接続され、前記複数の燃料噴射器モジュールの下流に形成される燃焼領域を囲む燃焼器ライナとを有してもよい。
【0013】
前記ライナヘッド及び前記燃焼器ライナの少なくとも一方は、互いに隣接した前記燃料噴射器モジュールの間に設けられた複数の第1の空気孔を有してもよい。
【0014】
前記燃焼器ライナは、前記燃焼領域における水素火炎の流れに対して略垂直に前記空気を流入させる複数の第2の空気孔を有してもよい。
【0015】
本発明の一形態に係る水素燃焼器システムは、水素燃焼器と、制御部とを具備する。
前記水素燃焼器は、
各々が、空気を旋回させる旋回器を有する空気導入管と、前記空気導入管の内壁に衝突するように前記旋回器を通って旋回する空気に対して略垂直に気体の水素を噴射する水素噴射管と、前記空気と前記水素との混合気体の流路をステップ状に広げる保炎部とを有する複数の燃料噴射器をモジュール化した少なくとも1つの燃料噴射器モジュールと、
前記燃料噴射器モジュールを構成する前記複数の燃料噴射器の前記水素噴射管に複数の供給系統を分けて水素を供給する水素供給管とを有する。
前記制御部は、前記水素燃焼器の運転に関する運転情報に基づいて、前記複数の供給系統における前記水素の供給量を制御する。
【0016】
前記複数の燃料噴射器は、少なくとも1つの第1の燃料噴射器と、前記第1の燃料噴射器とは異なる供給系統に接続される複数の第2の燃料噴射器とを含んでもよい。この場合、前記燃料噴射器モジュールは、前記第1の燃料噴射器を中央に配置し、前記第2の燃料噴射器を前記第1の燃料噴射器を囲むように環状に配置して構成されてもよい。
【0017】
前記制御部は、前記第1の燃料噴射器又は前記第2の燃料噴射器のどちらか一方にのみに前記水素を供給してもよい。
【0018】
前記制御部は、前記水素燃焼器の始動時に、前記第1の燃料噴射器にのみ前記水素を供給して、前記第1の燃料噴射器をパイロット噴射器として動作させてもよい。
【0019】
前記制御部は、前記水素燃焼器の運転中に、前記第1の燃料噴射器への前記水素の供給量を前記第2の燃料噴射器への前記水素の供給量よりも小さくしてもよい。
【0020】
前記制御部は、大気圧が所定のレベルよりも低い状態で水素火炎が消えた場合、前記第1の燃料噴射器への前記水素の供給量を前記第2の燃料噴射器への供給量よりも大きくしてもよい。
【0021】
前記制御部は、前記燃料噴射器における燃焼において形成される火炎形態が拡散火炎又は予混合火炎のどちらか一方が支配的となるように前記水素の供給量を制御してもよい。
【0022】
前記制御部は、燃焼振動の予兆が検出された場合に、前記燃焼振動が抑制されるように前記水素の供給量を制御してもよい。
【0023】
本発明の一形態に係るジェットエンジンは、圧縮機と、水素燃焼器と、タービンとを具備する。
前記圧縮機は、空気を圧縮する。
前記水素燃焼器は、
各々が、前記圧縮機からの空気を旋回させる旋回器を有する空気導入管と、前記空気導入管の内壁に衝突するように前記旋回器を通って旋回する空気に対して略垂直に気体の水素を噴射する水素噴射管と、前記空気と前記水素との混合気体の流路をステップ状に広げる保炎部とを有する複数の燃料噴射器をモジュール化した少なくとも1つの燃料噴射器モジュールと、
前記燃料噴射器モジュールを構成する前記複数の燃料噴射器の前記水素噴射管に複数の供給系統を分けて水素を供給する水素供給管とを有する。
前記タービンは、前記水素燃焼器からの燃焼ガスを駆動源として前記圧縮機を駆動するとともに前記燃焼ガスを排出して推力を発生させる。
【0024】
本発明の一形態に係る発電装置は、圧縮機と、水素燃焼器と、タービンとを具備する。
前記圧縮機は、空気を圧縮する。
前記水素燃焼器は、
各々が、前記圧縮機からの空気を旋回させる旋回器を有する空気導入管と、前記空気導入管の内壁に衝突するように前記旋回器を通って旋回する空気に対して略垂直に気体の水素を噴射する水素噴射管と、前記空気と前記水素との混合気体の流路をステップ状に広げる保炎部とを有する複数の燃料噴射器をモジュール化した少なくとも1つの燃料噴射器モジュールと、
前記燃料噴射器モジュールを構成する前記複数の燃料噴射器の前記水素噴射管に複数の供給系統を分けて水素を供給する水素供給管とを有する。
前記タービンは、前記水素燃焼器からの燃焼ガスを駆動源として前記圧縮機及び発電機を駆動する。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、幅広い運転範囲で水素火炎を維持することが可能となる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水素燃焼器システムを含むジェットエンジンを搭載した航空機の一例を示す模式図である。
【
図2】水素燃焼器システムを含むジェットエンジンの構成例を示すブロック図である。
【
図3】燃料噴射器の構成例を示す模式的な断面図である。
【
図4】燃料噴射器モジュールの構成例を示す平面図である。
【
図5】水素燃焼器における燃料噴射器モジュールの配置例を示す平面図である。
【
図6】水素燃焼器を構成する燃焼器ライナの一例を示す斜視図である。
【
図7】水素燃焼器における燃料噴射器モジュールの構成例を示す断面図である。
【
図10】水素供給ラインの一例を示す模式図である。
【
図11】他の実施形態に係る水素供給ラインの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
[水素燃焼器システムを含むジェットエンジン]
図1は、本発明の一実施形態に係る水素燃焼器システムを含むジェットエンジンを搭載した航空機の一例を示す模式図である。航空機10は、胴体11、主翼12、垂直尾翼13、水平尾翼14などから構成される。左右の主翼12には、それぞれエンジンナセル15が配置されている。各エンジンナセル15には、水素を燃料とする水素燃焼器システム100を含むジェットエンジン20が搭載されている。
【0028】
図2は、水素燃焼器システム100を含むジェットエンジン20の構成例を示すブロック図である。ジェットエンジン20は、圧縮機21と、水素燃焼器22と、タービン23とを有する。また、ジェットエンジン20を搭載する航空機10には、水素タンク24と、水素供給ライン25と、制御部26とが搭載される。このうち、水素タンク24と、水素供給ライン25と、水素燃焼器22と、制御部26とにより、水素燃焼器システム100が構成される。
【0029】
ジェットエンジン20は、水素燃焼器22において空気中の酸素と水素タンク24に貯蔵された水素1とを燃焼させて燃焼ガスの噴流(ジェット)により推進力を得る推進エンジンである。ジェットエンジン20は、典型的にはターボファンエンジンとして構成され、水素燃焼器22はターボファンエンジンに搭載された高圧燃焼器として機能する。
ジェットエンジン20の規模は特に限定されないが、例えば50席以上の旅客機用のターボファンエンジン等に本発明を適用することが可能である。なお、本発明に係るジェットエンジン20には、噴流を生成し、タービンを用いて回転力を生成しプロペラやファンの揚力に変換し推進力として用いる場合も含まれる。
【0030】
近年では、航空機を運航による温暖化への影響を抑制するための有力な手段として、燃焼時に二酸化炭素を一切排出しない水素航空機技術が注目されている。本実施形態に係る水素燃焼器22は、二酸化炭素を一切排出しない水素を燃料とした燃焼器であり、ジェットエンジン20のように幅広い運転範囲での動作を想定したものである。
【0031】
圧縮機21は、ジェットエンジン20に取り込まれた空気を圧縮する。圧縮機21は、回転軸27を介して後述するタービン23と接続され、タービン23(回転軸27)の回転によって駆動される圧縮機である。圧縮機21の具体的な構成は限定されず、例えば軸流式圧縮機、遠心式圧縮機、斜流圧縮機等の任意の形式の圧縮機が用いられてよい。
【0032】
水素燃焼器22は、圧縮機21により圧縮された空気と、燃料である水素とを燃焼させて、高圧の燃焼ガスを噴出する。燃焼ガスは、水素燃焼器22の下流に配置されたタービン23に送り込まれる。本実施形態では、水素燃焼器22は、複数の燃料噴射器をモジュール化した燃料噴射器モジュールを複数配置して構成される。水素燃焼器22の具体的な構成については、後に詳しく説明する。
【0033】
タービン23は、水素燃焼器22からの燃焼ガスを駆動源として圧縮機21を駆動するとともに燃焼ガスを排出して推力を発生させる。燃焼ガスを受けたタービン23は回転軸27とともに回転し、回転軸27により圧縮機21が回転駆動される。またタービン23を通過した燃焼ガスは、エンジンナセル15の後方のメインノズルから排出され、推進力を発生させる。
【0034】
水素タンク24は、水素燃焼器22の燃料となる水素を貯蔵するタンクである。水素タンク24としては、例えば液化水素を貯蔵可能なように構成された断熱容器等が用いられる。
【0035】
水素供給ライン25は、水素タンク24に貯蔵された水素を水素燃焼器22に供給する供給ラインである。水素供給ライン25は、水素ポンプ、遮断弁(安全弁)、分配弁、流量調整弁、及び各部を接続する配管等を用いて構成される。後述するように、本実施形態では、水素供給ライン25には、水素の供給量を独立に調整可能な複数の供給系統が設けられる(
図10及び
図11等参照)。
【0036】
制御部26は、CPU(Central Processing Unit)やメモリを有するコンピュータを用いて構成される。制御部26は、水素供給ライン25を制御することで、水素燃焼器22の運転を制御する。制御部26としては、燃料の供給量(流量指示)を出力するFADEC(Full Authority Digital Engine Control)等が用いられる。制御部26では、例えば航空機10のパイロットが操作するスロットルの操作量や、ジェットエンジン20の動作状況等に応じて、燃料の供給量が設定される。
【0037】
本実施形態では、制御部26は、水素燃焼器22の運転に関する運転情報に基づいて、水素供給ライン25の複数の供給系統における水素の供給量を制御する。
運転情報とは、水素燃焼器22の運転に関係のある情報である。運転情報には、スロットルレバー、燃料遮断レバー、点火スイッチ、防氷スイッチ等の操作情報が含まれてもよい。また運転情報には、エンジンの各部(エンジン入口、圧縮機入口、圧縮機出口、水素燃焼器、タービン入口、タービン出口等)における温度や圧力、排気温度、回転軸の回転数等を所定のセンサで検出したセンシング情報が含まれてもよい。また運転情報には、外気の温度や圧力等の水素燃焼器22の運転環境に関する環境情報が含まれてもよい。
【0038】
制御部26は、これらの運転情報をもとに、水素燃焼器22を適正に運転することが可能となる供給量を供給系統ごとに設定する。
【0039】
[燃料噴射器の構成]
図3は、燃料噴射器の構成例を示す模式的な断面図である。
燃料噴射器30は、気体となった水素1を空気2とともに噴射するノズルである。燃料噴射器30は、空気導入管31と、水素噴射管32と、保炎部33とを有する。また
図3に示す燃料噴射器30には、燃焼筒34が設けられる。
【0040】
空気導入管31及び水素噴射管32は、一方向に延びる円管状の部材である。水素噴射管32の外径は、空気導入管31の内径よりも小さく、水素噴射管32は、空気導入管31の内側に各々の中心軸が一致するように配置される。
ここでは、互いに直交する3軸方向を、X方向、Y方向、及びZ方向と記載し、空気供給管 及び水素供給管56が延在する方向をX方向とする。
図3には、空気導入管31(水素噴射管32)の中心軸を通るXY面で切断した燃料噴射器30の断面図が示されている。
【0041】
空気導入管31は、圧縮機21により圧縮された空気2を導入する管であり、両端が開口した円管部材が用いられる。上記したように、空気導入管31の内側には、水素噴射管32が同軸に配置され、空気導入管31の内壁31bと水素噴射管32の外壁32aとの間の空間が、空気2の流路となる。なお、空気導入管31の断面形状は円形に限定されず、例えば多角形状や楕円形状等の任意の断面形状を持つ管状部材が用いられてよい。
【0042】
空気導入管31は、入射端35と、出射端36と、旋回器37とを有する。
入射端35は、圧縮された空気2が流入する開口端である。出射端36は、入射端35とは反対側の開口端である。出射端36からは、圧縮された空気2と水素噴射管32からの水素1との混合気体が噴射される。
【0043】
旋回器37は、入射端35から流入した空気2を旋回させる機構(スワラー)である。旋回器37は、例えば空気導入管31の内壁31bと水素噴射管32の外壁32aとの間の流路に対して斜めに板部材(固定翼)を配置して構成される。旋回器37を通過した空気2は、旋回空気となって出射端36に送り込まれる。なお、旋回器37と出射端36との間には、水素1を噴射するためのスペース(噴射領域40)が設けられる。従って旋回器37は、出射端36から所定の距離だけ奥まった位置に配置される。
【0044】
水素噴射管32は、所定の供給系統から供給される水素1を噴射する管であり、一端が開口し他端が閉じた円管部材に噴射孔41を設けて構成される。水素噴射管32の長さは、空気導入管31よりも長く設定される。なお、水素噴射管32の断面形状は円形に限定されず、例えば多角形状や楕円形状等の任意の断面形状を持つ管状部材が用いられてよい。
【0045】
水素噴射管32は、開口端42と、閉塞端43と、噴射孔41とを有する。
開口端42は、後述する水素供給管に接続され、水素噴射管32の中で気体の水素1が供給される供給口として機能する。閉塞端43は、開口端42とは反対側に配置される閉じられた端部である。水素供給管56は、閉塞端43が空気導入管31の出射端36と同じ側になるように、空気導入管31の内側に配置される。このとき、閉塞端43の端面のX方向の位置と、出射端36の端面のX方向の位置とは同じ位置に設定される。従って、水素噴射管32は、閉塞端43及び出射端36は端面が一致しており、開口端42が空気導入管31の入射端35側から突出している。閉塞端43は、ドリル等を用いて貫通しないように切削された一体的な構造でもよいし、蓋部材を用いて開口部分を閉じた構造でもよい。
【0046】
噴射孔41は、水素噴射管32の側面のうち閉塞端43の近傍に設けられ、水素噴射管32の内壁32bと外壁32aとを貫通する貫通孔である。噴射孔41は、空気導入管31の旋回器37と出射端36との間の噴射領域40に面する位置に設けられる。水素噴射管32の周方向に沿って等間隔で複数の噴射孔41が設けられる。
【0047】
開口端42から供給された水素1は、閉塞端43の内面に遮られ、噴射孔41から噴射される。ここでは、閉塞端43の内面に円錐状の凹部が形成され、水素1が噴射孔41に流れやすくなっている。なお閉塞端43の内面は平面でもよい。
噴射孔41が設けられる位置(噴射領域40)には、旋回器37を通過して旋回した空気2が送り込まれる。この旋回した空気2に対して略垂直に水素1が噴射される。また、噴射孔41に対向する位置には、空気導入管31の内壁31bが存在する。従って噴射孔41から噴射された水素1は、内壁31bに衝突することになる。
【0048】
このように、水素噴射管32は、空気導入管31の内壁31bに衝突するように旋回器37を通って旋回する空気2に対して略垂直に気体の水素1を噴射する。旋回する空気2と内壁31bへの衝突とを利用することで、水素1と空気2とを十分に拡散混合することが可能となる。すなわち、燃料噴射器30は、水素1及び空気2を混合する混合器としても機能する。これにより、シンプルな構成でありながら安定した予混合火炎を実現することが可能となる。
【0049】
燃焼筒34は、水素火炎4が発生する燃焼領域を包む部材である。
図3に示す例では、空気導入管31の外壁31aを囲うスペーサ部材38に円筒型の燃焼筒34が嵌め込まれる。またスペーサ部材38には、空気の整流効果や燃料噴射器30に対する冷却効果が得られるように、空気を供給するための空気孔等が設けられてもよい。
燃焼筒34は、後述する水素燃焼器22の構成のうち燃焼器ライナ51(
図6及び
図7等参照)に対応するものである。なお、燃料噴射器30をモジュール化した燃料噴射器モジュールでは、各燃料噴射器30に燃焼筒34を設ける必要はない。
【0050】
保炎部33は、水素火炎4を保持する部分である。燃料噴射器30では、空気導入管31と水素噴射管32とにより保炎部33が構成される。上記したように、空気導入管31の出射端36と水素噴射管32の閉塞端43とは、各々の端面が同一面上に配置される。従って、噴射領域40で混合された混合気体の流路は、出射端36(閉塞端43)の端面を境に急激に広がる。
すなわち、燃料噴射器30には、空気2と水素1との混合気体の流路をステップ状に広げる保炎部33が設けられる。これにより、混合気体の流速を急激に変化させることが可能となり、水素火炎4の分布を適正な範囲に収めることが可能となる。
【0051】
このように、水素燃焼器22は、旋回空気流に垂直に噴射される水素燃料が、内壁31bへの衝突によって拡散混合が促進され、ステップ上の円筒出口の保炎部33をもつ燃料噴射器30を用いて構成される。本発明者は、このように構成された燃料噴射器30について、地上での定置運転や空気流が音速を超えるような環境での運転といった様々な運転範囲において、運転条件を適宜設定することで燃焼動作が可能であることを確認した。
従って、本実施形態に係る燃料噴射器30を用いることで、幅広い運転範囲での動作が可能な水素燃焼器22を実現することが可能となる。
【0052】
燃料噴射器30の各部の形状、サイズ、材質等は、想定される出力や重量の規定等に応じて適宜設定することが可能である。
空気導入管31の内径は、好ましくは4mm以上10mm以下の範囲に設定される。このうち、空気導入管31の内径は、より好ましくは、6mm以下に設定される。これにより適正な拡散混合を実現することが可能である。また4mm以上とすることで、十分な空気流入量を確保することが可能である。
水素噴射管32の外径は、空気導入管31の内径以下であり、好ましくは2mm以上6mm以下の範囲に設定される。このうち、水素噴射管32の外径は、より好ましくは、4mm以下に設定される。これにより空気流路を確保しつつ噴射器のサイズをコンパクトにすることが可能である。また2mm以上とすることで十分な水素流入量を確保することが可能であり、また適正な精度で噴射孔41等の加工を行うことが可能である。
水素噴射管32に設けられる噴射孔41の直径は、好ましくは0.2mm以上1.5mm以下の範囲に設定される。このうち、1.5mm以下とすることで、水素の噴射時の運動量流速を所定量に確保した状態で水素を局所的に噴射することが可能となる。この結果、空気導入管31の内壁31bに設計点の近傍で水素を衝突させることが可能となり、旋回空気との拡散混合を効果的に実現することが可能となる。また噴射孔41の直径を1mm以下とすることで、燃料噴射孔を通じた水素噴射管への逆流や逆火を十分に防ぐことが可能となる。
水素噴射管32の水素噴出量は、噴射孔41のサイズと、噴射孔41の数によって調整可能である。例えば噴射孔41の直径に合わせて、適切な水素噴射量が実現されるように、周上に配置される噴射孔41の数が設定される。噴射孔41の数は、円周上に配置可能な個数であり噴射される水素の均一性を確保するといった観点から、典型的には4~10個程度に設定される。この他、噴射孔41の数は限定されず、例えば所望の水素噴射量を確保可能なように任意に設定されてよい。
【0053】
[燃料噴射器モジュールの構成]
図4は、燃料噴射器モジュールの構成例を示す平面図である。
水素燃焼器22には、複数の燃料噴射器30をモジュール化した少なくとも1つの燃料噴射器モジュール45が設けられる。本実施形態では、水素燃焼器22には、複数の燃料噴射器モジュール45が設けられる(
図5及び
図6等参照)。
図4には、混合気体が噴射される出射側(燃料噴射器30の出射端36及び閉塞端43が配置される側)から見た燃料噴射器モジュール45の平面構成例が図示されている。燃料噴射器モジュール45は、複数の燃料噴射器30と、各燃料噴射器30を保持する保持部46とを有する。
【0054】
図4に示す燃料噴射器モジュール45では、複数の燃料噴射器30は、中心に1基、その周囲に円環状に複数並んで配置される。以下では、中心に配置された燃料噴射器30を中央燃料噴射器30aと記載し、円環状に配置された燃料噴射器30を周辺燃料噴射器30bと記載する。
つまり、燃料噴射器モジュール45は、中央燃料噴射器30aを中央に配置し、周辺燃料噴射器30bを中央燃料噴射器30aを囲むように環状に配置して構成される。
【0055】
また、中央燃料噴射器30aと、複数の周辺燃料噴射器30bとは、互いに異なる供給系統に接続される。すなわち、モジュール中心の中央燃料噴射器30aは、周囲の噴射器群とは独立な燃料配管から燃料供給される。なお複数の周辺燃料噴射器30bは、それぞれが共通の供給系統に接続されるため、各周辺燃料噴射器30bに供給される水素1の供給量は互いに略等しくなる。
本実施形態では、中央燃料噴射器30aは、第1の燃料噴射器に相当する。また複数の周辺燃料噴射器30bは、第1の燃料噴射器とは異なる供給系統に接続される複数の第2の燃料噴射器に相当する。
【0056】
このように、中央燃料噴射器30aの供給系統を独立させることで、モジュールの中心部及び周辺部における水素燃料と空気との流量比を変化させることが可能となる。また例えば2種類の供給量をパラメータとして燃料噴射器モジュール45の制御を行うことになり、制御のバリエーションを広げることが可能となる。この結果、ジェットエンジン20(水素燃焼器22)の運転状況に応じた様々な燃焼パターンを実現するといったことが可能となる。
【0057】
保持部46は、中央燃料噴射器30a及び複数の周辺燃料噴射器30bをそれぞれ保持する。ここでは、各燃料噴射器30を挿入する挿入孔が設けられた平面形状が円形の部材が保持部46として用いられる。保持部46の構成は限定されず、中抜き構造や架橋構造等の保持部46が用いられてもよい。また中央燃料噴射器30aを独立して取り外すことが可能なように、中央部分と周辺部分とが分離するような構造が用いられてもよい。
【0058】
[水素燃焼器の構成]
図5は、水素燃焼器における燃料噴射器モジュールの配置例を示す平面図である。
図6は、水素燃焼器を構成する燃焼器ライナの一例を示す斜視図である。
ここでは、複数の燃料噴射器モジュール45を用いて構成される水素燃焼器22について、燃料噴射器モジュール45の配置について説明する。
水素燃焼器22は、複数の燃料噴射器モジュール45と、ライナヘッド50と、燃焼器ライナ51とを有する。
【0059】
ライナヘッド50は、複数の燃料噴射器モジュール45を支持する部材である。
本実施形態では、複数の燃料噴射器モジュール45は、円環状に配置される。これらの燃料噴射器モジュール45が、ライナヘッド50により支持される。
図5に示すように、ライナヘッド50は、平面形状が円環形状となる部材である。ここでは、円環の部分に、16個の燃料噴射器モジュール45が円環状に等間隔で配置される。なお、燃料噴射器モジュール45の数は限定されない。また各燃料噴射器モジュール45(燃料噴射器30)の噴射方向は互いに平行に設定されるが、例えば各噴射方向が収束又は発散するように配置されてもよい。
【0060】
燃焼器ライナ51は、ライナヘッド50に接続され、複数の燃料噴射器モジュール45の下流に形成される燃焼領域5を囲む部材である。すなわち、燃焼器ライナ51の内部が燃焼領域5として用いられるともいえる。
図6に示すように、燃焼器ライナ51は、内側ライナ52と、外側ライナ53と、燃焼ガス排出口54とを有する。内側ライナ52は、円環形状のライナヘッド50の内周に接続される筒型の部材である。また外側ライナ53は、円環形状のライナヘッド50の外周に接続され、内側ライナ52を囲む筒型の部材である。また燃焼ガス排出口54は、ライナヘッド50とは反対側に形成される内側ライナ52及び外側ライナ53で挟まれた円環状の開口部分である。
【0061】
このように燃焼器ライナ51の内側ライナ52及び外側ライナ53で囲まれた領域が、水素燃焼器22の燃焼領域5となる。なお、内側ライナ52(ライナヘッド50の内周)で囲まれた空間には、例えばジェットエンジン20の回転軸27が通される。
【0062】
図7は、水素燃焼器22における燃料噴射器モジュール45の構成例を示す断面図である。
図7には、
図6において1つの燃料噴射器モジュール45の中心を通るAA線で切断した水素燃焼器22の断面図が模式的に図示されている。また
図7では、空気2の流れ及び水素1の流れが、それぞれ白抜きの矢印及び黒い矢印を用いて模式的に図示されている。
【0063】
水素燃焼器22には、複数の燃料噴射器モジュール45に水素を供給する水素供給管56が設けられる。水素供給管56は、燃料噴射器モジュール45を構成する複数の燃料噴射器30の水素噴射管32に複数の供給系統を分けて水素を供給する。
具体的には、水素供給管56には、水素1の供給量を独立して調整可能な複数の供給系統に接続される複数の供給管が含まれる。異なる供給系統につながる供給管に接続された燃料噴射器30は、水素1の供給量が別々に調整される。一方、同じ供給系統につながる供給管に接続された燃料噴射器30は、水素1の供給量が同様の値に調整される。
【0064】
本実施形態では、水素供給管56は、第1の供給管57aと、第2の供給管57bとを有する。また、水素供給管56は、第1の供給母管58aと、第2の供給母管58bとを有する。
第1の供給管57aは、燃料噴射器モジュール45のうち、中央燃料噴射器30aの水素噴射管32に接続される。第1の供給管57aは、水素燃焼器22の外側から挿入され、所定のジョイント59を介して中央燃料噴射器30aの水素噴射管32に接続される。
第2の供給管57bは、燃料噴射器モジュール45のうち、複数の周辺燃料噴射器30bの各水素噴射管32に接続される。第2の供給管57bは、水素燃焼器22の外側から挿入され、その先端には分岐部60が設けられる。分岐部60は円環状のパイプであり、第2の供給管57bは、分岐部60を介して複数の周辺燃料噴射器30bの各水素噴射管32にそれぞれ接続される。なお分岐部60の中心部分には、中央燃料噴射器30aの水素噴射管32が通される。
【0065】
第1の供給母管58a及び第2の供給母管58bは、各燃料噴射器モジュール45に接続される第1の供給管57a及び第2の供給管57bに水素を供給する配管である。第1の供給母管58a及び第2の供給母管58bは、例えば水素燃焼器22の外側に沿って配置された円環状のパイプとして構成される。
第1の供給母管58a及び第2の供給母管58bは、互いに異なる供給系統に接続される。従って、第1の供給母管58a及び第2の供給母管58b(第1の供給管57a及び第2の供給管57b)では、水素1の供給量が独立に調整可能である。これにより、燃料噴射器モジュール45ごとに複数の供給系統を接続することが可能となる。
このように、水素供給管56は、複数の燃料噴射器モジュール45の各々について供給系統を分けて水素1を供給する。
【0066】
図7に示すように、水素燃焼器22は、上記した複数の燃料噴射器モジュール45を支持するライナヘッド50と、燃焼領域5を囲む燃焼器ライナ51とを有する。また水素燃焼器22は、ライナヘッド50及び燃焼器ライナ51を収容するケーシング65と、燃料噴射器モジュール45に着火するための着火部(図示省略)とを有する。
着火部は、例えば燃焼器ライナ51の内部に設けられ、水素1と空気2との混合気体に着火する。なお、着火部の個数や配置は限定されない。
ケーシング65は、ライナヘッド50及び燃焼器ライナ51の周りで圧縮された空気2の流路を構成する。以下では、図中の左側を上流側と記載し、右側を下流側と記載する。
【0067】
ケーシング65は、内側ケース66と、外側ケース67と、圧縮空気導入口68とを有する。
内側ケース66は、ケーシング65の内側の壁面を形成する筒状の部材である。内側ケース66の下流側は、燃焼器ライナ51(内側ライナ)の中心部分に挿入される。また内側ケース66の上流側には、圧縮された空気2を導入するための円環状の開口部分(圧縮空気導入口68)が形成される。
外側ケース67は、ケーシング65の外側の壁面を形成する筒状の部材である。上記した第1の供給管57aと、第2の供給管57bは、外側ケース67を貫通して配置され、第1の供給母管58a及び第2の供給母管58bは、外側ケース67を囲むように配置される。
内側ケース66及び内側ライナ52の間と、外側ケース67及び外側ライナ53の間には、空気2の流路が形成される。
【0068】
圧縮空気導入口68は、圧縮機21から出力された圧縮された空気2をケーシング65の内部に導入する。
図7に示す例では、燃料噴射器モジュール45の中心部の上流側に圧縮空気導入口68が形成される。圧縮空気導入口68から導入された空気2の一部は、水素供給管56の間を抜けて燃料噴射器モジュール45の空気導入管31に流入し、他の一部は、ケーシング65と燃焼器ライナ51との間に形成された流路に沿って流れる。
圧縮空気導入口68の具体的な構成は限定されず、例えば空気2を旋回させるスワラー等が設けられてもよい。
【0069】
[空気孔]
以下では、ライナヘッド50及び燃焼器ライナ51により囲まれた燃焼領域5に空気2を導入するための空気孔について説明する。
【0070】
図8は、第1の空気孔の構成例を示す模式図である。
第1の空気孔71は、互いに隣接した燃料噴射器モジュール45の間に設けられた空気孔である。より詳しくは、第1の空気孔71は、各モジュールの間に多数設けられた微小空気孔である。例えば第1の空気孔71の直径は、各燃料噴射器30の直径(空気導入管31の直径)よりも十分に小さく設定される。第1の空気孔71は、燃焼領域5の上流に設けられた一次空気孔であると言える。
【0071】
図8に示す例では、ライナヘッド50において、隣接する燃料噴射器モジュール45の間に微小な第1の空気孔71が多数設けられる。これにより、各燃料噴射器モジュール45が作る水素火炎4に対して、比較的穏やかにかつ安定して空気2を供給することが可能となる。また空気流は、燃料噴射器30からの混合気体の噴射方向に沿って発生するため、水素火炎4をコンパクトにまとめるとともに、逆火等の発生を抑制することが可能となる。この結果、水素火炎4の安定化を図ることが可能となる。
なお
図8に示すように、第1の空気孔71は、隣接する燃料噴射器モジュール45の間だけではなく、各燃料噴射器モジュール45の内側や外側に沿って設けられてもよい。これにより、個々の燃料噴射器モジュール45を囲うように空気が導入され、水素火炎4を十分に安定化
させることが可能となる。
【0072】
第1の空気孔71を設ける箇所は、ライナヘッド50に限定されない。
図7では、燃焼器ライナ51に複数の第1の空気孔71が設けられる。なお
図7に示す例では、燃料噴射器モジュール45の内側や外側(図中の下側や上側)に設けられた第1の空気孔71が図示されており、第1の空気孔71を通過して燃焼領域5に供給される空気2が細かい点線の矢印で図示されている。もちろん、燃焼器ライナ51において各燃料噴射器モジュール45の間となる部分に、第1の空気孔71が設けられてもよい。
このように、ライナヘッド50及び燃焼器ライナ51の少なくとも一方は、互いに隣接した燃料噴射器モジュールの間に設けられた複数の第1の空気孔71を有する。
【0073】
図9は、第2の空気孔の構成例を示す模式図である。
第2の空気孔72は、燃焼領域5における水素火炎4の流れに対して略垂直に空気を流入させる空気孔である。第2の空気孔72は、典型的には、燃焼器ライナ51において、ライナヘッド50と燃焼ガス排出口54との中間部分に設けられる。第2の空気孔72の直径は限定されず、例えば第1の空気孔71の直径と同程度でもよいし、燃料噴射器30の直径(空気導入管31の直径)よりも大きくてもよい。第2の空気孔72は、垂直流入型の二次空気孔であると言える。
【0074】
図7等に示すように、燃焼器ライナ51の中間部分では、混合気体が噴射されるX方向(水素火炎4の流れの方向)と平行に側面が構成される。このように、水素火炎4の流れに沿った側面に対して、直交するように第2の空気孔72が形成される。これにより、水素火炎4に対して略垂直に空気を導入することが可能となる。
図9に示す例では、第2の空気孔72として比較的な小さな貫通孔が多数形成される。なお
図9では、燃焼器ライナ51の概形を点線で図示している。ここでは、燃料噴射器モジュール45の間となる位置に第2の空気孔72が形成されているが、これに限定されず、各燃料噴射器モジュール45と重なる位置に第2の空気孔72が形成されてもよい。
【0075】
また
図7には、水素火炎4の流れに沿った側面に設けられた、直径が比較的大きな第2の空気孔72が図示されており、第2の空気孔72を通過して燃焼領域5に供給される空気2が粗い点線の矢印で図示されている。ここでは、空気2をガイドするためのハトメ状のガイド管が用いられる。このガイド管を用いることで、燃焼器ライナ51の側面の形状に関わらず、水素火炎4に対して略垂直に空気を導入することが可能である。
【0076】
複数の第2の空気孔72を設けて、各燃料噴射器モジュール45が作る水素火炎4に対して、略垂直に空気2を流入させることで、保炎部33の後方に形成される温度の高い燃焼ガスを含む再循環保炎領域(還流領域)を短縮化させることが可能となる。これにより、局所的に高温となる領域を減少させ、低NOxでコンパクトな安定火炎を実現することが可能となる。また例えば水素燃焼器22の運転状態等が変化した場合でも、水素火炎4の拡大を十分に抑制することが可能である。
【0077】
なお、
図7に示す燃焼器ライナ51には、第1の空気孔71や第2の空気孔72の他にも空気2を流入させる各種の空気孔が設けられる。例えば、側面に設けられた貫通孔やスリット、燃焼器ライナを貫通するガイド管等が、空気孔として適宜設けられてよい。
図7には、このような各種の空気孔から流入する空気が実線の矢印により模式的に図示されている。
【0078】
このように、水素燃焼器22は、
図3を参照して説明した燃料噴射器30をモジュール化し、中心部と周辺部との2段階に燃料供給系統を区分させて、水素燃料の噴射・混合のパターンの制御範囲を拡大している。
また、2段階の燃料噴射器モジュールを1単位にしたものを環状に多数配置することで、微細で安定した水素火炎4を分布の少ない温度場として実現させている。
さらに、広い運転範囲にて水素火炎4を小さな容積内で完結させるために、燃料噴射器30の周囲ならびに燃焼器ライナ51の側面に空気流入孔(第1の空気孔71や第2の空気孔72)を設けている。これらの空気孔から流入する空気2流れの分布設計を幅広い運転範囲を満たすよう設計することにより、水素火炎4の十分な安定化を図ることが可能となる。
【0079】
[水素供給ラインの構成]
図10は、水素供給ラインの一例を示す模式図である。
水素供給ライン25は、水素ポンプ80と、第1の遮断弁81と、第2の遮断弁82と、分配弁83と、複数の流量調整弁84とを有する。これら水素供給ライン25の各部は、
図2を参照して説明した制御部26により制御される。なお、
図10では、燃料噴射器モジュール45を1つの中央燃料噴射器30aと2つの周辺燃料噴射器30bとを用いて模式的に図示している。
【0080】
水素ポンプ80は、水素タンク24に貯蔵された水素1を、下流に設けられたラインに送り出す。ここでは、水素ポンプ80が水素タンク24に直接接続されているが、バッファタンクやバッファ容器等が設けられてもよい。極低温の液化水素は冷却に用いることが可能なため、バッファタンクやバッファ容器等に必要量以上をプールし、そこから必要な量の水素が下流に送り出される。
【0081】
また、水素供給ライン25では、燃焼器入口(水素噴射管32の開口端42)においては水素1がガス(気体)の状態で供給されることが前提となるが、極低温の液化水素を供給し管理する観点から、水素ポンプ80は超臨界状態の水素1を上流からポンプ圧送するように構成される。超臨界状態の水素1は、燃焼器入口に到達するまでに気体に変化する。例えば、流量調整弁84の下流に、液体水素蒸発器等が設けられ、流量調整後に水素1が気化する。
【0082】
第1の遮断弁81及び第2の遮断弁82は、ともに水素1の流れを遮断し、水素1の供給を停止する弁であり、例えば2方向電磁弁等が用いられる。水素ポンプ80の下流側には、第1の遮断弁81及び第2の遮断弁82がこの順番で設けられる。このように水素供給ライン25には、水素ポンプ80の下流においては、緊急時に燃料を遮断する2重の遮断弁が設置される。
【0083】
分配弁83は、第2の遮断弁82の下流側に接続され、水素1の供給系統を分ける弁である。ここでは、分配弁83により、2つの供給系統(第1の供給系統85a及び第2の供給系統85b)が形成される。第1の供給系統85aは、各燃料噴射器モジュール45のうち中央燃料噴射器30aに水素1を供給する系統である。第2の供給系統85aは、各燃料噴射器モジュール45のうち周辺燃料噴射器30bに水素1を供給する系統である。
分配弁83は、例えば分岐用のパイプでもよいし、分岐用のパイプに電磁弁を組み合わせて各供給系統への水素供給をカットできるような構成にしてもよい。
【0084】
複数の流量調整弁84は、分配弁で分けられた各供給系統を構成する配管に接続され、各供給系統の水素1の供給量(流量)を調整する。流量調整弁84としては、例えば極低温用の電磁流量調整弁等が用いられる。
【0085】
図10に示す例では、複数の流量調整弁84として、第1の供給系統85aに接続される第1の流量調整弁84aと、第2の供給系統85aに接続される第2の流量調整弁84bとが設けられる。また第1の流量調整弁84a及び第2の流量調整弁84bは、
図7を参照して説明した第1の供給母管58a及び第2の供給母管58bにそれぞれ接続される。
各流量調整弁84は、接続される供給系統85における水素の総量を調整する。この2つの流量調整弁84により、全ての燃料噴射器モジュール45について2段階の燃料供給が可能となる。
【0086】
また水素供給ライン25では、流量調整弁84による水素1の供給量の調整のほかに、水素ポンプ80の圧力を調整して水素1の供給量を調整することも可能である。例えば、水素ポンプ80による圧送時の圧力を調整することで、燃料噴射器30に供給される水素1の供給量が調整される。また例えば、各供給系統に圧力調整弁等が設けられ、配管内の圧力が調整されてもよい。
【0087】
なお、
図10に示す構成において、複数の燃料噴射器モジュール45をグループに分けて、グループごとに水素の供給量や燃焼パターンが制御されてもよい。例えば、グループごとに、分配弁83と、2つの流量調整弁84(第1の流量調整弁84a及び第2の流量調整弁84b)とが設けられる。また例えば、グループごとに2つの供給系統を形成する分配弁83が用いられてもよい。この場合、グループの数をNとすると、N×2の供給系統を形成する分配弁83が用いられる。
これにより、一部の燃料噴射器モジュール45のみを使用するといったことが可能となり、低燃費な運転等を実現することが可能となる。
【0088】
[水素燃焼器システムの動作]
図2を参照して説明した制御部26は、上記した水素ポンプ80、流量調整弁84、分配弁83等を制御して、水素燃焼器22に設けられた複数の燃料噴射器30(燃料噴射器モジュール45)の動作を制御する。以下では、制御部26による水素燃焼器22の制御について説明する。
【0089】
制御部26は、中央燃料噴射器30a又は周辺燃料噴射器30bのどちらか一方にのみに水素1を供給してもよい。例えば、制御部26により、中央燃料噴射器30aに接続される第1の供給系統85a又は周辺燃料噴射器30bに接続される第2の供給系統85bのどちらか一方に水素1が供給されるように、分配弁83が制御される。また例えば、制御部26により、中央燃料噴射器30aに接続される第1の流量調整弁84a又は周辺燃料噴射器30bに接続される第2の流量調整弁84bのどちらか一方の流量がゼロとなるように制御される。
【0090】
これにより、例えば燃料である水素1の残量が少ない場合や、供給可能な水素1が少ない場合等には、中央燃料噴射器30a又は周辺燃料噴射器30bのどちらか一方を使用するといった運転が可能となる。
例えば燃料噴射器30への水素1の供給量が低下することで燃焼が不安定になる場合がある。そこで燃料噴射器30の使用数を限定することで、実際に使用する燃料噴射器30への水素1の供給量を確保し、不安定燃焼を抑止することが可能となる。
【0091】
<始動時の制御>
制御部26は、水素燃焼器22の始動時に、中央燃料噴射器30aにのみ水素1を供給して、中央燃料噴射器30aをパイロット噴射器として動作させてもよい。
水素燃焼器22の始動時とは、それまで停止していた水素燃焼器22において水素火炎4を生成する燃焼動作を開始するタイミングである。例えば航空機10のジェットエンジン20の始動時に、水素燃焼器22が始動される。制御部26は、例えばエンジンの始動スイッチがONになった場合、第1の供給系統85aから中央燃料噴射器30aに水素を供給する。なお、第2の供給系統85bから周辺燃料噴射器30bへの水素1の供給は行わない。
【0092】
ジェットエンジン20の始動時には、水素燃焼器22に供給される空気流量が少ない。このような状態では、全ての燃料噴射器30を適正に作動させることが難しい。また推力が不要な状態で全ての燃料噴射器30を作動させると、水素1を不必要に消費することになる。
そこで、ジェットエンジン20の始動時に、燃料噴射器モジュール45のうち中央燃料噴射器30aにだけ水素1を供給することで、中央燃料噴射器30aを唯一作動するパイロット噴射器として機能させることが可能である。なお、水素1が供給されない周辺燃料噴射器30bは、中央燃料噴射器30aに空気2を供給する空気孔として機能する。これにより、ジェットエンジン20の始動時に安定した水素火炎4を確実に発生させることが可能となる。
【0093】
なお、ジェットエンジン20(水素燃焼器22)の運転中に、周辺燃料噴射器30bにのみ水素1を供給し、中央燃料噴射器30aを作動させないといった制御も可能である。この場合には、中央燃料噴射器30aは、水素1を噴射しない旋回空気の供給孔として機能し、周辺燃料噴射器30bにより形成される水素火炎4の安定化に寄与する。
【0094】
<運転中の制御>
制御部26は、水素燃焼器22の運転中に、中央燃料噴射器30aへの水素1の供給量を周辺燃料噴射器30bへの水素1の供給量よりも小さくしてもよい。
水素燃焼器22の運転中とは、例えば水素燃焼器22において所定の出力範囲で水素火炎4を継続して発生させている期間を意味し、典型的には水素燃焼器22を通常運転している期間である。このような期間には、中央燃料噴射器30aへの水素1の供給量が周辺燃料噴射器30bよりも小さく設定される。この制御動作は、動作モードの選択によりON/OFFが切り換えられてもよい。
【0095】
本実施形態に係る水素燃焼器22では、個々の燃料噴射器30が部分予混合燃焼器として、急速混合と燃焼を行う構成となっている。すなわち水素1の供給量を制御することで、各燃料噴射器30における水素1と空気2との流量比を制御することが可能であり、水素火炎4の分布や特性を個別に制御することが可能である。
具体的には、中央燃料噴射器30a及び周辺燃料噴射器30bの2種類の燃料噴射器30により形成される水素火炎4が制御される。
【0096】
例えば、燃料噴射器モジュール45を構成する全ての燃料噴射器30に対して同様の供給量で水素1を供給した場合、各燃料噴射器30が近接して配置されていることもあり、局所的に高温となる水素火炎4が形成される可能性がある。これに対し、中央燃料噴射器30aへの水素1の供給量を周辺燃料噴射器30bよりも小さくした場合、各燃料噴射器モジュール45により形成される水素火炎4の中央部分が薄くなる。これにより、局所的な高温燃焼部を排除することが可能となり、有害ガスである窒素酸化物(NOx)の発生を抑制すことが可能となる。
【0097】
上記した動作では、各燃料噴射器30への水素1の供給量は、中央燃料噴射器30aへの水素1の供給量が周辺燃料噴射器30bよりも小さくなるように、要求されるエンジン出力等に応じて適宜設定される。
なお、中央燃料噴射器30aの配置数は、周辺燃料噴射器30bの配置数よりも十分に少ない。このため、中央燃料噴射器30aへの水素1の供給量を下げても、余裕をもって全体の出力を制御することが可能である。
【0098】
<逆火を防止する制御>
制御部26は、水素火炎4の逆火が発生しないように、燃料噴射器30に対する水素1の供給量を制御してもよい。
航空機10に搭載された水素燃焼器22では、幅広い燃焼器入口条件(圧力・温度・風速)での動作が求められる。これらの各条件に対して、適切な燃料流量と燃料噴射器30(水素噴射管32)内部の流速を維持することで、燃焼速度の速い水素燃料を用いても逆火を起こさない水素火炎4を形成することが可能となる。
【0099】
例えば、水素1の供給量を大きくして流速を増大させることで、逆火を回避することがでできる。また例えば、空気2の流速(風速)が十分に高い場合には、水素1の流速を多少低下させても逆火を回避することができる。この他、圧力や温度の条件によって、逆火が発生する条件が異なる。
【0100】
制御部26では、このような条件のパラメータ(圧力、温度、風速)を各種のセンサから取得し、取得した情報をもとに水素火炎4の逆火が発生しないような水素1の供給量を設定する。なお、水素1の供給量は、例えば第1の供給系統85a及び第2の供給系統85bの両方についてそれぞれ設定される。
これにより、幅広い運転条件で逆火を起こさない安定した水素火炎4を形成することが可能となる。
【0101】
<燃焼方式を切り替える制御>
制御部26は、燃料噴射器30における燃焼において形成される火炎形態が拡散火炎又は予混合火炎のどちらか一方が支配的となるように水素1の供給量を制御してもよい。
上記したように、部分予混合燃焼器として機能する燃料噴射器30では、空気2と水素1との混合のさせかたによって、拡散火炎又は予混合火炎の一方が支配的になる火炎形態を実現すること可能である。制御部26は、水素1の供給量を調整することで、拡散火炎又は予混合火炎を切り替える。
【0102】
拡散火炎は、空気2(酸素)が水素1の火炎の外側から拡散により供給される燃焼形態(拡散燃焼)で形成される火炎である。例えば燃料噴射器30に対する水素1の供給量を絞り、水素1の流量・流速が低い状態では、空気2と水素1とが十分に混合されないまま火炎が形成される。このような状態で発生する火炎は、拡散燃焼に伴う拡散火炎であり、比較的広がりの少ない安全な火炎となる。
【0103】
予混合火炎は、空気2と水素1との混合気体が燃焼して火炎を形成する燃焼形態(予混合燃焼)で形成される火炎である。例えば燃料噴射器30に対する水素1の供給量を増大し、水素1の流量・流速が十分に高い状態では、空気2と水素1との急速混合が実現する。急速混合により生成された混合気体が燃焼して火炎が形成される。このような状態で発生する火炎は、予混合燃焼に伴う予混合火炎であり、例えば拡散火炎よりも広がりのある高温な火炎となる。
【0104】
例えば拡散火炎が支配的な火炎を形成する場合には、燃焼器入口条件等に応じて水素1の供給量を低下させる制御が行われる。また予混合火炎が支配的な火炎を形成する場合には、燃焼器入口条件等に応じて水素1の供給量を増加させる制御が行われる。なお、水素燃焼器22の通常運転時には、基本的に予混合火炎が支配的な水素火炎4が形成される。このように、各燃料噴射器30が形成する微小火炎構造を拡散火炎・予混合火炎のいずれにも任意に変化させる制御が行われてもよい。
【0105】
<高空着火時の制御>
航空機10に搭載された水素燃焼器22では、大気圧が十分に低くなる高度(例えば高度1000m付近)での再着火(高空着火)が必要になる。
このような高空着火を実現するための制御として、制御部26は、大気圧が所定のレベルよりも低い状態で水素火炎4が消えた場合、中央燃料噴射器30aへの水素1の供給量を周辺燃料噴射器30bへの供給量よりも大きくしてもよい。
【0106】
具体的には、大気圧センサ等を用いて検出した大気圧が所定の閾値以下であり、水素火炎4が消失した場合には、中央燃料噴射器30aへの水素1の供給量が周辺燃料噴射器30bよりも大きく設定する。
典型的には、周辺燃料噴射器30bへの水素1の供給がカットされ、中央燃料噴射器30aへの水素1の供給量が増大される。
【0107】
高空着火を行う場合、地上や比較的低い高度と比べて、燃焼器ライナ51に流入する希釈空気が相対的に少なくなるため、再着火が難しくなることがある。
このように、希釈空気が相対的に少ない時には、上記したように、中央燃料噴射器30aに対して多量の燃料供給を行うことで、中央燃料噴射器30aにより相対的に空気の少ない環境で燃料過濃の燃料噴射機能を実現することができる。
【0108】
また、周囲のノズル(周辺燃料噴射器30b)は、燃料供給がカットされた状態、又は燃料供給が相対的に少ない状態となる。この結果、周辺燃料噴射器30bにより、強い旋回空気で中央燃料噴射器30aからの燃料流を包む構造が構成される。
これにより、全体的に燃焼器ライナ51に流入する空気量が少ない条件であっても、適切に限られた領域で着火・保炎を計ることが可能となる。
【0109】
<燃焼振動の発生を抑制する制御>
燃焼振動は、例えば燃焼領域5(燃焼器ライナ51)内で圧力と火炎とが互いに変動を強めあうように働くことで発生する圧力振動である。水素燃焼器22の運転状態や、外部環境の気圧・温度・風速等の各種の条件が揃うと、燃焼振動が発生する。
このような燃焼振動を抑制するための制御として、制御部26は、燃焼振動の予兆が検出された場合に、燃料振動が抑制されるように水素1の供給量を制御してもよい。
【0110】
例えば、水素燃焼器22の各部(ケーシング65や燃焼器ライナ51)の圧力や温度等をモニタリングされる。このモニタリング結果に対して、機械学習等を用いた燃焼振動の予測処理を実行して、燃焼振動の発生を予測することが可能である。そのほか、燃焼振動の初期に発生する振動等を検出してもよい。
制御部26は、このような燃焼振動の予兆が検出された場合に、各供給系統への水素1の供給量を変化させ、燃焼振動の発生を事前に回避する。
【0111】
例えば、中央燃料噴射器30a又は周辺燃料噴射器30bの少なくとも一方について、上記した拡散火炎が支配的になるように水素1の供給量が絞られる。これにより、燃焼状態が変化して、燃焼振動の発生を回避することが可能となる。また、中央燃料噴射器30a又は周辺燃料噴射器30bの少なくとも一方について、水素1の供給をカットしてもよい。
このように、燃料噴射器モジュール45ごとの燃料配分を変化させることで、燃焼振動の発生をおさえることが可能となる。
【0112】
以上、本実施形態に係る水素燃焼器22では、複数の燃料噴射器30をモジュール化した燃料噴射器モジュール45が設けられる。各燃料噴射器30では、空気導入管31の内壁31bと衝突するように旋回空気2に対して略垂直に水素1が噴射され、空気2と水素1とが十分に混合される。混合気体は、ステップ状の保炎部33から噴射される。これにより各燃料噴射器30は、幅広い運転範囲での動作が可能となる。また燃料噴射器モジュール45の各燃料噴射器30には、複数の供給系統にわけて水素1が供給される。これにより、燃焼器全体での燃料の噴射や混合の制御パターンが広がり、幅広い運転範囲で水素火炎4を維持することが可能となる。
【0113】
灯油に似た炭化水素系燃料からなるジェット燃料を使用した航空用エンジンでは、幅広い運転範囲を満足する運転が実現されている。一方で、水素を燃料とする場合、従来と同じ設計基準では、NOx等の排出量を抑制しつつ水素の安定火炎を実現することが難しい。
【0114】
例えばろうそくに似た拡散火炎を多点で形成して低NOx化を図る方法(特許文献1参照)では、拡散火炎を多点で形成する燃焼場は、主に燃焼器の形状によって実現されており運転制御項目が少ない。このため幅広い運転範囲に適用することが難しい。
また流体的な渦を利用して水素燃料と空気とを急速混合させた後に浮き上がり火炎を形成して低NOx化を図る方法(非特許文献1参照)では、急速混合が流体の構造に依存しており、幅広い運転範囲で適正な浮き上がり火炎を形成することが難しい。
また水素と空気とを混合して噴射する噴射器において噴射孔を微細化して、逆火等の発生を防止する方法(非特許文献2参照)では、噴射孔を微細な一体化構造とする必要があり、製作性・構造安定性が低下する可能性がある。
【0115】
本実施形態では、各々が比較的小さな火炎帯を維持する燃料噴射器30を多段化したモジュールを環状に配して水素燃焼器22が構成される。
各燃料噴射器30では、空気導入管31の内側に水素噴射管32が配置される。水素噴射管32に設けられた噴射孔41からは、空気導入管31の旋回器37を通過した旋回空気に対して、略垂直に水素1が噴射される。この時、水素1は空気導入管31の内壁に衝突することで、空気2との急速混合が促される。
【0116】
このように、各燃料噴射器30では、機械的な構造により急速混合を実現しており、運転範囲が変化した場合でも水素1の供給量等を変えることで容易に安定火炎を実現可能である。また、水素1の供給量を絞ることで、予混合火炎と拡散火炎とを切り替えることが可能であり、状況に応じて燃焼形態を変化させることが可能である。
【0117】
また複数の燃料噴射器30を多段化した燃料噴射器モジュール45では、中央燃料噴射器30a及び複数の周辺燃料噴射器30bが、それぞれ異なる供給系統に接続される。
これにより、2つの供給系統についての供給量を適宜設定することで、燃料噴射器モジュール45ごとに、様々な燃焼パターンを実現することが可能となる。
【0118】
例えば、定常運転時に、局所的な高温部が形成されないような燃焼パターンにより、NOxの排出量を低減することが可能である。また例えば、流入空気が少ない状況でも、中央燃料噴射器30aを選択的に作動させることで、安定した火炎を形成することが可能である。
このように、供給系統を分けて燃料噴射器30を制御することで、幅広い運転範囲で安定した水素火炎4を維持することが可能となる。
【0119】
また本実施形態に係る水素燃焼器22は、比較的単純な設計単位(燃料噴射器30)を複数組み合わせることで全体初期設計が可能である。これにより、製作性や構造安定性を十分に向上することが可能となる。また各燃料噴射器30の取付や交換等を容易に行うことが可能であり、メンテナンス性を向上することが可能となる。
【0120】
<その他の実施形態>
本発明は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態を実現することができる。
【0121】
図11は、他の実施形態に係る水素供給ラインの一例を示す模式図である。
図11に示す水素供給ライン125では、第1の遮断弁81及び第2の遮断弁82の下流で、燃料噴射器モジュール45ごとに供給系統が分けられ、供給系統ごとに流量調整弁84と分配弁83とがこの順番で設けられる。
【0122】
ここでは、分配弁83により、中央燃料噴射器30a及び周辺燃料噴射器30bへの分配パターンが制御される。これにより、例えば中央燃料噴射器30a及び周辺燃料噴射器30bのどちらか一方に燃料を分配するパターン、両方に燃料を分配するパターン、及び両方に燃料を分配しないパターン等が実現される。
また、流量調整弁84により、各燃料噴射器モジュール45に対する水素1の供給量の総量が調整される。
【0123】
これにより、複数の燃料噴射器モジュール45ごとに水素燃料の供給量を制御することが可能となる。また各燃料噴射器モジュール45において中央燃料噴射器30a及び周辺燃料噴射器30bの燃焼パターンを制御することが可能となる。
【0124】
上記の実施形態では、燃料噴射器モジュールに中央燃料噴射器が1つだけ設けられた。これに限定されず、1つの燃料噴射器モジュールに、複数の中央燃料噴射器が設けられてもよい。この場合、複数の中央燃料噴射器がモジュールの中央に配置され、それを囲むように複数の周辺燃料噴射器が配置される。また複数の中央燃料噴射器は第1の供給系統に接続され、複数の周辺燃料噴射器は第2の供給系統に接続される。
【0125】
水素燃焼器における燃料噴射器モジュール(ノズルモジュール)の配置は、任意に設定されてよい。例えば
図5~
図7等では、燃料噴射器モジュールを単位として、環状型(annular type)の水素燃焼器が構成された。例えば各燃料噴射器モジュールに円筒型の燃焼缶(燃焼器ライナ)を設け、それらを個別に配置した缶型(can type)の水素燃焼器22が構成されてもよい。また燃焼缶が付いた燃料噴射器モジュールを円環状に配置して環状缶型(cannular type)の水素燃焼器22が構成されてもよい。
【0126】
また燃料噴射器モジュールが1つだけ設けられてもよい。例えば内側と外側にそれぞれ複数の燃料噴射器を円環状に配置した燃料噴射器モジュールが構成されてもよい。この場合、内側の燃料噴射器と外側の燃料噴射器とが別々の供給系統に接続される。この他、燃料噴射器モジュールの数や、構成は限定されない。
【0127】
上記では、推力を発生させるジェットエンジンに水素燃焼器が搭載された。これに限定されず、ガスタービン用燃焼器として水素燃焼器が構成されてもよい。例えば推進系が電動化された航空機に搭載される電力供給用の発電装置向けのガスタービン燃焼器に本発明が適用される。
発電装置には、空気を圧縮する圧縮機と、水素燃焼器と、水素燃焼器からの燃焼ガスを駆動源として圧縮機及び発電機を駆動するタービンとが設けられる。これは、例えば
図2を参照して説明したジェットエンジンの回転軸を用いて発電機を駆動して、電力を発生させる装置である。
【0128】
航空機に搭載される発電装置では、電力抽出要求が高く、また航空運転時の条件範囲(空気の圧力・温度等)が広い。このため、定置用の発電用ガスタービンに比べ幅広い運転範囲でロバストに安定火炎を維持する必要がある。このような発電装置に本発明を適用することで、幅広い運転範囲で安定した電力供給を行うことが可能となる。
【0129】
また定置型の発電装置に対して本発明が用いられてもよい。例えば工場や家庭に設けられる発電装置のガスタービン燃焼器として、本発明に係る水素燃焼器が用いられる。これにより、例えば電力需要の急激な変化により、発電装置の負荷が変動するような場合であっても、NO排出量が抑制された安定した水素火炎を実現し、クリーンな運転を維持することが可能となる。
【0130】
以上説明した本発明に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
【符号の説明】
【0131】
4…水素火炎
5…燃焼領域
10…航空機
20…ジェットエンジン
21…圧縮機
22…水素燃焼器
23…タービン
26…制御部
30…燃料噴射器
30a…中央燃料噴射器
30b…周辺燃料噴射器
31…空気導入管
32…水素噴射管
33…保炎部
37…旋回器
45…燃料噴射器モジュール
50…ライナヘッド
51…燃焼器ライナ
56…水素供給管
71…第1の空気孔
72…第2の空気孔
100…水素燃焼器システム