(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023182240
(43)【公開日】2023-12-26
(54)【発明の名称】振動測定装置
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20231219BHJP
【FI】
G01H17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022095730
(22)【出願日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 優大
(72)【発明者】
【氏名】酒井 隼樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄二
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA13
2G064AB02
2G064BA02
2G064BA08
2G064BA21
2G064CC13
2G064CC30
(57)【要約】
【課題】振動測定装置において、被測定物の絶対振動の測定精度の低下を抑制する。
【解決手段】振動測定装置は、移動を伴う回転体を被測定物とする振動測定装置であって、被測定物の移動に追従して移動可能に取り付けられて、被測定物の相対振動を非接触で測定する非接触センサと、非接触センサの絶対振動を測定する接触センサと、非接触センサにより測定された第1測定データと、接触センサにより測定された第2測定データと、を利用して被測定物の絶対振動の振動データを算出する振動算出部と、を備え、振動算出部は、第1測定データと、第2測定データとを取得するデータ取得部と、第1測定データの単位と第2測定データの単位とが一致するように単位換算を行う単位換算部と、それぞれの単位が一致した、第1測定データと第2測定データとを足し合わせた結果を振動データとして出力するデータ加算部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動を伴う回転体を被測定物とする振動測定装置であって、
前記被測定物の移動に追従して移動可能に取り付けられて、前記被測定物の相対振動を非接触で測定する非接触センサと、
前記非接触センサの絶対振動を測定する接触センサと、
前記非接触センサにより測定された第1測定データと、前記接触センサにより測定された第2測定データと、を利用して前記被測定物の絶対振動の振動データを算出する振動算出部と、
を備え、
前記振動算出部は、
前記第1測定データと、前記第2測定データとを取得するデータ取得部と、
前記第1測定データの単位と前記第2測定データの単位とが一致するように単位換算を行う単位換算部と、
それぞれの単位が一致した、前記第1測定データと前記第2測定データとを足し合わせた結果を前記振動データとして出力するデータ加算部と、
を備える、
振動測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の振動測定装置であって、
前記非接触センサは、変位センサである、
振動測定装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の振動測定装置であって、
前記単位換算部において一致させる単位は、変位と、速度と、加速度と、のうちのいずれかひとつである、
振動測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、振動測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械における機械加工において、例えば被加工物の加工面品位を予測するために、加工中の工具または被加工物の振動を把握することが好ましい。しかしながら、センサを直接被測定物に取り付けると、センサ自体の重さにより被測定物の固有振動数が変化し、被測定物の振動を正確に把握できない。特許文献1に記載の振動測定装置は、工作機械の非回転部に治具を介して固定された非接触式の変位センサを用いて、回転する工具の振動を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の振動測定装置により得られる振動データには、工具の振動に加えてセンサ自体の振動による変位が付加されている。すなわち、得られる振動データは工具とセンサとの間の相対振動となり、工具の絶対振動を精度よく測定できないという問題がある。また、この問題は、機械加工における振動測定に限らず、直接振動を測定できない回転体、特に、回転動作に加えて移動動作も行う回転体を対象とする振動測定において共通の問題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、振動測定装置が提供される。この振動測定装置は、移動を伴う回転体を被測定物とする振動測定装置であって、前記被測定物の移動に追従して移動可能に取り付けられて、前記被測定物の相対振動を非接触で測定する非接触センサと、前記非接触センサの絶対振動を測定する接触センサと、前記非接触センサにより測定された第1測定データと、前記接触センサにより測定された第2測定データと、を利用して前記被測定物の絶対振動の振動データを算出する振動算出部と、を備え、前記振動算出部は、前記第1測定データと、前記第2測定データとを取得するデータ取得部と、前記第1測定データの単位と前記第2測定データの単位とが一致するように単位換算を行う単位換算部と、それぞれの単位が一致した、前記第1測定データと前記第2測定データとを足し合わせた結果を前記振動データとして出力するデータ加算部と、を備える。
この形態の振動測定装置によれば、非接触センサにより測定された被測定物の相対振動を示す第1測定データと、加速度センサにより測定された非接触センサの絶対振動を示す第2測定データとを足し合わせることにより、第1測定データに含まれる、非接触センサ自体の振動の影響を抑制でき、被測定物の絶対振動の測定精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態の振動測定装置を備える工作機械の概略構成を示す説明図である。
【
図2】本実施形態の振動算出部の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態の振動測定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】振動測定処理のステップS40における処理の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.実施形態:
A-1.装置構成:
図1は、本実施形態の振動測定装置50を備える工作機械100の概略構成を示す説明図である。工作機械100は、ベッド10と、コラム20と、主軸ハウジング30と、回転工具40と、振動測定装置50とを備える。本実施形態では、工作機械100は、立型マシニングセンタとして構成されている。なお、工作機械100は、立型マシニングセンタに限定されず、横型マシニングセンタ、研削盤、フライス盤等でもよい。
【0009】
ベッド10は、床面に固定されている。ベッド10には、コラム20が設置されている。
【0010】
コラム20は、鉛直方向に沿って延びる一対のガイドレール21を備え、ガイドレール21を介して主軸ハウジング30が設置されている。主軸ハウジング30は、図示しないリニアモータやボールネジ機構により、ガイドレール21に沿って鉛直方向に移動可能に構成されている。
【0011】
主軸ハウジング30は、主軸装置31の少なくとも一部を収容している。主軸装置31は、主軸ハウジング30に対して回転可能に保持されている。主軸装置31は、回転工具40を着脱可能に保持する。
【0012】
回転工具40は、例えば、フライスカッタ、エンドミル、ドリル等である。本実施形態の回転工具40は、円柱部41と、加工部42とからなる。円柱部41は円柱形状を有し、回転工具40は、円柱部41の端部において主軸装置31と接続され、主軸装置31と一体的に回転する。加工部42は、回転しながら図示しない加工対象物と接触することにより、加工対象物を加工する。工作機械100は、ガイドレール21に沿った主軸ハウジング30の鉛直移動を制御することにより、回転工具40と加工対象物との相対位置を制御し、加工対象物を所望の形状に加工する。このように、工作機械100による加工対象物の加工中、回転工具40は移動を伴って回転する。
【0013】
振動測定装置50は、変位センサ51と、加速度センサ52と、固定治具53と、振動算出部54とを備える。本実施形態では、振動測定装置50は、回転工具40を被測定物として、回転工具40の振動を測定する。なお、回転工具40は、本開示における「移動を伴う回転体」に相当する。
【0014】
変位センサ51は、主軸ハウジング30の外面に固定された固定治具53を介して、円柱部41に対して予め定められた間隔を空けて設置されており、主軸ハウジング30の移動に追従して移動可能である。本実施形態では、固定治具53は鉄を主材として形成されている。変位センサ51は、変位センサ51を基準とした円柱部41の外周面までの距離を予め設定されたサンプリング周期ごとに測定する。言い換えれば、変位センサ51は、変位センサ51に対する回転工具40の相対振動を非接触で測定する。変位センサ51は、かかる相対振動を示す測定データ(以下の説明において、「第1測定データ」とも呼ぶ)を振動算出部54へ送信する。なお、変位センサ51は、本開示における「非接触センサ」に相当する。非接触センサは、変位センサに限定されず、速度センサでもよい。変位センサには、渦電流式、静電容量式、超音波式、レーザ式等、速度センサにはレーザ式等が挙げられる。
【0015】
加速度センサ52は、固定治具53のうち、変位センサ51を保持している部分に設置されて、加速度センサ52の振動によって生じる加速度を予め設定されたサンプリング周期ごとに測定する。言い換えれば、加速度センサ52は、変位センサ51の絶対振動を測定する。加速度センサ52は、かかる絶対振動を示す測定データ(以下の説明において、「第2測定データ」とも呼ぶ)を振動算出部54へ送信する。なお、加速度センサ52は、本開示における「接触センサ」に相当する。接触センサは、加速度センサに限定されず、速度センサでもよい。加速度センサには圧電式等、速度センサには動電式等が挙げられる。
【0016】
図2は、振動算出部54の概略構成を示すブロック図である。振動算出部54は、CPU541と、メモリ542と、通信部543とを備えるコンピュータとして構成されている。CPU541は、データ取得部544と、単位換算部545と、データ加算部546とを備える。本実施形態では、データ取得部544と、単位換算部545と、データ加算部546とはそれぞれ、CPU541がプログラムを実行することによって実現される機能部である。
【0017】
データ取得部544は、第1測定データおよび第2測定データを取得し、メモリ542に保持する。単位換算部545は、第1測定データの単位と第2測定データの単位とが一致するように、単位換算を行う。データ加算部546は、第1測定データと第2測定データとを利用して回転工具40の絶対振動を示す振動データを生成し、通信部543を介して回転工具40の振動データを外部機器へ出力する。
【0018】
A-2.振動測定処理:
図3は、本実施形態の振動測定処理の手順を示すフローチャートである。本実施形態では、振動測定処理は、工作機械100による加工終了後に自動的に実行されるように、予めプログラムに組み込まれている。
【0019】
ステップS10において、データ取得部544は、メモリ542に保持していた第1測定データを読み出す。また、ステップS20において、データ取得部544は、メモリ542に保持していた第2測定データを読み出す。
【0020】
上述のように、第1測定データと第2測定データとは異なる単位のデータであるので、ステップS30において、単位換算部545は、第1測定データの単位と第2測定データの単位とが一致するように、単位換算を行う。本実施形態では、単位換算部545は、第2測定データを時間について2階積分することにより、第2測定データの単位を第1測定データの単位に一致させる。
【0021】
ステップS40において、データ加算部546は、第1測定データと第2測定データとを足し合わせて、回転工具40の振動データを生成する。
図4は、振動測定処理のステップS40における処理の一例を示す説明図である。
【0022】
図3のステップS50において、データ加算部546は、通信部543を介して、生成した振動データを外部機器へ出力する。本ステップの終了後、振動測定装置50は、振動測定処理を終了する。本実施形態では、工作機械100は、出力された回転工具40の振動データを受信して、例えば、加工状態の異常検知や回転工具40の振動を抑制可能な加工条件の設定を行う。
【0023】
上述のように第1測定データは変位センサ51に対する回転工具40の相対振動を示すデータであるが、変位センサ51は主軸ハウジング30に固定された固定治具53に設置されているため、第1測定データには、主軸ハウジング30の振動や固定治具53自体の振動による変位が付加されている。そこで、上述の振動測定処理を実行し、変位センサ51の絶対振動を加速度センサ52により測定したデータである第2測定データを第1測定データに足し合わせることにより、第1測定データに含まれる変位センサ51自体の振動の影響を抑制でき、回転工具40の絶対振動の測定精度の低下を抑制できる。
【0024】
以上説明した振動測定装置50によれば、変位センサ51により測定された被測定物の振動を示す第1測定データと、加速度センサ52により測定された変位センサ51の絶対振動を示す第2測定データとを足し合わせることにより、第1測定データに含まれる、変位センサ51自体の振動の影響を抑制でき、回転工具40の絶対振動の測定精度の低下を抑制できる。
【0025】
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態において、固定治具53は鉄を主材として形成されているが、本開示はこれに限定されない。固定治具53は、樹脂を主材として形成されてもよい。かかる形態によれば、主軸ハウジング30の周辺の機器配置等に応じて、複雑な形状に固定治具53を形成できるので、変位センサ51の配置自由度の低下を抑制できる。また、樹脂は鉄よりも軽いので、振動測定装置50の重量の増大を抑制でき、振動測定装置50自体の振動が回転工具40に及ぼす影響を小さくすることができる。
【0026】
(B2)上記実施形態において、振動測定装置50は、回転工具40を被測定物としているが、本開示はこれに限定されない。振動測定装置50は、加工対象物を被測定物としてもよい。かかる場合において、例えば加工対象物を載置する移動テーブルに対して、固定治具53を介して変位センサ51を設置して振動測定処理を実行することにより、加工対象物の絶対振動の測定精度の低下を抑制できる。
【0027】
(B3)上記実施形態において、変位センサ51は、固定治具53を介して主軸ハウジング30の外面に固定されているが、本開示はこれに限定されない。変位センサ51は、固定治具53を介してコラム20に固定されてもよい。コラム20に固定することで固定位置が加工点から遠くなり、振動測定装置50自体の振動が回転工具40に及ぼす影響を小さくすることができる。
【0028】
(B4)上記実施形態において、加速度センサ52は、固定治具53のうち、変位センサ51を保持している部分に設置されているが、本開示はこれに限定されない。加速度センサ52は、変位センサ51の絶対振動と同等の振動が生じている箇所に設置されていればよく、例えば、変位センサ51に直接取り付けられてもよい。
【0029】
(B5)上記実施形態において、振動測定装置50は、工作機械100による加工終了後に振動測定処理を実行するが、本開示はこれに限定されない。例えば、振動測定装置50は、予め設定された時間分のデータを取得するたびに振動測定処理を実行するようにプログラムに組み込まれていてもよい。
【0030】
(B6)上記実施形態において、振動算出部54は、第2測定データを時間について2階積分することにより、第2測定データの単位を第1測定データの単位に一致させるが、本開示はこれに限定されない。振動算出部54は、第1測定データを時間について2階微分することにより、第1測定データの単位を第2測定データの単位に一致させてもよい。かかる形態においても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0031】
(B7)上記実施形態において、振動測定処理において、振動算出部54は、ステップS40において生成した回転工具40の振動データをそのまま出力するが、本開示はこれに限定されない。振動算出部54は、回転工具40の振動データに対して、予め実験等により特定した振動測定点と加工点との振動伝達特性を考慮した係数を掛けることにより、加工点における振動の推定データを算出し、かかるデータを出力してもよい。かかる形態によれば、回転工具40の絶対振動の測定精度の低下をより抑制できる。
【0032】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
10…ベッド、20…コラム、21…ガイドレール、30…主軸ハウジング、31…主軸装置、40…回転工具、41…円柱部、42…加工部、50…振動測定装置、51…変位センサ、52…加速度センサ、53…固定治具、54…振動算出部、100…工作機械、541…CPU、542…メモリ、543…通信部、544…データ取得部、545…単位換算部、546…データ加算部