(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182236
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】電磁波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20231219BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231219BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231219BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20231219BHJP
【FI】
H05K9/00 M
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B32B27/00 B
B32B27/00 Z
H01Q17/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095722
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 碩芳
(72)【発明者】
【氏名】正田 亮
(72)【発明者】
【氏名】今井 美穂
(72)【発明者】
【氏名】今井 順平
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
4F071AA31
4F071AA53
4F071AB18
4F071AB20
4F071AF36
4F071AF47Y
4F071AG34
4F071AH12
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4F100AA01
4F100AA01B
4F100AA17
4F100AA17A
4F100AA17C
4F100AA34
4F100AA34B
4F100AK01
4F100AK01B
4F100AK25
4F100AK25B
4F100AK51
4F100AK51B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA42
4F100BA42B
4F100CA08
4F100CA08B
4F100DE00
4F100DE00B
4F100EH20
4F100EH46
4F100EH66
4F100EJ93
4F100EJ94
4F100GB41
4F100GB51
4F100JA13
4F100JG01
4F100JG01A
4F100JG05
4F100JG05B
4F100JJ07
4F100JJ07B
4F100JN06
4F100JN06C
5E321BB21
5E321BB23
5E321BB25
5E321BB31
5E321BB35
5E321GG11
5E321GH10
5J020EA03
5J020EA04
5J020EA05
5J020EA07
5J020EA10
(57)【要約】
【課題】本発明は、電磁波吸収体の耐火性を向上させることで、電磁波吸収体が着火した際の延焼を効果的に防止する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の電磁波吸収体は、抵抗層、誘電体層、反射層を備え、前記誘電体層が膜厚方向に濃度分布を持つことを特徴とする。特に前記誘電体が、1種類以上の樹脂成分と1種類以上の無機材料から構成されてよい。さらに前記誘電体層の断面におけるEDX分析において、前記無機材料由来の金属元素濃度が、前記誘電体層の断面上部と中間部、または中間部と下部を比較した際に、10%以上異なることを特徴とする。また前記誘電体層における前記金属元素濃度が、前記誘電体層の断面上部と断面中間部、断面下部における値を比較した際に、大小関係が断面上部>断面中間部>断面下部となるようにしてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗層、誘電体層、反射層を備え、
前記誘電体層が膜厚方向に濃度分布を持つことを特徴とする、電磁波吸収体。
【請求項2】
前記誘電体層が、1種類以上の樹脂成分と1種類以上の無機材料を含む、請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記誘電体層の断面におけるEDX分析において、前記無機材料由来の金属元素濃度が、前記誘電体層の断面上部と中間部、または中間部と下部を比較した際に、10%以上異なることを特徴とする、請求項2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記誘電体層における前記金属元素濃度が、前記誘電体層の断面上部と断面中間部、断面下部における値を比較した際に、大小関係が断面上部>断面中間部>断面下部となる、請求項3に記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
前記無機材料の配合割合が体積比で10~90%である、請求項2~4のいずれか一つに記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
前記無機材料の密度が2.0~20g/cm3である、請求項2~4のいずれか一つに記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
前記無機材料の引火点が500℃以上もしくは不燃性である、請求項2~4のいずれか一つに記載の電磁波吸収体。
【請求項8】
前記無機材料がチタン酸バリウムを含む、請求項2~4のいずれか一つに記載の電磁波吸収体。
【請求項9】
前記誘電体層の厚みが20~7000μmである、請求項1~4のいずれか一つに記載の電磁波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量、高速通信に向けた取り組み、レーダーやスキャナなど特定の電磁波送受信装置を用いたセンシング技術の進歩に伴い、発信された5Gや6Gなどの電磁波がオフィスビルや集合住宅、鉄骨柱、梁、支持鉄筋やコンクリート、ガラス窓などから反射された電磁波がノイズとなり通信速度を低下させたり、誤検知を引き起こしたりする問題が認識されている。
【0003】
これに対し、鉄骨柱、梁、支持鉄筋やコンクリート、ガラス窓などに電磁波吸収体を用いることでノイズを抑制し、本来の通信速度を維持できるようになる。特許文献1では高速道路料金所壁面に電磁波吸収体を設置することが示されている。また、特許文献2や特許文献3では、自動車の車両に電磁波吸収体を用いる例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-233642号公報
【特許文献2】特許第7000301号公報
【特許文献3】特開2022-50120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように通信技術の用途や性能が拡大したことで、電磁波吸収体もさまざまな用途や環境で用いられるようになり、火災などの災害に巻き込まれる可能性も高まっている。これに対し特許文献1や特許文献2には電磁波吸収体が着火した際の延焼防止に関する課題認識は開示されていない。特許文献3では電磁波吸収体の誘電体層に耐火性添加剤を含ませることにより、延焼防止機能を付与することは開示されているが、添加剤の配合の仕方など、耐火性を向上させる工夫について十分な開示はない。
そこで本発明は、電磁波吸収体の耐火性を向上させることで、電磁波吸収体が着火した際の延焼を効果的に防止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の電磁波吸収体の一つは、抵抗層、誘電体層、反射層を備え、前記誘電体層が膜厚方向に濃度分布を持つことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電磁波吸収体の耐火性を向上させることで、電磁波吸収体が着火した際の延焼を効果的に防止することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る反射型の電磁波吸収体を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、熱プレスにより濃度勾配を調整する模式図である。
【
図3】
図3は、誘電体層2を膜厚方向に切った断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0010】
図1は、実施形態に係る反射型の電磁波吸収体を模式的に示す断面図である。この図に示す電磁波吸収体10はフィルム状又はシート状であり、抵抗層1と、誘電体層2と、反射層3とをこの順序で備える積層構造を有する。なお、フィルム状の電磁波吸収体10は、例えば、全体の厚さが24~250μmである。他方、シート状の電磁波吸収体10は、例えば、全体の厚さが0.25~7.1mmである。
【0011】
(抵抗層)
抵抗層1は外側から入射してきた電磁波を誘電体層2へと至らしめるための層である。すなわち、抵抗層1は、電磁波吸収体10が使用される環境に応じてインピーダンスマッチングをするための層である。電磁波吸収体10が空気(インピーダンス:377Ω/□)中で使用される場合、抵抗層1のシート抵抗は、例えば、350~400Ω/□の範囲に設定される。
【0012】
抵抗層1は、導電性を有する無機材料や有機材料を含有する。導電性を有する無機材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛アルミニウム(AZO)、カーボンナノチューブ、グラフェン、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、Ag-Cu、Cu-Au及びNiナノ粒子からなる群から選択される1つ以上を含むナノ粒子、又は及びナノワイヤーが挙げられ、導電性を有する有機材料としては、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、が挙げられる。特に柔軟性、成膜性、安定性、377Ω/□のシート抵抗の観点から、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含む導電性ポリマーが好ましい。電磁波透過層は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PPS)との混合物(PEDOT/PSS)を含むものであってもよい。
【0013】
抵抗層1のシート抵抗値は、例えば、導電性を有する有機材料の選定、膜厚の調節によって適宜設定することができる。抵抗層1の厚さ(膜厚)は0.1~2.0μmの範囲内とすることが好ましく、0.1~0.4μmの範囲内とすることがより好ましい。膜厚が0.1μm以上であると、均一な膜を形成しやすく、抵抗層1としての機能をより十分に果たすことができる傾向がある。一方、膜厚が2.0μm以下であると、十分なフレキシビリティを保持させることができ、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じることをより確実に防ぐことができる傾向がある。抵抗層1のシート抵抗値は例えばロレスターGP MCP-T610(商品名、株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて測定することができる。
【0014】
(誘電体層)
誘電体層2は、入射する電磁波と反射した電磁波を干渉させるための層である。誘電体層2は、以下の式で表される条件を満たすように厚さ等が設定されている。
d=λ/(4(εr)1/2)
式中、λは抑制すべき電磁波の波長(単位:m)を示し、εrは誘電体層を構成する材料の比誘電率、dは誘電体層の厚さ(単位:m)を示す。入射する電磁波の位相と反射した電磁波の位相がπずれることで反射減衰が得られる。
【0015】
誘電体層2は、1種類以上の無機材料と、1種類以上の樹脂成分とを含有する。誘電体層2における無機材料の選択及びその含有量に応じて、誘電体層2の密度を調整することができる。樹脂成分100体積部に対し、無機材料の含有量は、好ましくは10~300体積部であり、より好ましくは25~100体積部である。樹脂と無機フィラーの合計100体積部に対し、無機フィラーの含有量(以下、体積比の「配合割合」ともいう。)は、10~90体積部(%)が好ましい。樹脂成分100質量部に対し、無機材料の含有量は、好ましくは10~900質量部であり、より好ましくは25~100質量部である。樹脂成分における無機材料の含有量が下限値以上であることで、誘電体層による窒息、延焼防止効果を十分に大きくできる傾向にあり、他方、上限値以下であることで、カレンダー製膜又は押出し成形によって誘電体層を効率的に製造する傾向にある。前記樹脂成分に対する前記無機材料の割合が体積比で10~90%とすることが可能である。誘電体層の厚みは20~7000μmとすることができる。
【0016】
無機材料として、チタン酸バリウム、酸化チタン及び酸化亜鉛などが挙げられる。無機材料の態様は粉末(例えば、ナノ粒子)であることが好ましい。無機材料の密度は樹脂成分の密度よりも高いことが好ましい。無機材料の密度は、好ましくは2.0~20g/cm3であり、より好ましくは4.0~8.0g/cm3であり、更に好ましくは4.0~6.5g/cm3である。
また、無機材料として金属単体や炭素材料を用いることができる。ただし導電率が高い金属を多量に含有する誘電体層は電磁波を反射してしまうため、添加量を調整する必要がある。金属を繊維状にしたものを樹脂に練りこむなどして使用することができる。
【0017】
上記無機材料粉末の粒子形状は球状、針状、板状、鱗片状、多角形状、幾何学的な形状であってもよい。また粒子径はナノメートルオーダーでもよいし、マイクロメートルオーダー、ミリメートルオーダーでもよい。粒子径を小さくすることで誘電体形成時に、粒子が密になりやすく耐火性に優れた誘電体層を得やすい傾向にある。一方で粒子径を大きくすることで、意図的に誘電体層内で無機材料を偏析させやすくなり、偏析面を発火源側にすることでより迅速に鎮火を促すことができ、延焼防止に大きな効果を果たすことができる。
【0018】
樹脂成分として、例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、クリブタル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルホルマール、フェノール樹脂、ユリア樹脂及びポリクロロブレン樹脂が挙げられる。樹脂成分の密度は、好ましくは0.7~3.0g/cm3であり、より好ましくは0.85~2.5g/cm3である。また、樹脂自体が難燃性や耐火性を有していてもよい。
【0019】
作製した誘電体層における無機材料の濃度は膜厚方向、幅方向に濃度分布を持っていてもよい。膜厚方向は積層構造を有する電磁波吸収体における積層方向に等しく、幅方向は膜厚方向に垂直な方向であれば特に限定されない。濃度分布は先に述べたように無機材料の粒径により調整することもできるし、濃度の異なる誘電体層を熱溶着などの方法で積層させることで作製することができる。
【0020】
誘電体層は消火性、難燃性、吸熱性を有する無機材料や樹脂を含有していてもよい。無機材料は引火点を500℃とすることが望ましい。さらに不燃性とすることもできる。このような性質を持つ材料を用いることで、延焼防止機能を向上させることができる。
【0021】
難燃剤としては、リン原子含有化合物を好適に使用することができる。リン原子含有化合物としては、例えば、赤リン、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及びキシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及びリン酸マグネシウム等のリン酸金属塩、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸アルミニウム等の亜リン酸金属塩、ポリリン酸アンモニウム、などリン系化合物等が挙げられる。難燃剤は、これら1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
吸熱剤としては、金属水酸化物、金属塩の水和物などの水和金属化合物が挙げられる。具体的には、水和金属化合物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、カルシウム-マグネシウム系水酸化物、ハイドロタルサイト、ベーマイト、タルク、ドーソナイト、硫酸カルシウムの水和物、硫酸マグネシウムの水和物、ホウ酸亜鉛などが挙げられる。
【0023】
消火剤としては特に制限されず、いわゆる消火の4要素(除去作用、冷却作用、窒息作用、負触媒作用)を有するものを適宜用いることができる。消火剤としては、一般消火薬剤(カリウム塩を主成分とする粉末系消火剤の他、炭酸水素ナトリウムやリン酸塩等の一般的な粉末系消火剤が挙げられる)が挙げられる。万能な消火剤としてはABC消火剤が挙げられ、油や電気火災用の消火剤としてはBC消火剤が挙げられる。消火剤成分は、例えば、バインダー樹脂とともに燃焼して熱エネルギーを発生する無機酸化剤と、ラジカル発生剤とを少なくとも含み、ラジカル発生剤の分解開始温度が90℃~260℃の範囲である。かかる消火剤成分は、優れた消火性能を有する。消火剤成分は、ラジカル発生剤として、例えば、カリウム塩及びナトリウム塩の少なくとも一方を含む。カリウム塩及びナトリウム塩は燃焼ラジカルを安定化して燃焼の連鎖反応を抑制する作用(負触媒作用)を有する。
【0024】
(反射層)
反射層3は誘電体層2から入射してきた電磁波を反射させ、誘電体層2へと至らしめるための層である。反射層3の厚さは、例えば、4~250μmであり、4~12μm又は50~100μmであってもよい。
【0025】
反射層3は、例えば、シート抵抗値が100Ω/□以下の導電性を有する材料で構成されている。かかる材料は無機材料であっても有機材料であってもよい。導電性を有する無機材料として、例えば、酸化ンジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛アルミニウム(AZO)、カーボンナノチューブ、グラフェン、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、Ag-Cu、Cu-Au及びNiナノ粒子からなる群から選択される1つ以上を含むナノ粒子、又は及びナノワイヤーが挙げられる。導電性を有する有機材料として、例えば、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体が挙げられる。導電性を有する無機材料又は有機材料を基材上に製膜してもよい。柔軟性、成膜性、安定性、シート抵抗値及び低コストの観点から、PETフィルムと、その表面に蒸着されたアルミニウム層とを備える積層フィルム(Al蒸着PETフィルム)を反射層3として用いることが好ましい。
【0026】
(製造方法)
誘電体層は例えば以下の工程を経て製造される。まず、誘電体層材料となる樹脂及び無機材料を設計した処方通りに計量し、撹拌機に投入し、均一になるよう攪拌を行う。混ぜ合わせたものを押し出し機に投入し、溶融・混錬を行う。押出機の先端から細い棒状に形成した樹脂を押出し、水槽中で冷却し、任意の大きさにカットし誘電体層の原料となる樹脂ペレットを作製する。次いで、作製した樹脂に熱をかけることで溶融させ、押し出し機やカレンダー製膜機、熱プレス機等の装置を用いて所定の厚みに調整した誘電体層を作製する。上記方法は一例であり、樹脂ペレット製造工程を含まず、直接、押出機やカレンダー製膜機での製膜も可能である。
【0027】
上記方法で誘電体層を作製する際に濃度勾配を付与する方法として、例えば複数の樹脂を、複数の押出機から別々に押し出し、特殊な構造のダイの中で積層することで誘電体層を作製することができる。
また熱プレス機により作製する場合、金型内に樹脂ペレットを充填する際に濃度の異なるペレットを層状になるよう配置する、無機材料含有ペレットと樹脂単一のペレットを配合比を変化させ混合し、混合したものを順次層状に配置し熱プレスすることで誘電体層を作製する方法がある。
図2は、熱プレスにより濃度勾配を調整する模式図である。無機材料含有ペレット4の粒子径が樹脂ペレット5のサイズより小さいため、熱プレス時に材料をセットすると無機材料が下側に偏析しやすくなることで濃度勾配をつけることが可能となる。
【0028】
上記方法のほかにウェットコーティングにより誘電体層を形成することもできる。ウェットコーティングは、誘電体層を構成する材料が分散した分散液を基材上に塗工して塗膜を形成し、塗膜を乾燥させることで行われる。ウェットコーティングの方法としては、グラビアコーティング、ロールコーティング、ダイコーティング、コンマコーテイング及びナイフコーティングなどが挙げられ、分散液の塗工及び塗膜の乾燥という操作が1回であっても十分な厚さの誘電体層が形成できる傾向にあることから、コンマコーティング、ナイフコーティング及びロールコーティングであることが好ましい。
【0029】
ウエットコーティングにより、誘電体層に濃度勾配を付与する方法として、塗工ヘッドから乾燥炉までのパス長の長い装置を用いる方法が考えられる。塗工時には溶剤や水に無機材料や樹脂を混合しているため、無機材料が溶剤や水中で流動することができる状態にある。パス長の長い装置を用いることで流動可能時間が長くなり、無機材料の密度が樹脂よりも大きいため、無機材料の沈降が促進され、濃度勾配ができる。この際に無機材料の粒子径を大きくすることにより、この沈降が起きやすくなる。また、濃度の異なる誘電体層を積層してもよい。
【0030】
また、樹脂と無機材料を混合せず、誘電体層を作製することもできる。例えば、チタン酸バリウムや酸化チタンを焼結したのち、樹脂層と貼り合せることで誘電体層を作製することもできる。また樹脂が粘着性を有する場合、粘着面に直接無機材料をコーティングしたり、スパッタや蒸着を用いて樹脂と無機材料を重ね合わせることで誘電体層を作製することもできる。
【0031】
電磁波吸収体は、例えば、以下の工程を経て製造される。まず、ロール状の誘電体層をカレンダー製膜で作製し、次いで、グラビアコーティングによって誘電体層を含むロール状の積層体を作製する。この積層体を所定のサイズに切断することで電磁波吸収体が得られる。ロール状の誘電体層は、(A)上記無機材料と樹脂を含む樹脂組成物を調製する工程と、(B)当該樹脂組成物からなる誘電体層をカレンダー製膜によって形成する工程とを経て製造される。吸収体として用いる際の周波数帯が高い場合(例えば、60GHz以上)、誘電体層の厚さが十分に薄いため、ロールtoロール方式であるカレンダー製膜によって電磁波吸収体を製造できる。これに対し、適用対象の周波数帯が低い場合厚く形成する必要があるため、ロールtoロール方式での製造が困難となる傾向にある(例えば、28GHz未満)。この場合、例えば、枚葉方式である、熱プレス成形によって誘電体層を形成することができる。つまり、使用する周波数帯(換言すれば、誘電体層の厚さ)に応じて作製方法を適宜選択すればよい。
【0032】
(濃度勾配)
誘電体層の濃度勾配を測定する方法について例を用いて説明する。測定手段として、走査型電子顕微鏡_エネルギー分散型X線分光法(SEM_EDX)を用いる。
図3は、誘電体層2を膜厚方向に切った断面の模式図である。以下、特に断りのない限り、誘電体層の断面というときは膜厚方向に切ったときの平面をいう。また電磁波が入射する誘電体層の抵抗層側を上部、反射層側を下部という。まず、SEMによる断面観察にて誘電体層の膜厚を確認する。前記膜厚から誘電体層の断面上部11、断面中間部12、および断面下部13の領域を確認し、各領域内の元素濃度を測定する。各領域内の測定点は特に限定されず任意でもよい。例えば誘電体層の膜厚が500μmであった場合、断面上部11は誘電体層表面から膜厚方向に1μm離れた面との間の領域を表し、断面中間部12は断面において膜厚を等分する線分pを挟んで上下±0.5μmの間隔をおいて離れた面との間の領域を表し、断面下部13は誘電体層裏面から膜厚方向に1μm離れた面との間の領域を表す。ここに誘電体層表面は抵抗層側の平面を意味し、誘電体層裏面は反射層側の平面を意味する。膜厚方向の誘電体層の濃度分布を適切に測定し得るものであれば、この例に限らないことは言うまでもなく、膜厚方向の任意の複数の場所で測定してもよい。
【0033】
次に濃度勾配の求め方について例を用いて模式的に説明する。樹脂成分としてウレタン樹脂、無機材料として酸化チタンを用いた誘電体層において、上述した方法で濃度を測定した場合の測定例を表1と表2に示す。
【表1】
【表2】
R0は断面上部11の元素濃度、R1は断面中間部12の元素濃度、R2は断面下部13の元素濃度を表す。濃度勾配δ(%)は|{(R1/R0)-1}×100|または|{(R2/R1)-1}×100|で表される。
無機材料由来の金属元素であるTiについて濃度勾配δを求めると、表1では断面上部と断面中間部の濃度勾配は32.6、断面中間部と断面下部の濃度勾配は40.2と求められる。同様に表2では9.8、7.1と求められる。ここから表1の誘電体層は、Tiの元素濃度が断面上部と断面中間部、または断面中間部と断面下部と比較した際に10%以上異なることが分かる。これに対し表2の誘電体層は10%に満たないことが分かる。さらに表1の誘電体層は断面上部、中間部、下部におけるTi元素の濃度の大小関係がR0>R1>R2の関係にあるのに対し、表2の誘電体層はR0<R1、R1>R2の大小関係にあることが分かる。
【0034】
<実施例>
以下の材料を使用して実施例及び比較例に係る誘電体層を作製した。
樹脂成分
アクリル樹脂:OC-3405(サイデン化学社製、密度0.96g/cm3)
ウレタン樹脂:エラストランC60A10WNクリヤー(BASFジャパン社製、密度1.1g/cm3)
無機材料
チタン酸バリウム粉末:BT-01(堺化学工業社製、密度6.01g/cm3)
酸化チタン粉末:CR-60(石原産業社製、密度4.02g/cm3)
マグネシウム粉末:マグネシウム粉末1級(林純薬工業社製、密度1.75g/cm3)
【0035】
(実施例1)
アクリル樹脂:酸化チタンを体積比60:40にて配合し、塗液を作製、アプリケーターを用いて離型処理されたPET基材に塗工した。塗工後、大気中で5分間放置したのち、乾燥オーブンにて120℃環境下で5分間乾燥させ、厚さ818μmの誘電体層を作製した。
【0036】
(実施例2)
ウレタン樹脂:チタン酸バリウムを体積比70:30にて配合し、熱プレス用の金型にセットした。200℃に加熱した熱プレス機を用いて、5分間加圧し、厚さ780μmの誘電体層を作製した。
【0037】
(実施例3)
ウレタン樹脂:チタン酸バリウムを体積比55:45にて配合し、実施例2と同様の方法で、厚さ791μmの誘電体層を作製した。
【0038】
(実施例4)
ウレタン樹脂:チタン酸バリウムを体積比70:30にて配合し、実施例2と同様の方法で、厚さ53μmの誘電体層を作製した。
【0039】
(実施例5)
ウレタン樹脂:チタン酸バリウムを体積比70:30にて配合し、実施例2と同様の方法で、厚さ4250μmの誘電体層を作製した。
【0040】
(実施例6)
ウレタン樹脂:マグネシウムを体積比50:50にて配合し、実施例2と同様の方法で、厚さ210μmの誘電体層を作製した。
【0041】
(比較例1)
アクリル樹脂を用いて、実施例1と同様の方法で塗工を行い、大気中での乾燥時間は設けずに、120℃環境下で5分間乾燥させ、厚さ840μmの誘電体層を作製した。
【0042】
(比較例2)
ウレタン樹脂を熱プレス用の金型にセットした。200℃に加熱した熱プレス機を用いて、5分間加圧し、厚さ780μmの誘電体層を作製した。
【0043】
(比較例3)
ウレタン樹脂:マグネシウムを体積比95:5にて配合し、熱をかけることでウレタン樹脂を溶融させ、樹脂とマグネシウムを混錬、混錬物を押出し、断裁することでマスターバッジを作製した。作製したマスターバッジを、実施例2と同様に金型にセットし、厚さ190μm厚の誘電体層を作製した。
【0044】
<評価>
実施例1~6、比較例1~3に関して延焼試験を行い、延焼防止効果を確認した。延焼防止効果の確認方法として、着火ライターで誘電体に着火し、誘電体層が燃焼するか確認し、消火するまでの時間を記録しておこなった。実施例、比較例の構成データと結果を表3に示す。実施例1~6は、金属元素の濃度勾配が、断面上部と断面中間部、または断面中間部と断面下部を比較した際にいずれも10%以上であり、また金属元素の断面上部、断面中間部、断面下部での濃度の大小関係を比較した際に、いずれも断面上部>断面中間部>断面下部の関係を示した。一方、比較例1~3は、金属元素を含んでいないか、または金属元素を含んでいても上述したような濃度勾配や濃度の大小関係を満たしていない。延焼試験に関しては、実施例1~6について誘電体層が燃え尽きることはなく鎮火したのに対し(誘電体層焼尽無き事:〇)、比較例1~3については誘電体層が焼尽したことが確認された(誘電体層焼尽無き事:×)。
【表3】
【0045】
誘電体層が膜厚方向に濃度勾配をもつように不燃性や難燃性等の特徴を有する無機材料を混入することで延焼防止効果が高まることが実証された。着火を受けやすい側に無機材料を比較的多めに配置することで延焼防止効果が向上したものと考えられる。特に金属元素による濃度勾配の指標を用いて所定数値以上の値を有するものが延焼防止効果に優れた誘電体層を与えることが見出された。なお金属元素が複数種類含む場合、少なくとも1種類の金属元素に関し濃度勾配を指標として用いることが可能である。
このことにより所定量の無機材料を混入するに際し、延焼防止効果を奏するよう効率的に誘電体層に配合することが可能となり、製造効率やコスト削減等の製造上の効果も期待できる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0047】
本発明の内容となり得る項目を以下に述べる、ただしこれに限られるものではない。
(項目1)
抵抗層、誘電体層、反射層を備え、
前記誘電体層が膜厚方向に濃度分布を持つことを特徴とする、電磁波吸収体。
(項目2)
前記誘電体が、1種類以上の樹脂成分と1種類以上の無機材料を含む、項目1に記載の電磁波吸収体。
(項目3)
前記誘電体層の断面におけるEDX分析において、前記無機材料由来の金属元素濃度が、前記誘電体層の断面上部と中間部、または中間部と下部を比較した際に、10%以上異なることを特徴とする、項目2に記載の電磁波吸収体。
(項目4)
前記誘電体層における前記金属元素濃度が、前記誘電体層の断面上部と断面中間部、断面下部における値を比較した際に、大小関係が断面上部>断面中間部>断面下部となる、項目3に記載の電磁波吸収体。
(項目5)
前記樹脂成分に対する前記無機材料の割合が体積比で10~90%である、項目2~4のいずれか一つに記載の電磁波吸収体。
(項目6)
前記無機材料の密度が2.0~20g/cm3である、項目2~5のいずれか一つに記載の電磁波吸収体。
(項目7)
前記無機材料の引火点が500℃以上もしくは不燃性である、項目2~6のいずれか一つに記載の電磁波吸収体。
(項目8)
前記無機材料がチタン酸バリウムを含む、項目2~7のいずれか一つに記載の電磁波吸収体。
(項目9)
前記誘電体層の厚みが20~7000μmである、項目1~8のいずれか一つに記載の電磁波吸収体。
【符号の説明】
【0048】
1…抵抗層、2…誘電体層、3…反射層
4…無機材料含有ペレット、5…樹脂ペレット
10…電磁波吸収体
11…断面上部、12…断面中間部、13…断面下部
【手続補正書】
【提出日】2023-10-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗層、誘電体層、反射層を備え、
前記誘電体層が、1種類以上の樹脂成分と1種類以上の無機材料を含み、
前記誘電体層の断面におけるEDX分析において、前記無機材料由来の金属元素濃度が、前記誘電体層の断面上部と中間部、または中間部と下部を比較した際に、16.0%以上異なるように前記誘電体層が膜厚方向に濃度分布を持つことを特徴とする、電磁波吸収体。
【請求項2】
前記誘電体層における前記金属元素濃度が、前記誘電体層の断面上部と断面中間部、断面下部における値を比較した際に、大小関係が断面上部>断面中間部>断面下部となる、請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記無機材料の配合割合が体積比で10~90%である、請求項1または2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記無機材料の密度が2.0~20g/cm3である、請求項1または2に記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
前記無機材料の引火点が500℃以上もしくは不燃性である、請求項1または2に記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
前記無機材料がチタン酸バリウムを含む、請求項1または2に記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
前記誘電体層の厚みが20~7000μmである、請求項1または2に記載の電磁波吸収体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の電磁波吸収体の一つは、抵抗層、誘電体層、反射層を備え、前記誘電体層が、1種類以上の樹脂成分と1種類以上の無機材料を含み、前記誘電体層の断面におけるEDX分析において、前記無機材料由来の金属元素濃度が、前記誘電体層の断面上部と中間部、または中間部と下部を比較した際に、16.0%以上異なるように前記誘電体層が膜厚方向に濃度分布を持つことを特徴とするものである。